JP3825654B2 - 眼光学系のシミュレーション方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
眼鏡を装用した場合のように、眼の前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション方法及び装置を開示したものとしては、本願出願人の先の出願にかかる特願平10−288077号に記載の方法及び装置がある。
【0003】
上記公報に記載の方法及び装置は、単眼の前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレートするものである。これによって、累進眼鏡等の光学レンズを装用した際のゆれ、歪み、ボケ等を人間の知覚作用までも考慮にいれて実際に近い態様で見え方感覚をシミュレートすることができるようになった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、人間は両目でものを見ており、片眼だけの見え方シミュレーションは、メガネを掛けて外界をどのように見て感じ取るのを表現、評価する目的に対しては必ずしも十分なものではなかった。累進レンズの場合、眼の輻輳作用を考えて近用領域を鼻側に若干寄せて配置することが一般的で、レンズの形状が若干左右非対称になる。このこと自体は累進レンズの欠陥ではなく、むしろ大きな進歩である。しかしながら、単眼回旋網膜像上では、この左右非対称性を忠実に反映してしまい、人間の感覚と異なる歪みが含まれてしまう。
【0005】
このような左右非対称歪みを取り除き、人間本来の知覚作用により近い態様でシミュレーションを行うためには、両眼視作用を取り入れなければならない。そのためには、両眼視作用の歪み、ボケをどのように定義し計算するかが課題である。本発明者等が見出だした一定の仮定と方法に基づけば、両眼視知覚作用を含めたシミュレーションを画像処理によって近似的に再現できることが解明された。
【0006】
本発明は、上述の背景のもとでなされたものであり、累進多焦点レンズ等の眼鏡レンズを装用した場合における揺れ、歪み、ボケ等を伴う見え方を、両眼作用も含めてシミュレーション可能とする眼光学系のシミュレーション方法及び装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するための手段として、第1の手段は、
両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション方法において、
前記眼鏡レンズを通して眼によって知覚される像として、視野内の全ての物体点を、左右のそれぞれの眼球の網膜である左右両単眼網膜の上の中心窩で捕らえるように、両眼球を回旋させたときのそれぞれの中心窩で捕らえた像を合成した像である両眼中心窩合成像をコンピュータシミュレーションによって作成し、この両眼中心窩合成像を用いて両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションすることを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法である。
第2の手段は、
前記両眼中心窩合成像をさらに繋ぎ合わせて作成される像である両眼協働回旋網膜像をコンピュータシミュレーションによって作成し、この両眼協働回旋網膜像を用いて両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションすることを特徴とする請求項1に記載の眼光学系のシミュレーション方法である。
第3の手段は、
前記両眼中心窩合成像又は両眼協働回旋網膜像を表示装置で表示することを特徴とする第1又は第2の手段にかかる眼光学系のシミュレーション方法。
第4の手段は、
前記両眼協働回旋網膜像を作成する工程は、
両眼回旋中心点の中点である両眼回旋中点を特定の場所に置き、この両眼回旋中点を頂点とする特定の角錐範囲である視野の画像を原画像として作成する原画像作成工程と、
前記視野の眼鏡レンズを通して見た場合の歪みを含む歪み原画像を、光線追跡法を用いて作成する歪み原画像作成工程と、
前記眼鏡レンズ及び眼球光学モデルよりなる光学系において、物体点からの光による左右両眼球モデルの網膜上における単眼PSFと、左右両単眼PSFを合成した両眼PSFを求めるPSF取得工程と、
前記歪み原画像作成工程で求めた歪み原画像とPSF取得工程で求めた原画像の各画素の両眼PSFとの畳み込み演算をする畳み込み工程と
を有することを特徴とする第2又は第3の手段にかかる眼光学系のシミュレーション方法である。
第5の手段は、
前記両眼協働回旋網膜像を作成する工程は、
仮想三次元空間内にコンピュータグラフィックスによる仮想物体を作成して配置し、仮想三次元空間内の特定の位置に両眼回旋中点を置き、前記両眼回旋中点を頂点とし且つ特定の中心視線方向を中心軸とする特定の角錐範囲である視野内にある仮想物体の画像を原画像として作成するとともに、前記原画像の各画素の代表する物体点位置と両眼回旋中点との距離である物体点距離を求める原画像作成工程と、
前記物体点に対する左右の眼球の回旋方向により唯一決められる両眼協働回旋方向を定義し、視野の中心にある物体点に対する両眼協働回旋方向である中心両眼協働回旋方向を、中心物体点に対する左右の眼球の主光線である左右単眼中心主光線がそれぞれ両眼鏡レンズ上特定位置を通過するように光線追跡法を用いて求め、その中心両眼協働回旋方向を中心軸とする視野である眼鏡レンズ通過後視野における前記原画像の各画素の代表する物体点の位置を各該物体点に対する両眼協働眼球回旋方向として光線追跡法で求め、眼鏡レンズ通過後視野の画像、すなわち眼鏡レンズの各該物体点に対する歪みを含む画像である歪み原画像を作成するとともに、各該物体点に対する左右単眼主光線の左右両眼鏡レンズ通過位置を求める歪み原画像作成工程と、
前記歪み原画像作成工程で得られた各該物体点に対する左右単眼主光線の左右両眼鏡レンズ通過位置データを用い、左右両眼鏡フレームの前記原画像または前記歪み原画像上の位置を表す眼鏡フレームマーク画像作成する眼鏡フレーム位置取得工程と、
眼球光学モデルとして調節対応眼球光学系モデルを導入し、前記原画像の各画素に対し、前記原画像作成工程で得られた物体点距離より物体点から左右両眼回旋中心点までの距離を計算し、前記歪み原画像作成工程で得られた物体点からの主光線の左右両眼鏡レンズ通過位置における度数に合わせて、前記両眼球モデルの調節状態を同一または異なるように設定し、前記眼鏡レンズと物体点に対する眼球回旋方向に合わせて回旋した眼球光学系モデルとの合成光学系において、前記物体点から出射する光による前記調節対応眼球モデルの網膜上の輝度分布を表す単眼PSF(Point spread function: 点広がり関数)を左右両眼それぞれに対して求め、さらに左右両単眼PSFを合成したものである両眼PSFを求めるPSF取得工程と、
前記歪み原画像作成工程で作成した歪み原画像と前記PSF取得工程で得られた各画素に対する両眼PSFとの畳み込み演算(convolution)を行い、前記仮想三次元空間に配置した仮想物体を特定の位置及び視線方向の眼で前記眼鏡レンズの特定位置を通して見た場合の両眼協働回旋網膜像を作成するとともに、必要に応じて前記フレーム位置取得工程で得られた眼鏡フレームマーク画像と両眼協働回旋網膜像とを合成する畳み込み工程と
を有することを特徴とする第2又は第3の手段にかかる眼光学系のシミュレーション方法である。
第6の手段は、
両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション方法において、
仮想三次元空間内にコンピュータグラフィックスによる仮想物体を作成して配置し、前記両眼回旋中点の位置、中心視線方向、視野中心主光線眼鏡レンズ通過点、仮想物体変形量、仮想物体移動量の時系列変化のストーリーを作成し、そのストーリーにしたがって各時点で第4又は第5の手段にかかる眼光学系のシミュレーション法を用いて両眼協働回旋網膜像を作成し、該各両眼協働回旋網膜像を編集して両眼協働回旋網膜像の動画像を作成することを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法である。
第7の手段は、
第4ないし第6のいずれかの手段にかかる眼光学系のシミュレーション方法において、
前記歪み原画像作成工程は、両眼協働回旋方向の定義が下記の原則に従うことを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法である。
1. 左右単眼眼球回旋方向から唯一の両眼協働回旋方向が求まる。
2. 左右単眼眼球回旋方向の変化に対し、両眼協働回旋方向は連続的に変化する。
3. 両眼協働回旋方向に基づく空間感覚は、左右単眼のそれより著しく逸脱しない。
第8の手段は、
第4ないし第7のいずれかの手段にかかる眼光学系のシミュレーション方法において、
前記歪み原画像作成工程は、両眼協働回旋方向が下記のように定義されることを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法である。
【数3】
第9の手段は、
第4ないし第8のいずれかの手段にかかる眼光学系のシミュレーション方法において、
前記PSF取得工程は、各該当画素の代表する物体点を見るときの左右単眼PSFから両眼PSFを求めるに際し、下記の原則に従うことを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法である。
1. 左右両PSFが接近している場合、合成PSFは両方のPSFよりも分布が集中するものを採用する。
2. 左右両PSFが著しく異なる場合、合成PSFはどちらか分布が集中するほうのPSFに近いものを採用する。
3. 合成PSFの連続性と唯一性を保つ。
第10の手段は、
第4ないし第9のいずれかの手段にかかる眼光学系のシミュレーション方法において、
前記PSF取得工程は、各該当画素の代表する物体点を見るときの左右単眼PSFを同様な方法で求め、さらに求めたPSFを同様な方法で二次元正規分布関数に最適近似させ、左右両眼の正規分布パラメータから合成分布近似二次元正規分布関数のパラメータを以下のようにしてで求めることを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法である。
【数4】
第11の手段は、
両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション装置において、
前記眼鏡レンズを通して眼によって知覚される像として、視野内の全ての物体点を、左右のそれぞれの眼球の網膜である左右両単眼網膜の上の中心窩で捕らえるように、両眼球を回旋させたときのそれぞれの中心窩で捕らえた像を合成した像である両眼中心窩合成像を作成するコンピュータシミュレーション装置と、
前記両眼中心窩合成像をさらに繋ぎ合わせて作成される像である両眼協働回旋網膜像を作成するコンピュータシミュレーション装置と、
前記両眼中心窩合成像又は両眼協働回旋網膜像を表示する表示装置とを有することを特徴とする眼光学系のシミュレーション装置。
第12の手段は、
両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション装置において、
仮想三次元空間内にコンピュータグラフィックスによる仮想物体を作成して配置し、仮想三次元空間内の特定の位置に両眼回旋中点を置き、前記両眼回旋中点を頂点とし且つ特定の中心視線方向中心軸とする特定角錐範囲である視野内にある仮想物体の画像を原画像として作成するとともに、前記原画像の各画素の代表する物体点位置と両眼回旋中点との距離である物体点距離を求める原画像作成手段と、
前記物体点に対する左右単眼眼球回旋方向より唯一決められる両眼協働回旋方向を定義し、視野の中心にある物体点に対する両眼協働回旋方向である中心両眼協働回旋方向を中心物体点に対する左右単眼主光線である左右単眼中心主光線がそれぞれ両眼鏡レンズ上特定位置を通過するように光線追跡法を用いて求め、その中心両眼協働回旋方向を中心軸とする視野である眼鏡レンズ通過後視野における前記原画像の各画素の代表する物体点の位置を各該物体点に対する両眼協働眼球回旋方向として光線追跡法で求め、眼鏡レンズ通過後視野の画像、すなわち眼鏡レンズの各該物体点に対する歪みを含む画像である歪み原画像を作成するとともに、各該物体点に対する左右単眼主光線の左右両眼鏡レンズ通過位置を求める歪み原画像作成手段と、
前記歪み原画像作成工程で得られた各該物体点に対する左右単眼主光線の左右両眼鏡レンズ通過位置データを用い、左右両眼鏡フレームの前記原画像または前記歪み原画像上の位置を表す眼鏡フレームマーク画像作成する眼鏡フレーム位置取得手段と、
前記眼球光学モデルとして調節対応眼球光学系モデルを導入し、前記原画像の各画素に対し、前記原画像作成工程で得られた物体点距離より物体点から左右両眼回旋中心点までの距離を計算し、前記歪み原画像作成工程で得られた物体点からの主光線の左右両眼鏡レンズ通過位置における度数に合わせて、前記両眼球モデルの調節状態を同一または異なるように設定し、前記眼鏡レンズと物体点に対する眼球回旋方向に合わせて回旋した眼球光学系モデルとの合成光学系において、前記物体点から出射する光による前記調節対応眼球モデルの網膜上の輝度分布を表す単眼PSF(Point spread function: 点広がり関数)を左右眼それぞれに対して求め、さらに左右両単眼PSFを合成したものである両眼PSFを求めるPSF取得手段と、
前記歪み原画像作成工程で作成した歪み原画像と前記PSF取得工程で得られた各画素に対する両眼PSFとの畳み込み演算(convolution)を行い、前記仮想三次元空間に配置した仮想物体を特定の位置及び視線方向の眼で前記眼鏡レンズの特定位置を通して見た場合の両眼協働回旋網膜像を作成するとともに、必要に応じて前記フレーム位置取得工程で得られた眼鏡フレームマーク画像と両眼協働回旋網膜像とを合成する畳み込み手段と
を有することを特徴とする眼光学系のシミュレーション装置である。
第13の手段は、
両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション装置において、
仮想三次元空間内にコンピュータグラフィックスによる仮想物体を作成して配置し、前記両眼回旋中点の位置、中心視線方向、視野中心主光線眼鏡レンズ通過点、仮想物体の変形、移動量の時系列変化のストーリーを作成し、そのストーリーにしたがって各時点で両眼協働回旋網膜像を作成し、該各両眼協働回旋網膜像を編集して両眼協働回旋網膜像の動画像を作成することを特徴とする第12の手段にかかる眼光学系のシミュレーション装置である。
【0008】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
図1は本発明の実施例1にかかる眼光学系のシミュレーション方法における両眼協働回旋網膜像作成の流れを示す図、図2は原画像視野の座標を示す図である。図3は両眼協働回旋方向の定義を示す図である。図4は眼鏡レンズを通した両眼協働回旋方向を求めるための座標系である。図5はNavarro模型眼の光学パラメータ(非調節状態)である。図6は Navarro模型眼の光学パラメータの調節パワー依存式である。図7はPSFの説明図である。図8は物体点を見るときの眼鏡眼球光学系である。図9は入射瞳分割法である。図10は両眼合成PSFを示す図である。図11は実施例1の両眼協働回旋網膜像である。以下、これらの図面を参照にしながら本発明の実施例1にかかる眼光学系のシミュレーション方法を説明する。
【0009】
この実施例にかかる眼光学系のシミュレーション方法は、コンピュータグラフィックスによって作成した三次元仮想物体を、両眼の前に置かれるレンズを通して見たときの両眼協働回旋網膜像の静止画像を得る方法である。なお、両眼協働回旋網膜像とは、本発明者等が見出だした一定の仮定に基づき、上記三次元物体像に光学作用を考慮した画像処理を施すことによって、眼で知覚される像を近似的に再現した像である。すなわち、両眼協働回旋網膜像とは、眼の網膜面に投影される光学像ではなく、視野内の全ての物体点に対して両眼球を回旋させ、両眼それぞれの中心窩で捕らえた像を合成し、さらにその合成された像を繋ぎ合わせた像として定義される。実施例1にかかる眼光学系のシミュレーション方法は、大きく分けて、(1)原画像作成工程、(2)歪み原画像作成工程、(3)眼鏡フレーム位置取得工程、(4)PSF取得工程、(5)畳み込み工程、とからなる。
【0010】
(1) 原画像作成工程
この工程は、仮想三次元空間内にコンピュータグラフィックスによる仮想物体を作成して配置し、仮想三次元空間内の特定の位置に両眼回旋中点を置き、この両眼回旋中点を頂点とし且つ特定の中心視線方向中心軸とする特定視野角錐範囲に入る仮想物体の画像を原画像として作成するとともに、前記原画像の各画素の代表する物体点位置と両眼回旋中点との距離である物体点距離を求める工程である。以下説明する。
【0011】
a.原画像の基礎となる仮想物体像の作成
まず、周知のコンピュータグラフィックスの手法によって、仮想三次元空間に仮想三次元物体を作成して配置する。例えば、室内に机、椅子、家具等を配置し、あるいは、野外に花壇、樹木、標識等を配置した像を作成する。
【0012】
b.原画像の作成
上記作成した仮想 物体が、特定の位置に両眼回旋中点を置き、両眼回旋中点を頂点とし且つ特定の中心視線方向を中心軸とした特定角錐範囲である視野内にある仮想物体の画像を原画像として作成する。すなわち、図2に示されるように、左右眼球回旋中心点OLORの中点である両眼回旋中点Oを頂点とし且つOLORと垂直な中心視線方向OAを中心軸とした四角錐A1A2A3A4を視野と設定し、その範囲の画像を作成する。Oを原点としAOをx軸とした座標系における視野四角錐内の任意の物体点P(x,y,z)の原画像座標はμ=y/x,ν=z/xとする。視野内の各物体点をこのように画像に投影すると空間上任意の直線が画像上直線として映るので、歪みのない投影になる。この投影法で各物体点を表した画像を原画像とする。
c.物体点距離の取得
また、原画像作成工程ではP(x,y,z)の座標値から両眼回旋中点Oまでの距離をも求める。
【0013】
(2) 歪み原画像作成工程
この工程は、眼鏡レンズを通して原画像視野を見るときに生じる歪みを含めた画像を作成するとともに、各物体点を見るときに使用する眼鏡レンズ表面位置を求める。両眼による物体点の位置は、両眼協働回旋方向で表す。両眼協働回旋方向の定義は両眼空間感覚の決める鍵である。本発明者の研究によれば、両眼協働回旋方向の定義は以下の原則を守るべきである。
* 左右両眼それぞれの回旋方向から唯一の両眼協働回旋方向が求まる。
* 左右両眼それぞれの回旋方向の変化に対し、両眼協働回旋方向は連続的に変化する。
* 両眼協働回旋方向に基づく空間感覚は、左右単眼のそれより著しく逸脱しない。
【0014】
両眼協働回旋方向の定義方法のひとつに、Hering法則を利用する方法がある。Hering法則とは、Hering氏が1868年に提唱した法則で、左右両眼が常に同量、同一または反対方向に回旋するというものである。つまり、空間上任意一点を見るための両眼回旋運動は、同名性眼球運動(Version)と異名性眼球運動(Vergence)の二項に分解できる。図3のように、P点を見るため時の両眼それぞれの回旋は、両眼同一方向へ同角度の回旋であるVersionと、両眼球回旋中心とPの三点を含む平面である視線平面における反対方向へ同角度β/2の回旋であるVergenceとに分けることができる。同名性眼球運動(Version)方向を両眼協働回旋方向として定義する場合、その方向は左右両眼球回旋方向の角二等分線上にある。
【0015】
つまり、左右両眼回旋方向の単位ベクトルをそれぞれ
【数5】
とすると、両眼協働回旋方向の単位ベクトルは
【数6】
である。
【0016】
Hering法則は左右両眼を完全に平等であると仮定しているが、実際には程度差こそあれ、どちらかの眼を主に用いるという効き目現象がある。したがって、この発明では、効き目係数kを導入し、両眼協働回旋方向の単位ベクトルを
【数7】
であると定義する。ここで0<k<1である。
【0017】
眼鏡レンズを通して物体点を見るときの両眼協働回旋方向は、光線の眼鏡レンズによる屈折効果を含む。ここで、物体点から出射し、眼鏡レンズを通って回旋中心点に向かう光線を主光線と定義する。この主光線の眼鏡レンズ後面からの出射方向は、物体点を見るために眼球の向きを取る方向なので、眼球回旋方向と定義する。左右両眼球回旋方向より両眼協働回旋方向を求めることができる。特に視野中心にある物体点からの主光線を中心主光線、またその眼球回旋方向を中心眼球回旋方向と定義し、左右両中心眼球回旋方向から求められる両眼協働回旋方向を中心両眼協働回旋方向と定義する。
【0018】
歪み原画像は、中心両眼協働回旋方向を中心軸とする視野である眼鏡レンズ通過後視野における原画像の各画素の代表する物体点の位置を表わし画像である。中心両眼協働回旋方向は、左右両中心主光線があらかじめ設定した左右眼鏡レンズ通過位置を通過するように光線追跡法を用いて求めることによって決めることができる。各物体点の眼鏡レンズ通過後視野における位置は、その物体点に対する両眼協働回旋方向の中心両眼協働回旋方向からの相対位置で表わすことができる。各物体点に対する左右両主光線とそれぞれの眼鏡レンズ通過位置および両眼協働回旋方向は光線追跡法で求めることができる。
【0019】
すなわち、図4に示されるように、視野中心物体点A(x0,O,O)と左右眼球回旋中心点OR(0,0,−d/2)とOL(0,0,d/2)との間に眼鏡レンズを配置すると、Aを見るためには、左眼球がOLA方向ではなくレンズ通過点OLBLの方向に回旋し、右眼球がORA方向ではなくレンズ通過点ORBRの方向に回旋する必要がある。光線ABLOLとABRORはそれぞれ左中心主光線及び右中心主光線とであり、ベクトルBLOLとBRORはそれぞれ左右中心眼球回旋方向である。左右中心主光線の眼鏡レンズ通過位置BRとBLは独立に設定できるのではなく、両回旋中心の間隔dや、物体点の距離などに影響される。
【0020】
ベクトルBLOLとBRORの単位ベクトル
【数8】
とから前記両眼協働回旋方向の定義式で両眼協働回旋方向
【数9】
を求め、
【数10】
を中心軸(x'軸)とした視野を眼鏡レンズ通過後視野という。
【0021】
さらに、視野内任意一点P(x,y,z)を見るときの両眼協働回旋方向同様に求めることができる。P点の両眼協働回旋方向の前記レンズ通過後視野座標系における単位ベクトルを
【数11】
とすると、眼鏡レンズ通過後視野の画像における座標はμ’=y’/x’,ν’=z’/x’となる。視野内の各物体点をこのようにレンズ通過後視野の画像に投影すると、一般に空間上の直線が画像上直線として映らないので、レンズによる歪みを含む画像になる。このように作成した眼鏡レンズ通過後視野の画像を歪み原画像という。
【0022】
また、歪み原画像作成工程では各物体点に対する左右主光線眼鏡レンズ通過位置をも求める。歪み原画像作成工程では、視野内すべての物体点に対し光線追跡計算を行い、両眼協働回旋方向と左右主光線眼鏡レンズ通過位置を求める必要があるが、スプライン補間法という数学手法を用いれば、一定の誤差範囲内において少ない計算量で両眼協働回旋方向と左右主光線眼鏡レンズ通過位置を取得することが可能である。
【0023】
(3) 眼鏡フレーム位置取得工程
この工程は、歪み原画像作成工程で求められた左右両眼鏡レンズ通過位置の情報を用い、左右両眼鏡フレームの縁、隠しマークなどの歪み原画像上における位置を求め、眼鏡フレームマーク画像を作成する工程である。眼鏡フレームマーク画像と歪み原画像と対比することにより、画像上すべての物体が左右両眼鏡レンズのどの位置を通して観察されているかを正確に把握することができる。
【0024】
(4) PSF取得工程
この工程は、調節対応眼球光学モデルを導入し、原画像の各画素に対し、原画像作成工程で得られた物体点距離より物体点から左右両眼回旋点までの距離を計算し、歪み原画像作成工程で得られた左右主光線の眼鏡レンズ通過位置における度数に合わせて前記両眼球モデルの調節状態を同一または異なるように設定し、眼球回旋方向に合わせて回旋した眼球モデルとの合成光学系において、物体点から出射する光による調節対応両眼球モデルの網膜上の輝度分布を表す単眼PSF(Point spread function: 点広がり関数)を左右眼それぞれに対して求め、さらに左右両単眼PSFを合成した両眼PSFを求める工程である。以下説明する。
【0025】
a.調節対応眼球モデルの導入
網膜上のPSFを求めるためには、眼球光学系の導入が必要である。この場合、眼には物体距離に合わせて調節作用があるので、それも考慮しなければならない。この実施例では、調節作用も考慮した眼球光学系モデルであるR.Navarroらによる調節依存性眼球モデルを用いた。Navarroのモデルでは近軸値のみならず、球面収差と色収差も眼の実測値に合わせるようになっている。簡単な4面構成で、そのうち3面は軸対称二次曲面の非球面である。水晶体は屈折率分布構造になっておらず、追跡計算が簡単である。曲率半径、厚み、非球面度は調節パワーの対数に比例して変化する。図5にNavarroらによる眼球モデルの無調節時の光学パラメータを示した。また、図6に調節依存するパラメータの依存式を示した。非球面はy2+z2+(1+Q)x2−2rX=0で表される。ここで、Qは非球面度である。
【0026】
b.調節パワーの決定
人間は近い物体を見るとき調節を行う。調節パワーは物体距離の逆数で表わす。たとえば1メートル離れた物体を見るときの調節パワーは1ディオプタである。累進レンズを掛けた場合、レンズが一部の調節役割を果たし、眼の調節負担を減らすことができる。したがって、累進レンズを掛けた場合の調節パワーは、物体距離以外に、レンズ通過点における屈折パワーに関係する。さらに、累進レンズを掛ける人は、調節力が衰えているので、上限調節力以上の調節パワーを得ることができず、上限調節力以上の調節パワーを必要とする場合においても、眼の調節パワー上限調節力のまま設定することにする。その場合、ピンぼけの画像になる。両眼視の場合を考えると、両眼の物体距離の違いや、レンズ通過点の違いによって、両眼に必要な調節パワーが異なる場合がある。しかし、眼の生理学によると、両眼に異なる調節を行うことはできないのである。したがって、この場合では、両眼同一の最適調節パワーを設定する必要がある。
【0027】
c.単眼PSFの取得
A) PSFの意味
PSFは、図7に示したように、実物体の一点から放射された光線が結像面に集光される点(スポット)の集合状態を表す関数であり、単位面積あたりのスポット数で表わすことができる。完全な光学系であればPSFは結像点にすべてのスポットが集まり、その分布は垂直な直線となるが、通常は広がったガウス分布に類似した形状となる。
【0028】
B) PSFの取得方法
図8は物体点Pを、レンズ上のQ点を通して見た場合のPSFを求めるための光学系において追跡光線と入射瞳の関係を示す図である。物体点Pからの光線は、レンズ表面Q点で屈折され、射出方向は変化し、回旋点Oに到達する。眼には物体点Pが射出光線方向QOの延長線上にあるように見える。このように、Pを見るときはまず眼球の光軸をQO方向に回旋し、そしてPの距離およびQ点の屈折力に合わせて調節度を決め、調節を行う。この時点で光学系が固まり、PSFを求めることができる。
【0029】
上述のように、PSFは物体点から放射され、入射瞳を均等に分割した多数の領域の中心を通過した光線の、結像面上のスポットの密度である。入射瞳の位置は、厳密にいうと瞳孔の物体側共役点である。しかし、瞳孔位置は回旋によって変化し、調節状態によってもその共役点の位置が異なる。一方、回旋中心の位置は固定であるうえ、瞳孔の共役点との距離が物体距離に比べて微小である。したがって、裸眼の場合入射瞳の位置は回旋中心と考えても差し支えない。眼鏡を装用したとき、光学系全体の入射瞳は回旋中心点の眼鏡レンズに対する共役点だが、累進レンズの場合通過点によってパワーが異なり、その位置が微妙に変化する。その変化量も物体距離に比較して微小であるので、入射瞳の位置はPQの延長線上のO'点にあり、PO=PO'と仮定することができる。
【0030】
正確なPSFを求めるには、入射瞳を均一分布の多数の小領域に分割することが重要である。図9のように、格子分割と螺線分割の二種類の分割法がある。格子分割は良い均等性が得られるが、四隅の無駄な部分があるため、予定光線の70%程度しか追跡できない。一方螺線分割では均等性を保ちながら無駄な光線追跡が生じない。この実施例では螺線分割法を採用した。このように、PSFは物体点から発射して入射瞳の均等分割点を通過する多数の光線を追跡し、網膜面上のスポットの密度を計算することで得られる。
【0031】
上記PSF取得方法は、すべての物体点と入射瞳分割点の組み合わせに対して光線追跡計算する必要があるが、スプライン補間法という数学手法を用いれば、一定の誤差範囲内において少ない計算量で網膜面上のスポット位置を求め、さらに網膜面上のスポットの密度であるPSFを取得することが可能である。以上の方法で求めたPSFは歪み原画像との畳み込み演算により、眼鏡レンズをかけて外界を見るときのボケを正確に反映することができる。しかし、このままの形のPSFでは、計算時間が長く、レンズの結像性能の定量分析などに用いるには不便である。PSFをある種の関数に近似させ、その関数のパラメータを用いれば、定量分析が容易に行える。以下PSFを二次元正規分布関数に近似させる方法を述べる。
【0032】
【数12】
ここで、μ、νはそれぞれ網膜上縦、横方向の偏移量、σμ、σν、ρは正規分布のパラメータである。これらのパラメータは下記の性質を持っている。
ー1<ρ<1
σμ>0
σν>0
上式の指数部が−1/2となる点の軌跡は
【数13】
で表わされる楕円で、PSFの広がる範囲を表わすことができる。楕円の長短軸の長さ比や、長軸の方向などは、非点収差の大きさと方向に密接に関係する。
【0033】
二次元正規分布関数のパラメータを、光線データから求める方法を考えると、平面に散布する多数の光線の交点(各交点が入射瞳上の各分割点に対応)の統計値を求めて、σμ 0,σν 0,ρにあてる方法を自然に浮かぶ。つまり、
【数14】
である。ここで、Nは光線数で、(μi,νi)は交点座標である。
【0034】
σμ 0,σν 0,ρをそのまま近似正規分布のパラメータとすると、分布状況によっては、実際のPSFと乖離してしまうことも考えられる。その場合は適切な比例常数を定め、σμ=kσμ 0,σν=kσν 0でパラメータを調整する必要がある。このように、網膜上光線スポットの統計量を用いて、PSFの近似関数となる二次元正規分布関数のパラメータを取得することができる。
【0035】
二次元正規分布関数極座標で表わすと便利な場合がある。つまり、μ=rcosθ,ν=rsinθを代入し整理すると、
【数15】
になる。
パラメータの変換は、
【数16】
【0036】
上記の方法でPSFを二次元正規分布関数に近似させてそのパラメータを求める方法を採用する場合、すべての物体点に対して光線追跡および統計計算を行う必要があるが、スプライン補間法という数学手法を用いれば、一定の誤差範囲内において少ない計算量で二次元正規分布関数のパラメータを取得することが可能である。
【0037】
d.両眼PSFの合成
両眼視力は一般に単眼よりよいと言われている。したがって、両眼協働回旋網膜像のPSFは左右眼それぞれのPSFよりシャープな形になると予想される。両眼PSFの合成について、この実施例では、下記の原則を従うように行う。
* 左右両PSFが接近している場合、合成PSFは両方のPSFよりも分布が集中することものを採用する。
* 左右両PSFが著しく異なる場合、合成PSFはどちらか分布が集中するほうのPSFに近いものを採用する。
* 合成PSFの連続性と唯一性を保つ。
【0038】
左右両単眼のPSFより両眼合成PSFを求める方法の一例として、下記の方法提案する。PSFを正規分布関数で近似し、その代表楕円
【数17】
で表わし、右眼のPSF代表楕円パラメータをAR,BR,αR、左眼のPSF代表楕円パラメータをAL,BL,αLとすれば、合成PSF代表楕円のパラメータA,B,αを下記のように求める。
【数18】
つまり、
【数19】
である。
【0039】
図10aに左右眼の代表楕円と合成楕円を示している。この方法は不合理なところがある。図10bのように、両眼とも非点収差が大きく、しかも方向が一致しない場合、両眼視すると画質が不自然によくなる結果となる。したがって、合成楕円の大きさは、左右両楕円一致の度合いを加味して調整する必要がある。たとえば左右両楕円の共通部分の面積Scと、左右楕円の面積平均値1/2(SR+SL)との比を係数κ=2Sc/(SR+SL)とすると、上記結果の楕円面積をκ倍拡大する方法がある。つまり、
【数20】
である。
【0040】
上記の方法で両眼合成PSFを二次元正規分布関数に近似させてそのパラメータを求める方法を採用する場合、すべての物体点に対して左右両単眼PSFを求めそれらを合成する必要があるが、スプライン補間法という数学手法を用いれば、一定の誤差範囲内において少ない計算量で合成PSFのパラメータを取得することが可能である。
【0041】
(5) 畳み込み工程
この工程は、歪み原画像作成工程で作成した眼鏡レンズによる歪みを含めた画像と前記PSF取得工程で得られた各画素の両眼合成PSFとの畳み込み演算(convolution)を行い、前記仮想三次元空間に配置した仮想物体を特定の位置及び視線方向の眼で前記眼鏡レンズの特定位置を通して見た場合の両眼協働回旋網膜像を作成する工程である。
【0042】
畳み込み演算は、例えば、以下のようにして行う。歪み原画像の光強度分布をf(μ,ν)、点(μ0,ν0)におけるPSFをp(μ0、ν0,μ−μ0,ν−ν0)とすると、網膜上の点(μ0,ν0)における光強度g(μ0,ν0)は下記式で表される。
【数21】
【0043】
ここで、p(μ0、ν0,μ−μ0,ν−ν0)は点(μ0,ν0)から(μ−μ0,ν−ν0)離れた点におけるPSFの値である。また、SはPSFの広がる範囲である。この式を用い、両眼協働回旋網膜像上の全ての点において光強度を求めることにより、両眼協働回旋網膜像の静止画像を得ることができる。
【0044】
図11は実施例1の方法によって得られた両眼協働回旋網膜像の静止画像の例を示す図である。この例は両眼とも遠用0.00D加入2.50Dの眼鏡用累進レンズ(HOYALUX SUMMIT;ホーヤ株式会社の商品名)を通して室内の情景を見た場合の両眼協働回旋網膜像である。視野は左右102.5°、上下86.2°である。眼鏡フレームは天地サイズ40mm、幅50mmのものであり。フレーム上データムラインおよび遠用度数、近用度数測定リングが表示されている。この例では左右レンズの遠用部測定リングの位置が両眼協働回旋網膜像上ほぼ重なっている。目の調節力範囲は0.5D、両眼同一調節パワーを採用している。
【0045】
この実施例によれば、累進多焦点レンズ等の眼鏡レンズを通して見たときに知覚されるボケや歪みを両眼作用も含めて近似的に再現した画像が得られる。すなわち、健常裸眼であれば視野全体が鮮明に知覚されるが、老眼者が累進多焦点レンズを装用した場合には、視野の一部のみが鮮明に見え、他の部分はボケや歪みをともなって見える。この実施例によれば、そのような老眼者が知覚するであろう像を画像として再現できる。したがって、得られた画像を表示装置に表示すれば、老眼でもない設計者自身が自ら設計した累進多焦点レンズの見え味を装用者の立場に立って確認することができるという、最も望ましい評価が可能になる。また、累進多焦点レンズを作成する前にその見え方を確認することができるので、顧客にとってはレンズの選択の自由度を増し、眼鏡店にとってはミスを減らす効果が得られる。
【0046】
(実施例2)
この実施例は、実施例1における両眼協働回旋網膜像の静止画像を、両眼回旋中点の位置、中心視線方向、視野中心主光線眼鏡レンズ通過点、仮想物体の変形量および移動量を変えながら時系列に多数作成し、両眼協働回旋網膜像の動画像を得る例である。したがって、この実施例は、原画像を作成する際に、両眼回旋中点の位置、中心視線方向、視野中心主光線眼鏡レンズ通過点、仮想物体の変形量および移動量を時系列にどのように変えるかのストーリーを作成する工程と、時系列に得られた1枚1枚の静止画像を編集して動画像にする工程とを付加する外は基本的に実施例1と同じであるので、図12に全体の流れを示す図を掲げてその詳細説明は省略する。なお、ストーリーには、両眼鏡レンズにおける中心主光線通過点のストーリーも必要であることは勿論である。また、ストーリー作成の方法としては、全ての時刻での両眼回旋中点の位置、中心視線方向、視野中心主光線眼鏡レンズ通過点、仮想物体の変形量および移動量を定めるのではなく、スプライン補間法をとれば、滑らかな視線移動が実現される。
【0047】
上述の実施例2によれば、累進多焦点レンズ等の眼鏡レンズを通して見たときに知覚されるボケや歪みに加えて、眼の位置を変えたり視線を移動したりした場合の揺れを再現した動画像が得られる。したがって、得られた動画像を表示装置に表示することにより、あたかも自らが装用者になったような臨場感に溢れる評価が可能になる。この両眼協働回旋網膜像の動画像の表示画面に眼鏡フレームマークを表示するようにすれば、視線の両眼鏡レンズ上での移動を確認しながら、ボケ、歪み揺れを見ることができる。
【0048】
次に上述の実施例で示したシミュレーションを行うための装置について簡単に説明する。図13は実施例のシミュレーションを行うための装置の概略構成を示すブロック図である。図13に示したように、この装置は、プロセッサ61、読取専用メモリ(ROM)62、メインメモリ63、グラフィック制御回路64、表示装置65、マウス66、キーボード67、ハードディスク装置(HDD)68、フロッピーディスク装置(FDD)69、プリンタ70、磁気テープ装置71等から構成されている。これらの要素は、データバス72によって結合されている。
【0049】
プロセッサ61は、装置全体を統括的に制御する。読取専用メモリ62には立ち上げ時に必要なプログラムが格納される。メインメモリ63にはシミュレーションを行うためのシミュレーションプログラムが格納される。グラフィック制御回路64はビデオメモリを含み、得られた画像データを表示信号に変換して表示装置65に表示する。マウス66は表示装置上の各種のアイコン、メニュー等を選択するポインティングデバイスである。ハードディスク装置68はシステムプログラム、シミュレーションプログラム等が格納され、電源投入後にメインメモリ63にローディングされる。また、シミュレーションデータを一時的に格納する。
フロッピーディスク装置69は原画像データ等の必要なデータをフロッピー69Aを通じて入力したり、必要に応じてフロッピー69Aにセービングしたりする。プリンタ装置70は回旋網膜像等をプリントアウトするのに用いられる。磁気テープ装置71は必要に応じてシミュレーションデータを磁気テープにセービングするのに使用する。なお、以上のべた基本構成を有する装置としては、高性能のパーソナルコンピュータや一般の汎用コンピュータを用いて構成することができる。
【0050】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明にかかる眼光学系のシミュレーション方法及び装置は、眼鏡レンズを通して眼によって知覚される像として、眼の網膜面に投影される光学像ではなく、視野内の全ての物体点に対して両眼球を回旋させ、それぞれの中心窩で捕らえた像を合成し、繋ぎ合わせた像として定義される両眼協働回旋網膜像をコンピュータシミュレーションによって作成して用いることを特徴とするもので、さらに、両眼回旋中心点の中点を特定の場所に置き、その両眼回旋中点を頂点とする特定視野角錐範囲の画像を原画像として作成する原画像作成工程と、この原画像を、眼鏡レンズを通して見た場合の歪みを伴う歪み原画像を、光線追跡法を用いて作成する歪み原画像作成工程と、歪み原画像における眼鏡フレームの位置を求める眼鏡フレーム位置取得工程と、眼鏡レンズ及び眼球モデルよりなる光学系において、原画像の物体点からの光による眼球モデルの網膜上の単眼PSFと、左右両単眼PSFの合成PSFを求めるPSF取得工程と、歪み原画像作成工程で求めた歪み原画像と、PSF取得工程で求めた原画像の各画素の両眼合成PSFとの畳み込み演算をすることによって行うことを特徴とし、さらに、得られた両眼協働回旋網膜像を編集して回旋網膜像の動画像を求めることを特徴とする。これにより、累進多焦点レンズ等の眼鏡レンズを装用した場合における揺れ、歪み、ボケ等を伴う見え方を両眼作用も含めてシミュレーション可能とする眼光学系のシミュレーション方法及び装置を得ることを可能としたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 両眼協働回旋網膜像作成のながれである。
【図2】 原画像視野の座標系である。
【図3】 両眼協働回旋方向の定義を示す図である。
【図4】 眼鏡レンズを通した両眼協働回旋方向を求めるための座標系である。
【図5】 Navarro模型眼の光学パラメータ(非調節状態)である。
【図6】 Navarro模型眼の光学パラメータの調節パワー依存式である。
【図7】 PSFの説明図である。
【図8】 物体点を見るときの眼鏡眼球光学系である。
【図9】 入射瞳分割法である。
【図10】 両眼合成PSFを示す図である。
【図11】 実施例1の両眼協働回旋網膜像である。
【図12】 両眼協働回旋網膜像の動画像作成のながれである。
【図13】 本発明にかかる眼光学系のシミュレーション方法を実施するための装置の構成を示すブロック図である。
Claims (7)
- 両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション方法において、
前記眼鏡レンズを通して眼によって知覚される像として、視野内の全ての物体点を、左右のそれぞれの眼球の網膜である左右両単眼網膜の上の中心窩で捕らえるように、両眼球を回旋させたときのそれぞれの中心窩で捕らえた像を合成した像である両眼中心窩合成像をコンピュータシミュレーションによって作成し、この両眼中心窩合成像をさらに繋ぎ合わせて作成される像である両眼協働回旋網膜像をコンピュータシミュレーションによって作成し、この両眼協働回旋網膜像を用いて両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションするとともに、
前記両眼協働回旋網膜像を作成する工程は、両眼回旋中心点の中点である両眼回旋中点を特定の場所に置き、この両眼回旋中点を頂点とする特定の角錐範囲である視野の画像を原画像として作成する原画像作成工程と、前記視野の眼鏡レンズを通して見た場合の歪みを含む歪み原画像を、光線追跡法を用いて作成する歪み原画像作成工程と、前記眼鏡レンズ及び眼球光学モデルよりなる光学系において、物体点からの光による左右両眼球モデルの網膜上における単眼PSFと、左右両単眼PSFを合成した両眼PSFを求めるPSF取得工程と、前記歪み原画像作成工程で求めた歪み原画像とPSF取得工程で求めた原画像の各画素の両眼PSFとの畳み込み演算をする畳み込み工程とを有するものであり、
かつ、前記歪み原画像作成工程は、両眼協働回旋方向の定義が下記の原則に従うことを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法。
1.左右単眼眼球回旋方向から唯一の両眼協働回旋方向が求まる。
2.左右単眼眼球回旋方向の変化に対し、両眼協働回旋方向は連続的に変化する。3.両眼協働回旋方向に基づく空間感覚は、左右単眼のそれより著しく逸脱しない。 - 両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション方法において、前記眼鏡レンズを通して眼によって知覚される像として、視野内の全ての物体点を、左右のそれぞれの眼球の網膜である左右両単眼網膜の上の中心窩で捕らえるように、両眼球を回旋させたときのそれぞれの中心窩で捕らえた像を合成した像である両眼中心窩合成像をコンピュータシミュレーションによって作成し、この両眼中心窩合成像を用いて両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションするとともに、
前記両眼協働回旋網膜像を作成する工程は、仮想三次元空間内にコンピュータグラフィックスによる仮想物体を作成して配置し、仮想三次元空間内の特定の位置に両眼回旋中点を置き、前記両眼回旋中点を頂点とし且つ特定の中心視線方向を中心軸とする特定の角錐範囲である視野内にある仮想物体の画像を原画像として作成するとともに、前記原画像の各画素の代表する物体点位置と両眼回旋中点との距離である物体点距離を求める原画像作成工程と、前記物体点に対する左右の眼球の回旋方向により唯一決められる両眼協働回旋方向を定義し、視野の中心にある物体点に対する両眼協働回旋方向である中心両眼協働回旋方向を、中心物体点に対する左右の眼球の主光線である左右単眼中心主光線がそれぞれ両眼鏡レンズ上特定位置を通過するように光線追跡法を用いて求め、その中心両眼協働回旋方向を中心軸とする視野である眼鏡レンズ通過後視野における前記原画像の各画素の代表する物体点の位置を各該物体点に対する両眼協働眼球回旋方向として光線追跡法で求め、眼鏡レンズ通過後視野の画像、すなわち眼鏡レンズの各該物体点に対する歪みを含む画像である歪み原画像を作成するとともに、各該物体点に対する左右単眼主光線の左右両眼鏡レンズ通過位置を求める歪み原画像作成工程と、前記歪み原画像作成工程で得られた各該物体点に対する左右単眼主光線の左右両眼鏡レンズ通過位置データを用い、左右両眼鏡フレームの前記原画像または前記歪み原画像上の位置を表す眼鏡フレームマーク画像作成する眼鏡フレーム位置取得工程と、眼球光学モデルとして調節対応眼球光学系モデルを導入し、前記原画像の各画素に対し、前記原画像作成工程で得られた物体点距離より物体点から左右両眼回旋中心点までの距離を計算し、前記歪み原画像作成工程で得られた物体点からの主光線の左右両眼鏡レンズ通過位置における度数に合わせて、前記両眼球モデルの調節状態を同一または異なるように設定し、前記眼鏡レンズと物体点に対する眼球回旋方向に合わせて回旋した眼球光学系モデルとの合成光学系において、前記物体点から出射する光による前記調節対応眼球モデルの網膜上の輝度分布を表す単眼PSF(Point spread function: 点広がり関数)を左右両眼それぞれに対して求め、さらに左右両単眼PSFを合成したものである両眼PSFを求めるPSF取得工程と、前記歪み原画像作成工程で作成した歪み原画像と前記PSF取得工程で得られた各画素に対する両眼PSFとの畳み込み演算(convolution)を行い、前記仮想三次元空間に配置した仮想物体を特定の位置及び視線方向の眼で前記眼鏡レンズの特定位置を通して見た場合の両眼協働回旋網膜像を作成するとともに、前記フレーム位置取得工程で得られた眼鏡フレームマーク画像と両眼協働回旋網膜像とを合成する畳み込み工程とを有し、
かつ、前記歪み原画像作成工程は、両眼協働回旋方向の定義が下記の原則に従うことを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法。
1.左右単眼眼球回旋方向から唯一の両眼協働回旋方向が求まる。
2.左右単眼眼球回旋方向の変化に対し、両眼協働回旋方向は連続的に変化する。3.両眼協働回旋方向に基づく空間感覚は、左右単眼のそれより著しく逸脱しない。 - 両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション方法において、仮想三次元空間内にコンピュータグラフィックスによる仮想物体を作成して配置し、前記両眼回旋中点の位置、中心視線方向、視野中心主光線眼鏡レンズ通過点、仮想物体変形量、仮想物体移動量の時系列変化のストーリーを作成し、そのストーリーにしたがって各時点で請求項1又は2に記載の眼光学系のシミュレーション法を用いて両眼協働回旋網膜像を作成し、該各両眼協働回旋網膜像を編集して両眼協働回旋網膜像の動画像を作成するとともに、
前記歪み原画像作成工程は、両眼協働回旋方向の定義が下記の原則に従うことを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法。
1.左右単眼眼球回旋方向から唯一の両眼協働回旋方向が求まる。
2.左右単眼眼球回旋方向の変化に対し、両眼協働回旋方向は連続的に変化する。3.両眼協働回旋方向に基づく空間感覚は、左右単眼のそれより著しく逸脱しない。 - 請求項2ないし4のいずれかに記載の眼光学系のシミュレーション方法において、前記PSF取得工程は、各該当画素の代表する物体点を見るときの左右単眼PSFから両眼PSFを求めるに際し、下記の原則に従うことを特徴とする眼光学系のシミュレーション方法。
1.左右両PSFが接近している場合、合成PSFは両方のPSFよりも分布が集中するものを採用する。
2.左右両PSFが著しく異なる場合、合成PSFはどちらか分布が集中するほうのPSFに近いものを採用する。
3.合成PSFの連続性と唯一性を保つ。 - 両眼それぞれの前に配置された眼鏡レンズを通して外界を観察したときの見え方をシミュレーションする眼光学系のシミュレーション装置において、
前記眼鏡レンズを通して眼によって知覚される像として、視野内の全ての物体点を、左右のそれぞれの眼球の網膜である左右両単眼網膜の上の中心窩で捕らえるように、両眼球を回旋させたときのそれぞれの中心窩で捕らえた像を合成した像である両眼中心窩合成像を作成するコンピュータシミュレーション装置と、
前記両眼中心窩合成像をさらに繋ぎ合わせて作成される像である両眼協働回旋網膜像を作成するコンピュータシミュレーション装置とを有し、
両眼協働回旋網膜像を作成するコンピュータシミュレーション装置は、両眼回旋中心点の中点である両眼回旋中点を特定の場所に置き、この両眼回旋中点を頂点とする特定の角錐範囲である視野の画像を原画像として作成する原画像作成手段と、前記視野の眼鏡レンズを通して見た場合の歪みを含む歪み原画像を、光線追跡法を用いて作成する歪み原画像作成手段と、前記眼鏡レンズ及び眼球光学モデルよりなる光学系において、物体点からの光による左右両眼球モデルの網膜上における単眼PSFと、左右両単眼PSFを合成した両眼PSFを求めるPSF 取得手段と、前記歪み原画像作成手段で求めた歪み原画像とPSF 取得手段で求めた原画像の各画素の両眼PSFとの畳み込み演算をする畳み込み手段とを備え、
かつ、前記歪み原画像作成手段は、両眼協働回旋方向の定義が下記の原則に従うことを特徴とする眼光学系のシミュレーション装置。
1.左右単眼眼球回旋方向から唯一の両眼協働回旋方向が求まる。
2.左右単眼眼球回旋方向の変化に対し、両眼協働回旋方向は連続的に変化する。
3.両眼協働回旋方向に基づく空間感覚は、左右単眼のそれより著しく逸脱しない。
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