JP3822922B2 - ロータリエンコーダ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ロータリエンコーダに係わり、特に、コード板の回転位置情報をグレイコードなどのコードで得るアブソリュートタイプのロータリエンコーダに関する。
【0002】
【従来の技術】
ロータリエンコーダには、絶対位置を得るアブソリュートタイプのものと相対的な回転角度等を得るインクリメンタルタイプとに大別される。そして、前者のアブソリュートタイプのロータリエンコーダには、例えば4ビットであれば、コードが0000、0001、0010・・・というように変化するバイナリーコードの他に、グレイコードを出力するものがある。このグレイコードは隣あうコードにおいて変化するビットの数が必ず1つとなるように定められている。
【0003】
アブソリュートタイプのロータリエンコーダの一例として、コード板とこのコード板上を摺動・回転する摺動子とを備えた接触式のエンコーダがある。このエンコーダのコード板には、ビット数と同数のコードパターンとコモンパターンとが印刷などにより同心円状に形成されている。
【0004】
図7はこの種のエンコーダを分かりやすく説明するためにコード板を直線的に引き伸ばして示した4ビットのエンコーダの説明図、図8は図7に示すエンコーダの出力信号を得るための回路図である。
【0005】
図7において、1は絶縁材料からなるコード板、2,3,4,5はそれぞれ1ビット目(最下位ビット),2ビット目,3ビット目,4ビット目(最上位ビット)のコードパターン、6はコモンパターンであり、コードパターン2は交互に配置された導電部2aと絶縁部2bとからなり、コードパターン3,4,5にも、それぞれ導電部3a,4a,5aと絶縁部3b,4b,5bとが備えられており、コモンパターン6は導電部のみから成っている。これらコードパターン2ないし5の導電部2a,3a,4a,5aおよびコモンパターン6は例えば、銀やカーボン等からなる導電性インクをコード板1上に印刷して形成されており、このようにコード板1に導電部を印刷することにより、各コードパターン2〜5およびコモンパターン6を形成している。すなわち、絶縁部2b,3b,4b,5bについてはコード板1の表面を利用している。なお、各導電部2a,3a,4a,5aおよびコモンパターン6は互いに電気的に導通している。
【0006】
7ないし10は互いに電気的に独立して形成されており、それぞれコードパターン2,3,4,5上を相対的に摺動移動する導電性材料からなる摺動子、11はコモンパターン6上を相対的に摺動移動する導電性材料からなる摺動子であって、これら摺動子は、図示しないエンコーダのハウジング外部に信号を取り出すための端子(図示なし)とそれぞれ導通している。
【0007】
なお、実際のコード板1は回転可能な円形をしており、前記コードパターン2〜5およびコモンパターン6はこのコード板1に同心円状に形成されている。そして、各摺動子7〜11は前記ハウジングに固定されており、固定された摺動子7〜11に対してコード板1が回転するように構成されている。
【0008】
図7の上部に付与した0から15までの数字は、説明上付けたものであり、各摺動子7〜11がコード板1上のその位置で接しているときに摺動子7〜10より得られる信号のグレイコードを10進数で表したものである。すなわち、摺動子がコードパターンの導電部と接している状態を1、絶縁部と接している状態を0で表すと、各摺動子7〜11が、図7の左端に相当するコード板1の部分(矢印Aで示す部分)に位置していると、0000というパターンが得られ、このパターンをグレイコードとして10進数で表すと0となる。同様に、0010というパターンはグレイコードの10進数表示で3となり、このとき摺動子7〜11は矢印Bで示す所に位置している。このように、コード板1上の摺動子7〜11の位置とコード(パターン)とは1対1で対応しており、得られるコード(パターン)によりコード板1あるいはこのコード板1に取り付けられた図示しない回転軸の回転角度を絶対値で検出することができる。
【0009】
次に、コードを検出する方法について説明する。
【0010】
図7に示す各コードパターンおよび各摺動子は、摺動子がコードパターンの導電部と接しているときにオン、絶縁部と接しているときにオフとなるスイッチとしてとらえることができるため、図8では、これらをスイッチのシンボルで表すとともに、図7に示したものと同一符号を付した。
【0011】
図8に示すように、コードパターン2〜5の各導電部2a,3a,4a,5aはコモンパターン6および摺動子11と電気的に導通しており、これらは接地されている。1ビット目のコードパターン2上を相対的に移動する摺動子7はプルアップ抵抗12を介して例えば5Vの電源Vccに接続されている。同様に、摺動子8,9,10はそれぞれプルアップ抵抗13,14,15を介して電源Vccに接続されている。そして、各摺動子7〜10と各プルアップ抵抗12〜15との各接続点a点,b点,c点,d点はマイクロプロセッサ(MPU)16の入力ポート16a,16b,16c,16dに接続されている。
【0012】
このように構成された検出回路において、a点の電圧は、摺動子7が導電部2aに接している領域では0V、絶縁部2bと接する領域では5Vとなり、前述した状態0,1を電圧レベルのH(ハイ),L(ロウ)として得ることができる。同様に、b点,c点,d点の電圧も摺動子8〜10のコードパターン3〜5上の位置に応じて、H(5V)またはL(0V)となる。そして、これらa点からd点の電圧がマイクロプロセッサ16の入力ポート16a〜16dに供給され、マイクロプロセッサ16が電圧レベルのパターンによりコードを検出し、コード板1等の絶対位置(角度)を求めている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前述した従来のロータリエンコーダにおいては、ビットの数だけコードパターンが必要となるほか、これらコードパターンと導通し、摺動子11を介して外部に導かれるコモンパターンも必要となる。したがって、エンコーダの分解能が高くなり、ビット数が増えると、その分コードパターンも増え、ロータリエンコーダの外形が大きくなるという問題があった。
【0014】
また、エンコーダの分解能が高くなると、1コードあたりの角度が小さくなる、換言すれば、最も頻繁にビット信号が変化するビットに対応するコードパターンの導電部と絶縁部のピッチ角度が小さくなり、このコードパターンの形成精度が要求され、エンコーダのコストが高くなるという課題もあった。
【0015】
本発明の目的は、前述した従来技術の実情に鑑み、ビット数が増えても、小型化が可能で、しかも低コストで高分解能が得やすいアブソリュートタイプのロータリエンコーダを提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前記した発明の目的を達成するために、請求項1に係わる本発明については、回転可能に保持されるコード板の回転角度位置を、複数のビットの信号を得ることによって検知するアブソリュートタイプのロータリエンコーダであって、前記複数のビット信号の出力はグレーコードであり、前記コード板上の同心円状で半径方向の異なる位置に設けられた複数のコードパターンに複数の摺動子が摺動することによって出力され、前記コードパターンは、円周方向に交互に設けられた導電部と絶縁部からなり、隣り合うポジション毎に1つのビットに相当する異なる信号が出力され、最下位のビットは2ポジション毎に信号の切替が行われ、前記コードパターンの1つは、最上位とその1つ下位のビット信号の出力に共用され、この共用される前記コードパターンには、最上位の前記摺動子と前記最上位より1つ下位の前記摺動子が前記コード板の回転方向にずらして摺接させ、また共用される前記コードパターン上を相対的に摺動する2本の前記摺動子の配置角度は、この2本の前記摺動子が摺動する前記導電部と前記絶縁部のうち、何れの前記摺動子に対しても連続して摺動する方の接触対象の部材の形成角度の半分とし、グレーコードを得るようにした構成とした。
【0017】
また、請求項2に関わる本発明においては、前記コード板に形成された前記複数のコードパターンの最外周のコードパターンを前記コード板の回転によって最も頻繁にビット信号が変化するビットに対応するものとした。
【0018】
さらに、請求項3に関わる本発明においては、前記少なくとも2本の摺動子を同一の摺動子保持体に保持させ、この摺動子保持体と前記コード板とのいずれか一方に突起を設け、いずれか他方にこの突起を回転自在に軸支する孔または凹部を設ける構成とした。
【0019】
【作用】
前記請求項1に対応した手段においては、コードパターンの1つは、最上位とその1つ下位のビット信号の出力に共用され、この共用されるコードパターンには、最上位の摺動子と最上位より1つ下位の摺動子がコード板の回転方向にずらして摺接させ、また共用されるコードパターン上を相対的に摺動する2本の摺動子の配置角度は、この2本の摺動子が摺動する導電部と絶縁部のうち、何れの摺動子に対しても連続して摺動する方の接触対象の部材の形成角度の半分とし、グレーコードを得るようにしたため、1つのコードパターンで位相差をもった少なくとも2つのビット分の信号を得ることができ、少なくとも1ビット分のコードパターンを減らすことができるため、その分グレーコードを得るようにしたロータリエンコーダの小型化が可能となる。
【0020】
また、コード板に設けられた最外周のコードパターンをコード板の回転によって最も頻繁にビット信号が変化するビットに対応するものとした請求項2に対応する手段では、コード板の回転中心から最も頻繁に信号が変化する最下位ビットなどのビットのコードパターンまでの距離、すなわち、最も多くの導電部と絶縁部とを備えたコードパターンの半径が大きくなり、この半径に比例して同一角度に相当するコードパターン上の導電部や絶縁部の周方向における長さも長くなる。そのため、コードパターンの形成ずれや形成のばらつき等により、摺動子が相対的に摺動する導電部あるいは絶縁部の長さに多少ばらつきが発生しても、そのばらつきをコード板の回転角度に換算した場合の影響は、内周に最も頻繁に信号が変化するビットのコードパターンを設けた場合に比べて小さなものとなる。したがって、エンコーダの分解能が高くなって1コードあたりの角度が小さくなっても、最も頻繁に信号が変化するビットのコードパターンの形成精度は、このコードパターンを内周に形成する場合に比べて要求されず、また、最外周のコードパターン上の導電部や絶縁部の周方向長さもコードパターンの半径に比例してある程度得られることから、このコードパターンの形成は容易となり、よって、エンコーダのコストを抑えることができる。
【0021】
さらに、共通のコードパターン上を相対的に摺動する少なくとも2本の摺動子が保持される摺動子保持体とコード板とのいずれか一方に突起、いずれか他方にこの突起を回転自在に軸支する孔または凹部を設けた請求項3に対応する手段では、突起と孔または凹部とが軸と軸受けとして機能し、摺動子保持体とコード板とが精度よく位置決めできる。したがって、共通のコードパターンとこのコードパターン上を相対的に摺動する少なくとも2本の摺動子との位置精度もよく、よって、コード板を回転させたときに位相差をともなってビット信号が変化する少なくとも2つのビットのビット信号の位相差をより正確なものとすることができる。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の一実施例を図に基づいて説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施例に係わる5ビットのロータリエンコーダの断面図、図2は図1に示すロータリエンコーダに備えられるコード板の正面図、図3は図1に示すロータリエンコーダの摺動子保持体の正面図、図4は図3に示す摺動子保持体の右側面図、図5はコード板上に各摺動子の摺動軌跡を示した説明図、図6は回転軸の回転位置と出力コードとを一覧に表した説明図である。
【0024】
図1において、20はポリカーボネート等の絶縁樹脂からなる回転軸、21はこの回転軸20が挿通される亜鉛ダイキャスト製の軸受け、22は片面に後述するコードパターンが形成され、前記回転軸20にスプライン結合されるコード板、23はこのコード板22に摺接する摺動子が備えられた摺動子保持体、24は内部にスイッチ体25が収納されたPBT(ポリブチレンテレフタレート)等の絶縁樹脂からなる背面ケースであって、これらの部材によりロータリエンコーダが概略構成されており、また、これら各部材は図示しない金属製の取付板により軸受け21と背面ケース24とが挟持されて一体化されている。
【0025】
回転軸20は、円柱状の一部を切り落とした平坦部20aを有する断面D字状の先端部20bと、平坦部を有しない断面円形をした円柱状の中央部20cと、この中央部20cより若干径の大きいストッパ部20dと、このストッパ部20dと段差20eをもって形成された断面小判状の係合部20fと、この係合部20fと連なる断面ほぼ円形をしたスイッチ押圧部20gとからなり、ロータリエンコーダの外部から内部に向けてこの順に一体に形成されている。
【0026】
軸受け21は、略直方体をした基部21aの一面(壁21b)より円筒部21cが突出した概略形状をしており、この円筒部21cの外周には、ロータリエンコーダを図示しない筐体に取り付けるためのねじ切り21dが形成されており、前記円筒部21cの先端は、内径が他の部分よりやや小さな小径部21eとなっている。そして、この小径部21eに基部21a側より挿入された前記回転軸20のストッパ部20dが当接し、回転軸20が図1の右方向に抜けないようになっている。また、基部21aの内部は、円筒部21cが形成されていない側を開放し、円筒部21cの内部と通じる空所となっており、この空所はコード板22を収納する収納部21fを形成している。なお、この軸受け21が亜鉛ダイキャストで形成されているのは、前述したように、筐体に図示しないねじで締め付けられるため、ある程度の強度をもたせる必要があることによる。
【0027】
コード板22は、図1,図2に示すように、平面円形をした板部22aと、この板部22aの中央部より板部22aの両面に突出し、内部に前記回転軸20のスイッチ押圧部20gを挿通可能な貫通孔22bが形成された突出部22cにより概略構成されている。板部22aの裏面(コードパターンが形成されていない面)に突出する突出部22cは、外径が前記軸受け21の円筒部21cの内径よりも大きな第1の突出部22dと、この第1の突出部22dと段部22eをもって形成され、円筒部21cの内径よりもわずかに小さな外径の第2の突出部22fとからなっている。板部22aの表面(コードパターンが形成されている面)に突出する突出部22cは、前記第2の突出部22fの外径よりも小さな外径の第3の突出部22gと、この第3の突出部22gと段部22hをもって形成され、第3の突出部22gの外径よりさらに小さな外径の第4の突出部22iとからなっている。そして、これら第1から第4の突出部22d,22f,22g,22iの外形形状はそれぞれ径の異なる円柱状をなしており、図1における右側より第2の突出部22f、第1の突出部22d、板部22a、第3の突出部22g、第4の突出部22iの順に一体に形成されており、これらの内部には、前述した貫通孔22bが形成されている。第4の突出部22iに形成された貫通孔22bは、前記回転軸20のスイッチ押圧部20gの外径よりもわずかに大きな内径の断面円形をしており、第3の突出部22gと板部22aに形成された貫通孔22bも断面円形をした孔22jであるが、その内径は第4の突出部22iに形成された貫通孔22bの内径よりも幾分大きくなっている。第2の突出部22fに形成された貫通孔22bは、前記係合部20fよりわずかに大きな断面小判状をした被係合部22kをなしており、回転軸20の係合部20fと係合して、回転軸20とともに回転可能となっている。第1の突出部22dに位置する貫通孔22bには、前記孔22jと被係合部22kをつなぐべく、図1に示すようなテーパ面22lが形成されている。また、板部22aの裏面には、環状突起22mが第1の突出部22dと同じ高さで設けられている。
【0028】
このコード板22は、所望のコードが得られるように金型により抜き加工を行った一枚の銀メッキをしたりん青銅の板にPBT樹脂によりインサート成形を行って前述したような形状に形成されたものであり、コードパターンが形成されているコード面22nは、図2に示すように、りん青銅からなり導通する導電部22pとPBT樹脂による絶縁部22qとからなっており、これら導電部22pと絶縁部22qとは、ほぼフラットに形成されている。また、このコード面22nの周囲には、後述するクリック突起が係脱してクリック感触を出すための波状のクリック凹凸部22rが全周にわたって円環状に設けられている。なお、前記りん青銅板すなわち導電部22pの外周部と内周部は、板部22aとクリック凹凸部22rおよび板部22aと第3の突出部22gとにそれぞれ挟持され、導電部22pがコード面22nより浮かないようになっている。
【0029】
コード板22のコード面22nに形成されるコードパターンは、図2に示すように、外周側から1ビット目(最下位ビット)の第1のコードパターン31、3ビット目の第3のコードパターン33、上位2ビットすなわち4ビット目と5ビット目に共通の第4のコードパターン34、2ビット目の第2のコードパターン32の4つのコードパターンからなり、第2のコードパターン32のさらに内周には、コモンパターン35が形成されている。そして、これらのコードパターン31〜34およびコモンパターン35は同心円状に形成されている。第1のコードパターン31は交互に配置された導電部31aと絶縁部31bとからなり、同様に、第2,第3,第4のコードパターン32,33,34にも導電部32a,33a,34aと絶縁部32b,33b,34bとが備えられており、コモンパターン35は導電部のみからなっている。これらの導電部31a,32a,33a,34aおよびコモンパターン35は前述したように互いにつながり、電気的に導通する一枚のりん青銅板からなり、前記導電部22pを構成している。また、絶縁部31b,32b,33b,34bによりPBT樹脂製の前記絶縁部22qが構成されている。
【0030】
摺動子保持体23は、図3および図4に示すように、その外形が軸受け21の基部21aと同様の略矩形状をした板状部材である。この摺動子保持体23の中央部には、内径がコード板22の第4の突出部22iの外径よりわずかに大きくかつ、第3の突出部22gの外径よりも小さな円形孔23aが形成されており、この円形孔23aの両脇には、略矩形状をした貫通する矩形孔23b,23cが設けられ、さらに、後述する端子が導出される辺と反対側の辺には、切り欠き23dが形成されている。また、エンコーダを組み立てたとき、軸受け21と当接する摺動子保持体23の面23eより幾分凹んだ円形状の凹部23fが摺動子保持体23に形成されており、この凹部23fは円形孔23aと同じ中心を有し、コード板22の板部22aより若干大きな径をなして、板部22aとの接触を防止している。
【0031】
この摺動子保持体23には、コードパターン31,32,33とそれぞれ摺接する第1の摺動子41,第2の摺動子42,第3の摺動子43と、第4のコードパターン34と摺接する第4の摺動子44,第5の摺動子45と、コモンパターン35と摺接する第6の摺動子46,第7の摺動子47とが保持されている。そして、第1から第5の摺動子41〜45は、摺動子保持体23の内部で互いに電気的に独立した端子51〜55にそれぞれ接続されており、第6の摺動子46と第7の摺動子47は、摺動子保持体23内部でつながって端子56に接続されている。また、クリックばね23gも摺動子保持体23に保持されており、このクリックばね23gの中央部には、コード板22のクリック凹凸部22rと係脱するクリック突起23hが形成されている。なお、第1の摺動子41,第4の摺動子44および第6の摺動子46は矩形孔23b内に、第2の摺動子42,第3の摺動子43および第7の摺動子47は矩形孔23c内に設けられており、第5の摺動子45とクリックばね23gは切り欠き23d内に位置している。このように、円形孔23aを中心として対称な位置にある矩形孔23bと矩形孔23c内に摺動子を振り分けたのは、摺動子を片側だけに設けた場合の種々の不具合、すなわち、摺動子間隔が狭くなり、隣接する摺動子同士が接触するおそれや各摺動子の幅が狭くなって摺動子の強度が弱くなり、コード板に対して適切な接点圧が得られない等の問題が生じ、これらの問題が生じないようにすると、エンコーダの外形が大ききなってしまう等の不具合を解消するためである。また、摺動子41,42,43,46,47のコード板22との接触点は、組み立てられた状態において、円形孔23aの中心を通る一直線上に並ぶが、第4の摺動子44は他の摺動子より長く形成して、同じ第4のコードパターン34上を摺動する第5の摺動子45との位相差に対応した角度ずれを確保している。本実施例において、この位相差はコード板22の回転角度にして80度(基準値)となるように設定されているが、この点についてはより詳しく後で説明する。なお、23iは、軸受け21に設けられた図示しない穴に挿入され、軸受け21と摺動子保持体23との位置決めを行うための突起であり、23jは、背面ケース24に設けられた図示しない穴に挿入される位置決めおよび仮止め用の突起である。
【0032】
摺動子保持体23は、コード板22と同様、金型により所望の形状に抜き加工されたフープ状の一枚の銀メッキが施されたりん青銅板にPBT樹脂をインサート成形して前述したような形状に形成されており、この時点においては、各摺動子41〜47、各端子51〜56およびクリックばね23gは互いに接続されている。そして、このインサート成形の後、曲げ加工の妨げとなる部分23k等も含めた切断加工が行われ、その後、金型による曲げ加工、すなわち、端子51〜56をL字状に曲げる加工、クリックばね23gにクリック突起23hを設ける加工および摺動子を図4に示すように折り曲げるとともにコード面22nと接する突起(接点43a等)を設けるプレス加工等が行われ、最後に、個々の摺動子保持体23をフープより切り放す切断加工が行われる。このように摺動子保持体23は製造されるため、各摺動子41〜47の摺動子保持体23(円形孔23a)に対する位置精度は高く、対応するコードパターンに問題となるようなトラックずれを起こして摺動するようなことはなく、また、同一の第4のコードパターン34上を摺動する第4の摺動子44と第5の摺動子45との位相差(ずれ角度)を確実に得ることができる。なお、実際に摺動移動(回転移動)する部材は、摺動子ではなく、コード板22である。
【0033】
背面ケース24は、軸受け21の基部21aとほぼ同様の外形寸法を有する略直方体形状をしており、その中央部には、前述したようにスイッチ体25が収納されている。このスイッチ体25は、銀メッキをしたりん青銅からなる固定接点25a、可動接点25bおよびドーム状のゴム材からなる押圧体25cにより構成されており、この押圧体25cは、背面ケース24の一面より露出して保持されている。そして、固定接点25aは端子25dにより外部に導出されており、同様に、可動接点25bも図示しない端子により外部に導出されている。
【0034】
次に、前述した各部材が組み立てられた状態における各部材の位置関係と動作について説明する。
【0035】
図1に示すように、背面ケース24、摺動子保持体23、軸受け21は、突起23i、23jにより位置決めされて、この順に重ね合わされており、これらは前述したように、図示しない金属製の取付板により一体化されている。コード板22は、軸受け21に形成された収納部21fに収納されており、第2の突出部22fが軸受け21の円筒部21cの内部に、第4の突出部22iが摺動子保持体23の円形孔23aにそれぞれ挿通されいる。そして、円筒部21cと円形孔23aがそれぞれ第2の突出部22fと第4の突出部22iに対する軸受けとして機能し、コード板22が回転可能に軸支されている。また、コード板22の軸方向の移動は、軸受け21の壁21bと摺動子保持体23との間に位置する第1の突出部22dと第3の突出部22gとにより規制されている。
【0036】
組み立てられた状態において、摺動子保持体23に保持された第1ないし第3の摺動子41,42,43は、それぞれコードパターン31,32,33と接触し、第4と第5の摺動子44,45は、前述したように角度をずらして第4のコードパターン34と接触し、第6と第7の摺動子46,47は、いずれもコモンパターン35と接触している。その際、組み込み前に、図4の矢印イで示す位置にある第3の摺動子43は、矢印ロの位置にそのばね性により弾性変形して、第3のコードパターン33と弾接しており、同様に、他の摺動子も対応するコードパターンおよびコモンパターンと弾接している。そして、コード板22が回転すると、各摺動子と各コードパターンおよびコモンパターンとが摺動し、第1ないし第5の摺動子41〜45とそれぞれ導通する端子51〜55より5ビットのコード信号を得ることができる。また、ばね性を有するクリック突起23hは、クリック凹凸部22rと係脱し、クリック凹凸部22rの凹部にクリック突起23hが位置する所でコード板22の回転が止まりやすくなっている。なお、クリック凹凸部22rの凹部は、5ビットからなるコードが変化する角度と同じ10度毎に設けられており、コード信号が安定して得られるように、コードが変化する角度とクリック凹凸部22rの凹部とは5度ずれている。また、環状突起22mは、コード板22の板部22aの強度を高めるために設けられているものであり、軸受け21の壁21bと当接している。なお、コモンパターン35と接触する摺動子を第6と第7の摺動子46,47の2本としているのは、コモンパターン35と摺動子との接触信頼性を向上させるためである。
【0037】
回転軸20の先端部20bおよび中央部20cは、軸受け21の小径部21eより軸受け21の外部に露出しており、ストッパ部20dが小径部21eに当接して、回転軸20が軸受け21から抜けないようになっている。また、回転軸20の係合部20fとコード板22の被係合部22kとは、前述したように、いずれも断面小判状をして回転軸20の回転方向において係合しており、回転軸20の回転によりコード板22も回転するように構成されている。さらに、回転軸20のスイッチ押圧部20gは、コード板22の貫通孔22bに挿通されて、スイッチ体25の押圧体25cと対向しており、回転軸20の軸方向の移動により押圧体25cを押圧可能となっている。すなわち、回転軸20を図1の右側より左方向に押し込むと、スイッチ押圧部20gがドーム状の押圧体25cの弾性力に抗して押圧体25cを押圧し、さらに押圧体25cが可動接点25bをそのばね力に抗して固定接点25a側に押し込み、可動接点25bと固定接点25aとの導通がなされる。そして、回転軸20の押圧力を解除すると、押圧体25cの弾性力(復帰力)により、回転軸20が図1に示す位置まで押し戻される。なお、回転軸20を図1の左方向にある程度押し込むと、第2の突出部22fとストッパ部20dとが当接して回転軸20の移動が停止するようになっており、これにより、スイッチ押圧部20gが必要以上に押圧体25cを押し、スイッチ体25を破壊するのを防止している。
【0038】
次に、この一実施例のエンコーダより得られるコードについて主に図5および図6に基づいて説明する。
【0039】
前述したように、回転軸20を回転させると、この回転軸20に連動してコード板22も回転し、固定されている摺動子41〜47に対して、コード面22nが摺動移動するが、本実施例においては、回転軸20の全回転角度は、310度に規制されており、それ以上回転しないように、図示しないストッパ機構が設けられている。そして、端子51〜55より得られるコードは10度を1ステップとして、10度毎に変化し、全部で32個のコード、換言すれば、10度毎に32個の絶対位置角度(回転軸20の回転位置)を検出することができる。
【0040】
図6において、ポジションとは、回転軸20を図1の右側より見て反時計方向に回しきった末端から時計方向に回転させた位置を示している。すなわち、ポジション0は回転軸20を反時計方向に回しきった末端の位置、ポジション1はこの末端から時計方向に回転軸20が10度(1ステップ)回転した位置、ポジション2は末端から同方向に回転軸20が20度(2ステップ)回転した位置を表し、以下同様で、ポジション31は反時計方向の末端から回転軸20を310度(31ステップ)回転した位置となる時計方向における末端の位置を表している。これらの各ポジションにおいて、クリック突起23hはクリック凹凸部22rの凹部と係合している。また、図6の出力コードとは、各ポジションにおいて端子51〜55より得られる5ビットからなるコードであり、各ビットとも符号0は対応する摺動子が絶縁部と接触しているオフ状態を表し、符号1は対応する摺動子が導電部と接触しているオン状態を表している。例えば、ポジション0では、11000という出力コードが得られ、5ビット目(ビット5)に対応する第5の摺動子45と4ビット目(ビット4)に対応する第4の摺動子44がいずれも導電部34aと接触し、下位3ビットに対応する第3ないし第1の摺動子43,42,41はそれぞれ絶縁部33b,32b,31bと接触している。なお、図6における10進表示の欄は、出力コードをグレイコードとして見た場合の各コードの10進数表示であり、本実施例のコード体系は同図から明らかなように、5ビットのグレイコードを2等分し、前半の16個のコードと後半の16個のコードとを入れ換えたような変則的なグレイコード体系をしている。
【0041】
図5において、61は第1の摺動子41の第1のコードパターン31上における摺動軌跡(範囲)を示す想像線であり、回転軸20を図1の右側より見て反時計方向の末端から時計方向に回転させると、第1の摺動子41は、C点からD点まで第1のコードパターン31上を相対的に摺動する。すなわち、回転軸20の反時計方向における末端の位置(ポジション0)であるC点では、第1の摺動子41は絶縁部31bと接触しており、この末端からクリック突起23hが次のクリック凹凸部22rの凹部と係合する位置まで10度(1ステップ)回転軸20を時計方向に回転させた位置(ポジション1)においては、第1の摺動子41は導電部31aと接触し、端子51と端子56とが電気的に導通する。この位置よりさらに、1ステップ(10度)回転軸20を同方向に回転させた位置(ポジション2)においても、第1の摺動子41は導電部31a上にあり、さらに、1ステップ回転させた位置(ポジション3)で、第1の摺動子41は再び、絶縁部31bと接触し、端子51と端子56との導通が断たれる。そして、回転軸20を時計方向に回しきったD点(ポジション31)においても、第1の摺動子41は絶縁部31bと接触している。以上のように、回転軸20の回転とともに1ビット目(最下位ビット)の信号を得る第1の摺動子41の接触対象は変化し、図6に示すように、第1の摺動子41の各位置における第1のコードパターン31上の接触対象は、2ステップ(20度)毎に、導電部31aと絶縁部31bとを繰り返す。
【0042】
62は第2の摺動子42の第2のコードパターン32上における摺動軌跡を示す想像線であり、回転軸20を同様に、時計方向に回転させると、第2の摺動子42は、E点からF点まで第2のコードパターン32上を相対的に摺動し、両末端であるE点,F点では、絶縁部32bと接触している。この2ビット目の信号を得る第2の摺動子42は、図6に示すように、E点から2ステップ(20度)回転軸20を回転させた位置(ポジション2)で、導電部32aと接触し、端子52と端子56とが電気的に導通し、ここから4ステップ(40度)毎に、導電部32aと絶縁部32bとの接触を繰り返す。
【0043】
同様に、第3の摺動子43は、第3のコードパターン33上を想像線として示した摺動軌跡63のように、G点からH点まで相対的に摺動移動し、回転軸20の回転の両末端であるG点,H点では、絶縁部33bと接触して、端子53と端子56との電気的導通は断たれている。そして、3ビット目の信号を得るこの第3の摺動子43は、図6に示すように、G点から4ステップ(40度)回転軸20を回転させた位置(ポジション4)で、導電部33aと接触し、端子53と端子56とが導通し、ここから8ステップ(80度)毎に、導電部33aと絶縁部33bとの接触を繰り返す。
【0044】
64は第4の摺動子44および第5の摺動子45の第4のコードパターン34上における摺動軌跡を示す想像線であり、回転軸20を同様に、時計方向に回転させると、第4の摺動子44は、図5における時計回りにI点からJ点まで第4のコードパターン34上を相対的に摺動し、第5の摺動子45は、K点からL点まで同じく第4のコードパターン34上を相対的に摺動する。4ビット目の第4の摺動子44に対する回転軸20の回転の両末端であるI点およびJ点では、第4の摺動子44は、導電部34aと接触し、端子54と端子56とが電気的に導通している。そして、図6に示すように、第4の摺動子44は、I点から8ステップ(80度)回転軸20を回転させた位置(ポジション8)で、絶縁部34bと接触し、端子54と端子56との導通が断たれ、ここから絶縁部34bと接触するオフ状態が15ステップ続き、16ステップ(160度)回転軸20を回転させた位置(ポジション24)で、再度導電部34aと接触するようになり、このオン状態がJ点まで続く。また、5ビット目(最上位ビット)の第5の摺動子45に対する回転軸20の反時計方向における末端の位置であるK点において、第5の摺動子45は導電部34aと接触し、端子55と端子56とが電気的に導通しており、このオン状態が、図6に示すように15ステップ続く。そして、K点から回転軸20を時計方向に16ステップ(160度)回転させた位置(ポジション16)で、第5の摺動子45は絶縁部34bと接触し、端子55と端子56との導通が断たれ、このオフ状態が回転軸20の時計方向における末端のL点まで続く。
【0045】
なお、以上の説明では、K点から時計方向に160度回転した点で、第5の摺動子45の接触対象が導電部34aから絶縁部34bに変化するように記載したが、正確には、155度(基準値)の位置で接触対象が変化するように第4のコードパターン34は形成されている。しかし、この155度の位置では、クリック突起23hがクリック凹凸部22rの凸部に乗り上げており、通常の回転軸20の回転操作では、この凸部でクリック突起23hすなわちコード板22の回転が止まることはなく、凸部よりさらに5度回転した凹部でクリック突起23hが係合し、コード板22が安定して停止する。このように第5の摺動子45の接触対象がクリック凹凸部22rの凸部で変化するようコード板22を形成しているのは、155度の位置は、第4のコードパターン34が導電部34aから絶縁部34bに変化する位置であるため、仮に、この付近で第5の摺動子45が停止すると接触対象が導電部34aになったり絶縁部34bになったりし、第5の摺動子45と導通する端子55より得られる5ビット目の信号が不安定になるのを防止するためである。
【0046】
同様に、第4の摺動子44が第4のコードパターン34上を相対的に摺動し、接触対象が導電部34aから絶縁部34bに変化する点は、I点から時計方向に設計上の基準値で75度回転した点であり、再び導電部34aが接触対象となるのは、I点から時計方向に235度(基準値)回転した位置であり、絶縁部34bが形成されている実際の角度は、両角度の差すなわち160度(基準値)となっている。そして、前述したI点から75度と235度の接触対象が変化するそれぞれの点においても、クリック凹凸部22rの凸部にクリック突起23hが位置しているため、これらの点では、コード板22の回転が停止しにくいようになっている。
【0047】
また、第1のコードパターン31ないし第3のコードパターン33においても同様に、各摺動子41〜43の接触対象が導電部から絶縁部あるいは絶縁部から導電部に変化する角度とクリック凹凸部22rの凸部とは一致しており、クリック凹凸部22rの凹部とは5度ずれている。したがって、端子51〜55より得られるコード信号が変化する位置においては、必ずクリック凹凸部22rの凸部にクリック突起23hが乗り上げた状態となるため、この位置では、コード板22の回転は停止しにくく、この位置より5度ずれたクリック凹凸部22rの凹部にクリック突起23hが係合した位置で、コード板22が停止するようになり、ふらつかないコード信号を安定して得ることができる。なお、摺動子の接触対象が変化する位置とクリック凹凸部22rの凹部の位置とのずれ角度を5度としているのは、本実施例において、クリック凹凸部22rの凸部(凹部)を10度毎に繰り返すようにコード板22に設け、回転軸20の1ステップに相当する角度を10度に設定していることによる。すなわち、このずれ角度を1ステップ角度の半分とすれば、摺動子の接触対象が変化する位置とクリック凹凸部22rの凹部とを最も離すことができ、よって、クリック突起23hがクリック凹凸部22rに係合して停止する位置で、各摺動子が対応する各コードパターンの導電部と絶縁部との境界部分に接触することなく、余裕をもって安定したコード信号を得ることができるようにするためであるが、必ずしも5度である必要はなく、2度〜8度程度であってもよい。
【0048】
以上説明したように、1ビット目から5ビット目の各ビットの信号は、それぞれ端子51〜55より得ることができる。すなわち、摺動子41〜45が相対的に摺動する第1ないし第4のコードパターン31〜34の導電部31a,32a,33a,34aは、前述したように、コモンパターン35と一体のりん青銅板からなり、互いに導通している。そして、このコモンパターン35上を端子56と一体に形成されたりん青銅からなる第6と第7の摺動子46,47が常に接触して摺動するようになっているため、各コードパターンの導電部31a〜34aと端子56とも、常に電気的に導通する。したがって、第1の摺動子41が第1のコードパターン31上を相対的に摺動して、導電部31aに接触すると、第1の摺動子41と一体の端子51と端子56とが電気的に導通し、絶縁部31bに接触すると、端子51と端子56との導通が断たれる。言い換えれば、端子51と端子56との間に設けられたスイッチ手段が、回転軸20の回転角度に応じてオン/オフする。2ビット目から5ビット目も同様に、端子52〜端子55と各ビットに共通な端子56との間のスイッチ手段がオン/オフし、端子51〜55より5ビットの信号を得ることができる。
【0049】
この5ビットからなるコード信号(出力コード)の検出方法は、従来例で説明したものと同様であるため、詳細な説明は省略するが、概略、次のようである。各ビットに共通な端子56は接地されており、端子51ないし端子55は、例えば10kΩ程度のプルアップ抵抗をそれぞれ介して、例えば5Vの電源電圧Vccに接続され、各端子51〜55と各プルアップ抵抗との接続点は、それぞれ、マイクロプロセッサ(MPU)の5つの入力ポートに接続されている。そして、スイッチ手段のオン/オフの状態に対応する各端子51〜55と各プルアップ抵抗との接続点の電圧レベルのL(0V)/H(5V)がマイクロプロセッサに供給され、マイクロプロセッサがこの電圧レベルのパターンにより回転軸20の回転位置(図6におけるポジション)を検出している。
【0050】
なお、本実施例のエンコーダには、前述したようにスイッチ体25が備えられており、このスイッチ体25の信号もマイクロプロセッサに入力されており、回転軸20の回転角度とスイッチ体25のオン/オフにより各種の制御をマイクロプロセッサに指示可能である。このエンコーダの使用例として、車載用のエアコン(空調機)の操作つまみにこの一実施例のエンコーダを採用した場合について簡単に説明する。最近の車載用のエアコンには、車内の温度を設定温度に合わせるように制御するオートエアコンと呼ばれるようなものがある。このエアコンには、温度を表示するLCD等のディスプレイや所望の温度に設定するための操作つまみ等が備えられている。そして、通常は、ディスプレイには、操作つまみで設定した温度が表示されており、操作つまみを左右に回転させることにより、設定温度が変更できる。また、この操作つまみを押圧して、前記スイッチ体25をオンするとディスプレイに現在の車内の温度が表示され、操作者は設定温度との差を知ることができる。なお、温度制御やディスプレイ表示の切り換えは、この一実施例におけるエンコーダの出力信号が入力される前記マイクロプロセッサが行っており、入力される信号に応じて、エアコン本体やディスプレイの駆動回路を制御しているが、詳細な説明は省略する。
【0051】
なお、本実施例のエンコーダが用いられる前述したエアコンは、操作つまみの中央付近すなわちコード板22を全回転角度の半分程度回転させた位置で、設定温度が22度程度の適温となるように構成されている。そして、コード板22の中央付近であるポジション16では、第1ないし第5の摺動子41〜45がそれぞれ絶縁部と接触し、00000という出力コードが得られる。このように操作つまみの中央付近で出力コードが00000となる変則的なグレイコード体系を本実施例のエンコーダがとっているので、エンコーダの端子56を接地するための配線や端子51〜55とマイクロプロセッサとの間の配線等の断線、あるいはその他の何らかの理由で、5ビットの信号がマイクロプロセッサの入力ポートに正確に入力されない事態が発生し、各ビットがオフ状態となってしまっても、マイクロプロセッサの各入力ポートの電圧レベルはHとなり、これにより車内の温度が22度程度の適温となるように制御される。
【0052】
次に、この一実施例における4ビット目と5ビット目の位相差について説明する。図6に示すように、4ビット目の符号は、ポジション0からポジション7までは1であり、ポジション8で0となり、この状態がポジション23まで続き、ポジション24からポジション31までは再び1となる。他方、5ビット目の符号は、ポジション0からポジション15までが1であり、ポジション16からポジション31までは0となっており、5ビット目の符号の変化は、4ビット目のものと8ポジション分(8ステップ分)ずれている。このずれ量が位相差であり、この位相差は回転軸20の回転角度で80度に相当する。したがって、第4のコードパターン34と第4の摺動子44との接触点および第5の摺動子45との接触点の角度がこの位相差に相当する80度となるように両摺動子44,45は摺動子保持体23に保持されている。換言すれば、4ビット目と5ビット目に共通な導電部34aと絶縁部34bのうち、いずれのビットに対応する摺動子44,45に対しても連続して摺動する方の接触対象の部材(本実施例では絶縁部34b)が形成されている角度(160度)の半分の角度分ずらして同一の第4のコードパターン34に接触するように摺動子44,45を配置することにより、所望の位相差を有する信号を得ることができる。なお、本実施例においては、導電部34aは5ビット目の第5の摺動子45に対して連続的に摺動するが、4ビット目の第4の摺動子44に対しては途中に絶縁部34bが入り、連続的に摺動せず、他方、絶縁部34bは第4の摺動子44,第5の摺動子45とも連続して摺動するため、絶縁部34bの形成角度160度の半分の角度80度が位相差に相当しているが、絶縁部34bと導電部34aとの形成領域を逆に設けても32個のコードを得ることはでき、この場合には、導電部の形成角度の半分の角度が位相差になる。すなわち、同一のコードパターン上を相対的に摺動する2つの摺動子の配置角度は、前述したように、この2つの摺動子に摺動する導電部と絶縁部のうち、いずれの摺動子に対しても連続して摺動する方の接触対象の部材の形成角度の半分として定義できる。そして、エンコーダがグレイコードを出力するものの場合には、この2つの摺動子は上位2ビットを得るものとなる。
【0053】
以上、詳細に説明したように、本発明の一実施例にあっては、4ビット目と5ビット目のコードパターン34を共通とし、この共通の第4のコードパターン34に接触し相対的に回転する第4の摺動子44と第5の摺動子45との接触角度をずらすことにより位相差を有する上位2ビットの信号を得ているので、5ビットからなるコードを得るのに必要なコードパターンが4本ですみ、エンコーダの外形を小型化することができる。
【0054】
また、最外周の第1のコードパターン31を最も多くの導電部31aと絶縁部31bとが交互に設けられ、コード板22の回転に応じて最も頻繁にビット信号が変化する最下位ビットの信号を得るものとしたので、各導電部31aおよび各絶縁部31bの周方向における長さを長くでき、インサート成形されるりん青銅板の外形加工のばらつきや第1の摺動子41の寸法のばらつき、あるいはコード板22と摺動子保持体23との位置ずれ等を最外周の第1のコードパターン31については、ある程度吸収することができる。したがって、りん青銅板を外形加工する金型の第1のコードパターン31に対応する部分の精度(金型の加工精度)は、第1のコードパターン31を内周に形成する場合に比べて要求されず、金型の精度が要求される箇所を減らすことができるため、金型の製造コストを抑えることができ、よってエンコーダの低コスト化が可能となる。
【0055】
さらに、この一実施例では、摺動子41〜47を保持する摺動子保持体23の円形孔23aにコードパターン31〜34およびコモンパターン35が形成されたコード板22の第4の突出部22iを挿通させるとともに、このコード板22の貫通孔22b(被係合部22k)に回転軸20を挿通させてスプライン結合する構成とした。このように、回転軸20とは別部材のコード板22を摺動子保持体23によって回転可能に軸支しているので、エンコーダの筐体への取付状態が悪く、回転軸20に例えばその軸線と垂直方向の不所望な力が働いて回転軸20が操作されても、摺動子41〜47とコードパターン31〜34およびコモンパターン35とは精度よく位置決めされ、摺動子が対応するコードパターン上をほとんどトラックずれを起こすことなく相対的に摺動し、よって、コード板22の10度毎の回転により異なる出力コードを確実に得ることができ、さらに、上位2ビットのビット信号の位相差をより正確なものとすることができるとともに、回転軸20を軸方向に移動させてエンコーダの後部に位置するスイッチ体25を操作する構成をとることが可能となる。なお、本実施例のエンコーダは、回転軸20を押圧したときにオンとなるスイッチ体25を備えているため、第4の突出部22iを回転自在に軸支する円形孔23aを貫通孔としたが、本発明はこれに限られず、スイッチ体を有しないエンコーダの場合には、円形孔23aの代わりに内形が円形の凹部とすることもでき、さらに、本実施例とは逆に、摺動子保持体に円柱状の突起を設け、この突起を軸支する円形孔または凹部をコード板に設けることにより、コード板を回転可能とすることもできる。
【0056】
また、コード板22は、前述したように、導電部31a,32a,33a,34aおよびコモンパターン35を残して、所望のコードが得られるように金型により抜き加工を行った一枚のりん青銅板にPBT樹脂によりインサート成形を行って形成されているので、各コードパターンの各導電部31a,32a,33a,34aおよびコモンパターン35相互の導通が確実に得られ、これらの導通が断たれることはない。さらに、この一実施例のコード板22は、前記インサート成形時に、コード面22nの周囲のクリック凹凸部22rを形成しているので、出力コードが変化する角度とクリック凹凸部22rの凹部との5度のずれ角度は金型の精度で得ることができるため、クリック突起23hがクリック凹凸部22rの凹部と係合してコード板22の回転が停止する位置において、安定した出力コードを得ることができ、エンコーダの信頼性は高いものとなる。
【0057】
なお、上述した本発明の一実施例では、5ビットのグレイコードを2等分し、前半の16個のコードと後半の16個のコードとを入れ換えたような変則的なグレイコード体系をしたもので説明したが、本発明はこれに限られず、コードが00000から始まる本来のグレイコードを得るものであってもよく、また、グレイコードでなくても、コード板の回転により位相差をともなってビット信号が変化する少なくとも2つのビットを含む複数ビットからなるコード体系をしたアブソリュートタイプのロータリエンコーダに適用可能である。
【0058】
また、この一実施例のコード板22の全回転角度は310度で、それ以上回転しないように、ストッパ機構が設けられているが、ストッパ機構がなくエンドレスでコード板が回転するエンコーダに本発明を適用してもよい。
【0059】
さらに、この一実施例では、コード板22のコード面22nを抜き加工を行った一枚のりん青銅板にPBT樹脂によりインサート成形を行って形成しているが、本発明はこれに限られず、従来の技術で説明したようにコード板に導電性のインクを所定の形状に印刷することによりコード面(コードパターン)を形成してもよい。この場合にも、最外周のコードパターンを最も頻繁にビット信号が変化する例えば最下位ビットに対応するものとするのが望ましい。すなわち、内周に最も頻繁にビット信号が変化するビットに対応するコードパターンを形成すると、短い長さのトラックに多くの導電部を印刷形成しなけらばならず、コードパターン上の導電部と絶縁部との間隔が狭くなり、印刷ずれや印刷のにじみ等により所望の間隔が得られず、最悪の場合には、隣あう導電部同士がつながってしまう等の不具合が発生して、コード板の歩留りが悪くなり、エンコーダのコストが高くなる。しかし、最も頻繁にビット信号が変化するビットのコードパターンを最外周に形成した場合には、このコードパターン上の導電部や絶縁部の周方向長さをコードパターンの半径に比例して長くすることができるため、印刷ずれや印刷のにじみに対して余裕ができ、コード板の歩留りがよくなって、エンコーダの低コスト化をはかることができる。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載した発明によれば、コードパターンの1つは、最上位とその1つ下位のビット信号の出力に共用され、この共用されるコードパターンには、最上位の摺動子と最上位より1つ下位の摺動子がコード板の回転方向にずらして摺接させ、また共用されるコードパターン上を相対的に摺動する2本の摺動子の配置角度は、この2本の摺動子が摺動する導電部と絶縁部のうち、何れの摺動子に対しても連続して摺動する方の接触対象の部材の形成角度の半分とし、グレーコードを得るようにしたため、1つのコードパターンで位相差をもった少なくとも2つのビット分の信号を得ることができ、少なくとも1ビット分のコードパターンを減らすことができるため、その分グレーコードを得るようにしたロータリエンコーダの小型化が可能となる。
【0061】
また、請求項2に記載の発明では、最外周のコードパターンをコード板の回転によって最も頻繁にビット信号が変化するビットに対応するものとしたので、このコードパターン上の導電部と絶縁部の周方向長さをある程度長くすることができ、摺動子が相対的に摺動する導電部あるいは絶縁部の長さに多少ばらつきが発生しても、そのばらつきをコード板の回転角度に換算した場合の影響は、内周に最も頻繁に信号が変化するビットのコードパターンを設けた場合に比べて小さなものとなる。したがって、エンコーダの分解能が高くなり、1コードあたりの角度が小さくなっても、最も頻繁に信号が変化するビットのコードパターンの形成精度は、このコードパターンを内周に形成する場合に比べて要求されず、また、最外周のコードパターン上の導電部や絶縁部の周方向長さもコードパターンの半径に比例してある程度得られることから、このコードパターンの形成は容易となり、よって、エンコーダのコストを抑えることができる。
【0062】
さらに、請求項3に記載の発明においては、共通のコードパターン上を相対的に摺動する少なくとも2本の摺動子が保持される摺動子保持体とコード板とのいずれか一方に突起、いずれか他方にこの突起を回転自在に軸支する孔または凹部を設けたので、突起と孔または凹部とが軸と軸受けとして機能し、摺動子保持体とコード板とが精度よく位置決めされるため、コード板を回転させたときに位相差をともなってビット信号が変化する少なくとも2つのビットのビット信号の位相差をより正確なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係わる5ビットのロータリエンコーダの断面図である。
【図2】図1のロータリエンコーダに備えられるコード板の正面図である。
【図3】図1のロータリエンコーダに備えられる摺動子保持体の正面図である。
【図4】図3に示す摺動子保持体の右側面図である。
【図5】図2のコード板上に各摺動子の摺動軌跡を示した説明図である。
【図6】図1に示すロータリエンコーダの回転軸の回転位置と出力コードとを一覧に表した説明図である。
【図7】従来のロータリエンコーダのコード板を直線的に引き伸ばして示した4ビットのエンコーダの説明図である。
【図8】図7に示すエンコーダの出力信号を得るための回路図である。
【符号の説明】
20 回転軸
22 コード板
22i 第4の突出部(突起)
23 摺動子保持体
23a 円形孔(孔または凹部)
31〜34 コードパターン
35 コモンパターン
41〜47 摺動子
Claims (3)
- 回転可能に保持されるコード板の回転角度位置を、複数のビットの信号を得ることによって検知するアブソリュートタイプのロータリエンコーダであって、前記複数のビット信号の出力はグレーコードであり、前記コード板上の同心円状で半径方向の異なる位置に設けられた複数のコードパターンに複数の摺動子が摺動することによって出力され、前記コードパターンは、円周方向に交互に設けられた導電部と絶縁部からなり、隣り合うポジション毎に1つのビットに相当する異なる信号が出力され、最下位のビットは2ポジション毎に信号の切替が行われ、前記コードパターンの1つは、最上位とその1つ下位のビット信号の出力に共用され、この共用される前記コードパターンには、最上位の前記摺動子と前記最上位より1つ下位の前記摺動子が前記コード板の回転方向にずらして摺接させ、また共用される前記コードパターン上を相対的に摺動する2本の前記摺動子の配置角度は、この2本の前記摺動子が摺動する前記導電部と前記絶縁部のうち、何れの前記摺動子に対しても連続して摺動する方の接触対象の部材の形成角度の半分とし、グレーコードを得るようにしたことを特徴とするロータリエンコーダ。
- 前記コード板に形成された前記複数のコードパターンの最外周のコードパターンを前記コード板の回転によって最も頻繁にビット信号が変化するビットに対応するものとしたことを特徴とする請求項1記載のロータリエンコーダ。
- 前記少なくとも2本の摺動子を同一の摺動子保持体に保持させ、この摺動子保持体と前記コード板とのいずれか一方に突起を設け、いずれか他方にこの突起を回転自在に軸支する孔または凹部を設けたことを特徴とする請求項1記載のロータリエンコーダ。
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