JP3821931B2 - 密封装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、バックアップリングを備えた密封装置に関する。この密封装置は、例えば自動車のパワーステアリングロッド用のオイルシールなどとして用いられる。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種の密封装置の構造を図5に示す。図例の密封装置において、1は環状芯金、2はシール本体、3はバネリング、4はバックアップリングである。
【0003】
環状芯金1は、断面ほぼ逆さL字形に板金加工された金属材からなる。この環状芯金1において、1aは円筒部、1bは円筒部1aの軸方向一端から径方向内向きに延びる環状板部である。
【0004】
シール本体2は、ニトリルゴム(NBR)や水素添加ニトリルゴム(HNBR)などの合成ゴムなどの弾性材からなり、環状芯金1の円筒部1aおよび環状板部1bに対して加硫接着(焼き付け)されている。このシール本体2において、2aは環状芯金1の円筒部1aの外周面に接着されたシール外周部、2bは環状芯金1の環状板部1bの内周側から軸方向一方へ向けて延出する延出部、2cは延出部2bの外周の周溝、2dは延出部2bの内周に設けられるV字リップである。
【0005】
バネリング3は、いわゆるガータスプリングと呼ばれるもので、延出部2bの周溝2cに嵌合されて延出部2bを径方向内向きに締め付けるものである。
【0006】
バックアップリング4は、ナイロンなどの合成樹脂により成形されたもので、延出部2bの反転を防止するために、延出部2bの付け根側内周と環状芯金1の環状板部1bとの間に形成される凹み部分に嵌合されている。
【0007】
このような密封装置は、その環状芯金1の環状板部1bが外部側に、延出部2bの自由端側が密封対象側に配置され、シール外周部2aがハウジング10の内周面に、また、延出部2bのV字リップ2dがロッド20の外周面にそれぞれ弾性変形した状態で当接させられる。さらに、バックアップリング4の内周面がロッド20の外周面に対して微小隙間を介して対向させられる。
【0008】
そして、パワーステアリング装置の駆動に伴いロッド20が軸方向に往復変位することにより、このロッド20の外周面に対してV字リップ2dが摺接する。
【0009】
このとき、バックアップリング4により延出部2bの撓みを規制するとともに反転を防止する。
【0010】
ところで、上記従来の密封装置では、ロッド20の動作時の摺動抵抗を軽減して、「鳴き」と呼ばれる異音発生を抑制する構成が取り入れられている。つまり、延出部2bの内周面においてV字リップ2dの付け根側円錐面に周方向に連続する輪状突起2eを軸方向所要間隔おきに3つ設けることにより、それらの間に存在する凹み部分にロッド20の外周面に付着している潤滑油を貯溜させるようにしている。この凹み部分に貯溜される潤滑油は、ロッド20の軸方向変位に伴い延出部2bとロッド20との間の摺接部位に所要量ずつ引き出されて、この摺接部位に潤滑油膜を形成する。
【0011】
ここで、前述の輪状突起2eの詳細を図6ないし図8に示して説明する。ここで、3つの環状突起2eを区別するために、V字リップ2dの頂点側から遠ざかる順番に、第1の輪状突起2e1、第2の輪状突起2e2、第3の輪状突起2e3とする。そして、第1の輪状突起2e1と第2の輪状突起2e2との間に第1の凹部2f1が、また、第2の輪状突起2e2と第3の輪状突起2e3との間に第2の凹部2f2が存在する。
【0012】
各輪状突起2e1〜2e3の断面形状は、部分円弧状(中心角は180度未満)となっており、延出部2bの延出方向での幅寸法Wおよび延出部2bの付け根側円錐面からの突出高さ寸法hは互いに等しく、隣接間隔SおよびピッチPも互いに等しく設定されている。Rは各輪状突起2e1〜2e3の半径、その曲率中心は延出部2bの付け根側円錐面より内部に位置している。LはV字リップ2b2 の頂点Aから第1の輪状突起2e1の中心までの間隔である。
【0013】
そして、実際の使用状況では、図7に示すように、延出部2bが撓んでその内周面におけるV字リップ2dの付け根側円錐面がロッド20の外周面に対して圧接させられることになる。この状態では、各輪状突起2e1〜2e3が微小であるため、第1の輪状突起2e1がほとんど潰れ、第2、第3の輪状突起2e2,2e3が僅かに残る。これにより、第1、第2の凹部2f1,2f2が僅かに残り、ここに潤滑油が溜められることになる。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年、自動車のパワーステアリングロッド用の密封装置の使用箇所については、密封流体(潤滑油)の高圧・高温化およびコンパクト化が進み、使用条件が厳しいものとなってきている。
【0015】
このため、上述した従来の密封装置の場合、図8に示すように、第1〜第3の輪状突起2e1〜2e3のすべてがほぼ完全に押し潰され、第1、第2の凹部2f1,2f2が存在しなくなる。これにより、延出部2bとロッド20との摺接部位において潤滑油膜が形成されなくなり、摺動抵抗が増大して異音が発生することになる。これに伴い、各輪状突起2e1〜2e3の摩耗が進行しやすくなるので、密封性が劣化することになる。
【0016】
したがって、本発明は、密封装置において、過大圧力作用時における異音発生の抑制と耐摩耗性の向上を図ることを目的としている。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1の密封装置は、環状芯金の内周側に軸方向一方へ延出する弾性材製の延出部を被着してなる密封装置であって、延出部の自由端側内周に径方向中心へ向けて先鋭となるV字リップが設けられ、このV字リップにおける延出部付け根側の円錐面に4つ以上の輪状突起が軸方向所要間隔おきに設けられ、各輪状突起の突出高さが互いにほぼ等しく設定されるとともに、各輪状突起の断面形状が部分円弧状とされ、前記部分円弧の半径をV字リップの頂点から遠い輪状突起ほど大きくすることにより、各輪状突起の軸方向幅がV字リップの頂点から遠いものほど大きく設定されている。
【0020】
以上、要するに、本発明では、延出部の内周面においてV字リップの付け根側円錐面という限られた寸法の領域に、できるだけ多い数の輪状突起を設けることにより、軸体に対する延出部の接触圧を分散し、輪状突起1つ当たりが受ける押し潰し荷重を相対的に小さくして輪状突起を潰れにくくさせている。しかも、輪状突起のうち、V字リップから遠ざかるものほど軸方向幅を大きく設定することにより、より潰れにくくしている。これにより、軸方向で隣り合う輪状突起それぞれの間の凹み部分が残存しやすくなり、潤滑油の貯溜が可能となる。このため、延出部と軸体との摺接部位に潤滑油膜が形成され続けることになり、摺動抵抗が軽減されることになる。
【0021】
特に、輪状突起の断面形状は部分円弧状であるから、輪状突起の断面形状を矩形や台形とする場合に比べて軸体に圧接された状態で均等に潰れやすくなり、接触形態が安定するようになり、軸体の動きをスムーズに案内しやすくなる。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の詳細を図1ないし図4に示す実施形態に基づいて説明する。
【0023】
図1ないし図4は本発明の一実施形態にかかり、図1は、密封装置を示す上半分の縦断面図、図2は、V字リップの拡大図、図3は、V字リップの通常使用時の様子を示す拡大図、図4は、V字リップに対して過大圧力が作用したときの様子を示す拡大図である。
【0024】
これらの図において従来例として提示した図5と同一もしくは対応する部分に同一符号を付してある。図中、符号1は環状芯金、2はシール本体、3はバネリング、4はバックアップリング、10はハウジング、20はロッドである。
【0025】
この実施形態1において従来例との相違は、シール本体2の延出部2bの内周面における輪状突起2eの配設形態である。
【0026】
すなわち、延出部2bの内周面におけるV字リップ2dの付け根側円錐面に周方向に連続する輪状突起2eが軸方向所要間隔おきに5つ設けられている。
【0027】
ここで、前述の輪状突起2eの詳細を図2ないし図4に示して説明する。ここで、5つの環状突起2eを区別するために、V字リップ2dの頂点側から遠ざかる順番に、第1の輪状突起2e1、第2の輪状突起2e2、第3の輪状突起2e3、第4の輪状突起2e4、第5の輪状突起2e5とする。そして、第1の輪状突起2e1と第2の輪状突起2e2との間に第1の凹部2f1が、また、第2の輪状突起2e2と第3の輪状突起2e3との間に第2の凹部2f2が、第3の輪状突起2e3と第4の輪状突起2e4との間に第3の凹部2f3が、また、第4の輪状突起2e4と第5の輪状突起2e5との間に第4の凹部2f4が存在する。
【0028】
各輪状突起2e1〜2e5の断面形状は、部分円弧状(中心角は180度未満)となっており、延出部2bの付け根側円錐面からの突出高さ寸法h1および各輪状突起2e1〜2e5のピッチP1については、すべて等しく設定されている。
【0029】
但し、5つの輪状突起2e1〜2e5の軸方向での幅寸法W1〜W5および半径寸法R1〜R3は、3段階に設定されている。つまり、第1の輪状突起2e1の幅W1、第2の輪状突起2e2の幅W2、第3〜第5の輪状突起2e3〜2e5の幅W3の関係は、W1<W2<W3に設定されている。そして、第1の輪状突起2e1の半径R1、第2の輪状突起2e2の半径R2、第3〜第5の輪状突起2e3〜2e5の半径R3の関係は、R1<R2<R3に設定されている。第1の輪状突起2e1の曲率中心は延出部2bの付け根側円錐面の上に位置されているが、第2〜第5の輪状突起2e3〜2e5の曲率中心は延出部2bの付け根側円錐面より内部に位置されている。
【0030】
また、隣接間隔の関係は、S1>S2>S3に設定されている。L1はV字リップ2dの頂点Aから第1の輪状突起2e1の中心までの寸法である。
【0031】
このような密封装置の場合、実際の使用状況では、図3に示すように、延出部2bが撓んでその内周面におけるV字リップ2dの付け根側円錐面がロッド20の外周面に対して圧接させられることになる。この状態では、各輪状突起2e1〜2e5を延出部2bの付け根側へ向けて漸次大きく設定しているため、第1〜第5の輪状突起2e1〜2e5のすべてが残るようになる。これにより、第1〜第4の凹部2f1〜2f4がいずれも残ることになり、ここに潤滑油が溜められることになる。
【0032】
ここで、密封対象側の圧力が大きくなると、バックアップリング4により延出部2bの撓みが規制されるものの、V字リップ2dの付け根側円錐面がロッド20の外周面に対して強く圧接させられる。このとき、図4に示すように、第1の輪状突起2e1がほとんど潰れてしまうけれども、第2〜第5の輪状突起2e2〜2e5が潰れずに残ることになる。
【0033】
というのは、延出部2bの内周面においてV字リップ2dの付け根側円錐面という限られた寸法の領域に、5つもの輪状突起2e1〜2e5を設けているから、ロッド20に対する延出部2bの接触圧が分散されて、輪状突起1つ当たりが受ける押し潰し荷重が相対的に小さくなるので、各輪状突起2e1〜2e5が潰れにくくなる。しかも、輪状突起2e1〜2e5のうち、第3〜第5の輪状突起2e3〜2e5の軸方向幅を大きく設定しているから、それらがより潰れにくくなっている。これにより、第1〜第4の凹部2f1〜2f4が残存しやすくなり、潤滑油の貯溜が可能となる。このため、延出部2bとロッド20との摺接部位に潤滑油膜が形成され続けることになり、摺動抵抗が軽減されることになる。微視的に見ると、頂点Aに近い第1,第2の輪状突起2e1,2e2はほとんど押し潰されてしまうため、第1の凹部2f1は実質的に残らなくなるけれども、第3〜第5の輪状突起2e3〜2e5の押し潰し量が小さくなっていて、第2〜第4の凹部2f2〜2f4が残存することになる。このため、ロッド20が軸方向往復変位するときに、ロッド20の外周面が第2〜第4の凹部2f2〜2f4から潤滑油を引き出し、ロッド20と延出部2bとの摺接領域の全域に潤滑油膜を形成するようになるので、摺動抵抗が軽減されることになり、ロッド20の動きをスムーズにするとともに、延出部2bの摩耗を抑制し、しかも異音(鳴き)の発生を抑制するようになる。
【0034】
なお、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、種々な応用や変形が考えられる。
【0035】
(1) 上記実施形態では、輪状突起の数を5つとしているが、要は4つ以上であればよく、第5の輪状突起2e5を省略してもよいし、第6、第7と輪状突起を増やしてもよい。また、上記実施形態では、すべての輪状突起の突出高さを等しくしているが、V字リップ2dの頂点Aから遠い輪状突起ほど突出高さを漸次大きくしてもよい。
【0036】
(2) 上記実施形態では、輪状突起の断面形状を部分円弧状としているが、台形状、矩形状、三角形状あるいは長円状とすることができる。
【0037】
(3) 上記実施形態においてバネリング3を省略した構成も本発明に含む。
【0038】
【発明の効果】
請求項1の密封装置では、複数の輪状突起のうち、V字リップから遠ざかるものほど、潰れにくくさせるように工夫しているから、軸方向で隣り合う輪状突起それぞれの間の潤滑油貯溜空間となる凹み部分を残存させることができる。このため、軸体の軸方向変位に伴い前記凹み部分から延出部と軸体との摺接部位へ潤滑油を継続して供給できるようになるから、潤滑油膜を途切れることなく形成できて、摺動抵抗を軽減できるようになる。したがって、軸体の動きをスムーズにするとともに、延出部の摩耗を抑制し、しかも異音(鳴き)の発生を抑制できるようになる。
【0039】
特に、輪状突起の断面形状は部分円弧状であるから、輪状突起の断面形状を矩形や台形あるいは三角形とする場合に比べて軸体に圧接された状態で均等に潰れやすくなり、接触形態が安定するようになるなど、軸体の動きの円滑化に貢献できる。
【0040】
このような本発明の密封装置を、例えば自動車のパワーステアリングロッド用の密封装置とすれば、ステアリングの操作性を向上できるとともに、操作時の異音発生を抑制できるなど、信頼性の向上に貢献できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態の密封装置を示す上半分の縦断面図
【図2】図1のV字リップの拡大図
【図3】図1のV字リップの通常使用時の様子を示す拡大図
【図4】図1のV字リップに対して過大圧力が作用したときの様子を示す拡大図
【図5】従来例の密封装置を示す上半分の縦断面図
【図6】図5のV字リップの拡大図
【図7】従来例において図3に対応する図
【図8】従来例において図4に対応する図
【符号の説明】
1 環状芯金
1a 環状芯金の円筒部
1b 環状芯金の環状板部
2 シール本体
2a シール外周部
2b 延出部
2d V字リップ
2e1〜2e5 輪状突起
2f1〜2f4 油溜め用凹部
3 バネリング
4 バックアップリング
4a 凹部
10 ハウジング
20 ロッド

Claims (1)

  1. 環状芯金の内周側に軸方向一方へ延出する弾性材製の延出部を被着してなる密封装置であって、延出部の自由端側内周に径方向中心へ向けて先鋭となるV字リップが設けられ、このV字リップにおける延出部付け根側の円錐面に4つ以上の輪状突起が軸方向所要間隔おきに設けられ、各輪状突起の突出高さが互いにほぼ等しく設定されるとともに、各輪状突起の断面形状が部分円弧状とされ、前記部分円弧の半径をV字リップの頂点から遠い輪状突起ほど大きくすることにより、各輪状突起の軸方向幅がV字リップの頂点から遠いものほど大きく設定されていることを特徴とする密封装置。
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