JP3821228B2 - オーディオ信号の処理方法および処理装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ホームシアターなどに適用して好適なオーディオ信号の処理方法および処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ホームシアターやAVシステムなどに適用して好適なスピーカシステムとして、スピーカアレイがある(例えば、特許文献1参照)。図14は、そのスピーカアレイ10の一例を示すもので、このスピーカアレイ10は、多数のスピーカ(スピーカユニット)SP0〜SPnが配列されて構成される。この場合、一例として、n=255、スピーカの口径は数cmであり、したがって、実際には、スピーカSP0〜SPnは平面上に2次元状に配列されることになるが、以下の説明においては、簡単のため、水平方向の直線上に配列されているものとする。
【0003】
そして、オーディオ信号が、ソースSCから遅延回路DL0〜DLnに供給されて所定の時間τ0〜τnだけ遅延され、その遅延されたオーディオ信号がパワーアンプPA0〜PAnを通じてスピーカSP0〜SPnにそれぞれ供給される。なお、遅延回路DL0〜DLnの遅延時間τ0〜τnについては、後述する。
【0004】
すると、どの場所においても、スピーカSP0〜SPnから出力される音波が合成され、その合成結果の音圧が得られることになる。そこで、図14に示すように、スピーカSP0〜SPnにより形成される音場において、所定のポイントPtg、Pncを、
Ptg:周囲よりも音圧を上げたい場所。音圧増強点。
Pnc:周囲よりも音圧を下げたい場所。音圧低減点。
とすると、任意の場所を音圧増強点Ptgとする方法は、図15あるいは図16に示す方法に大別できる。
【0005】
すなわち、図15に示す方法の場合には、
L0〜Ln:各スピーカSP0〜SPnから音圧増強点Ptgまでの距離
s :音速
とすると、遅延回路DL0〜DLnの遅延時間τ0〜τnを、
τ0=(Ln−L0)/s
τ1=(Ln−L1)/s
τ2=(Ln−L2)/s
・・・・
τn=(Ln−Ln)/s=0
に設定する。
【0006】
すると、ソースSCから出力されるオーディオ信号がスピーカSP0〜SPnにより音波に変換されて出力されるとき、それらの音波は上式で示される時間τ0〜τnだけ遅れて出力されることになる。したがって、それらの音波が音圧増強点Ptgに到達するとき、すべて同時に到達することになり、音圧増強点Ptgの音圧は周囲よりも大きくなる。
【0007】
つまり、図15のシステム場合は、スピーカSP0〜SPnから音圧増強点Ptgまでの行路差により各音波に時間差を生じるが、この時間差を遅延回路DL0〜DLnにより補償して音圧増強点Ptgに音の焦点を結ばせるものである。なお、以下、このタイプのシステムを「焦点型」と呼び、音圧増強点Ptgを「焦点」とも呼ぶものとする。
【0008】
また、図16に示す方法の場合には、スピーカSP0〜SPnから出力される進行波(音波)の位相波面が同じになるように、遅延回路DL0〜DLnの遅延時間τ0〜τnを設定することにより、音波に指向性を与えるとともに、その指向方向を音圧増強点Ptgの方向とするものである。このシステムは、焦点型のシステムにおいて、距離L0〜Lnを無限大にした場合とも考えられる。なお、以下、このタイプのシステムを「指向性型」と呼び、音波の位相波面が揃う音波の方向を「指向方向」と呼ぶものとする。
【0009】
【特許文献1】
特開平9−233591号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述のようにスピーカアレイ10においては、遅延時間τ0〜τnにより焦点あるいは指向性を得て音圧増強点Ptgを実現することがメインであり、このとき、スピーカSP0〜SPnに供給されるオーディオ信号の振幅は音圧に変化を与えるだけである。
【0011】
このため、音圧低減点Pncにおける音圧を低減する方法として、スピーカアレイ10の指向性を利用することが考えられる。例えば、音圧増強点Ptgの方向に主極(メインローブ)を形成するとともに、副極(サイドローブ)を十分低減させることや、音圧低減点Pncの方向がヌル感度となる指向特性とすることなどが考えられる。
【0012】
しかし、そのようにするには、スピーカSP0〜SPnの個数nをきわめて多くしてスピーカアレイ全体の大きさを音波の波長に比べて十分に大きくする必要がある。しかし、この方法は、実用上、実現がきわめて困難である。あるいは焦点や指向性を合わせた音圧増強点Ptgにまで、その音圧の変化の影響がおよぶことがある。
【0013】
さらに、ホームシアターやAVシステムなどにおいては、マルチチャンネルステレオを考慮する必要もある。すなわち、DVDプレーヤなどの普及にしたがって、マルチチャンネルステレオのソースが増えつつあるが、このため、ユーザはそのチャンネル数のスピーカを設置する必要がある。しかし、そのためには、かなりのスペースを必要としてしまう。
【0014】
この発明は、以上のような問題点を解決しようとするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
この発明においては、例えば、
オーディオ信号を複数のデジタルフィルタにそれぞれ供給し、
上記複数のデジタルフィルタの各出力を、スピーカアレイを構成する複数のスピーカのそれぞれに供給して音場を形成し、
上記複数のデジタルフィルタにそれぞれ所定の遅延時間を設定することにより、上記音場に、周囲よりも音圧の大きい第1のポイントおよび周囲よりも音圧の小さい第2のポイントを形成するとともに、
上記複数のデジタルフィルタの振幅特性を調整することにより、上記第2のポイントにおける上記オーディオ信号の周波数応答にローパスフィルタ特性を与える
ようにしたオーディオ信号の処理方法
とするものである。
したがって、デジタルフィルタの遅延時間の設定により周囲よりも音圧の大きいポイントが設定され、デジタルフィルタの振幅特性により周囲よりも音圧の小さいポイントが設定される。
【0016】
【発明の実施の形態】
▲1▼ この発明のアウトライン
この発明においては、スピーカアレイの各スピーカの出力が空間で合成されてそれぞれのポインタでの応答となるので、これを擬似的にデジタルフィルタとして解釈する。そして、「なるべく音圧を聞かせたくない場所Pnc」における応答信号を予測し、各スピーカに与える遅延を変えずに振幅を変更し、デジタルフィルタを作成する要領で周波数特性を制御する。
【0017】
この周波数特性の制御により、なるべく音圧を聞かせたくない場所Pncにおける音圧を下げるとともに、その低下させることのできる帯域を拡大する。また、このとき、なるべく自然に音圧を減少させる。
【0018】
▲2▼ スピーカアレイ10の解析
ここでは、説明を簡単にするため、複数n個のスピーカSP0〜SPnが水平方向に一列に配列されてスピーカアレイ10が構成され、そのスピーカアレイ10が図15に示す焦点型システムに構成されているものとする。
【0019】
ここで、この焦点型システムの遅延回路DL0〜DLnのそれぞれをFIRデジタルフィルタにより実現することを考える。また、図1に示すように、そのFIRデジタルフィルタDL0〜DLnのフィルタ係数が、それぞれCF0〜CFnで示されるとする。
【0020】
そして、FIRデジタルフィルタDL0〜DLnにインパルスを入力し、ポイントPtg、Pncで、スピーカアレイ10の出力音を測定することを考える。なお、この測定は、デジタルフィルタDL0〜DLnを含む再生システムの持つサンプリング周波数あるいはそれ以上のサンプリング周波数で行うものとする。
【0021】
すると、ポイントPtg、Pncにおいて測定される応答信号は、すべてのスピーカSP0〜SPnから出力される音が空間伝播して音響的に加算された和信号となる。そして、このとき、説明を容易にするため、スピーカSP0〜SPnから出力される信号は、デジタルフィルタDL0〜DLnによって遅延の与えられたインパルス信号であるとする。なお、以下においては、この空間伝播を経て加算された応答信号を「空間合成インパルス応答」と呼ぶものとする。
【0022】
そして、ポイントPtgは、ここに焦点を作る目的でデジタルフィルタDL0〜DLnの遅延成分を設定しているので、ポイントPtgで測定される空間合成インパルス応答Itgは、図1に示すように、1つの大きなインパルスとなる。また、空間合成インパルス応答Itgの周波数応答(振幅部)Ftgは、時間波形がインパルス状なので、図1にも示すように、全周波数帯域で平坦となる。したがって、ポイントPtgは、音圧増強点となる。
【0023】
なお、実際には、各スピーカSP0〜SPnの周波数特性、空間伝播時の周波数特性変化、行路途中の壁の反射特性、サンプリング周波数によって規定される時間軸のずれなどにより、空間合成インパルス応答Itgは正確なインパルスとはならないが、ここでは簡単のため、理想的なモデルで記している。
【0024】
一方、ポイントPncで測定される空間合成インパルス応答Incは、それぞれ時間軸情報を持つインパルスの合成と考えられ、図1に示すように、ある程度の幅を持ってインパルスが分散している信号であることがわかる。なお、図1においては、ポイントPncでのインパルス応答Incが等間隔で並ぶパルス列となっているが、一般にはそのパルス列の間隔はランダムなものとなる。
【0025】
そして、このとき、ポイントPncの位置に関係する情報を、フィルタ係数CF0〜CFnに盛り込んでいないとともに、もとのフィルタ係数CF0〜CFnはすベて正方向のインパルスに基づいているので、空間合成インパルス応答Incの周波数応答Fncもすべて正方向のインパルスの合成となる。
【0026】
この結果、FIRデジタルフィルタの設計原理からも明らかなように、周波数応答Fncは、図1にも示すように、低域では平坦で、高い周波数ほど減衰する傾向の特性、すなわち、ローパスフィルタに近い特性をもつことになる。また、このとき、音圧増強点Ptgにおける空間合成インパルス応答Itgは1つの大きなインパルスとなっているが、ポイントPncにおける空間合成インパルス応答Incは、インパルスが分散しているので、ポイントPncにおける周波数応答Fncのレベルは、ポイントPtgにおける周波数応答Ftgのレベルよりも小さくなる。したがって、ポイントPncは音圧低減点となる。
【0027】
そして、このとき、空間合成インパルス応答Incを、1つの空間的なFIRデジタルフィルタであると考えると、このFIRデジタルフィルタIncは、もともとフィルタ係数CF0〜CFnにおける時間要因を含めたインパルスの振幅値の和により構成されているので、フィルタ係数CF0〜CFnの内容(振幅、位相など)を変更すれば、周波数応答Fncが変化する。つまり、フィルタ係数CF0〜CFnを変更することにより、音圧低減点Pncにおける音圧の周波数応答Fncを変化させることができる。
【0028】
以上のことから、遅延回路DL0〜DLnをFIRデジタルフィルタにより構成するとともに、それらのフィルタ係数CF0〜CFnを選定すれば、音圧増強点Ptgおよび音圧低減点Pncを音場の必要とする場所に設定することができる。
【0029】
▲3▼ 閉じた空間でのスピーカアレイ
図14〜図16の場合には、音場が開放空間であるが、一般には、図2に示すように、音場は壁WLなどにより音響的に閉じた空間ないし部屋RMとなる。そして、この部屋RMにおいては、スピーカアレイ10の焦点位置Ptgあるいは指向方向を選択することにより、スピーカアレイ10から出力された音Atgが、リスナLSNRの周囲の壁面WLで反射してからリスナLSNRに焦点を結ぶようにすることができる。
【0030】
すると、この場合には、スピーカアレイ10がリスナLSNRの前方にあるにもかかわらず、後方から音が聞こえることになる。ただし、この場合には、後方からの音Atgは目的とする音なので、なるべく大きく聞こえるように設定し、前方からの音Ancは、意図していない「漏れ音」なので、なるべく小さくなるように、設定する必要がある。
【0031】
このためには、図3に示すように、音Atgの反射回数から部屋全体の虚像を考える。すると、この虚像は、図15あるいは図16の開放空間と等価と考えることができるので、リスナLSNRの虚像の位置に、音圧増強点Ptgに対応する虚像の位置Ptg'を設定し、ここにスピーカアレイ10の焦点あるいは指向方向を設定する。また、実際のリスナLSNRの位置に、音圧低減点Pncを設定する。
【0032】
以上の構成とすることにより、スピーカをリスナLSNRの後方や側方に配置しなくても、マルチチャンネルステレオにおける後方や側方に仮想のスピーカを配置することができ、サラウンドのステレオ再生が可能となる。
【0033】
なお、このように焦点型により仮想スピーカを実現する場合、焦点Ptgの位置は、目的、用途あるいはソースの内容などにより、リスナLSNRの位置ではなく、壁面WLに設定したり、それ以外の個所に設定することもできる。また、「どこから聞こえるか」という定位感は、厳密には音圧差だけでは評価できないが、ここでは音圧を上げることが重要と考える。
【0034】
▲4▼ ポイントPncにおける音圧の低減方法
図2および図3に示す部屋(閉空間)RMにおいて、リスナLSNRの位置が決まれば、音圧増強点Ptgの位置が決まり、その結果、フィルタ係数CF0〜CFnにより設定される遅延時間が決まる。また、リスナLSNRの位置が決まれば、音圧低減点Pncの位置も決まり、図4Aにも示すように、その音圧低減点Pncにおける空間合成インパルス応答Incのパルスの立つ位置が決まる(図4Aは、図1の空間合成インパルス応答Incと同じ)。また、デジタルフィルタDL0〜DLnにおけるパルスの振幅値A0〜Anを変えることにより、制御可能なサンプル幅(パルスの数)が、図4Aにおけるサンプル幅CNとなる。
【0035】
したがって、振幅A0〜Anを変更することにより、図4Aに示す(サンプル幅CNにおける)パルスを、例えば図4Bのようなレベル分布のパルス(空間合成インパルス応答)Inc'に変更することができ、図4Cに示すように、その周波数応答を周波数応答Fncから周波数応答Fnc'に変えることができる。
【0036】
つまり、図4Cおいて斜線を付けた部分の帯域分だけ音圧低減点Pncにおける音圧が低下することになる。したがって、図2の場合には、目的とする後方音Atgに対し、前方からの漏れ音Ancが少なくなり、後方からの音が良く聞こえることになる。
【0037】
このとき重要なことは、振幅A0〜Anを変更して空間合成インパルス応答Inc'のようなパルス列にしても、音圧増強点Ptgの空間合成インパルス応答Itgおよび周波数応答Ftgは振幅値のみしか変化しないことであり、均一な周波数特性を保持できることである。そこで、この発明は、振幅A0〜Anを変更して音圧低減点Pncに周波数応答Fnc'を得る。
【0038】
▲5▼ 空間合成インパルス応答Inc'の求め方
ここでは、空間合成インパルス応答Incから必要な空間合成インパルス応答Inc'を求める方法について説明する。
【0039】
一般に、FIRデジタルフィルタによりローパスフィルタを構成する場合、Hamming、Hanning、Kaiser、Blackmanなどの窓関数を用いた設計法が有名であり、これらの方法で設計したフィルタの周波数応答は比較的急峻なカットオフ特性の得られることが知られている。ただし、この場合、振幅A0〜Anにより制御できるパルス幅はCNサンプルと決まっているので、この範囲で、窓関数を用いて設計をする。そして、窓関数の形状およびCNサンプルの数が決まれば、周波数応答Fnc'のカットオフ周波数が決まることになる。
【0040】
窓関数およびCNサンプルから、振幅A0〜Anの具体的な値を求める方法であるが、例えば図5に示すように、あらかじめ空間合成インパルス応答Incのうち「CN幅内のサンプルに影響を与えた係数」を特定しておくことにより、振幅A0〜Anを特定して逆算することができる。この場合、空間合成インパルス応答Inc内の1つのパルスに対して複数の係数が影響を与えることもあり、また、対応する係数の数(=スピーカSP0〜SPnの数)が少なければ、図5に例示するように、該当する係数がない場合もある。
【0041】
なお、窓関数の窓の幅はCNサンプルの分布幅にほぼ等しくすることが好ましい。また、空間合成インパルス応答Inc内の1つのパルスに対して、複数の係数が影響を与える場合には、これを分配すればよい。この分配方法は、ここでは規定しないが、空間合成インパルス応答Itgに対して影響が少なく、空間合成インパルス応答Inc'に対して影響が大きい振幅を優先的に調整の対象とすることが好ましい。
【0042】
さらに、図6に示すように、音圧低減点Pncとして複数のポイントPnc1〜Pncmを設定し、これを満たすような振幅A0〜Anを連立方程式により求めることもできる。この連立方程式が満たされない場合、あるいは図5のように空間合成インパルス応答Incの特定パルスに対して影響を与える振幅A0〜Anが該当しない場合には、目標とする窓関数のカーブに近くなるように、最小二乗法などにより振幅A0〜Anを求めることができる。
【0043】
また、例えばフィルタ係数CF0〜CF2は、ポイントPnc1に対応させ、フィルタ係数CF3〜CF5は、ポイントPnc2に対応させ、フィルタ係数CF6〜CF8は、ポイントPnc3に対応させ、・・・などとしたり、フィルタ係数CF0〜CFnと、ポイントPnc1〜Pncmとの関係を入れ子にしたりすることもできる。
【0044】
さらに、サンプリング周波数、スピーカのユニット数、および空間配置を工夫することにより、空間合成インパルス応答Incの各パルスに対して、影響を与える係数が確率的になるべく存在するような設計にすることが可能である。また、測定時の離散化のときと同様、空間合成インパルス応答IncはスピーカSP0〜SPnから放射された音が連続系列である空間を介しているので、厳密にはパルスごとに影響を与えた係数は1つに特定されることはないが、ここでは便宜上、計算時の目安になりやすいよう、そのように扱っている。このようにしても、実用上問題のないことが実験で確かめられている。
【0045】
▲6▼ 実施例
▲6▼−1 第1の実施例
図7はこの発明による処理システムの一例を示し、図7においては、1チャンネル分のオーディオ信号ラインを示す。すなわち、ソースSCからデジタルオーディオ信号が取り出され、このオーディオ信号が可変ハイパスフィルタ11を通じてFIRデジタルフィルタDF0〜DFnに供給され、そのフィルタ出力がパワーアンプPA0〜PAnを通じてスピーカSP0〜SPnに供給される。
【0046】
この場合、制御可能な空間合成インパルス応答Incのサンプル幅CNから周波数応答Fnc'のカットオフ周波数を推測できるので、可変ハイパスフィルタ11のカットオフ周波数が、その周波数応答Fnc'のカットオフ周波数に連動して制御される。この制御により、周波数応答Ftgが周波数応答Fnc'に対して優位である帯域のみ、オーディオ信号を通過させることができる。例えば図2の場合、周波数応答Fnc'の低域部分が、周波数応答Ftgの低域部分と変わらないレベルのとき、ソースの有効帯域を制御し、その低域部分を使わないことにより、後ろから聞こえるときに効果のある帯域だけを出力することができる。
【0047】
また、デジタルフィルタDF0〜DFnは、上述の遅延回路DL0〜DLnを構成するものである。さらに、パワーアンプPA0〜PAnにおいて、これに供給されたデジタルオーディオ信号は、D/A変換されてからパワー増幅され、あるいはD級増幅され、スピーカSP0〜SPnに供給される。
【0048】
そして、この場合、制御回路12において例えば図8に示すルーチン100が実行され、ハイパスフィルタ11およびデジタルフィルタDF0〜DFnの特性が上述にしたがって設定される。すなわち、制御回路12にポイントPtg、Pncを入力すると、制御回路12の処理がルーチン100のステップ101からスタートし、次にステップ102において、デジタルフィルタDF0〜DFnにおける遅延時間τ0〜τnが計算され、続いてステップ103において、音圧低減点Pncにおける空間合成インパルス応答Incがシミュレートされ、制御の可能なサンプル数CNが予測される。
【0049】
そして、ステップ104において、窓関数をベースとして作成可能なローパスフィルタのカットオフ周波数が算出され、次にステップ105において、空間合成インパルス応答Incのパルス列の各サンプルに対応する振幅A0〜Anのうち、どの振幅が有効であるかをリストアップして振幅A0〜Anを求める。そして、ステップ106において、以上の結果にしたがって、可変ハイパスフィルタ11のカットオフ周波数およびデジタルフィルタDF0〜DFnの遅延時間τ0〜τnが設定され、その後、ステップ107によりルーチン100を終了する。
【0050】
以上により音圧増強点Ptgおよび音圧低減点Pncを得ることができる。
【0051】
▲6▼−2 第2の実施例
図9に示すシステムにおいては、複数のポイントPtg、Pncについて、可変ハイパスフィルタ11のカットオフ周波数およびデジタルフィルタDF0〜DFnの遅延時間τ0〜τnのデータが算出され、このデータが、制御回路12の記憶装置13にデータベースとして蓄えられている場合である。
【0052】
そして、この再生システムの使用時に、ポイントPtg、Pncのデータを記憶装置12に入力すると、記憶装置13から対応するデータが取り出され、可変ハイパスフィルタ11のカットオフ周波数およびデジタルフィルタDF0〜DFnの遅延時間τ0〜τnが設定される。
【0053】
▲6▼−3 第3の実施例
図10に示すシステムにおいては、ソースSCからのデジタルオーディオ信号が、可変ハイパスフィルタ11およびデジタルフィルタDF0〜DFnにより例えば▲6▼−1(第1の実施例)において説明したように処理され、その処理結果の信号がデジタル加算回路14およびパワーアンプPA0〜PAnを通じてにスピーカSP0〜SPnに供給される。
【0054】
さらに、ソースSCから出力されるデジタルオーディオ信号と、可変ハイパスフィルタ11のフィルタ出力とが、デジタル減算回路15に供給されて中低域成分(図4Cにおける平坦部分の成分)のデジタルオーディオ信号が取り出される。そして、この中低域成分のデジタルオーディオ信号が、処理回路16を通じてデジタル加算回路14に供給される。
【0055】
したがって、音圧低減点Pncにおける漏れ音を処理回路16の処理に対応して制御することができる。
【0056】
▲6▼−4 第4の実施例
図11は、FIRデジタルフィルタDF0〜DFnの処理内容を等価的に示すもので、ソースSCからにデジタルオーディオ信号が、固定のデジタルハイパスフィルタ17を通じて本来のFIRデジタルフィルタDF0〜DFnに供給され、そのフィルタ出力が、デジタル加算回路14に供給される。さらに、ソースSCからにデジタルオーディオ信号が、デジタルローパスフィルタ18を通じて処理回路16に供給される。
【0057】
したがって、処理回路16の処理をデジタルフィルタにより実現できるときには、その処理をデジタルフィルタDF0〜DFnにより実行できる。
【0058】
▲6▼−5 第5の実施例
図12および図13は、1つのスピーカアレイ10により、リスナLSNRの左前方、右前方、左後方、右後方に、仮想のスピーカSPLF、SPRF、SPLB、SPRBを実現して4チャンネルのサラウンドステレオ音場を形成する場合である。
【0059】
このため、図12に示すように、部屋RMにおいて、リスナLSNRの正面前方にスピーカアレイ10が配置される。また、図13に示すように、左前方チャンネルについては、ソースSCから左前方のデジタルオーディオ信号DLFが取り出され、この信号DLFが、可変ハイパスフィルタ12LFを通じてFIRデジタルフィルタDFLF0〜DFLFnに供給され、そのフィルタ出力が、デジタル加算回路AD0〜ADnおよびパワーアンプPA0〜PAnを通じてスピーカSP0〜SPnに供給される。
【0060】
また、右前方チャンネルについては、ソースSCから右前方のデジタルオーディオ信号DRFが取り出され、この信号DRFが、可変ハイパスフィルタ12RFを通じてFIRデジタルフィルタDFRF0〜DFRFnに供給され、そのフィルタ出力が、デジタル加算回路AD0〜ADnおよびパワーアンプPA0〜PAnを通じてスピーカSP0〜SPnに供給される。
【0061】
さらに、左後方チャンネルおよび右後方チャンネルについても、左前方チャンネルおよび右前方チャンネルと同様に構成されるもので、参照符号における記号LF、RFを記号LB、RBに変えて説明は省略する。
【0062】
そして、各チャンネルについて、図7および図8により説明したように、それぞれの値が設定され、左前方チャンネルおよび右前方チャンネルについては、例えば図14により説明したシステムにより仮想スピーカSPLF、SPRFが実現され、左後方チャンネルおよび右後方チャンネルについては、例えば図2により説明したシステムにより仮想スピーカSPLB、SPRBが実現される。したがって、これら仮想スピーカSPLF〜SPRBにより、4チャンネルサラウンドステレオ音場が形成される。
【0063】
そして、上述のシステムによれば、1つのスピーカアレイ10によってサラウンドのマルチチャンネルステレオを実現することができ、スピーカを設置するために多くのスペースを必要とすることがない。また、チャンネル数を増やす場合も、デジタルフィルタを追加するだけでよく、スピーカの増設の必要がない。
【0064】
▲7▼ その他
上述においては、空間合成インパルス応答Inc'の設計指針として窓関数を使用し、比較的急峻なローパスフィルタ特性を形成したが、窓関数以外の関数により係数の振幅を調整して希望する特性を得てもよい。
【0065】
また、上述においては、フィルタ係数の振幅をすべて正方向のパルス列とすることにより、空間合成インパルス応答もすべて正の値の振幅のパルス列としたが、音圧増強点Ptgに焦点を向けるための遅延特性を保持しながら、各フィルタ係数中のパルス振幅を正方向あるいは負方向に設定することにより、音圧低減点Pncの特性を規定してもよい。
【0066】
さらに、上述においては、遅延を付加する要素としてインパルスを基本としているが、これは説明を容易にするためであり、この基本遅延要素を特定の周波数応答を持つ複数のサンプルのタップとし、同様の作用を得ることもできる。例えば、擬似的なオーバーサンプリングの効果が得られる擬似パルス系列を基本とすることができる。この場合には、振幅方向の負の成分も係数の中に持つことになるが、目的とする効果および実行手段としては、同様のものであるといえる。
【0067】
また、上述においては、デジタルオーディオ信号に対する遅延をデジタルフィルタの係数で表現したが、遅延部とデジタルフィルタ部とに分けてシステムを構成する場合も、同様とすることができる。さらに、振幅A0〜Anの組み合わせを1組あるいは複数組用意しておき、これを対象とする音圧増強点Ptgおよび音圧低減点Pncの少なくとも一方に設定することができる。また、スピーカアレイ10が、例えば図3に示す仮想の後方スピーカを実現する場合のように、用途が固定されていて一般的な反射位置や聴取位置などが想定できる場合、フィルタ係数はあらかじめ想定される音圧増強点Ptgおよび音圧低減点Pncに対応する固定的なフィルタ係数CF0〜CFnとすることもできる。
【0068】
さらに、上述においては、空間合成インパルス応答Inc'に対応するフィルタ係数の振幅A0〜Anを決定するとき、音波の伝搬時の空気による減衰の影響や、反射物による位相変化などのパラメータを盛り込んで、シミュレーション計算することもできる。また、何らかの測定手段により、それぞれのパラメータを測定して、より適切な振幅A0〜Anを決定し、より正確なシミュレーションを行うこともできる。
【0069】
また、上述においては、スピーカアレイ10は、スピーカSP0〜SPnが水平直線上に配列されている場合であるが、平面上に配列されていてもよく、あるいは奥行きを持って配列されていてもよく、さらに、必ずしも整然と配列されている必要もない。また、上述においては、焦点型システムを中心にして説明したが、指向性型システムの場合も、同様なプロセスを実行することができる。
【0070】
〔この明細書で使用している略語の一覧〕
AV :Audio and Visual
D/A:Digital to Analog
FIR:Finite Impulse Response
【0071】
【発明の効果】
この発明によれば、スピーカアレイにより音響再生を行う場合、目的とする場所の音圧を増強するとともに、特定の場所の音圧を低減することができるが、この場合、音圧を低減させたい位置や方向に対するインパルス応答に空間的な窓関数をかけて合成するようにしたので、音波の到来方向感(定位感)が知覚されやすい中高音域の応答を特に低減することができる。そして、このとき、必要なスピーカアレイの規模を大きくする必要がなく、実用生が高い。
【0072】
また、マルチチャンネルステレオを構成する場合にも、1つのスピーカアレイによってサラウンドのマルチチャンネルステレオを実現することができ、スピーカを設置するために多くのスペースを必要とすることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明を説明するための図である。
【図2】この発明を説明するための図である。
【図3】この発明を説明するための図である。
【図4】この発明を説明するための図である。
【図5】この発明を説明するための図である。
【図6】この発明を説明するための図である。
【図7】この発明の一形態を示す系統図である。
【図8】この発明を説明するための図である。
【図9】この発明の他の形態を示す系統図である。
【図10】この発明の他の形態を示す系統図である。
【図11】この発明の他の形態を示す系統図である。
【図12】この発明を説明するための図である。
【図13】この発明の他の形態を示す系統図である。
【図14】この発明を説明するための図である。
【図15】この発明を説明するための図である。
【図16】この発明を説明するための図である。
【符号の説明】
10…スピーカアレイ、DF0〜DFn…デジタルフィルタ、DL0〜DLn…遅延回路、LSNR…リスナ、PA0〜PAn…パワーアンプ、Pnc…音圧低減点、Ptg…音圧増強点、RM…部屋(閉空間)、SC…ソース、SP0〜SPn…スピーカ(スピーカユニット)、WL…壁

Claims (8)

  1. オーディオ信号を複数のデジタルフィルタにそれぞれ供給し、
    上記複数のデジタルフィルタの出力を、スピーカアレイを構成する複数のスピーカのそれぞれに供給して音場を形成し、
    上記オーディオ信号がそれぞれのデジタルフィルタおよびそれぞれのスピーカを介して上記音場内の第1のポイントに到達するそれぞれの伝搬遅延時間が一致するように、上記複数のデジタルフィルタにそれぞれ所定の遅延時間を設定し、
    上記音場内の第2のポイントにおける上記オーディオ信号の合成応答にローパスフィルタ特性を与えるように、上記複数のデジタルフィルタの振幅特性を調整するオーディオ信号の処理方法。
  2. 請求項1に記載のオーディオ信号の処理方法において、
    上記スピーカアレイから出力させる音波を壁面で反射させてから上記第1のポイントあるいは上記第2のポイントの少なくとも一方のポイントに到達させる
    ようにしたオーディオ信号の処理方法。
  3. 請求項1あるいは請求項2に記載のオーディオ信号の処理方法において、
    上記音場に上記第1のポイントおよび上記第2のポイントを形成するとき、上記複数のデジタルフィルタのフィルタ係数を演算により求めて上記複数のデジタルフィルタのそれぞれに設定する
    ようにしたオーディオ信号の処理方法。
  4. 請求項1あるいは請求項2に記載のオーディオ信号の処理方法において、
    上記音場に上記第1のポイントおよび上記第2のポイントを形成するとき、上記複数のデジタルフィルタのフィルタ係数をデータベースから取り出して上記複数のデジタルフィルタのそれぞれに設定する
    ようにしたオーディオ信号の処理方法。
  5. オーディオ信号がそれぞれ供給される複数のデジタルフィルタを備え、
    上記複数のデジタルフィルタの出力を、スピーカアレイを構成する複数のスピーカのそれぞれに供給して音場を形成し、
    上記オーディオ信号がそれぞれのデジタルフィルタおよびそれぞれのスピーカを介して上記音場内の第1のポイントに到達するそれぞれの伝搬遅延時間が一致するように、上記複数のデジタルフィルタにそれぞれ所定の遅延時間を設定し、
    上記音場内の第2のポイントにおける上記オーディオ信号の合成応答にローパスフィルタ特性を与えるように、上記複数のデジタルフィルタの振幅特性を調整するオーディオ信号の処理装置。
  6. 請求項5に記載のオーディオ信号の処理装置において、
    上記スピーカアレイから出力させる音波を壁面で反射させてから上記第1のポイントあるいは上記第2のポイントの少なくとも一方のポイントに到達させる
    ようにしたオーディオ信号の処理装置。
  7. 請求項5あるいは請求項6に記載のオーディオ信号の処理装置において、
    上記音場に上記第1のポイントおよび上記第2のポイントを形成するとき、上記複数のデジタルフィルタのフィルタ係数を演算により求めて上記複数のデジタルフィルタのそれぞれに設定する
    ようにしたオーディオ信号の処理装置。
  8. 請求項5あるいは請求項6に記載のオーディオ信号の処理装置において、
    上記音場に上記第1のポイントおよび上記第2のポイントを形成するとき、上記複数のデジタルフィルタのフィルタ係数をデータベースから取り出して上記複数のデジタルフィルタのそれぞれに設定する
    ようにしたオーディオ信号の処理装置。
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