JP3820958B2 - 光ファイバ結合系 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は光通信分野において光ファイバと他の光学要素との間で光結合を行う光ファイバ結合系に関し、とくに光ファイバ端面からの反射戻り光の抑制に関する。
【0002】
【従来の技術】
光通信の分野では、光ファイバを伝搬する光と光源、光検出器をはじめとする各種光学要素に入出射する光とを光学的に結合する必要がある。その際、光ファイバ端面から反射して光源(半導体レーザ)側へ戻る反射戻り光(バックリフレクション)は、信号伝送の安定性に大きく影響するため、極めて小さく抑えることが要求される。
【0003】
この戻り光反射率BRは入射光Pinと反射戻り光PBRの強度の比で表す。
BR[dB]=10log(PBR/Pin
通常の石英系光ファイバをファイバカッタ等で切断した平端面の反射率はBR=−14dB程度と、光通信分野における要求値(−40dB以下)に比べて非常に大きな値となる。そこで、光ファイバ端面を斜め研磨加工し、さらにその表面に反射防止膜を形成するなど、反射戻り光を低減する対策がとられている(例えば、特開2001−21775号公報参照)。
【0004】
また、各種の光モジュールにおいて、光学要素と光ファイバを接続する場合、ファイバ端面に樹脂等を満たして屈折率整合をとる手段も用いられている。屈折率n1の媒質から屈折率n2の媒質にその界面に垂直に光が入射するとき、その反射率Rは次式で表される。
R={(n1−n2)/(n1+n2)}2
【0005】
したがってコアの屈折率n1=1.46の石英光ファイバから空気中に光を放出すると、上記のような反射が発生する。そこで通常、石英光ファイバのコアの屈折率と整合のとれた屈折率がほぼ1.46に等しい透光性樹脂によってファイバ先端を接着固定する場合が多い。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、光ファイバ端面の斜め研磨加工やその端面への反射防止膜形成は複雑な工程を要するため、生産性が低い。また、近年の通信容量の増大に伴い、使用されることが多くなった多芯のテープファイバにおいてはとくに製造上の困難さが問題となる。
【0007】
一方、屈折率整合用樹脂の屈折率は、使用温度が−40℃から+85℃の範囲において、1.37から1.58程度まで変化すると言われ(前掲の特開2001−21775号公報)、その温度依存性は極めて大きい。これに限らず、樹脂の屈折率は一般に10-3-1程度の温度係数をもつ。石英の屈折率の温度係数はこれに比べて無視できるほど小さいので、例え室温で光ファイバと樹脂の屈折率が整合していても、周囲温度の変化によって屈折率差が生じ、使用温度の上限または下限付近において許容限度以上に反射が増大する恐れがある。
【0008】
本発明の目的は、このような問題を解決するため、簡単な工程で加工でき、かつ戻り光反射率を光通信で要求されるレベルまで低減できる光ファイバの先端形状を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
石英系光ファイバの端面と他の光学要素の間で光結合を行う際、本発明においては、光ファイバ端部のコアをクラッドから突出させ、その突出部が先端に向かって細くなるような傾斜した側面となるように加工し、この側面が周囲媒質と接しさせる。
【0010】
このとき周囲媒質の屈折率を1.35から1.60の範囲とすることが望ましい。かつ光ファイバ端部のコアの先端形状が円錐台状であり、円錐台の上面積が底面積の1/5以下であることが望ましい。この円錐台の上面積がほぼ0であり、コアの先端部が円錐とみなせる形状であってもよい。
【0011】
さらに、この光ファイバ端部の円錐状コア突出部の頂角が60度以上150度以下の範囲にあることが好ましく、60度以上100度以下の範囲であればさらに好ましい。
【0012】
上記のような先端形状の光ファイバを使用することにより、光通信において要求される低い戻り光反射率(−40〜−60dB)を実現することができる。とくに温度変動等により周囲媒質の屈折率が上記の範囲で変動しても戻り光反射率を低く維持できる効果がある。
【0013】
また、上記のような石英系光ファイバの先端形状は沸酸/沸化アンモニウム系のエッチング液を用いたウェットエッチングだけで形成できるため、製造工程が簡略化し、生産性を向上できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明においては、光ファイバ端面、とくに光が出射するコア部分の端面を光ファイバの光軸に対して傾斜させることにより、反射戻り光を低減できるという従来から知られている事実を基礎に、角度研磨など生産性の低い工程を用いずに形成でき、かつ周囲媒質の屈折率変動に対して影響を受けにくい光ファイバの先端形状を見出した。
【0015】
本発明の特徴は、単一モード光ファイバ端部をウエットエッチング加工することだけで、反射戻り光の少ない光ファイバ結合系を実現することにある。具体的には、光ファイバのコア端部をクラッド部から突出させ、その突出部を円錐台状、または円錐台の上面部分が非常に小さくなったほぼ円錐状に加工することにより、反射戻り光を低減する。これらの光ファイバ端面、とくに光が出射するコア部分の構造は、光ファイバの光軸に対して突出したコアの側面が軸対称に傾斜している。このような構造により、周囲媒質の屈折率が変動しても、反射戻り光を低く保つことができる。
【0016】
光ファイバ端部の加工方法について説明する。
エッチング液には弗酸と弗化アンモニウムの混合溶液を使用する。一例として、4.5wt%弗酸と55wt%弗化アンモニウム溶液を重量比1:1の割合で混合し、エッチング液とする。通常の石英系単一モード光ファイバの端面を、この液の液温を50℃に保って2時間エッチングすると、図1の側面図に示すように、光ファイバ10の端部15においてクラッド2の端面2a部分に対してコア1が円錐状に突き出した部分1aが形成された。
【0017】
コアの突出部1aのクラッド端面2aからの高さは3.5μm程度であった。コア突出部1aの拡大図に示す円錐の頂角αは約100度であった。円錐の頂角αは、弗酸と弗化アンモニウムの混合比やエッチング時の液温を変えることで制御が可能である。沸化アンモニウムの量を増加させることにより、頂角は減少し、液温を上昇させると、頂角は大きくなる。
【0018】
戻り光反射率は図2示す測定系で測定した。バックリフレクションメータ100は、波長1.55μmの測定光を発生する半導体レーザ光源20と反射戻り光を測定するパワーメータ30とを備えている。上記のように加工した光ファイバ10に半導体レーザ光源20が発生する波長1.55μmの光を伝搬させ、光ファイバ端面15を屈折率1.40、1.46、1.59、1.64の標準屈折液50にそれぞれ浸し、光ファイバ端面15で反射した光を光サーキュレータ40によって分岐してパワーメータ30に入射し、戻り光反射率を測定した。比較のために光ファイバ端面を空気(n=1)中に置いた場合も測定した。
【0019】
戻り光反射率の円錐の頂角に対する依存性の測定結果は図3に示す通りである。円錐の頂角は小さいほど戻り光反射率は小さくなることがわかる。また、いずれの頂角においても周囲媒質の屈折率は石英系光ファイバのコアの屈折率1.46に近いほど、戻り光反射率は小さくなっている。
【0020】
光通信分野での応用を考えた場合、デジタル信号を伝送するには、−40dB以下の戻り光反射率が要求される。これを得るためには、周囲媒質の屈折率が1.35から1.60の範囲にあるとすれば、図4から頂角αは150度以下の範囲であればよいことがわかる。
【0021】
さらに、アナログ信号を伝送するのに十分な戻り光反射率である−60dBを得るためには、同じ周囲媒質の屈折率範囲で、頂角αは100度以下の範囲にする必要がある。
【0022】
なお、エッチングにより頂角を小さくしようとすると、クラッド部分もエッチングされ、図1では光ファイバ10の光軸に垂直な平面として描かれているクラッド端面2aにダレが生じ、さらにはクラッド2の外径が端部付近で細くなってくる。このため上記の方法で作製でき実際に使用できる頂角の最小値は60度程度である。
【0023】
すなわち、円錐状コア突出部の頂角は60〜150度、可能ならば60〜100度の範囲にあることが望ましいと言える。
【0024】
なお、図1において光ファイバの端面2aは、光ファイバの光軸12に対して垂直に示されている。しかし光ファイバカッター等で切断した光ファイバ端面は光軸に対して正確に垂直になるとは限らない。そのような場合、円錐状コア突出部1aは図示されるように光ファイバの光軸に対して対称にならず、傾いて形成される。そのような場合であっても上記の好ましい頂角の範囲は変化しない。
【0025】
上記のエッチングにおいて、エッチング時間を短くするとコア端部は円錐状にはならず、図4に側面図、図5に斜視図を示すように、コア1の突出部1aの上部に平面3が残った円錐台状となる。一例として、弗酸4.5wt%と弗化アンモニウム60wt%を1:2の重量比で混合した30℃の溶液で2.5時間エッチングを行なうと、コア突出部1aの上部平面3の面積はエッチング前の面積の約1/5(20%)となった。
【0026】
この上部平面3の面積はエッチング時間を長くすることによって減少し、やがて上部平面は消滅して円錐状となる。なお、クラッド端面2aと同一平面上にある円錐台の底面4の外周は光ファイバ内部のコア1の直径と実質的に一致している。したがって上記面積比は形成された円錐台の上面と底面の面積比に相当する。
【0027】
このように加工した光ファイバに波長1.55μmの光を伝搬させ、端面を屈折率1.40、1.46、1.59、1.64の標準屈折液に浸した場合と空気(n=1)中に置いた場合について、戻り光反射率を測定した。結果は図7に示す通りである。周囲媒体の屈折率が1.46の近傍にあれば、面積比が小さいほど、戻り光反射率を小さくできることがわかる。
【0028】
円錐台上面3の面積がエッチング前のコア断面積の1/5以下であれば、周囲媒質の屈折率が1.35から1.60の範囲の場合、戻り光反射率−40dB以下を得ることができる。円錐状の場合に比べて反射性能はやや劣るが、エッチング時間を短くできるという工程上の利点がある。
【0029】
また円錐形状を得るためエッチング時間を長くすると、光ファイバ端部付近のクラッド部分もある程度、浸食されるのを避けられない。エッチング時間が短ければ、太いクラッド径が維持でき、光ファイバの強度低下を防止することができる。なお、上記ではコア先端部の形状を円錐台状と説明したが、底面に対して上面が平行である必要は必ずしもない。
【0030】
上述のように本発明における光ファイバ端面の加工はウェットエッチングのみで行え、斜め研磨加工や反射防止膜の形成は不要である。したがって加工工程は単芯光ファイバであっても多芯の光ファイバ(テープファイバ)であっても基本的に同様に行うことが可能である。したがって、従来の加工方法では反射防止処理に多くの時間を要していた、複数本の光ファイバが平行に配列された光ファイバアレイに対して本発明は極めて有効である。
【0031】
また、本発明の光ファイバの先端形状を形成すれば、周囲媒質の広い屈折率範囲に対して戻り光反射率を小さく維持できる。これは周囲媒質の材料を広い範囲で選択できることを意味し、また温度変動等による屈折率変動に対しても効果を有する。
【0032】
さらに、光ファイバ先端が凸状に加工されているため、結合すべき相手の光学要素の端面に凹状部分を形成しておけば、嵌合による結合位置合わせが容易になり、また光ファイバの光軸が相手の光学要素端面に対して傾斜しても結合損失が増大しにくいという利点もある。この点も光ファイバアレイの結合に対して有利な点である。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、広い屈折率範囲の周囲媒質に対して光ファイバ端面からの戻り光反射率が大幅に低減される。また、このような効果を生じる光ファイバ端面の加工はウエットエッチングという簡単な工程のみで行うことができるので、単芯の光ファイバだけでなく、多芯のテープファイバでも容易に一括加工が行なえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例における光ファイバ端部の側面図である。
【図2】 戻り光反射率の測定系を示す概略図である。
【図3】 本発明の実施例における戻り光反射率の測定結果を示す図である。
【図4】 本発明の他の実施例における光ファイバ端部の側面図である。
【図5】 本発明の他の実施例における光ファイバ端部の斜視図である。
【図6】 本発明の他の実施例における戻り光反射率の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
1 コア
1a、1c コア突出部
2 クラッド
2a クラッド端面
3 上面
4 底面
10 光ファイバ
15 光ファイバ端部
20 半導体レーザ
30 パワーメータ
40 光サーキュレータ
50 標準屈折液
100 バックリフレクションメータ

Claims (2)

  1. 石英系光ファイバの端面と他の光学要素の間で光結合を行う光ファイバ結合系において、前記光ファイバ端部でコア部がクラッド部から突出し、その突出部は先端に向かって細くなるような傾斜した側面と上部に平面を有する円錐台状であり、該円錐台の上面積が底面積の1/5以下であって、前記側面が屈折率1.35から1.60の範囲の周囲媒質と接していることを特徴とする光ファイバ結合系。
  2. 前記光ファイバを複数本平行に配列した請求項1に記載の光ファイバ結合系。
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