JP3819858B2 - ニコチアナミンの含有量を定量する方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ニコチアナミンを含有する植物試料、あるいはニコチアナミンを含有する血漿において、ニコチアナミンの含有量を定量する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
下記式(1):
【0003】
【化1】
【0004】
で示されるニコチアナミンは全ての植物及び、多くの野菜加工製品に含まれており、昇圧作用を有するペプチドアンギオテンシンII(AII)を生成するアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme、以下ACEということがある)を阻害する作用を有することから、血圧降下作用を有すると考えられている。ニコチアナミンは、タバコ、イネ、クコ、ブナなどの葉、及び大豆などの植物試料から取得でき、具体的には、これらの種々の材料から、温水・アルコール水等での抽出の後、イオン交換クロマトグラフィー、シリカゲル等の合成樹脂を用いた分離精製により所得されている。
【0005】
このような植物試料からのニコチアナミンの分離精製法は、大豆を水又は熱水で抽出し、該抽出液のニコチアナミンを合成滞留樹脂により分別、採取するニコチアナミンの製造方法に関する特開平5−246865号公報(特許文献1)において記載されている。すなわち、該公報の段落番号0018に記載される実施例2においては、温水を用いて大豆から抽出液を得、該抽出液を遠心分離して上清を得、該上清をイオン交換樹脂によるイオン交換クロマトグラフィー及びゲル濾過樹脂によるゲルクロマトグラフィーを経てニコチアナミンを分離する分離工程、さらに、逆相系分配樹脂による逆相高速液体クロマトグラフィー法及びシリカゲル系担体樹脂による高速液体クロマトグラフィー法を経てニコチアナミンを精製する精製工程を行うことによる、ニコチアナミンの分離精製法が開示されている。
【0006】
しかしながら、かかるニコチアナミンの分離精製法では、4種以上のカラムにより4回以上カラムクロマトグラフィーを繰炊返すことから、時間と経費が大量にかかるとともに、収率が低くコスト高となる。そのために、従来のニコチアナミンの分離精製法では、各種試料中に本来的に存在するニコチアナミン量を知ることは不可能であり、簡便で迅速な定量方法については未だに見出されていない。また、ニコチアナミン誘導体についても簡便で迅速な定量方法については未だに見出されていない。
【0007】
また、抽出精製されたニコチアナミンがACEを阻害することが試験管的に確認され、SHRラットにニコチアナミンを投与すると、投与後に血圧を下げる効果を奏するとの報告がなされているが、これらの報告は、試験管での反応による類推の域を出ておらず、あるいは、ニコチアナミンを投与し血圧を測定するという現象面だけの観察であり、未だニコチアナミンの作用による血圧降下が起こっていることに対する直接的な証明はなされていない。さらに、ニコチアナミンを投与した際に血中に存在するニコチアナミン量を測定し、血圧降下作用との相関関係について定量的な追跡をする従来技術は一切なかった。また、ニコチアナミン誘導体についても血中に存在する含有量を測定する従来技術は一切なかった。
【0008】
【特許文献1】
特開平5−246865号公報(請求項1、第4〜5頁、段落番号0018)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、各種植物及び野菜加工製品などの植物試料のニコチアナミンの含有量を、従来よりも迅速に精度よく定量することができる植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法、及び、血中に存在するニコチアナミンの含有量を迅速に精度よく測定することができる血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法を提供することをその課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
かかる実情において、本発明者は鋭意検討を行なった結果、(1)ニコチアナミンを含有する植物試料を抽出用溶媒により抽出して抽出液を得る抽出工程を行い、次いで、該抽出液に対して、イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法を用いて、ニコチアナミンを分離して定量する分離定量工程を行うことにより、各種植物及び野菜加工製品中のニコチアナミンの含有量を、従来よりも迅速に精度よく定量することができ、かかる方法がニコチアナミンの誘導体にも適用できることの可能性を示し、(2)さらには、ニコチアナミンを含有する血液を採取する採血工程を行い、プレカラムを用いて採取した血液を処理することにより、血漿タンパクを除去するとともに滞留物を得る滞留工程を行い、次いで、該滞留物に対して、溶離液の濃度勾配を用いたイオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法を用いて、ニコチアナミンを分離して定量する分離定量工程を行うことにより、血中に存在するニコチアナミン量を迅速に精度よく測定することができ、かかる方法を応用または改良し、ニコチアナミンの誘導体にも適用できることの可能性を示し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、ニコチアナミンを含有する植物試料を抽出用溶媒により抽出して抽出液を得る抽出工程を行い、次いで、該抽出液に対して、イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法を用いて、ニコチアナミンを分離して定量する分離定量工程を行う植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法を提供するものである。かかる構成を採用することにより、各種植物及び野菜加工製品中のニコチアナミンの含有量を、従来よりも迅速に精度よく定量することができるという効果を奏するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法が、溶離液の濃度勾配を用いたイオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法である前記発明(1)に記載の植物試料におけるニコチアナミンを定量する方法を提供するものである。かかる構成を採用することにより、前記発明(1)と同様の効果を奏する他、溶離液の濃度勾配を用いることにより、イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法における分離能が向上するという効果を奏するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、前記抽出工程において、抽出用溶媒が温水である前記発明(1)又は(2)のいずれかに記載の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法を提供するものである。かかる構成を採用することにより、前記発明(1)又は(2)と同様の効果を奏する他、安価で抽出能の高い抽出用溶媒とすることができるという効果を奏するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、前記抽出工程を行った後に、得られた抽出液をイオン交換クロマトグラフィーにより濃縮して濃縮物を得る濃縮工程を行い、次いで、該濃縮物に対して、前記分離定量工程を行う前記発明(1)〜(3)のいずれかに記載の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法を提供するものである。かかる構成を採用することにより、前記発明(1)〜(3)のいずれかと同様の効果を奏する他、上記濃縮工程を行うことにより、微妙な条件下で陽イオン性物質を洗い流すことができるため、格段の分離能が得られ、鮮明で且つ容易になるという効果を奏するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、前記イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法が、溶離液として、ラウリル硫酸ナトリウムを含有する溶液、又はラウリル硫酸ナトリウムを含有するアセトニトリル溶液を用いる前記発明(1)〜(4)のいずれかに記載の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法を提供するものである。かかる構成を採用することにより、前記発明(1)〜(4)と同様の効果を奏する他、ニコチアナミンの分離に好適な溶離液とすることができるという効果を奏するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、血液を採取する採血工程を行い、プレカラムを用いて採取した血液を処理することにより、血漿タンパクを除去するとともに滞留物を得る滞留工程を行い、次いで、該滞留物に対して、溶離液の濃度勾配を用いたイオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法を用いて、ニコチアナミンを分離して定量する分離定量工程を行う血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法を提供するものである。かかる構成を採用することにより、血中に存在するニコチアナミンの含有量を迅速に精度よく測定することができ、ニコチアナミンと、血圧降下作用などの各種作用との相関関係について定量的な追跡を行うことができるという効果を奏するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、前記採血工程を行い、前記滞留工程を行った後、カラムスイッチング法による流路切り替え工程を行い、次いで、前記滞留物に対して、分離定量工程を行う前記発明(6)に記載の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法を提供するものである。かかる構成を採用することにより、前記発明(6)と同様の効果を奏する他、カラムスイッチング法による流路切り替え工程を行う方法とすることにより、滞留工程及び分離定量工程を簡便に行うことができるという効果を奏するものである。
【0018】
また、本発明(8)は、前記イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法が、溶離液として、ラウリル硫酸ナトリウムを含有する溶液、又はラウリル硫酸ナトリウムを含有するアセトニトリル溶液を用いる前記発明(6)又は(7)に記載の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法を提供するものである。かかる構成を採用することにより、前記発明(6)又は(7)と同様の効果を奏する他、ニコチアナミンの分離に好適な溶離液とすることができるという効果を奏するものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に述べるが、本発明はこれら実施の形態により制限されない。
【0020】
以下に本発明の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法の第1の方法について述べる。ニコチアナミンは前記式(1)で表される化合物である。また、ニコチアナミンの誘導体としては、下記式(2);
【0021】
【化2】
【0022】
で表される2’−デオキシムギネ酸、下記式(3);
【0023】
【化3】
【0024】
で表されるムギネ酸、下記式(4);
【0025】
【化4】
【0026】
で表されるアベニン酸、下記式(5);
【化5】
【0027】
で表される3−エピヒドロキシ−2’−デオキシムギネ酸、下記式(6);
【化6】
【0028】
で表される3−ヒドロキシムギネ酸、下記式(7);
【化7】
【0029】
で表される3−エピヒドロキシムギネ酸などを挙げることができる。これらのニコチアナミン誘導体は、例えば、大麦、燕麦、小麦、とうもろこし、ソルガムなどの植物に存在し、ニコチアナミンと同様ACEを阻害する性質を有しており、以下に詳細に説明する本発明の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法の応用によって、ニコチアナミンと同様に迅速且つ精度良く定量することができるものと見込まれる。
【0030】
ニコチアナミンを含有する植物試料としては、ニコチアナミン又はその誘導体が広く植物界に存在するため特に制限されないが、大豆、タバコ、稲(含む米類)、クコ、ブナ、ハヤトウリ、アシタバ、モロヘイヤ、クレソン、セリ、アマメ、ニガウリ、大麦、燕麦、小麦、とうもろこし、ソルガムなどの植物及び植物葉、大豆加工食品の製造工程において副生する大豆ホエー、大豆の煮豆廃液、及び大豆の水浸漬廃液、並びに豆乳、豆腐、しょうゆ、煮豆、納豆および各種野菜ジュースなどの野菜加工製品などをそのままの形態で用いるもの、アルコールによる沈殿除去を経るものを、あるいはこれらを公知の方法で破砕または粉砕して調製した植物試料などを挙げることができる。
【0031】
<抽出用溶媒>
抽出用溶媒としては、ニコチアナミンを溶解させることができる溶媒であれば、特に制限されないが、水、温水、並びにエタノール、メタノール、及びアセトンなどの有機物と水との混合溶媒などを挙げることができる。これらのうち、温水が、安価で抽出能の高い抽出用溶媒とすることができるため特に好ましい。抽出用溶媒としての温水は、予め温水として調製したものを用いることができるとともに、水と上記する植物試料を混合した混合物を加温して調製した温水を用いることができる。
【0032】
<抽出工程の手順>
抽出工程は、上記した植物試料を、上記した抽出用溶媒により抽出して抽出液を得る工程であり、抽出方法としては公知の方法を用いることができ特に制限されないが、抽出用溶媒と植物試料とを混合して濾過し、濾液を抽出液として得る方法、抽出用溶媒と植物試料とを混合して遠心分離し、得られた上澄み液を抽出液として得る方法などを挙げることができる。抽出工程を行う際、抽出用溶媒の温度としては、特に制限されないが、例えば、温水の場合には、65〜80℃のものが、ニコチアナミン又はその誘導体の抽出能が良好であるため好ましい。また、植物試料の体積と抽出用溶媒の体積との比率は、5〜30が好ましく、10〜20が特に好ましい。また、試料の単位体積当りの重量を測定すると、試料の単位重量当りのニコチアナミンの含有量を定量することができる。抽出の条件・回数等は試料により適宜設定することができ、抽出用溶媒を加えて抽出を行い、抽出液を得る操作を複数回行うことも可能である。
【0033】
<イオン対クロマトグラフィー>
分離定量工程においては、イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィーを行う。イオン対クロマトグラフィーとは、電解質を含む試料を分析するために、移動相中すなわち溶離液中に、過剰のイオン対試薬を含有させることによって試料イオンとイオン対を形成させて試料を非解離の複合分子とし、これを逆相カラムクロマトグラフィーにより分離分析する方法である。
【0034】
<イオン対試薬>
イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィーを行うに際して、イオン対試薬としては、対陰イオン試薬が好ましく、具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ドデカン硫酸ナトリウム、ヘプタン硫酸ナトリウム、ヘキサン硫酸ナトリウム、オクタン硫酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸系の対陰イオン試薬、過塩素酸系の対陰イオン試薬を挙げることができる。これらのうちで、アルキル硫酸系の対陰イオン試薬が好ましく、ラウリル硫酸ナトリウムが特に好ましい。ニコチアナミンの誘導体(ムギネ酸等)に対する対陽イオン試薬として、テトラブチルアンモニウム臭化物、テトラブチルアンモニウム水和物などのアルキルアンモニウム塩系の対陽イオン試薬、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミンなどの第三級アミン系の対陽イオン試薬を用いることにより、本発明の方法を、ニコチアナミンの誘導体(ムギネ酸等)に適用することができる可能性がある。
【0035】
<分離定量工程の溶離液>
溶離液としては、上記の対イオン試薬を、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトンなどの有機物と水との混合液を挙げることができる。これらの有機物のうちでは、アセトニトリルが特に好ましい。溶離液において、対イオン試薬の濃度としては、特に制限されないが、0.005〜0.2Mが好ましく、0.01〜0.2Mが特に好ましく、0.1〜0.11 Mが最も好ましい。また、溶離液における、水溶性有機物あるいは水と混和する有機物の濃度(重量%)としては、10〜90%が好ましく、25〜80%が特に好ましく、30〜80%が最も好ましい。
【0036】
<カラム用充填剤>
イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィーを行うに際して、カラム用充填剤としては、分配クロマトグラフィーに用いる充填剤であれば特に制限されないが、用いる逆相系のカラムとしては、TSKgel ODS-80TM(東ソー株式会社製)、TSKgel-ODS-80Ts(東ソー株式会社製)、ODSpak F-411, シリカC18M(Shodex/Asahipak株式会社製)、Shim-packHT,VP,FC-ODS(島津製作所株式会社製)、Symmetry C18(ウオーターズ株式会社製)などを挙げることができる。
【0037】
<検出器>
また、イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィーを行うに際して、検出器としては、高速液体クロマトグラフィー用の蛍光光度計の検出器を用いることができる。
【0038】
<分離定量工程の手順>
分離定量工程は、上記抽出工程を経て得られる抽出液に対して、イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法を用いて、ニコチアナミンを分離して定量する工程である。該工程のうち、ニコチアナミンの分離は、抽出工程を経て得られる抽出液をシリンジ法、バルブループ法などの公知の方法によりカラムに注入して、充填剤にニコチアナミンを滞留させ、次いで、上記した溶離液を、カラムに通液して、ニコチアナミンを分離することにより行う。
【0039】
また、ニコチアナミンの定量は、カラムから流出する溶離液を検出器に送液し、該溶離液に含まれるニコチアナミンを上記した検出器により検出・定量することにより行う。例えば、ニコチアナミンの検出・定量は、カラムから流出する溶離液に含まれるニコチアナミンを、オルトフタルアルデヒド、フルオレッサミン、ナフタレン−2,3−ジカルボキシアルデヒドまた、ニコチアナミン及びその誘導体をダンシルクロリド(DNS-Cl)、フルオレニルメチルクロロホルメート(FMOC)、ベンゾフラザン構造を有するもの、蛍光性エドマン試薬などを含むラベル化試薬と反応させて生じる各蛍光誘導体を、オルトフタルアルデヒドの場合は蛍光検出器で励起スペクトル365nm,発光スペクトル455nmでの蛍光強度としたチャートとして検出することにより行うことができる。この際、既知量のニコチアナミンを含む溶液を上述のイオン対カラムにかけ同様の処理の後溶出液のニコチアナミンに相当するピークのピーク面積を求めてニコチアナミンの検量線を作成することにより、抽出液に含まれるニコチアナミンの定量を行うことができる。また、この結果として、抽出液を作成するのに用いた植物試料の単位重量当りのニコチアナミン含有量の定量を行うことができる。
【0040】
第1の方法の分離定量工程において、下記する溶離液の濃度勾配を用いると、ニコチアナミンの分離能が向上するため好ましい。また、アミノ酸タンパク質の少ない植物試料を用いると、ニコチアナミンの分離定量が行いやすくなるために好ましい。
【0041】
次に、本発明の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法の第2の方法について述べる。第2の方法においては、ニコチアナミンまたはその誘導体、ニコチアナミン又はその誘導体を含有する植物試料、<抽出用溶媒>、<抽出工程の手順>、<イオン対クロマトグラフィー>、<イオン対試薬>、<溶離液>、<カラム用樹脂>、<検出器>、<分離定量工程の手順>などは第1の方法と同様であり、第1の方法と主に異なるのは、抽出工程を行った後に、得られた抽出液をイオン交換クロマトグラフィーにより濃縮して濃縮物を得る濃縮工程を行う点にあるから、以下この濃縮工程を中心に述べることとする。
【0042】
<イオン交換体>
第2の方法においては、濃縮工程は、抽出工程で得られた抽出液を従来の陽イオン交換法ではなく微妙な条件下を選択した上での陰イオン交換クロマトグラフィーにより分離能を著しく高めることにより濃縮して濃縮物を得る工程である。イオン交換クロマトグラフィーにおいてカラムに充填するイオン交換体としては、微妙な条件下で陽イオン性の物質を滞留させずにカラムを素通りさせることにより、ニコチアナミン以外の陽イオン性の物質を除去できるものであれば、特に制限されないが、ダウエックス1-X4、X8,2-X8(室町ケミカル株式会社製)、アンバーライトIRA410(オルガノ株式会社製)、デュオライト A7(住友化学株式会社製)などのイオン交換体を挙げることができる。
【0043】
<濃縮工程の溶離液>
また、イオン交換クロマトグラフィーにおける溶離液は、酢酸、ギ酸などの有機物と水との混合物を挙げることができる。これらのうちで、酢酸水溶液が特に好ましい。また、溶離液における、上記水溶性有機物あるいは水と混和する有機物の濃度(Mol/L)としては、0.1〜0.5Mが好ましく、0.2〜0.4Mが特に好ましく、0.28〜0.32Mが最も好ましい。
【0044】
<濃縮工程の手順>
濃縮工程を行う方法としては、特に制限されないが、抽出工程を経て得られる抽出液をシリンジ法、バルブループ法などの公知の方法によりカラムに注入し、次いで、上記したイオン交換体を充填したカラムに通液して、ニコチアナミンを濃縮した溶出液を得ることにより行う方法を挙げることができる。ニコチアナミンは両性物質なので、ダウエックスなどのイオン交換体を用いて予め陽イオン性の物質を洗い流す濃縮工程を行うことにより、次の分離定量工程における分離が鮮明で容易になる。
【0045】
このようにして得られたニコチアナミン濃縮物は、該濃縮物に上記した溶離液を添加した溶液とするか、あるいは、該濃縮物を乾固したものに蒸留水などの溶媒あるいは上記した分離定量工程の溶離剤を添加した溶液とすることにより、次の分離定量工程において用いることができる。
【0046】
<採血工程>
次に本発明の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法について述べる。該方法において用いられる血液としては、特に制限されないが、ニコチアナミンを投与したマウス、ラット、イヌなどの動物、及び人から注射器による血液採取など公知の方法により採取した血液を挙げることができる。
【0047】
<プレカラムに充填する充填剤>
滞留工程に用いるプレカラムに充填する充填剤としては、血漿タンパクを除去することができる充填剤であれば特に制限されないが、TSKprecolumn BSA-ODS(東ソ-株式会社製)、Shodex MSpack pk(昭和電工株式会社製)、Shim-pack SPC(島津製作所株式会社製)などを挙げることができる。
【0048】
<滞留工程における緩衝液>
緩衝液としては、<イオン対試薬>の欄で記載した対イオン試薬と、水との混合液(対イオン試薬溶液)を挙げることができる。対イオン試薬としては、ラウリル硫酸ナトリウムが好適に使用できる。溶離液において、対イオン試薬の濃度としては、特に制限されないが、0.05〜0.2Mol/Lが好ましく、0.1〜0.15Mol/Lが特に好ましく、0.1〜0.11Mol/Lが最も好ましい。
【0049】
<滞留工程の手順>
滞留工程は、プレカラムを用いて採取した血液を処理することにより、血漿タンパクを除去するとともに滞留物を得る工程である。該工程は、上記した充填剤を充填したカラムに、採取した血液あるいは採取した血液と<滞留工程における溶離液>の欄に記載された溶離液との混合液を、シリンジ法、バルブループ法などの公知の方法によりカラムに注入して、次いで、上記した溶離液を、カラムに通液して、血漿タンパクをカラムから素通りさせるとともに、プレカラムの充填剤への滞留物(プレカラムの充填剤に留まっている物質)を得ることにより行う。滞留工程においては、プレカラムを用いて採取した血液を処理する際に、ニコチアナミンを物理的又は化学的に吸着することができる充填剤を用いたプレカラムであると好ましい。
【0050】
本発明の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法においては、上記<滞留工程>に続く、分離定量工程において、<分離定量工程の溶離液>の欄に記載した溶離液に、水溶性有機物あるいは水と混和する有機物の濃度勾配を付与して、該溶離液をプレカラムに通液することにより、前記滞留工程においてプレカラムに滞留した滞留物を、該溶離液中に溶出させて、滞留物が溶出した溶離液を、<カラム用充填剤>の欄に記載した充填剤を充填したカラムに通液した後、ニコチアナミンの分離及び、検出・定量を行う。該分離定量工程は、その他の点においては、上記した<イオン対クロマトグラフィー>、<イオン対試薬>、<カラム用充填剤>、<検出器>、<分離定量工程の手順>の欄の記載と同様に行うことができる。採取した血液の重量を測定してあれば、単位重量当りの血液に含まれるニコチアナミンの重量を求めることができる。
【0051】
また、本発明の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法においては、前記採血工程を行い、前記滞留工程を行った後、カラムスイッチング法による流路切り替え工程を行い、次いで、前記滞留物に対して、分離定量工程を行う方法とすることが、滞留工程及び分離定量工程を簡便に行うことができるため好ましいが、以下、図1を参照して、カラムスイッチング法について説明する。
【0052】
カラムスイッチング法では、まず、流入口6から、採取した血液と<滞留工程における緩衝液(対イオン試薬溶液)>の欄に記載された溶離液との混合液を注入し、点線矢印によって示される流路1aを経て、プレカラム3に通液して、その後、該溶離液を、流路1aを経て、プレカラム3に通液して、血漿タンパクを、点線矢印によって示される流路1b及び流路1cを経て排出口8から排出するとともにプレカラム3にニコチアナミンを含む成分を滞留物として滞留させる。次いで、図示しないバルブを切り替えることによって、流路を切り替えて、<分離定量工程の溶離液>の欄に記載され、濃度勾配を有する溶離液を、流入口7から、実線矢印によって示される流路2a、流路2b、及び流路2cを経てプレカラム3及び分離カラム4に通液し、これにより、プレカラム2の滞留物に含有されるニコチアナミンが、濃度勾配を有する溶離液に溶出して、流路2bを経て、分離カラム4によって分離され、流路2cを経て、検出器5によって検出・定量される。このようなカラムスイッチング法によれば、血漿を前処理なくそのまま迅速に定量でき、これはオートメ化が可能である。また、ニコチアナミンを検出するに際しては、溶離液に溶出したニコチアナミンを、流入口9を経て、流路2dからオルトフタルアルデヒド等蛍光ラベル化試薬を含む水溶液を流入させて、検出器5によって検出・定量させる構成とすることもできる。
【0053】
溶離液の濃度勾配(グラデイエント)としては、分離定量工程の条件により適宜設定することが可能であるが、上記した溶離液を形成する水溶性有機物あるいは水と混和する有機物の初期濃度を10%〜40%、好ましくは20%〜35%、特に好ましくは28%〜32%とし、該水溶性有機物あるいは水と混和する有機物の最終濃度を65%〜90%、好ましくは70%〜86%、特に好ましくは78%〜82%とする濃度勾配を、初期濃度から最終濃度に達するまでの時間を15〜50分間、好ましくは20〜40分間、特に好ましくは25〜30分間とすることにより用いる方法を挙げることができる。また、このような濃度勾配の条件は、上記した本発明の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法においても用いることができる。
【0054】
また、本発明の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法においては、ニコチアナミンを投与された上記動物又は人の血液採取を数時間ごとに複数回行い、おのおのの血液採取に際して血圧を測定しておくと、血圧採取時の血液中のニコチアナミンの含有量と、血圧との相関関係を把握することができる。血圧測定の方法としては、血液採取の数分前において、血液測定を行う方法、血液採取時において別に血圧測定を行う方法を挙げることができる。
【0055】
本発明の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法により、血管を通じて、これらの臓器中への流入する血液におけるニコチアナミンの取りこみ濃度を測定することとなる。この場合において、血液採取時において、ニコチアナミンのターゲットであるアンギオテンシン変換酵素活性を、肺、心臓、腎臓、肝臓、などの臓器及び胸部・腹部大動脈、腸管動脈などの血管等についてCushmanらの改良方法(Cushman,D.W. and Cheung, H.S.:Biochem. Pharmacol.,20,1637(1971))などの公知のアンギオテンシン変換酵素活性測定法により、アンギオテンシン変換酵素活性を追跡すると、得られるニコチアナミンの影響と、血中のニコチアナミンの含有量との相関関係を明らかにすることが可能となる。
【0056】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0057】
実施例1
<抽出工程>
植物試料としての粉砕したハヤトウリ5gに、50mlの80℃の温水を添加して、10分間かけて抽出を行い、次いで、遠心分離を行い、上澄み液1を得た。さらに、遠心分離をした残渣に対して、50mlの80℃の温水を添加して、10分間かけて抽出を行い、遠心分離を行って上澄み液2を得た。上澄み液1及び上澄み液2を抽出液として得た。
【0058】
<濃縮工程>
次いで、ダウエックス1−X4イオン交換体(ダウケミカル社製)をカラム(内径2.5cm、長さ30cm)に充填し、酢酸型として脱イオン水で平衡化した後、上記抽出液をカラムに通液して、ニコチアナミンをカラムの充填剤に滞留させて、次いで、0.3M酢酸で、ニコチアナミンを溶出して濃縮液を得た。さらに、該濃縮液を、減圧下で濃縮乾固して濃縮物を得た。
【0059】
<分離定量工程>
イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィーにより分離定量工程を行った。手順を以下に示す。逆相クロマトグラフィー用充填剤としてTOSOH−TSK GEL ODS−80−TM(内径4.6mm、長さ150mm)のカラムに充填した。イオン対試薬としてラウリル硫酸ナトリウム28.83g、水と混和する有機物としてアセトニトリル300ml、及び純水700mlを用いて、溶離液として0.1Mラウリル硫酸ナトリウム(pH 2.5)を含む30%アセトニトリルと水とを混和した溶液を調製した。カラム温度を30℃として、上記濃縮物を0.2Mラウリル硫酸ナトリウム(pH 2.5)に溶解したものを試料としてシリンジ法により注入してカラムに通液させて、ニコチアナミンをカラムに滞留させ、流速0.75ml/minで溶離液をカラムに通液し、ニコチアナミンを溶離液中に溶出させて分離し、さらに、カラムから流出した溶離液に対して、0.02Mオルトフタルアルデヒド-0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.0)を混合して、溶離液に含まれるニコチアナミンと反応させ、蛍光誘導体とし、高速液体クロマトグラフィー用の蛍光検出器であるHitachiF1050(日立株式会社製)で、励起(Ex)波長365nm及び発光(Em)波長455nmにおいて検出した。蛍光検出器により検出されたニコチアナミンのチャートを図2に示す。一方、既知量のニコチアナミンを、溶離液0.1mlに溶解させて、同様のカラム処理を行い溶出液を0.02Mのオルトフタルアルデヒド溶液と混合して、溶離液に含まれるニコチアナミンと反応させて、HPLCの蛍光検出機で上記の条件で得られたピーク面積と、溶離液単位体積(ml)当りに溶解させたニコチアナミン量(mg)との関係から検量線を得た。得られた検量線を図3に示す。図3において縦軸はピーク面積、横軸は溶離液単位体積(ml)当りに溶解させたニコチアナミン量(mg)を示す。図3の検量線及び図2のチャートより得られたピーク面積値から、抽出液に含有されていた全ニコチアナミン量は、0.05mgであった。抽出液調製に用いたハヤトウリは5gであったから、ハヤトウリ1g当りに含有されるニコチアナミン量は0.05mg÷5g=0.01mg/gであることがわかった。
【0060】
実施例2
<抽出工程、濃縮工程、及び分離定量工程>
植物としては粉砕した大豆ミール5gに対して50mlの80℃の温水を添加して、10分間かけて抽出を行い、次いで、遠心分離を行い、上澄み液3を得た。さらに、遠心分離をした残渣に対して、50mlの80℃の温水を添加して、10分間かけて抽出を行い、遠心分離を行って上澄み液4を得た。上澄み液3及び上澄み液4を抽出液として得た。その後の<濃縮工程>及び<分離定量工程>は、全て実施例1と同様に行った。その結果、得られた脱脂大豆ミールに含まれていたニコチアナミンの蛍光検出器によるチャートを図4に示す。図3の検量線及び図4のチャートより得られたピーク面積値から、抽出液に含有されていた全ニコチアナミン量は、0.37mgであった。抽出液調製に用いた脱脂大豆ミールは5gであったから、脱脂大豆ミール1g当りに含有されるニコチアナミン量は0.37mg÷5g=0.074mg/gであることがわかった。
【0061】
また、以上の実施例1及び2に記載の方法は、生物資源の場合にも利用でき、pH、溶出条件等の細かな変更により様々な目的に対応することは可能である。また、ニコチアナミンの利点と優位性は、従来の医薬品及び特保の成分のように合成品ないしは加水分解品ではなく純水に天然に存在し、しかも、そのままの形(ニコチアナミン)として存在しているものであり、伝統品や漢方薬などの曖昧なものと比べて、広く植物界に存在し化学的性質がある程度明らかな物質である。そのためにその定量法の発明は様々な分野で計り知れない程の非常に大きな恩恵をもたらす可能性がある。また、植物、及び野菜加工製品中(豆乳、野菜ジユース等)のニコチアナミン含有量の測定は食品産業において新たなニコチアナミン含有野菜加工食品に用いられる野菜の開発のきっかけとなるばかりか、定量的追跡により、新規野菜加工食品の創生及び、従来の野菜加工食品の血圧降下作用の改善品を保存法の確立とともに目指すことができる。さらに特筆すべきは、上記のニコチアナミン資源の多くにはニコチアナミンの誘導体(上記したムネギ酸等の誘導体)が多く存在しており、それらについては、逆に陽イオン対試薬を用いるイオン対クロマトグラフイー方法で追跡でき、上述と同様の発展応用利用が可能となる。また、高血圧発症ないしは抑制におけるニコチアナミン含有食事摂取について疫学的データを得ることができ種々の栄養指導への利用応用への道が飛躍的に発展する可能性がある。
【0062】
実施例3
<採血工程>
つくば高血圧マウスは、筑波大学(農学)研究科応用生物学系研究室において、村上和雄教授、深水昭吉教授らによって創生されたヒトレニン遺伝子を導入したトランスジェニックマウスと、ヒトアンギオテンシノーゲン遺伝子を導入したトランスジェニックマウスとを、供与して頂き、両者を交配して、ヒトレニンアンギオテンシン系の亢進したつくば高血圧マウス作成した。次いで、ニコチアナミンを個体当たり1mgで、胃ゾンデにより高血圧マウスに経口投与し、投与後1時間後、6時間後、24時間後に採血した。採血した血液は、吸収され血漿中に取り込まれたニコチアナミンを測定するために、以下に詳述する図1の装置に基づくカラムスイッチング法による滞留工程及び分離定量工程において用いた。
【0063】
<血圧測定>
血圧測定は、ニコチアナミンを投与して採血を行う高血圧マウスの血圧測定を0〜6時間後まで行い、さらに、別途、ニコチアナミンを投与して採血を行う高血圧マウスについてニコチアナミン投与後0時間後、1時間後、6時間後、24時間後に行った。血圧測定は、採血にあわせて、且つ採血の数分前に行い、血圧測定は尾をつかったソフトロン尾動脈圧脈拍計によるtail−cuff法によって行った。高血圧マウスの血圧測定の結果を図5及び図6に示す。
【0064】
<滞留工程及び分離定量工程>
ニコチアナミン投与後0時間後、1時間後、6時間後、24時間後の高血圧マウスの採血した血液を用いて以下に示す滞留工程及び分離定量工程を行い、ニコチアナミンの含有量を求めた。TSKgel BSA-ODS( 東ソ-株式会社製)を、図1におけるプレカラム3に設置し、逆相クロマトグラフィー用カラムとしてTSKgel ODS-80-TMを図1における分離カラム4(内径4.6mm、長さ150mm)に設置し、BSA−ODSのプレカラム3及び分離カラム4(ODSカラム)を準備した。<滞留工程における緩衝液>として、対イオン試薬としてラウリル硫酸ナトリウム28.8gを純水1000mlに溶解して、pH2.05の0.1Mラウリル硫酸ナトリウム水溶液1000mlを調製した。また、<分離定量工程における溶離液>として、0.1Mラウリル硫酸ナトリウム(pH 2.05)をA液とし、アセトニトリル液をB液とし、A液とB液を輸送ポンプで適量混和して、流入口7から流入させることとし、最終的に、A液20%及びB液80%からなる80%アセトニトリル溶液が流入口7より流入することとなるようprogram gradient(濃度勾配プログラム)を組んだ。プレカラム3は上記したpH2.05の0.1Mラウリル硫酸ナトリウムで平衡化し、本カラムの分離カラム4(ODSカラム)は、上記したpH2.05の0.1Mラウリル硫酸ナトリウムで緩衝化した。次いで、流入口6から、血漿0.05mlを0.2Mラウリル硫酸ナトリウム水溶液0.05mlにより希釈して、プレカラム3に通液し、ニコチアナミンをプレカラム3に滞留させ、その後、pH2.05の0.1Mラウリル硫酸ナトリウムを緩衝液として流速0.75ml/minで2分間流し、そのままプレカラム3を経て排出口8から、血漿タンパク質を流出させて除去した。この後、図示しないバルブを切り替えることによって、流路を切り替えた。次いで、流入口7から、A液70%とB液30%の混液でアセトニトリルの初期濃度30重量%とし、最終濃度80重量%とし、毎分2重量%ずつ濃度を向上することによる、25分間の濃度勾配を用いることにより、流速0.75ml/minで溶離液を30分間流し、プレカラム3に滞留したニコチアナミンを該溶離液に溶出し、分離カラム4により分離して溶出した。さらに、カラムから流出した溶離液に対して、流入口9を経て、流路2dから、0.02Mオルトフタルアルデヒド-0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.0)を混合して、溶離液に含まれるニコチアナミンと反応させて蛍光誘導体とし、検出器5{高速液体クロマトグラフィー用の蛍光検出器であるHitachi F1050(日立社製)}で、励起(ex)波長365nm及び発光(em)波長455nmにおいて検出した。蛍光検出器により検出されたニコチアナミン投与後0時間後の血液のチャート、及び1時間後の採取した血液に含まれるニコチアナミンのチャートをそれぞれ、図7(a)及び図7(b)に示す。さらに、一方、既知量のニコチアナミンを、採取した血漿0.1 mlに溶解させて、その再現性について確認した。また、一定量の範囲で数種のニコチアナミン濃度溶液を調製し、血漿に加え同様の分離処理を行い検出して得られたピーク面積と、血液の単位体積(ml)当りに溶解させたニコチアナミン量(mg)との関係から検量線を得た。得られた検量線を図8に示す。図8において縦軸はピーク面積、横軸は血液の単位体積(ml)当りに溶解させたニコチアナミン量(mg)を示す。
【0065】
図8の検量線及び図7のチャートより得られたピーク面積値から、ニコチアナミン投与後1時間の高血圧マウスの血液に含有されていた全ニコチアナミン量は、0.00000775mgであった。採取して吸着工程に用いた血液は0.05mlであったから、血液1ml当りに含有されるニコチアナミン量は0.00000775mg÷0.05ml=0.0031mg/ml(検量線より)であることがわかった。ニコチアナミン投与後0時間後、1時間後、6時間後、24時間後の高血圧マウスの採血した血液に含まれるニコチアナミン量(mg/ml)は、それぞれ、0mg/ml、0.0031mg/ml、0.00017mg/ml、0mg/mlであることがわかった。また、図5及び図6の血圧測定の結果、ニコチアナミン投与後1時間後、2時間後、4時間後、6時間後においては血圧が降下しており、また、ニコチアナミン投与後1時間後、6時間後において血液にニコチアナミンが含有されていることを併せて考慮すると、ニコチアナミンが血圧降下をもたらしていることが従来より直接的に証明された。
【0066】
<ニコチアナミンの高速液体クロマトグラフ質量分析計による検出>
また、高血圧マウスからニコチアナミン投与後1時間後に採取した血液を、EDTA処理して得られた処理血漿を、高速液体クロマトグラフ質量分析計により下記の分析条件で分析・定量した。
【0067】
高速液体クロマトグラフ質量分析計により、ニコチアナミン投与後1時間後に採取した血液にニコチアナミンが含有されていることが確認できた。また、高速液体クロマトグラフ質量分析計の定量の結果、1時間後の高血圧マウスの採血した血液に含まれるニコチアナミン量(mg/ml)は、0.003mg/mlとなることがわかった。
【0068】
<アンギオテンシン変換酵素活性の追跡>
ニコチアナミン投与後、0時間、1時間、2時間、4時間、6時間、24時間後において、大動脈(胸部・腹部大動脈)、心臓、肺、腎臓、血中についてCushmanらの改良方法(Cushman,D.W. and Cheung, H.S.:Biochem. Pharmacol.,20,1637(1971))により追跡した。追跡したアンギオテンシン変換酵素活性のデータを、血中(血漿)については図9に、大動脈、心臓、肺、及び腎臓については図10において示す。また、図9及び図10の数値データを表1において示す。
【0069】
【表1】
【0070】
図9及び図10から明らかなように、血中ニコチナミン含量が投与後1時間で高く、投与後6時間後には減少していることと対応して、血中(血漿中)と肺のACE活性も投与後1時間で低下していることより顕著なACE阻害効果が認められ、6時間後には回復傾向を示していた。しかし、腎臓だけはむしろ投与後6時間後の方が強く変換酵素活性が抑制されていていることがわかった。このことはニコチアナミンの影響が臓器によって異なる応答をしていることを示している。
【0071】
以上のように、血中でのニコチアナミンの検出を可能としたことにより、経口投与後、ニコチアナミンがそのままの形で吸収され血中に移行していることが確認され、高血圧抑制と血中のニコチアナミン含有量との間に相関関係があることがわかった。しかも、まず実験対象として高血圧の成因の明らかな(ヒトレニンーアンギオテンシン系亢進)トランスジェニック動物つくば高血圧マウス(THM)を用いたため、従来のニコチアナミン投与後の血圧測定だけの状況証拠の限界を打ち破り、よりはっきりとその降圧メカニズムを明らかにすることができた。また、実施例3のカラムスイッチング法による方法は、血漿を前処理なくそのまま迅速に定量でき、これはオートメ化が可能である。高血圧抑制効果のあるニコチアナミンについて、血中濃度と血圧の降圧効果の相関を追跡ため、その一般的適正量のみならず人個々のニコチアナミンを摂取する際の適正摂取量についても探求することが可能となり、生活習慣病としての食生活改善のみならず臨床的追跡および治癒指導の目安として利用できる可能性がある。加えて、所定の摂取量に対する体内への吸収移行量が測定可能となったことにより、適正量と同時にニコチアナミンの安全基準量の確定も定めることができる。また、実施例3の結果から、ニコチアナミンがそのままの形で吸収移行していることが明らかになったため、その吸収移行システム(トランスポーターの存在等)についての検討も行い、より効果的な吸収移行システムの開発はそれだけに留まらず、ニコチアナミンの生体内吸収移行と種々のミネラルに対する結合性質に基く種々ミネラルの輸送体としての応用も可能となり、栄養補給改善物質としての開発が見込まれる。
【0072】
【発明の効果】
本発明の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量・追跡する方法は、各種植物及び野菜加工製品中のニコチアナミン量を、従来よりも迅速に精度よく定量することができ、さらには、広範囲の試料について適用できるものである。また、ニコチアナミンは広く植物及び植物食品中にそのままの形で存在しているので、本発明の植物試料におけるニコチアナミン又の含有量を定量する方法により、摂取食事中のニコチアナミンの含量を知ることができる。これにより、ビタミンなどと共に、食品成分表に近い機能成分表の作成につながり、我々の個々の摂取食事パターンとニコチアナミンの摂取状況を把握することができる。また、アメリカのガンに対するデザイナーズフードのように、高血圧、心臓血管循環疾患その他の臓器疾患に対するデザイナーズフーズを提供できる可能性がある。
【0073】
さらに、本発明の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法は、血中に存在するニコチアナミンの含有量を迅速に精度よく測定することができ、毒性試験は勿論のこと、臓器へ取り込まれたニコチアナミンの定量追跡とその効果を検証することにも利用できる可能性がある。さらに、臓器中への取り込み濃度も測定できるので体内吸収後のニコチアナミンの臓器への分布を推定することが可能となるとともに、血圧の降圧効果、のみならず、腎臓障害など臓器疾患への効果についても検討可能となった。このことは高血圧等に伴う臓器障害へのニコチアナミンの効果を検討できると共に治療の目安となることが期待される。また、高血圧及び付随する臓器障害、その他の臓器疾患へのニコチアナミンの影響と、ニコチアナミンの含有量との相関関係を定量的に調べることを探求することが可能となり、生活習慣病の実際の改善指導及び臨床指導をきめ細かく行うには不可欠データを得ることができる可能性があり、さらには、そのためのオートマチックな定量システム開発を本発明の延長において考案することが可能となった。このことは、ニコチアナミンと同様の生理活性を示すニコチアナミン誘導体に対しても全て該当することである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 カラムスイッチング法による本発明の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法に用いる装置の概略図である。
【図2】 蛍光検出器により検出されたハヤトウリに含有されるニコチアナミンのチャートを示す図である。
【図3】 蛍光検出器により検出されたニコチアナミンの検量線を示す図である。
【図4】蛍光検出器により検出された、脱脂大豆ミールから抽出して得られた大豆ホエーに含有されるニコチアナミンのチャートを示す図である。
【図5】ソフトロン尾動脈圧脈拍計によるtail−cuff法で測定したニコチアナミン投与して採血を行わない高血圧マウスの血圧測定を示す図である。
【図6】ソフトロン尾動脈圧脈拍計によるtail−cuff法で測定したニコチアナミンを投与して採血を行った高血圧マウスの血圧測定の結果を示す図である。
【図7】 蛍光検出器により検出されたニコチアナミン投与後0時間後の血液のチャート、及び1時間後の採取した血液に含まれるニコチアナミンのチャートを示す図である。
【図8】 HPLCの蛍光検出機で、血液に含ませたニコチアナミンを検出して得られた血液1mlあたりの検量線を示す図である。
【図9】 Cushmanらの改良方法により追跡した、血漿におけるアンギオテンシン変換酵素活性のデータを示す図である。
【図10】 Cushmanらの改良方法により追跡した、大動脈、心臓、肺、及び腎臓におけるアンギオテンシン変換酵素活性のデータを示す図である。
【符号の説明】
1a〜1c、2a〜2d 流路
3 プレカラム
4 分離カラム
5 検出器
6、7、9 流入口
8 排出口
Claims (8)
- ニコチアナミンを含有する植物試料を抽出用溶媒により抽出して抽出液を得る抽出工程を行い、次いで、該抽出液に対して、イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法を用いて、ニコチアナミンを分離して定量する分離定量工程を行うことを特徴とする植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法。
- 前記イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法が、溶離液の濃度勾配を用いたイオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法であることを特徴とする請求項1に記載の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法。
- 前記抽出工程において、抽出用溶媒が温水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法。
- 前記抽出工程を行った後に、得られた抽出液をイオン交換クロマトグラフィーにより濃縮して濃縮物を得る濃縮工程を行い、次いで、該濃縮物に対して、前記分離定量工程を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法。
- 前記イオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法が、溶離液として、ラウリル硫酸ナトリウムを含有する溶液、又はラウリル硫酸ナトリウムを含有するアセトニトリル溶液を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の植物試料におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法。
- 血液を採取する採血工程を行い、プレカラムを用いて採取した血液を処理することにより、血漿タンパクを除去するとともに滞留物を得る滞留工程を行い、次いで、該滞留物に対して、溶離液の濃度勾配を用いたイオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法を用いて、ニコチアナミン又はその誘導体を分離して定量する分離定量工程を行うことを特徴とする血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法。
- 前記採血工程を行い、前記滞留工程を行った後、カラムスイッチング法による流路切り替え工程を行い、次いで、前記滞留物に対して、分離定量工程を行うことを特徴とする請求項6に記載の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法。
- 前記溶離液の濃度勾配を用いたイオン対クロマトグラフィーによる高速液体クロマトグラフィー法が、溶離液としてラウリル硫酸ナトリウムを含有する溶液、又はラウリル硫酸ナトリウムを含有するアセトニトリル溶液を用いることを特徴とする請求項6又は7に記載の血液におけるニコチアナミンの含有量を定量する方法。
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