JP3819575B2 - リン酸セリウム系紫外線吸収剤およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リン酸セリウム系紫外線吸収剤およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、化粧料、塗料、ゴム、プラスチック、ガラス、セラミックス等の配合成分、防錆顔料、陽イオン交換体、板状体質顔料等として有用なリン酸セリウム系紫外線吸収剤およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
地表へ到達する太陽光には、紫外線として、波長域320〜400nmのUV−Aと250〜320nmのUV−Bが含まれる。これら紫外線は、生体において老化、皮膚の炎症等の原因となるばかりでなく、塗料、ゴム、プラスチック等においても退色、亀裂等の原因となり、悪影響を及ぼしている。従って、これらの紫外線を有効に遮蔽することが重要である。
【0003】
従来、無機紫外線吸収剤として、酸化チタンおよび酸化亜鉛が一般的に使用されており、その他にも、酸化セリウムも一部応用されてきている。
【0004】
しかしながら、これらの化合物の第一の問題点として、屈折率が高いために光散乱性が高く、そのため透明性に欠けることが挙げられる。つまり、一般に、化粧料、塗料等に使われるオイル、ビヒクル、プラスチック等のポリマー等は、屈折率が1.4〜1.5の範囲であるが、従来の無機紫外線吸収剤における屈折率は、ルチル型酸化チタンでは2.7、アナターゼ型酸化チタンで2.5、酸化亜鉛で2.0、酸化セリウムで2.3と高く、光散乱性が高い。従って、これらの高屈折率化合物の粒子を、化粧料、塗料等に、紫外線吸収剤として多量に配合した場合、白浮きの原因となる。そこで、紫外線吸収剤として、高い透明性を有するものが望まれていた。紫外線吸収剤として高屈折率粉体を用いた場合でも、超微粒子の分散系にすることによって透明性を向上できるが、配合量に限界がある。また、粒径0.05μm程度の超微粒子酸化チタンは、化粧料、塗料、プラスチック等の配合系の中でよく分散された状態では、UV−Bの吸収能および透明性に優れるが、UV−Aの吸収能に劣る。酸化チタンにおいては、UV−Aの吸収能を引き出すために、粒径を0.1μm程度にして、UV−A域の光散乱能を増大させる(J.Coating Technology 62,No789,95(1990) )と、結局、可視光域の光散乱も大きくなり、透明性が著しく失われてしまう。酸化亜鉛は、UV−Aの吸収能を有し、粒子形状を薄片状微粒子にすることにより、透明性も向上する(特開平1-230431号公報および特開平7-330334号公報)が、酸化亜鉛本来の屈折率が高く(n=2.0 )、透明性には限界があった。また、酸化セリウムもUV−Aの吸収能を有するため、化粧品への応用が報告されている(特開平1-190626号公報)が、同様に高屈折率に起因する問題点がある。これら以外に、紫外線吸収能のある複酸化物系として、例えば、チタン酸カルシウム(CaTiO3 )、チタン酸バリウム(BaTiO3 )等があるが、やはり屈折率がそれぞれ2.3および2.4と高い。このように、従来用いられてきたチタン、亜鉛、セリウム等の酸化物および複酸化物は全て、それ自体の屈折率が2以上であり、充分な透明性を得ることは困難である。
【0005】
第二の問題点は、光触媒活性である。従来用いられてきた酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムおよびチタン酸塩系複酸化物は、全て半導体としての性質を有し、紫外線を吸収することにより光触媒活性が現れる。そのため、化粧料、塗料、ゴム、プラスチック等に配合した場合、紫外線が当たると混在する有機物を変質させる恐れがある。特に、紫外線吸収能を高めるために超微粒子化した半導体粉末は、表面積が大きいために光触媒活性が大きくなる。従来、酸化チタン等の表面をシリカ、アルミナ等で処理し被覆することにより、触媒活性の低減を図っている。しかし、微粒子になればなるほど表面処理剤量も多く必要となり、表面処理による粒子の凝集も起こってしまうため、紫外線吸収能を維持したまま触媒活性を無くすことは不可能であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、透明性に優れ、UV−AおよびUV−Bの紫外線吸収能に優れ、光触媒活性が極めて低い、紫外線吸収剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨は、
(1) 一般式(I):
CeMx (PO4 )y Az ・nH2 O (I)
(式中、Mはカチオン性元素またはカチオン性基、Aはアニオン性元素またはアニオン性基を示し、0.2≦x≦2、1≦y≦2、0≦z≦1.5、0<n≦5である)で表され、平均粒径0.01〜1μmであるリン酸セリウム系紫外線吸収剤、
(2) 一般式(II) :
CeHv (PO4 )w ・mH2 O (II)
(式中、1.5≦v≦2.5、1.8≦w≦2.2、0<m≦5である)で表され、X線回折においてd=14〜15Åに最強回折線を有し、平均粒径0.3〜30μm、厚さ0.02〜0.5μmであるリン酸セリウム系紫外線吸収剤、
(3) リン酸イオンを含む塩基性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを、混合後のスラリーのpHが1〜11となるように混合し、生成した非晶質沈殿物のスラリーを120℃〜200℃の温度で水熱処理して熟成する前記(1)記載のリン酸セリウム系紫外線吸収剤の製造法、ならびに
(4)リン酸を含む酸性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合し、常圧下で還流する前記(2)記載のリン酸セリウム系紫外線吸収剤の製造法に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤は、一般式(I):
CeMx (PO4 )y Az ・nH2 O (I)
(式中、Mはカチオン性元素またはカチオン性基、Aはアニオン性元素またはアニオン性基を示し、0.2≦x≦2、1≦y≦2、0≦z≦1.5、0<n≦5である)で表され、平均粒径0.01〜1μmであるもの(以下、リン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)という)、および一般式(II) :
CeHv (PO4 )w ・mH2 O (II)
(式中、1.5≦v≦2.5、1.8≦w≦2.2、0<m≦5である)で表され、X線回折においてd=14〜15Åに最強回折線を有し、平均粒径0.3〜30μm、厚さ0.02〜0.5μmであるもの(以下、リン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)という)である。
【0009】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)および(2)は、いずれもリン酸第二セリウム系化合物である。
【0010】
セリウム化合物におけるセリウムイオンとしては、イオン価数が3価の第一セリウムおよび4価の第二セリウムが知られている。これら2つのうち、紫外線吸収能の点で、第二セリウムが優れていることを見出した。第二セリウムが紫外線吸収能においてより優れている理由は定かではないが、第二セリウムにおいては、4f−5d軌道間の電子遷移に加えて、セリウム原子と結合している配位原子(酸化セリウム、リン酸セリウム等では酸素原子)からの電荷移動が起こることによると考えられる。
【0011】
また、一般に、酸化物をリン酸塩に置き換えると、屈折率がかなり低下することを見出した。例えば、酸化セリウム(CeO2 )では屈折率が2.3と高いが、オルトリン酸第一セリウム(CePO4 ,monazite)では屈折率が1.8であり、この屈折率は、透明な体質顔料として使用されている硫酸バリウム(屈折率1.64)、マイカ(屈折率1.58)等に近い。屈折率が低いことによって、粉体の光散乱性が低下し、化粧品、塗料等に配合した場合、白浮きしにくくなり、透明性が出る。このように、リン酸塩の方が屈折率が低い理由の1つとして、セリウム元素のような重元素を含む化合物中において、酸素、リン等の軽元素の割合が増えることにより、化合物の密度が低下することが考えられる。
【0012】
また、セリウムのリン酸塩とすることにより、従来の無機紫外線吸収剤の大きな問題であった光触媒活性が極めて低下することが確かめられた。この理由として、従来の無機酸化物系の紫外線吸収剤は、半導体としての性質を有し、紫外線を吸収して正孔と電子の電荷分離が起こることによって光触媒活性が現れるが、リン酸塩では導電性を有するようになり、正孔と電子の電荷分離が起こりにくくなったこと等が推察される。
【0013】
リン酸塩としてはオルトリン酸塩だけでなく、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、ウルトラリン酸塩等の縮合リン酸塩があり、これらでも光触媒活性が低いことが確認されているが、縮合リン酸塩では水との接触で加水分解を起こしやすく、オルトリン酸塩が化学的安定性に優れるため、紫外線吸収剤として好適である。 本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)と(2)は、組成が若干異なり、形状が微粒状型と板状型と大きく違うため、それぞれ性質が異なり、それに応じて用途も異なってくる。
【0014】
まず、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)について、説明する。
【0015】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)は、一般式(I):
CeMx (PO4 )y Az ・nH2 O (I)
(式中、Mはカチオン性元素またはカチオン性基、Aはアニオン性元素またはアニオン性基を示し、0.2≦x≦2、1≦y≦2、0≦z≦1.5、0<n≦5である)で表され、平均粒径0.01〜1μmである。
【0016】
一般式(I)において、Ceは、前記のように紫外線吸収能に優れる点から、第二セリウムである。Ceが第二セリウムであることは、例えば、XANES(X線吸収端近傍構造)による解析を行うことで確認することができる。即ち、CeX線吸収端(L1端)には、イオン価数によって約15eVのシフトがあり、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤のXANEスペクトルを、第一セリウムの標準化合物(CePO4 )および第二セリウムの標準化合物(CeO2 )のXANEスペクトルと比較することにより、イオン価数の決定を行うことができる。
【0017】
一般式(I)において、Mはカチオン性元素またはカチオン性基であり、例えば、カチオン性元素としてはアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素等の金属元素等、カチオン性基としてはアンモニウムイオン等があげられる。これらのうち、化粧品用途として生体に無毒で紫外線吸収剤として有効な元素である点から、NaまたはKが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。ただし、製造上、原料中のアンモニウムイオン等が不純物として取り込まれてもよい。取り込まれてもよい不純物の量は、固形分に対して1重量%以下である。このような不純物が一部取り込まれても、本発明の紫外線吸収剤としての性能を損なうこことはない。
【0018】
一般式(I)において、PO4 はオルトリン酸イオンである。本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)は、前記のように、光の屈折率を低下させる観点から、リン酸塩である。また、化学的安定性に優れるため、オルトリン酸塩が用いられる。リン酸塩であることは、赤外線吸収スペクトルにおいて、900〜1200cm-1に大きな吸収をもつことから確認することができる。
【0019】
また、一般式(I)において、化合物の電気的中性を保つ観点から、Aはアニオン性元素またはアニオン性基であり、例えば、アニオン性元素としては、F、Cl、Br、O、S等があげられ、アニオン性基としては、OH、SO4 、CO3 、NO3 等があげられる。これらのうち、製造の容易性および化学的安定性の観点から、OH基が好ましい。特に、反応条件としてアルカリ側で合成された場合はOH基が取り込まれやすい。これらは、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。ただし、製造上、原料中のNO3 等が不純物として取り込まれてもよい。取り込まれてもよい不純物の量は、固形分に対して1重量%以下である。このような不純物が一部取り込まれても、本発明の紫外線吸収剤としての性能を損なうこことはない。
【0020】
一般式(I)において、xは、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の粉末の黄色への着色を減少させる観点から、0.2以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上であり、水に対する溶解性を抑制する観点から、2以下、好ましくは1.7以下、より好ましくは1.6以下である。
【0021】
一般式(I)において、yは、透明性の観点から、1以上、好ましくは1.4以上、より好ましくは1.5以上であり、紫外線吸収能の観点から、2以下、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.7以下である。
【0022】
一般式(I)において、zは、電気的中性を保つために、MおよびAのイオン価数ならびにxおよびyの値から必然的に決まる値であり、紫外線吸収能および撥水処理の困難性を回避する観点から、1.5以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは0.3以下である。
【0023】
一般式(I)において、nは水和水分子の数を示し、化合物を形成する上で必然的に水和水分子が結合するため、0より大きく、水に対する溶解性を抑制する観点および撥水処理の困難性を回避する観点から、5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2.3以下である。
【0024】
前記x、y、zおよびnの値は、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の乾燥粉末におけるCe、P、Na、K等の元素分析を行うことによって求めることができる.
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)は、以上説明したような組成を有する。
【0025】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)は微粒状型を有しており、その大きさは、平均粒径0.01〜1μmである。粒子の凝集の激化による分散の困難性を回避する観点から、0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、より好ましくは0.05μm以上であり、紫外線吸収能を効果的に発揮させる観点から、1μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下である。平均粒径は電子顕微鏡写真から求められる。
【0026】
また、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の結晶構造は、組成に応じてそのX線回折データは変化するが、特徴的な回折線が存在する。それらは、d=3.0±0.05Å、2.8±0.05Å、2.1±0.05Å、5.65±0.1Å、6.4±0.05Å、3.4±0.05Åおよび3.1±0.05Åに代表される回折線である。本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)は、これらのうち、いずれかの回折線を有している。
【0027】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の結晶構造のX線回折データは、JCPDS-International Center for Diffraction Data に該当するものがなく、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)は、新規な結晶である。
【0028】
次に、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)について説明する。
【0029】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)は、前記のように、一般式(II) :
CeHv (PO4 )w ・mH2 O (II)
(式中、1.5≦v≦2.5、1.8≦w≦2.2、0<m≦5である)で表され、X線回折においてd=14〜15Åに最強回折線を有し、平均粒径0.3〜30μm、厚さ0.02〜0.5μmである。
【0030】
一般式(II) において、Ceは、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)と同様、第二セリウムである。Ceが第二セリウムであることは、リン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)において説明したのと同様にして確認することができる。
【0031】
一般式(II) において、層状結晶構造を形成させる観点から、Hは水素原子である。
【0032】
一般式(II) において、PO4 はオルトリン酸イオンである。本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)は、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)と同様、リン酸塩である。リン酸塩であることは、リン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)と同様、赤外線吸収スペクトルにおいて、900〜1200cm-1に大きな吸収をもつことから確認することができ、さらに、1240cm-1付近にHPO4 由来の鋭い吸収を有することから確認することができる。
【0033】
一般式(II) において、vは、層状結晶構造を発達させて延展性を良好にする観点から、1.5〜2.5、好ましくは1.8〜2.2、より好ましくは1.9〜2.1である。
【0034】
一般式(II) において、wは、vと同様に層状結晶構造を発達させて延展性を良好にする観点から、1.8〜2.2、好ましくは1.9〜2.1である。
【0035】
一般式(II) において、mは水和水分子の数を示し、層状結晶構造を形成させるため、0より大きく、水に対する溶解性を抑制する観点および撥水処理の困難性を回避する観点から、5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
【0036】
前記v、wおよびmの値は、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)の乾燥粉末におけるCe、P等の元素分析を行うことによって求めることができる。
【0037】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)は、イオン交換特性を有するため、製造および処理の過程でアンモニウムイオン、カチオン性元素、リン酸基以外のアニオン性基等が取り込まれてもよい。取り込まれてもよい不純物の量は、固形分に対して1重量%以下である。このような不純物が一部取り込まれても、本発明の紫外線吸収剤としての性能を損なうことはない。
【0038】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)は、以上説明したような組成を有する。
【0039】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)の大きさは、平均粒径0.3〜30μm、厚さ0.02〜0.5μmである。平均粒径は、延展性の観点から、0.3μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、紫外線吸収能の観点から、30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。厚さは、粒子強度の低下により砕けやすくなることを防止する観点から、0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、紫外線吸収能および透明性の観点から、0.5μm以下、好ましくは0.4μm以下、より好ましくは0.3μm以下である。また、粒子形状は、延展性および透明性の観点から板状型が好ましい。粒子形状は電子顕微鏡によって観察でき、平均粒径および厚さは電子顕微鏡写真から求めることができる。
【0040】
さらに、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)は、X線回折パターンから層状結晶構造であることが確認でき、d=14〜15Åに最強の回折線を有する。また、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)の結晶構造のX線回折データは、JCPDS-International Center for Diffraction Data に該当するものがなく、新規な結晶である。
【0041】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)および(2)はいずれも透明性に優れ、光触媒活性の極めて低い紫外線吸収剤である。微粒状型のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)は、特に紫外線吸収能に優れるという性質を有する。一方、板状型のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)は、本発明の微粒状型のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)に比べ、より透明性が高く、粉末の色相において黄味成分が少ない。また、延展性に富み、肌に塗布したときの感触に優れるため、マイカ、セリサイト等の板状体質顔料として、例えば、ファンデーションのような化粧料にも用いることができる。また、本発明の板状型のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)には、パール光沢があり、化粧水や乳液のような液状化粧料にも適している。
【0042】
次に、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤の製造方法について説明する。
【0043】
まず、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の製造方法について説明する。
【0044】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の製造方法は、リン酸イオンを含む塩基性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを、混合後のスラリーのpHが1〜11となるように混合し、生成した非晶質沈殿物のスラリーを120℃〜200℃の温度で水熱処理して熟成することからなる。
【0045】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の製造方法においては、まず、リン酸イオンを含む塩基性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを、混合後のスラリーのpHが1〜11となるように混合する。
【0046】
リン酸イオンを含む塩基性水溶液としては、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アンモニウム塩等の水溶液を用いてもよいし、あらかじめリン酸水溶液を調製したのち、アルカリ水溶液を添加して塩基性にしたものを用いてもよい。前記リン酸アルカリ金属塩としては、例えばリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム等があげられ、これらのうちリン酸アルカリ金属塩の水溶性の観点から、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸三カリウムが好ましい。
【0047】
リン酸イオンを含む塩基性水溶液中のリン酸イオンの量は、過剰のリン酸および過剰のアルカリを水洗によって除去する手間を少なくする観点から、第二セリウムイオンに対してモル比で10以下、好ましくは6以下、より好ましくは4以下が望ましく、反応を完全に行う観点から、第二セリウムイオンに対してモル比で1.5以上、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上が望ましい。
【0048】
第二セリウムイオンを含む水溶液の第二セリウムイオンの原料としては、水溶性第二セリウム化合物であれば特に限定がなく、例えば、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)(Ce(NH4 )2 (NO3 )6 )、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)二水和物(Ce(NH4 )4 (SO4 )4 ・2H2 O)等が水溶性が高く、好適である。
【0049】
第二セリウムイオンを含む水溶液中の第二セリウムイオン量は、合成の効率の観点から、リン酸イオンを含む塩基性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合した反応液中の濃度が、0.03mol/kg以上、好ましくは0.05mol/kg以上、より好ましくは0.1mol/kg以上となるような量が望ましく、反応液の粘度が高くなることによる撹拌操作の困難性を回避する観点から、リン酸イオンを含む塩基性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合した反応液中の濃度が、0.5mol/kg以下、好ましくは0.3mol/kg以下、より好ましくは0.2mol/kg以下となるような量が望ましい。
【0050】
リン酸イオンを含む塩基性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合した後のスラリーのpHは、粒径が大きくなり、紫外線吸収能が低下するのを防ぐ観点、および得られるリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の粉末の黄色着色が強くなるのを防ぐ観点から、1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、得られるリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の粉末の水に対する溶解性が高くなるのを防ぐ観点から、11以下、好ましくは7以下、より好ましくは6以下である。
【0051】
リン酸イオンを含む塩基性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合する方法としては、例えば、0〜50℃で、リン酸イオンを含む塩基性水溶液を攪拌下、第二セリウムイオンを含む水溶液を5秒〜1時間程度かけて添加しながら混合する方法等があげられる。このように混合することにより、非晶質沈殿物のスラリーが生成する。
【0052】
次に、生成した非晶質沈殿物のスラリーを120℃〜200℃の温度で水熱処理して熟成する。
【0053】
非晶質沈殿物のスラリーを水熱処理する条件としては、水熱温度が、結晶性の観点から、120℃以上、好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上であり、水熱時の圧力がかかりすぎるのを防ぐ観点から、200℃以下、好ましくは190℃以下、より好ましくは185℃以下である。
【0054】
水熱処理の時間は、結晶性の観点から、1時間以上、好ましくは1.5時間以上が望ましく、製造上の効率性の観点から、10時間以下、好ましくは5時間以下が望ましい。
【0055】
以上説明したようにして、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)を得ることができる。
【0056】
水熱処理して熟成した後、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)を含むスラリーを、遠心分離等を用いて水洗する。水洗した後の本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の状態はスラリーである。本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)を水分散系で使用する際には、水洗した後のスラリーのまま使用することができる。本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の粉末を得る際には、水洗した後のスラリーを濾過、遠心分離等で濃縮し、必要があれば水をエタノール等の水溶性有機溶剤で置換したのち乾燥する。乾燥させる際の温度は100〜200℃とすることが好ましい。
【0057】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の製造方法は、高温での熱処理が不要であり、100℃の乾燥でも充分高い紫外線吸収能を有するため、製造上好都合である。
【0058】
次に、本発明リン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)の製造方法について説明する。
【0059】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)の製造方法は、リン酸を含む酸性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合し、常圧下で還流することからなる。
【0060】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)の製造方法においては、まず、リン酸を含む酸性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合する。
【0061】
リン酸を含む酸性水溶液のリン酸の原料としては、オルトリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を用いることができる。
【0062】
リン酸を含む酸性水溶液のリン酸の量は、過剰のリン酸を水洗によって除去する手間を少なくする観点から、原子比でCeに対してPが60以下、好ましくは40以下、より好ましくは30以下が望ましく、結晶化の観点から、原子比でCeに対してPが5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上が望ましい。
【0063】
リン酸を含む酸性水溶液のpHは、層状結晶構造の形成の観点から、1以下、好ましくは0.5以下が望ましい。
【0064】
第二セリウムイオンを含む水溶液の第二セリウムイオンの原料としては、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の製造方法と同様のものを用いることができる。
【0065】
第二セリウムイオンを含む水溶液中の第二セリウムイオン量は、合成の効率の観点から、リン酸を含む酸性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合した反応液中の濃度が、0.02mol/kg以上、好ましくは0.05mol/kg以上、より好ましくは0.08mol/kg以上となるような量が望ましく、反応液の粘度が高くなることによる撹拌操作の困難性を回避する観点から、リン酸を含む酸性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合した反応液中の濃度が、0.5mol/kg以下、好ましくは0.3mol/kg以下、より好ましくは0.25mol/kg以下となるような量が望ましい。
【0066】
リン酸を含む酸性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合する方法としては、例えば、0〜50℃で、リン酸を含む酸性水溶液を攪拌下、第二セリウムイオンを含む水溶液を5秒〜1時間程度かけて添加しながら混合する方法等があげられる。このように混合することにより、非晶質沈殿物のスラリーが生成する。
【0067】
次に、常圧下で還流する。還流する際の圧力は、結晶化の観点から、80kPa以上、好ましくは、90kPa以上であり、耐酸性反応容器の耐圧性の観点から、500kPa以下、好ましくは、200kPa以下であるが、特に、工業化の観点から、常圧が好ましい。
【0068】
還流する際の時間は、結晶化を確実にする観点から、2時間以上、好ましくは2.5時間以上、より好ましくは3時間以上が望ましく、製造上の効率性の観点から、20時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは10時間以下が望ましい。
【0069】
還流する際の温度は、原料濃度に依存し、特にリン酸濃度が高くなると還流温度は必然的に高くなるが、結晶化を確実にする観点から、102℃以上が望ましく、製造上の効率性の観点から、125℃以下が望ましい。
【0070】
以上説明したようにして、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)を得ることができる。
【0071】
還流した後、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)を含むスラリーを濾過等により水洗する。水洗した後の本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)の状態はスラリーである。本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)を水分散系で使用する際には、水洗した後のスラリーのまま使用することができる。本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)の粉末を得る際には、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)の製造方法において記載したのと同様に行なうことができる。
【0072】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)の製造方法は、高温での熱処理が不要であり、100℃の乾燥でも充分高い紫外線吸収能を有するため、製造上好都合である。
【0073】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0074】
尚、本実施例および比較例における測定および評価は、以下に示す方法により行った。
【0075】
(1)粒子形状および粒径の測定
走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−4000型)を用いて、試料粉末の粒子形状および平均粒径を測定した。
【0076】
(2)反射スペクトルによる紫外線吸収能の評価
試料の紫外線吸収能を判断するための一次評価として、反射スペクトルを測定した。試料粉末の重量濃度が3%になるように、試料粉末を硫酸バリウム粉末(堺化学工業製、BH)に均一に混合し、日立製作所製U−4000型分光光度計を用いて、反射スペクトルを測定した。この反射スペクトルにおける320〜400nm(UV−A)、250〜320nm(UV−B)、400〜700nm(可視光域、VIS)の平均反射率を計算した。UV−AおよびUV−B域の反射率の値が可視光域の反射率に比べて小さいほど、選択的に紫外線を吸収していることを表す。
【0077】
(3)透過スペクトルによる紫外線吸収能および透明性の評価
試料の紫外線吸収能を判断するための二次評価および試料の透明性の評価として、透過スペクトルを測定した。試料粉末の重量濃度が2%となるように、シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、SF8417)に試料をフーバーマーラーを用いて分散させ、厚さ20μmのステンレス製スペーサーを挟み込んだ2枚の石英板の間に得られた分散液を入れ、日立製作所製、U−4000型分光光度計を用いて透過スペクトルを測定した。この透過スペクトルにおける320〜400nmの平均吸光度(Abs.(UV-A)と表す)をUV−A吸収能の指標とし、250〜320nmの平均吸光度(Abs.(UV-B)と表す)をUV−B吸収能の指標とした。これらの値が大きいほど紫外線吸収能が高い。また、400〜700nmの平均吸光度(Abs.(VIS)と表す) を透明性の指標とした。 Abs.(VIS)は値が小さいほど透明性に優れる。
【0078】
(4)粉末色相の測定
試料粉末の色相(L* 、a* 、b* )を、日本電色工業製、SE−2000型分光式色彩計を用いて測定した。
【0079】
(5)X線回折パターンの測定
粉末X線回折装置(理学電気社製RAD−200型)を用いて、CuKα線、40kV、80mAで2θ=5°〜70°の範囲で、試料粉末のX線回折パターンを測定した。
【0080】
(6)X線吸収端近傍構造(XANES)の解析
テクノス製、EXAC−820型を用いて(X線出力:20kV、100〜150mA(Moターゲット)、走査エネルギー範囲:6480〜6680eV)、試料粉末のCe L1吸収端を測定しCeの価数を解析した。
【0081】
(7)BET比表面積の測定
島津製作所製、フローソーブ2300型を用いて、試料粉末のBET比表面積を測定した。
【0082】
(8)組成分析
一定量の試料粉末を、濃塩酸(35%)に少量の過酸化水素(30%)を加えて溶解させ、この溶液について、ICP発光分析法によりCeおよびPの定量分析を行った。また、Na、K等のアルカリ金属は原子吸光光度法により定量分析した。
【0083】
(9)光触媒活性の測定
0.1体積%の2−プロパノールの水溶液に、試料粉末を0.4重量%となるように超音波を用いて分散させ、このスラリー2mlを内径30mmの石英セルに封入し、セルの底面から紫外線ランプ(スペクトロライン製、ENB−260C/J型、20W、365nm)を63時間照射した。その後、スラリーを濾過し、濾液中に残存している2−プロパノールをガスクロマトグラフィー(カラム:PORAPAC Q、2m×2.6mm φ、150℃、検出器:FID)で定量した。
【0084】
実施例1
0.1molのリン酸水素二ナトリウムおよび0.05molのリン酸三ナトリウムとを溶解させた水溶液300gを、撹拌下、0.05molの硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を溶解させた水溶液200gと混合すると、直ちに非晶質沈殿物のスラリーが生成した。このスラリーのpHは5.5であった。このスラリーをテフロン容器に入れ、オートクレーブを用いて、180℃、2時間水熱処理を行った。冷却後、析出物を遠心分離およびイオン交換水への再分散を繰り返すことにより水洗し、105℃で乾燥することにより淡黄色の粉末を得た。
【0085】
得られた粉末について、前記の測定および評価(1)〜(9)全てを行なった。結果を表1および2ならびに図1および2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
この試料の電子顕微鏡写真(図1)からわかるように、粒径0.1μmの微粒状型の粉末であった。X線回折パターンを図2に示す。この粉末をXANESで解析した結果、Ceの価数は4価であることが確認された。この粉末は、表1に示された元素分析から計算された組成のように、ナトリウムを含むリン酸セリウム系化合物であった。紫外線吸収能は表1および2に示すように優れており、表2に示すように透明性にも優れるものであった。また、表2に示すように光触媒活性が極めて低かった。
【0089】
実施例2
0.12molのリン酸水素二ナトリウムおよび0.03molのリン酸三ナトリウムとを溶解させた水溶液300gを、撹拌下、0.05molの硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を溶解させた水溶液200gと混合して、非晶質沈殿物のスラリーを得た(pH4.2)。以後の操作を実施例1と同様に行って、粉末を得た。得られた粉末について、前記の測定および評価(1)、(2)、(4)、(5)および(8)を行なった。結果を表1に示す。
【0090】
実施例3
0.15molのリン酸水素二ナトリウムを溶解させた水溶液300gを、撹拌下、0.05molの硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を溶解させた水溶液200gと混合して、非晶質沈殿物のスラリーを得た(pH2.0)。以後の操作を実施例1と同様に行って、粉末を得た。得られた粉末について、実施例2と同様に測定および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0091】
実施例4
0.15molのリン酸水素三ナトリウムを溶解させた水溶液300gを、撹拌下、0.05molの硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を溶解させた水溶液200gと混合して、非晶質沈殿物のスラリーを得た(pH9.1)。以後の操作を実施例1と同様に行って、粉末を得た。得られた粉末について、実施例2と同様に測定および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0092】
実施例5
0.15molのオルトリン酸および0.33molの水酸化カリウムとを溶解させた水溶液300gを、撹拌下、0.05molの硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を溶解させた水溶液200gと混合して、非晶質沈殿物のスラリーを得た(pH2.8)。以後の操作を実施例1と同様に行って、粉末を得た。得られた粉末について、実施例2と同様に測定および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0093】
実施例6
0.15molのオルトリン酸および0.43molの水酸化カリウムを溶解させた水溶液300gを、撹拌下、0.05molの硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を溶解させた水溶液200gと混合して、非晶質沈殿物のスラリーを得た(pH6.8)。以後の操作を実施例1と同様に行って、粉末を得た。得られた粉末について、実施例2と同様に測定および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0094】
実施例7
0.3molのオルトリン酸および0.71molの水酸化カリウムとを溶解させた水溶液300gを、撹拌下、0.1molの硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を溶解させた水溶液200gと混合して、非晶質沈殿物のスラリーを得た(pH3.4)。以後の操作を実施例1と同様に行って、粉末を得た。得られた粉末について、実施例2と同様に測定および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0095】
実施例8
5.2molのオルトリン酸を溶解させた水溶液1000gを、撹拌下、0.2molの硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を水400gに溶解させた溶液と混合すると、直ちに非晶質沈殿物のスラリーが生成した。このスラリーをさらに30分間撹拌した後、105℃に昇温し、10時間還流させることにより、結晶化させた。スラリーを濾過およびイオン交換水への再分散を繰り返すことにより水洗し、105℃で乾燥させて淡黄色の粉末を得た。
【0096】
得られた粉末について、実施例1と同様に測定および評価を行なった。結果を表1および2ならびに図3および4に示す。この粉末の電子顕微鏡写真(図3)から平均粒径7μm、厚さ0.2μmの板状粒子であり、粉末X線解析(図4)から、d=14.4Åを最強回折線とする層状化合物であることがわかった。XANESの解析からCeの価数は4価であることが確認された。この粉末は、表1に示された元素分析から計算された組成を有するものであった。また、表2に示すように、透明性に優れ、光触媒活性の低いことがわかった。
【0097】
実施例9
硝酸二アンモニウムセリウムの量を2分の1にした以外は、実施例8と同様にして粉末を得た。得られた粉末について、実施例2と同様に測定および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0098】
実施例10
105℃での還流時間を2時間とした以外は、実施例8と同様にして粉末を得た。得られた粉末について、実施例2と同様に測定および評価を行なった。結果を表1に示す。
【0099】
比較例1
特開平1-230431号公報に従い、薄片状亜鉛粉末を合成した。即ち、硫酸亜鉛7水和物46gおよび硫酸ナトリウム5.4gを315mlの水に溶解させ、この溶液に、をホモミキサーによる6000rpmの強撹拌下、2N水酸化ナトリウム溶液230mlを15秒間かけて滴下した。得られたスラリーを、そのまま10分間撹拌し、それから、100℃で90分間熟成した。熟成後のスラリーを濾過およびイオン交換水への再分散を繰り返すことにより水洗した後、230℃で10時間乾燥させて、薄片状酸化亜鉛粉末を得た。得られた粉末について、前記の測定および評価(1)、(3)および(7)〜(9)を行なった。結果を表2に示す。
【0100】
比較例2
ルチル型酸化チタン微粒子(テイカ製MT600B)の粉末について、比較例1と同様に測定および評価を行なった。結果を表2に示す。ただし、酸化チタン微粒子は、標準的な試料濃度(2%)では、透過スペクトル全波長域に渡り吸光度が大きすぎたため、0.4%濃度でも行った。
【0101】
比較例3
微粒子酸化セリウム(第一稀元素化学工業製)の粉末について、比較例1と同様に測定および評価を行なった。結果を表2に示す。
【0102】
表2の透過スペクトル測定結果から、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤は、従来紫外線吸収剤として用いられている酸化亜鉛、酸化チタンおよび酸化セリウムに比べて透明性が高い(Abs.(VIS) の値が小さい)ことがわかった。特に、板状型のリン酸セリウムの透明性が高い理由としては、粒径が大きく、しかも粒子表面が平滑なため、光散乱が低く抑えられたためと考えられる。
【0103】
リン酸セリウム系の紫外線吸収能(Abs.(UV-A)およびAbs.(UV-B))は特に微粒状型の粉末が高く、酸化亜鉛よりも優れていた。
【0104】
透明性および紫外線吸収能を同時に表す指標として、可視光域の吸光度に対する紫外域の吸光度(表2の中のAbs.(UV-A)/Abs.(VIS) およびAbs.(UV-B)/Abs.(VIS) )を用いると、試料間の比較が一層明確に行える。この指標で比較すると、実施例1の本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)は、従来の紫外線吸収剤と比較して、優れた透明性および紫外線吸収能を有することがわかった。また、実施例8の本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)も粒径が大きいにもかかわらず、従来の紫外線吸収剤とほぼ同等の透明性および紫外線吸収能を有していた。さらに、本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)は、板状型の形状を有し、延展性に富み、滑りが良いため、板状体質顔料の用途としても優れている。
【0105】
光触媒活性の指標である2−プロパノール残存率は、残存率が大きいほど光触媒活性が低いことを示す。従来の紫外線吸収剤に比べ、実施例1の本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(1)および実施例8の本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤(2)は、いずれも2−プロパノール残存率が大きく、光触媒活性が低いことがわかる。
【0106】
【発明の効果】
本発明のリン酸セリウム系紫外線吸収剤は、透明性に優れ、UV−AおよびUV−Bの紫外線吸収能に優れ、光触媒活性が極めて低いという特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1で得られたリン酸セリウム系紫外線吸収剤の粉末の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】図2は、実施例1で得られたリン酸セリウム系紫外線吸収剤の粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図3】図3は、実施例8で得られたリン酸セリウム系紫外線吸収剤の粉末の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】図4は、実施例8で得られたリン酸セリウム系紫外線吸収剤の粉末のX線回折パターンを示す図である。
Claims (6)
- 一般式(I):
CeMx (PO4 )y Az ・nH2 O (I)
(式中、Mはカチオン性元素またはカチオン性基、Aはアニオン性元素またはアニオン性基を示し、0.2≦x≦2、1≦y≦2、0≦z≦1.5、0<n≦5である)で表され、平均粒径0.01〜1μmであるリン酸セリウム系紫外線吸収剤。 - カチオン性元素がNaまたはKである請求項1記載のリン酸セリウム系紫外線吸収剤。
- アニオン性基がOH基である請求項1または2記載のリン酸セリウム系紫外線吸収剤。
- 一般式(II) :
CeHv (PO4 )w ・mH2 O (II)
(式中、1.5≦v≦2.5、1.8≦w≦2.2、0<m≦5である)で表され、X線回折においてd=14〜15Åに最強回折線を有し、平均粒径0.3〜30μm、厚さ0.02〜0.5μmであるリン酸セリウム系紫外線吸収剤。 - リン酸イオンを含む塩基性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを、混合後のスラリーのpHが1〜11となるように混合し、生成した非晶質沈殿物のスラリーを120℃〜200℃の温度で水熱処理して熟成する請求項1〜3いずれか記載のリン酸セリウム系紫外線吸収剤の製造法。
- リン酸を含む酸性水溶液と第二セリウムイオンを含む水溶液とを混合し、常圧下で還流する請求項4記載のリン酸セリウム系紫外線吸収剤の製造法。
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