JP3817815B2 - 電磁着脱コネクタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電磁力によって対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタ同士を着脱する、LSI等の半導体装置を含む電子機器や精密機器、医療機器等の相互間の電気的な接続、あるいは、水中,空中,高温,低温,狭所における機器接続を行なうための電磁着脱コネクタに関し、特に、マイクロマシンの分野など、微細でかつ接点密度の高いコネクタを必要とする分野で使用可能なマイクロコネクタとして適した電磁着脱コネクタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、ハードディスク、CDメモリ、ノート型パソコン、インクジェットプリンタなどの情報通信機器の分野を中心として、機器の小型化が急速に進んでいる。それに伴って、これらの配線部分の小型化への要求も大きい。コネクタについても、メモリカードやノート型パソコン用入出力制御カードなどにおいて、小型化が推し進められている。
【0003】
より微細な部品を作成する技術として、X線リソグラフィ、めっき、モールド(鋳型形成)等の一連の工程を行なうLIGAプロセスがある。この技術を用いて作成されたマイクロコネクタの例としては、たとえば、J.Micromech.Microeng.Vol.2P.133に記載されている、ドイツ・マイクロパーツ社の試作例がある。
【0004】
図11に、この試作例の接続部分の概略図を示す。また、図11中の雌型コネクタ電極65および雄型コネクタ電極66の拡大図を図12に示す。このマイクロコネクタは、図11に示すように、雄型コネクタ68上のガイドピン70(1mm×2mm×0.25mm)を雌型コネクタ67上のガイド穴69に嵌合することによって雌型コネクタ電極65と雄型コネクタ電極66との接続が行なわれ、マイクロコネクタが機械的に保持されるものであった。
【0005】
しかしながらこのようなマイクロコネクタの構造では、雌型コネクタ電極65および雄型コネクタ電極66の接続に際して、両者相互の位置関係について精密なアライメントが必要であり、着脱操作を、顕微鏡を用いた目視によって人が直接操作するか、特別に設計された駆動装置を用いて外部から制御しなければならない。したがって、マイクロマシンに使用するような微細高密度接続では、コネクタの着脱に必要な位置精度および駆動力の制御を適切に行なうことが容易ではないという問題があった。
【0006】
上記従来技術の問題点に対処するものとして、本願と同一出願人による特願平9−6712号において、永久磁石の吸引力で、コネクタの接続状態での端子接続を維持するマイクロコネクタが提案されている。このマイクロコネクタは、図12に示す構造を有している。
【0007】
図12(b)および(d)を参照して、雄型コネクタ23において、基板25上には、堆積された導電材料からなる複数の配線層26が形成される。配線層26の一端からは、導電材料からなる雄型コネクタ電極24が突き出ている。ピン電極24の先端部はテーパー状となっている。電極24は、基板25上において、図12(b)に示すように、直線的でなく2次元的、たとえばマトリクス状に配列されており、それぞれがスペーサ27で囲まれている。
【0008】
次に、図12(a)および(c)を参照して、雌型コネクタ15において、基板17上には、堆積された導電材料からなる複数の配線層18が形成され、配線層18の一端には、それぞれ雌型コネクタ電極16が形成されている。雌型コネクタ電極16は導電材料からなり、図12(b)におけるピン電極24に対応するように、2次元的に、たとえばマトリクス状に、配列されている。雌型コネクタ電極16には、ピン電極24を電気的接続のために受容する穴16aがそれぞれ形成されている。雌型コネクタ電極16もまたスペーサ19に囲まれている。
【0009】
図12(b)の雄型コネクタ23と図12(a)の雌型コネクタ15とは、基板25と基板17とをそれぞれ電極が形成された面同士を向かい合せて重ねることにより、電気的に接続される。このとき、雄型コネクタ電極24と雌型コネクタ電極16との位置合せは、雄型コネクタ23上に設けられた磁性層28と、雌型コネクタ15上に設けられた磁性層20とを合せることによって行なわれる。それぞれ永久磁石を構成する磁性層28と磁性層20とは、互いに吸引し合い、コネクタ同士を接合させる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述のような永久磁石の吸引力を利用するマイクロコネクタでは、永久磁石間の吸引力は、その対向間隔の増加とともに急激に低下する。したがって、雌型コネクタと雄型コネクタとの接続時の接続状態を維持することは可能であるが、雌型コネクタと雄型コネクタとを近づけたり分離させたりする際には、雌型コネクタと雄型コネクタとを十分近づけない限り、それらを動かすだけの吸引力が永久磁石間に生じず、その永久磁石の吸引力を利用することができない。その結果人手による操作に依らざるを得ないことになり、人が直接手を使えない環境では、着脱操作を行なうことが困難であるという問題がある。
【0011】
また、雌型コネクタと雄型コネクタとの接合時の永久磁石同士の吸引力が強いために、それらを分離する際には、それらを互いに引き離す強い力を外部から作用させなければならないという問題もあった。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点を解消するため、人手を用いることなく、雌型コネクタと雄型コネクタとの着脱を自動的に、かつ精度良く制御可能な電磁着脱コネクタを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する、本発明の電磁着脱コネクタは、一つの局面においては、各々が可動部および固定部を有する、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタを備え、各可動部が、相互に接続可能な端子列および相互に嵌合可能なガイドを有し、可動部同士が互いに対向する状態で各固定部同士が相対的に固定状態に保持されたコネクタであって、所定方向に着磁された永久磁石と電磁石とを対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタの所定位置に配設し、可動部同士の着脱を、永久磁石に電磁石の電磁力を作用させることによって行なうことを特徴とする。
【0014】
この電磁着脱コネクタによれば、永久磁石に対して、可動部同士が近づく方向あるい互いに遠ざかる方向に電磁力を作用させるように、電磁石に電流を流すことにより、人手を用いることなく可動部同士の相対的移動のための駆動を行なうことができる。その駆動力は、電磁石に対して電流をたとえばパルス状に流すなどの方法によって、比較的容易に微調整を行なうことが可能であり、また、永久磁石による吸引力のみを用いる場合にくらべて、可動部の移動ストロークを大きく確保することができる。
【0015】
また、本発明の電磁着脱コネクタは、他の局面においては、各々が可動部および固定部を有する、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタを備え、各可動部が、相互に接続可能な端子列および相互に嵌合可能なガイドを有し、可動部同士が対向する状態で各固定部同士が相対的に固定状態に保持されたコネクタであって、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタの少なくとも一方の可動部に、所定方向に着磁された永久磁石が配設されるとともに、該永久磁石が配設された可動部側の固定部には、永久磁石の周囲を取り囲むように電磁石が固定され、電磁石の電磁力を永久磁石に作用させて可動部同士を駆動することによって、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタ同士を着脱することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、電磁石に所定の電流を流すことにより電磁石の内側に配された永久磁石の位置に発生する磁束によって、永久磁石に電磁力を作用させることになるため、効率よく電磁石による駆動力を永久磁石に印加することができる。その結果、コネクタの着脱のためのストロークをより大きく確保できるとともに、駆動力の調整もより容易に行なうことが可能になる。
【0017】
この電磁着脱コネクタの好ましい実施例においては、可動部の相対的移動方向に永久磁石よりも長い内部空間を有するとともに、該方向の両端が閉塞された筒状部材を、永久磁石を配設する側の可動部に固定し、各永久磁石が、各筒状部材の内部空間内において軸方向にスライド可能に配されている。
【0018】
このような構成を有することにより、雌型コネクタと雄型コネクタとの接続状態から分離する際に、可動部同士の相対的な位置を変えることなく、電磁石にの電磁力によって筒状部材内の永久磁石同士の間隔を引き離すことができる。したがって、雌型コネクタと雄型コネクタとを接続したままの状態で、両者間の接合力を大きく低下させることができるため、両者の分離をより容易に行なわせることができる。
【0019】
また、この電磁着脱コネクタにおいては、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタの各々の可動部に、相互に吸引力を発生する方向に着磁された永久磁石を配設することにより、可動部同士の接続時において、永久磁石同士の吸引力によって接続を維持するようにしている。
【0020】
本発明の電磁着脱コネクタは、さらに他の局面においては、各々が可動部および固定部を有する、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタを備え、各可動部が、相互に接続可能な端子列および相互に嵌合可能なガイドを有し、可動部同士が略同軸に配されて対向する状態で各固定部同士が相対的に固定状態に保持された、コネクタであって、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタの少なくとも一方の可動部に、鉄心のまわりにコイルを巻き付けた電磁石を固定するとともに、該電磁石を固定した可動部側の固定部には、鉄心と略同軸に、コイルを取り囲むように配されたリング状の永久磁石を固定し、電磁石の電磁力を永久磁石に作用させて可動部同士を相対的に移動させることにより、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタ同士を着脱することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、電磁石に所定の電流を流すことにより電磁石を取り囲む永久磁石の位置に発生する磁束によって、永久磁石に電磁力を作用させることになるため、効率よく電磁石による駆動力を永久磁石に作用させることができる。その結果、コネクタの着脱のためのストロークをより大きく確保できるとともに、駆動力の調整もより容易に行なうことが可能になる。
【0022】
この電磁着脱コネクタの好ましい実施例においては、リング状の永久磁石が、鉄心の中心軸の径方向に着磁されている。
【0023】
また、この電磁着脱コネクタのさらに好ましい実施例においては、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタの両方の可動部に、互いに略同軸に配された棒状の対をなす鉄心と、該鉄心のまわりに巻き付けたコイルとを有する電磁石を固定するとともに、両方の固定部に、各々の電磁石のコイルを取り囲むように配された、対をなすリング状の永久磁石を固定し、対をなす永久磁石を互いに逆方向に着磁し、永久磁石からの磁束を対をなす鉄心内に集めて対をなす鉄心同士の吸引力を発生させることによって、可動部同士の接続時における接続を維持するようにしている。
【0024】
本発明の電磁着脱コネクタは、可動部に、対応する固定部に対して相対的に、可動部同士の接続を解除する方向に付勢力を作用する弾性力印加手段をさらに備えることにより、対をなす可動部が互いに接続された状態から分離する際に必要な、電磁石が作用すべき電磁力を低減することができ、その結果、コネクタの接続と分離を容易に行なわせることが可能となる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0026】
本発明の第1の実施の形態の電磁着脱コネクタ(以下、「コネクタA」とする)は、図1に示すように、雌型コネクタ3と雄型コネクタ4とを、互いにその端子31,41およびガイド32,42を円周状に設けた端子基板33,43同士を対向させた状態で配設している。端子基板33,43のそれぞれには、スペーサ34a,44aとスペーサ34b,44bとの間に挟むようにして、円柱状の永久磁石35,45が固定されている。
【0027】
また、雌型コネクタ3および雄型コネクタのそれぞれは、永久磁石35,45の周りを取り囲むように設けられたリング状の鉄心36a,46aおよび励磁コイル36b,46bからなる電磁石36,46を有しており、これらの電磁石36,46は相対的に固定されていて、本発明の固定部を構成する。また端子基板33,43および永久磁石35,45は、電磁石36,46に対して、その中心軸方向、すなわち図1に示すx軸方向に相対的に移動可能に保持されており、本発明の可動部を構成する。また、永久磁石35,45は、その中心軸方向に、互いに吸引し合うように着磁されている。
【0028】
このように構成されるコネクタAは次のように動作する。まず、図1に示すような、雌型コネクタ3と雄型コネクタ4とが分離した状態において、対をなす永久磁石35,45が互いに近づく方向の電磁力を受けるように、電磁石36,46の励磁コイル36b,46bに所定の電流を流すことにより、永久磁石35,45が互いに近づき、やがて雌型コネクタ3と雄型コネクタ4とが接続状態となる。この状態では、永久磁石35,45間の間隔が極めて小さくなるため、電磁石36,46の励磁電流を切った後も、永久磁石35,45自体の相互の吸引力によって、雌型コネクタ3と雄型コネクタ4とが安定して接続状態に保持されることになる。
【0029】
接続状態にある雌型コネクタ3と雄型コネクタ4とを分離する際には、対をなす永久磁石35,45が互いに遠ざかる方向の電磁力を受けるように、電磁石36,46の励磁コイル36b,46bに所定の励磁電流を流すことにより、永久磁石35,45が互いに遠ざかるように駆動され、やがて雌型コネクタ3と雄型コネクタ4との接続ガ解除される。この状態では、永久磁石35,45間の間隔が比較的大きくなるため、永久磁石35,45自体の相互に作用する吸引力は極めて小さくなり、電磁石36,46の励磁電流を切った後も。雌型コネクタ3と雄型コネクタ4との分離状態が安定して保持される。
【0030】
雌型コネクタ3と雄型コネクタ4との着脱のための駆動力や駆動ストロークの調整は、電磁石36,46に印加する励磁電流を変化させたり、永久磁石35,45の長さを適宜変えることによって容易に実現可能である。また、たとえば、雌型コネクタ3側が永久磁石35および電磁石36のいずれも有しない場合であっても、雄型コネクタ4側の永久磁石45および電磁石46の軸方向長さを十分確保することによて、雄型コネクタ4側の電磁石46の励磁のみで、着脱可能な駆動ストロークを得ることができる。
【0031】
次に、本発明の第2の実施の形態の電磁着脱コネクタ(以下、「コネクタB」とする)について、図2に基づいて説明する。コネクタBは、図2に示すように、端子基板33,43、永久磁石35,45および電磁石36,46を備える点で、上記コネクタAと共通しており、永久磁石35,45の着磁方向もコネクタAと同様である。コネクタBがコネクタAと異なるのは、永久磁石35,45がそれぞれ、その軸方向長さよりも長い柱状空間を有する、両端が閉塞された筒状部材37,47の柱状空間内に、摺動可能に配されている点である。
【0032】
このコネクタBの動作は、図5を用いて次のように説明される。図2に示す初期の離れた状態から、たとえば雄型コネクタ4の電磁石46が励磁されると、永久磁石45に電磁力が作用して、永久磁石45が筒状部材47内の柱状空間を雌型コネクタ3側へ向かって滑り、筒状部材47の雌型コネクタ3側閉塞端に当接する。その結果、筒状部材47が雌型コネクタ3側へ押されて、雌型コネクタ3と雄型コネクタ4との端子基板33,43間距離が短くなる。端子基板33,43間距離が短くなると、永久磁石35,45自体の磁力による相互吸引力が大きくなって、端子31,41同士が図5(a)に示すように接合され、永久磁石35,45同士の吸引力によって接合状態が保持される。
【0033】
この接合状態から、永久磁石35,45が互いに遠ざかる方向に電磁力が作用するように電磁石36,46を励磁すると、永久磁石35,45は、速やかに筒状部材37,47内を互いに遠ざかる方向に摺動して、図5(b)に示すように、永久磁石35,45間の距離が広がった状態になる。このように永久磁石35,45間の距離が広がると、永久磁石35,45間の吸引力が大幅に低下することになるため、端子31,41同士を容易に分離することができるようになる。
【0034】
次に、本発明の第3の実施の形態の電磁着脱コネクタ(以下、「コネクタC」とする)について、図3に基づいて説明する。コネクタCは、図3に示すように、端子基板33,43を備えており、また、永久磁石39,49と電磁石38,48との電磁力によって雌型コネクタ3、雄型コネクタ4を駆動し、両者間の着脱を行なう点で、上記コネクタA,Bと共通している。コネクタCがコネクタA,Bと異なるのは、棒状の鉄心38a,48aを端子基板33,43の中央に設けた穴に嵌合固定し、その周りに励磁コイルを38b,48bを巻いて電磁石38,48を構成するとともに、励磁コイルを38b,48bの周りを囲む位置に、対をなすリング状の永久磁石39,49を相互に固定した状態で配設している点である。すなわち、雌型コネクタ3および雄型コネクタ4のそれぞれの可動部側に電磁石38,48を配し、それぞれの固定部側に永久磁石39,49を配したものである。
【0035】
この実施の形態の構成によれば、電磁石38,48に所定の励磁電流を流すことによって、電磁石38,48と永久磁石39,49との間に中心軸方向の相対的電磁力が発生し、その結果可動部側の電磁石38,48同士が互いに近づく方向あるいは遠ざかる方向に駆動され、上記コネクタA,Bと同様に雌型コネクタ3と雄型コネクタ4との着脱動作を行わせることができる。
【0036】
この実施の形態においては、永久磁石39,49の着磁方向を、その半径方向、すなわち鉄心38a,48aの中心軸から放射状に延びる方向とすることが好ましい。
【0037】
次に、本発明を適用した場合の効果を実証するため、コネクタAないしCのそれぞれの電磁力による着脱特性を、図4に示す比較例であるコネクタDとの対比によって説明する。図4に示す比較例は、鉄心38a,48aと励磁コイル38b,48bとからなる電磁石38,48を、端子基板33,43の中央に設けた穴に嵌合固定して、雌型コネクタ3および雄型コネクタ4の可動部を構成したものであり、図示を省略した固定部側には、永久磁石は配設されていない。
【0038】
この実験に用いたコネクタAないしDの具体的寸法仕様、各永久磁石の磁気特性、および各電磁石に印加された励磁電流を、下記の表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示した条件で、雄型コネクタ側の電磁石を励磁した場合の、雄型コネクタの端子を駆動させる電磁力を実測した結果を、図6のグラフに示す。図6においては、横軸に雄型コネクタ4の端子位置x、縦軸に雄型コネクタ4の端子を駆動させる電磁力Fをとって、その関係を表している。雄型コネクタ4の端子位置xは、x=0において雌型コネクタ3から最も遠い位置にあり、xが増加するにつれて両者が近づいていることを意味している。また、記号gは、図1ないし4に示すように、雌型コネクタ3と雄型コネクタ4とが最も離れた状態での、雌型コネクタ3のガイド32先端と雄型コネクタ4の端子基板43表面との距離(いわゆる初期ギャップ)を示しており、図6のグラフにおいてx=g/2となるのは、電磁石の励磁によって雄型コネクタ4の可動部が、初期ギャップgの半分の距離だけ雌型コネクタ3に近づいた位置にあることを意味している。この実験に用いたコネクタAないしDの距離gとして0.7mmを採用しており、x=g/2はx=0.35mmの位置であることを意味する。
【0041】
図6のグラフからわかるように、比較例としてのコネクタDにおいては、雌型コネクタ3からの雄型コネクタ4の距離が最も大きい初期位置(x=0)のとき、発生磁力が極めて小さくなるのに対して、本発明品であるコネクタAないしCでは、同じ初期位置において比較的大きな磁力が発生する。したがって、コネクタAないしCを用いることによって、コネクタDを用いた場合に比べて、端子を着脱可能なストロークの範囲を比較的大きく確保することができる。
【0042】
図7には、可動部側と固定部側との相対的保持の一態様を、コネクタAの雌型コネクタ3を例にとって示している。この例においては、固定部側の電磁石36を固定台51上面に固定し、端子基板33および永久磁石35を含む可動部側を、固定台51の下部に一端を固定した板ばね52の他端に取り付けたものである。このように、板ばね52を介在させて可動部側と固定部側との相対的保持を行なうことにより、たとえば、コネクタの接続状態において分離する方向に作用する板ばね52の復元力によって、コネクタの分離動作をより容易に行なうことが可能になるなど、板ばね52の弾性復元力、磁力および端子間挿抜力を調整することによって、着脱の操作性をより向上することができる。なお、可動部側と固定部側との相対的保持のために介在させる弾性復元力を印加する手段として、必ずしも板ばねを用いる必要はなく、たとえばコイルばねなどの他の弾性部材を介在させることによっても、同様の作用効果を実現可能であることは言うまでもない。
【0043】
端子構造については、コネクタAの対をなす可動部のみを斜視図で示した図8に示すように、雌型コネクタおよび雄型コネクタのそれぞれの接続面内に円周状に配列された端子列を円筒形ガイドが同心状に取り囲み、中心に磁石を配置することによって、アライメント裕度が大きくなり、その結果着脱がより容易になるという利点がある。
【0044】
しかしながら、コネクタAないしCはいずれも、雌型コネクタ3側が雄型コネクタ4と同様の磁石構造を有する必要はなく、固定部として単に端子基板に端子列およびガイドを設けたものを用いることもできる。また、雌型コネクタ3および雄型コネクタ4ともに、上記各実施の形態のようなほぼ軸対称の構造である必要はなく、たとえば、可動部側に取り付けた棒状の永久磁石の周りを固定部側の電磁石が囲む構造、あるいは可動部側に取り付けた電磁石を取り囲む形状の永久磁石を固定部側に取り付ける構造であれば、軸対称以外のものに本発明を適用することもできる。さらに、棒状あるいはリング状の永久磁石の長さを適宜変更することによって、雌型コネクタおよび雄型コネクタ間の初期ギャップgに応じて、着脱のための駆動ストロークを調整することができる。
【0045】
上述した各実施の形態のコネクタを、マイクロマシン用コネクタのように微細な多ピンのコネクタに適用する場合には、上記従来の技術の項で述べたLIGA法を用いて、端子基板上に端子列およびガイドを形成することが有効である。
【0046】
図9に、LIGA法を用いた雌コネクタの製造プロセスの一具体例を、その端子部分のみを拡大して示す。固定電極の製作は、雄コネクタの場合と同様に、基板上への密着層の形成、レジストの塗布、SRリソグラフィー、およびめっきの工程を経て行なわれる。ストッパおよび配線も同様である。したがって、図ではスプリング電極の形成方法を特に示す。まず、図9(a)に示す用に、基板130上に、密着層131および犠牲層132のパターンを形成する。犠牲層とは、プロセスの最後でウエットエッチングにより除去する層であり、たとえばチタンや銅によって形成される。次に、図9(b)に示すように、基板130上にレジスト133を塗布する。SRリソグラフィーを行ない、現像の後、図9(c)に示すようなレジストパターンが得られる。このパターンは、雌コネクタの端子に対応する形状を有するものである。次いで、図9(d)に示すように、ニッケルめっきを行なって、堆積されたニッケル134の表面を研磨する。図9(e)に示すようにレジストを除去した後、犠牲層132をウエットエッチングにより除去すれば、図9(f)に示すようにニッケル134の一部が基板130から浮いた構造が得られる。この浮いた部分が、端子電極のスプリング部となる。犠牲層がチタンまたは銅で形成される場合、ウエットエッチングには、それぞれフッ酸または塩酸が用いられる。次いで、基板上に永久磁石を接着すれば、雌コネクタが完成する。
【0047】
図9(b)に示したSRリソグラフィー工程において用いたX線マスクとして、図10(a)に示すものが用いられる。また、雄型コネクタ側の端子列およびガイドの形成には、図10(b)に示すものが用いられる。図10(a)(b)のそれぞれにおいて、斜線を施した部分はマスクの支持層のみの部分、それ以外の部分は、X線の吸収体層を含む部分である。吸収体層を含む部分はX線を透過せず、支持層のみの部分がX線を透過することにより、所望のレジストパターンが形成される。このLIGA法により、深いX線リソグラフィーで、微細かつ高アスペクト比のレジスト構造の形成が可能であり、そこへ厚膜のメッキをすることにより、金属構造体がえられる。上述のように、この金属構造体をそのまま端子やガイド構造として用いることができるだけでなく、その金属構造体を金型として樹脂モールドし、その樹脂型にめっきして、端子列およびガイド構造を形成することも可能である。
【0048】
なお、今回開示された実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、前掲の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0049】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の電磁着脱コネクタによれば、永久磁石に対して電磁石の電磁力を作用させることにより、人手を用いることなく可動部同士の相対的移動のための駆動を行なうことができる。その駆動力は、比較的容易に微調整を行なうことが可能であり、また、永久磁石による吸引力のみを用いる場合にくらべて、可動部の移動ストロークを大きく確保することができる。このようなコネクタは、マイクロマシン分野などでのマイクロコネクタに適用する場合に特に大きな効果が期待されるが、本発明の特徴は、それが適用されるコネクタ自体の大きさとは関わりなく発揮しうるものであり、マイクロコネクタ以外のコネクタに適用した場合にも同様の効果を奏しうることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態の電磁着脱コネクタ(コネクタA)の、雌型コネクタと雄型コネクタとが分離された状態を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の電磁着脱コネクタ(コネクタB)の、雌型コネクタと雄型コネクタとが分離された状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態の電磁着脱コネクタ(コネクタC)の、雌型コネクタと雄型コネクタとが分離された状態を示す断面図である。
【図4】永久磁石を含まない比較例の電磁着脱コネクタ(コネクタD)の、雌型コネクタと雄型コネクタとが分離された状態を示す断面図である。
【図5】図2に示したコネクタBの着脱動作を説明するための図であり、(a)は接合状態の断面図を、(b)は接合状態から分離させる動作を開始させた直後の状態の断面図をそれぞれ示している。
【図6】コネクタAないしDの雄型コネクタ側の電磁石に励磁電流を印加したときの、雄型コネクタ側の端子位置xと、雄型コネクタ側の端子を雌型コネクタ側へ駆動する磁力Fとの関係を実測した結果を示すグラフである。
【図7】図1に示したコネクタAの雌型コネクタの電磁石を含む固定部と、端子基板および永久磁石を含む可動部とを、板ばねを介して相対的に保持した構造の一例を示す斜視図である。
【図8】図1に示したコネクタAの、雌型コネクタ側および雄型コネクタ側の双方の、端子基板および永久磁石を含む可動部同士が、分離された状態で対向する様子を示す斜視図である。
【図9】(a)ないし(f)は、図1ないし図3に示した本発明の各実施の形態の雌型コネクタのLIGA法による製造工程を、端子部のみを拡大して順次示す断面図である。
【図10】図8に示した構造のコネクタの端子列およびガイドを、図9に示すLIGA工程によって形成するために使用されるX線マスクを示す図であり、(a)は雌型コネクタ用、(b)は雄型コネクタ用のマスクを示している。
【図11】(a)は、LIGA法によって製造された従来のマイクロコネクタの雌型コネクタおよび雄型コネクタの接続部近傍の斜視図、(b)は、(a)の雄型コネクタ電極および雌型コネクタ電極の接続部近傍を拡大して示す斜視図である。
【図12】(a)および(b)は、特願平9−6712号において提案されたマイクロコネクタの雌型コネクタおよび雄型コネクタを示す平面図、(c)は、(a)中のE−E線に沿う断面図で、(d)は(b)中のF−F線に沿う断面図である。
【符号の説明】
3 雌型コネクタ
4 雄型コネクタ
31,41 端子
32,42 ガイド
33,43 端子基板
34a,34b,44a,44b スペーサ
35,39,45,49 永久磁石
36,38,46,48 電磁石
36a,38a,46a,48a 鉄心
36b,38b,46b,48b 励磁コイル
37,47 筒状部材
Claims (7)
- 各々が可動部および固定部を有する、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタを備え、各前記可動部が、相互に接続可能な端子列および相互に嵌合可能なガイドを有し、前記可動部同士が互いに対向する状態で各固定部同士が相対的に固定状態に保持された、コネクタであって、
前記対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタの各々の前記可動部に永久磁石を、各々の前記固定部に電磁石をそれぞれ配設し、前記可動部同士の着脱を、前記永久磁石に前記電磁石の電磁力を作用させることによって行ない、
各々の前記可動部に配設された永久磁石が、相互に吸引力を作用する方向に着磁されていることにより、前記可動部同士の接続時において、前記永久磁石同士の吸引力によって接続を維持するようにした、電磁着脱コネクタ。 - 各々が可動部および固定部を有する、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタを備え、各前記可動部が、相互に接続可能な端子列および相互に嵌合可能なガイドを有し、前記可動部同士が対向する状態で各固定部同士が相対的に固定状態に保持された、コネクタであって、
前記対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタのそれぞれの前記可動部に、永久磁石が配設されるとともに、それぞれの前記固定部には、前記永久磁石の周囲を取り囲むように電磁石が固定され、前記電磁石の電磁力を前記永久磁石に作用させて前記可動部同士を駆動することによって、前記対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタ同士を着脱するように構成され、
一方の前記可動部側に配設された前記永久磁石と、他方の前記可動部側に配設され前記永久磁石とは、相互に吸引する方向に着磁された、電磁着脱コネクタ。 - 前記可動部の相対的移動方向に前記永久磁石よりも長い内部空間を有するとともに、該方向の両端が閉塞された筒状部材を、前記永久磁石を配設する側の前記可動部に固定し、前記各永久磁石が、前記各筒状部材の前記内部空間内において軸方向にスライド可能に配された、請求項2記載の電磁着脱コネクタ。
- 各々が可動部および固定部を有する、対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタを備え、各前記可動部が、相互に接続可能な端子列および相互に嵌合可能なガイドを有し、前記可動部同士が略同軸に配されて対向する状態で各固定部同士が相対的に固定状態に保持された、コネクタであって、
前記対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタの少なくとも一方の可動部に、鉄心のまわりにコイルを巻き付けた電磁石を固定するとともに、該電磁石を固定した可動部側の前記固定部には、前記鉄心と略同軸に、前記コイルを取り囲むように配されたリング状の永久磁石を固定し、前記電磁石の電磁力を前記永久磁石に作用させて前記可動部同士を相対的に移動させることにより、前記対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタ同士を着脱する、電磁着脱コネクタ。 - リング状の前記永久磁石が、前記鉄心の中心軸の径方向に着磁された、請求項4記載の電磁着脱コネクタ。
- 前記対をなす雌型コネクタおよび雄型コネクタの両方の前記可動部に、互いに略同軸に配された棒状の対をなす鉄心と、該鉄心のまわりに巻き付けたコイルとを有する電磁石を固定するとともに、両方の前記固定部に、各々の電磁石のコイルを取り囲むように配された、対をなすリング状の永久磁石を固定し、
前記対をなす永久磁石を互いに逆方向に着磁し、前記永久磁石からの磁束を前記対をなす鉄心内に集めて前記対をなす鉄心同士の吸引力を発生させることによって、前記可動部同士の接続時における接続を維持するようにした、請求項4または5記載の電磁着脱コネクタ。 - 前記可動部に、対応する前記固定部に対して相対的に、可動部同士の接続を解除する方向に付勢力を作用する弾性力印加手段をさらに備えた、請求項1ないし6のいずれかに記載の電磁着脱コネクタ。
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