本発明のガラス複合材料は、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に架橋されており、電圧/膜厚比を106V/cmに設定して円平板電極法(JIS C2151)で測定された体積抵抗率が3×106Ω・cm以下であることを特徴とするものである。
本発明の他のガラス複合材料は、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されて硬化しており、かつ220〜1200nmの波長範囲の光に対してコヒーレンスを保持する成形体であることを特徴とするものである。
本発明のさらに他のガラス複合材料は、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されて硬化しており、かつCu管球をX線源とするX線回折により2θ=27〜30、46〜49、55〜58°の範囲にピークが観測されるシリコン結晶に起因するシグナルの面積が全シグナルの合計面積の1%以下であることを特徴とするものである。
これらのガラス複合材料に関しては、鉛筆引っかき試験法(JIS K5401)による表面硬度が3B以上であることが好ましい。
本発明のガラス複合材料では、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖が、このポリマー鎖を構成する一置換あるいは二置換のSi、GeあるいはSn原子上にて、金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に架橋されている。ここで、ガラスマトリックスとの架橋点となるSi、GeあるいはSn原子は、主鎖上にあるものに限らず、例えば分枝鎖上にある場合も含む。
本発明のガラス複合材料は、(A)ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖が、ポリマー側鎖に導入された極性基を介して、金属酸化物からなるガラスマトリックスと化学的に架橋した構造のものでもよいし、(B)ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖が、ポリマー鎖に直接結合した酸素原子によって互いに架橋し、この酸素原子を介してのケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子間の結合がガラスマトリックスを形成している構造のものでもよい。
本発明のポリマー組成物は上述したガラス複合材料の前駆体であり、側鎖に水酸基、アルコキシル基、アミノ基、アンモニウム基、イミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ニトロ基、チオール基、チオエーテル基、チオエステル基、カルバメート基、スルホニル基、スルホキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基およびヨード基からなる群より選択される少なくとも1種の極性基が導入された、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマーと、金属酸化物、金属アルコキシド、金属水酸化物、金属キレート化合物、金属カルボン酸塩、金属ハロゲン化物および金属水素化物からなる群より選択される少なくとも1種とを含有することを特徴とするものである。
本発明の他のポリマー組成物は、下記一般式(I)または(II)
(上記式中、MはSi、GeおよびSnから選択される少なくとも1種の原子、R1およびR2は水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選択され、同種でも異種でもよく、R1およびR2の炭素数は1〜15である。)
で表される繰返し単位を有するポリマーと、金属酸化物、金属アルコキシド、金属水酸化物、金属キレート化合物、金属カルボン酸塩、金属ハロゲン化物および金属水素化物からなる群より選択される少なくとも1種とを含有することを特徴とするものである。
本発明のポリマー化合物は上述したガラス複合材料の前駆体であり、下記一般式(I)または(II)
(上記式中、MはSi、GeおよびSnから選択される少なくとも1種の原子、R1およびR2は水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選択され、同種でも異種でもよく、R1およびR2の炭素数は1〜15である。)
で表される繰返し単位を有することを特徴とするものである。なお、上述したように、このポリマー化合物は、金属酸化物、金属アルコキシド、金属水酸化物、金属キレート化合物、金属カルボン酸塩、金属ハロゲン化物あるいは金属水素化物と併せて前駆体組成物として用いることも可能である。
上記一般式(I)または(II)で表される繰返し単位を有するポリマーは、下記一般式(III)または(IV)
(上記式中、MはSi、GeおよびSnから選択される少なくとも1種の原子、R11、R12、R13およびR15は水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選択され、同種でも異種でもよく、R14は置換または非置換のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選択され、R11〜R15の炭素数は1〜15である。)
で表される繰返し単位を有するものであることが特に望ましい。
本発明の含窒素複合材料は、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、有機または無機マトリックスとを有し、前記ポリマー鎖がポリマー主鎖上のSi、GeまたはSnに直接結合した窒素原子を介して、前記有機または無機マトリックスで化学的に架橋されていることを特徴とするものである。
本発明の含窒素複合材料としては、より具体的には、(C)ポリシラン、ポリゲルマン、ポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、例えばアニリン樹脂、ポリアニリンもしくはポリピロールまたはこれらの混合物もしくは共重合体からなる有機マトリックスとを有し、ポリマー主鎖上のSi、GeまたはSn原子と有機マトリックス中の窒素原子とが直接結合を形成して架橋した構造でもよいし、(D)ポリシラン、ポリゲルマン、ポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属−窒素−金属結合を含有し網状構造をなす無機マトリックスとを有し、ポリマー主鎖上のSi、GeまたはSn原子と無機マトリックス中の窒素原子とが直接結合を形成して架橋した構造でもよいし、(E)ポリシラン、ポリゲルマン、ポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖が、ポリマー鎖上のSi、GeまたはSn原子に直接結合した窒素原子を介して相互に化学的に架橋して、M−N−M(MはSi、GeまたはSn原子)結合を含有する無機マトリックスを形成した構造でもよい。
本発明の発光素子は、1対の電極間に発光層を有する発光素子において、前記発光層が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されており、M原子(ただし、MはSi、GeおよびSnから選択される少なくとも1種)の4本の結合手が全てM−M結合を形成するM原子がM原子組成比で10%未満であるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものである。
本発明の他の発光素子は、1対の電極間に発光層および電荷輸送層を有する発光素子において、前記電荷輸送層が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されてなるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものである。
これらの発光素子においては、ガラス複合材料が、原子組成比で0.1%以上のC原子を含有するものであることが好ましい。
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に、電荷発生層と電荷輸送層とを有する電子写真感光体において、前記電荷輸送層が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されてなるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものである。
本発明の非線形光学素子は、非線形光学現象発生部と光導波部とを有する非線形光学素子において、少なくとも前記非線形光学現象発生部が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されており、かつCu管球をX線源とするX線回折により2θ=20〜60°の範囲にピークが観測されるシリコン結晶、ゲルマニウム結晶およびスズ結晶に起因するシグナルの面積が全シグナルの合計面積の1%以下であるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものである。
本発明のレーザー素子は、レーザー媒質と、このレーザー媒質を介して対向配置された1対のミラーからなる共振器と、前記レーザー媒質を励起するための励起手段とを有するレーザー素子において、前記レーザー媒質が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されており、かつCu管球をX線源とするX線回折により2θ=20〜60°の範囲にピークが観測されるシリコン結晶、ゲルマニウム結晶およびスズ結晶に起因するシグナルの面積が全シグナルの合計面積の1%以下であるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものである。
なおこれらの光電子デバイスにおいては、上述したような体積抵抗率、コヒーレンスおよびシリコン結晶、ゲルマニウム結晶またはスズ結晶のピーク比を満足することが望ましいが、これらをすべて満足する必要があるわけではなく、例えば電子写真感光体における電荷輸送層では体積抵抗率が3×106Ω・cmを超えても、実用上何ら差し支えない。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお以下の説明では簡略化のために、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体を、ポリシラン類と総称する場合がある。
本発明のガラス複合材料は、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖が、金属−酸素−金属の結合を有し網状構造をなすガラスマトリックスで架橋されたものである。上述したように、このガラス複合材料は、(A)ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖が、ポリマー側鎖に導入された極性基を介して、金属酸化物からなるガラスマトリックスと化学的に架橋した構造のものでもよいし、(B)ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖が、ポリマー鎖に直接結合した酸素原子によって互いに架橋し、この酸素原子を介してのケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子間の結合がガラスマトリックスを形成している構造のものでもよい。
まず、上記(A)の構造を有するガラス複合材料について説明する。この構造を有するガラス複合材料は、例えば側鎖に水酸基、アルコキシル基、アミノ基、アンモニウム基、イミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ニトロ基、チオール基、チオエーテル基、チオエステル基、カルバメート基、スルホニル基、スルホキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基からなる群より選択される少なくとも1種の極性基が導入されたポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマーと、金属アルコキシドなどの金属酸化物ゾル形成物質とを含有する前駆体組成物を用い、ゾル−ゲル法などにより製造される。
原料の一成分であるポリシラン類は、側鎖に上述した極性基を有するものであれば、どのようなものであってもよい。したがって、ポリマー主鎖がポリシラン、ポリゲルマンまたはポリスタナンの単独重合体からなるものでもよいし、これらの共重合体からなるものでもよい。また、ポリマー主鎖がこれらのポリマーとこれら以外のポリマー例えばポリシロキサン(シリコーン)、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルなどとのブロック共重合体からなるものでもよい。またポリマー鎖の形態は、一次元鎖、分岐鎖、ラダー状、三次元鎖のいずれでもよい。ただし、三次元鎖はポリシラン類の主鎖がそれ自体でからまった状態であるので、架橋が十分に行なわれにくい可能性があるため、三次元鎖以外の形態であることが好ましい。重合度についても特に限定されないが、主鎖におけるSi、Ge,Snなどの原子の連鎖個数nが6〜100000であることが好ましく、さらには10〜10000であることがより好ましい。この理由は、nが小さすぎるとポリシラン類本来の機能発現が妨げられ、逆にnが大きすぎると溶媒に対する溶解性が低下してガラス複合材料の調製が困難になるからである。
また、ポリシラン類として環状構造を主鎖構造に持つ環状ポリシラン類を用いることもできる。特に5員環や6員環の環状ポリシラン類は結合角などの関係から環状構造自体が安定である。こうした安定な環状構造体が更に架橋によって強化されることによって、従来にない耐久性を有するポリシラン類が得られる。更にこうした比較的小員環の環状化合物や例えばオクタシラキュバン類のような直方体状の環状構造を有するポリシラン類が相互に金属酸化物の網目構造で架橋されると、環のひずみにより金属酸化物中に非常に微細なエネルギー準位の異なる0次元的なポリシラン類が分散された構造体となる。こうした構造体は量子細点(quantum dot)を形成し、これに起因する非線形光学効果などの様々な特異な量子効果を示し、非常に有効である。このような環状または直方体状のポリシラン類を用いる場合には、必ずしも上述した連鎖個数nの範囲に限定されるものではない。
ポリシラン類の側鎖に導入される極性基としては、より具体的には以下のようなものが挙げられる。
(上記置換基中のRは置換または非置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基およびシリル基から選択され、同種でも異種でもよい。)
また、これらの極性基を有するポリシラン類としてはより具体的には以下のようなものが挙げられる。
ただし、ポリマー鎖のガラスマトリックスへの固定効果をより強力にするためには、反応に寄与する官能基がポリマー鎖に直接結合しているものが望ましい。特に、アルコキシル基、チオエーテル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などは、Si、Ge、SnなどのM原子に直接結合することによって脱離能が高まり、金属酸化物マトリックスとポリシラン類との共有結合を容易に生成することになる。なかでも、アルコキシル基、チオエーテル基、アミノ基などは、反応後の副生成物として酸などが生じず、後処理の容易なため有用である。また、官能基がアルキル基などのスペーサーを介してポリマー鎖に結合している場合でも、スペーサーはなるべく短いものか、剛直なものであることが望ましい。また、全ポリマー側鎖における官能基の導入率も特に限定されないが、十分な固定効果を得るためには、官能基の導入率が5%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは50%以上、最も好ましくは90%以上であるものがよい。
原料の他の成分である金属酸化物ゾル形成物質としては、金属酸化物、金属アルコキシド、金属水酸化物、金属キレート化合物、金属カルボン酸塩、金属ハロゲン化物、金属水素化物、硝酸塩や硫酸塩等の無機塩等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、適宜混合してもよい。
金属アルコキシドとしては、Ge,Sn,Pb,Al,Ga,As,Sb,Bi,Ti,Zr,V,Nb,Ta,Na,K,Li,Ca,Mg,Ba,Srなどのアルコキシドが挙げられる。具体的には以下のようなものが挙げられる。LiOCH3,NaOCH3,Cu(OCH3)2,Ca(OCH3)2,Sr(OC2H5)2,Ba(OC2H5)2,Zn(OC2H5)2,B(OCH3)3,Al(i−OC3H7)3,Ga(OC2H5)3,Y(OC4H9)3,Si(OC2H5)4,Ge(OC2H5)4,Pb(OC4H9)4,P(OCH3)3,Sb(OC2H5)3,VO(OC2H5)3,Ta(OC3H7)5,W(OC2H5)6,La(OC3H7)3,Nd(OC2H5)3,Si(OCH3)4,Si(OC2H5)4,Si(i−OC3H7)4,Si(t−OC4H9)4,Ti(OCH3)4,Ti(OC2H5)4,Ti(i−OC3H7)4,Ti(OC4H9)4,Zr(OCH3)4,Zr(OC2H5)4,Zr(OC3H7)4,Zr(OC4H9)4,Al(OCH3)3,Al(OC2H5)3,Al(i−OC3H7)3,Al(OC4H9)3,La[Al(iso−OC3H7)4]3,Mg[Al(iso−OC3H7)4]2,Mg[Al(sec−OC4H9)4]2,Ni(iso−OC3H7)4]2,(C3H7O)2Zr[Al(OC3H7)4]2,Ba[Zr2(OC2H5)9]2などである。これらは必要に応じて適宜混合して用いられる。なお、ポリマー鎖とガラスマトリックスとを互いに化学的に架橋させるためには、2価以上の金属原子のアルコキシドなどが配合されることが好ましい。
なお、アルコキシル基のほかに、アルキル基やアリール基などの置換基を有するアルコキシドを用いてもよい。具体的には以下のようなものが挙げられる。ジエトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、トリブチルチンエトキサイド、トリブチルチンメトキサイド、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ジフェニルビニルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどである。
また、金属水酸化物、金属ハロゲン化物、金属水素化物としては上記金属のそれぞれの化合物が挙げられ、非置換であってもアルキル基やアリール基などの置換基を有するものであってもよい。また例えばメチルジクロロシランのようなハロゲン化物であり、かつ水素化物であるようなものでもよい。具体的には以下のようなものが挙げられる。ジメチルジヒドロキシシラン、ジエチルジヒドロキシシラン、ジフェニルジヒドロキシシラン、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリフェニルシラノール、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン、フェニルジクロロシラン、メチルジクロロシラン、テトラクロロチタン、トリクロロアルミニウム、カルシウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、リチウムアルミニウムハイドライド、リチウムボロハイドライド、リチウムトリ−tert−ブトキシアルミノハイドライド、リチウムトリ−sec−ブチルボロハイドライド、マンガニーズ(II)ボレート、ポタシウムボロハイドライド、ソジウムビフルオライド、ソジウムボロハイドライド、ソジウムジヒドロ−ビス(2−メトキシエトキシ)アルミネート、ソジウムテトラヒドロボレート、チタニウムハイドライド、トリブチルチンハイドライド、ジルコニウムハイドライド、シラン、メチルシラン、エチルシラン、イソプロピルシラン、フェニルシラン、ジメチルシラン、ジエチルシラン、ジフェニルシランなどである。なおここでは、ハロゲン化物として塩化物を例示したが、対応する臭化物、ヨウ化物なども良好に適用できる。
金属キレート化合物としては上記金属のアセチルアセトナート等の1,3−ジカルボニル化合物を配位子に有するものなどが用いられ、具体的には以下のようなものが挙げられる。トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム、トリス(サリチルアルデヒダト)アルミニウム、インジウムアセチルアセトネート、亜鉛アセチルアセトネート、銅アセチルアセトネート、白金アセチルアセトネートなどである。
金属カルボン酸塩としては例えば酢酸塩などが用いられ、具体的には以下のようなものが挙げられる。酢酸バリウム、酢酸銅(II)、酢酸リチウム、酢酸マグネシウム、酢酸鉛、シュウ酸バリウム、シュウ酸カルシウム、シュウ酸銅(II)、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸スズ(II)、シュウ酸イットリウム、ステアリル酸イットリウムなどである。
金属無機塩としては、硝酸塩、オキシ塩化物などが用いられ、具体的には例えば以下のようなものが挙げられる。硝酸イットリウム、硝酸ニッケル、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ塩化アルミニウムなどである。
また、ガラスマトリックス形成材料として、金属アルコキシドなどに加えて、ほう砂などのほう酸塩やリン酸塩などの酸化物塩;造膜補助剤などとしてエポキシ樹脂、ポリイミド、メラミン樹脂、ポリビニルピロリドン、ナイロン樹脂といった有機ポリマーなどを添加してもよい。さらに本発明では、ペルヒドロポリシラザンのようなポリシラザン類を用いることで、ケイ素酸化物を形成することもできる。
上記の組成物中におけるポリシラン類の配合量は特に限定されないが、一般的には重量組成比で0.1〜80%程度に設定される。この理由は、ポリシラン類の配合量が少なすぎるとガラス複合材料全体として見た場合、ポリシラン類に特有の機能が発現されにくくなり、逆にポリシラン類の配合量が多すぎるとガラスマトリックス部分が少ないために十分なポリマーの固定効果が得られず、また酸素ガスなどに対するガスシールド効果が低くなるため、含有するポリシラン類の耐久性が低下してしまうからである。より好ましいポリシラン類の配合量は5〜70%、さらには30〜60%である。ただし、ここで上記一般式(I)または(II)で表される繰り返し単位を有するポリマーなどが用いられた場合は、この前駆体ポリマー自体が酸素原子を介して架橋することでガラスマトリックスが形成されるので、ポリシラン類の配合量が上述したような範囲内に設定されなくても構わない。
本発明に係る(A)の構造のガラス複合材料は主にゾル−ゲル法によって製造される。通常、まずアルコールや水−アルコール混合液などの溶媒にポリシラン類および金属アルコキシドを溶解させた溶液を調製し、加熱または触媒の作用により金属アルコキシドを加水分解してゾル液を形成する。このゾル液をガラス板などの基板に塗布したり、注型した後、ゲル化乾燥して所望のガラス複合材料を得る。なお、金属アルコキシドの溶液からゾル液を調製した後、ポリシラン類を加えて、さらに上記と同様にしてゲル化してもよい。また、ガラス板などの基板上にポリシラン類の薄膜を成膜し、これを金属アルコキシドを加水分解するなどして調製したゾル液に浸漬した後、加熱乾燥などの処理により硬化させてもよい。さらには、単にポリシラン類と金属アルコキシドなどを混合し、これを成形した後、加熱などの処理によりゲル化しても構わない。
上記の触媒としては、アンモニア水、トリアルキルアミン、エタノールアミンなどのアミン;水酸化ナトリウムなどのアルカリ;塩酸、硝酸、リン酸などの無機酸や、酢酸、シュウ酸などのカルボン酸に代表される有機酸;光酸発生剤;熱酸発生剤が挙げられる。また、これらのアミン、アルカリ、酸のほかに、無水トリメリット酸などの酸無水物、酢酸ナトリウム、オクチル酸亜鉛などのカルボン酸金属塩;過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウムなどの過塩素酸金属塩;アルミニウムアセチルアセトナト、ジルコニウムアセチルアセトナトなどの金属キレート化合物;テトラブチルチタネート、ジブチル錫ジラウレートなどの有機金属化合物;塩化アルミニウム、塩化鉄(II)、塩化亜鉛(II)などの塩化物を用いてもよい。なおこのとき、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、ボロンなどのアルコキシドは、ガラスマトリックス形成材料として働くほかに、触媒としての作用も併せ持ち、非常に有用である。また、溶媒としては、水、アルコールの他に、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トリエタノールアミン等の有機溶媒を用いてもよい。
また、既述した金属アルコキシド以外の金属水酸化物、金属キレート化合物、金属カルボン酸塩、金属ハロゲン化物、金属無機塩、金属水素化物などを用いた場合も、金属アルコキシドと同等かあるいは類似のゾル−ゲル法などの溶液法や熱分解法などによってやはり金属酸化物マトリックスを形成することができる。またポリ(ジターシャリブトキシシロキサン)のようなシリコーン樹脂を、金属アルコキシドとして用いてもよい。さらに以上のような金属アルコキシドなどを用いたゾル−ゲル法のほかに、ペルヒドロポリシラザンのようなポリシラザン類とポリシラン類との混合物をそのまま、または触媒などの添加物を加えた後に、主に空気中で加熱することによって本発明のガラス複合材料を製造することができる。
本発明に係る(A)の構造のガラス複合材料においては、金属酸化物からなるガラスマトリックスにポリシラン類の側鎖に導入された極性基が共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合、疎水性相互作用などにより化学的に結合して、ポリシラン類のポリマー鎖が固定され、さらにガラスマトリックスのガスバリヤ効果によって酸化などが起こりにくくなるため、ポリマー単独の場合と比べて、ポリマー鎖の分解や熱的な変質が抑制され、耐熱性、耐光性が大きく向上するとともに、その機械的強度も増大する。
次に、上記(B)の構造を有するガラス複合材料は、側鎖として水酸基、アルコキシル基、アセトキシ基などのエステル基、トリフルオロメタンスルホシキ基などのスルホン酸エステル基など、架橋可能な基がポリシラン類の主鎖に直接結合した前駆体ポリマーから合成される。
例えば水酸基あるいはアルコキシル基を有するものとしては下記一般式(I)または(II)
(上記式中、MはSi、GeおよびSnから選択される少なくとも1種の原子、R
1およびR
2は水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選択され、同種でも異種でもよい。なお、R
1およびR
2の炭素数は1〜15である。)
で表される繰返し単位を有する前駆体ポリマーを用い、側鎖の水酸基あるいはアルコキシル基どうしを脱溶媒縮合させることにより製造される。一般式(I)または(II)で表されるオルガノシラン、オルガノゲルマンまたはオルガノスタナンの単独重合体または共重合体は、ケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子に酸素原子が直接結合した水酸基あるいは置換または非置換のアルコキシル基を有し、ケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子と水酸基あるいはアルコキシル基との数量比が一般式(I)では1:2、一般式(II)では1:1である反復単位を有するものである。具体的には例えば以下のようなものが挙げられる。
一般式(I)または(II)で表される繰返し単位を有する前駆体ポリマーは、例えば以下のような方法により製造することができる。なお、ここでは前駆体ポリマーの代表としてポリシラン前駆体ポリマーの製造方法を説明する。(a)例えば、下記一般式(S1)または(S2)で表されるジクロロシランを金属ナトリウムや金属リチウムなどとトルエンやエーテルなどの溶媒中で反応させ、ジクロロシランを脱塩縮合させることによって合成することができる。(b)また、K.Matyjazewskiら,J.Organomet.Chem.,340,1988,7に報告されているように、下記一般式(PS1)〜(PS5)で表されるポリ(ジアリールシラン)に塩化メチレンなどの溶媒中でトリフルオロメタンスルホン酸などの酸を作用させた後、所望の置換基部位を有するアルコールを反応させることにより合成することもできる。またこの際アルコールの代わりに例えばカルボン酸やカルボン酸塩を作用することによってエステル基を有するポリシラン類も合成することができる。
また側鎖にアルコキシル基を有するポリシランは上記の方法の他に、(c)K.Matyjazewski,Macromol.Chem.,Macromol.Symp.,42/43,269−280,1991に報告されているように、アルコキシル基で置換されたSi,GeまたはSnの四員環などを開環重合させる方法、(d)アルコキシル基で置換された上記金属M原子のハロゲン化物を用いて電解重合する方法、(e)壁田ら,Chem.Lett.,835,1994に報告されているように、金属Mのアルコキシ化物を塩基などの触媒を用いて不均化反応によって重合する方法、(f)Yu−Ling Hsiaoら,J.Am.Chem.Soc.,1994,116,9779−9780に報告されているように、ポリ(フェニルヒドロシリレン)などのM−H結合を有する樹脂にAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)の作用下にアルデヒドやケトンのようなカルボニル化合物を反応させる方法、などにより合成することもできる。
なお、上記(A)の構造を有するガラス複合材料の原料であるポリシラン類のうちでも、側鎖の一部にポリマー鎖に酸素原子が直接結合した状態で水酸基(−OH)および/またはアルコキシル基(−OR)が導入されたものを用いると、一般式(I)または(II)で表されるものと同様に上記(B)の構造を有するガラス複合材料を製造することができる。
一般式(I)または(II)で表されるポリシラン類に関しても、上述した側鎖に極性基を有するポリシラン類と同様に、主鎖が上記のポリマーとこれら以外のポリマー例えばポリシロキサン(シリコーン)、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルなどとのブロック共重合体からなるものでもよい。またポリマー鎖の形態も、一次元鎖、分岐鎖、ラダー状、二次元シート状鎖、三次元鎖、または5員環、6員環などの環状、もしくはオクタシラキュバンなどの直方体状のいずれでもよい。重合度についても特に限定されないが、主鎖におけるSi、Ge,Snなどの原子の連鎖個数nがやはり6〜100000であることが好ましく、より好ましくはnが10〜10000、さらには20〜5000である。
一般式(I)または(II)で表されるポリシラン類は、ポリマー側鎖の水酸基、アルコキシル基の縮合反応により分子間または分子内で架橋されて、ケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子と酸素原子との結合を有する金属酸化物からなるガラス成分を形成することができるので、上記(A)の構造のガラス複合材料を製造する場合のように金属アルコキシドなどのガラスマトリックス形成材料を用いる必要はない。すなわち、本発明に係る(B)の構造のガラス複合材料は、一般式(I)または(II)で表されるポリシラン類を薄膜などに成形した後、加熱または酸性もしくは塩基性の触媒の作用により、側鎖のアルコキシル基どうしを脱溶媒縮合させてガラス化することにより製造できる。なおここでの触媒としては、ゾル−ゲル法によって(A)の構造のガラス複合材料を製造する場合と同様のものが用いられ得る。
この場合、前駆体のポリシラン類として、上記一般式(I)または(II)で示されるもののうちでも、特に上記一般式(III)または(IV)で示されるポリシラン類を用いることによって、より良好に本発明に係る(B)の構造のガラス複合材料を合成することができる。この理由を以下に説明する。すなわち、一般式(I)または(II)で表される繰り返し単位を有するポリシラン類のうち、特にメトキシ基やエトキシ基などのアルコキシル基を有するものは、立体障害が小さいなどの理由から、比較的加水分解の反応性が高い場合が多く、容易に架橋反応を起こさせることができる。しかしその反面、これらのポリシラン類は貯蔵安定性に劣り、取り扱いが難しい。これに対して一般式(III)または(IV)で示されるポリシラン類は、アルコキシル基の部分がターシャリブチルもしくはイソプロピルまたはこれらの誘導体構造を有し、立体障害が大きく加水分解しにくいため、貯蔵安定性に非常に優れている。しかも、これらのポリシラン類に酸触媒などを作用させると、容易に酸素−炭素間結合が開裂し、ターシャリブチルもしくはイソプロピルまたはこれらの誘導体の残基が脱離して水酸基が生成し、この水酸基が直ちに他の水酸基と脱水縮合してガラス化する。このためこれらのポリシラン類は、貯蔵安定性に優れていると同時に、いったん活性化されると容易にガラス化するという、潜在性前駆体ポリマーとしての働きを有しており、たいへん有用である。これらのポリシラン類も、上述した方法によって合成することができる。一般式(III)または(IV)で示されるポリシラン類の具体例を以下に示す。
本発明に係る(B)の構造のガラス複合材料では、ポリシラン類の主鎖がガラス成分を構成する酸素原子をスペーサとして直接かつ極めて高密度に結合しているので、大きな耐久性の向上が期待される。また、このガラス複合材料は前駆体ポリマーのみを用いて製造できるため、成形性が良好であり、かつポリシラン類の主鎖の含有率が高く機能発現の点でも有利になる。
さらに、(B)の構造を有するガラス複合材料を製造するには、CVD法を用いてもよい。すなわち、CVD炉内にシリコンや石英ガラスなどの基板を設置し、シラン系ガスを希釈して供給し、これを分解させることにより基板上にポリシラン膜を形成する。ポリシラン膜を形成中または形成した後に、酸素含有ガスを流し、ポリシラン膜中の活性水素を水酸基で置換する。このポリシラン膜を加熱し、ポリシランのポリマー鎖どうしを酸素原子を介して架橋させることにより(B)の構造を有するガラス複合材料を合成することができる。
この方法において、シラン系ガスとしては、シラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、ジシラン、トリシランおよびテトラシランならびにこれらの混合ガスが挙げられる。シラン系ガスを希釈するガスとしては、水素、アルゴン、ヘリウム、窒素などが挙げられる。酸素含有ガスとしては、酸素を含むH2O、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウムなど)、水素ガス、もしくは空気、またはこれらの混合ガスが挙げられる。酸素含有ガス中の酸素の含有量は30%以下であることが好ましい。また、架橋時の加熱温度は、ポリシランに導入された2つの水酸基が脱水反応を起こしてSi−O−Si結合を形成することが可能な温度例えば60℃以上で、ポリシランのポリマー鎖が分解しない温度以下に設定される。
このようにCVD法によりガラス複合材料(酸素架橋ポリシラン)を合成するプロセスは、半導体製造プロセスに組み込むことができる。したがって、酸素架橋ポリシランの発光機能を利用した光学デバイスと半導体デバイスとを集積して光−電子集積回路を形成することができる。また、CVD法を用いれば、液相合成の場合と比較して大量生産によるコスト低減に有利であり、不純物の混入の問題が少ない点でも優れている。
以上において説明した本発明に係る(A)および(B)の構造を有するガラス複合材料の効果をまとめて説明する。本発明のガラス複合材料では、ポリマー鎖の架橋部位はその周囲のガラスマトリックスにより堅固に保持されているため、ポリマー鎖の一部が光などのエネルギーによって切断されたとしても再び結合することが可能である。このようにポリシラン類のポリマー鎖の固定効果が高められているため、耐光分解性、耐熱分解性、耐化学的分解性が高い。また、特にポリシラン類の主鎖どうしがM−O−M結合を形成して架橋している場合には、酸素原子の橋渡しによってポリシラン類の主鎖の共役が架橋体全体に広がる。このため、電気的にはキャリヤー移動度が向上して電気伝導度が良好となり、光学的には光発光(PL)および電界発光(EL)の強度が高く、ポリマー主鎖におけるSi、Ge、Snの連鎖個数や架橋度に応じて発光波長がシフトするなどの効果も得られる。また、本発明のガラス複合材料ではポリシラン類の含有率が高い場合でも、ポリシラン類のポリマー鎖の固定効果が高いことから、上記のような電気的・光学的特性の発現に有利になる。一方、例えば従来知られているポリシラン類をケイ酸ガラス中に混合・複合化させたポリシラン−ガラス複合材料では、絶縁体であるケイ酸ガラスマトリックスの割合が非常に多く、ポリシラン主鎖の架橋も十分ではないため、本発明のガラス複合材料のような効果を得ることはできない。
本発明のガラス複合材料において、上記の効果を得るためには、ポリマー鎖が金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されていることが好ましい。上述したように、前駆体ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であれば、ポリシラン類のポリマー鎖とガラスマトリックスとの相分離を防止できる。また、ポリマー鎖の固定効果をより高めるためには、架橋点は5箇所以上、さらには10箇所以上であることが好ましい。ただし、架橋度に関しては、架橋度が低く溶媒に極めて溶解しやすい状態から、溶媒への溶解性を保持しているが架橋度が非常に高く高硬度で十分な機械的強度を有し成形体として用いることができる状態まで、用途に応じて広い範囲にわたって選択することができる。そして、こうした架橋体は成形後に、さらに架橋度を高めることによって溶媒に不溶な、すなわち耐溶媒性に優れた成形体にすることも可能である。なおこのようなポリマー鎖上の架橋点の個数は、前駆体ポリマーにおける官能基の反応率を算出することで容易に分析され得る。
次に、本発明に係るガラス複合材料が耐久性を高めながら、優れた光学的・電気的特性を発現するうえで満たすべき物性について、特に従来知られているシロキセン材料と比較しながら、各種素子への応用を考慮に入れて説明する。
従来知られているシロキセン化合物はケイ素の連鎖が酸素原子によって架橋された構造を有しているとされているが、溶媒に不溶であるため、粉末を加圧成形してペレットに成形した例があるにすぎない。このようなペレットは本質的に粉末が固まっただけのものであり、多数の粒界が存在する。このように多数の粒界が存在すると電気伝導度が著しく低下する。また、シロキセン化合物のペレットは光学的に無視できない大きさの粒界が存在するため、この材料中を通過する光は散乱されやすく、特定波長の光に対してコヒーレンスを保持できない。また、シロキセン化合物はシリコン微結晶を含み、架橋されたポリシラン類のポリマー鎖とシリコン微結晶ではそれぞれの励起エネルギーが異なるため、シリコン微結晶によるエネルギー準位が形成される。この結果、シロキセン化合物をレーザー媒質のようなPL材料として用いた場合には、シリコン微結晶が無発光準位を形成したり所望の波長とは波長の異なる蛍光を発光するため、PL効率を低下させる原因となる。同様に、EL材料として用いた場合には、シリコン微結晶が無発光準位を形成したり、キャリヤーをトラップしてキャリヤーの輸送効率を低下させるため、EL効率を低下させる原因となる。さらに、4本の結合手が全てSi−Si結合を形成している結晶性の高いSi原子は、ホール・電子対発光に対する非発光中心として作用するため、EL効率を低下させる原因となる。また、非線形光学材料として用いる場合は、シリコン微結晶が励起光を吸収して光波長変換効率が低下する傾向がある。
これに対して本発明のガラス複合材料においては、例えばシロキセン化合物に含まれるシリコン微結晶など、電気的・光学的特性の発現を阻害する要因となるがものがほとんど存在しない点で優れている。以下、このような阻害要因に関連する、体積抵抗率、コヒーレンス、シリコン微結晶、ゲルマニウム微結晶およびスズ微結晶の含有率あるいは4本の結合手が全てM−M結合を形成しているM原子の含有率などの個々の物性についてさらに詳細に説明する。
(体積抵抗率)
本発明のガラス複合材料は、ポリシラン類のポリマー鎖の共役が広がっているうえに均一で粒界がほとんど存在しないため、高い電気伝導度を有する。このことはJIS C2151記載の円平板電極法に準じて測定される体積抵抗率が低いことで示される。円平板電極法の測定に供する試料の膜厚は、0.02〜0.1μm、さらに0.05〜0.1μmとすることが好ましい。また、印加電圧を試料の膜厚に応じて、1V以上、好ましくは2V以上、さらに好ましくは5V以上、最も好ましくは10V以上として電圧/膜厚比すなわち電界強度を106V/cmに設定する。電極の大きさは基本的にはJIS C2151の記載に従うが、試料片の形状、大きさに応じて電極の大きさを多少変更する場合がある。電極の材質に関しては、正極としてITOなど、負極として金、銅、アルミニウムなどを用いる。すなわち、負極が正極よりも仕事関数が小さい組み合わせを用いることが好ましく、正極としてITO、負極としてアルミニウムの組み合わせが最も好ましい。本発明のガラス複合材料は、これらの条件での測定により3×106Ω・cm以下の体積抵抗率を有する。体積抵抗率は1.5×106Ω・cm以下、さらに8×105Ω・cm以下、さらに6×105Ω・cm以下、さらに4×105Ω・cm以下であることが好ましい。
(コヒーレンス)
本発明のガラス複合材料中は散乱の原因となる光の波長以上の粒径を有する粒子や粒界がなく光学的に均一であるため、300〜800nmの波長範囲の光に対してコヒーレンスを保持する。ポリシラン類の吸収、発光などの光学的特性を考慮すると、コヒーレンスを保持する波長範囲は280〜900nm、さらには220〜1200nmであることが好ましい。この条件は、光学的な応用全般にわたって重要になる。
コヒーレンスの保持は、ヘイズ率で20%以下であることによって達成される。この値は好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下であることが望まれる。ヘイズ率は、試料が薄膜の場合にはその表面に垂直に光を入射させたときの値、それ以外の成形体の場合には例えばEL発光における出射光などのように、成形体を素子として利用した際に成形体から出射または成形体に入射する光軸に平行な光線を入射させたときの値で評価される。
(シリコン微結晶などの含有率)
上述したようにシロキセン化合物はシリコン微結晶を含有するため、Cu管球をX線源とするX線回折により例えば2θ=28.4、47.3、56.1°付近にシリコン微結晶に起因するシグナルが観測される。またゲルマニウム結晶やスズ結晶では、その結晶形によっても異なるが、Cu管球をX線源とするX線回折により、例えばそれぞれ2θ=27.3、45.3、53.7°および2θ=23.7、34.2、46.4°付近にシグナルが観測される。これに対して本発明のガラス複合材料はシリコン微結晶やゲルマニウム結晶、スズ結晶をほとんど含有せず、Cu管球をX線源とするX線回折により2θ=20〜60°の範囲にピークが観測されるシリコン結晶、ゲルマニウム結晶およびスズ結晶に起因するシグナルの面積が全シグナルの合計面積の1%以下である。例えば、ポリシランとガラスマトリックスとを互いに化学的に架橋させてなるガラス複合材料では、X線回折において2θ=27〜30、46〜49、55〜58°の範囲にピークが観測されるシリコン微結晶に起因するシグナルの面積が全シグナルの合計面積の1%以下となる。シリコン微結晶、ゲルマニウム微結晶およびスズ微結晶に起因するシグナルの面積は、全シグナルの面積の0.1%以下、さらに0.01%以下であることが好ましい。ただしここでの全シグナルの面積は、2θ=20〜60°の範囲におけるシグナルの合計面積ではなく、2θが0°を超える全範囲における全シグナルの合計面積とする。この条件は、非線形光学素子、レーザー素子などへの応用において、光波長変換効率、PL効率などを向上させるうえで特に重要になる。
さらに本発明のガラス複合材料においては、シリコン微結晶、ゲルマニウム微結晶、スズ微結晶の含有量を抑えたうえで、4本の結合手が全てM−M結合を形成している結晶性の高いM原子の含有率が原子組成比で10%未満に設定されることが好ましい。このようなM原子は、XPS、固体NMRなどの測定により定量することができる。この条件は、特にEL素子への応用においてEL効率を向上させるうえで重要になる。
また、本発明のガラス複合材料を各種素子に応用することを考慮した場合、硬化物さらには薄膜などの所定形状の成形体として素子に組み込む必要がある。このため、十分な硬度を有し、かつ成膜する際に実用的な溶媒可溶性を有することが好ましい。これらの性質に関連して、表面硬度およびC原子含有率について説明する。
(表面硬度)
本発明のガラス複合材料を硬化物として用いる場合、その表面硬度は鉛筆引っかき試験法(JIS K5401)で3B以上であることが好ましい。表面硬度はB以上、さらに1H以上、さらに2H以上、さらに4H以上、さらに6H以上であることが好ましい。これらの条件を満たすためには、ポリマー側鎖における架橋可能な官能基の20%以上の部位で架橋していることが要求される。架橋部位は架橋可能な官能基の30%以上、さらに50%以上、さらに80%以上、さらに90%以上であることが好ましい。本発明では、このようにポリマー側鎖における官能基の反応率を高め、架橋密度を増大させることで、特に耐久性の優れたガラス複合材料を得ることができる。
なおこうした官能基の反応率は、二次イオン質量分析法、NMR、IR、XPSなどによって定量することが可能である。さらに架橋反応の際には、水やアルコールの脱離に起因して重量の減少が生じるので、熱重量分析法(TG)などによっても官能基の反応率は算出され得る。
(C原子含有率)
本発明のガラス複合材料は、その成膜性や成形体の可撓性を向上させる観点から、原子組成比で0.1%以上のC原子を含有していることが好ましい。成膜性のみを考慮すれば、C原子含有率が高いほど溶媒に溶解しやすいので、C原子の含有率は1%以上、さらには10%以上であることがより好ましい。
次に、本発明の含窒素複合材料について説明する。本発明の含窒素複合材料は、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、無機または有機マトリックスとを有し、ポリマー鎖と無機または有機マトリックスとがポリマー主鎖上のSi、GeまたはSn原子に直接結合した窒素原子を介して相互に化学的に架橋されているものである。
より具体的には、本発明の含窒素複合材料は、(C)ポリシラン、ポリゲルマン、ポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、例えばアニリン樹脂、ポリアニリンもしくはポリピロールまたはこれらの混合物もしくは共重合体などの有機マトリックスとを有し、ポリマー主鎖上のSi、GeまたはSn原子と有機マトリックス中の窒素原子とが直接結合を形成して架橋した構造でもよいし、(D)ポリシラン、ポリゲルマン、ポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属−窒素−金属結合を含有し網状構造をなす無機マトリックスとを有し、ポリマー主鎖上のSi、GeまたはSn原子と無機マトリックス中の窒素原子とが直接結合を形成して架橋した構造でもよいし、(E)ポリシラン、ポリゲルマン、ポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖が、ポリマー鎖上のSi、GeまたはSn原子に直接結合した窒素原子によって互いに架橋し、この窒素原子を介してのケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子間の結合が無機マトリックスを形成した構造でもよい。
上記(C)の構造を有する含窒素複合材料について説明する。この構造を有する含窒素複合材料に用いられるポリシラン類は、上述した(B)の構造を有するガラス複合材料に関連して説明したポリシラン類と同様あるいは類似のものである。すなわち、側鎖に水酸基、アルコキシル基やアミノ基などの脱離反応を起こす極性基が導入されたポリシラン、ポリゲルマン、およびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマーが用いられる。
なお、アミノ基が導入されたポリシラン類は、例えば芳香族基で置換されたポリシラン類に塩化メチレンなどの溶媒中で塩酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの酸を作用させた後、アンモニアやアミンを反応させることによって合成することができる。また、吉田ら(吉田、坂本、櫻井;日本化学会第65春季年会予稿集3F332(1993)のマスクドジシレンを経由する方法によって合成することもできる。
ポリマーの主鎖の化学構造、形態などに関しても上述したのと同様である。また、重合度についても特に限定されないが、主鎖におけるSi、Ge,Snなどの原子の連鎖個数nが4〜100000であることが好ましく、より好ましくはnが10〜10000、さらには30〜1000である。この場合、nが大きすぎると溶媒に対する溶解性が低下するだけでなく、ポリアニリンやポリピロールなどとの相溶性が悪くなり、架橋体の調製が困難になる。
(C)の構造を有する含窒素複合材料の原料の他の成分であるアニリン樹脂、ポリアニリン、ポリピロールとしては、それぞれ主鎖中の窒素原子のうち少なくとも一部の窒素原子が活性水素を有するものであればよい。したがって、主鎖がアニリン樹脂、ポリアニリン、ポリピロールの単独重合体からなるものでもよいし、これらの共重合体からなるものでもよい。また、主鎖がこれらのポリマーと、これら以外のポリマー例えばポリシロキサン(シリコーン)、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ビニル樹脂、アクリル系樹脂、ポリチオフェンなどとのブロック共重合体からなるものでもよい。また、ポリマー鎖の形態は、一次元鎖、分岐鎖、二次元鎖、三次元鎖、環状のいずれでもよいが、好ましくは三次元鎖以外がよい。この理由は、三次元鎖はポリアニリン、ポリピロールなどの主鎖がそれ自体でからまった状態であるので、ポリシラン類との架橋が十分に行なわれにくいためである。重合度についても特に限定されないが、それぞれアニリン、ピロールなどの繰り返し単位の連鎖個数nが4〜10000であることが好ましく、さらには20〜1000、より好ましくは300〜1000であることが好ましい。この理由は、nが小さすぎると、ポリアニリン、ポリピロール類本来の機能発現が妨げられるとともに、架橋によりポリシラン鎖を有機マトリックスへ固定する効果が小さくなり、逆にnが大きすぎると溶媒に対する溶解性が低下したり、ポリシラン類との相溶性が悪くなり、架橋体の調製が困難になるからである。
上述した官能基を有するポリシラン類とポリアニリンなどをそのまままたは溶液の状態で混合すると、ポリアニリンなどに含まれるN原子が、ポリシラン類のSi、Ge、Sn原子(M原子)を求核攻撃し、官能基が脱離してN−M結合が形成される。また、ポリシラン類の官能基のうちN原子と反応しなかった余剰の官能基例えばアルコキシル基は、加水分解などにより相互に架橋してM−O−M結合を形成する。このようにしてポリシラン類とポリアニリンなどとが化学的に結合するか、またはポリシラン類どうしで化学的に結合し、網状の架橋構造が形成される。
側鎖に官能基を有するポリシラン類に対する有機マトリックス材料の配合量は特に限定されないが、一般的には重量組成比で5〜5000%、好ましくは50〜2000%、さらには100〜500%であることが望まれる。これは有機マトリックス材料の量があまりに少ないとポリシラン類の主鎖を固定する効果が十分でなく、逆に多すぎると複合材料全体としてポリシラン類の機能発現が小さくなってしまうからである。
このようにして得られる(C)の構造を有する窒素架橋ポリシラン類では、ポリシラン類の分解が起こりにくくなり、耐光性などが向上する。また、ポリシラン類およびポリアニリンなどからなる有機マトリックスは、いずれも電荷輸送性ポリマーであるため、これらポリマーの相互作用によって電荷輸送性などが向上する。しかも、ポリシラン類の主鎖にN原子が直接結合することによって電子状態が変化するため、PL、EL特性が発現し、非線形光学特性が向上する。
また、これらの機能を向上させるために、各種の電子供与性物質や電子授与性物質を添加(ドーピング)してもよい。具体的には、例えばよう素、第二塩化鉄、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの酸などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上混合して用いられる。
なお、有機マトリックスを有する含窒素複合材料は、アミノ基が導入されたポリシラン類と、以下に挙げる樹脂の少なくとも一部分にアミノ基と反応し得る官能基が導入されたものとを反応させることによっても合成することができる。ここでの樹脂としては、具体的には、例えばフェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、アクロレイン系樹脂、マレイミド樹脂、トリアジン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリパラキシレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリレート、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリジエン、ポリウレタン、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、シリコーン樹脂、ゴム、セルロース、タンパク質、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレンスルフィド)、ポリチオフェン、ポリシロールなどである。これらは単独でまたは2種以上混合して用いられる。また以上のような高分子化合物以外にもてい分子のアミン化合物を用いてもよく、例えばキシリレンジアミン、2,6−ジアミノナフタレンなどが挙げられる。
次に、(D)の構造を有する含窒素複合材料について説明する。この構造を有する含窒素複合材料は、上述した(B)の構造を有するガラス複合材料に関連して説明したポリシラン類と同様あるいは類似のものと、窒素原子上に活性水素を有し金属−窒素−金属結合を含有する無機マトリックスとなる化合物、例えばポリシラザンゾルなどとを混合して反応させることによって合成される。なお、(D)の構造を有する含窒素複合材料では、網状構造をなす無機マトリックスには金属−窒素−金属結合だけでなく、金属−酸素−金属結合が含まれていてもよい。
ポリシラザンゾルは、例えばW.S.Coblenzら(Materials Science Research,Vol.17,ed.by R.F.Davis,H.Palmour and R.L.Porter,Plnums Press,New York(1984)p.271−285)の方法のように、所定の金属ハロゲン化物、金属アルコキシド、金属カルボン酸塩などをアンモニア分解またはアミン分解して重合することによって調製される。
側鎖に官能基を有するポリシラン類に対する無機マトリックス材料の配合量は特に限定されないが、一般的には重量組成比で5〜5000%、好ましくは50〜2000%、さらには100〜500%であることが望まれる。これは無機マトリックス材料の配合量があまり少ないとポリシラン類の主鎖を固定する効果が十分でなく、逆に多すぎると複合材料全体としてポリシラン類の機能発現が小さくなってしまうからである。
このようにして得られる(D)の構造を有する窒素架橋ポリシラン類では、ポリシラン類の分解が起こりにくくなり、耐光性などが向上する。しかも、ポリシラン類の主鎖にN原子が直接結合することによって電子状態が変化するため、PL、EL特性が発現し、非線形光学特性が向上する。
なお、(D)の構造を有する含窒素複合材料では、無機マトリックスを構成する金属窒化物として例えばSi,Al,Ti,B,Zr,V,W,Hf,Ta,U,Th,Be,Nb,Cr,Mo,Laなどの窒化物を用いてもよい。また、これらの金属窒化物とともに金属酸化物として例えばSi,Ge,Sn,Pb,Al,Ga,As,Sb,Bi,Ti,Zr,V,Nb,Ta,Na,K,Li,Ca,Mg,Ba,Srなどの酸化物を併用してもよい。
また、無機マトリックスを有する含窒素複合材料は、アミノ基が導入されたポリシラン類と、無機高分子、金属酸化物ゲルなどを反応させて得ることもできる。金属酸化物ゲルとしてはシリカゲル、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化スズなどが挙げられる。なお同時に、各種セラミックス、粘土などの微粒子を分散させてもよく、具体的にはセラミックスとして炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、カルシウムシリサイド、シロキセンなど、粘土としてモンモリロナイト、サポナイト、雲母などが挙げられる。
さらに、(C)および(D)の構造を併せ持つように、マトリックス材料として有機および無機マトリックス材料を用い、ポリシラン類を両方のマトリックスで架橋してもよい。
次に、(E)の構造を有する含窒素複合材料について説明する。この構造を有する含窒素複合材料は、既述した置換ポリシラン類の側鎖に導入された官能基をアンモニアまたはメチルアミン、エチルアミン、2−アミノエタノール、アニリンなどの有機アミンで分解した後、好ましくは無水条件下、加熱または触媒を作用させるなどして硬化させることによって合成される。この構造では、ポリシラン類どうしが窒素原子を介して架橋し、その結果として形成されるM−N−M(MはSi、GeまたはSn原子)結合が無機マトリックスを構成する。
この(E)の構造の含窒素複合材料では、ポリシラン類の主鎖が窒素原子を橋かけ構造として直接かつ極めて高密度に結合しているので、大きな耐久性の向上が期待される。また、この含窒素複合材料は前駆体ポリマーのみから合成することができるので、ポリシラン類の主鎖の含有率が高く、機能発現の点でも有利になる。
以上のようにポリシラン類の主鎖が窒素原子を介して架橋された構造を有する本発明の含窒素複合材料は、上述したガラス複合材料と同様な効果を得ることができる。しかも、例えば(C)、(E)のような構造を有する含窒素複合材料においては、ポリシラン主鎖の電子的共役が窒素原子を介して他のポリシラン主鎖にまで広がるため、キャリヤー輸送能、発光、非線形光学特性などを示す。この場合、窒素原子は酸素原子と比較して電子の広がりも大きいため、共役効果が強められることが期待される。特に、ポリシラン類の主鎖に直接結合した窒素原子どうしがアゾ結合を形成した場合には、共役効果がより強められることが期待され非常に有用である。さらに、(E)の構造を有する窒素架橋ポリシラン類では窒素原子の3本の結合手を有効に利用できるため、ポリシラン類の主鎖が結合手が2本である酸素原子を介して架橋された酸素架橋ポリシラン類と比較してより強固な架橋構造が形成できる。なお、本発明の含窒素複合材料が優れた光学的・電気的特性を発現するうえで満たすべき望ましい物性についても、上述したガラス複合材料の場合と同様である。
次に、本発明の複合材料(ガラス複合材料および含窒素複合材料)を用いた応用例として、1つの成形体中で異なる機能を発現させるためのパターニングや、発光素子、電子写真感光体、非線形光学素子、およびレーザー素子といった光電子デバイスへの適用について説明する。なお、以下においてはガラス複合材料(酸素架橋ポリシラン類)を代表として説明するが、含窒素複合材料(窒素架橋ポリシラン類)も同様に適用できることは勿論である。
(パターニング)
本発明に係るガラス複合材料の前駆体に用いられるポリシラン類は、適当な反応によりポリシラン類のポリマー鎖とガラスマトリックスとが架橋したガラス複合材料にすれば、上述した種々の電気的・化学的特性を発現させることができる。一方、前駆体のポリシラン類を酸化すると、ポリマー鎖が切断されて金属酸化物となる部位が多数発生するため、このような材料は上記ガラス複合材料とは異なる特性を有する。したがって、1つの成形体中において上記の2つの反応を起こさせれば、2つの異なる特性を有する領域を形成することができる。
例えば、前駆体のポリシラン類の溶液を調製して適当な基板上に塗布して成膜し、まず所定のマスクを介して一部の領域を選択的にポリシラン類の吸収波長領域またはそれよりも短波長の光で露光した後、加熱するという方法により所望のパターンを有する成形体を得ることができる。すなわち、露光部では光酸化によりポリマー鎖が切断されて金属酸化物が多く発生し、その後の加熱ではポリシラン類を含有しないか、あるいはその含有量が少量であるガラス体を形成するのに対し、未露光部では加熱による架橋反応の進行によりガラス複合材料が生成する。
光学的な特性に着目すれば、未露光部は紫外線吸収能(紫外線遮蔽能)、蛍光発光などの機能を発現するのに対し、露光部はこれらの機能を発現しない。したがって、紫外線遮蔽能を利用して耐紫外線ハードコーティングなど、蛍光性を利用して透明バーコード、視野角選択性コーティング、ホローウインドー膜などに応用することができる。また、未露光部と露光部とでは屈折率が異なるので、光導波路や、ホログラムなどの光記憶部位などとして利用することもできる。光導波路に関しては、ガラス複合材料からなる未露光部がコアであってもクラッドであってもよく、形状も特に限定されない。電気的な特性に着目すれば、未露光部は低抵抗、露光部は高抵抗であるので、例えば所定パターンの電極が形成されたプリント基板とその上に実装される電子部品とを電気的に接続させる場合にポリシラン類の薄膜を用いることができる。
(発光素子)
近年では、有機化合物を用いて低電圧で高輝度が得られる電界発光(EL)素子の研究が盛んであるが、これらは著しく耐久性が低く、良好な輝度を得るためには全層について蒸着プロセスを採用する必要がありコストが上昇するという問題がある。特開平3−126787号公報にはポリシランを使用したEL素子が開示されているが、従来用いられているポリシランは上述したような様々な問題を有する。Phys.Rev.B49(1994)14732などには結晶シリコンを陽極化成することにより得られる多孔質ポリシランが可視のEL発光を発生することが開示されているが、多孔質ポリシランはシリコン基板をエッチングすることにより作製されるため、堆積法や塗布法では成膜できない。Phys.Rev.Lett.69(1992)2531には、シロキセンが蛍光またはりん光を示すことが開示されているが、上述したようにシロキセンは溶媒に不溶であるため、堆積法や塗布法では成膜できない。さらに、これら多孔質ポリシランやシロキセンはSi結晶を含有するため、Si結晶が無発光準位を形成してEL効率を低下させるという問題がある。
これに対して本発明のガラス複合材料は、機械的強度の高い膜に成膜でき、耐光性などに優れ、しかもシリコン微結晶、ゲルマニウム微結晶、スズ微結晶の含有量が抑えられ、上述したようにポリシラン類が本来有する特性を生かすことができるので、EL素子の構成要素として用いることができる。
本発明の発光素子は、1対の電極間に発光層を有する発光素子において、前記発光層が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されており、M原子(ただし、MはSi、GeおよびSnから選択される少なくとも1種)の4本の結合手が全てM−M結合を形成するM原子(無発光中心として作用する)がM原子組成比で10%未満であるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものである。
本発明の他の発光素子は、1対の電極間に発光層および電荷輸送層を有する発光素子において、前記電荷輸送層が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されてなるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものである。
本発明に係るEL素子の例を図1および図2を参照して説明する。図1のEL素子は、基板11上にホール注入電極12、本発明に係るガラス複合材料からなる発光層13、および電子注入電極14が順次形成されたものである。この発光層3は電荷輸送層(ホール輸送層および電子輸送層)としての機能を兼ねる。図2のEL素子は、基板21上にホール注入電極22、本発明に係るガラス複合材料からなるホール輸送層23、発光層24および電子注入電極25が順次形成されたものである。なお、EL素子の構造は図1および図2に示したものに限らず、発光層と電子輸送層との2層構造でも、ホール輸送層、発光層および電子輸送層の3層構造でもよく、さらに多層の構造でもよい。
本発明のEL素子において、ガラス複合材料からなる発光層および/または電荷輸送層以外の層を構成する材料としては、各種の有機化合物を用いることができる。ホール輸送層に用いられ得る有機化合物としては、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体などが挙げられる。発光層に用いられ得る有機化合物としては、Alq3などが挙げられる。電子輸送層に用いられ得る有機化合物としては、フルオレン、アントラキノン、ペリレン、アントロンなどの多環芳香族化合物が挙げられる。これらの有機化合物は、本発明に係るガラス複合材料からなる発光層および/または電荷輸送層と積層してもよいし、ガラス複合材料と混合して所定の機能を有する層を形成してもよい。いずれの層も1〜300nm、好ましくは5〜150nmの厚さに成膜される。
ガラス複合材料からなる層は、その前駆体を任意の塗布法により成膜した後、ゲル化することにより形成できる。また、ゲル化したガラス複合材料は溶媒に溶解しにくくなるため、その上に塗布法により他の層を形成する場合に任意の溶媒を用いることができる。
基板としては、ガラス、セラミックス、硬質プラスチックなどの種々の材質のものを用いることができるが、透明のものが好ましい。ホール注入電極の材料としてはITO,SnO2,In2O3などの金属酸化物、電子注入電極の材料としてはAu,Ag,Cu,Al,In,Ni,Mg,Ca,Sn,Pb,Mnなどの金属またはこれらの金属を含有する合金が用いられる。これらの電極の少なくとも一方は透明または半透明であることが好ましい。
本発明のEL素子は、通常3〜50V程度の直流電圧で駆動でき、0.1〜5000mA/cm2程度の電流が流れ、1〜10000cd/m2程度の発光輝度が得られる。なお、ガラス複合材料を発光層として用いる場合、そのポリマー主鎖におけるSi、Ge、Snの連鎖個数や架橋度に応じて発光エネルギーが変化するため、ある程度発光波長を調整することができる。ここでポリマー主鎖におけるSi、Ge、Snの連鎖個数や架橋度を変化させるには、例えば前駆体の膜を露光した後、架橋する方法を用いることができる。この際、上述したようにパターニングを行うことにより、多色発光のEL素子を実現できる。
(電子写真感光体)
近年、電子写真感光体としては、電荷発生層と電荷輸送層とを有するものが提案されている。この電荷輸送層としてはバインダーポリマーに有機低分子化合物からなる電荷輸送物質を分散させたものが知られているが、バインダーポリマーによって電荷輸送能が低下し、耐久性にも乏しい。また、例えば特開平3−293361号公報には、ポリシランブロックコポリマーを用いた電子写真感光体が開示されているが、このような従来のポリシランではやはり上述したように耐久性などに問題がある。
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に、電荷発生層と電荷輸送層とを有する電子写真感光体において、前記電荷輸送層が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されてなるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものであり、耐久性に優れ、ポリシラン類が本来的に有する電荷輸送能を発現することができる。
本発明に係る電子写真感光体の例を図3および図4を参照して説明する。図3の電子写真感光体は、導電性支持体31上に電荷発生層32および本発明に係るガラス複合材料からなる電荷輸送層33を順次形成したものである。図4の電子写真感光体は、導電性支持体41上に本発明に係るガラス複合材料からなる電荷輸送層42および電荷発生層43を順次形成したものである。
電荷発生層に含まれる電荷発生物質としては、Se、SeTe、SeAsなどの無機電荷発生物質や、ピリリウム、チアピリリウム系染料、フタロシアニン系顔料、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン系顔料、キノシアニンなどの有機電荷発生物質が用いられ得る。これらは通常バインダーポリマー中に分散された状態で電荷発生層として成膜される。
導電性支持体としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス、チタン、ニッケル、インジウム、金、白金などが用いられる。また、これらの金属を真空蒸着により被覆した樹脂などを用いることもできる。
(非線形光学素子)
本発明の非線形光学素子は、非線形光学現象発生部と光導波部とを有する非線形光学素子において、少なくとも前記非線形光学現象発生部が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されており、かつCu管球をX線源とするX線回折により2θ=20〜60°の範囲にピークが観測されるシリコン結晶、ゲルマニウム結晶およびスズ結晶に起因するシグナルの面積が全シグナルの合計面積の1%以下であるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものである。
本発明に係る非線形光学素子の例を図5および図6を参照して説明する。図5の非線形光学素子は、基板51上にガラス複合材料がエッチングにより図示するようなパターンに形成されている。その中央部は3次の非線形現象発生部52となっており、この中央部に対してレーザー光の入射側に2分岐の導波路53、54、出射側に3分岐の導波路55、56、57が形成された形状を有する。シグナル光を単独で導波路53から入射すると、直進して導波路55から出射する。制御光を単独で導波路54から入射すると、直進して導波路56から出射する。そして、シグナル光を導波路53から、制御光を単独で導波路54から同時に入射すると、3次の非線形現象発生部52で回折が生じ、導波路57から回折光が出射する。図6の非線形光学素子は、基板61上にガラス複合材料からなる2次の非線形現象発生部62が直線状のパターンに形成されたものである。この2次の非線形現象発生部62に光を通過させると、第2高調波が矢印で示す方向に発生する。
(レーザー素子)
近年、小型レーザーとして半導体レーザーが盛んに研究されているが、発振波長は450nmが限度であり、それ以下の波長での発振は実現していない。
これに対してポリシランの発光波長は300〜400nm、ポリゲルマンの発光波長は350〜450nm、ポリスタナンの発光波長は400〜500nmであるので、波長の点からは優れたレーザー媒質となり得る。本発明のガラス複合材料はこれらのポリシラン類の発光波長を有効に生かすことができるので、レーザー素子としての応用が期待できる。
本発明のレーザー素子は、レーザー媒質と、このレーザー媒質を介して対向配置された1対のミラーからなる共振器と、前記レーザー媒質を励起するための励起手段とを有するレーザー素子において、前記レーザー媒質が、ポリシラン、ポリゲルマンおよびポリスタナンならびにこれらの共重合体から選択されるポリマー鎖と、金属原子が酸素原子を介して他の金属原子と結合してなる金属酸化物の網状構造とを有し、前記ポリマー鎖が前記金属酸化物の網状構造からなるガラスマトリックスで化学的に3箇所以上架橋されており、かつCu管球をX線源とするX線回折により2θ=20〜60°の範囲にピークが観測されるシリコン結晶、ゲルマニウム結晶およびスズ結晶に起因するシグナルの面積が全シグナルの合計面積の1%以下であるガラス複合材料を主体とすることを特徴とするものである。
本発明に係るレーザー素子の例を図7を参照して説明する。図7のレーザー素子は、ガラス複合材料からなるレーザー媒質71の両端に1対の共振器ミラー72、73を設け、レーザー媒質71の両面には励起手段としての1対の励起用電極74、75が設けられている。このレーザー媒質71を励起すると矢印の方向にレーザー光が発生する。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
実施例1
下記化学式で示される繰返し単位を有する分子量420000のポリシラン(E1)70mgおよびテトラエトキシシラン(TEOS)70mgをエタノール2.5mlに溶解した。この溶液を室温で撹拌しながら、28%アンモニア水0.5mlとエタノール5mlとの混合溶液を加え、室温で12時間撹拌した。次に、全液量が1ml程度になるまで溶媒を除去して濃縮し塗布液を調製した。その後、この塗布液を石英基板上に回転塗布した。基板上の塗布液を室温で約1時間風乾した後、40℃で5時間乾燥してゲル化し、無色透明の膜(実施例1)を得た。
得られた膜の可視・紫外吸収スペクトルを測定したところ、315nm付近にポリシラン(E1)のケイ素鎖に起因する吸収が観測され、ポリシラン(E1)がゲル化反応条件下でも分解していないことがわかった。また、この膜の赤外吸収スペクトルをKBr法によって測定したところ、1100cm-1付近にSi−O−Si結合に起因する吸収が観測され、ケイ酸ガラス構造が形成されていることが確認された。これらの結果から、得られた膜はケイ酸ガラス中にポリシラン(E1)が含有されているガラス複合膜であることがわかった。
さらに、このガラス複合膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価した。その結果、このガラス複合膜は硬度Bを示し、十分な機械的強度を有することがわかった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cmを超えていた。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
一方、比較のために、ポリシラン(E1)のエタノール溶液を調製し、上記と同様に石英基板上に回転塗布し、乾燥して膜を形成した。この回転塗布膜は指先で押すと指紋が付くほど軟らかく、その機械的強度は不十分であった。
実施例2
ポリシラン(E1)6.7mg、ポリビニルピロリドン(PVP)70mgおよびテトラエトキシシラン(TEOS)70mgをエタノール2.5mlに溶解した。この溶液を室温で撹拌しながら、28%アンモニア水0.5mlとエタノール5mlとの混合溶液を加え、室温で12時間撹拌した。次に、全液量が1ml程度になるまで溶媒を除去して濃縮し塗布液を調製した。その後、この塗布液を石英基板上に回転塗布した。基板上の塗布液を室温で約1時間風乾した後、40℃で5時間乾燥してゲル化し、無色透明の膜(実施例2)を得た。
この膜について、実施例1と同様に、可視・紫外吸収スペクトルおよび赤外吸収スペクトルの測定を行ったところ、この膜はPVPとケイ酸ガラスとからなる媒質中にポリシラン(E1)が含有されているガラス複合膜であることがわかった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cmを超えていた。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例3
下記化学式で示される繰返し単位を有する分子量7000のポリシラン(E2)70mgおよびテトラエトキシシラン(TEOS)70mgをエタノール2.5mlに溶解した。この溶液を室温で撹拌しながら、28%アンモニア水0.5mlとエタノール5mlとの混合溶液を加え、室温で12時間撹拌した。次に、全液量が1ml程度になるまで溶媒を除去して濃縮し塗布液を調製した。その後、この塗布液を石英基板上に回転塗布した。基板上の塗布液を室温で約1時間風乾した後、40℃で5時間乾燥してゲル化し、膜厚0.2μmの無色透明の膜(実施例3)を得た。
得られた膜の可視・紫外吸収スペクトルを測定したところ、305nm付近にポリシラン(E2)のケイ素鎖に起因する吸収が観測された。また、この膜の赤外吸収スペクトルをKBr法によって測定したところ、ケイ酸ガラス構造が形成されていることが確認された。これらの結果から、得られた膜はケイ酸ガラス中にポリシラン(E2)が含有されたガラス複合膜であることがわかった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cmを超えていた。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
さらに、得られたガラス複合膜について以下のようにして耐光性を評価した。すなわち、ガラス複合膜を劣化させるために、低圧水銀灯から波長254nmの紫外線を7mW/cm2の条件で所定時間照射した。そして、紫外線照射前後の可視・紫外吸収スペクトルを比較することにより、耐光性を評価した。その結果、実施例3の膜では、30分間の紫外線照射後でも、305nm付近の吸収ピーク強度が、紫外線照射前のそれと比較して72%であり、ポリシラン鎖はそれほど光分解していないことが確認された。一方、比較のために、ポリシラン(E2)のエタノール溶液を調製し、上記と同様に石英基板上に回転塗布し、乾燥して膜(比較例3)を形成した。この膜について、上記と全く同じ条件で、紫外線を照射したときの耐光性を評価した。なお、波長254nmの紫外線の吸収量が、膜厚0.2μmのガラス複合膜と同一になるように、比較例3の回転塗布膜の膜厚は0.16μmとした。その結果、比較例3の回転塗布膜では、紫外線の照射によってケイ素鎖に起因する310nm付近の吸収がほぼ消失した。以上のように、実施例3のガラス複合膜は、未処理のポリシラン(E2)からなる比較例3の回転塗布膜と比較して、光照射に対して非常に優れた耐久性を有することがわかった。
実施例4
ポリシラン(E2)のTHF溶液を調製し、この溶液を石英基板上に回転塗布した。基板上の塗布液を室温で約1時間風乾した後、150℃で1時間加熱処理して無色透明の膜を得た。
得られた膜の可視・紫外吸収スペクトルを測定したところ、302nm付近にポリシラン(E2)のケイ素鎖に起因する吸収が観測された。また、この膜の赤外吸収スペクトルをKBr法によって測定したところ、ポリシラン(E2)と比較して1020cm-1付近の吸収が増大しており、新たにSi−O−Si結合が生じたことが確認された。さらに、膜はTHFに難溶となり、かつ膜質も硬化した。これらの結果は、隣接するポリシラン鎖どうしが側鎖のエトキシ基に由来する酸素原子を介して架橋することにより生じたケイ酸ガラス類似構造部分とポリシラン鎖とを含むガラス複合膜が形成されていることを示唆するものである。このように、原料としてポリシラン(E2)のみを用いてもポリシラン鎖を含むガラス複合膜を形成できる。このガラス複合膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ、硬度Bを示した。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
さらに、得られたガラス複合膜について、実施例3と同一の条件で所定時間紫外線を照射し、紫外線照射前後の可視・紫外吸収スペクトルを比較することにより、耐光性を評価した。その結果、実施例4の膜は、30分間の紫外線照射後でも、302nm付近の吸収ピーク強度が紫外線照射前のそれと比較して70%以上であり、ポリシラン鎖はそれほど光分解していないことが確認された。一方、比較のために、ポリシラン(E2)のエタノール溶液を上記と同様に石英基板上に回転塗布し乾燥して膜(比較例4)を形成し、上記と同様に耐光性を評価した。その結果、比較例4の回転塗布膜では、紫外線を5分間照射しただけで、ケイ素鎖に起因する310nm付近の吸収がほぼ消失した。このように、実施例4のガラス複合膜は、未処理のポリシラン(E2)からなる比較例4の回転塗布膜と比較して、耐光性が大きく向上していることがわかった。
同様に、比較のためにポリ(フェニルメチルシリレン)(重量平均分子量4000)およびポリ(ジブチルシリレン)(重量平均分子量10000)をそれぞれ用い、比較例4と同様にして回転塗布膜(比較例4’および4”)を形成し、上記と全く同じ条件で耐光性を比較した。その結果、比較例4’および4”の回転塗布膜でも、紫外線を5分間照射しただけで、ケイ素鎖に起因する310nm付近の吸収がほぼ消失した。このように、実施例4のガラス複合膜は、従来知られているポリシランからなる回転塗布膜と比較しても、耐光性が大きく向上していることがわかった。
次に、テトラエトキシシラン1g、エタノール1.5g、水2gおよび塩酸0.1gの混合溶液を室温で1.5時間撹拌した後、水3gおよびアセトニトリル0.5gを加えて撹拌した。この混合溶液に、上記のガラス複合膜が形成された基板を10分間浸漬した。その後、基板を取り出し、ガラス複合膜の表面を軽く水洗し、100℃で40分間加熱乾燥した。この浸漬処理後の膜の硬度を鉛筆引っかき試験で評価したところ、硬度3Hを示した。上述したように浸漬処理前の膜の硬度はBであったことから、浸漬処理によって膜の硬度が増したことがわかる。これは、浸漬処理によって膜中にSiO2ゾルが浸透してポリシランと相互に架橋し、膜中のケイ酸ガラス構造が強化されたことによるものと考えられる。
実施例5
下記化学式で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量8000のポリシラン(E3)のTHF溶液を調製し、この溶液を石英基板上に回転塗布した。基板上の塗布液を室温で約1時間風乾した後、160℃で5分間加熱乾燥し、さらに室温で一昼夜放置して硬化させ、無色透明の硬化膜(実施例5)を得た。得られた硬化膜の可視・紫外吸収スペクトルを測定したところ、280−310nmの領域にポリシランのケイ素鎖に起因する吸収が観測された。また、赤外吸収スペクトル測定からケイ酸ガラス類似構造が形成されていることがわかった。
得られたガラス複合膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)で評価したところ硬度2Hを示し、良好な機械的強度を有することがわかった。また、得られたガラス複合膜について実施例3と同様にして紫外線照射に対する耐光性を調べた。その結果、実施例5のガラス複合膜は、30分間の紫外線照射後でも、280−310nmの領域における吸収ピーク強度が、紫外線照射前のそれと比較して80%以上であり、ポリシラン鎖はそれほど光分解していないことが確認された。一方、加熱による硬化処理を行っていないポリシラン(E3)の回転塗布膜について同様に耐光性を評価したところ、5分間の紫外線照射でケイ素鎖の吸収がほぼ消失した。このように、硬化処理によって得られたガラス複合膜は優れた耐光性を有することがわかった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。またポリシラン(E3)の代わりにポリシラン(E3)と同じ繰り返し単位を有するポリシラン(E3’)(重量平均分子量42000)を用いたところ、硬度3Hで、未硬化のものと比較して耐光性が同様に向上した。
次に、ポリシラン(E3)に酸触媒として0.5重量%のシュウ酸を加え、この混合物をTHFに溶解し、この溶液を石英基板上に回転塗布した。基板上の塗布液を室温で1時間風乾した後、120℃で10分間加熱乾燥し、さらに室温で一昼夜放置して、無色透明の硬化膜(実施例5’)を得た。実施例5’の硬化膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)で評価したところ、硬度3Hであった。このように酸触媒を用いてポリシランを硬化させた場合には、ポリシランのみを硬化させた場合よりも、硬化条件がおだやかであり、しかもより強靱な硬化膜を形成できる。また、実施例5’の硬化膜について可視・紫外吸収スペクトルを測定した結果、ケイ素鎖に起因する吸収ピークはそれほど弱くなっておらず、硬化反応の際に副反応として起こるポリシラン主鎖の分解が抑制されていることもわかった。これは、酸触媒であるシュウ酸がポリシラン側鎖のアルコキシル基や水酸基の脱離を促進して架橋度を向上させる作用を有し、したがって副反応であるポリシラン鎖の開裂を防ぐためであると考えられる。
次いで、ポリシラン(E3)に20重量%のアルミニウムトリイソプロポキシドを加え、この混合物をTHFに溶解し、この溶液を石英基板上に回転塗布した。基板上の塗布液を室温で1時間風乾した後、120℃で30分間加熱処理し、さらに室温で一昼夜放置して、無色透明の硬化膜(実施例5”)を得た。実施例5”の硬化膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)で評価したところ、硬度5Hであった。このようにアルミニウムアルコキシドを用いてポリシランを硬化させた場合には、ポリシランのみを硬化させた場合よりも、硬化条件がおだやかであり、しかも非常に強靱な硬化膜を形成できる。このように膜の表面硬度が向上した理由は、アルミニウムアルコキシド自体が架橋剤として作用して架橋度を向上させるとともに、アルミナ類似の骨格を形成するためであると考えられる。また、実施例5”の硬化膜について可視・紫外吸収スペクトルを測定した結果、ケイ素鎖に起因する吸収ピークはそれほど弱くなっておらず、硬化反応の際に副反応として起こるポリシラン主鎖の分解が抑制されていることもわかった。これは、アルミニウムアルコキシドがルイス酸であり、シュウ酸のような酸触媒と同様に、ポリシラン側鎖のアルコキシル基や水酸基の脱離を促進して架橋度を向上させる作用を有し、したがって副反応であるポリシラン鎖の開裂を防ぐためであると考えられる。
なお、アルミニウムアルコキシドの代わりに、チタンテトラエトキシドまたはチンテトラブトキシドを用いた場合にも、アルミニウムアルコキシドの場合と同様の結果が得られた。またやはりポリシラン(E3)と200重量%のペルヒドロポリシラザンを混合し、トルエン溶液となし、石英基板上に回転塗布した。120℃で2時間、空気中で加熱し、無色透明のポリシラン−シリカ複合硬化膜を得た。体積抵抗率は3×106Ω・cm以上であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例6
1リットルの3口フラスコに金属ナトリウム25.2g、トルエン160mlおよびヘプタン35mlを入れ、還流管と滴下ロートを装着し、アルゴン雰囲気中で60℃に保持した。この混合物にジターシャリブトキシジクロロシラン117gのトルエン溶液30mlを1時間かけて滴下した後、60℃で3時間撹拌した。次に、トリメチルシリルクロリド5mlを滴下して、さらに30分間撹拌した。さらに、2リットルのトルエンを加えて撹拌した。その後、ガラスフィルターを用いて加圧ろ過した。得られたろ液から溶媒を留去することにより、約100mlの液量とした。これを2リットルのメタノール中に撹拌しながら注ぎこみ、ポリマーを再沈させた。つづいて、沈殿をろ過した後、真空乾燥して、下記化学式で示される繰返し単位を有するポリシラン(E4)を得た(収量1.1g、平均分子量2700)。
得られたポリシランのIRおよびNMRスペクトルの結果を以下に示す。
IR(KBr,cm-1):815(m),1022(m),1045(s),1100(m),1185(s),1363(m),2975(m)。
1H−NMR(270MHz,C
6D
6):δ1.27(s)。
このポリシラン(E4)のトルエン溶液を石英基板上に回転塗布して膜を形成した。この膜を、開放容器に入れた6Nの塩酸水溶液とともにデシケータ中に封入し、室温で2日間放置し、塩酸蒸気にさらした。さらに、膜を塩酸蒸気雰囲気下のまま150℃で4時間加熱した。
この膜(実施例6)の赤外吸収スペクトルを測定したところ、実施例4と同様に1020cm-1付近の吸収の増大が観測され、新たにSi−O−Si結合が生じたことが確認された。一方、t−ブチル基に起因する吸収は消失した。このときNMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーのアルコキシル基の反応率は約40%であった。また、鉛筆引っかき試験(JIS K5400準拠)で評価したところ硬度6Hを示し、膜質の硬化が認められた。これらのことから、酸触媒存在下、加熱したことによってポリシラン(E4)のt−ブチル基が分解して、生じたシラノール基が相互に縮合し、実施例4と同様のケイ酸ガラス類似構造が生成したと考えられる。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
つづいて、得られた膜について実施例3と同様にして紫外線照射に対する耐光性を評価した。その結果、実施例6の膜は、30分間の紫外線照射後でも、ポリシラン(E4)のケイ素鎖に起因する315nm付近の吸収ピーク強度が、紫外線照射前のそれと比較して85%であり、ポリシラン鎖はそれほど光分解していないことが確認された。一方、比較のために、ポリシラン(E4)のトルエン溶液を調製し、上記と同様に石英基板上に回転塗布し、乾燥して膜(比較例6)を形成した。この膜について、上記と同様に紫外線照射に対する耐光性を評価した。その結果、比較例6の膜では、紫外線の照射によってケイ素鎖に起因する吸収がほぼ消失した。以上のように、ポリシラン(E4)の縮合反応により得られた実施例6の膜は、未処理のポリシラン(E4)からなる比較例6の膜と比較して、耐光性が大きく向上することがわかった。
実施例7
1リットルの3口フラスコに金属ナトリウム25.2g、トルエン160mlおよびヘプタン35mlを入れ、還流管と滴下ロートを装着し、アルゴン雰囲気中で60℃に保持した。この混合物にターシャリブトキシメチルジクロロシラン80gをトルエン溶液30mlを1時間かけて滴下した後、60℃で3日間撹拌した。次に、トリメチルシリルクロリド5mlを滴下して、さらに30分間撹拌した。さらに、2リットルのトルエンを加えて撹拌した。その後、ガラスフィルターを用いて加圧ろ過した。得られたろ液から溶媒を留去することにより、約100mlの液量とした。これを2リットルのメタノール中に撹拌しながら注ぎこみ、ポリマーを再沈させた。つづいて、沈殿をろ過した後、真空乾燥して、下記化学式で示される繰り返し単位を有するポリシラン(E5)を得た(収量5.2g、平均分子量3000)。
得られたポリシランのIRおよびNMRスペクトルの結果を以下に示す。
IR(KBr、cm-1):810(m),1010(s),1030(s),1185(s),1234(s),1360(s),2965(s)。
1H−NMR(270MHz,C
6D
6):δ0.5−0.8,0.8−1.5。
得られたポリシラン(E5)を用い、実施例6と同様な方法により石英基板上に膜を形成し硬化処理したところ、無色透明の硬化膜が得られた。この硬化膜はガラス複合材料であることがわかった。得られた膜の表面硬度は鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)で硬度4Hと十分な膜硬度を有していた。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
また、紫外線に対する耐光性試験を行ったところ、この膜は30分間の紫外線照射後でも、ポリシラン(E5)のケイ素鎖に起因する吸収ピーク強度が、紫外線照射前のそれと比較して73%であった。一方、比較のために、未処理のポリシラン(E5)からなる回転塗布膜について上記と同様に紫外線照射に対する耐光性を評価したところ、紫外線の照射によってケイ素鎖に起因する吸収がほぼ消失した。このように、ポリシラン(E5)の縮合反応により得られた硬化膜は耐光性に優れていた。
実施例8
アルゴンガス雰囲気中で200mlのナスフラスコにポリ(フェニルメチルシリレン)0.71gの塩化メチレン溶液10mlを入れ、これを撹拌しながら、トリフルオロメタンスルホン酸0.47mlを加え、室温で2.5時間撹拌した。この溶液にターシャリブチルアルコール3.5mlとトリエチルアミン2mlとの混合溶液を加え、室温で1.5時間撹拌した後、溶媒を留去した。溶媒留去後の残渣をエーテルで抽出した。抽出液を水で洗い、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。その後、溶媒を留去し、真空乾燥して、下記化学式で示される繰り返し単位を有するポリシラン(E6)を得た(収量0.58g、重量平均分子量2400、ターシャリブトキシ基の導入率79%)。
得られたポリシランのIRおよびNMRスペクトルの結果を以下に示す。
IR(KBr、cm-1):630(w),690(m),750(s),1010(s),1030(s),1180(s),1240(s),1360(m),1380(w),2960(s)。
1H−NMR(270MHz,C6D6):δ0.5−0.8,0.8−1.4,7.0−7.7。
また、ターシャリブチルアルコールの代わりにメチルアルコール1.5mlを用いた他は上記と同様にして下記化学式で示される繰り返し単位を有するポリシラン(E7)を得た(収量0.41g、重量平均分子量2800、メトキシ基の導入率80%)。
これらのポリシランについて、以下のような条件下での構造変化を赤外線吸収スペクトルの観測から評価した。ポリシラン(E7)は室温において1日でオイル状からゴム状へと変化した。この現象は、架橋縮合反応によってガラス化が起こったことによるものである。これに対して、ポリシラン(E6)は室温において1か月放置した後にもガラス化は進行しなかった。また、ポリシラン(E6)に10重量%のシュウ酸を加えて120℃で3時間加熱したところ、ガラス化が進行してガラス複合膜が形成された。これらの結果から、ターシャリブトキシ基を有するポリシラン(E6)は、メトキシ基を有するポリシラン(E7)と比較して安定性に優れている(ポットライフが長い)うえに、いったん酸触媒を作用させると速やかに硬化することがわかった。
実施例9
出発原料のポリシランとしてポリ(ジフェニルシリレン)とポリ(フェニルメチルシリレン)との1:1の共重合体を用いた以外は、実施例8と同様な方法により、下記化学式に示すようにターシャリブトキシ基が導入された2つの繰り返し単位を有するポリシラン共重合体(E8)を得た(収量0.43g、重量平均分子量2200、ターシャリブトキシ基の導入率83%)。
得られたポリシランのIRおよびNMRスペクトルの結果を以下に示す。
IR(KBr、cm-1):635(w),690(m),745(s),1010(s),1030(s),1180(s),1240(s),1355(m),1380(w),2960(s)。
1H−NMR(270MHz,C
6D
6):δ0.5−0.8,0.8−1.4,7.0−7.7。
得られたポリシラン(E8)を用い、実施例6と同様な方法により石英基板上に膜を形成し硬化処理したところ、無色透明のガラス複合膜が得られた。得られた膜の表面硬度は鉛筆硬度で3Hであった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例6と同じ条件で耐光性を調べたところ、30分間の紫外線照射後でも、ポリシラン(E8)のケイ素鎖に起因する吸収ピーク強度が、紫外線照射前のそれと比較して87%であった。
実施例10
ポリシランの代わりに下記化学式で示される繰り返し単位を有する分子量2100のポリゲルマン(E9)を用いた以外は実施例4と同様な方法により、加熱による硬化反応を行い、ポリゲルマン鎖を含有するガラス複合膜を作製した。この膜は溶媒として用いたTHFに不溶になって硬化した。その表面硬度は鉛筆硬度で1Hであり、従来のポリゲルマンと比較して優れていた。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Ge微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
また、実施例6と同様にして耐光性を評価したところ、ポリゲルマン(E9)の硬化により得られたガラス複合膜は、未処理のポリゲルマン(E9)に比較して、同程度の光分解が生じるまでの時間が約2倍であり、耐光性に優れていた。
実施例11
ポリシランの代わりに下記化学式で示される繰り返し単位を有する分子量2000のポリスタナン(E10)を用いた以外は実施例4と同様な方法により、加熱による硬化反応を行い、ポリスタナン鎖を含有するガラス複合膜を作製した。この膜は溶媒として用いたTHFに不溶になって硬化した。その外観は、透明均一であった。その表面硬度は鉛筆硬度で1Hであり、従来のポリスタナンと比較して優れていた。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×10
6Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Sn微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例12
ポリ(フェニルメチルシリレン)の代わりに、ウルツ法により合成したフェニルメチルジクロロシランとジブチルジクロロゲルマンとの1:1共重合体を用いた以外は、実施例8と同様な方法により、下記化学式に示すようにターシャリブトキシ基が導入された2つの繰り返し単位を有するポリ(シラン−ゲルマン)共重合体(E11)を得た(重量平均分子量2000、ターシャリブトキシ基の導入率62%)。
得られたポリ(シラン−ゲルマン)共重合体のIRおよびNMRスペクトルの結果を以下に示す。
IR(KBr、cm-1):680(m),700(m),734(w),840(w),1000(s),1080(s),1180(m),1245(m),1355(w),1460(m),2850(s),2920(s),2950(m)。
1H−NMR(270MHz,C
6D
6):δ0.5−0.8,0.5−1.0,1.0−1.6,7.0−7.7。
実施例8と同様に、ポリシラン(E6)に10重量%のシュウ酸を加えて120℃で3時間加熱したところ、ガラス化が進行して透明均一なガラス複合膜が形成された。このガラス複合膜の表面硬度は鉛筆硬度で1Hであった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si、Ge微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例13
下記化学式(E12)で示される環状ポリシランのテトラヒドロフラン溶液をガラス基板上に塗布した後、室温で乾燥した。その後、160℃で10分間加熱し、無色透明の環状ポリシラン架橋膜を得た。この膜の表面硬度は鉛筆硬度で1Hであった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×10
6Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例14
下記化学式(E13)で示される環状ポリシランのテトラヒドロフラン溶液をガラス基板上に塗布した後、室温で乾燥した。その後、160℃で10分間加熱し、無色透明の環状ポリシラン架橋膜を得た。この膜の表面硬度は鉛筆硬度で5Hであった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×10
6Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例15
1リットルの3口フラスコに金属リチウム8gおよびジエチルエーテル150mlを入れ、還流管と滴下ロートを装着し、アルゴン雰囲気中で30℃に保持した。この混合物にジターシャリブトキシジクロロシラン110gのジエチルエーテル溶液30mlを1時間かけて滴下した後、30℃で撹拌した。その後、ガラスフィルターを用いて加圧ろ過した。得られたろ液から溶媒を留去した。溶媒留去後の残渣を液体カラムクロマトグラフィーで精製して、下記化学式で示される環状ポリシラン(E14)を得た(収量0.5g)。
得られたポリシランのIRおよびNMRスペクトルの結果を以下に示す。
IR(KBr、cm-1):700(m),800(s),1040(s),1185(m),1240(w),1255(s),1360(s),1385(w),1460(m),2850(m),2925(s),2975(s)。
1H−NMR(270MHz,アセトン):δ=1.14。
13C−NMR(270MHz,CDCl
3):δ=32。
このポリシラン(E14)および0.1重量%のp−トルエンスルホン酸を溶解したトルエン溶液をガラス基板上に塗布後、120℃で30分間加熱して、無色透明の環状ポリシラン架橋膜を得た。この膜の表面硬度は鉛筆硬度で2Hであった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例16
実施例15で用いた環状ポリシラン(E14)50重量部、下記化学式で示される重量平均分子量12000のポリ(ジターシャリブトキシシロキサン)50重量部およびp−トルエンスルホン酸0.001重量部を溶解したトルエン溶液をガラス基板上に塗布後、実施例15と同様の加熱処理を行い、無色透明のポリシラン架橋膜を得た。この膜の表面硬度は鉛筆硬度で3Hであった。
また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×10
6Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例17
実施例8において示した、置換基としてメトキシ基およびメチル基を有するポリシラン(E7、重量平均分子量4000)のTHF溶液を石英基板上に回転塗布した後、室温で真空乾燥し、厚さ0.8μmの膜を形成した。この膜の上に所定形状のマスクを重ね、このマスクを通して低圧水銀灯から0.24J/cm2の条件で紫外線を照射し、露光を行った。このようにして露光部のポリシランを光酸化させて金属酸化物を生成させた。その後、この膜を160℃で30分間熱風乾燥し、架橋反応を起こさせることにより、パターニング膜(実施例17)を形成した。得られたパターニング膜について屈折率を測定したところ、露光部では1.41、未露光部では1.58であった。このように、1つの膜内において屈折率の異なる部位を作り込むことができた。
未露光部についての各種測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
一方、比較のために、重量平均分子量200000のポリ(フェニルヘキシルシリレン)のトルエン溶液を石英基板上に回転塗布した後、80℃に加熱して真空乾燥し、厚さ0.8μmの膜を形成した。この膜に対して上記と全く同様にして露光を行うことによりパターニング膜(比較例17)を形成した。
次に、実施例17および比較例17のパターニング膜について以下のようにして耐光性を評価した。各パターニング膜と蛍光物質を塗布した蛍光板とを重ね、パターニング膜から10cm離れた位置に紫外線源として10Wの低圧水銀灯を配置した。低圧水銀灯からパターニング膜に紫外線を照射して、蛍光板からの可視発光を観測した。この場合、パターニング膜の未露光部ではポリシランが残存していれば紫外線が吸収されるのに対し、露光部では紫外線が透過する。したがって、パターニング膜のパターンに対応する蛍光板からの発光パターンを目視で確認できる。しかし、未露光部のポリシランが紫外線照射により損傷を受け、紫外線を十分に吸収しなくなると、蛍光板からの発光パターンは認められなくなる。
この試験の結果、実施例17のパターニング膜については照射5時間後でも発光パターンが確認できたのに対して、比較例17のパターニング膜については照射4分後に発光パターンが確認できなくなった。このことから、実施例17のパターニング膜は、比較例17のものに比べて、非常に優れた耐光性を持つことがわかった。
また、表面硬度は実施例17で2H、比較例17で2Bであり、硬度の点でも実施例17の方が優れていた。
実施例18
露光後の加熱条件を80℃、10分間とした以外は実施例17と同様にしてポリシラン(E7)のパターニング膜を形成した。また、テトラエトキシシラン30gおよびエタノール60gおよび水溶液12mlに塩酸0.1mlを加え、室温で3時間撹拌してSiO2ゾルを調製した。このSiO2ゾルに、上記パターニング膜を室温で10分間浸漬した。その後、パターニング膜を取り出し、純水で軽く洗浄した後、120℃で20分間熱風加熱乾燥した。このパターニング膜について、実施例17と同様に蛍光板を用いてその発光パターンを観察したところ、照射5時間後でも発光パターンが確認できた。また、このパターニング膜の表面硬度を測定したところ鉛筆硬度で6Hであり、SiO2ゾルを含浸させていない実施例17のものに比べて表面硬度が向上した。
未露光部についての各種測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例19
実施例17と同様に、ポリシラン(E7)のTHF溶液を石英基板上に回転塗布した後、室温で真空乾燥し、厚さ1.5μmのポリシラン膜を形成した。この膜の上に所定の光導波路の形状を有するマスクを重ね、このマスクを通して低圧水銀灯から0.24J/cm2の条件で紫外線を照射し、露光を行った。その後、この膜を160℃で30分間熱風乾燥し、未露光部において架橋反応を起こさせることにより、パターニング膜を形成した。得られたパターニング膜について屈折率を測定したところ、露光部では1.41、未露光部では1.58であった。このパターニング膜について、光源としてNd3+:YAGレーザーの第2高調波で励起した色素レーザー(波長:560nm)を用い、光導波路としての動作試験を行ったところ、良好に動作した。
未露光部についての各種測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例20
実施例1と同様に、分子量420000のポリシラン(E1)70mgおよびテトラエトキシシラン(TEOS)70mgをエタノール2.5mlに溶解した。この溶液を室温で撹拌しながら、28%アンモニア水0.5mlとエタノール5mlとの混合溶液を加え、室温で12時間撹拌した。次に、全液量が1ml程度になるまで溶媒を除去して濃縮し塗布液を調製した。その後、この塗布液を石英基板上に回転塗布した。基板上の塗布液を室温で約1時間風乾して膜を形成した後、パターニングした。このパターニング膜について、実施例17と同様に蛍光板を用いてその発光パターンを観察したところ、照射5時間後でも発光パターンが確認できた。
未露光部についての各種測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cmを超えていた。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例21
図8に示すようにガラス基板の全面に金電極81を形成した。次に、置換基としてメトキシ基とメチル基とを有するポリシラン(E7)のTHF溶液を調製し、この溶液を金電極81上に塗布して膜(図示せず)を形成した。次いで、図8のA領域に低圧水銀灯から5J/cm2の条件で紫外線を照射して、この領域の膜を露光した。さらに、120℃で700秒間加熱して膜をゲル化させた。その後、露光部(A領域)および未露光部にそれぞれ金電極82、82を真空蒸着した。この試料について、上下の金電極81−金電極82間に20Vの電圧を印加して抵抗率を測定したところ、未露光部では1×105Ω・cm、露光部では1×1010Ω・cmであった。
未露光部についての各種測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例22
プリント基板の配線を接続するためにガラス複合材料を用いた例を図9および図10(a)〜(d)を参照して説明する。まず、プリント基板91上に銅電極92を形成した(図9および図10(a))。次に、ポリシラン(E7)のTHF溶液を調製し、この溶液をプリント基板91の全面に塗布して膜93を形成した(図10(b))。次いで、膜93の上に所定のパターンを有するマスク94を配置し、露光用光源95からマスク94を通して銅電極92の領域以外の領域に紫外線を照射した(図10(c))。さらに、膜93の上にリード96が形成された電子部品97を、リード96を銅電極92に対して位置合わせして圧着させた。その後、120℃で700秒間加熱して膜93をゲル化させた。この結果、未露光部は低抵抗膜93’、露光部は高抵抗膜93”となる。一方、リード96と銅電極92との間およびその他の領域の電子部品97とプリント基板91との間が低抵抗膜93’、高抵抗膜93”で相互に接続された。
得られたプリント配線基板について、銅電極92と電子部品97のリード96との間の低抵抗膜93’(電気的接合面積4mm2)の抵抗を測定したところ、3Ωであった。また、電子部品97をプリント基板からはがしたところ、接着力は1kg重/cm2であった。
未露光部についての各種測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例23(EL素子)
本実施例においては、ポリシランとして、メトキシ基およびメチル基を有するポリシラン(E7、再掲)、下記化学式で示されるポリシラン(E15)、またはポリ(フェニルメチルシリレン)(X、比較例)を用いて、図1に示す発光素子を作製した。
(実施例23−1):ガラス基板11上にホール注入電極12としてITO電極を形成したものを、沸騰したイソプロピルアルコール中に入れて1分間超音波洗浄を行った。次に、このガラス基板/ITO電極上にポリシラン(E7)のTHF溶液を100nmの厚さに塗布し、窒素雰囲気下において120℃で500秒間加熱してポリシラン(E7)をゲル化させ、ガラス複合膜を形成した。このガラス複合膜は、発光層13として機能するとともに、ホール輸送層および電子輸送層としても機能する。このガラス複合膜上に原子比でMg:Al=10:1のMg・Al合金を700nmの厚さに蒸着し、電子注入電極14を形成した。このようにして、電界発光素子(EL素子)を作製した。
なお、発光層13を構成するガラス複合膜について、KBr法によって赤外吸収スペクトルを測定したところ、1000〜1100cm-1にSi−O−Si結合に起因する吸収が観測された。このガラス複合膜について、NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーのアルコキシル基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、このガラス複合膜の組成比を2次イオン質量分析法により測定したところ、C原子が原子組成比で5%含まれていることが確認された。さらに4本の結合手が全てSi−Si結合を形成するSi原子をXPSで定量したところ、このようなSi原子組成比は0.1%以下であることがわかった。
(実施例23−2〜23−5):発光層の形成工程を以下のように変更した以外は実施例23−1と同様にしてEL素子を作製した。すなわち、発光層形成時に、120℃で500秒の加熱処理によりポリシラン(E7)をゲル化させてガラス複合膜を形成した後、さらに低圧水銀灯から10、50、250または2500mJ/cm2の露光量で紫外線を照射した。
(実施例23−6):ポリシラン(E7)の代わりに、ポリシラン(E15)を用いた以外は実施例23−1と同様にしてEL素子を作製した。
(実施例23−7〜23−9):発光層の形成工程を以下のように変更した以外は実施例23−6と同様にしてEL素子を作製した。すなわち、発光層形成時の加熱温度を160℃に設定し、加熱時間を30、300または3000秒としてポリシラン(E7)をゲル化させてガラス複合膜を形成した。
(比較例23):ポリシラン(E7)の代わりに、ポリ(フェニルメチルシリレン)(X)を用いた以外は実施例23−1と同様にしてEL素子を作製した。
以上のようにして作製された各EL素子について、ITO電極が+10Vとなるように直流電圧を印加し、EL特性を評価した。具体的には、発光中心エネルギー(発光波長に対応する)、ならびに初期および100時間後の輝度を測定した。各実施例の処理条件およびEL特性をまとめて下記表1に示す。
表1の結果について考察する。まず、実施例23−1〜23−5に着目すると、紫外線露光量と発光中心エネルギーとの間には以下のような関係があることがわかる。すなわち、発光中心エネルギーは露光量の増加とともに、最初減少し(実施例23−2、23−3)、その後増加し(実施例23−4)、その後EL発光が観測されなくなっている(実施例23−5)。この現象に関しては、露光量が50mJ/cm
2までならば架橋度が高くなることに伴ってポリシラン鎖と酸素原子との間の共役効果が広がって発光中心エネルギーを低下させるが、露光量がさらに増加するとポリシラン鎖の分解の進行により上記と逆の影響が生じていると解釈できる。また、実施例23−6と実施例23−1との比較から、ポリシランとポリゲルマンとの共重合体では発光中心エネルギーが低下することがわかる。さらに、実施例23−7〜23−9の比較から、160℃における架橋時の加熱時間が長くなると、発光中心エネルギーが増加していることがわかる。これは、160℃では加熱時間が長くなるにつれて、ポリシラン鎖の分解が進行するためであると考えられる。
実施例24(EL素子)
図11(a)に示すように、ガラス基板11上にホール注入電極12としてITO電極を形成した後、平行な2本のストライプ状にパターニングした。このガラス基板/ITO電極を、沸騰したイソプロピルアルコール中に入れて1分間超音波洗浄を行った。次に、このガラス基板/ITO電極上にポリシラン(E7)のTHF溶液を100nmの厚さに塗布した。つづいて、図11(b)に示すように、ポリシラン膜の4隅のうちB、C、Dの領域に、低圧水銀灯から所定形状のマスクを通して、それぞれ10、50または2500mJ/cm2の露光量で紫外線を照射した(A領域に相当する部分には紫外線を照射していない)。
その後、120℃で500秒間加熱してポリシラン(E7)をゲル化させ、発光層13となるガラス複合膜を形成した。さらに、図11(c)に示すように、ガラス複合膜上に原子比でMg・Al合金を700nmの厚さに蒸着した。これを上記ITO電極とパターンと直交する平行な2本のストライプ状にパターニングし、電子注入電極14を形成した。このようにしてEL素子を作製した。
このEL素子のA〜Dの各領域に10Vの直流電圧を印加してEL特性を調べた。その結果、A領域では青色発光、B領域では緑色発光、C領域では赤色発光が観測され、D領域では発光は観測されなかった。したがって、各電極を適当に選択することにより、A〜Cの各領域における発光を同時にまたは独立して制御することができる。
実施例25(EL素子)
本実施例においては、ポリシラン類として下記化学式で示されるポリシラン(E16)、ポリゲルマン(E16’)、ポリスタナン(E16”)、ポリシラン(E7、再掲)、ポリゲルマン(E7’)またはポリスタナン(E7”)を用い、また必要に応じて下記化学式で示されるAlq
3を用いて、図1または図2に示す発光素子を作製した。
(実施例25−1):ガラス基板11上にホール注入電極12としてITO電極を形成したものを、沸騰したイソプロピルアルコール中に入れて1分間超音波洗浄を行った。次に、このガラス基板/ITO電極上にポリシラン(E16)のTHF溶液を100nmの厚さに塗布し、窒素雰囲気下において160℃で10分間加熱してポリシラン(E16)をゲル化させ、ガラス複合膜を形成した。このガラス複合膜は、発光層13として機能するとともに、ホール輸送層および電子輸送層としても機能する。このガラス複合膜上に原子比でMg:Al=10:1のMg・Al合金を700nmの厚さに蒸着し、電子注入電極14を形成した。このようにして、図1に示すEL素子を作製した。
なお、ここで得られたガラス複合膜について、NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーのアルコキシル基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、4本の結合手が全てSi−Si結合を形成するSi原子をXPSで定量したところ、このようなSi原子組成比は0.2%以下であることがわかった。
(実施例25−2〜25−6):ポリシラン(E16)の代わりに、ポリゲルマン(E16’)、ポリスタナン(E16”)、ポリシラン(E7)、ポリゲルマン(E7’)、ポリスタナン(E7”)をそれぞれ用いた以外は実施例25−1と同様にして図1に示すEL素子を作製した。
(実施例25−7):ガラス基板21上にホール注入電極22としてITO電極を形成したものを、沸騰したイソプロピルアルコール中に入れて1分間超音波洗浄を行った。次に、このガラス基板/ITO電極上にポリシラン(E16)のTHF溶液を100nmの厚さに塗布し、窒素雰囲気下において160℃で10分間加熱してポリシラン(E16)をゲル化させ、ガラス複合膜を形成した。このガラス複合膜は、ホール輸送層23として機能する。このガラス複合膜上にAlq3を7×10-7torrの真空下において0.1nm/secの成膜速度で50nmの厚さに真空蒸着した。このAlq3層は発光層24として機能するとともに、電子輸送層としても機能する。さらに、このAlq3層上に、原子比でMg:Al=10:1のMg・Al合金を700nmの厚さに蒸着し、電子注入電極25を形成した。このようにして、図2に示すEL素子を作製した。
なお、ここで得られたガラス複合膜について、NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーのアルコキシル基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。
(実施例25−8〜25−12):ポリシラン(E16)の代わりに、ポリゲルマン(E16’)、ポリスタナン(E16”)、ポリシラン(E7)、ポリゲルマン(E7’)、ポリスタナン(E7”)をそれぞれ用いた以外は実施例25−7と同様にして図2に示すEL素子を作製した。
(実施例25−13):ガラス基板11上にホール注入電極12としてITO電極を形成したものを、沸騰したイソプロピルアルコール中に入れて1分間超音波洗浄を行った。次に、このガラス基板/ITO電極上にポリシラン(E16)1wt%、Alq30.7wt%およびジブチルエーテル98.3wt%からなる溶液を100nmの厚さに塗布し、窒素雰囲気下において160℃で10分間加熱してポリシラン(E16)をゲル化させ、Alq3を含有するガラス複合膜を形成した。このAlq3混合ガラス複合膜は、発光層13として機能するとともに、ホール輸送層および電子輸送層としても機能する。このガラス複合膜上に原子比でMg:Al=10:1のMg・Al合金を700nmの厚さに蒸着し、電子注入電極14を形成した。このようにして、図1に示すEL素子を作製した。
(実施例25−14〜25−18):ポリシラン(E16)の代わりに、ポリゲルマン(E16’)、ポリスタナン(E16”)、ポリシラン(E7)、ポリゲルマン(E7’)、ポリスタナン(E7”)をそれぞれ用いた以外は実施例25−13と同様にして図1に示すEL素子を作製した。
以上のようにして作製された各EL素子について、ITO電極が+10Vとなるように直流電圧を印加し、EL特性を評価した。具体的には、初期および100時間後の輝度を測定した。各実施例の構成およびEL特性をまとめて下記表2に示す。
表2から、ポリシラン類とともにAlq
3を併用した実施例25−7〜25−18のEL素子では輝度が向上していることがわかる。また、Alq
3混合ガラス複合膜を有する実施例25−13〜25−18のEL素子は耐久性に非常に優れていることがわかる。
実施例26(電子写真感光体)
本実施例においては、ポリシラン類として実施例25で用いたポリシラン(E16)、ポリゲルマン(E16’)、ポリスタナン(E16”)、ポリシラン(E7)、ポリゲルマン(E7’)またはポリスタナン(E7”)を用い、電荷発生物質として亜鉛フタロシアニン(ZnPc)または下記化学式で示されるジブロモアントアントロン(DBAA)を用いて、図3または図4に示す電子写真感光体を作製した。
(実施例26−1):アルミニウム基板31を用意した。また、電荷発生物質としての亜鉛フタロシアニン(ZnPc)10重量部、ポリビニルブチラール5重量部およびメチルエチルケトン85重量部を混合し、サンドミルで十分に分散させて電荷発生層に用いる組成物を調製した。この組成物を上記アルミニウム基板31上にバーコーターにより塗布した後、加熱して乾燥し、膜厚0.3μmの電荷発生層32を形成した。また、ポリシラン(E16)20重量部をジエチルエーテル80重量部に溶解した溶液を調製した。この溶液を上記電荷発生層32上にバーコーターにより塗布した後、160℃で15分間加熱してゲル化させ、膜厚12μmのガラス複合膜からなる電荷輸送層33を形成した。このようにして、図3に示す電子写真感光体を作製した。
なお、ここで得られたガラス複合膜について、NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーのアルコキシル基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。
(実施例26−2〜26−6):ポリシラン(E16)の代わりに、ポリゲルマン(E16’)、ポリスタナン(E16”)、ポリシラン(E7)、ポリゲルマン(E7’)、ポリスタナン(E7”)をそれぞれ用いた以外は実施例26−1と同様にして図3に示す電子写真感光体を作製した。
(実施例26−7):アルミニウム基板41を用意した。また、ポリシラン(E16)20重量部をジエチルエーテル80重量部に溶解した溶液を調製した。この溶液を上記アルミニウム基板41上にバーコーターにより塗布した後、160℃で15分間加熱してゲル化させ、膜厚12μmのガラス複合膜からなる電荷輸送層42を形成した。また、電荷発生物質としてのジブロモアントアントロン(DBAA)5重量部、ポリシラン(E16)10重量部およびジエチルエーテル85重量部を混合し、ボールミルで十分に分散させて電荷発生層に用いる組成物を調製した。この組成物を上記電荷輸送層42上にワイヤーバーにより塗布した後、160℃で10分間加熱して硬化させ、膜厚0.3μmの電荷発生層43を形成した。このようにして、図4に示す電子写真感光体を作製した。
得られた各電子写真感光体について以下のようにして特性を評価した。すなわち、各電子写真感光体を静電複写紙試験装置(川口電気製、Model SPー428)を用い、スタティック方式でコロナ帯電し、暗所で1秒間保持した後、照度2.5ルクスで露光した。なお、コロナ帯電時の印加電圧は実施例26−1〜26−6では−5kV、実施例26−7では+5kVとした。この試験により、帯電特性として表面電位(V
0)および1秒間暗減衰させたときの表面電位(V
1)を1/2に減衰させるのに必要な露光量(E
1/2)を測定した。また、各電子写真感光体を照度20ルクス・秒という強露光後の残留電位(V
r)を測定した。さらに、各電子写真感光体をPPC複写機(東芝製、Leodry9240)の感光ドラム用シリンダに貼り付けて、1500枚の複写を行なった後、上記静電複写紙試験装置により残留電位(V
r’)を測定した。これらの結果を下記表3に示す。
実施例27(非線形光学素子)
実施例1で用いたポリシラン(E1)80mgとテトラエトキシシラン(TEOS)80mgのエタノール溶液3.3mlを30℃で撹拌しながら、30%アンモニア水0.5mlとエタノール5mlとの混合溶液を加え、室温で12時間撹拌した。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに入れ、真空乾燥後、120℃で30分間加熱してガラス複合材料を得た。
NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。
得られた石英ガラスセル中のガラス複合材料を位相共役波が発生する配置とし、QスイッチYAGレーザーの第3高調波(波長355nm)を500kW/cm2のピークパワー、繰り返し周波数10Hz、半値全幅10nsecで照射し、3次の非線形光学定数を測定した。その結果、χ(3)=3×10-9(esu)という値が得られた。また、200時間経過後においても、吸収係数およびχ(3)は2%しか減少しなかった。この劣化の程度は、非線形光学材料としてポリジヘキシルシランの場合と比較して1/40以下であった。
実施例28(非線形光学素子)
実施例6で用いた、置換基としてターシャリブトキシ基を有するポリシラン(E4)をプレスしてフィルムを形成した。このフィルムを開放容器に入れた6Nの塩酸水溶液とともにデシケータ中に封入し、室温で2日間放置し、塩酸蒸気にさらした。さらに、フィルムを塩酸蒸気雰囲気下のまま150℃で4時間加熱した。このフィルムの赤外吸収スペクトルを測定したところ、1020cm-1付近の吸収の増大が観測され、新たにSi−O−Si結合が生じたことが確認された。一方、t−ブチル基に起因する吸収は消失した。また、膜質の硬化が認められた。これらのことから、酸触媒の存在下で加熱したことによってポリシラン(E4)のt−ブチル基が分解して、生じたシラノール基が相互に縮合し、ケイ酸ガラス類似構造が生成したと考えられる。
NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。また、遠赤外IRスペクトルではSi−Siの吸収が観測され、IRスペクトルではSi−O−Siに起因する吸収が観測された。
得られたガラス複合材料を位相共役波が発生する配置とし、QスイッチYAGレーザーの第3高調波(波長355nm)を500kW/cm2のピークパワーで照射し、3次の非線形光学定数を測定した。その結果、χ(3)=3×10-9(esu)という値が得られた。また、20000回発振した後においても、吸収係数およびχ(3)は2%しか減少しなかった。この劣化の程度は、非線形光学材料としてポリジヘキシルシランを用いた場合と比較して1/40以下であった。
実施例29(非線形光学素子)
ポリシラン(E1)の代わりに下記化学式で示されるポリゲルマン(E17)を用いた以外は実施例27と同様にしてガラス複合材料を得た。
NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、X線回折によれば、Ge微結晶に起因するピークは観測されなかった。
得られたガラス複合材料を位相共役波が発生する配置とし、QスイッチYAGレーザーの第3高調波(波長355nm)を500kW/cm2のピークパワーで照射し、3次の非線形光学定数を測定した。その結果、χ(3)=3×10-9(esu)という値が得られた。また、20000回発振した後においても、吸収係数およびχ(3)は25%しか減少しなかった。この劣化の程度は、架橋処理を施していないポリゲルマンの場合と比較して1/3以下であった。
実施例30(非線形光学素子)
ポリシラン(E1)の代わりに下記化学式で示されるポリシラン共重合体(E18)を用いた以外は実施例27と同様にしてガラス複合材料を得た。
NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。
得られたガラス複合材料について、モードロックTi:サファイアレーザーの第2高調波(波長400nm)をパルス幅100フェムト秒(100×10-15秒)、繰り返し周波数82MHzで照射してフォトンエコー実験を行った。その結果、フォトンエコーの記憶時間が800ピコ秒(800×10-12秒)であることがわかった。
実施例31(非線形光学素子)
ポリシラン(E1)80mgとテトラエトキシシラン(TEOS)80mgのエタノール溶液3.3mlを30℃で撹拌しながら、30%アンモニア水0.5mlとエタノール5mlとの混合溶液を加え、室温で12時間撹拌した。この溶液を濃縮した後、ガラス基板上に回転塗布した。これを乾燥後、100℃で40分間加熱してゲル化し、無色透明の膜を得た。
NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。
この膜をレジストをマスクとして4%フッ酸水溶液でエッチングすることにより、図5に示すような形状の導波路型光スイッチング素子を作製した。なお、導波路の幅は100μmとした。
導波路57の外側にフォトダイオードを設置し、導波路57からの出力をモニターしながら以下のような実験を行った。まず、導波路53からQスイッチYAGレーザーの第3高調波(波長355nm)を500kW/cm2のピークパワーで入射した場合、導波路57からの出力は観測できなかった。次に、導波路53および導波路54から同時にそれぞれQスイッチYAGレーザーの第3高調波(波長355nm)を500kW/cm2のピークパワーで入射した場合、3次の非線形現象発生部52において回折が生じたため、導波路57から回折光を観測することができた。
実施例32(レーザー素子)
下記化学式で示されるポリシラン共重合体(E19)80mgとテトラエトキシシラン(TEOS)80mgのエタノール溶液3.3mlを30℃で撹拌しながら、30%アンモニア水0.5mlとエタノール5mlとの混合溶液を加え、室温で12時間撹拌した。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに入れ、真空乾燥により溶媒を除去してガラス複合材料を得た。このガラス複合材料の吸収ピーク波長は331nm、半値全幅は100nm程度、発光ピーク波長は373nm、半値全幅は40nm程度であった。
NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。
図12に示すように、得られた石英ガラスセル中のガラス複合材料をレーザー媒質71として用い、これをミラー72(反射率100%)およびミラー73(反射率40%)からなる共振器中に設置し、これらのミラー72、73と直交するように1対の電極(図示せず)を設けた。このレーザー媒質71に、QスイッチNd3+:YAGレーザーの第4高調波(波長266nm)をシリンドリカルレンズ76で集光して照射した。この励起レーザー光のピークパワーは1kW/cm2、繰り返し周波数は5kHz、パルス幅は200nsecであった。その結果、波長358nmのレーザー発振が観測された。レーザー発振は光の指向性および励起強度と発振強度との非線形関係から確認した。発振レーザー光のピークパワーは5W/cm2であった。また、20000回発振した後にもピークパワーは5%しか劣化しなかった。この劣化の程度は、レーザー媒質としてポリジヘキシルシランを用いた場合と比較して1/18以下であった。
次に、以下のようにして図13に示すような小型レーザーを作製した。まず、上記石英セルを割って、レーザー媒質であるガラス複合材料を取り出し、対向する2表面にそれぞれ共振器を構成するミラー72、73となる金を蒸着した。このとき、一方のミラー72の反射率が95%、他方のミラー73の反射率が60%となるように調整した。このミラー付きレーザー媒質に対して1対の電極(図示せず)を設け、励起光源としての1200W高圧キセノンランプ77、プリズム78、空間フィルター79、およびシリンドリカルレンズ76とともにパッケージングした。これらの光学系は、光源からの光をプリズム78および空間フィルター79で分光することにより、波長350nmの光をカットしたピーク波長250nmの励起光をレーザー媒質71に照射するように配置した。また、このパッケージの大きさは20cm×8cm×5cmであった。このような小型レーザーで波長358nm、パワー30mWのレーザー光を得ることができた。
実施例33(レーザー素子)
実施例6で用いた、置換基としてターシャリブトキシ基を有するポリシラン(E4)をプレスしてフィルムを形成した。このフィルムを開放容器に入れた6Nの塩酸水溶液とともにデシケータ中に封入し、室温で2日間放置し、塩酸蒸気にさらした。さらに、フィルムを塩酸蒸気雰囲気下のまま150℃で4時間加熱した。このフィルムの赤外吸収スペクトルを測定したところ、1020cm-1付近の吸収の増大が観測され、新たにSi−O−Si結合が生じたことが確認された。一方、t−ブチル基に起因する吸収は消失した。また、膜質の硬化が認められた。これらのことから、酸触媒の存在下で加熱したことによってポリシラン(E4)のt−ブチル基が分解して、生じたシラノール基が相互に縮合し、ケイ酸ガラス類似構造が生成したと考えられる。このガラス複合材料の吸収ピーク波長は315nm付近、半値全幅は100nm程度、発光ピーク波長は360nm付近、半値全幅は40nm程度であった。
NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。また、遠赤外IRスペクトルではSi−Siの吸収が観測され、IRスペクトルではSi−O−Siに起因する吸収が観測された。
得られたガラス複合材料をレーザー媒質として用い、図12に示す配置でレーザー発振を試みた。励起光としてはTi:サファイアレーザーの第4高調波(波長266nm)を用いた。励起光のピークパワーは50kW/cm2、繰り返し周波数は80MHz、パルス幅は100fsecであった。レーザー発振は光の指向性および励起強度と発振強度との非線形関係から確認した。発振レーザー光のピークパワーは100W/cm2であった。また、20時間発振した後にもピークパワーは7%しか劣化しなかった。この劣化の程度は、レーザー媒質としてポリジヘキシルシランを用いた場合と比較して1/12以下であった。
実施例34(レーザー素子)
下記化学式で示されるポリゲルマン(E20)を用い、実施例32と同様にしてガラス複合材料を調製した。このガラス複合材料の吸収ピーク波長は334nm、半値全幅は90nm程度、発光ピーク波長は375nm、半値全幅は40nm程度であった。
NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、X線回折によれば、Ge微結晶に起因するピークは観測されなかった。
このガラス複合材料をレーザー媒質として用い、図12に示す配置でレーザー発振を試みた。励起光としてはNd
3+:YAGレーザーの第3高調波(波長355nm)を用いた。励起光のピークパワーは5kW/cm
2、繰り返し周波数は5kHz、パルス幅は200nsecであった。発振レーザー光のピークパワーは30W/cm
2であった。また、20000回発振した後にもピークパワーは15%しか劣化しなかった。この劣化の程度は、レーザー媒質として未架橋のポリゲルマンを用いた場合と比較して1/6以下であった。
実施例35(レーザー素子)
ポリシラン共重合体(E19)のトルエン溶液を1cm×1cm×5cmの石英ガラスセルに入れ、真空乾燥した。この石英ガラスセルを37%ホルマリン水溶液および6規定塩酸水溶液とともにデシケータ中に入れ、2週間放置した。その後、再び24時間真空乾燥してポリシランを架橋させた。次いで、テトラエトキシシラン1g、エタノール1.5g、水2gおよび塩酸0.1gの混合溶液を室温で1.5時間撹拌した後、水3gおよびアセトニトリル0.5gを加えて撹拌した浸漬液に10分間浸漬した。浸漬後、軽く水洗し、100℃で40分間加熱乾燥した。
NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点が3箇所以上であることが明らかであった。また、X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。
このガラス複合材料をレーザー媒質として用い、図12に示す配置でレーザー発振を試みた。励起光としてはNd3+:YAGレーザーの第4高調波(波長266nm)を用いた。励起光のピークパワーは1kW/cm2、繰り返し周波数は5kHz、パルス幅は200nsecであった。その結果、波長358nmのレーザー発振が観測された。レーザー発振は光の指向性および励起強度と発振強度との非線形関係から確認した。発振レーザー光のピークパワーは5W/cm2であった。また、20000回発振した後にもピークパワーは40%しか劣化しなかった。この劣化の程度は、レーザー媒質としてポリジヘキシルシランを用いた場合と比較して1/2以下であった。
実施例36
プラズマCVD反応炉の試料台にKBr基板を載せ、基板温度を−100℃に保持した。この反応炉内に2%のシランガスを含有する水素ガスを流して全ガス圧0.3torrを設定し、RFパワー密度0.2W/cm2でプラズマを発生させ、基板上に膜厚0.5μmの薄膜を堆積した。この薄膜のIRスペクトルを測定したところ、2160cm-2近傍にSi−Si結合に起因する吸収が観測され、この薄膜がポリシランであることが確認できた。
上記と同様にKBr基板上にポリシラン膜を形成した後、そのまま反応炉中に1%の酸素を含有するアルゴンガスを30分間流し、さらに60℃に加熱した。IRスペクトルを測定したところ、1100cm-2近傍にSi−O−Si結合に起因する吸収が観測された。このことから、KBr基板上に酸素架橋したポリシラン複合材料が形成されていることが確認できた。このガラス複合膜の表面硬度は鉛筆硬度で1Hであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
次に、石英基板の上に、上記と同様な方法で、プラズマCVDによる厚さ0.1μmのポリシラン薄膜の形成、酸素希釈ガスによる水酸基置換、および加熱による架橋を繰り返して行い、最終的に厚さ2μmのポリシラン複合材料の薄膜を形成した。このポリシラン複合材料については、吸収スペクトルでは360nmにピークが観測され、発光スペクトルでは370nmにピークが観測された。また、室温での発光効率は19%と十分高いものであった。
このポリシラン複合材料の耐光性を評価したところ、355nmのQスイッチYAGレーザーの第三高調波(平均パワー密度1W/cm2、繰り返し1kHz、ピークパワー3.3kHz、半値全幅300nsec)を5時間照射した後の発光量は3%低下しただけであった。
実施例37
図14に示すような発光素子とトランジスタとを有する集積回路を作製した。この素子は、発光材料であるポリシラン複合材料の両端にそれぞれ電極となるMOSトランジスタの拡散層を接続した構造を有する。
まず、p型シリコン基板101の発光部となる領域を選択的にエッチングしてトレンチを形成する。このトレンチの底部にミラーとして機能するAl層102をスパッタリングにより形成する。このAl層102上に酸化膜103を堆積する。この酸化膜103上に、実施例36と同様な方法、すなわちプラズマCVDによるポリシラン薄膜の形成、酸素希釈ガスによる水酸基置換、および加熱による架橋を行い、発光層となる厚さ500nmの酸素架橋したポリシラン複合膜104を形成する。
次に、一方の電極が形成される領域を選択的にエッチングしてトレンチを形成し、その底部に酸化膜103を堆積する。トレンチ内にポリシリコンを堆積した後、アニールして単結晶化する。このポリシリコンに砒素をイオン注入し、アニールしてさらに単結晶化を進めてn+型拡散層105を形成する。同様に、他方の電極が形成される領域を選択的にエッチングしてトレンチを形成し、その底部に酸化膜103を堆積する。トレンチ内にポリシリコンを堆積した後、アニールして単結晶化する。このポリシリコンにホウ素をイオン注入し、アニールしてさらに単結晶化を進めてp+型拡散層106を形成する。これらの2つの電極は共振器を形成しないように非平行に形成されている。
さらに、n型ウェル領域107、n+型拡散層108、p+型拡散層109、ゲート絶縁膜110、ゲート電極111、112を順次形成して、素子を作製した。
2つのMOSトランジスタをオンにして、それぞれn+型拡散層105に+12V、p+型拡散層106に−12Vの電圧を印加した。この結果、発光素子から370nmの発光が生じた。
実施例38
アルゴン雰囲気中でポリ(フェニルヘキシルシリレン)(重量平均分子量Mw=100万)1gの塩化メチレン溶液20mlにトリフルオロメタンスルホン酸0.5mlを加え、室温で1時間撹拌した。この溶液にエタノール5mlとトリエチルアミン1.5mlとの混合溶液を加え、さらに室温で1時間撹拌した。その後、溶媒を除去し、30分間真空乾燥した。残渣をジエチルエーテルに溶解し、このエーテル溶液を水洗した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。その後、溶媒を除去し、真空乾燥して、既述の化学式(E2)で表される繰り返し単位を有するポリシラン(フェニル基:エトキシ基=2:8)を淡黄色油状物質として得た(収量0.5g、重量平均分子量Mw=4000)。
ポリシランとしてポリ(フェニルメチルシリレン)(重量平均分子量Mw=20000)を用い、エタノールの代わりにメタノールを用いた以外は、上記と同様な合成法により、既述の化学式(E7)で表される繰り返し単位を有するポリシラン(フェニル基:メトキシ基=2:8)を淡黄色油状物質として得た(収量0.4g、重量平均分子量Mw=2700)。
次いで、下記化学式で示される繰り返し単位を有するアニリン樹脂(AR)0.3gのN−メチルピロリジノン(NMP)溶液10mlと、上記で合成したポリシラン(E2)1gのNMP溶液10mlとを混合し、室温ですばやく撹拌した後、基板上に塗布し、真空乾燥して溶媒を除去した。さらに、アルゴン気流下において、120℃で1時間加熱乾燥して黄色透明な膜を形成した。
得られた膜の可視紫外吸収スペクトルを測定したところ、320nm付近にポリシラン主鎖に起因する吸収が観測された。この膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、900〜1100cm-1付近に窒素−ケイ素結合およびシロキサン結合に起因する吸収が観測された。この膜の29Si固体NMR測定から窒素−ケイ素結合の存在が確認された。これらの結果から、得られた膜はポリシランのSi主鎖が窒素原子を介して有機マトリックスであるアニリン樹脂と架橋したポリシラン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度Bであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
さらに、この膜の耐光性を評価するために、低圧水銀灯を光源として波長320nmの紫外線を照射し、その吸収量が半分になる時間(半減期)を測定した。比較のために一般的なポリシランである重量平均分子量Mw=10000のポリ(フェニルヘキシルシリレン)についても同様の測定を行った。その結果、本実施例で得られた膜の半減期は、ポリ(フェニルヘキシルシリレン)のそれの10倍以上であり、このポリシラン複合体膜が耐光性に優れていることがわかった。
さらに、ポリシラン(E2)の代わりに、ポリシラン(E7)を用いた場合にも同様の結果が得られた。
実施例39
アニリン樹脂(AR)のNMP溶液およびポリシラン(E2)のNMP溶液に加えて、さらにアルミニウムイソプロポキシド0.1gのNMP溶液を混合した以外は、実施例38と同様にしてポリシラン複合体膜を作製した。
得られた膜の可視紫外吸収スペクトルを測定したところ、320nm付近にポリシラン主鎖に起因する吸収が観測された。この膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、900〜1100cm-1付近に窒素−ケイ素結合およびシロキサン結合に起因する吸収が観測された。この膜の29Si固体NMR測定から窒素−ケイ素結合の存在が確認された。これらの結果から、得られた膜はポリシランのSi主鎖が窒素原子を介して有機マトリックスであるアニリン樹脂と架橋したポリシラン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度Hであった。このように実施例38の膜よりも硬度が向上しているのは、金属アルコキシドであるアルミニウムイソプロポキシドの添加による効果である。なお、こうした効果は、チタンイソプロポキシドまたはインジウムイソプロポキシドを用いた場合にも同様に認められた。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
また、この膜の耐光性を評価するために、低圧水銀灯を光源として波長320nmの紫外線を照射し、その吸収量が半分になる時間(半減期)を測定した。その結果、本実施例で得られた膜の半減期は、ポリ(フェニルヘキシルシリレン)のそれの10倍以上であり、このポリシラン複合体膜が耐光性に優れていることがわかった。
さらに、ポリシラン(E2)の代わりに、ポリシラン(E7)を用いた場合にも同様の結果が得られた。
実施例40
アニリン樹脂(AR)の代わりに、下記化学式で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量Mw=12000のポリアニリン(PAn)を用いた以外は実施例38と同様にしてポリシラン複合体膜を作製した。
得られた膜の可視紫外吸収スペクトルを測定したところ、320nm付近にポリシラン主鎖に起因する吸収が観測された。この膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、900〜1100cm-1付近に窒素−ケイ素結合およびシロキサン結合に起因する吸収が観測された。この膜の29Si固体NMR測定から窒素−ケイ素結合の存在が確認された。これらの結果から、得られた膜はポリシランのSi主鎖が窒素原子を介して有機マトリックスであるポリアニリンと架橋したポリシラン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度Bであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
また、この膜の耐光性を評価するために、低圧水銀灯を光源として波長320nmの紫外線を照射し、その吸収量が半分になる時間(半減期)を測定した。その結果、本実施例で得られた膜の半減期は、ポリ(フェニルヘキシルシリレン)のそれの10倍以上であり、このポリシラン複合体膜が耐光性に優れていることがわかった。
さらに、ポリシラン(E2)の代わりに、ポリシラン(E7)を用いた場合にも同様の結果が得られた。
実施例41
ポリアニリン(PAn)のNMP溶液およびポリシラン(E2)のNMP溶液に加えて、さらにアルミニウムイソプロポキシド0.1gのNMP溶液を混合した以外は実施例40と同様にして複合体膜を作製した。
得られた膜の可視紫外吸収スペクトルを測定したところ、320nm付近にポリシラン主鎖に起因する吸収が観測された。この膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、900〜1100cm-1付近に窒素−ケイ素結合およびシロキサン結合に起因する吸収が観測された。この膜の29Si固体NMR測定から窒素−ケイ素結合の存在が確認された。これらの結果から、得られた膜はポリシランのSi主鎖が窒素原子を介して有機マトリックスであるポリアニリンと架橋したポリシラン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度Hであった。このように実施例40の膜よりも硬度が向上しているのは、金属アルコキシドであるアルミニウムイソプロポキシドの添加による効果である。なお、こうした効果は、チタンイソプロポキシドまたはインジウムイソプロポキシドを用いた場合にも同様に認められた。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
また、この膜の耐光性を評価するために、低圧水銀灯を光源として波長320nmの紫外線を照射し、その吸収量が半分になる時間(半減期)を測定した。その結果、本実施例で得られた膜の半減期は、ポリ(フェニルヘキシルシリレン)のそれの10倍以上であり、このポリシラン複合体膜が耐光性に優れていることがわかった。
さらに、ポリシラン(E2)の代わりに、ポリシラン(E7)を用いた場合にも同様の結果が得られた。
実施例42
アニリン樹脂(AR)の代わりに、下記化学式で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量Mw=2000のポリピロール(PPr)を用いた以外は実施例38と同様にしてポリシラン複合体膜を作製した。
得られた膜の可視紫外吸収スペクトルを測定したところ、320nm付近にポリシラン主鎖に起因する吸収が観測された。この膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、900〜1100cm-1付近に窒素−ケイ素結合およびシロキサン結合に起因する吸収が観測された。この膜の29Si固体NMR測定から窒素−ケイ素結合の存在が確認された。これらの結果から、得られた膜はポリシランのSi主鎖が窒素原子を介して有機マトリックスであるポリピロールと架橋したポリシラン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度Bであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
また、この膜の耐光性を評価するために、低圧水銀灯を光源として波長320nmの紫外線を照射し、その吸収量が半分になる時間(半減期)を測定した。その結果、本実施例で得られた膜の半減期は、ポリ(フェニルヘキシルシリレン)のそれの10倍以上であり、このポリシラン複合体膜が耐光性に優れていることがわかった。
さらに、ポリシラン(E2)の代わりに、ポリシラン(E7)を用いた場合にも同様の結果が得られた。
実施例43
アニリン樹脂(AR)のNMP溶液の代わりに既述のW.S.Coblenzらの方法により合成したポリシラザンゾルを溶媒置換によりNMP溶液としたものを用い、加熱条件を150℃、2時間とした以外は実施例38と同様にしてポリシラン複合体膜を作製した。
得られた膜の可視紫外吸収スペクトルを測定したところ、320nm付近にポリシラン主鎖に起因する吸収が観測された。この膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、900〜1100cm-1付近に窒素−ケイ素結合およびシロキサン結合に起因する吸収が観測された。この膜の29Si固体NMR測定から窒素−ケイ素結合の存在が確認された。これらの結果から、得られた膜はポリシランのSi主鎖が窒素原子を介して無機マトリックスであるポリシラザンゲルまたは窒化ケイ素と架橋したポリシラン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度Hであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
また、この膜の耐光性を評価するために、低圧水銀灯を光源として波長320nmの紫外線を照射し、その吸収量が半分になる時間(半減期)を測定した。その結果、本実施例で得られた膜の半減期は、ポリ(フェニルヘキシルシリレン)のそれの10倍以上であり、このポリシラン複合体膜が耐光性に優れていることがわかった。
さらに、ポリシラン(E2)の代わりに、ポリシラン(E7)を用いた場合にも同様の結果が得られた。
実施例44
アルゴン雰囲気中、ドライアイス−エタノール浴の温度で、ポリシラン(E2)1gのジエチルエーテル溶液100mlを撹拌しながら、乾燥アンモニア1gを吹き込んだ。30分撹拌した後、余剰ガスをリークしながら室温まで昇温し、30分間撹拌した。その後、溶媒を除去して真空乾燥した。残渣を基板に塗布し、アルゴン気流下において120℃で2時間加熱乾燥した。
得られた膜の可視紫外吸収スペクトルを測定したところ、330nm付近にポリシラン主鎖に起因する吸収が観測された。この膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、900〜1100cm-1付近に窒素−ケイ素結合およびシロキサン結合に起因する吸収が観測された。この膜の29Si固体NMR測定から窒素−ケイ素結合の存在が確認された。これらの結果から、得られた膜はポリシランのSi主鎖どうしが窒素原子を介して相互に架橋したポリシラン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度5Hであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
また、この膜の耐光性を評価するために、低圧水銀灯を光源として波長320nmの紫外線を照射し、その吸収量が半分になる時間(半減期)を測定した。その結果、本実施例で得られた膜の半減期は、ポリ(フェニルヘキシルシリレン)のそれの10倍以上であり、このポリシラン複合体膜が耐光性に優れていることがわかった。
また、この膜の体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は6×105Ω・cm以下であった。
さらに、ポリシラン(E2)の代わりに、ポリシラン(E7)を用いても同様の結果が得られた。
実施例45
アルゴン雰囲気中で、ポリシラン(E2)1gのテトラヒドロフラン(THF)溶液50mlを撹拌しながら、ブチルアミン0.5gのTHF溶液50mlを加えた。すばやく撹拌した後、反応溶液を基板に塗布し、アルゴン気流下、室温で30分間放置した後、120℃で2時間加熱乾燥した。
得られた膜の可視紫外吸収スペクトルを測定したところ、330nm付近にポリシラン主鎖に起因する吸収が観測された。この膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、900〜1100cm-1付近に窒素−ケイ素結合およびシロキサン結合に起因する吸収が観測された。この膜の29Si固体NMR測定から窒素−ケイ素結合の存在が確認された。これらの結果から、得られた膜はポリシランのSi主鎖どうしが窒素原子を介して相互に架橋したポリシラン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度4Hであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
また、この膜の耐光性を評価するために、低圧水銀灯を光源として波長320nmの紫外線を照射し、その吸収量が半分になる時間(半減期)を測定した。その結果、本実施例で得られた膜の半減期は、ポリ(フェニルヘキシルシリレン)のそれの10倍以上であり、このポリシラン複合体膜が耐光性に優れていることがわかった。
また、この膜の体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は6×105Ω・cm以下であった。
さらに、ポリシラン(E2)の代わりに、ポリシラン(E7)を用いても同様の結果が得られた。
実施例46
ポリシラン(E2)の代わりに既述の化学式(E13)で示されるオクタメトキシテトラシクロシランを用いた以外は実施例45と同様にしてポリシラン複合体膜を得た。
この膜の29Si固体NMR測定からケイ素−ケイ素結合および窒素−ケイ素結合の存在が確認された。この結果から、得られた膜はポリシランのSi主鎖どうしが窒素原子を介して相互に架橋したポリシラン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度4Hであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Si微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例47
ポリシラン(E2)の代わりに既述の化学式(E9)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量Mw=4100のポリゲルマンを用いた以外は実施例45と同様にしてポリゲルマン複合体膜を得た。
得られた膜のNMR測定から、Ge−Ge結合および窒素−Ge結合の存在が確認された。この結果から、得られた膜はポリゲルマンのGe主鎖どうしが窒素原子を介して相互に架橋したポリゲルマン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度2Hであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Ge微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
実施例48
ポリシラン(E2)の代わりに既述の化学式(E10)で示される繰り返し単位を有する重量平均分子量Mw=2000のポリスタナンを用いた以外は実施例45と同様にしてポリスタナン複合体膜を得た。
得られた複合膜のNMR測定から、Sn−Sn結合および窒素−Sn結合の存在が確認された。この結果から、得られた膜はポリスタナンのSn主鎖どうしが窒素原子を介して相互に架橋したポリスタナン複合体膜であることがわかった。
この膜の硬度を鉛筆引っかき試験(JIS−K5400準拠)により評価したところ硬度3Hであった。また、その他の測定結果は以下の通りであった。体積抵抗率(JIS−C2151準拠)は3×106Ω・cm以下であった。300〜800nmのヘイズ率は5%以下であった。X線回折によれば、Sn微結晶に起因するピークは観測されなかった。NMR、IR、TGで算出された前駆体ポリマーの官能基の反応率から、ポリマー鎖上における架橋点は3箇所以上であることが明らかであった。
11…基板、12…ホール注入電極、13…発光層、14…電子注入電極、21…基板、22…ホール注入電極、23…ホール輸送層、24…発光層、25…電子注入電極、31…導電性支持体、32…電荷発生層、33…電荷輸送層、41…導電性支持体、42…電荷輸送層、43…電荷発生層、51…基板、52…3次の非線形現象発生部、53、54…入射側の導波路、55、56、57…出射側の導波路、61…基板、62…2次の非線形現象発生部、71…レーザー媒質、72、73…共振器ミラー、74、75…励起用電極、76…シリンドリカルレンズ、77…高圧キセノンランプ、78…分光用プリズム、79…分光用空間フィルター、81、82…金電極、91…プリント基板、92…銅電極、93…膜、93’…低抵抗膜、93”…高抵抗膜、94…マスク、95…露光用光源、96…リード、97…電子部品、101…p型シリコン基板、102…Al層、103…酸化膜、104…ポリシラン複合膜、105…n+型拡散層、106…p+型拡散層、107…n型ウェル領域、108…n+型拡散層、109…p+z型拡散層、110…ゲート絶縁膜、111、112…ゲート電極。