JP3814413B2 - 芯鞘複合繊維の湿式紡糸用口金 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複合繊維技術に係わり、特に芯鞘構造をもつ複合繊維製造のための紡糸口金に関する。
【0002】
【従来の技術】
高機能を付与することと高付加価値を付与するため、繊維の形状の変化や練り混み、あるいは異種材料の複合化等の様々な開発がなされている。こうしたなかに、複合化の一手段として芯鞘構造があるが、特にこれを湿式紡糸法により製造する場合には、その凝固性の複雑さや、紡糸ドラフトを大きく取れないため、数十μmの極めて微小な吐出孔から吐出させる必要がある。また、芯鞘構造にするための口金は紡糸原液の分配のための堰や紡糸時の圧力による口金自体の撓みを極力抑える必要があるため、口金の厚みを数mm以上に厚くする必要があり、こうしたことから紡糸口金の吐出孔を紡糸原液の導入部から吐出部までを単一工程で一気に加工することは、実際問題として不可能に近い。
【0003】
そこで、前記紡糸孔の流動抵抗を減少し、或いは芯成分と鞘成分との複合をスムーズに行うことも兼ねて、口金の紡糸原液流入側に吐出孔より大きな導入孔を設ける方法が採られているが、この導入孔が大きいほど多ホール化が要求される現時点では多ホール化が難しく、生産性をが著しく低下することになる。また、導入孔の大きさを数mm以下にすると、上述した理由から加工が不可能であったり困難となる。
【0004】
溶融紡糸装置や押出整形装置などの一部構成部材として用いられるブレーカープレートを、多数の開口を形成した複数枚の極めて薄い板材を積層し、これを拡散接合又は焼結によって一体構造とすることにより製造する方法が、特開平3−241002号公報に開示されている。一方、特開平4−323393号公報には、技術分野が異なるものの複数枚の極めて薄い板材を積層して拡散接合により所要の肉厚をもつインクジェットプリンターなどに用いられる微小ノズルを製造する方法が開示されている。
【0005】
しかし、接合前の加工部材には加工時に発生する内部応力が残留しやすく、特に特開平4−323393号公報に開示されているように接合される各材料の調質が同一でない場合には、線膨張係数が異なることから、接合時の高温処理によって部材が大きく変形する可能性がある。このことは、特開平3−241002号公報で得られるブレーカープレートについても同様であるが、このブレーカープレートの構成板材は開口面積が接合面積よりも十分大きく設定されており、しかもブレーカープレートによって成形形状が決定づけられるものではないため、接合後の歪みは格別に間題とならないものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
一方、本発明の対象である湿式紡糸用口金の場合、精密な多数の吐出孔から均一に賦形しがら紡糸することが求められるため、プレート同士の接合後の変形は致命的なものとなる。また、特に芯鞘複合繊維を得るための湿式紡糸用口金では、口金内に有する紡糸原液の流路形状が微細で精密且つ複雑になることが多く、単に薄い板への加工のみでは、接合時の同一平面上に独立した多数の接合部が存在することもあり、接合時の位置合せなど、逆に製造を煩雑化することもある。
【0007】
また、複数の板材に分割流路部を加工した後、積層してボルト等によって締結固定する方法があるが、こうした締結具は配置スペースをとり、紡糸口金のコンパクト化や有効利用の阻害要因となる。
【0008】
また、板材を分割して加工後に、融接接合やろう接接合、液相インサート肱散接合法によって接合を行う方法もあるが、加工部材を溶融させたり、ろう材を液化させるため、流路の周辺を接合したとき所定の流路形状が保持できなかったり、流路を閉塞してしまう可能性がある。
【0009】
即ち、木発明が解決しようとする課題は、従来では加工が不可能であったり、又は困難である流路形状、或いは加工は可能であるがコスト高となる流路形状を、低コストで容易に且つ高精度に加工し得る芯鞘複合繊維の紡糸用口金を提供することにある。
【0010】
【発明の実施の形態】
前述の課題は、本件請求項1〜3に係る発明により解決される。
以下に請求項1〜3に対応する本発明の実施の形態につき、図面を参照して説明する。
請求項1に係る発明は、芯鞘複合繊維の紡糸用口金1にあって、多数の紡糸孔9,10が穿たれた2枚以上のプレート6,7を対応する孔位置を揃えて積層すると共に、接合一体化した芯成分用口金2と、同じく多数の紡糸孔9,10が穿たれた2枚以上のプレート6,7を対応する孔位置を揃えて積層し、接合一体化した鞘成分用口金3とを有し、前記芯成分用口金2と鞘成分用口金3とを鞘成分分配流路11を介して積層固定する。ここで、本発明にあって最も特徴とする2枚以上の前記プレート6,7の接合一体化が固相拡散接合による点にある。
【0011】
本発明の湿式紡糸とは、紡糸用口金1から直接非溶媒中へ紡糸原液を吐出させて紡糸する方法であり、特に制限はなく、公知の任意の方法を用いることができる。なお、図中の符号4は圧接接合面、5は重ね合わせ面、6aは溝部、8はスペーサ、11は鞘成分用の分配流路である。
【0012】
また、本発明における芯鞘繊維の紡糸用口金1とは、紡糸原液を紡糸法により賦形する際、繊維の長手方向に直交する断面形状を芯鞘構造とすることを目的とするものであれば、どのような構造でもよく、外観形状は円柱状や角柱状などがあり、紡糸原液の供給面から吐出面に向けて多くの微細で且つ高精度の貫通孔を有している。
【0013】
口金を貫通して穿孔された紡糸孔9,10は、芯鞘構造を賦形する際に紡糸原液を所定の形状で吐出させる孔であり、その孔の形状、大きさ、長さなどは任意に設定でき、必要とする形状に応じて任意に選定すればよい。また紡糸孔9,10は、紡糸原液が流入してから吐出するまでの間、同一の断面形状でも異なった断面形状でも良い。通常は、芯成分用口金2及び鞘成分用口金3の各吐出側の先端部を必要とする径を有する微細な孔とし、その先端部を除いた部分は加工を可能又は容易にするため、先端部より比較的大きな孔形態としている。その孔形態は大きいほど加工が容易になるが、大きくなればなるほど口金2,3に配置する孔数が減少し、生産性が低下する。好ましくは、加工が比較的容易にでき、できるだけ多く配置ができ、しかも複合がしやすい大きさにするのがよい。
【0014】
本発明における芯鞘構造とは、繊維の長手方向に垂直な断面を見た際に、ある一成分の外周を他の成分が覆うような構造であり、各成分の断面形状は同一又は比例的な形状であり、或いはそれらの形状がランダムに配されていてもよく、繊維の長手方向に沿った芯、鞘の各成分の断面積比も同一であっても異なっていてもよい。また、芯成分はその外周が鞘成分に覆われていればどの位置にあってもよい。
【0015】
本発明における芯、鞘の各成分は、溶液紡糸が可能なものであれば、どのようなものでもよく、各成分が同一のものや濃度が異なるもの、あるいは異種材料のものが挙げられるが、芯、鞘の主成分の溶媒が共通であることが好ましく、溶媒が共通で芯成分の粘度が鞘成分の粘度以上であることがより好ましい。溶媒が異なる場合、凝固浴の組成も複雑になり、回収操作も複雑となる。また、芯成分の粘度が鞘成分の粘度より低いと、芯鞘構造の形態が安定せず、所定の構造が得にくくなる。
【0016】
本明細書にあって、流路が少なくとも2つ以上に分割されてなるとは、紡糸原液の流れる流路を加工する際、加工が可能が容易になるように、予め口金2,3をそれぞれ複数に分割しておき、流路を加工することであり、流路の分割位置は加工の難易度、形状に応じて適宜変えることが望ましい。例えば、口金に加工する吐出孔の直径が数10μm、長さが数mmであり、導入孔の直径が1mm以下で長さが10mm以上の場合、これを単一の部材に加工は不可能となるが、1mm以下の薄い板にエッチングやパンチングによって孔加工したものを、何枚か積み重ねることで加工が可能になる。
【0017】
口金内の流路とは、紡糸用口金1に紡糸原液が流入してから吐出するまでの間、紡糸原液と同口金とが接する全ての部分をいう。
【0018】
本発明で用いる固相拡散接合とは、拡散接合法の1種であり、加圧と加熱又は非加熱下でインサート材料を用いず材料を直接接合する方法である。接合時の加圧は、接合面が密着するように密着力が働けばどのような方法を用いてもよく、例えば締結冶具で挟んだり、重錘を載せるなどの方法がある。好ましくは塑性変形を可能な限り生じさせない程度の密着力とするのがよい。
【0019】
接合時の加熱は、アーク加熱、通電抵抗加熱、輻射熱による加熱、伝熱による加熱、非加熱と様々であるが、好ましくは輻射熱や伝熱による加熱がよく、より好ましくは急激な温度変化を避けて、被加熱物の温度が均一となるようにするのがよい。接合時の昇温から降温までの熱処理時間は、2時間以上が好ましく、より好ましくは8時間以上がよい。接合は、酸化皮膜が形成されないよう真空炉中や窒素ガス等の不活性ガス雰囲気の炉中で行い、好ましくは、接合強度を高めるため接合面がより密着するよう、接合面の加工精度をO.8S以下にするのがよい。
【0020】
請求項2に係る発明にあっては、前記固相拡散接合を行う前に紡糸孔9,10を穿つとき或いは鏡面加工などの加工時に発生する残留応力を完全に除去することを規定している。この残留応力の除去には、例えば同一条件化における焼きなましが上げられる。勿論、他の手段によっても除去し得る。
【0021】
本発明における上記紡糸口金1の各プレート6,7は同種で且つ同質材料で有ることが好ましい。これは接合後に生じる歪み、そりなどや、紡糸時の吐出圧力による撓みなど、紡糸用口金自体の変形を極力抑止するための必須条件であり、同質とは同じ熱処理等、材料の接合前の加工履歴を同じくすることである。基本的には接合時における高温処理の温度範囲で、材料の線膨張係数が全て一致することが望ましいが、異種類の材料や、調質の種類によっては線膨張係数が大きく異なるため同種類の金属を同質で用いることが必要であり、好ましくは請求項3にて規定するように加工性、耐食性に優れるステンレス鋼がよい。
【0022】
また、変形の大きさは、芯鞘複合繊維の湿式紡糸用口金の特性上、極力小さくすることが望ましく、接合後の変形がないことは勿論であるが、接合後に接合によって生じる変形分が生じる場合には、後加工によって除去することもできる。より好ましくは芯鞘複合繊維の湿式紡糸用口金として使用する際、各プレートを接合後に芯成分用口金と鞘成分用口金との重ね合わせ面又は各口金の吐出面の平面度を、芯鞘複合繊維用の完成湿式紡糸口金の吐出面の大きさに対して共に公差を1mmとするのがよく、更に好ましくはそれらの平面度の公差をO.5mmにするのがよい。
【0023】
紡糸時の耐圧性を向上するためには、口金の板厚は厚いほうがよいが、厚くしすぎると加工時問、加工コストが増すうえに重量も増加するため、取り扱い性が低下する。従って、前記板厚は芯鞘複合繊維の湿式紡糸を十分に可能とする必要最小限の厚さにとどめるのがよい。
【0024】
接合面は一つの口金内に複数箇所あってもよいが、接合面の数が多すぎると孔部の位置ずれ、接合面の仕上げ箇所の増加などにより、加工コストが増加すると同時に、口金の性能を十分に発揮させることができなくなるため、極力少なくすることが好ましい。また、接合は何回かに分けて行っても良いが、加熱冷却を繰り返すことによる変形等を抑えるためにも、より少ない回数で行うのが好ましい。
【0025】
【発明の効果】
以上の説明から理解できるように、本発明に係る芯鞘複合繊維の湿式紡糸口金によれば、その口金構造の選択の自由度が増すため、高精度の加工が要求される湿式紡糸法に十分に対応でき、高生産性の下で芯鞘復合紡糸が可能となり、特に高精度の孔加工が施された所要枚数のプレートを単に重ね合わせて接合するだけで、従来加工が不可能あるいは困難な形状の口金が容易に得られるようになり、同時に加工コストの低減も図れる。また、前述のことから非常に小さな貫通孔を厚い板に加工が可能となるため、耐圧性の向上も図られ、しかも接合手段として固相拡散接合手段を採用しているため、接合後に流路の閉塞も見られず、紡糸後も接合面の剥離が見られないことから、実用化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の代表的な実施例である固相拡散接合により得られた芯鞘複合繊維の湿式紡糸口金の構造例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
1 芯鞘複合繊維の湿式紡糸口金
2 芯成分用口金
3 鞘成分用口金
4 接合面
6 肉厚のプレート
6a 溝部
7 薄いブレート
8 スペーサ
9 導入口
10 吐出口
11 (鞘成分用の)分配流路
Claims (3)
- 多数の紡糸孔が穿たれた2枚以上のプレートを対応する孔位置を揃えて積層し、接合一体化してなる芯成分用口金と、多数の紡糸孔が穿たれた2枚以上のプレートを対応する孔位置を揃えて積層し、接合一体化してなる鞘成分用口金とを有するとともに、前記芯成分用口金及び鞘成分用口金が鞘成分分配流路を介して積層固定されてなり、前記接合一体化が固相拡散接合によることを特徴とする芯鞘複合繊維の湿式紡糸用口金。
- 前記紡糸孔の穿孔後で前記固相拡散接合前に、各プレートの残留応力が除去されてなる請求項1記載の紡糸用口金。
- 前記プレートがステンレス鋼である請求項1又は2記載の紡糸用口金。
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