JP3813439B2 - 脂質剤及びタンパク質を含む脂質粒子の医薬組成物の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
(発明の属する技術分野)
本発明は、高圧均質化を用いるタンパク質及び脂質を含む医薬組成物の製造方法及び前記方法により得られ得る医薬組成物に関する。
【0002】
(発明の背景)
大規模な医薬品の製造に適しており、よって安全で、有効で且つ臨床的に許容され得る医薬品が得られる医薬特性を有するタンパク質を含む組成物の製造方法を規定し、開発することは厳しい問題と考えられている。1つの問題は、製造、貯蔵及び取扱い中にタンパク質の安定性を維持することである。別の問題は、タンパク質の所望の薬物動態特性及び薬力学的特性を保証することである。しばしば、分散脂質系をタンパク質を含めた医薬品のための好適な担体とすることが示唆されてきたが、この分散系でも上記した問題と同じ問題が多くの点で見られる。従って、多くの場合分散脂質にも関連する上記問題を解消すべくタンパク質と脂質を結合する方法を提供することが要望されている。特に、タンパク質の安定性を改善し、特別に設計したドラッグデリバリー組成物を提供するためにタンパク質を脂質担体と結合させ得ることが望ましい。ある用途では、例えば生物活性タンパク質の循環系におけるインビボ半減期を延ばすことが望ましい。さもなければ、生物活性タンパク質はその有利な活性を発揮させるべきターゲットに到達する前に酵素分解される恐れがある。
【0003】
臨床上副作用を起こし得る担体または製剤化助剤を配合せずにタンパク質の生物活性を維持する適当な投与形態を見つけることに多大な努力が向けられてきた。血流中の天然脂質−タンパク質輸送粒子の模造品は、生物活性タンパク質に対する投与システムを設計するための1つの魅力的なモデルとして提案されてきた。前記脂質粒子の数種の重要な形態は、脂質リッチ食物、VLDL、LDL粒子及びHDL粒子を摂取後血流中に現れるトリグリセリドの輸送体であるカイロミクロンである。これらの粒子は主に、遊離及びエステル化コレステロール、トリグリセリド、リン脂質及び数種の他の少量の脂質成分及びタンパク質から構成される。LDL粒子はコレステロール及び他の脂質の細胞への輸送体として働き、HDL粒子は前記物質を排泄のために肝臓に輸送する。HDL粒子は、リン脂質層で被覆された外表面及び疎水性コアを含むディスク形を有する。アポリポタンパク質A−I及びA−IIのような両親媒性タンパク質は、そのα−ヘリカルドメインの疎水性面とリン脂質の疎水性部分との相互作用により表面に結合している。
【0004】
合成のカイロミクロン様物質は非経口栄養素として使用されることが特に発見された。精製トリグリセリド油(主に、大豆及びサフラワー油)及び(卵黄または大豆起源の)リン脂質から、通常0.1〜1μmのサイズを有するカイロミクロン様エマルション液滴であるために非経口用に臨床的に許容され得ると見做される脂質エマルションを製造することは広く確立された技術である。また、前記エマルションを分散脂質相に溶解される親油性薬物に対する担体として使用した幾つかの市販品、例えばDiazemuls(登録商標)及びDiprivan(登録商標)もある。しかしながら、この種のエマルション担体には比較的に物理的に不安定であるという実際的な問題があり、この物理的不安定性はしばしば疎水性薬物の添加により引き起こされ、エマルションが分解され、よって脂質塞栓形成の危険性があるために投与は危険を伴う。この問題を安定剤を添加することにより解決するために多くの試みがなされてきたが、安定剤は望ましくない副作用を伴うことが多い。前記エマルションは高圧蒸気を用いる滅菌、すなわちオートクレーブ処理により及びその後の貯蔵中に化学変化を受けやすいので、エマルションを非経口薬物担体として使用することはしばしば禁止されている。通常、オートクレーブ処理により、例えば多くのタンパク質のようにエマルションを用いて配合される多くの不安定な医薬品はダメージを受ける傾向にある。
【0005】
例えばImmunomethods,Vol.4,pp.201−209(1994)のA.L.Weinerの論文に記載されているように、リポソームは非経口的タンパク質デリバリーのための適当な賦形剤としてしばしば提案されてきた。例えば、リポソーム担体は高い可溶化、徐放性(すなわち、長い半減期)またはタンパク質の改善ターゲッティングが望まれるときに有利である。しかしながら、上記した論文には、リポソームシステムを設計するために頻繁に使用される多くの方法は感受性タンパク質の活性が例えば変性及び酸化により損なわれる可能性のある手順を含むことも明らかにされている。また、CRC Press Inc.(1993)発行のLiposome Technology,1巻,3章,pp.49−63:M.M.Brandlらには、上記技術の小胞サイズの減少、サイズ分布の広さ及びプレ成形マルチラメラ小胞分散物のラメラ性に対する適性並びに小さい単ラメラ品質を有するリポソームを製造するためにいかに高圧均質化を使用するかが記載されている。また、タンパク質及びペプチド、特にヘモグロブリン及びインシュリンを捕捉することも記載されているが、生じた小胞のサイズが小さいことが不利であり、タンパク質の捕捉効率が低い。更に、ヘモグロビンの一体性及び生物学的機能はストレス条件にさらされる時間が少なくとも短時間なら維持されることが報告されている。
【0006】
タンパク質に対して適当であると示唆されている分散脂質剤の別のデリバリーシステムはWO 93/06921に記載されている。このシステムはタンパク質と結合し得る脂質の内部非ラメラ相、例えば逆ヘキサゴナル相またはキュービック相を有するコロイド脂質粒子を含む。
【0007】
一方、精製形態の多くのタンパク質を処方することは明らかに困難である。例えば、ヒト成長ホルモン(hGH)は貯蔵中の水溶液中安定性が乏しく、そのために投与のために注射可能溶液に再構築するまで凍結乾燥形態で製剤を貯蔵することが推奨されている。しかしながら、再構築工程を注意深く実施しなかったため故意でなくとも剪断力を受けると、取り返しがつかないことに生物学的活性の損失が生ずる。このために、EP 0 298 067に記載されているようにヒト成長ホルモンのために静かに再構築するための特別に設計された手段が開発された。
【0008】
文献には合成HDL粒子についての多くの記載があり、合成HDL粒子は血流中の望ましくない脂質剤をピックアップし、血管から除去し得、よって合成HDL粒子を動脈プラークからコレステロールを減少させることによりアテローム性動脈硬化症を治療するために及びエンドトキシンのような脂質可溶性毒素を除去するために治療上使用し得ることが言及されている。
【0009】
Experimental Lung Res.,Vol.6,pp.255−270(1984):A.Jonasには、部分的に疎水性のアポリポタンパク質及びリン脂質のコンプレックスを形成するための実験的条件が詳細に記載されている。プレ成形したホスファチジルコリン小胞をアポリポタンパク質と接触させることにより、HDL粒子の類似物として使用され得る脂質粒子が自然と形成されたことが判明した。ホスファチジルコリン及び胆汁酸をミセル分散液に混合し、生じた混合物を特別に成形したアポリポタンパク質と接触させることにより、ディスク形の熱力学的に安定な脂質粒子が透析方法を用いて形成された(以下、「コレート−透析方法」と呼ぶ)。
【0010】
US 4,643,988(Research Corporation)には、改善された両親媒性ヘリックスを有し、天然HDLコンプレックスに似たリン脂質を含む安定なディスク形脂質粒子を自然に形成する能力を有するアテローム性動脈硬化症の治療に有用な合成ペプチドが記載されている。この脂質粒子は、音波処理により調製したホスファチジルコリンの小胞を接触させることにより製造され得る。しかしながら、音波処理を含む上記製造方法は、脂質粒子の少量製造にのみ適し、大規模に医薬品を製造するには適さない。
【0011】
US 5,128,318(Rogosin Institute)には、コレート及び卵黄ホスファチジルコリンを添加することにより非経口投与用合成粒子に加工される再構築リポタンパク質含有粒子(HDL粒子)を血漿由来アポリポタンパク質から製造することが記載されいる。同様の方法が日本国特許出願JP 61−152632(第一製薬株式会社)にも記載されている。
【0012】
WO 87/02062(Biotechn.Res.Partners LTD)にも、ヒトアポリポタンパク質のような組換え産生した脂質結合タンパク質の溶液を非経口栄養摂取のために慣用されている脂質エマルションとインキュベートすることにより安定化組成物を得る方法が記載されている。
【0013】
J.Biol.Chem.,Vol.260(30),pp.16231−25(1985)のG.Franceschiniらの論文では、アポリポタンパク質A−1とホスファチジルコリンの間で脂質粒子が自然と形成されることが検討されている。この論文では、アテローム性動脈硬化症の疾病率が非常に低いことが判明しているヒトが持っているアポリポタンパク質A−Iの変異体であるApo A−IM(Milano)のジミリストイルホスファチジルコリンに(DMPC)対する親和性(結合速度)は通常のApo A−Iよりも高いことも示されている。変異体Apo A−IMは、加速した異化作用及びApo A−IM/DMPC粒子の改良された組織脂質取り込み能力に寄与し得る疎水性残基が僅かに多く露出していることも示唆されている。
【0014】
カナダ国特許出願CA 2138925(the Swiss Red Cross)には、より少なく非結合の遊離非複合リン脂質(すなわち、高収量のリポタンパク質粒子)を生ずる、合成の再構築高密度リポタンパク質(rHDL)を有機溶媒を使用することなく精製血清アポリポタンパク質及びリン脂質から製造するための改良された産業上の利用可能性のより高い方法が記載されている。ここには、アポリポタンパク質の水溶液をリン脂質及び胆汁酸の水溶液と混合し、その後生じた混合物をインキュベートし、リン脂質/胆汁酸ミセルから胆汁酸を透析濾過により除去するとタンパク質−リン脂質粒子が自然と形成されることが示唆されている。
【0015】
コレート−透析方法に従って脂質のミセル粒子を製造するために胆汁酸を使用する前記方法は、生じた混合物から特別の分離ステップを必要とするので脂質粒子の製造のためには幾つかの欠点を有する。また、たとえ少量であっても、胆汁酸残留物は非経口投与後に副作用を引き起こすと疑われており、ウィルス汚染を起こす危険性もあり得る。更には、リポタンパク質−脂質粒子を製造するための上記方法は、通常再現性に乏しく、粒径は一定しない。特に、上記したいずれの方法も十分にコントロールされた条件下での大規模な大量製造には適さない。
【0016】
これらの要件を満たし、特に大規模製造の場合のタンパク質組成物に関連する多くの問題を解決する本発明により、驚くほど有利な方法が提供される。
【0017】
(発明の記載)
本発明の目的は、できるだけ治療の際に潜在的副作用を与える恐れのある添加剤を使用せずに治療用に、特に非経口投与に適した製剤に容易に変換され得るタンパク質の生物活性を本質的に維持した組成物を形成するように、高収率で脂質粒子生成物を簡単に且つ経済的に生成するタンパク質−脂質コンプレックスを大規模に製造する方法を提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、組換えタンパク質産生の後に既存するまたは従来の加工方法と統合し得る簡単な方法で、多数のタンパク質及び設計した適当な脂質剤に適した生物活性タンパク質を含む特定のカテゴリーの脂質粒子を形成する一般的な方法を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、変性、凝集または沈殿を生ずる恐れのある過度の温度、pH変化による生物活性の損失を招く処理をタンパク質に施すことなく脂質粒子形態のタンパク質−脂質コンプレックスを製造する方法を提供することにある。
【0020】
本発明の更に別の目的は、タンパク質がメチオニンやシスチンのような感受性アミノ酸の酸化及び脱アミドによる化学的同一性を維持した、脂質粒子形態のタンパク質−脂質コンプレックスの製造方法を提供することにある。
【0021】
本発明の更に別の目的は、大量の遊離タンパク質及び遊離脂質を残留させることがないように、生物活性タンパク質を含む脂質粒子を高収率で製造する方法を提供することにある。
【0022】
本発明の更に別の目的は、例えば凍結乾燥製剤の形態の医薬品に容易に変化され得る組成物を生ずる、生物活性タンパク質を含む脂質粒子を大規模に製造する方法を提供することにある。
【0023】
本発明の更に別の目的は、不安定なタンパク質を分解する危険性のある滅菌方法を導入せずに改善された滅菌条件を与える、脂質粒子及び生物活性タンパク質を含む医薬品を得ることができる方法を提供することにある。
【0024】
本発明の別の目的は、脂質粒子を適当なタンパク質と結合することにより脂質分散液中の脂質粒子を安定化及び修飾し得る方法を提供することにある。
【0025】
本発明の上記目的は、活性を実質的に損失させずに高剪断力を受けることができるタンパク質及び脂質を含む脂質粒子の組成物の製造に関わる本発明の方法により達成される。本発明の方法は、概略的にタンパク質調製物及び脂質剤を均質化ステーションに導入するステップ、生じたタンパク質と脂質剤の混合物を高圧均質化にかけるステップ、及び最後にこうして形成された脂質粒子の組成物を集めるステップにより特徴づけられる。
【0026】
更に、本発明は、本発明方法により得られた生物活性タンパク質の固体組成物、及び前記固体組成物と再構築用水性流体を含むキット(kit-of-parts)にも関する。
【0027】
前記方法、脂質粒子を構成する成分、及び本発明の各種実施態様を構成する他の方法の要件の詳細については、本発明の請求の範囲及び詳細な記載の欄に記載する。
【0028】
(発明の詳細な記載)
本発明は、最も包括的には、活性の実質的損失なしに高剪断力を受け得るタンパク質及び脂質剤を含む脂質粒子の組成物の製造方法に関する。本発明の特徴部分は、タンパク質調製物及び脂質剤を均質化ステーションに導入し、その後生じたタンパク質と脂質剤の流体混合物を高圧均質化にかけることにある。こうして形成した脂質粒子は、場合により更に医薬組成物に加工するために集められる。
【0029】
タンパク質調製物は、好ましくはタンパク質の水溶液であり、組換え産生またはタンパク質産生の任意の起源後の処理により得ることができ、純度の異なる所望の生物活性タンパク質を含む各種濃度のタンパク質を含み得る。或いは、タンパク質調製物は通常の凍結乾燥組成物のような固体形態であってもよい。タンパク質調製物を単純に、運転中の均質化装置へ例えば別の導管を用いて脂質とは別に均質化ステーションに導入してもよい。
【0030】
流体混合物が生成されるタンパク質調製物と脂質剤の各種組合せが本発明方法に従って均質化ステーシヨンに導入するために考えられ得ると理解されたい。タンパク質は水溶液または凍結乾燥固体配合物として均質化ステーションに導入され得、脂質剤は水溶液または有機溶媒に溶解した形態であり得る。脂質剤は脂質の水性溶媒中分散液の形態であってもよく、または少なくとも部分的に固体の形態であってもよい。タンパク質調製物と脂質剤の組合せは均質化可能な流体を生成するものでなければならず、使用する有機溶媒は最終製品の臨床要件を邪魔しない効率的な方法により除去されなければならないことは必要条件である。
【0031】
ある用途では、タンパク質調製物と脂質剤を均質な分散液または溶液に混合し、その後高圧均質化の高剪断力にかけることが好ましい。均質化中の長期間高剪断の付加に対してタンパク質が感受性(すなわち、生物活性の損失)である場合には、タンパク質を均質化処理にかける時間を最小限に抑えるために本発明の予備混合処理を延長し得ることを理解すべきである。同じ理由で、インキュベーションステップを場合により予備混合と均質化の間に設けることもできる。或いは、方法の経済性のために均質化期間を最小限に抑えるために予備混合時間を延ばす。予備混合を均質化を実施するのと同じ容器で実施しても、または別の容器で実施後均質化ステーションに導入してもよい。
【0032】
脂質剤は少なくとも部分的に、タンパク質の水溶液と分散液を生ずる固体形態であり得る。例えば、粉末形態の脂質を均質な分散液に混合し、その後一般的な混合装置を用いて均質化することができる。多くの用途では、粉末形態または部分的に粉末形態の脂質剤を均質化ステーションに直接導入することができる。
【0033】
本明細書では、脂質は、グリセロール、スフィンゴシン、コレステロール等のような1つ以上の脂肪酸が結合するかもしくは結合し得るアシル基担体からなる天然または合成化合物に対する総称として定義される。実質的な炭化水素部分を含む類似の分子も含まれ得る。
【0034】
本発明で使用される脂質剤は、その極性に依存して複数の脂質クラスに分類され得る:
極性ヘッド基を持たない非極性脂質;この非極性脂質の例は炭化水素または非膨潤性両親媒性物質、例えばモノ−、ジ−またはトリ−アシルグリセロール(グリセリド)、脂肪酸のアルキルエステル、脂肪アルコールまたはコレステロールエステルである、
極性ヘッド基を持ち、表面活性を示す極性脂質、例えばリン脂質及びグリコ脂質である。水との特異的相互作用により、極性脂質は更に膨潤性及び可溶性両親媒性物質のカテゴリーに再分割される。
【0035】
両親媒性脂質は表面活性であり、その例はリン脂質及びグリコ脂質である。
【0036】
極性脂質はしばしば、水の存在下で膨潤して、近距離規則度及び遠距離規則度を有する構造で脂質−結晶相を形成し得る。数種の異なる液晶相が存在する。ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルイノシトール(PI)及びスフィンゴミエリンのような多くの生物学的脂質は、当該分子の直径がほぼ円筒形であるならば2相構造を形成し得る。しかしながら、生物学的系の多くの主要脂質成分は単離され、水性系に置かれているときには2層構造を形成しないことも事実である。このことは、脂質分子が円錐または倒立円錐の形態を有しており、従ってミセルまたは逆ミセル構造を観察することができるという事実により説明づけられた。両親媒性脂質の幾つかのキュービック脂質−水系も観察され、これらの脂質−水系の重要な生物学的機能が示される。
【0037】
本発明によれば、脂質剤は、高圧均質化を受けた後、タンパク質と共にまたはタンパク質の存在とは無関係に水性媒体中で離散した脂質粒子を形成し得る両親媒性物質を含む。
【0038】
脂質粒子は通常極性脂質により安定化され、その形態はタンパク質及び脂質剤の種類ならびにこれらの基本成分の相対量によりかなり異なる。本発明は、リポソーム(2層)構造を有するリン脂質、水中油型エマルション中の液滴の構造を有する脂質粒子またはリポタンパク質とリン脂質とのディスク形コンプレックス、または水溶液中で安定化した離散脂質粒子の他の系、例えばミセル、ミクロエマルション、ナノ粒子及び分散ヘキサゴナル相を製造するのに適している。
【0039】
本発明では、脂質剤が両親媒性物質からなることが好ましい。より好ましくは、両親媒性物質は、水性媒体中で2層、例えばリポソーム膜を形成し得、リン脂質、グリコ脂質及びコレステロールの群の化合物の少なくとも1つから選択される。適当なグリコ脂質はパルミトイル、ステアリルまたはミリストイルグリコシド、コレステリルマルトシド、コレステリルグリコシド、各種ガングリコシド等である。コレステロールの例はコレステロール、コレステロールアセテート、ジヒドロコレステロール、フィトステロール、シトステロール等である。
【0040】
本発明において好ましい両親媒性物質は、卵黄または大豆リン脂質のような天然起源、または合成もしくは半合成起源であり得るリン脂質である。リン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンまたはホスファチジルグリセロールの純粋分画または混合物を含むように部分的に精製または分画化され得る。本発明の特定実施態様では、特定の脂肪酸残基を有するリン脂質、例えばジパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、オレイルパルミトイルホスファチジルコリン及び通常炭素数8〜22の天然脂肪酸から選択される特定のアシル基を有する類似のホスファチジルコリンを選択することが好ましい。本発明の特定実施態様によれば、炭素数14〜18の飽和脂肪酸残基のみを有するホスファチジルコリンが好ましく、この中でジパルミトイルホスファチジルコリンが特に好ましい。
【0041】
脂質剤は、両親媒性物質の他に、医薬的に許容され得る油(トリグリセリド)、例えば大豆油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、ルリチシャ油、ヒマシ油及び綿実油のような一般的に使用されている植物油、または鉱物油や海洋油のような他の起源の油、及び前記起源の水素化及び/または分画化トリグリセリドから選択され得る少なくとも1つの非極性成分を種々の量含み得る。本発明では、中鎖トリグリセリド(MCT油、例えばMiglyol(登録商標))及び各種の合成もしくは半合成モノ−、ジ−、トリ−グリセリド、例えばWO 92/05571に記載されている特定の非極性脂質、並びにアセチル化モノグリセリド、または脂肪酸のアルキルエステル(例えば、イソプロピルミリステート、エチルオレエート(EP 0 353 267参照))、脂肪アルコール(例えば、オレイルアルコール、セチルアルコール)、または各種のコレステロールの非極性誘導体(例えば、コレステロールエステル)を使用してもよい。
【0042】
本発明では、例えば両親媒性物質の特性に対する補助物として、脂質粒子安定化能力を向上させるために、またはタンパク質を更に可溶化するために1つ以上の補助界面活性剤を脂質剤に添加することができる。前記の補助界面活性剤は医薬的に許容され得るノニオン界面活性剤であり得、好ましくは1つ以上のヒドロキシ基を含む有機化合物のアルキレンオキシド誘導体である。例えば、エトキシル化及び/またはプロポキシル化アルコールまたはエステル化合物またはその混合物は市販されており、前記補助物として当業者には公知である。前記化合物の例は、ソルビトールと脂肪酸のエステル(例えば、ソルビタンモノオレエートまたはソルビタンモノパルミテート)、油性スクロースエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレン−ポリプロポキシアルキルエーテル、ブロックポリマー及びセチルアルコール、並びにポリオキシエチレンヒマシ油、水素化ヒマシ油誘導体及びポリグリセリン脂肪酸エステルである。適当なノニオン界面活性剤として、各種グレードのPluronic(登録商標)、Poloxamer(登録商標)、Span(登録商標)、Tween(登録商標)、Polysorbate(登録商標)、Emulphor(登録商標)またはCremophor(登録商標)等が挙げられるが、これらに限定されない。補助界面活性剤はイオン性物質、例えば胆管物質、コール酸またはデオキシコール酸、それらの塩及び誘導体、または遊離脂肪酸(例えば、オレイン酸、リノール酸)等であってもよい。他のイオン性界面活性剤は、C10−C24:アルキルアミンまたはアルカノールアミンのようなカチオン性脂質及びカチオン性コレステロールエステルである。
【0043】
また、他の医薬的に許容され得る成分、例えば酸化防止剤(例えば、α−トコフェロール)及び可溶化助剤(例えば、ベンジルアルコール)を所望により脂質剤に添加することができる。
【0044】
上述したように、脂質剤を前もって処方し、混合後予備混合ステップでまたは均質化ステーションで直接タンパク質溶液と接触させることが好ましい。しかしながら、上記2つの過程の間に脂質剤及び/またはタンパク質の1つ以上の成分を少しずつ連続的に、または逐次添加することも本発明では考えられ得る。
【0045】
本発明によれば、形成されたタンパク質−脂質粒子の特徴部分は脂質剤の組成、特に極性及び非極性脂質の関係に依存して大きく異なり得る。本発明のある用途では、極性で2層形成脂質の大部分からタンパク質に結合したリポソーム構造が生じ得る。例えば、リン脂質形態の極性脂質と特定のリポタンパク質から、本発明方法で特殊なディスク様粒子が形成され得る。例えばアポリポタンパク質A1を使用した場合、これらの粒子はかなり安定であり、天然HDL粒子構造に類似しており、タンパク質の特徴は脂質粒子の性質にかなりの影響を及ぼす。一方、非極性脂質(すなわち、グリセリド)の大部分から、極性脂質(すなわち、リン脂質)により安定化され得るエマルション液滴に似た脂質粒子が形成される。タンパク質の特徴及び量は脂質粒子の構成に影響を及ぼし、タンパク質の物理的及び化学的性質及び脂質剤の組成に依存して各種の脂質粒子が本発明により生成されることは自明である。当業者は、生じた組成物中の粒子の形態を主成分の上記特徴及び残りの方法パラメータから予測することができる。従って、当業者は、脂質ドラッグデリバリーの一般的な知識に従って設計したタンパク質を含む脂質粒子を形成する本発明方法により個々の脂質剤を設計することができる。このために、本明細書で使用する「脂質粒子」は広義で使用され、脂質剤で安定化され、水溶液中に分散されるタンパク質コンプレックスが包含されると見做される。
【0046】
生物学的活性を実質的に損失させずに且つ構造を実質的に維持しながら、本発明の方法の高圧均質化により生ずるキャビティ及び乱流による剪断力に耐え得るという要件に加えて、タンパク質は脂質剤及びタンパク質を含む安定な粒子を与えるためにタンパク質は脂質剤に対してかなり相容性でなければならない。
【0047】
本発明によれば、「タンパク質」は、上に定義した脂質剤と十分な疎水性相互作用し得る天然、組換え産生または合成された生物活性タンパク質、ポリペプチドまたはオリゴペプチドとして定義される。十分な疎水性相互作用とは、静電引力よりもむしろ主として疎水性力により脂質粒子を形成するためにタンパク質が少なくとも部分的に脂質剤と相互作用することを意味する。生じた生成物中で、タンパク質は例えば部分的に脂質粒子に埋込まれているか、脂質粒子のコアに浸透しているか、または他の形態の脂質タンパク質コンプレックスを構成し得る。上掲のCRC Press Inc.(1993)発行のLiposome Technology,1巻,3章,pp.49−63:M.Brandlら及びImmunomethods,Vol.4,pp.201−209(1994):A.L.Weinerに記載されているようなタンパク質がリポソームの水性相に単に取り込まれたものは除外する。適当なタンパク質は、好ましくはJourn.of Pharm.Sci.,Vol.84(7),pp.805−814(1995)のY−L Loらの論文の805ページ、2欄に記載されているカテゴリー2及び3に属する。特に好適なタンパク質は、E.L.Smithら編,Principles of Biochemistry,第7版、274−275ページに記載されている膜タンパク質及びW.V.Rodriguezaら,Advanced Drug Delivery Reviews,Vol.32,pp.31−43(1998)に記載されており、しばしばリポソーム様脂質粒子と自然に相互作用して新しく統合された脂質−タンパク質粒子を形成するリポタンパク質である。
【0048】
本発明の別の態様によれば、タンパク質により、所望の生理化学的または生物学的特性、例えば分散系中の改善された安定性、ターゲッティング機能及び生物学的分布及び排泄に影響を及ぼす機能を有する脂質粒子が提供される。この点で、脂質剤は該脂質剤中に溶解または分散した治療活性物質を含み得、生じた分散系は改良されたドラッグデリバリーシステムとして使用され得る。この場合、脂質粒子の粒径を小さくすることができる。同時に、上記した疎水性相互作用により、タンパク質の脂質粒子表面への結合が促進される。これは、粒子の表面リン脂質単層または油性コアに埋込まれた特定部分を有し得る表面に結合したタンパク質を用いて非経口用の慣用の脂質エマルションを形成することにより例示される。前記エマルションは、当業者に公知の方法でエマルション粒子と結合した特定の治療物質を含み得ると理解される。
【0049】
疎水性相互作用させ得るために、タンパク質は少なくとも部分的に親油性であり、すなわち親油性ドメインを有し及び/または2層形成脂質と相互作用し得る。前記の好適タンパク質の例は、生物学的膜の表面と関連して生物活性能を発揮するもの、すなわち膜タンパク質である。前記タンパク質は、細胞膜に関連する酵素、輸送、受容体及び他の機能に関与する。従って、多くのタンパク質は、脂質膜の2層に直接統合されるいわゆる統合タンパク質により例示されるようなリン脂質膜に結合し得るドメインを有する。前記した天然タンパク質の機能同族体及び断片は脂質剤と十分な疎水性相互作用の要件を満たすならば、本発明で使用され得る。
【0050】
より好ましくは、タンパク質は、血流中の脂質輸送体と結合したリポタンパク質で例示されるように、ヘリックに少なくとも部分的に両親媒性及び2層形成脂質との高い相互作用能力を有する。前記タンパク質は、脂質剤と脂質粒子を形成する際に好ましい結合速度を有する露出した疎水性残基を多く有すると期待され得る。特に好ましいタンパク質の例は、疎水性α−ヘリックス部分を有する膜タンパク質またはリポタンパク質である。
【0051】
さもなければ脂質との不十分な疎水性相互作用のために本発明方法を受けるのに適さないタンパク質は、脂質剤と相容性の天然タンパク質構造に基を導入することにより容易に適合され得る。コンプレックス形成または共有結合により脂質相容性を導入するのに適した基は、適当な特性の形成に寄与する指定アミノ酸を多数有するペプチド断片、例えば上掲のUS 4,643,988に記載されているような両親媒性ヘリックスであり得る。例えば疎水性アシル基残基を有する、脂質相容性特性の他の基は共有結合または他の種類の結合により天然タンパク質に結合し得る。潜在的に、前記基は、薬物のその活性サイトへの指向を改善し、よってその有利な活性を最適化するためにターゲッティング機能で補充され得る。タンパク質化学の分野の専門家は、より脂質剤相容性タンパク質コンジュートを設計するために及びタンパク質の生物活性が実質的に影響されないように前記コンジュゲートを設計するために適した多数の基を見つけることでできる。更に、前記基は、相補的脂質相容性物質の望ましくない蓄積という悪影響に関与することなく適当な方法でインビボで酵素的に開裂されるように設計され得る。
【0052】
本発明の特定の態様に従って好ましいタンパク質の例は、アポリポタンパク質A−I、A−II、A−IV、B、C−I、C−II、C−III、D及びE、またはその機能アナログ及び誘導体、例えば上掲したUS4,643,988に記載されている小ペプチド等である。これらのアポリポタンパク質のうち、アポリポタンパク質A−I(Apo A−I)及びその天然変異体、例えばアポリポタンパク質A−I(Milano)(Apo A−M)は血清から一般的な分離方法により、または例えばWO 9312143,WO9413819またはWO9807751に記載されているような組換え方法により製造され得る。
【0053】
本発明の好ましい実施態様によれば、上記した両親媒性ヘリックスを有するリポタンパク質(特に、アポリポタンパク質)をタンパク質として使用し、脂質剤は実質的にリン脂質のみである。この方法により、上記した文献に記載されているものと本質的に同一の天然HDL粒子に似たディスク形脂質粒子が生ずる。
【0054】
本発明の特別の目的は、脂質剤を粒子に分散させながら脂質剤とタンパク質の疎水性相互作用を促進させることにある。こうするために、本発明の重要で特徴的な部分は、予備混合するかまたは別々にタンパク質溶液及び脂質を高均質化ステーションに導入し、遊離脂質剤及び遊離タンパク質を実質的に全くまたは微量しか残存せずにタンパク質を含む離散脂質粒子を高収率で形成するのに十分な条件下で高圧均質化にかけることである。高圧均質化は、成分に適度の機械的エネルギーを与えて成分の相容性及び相互作用能力を高めるために役立つ。より具体的には、均質化中のエネルギー補充により、脂質剤及びタンパク質の疎水性部分の相互作用が促進され、さもなければ相互作用は水性環境により遮蔽されるであろう。
【0055】
上述したように、本発明の均質化ステーションはホモジナイザーを含むが、タンパク質溶液及び脂質剤の予備混合ステップを実施するための手段をも含み得る。予備混合処理では、すべての成分が手動でまたは自動的に添加され、適当なミキサー、例えばYstral GmbHミキサーまたは類似の型の慣用ミキサーを用いて一緒に混合される。
【0056】
均質化処理のために、1つのホモジナイザーを使用することができ、均質化は1ステップ操作で、マルチパス操作で、または連続操作で実施され得る。また、連続的に配置した複数のホモジナイザーを使用してもよく、各ホモジナイザーで1回の均質化パスを行う。本発明では、高圧で操作し得る多くの市販のホモジナイザー、例えばRannie高圧ホモジナイザー、Avestinホモジナイザー、Gaulinホモジナイザー、Microfluidizer等を使用することができる。
【0057】
均質化のために好適な容器は、好ましくは医薬品製造用の市販されている容器であり、ステンレス製のジャケット付容器が好ましい。Julabo ATS2反応器温度調節器のような市販の温度調節器を用いて温度を調節し得る。製造中に不活性雰囲気を与えるために、好ましくは濾過Nガスを使用する。
【0058】
タンパク質を含む脂質粒子の製造方法を実施し、本発明を首尾よく実施するために、ホモジナイザーを約200バール以上〜約2000バール以下の高圧で操作することが重要である。好ましくは、ホモジナイザーを約600〜約1200バールで操作する。
【0059】
連続操作の場合、均質化時間は、均質化温度及び圧力の他に脂質粒子−タンパク質収率、均質性、粒径及びゼータ電位により主に決定される。タンパク質及び脂質剤を複数の均質化サイクルにかける、すなわち複数回ホモジナイザーにかけるマルチパス操作の場合、均質化時間ではなくむしろ均質化パスの回数を最適化する。通常、本発明の均質化では、収率及び方法の効率の点で望ましい結果を得、タンパク質の活性を維持するためにタンパク質−脂質の各系について圧力、時間及び温度を適合させることが必要である。
【0060】
本発明の方法によれば、バッチの容量は1ml〜5lの範囲の小規模製造から変更可能であり、最高約20,000lが通常の大規模製造のために容易達成される。
【0061】
1回の高圧均質化による考えられる有害な影響を減ずるために、穏やかな、やや低い圧力で複数の均質化サイクルにかけ、その間に1回上の中間休止期間を設けることも本発明の範囲である。当業者ならば、特に感受性のタンパク質に対する個々の運転操作を設計することは容易であり、これによりタンパク質を含む脂質粒子を形成するために本発明の方法を多数の組成物に対して適用させることができる。
【0062】
本発明の別の重要な態様は、本発明方法により改善された滅菌条件が得られ得ることである。なぜならば、多くの微生物は高圧均質化に耐えられないからである。従って、本発明の1つの実施態様によれば、均質化を中間インキュベーション期間を設けて少なくとも2回連続して実施することができる。中間の休止またはインキュベーション期間を設けて複数の高圧均質化サイクルを逐次使用すると、他の形態の均質化手段、例えばタンパク質を分解する恐れのある熱または照射を加えることなく、または製品の許容性の問題につながる補助保存剤を添加することなく、脂質粒子の最終組成物中の生存微生物の量を低減させることができる。
【0063】
本発明の別の態様によれば、均質化後であって、場合により医薬品に更に加工するために生じた脂質粒子を集める前の適当な期間にインキュベーションステップを設けることができる。なぜならば、この期間に収率を上昇させ得る可能性があるからである。
【0064】
上記したように、処方及び方法パラメータはタンパク質及び脂質剤のそれぞれの選択組成に応じて最適化されなければならない。タンパク質及び脂質剤の成分の、特に異なる温度での相挙動を考慮することが非常に重要である。更に、構造及び/または活性を損なうことなくタンパク質が高圧均質化による高剪断力に耐え得るについては注意深く考慮しなければならない。処理中の熱の局所的発生も考慮しなければならない。なぜならば、均質化中の温度は通常10〜95℃の範囲であるからである。
【0065】
更に、均質化処理の方法パラメータ、主に圧力、温度、運転時間、均質化サインルの回数及びインキュベーション等が脂質粒子のサイズ、そのサイズ分布及び脂質剤−タンパク質のコンプレックスの収率に影響を与える。例えば、均質化サイクルを多くすると収率は上昇すると通常期待されるが、当業者はこの利点と均質化処理により生ずる他の点を妥協させなければならない。
【0066】
脂質剤が本質的にリン脂質から構成される本発明の特定実施態様では、リン脂質がゲル形態から液晶形態に変換する相転移温度(Tc)に近いかもしくはそれを超える温度で操作することが好ましい。タンパク質の特性も脂質粒子形成の効率に影響を及ぼすであろう。なぜならば、タンパク質の疎水性露出残基の数が多いとリン脂質との結合速度は速く、タンパク質の分子量が低ければ安定な粒子の形成速度が高まるからである。従って、タンパク質がアポリポタンパク質の場合には、結合速度はリン脂質の転移温度近くで速くなると予想される。リン脂質を飽和脂肪酸のみのリン脂質から選択する場合には、均質化中の温度はジパルミトイルホスファチジルコリンでは約42℃を超え、ジミリストイルホスファチジルコリンでは約24〜25℃を超えることが好ましい。
【0067】
本発明の第1の特定実施態様によれば、脂質剤は本質的にリン脂質からなり、タンパク質はリポタンパク質のように両親媒性を有する。本実施態様の重要な特徴は、両親媒性タンパク質を脂質剤で保護し得、製造、精製、取り扱いや貯蔵中の安定性及び特定生物学的性質の導入、例えば体内への摂取及び分布、活性、分解速度等の調節を含めた改善された機能特性を有するタンパク質を提供し得る。ある用途では、タンパク質の局所的疎水性ドメインと保護するように相互作用させるために機能する脂質剤を比較的にかなり少量使用するだけでしばしば十分である。あるタンパク質は安定化させる及び/または所望の生物活性を獲得する(脂質2相構造において適性な配向を得る)ために膜様脂質コンプレックスと相互作用する必要がある。このことは本発明方法では比較的高量の脂質剤を添加しなければならないことを意味する。好ましくは、本発明の本実施態様のリン脂質は天然起源のリン脂質、例えば大豆または卵黄リン脂質から分離されたホスファチジルコリンから本質的になるか、または制御された量のアシル基を含む合成もしくは反合成ホスファチジルコリンである。最も好ましくは、大豆由来のホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン及びジミリストイルホスファチジルコリンである。タンパク質は好ましくはアポリポタンパク質のようなヒトリポタンパク質であり、本発明方法で得られた脂質粒子は脂質またはリポイド物質に関連する病気、例えばコレステロールやエンドトキシンの量の低下の治療及び予防に有用である。最も好ましいアポリポタンパク質はアポリポタンパク質AまたはEであり、この中には組換え産生した突然変異体アポリポタンパク質A−IMilanoのような天然または合成変異体も含まれる。リン脂質を、脂質:タンパク質を約1:100〜約10:1(w/w)の重量関係でタンパク質の水溶液に添加することが好ましい。脂質:タンパク質の比率の下限について、脂質:タンパク質の比率が約1:100(w/w)であるアルブミンを天然脂肪酸輸送機能で参照する。好ましくは、本発明の本実施態様における脂質剤:タンパク質の量は約1:4〜約4:1、より好ましくは約1:1〜約3:1である。通常、生じた脂質粒子組成物中に全くまたはほとんど非結合タンパク質または脂質剤を残留させないように脂質−タンパク質コンプレックスの収率を90%以上、好ましくは100%近くに上げることを目的とする。注射剤中のリン脂質の量ができるだけ少ないことが非常に望ましい。なぜならば、過剰量であると当該注射剤を受けた患者に副作用を生じさせるであろう2層小胞(例えば、リポソーム)が生成される恐れがあるからである。高圧均質化は約200〜約1500バール、好ましくは約600〜約1200バールの範囲の適当な圧力で適当な時間及び温度で実施される。均質化は、任意にその後のインキュベーションステップを含む適当な時間の中間休止期間を設けて1回もしくは複数回実施され得る。この方法により、約7〜約25nmの粒径を有するリン脂質及びタンパク質からなるディスク形脂質粒子が90〜100%の高収率で得られる。本発明の方法で形成された脂質粒子中に含まれるタンパク質では、酸化及び脱アミド化の点で化学的同一性が維持される。従って、脂質粒子は、最終医薬品中に含めたとき均質化を受けていないタンパク質と同じ生物学的活性を発揮し得る。
【0068】
本発明の第2の特別実施態様によれば、高圧均質化を含む方法において両親媒性タンパク質の溶液を脂質の水性分散液、好ましくは油中水型エマルション(脂質エマルション)と接触させる。好ましくは、脂質分散液は臨床的に許容され得る非経口用の慣用エマルション、例えばIntralipid、Liposyn、または植物油(大豆油、サフラワー油)のトリグリセリド油及び卵黄または大豆リン脂質のような臨床的に許容され得る乳化剤を主成分とする他のエマルションである。当業者は、例えば上記した適当な非極性脂質の記載に従ってエマルションの含量及び組成を変えることができる。エマルションが約1〜50%(w/w)の油相及び約0.05〜30%(w/w)のリン脂質乳化剤からなり、油相が非経口投与に適したトリグリセリド油(好ましくは長鎖の飽和もしくは不飽和脂肪酸及び/または中鎖脂肪酸のトリグリセリド)または脂肪酸のアルキルエステルからなることが好ましい。エマルション技術分野の当業者ならば、本発明方法に適用され得る適当な脂質エマルションを容易に見つけるであろう。脂質剤(非極性脂質及び乳化剤)とタンパク質の関係は、典型的には約500:1〜約10:1(w/w)、好ましくは約60:1〜約20:1である。しかしながら、当業者は脂質剤及びタンパク質の特徴並びに製品の特定臨床用途により要求される用途によっては上記推奨を逸脱することができる。例えば、脂質粒子組成物の高い栄養価を維持すること、または脂質粒子中に脂質可溶性の追加の治療物質を配合することができるように高量の脂質を含むことが望ましいことがあり得る。或いは、脂質はそれ自体、例えば有効な脂肪酸の担体として、診断価値、またはターゲット臓器に対してデリバリーするために例えばヨウ素化脂肪酸を含む造影剤として治療及び診断価値を有する。そのような用途では、本発明方法はタンパク質を脂質に結合し、よって生じた脂質粒子の分布及び排泄を調節するために使用される。この点で、本発明の方法は、脂質に比較して比較的に低量のタンパク質を含む脂質粒子のタンパク質コーティングを得るために使用することができる。前記した脂質粒子のコーティングにより、本発明方法で抗体を脂質に結合させることにより達成されるように免疫系の本来の認識部分との修飾相互作用が生ずる。この場合の脂質:タンパク質の比率は非常に高い。なぜならば脂質粒子の外領域に結合するが、十分な結果を得るには1000個未満の少ないタンパク質分子で十分である。また、タンパク質は、本発明方法を用いることにより分散脂質粒子の化学的・物理的特性を変化させるために使用され得る。この場合には、脂質:タンパク質の比率がより低くなるようにより高量のタンパク質の充填が要求され得る。脂質エマルション及びタンパク質の高圧均質化は高圧で、好ましくは約2000バール以下、より好ましくは約200〜約1500バール、最も好ましくは約600〜約1200バールの範囲の圧力で適当な温度及び適当な時間実施される。好ましくは、タンパク質は、脂質またはリポイド物質が関係する疾患、例えばコレステロール及びエンドトキシンの量の低下の治療または予防に使用されるアポリポタンパク質である。より好ましいアポリポタンパク質はアポリポタンパク質AまたはEであり、この中には組換え産生された突然変異体アポリポタンパク質A−IMilanoのようなその天然または合成変異体も含まれる。エマルションとの均質化により得られる脂質粒子は、好ましくは約1μm未満、好ましくは約0.1〜0.5μmの平均粒径を有する。結合したタンパク質を含む脂質粒子は、オリジナルのエマルションの脂質粒子と比較してある程度異なるゼータ電位を有し、両親媒性タンパク質(少なくとも部分的)が脂質粒子の表面相に結合していることが示される高い物理的安定性を有する製剤が提供され得る。一般的に、好ましくないゼータ電位は、脂質粒子が凝集して静脈投与後に塞栓を生じさせる危険性があるので避けるべきである。そのために、生じた脂質粒子の正味電荷への関与を引き出すことがしばしば必要である。これは、通常の手段、例えばpH変更、補助安定化電荷剤等の導入により実施され得る。
【0069】
本発明方法の均質化ステップが完了したら、各バッチの脂質粒子を慣用の手段及び装置を用いて集める。こうした方法には、脂質粒子生成物の濃度及び純度を高めるための遠心または濾過、並びに無菌製品を得るための慣用の方法が含まれ得る。
【0070】
こうして形成された生成物は、長期間の貯蔵及びその後に静脈注射のような非経口投与直前に水性流体で再構築するのに適した最終の医薬固体製品が形成されるように任意に適当な賦形剤を添加して通常の凍結乾燥にかけられ得る。再構築は張性及び溶解速度に関して適当な賦形剤を含む緩衝液を添加して実施され得る。適当な緩衝液には、リン酸ナトリウム、ヒスチジン等が含まれる。賦形剤には、マンニトールのようなポリオール、グリセロール、サッカロース及びアミノ酸が含まれる。
【0071】
本発明の実施態様によれば、凍結乾燥は慣用のマルチチャンバカートリッジの指定チャンバにおいてバッチ式にin−situで、またはマルチチャンバデバイスのバレル内のチャンバで直接実施することができる。これらのデバイスは、非経口投与可能な再構築水性流体を保存している隣接のチャンバとは所望の投与直前に注射用流体を形成するために転置され得る可動式壁により離れているチャンバに1回量以上の固体組成物を含むキットを形成する。当業者はペン形注射器により操作され得る前記注射器またはカートリッジの幾つかの例を容易に見つけることができる(EP 298 067参照)。
【0072】
実施例1
ジャケット付き容器での予備混合ステップで、SPC(大豆ホスファチジルコリン)0.687gを、タンパク質濃度12mg/mlの組換え産生の下流プロセスから得たアポリポタンパク質A−Imilano(Apo A−IM)を含むタンパク質のリン酸ナトリウム緩衝液中溶液45.80gと混合した。よって、脂質:タンパク質の比率は1.25:1であった。温度をJulabo ATS 2反応器温調節器を用いて60℃に調節した。回転子及び固定子配置のYstralミキサーを撹拌速度を2000rpmにコントロールしたミキサーとして使用する。10分間の予備混合後、混合物を小型Rannieホモジナイザー(Mini−Labタイプ7.30VH)において1000バールの圧力及び60℃で5分間連続的に均質化する。この方法により、ディスク形の天然HDL様コンプレックスに似た構造を有する脂質−タンパク質粒子の透明溶液が形成される。(以下に記載する方法に従って)天然PAGEで検出した脂質コンプレックス中に取り込まれたタンパク質の収率は98%である。反復実験での収率は100%であり、方法の再現性が立証された。
【0073】
実施例2
組換えアポリポタンパク質A−Imilano(Apo A−IM)(リン酸緩衝液1ml中タンパク質9.6mg)0.47g及び1:1(w:w)脂質/タンパク質の比率で添加した大豆ホスファチジルコリン(SPC)を60℃で10分間予備混合し、次いで実施例1のmini−Rannieホモジナイザーにおいて60℃、1000バールで5分間均質化した。(下記する方法に従って)n−PAGEで測定してすべてのタンパク質が8nm脂質−タンパク質粒子に取込まれた。従って、使用した脂質:タンパク質の比率は低いが、アポリポタンパク質A−Imilanoの脂質―タンパク質粒子への高取込みが均質化方法により得られることが立証される。
【0074】
均質化を560バール、60℃で7分間実施する以外は上記と同じ成分及び同じ条件で同様に実験した。その後実施したクロマトグラフィー及び電気泳動分析によれば、タンパク質はこの方法において本質的に未変化である。このことを、アポリポタンパク質A−Imilano及びタンパク質−脂質コンプレックスを形成するために脂質と均質化後の同一タンパク質の(下記する方法に従った)ペフチドマッピングのデーターを示す図1及び2に例示する。
【0075】
実施例3
組換え産生したApo A−IM(19.8mg/mlの水溶液)の溶液69.00gをMini−Rannieホモジナイザーを用いてジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)と42℃、1000バールで60分間均質化した。均質化前に、混合物を窒素雰囲気下で42℃で2000rpmで5分間予備混合した。DPPC:Apo A−IMの比率は3.3:1(w/w)であった。タンパク質変性(脱アミド化、酸化または凝集)の分析は、ペプチドマッピング、等電点電気泳動、サイズ排除クロマトグラフィー及び逆相クロマトグラフィー(HyTach)により実施した。処理した材料中のApo A−IMタンパク質に関するデーターは、(下記する方法で測定した)図3及び図4のHyTachデータが示すように均質化しなかったタンパク質材料と一致した。(7.7〜15.7nmのサイズの)リポタンパク質粒子中に取込まれたタンパク質の量は、(以下に示す)n−PAGE染色ゲルのデンシトメーター走査によれば100%であった。対照タンパク質の対応する流体力学的半径は7.3nmと推定された。粒子がリン脂質をも含むことを確認するために、n−PAGEゲルを脂質のために染色した。本実施例から、異なる組成及び方法条件で脂質−タンパク質コンプレックスが効率的に形成されること及びタンパク質が脂質との機械的処理により本質的に影響されないことが立証される。
【0076】
実施例4
実施例3と同一の条件で5分間予備混合後、組換え産生したApo A−IM 15mg/ml及び2.9:1(w/w)の比率で添加したジパルミトイルホスファチジルコリン(SPPC)の10mMリン酸ナトリウム(pH=7.5)中溶液75mgを均質化した。均質化は、60℃、1000バールで7.5分間の第1回均質化期間及び40℃、1000バールで5分間の第2回均質化期間で実施した。第1回均質化期間後、7.7〜25nmの脂質−タンパク質粒子に取込まれたタンパク質の量は78%であり、第2回均質化期間後は94%に増加した。
【0077】
クロマトグラフィーまたは電気泳動方法により、2ステップ均質化方法を受けたタンパク質中に凝集、切欠き、脱アミド化または酸化は認められなかった。
【0078】
実施例5
組換え産生したApo A−IM(13mg/ml)の10mMリン酸ナトリウム(pH7.5)中溶液6.7kgに、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)263gを添加した。材料をYstral X 20 D−mix装置を用いて50℃で10分間予備混合した。その後、材料をLab Rannie 12.5I−Hタイプの高圧ホモジナイザーにおいて42℃、900バールで均質化した。均質化を35回(各回3分間)実施した。均質化後、サッカロース243g及びマンニトール31gを添加し、溶解させた後、溶液を滅菌濾過し、無菌的に充填し、凍結乾燥した。再構築後の生成物の電気泳動及びクロマトグラフィー分析で、タンパク質は均質化を受けていないタンパク質材料に一致したことが判明した。このことを、(以下の方法に従った)未処理タンパク質と比較した本実施例の均質化最終タンパク質調製物のサンプルの(以下の方法に従った)IEFデータ(図5)で立証する。方法の有効性は、タンパク質の99%が7.7〜25nmのリポタンパク質粒子に取込まれたn−PAGEテストにより示される。本実施例から、大規模方法において高品質のタンパク質−脂質コンプレックスが比較的低い脂質/タンパク質比率で効率的方法で製造され得ることが立証される。
【0079】
実施例6
Ystralミキサーを用いて、脂質:タンパク質比率が1:1になるように組換え産生したApo A−IMの溶液48.10gにジミリスチルホスファチジルコリン(DMPC)0.72gを添加した。予備混合は窒素雰囲気下、60℃、2000rpmで3分間実施し、その後Rannieホモジナイザーにおいて同一温度、560バールで7分間均質化した。こうして製造した脂質−タンパク質粒子を30℃未満に冷却した。ディスク形コンプレックスの流体力学的半径は、Malvern 4700動的光散乱装置により15.1nm(z平均)であると測定された。
【0080】
本発明のタンパク質−脂質コンプレックスの還元タンパク質の逆相クロマトグラフィー分析(HyTach分析)により、上記した方法でのタンパク質の一体性が維持されたことが立証される。よって、酸化されたタンパク質のレベルはメタノールの定量レベル(0〜3%)以下であり、修飾タンパク質の総レベルはタンパク質の対照サンプルの8%に比較して12%である。
【0081】
実施例7
本実施例は、タンパク質r−Apo A−IMを含む大豆油の水中エマルション組成物の高剪断デバイスを用いる製造を含む。この組成物を、タンパク質を添加せずに調製した対照エマルション及び同じタンパク質とインキュベートしたエマルションと比較した。
【0082】
製造
r−ApoA−IMを含有する試験エマルション(20%大豆油及び1.2%卵リン脂質)及びタンパク質を含まない対応対照エマルションを2ステップで製造した。まず、大豆油60g及び精製卵リン脂質3.6gを蒸留水113gに分散し、その後1N NaOH溶液を少量添加しながらRannieホモジナイザー(7.30 VHタイプ)において60℃で粗く均質化して、濃厚な粗エマルションを調製した。粗エマルションを2つの部分に分割し、その1方は60℃で保持した。他方(92.7g)には、蒸留水62.1gを添加し、エマルションを同じRannieホモジナイザーにおいて60℃、800バールにおいて6分間均質化した。生じた対照エマルション(A)を室温に冷却し、20mlバイアルに分配した。
【0083】
上記した粗エマルションの第1部分をホモジナイザーに再導入し、r−Apo A−IMの蒸留水中溶液(22.5mg/ml)62.2gを添加した。このエマルションをRannieホモジナイザーにおいて60℃、800バールにおいて6分間均質化した。生じた試験エマルション(B)を室温で冷却し、20mlバイアルに分配した。
【0084】
同様のインキュベーション実験で、Intralipid 20%を上記の(r−ApoA−IM 22.5g/ml含有)r−ApoA−IM溶液2gと室温で穏やかに混合して、Intralipid 20%及びr−ApoA−IMのインキュベーションサンプル(組成物C)を製造した。タンパク質溶液の代わりに蒸留水を用いて対照組成物(D)を同様に製造した。
【0085】
評価
組成物A、B及びCの平均粒径及び粒子電荷を、MALVERN Zeta sizer 4を用いて2mM TAP緩衝液(pH8.4)に希釈したサンプルを用いて直ちに評価した。B組成物については、組成物を55℃で60時間貯蔵後にも評価した(B,インキュベート)。C及びD組成物は25℃で20時間、55℃で更に60時間貯蔵した。組成物A及びBの別々のバイアルを室温で66時間振盪して振盪安定性を評価した。
【0086】
結果
組成物A及びBのエマルション(組成物Bについてはインキュベーションの前及び後)の結果を図6(粒径)及び図7(粒子の表面電荷)に示す。
【0087】
組成物C及びDの場合、インキュベーション期間の間に粒径の変化はなかった。インキュベーション期間の間、組成物Cの粒子電荷は8mV増大し、対照(D)では4mV増大した。このことから、インキュベーション中にr−ApoA−IMがエマルション粒子に吸収されることが明らかに示される。しかしながら、吸収過程は非常にゆっくりであり、高温を必要とする。
【0088】
組成物Bの場合、対照組成物A(247.5nm)に比較して粒径が大きく減少するが(180.9nm)、その後のインキュベーションステップ中に粒径は変化しない。同様に、均質化でエマルションの粒子電荷に大きな差があるが(試験組成物Bでは48.5mV、組成物Aでは38.1mV)、電荷はその後のインキュベーションステップの間61.7mVに増加し続ける。
【0089】
これらのデータは、組換え産生したApoA−IMが均質化の間かなりエマルション粒子に吸収し、相互作用することを示す。これによりエマルション液滴の電荷が影響を受け、タンパク質は乳化剤として作用し、エマルション液滴は高い表面湾曲を有するようになり、よってより小さい平均粒径となる。その後の55℃のインキュベーションの間、粒子電荷が連続的に増加することから、タンパク質がエマルション粒子の表面に連続的に吸収することが示される。タンパク質を同様のエマルションとインキュベートした実験では、粒径は長いインキュベーション期間中本質的に未変化であり、インキュベーション中に粒子電荷がより小さく変化する点で相互作用はかなり異なる。
【0090】
組成物A及びBの振盪テストにより、組成物Bにおいてエマルション液滴にタンパク質がより多く吸収することが更に示される。振盪期間後(66時間)、組成物Aではエマルションの表面上に大きな油滴及びガラス表面上に大量の油が示されるのに対して、組成物Bでは油は本質的に目に見えなかった。この差は、(上記したような)エマルション液滴上のより高い電荷によるタンパク質含有エマルションの安定化から説明づけられる。
【0091】
上記した実験から、成分間の相互作用が高剪断デバイスを使用することにより、またその後のインキュベーション期間により促進されるとき、部分的に疎水性のタンパク質がエマルション粒子が効率的に結合することが立証される。
【0092】
分析評価方法
製造した組換えリポタンパク質A−IM/リン脂質のサイズ分布及び相対量を、Novaxゲル上でアクリルアミドの4〜20%直線勾配で非変性ポリアクリルアミド勾配ゲル電気泳動(n−PAGE)により分離後デンシトメータ評価により推定した。分離はサイズに基づき、サイズ分布は各ゲルで実施したサンプルと公知のストーク直径を有する球状タンパク質との比較により推定する。電気泳動後、タンパク質部分をクーマシーブリリアントブルーで染色して可視化する。染色したゲルをデンシトメータで走査後、ゲルイメージをImageMasterソフトウェアにより処理し、評価する。タンパク質染色バンドの見かけサイズ及び相対量を計算する。
【0093】
アポリポタンパク質A−IMの同一性テストのためのペプチドマッピングでは、エンドプロテインナーゼLys−C消化酵素による断片化及び内径2.1mmのZorbax SB−C8カラムを用いる逆相HPLCによる分析で実施した。ペプチド断片を分離し、220nmでのUV検出により検出する。サンプルペプチドを標準物質消化物と比較する。この方法で、酸化形態、切欠き形態及び未知の新しいピークが認められる。この分離方法は、3%アセトニトリルから約38%への段階勾配を用いるpH2の逆相クロマトグラフィーに基づく。90分間の分析中、内径2.1mmのZorbax Stapleboundカラムを0.21mmの流速で使用した。
【0094】
組換えアポリポタンパク質A−IMの定量測定及び純度は、HyTachカラムを用いて逆相HPLCで実施した。この方法の目的は、i)組換えアポリポタンパク質A−IM(r−ApoA−IM)のモノマー形態とタンパク質の修飾モノマー形態、及びii)タンパク質の無傷のダイマー形態と修飾ダイマー形態を区別することにある。タンパク質の無傷形態と修飾形態の区別化は、ダイマー形態が存在しないことを確認するためにまずタンパク質をメルカプトエタノールで還元することにより実施し得る。r−ApoA−IMサンプルの不純物含量は、勾配間隔で見られる総ピーク域の未知ピークを含めた変化したモノマー形態の面積%として表す。無傷のr−ApoA−IMダイマーとダイマー変異体とを区別化するためには還元方法を省略する。ダイマー形態をモノマー形態から分離し、こうして存在するすべてのr−ApoA−IM形態が分析で測定される。分離方法の逆相クロマトグラフィーは主に分子の疎水性の差に従って分離する。これは、切欠き形態及び分解形態を無傷のタンパク質から分離するのに有用である。(タンパク質を還元後の)無傷のr−ApoA−IMモノマの定量は、無傷モノマーのみに相当するピークに基づいて行う。濃度は、4つのレベルでr−ApoA−IM対照物質を用いて検量線を作成して測定する。分離は2μmの非孔質C18修飾シリカ粒子を用いて実施する。移動相は水−イソプロピルアルコール混合物中の0.25%トリフルオロ酢酸から構成する。タンパク質を有機溶媒を52%から62%に増加させる勾配で溶出させる。
【0095】
r−ApoA−IMのIEF分析を、固定化直線pH勾配でポリアクリルアミドゲルのゲルImmobiline DryPlate4−7で実施した。タンパク質を等電点(pI)に従って、すなわち分子内の正味電荷がゼロの場合にpH勾配で電気泳動により分離する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 リン脂質と均質化する前の突然変異体アポリポタンパク質A−IMilanoのペプチドマップを示す。
【図2】 リン脂質と高圧均質化した後の突然変異体アポリポタンパク質A−IMilanoのペプチドマップを示す。
【図3】 リン脂質と均質化する前の還元突然変異体アポリポタンパク質A−IMilanoの逆相クロマトグラム(HyTach)を示す。
【図4】 DPPCと高圧均質化した後の還元突然変異体アポリポタンパク質A−IMilanoの逆相クロマトグラム(HyTach)を示す。
【図5】 脂質と処理し、本発明に従って均質化したアポリポタンパク質A−IMilanoと同じ未処理タンパク質を比較したIEFダイアグラムを示す。
【図6】 対照物質と比較した、20%大豆エマルション及びアポリポタンパク質A−I Milano を含むインキュベート混合物のゼータ粒径を示す。
【図7】 対照物質と比較した、アポリポタンパク質A−I Milano を含む20%大豆エマルションのゼータ電位を示す。

Claims (36)

  1. 脂質剤及びタンパク質を含む脂質粒子の組成物の製造方法であって、前記方法が
    (i)タンパク質調製物及び脂質剤を均質化ステーションに導入し、
    (ii)生じたタンパク質と脂質剤の流体混合物を高圧均質化にかけ、
    (iii)こうして形成された脂質粒子の組成物を収集する
    ことを含み、且つ前記タンパク質がアポリポタンパク質であることを特徴とする前記方法。
  2. 均質化する前に、タンパク質調製物及び脂質剤を混合して均質な流体混合物にすることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
  3. タンパク質調製物がタンパク質の水溶液であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の方法。
  4. 高圧均質化を200バール以上〜2000バール以下の圧力で実施することを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の方法。
  5. 高圧均質化を600〜1200バールの圧力で実施することを特徴とする請求の範囲第4項に記載の方法。
  6. 均質化を中間インキュベーション期間を設けて少なくとも2回連続して実施することを特徴とする請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の方法。
  7. 均質化後であって脂質粒子の収集前に、インキュベーション期間を設けることを特徴とする請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載の方法。
  8. 脂質剤の少なくとも一部が、均質化前に、タンパク質調製物と分散液を与える固体形態をとり得ることを特徴とする請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の方法。
  9. 脂質剤が両親媒性化合物を含むことを特徴とする請求の範囲第1項〜第8項のいずれかに記載の方法。
  10. 脂質剤がリン脂質からなることを特徴とする請求の範囲第9項に記載の方法。
  11. リン脂質が規定された脂肪酸組成を有する天然または合成起源のホスファチジルコリンからなることを特徴とする請求の範囲第10項に記載の方法。
  12. ホスファチジルコリンが、卵黄または大豆ホスファチジルコリン或いは炭素数14〜18の脂肪酸のアシル基を有するホスファチジルコリンから選択されることを特徴とする請求の範囲第11項に記載の方法。
  13. ホスファチジルコリンがジパルミトイルホスファチジルコリンであることを特徴とする請求の範囲第12項に記載の方法。
  14. 脂質剤が両親媒性化合物以外に更に少なくとも1つの非極性脂質を含むことを特徴とする請求の範囲第9項〜第13項のいずれかに記載の方法。
  15. 非極性脂質がその非極性誘導体を含めてグリセリルエステル、アルキルエステル及びコレステロールの中から選択されることを特徴とする請求の範囲第14項に記載の方法。
  16. 脂質剤:タンパク質の量が1:100〜10:1(w/w)であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第15項のいずれかに記載の方法。
  17. 脂質剤:タンパク質の量が1:4〜4:1であることを特徴とする請求の範囲第16項に記載の方法。
  18. 脂質剤が水性媒体中の脂質分散液であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の方法。
  19. 脂質の分散液が水中油型エマルションであることを特徴とする請求の範囲第18項に記載の方法。
  20. エマルションが1〜50%(w/w)の油相及び0.5〜10%(w/w)のリン脂質乳化剤を含むことを特徴とする請求の範囲第19項に記載の方法。
  21. 油相が非経口投与に適したトリグリセリド油または脂肪酸のアルキルエステルを含むことを特徴とする請求の範囲第20項に記載の方法。
  22. 1μm未満の平均粒径を有する脂質粒子が得られることを特徴とする請求の範囲第19項〜第21項のいずれかに記載の方法。
  23. 得られる脂質粒子が0.1〜0.5μmの範囲の平均粒径を有することを特徴とする請求の範囲第22項に記載の方法。
  24. 脂質剤:タンパク質の量が500:1〜10:1(w/w)であることを特徴とする請求の範囲第18項〜第24項のいずれかに記載の方法。
  25. 治療有効物質を脂質粒子中に溶解または分散させることを特徴とする請求の範囲第18項〜第24項のいずれかに記載の方法。
  26. ポリオール、モノサッカライド、ジサッカライド、ポリサッカライド及びアミノ酸から選択される追加物質をタンパク質と脂質の混合物に添加することを特徴とする請求の範囲第1項〜第25項のいずれかに記載の方法。
  27. タンパク質が脂質剤と疎水性相互作用し得ることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
  28. タンパク質が少なくとも部分的に親油性であることを特徴とする請求の範囲第27項に記載の方法。
  29. タンパク質が膜タンパク質及びリポタンパク質、またはその活性断片から選択されることを特徴とする請求の範囲第28項に記載の方法。
  30. タンパク質が脂質剤と疎水性相互作用し得るα−ヘリックスドメインを有することを特徴とする請求の範囲第27項に記載の方法。
  31. タンパク質が生物活性であり且つその生物学的活性を損失させずに高剪断力にさらされ得ることを特徴とする請求の範囲第1項〜第30項のいずれかに記載の方法。
  32. タンパク質が生じた脂質粒子に対して安定化効果を発揮することを特徴とする請求の範囲第1項〜第7項または第18項〜第31項のいずれかに記載の方法。
  33. タンパク質が天然または合成変異体を含めたアポリポタンパク質AまたはEからなるアポリポタンパク質類の群から選択されることを特徴とする請求の範囲第項に記載の方法。
  34. 請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の損失なしに機械的エネルギーにさらされ得る少なくとも部分的に親油性のタンパク質を含有する脂質粒子の組成物の製造方法であって、前記した脂質粒子の組成物を精製及び濃縮して医薬的に許容され得る組成物とすることを特徴とする前記方法。
  35. 形成された組成物を凍結乾燥して最終の医薬品とすることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の方法。
  36. 請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の方法により得られる脂質及び生物活性タンパク質の組成物であって、タンパク質が酸化または脱アミド化を受けることなくその化学的同一性を本質的に維持していることを特徴とする前記組成物。
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