JP3803947B2 - 銅基焼結軸受材料およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、船舶、一般産業機械などに好適に用いられる銅基軸受材料およびその製造方法に係り、特に、トラック用リーフスプリングブッシュや射出成形機用タイバーブッシュなどのように、過酷な条件で使用される軸受用の銅基軸受材料およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記のような用途のブッシュとしては、従来、鋼製焼入ブッシュ、砲金製ブッシュなどが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記した従来の鋼製焼入れブッシュや砲金製ブッシュは、安価で強度が高いという利点を有する反面、摩擦係数が高く、耐焼付性、耐摩耗性が問題となり、これらの欠点を解決するべく相手軸との摺動部に強制的に潤滑油を供給する強制給油を行って用いているのが実情である。ところで、近年、環境改善や大幅なコストダウンを目的として、上記用途に使用されるブッシュにおいては、無給油ないし含油軸受の使用が望まれている。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、摺動特性(低摩擦抵抗)および耐凝着性に優れ、過酷な使用条件においても使用可能な銅基焼結軸受材料とその製造方法を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、耐摩耗性と耐凝着性が良好な黄銅系焼結合金に着目し、この合金のマトリックスに自己潤滑性に優れた黒鉛を分散させるとともに、硬質粒子としてFeBを分散させたところ、硬質粒子によりマトリックスが強化されて、耐摩耗性が大幅に向上することを見い出した。図1は、97部(75Cu−5Sn−10Zn−5Pb−5黒鉛)−3部FeBの組成とした銅基焼結軸受材料(B:0.65重量%)の組織を示す顕微鏡写真(340倍)であって、この写真に示す材料は、混合粉末を4ton/cm2の圧力で成形し、780℃で30分間焼結して得られたものである。図1に示すように、この材料は、黄銅系のβ相のマトリックス中に、黒鉛(黒色部分)とFeB(灰色部分)粒子が分散した組織を呈している。
【0005】
本発明者等は、マトリックスの強化のためにアルミナ(Al2O3)等のセラミックス粒子を分散させることも検討したが、粒子とマトリックスとの固着強度が弱いために、さほどの効果は見られなかった。本発明者等がアルミナを分散させた黄銅系焼結合金の金属組織を観察するために、合金断面の研磨を行ったところ、アルミナ粒子が合金の断面から多数脱落する現象が認られたことも、アルミナとマトリックスの固着強度の弱さを端的に物語っている。一方、FeBを分散させた場合にはそのような現象はなく、顕微鏡写真でも粒子の脱落は一切認められなかった。FeBがマトリックスに強固に固着する理由は次のように推察される。
【0006】
すなわち、FeBは、Feの結晶格子にBが侵入した六方晶レービス(Laves)相と呼ばれる結晶構造となる。このため、結晶中でのFeBには、結晶格子の主たる部分を構成するFeの特性が大きく現れ、Feと類似の挙動をとるものと考えられる。そして、Feは黄銅に拡散可能であるから、FeB粒子とマトリックスとの間に拡散接合に類する結合状態が生じるものと推察される。ただし、これはあくまでも推定であって、かかる作用の有無により本発明が限定されないことは言うまでもない。
【0007】
本発明者等の検討によれば、硬質粒子はFeBの他に、FeTi,FeMo,FeSi,FeCr,FeAl,FeZrによっても同等の耐摩耗性および耐凝着性を示すことが確認された。これらは、製鋼の際に脱酸剤または脱炭剤として製鋼炉に投入されるフェロアロイであり、純度の高いものが容易に入手可能で価格的にも安定している。特に、FeAlは、結晶構造がαFeと同じ体心立方格子(bcc)であるので、マトリックスに一層強固に固着するものと思われる。
【0008】
本発明は、上記した知見に基づいてなされたもので、重量比でZn:10〜30%、Sn:3〜10%、フェロアロイ1〜10%、黒鉛:3〜10%、残部Cuおよび不可避不純物からなることを特徴としている。以下、上記数値限定の根拠について説明する。ただし、以下の説明において「%」は全て「重量%」を言うものとする。
【0009】
Zn:10〜30%
ZnはCuと固溶体を形成してマトリックスを強化し、合金の耐摩耗性を向上させるとともに、劣化油に対する耐食性を向上させる。Znの含有量は、10%未満であるとそのような効果が不充分となり、30%を超えて含有すると合金が脆化する。
Sn:3〜10%
SnはZnとともにCuと固溶体を形成してマトリックスを強化し、合金の耐摩耗性を向上させる。Snの含有量は、3%未満であるとそのような効果が不充分となり、10%を超えて含有すると合金が脆化する。
【0010】
フェロアロイ:1〜10%
FeBなどのフェロアロイは、マトリックスに固溶することなく分散してマトリックスの耐摩耗性を著しく向上させる。しかしながら、前述のように、アルミナのようにマトリクッス中に単に機械的に介在するだけでは、マトリックスの強化がなされないから、粒子界面における固着性(濡れ性)が重要となる。この点、フェロアロイでは、マトリックスに強固に固着するから、硬質粒子としての特性が発揮されて耐摩耗性を大幅に向上させることができる。フェロアロイの含有量は、1%未満ではその効果が充分ではなく、10%を超えて含有すると合金が脆化する。
【0011】
黒鉛:3〜10%
黒鉛は、マトリックス中に機械的に分散し、固体潤滑剤として作用する。さらに、黒鉛は油との親和性に富み、境界潤滑領域下においてその効果を発揮する。黒鉛の含有量は、3%未満であると潤滑効果が充分ではなく、10%を超えて含有するとマトリックスの強度が低下する。
【0012】
次に、本発明の銅基焼結軸受材料を製造するには、粉末を混合して所定の形状に圧粉成形し、得られた圧粉体を焼結することによって、上記のような組成を有する焼結体を得る。また、鋼製裏金または表面に銅メッキを有する鋼製裏金の表面に、上記のような焼結合金を一体的に設けることによって、強度が補完された銅基焼結軸受材料を得ることができる。具体的には、鋼製裏金または表面に銅メッキを有する鋼製裏金の表面に、混合粉末を散布するか混合粉末から成形した圧粉体を載置し、これら全体を焼結して焼結合金に圧延加工を施せばよい。
【0013】
【発明の実施の形態】
フェロアロイは、FeB,FeTi,FeMo,FeSi,FeCr,FeAl,FeZn,FeZr,FeW,FeNb,FeV,FeNiの1種もしくは2種以上、特に、FeTi,FeMo,FeSi,FeCr,FeAl,FeZrの1種または2種以上を用いることが好適であるが、他のフェロアロイも使用可能である。
【0014】
本発明の銅基焼結軸受材料には、以下の潤滑成分を含有させるとさらに耐凝着性および摺動特性を向上させることができる。
Pb:2〜5%
PbはCuにほとんど固溶せず、マトリックス中に軟質金属として機械的に分散し、耐凝着性の向上に寄与する。Pbの含有量は、2%未満であるとそのような効果が不充分となり、5%を超えて含有すると材料の硬さが低下する。
【0015】
また、MoS2、WS2、BNのいずれか1種または2種以上を合計で3〜7%含有させることによって摺動特性をさらに向上させることができる。特に、MoS2はマトリックス中に分散し、潤滑油と相乗的に働いて摺動特性を向上させるので好適である。ただし、上記潤滑成分の含有量が7%を上回ると材料の強度が低下する。
なお、本発明の銅基焼結軸受材料は、焼結体単独のもの(焼結ソリッド)でも良く、あるいは、鋼製裏金または表面に銅メッキを有する鋼製裏金の表面に、上記のような焼結合金を一体的に設けたもの(焼結バイメタル)であっても良い。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例によりより詳細に説明する。
[実施例1]
各種フェロアロイ粉末および黄銅系原料粉末を混合し、混合粉末を金型内に充填して4ton/cm2の圧力で一辺30mm、厚さ5mmの方形板状の圧粉体を形成した。次に、圧粉体を還元雰囲気中にて780〜800℃で30〜40分間焼結し、これに含油処理を施して複数種類の本発明例の試料No.4〜No.20を作製した。また、フェロアロイ粉末を添加しないで、黄銅系原料粉末または青銅系粉末から上記と同様にして比較例の試料No.1〜No.3を作製した。なお、試料No.3は、後述するように裏金の上に原料粉末を散布して焼結し、圧延加工を施したクラッド材であり、これを焼結バイメタル、他の焼結体のみからなる試料を焼結ソリッドと称して区別する。これら試料の成分を表1に示す。また、各試料の焼結後の密度、硬さ、抗折力(焼結バイメタルNo.3,No.19,No.20を除く)、含油率(焼結バイメタルNo.3を除く)を表2に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
表2から判るように、抗折強度については本発明例と比較例は目立った相違はない。また、含油率も本発明例は比較例と同等以上であるため、含油軸受としての機能を備えていることが判る。一方、硬さは、比較例と較べて本発明例の方が総じて高く、マトリックスがフェロアロイ粒子により強化されていることが判る。そして、この硬さの上昇により、本発明例では、以下に示すように摺動特性と耐摩耗性が著しく向上される。
【0020】
上記焼結ソリッドのうちNo.1,No.5,No.7および焼結バイメタルNo.3を用いてスラスト摩擦試験を実施した。図2は、スラスト摩擦試験の概略を示すもので、焼結ソリッドまたは焼結バイメタルに円筒状の相手試験片を押圧し、相手試験片を回転させて摩擦係数の経時変化と試料の摩耗量(深さ)とを測定するようになっている。本実施例では、相手試験片としてSUS304材を用い、試験の開始前にリチウム系グリースを相手試験片表面に僅かに塗布して、加圧力50kgf/cm2、摩擦速度4m/minの条件で20時間行った。
【0021】
図3に各試料の摩擦係数の経時変化を示を示す。FeBまたはFeTiを含有する本発明例の焼結ソリッドNo.4,5では、摩擦係数が安定して推移するとともに最大でも0.15程度であり、摺動特性が極めて良好であることが判る。これに対して、比較例の焼結ソリッドNo.1と焼結バイメタルNo.3では、摩擦係数が0.2以上もあり、特に、焼結バイメタルNo.3では、試験開始直後と試験終了直前に摩擦係数が急激に立ち上がっており、不安定な推移を示している。また、図4に示した摩耗量を見ても明らかなように、本発明例では摩耗が極めて少ないことが判る。
以上のように、本発明では摺動特性および耐摩耗性が著しく改善され、焼付き等が発生する心配は皆無であることが確認された。
【0022】
[実施例2]
FeB粉末および黄銅系原料粉末を混合し、この混合粉末をCuメッキが施された鋼板上に所定層厚となるように均一に散布し、これを還元雰囲気中にて780〜800℃で10〜30分間焼結した。次に、このようにして得られた焼結板の焼結層を圧延ロールにて緻密化し、さらに二次焼結を行って焼結層の厚さが2.0mm、全体の厚さが3.0mmの表1のNo.4に示す組成を有する焼結バイメタルを作製した。この焼結バイメタルを曲げ加工して内径40mm、外径46mm、長さ30mmの軸受ブッシュを作製した。そして、この軸受ブッシュを用いてジャーナル摩擦試験を行った。
【0023】
図5は、ジャーナル摩擦試験の概略を示すもので、軸受ブッシュに軸を貫通させ、軸受ブッシュに上方へ向かう荷重をかけながら軸を所定時間回転させ、摩擦係数の経時変化と軸受ブッシュの摩耗量(深さ)とを測定するようになっている。本実施例では、加圧力100kgf/cm2、摩擦速度5m/minの条件で100時間行った。このジャーナル摩擦試験においても、摩耗量は極めて僅かであり、摩擦係数は0.05程度で安定していた。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、摺動特性および耐摩耗性に優れるとともに耐凝着性に優れ、過酷な使用条件においても無給油で焼付き等が発生することがなく、たとえばトラック用リーフスプリングブッシュなどの用途にも充分に軸受性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の銅基焼結軸受材料の組織の一例を示す図である。
【図2】 スラスト摩擦試験の概要を示す図である。
【図3】 スラスト摩擦試験における摩擦係数の推移を示す線図である。
【図4】 スラスト摩擦試験における摩擦量を示す線図である。
【図5】 ジャーナル摩擦試験の概要を示す図である。
Claims (8)
- 重量比でZn:10〜30%、Sn:3〜10%、フェロアロイ1〜10%、黒鉛:3〜10%、残部Cuおよび不可避不純物からなることを特徴とする銅基焼結軸受材料。
- 前記フェロアロイは、FeB,FeTi,FeMo,FeSi,FeCr,FeAl,FeZn,FeZr,FeW,FeNb,FeV,FeNiの1種もしくは2種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の銅基焼結軸受材料。
- Pbを2〜5重量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の銅基焼結軸受材料。
- MoS2,WS2,BNの1種もしくは2種以上を3〜7重量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅基焼結軸受材料。
- 鋼製裏金の表面に、請求項1〜4に記載の焼結合金を一体的に設けたことを特徴とする銅基焼結軸受材料。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の焼結合金を摺動部材として有する銅基焼結軸受材料の製造方法であって、粉末を混合して所定の形状に圧粉成形し、得られた圧粉体を焼結することを特徴とする銅基軸受材料の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の焼結合金を摺動材部材として有する銅基焼結軸受材料の製造方法であって、鋼製裏金の表面に、混合粉末を散布して全体を焼結し、次いで、焼結合金に圧延加工を施すことを特徴とする銅基軸受材料の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の焼結合金を摺動材部材として有する銅基焼結軸受材料の製造方法であって、鋼製裏金の表面に、混合粉末から成形した圧粉体を載置し、これら全体を焼結することを特徴とする銅基軸受材料の製造方法。
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