JP3799872B2 - 羽口設定方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、コークス等の炭素系固体還元材を充填する炭素系固体還元材充填層型炉に少なくとも上下二段の羽口を設け、上段の羽口から粉粒状の装入原料を装入して操業を行う炉の羽口数を設定する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
このような上下二段の羽口を設ける炭素系固体還元材充填層型炉としては、例えばクロム鋼を効率よく溶融するために開発された炉等を適用することができる。つまり、上段の羽口だけでは溶融に十分な熱量が得られないときに、下段の羽口から熱量を補い、その間に十分に溶融させるように構成されたものである。
【0003】
このような炉の羽口数を設定する方法としては、例えば本出願人が先に提案した特開平6−330126号公報に記載されるものがある。この羽口設定方法では、隣合うレースウエイの間隔が300mm以上となるように、操業条件を設定するとしている。これは、隣合うレースウエイの間隔が300mm未満になると、両者が互いに連結してしまう恐れがあり、そのようになるとレースウエイ内で行われる溶融還元反応が安定しなくなるという理論に基づいている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
通常、所定の吹込み量に対して、製錬に必要な熱量が決まり、全ての羽口に供給する吹込みガス量が決定する。このとき、ガスを吹込む羽口数が増加すると、各羽口から吹込まれるガス量が減少し、レースウエイが小さくなる。前記従来の羽口設定方法のようにレースウエイの間隔を広げる目的だけで羽口数を設定することは、レースウエイを小さくすることでも可能であり、そのようにするためには羽口数を増加することになる。
【0005】
一方、炭素系固体還元材を充填する炉において、羽口に吹込むガス量を減少することは、同時に還元能力を低減することにもなる。即ち、上下二段の羽口から吹込みガスを吹込むのは、当該上下二段の羽口前のレースウエイ間で十分な熱量を与えて還元を行うことでもあり、これにより例えば還元された鉄分が溶融滴下して炉床部に溜まるのである。前述のように上段羽口に装入される粉粒状装入原料中の鉄分は殆どが酸化物であり、還元されない状態の酸化鉄はスラグ中に留まり、回収されない。つまり、羽口数をむやみに増加することは、還元能力を低減し、銑鉄の回収率,即ち生産能力を低減させることにもつながる。
【0006】
本発明は前記諸問題を解決すべく開発されたものであり、還元能力を向上し、亜鉛等の高揮発性金属の十分な分離回収や、銑鉄の生産性向上をも可能とする羽口設定方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記諸問題を解決するため、本発明のうち請求項1に係る羽口設定方法は、少なくとも上下段に二段の羽口を有し且つ少なくとも上段の羽口から粉粒状装入原料を装入し且つ炭素系固体還元材を充填する炭素系固体還元材充填層型炉の羽口設定方法であって、上段羽口のレースウエイの横断面を底とし且つ上下段羽口間の距離を高さとする円柱を製錬領域とみなし、全ての羽口の製錬領域内の炭素系固体還元材の単位表面積当たりの原料吹込み量及びスラグ中酸化鉄濃度から、要求する製錬能力を達成する羽口数及び上下羽口間隔を設定することを特徴とするものである。
【0008】
本発明者等は、特に亜鉛を含む電炉ダストから亜鉛と鉄とを完全分離して回収する点に着目し、具体的に発生する諸問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。このとき、前述のような問題が発生し、それを解決できるのは羽口数の設定次第であることを見出した。つまり、供給される吹込みガスの総量が決まっているとき、羽口数を増加すれば各羽口からの吹込みガス量は減少し、レースウエイは小さくなる。この関係は一意である。
【0009】
一方、還元能力は、上下段の羽口前のレースウエイ間の製錬領域で決定されることが分かった。即ち、例えば上段羽口前のレースウエイで溶融した酸化鉄は、下段羽口前のレースウエイまで滴下する間に、当該下段羽口前のレースウエイからの熱量を受け、その間のコークス等の炭素系固体還元材に接触することで還元されて銑鉄となる。従って、この間の還元能力とは、レースウエイの横断面を底とし且つ上下段羽口間の距離を高さとする円柱を想定し、その間の炭素系固体還元材の総表面積に接触可能な原料吹込み量を規定すればよい。但し、この円柱は、単に羽口数によって決まるレースウエイの横断面積に加えて、上下段羽口間の距離というパラメータが入っているので、例えば上下段羽口間の距離,つまり円柱の高さが異なる場合には、各高さ毎に評価しなければならないが、その高さの条件毎に、当該円柱内の炭素系固体還元材の単位表面積当たりの原料吹込み量を評価すれば、その高さにおける還元能力を評価することができる。なお、炭素系固体還元材の単位表面積とは、コークス等の炭素系固体還元剤の単位容積当たりの平均表面積を表す。
【0010】
また、本発明のうち請求項2に係る羽口設定方法は、前記請求項1の発明において、前記全ての羽口の製錬領域内の炭素系固体還元材の単位面積当たりの原料吹込み量を0.0002t/h/m2 以下として羽口数及び上下羽口間隔を設定することを特徴とするものである。
【0011】
この発明は、例えば前記請求項1に係る発明で、亜鉛と鉄を含む電炉ダストを処理するときに、炉頂部からの排ガスから亜鉛を分離回収し且つ十分な銑鉄の生産能力を確保するために必要な数値を規定したものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の炉の操業方法を適用した竪型溶融還元炉(以下、単に竪型炉と記す)である。この竪型炉1内には、コークス等の固体還元材2が充填されており、全体として固体還元材充填層型溶融還元炉を構成する。この竪型炉1には、少なくとも上下二段の羽口3,4が設けられている。このように上下二段に羽口3,4を設ける竪型炉1としては、例えばクロム鉱石を効率よく溶融するために開発された炉等を適用することができる。つまり、上段の羽口3だけでは溶融還元に十分な熱量が得られないときに、下段の羽口4から熱量を補い、その間に十分に溶融還元させるように構成されたものである。なお、羽口3,4の数は、例えば必要な製錬能力を達成する還元能力及び溶融能力から設定すればよく、それは各羽口前のレースウエイの深さ,或いは横断面積に応じて決定される。
【0013】
これらの羽口3,4には、送風機5から熱風発生炉6を通して、熱風や、それに酸素を富化したものが吹込みガスとして用いられる。これは、炉内の固体還元材2を燃焼し、その燃焼熱を原料の溶融、燃焼、蒸発、還元等に利用するために、酸素が必要であるためであり、また吹込みガスを加熱する場合には、炉内への入熱の形態として吹込みガスの持つ顕熱を利用できるためでもある。
【0014】
一方、上段の羽口3には、原料吹込み装置7から原料が吹込まれる。この上段の羽口3から吹込まれる原料は、原則的に粉粒状のものに限定され、吹込み直後に溶融、燃焼、還元、蒸発する。この原料のうち、溶融した鉄等の低揮発性金属の酸化物や水酸化物は、固体還元材の充填層を滴下する過程で還元され、炉床部に溜まる。また、蒸発する亜鉛等の高揮発性金属の蒸気は、固体還元材2の隙間を通って炉頂部に上昇し、後述のように炉内ガスと共に排出される。
【0015】
亜鉛含有ダストである電炉ダスト等の粉粒状原料は、原則的に上段の羽口3から吹込まれる。粉粒状の原料は軽いので、それを炉頂部から装入すると、炉内の上昇気流によって、例えば前述のように低揮発性金属が十分に溶融して固体還元材2の充填層内を滴下する以前に吹き飛ばされ、そのまま炉頂部から排出されてしまうため、それを抑制防止するために上段の羽口3から粉粒状原料を吹込むのである。つまり、粉粒状原料は、吹込まれる上段の羽口3前のレースウエイ内で即座に溶融しなければならない。
【0016】
これに対して、塊状原料は重量が大きいので、炉内の上昇気流を受けても吹き飛ばない。また、この種の塊状原料は、前述のように羽口前で瞬時に溶融する必要がないので、炉頂装入装置8により原則として炉頂から装入する。また、後述のように、本実施形態では、炉頂部の温度を高温に維持する必要があるのに対して、塊状原料を一度に多量に装入すると、炉頂部の温度が下がり過ぎてしまう恐れがあるため、塊状原料は原則として連続的に装入し、炉頂部の温度が下がらないようにする。具体的には、炉頂からの装入管方式で連続的に装入するのがよい。勿論、塊状原料を一度に多量に装入しても、十分な熱量が得られ、炉頂部温度を高く維持できればよいが、そのようにすると燃料の原単位が増加するので回避したい。また、塊状原料を粉砕して粉粒状にしたときには、上段の羽口3から吹込むべきである。
【0017】
また、本実施形態では、炉頂部の温度を高く維持するために、当該炉頂部の空間に二次燃焼ガスを供給し、意図的に炉頂部内で燃焼させている。また、この炉頂部から排ガスを排出するダクト内にも二次燃焼ガスを供給してダクト内でも燃焼させている。但し、二次燃焼ガスを燃焼させると二酸化炭素が発生する。本実施形態では、炉頂部を含み、当該炉頂部から排ガス冷却・清浄装置までの間のダクト内における酸素ポテンシャルを温度に応じて小さくする必要があり、そのためにはガス温度と組成を測定して、二次燃焼ガスの供給量を厳しく管理する必要がある。
【0018】
このようにして炉頂部から排出された排ガスは排ガス冷却・清浄装置9内に送り込まれる。この排ガス冷却・清浄装置9は、具体的に湿式冷却装置、つまり排ガス中に液体を散布して、排ガス温度を低下させると共に、蒸気の状態にある物質を冷却固化し、液体と一緒に滴下・沈殿させ、それをスラリーとして分離回収できるようにすると共に、液化或いは固化しない気体は気体のまま採取するためのものである。本実施形態では、後述のように排ガス中から亜鉛等の高揮発性金属を固化して分離回収すると共に、排出される排ガスを、一酸化炭素ガスを含む高カロリーの燃料ガスとして得る。また、このように高温の排ガスを急速に冷却することにより、原料中に含まれる有害物質であるダイオキシンの再合成を防止することもできるのである。
【0019】
次に、前述のような固体還元材充填層型溶融還元炉で、主として低揮発性金属である鉄の酸化物や水酸化物と高揮発性金属である亜鉛の酸化物や水酸化物とを含む亜鉛含有ダストとして電炉ダスト等の粉粒物を装入原料とし、それを鉄分と亜鉛とに分離回収し、同時に高カロリー燃料ガスを採取するための条件について説明する。
【0020】
近年、自動車用表面処理鋼板等のように亜鉛を含む鉄スクラップの発生量が増加している。この鉄スクラップを主原料とする電炉等では、亜鉛と鉄とを主成分とするダストが発生する。このダストは、現在、回収コストが高いことから、集塵後、無害化処理されてから埋め立て投棄されている。
しかしながら、前記電炉ダストに含まれる亜鉛の含有率は20〜30%であり、同量の鉄分も含まれている。それらの形態は、酸化物であったり、水酸化物であったりするが、ダストそのものの発生量は製鋼トンあたり15キログラムと多く、低コストで且つ廃棄物なく、夫々を完全分離した状態で回収する技術が求められている。
【0021】
ここで、原料の組成の一例を表1に示す。表から明らかなように、鉄分と亜鉛とをかなりの割合で含み、その他に酸化カルシウム、シリカ、アルミナ等を含んでいる。
【0022】
【表1】
【0023】
次に、操業条件を表2に示す。ここでは、酸素富化した熱風を羽口から吹き込むものとし、粉粒状装入原料も羽口から吹き込むものとする。
【0024】
【表2】
【0025】
前述のように粉粒状装入原料は、羽口(少なくとも二段の羽口を有する場合は上段羽口)から吹込まれる。若し、この羽口前温度が低いと、溶融滴下して分離回収しようとする鉄分が十分に溶融しないうちに、炉内の上昇気流によって吹き飛ばされ、炉頂部から排出され、前記排ガス冷却・清浄装置で取り出される。つまり、亜鉛だけを分離回収したい排ガス冷却・清浄装置内のスラリーに鉄分が混入してしまうことになる。これには、羽口前温度,特に粉粒状原料を吹込む吹込み羽口前温度が大いに関与していることが分かった。そこで、吹込み羽口前温度と、排ガス冷却・清浄装置内のスラリーに含まれている鉄分濃度(図では固形分中鉄分濃度)との関係を図2に示す。
【0026】
同図から明らかなように、スラリー中に含まれている鉄分濃度は、吹込み羽口前温度が1500℃以上の領域では小さくなる。つまり、羽口前温度を1500℃以上に設定すれば、粉粒状装入物中の鉄分は、当該羽口前で即座に溶融し、滴下するため、炉内の上昇気流によって吹き飛ばされる割合は少ないと考えられる。また、吹込み羽口前温度を1700℃以上とすることにより、更に溶融を促進することができる。そして、このように溶融してしまえば、当該溶融鉄分は、固体還元材層を滴下し、その間に還元されて炉床部に溜まる。従って、それを取り出せば、純度の高い鉄を分離回収できることになる。
【0027】
一方、気体の亜鉛と二酸化炭素とが反応すると固体の酸化亜鉛と一酸化炭素とが生成される。この反応は可逆反応であり、温度が低いほど、或いは酸素ポテンシャルが大きいほど、固体の酸化亜鉛が生成され易い。炉内及び炉頂部から排ガスダクトにかけての温度が低かったり、或いは酸素ポテンシャルが大きかったりすると、固体の酸化亜鉛が前記排ガス冷却・製造装置まで到達できずに炉壁やダクト壁に付着し、その付着量が著しく多くなると、ダクトや炉内を閉塞して、操業が継続できなくなる恐れもある。
【0028】
前記反応を司る要因は温度と酸素ポテンシャルである。酸素ポテンシャルは、雰囲気の酸化性の度合いを示す指標であり、炉頂部の雰囲気が殆ど二酸化炭素と一酸化炭素のみであることから、具体的にCO+1/2O2 =CO2 の反応の自由エネルギー変化
ΔG°=−67150+20.37(T+273)(cal)
から求められる下記1式で定義した。そして、この酸素ポテンシャルと炉頂部との温度の関係を、前記反応に必要な反応熱に置換して調べてみると、図3に示す一本の曲線(実質的には直線)が得られ、これより酸素ポテンシャルが小さいか、或いは温度が高い領域では気体の亜鉛が安定している。つまり、図中の曲線より左下方の領域では気体の亜鉛状態が維持できるのである。この領域は、下記2式で与えられる。
【0029】
log(Po2)=2log(Pco2/Pco)− 29386/(T+273)+8.914 ……… (1)
log(Po2)≦−48138/(T+273)+25.35 ……… (2)
但し、
T :炉内或いは炉頂部の雰囲気温度(℃)
Po2:酸素ポテンシャル(atm)
この条件に、更に亜鉛が気体で安定する温度条件として、炉頂部の雰囲気温度を730℃以上とした。更に二次燃焼を行う前の炉頂部でのガス温度T(℃)、酸素ポテンシャルがPo2(atm)が下記3式で囲まれた領域にあるのが望ましい。その理由としては、炉頂の装入面に近い部分でも酸化亜鉛の付着が減少するとか、炉内での酸化亜鉛の付着がなくなるとか、二次燃焼を行う必要がなくなるためであり、二次燃焼を行う場合にあっても、過剰に高温の燃焼ガスを生じることがなく、また酸素ポテンシャルを過剰に小さくする必要がないためである。
【0030】
T≧730℃
log(Po2)≦−29386/(T+273)+6.51 ……… (3)
これらの条件を満足しながら操業すると、炉頂部から排ガスダクトにかけて酸化亜鉛が付着することなく、前述のように亜鉛と鉄分との分離回収が可能であり、同時に高カロリー燃料ガスを採取することもできる。一方、この条件から外れると、凡そ1週間から2週間で炉壁に付着する酸化亜鉛が炉内を閉塞し、操業を継続できなくなった。なお、これらの条件を操作するには、羽口からの送風量や富化酸素量、原料吹込み速度の調整によるコークス比の変更、炉頂部やダクトでの二次燃焼の実施及び二次燃焼ガスの調整を主な手段とした。
【0031】
次に、前述の条件を満足して、十分な鉄の溶融還元と亜鉛の分離回収とを達成するための羽口の設定方法について検討した。つまり、羽口からの吹込みガスの総吹込み量が確定しているときには、羽口数を増すほど各羽口からの吹込みガス量が減少し、レースウエイ内での発生熱量が低下するはずだからである。
ここで、例えば羽口前のレースウエイの形状を、図4に示すような円型であるとみなし、当該レースウエイの横断面の面積をSr とし、その深さ,つまりレースウエイの直径をDr とすると、当該横断面積Sr は下記5式で表される。
【0032】
Sr =π・Dr 2 /4(m2 ) ……… (5)
一方、前記レースウエイの深さ(直径)Dr は、周知の下記6式で表れる。
Dr =0.375 ・(ρg /(φ・ε3 ・ρp )0.5 ・U0 ・Dt /(g・Dp )0.5 (m) ……… (6)
但し、
φ :形状係数(−)
ε :空隙率(−)
ρg :吹込みガス密度(kg/m3 )
ρp :コークス見かけ密度(kg/m3 )
Dp :コークス装入径(m)
U0 :羽口前ガス速度(m/s)
Dt :羽口内径(m)
であり、更に羽口前ガス速度U0 は、羽口数nを用いて下記7式で表れる。
【0033】
U0 =(Bv +Eo2)/n×(Bt +273)/273 ×1.033 /(Bp +1.033)×4/(π・Dt 2 )……… (7)
但し、
Bv :送風量(Nm3 /s)
Eo2:富化酸素量(Nm3 /s)
Bt :送風温度(℃)
Bp :羽口内圧力(kg/cm2 G)
である。つまり、羽口数nが増加すれば羽口前ガス速度U0 が減少し、同時にレースウエイの横断面積Sr も減少する。
【0034】
一方、前記図4に示すように、上段羽口前のレースウエイで溶融された酸化鉄は、下段羽口前のレースウエイまでの間に加熱され且つ炭素系固体還元材に接触することで還元され、銑鉄として炉床部に溜まる。つまり、この領域が製錬領域であると言える。若し、この製錬領域の還元能力が十分でなければ、酸化鉄はスラグに留まり、相対的に製錬能力は低減する。この製錬領域の還元能力は、当該製錬領域中の炭素系固体還元材の総表面積で決まる。そこで、この製錬領域を前記レースウエイの横断面積を底とする円柱とみなし、その容積内に存在する炭素系固体還元材の総表面積とスラグ中から回収される酸化鉄の濃度との関係を調査する。この製錬領域における炭素系固体還元材の総表面積は、単位容積当たりの炭素系固体還元剤(コークス)表面積a及び上下段羽口間距離(高さ)H、羽口組数nを用いて、Sr ・H・a・nで表れる。但し、ここでも、評価したいのは、前記円柱状の製錬領域全体の溶融能力ではなく、製錬領域内のコークス単位表面積当たりの還元能力である。つまり、ここで設定しようとしているのは、要求される製錬能力を達成するための総還元能力であり、そのためにはレースウエイの横断面積が必要であり、それは羽口数によって変化するのであるから、要求される製錬能力を円柱の各高さ,つまり上下段羽口間の距離毎に、製錬領域内のコークス単位表面積当たりの還元能力で除せばレースウエイの横断面積が得られ、それを基に羽口数を設定することができる。従って、総原料吹込み量Wd (t/日)を前記製錬領域内のコークス総表面積Sr ・H・a・nで除した製錬領域内コークス単位表面積当たりの原料吹込み量Wd /(Sr ・H・a・n)と前記スラグ中酸化鉄濃度(%)との関係を図5に示す。同図から明らかなように、製錬領域内コークス単位表面積当たりの原料吹込み量Wd /(Sr ・H・a・n)が0.0002t/h/m2 以下の領域では、スラグ品中の鉄濃度は1.5%以下である。つまり、この領域では、溶融した酸化鉄はほぼ完全に還元されており、レースウエイを含む製錬領域には十分な還元能力がある。
【0035】
次に、前述のようにWd /(Sr ・H・a・n)=0.0002t/h/m2 から設定した製錬領域の還元能力と羽口数(図では羽口組数,上下段の羽口の組を示し、実質的に羽口数と同じ))との関係を表したのが図6である。なお、上下段の羽口間の距離Hは、2.0mと2.5mとの二種類、羽口内径は0.08mで考える。図より、1日の要求製錬能力が35tである場合には、上下段羽口間隔2.0mで羽口組数1に設定される。
【0036】
ここで、羽口内径の考え方について示す。前記6式から分かるように、レースウエイを大きくして還元能力を増すためには、羽口内径を小さくしてガス速度を増すことが有効であると考えられる。しかしながら、ガス速度をむやみに大きくするとコークスの受ける衝撃が大きくなり、コークス粉の発生が増大することが知られている。コークス充填層においては、粉の発生は、通気・通液性の低下、操業の悪化を引き起こすため極力避けなければならない。通常のコークスを使用した場合、コークス粉発生量の増大を抑えるためには、羽口風速を200m/s以下にするのが安全である。
【0037】
更に、上段羽口からは原料を吹込むためのランスを挿入する必要があり、そのために少なくとも0.08mの内径は必要である。
本実施例において、羽口内径と羽口風速との関係を求めたものを図7に示す。この場合には、羽口1組でも、内径0.08m以上では羽口風速が200m/sを超えることはなく、羽口内径として0.08mを採用した。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のうち請求項1に係る羽口設定方法によれば、レースウエイの横断面を底とし且つ上下段羽口間の距離を高さとする円柱を製錬領域とみなし、全ての羽口の製錬領域内の炭素系固体還元材の単位表面積当たりの原料吹込み量及びスラグ中酸化鉄濃度から、要求する製錬能力を達成する羽口数及び上下羽口間隔を設定することとしたため、前記円柱内で炭素系固体還元材に接触可能な原料吹込み量を評価することにより、それが十分に還元される条件を満足して還元能力を向上でき、これにより亜鉛等の高揮発性金属の十分な分離回収や、銑鉄の生産性向上をも可能とする。
【0039】
また、本発明のうち請求項2に係る羽口設定方法によれば、全ての羽口の製錬領域内の炭素系固体還元材の単位面積当たりの原料吹込み量を0.0002t/h/m2 以下として羽口数及び上下段羽口間隔を設定することとしたため、亜鉛と鉄を含む電炉ダストを処理するときに、炉頂部からの排ガスから亜鉛を分離回収し且つ十分な銑鉄の生産能力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の羽口設定方法を適用した炉の概略構成図である。
【図2】羽口前温度と炉頂部からの排ガスに含まれて回収された鉄分濃度との関係を示す説明図である。
【図3】炉頂部の温度と酸素ポテンシャルとで規制される領域の説明図である。
【図4】上下段のレースウエイ間の製錬領域の説明図である。
【図5】製錬領域内コークス単位表面積当たりの原料吹込み量とスラグ中酸化鉄濃度との関係を示す説明図である。
【図6】還元能力を達成するための羽口数及び上下段羽口間隔を設定する説明図である。
【図7】羽口内径と羽口風速との関係の説明図である。
【符号の説明】
1は竪型炉
2は炭素系固体還元材
3は上段の羽口
4は下段の羽口
5は送風機
6は熱風発生炉
7は原料吹込み装置
8は炉頂装入装置
9は排ガス冷却・清浄装置
Claims (2)
- 少なくとも上下段に二段の羽口を有し且つ少なくとも上段の羽口から粉粒状装入原料を装入し且つ炭素系固体還元材を充填する炭素系固体還元材充填層型炉の羽口設定方法であって、上段羽口のレースウエイの横断面を底とし且つ上下段羽口間の距離を高さとする円柱を製錬領域とみなし、全ての羽口の製錬領域内の炭素系固体還元材の単位表面積当たりの原料吹込み量及びスラグ中酸化鉄濃度から、要求する製錬能力を達成する羽口数及び上下羽口間隔を設定することを特徴とする羽口設定方法。
- 前記全ての羽口の製錬領域内の炭素系固体還元材の単位面積当たりの原料吹込み量を0.0002t/h/m2 以下として羽口数及び上下羽口間隔を設定することを特徴とする請求項1に記載の羽口設定方法。
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