JP3799654B2 - 液晶光学素子、その製造方法、及び投射型液晶表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一対の電極付基板間に液晶が樹脂相中に保持された液晶光学素子の高性能化に関する。具体的には樹脂相の分子構造に着目し、それに由来する表示素子としての電気光学的特性の改良に関する。さらに、液晶光学素子を用いた投射型液晶表示装置を開示する。
【0002】
【従来の技術】
液晶ディスプレイは、その低消費電力性、低電圧駆動等の特長を生かしてパーソナルワードプロセッサ、ハンドヘルドコンピュータ、ポケットTV等に近年広く利用されている。なかでも注目され、盛んに開発されているのが、視角性がよく、高速かつ高密度表示が可能な能動素子を備えた液晶表示素子である。
【0003】
当初、光を透過散乱する動的散乱型(DSM)の液晶表示素子(LCD)が提案されていた。しかし、DSM−LCDでは液晶中を流れる電流値が高いため、消費電流が大きいという欠点があった。現在では偏光板を用いたツイストネマチック型(TN)のLCDが主流となっており、ポケットTVや可搬型の情報機器の表示素子として市場で用いられている。TN−LCDの漏れ電流はきわめて小さく、消費電力が少ないので、電池を電源とする用途に適する。
【0004】
能動素子を備えたDSM−LCDの場合には液晶自身の漏れ電流が大きい。このため、各画素と並列に大きな蓄積容量を設けなくてはならない。かつ、液晶表示素子自体の消費電力が大きくなるという問題があった。
【0005】
TN−LCDにおいては、液晶自身の漏れ電流はきわめて小さいので、大きな蓄積容量を付加する必要はないし、液晶表示素子自体の消費電力は小さくできる。しかし、TN−LCDは二枚の偏光板を必要とし、光を透過吸収するので、光の透過率が小さくなってしまうという問題がある。特に、カラーフィルターを用いてカラー表示を行う場合には、入射する光の数%しか利用できないこととなり、強い光源を必要とし、そのため結果として消費電力を増加させる。
【0006】
また、画像の投影を行う際にはきわめて強い光源を必要とし、投影スクリーン上で高いコントラストが得られにくいことや、光源からの発熱が液晶表示素子の動作状態を変えてしまうという問題がある。
【0007】
そこで、これらの課題を解決すべく、ネマチック液晶を樹脂などからなるマトリックス中に保持した液晶/樹脂複合体を使用して、その散乱−透過特性を利用し、偏光板を用いずに直接光のオンとオフの制御を行い得る液晶表示素子が提案された。液晶樹脂複合体表示素子、分散型液晶表示素子、高分子分散型液晶表示素子などと呼ばれている。
【0008】
特開昭63−271233(従来例1)には樹脂材料にビニル系化合物、具体的には、ウレタンアクリレートオリゴマーを含むアクリロイル系化合物を用いて液晶と樹脂材料との混合物から光重合相分離のプロセスによって液晶セル内に樹脂相と液晶相とを形成し、高性能の液晶/樹脂複合体が形成できることが開示されている。そして、液晶/樹脂複合体の層を通過する光のオン・オフを外部の電気信号で制御し、外観性のよい高性能の調光体が得られると示している。
【0009】
特開昭61−196229(従来例2)にはポリマーと液晶からなる液晶/樹脂複合体層とTFTやMIMなど各種の能動素子とが組み合わされた液晶表示素子についての一般的な記載がある。
【0010】
しかし、従来例1、2のような液晶/樹脂複合体を備えた初期の液晶表示素子においては、その電気光学的特性のうちの電圧−透過率特性(V−Tカーブ)にヒステリシスが存在していた。実質的に二値状態で用いる窓やシャッタではほとんど問題にならないが、中間調を必要とする高機能の表示素子では、駆動電圧の昇圧時と降圧時において光の透過率が異なるという課題があった。そのため、表示画面の変化時に前画面の情報が数秒以上にわたって残ってしまうという焼付き現象が生ずることがあった。
【0011】
そこで、特開平6−186535(従来例3)では用いる液晶の物性値と液晶セル内での液晶相の空間的分散に着目し、液晶材料の物性値と液晶相の構造制御についての発明が示されている。そして、表示素子として必要なヒステリシス低減が達成されたとの記載がある。例えば、液晶の屈折率異方性△nが0.18以上で、かつ誘電率異方性△εが5〜13の間が好ましいとの記載がある。また、同時に液晶相の形状に一定の歪みがあることと液晶セル内でのランダムな配置がヒステリシス低減に寄与するとの記載がある。
【0012】
特開平5−134238(従来例4)では用いる樹脂相の弾性率に着目し、その弾性率が20℃で3×107 N/m2 以下、40℃で1×103 N/m2 以上となるような樹脂材料を用いることが示されている。そして、この樹脂の弾性率の制御によってヒステリシス低減に大きな寄与があり、動画表示であっても残像や焼付きのないきわめて美しい表示が得られるとの記載がある。
【0013】
特開平7−123456(参考例)では、エマルジョン法における液晶/樹脂複合体の樹脂材料の種別に着目している。具体的には、エマルジョン法の場合の液晶カプセルの形成に有効な水溶性樹脂の選択についての考察がある。そして、液晶エマルジョンの形成を安定化し、最終的に得られる液晶カプセルの分散構造を制御し、ヒステリシスを低減しようとする。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、液晶/樹脂複合体を備えた液晶光学素子において、いくつかの特性改善が行われ一定の性能が得られるようになった。しかし、広い条件のもとでの総合的な安定性はまだ充分に得られていなかった。例えば、このような液晶光学素子のVTカーブ上のヒステリシスの強度は、液晶光学素子の動作温度に強い依存性を示し、動作温度が低い場合にヒステリシス強度が大きくなる傾向を示すことがあった。つまり、一般の液晶表示素子として求められる実用性の観点から、常温より低い低温側の特性に問題があった。
【0015】
すなわち、この液晶光学素子を投射光源、投射光学系と組み合わせて投射型液晶表示装置とし、室温25〜28℃の部屋で液晶表示素子に数10万ルックスの光束を照射して、画像の投影を行う場合を考察する。液晶表示素子は照射される強い光束により+8〜15℃程度昇温し、ビデオ表示を行っても液晶表示素子のヒステリシスに起因する画像の焼付き現象は見られない。しかし、室温15℃の部屋で同様に画像の投影を行うと、液晶表示素子のヒステリシスにより、ビデオ表示時に画像の焼付き現象が発生することがあった。
【0016】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明は、動作温度が実質的に低い条件のもとであっても、従来にまして、より高輝度、高コントラスト比を有し、かつ安定して製造できる液晶光学素子を提供する。低温域での動作においても中間調表示がきれいに表示でき、かつ液晶/樹脂複合体のヒステリシスに基づく焼付き現象を低減した改良された液晶光学素子、液晶表示素子、及び投射型液晶表示装置を提供する。
【0017】
本発明は、一対の電極付基板間に、電圧印加時又は非印加時に樹脂相の屈折率が液晶の常光屈折率(no )、又は異常光屈折率(ne )とほぼ一致せしめられた液晶/樹脂複合体が挟持された液晶光学素子において、樹脂相が側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物とポリエーテルポリオールと水酸基含有アクリレートとの反応生成物である付加重合性ウレタン化合物を含む硬化性材料の重合硬化物であることを特徴とする液晶光学素子を提供する。これを第1の発明と呼ぶ。
【0018】
また、この発明において、液晶の体積分率Φが、35%<Φ<90%を満足する液晶光学素子を提供する。これを第2の発明と呼ぶ。また、この第2の発明において、ポリエーテルポリオールがポリプロピレングリコールである液晶光学素子を提供する。これを第3の発明と呼ぶ。
【0019】
また、上記の第1〜第3の発明のいずれかの液晶光学素子において、硬化性材料が、付加重合性ウレタン化合物とともに他の付加重合性化合物を含む液晶光学素子を提供する。これを第4の発明と呼ぶ。
【0020】
また、上記の第1〜第4の発明のいずれかの液晶光学素子において、外部信号に応じて液晶/樹脂複合体を通る電界が変化せしめられ、非飽和の電界値によって中間調表示が行われる液晶光学素子を提供する。これを第5の発明と呼ぶ。具体的には、対向する電極間に印加される駆動電圧を調整して中間調表示が行われる。また、上記のいずれかの液晶光学素子において、液晶/樹脂複合体中の液晶相が連続相である液晶光学素子を提供する。
【0021】
また、上記の第1〜第5の発明のいずれかの液晶光学素子と、投射用光源と投射光学系とを組み合わせた投射型液晶表示装置を提供する。これを第6の発明と呼ぶ。
【0022】
また、一対の電極付基板間に、付加重合性化合物からなる硬化性材料と液晶との混合物を挟持せしめ、次いで硬化性材料を重合硬化し、その混合物より樹脂相を析出させて樹脂と液晶とを相分離させることにより、液晶相と樹脂相とを含む液晶/樹脂複合体を形成し、電圧印加時又は非印加時に樹脂相の屈折率が液晶の常光屈折率(no )、又は異常光屈折率(ne )とほぼ一致せしめてなる液晶光学素子の製造方法において、硬化性材料が、側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物とポリエーテルポリオールと水酸基含有アクリレートとの反応生成物である付加重合性ウレタン化合物を含むことを特徴とする液晶光学素子の製造方法を提供する。これを第7の発明と呼ぶ。
【0023】
また、第7の発明の液晶光学素子の発明において、未硬化時の液晶と硬化性材料とからなる混合物の液晶含有量を35〜90重量%とする液晶光学素子の製造方法を提供する。これを第8の発明と呼ぶ。
【0024】
また、第8の発明の液晶光学素子の製造方法において、硬化性材料が付加重合性ウレタン化合物と他の付加重合性化合物の混合物である液晶光学素子の製造方法を提供する。これを第9の発明と呼ぶ。
【0025】
また、上記の第7〜9のいずれかの発明の液晶光学素子の製造方法において、光を用いて重合硬化を行う液晶光学素子の製造方法を提供する。
【0026】
本発明によれば上記の構成をとることにより、広範囲の温度条件下でヒステリシスに基づく焼付き現象をさらに低減し、かつ高コントラスト比を有し、低電圧で駆動できる液晶光学素子及び液晶表示素子が得られる。
【0027】
本発明による液晶/樹脂複合体においては、樹脂相を形成する高分子材料の構造について分子設計を行う。そして液晶/樹脂複合体の微細構造を調整することで、低温域における動作においても液晶光学素子のV−Tカーブ上のヒステリシスを増加させることなく、焼付きのない美しい動画表示ができる。
【0028】
すなわち、樹脂相を形成する高分子材料が、側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物を用いた付加重合性ウレタン化合物の重合硬化物から形成される。これによって、投射型液晶表示装置に使用される際の常温より低い低温域においても、樹脂相を形成する高分子の自由体積が大きく変化せず、温度低下による樹脂相と液晶界面での収縮応力を小さくでき、そのために、低温域においても全体としてはランダムな液晶配列が維持され、液晶表示素子のヒステリシス強度の増加を抑制できる。
【0029】
本発明では、一対の電極付基板間に液晶/樹脂複合体、具体的には液晶相中に樹脂相が形成され、電圧印加時又は非印加時のいずれか一方でその樹脂相の屈折率が使用する液晶の屈折率とほぼ一致し、他方で両屈折率が一致しない液晶/樹脂複合体を用いる。樹脂相は複雑な空間構造を備え、液晶セル内で液晶との界面を3次元的に形成する。
【0030】
特に、正の誘電異方性を有するネマチック液晶が樹脂相中に保持され、その樹脂相の屈折率np が使用する液晶のnO とほぼ一致するようにされた液晶/樹脂複合体を用いる。そして、液晶/樹脂複合体を、画素電極毎に能動素子を設けたアクティブマトリックス基板と、対向電極を設けた対向電極基板との間に挟持する。
【0031】
この電極付基板とは、ガラス、プラスチック、セラミック等の基板上に電極が形成されたものをいう。通常この電極は、ITO(In2 O3 −SnO2 )やSnO2 等の透明電極とされる。さらに必要に応じて、クロム、アルミニウム等の金属電極を併用してもよい。反射型で用いられる場合には、反射電極とされることもありうる。また、この一対の基板としては、アクティブマトリックス基板と対向電極基板との組み合わせもある。
【0032】
このアクティブマトリックス基板とは、基板上に電極と、薄膜トランジスタ(TFT)、薄膜ダイオード、金属絶縁体金属非線形抵抗素子(MIM)等の能動素子とが形成された基板である。この各画素電極には夫々に1個乃至複数個の能動素子が接続されている。また、対向電極基板には、基板上に電極が形成され、アクティブマトリックス基板と組み合わせて、表示が可能なようにされている。
【0033】
この一対の電極基板間に液晶/樹脂複合体を挟持する。この液晶/樹脂複合体は、電圧の印加状態により、液晶/樹脂複合体中の液晶の屈折率が変化する。樹脂相の屈折率が、液晶の屈折率とほぼ一致した時に、光が透過し、一致しない時に光が散乱する。この場合、偏光板を用いていないので、明るい表示が容易に得られる。
【0034】
この際、その樹脂相の屈折率n p が使用する液晶のnO とほぼ一致するように設けることにより、電圧を印加した時に光を透過し、電圧を印加しない時に光が散乱することになる。電圧印加時には、液晶分子が電界方向に平行に配列するので、屈折率が制御しやすく、この形式の表示素子は光の透過時に高い透過率が得られる。
【0035】
本発明の液晶光学素子は、人間が表示を視認する液晶表示素子として主に用いられる。もっとも、光のオンとオフのみを直接用いる調光窓や光シャッタとしても利用できる。この液晶表示素子としては、直視型表示素子、投射型表示素子の両方で使用できる。直視型表示素子として用いる場合、所望の表示特性に応じて、バックライト、レンズ、プリズム、ミラー、拡散板、光吸収体、カラーフィルタなどを組み合わせて表示装置を構成すればよい。
【0036】
本発明の液晶表示素子は、特に、投射型の表示に適する。投射用光源、投射光学系などと組み合わせて、投射型液晶表示装置となしうる。投射用光源、投射光学系は従来から公知の投射用光源、レンズ等の投射光学系が使用でき、通常は上記液晶表示素子を投射用光源と投射レンズとの間に配置して用いればよい。
【0037】
本発明の液晶光学素子では、一対の電極付基板間に、透過−散乱型の動作モードを有する液晶/樹脂複合体、例えば液晶と硬化性材料の硬化物とからなる液晶/樹脂複合体を挟持する。樹脂相の部分に他の固化性材料を固化せしめた固化物を用いてもよい。
【0038】
具体的には、本発明では、液晶光学素子として、樹脂相と液晶材料とが3次元的に相分離した構造を有する液晶/樹脂複合体を形成する。そして、この液晶/樹脂複合体を、一対の電極付基板間に挟持する。電極間への電圧の印加状態により、液晶の屈折率が変化し、樹脂相の屈折率np と液晶の屈折率との関係が変化する。両者の屈折率が一致した時には透過状態となり、屈折率が異なった時には散乱状態となるような液晶表示素子が使用できる。
【0039】
この、相分離した樹脂と液晶の構造は3次元的である。3次元構造としては、細かな孔が多数形成された樹脂相のその孔の部分に液晶を充填した構造や、網目構造を形成した樹脂相に液晶が含浸したような構造、又は、樹脂相中に液晶を内包したマイクロカプセルが多数分散したような構造や、粒子状に相分離した液晶相が3次元的に連結したような構造などが例示される。
【0040】
これらの3次元的相分離構造は、樹脂相を介して60〜100%の液晶相が連続又は連通した連続液晶相構造と、連続又は連通した液晶相が30%以下である独立液晶相を呈する相分離構造に大別される。粒子状のもしくは分離したカプセル、すなわちディスクリートな液晶カプセルに液晶が相分離したような、内部連続した液晶相が少ない相分離構造においては、散乱性を発現する界面が液晶相と樹脂相との界面に限定される。そのような場合は、液晶/樹脂複合体としての散乱能を増大させるには、分離する液晶カプセルの数を多くする必要があるが、ある最適な平均粒子径を保った状態で、カプセルの密度を高くすることは、空間的な配置から考えて限界がある。
【0041】
ディスクリートな液晶カプセル構造と、連続相の形態中に液晶が存在するような構造とを比較すると、散乱状態でのヘイズ値が高く(低い透過率)、かつ高コントラスト比の液晶光学素子を得るためには、連続液晶相を用いることが好ましい。連続液晶相の構造は樹脂と液晶との界面だけではなく、液晶ドメインの界面においても光を散乱せしめる。電界の影響下になく、ある表面に接している液晶はランダムに配列したドメインという形態で存在し、光の散乱に寄与することが知られている。液晶/樹脂複合体中に連続相として液晶が存在する場合には、ディスクリートなカプセル形態として液晶が存在するのではなく、連続体の液晶が複数の液晶ドメインに分割されて液晶が存在すると考えられる。
【0042】
本発明に用いる液晶/樹脂複合体は、従来技術により次のようにして製造できる。液晶と、硬化性材料または樹脂のいずれかの溶液又はラテックスを形成する。次いで、樹脂相と液晶とを相分離せしめるように、溶液又はラテックスを、光硬化、熱硬化、溶媒除去による硬化、反応硬化により硬化又は固化させる。好ましい技術は液晶をモノマーもしくはプレポリマーに溶解せしめて、その後で相分離を引き起こすように重合することである。ラテックスを用いることは好ましくない。何故ならこの技術は、ある選択的な液晶の配列、すなわち表示素子の面内に平行な液晶配列を誘起し、表示素子の動作特性に好ましくない影響を与える可能性があるからである。
【0043】
本発明では、この硬化性材料として、側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物を用いた付加重合性ウレタン化合物を用いる。さらに使用する硬化性材料を、光硬化又は熱硬化タイプにすることは、密閉系内で硬化させうるため好ましい。特に、光硬化タイプの硬化性材料を用いることは、熱による影響を受けなく、短時間で硬化させることができ、均一な相分離構造を安定して形成できるため好ましい。
【0044】
具体的な製法としては、従来の通常のネマチック液晶と同様にシール材を用いて液晶セルを形成し、注入口から液晶と硬化性材料の混合物を注入し、注入口を封止して後、混合物に光照射を行う。又は、加熱して硬化させることもできる。加熱による硬化は、温度により液晶と硬化性化合物との相溶性が変化してしまう可能性があるため、光照射による硬化がより好ましい。
【0045】
また、本発明の液晶光学素子の場合には、密閉セルを用いず、例えば、透明電極を設けた基板上に、液晶と硬化性材料との混合物を供給し、その後、他方の電極付基板を重ねて、光照射等により硬化させることもできる。その後、周辺にシール材を塗布して周辺をシールしてもよい。この製法によれば、単に液晶と硬化性材料の混合物をロールコート、スピンコート、印刷、ディスペンサによる塗布等の供給をすればよいため、注入工程が簡便であり、生産性がきわめてよい。
【0046】
また、これらの液晶と硬化性材料の混合物には、基板間隙制御用のセラミック粒子、プラスチック粒子、ガラス繊維等のスペーサ、顔料、色素、粘度調整剤、その他本発明の性能に悪影響を与えない添加剤を添加してもよい。
硬化工程の際に、この素子の特定の部分のみに充分高い電圧を印加した状態で硬化させることにより、その部分を常に光透過状態にすることができる。固定表示したいものがある場合には、そうした常透過部分を形成してもよい。
【0047】
なお、この液晶/樹脂複合体を備えた液晶光学素子の透過状態での透過率は高いほどよく、散乱状態でのヘイズ値は80%以上であることが好ましい。
【0048】
本発明では、電圧を印加している状態で、樹脂相の屈折率が、使用する液晶のnO と一致するようにされることが好ましい。これにより、樹脂相の屈折率と液晶の屈折率とが一致した時に光が透過し、一致しない時に光が散乱(白濁)することになる。この液晶光学素子の光散乱性は、従来のDSM−LCDの場合よりもきわめて高く、高いコントラスト比の表示が得られる。
【0049】
本発明の最も大きな目的は、液晶/樹脂複合体のヒステリシスに基づく焼付き現象を低減し、かつ低い駆動電圧で高いコントラストを発現する液晶光学素子を提供する。この液晶光学素子は、能動素子と組み合わせることにより、明るく高コントラストを有する高密度表示が得られる。従来の、液晶表示素子に比べてより高い機能を発現できる。このほか、中間調の必要な他の用途(窓、シャッタ、ディスプレイ、空間変調器など)においても、その機能は有効に発揮できる。
【0050】
従来の液晶/樹脂複合体においては、電圧−透過率特性にヒステリシスが存在しそれが階調表示をする際の問題であった。ヒステリシスとは、電圧を上昇させる過程と電圧を降下させる過程において透過率が異なる現象である。ヒステリシスが存在すると、階調性の画面を表示する際に前画面の情報が残ってしまう、すなわち、画像が焼付くという現象が生じ、これが画質を低下させていた。
【0051】
液晶/樹脂複合体においてヒステリシスが存在する原因の一つは、液晶/樹脂複合体が、液晶が樹脂相中に分散保持されていたり、樹脂の介在により液晶相に複数のドメインが形成されるといった構造による。すなわち、分離して樹脂相中に存在する液晶同士の相互作用や、液晶相中に形成された複数の液晶ドメイン間の相互作用によってヒステリシスが存在すると考えられる。樹脂相と液晶相との間の相互作用の性質は電界が印加された場合と、電界が存在していない場合とで異なる。電界が印加されていない場合には、液晶と樹脂との間の相互作用は境界に発生する表面張力によって制御される。電界が印加されると、相互作用は境界効果だけではなく、液晶の再配列によって引き起こされるエネルギー、すなわち弾性エネルギーをも含むのである。
【0052】
このヒステリシスの大小は、分散保持される液晶中や、隣接する液晶ドメイン内に蓄えられる弾性エネルギー、外から印加される電界による電気的エネルギーと、分離して樹脂相中に存在する液晶同士の相互作用エネルギーや、液晶相中に形成された複数の液晶ドメイン間の相互作用エネルギーによって決定される。したがって、このエネルギーバランスを最適化することによってヒステリシスは低減でき、階調表示の際にも焼付きのない優れた表示が得られる。
【0053】
本発明の目的は、高いコントラスト、高い輝度、優れた応答性を有し、ヒステリシスを低減した液晶光学素子を得ることである。さらには、低電圧動作の能動素子や駆動回路で駆動できる液晶光学素子を得ることである。
【0054】
樹脂相の果たす役割としては、液晶配列の安定化、弾性エネルギーの蓄積、液晶/樹脂複合体全体の構造安定性があり、これらの点を加味して、樹脂相の材質は最適化される。
【0055】
電気光学特性上重要なのは、弾性エネルギーの蓄積と液晶と樹脂相との相互作用、すなわち液晶と樹脂との境界における表面張力である。この表面張力は、中間調の表示において特に問題となる画像の焼付きの一因である液晶/樹脂複合体の電圧−透過率特性上のヒステリシスや、電圧変化時の応答性、透過率特性の再現性などと密接に関連する。
【0056】
なかでも、液晶/樹脂複合体のヒステリシスの解消は精細な中間調表示には欠かせないものであり、重要な要件として挙げられる。また、樹脂相は、個々の液晶粒子、又は液晶ドメインの安定性や、液晶/樹脂複合体全体としての構造安定性とも関連するため、液晶との表面張力や樹脂相の弾性率などをも考慮して樹脂相の材質を決定することが求められる。
【0057】
本発明の目的は、動作温度が実質的に低い条件のもとであっても、高いコントラスト比、高い輝度、優れた応答性を有し、ヒステリシスを低減した液晶光学素子を得ることである。さらには、従来のTN−LCD用の能動素子や駆動回路で駆動できる液晶光学素子を得ることである。
【0058】
樹脂相の果たす役割としては、液晶配列の安定化、弾性エネルギーの蓄積、液晶/樹脂複合体全体の構造安定性、液晶との表面張力などがあり、これらの点を加味して、樹脂相の材質は最適化される。
【0059】
電気光学的特性上重要なのは、弾性エネルギーの蓄積と液晶との表面張力である。この表面張力は、中間調の表示において特に問題となる画像の焼付きの原因の一つである液晶/樹脂複合体の電圧−透過率特性上のヒステリシスや、電圧変化時の応答性、透過率特性の再現性などと密接に関連する。
【0060】
上記の意味において、本発明では樹脂相となる硬化性材料として、側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物、すなわち、分子内に芳香環又は飽和環を含まずかつ分子内に3級又は4級炭素を一つ以上含む単官能又は多官能のイソシアネートを用いて得られた付加重合性ウレタン化合物を含むことを必須とする。
【0061】
側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物を用いて得られた付加重合性ウレタン化合物を含む硬化性材料の硬化物を樹脂相として用いた場合、中間調表示、動画表示に適した光学特性を得るための条件であるマトリックスの弾性的性質、液晶との表面張力における好ましいバランスが得られる。
【0062】
また、高分子鎖の自由体積は樹脂相の弾性率、液晶との表面張力を変化させるため重要な因子である。上述した従来例4は、樹脂相の弾性率の低減がヒステリシスの低減に有効であると開示している。また、従来例1は、液晶との表面張力を制御するために、液晶に対して適度な極性を持つウレタン結合を有するオリゴマーを樹脂相の一部に含むことが好ましいと開示している。
【0063】
ヒステリシスの小さい中間調表示に適した液晶/樹脂複合体を得るためには、樹脂相は分子鎖の自由体積を低減し弾性率を増加させる芳香環を含まないことが好ましい。飽和炭化水素環は含まれていてもよいが、多すぎると芳香環と同様に物性を低下させるおそれがある。
【0064】
一方、側鎖を有さず、枝分かれ構造を全く含まない、完全に直鎖のイソシアネート化合物のみを用いて得られる付加重合性ウレタン化合物の重合硬化物は、結晶性が高く、樹脂と液晶との間の表面張力を制御することが難しい。そのため樹脂材料と液晶材料とが3次元的に相分離した構造を有する液晶/樹脂複合体としては、高いコントラストと小さいヒステリシスを両立することが困難となる。
【0065】
そこで、構造体としてのポリマーの自由体積を低減することなく、かつポリマーの結晶性を低下させることができるよう、液晶/樹脂複合体は、側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物を用いた付加重合性ウレタン化合物を用いて得られる樹脂相より構成されることが好ましい。
【0066】
本発明においては、イソシアネート化合物として側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物のみを用いるか、又はそれと直鎖状脂肪族イソシアネートや脂環族イソシアネート化合物を用いる。側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物は全イソシアネート化合物に対して約10%以上用いることが好ましい。特に、50モル%以上用いることが好ましい。
【0067】
側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物の側鎖としては、アルキル基はもちろん、アルキルオキシカルボニル基やイソシアネートアルキルオキシカルボニル基等のエステル結合を有する側鎖でもよい。その他エーテル結合やカーボネート結合などを有する側鎖でもよい。イソシアネート化合物としてはジイソシアネート化合物が好ましいが、モノイソシアネート化合物や3官能以上のポリイソシアネート化合物でもよい。
【0068】
具体的な側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物としては、下記のような化合物がある。2,2,4−トリメチル−1,6−ジイソシアネートヘキサン、2,4,4−トリメチル−1,6−ジイソシアネートヘキサン、1,5−ジイソシアネート−2−メチルペンタン、リジンジイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、リジンエステルトリイソシアネート。特に好ましいイソシアネート化合物は、2,2,4−トリメチル−1,6−ジイソシアネートヘキサン、2,4,4−トリメチル−1,6−ジイソシアネートヘキサン、及びそれらの混合物である。これら二つの化合物の重量比約1:1の混合物として、市販品を使用できる。
【0069】
前記したように、上記イソシアネート化合物は他のイソシアネート化合物と併用できる。併用できるイソシアネート化合物としては、直鎖状脂肪族イソシアネート化合物や脂環族イソシアネート化合物が好ましい。場合によっては、少量の無黄変性芳香族イソシアネート化合物を使用できる。これらはジイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0070】
上記の他のイソシアネート化合物としては、具体的には以下のような化合物がある。ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ビスイソシアネートメチルシクロヘキサン、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート。
【0071】
付加重合性ウレタン化合物は、上記イソシアネート化合物とポリオールと反応性基を有する付加重合性化合物とを反応させて得られる化合物であることが好ましい。しかし、これに限られず、例えば、付加重合性基を有するポリオールやモノオールと上記イソシアネート化合物を反応させて得られる化合物等であってもよい。反応性基を有する付加重合性化合物としては、水酸基等のイソシアネート基と反応性の基を有することが好ましい。
【0072】
反応性基を有する付加重合性化合物における付加重合性基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基、マレイン酸残基、エポキシ基、チオール基等がある。紫外線等の光で付加重合させるためには、アクリロイル基が最も好ましい。熱硬化タイプの化合物を用いる場合は他の付加重合性基であってもよい。本発明においては光硬化性タイプが好ましいので、以下付加重合性基としてアクリロイル基を採用する場合について説明する。
【0073】
ポリオールとしてはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオールなどのポリオールを使用できる。ジメチルポリシロキサン鎖などのジオルガノポリシロキサン鎖を有するシリコーン系ポリオール、その他のポリオールをも使用できる。好ましくはポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールが使用される。特に比較的低い弾性率の樹脂相を形成できるポリオールの使用が好ましく、このようなポリオールとしては側鎖含有連鎖を有するポリオールがある。
【0074】
ポリオールとしては、比較的高分子量のポリエーテルポリオールが好ましい。例えば、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(オキシプロピレン・オキシエチレン)グリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、3官能以上のポリオキシプロピレンポリオール、3官能以上のポリ(オキシプロピレン・オキシエチレン)ポリオール、等がある。特に、ポリプロピレングリコールなどのオキシプロピレン基を繰り返し単位として含むポリエーテルポリオールが好ましい。オキシプロピレン基を有するポリエーテルポリオールは側鎖含有連鎖を有するポリオールの一種である。
【0075】
反応性基を有する付加重合性化合物としては、前記のように水酸基とアクリロイル基を有する化合物が好ましい。最も好ましくは、水酸基含有アクリレート類である。例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の2価アルコールとアクリル酸のモノエステルが好ましい。
【0076】
また、グリセリンモノアクリレートやペンタエリスリトールモノアクリレート等の2以上の水酸基を有するアクリレート、グリセリンジアクリレートやペンタエリスリトールジアクリレートなどの水酸基を有する多官能アクリレートなども使用できる。さらには、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジグリセリンなどの繰り返し単位を有するポリオールの部分アクリル酸エステル等も使用できる。
【0077】
本発明における付加重合性ウレタン化合物は、前記イソシアネート化合物、ポリオール、及び水酸基含有アクリレートの反応生成物が好ましい。これら3種の原料化合物は各々2種以上を併用することもできる。反応割合は、少なくとも1個のアクリロイル基を有する付加重合性ウレタン化合物(以下、アクリルウレタン化合物ともいう)が得られるかぎり特に限定されない。通常はポリオールと水酸基含有アクリレートの合計当量に対して等当量のイソシアネート化合物を用いる。イソシアネート化合物に対するポリオールの当量数が1に近い場合、高分子量の生成物が生じやすく、生成物の粘度が高くなりやすい。
【0078】
好ましくは、n個の水酸基を有するポリオール1モルに対してnモルのイソシアネート化合物を用いる。また、残りのイソシアネート基に対して等当量の水酸基となる割合で水酸基含有アクリレートを用いる。例えばポリエーテルジオール1モルに対し、2モルのジイソシアネート化合物と2モルの2−ヒドロキシエチルアクリレートを用いる。
【0079】
イソシアネート化合物、ポリオール、及び水酸基含有アクリレートは3者同時に反応させてもよく、イソシアネート化合物とポリオール又は水酸基含有アクリレートとを予め反応させてイソシアネート基を有する反応物を製造し、これに残りの化合物を反応させてもよい。例えば、イソシアネート化合物とポリオールを反応させてイソシアネート基含有プレポリマーを製造し、これに水酸基含有アクリレートを反応させてアクリルウレタン化合物を製造できる。
【0080】
得られたアクリルウレタン化合物は通常2以上のアクリロイル基を有するアクリルウレタン化合物、すなわち多官能アクリルウレタン化合物である。しかし、水酸基含有アクリレートの一部を飽和アルコールに代えて反応させることにより単官能アクリルウレタン化合物を製造できる。
【0081】
また、ポリオールの代わりに比較的高分子量のモノオール(例えばポリエーテルモノオール)を用いて、イソシアネート化合物と水酸基含有アクリレートと反応させて単官能アクリルウレタン化合物を製造することもできる。上記した本発明におけるこのアクリルウレタン化合物の分子量は500〜50000が好ましい。
【0082】
上記本発明における特定のアクリルウレタン化合物の例を化学式で示す。しかし、特定のアクリルウレタン化合物はこれらに限定されない。特に好ましいものは式(3)で表される化合物(ただし、mは1)である。
【0083】
【化1】
式(1)〜(5)にてA、R1 〜R7 、m、n、p、qは下記のものを示す。
A :アクリロキシ基。
R1 :側鎖を有する脂肪族ジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基。
R2 :側鎖を有する脂肪族ジイソシアネート化合物以外のジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基。
R3 、R4 :それぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基。
R5 、R6 :炭素数2〜8のアルキル基。
m :1以上の整数
(ただし、式(2)、(3)においてはmは0であってもよい。)
n、p:2以上の整数。
q :0以上の整数。
【0084】
本発明において、アクリルウレタン化合物を含む硬化性材料としては、アクリルウレタン化合物と他の付加重合性化合物の混合物であってもよい。他の付加重合性化合物としてはウレタン結合を含まない各種アクリレート類、側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物以外のイソシアネート化合物を用いて得られるアクリルウレタン化合物などがある。後者のアクリルウレタン化合物としては、イソシアネート化合物の相違以外は前記と同様の原料を用いて得られるアクリルウレタン化合物がある。
【0085】
イソシアネート化合物としては、前記したような側鎖を有しない脂肪族イソシアネート化合物や脂環式イソシアネート化合物が好ましい。このようなアクリルウレタン化合物を用いる場合は、その量は前記本発明における特定のアクリルウレタン化合物との合計重量に対して2/3以下、特に1/2以下であることが好ましい。
【0086】
ウレタン結合を有しない各種アクリレート類としては、アルキルアクリレート、水酸基含有アクリレート、多価アルコールのアクリル酸エステル(水酸基を有しないもの)、比較的高分子量のアクリレートなどが使用できる。これらは単官能でも多官能でもよい。官能基数は1〜10、特に1〜6が好ましい。
【0087】
アルキルアクリレートとしては、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアルキル基の炭素数が20以下のアルキルアクリレートが好ましい。水酸基含有アクリレートとしては、前記アクリルウレタン化合物の原料として挙げたような水酸基含有アクリレートを使用できる。
【0088】
多価アルコールのアクリル酸エステルとしては、エチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレートなどがある。比較的高分子量のアクリレートとしては、前記比較的高分子量のポリオールとアクリル酸のエステルなどを使用できる。これら、各種アクリレート類は2種以上を使用できる。
【0089】
上記のようなアクリルウレタン化合物や各種アクリレート類としては特に好ましいものは、前記特定のアクリルウレタン化合物と同程度の分子量を有する比較的高分子量のアクリルウレタン化合物、アルキルアクリレート、及びヒドロキシアルキルアクリレートである。
【0090】
上記したアクリルウレタン化合物やウレタン化合物を有しないアクリレート類以外に、さらに他の付加重合性化合物を硬化性材料の成分として使用できる。例えば、アクリル酸、アクリルアミド、その他のアクリロキシ基を有する化合物、メタアクリレート類等のメタクリロキシ基を有する化合物、ビニルエステル類やスチレン類などのビニル化合物、不飽和ポリエステル類などがある。しかし、アクリロキシ基を有する化合物以外は光重合性は良好ではないので、本発明における硬化性材料の付加重合性化合物としては、アクリルウレタン化合物、アクリレート類などのアクリロキシ基を有する化合物が好ましい。
【0091】
本発明における硬化性材料中の付加重合性化合物としては、前記特定のアクリルウレタン化合物のみからなっていてもよいが、好ましくは上記他の付加重合性化合物、特に他のアクリルウレタン化合物やアクリレート類を含む。特に特定のアクリルウレタン化合物に比較して低分子量のアクリレート類を併用することが、液晶に対する相溶性の制御、硬化後の相分離構造の均一性向上、相分離した液晶相分率の制御などの面で好ましい。両者の分子量の差は1.5倍以上であることが好ましい。
【0092】
また、相溶性制御をより細かく行うために低分子量のアクリレート類として水酸基含有アクリレートを使用するか、水酸基含有アクリレートと水酸基を含まないアクリレートを併用することが好ましい。また、特定のアクリルウレタン化合物の一部と比較的高分子量の他のアクリルウレタン化合物を併用することも好ましい。特に、ヒドロキシアルキルアクリレートを使用するか、ヒドロキシアルキルアクリレートとアルキルアクリレートを併用することが好ましい。
【0093】
硬化性材料中の全付加重合性化合物に対する特定のアクリルウレタン化合物の量は10重量%以上、特に20〜80重量%が好ましい。特定のアクリルウレタン化合物以外のアクリルウレタン化合物を併用する場合は、その量は特定のアクリルウレタン化合物に対して2倍重量以下、特に等重量以下が好ましい。水酸基含有アクリレートや水酸基不含アクリレート類など比較的低分子量のアクリレート類は、前記のように特定のアクリルウレタン化合物と併用することが好ましく、全付加重合性化合物に対して10重量%以上、特に20〜80重量%使用することが好ましい。
【0094】
硬化性材料中には付加重合性化合物と液晶以外に他の配合物を配合できる。特に付加重合性化合物を重合硬化させるための重合開始剤が通常配合される。重合開始剤としては特に光による重合硬化を行わしめる光重合開始剤が好ましい。さらに、粘度調節剤、アルミナ粒子やガラス繊維などのスペーサ、その他の配合剤を配合することもできる。
【0095】
硬化性材料に配合する液晶には、ネマチック液晶又はスメチック液晶が使用でき、ネマチック液晶の使用が好ましい。また、その一部にコレステリック液晶を添加したり、二色性色素や単なる色素を添加したりしてもよい。液晶を含む硬化性材料との混合物全体に対する液晶の割合は35〜90重量%、特に60〜80重量%が好ましい。この液晶と硬化物との相対比についてはさらに後述する。
【0096】
液晶の屈折率異方性Δnは、電界非印加状態での散乱性を高めて高コントラスト比を得るためには、0.18≦Δnとされ、特に好ましくは0.20≦Δnとされる。
【0097】
本発明では、電圧印加時に液晶と樹脂相の屈折率が一致するようにすることにより、透過時の透過率が高くなるので好ましい。このため、正の誘電異方性のネマチック液晶を使用し、液晶のnO が樹脂相の屈折率np とほぼ一致するようにすることが好ましい。このとき、電圧印加時に高い透明性が得られる。具体的にはno −0.03<np <no +0.05の関係を満たすことが好ましい。
【0098】
本発明においては、液晶は硬化性材料に均一に溶解することが好ましい。そして、硬化性材料の重合の硬化物は溶解しない、又は溶解困難なものとされる。液晶の組成物を用いる場合は、個々の液晶の溶解度ができるだけ近いものが好ましい。
【0099】
液晶を含む硬化性材料の重合硬化は光、特に紫外線、で行うことが好ましい。熱硬化などの他の重合硬化方法に比較して、光硬化方法は液晶に対する悪影響が少なく、かつ迅速な硬化が可能で、相分離性も良好である。
【0100】
硬化性材料の光硬化においては、硬化時に不要となる単なる溶媒や水を蒸発させる必要がない。このため、密閉系で硬化できるため、従来のセルへの注入という製造法がそのまま採用でき、信頼性が高くなる。さらに、光硬化性材料の硬化で二枚の基板を接着する効果も有するため、より信頼性が高くなる。
【0101】
本発明では、このように液晶/樹脂複合体とすることにより、上下の透明電極が短絡する危険性が低くなる。さらに、通常のTN型の表示素子のように配向や基板間隙を厳密に制御する必要もなく、透過状態と散乱状態とを制御しうる液晶光学素子をきわめて生産性よく製造できる。
【0102】
具体的な製造方法としては、上記硬化性材料を液晶と均一に溶解させ、硬化性材料の硬化により液晶と樹脂相の相分離構造を形成させる手法等が挙げられる。この際、他の硬化性化合物や反応開始剤等を適宜混合することにより硬化前後の系の相溶性のバランスと樹脂相の特性を制御できる。
【0103】
樹脂相と液晶とが3次元的に相分離した液晶/樹脂複合体の構造としては、連続の液晶相中に3次元網目構造を有する樹脂相を相分離させたような構造が好ましい。これは、高い散乱能と低電圧で駆動した際の高い透過性を両立させるために有効である。散乱は液晶ドメイン間の界面、及び、液晶と樹脂相の間の境界における界面の存在により引き起こされる。このため、液晶と樹脂相との間の界面の面積を増加させること、及び液晶相中に存在する液晶ドメインの数を増やすことで散乱性は向上する。
【0104】
液晶ドメインのある最適な平均的サイズを維持しつつ、散乱性を発現するこれらの液晶ドメインの界面の面積を増大させるためには、相分離時、すなわち重合時に分離した液晶相になるべく、分離する液晶量を多くし、かつ、内部連通又は連続した液晶相中に多数の液晶ドメインを発生させるような樹脂相の形状を形成することが重要である。
【0105】
したがって、液晶/樹脂複合体として高い散乱能を発現させるためには、相分離した樹脂の3次元網目構造が、連続液晶相中に多数の液晶ドメインを誘起させ、液晶ドメイン間の界面を増大させるような形態をとることが好ましい。
【0106】
また、駆動電圧を低くするためには、樹脂中に保持される夫々の液晶がほぼ等しい駆動電界を持つことが重要である。このためには、液晶ドメイン間の界面が駆動電界除去後においても一定している方が有利である。この界面が一定していないと実質的な駆動電界の分散につながり、コントラスト比の低下と駆動電圧の上昇を生じる傾向を生む。このため、連続又は連通した液晶相を保持する樹脂相が液晶相中の複数の液晶ドメイン間の界面を一定させるような形態を形成するように、分子構造に由来する樹脂相の極性や相分離時の分離速度等を調節すればよい。
【0107】
上記の説明では、単独の液晶光学素子を用いた単板方式の場合を説明している。投射型液晶表示装置等に用いるように、例えば三個の液晶表示素子を用い、RGB三色の光を各液晶表示素子に分けて透過させる場合には、各色毎に液晶ドメインの平均的サイズ、基板間隙、液晶の屈折率等を調整して、各色毎にその特性を揃えておくことが好ましい。
【0108】
また、無電界時の散乱性を向上させるには、液晶/樹脂複合体の動作可能な液晶の体積分率Φを増加させることが有効である。具体的には、高い散乱性を有するにはΦ>35%が好ましく、さらにはΦ>45%が好ましい。一方、Φがあまり大きくなると、液晶/樹脂複合体の構造安定性が悪くなるため、Φ<90%が好ましい。最密充填構造に近い完全連通状態とするには硬化性材料との組み合わせにもよるが未硬化時の液晶と硬化性材料とからなる混合物の液晶含有量を60〜80重量%程度とすればよい。
【0109】
本発明の液晶表示素子は、その樹脂相の屈折率が使用する液晶のno とほぼ一致するようにすることが好ましい。この場合、電圧が印加されていない場合は、配列方向が異なる液晶ドメイン間の界面及び、液晶相と樹脂相との界面でそれぞれの屈折率の差により、散乱状態(つまり白濁状態)を示す。このため、電極のない部分は光が散乱される。
【0110】
この液晶表示素子を投射型液晶表示装置として用いる場合には、画素部分以外の部分は光が散乱されるので、遮光膜を設けなくても、光が投射スクリーンに到達しないため、表示としては黒く視認される。このことにより、画素電極以外の部分からの光の漏れを防止するために、画素電極とTFT以外の部分を遮光膜等で遮光するとさらに画素間の黒状態がはっきりする。
【0111】
本発明の液晶光学素子に所望の画素に電界を印加する。この電界を印加された画素部分では、液晶が配列し、液晶のno と樹脂相の屈折率であるnp とがほぼ一致せしめられる。これにより透過状態を示し、当該所望の画素で光が透過することとなり、投射スクリーンに明るく表示される。
【0112】
この素子に、この硬化工程の際に特定の部分のみに充分に高い電圧を印加した状態で硬化させることにより、その部分を常に光透過状態とすることができる。固定表示したいものがある場合には、そうした常透過部分を形成してもよい。
【0113】
また、本発明の液晶表示素子は、カラーフィルタを設けることによりカラー表示を行いうる。このカラーフィルタは、一個の液晶表示素子に三色設けてもよく、一個の液晶表示素子に一色設けてもこれを三個組み合わせてもよい。このカラーフィルタは、基板の電極面側に設けてもよく、外側に設けてもよい。
【0114】
また、液晶/樹脂複合体中に染料、顔料等を混入しておくことにより、カラー表示を行うようにしてもよい。
【0115】
図1は、本発明の例の断面図であり、アクティブマトリックス基板を使用した液晶光学素子の例の断面図である。図1において、1は液晶光学素子、2はアクティブマトリックス基板用のガラス、プラスチック等の基板、3はITO(In2 O3 −SnO2 )、SnO2 等の画素電極、4はトランジスタ、ダイオード、非線形抵抗素子等の能動素子、5は対向電極基板用のガラス、プラスチック等の基板、6はITO、SnO2 等の対向電極、7は両基板間に挟持された液晶/樹脂複合体を示す。
【0116】
図2は、図1の液晶光学素子を用いた投射型液晶表示装置の模式図である。図2において、11は光源系、12は液晶光学素子、18は第2の絞り、19は投射レンズ等の投射光学系、14は投射する投射スクリーンを示す。
【0117】
能動素子としてTFT等の三端子素子を使用する場合、対向電極基板は全画素共通のベタ電極を設ければよい。MIM素子、PINダイオード等の二端子素子を用いる場合には、対向電極基板はストライプ状のパターニングをされる。
【0118】
能動素子として、TFTを用いる場合には、半導体材料としてはシリコンが好適である。特に多結晶シリコンは、非結晶シリコンに比して感光性が相対的に低いため誤動作の可能性も低くなり好ましい。この多結晶シリコンは、本発明のように投射型液晶表示装置として用いる場合、さらに強い投射用光源を利用できるのできわめて明るい表示が得られる。
【0119】
この場合、樹脂相の屈折率が使用する液晶のnO とほぼ一致するようにされた液晶/樹脂複合体を使用することが好ましい。これにより、原理的には電界を印加しない部分では光が散乱して、投射された投射スクリーン上では黒くなる。一方、能動素子として多結晶シリコンを用いる場合、能動素子部分に与える光の影響が低減されるので好ましい。さらに、能動素子の部分のみに遮光膜を設けることもできる。
【0120】
なお、非結晶シリコンを用いても、その半導体部分に遮光膜を形成すれば、使用できる。また、電極は通常は透明電極とされるが、反射型の液晶表示装置として使用する場合には、クロム、アルミニウム等の反射電極としてもよい。
【0121】
また、従来のTN−LCDの場合には、画素間からの光の漏れを抑止するために、画素間に遮光膜を形成することが多い。これと同様に、本発明の液晶光学素子においても画素間間隙に遮光膜を形成し、さらに能動素子部分に遮光膜を設けてもよい。
【0122】
本発明の液晶光学素子は、このほか赤外線カットフィルタ、紫外線カットフィルタ等を積層したり、文字、図形等を印刷してもよく、複数枚の液晶光学素子を用いてもよい。
【0123】
さらに、本発明では、この液晶光学素子の外側にガラス板、プラスチック板等の保護板を積層してもよい。これにより、その表面を加圧しても、破損する危険性が低くなり、安全性が向上する。
【0124】
投射用光源、投射光学系、投射スクリーン等は従来からの投射用光源、投射光学系、投射スクリーンが使用でき、投射用光源と投射光学系との間に本発明の液晶表示素子を配置すればよい。複数の液晶表示素子の像を光学系を用いて合成して表示するようにしてもよい。また、これに冷却系を付加したり、LED等のチャンネル表示等を付加してもよい。
【0125】
特に、この投射型の表示をする場合、光路上に拡散光を減ずる装置、例えば、図2の15で示されるようなアパーチャやスポットを設置することにより、表示コントラストをさらに大きくすることができる。
【0126】
すなわち、拡散光を減ずる装置とは、液晶光学素子を通過した光のうち、入射光に対して直進する光(画素部分が透過状態の部分を透過する光)を取り出し、直進しない光(液晶/樹脂複合体が散乱状態の部分で散乱される光)を減ずるものであればよい。特に、直進する光は減ずることなく、直進しない光は拡散光を減ずることが好ましい。
【0127】
具体的には、図2のブロック図に示す投射型液晶表示装置のように、光源系11(光源、楕円鏡、凸錐体レンズ13、第1の絞り17)、液晶表示素子12、第1のレンズ15(平行光化レンズ)、第2のレンズ16、投射光学系(第2の絞り18、投射レンズ19)とを備える。光源系11からは指向性のよい光源光束が出射される。
【0128】
この例によれば、投射用光源系から出射し液晶表示素子12を通過した光のうち、入射光に対して直進する光は第2のレンズ16により集光され、第2の絞り18及び投射レンズ19を通過して投射される。一方、液晶表示素子12で散乱させられた直進しない光は、集光レンズ16により集光されても、アパーチャやスポットなどで構成される第2の絞り18を通過しない。このため、散乱光が投射されないことになり、コントラスト比が向上する。
【0129】
また、他の例としては、アパーチャやスポットの代りに、小さな面積を有する鏡を同じ位置に斜めに配置し、反射させてその光軸上に配置された投射レンズを通して投射させることもできる。また、このような集光レンズを用いることなく、投射レンズにより光線が絞られる位置にスポット、鏡等を設置してもよい。また、特別なアパーチャ等を用いなくとも、投射用レンズの焦点距離、口径を、散乱光が除去されるように選択してもよい。
【0130】
また、マイクロレンズ系なども使用できる。具体的には、液晶表示素子の投射光学系側にマイクロレンズアレイと細かな穴がアレイ化されたスポットアレイを配置して、不要な散乱光を除去できる。この場合、散乱光除去に必要な光路長を非常に短くできるため、全体の投射型表示装置をコンパクトにできるという利点を持つ。光路長の短縮に関しては、投射光学系の中に散乱除去系を組み込むことも有効である。この場合、独立に投射光学系と散乱除去系を設置するより光学系がシンプルになるとともに、サイズを小さく抑えることができる。
【0131】
これらの光学系は、ミラー、ダイクロイックミラー、プリズム、ダイクロイックプリズム、レンズなどと組合せ、画像の合成、カラー化ができる。また、カラーフィルタと組み合わせることによっても画像のカラー化ができる。
【0132】
投射スクリーン上に到達する直進成分と散乱成分との比は、スポット、鏡等の径及びレンズの焦点距離により制御可能で、所望の表示コントラスト、表示輝度を得られるように設定すればよい。
【0133】
図2のような拡散光を減ずる装置を用いる場合、表示の輝度を上げるためには、投射用光源から液晶表示素子に入射される光はより平行であることが好ましい。そのためには、高輝度でかつできるだけ点光源に近い光源と、凹面鏡、コンデンサーレンズ等を組み合わせて投射用光源を構成することが好ましい。
【0134】
また、上記の説明では、主として透過型の液晶表示素子で説明したが、反射型の構成を有する投射型液晶表示装置であってもよい。例えば、スポットの代わりに小型の鏡を配置して必要な光のみを取り出すようにすることができる。
【0135】
【実施例】
(実施例1)
2,2,4−トリメチル−1,6−ジイソシアネートヘキサンと2,4,4−トリメチル−1,6−ジイソシアネートヘキサンの等重量混合物(以下、TMDIという)、分子量1000のポリプロピレングリコール(以下、PPGという)、及び2−ヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEAという)をモル比2:1:2で反応させてアクリルウレタン化合物を製造した。以下、このアクリルウレタン化合物をアクリルウレタン(A)という。
【0136】
アクリルウレタン(A)、2−エチルヘキシルアクリレート(以下、EHAという)、及びHEAの重量比20:7:13の混合物に、正の誘電異方性のネマチック液晶(Δn=0.22、Δε=12、K33=13×10-12 N、η=25cSt)と少量の光重合開始剤を混合し、液晶含有率65重量%の均一な組成物を製造した。
【0137】
一方、多結晶シリコンTFTが画素毎に形成されたアクティブマトリックス基板と、全面ベタ電極が形成された対向電極基板とを、周辺部に配置したシール材でシールして、電極基板間隙10μmのセルを形成した。
【0138】
このセルに、前記の未硬化の組成物を注入した後、紫外線露光により硬化させ、液晶/樹脂複合体の層を形成した。この液晶/樹脂複合体層を有する液晶光学素子と駆動回路とを組み合わせて液晶表示素子とし、さらに投射光源、投射光学系を組み合わせて投射型液晶表示装置とし、室温15℃の部屋で、投射光源より70万ルックスの光束を液晶表示素子に照射し、スクリーン上に画像の投影を行なったところ、スクリーン上のコントラスト比は110であった。このときの液晶光学素子の温度を測定したところ平均的温度は24℃であった。
【0139】
この液晶光学素子をビデオ信号で駆動したところ、画像の切り替え時にも焼付きのほとんどない動画像が得られた。また、この液晶光学素子を7Vで駆動したときの画素部の透過率は73%であった。なお、投射光学系の集光角は全角で5度とした。
【0140】
(実施例2)
分子量1000のPPG、イソホロンジイソシアネート、及びHEAのモル比1:2:2の反応生成物(以下、アクリルウレタン(B)という)を製造し、このアクリルウレタン(B)とアクリルウレタン(A)との重量比1:1の混合物に、EHA及びHEAを加えて混合物を調製した。(A):(B):EHA:HEAの重量比は10:10:7:13とした。この混合物に実施例1と同じ液晶と光重合開始剤を混合し、液晶含有量が5重量%の組成物を製造した。この組成物を用いて、実施例1と同様に液晶光学素子を製造した。
【0141】
(比較例1)
分子量1000のPPG、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びHEAのモル比1:2:2の反応生成物(以下、アクリルウレタン(C)という)を製造し、このアクリルウレタン(C)をアクリルウレタン(A)の代りに用いる以外は実施例1と同じ材料を同じ条件で用いて液晶光学素子を製造した。
【0142】
(比較例2)
分子量1000のPPG、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、及びHEAのモル比1:2:2の反応生成物(以下、アクリルウレタン(D)という)を製造し、このアクリルウレタン(D)をアクリルウレタン(A)の代わりに用いる以外は実施例1と同じ材料を同じ条件で用いて液晶光学素子を製造した。
【0143】
実施例2、比較例1及び比較例2で製造した液晶光学素子を用いて実施例1と同じ投影試験を行った。このときの液晶光学素子の温度はいずれの場合も平均的に24〜25℃であった。
【0144】
これらの液晶表示素子をビデオ信号で駆動して動画を表示させた際の、画像の切り替え時の焼付きの程度を表1に示す。また、これらの液晶表示素子を7Vで駆動させたときの画素部の透過率を合わせて表1に示す。なお、いずれの場合においても投射光学系の集光角は全角で5度とした。また、液晶光学素子への入射角の分散角は5度以下とした。
【0145】
【表1】
【0146】
【発明の効果】
本発明の液晶光学素子では、一対の電極付基板間に挟持される液晶材料として、電気的に散乱状態と透過状態とを制御しうる液晶/樹脂複合体を挟持した液晶光学素子を用いる。液晶/樹脂複合体の構造制御をきわめて精密に安定して行えるようになったため、光の透過率を下げずに散乱性を大幅に向上できる。光学特性に最適な液晶/樹脂複合体、すなわち連続の液晶相中に3次元網目構造を有する樹脂相を相分離させたような空間構造を構築できる。
【0147】
また、樹脂相を選択することにより、重合相分離の前後におけるそれぞれの状態制御が可能になったからである。特に、光重合相分離を用いる場合、液晶と硬化性材料との混合物の相溶性が安定し、その後の液晶空セルへの注入工程と光照射による硬化工程を安定して行えるようになった。
【0148】
また、形成された液晶/樹脂複合体は電気光学的に好ましい所望の微細構造をとれるようになった。これは、用いた樹脂相の分子構造に由来する弾性的性質や極性により、相分離時における液晶層と樹脂相との界面での相互作用が適切に調節されるためである。
【0149】
そして、広い温度範囲、言い換えると従来ではなかなか得られにくかった常温より低い低温での動作時での、液晶/樹脂複合体におけるヒステリシスを低減でき、焼付き現象の発生しない、中間調表示がきれいな投射型液晶表示装置が得られた。具体的には、液晶表示素子に約50万ルクス以上の光束が照射される投射型液晶表示装置において、その周囲温度が+15〜40℃の範囲において良好な動作特性が得られる。
【0150】
また、本発明の液晶光学素子は、従来のTN−LCDの駆動用ICを用いた駆動においても、高コントラスト比を有し、かつ高輝度の表示が可能になる。
【0151】
さらに、本発明によれば、階調駆動を行った際にも、中間調がきれいな階調表示ができ、ヒステリシスに基づく焼付き現象を低減できる。
【0152】
このため、本発明の液晶光学素子は、高輝度の画像を得ようとする投射型表示に有効であり、画像の焼付きがなく、明るくコントラスト比の良い投射型表示が得られる。また、光源も小型化できる。
【0153】
また、偏光板を用いなくてもよいため、光学特性の波長依存性が少なく、光源の色補正等がほとんど不要になるという利点もある。また、TN−LCDに必須のラビング等の配向処理やそれに伴う静電気の発生による能動素子の破壊といった問題点も避けられるので、液晶光学素子の製造歩留りを大幅に向上させることができる。
【0154】
さらに、この液晶/樹脂複合体は、硬化後はフィルム状になっているので、基板の加圧による基板間短絡やスペーサの移動による能動素子の破壊といった問題も生じにくい。
【0155】
また、この液晶/樹脂複合体は、比抵抗が従来のTN−LCDの場合と同等であり、従来のDSM−LCDのように大きな蓄積容量を画素電極毎に設けなくてもよい。このため、能動素子の設計が容易で、有効画素電極面積の割合を大きくしやすく、かつ、液晶光学素子の消費電力を少なく保てる。
【0156】
さらに、従来のTN−LCDの製造工程から、配向膜形成工程を除くだけで製造できるので、生産が容易である。
【0157】
また、この液晶/樹脂複合体を用いた液晶光学素子は、安定して生産することができ、求められる性能を満たす製品を高い歩留で得られる。
【0158】
本発明は、この外、本発明の効果を損しない範囲内で種々の応用ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の液晶光学素子の断面図。
【図2】本発明の投射型液晶表示装置のブロック図。
【符号の説明】
1:液晶光学素子
2、5:基板
3:画素電極
4:能動素子
7:液晶/樹脂複合体
Claims (10)
- 一対の電極付基板間に、電圧印加時又は非印加時に樹脂相の屈折率が液晶の常光屈折率(n0)又は異常光屈折率(ne)とほぼ一致せしめられた液晶/樹脂複合体が挟持された液晶光学素子において、樹脂相が、側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物とポリエーテルポリオールと水酸基含有アクリレートとの反応生成物である付加重合性ウレタン化合物を含む硬化性材料の重合硬化物であることを特徴とする液晶光学素子。
- 液晶の体積分率Φが、35%<Φ<90%を満足する請求項1に記載の液晶光学素子。
- ポリエーテルポリオールが、ポリプロピレングリコールである請求項2に記載の液晶光学素子。
- 硬化性材料が、付加重合性ウレタン化合物と他の付加重合性化合物との混合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶光学素子。
- 外部信号に応じて液晶/樹脂複合体を通る電界が変化せしめられ、非飽和の電界値によって中間調表示が行われる請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶光学素子。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶光学素子と、投射用光源と投射光学系とを組み合わせた投射型液晶表示装置。
- 一対の電極付基板間に、付加重合性化合物からなる硬化性材料と液晶との混合物を挟持せしめ、次いで硬化性材料を重合硬化して樹脂相を形成させるとともに相分離により樹脂と液晶とを分離させて樹脂相と液晶との液晶/樹脂複合体を形成し、電圧印加時又は非印加時に樹脂相の屈折率が液晶の常光屈折率(no )又は異常光屈折率(ne )とをほぼ一致せしめてなる液晶光学素子の製造方法において、硬化性材料が、側鎖を有する脂肪族イソシアネート化合物とポリエーテルポリオールと水酸基含有アクリレートとの反応生成物である付加重合性ウレタン化合物を含むことを特徴とする液晶光学素子の製造方法。
- 未硬化時の液晶と硬化性材料とからなる混合物の液晶含有量を35〜90重量%とする請求項7に記載の液晶光学素子の製造方法。
- 硬化性材料が、付加重合性ウレタン化合物と他の付加重合性化合物の混合物である請求項7に記載の液晶光学素子の製造方法。
- 光を用いて重合硬化を行う請求項7〜9のいずれか1項に記載の液晶光学素子の製造方法。
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