JP3794003B2 - リン酸イオン吸着ろ材及び製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は工場排水、生活排水等各種排水、浄水場、湖沼、河川などの水中に含まれる微量のリン酸イオンを選択的、効果的に吸着除去する新規なリン酸イオン吸着ろ材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から鹿沼土、活性アルミナ、水酸化鉄などリン吸着力の大きい物質が見知されているが、それぞれ欠点があり実用化されていないのが現状である。例えば、鹿沼土、水酸化鉄などは粒状化しても、水に対して脆く、崩壊するため、造粒時に多量のバインダーを添加しなければならず結果的にリン吸着効果が損なわれるという問題を有している。また、水酸化鉄などは、単独ではリン吸着力を損なわずに粒状化するのが困難であり、リン酸イオン吸着ろ材として実用化されている例はない。更に、活性アルミナは高価であり、排水処理に使用するには実用的ではない。
【0003】
また、現在市中に販売されている陶磁器等の粉末、火山噴出物、溶鉱炉のスラグ等を利用した粒状リン酸イオン吸着剤は、硬度が硬くリン酸の吸着が表面にのみ限定されたものが多くみられる。これらのリン酸イオン吸着剤は、使用後産業廃棄物としての処理費用がかさみ結果的に高価な商品になっている。
【0004】
このような現状から、吸着ろ材として、次のような観点に立った技術の開発が望まれている。
1.安価な原料を用いたリン吸着ろ材であること(商品としても安価になる。)2.水に対して一定の強度があること(脆いと崩壊する。)
3.リン吸着表面積ができるだけ大きいこと。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記従来技術の欠点を解決するため、上記の基本的要望を満足させる鹿沼土、カキ殻、ガラス粉末、浄水場汚泥、水硬性アルミナ等など低価格な原材料を用いて粒状化し、耐水強度も十分に満足しうる造粒方法を開発し、粒状体の中心までリン酸イオンを吸着可能とした新規性のあるリン酸イオン吸着ろ材を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題に対し、以下のような方法によって問題を解決した。
すなわち、本発明のリン酸イオン吸着ろ材は、鹿沼土、カキ殻、水硬性アルミナ、浄水場汚泥、ガラス粉末の5種類を混練造粒後、乾燥焼成し一度水中に浸漬後乾燥してなることを特徴とするものである。
本発明のリン酸イオン吸着ろ材は、カキ殻を必ず含有することを特徴とするものである。また、本発明の吸着ろ材は、上記配合に限定されるものではなく、リン酸イオン吸着効果のある公知の素材を更に添加してもよい。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に本発明のリン酸イオン吸着ろ材の製造方法を詳細に説明する。
先ず、リン酸吸着能力のあるカキ殻、水硬性アルミナ、鹿沼土、浄水場汚泥と、バインダーとしてガラス粉末を加えて、混合粉砕して均一にし、水を添加して十分混練後、造粒し、得られた粒状体を乾燥後、高温度で焼成し、常温まで冷却して一度水中に浸漬後乾燥して目的とするリン酸イオン吸着ろ材を製造する。
上記において、粒状体の大きさは目的に応じて種々選択できるが、通常直径4mm〜9.5mmの粒状体とするとよい。粒状体の乾燥温度は、常温乾燥、風乾等、特に限定されないが、約200℃で加熱乾燥してもよい。焼成温度は、バインダーとしてのガラス粉末や配合成分によって異なるが、800℃〜900℃で焼成するとよい。焼成後の常温までの冷却は、好ましくは放冷する。
【0008】
粒状体は焼成冷却後水中に投入した場合3日程度で粒体が崩壊してしまう欠点があり、実用的でなかったが、本発明は焼成冷却後直ぐ水中に3分〜5分浸漬してから乾燥することで、再度水中に投入しても長期間粒状体を維持し吸着能力も変わらぬ、実用に提供できる製品(イオン吸着ろ材)の製造方法を開発した。
図5に焼成後の水中浸漬処理の有無による粒状体(イオン吸着ろ材)の崩壊試験の結果を示す。試験は25℃の水道水中における所定時間経過後の粒状体の崩壊の有無を目視によって判定した。
【0009】
次ぎに、本発明で使用する各素材について説明する。
水硬性アルミナは、焼成することでリン酸吸着能力の低下が見られる活性アルミナに比べると、焼成後にも同様のリン酸吸着能力が得られ活性アルミナより安価であることから使用される。
素材としてカキ殻を利用するのは、図1に示すように、原料として安価であることと、焼成によりリン酸の吸着能が増加することによる。
又カキ殻を一度焼成したのち粉末にして混練してもよいが焼成を二度行うことは経済的にも不利であり、当初から粉末化して混練し焼成した方が良い。
【0010】
本発明において、ガラス粉末は結合材として用いる。焼成時に溶融して各素材を結合するが、ろ材粒子の空隙率を低下させない程度の溶融点を有するものが好ましい。ガラス粉末は、焼成ろ材粒子中に微粒状で存在してガラスの親水性によって被処理水をろ材粒子中に引き込む役割をもするものと思われる。
鹿沼土、浄水場汚泥はリン酸吸着能力のほか、多くの有機物を含有しており、焼成により有機物が燃焼して空間ができるため、リン酸イオン吸着ろ材の粒子に空間を与え、全体に水の浸透を容易にする役割をも果すために使用される。
【0011】
焼成方法は、造粒されたリン酸イオン吸着ろ材をそのまま高温で焼成すると粒状体が破壊するため、あらかじめ低温で強制乾燥または、自然乾燥して20%〜30%程度にまで水分を除去しておくことが望ましい。強制乾燥は、場合により200℃程度の温度で行ってもよい。
焼成温度は、使用する各成分(素材)によって異なるが、800℃〜900℃の間で焼成するのが好ましい。900℃以上では焼結して硬くなり吸着ろ材粒子が緻密になって空隙が少なくなり比重も大きくなる。また、800℃以下では焼成が不完全でリン酸イオン吸着力が低下する。示差熱分析によると、この温度範囲はカキ殻がCaCO3 →CaOに組成変化する温度と一致することが判明した。よって、800℃〜900℃の範囲が最適焼成温度と推定される。焼成後粒子は常温近くまで冷却した後、水中に3分程度浸漬したあと、取り出して乾燥することにより、耐水性のあるポーラスな状態のリン酸イオン吸着ろ材の粒子が製造される。
【0012】
前記リン酸イオン吸着ろ材の好ましい粒径を4mm〜9.5mmの範囲にしたのは、径の小さい程リン酸イオンの吸着効率は高いが、処理すべき排水を流通させる場合に抵抗があり、流水量が少なくなり、単位時間あたりの処理効率が低下する場合があるためである。また径が大きくなるほど比表面積が小さくなり、かつ、中心部に浸透するのに時間がかかるため、リン酸イオン吸着効果が落ちるためである。これらの相反する条件を考慮して、直径を4mm〜9.5mmとした粒子の混合ろ材とすることが好ましい。しかしながら、被処理水および濾床の構造等によって、上記粒径に限定されることなく任意の粒径の吸着ろ材が使用できる。
【0013】
リン酸イオン吸着ろ材の各素材の配合比については、特に限定しないが、カキ殻粉末を総重量の10%以上配合することが望ましい。鹿沼土、浄水場汚泥は品質にバラ付きがあるため、被処理水に応じて適宜増減するとよい。水硬性アルミナは多い程良いが、製造単価を低くするためには25%以下が好ましい。ガラス粉末は、焼成粒子が水中で崩壊しない程度の強度が得られる範囲内で、かつ、ろ材粒子の空隙率等が損なわれない範囲で使用される。
【0014】
【実施例】
1.リン酸イオン吸着ろ材の製造
水硬性アルミナ25g、鹿沼土50g、カキ殻100g、ガラス粉末500gを粉砕した後、浄水場汚泥(水分90%)300gを加え十分混練し、直径4mm〜9.5mmの球状に丸め、炉内温度200℃に設定したロータリーキルンに投入して乾燥した後取り出し、炉内温度を850℃に設定し再度1時間の焼成を行い常温まで冷却して水中に3分間浸漬後、水を切って自然乾燥して目的とする吸着ろ材( No.1)を得た。
表1に示すように各素材の配合量を変えて、上記と同様にして、イオン吸着ろ材 No.2〜4を製造した。
【0015】
2.リン酸イオン除去試験
▲1▼.除去試験1
上記方法によって製造された配合の異なったリン酸イオン吸着ろ材 No.1〜4を用いてリン酸吸着性能を確認した。
リン酸イオンを10mg/lの割合で含有した液500ml中に、各イオン吸着ろ材を96時間浸漬して調べた結果を表1に示す。表1の結果からわかるように、吸着率95%以上の良好な結果を得た。
【0016】
【表1】
【0017】
▲2▼.除去試験2
また、イオン吸着ろ材 No.4についてリン酸12mg/lの水溶液を流量を変えて流した場合の吸着破過曲線(リン吸着量mg/リン酸イオン吸着ろ材g)を求めた結果を図2に示す。この場合、流量に関係なくリン酸イオン吸着ろ材の単位重量当たりの吸着量は、結果から計算するとリン酸吸着量は5mg/gであり、かなり高い吸着能力を持つことがわかった。
【0018】
▲2▼.除去試験3
次ぎに、リン酸イオン吸着ろ材 No.4を実排水について実験した結果を表2に示す。
リン酸イオン17.9mg/lを含む某食品会社の排水500mlに、吸着ろ材10gを投入して1時間攪拌して取り出し測定した。また、共存する他の元素(陰イオン)についても同時測定したが、リン酸イオンのみを選択的に多く吸着できることが判明した。
【0019】
【表2】
【0020】
3.再生によるリン酸イオンの吸着試験
▲1▼.焼成による吸着ろ材の再生
上記除去試験3で使用した吸着ろ材 No.4を、使用後800℃で1時間再焼成し、除去試験3と同様にして吸着性能を測定した。再生は4回行った。その結果を図3に示す。新規の吸着ろ材に比べ1回再生するごとに平均2%〜3%程度の吸着能が低下するが実用では支障ない。
▲2▼.薬品処理による吸着ろ材の再生
2%クエン酸を流下させて吸着したリン酸イオンを脱離させる方法で再生した結果を図4に示す。この場合においてもほぼ同様の結果を得た。
以上2通りの方法により再生することができるが、▲2▼の方法が経済的でより好ましい。
【0021】
4.耐水中崩壊性試験
上記各吸着ろ材 No.2〜4を除去試験3で用いた実排水中に3月間浸漬した後の粒子状態を判定したところ、いずれも崩壊は見られなかった。そのため長期使用に耐えられることが認められた。
【0022】
【発明の効果】
本発明のリン酸イオン吸着ろ材は以下のような効果がある。
▲1▼粒状化の困難な水硬性アルミナ、鹿沼土等にガラス粉末を添加し、適正な温度で焼成することで粒状化することができた。
▲2▼粒状化されたリン酸イオン吸着ろ材は微細な空隙が多く、粒状体の表面のみならず内部までリン酸イオンの吸着が行われるため、単位体積当たりの吸着量が多くなった。
▲3▼共存陰イオン元素の吸着が少ないため、実排水に使用した場合効果が持続し長期間使用に耐える。
▲4▼使用後は再度焼成するか、2%クエン酸液で洗浄することにより再生使用することが可能である。
▲5▼使用済みの吸着ろ材は、土壌改良材としての利用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】配合素材の焼成、非焼成によるリン吸着率の経時変化を示すグラフである。
【図2】吸着破過曲線を示すグラフである。
【図3】焼成による再生吸着ろ材の吸着性能を示すグラフである。
【図4】薬品処理による再生吸着ろ材の吸着性能を示すグラフである。
【図5】水中浸漬処理の有無による吸着ろ材の水中崩壊性を示すグラフである。
Claims (3)
- 水硬性アルミナ、カキ殻、鹿沼土、ガラス粉末、浄水場汚泥を混練、造粒後焼成し一度水中に浸漬後乾燥することを特徴とするリン酸イオン吸着ろ材。
- 水硬性アルミナ、カキ殻、鹿沼土、ガラス粉末、浄水場汚泥を混練、造粒後焼成焼成し一度水中に浸漬後乾燥することを特徴とするリン酸イオン吸着ろ材の製造方法。
- 請求項1記載のイオン吸着剤を使用することを特徴とする水中に溶存するリン酸イオンの除去方法。
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