JP3792487B2 - レシチン化スーパーオキシドジスムターゼ含有医薬組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レシチン化スーパーオキシドジスムターゼ(以下、単にPC−SODともいう)及びシュークロースを含有する医薬組成物、およびこれからなる疾患の処置剤に関する。また本発明は、シュークロースを有効成分とするPC−SODの活性低下等を抑制するための剤及び方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明に最も近い先行技術について説明する。
(a)特開平9−117279号公報には、本発明において用いることができるPC−SODおよびこれを有効成分として含む医薬について記載されている。
(b)特開平3−170438号公報には、レシチン化生物活性蛋白を含む経口及び局所投与用生物活性蛋白組成物が記載されている。また生物活性蛋白の例示としてスーパーオキシドジスムターゼ(以下、単にSODともいう)が記載されており、また添加物として砂糖が例示されている。
【0003】
しかしながらこれらの先行技術には、PC−SOD及びシュークロースを含有する医薬組成物の特定の組み合わせについては記載されていない。またPC−SODの長期間保存による活性の低下、凍結乾燥した場合の性状、カラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現の問題については解決されていなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、長期間保存によるPC−SODの活性低下が少なく(すなわち安定性が高く)、凍結乾燥した場合の性状が良好で、かつカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現が抑制されたPC−SODを含有する医薬組成物を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために、PC−SODを有効成分とする医薬組成物について鋭意検討を行った結果、シュークロースが、長期間保存によるPC−SODの活性低下を抑制し(安定性を保持させ)、凍結乾燥した場合の性状を良好に保ち、かつカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現を抑制する作用を有することを見い出し、これにより上記課題を解決しうる医薬組成物が提供できることを見い出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、下記一般式(I)で表されるPC−SOD及びシュークロースを含有することを特徴とする医薬組成物(以下、本発明医薬組成物という)を提供する。
SOD’(Q−B)m (I)
(式中、SOD’はスーパーオキシドジスムターゼの残基を表し、Qは化学的架橋を表し、Bはグリセロールの2位に水酸基を有するリゾレシチンのその水酸基の水素原子を除いた残基を表し、mはスーパーオキシドジスムターゼ1分子に対するリゾレシチンの平均結合数であって、1以上の正数を表す)
また本発明は、本発明医薬組成物からなる、疾患の処置剤(以下、本発明処置剤ともいう)を提供する。
【0007】
本発明医薬組成物は、好ましくは下記の性質を有する。
(a)性状:この医薬組成物を凍結乾燥したものに注射用水(注射用蒸留水)を添加すると溶解し、不溶性異物は認められない。
(b)安定性:この医薬組成物を凍結乾燥した直後における単位重量あたりのスーパーオキシドジスムターゼ活性を100とした場合、凍結乾燥した組成物を8℃で12ヶ月、25℃で12ヶ月、又は40℃で6ヶ月間保存した時点における該活性の相対値が、いずれも97%以上である。
【0008】
(c)ゲル濾過クロマトグラフィーにおける類縁物質ピーク:凍結乾燥した組成物を再溶解し、ゲル濾過クロマトグラフィーにかけ、溶出液の220nmの吸光度を測定した場合、当該吸光度の検出チャートにおけるレシチン化スーパーオキシドジスムターゼのピークの形状と、凍結乾燥前のレシチン化スーパーオキシドジスムターゼの当該ピークの形状との間に、実質的な差が認められない。
【0009】
(d)逆相クロマトグラフィーにおける類縁物質ピーク:凍結乾燥した組成物を8℃で12ヶ月、25℃で12ヶ月、又は40℃で6ヶ月間保存した時点で再溶解し、逆相クロマトグラフィーにかけ、溶出液の220nm及び270nmの吸光度を測定した場合、検出される類縁物質の量が、いずれも凍結乾燥した直後におけるものと実質的に変化しない。
【0010】
本明細書で「溶解」とは、溶質(医薬組成物を凍結乾燥したもの)と溶媒(注射用水)が混合して、肉眼で観察して澄明な溶液が生じることをいう。「溶解」するか否かは、室温(1℃〜30℃)下において、溶質に溶媒(注射用水)を添加して緩やかに振とうし、10秒以内に溶解するか否かで判断することが好ましい。
【0011】
さらに本発明医薬組成物は、その凍結乾燥物を、8℃で36ヶ月、25℃で36ヶ月、又は40℃で6ヶ月間保存したいずれの時点においても上記(a)〜(d)に記載の全性質を維持しているものであることが好ましい。
【0012】
また本発明は、シュークロースを有効成分とする剤であって、上記一般式(I)で表されるPC−SODと共存させることにより該PC−SODの活性低下を抑制し、または、該PC−SODのカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現を抑制するための剤(以下、本発明抑制剤ともいう)を提供する。
【0013】
さらに本発明は、上記一般式(I)で表されるPC−SODにシュークロースを共存させることにより該PC−SODの活性低下を抑制し、または、該PC−SODのカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現を抑制する方法(以下、本発明抑制方法ともいう)を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
<1>本発明医薬組成物
(1)本発明医薬組成物に用いるPC−SOD
本明細書における「レシチン」とは、フォスファチジルコリンを意味する通常のレシチンをいい、「リゾレシチン」とは、レシチンのグリセロールの2位に結合した脂肪酸1分子がとれて、2位の炭素原子に水酸基が結合した化合物をいう。
【0016】
本発明医薬組成物に含有されるPC−SODは、通常、リゾレシチンの2位の水酸基に化学的架橋剤を結合させたレシチン誘導体を、SODに1個以上結合させて得ることができる。このPC−SODは次式(I)で示される。
SOD’(Q−B)m (I)
上記一般式(I)中、SOD’はスーパーオキシドジスムターゼの残基を表す。
【0017】
前記式(I)中のSOD’は、生体内の活性酸素O2 -の分解というその本来の機能を発揮し得る限りにおいて、その起源等は特に限定されるものではなく、各種の動植物又は微生物に由来するSODの残基を広く用いることが可能である。しかしながら、医薬品用途のSODとしては、生体内での抗原性を可能な限り減じることが好ましいことを考慮すれば、本発明医薬組成物を投与する動物種に応じて、適宜適切なSODを選択することが好ましい。例えば、最も本発明医薬組成物が必要とされると考えられるヒトを対象とする場合には、SODとしてヒト体内における抗原性を可能な限り減ずるべく、ヒト由来のSODを用いることが好ましい。そしてその中でも、ヒト由来のCu/Zn SOD(活性中心に銅と亜鉛を含むヒト由来のSOD;以下、ヒトCu/Zn SODと略記することもある)が、細胞内における発現量が多く、また遺伝子工学的手法による生産技術が確立しており、大量に調製することが可能であるため、特に好ましい。
【0018】
このヒトCu/Zn SODには、ヒト組織から製造される天然のヒトCu/Zn SOD;遺伝子工学的手法により製造されるヒトCu/Zn SOD;天然のヒトCu/Zn SODと実質上同一のアミノ酸配列を有する組換えヒトCu/Zn SOD、これらのヒトCu/Zn SODのアミノ酸配列中の一部のアミノ酸を化学的に修飾もしくは改変したSOD等があり、いずれのヒトCu/ZnSODであってもよい。
【0019】
参考のため、この天然のヒトCu/Zn SODのタンパク質のアミノ酸配列を配列番号1に示す。なお、実際のヒトCu/Zn SODは、このアミノ酸配列を有するタンパク質が二量体(ダイマー)となっている。
【0020】
このタンパク質におけるアミノ酸配列に示すごとく、天然のヒトCu/Zn SODの111位のアミノ酸はシステインであるが、蛋白工学的手法、例えば部位特異的変異法により、この111位をセリンに変換したヒトCu/Zn SOD(特開昭62-130684号公報)や、化学的にこの111位のシステインを修飾したヒトCu/Zn SOD(特開平6-199895号公報)も報告されており、これらのヒトCu/Zn SODを素材として、本発明におけるPC−SODを得ることができる。そして、これらのヒトCu/Zn SODのうちでも、電荷的及び分子量的に均一であり、かつSOD活性が安定している、111位のシステインを化学的に修飾した、例えばこのシステインをS−(2−ヒドロキシエチルチオシステイン)とした、ヒトCu/Zn SODを素材として、本発明におけるPC−SODを得るのが好ましい。
【0021】
なお本明細書においては、このようにヒトCu/Zn SODにおいて部位特異的変異法等により一部アミノ酸を変換したものや、ヒトCu/Zn SODの一部のアミノ酸を化学的に修飾して得られるものも含めて、単にヒトCu/ZnSODという。
【0022】
また、前記式(I)中のBで示される「グリセロールの2位に水酸基を有するリゾレシチンの、その水酸基の水素原子を除いた残基」は、次式(II)で表される。
【0023】
-O-CH(CH2OR)[CH2OP(O)(O-)(OCH2CH2N+(CH3)3)] (II)
(式中、Rは脂肪酸残基(アシル基)である)
Rは、炭素数10〜28の飽和又は不飽和の脂肪酸残基が好ましく、より好ましくはミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、イコサノイル基、ドコサノイル基、その他炭素数が14〜22の飽和脂肪酸残基であり、特に好ましくは炭素数16の飽和脂肪酸残基であるパルミトイル基である。
【0024】
また前記式(I)中のQは化学的架橋を表す。化学的架橋は、SODとレシチンとを架橋して化学的に結合(共有結合)させ得るものであれば特に限定されない。化学的架橋としては、残基−C(O)−(CH2)n−C(O)−が例示され、かつ好ましい。この残基は、 式HO−C(O)−(CH2)n−C(O)−OHで表される直鎖状ジカルボン酸の両端の水酸基を除いた残基、もしくは、このジカルボン酸の無水物、このジカルボン酸のエステル、このジカルボン酸のハロゲン化物、又はその他のこのジカルボン酸の反応性誘導体等の両端における水酸基に対応する部分を除いた残基であるものが好ましい。前記式(I)中のQが上記直鎖状ジカルボン酸の残基である場合、Qの一端とBとは、エステル結合で連結している。また、この場合、このQの他端は、SODのアミノ基とアミド結合などにより直接結合していると考えられる。この場合、SOD’は、SODの結合に関与するアミノ基から水素原子を1つ除いた残基を示す。なお前記の化学的架橋において、基−(CH2)n−におけるnは2以上の整数であり、好ましくは2〜10の整数であり、特に好ましくは3である。
【0025】
また前記式(I)中のmは、SOD1分子に対するリゾレシチンの平均結合数を表している。mは1以上の正数であり、1〜12の正数が好ましく、4が特に好ましい。
【0026】
PC−SODの製造において、レシチン誘導体のSODへの結合は、公知の方法、例えば特開平6−54681号公報に記載された方法に従って行うことが可能である。このPC−SODの製造過程は、実施例中に記載する。
【0027】
本発明医薬組成物に用いるPC−SODは、医薬として使用できる程度に精製され、医薬として混入が許されない物質を実質的に含まないものであることが好ましい。
【0028】
例えばPC−SODは、2,500 U/mg(PC−SOD)以上の比活性を有する精製されたものを用いるのが好ましく、3,000 U/mg(PC−SOD)以上の比活性を有する精製されたものがより好ましい。なお、本明細書において1U(ユニット)とは、pH7.8、30℃の条件下でNBT(ニトロブルーテトラゾリウム)を用いてJ.Biol.Chem. Vol.244, No.22, 6049-6055(1969)に準じた方法により測定し、NBTの還元速度を50%阻害するPC−SODの酵素量を表す。
【0029】
(2)本発明医薬組成物に用いるシュークロース
本発明医薬組成物に用いるシュークロースは、医薬として使用できる程度に精製され、医薬として混入が許されない物質を実質的に含まないものであり、活性炭で処理されたシュークロースが好ましい。活性炭による処理は、シュークロースを水溶液とし、これと活性炭とを接触させることにより行うことができる。このような活性炭処理により、たとえばシュークロース中のエンドトキシン濃度を低減させることができ、類縁物質ピークの出現をさらに抑制でき、かつ安定性をさらに向上させうる。
【0030】
本発明医薬組成物に用いるシュークロース中のエンドトキシン濃度は、0.25 EU/mg以下が好ましく、検出限界(0.006 EU/ml)以下がより好ましい。
【0031】
なおシュークロース中のエンドトキシン濃度は、公知のエンドトキシンの測定法を用いて測定することができるが、カブトガニ・アメボサイト・ライセート成分を用いるリムルス試験法が好ましい。リムルス試験法に用いるリムルス試薬としては、エンドトキシン特異的リムルス試薬を用いることが好ましい。リムルス試薬としては、例えば次に挙げる市販のリムルス試薬を用いることができる;トキシカラーシステムLS−6,LS−20,LS−50M、エンドスペシーES−6,エンドスペシーES−200(生化学工業株式会社)。
【0032】
(3)本発明医薬組成物
本発明の医薬組成物は、PC−SODとシュークロースを含む。該組成物は(1)で説明したPC−SODと、(2)で説明したシュークロースを配合することにより得るのが好ましい。これにより、長期間保存によるPC−SODの活性低下が少なく(安定性が高く)、凍結乾燥した場合の性状が良好で、かつカラムクロマトグラフィーによる分析の時に類縁物質ピークの出現が抑制された本発明医薬組成物を得ることができる。
【0033】
本発明医薬組成物中のPC−SODとシュークロースの配合比率は、投与量、本発明医薬組成物の形態等に応じて当業者が適宜決定でき、特に限定されないが、「PC−SOD/シュークロース」の重量比として0.1/100〜80/100程度が好ましく、0.4/100〜60/100程度がより好ましい。
【0034】
また本発明医薬組成物は、その脂肪酸含量が、0.13〜0.15μmol/mg蛋白であることが好ましい。脂肪酸含量は、例えば(株)ワイエムシイ社製「長鎖、短鎖脂肪酸分析キット」を用いて測定することができる。
【0035】
なお本発明医薬組成物には、PC−SODの酵素活性に悪影響を与えず、かつ本発明の効果に影響を与えない限りにおいて、他の医薬活性成分や、慣用の賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、崩壊剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤等、通常医薬に用いられる成分を添加することができる。このような成分としては、生理学上許容され、医薬として使用できる程度の純度であり、かつ医薬として混入が許されない物質を実質的に含まないものを使用できる。
【0036】
本発明医薬組成物の製造は、PC−SOD及びシュークロースを用い、製剤学的に公知の方法を用いて行なうことができる。なお本発明医薬組成物は、溶液状、凍結状、または凍結乾燥状の形態が好ましい。なお溶液状の形態としては、以下の(1)および(2)の態様も包含される。
(1)凍結状態とした場合の本発明医薬組成物における、凍結前および融解後における溶液状態。
(2)凍結乾燥状態とした場合の本発明医薬組成物における、凍結乾燥前および溶媒添加による再溶解後の溶液状態。
【0037】
これらの中で、本発明医薬組成物の形態は凍結乾燥状の形態とするのが好ましい。すなわち本発明医薬組成物は凍結乾燥医薬組成物であることが好ましい。
【0038】
凍結乾燥は、公知の凍結乾燥手法に従って、当業者が適宜条件等を設定して行うことができる。例えば市販の凍結乾燥機を用い、以下のステップ(1)〜(5)の順に実行されるよう設定して行うことができる。なお( )内は、各段階に要する時間を示した。
【0039】
(1)冷却する。例えば、室温から−40℃〜−50℃まで冷却する(0.3〜1.5時間程度)。
【0040】
(2)真空状態を維持しながら冷却状態を維持する。例えば、−40℃〜−50℃を維持する(12時間以上)。
【0041】
(3)真空状態を維持しながら冷却状態から室温まで戻す。例えば、−40℃〜−50℃から室温まで戻す(3〜15時間程度)。
【0042】
(4)真空状態を維持しながら室温を維持する(例えば3〜20時間程度)。
【0043】
(5)復圧する。
【0044】
ステップ(1)〜(5)からなる凍結乾燥医薬組成物の製造においては、上記のステップ(2)に要する時間を工夫するのが好ましく、該時間が、12時間以上であることが好ましい。
【0045】
凍結乾燥医薬組成物としては、その性質が下記(a)〜(d)の全ての条件を満たすものが特に好ましい。
【0046】
(a)性状:凍結乾燥医薬組成物を肉眼で観察した場合、凍結乾燥組成物のケーキの形状が錠剤状であり、かつ凍結乾燥組成物に注射用水を添加した場合、速やかに溶解し、かつ不溶性異物を認めない(凍結乾燥医薬組成物の性状が良好に保持されている)。通常、注射用水に10秒以内に溶解する。
【0047】
(b)安定性:凍結乾燥直後の単位重量あたりの酵素活性を100(%)とした場合、凍結乾燥組成物を8℃で12ヶ月、25℃で12ヶ月、又は40℃で6ヶ月間保存した時の酵素活性の相対値(%)が97%以上、好ましくは99%以上である。この安定性は、後述する実施例1中の「(1-2-2)安定性試験」に記載された方法で測定できる。
【0048】
(c)ゲル濾過クロマトグラフィーによる類縁物質ピーク:220nmの吸光度を測定した場合、当該吸光度の検出チャートにおけるPC−SOD(凍結乾燥医薬組成物)のピークの形状と、凍結乾燥前のPC−SODの当該ピークの形状との間に、実質的な差が認められない。該クロマトグラフィーは、後述する実施例1中の「(1-2-3-1)ゲル濾過クロマトグラフィーによる類縁物質ピークの検出試験」に記載された方法で測定するのが好ましい。
【0049】
(d)逆相クロマトグラフィーによる類縁物質ピーク:凍結乾燥組成物を8℃で12ヶ月、25℃で12ヶ月、又は40℃で6ヶ月間保存した時における、220nm及び270nmの吸光度の測定により検出される類縁物質の量が、凍結乾燥直後と実質的に変化しない。該クロマトグラフィーは、後述する実施例1中の「(1-2-3-2)逆相クロマトグラフィーによる類縁物質ピークの検出試験」に記載された方法で測定するのが好ましい。
【0050】
さらに本発明医薬組成物は、その凍結乾燥物を、8℃で36ヶ月、25℃で36ヶ月、又は40℃で6ヶ月間保存したいずれの時点においても上記(a)〜(d)に記載の全性質を維持しているものであることが好ましい。
【0051】
本発明にいう類縁物質は、主としてレシチンが種々の部分で切断されて生成した種々の物質からなり、遊離脂肪酸等が含まれる。これらの類縁物質はPC−SODに結合していたレシチンが切断されて生成するものと考えられ、PC−SODに結合していたレシチンが多量に切断されると、PC−SODとしての機能が減じられ、またそのような類縁物質が多量に含まれるとその医薬品としての品質、規格等の管理上好ましくない。
【0052】
本発明医薬組成物、さらには該組成物を種々の形態にしたものは、そのまま医薬品として投与するための最終剤形として用いうるが、他の剤形の医薬品、例えば、液剤、凍結乾燥剤等の原料として使用することもできる。
【0053】
本発明医薬組成物は、PC−SODを有効成分とする注射用製剤として使用するのが好ましい。例えば、本発明医薬組成物を溶液状態の注射用製剤として提供する場合、前記の方法で製造される溶液状態の本発明医薬組成物を、アンプル、バイアル、注射用シリンジ等の適当な容器に充填・密封し、そのまま流通させあるいは保存し、注射剤として投与に供することができる。
【0054】
本発明医薬組成物を凍結状態の注射用製剤として提供する場合、アンプル、バイアル、注射用シリンジ等の適当な容器中に、凍結状態の本発明医薬組成物を密封状態で保持させて、流通させあるいは保存し、投与前に融解させて注射剤として投与に供することができる。
【0055】
また、本発明医薬組成物を凍結乾燥状態の注射用製剤として提供する場合、アンプル、バイアル、注射用シリンジ等の適当な容器中に前記の方法で製造される凍結乾燥状態の本発明医薬組成物を密封状態で保持させて、流通させあるいは保存し、投与前に注射用蒸留水で溶解し、注射剤として投与に供することができる。凍結乾燥状態の本発明医薬組成物は、溶解用の溶媒とセットで提供してもよい。
【0056】
注射用製剤としては、凍結乾燥状態のものが好ましい。すなわち、本発明医薬組成物は注射用凍結乾燥組成物の形態であることが特に好ましい。
<2>本発明処置剤
本発明処置剤は、本発明医薬組成物からなる疾患の処置剤である。また本発明処置剤は、各種疾患の治療剤、予防剤、悪化防止剤、改善剤等の概念をも包含する。本発明処置剤の構成成分として用いるPC−SOD、シュークロース、これらの配合量、含有させてもよい他の成分、剤型等は、上記の本発明医薬組成物と全く同じ態様が採用できる。
【0057】
本発明処置剤を適用できる疾患は、PC−SODの作用によって処置(治療、予防、維持(悪化防止)、軽減(症状の改善)等)が可能な疾患である限りにおいて特に限定されない。
【0058】
PC−SODの作用によって処置が可能な疾患としては、過剰な活性酸素に起因する疾患が挙げられるが、より具体的には運動ニューロン疾患(例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性進行性筋萎縮症、家族性痙性麻痺、シャルコー・マリー足、進行性球麻痺、若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)等)、虚血再灌流障害、急性腎不全(腎前性急性腎不全、腎性急性腎不全、腎後性急性腎不全等)、ループス腎炎(正常糸球体におけるループス腎炎、メサンギウム増殖性変化を伴うループス腎炎、巣状分節状糸球体腎炎、びまん性増殖性糸球体腎炎、びまん性膜性糸球体腎炎、末期硬化性糸球体腎炎等)、脳血管障害(脳出血、高血圧性脳内出血、脳梗塞、脳血栓、脳塞栓、一過性脳虚血発作、高血圧性脳症等)に伴う機能障害(発語障害、麻痺による運動機能障害、視覚障害、聴覚障害、嗅覚障害、味覚障害等の感覚障害、痴呆等)、間質性肺炎、線維症(肺線維症等)、潰瘍性胃腸障害(潰瘍性大腸炎、クローン病等)、関節炎、熱傷等が挙げられ、これらのなかでも運動ニューロン疾患(特にALS)や潰瘍性胃腸障害(特に潰瘍性大腸炎やクローン病)が好ましい適用疾患である。また線維症(特に肺線維症)、間質性肺炎も好ましい適用疾患である。
【0059】
本発明処置剤は、含有するPC−SODの働きで、これらの疾患並びにこれら疾患に伴う症状に対して改善作用を有する。なお、ここに挙げた疾患名は例示であり、かかる例示疾患に本発明処置剤の適用範囲は限定されない。
【0060】
本発明においては、対象となる疾患の性質や進行段階に応じて、後述する剤形を本発明処置剤の剤形として適宜選択することが好ましい。
【0061】
本発明処置剤は、注射(筋肉内、皮下、皮内、静脈内等)、経口、吸入等の投与方法によって、経口あるいは非経口的に投与することができ、投与方法に応じ適宜製剤化することができる。剤形としては、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤、坐剤等が挙げられるが、注射剤が好ましく、静脈内投与用の注射剤とすることがより好ましい。
【0062】
本発明処置剤中の有効成分(PC−SOD)の量および当該処置剤の投与量は、製剤調製の方法、剤形、疾患の種類、当該処置剤の投与方法、投与形態、使用目的、患者の具体的症状(疾患の程度)、患者の体重等によって個別的であり特に限定されないが、例えば、臨床量として成人1人1日当り 0.5〜100mg(1500〜300000U)を例示することができる。また、上記製剤の投与間隔は1日1回程度でも可能であり、3〜4回に分けて投与することも可能である。
【0063】
また本発明処置剤は、前記の疾患を発症しうる脊椎動物、特に哺乳動物に投与する処置剤とすることができるが、ヒトの処置剤とすることが好ましい。
【0064】
<3>本発明抑制剤及び本発明抑制方法
上記の通り、PC−SODにシュークロースを共存させることにより該PC−SODの活性低下を抑制し、または、該PC−SODのカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現を抑制することができる。
従って本発明抑制剤は、シュークロースを有効成分とする剤であって、前記一般式(I)で表されるPC−SODと共存させることにより該PC−SODの活性低下を抑制し、または、該PC−SODのカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現を抑制するための剤である。好ましくは、前記PC−SODの活性低下の抑制、および該PC−SODのカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現の抑制の両方の目的のために使用される剤である。
【0065】
なお本発明抑制剤は、凍結乾燥医薬組成物の調製の際にPC−SODと共存させると、上記の抑制効果に加えてさらに凍結乾燥医薬組成物の性状を良好に保持させるという効果を発揮する。従って本発明抑制剤は、特に、前記PC−SODを含有する凍結乾燥医薬組成物を調製する際に前記PC−SODと共存させて用いることが好ましい。
【0066】
また本発明抑制方法は、上記一般式(I)で表されるPC−SODにシュークロースを共存させることにより該PC−SODの活性低下を抑制し、または、該PC−SODのカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現を抑制する方法である。好ましくは、本発明抑制方法は、前記PC−SODの活性低下の抑制、および該PC−SODのカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現の抑制の両方の目的のために使用される。
【0067】
本発明抑制剤の有効成分として用いるシュークロース、また本発明抑制方法に用いられるシュークロース、及びそのPC−SODへの添加量等は、前記<1>に記載したものと同様である。
【0068】
またPC−SODの活性低下抑制、カラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現抑制、また凍結乾燥医薬組成物の調製に用いた場合における凍結乾燥医薬組成物の性状の良好な保持は、後述の実施例に記載された方法で確認することができる。
【0069】
【実施例】
以下に、本発明を製造例及び実施例により具体的に説明する。しかしながら、これらにより本発明の技術的範囲が限定されるべきものではない。
【0070】
〔製造例〕
<1>ヒトCu/Zn SODの調製
該SODは、特開平6-199895号公報に記載された方法で調製したものを用いた。このヒトCu/Zn SODの111 位のアミノ酸はS−(2−ヒドロキシエチルチオ)システインとなっている。
【0071】
<2>PC−SODの調製
PC−SODは、特開平6-54681号公報に記載された方法によって、2−(4−ヒドロキシカルボニルブチロイル)リゾレシチンの活性エステル体を調製し、これと上記<1>のSODとを反応させることによって調製した。精製・濃縮後、蛋白質濃度をローリー法(Lowry, O.h.ら、J. Biol. Chem., 193 巻, 265 頁 (1951年))、SODの残存アミノ基をTNBS法(トリニトロベンゼンスルホン酸塩、Goodwin, J. F.ら、Clin. Chem., 16 巻, 24頁 (1970年))で分析することにより、SOD1分子あたりのレシチン誘導体の結合数を求めたところ、平均4.0個であった。このPC−SODの水溶液は青緑色〜緑色を呈し、pHは7〜8であった。また、分子量をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により調べたところ、PC−SODサブユニットのモノマー(PC−SODはサブユニットのホモダイマーである)あたり約18000であった。
【0072】
〔実施例1〕
本実施例において「PEG4000」とは、ポリエチレングリコール(平均分子量4000)をいう。
【0073】
(1)以下、本実施例で用いた方法をまとめて説明する。
(1-1)凍結乾燥
凍結乾燥機(モデルNo.RL402BS;共和真空製)を用いて溶液組成物を凍結乾燥した。なお凍結乾燥のプログラムは、下記表1のステップ(1)〜(5)の順に実行されるよう設定した。
【0074】
【表1】
【0075】
(1-2)各種試験方法
(1-2-1)性状試験
凍結乾燥された組成物について、以下の方法で組成物の性状を調べた。
【0076】
肉眼で観察して、凍結乾燥組成物のケーキの形状が錠剤状であり、かつ凍結乾燥組成物に注射用水を添加した際、10秒以内に溶解し、かつ不溶性異物を認めなかったものを「○」、凍結乾燥組成物のケーキの形状が錠剤状でなかったもの、又は凍結乾燥組成物に注射用水を添加した際、10秒以内に溶解しなかったかもしくは不溶性異物を認めたものを「×」として評価した。
【0077】
(1-2-2)安定性試験
凍結乾燥された組成物について、以下の方法で組成物中のPC−SODの酵素活性を測定した。
【0078】
凍結乾燥組成物に注射用水を添加して再溶解した溶液を用い、pH7.8、30℃の条件下でNBT(ニトロブルーテトラゾリウム)を用いてJ.Biol.Chem. Vol.244, No.22, 6049-6055(1969)に準じた方法により測定し、NBTの還元速度を50%阻害する酵素量を1Uとして求めた。凍結乾燥直後の酵素活性を100(%)とした時の保存後の酵素活性の相対値(%)を求めた。
(1-2-3)カラムクロマトグラフィーによる類縁物質ピークの検出試験
(1-2-3-1)ゲル濾過クロマトグラフィーによる類縁物質ピークの検出試験(以下、「GPC」と略記することもある)
凍結乾燥組成物に注射用水を添加して再溶解した溶液を試料とし、以下のカラム及び移動相を用いた高速液体クロマトグラフィーに付した。
【0079】
カラム:YMC-Pack Diol-200((株)ワイエムシイ製)
移動相:45%アセトニトリル/0.01M リン酸緩衝液
溶出液の220nmの吸光度を連続的に検出し、その検出チャートを得た。検出チャートにおけるPC−SODのピークの形状が、凍結乾燥前のPC−SODのピークの形状と実質的な差が認められなかった場合を「○」、凍結乾燥前のPC−SODのピークには認められないピークが認められた場合を「×」として評価した。
【0080】
(1-2-3-2)逆相クロマトグラフィーによる類縁物質ピークの検出試験(以下、「CN」と略記することもある)
上記(1-2-3-1)と同様に試料を調製し、以下のカラム及び移動相を用いた高速液体クロマトグラフィーに付した。
【0081】
カラム:シアノプロピル化シリカゲル((株)ワイエムシイ製)
移動相:アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸(アセトニトリルの20%〜90%の濃度勾配により溶出)
【0082】
溶出液の220nm及び270nmの吸光度を連続的に検出した。PC−SODのピーク(主要なピーク)の前に出現するピーク群(類縁物質のピーク群)の合計面積(SI)と、PC−SODのピークとSIとの合計面積(ST)を測定し、各々のサンプルについて類縁物質の量(SI/ST;%)を算出した。
【0083】
なお、後述の表7と表8については、比較を容易にするために、処方1における凍結乾燥直後の類縁物質の量を1としたときの相対値で示した。
【0084】
(2)PC−SOD含有医薬組成物についての試験
(2-1)組成物中の成分の種類による影響1
前記製造例で製造したPC−SOD(0.4mg/バイアル)及び下記の表2に示した各種成分(表中のカッコ内の数値は1バイアルあたりの重量を示す)を注射用水に溶解して溶液組成物を製造し、これを凍結乾燥した。
【0085】
この凍結乾燥物を、前記の各種試験に付した。結果を表2に示す。
評価項目中1つでも×があったものは「×」と判定し、評価項目中全く×がなかったものを「◎」と判定した。
【0086】
【表2】
【0087】
表2の結果から、PC−SODはシュークロースと共に配合することによって、極めて凍結乾燥医薬組成物の性状が良好となり、またカラムクロマトグラフィー(GPC)による分析の際の類縁物質ピークの出現が抑制されることが明らかになった。
【0088】
(2-2)成分の種類による影響2
前記製造例で製造したPC−SOD及び下記の表3に示した各種成分を注射用水に溶解して溶液組成物を製造し、0.5 mLずつバイアルに分注し、前記の方法で凍結乾燥した。
【0089】
なお表中の重量は、1バイアル中に含有される重量を示し、「−」は配合していないことを示す。
【0090】
【表3】
【0091】
上記処方1〜4の凍結乾燥医薬組成物を、以下の(a)〜(d)の時点において、性状試験、安定性試験、ゲル濾過クロマトグラフィーによる類縁物質ピークの検出試験および逆相クロマトグラフィーによる類縁物質ピークの検出試験に付した。
【0092】
(a)凍結乾燥直後(保存せず)
(b)凍結乾燥後、40℃で3ヶ月間保存した時点
(c)凍結乾燥後、25℃で3ヶ月間保存した時点
(d)凍結乾燥後、8℃で3ヶ月間保存した時点(処方1については6ヶ月間保存した時点)
各試験の結果を表4〜表7に示す。
(1)性状試験
【0093】
【表4】
【0094】
いずれの処方も、良好な性状を示した。
【0095】
(2)安定性試験
【0096】
【表5】
【0097】
ソルビトールとポリエチレングリコールとを含有する処方(処方4)は、他の処方に比してPC−SOD活性の低下が大きかった。
【0098】
(3)ゲル濾過クロマトグラフィーによる類縁物質ピークの検出試験
【0099】
【表6】
表6中、N.T.は試験していないことを示す。
【0100】
いずれの処方も、ゲル濾過クロマトグラフィーによる類縁物質ピークは検出されなかった。
【0101】
(4)逆相クロマトグラフィーによる類縁物質ピークの検出試験(220nm)
【0102】
【表7】
【0103】
ソルビトールとマンニトールとを含有する処方(処方3)及びソルビトールとポリエチレングリコールとを含有する処方(処方4)では、逆相クロマトグラフィーによる類縁物質ピークの面積が、シュークロースを含有する処方(処方1)の約1.4〜3.4倍であった。
【0104】
また上記処方において、PC−SODの含量を0.4mg、あるいは10mgとしたものについても同様に実験をした結果、同様の結果が得られた。
【0105】
以上の結果から、PC−SOD及びシュークロースを含有する凍結乾燥組成物は、他の処方に比して、(1)性状が良好であり、かつ(2)長期間の保存による酵素活性の低下が非常に少なく(極めて安定である)、かつ(3)ゲル濾過クロマトグラフィー及び逆相クロマトグラフィーによる類縁物質ピークが極めて少ないという極めて有利な効果を有することが見いだされた。
【0106】
〔実施例2〕
PC−SOD及びシュークロースを含有する凍結乾燥組成物が、より長期間の保存に耐えうるか否かを調べるために、以下の試験を行った。
【0107】
上記の処方1によりPC−SODを含有する凍結乾燥組成物を製造し、以下の(e)〜(h)の時点において、実施例1と全く同様の方法で各種試験を行った。本試験においては各処方においてそれぞれ3ロットを試験に供した。
【0108】
(e)凍結乾燥直後(保存せず)
(f)凍結乾燥後、40℃で6ヶ月間保存した時点
(g)凍結乾燥後、25℃で12ヶ月間(g-1)、24ヶ月間(g-2)、36ヶ月間(g-3)保存した時点
(h)凍結乾燥後、8℃で12ヶ月間(h-1)、24ヶ月間(h-2)、36ヶ月間(h-3)保存した時点
試験の結果をまとめて表8に示す。
【0109】
【表8】
【0110】
またこの処方において、PC−SODの含量を0.4mg、あるいは10mgとしたものについても同様に実験した結果をそれぞれ表9及び表10に示す。
【0111】
【表9】
【0112】
【表10】
【0113】
[実施例3]
前記製造例で製造したPC−SOD 30mg及びシュークロース50mgを注射用水に溶解して溶液組成物を製造し、1.5mLずつバイアルに分注し、前記の方法で凍結乾燥した。
【0114】
上記組成物の凍結乾燥直後、8℃で9ヶ月保存した時点において、比活性の測定方法を除き、実施例1と全く同様の方法で各種試験を行った。比活性は、凍結乾燥組成物に注射用水を添加して再溶解した溶液を用い、pH7.8、 25℃の条件下でシトクロムCを用いて J. Biol. Chem., Vol. 244, No.22, 6049-6055 (1969) に準じた方法により測定し、シトクロムCの還元速度を50%阻害する酵素量を1Uとして求めた。凍結乾燥直後の酵素活性を100(%)とした時の保存後の酵素活性の相対値(%)を求めた。試験の結果を表11に示す。
【0115】
【表11】
【0116】
以上の結果から、シュークロースは、従来知られている医薬担体(結合剤)としての効果の他に、PC−SODに添加することによって長期間保存後でも凍結乾燥医薬組成物の性状を良好に保持し、PC−SOD活性の低下を抑制し(安定に保持し)、かつゲル濾過クロマトグラフィー及び逆相クロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークを抑制する等の効果を発揮することが示された。
【0117】
【発明の効果】
本発明医薬組成物は、組成物中のシュークロースの作用により、長期間保存によるPC−SODの活性低下が少なく(安定性が高く)、凍結乾燥した場合の性状が良好で、かつカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現が抑制されているので、医薬品、例えば本発明処置剤の成分として有用である。
【0118】
本発明処置剤は、長期間保存によるPC−SODの活性低下が少なく(安定性が高く)、凍結乾燥した場合の性状が良好で、かつカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現が少ない医薬品として、例えば過剰な活性酸素に起因する疾患の処置剤として有用である。
【0119】
また本発明抑制剤は、PC−SODの長期間保存による活性低下を抑制し(安定性を保持させ)、凍結乾燥した場合の性状を良好に保ち、かつカラムクロマトグラフィーによる分析の際の類縁物質ピークの出現を抑制する作用を有するので、本発明医薬組成物や本発明処置剤を調製する際に有用である。
【0120】
【配列表】
Claims (15)
- 下記一般式(I)で表されるレシチン化スーパーオキシドジスムターゼ及びシュークロースを含有することを特徴とする医薬組成物。
SOD’(Q−B)m (I)
(式中、SOD’はスーパーオキシドジスムターゼの残基を表し、Qは−C(O)−(CH 2 ) n −C(O)−,nは2−10の整数を表し、Bはグリセロールの2位に水酸基を有するリゾレシチンのその水酸基の水素原子を除いた残基を表し、mはスーパーオキシドジスムターゼ1分子に対するリゾレシチンの平均結合数であって、1以上の正数を表す) - 下記の性質を有することを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
(a)性状:この医薬組成物を凍結乾燥したものに注射用水を添加すると溶解し、不溶性異物は認められない。
(b)安定性:この医薬組成物を凍結乾燥した直後における単位重量あたりのスーパーオキシドジスムターゼ活性を100とした場合、凍結乾燥した組成物を8℃で12ヶ月、25℃で12ヶ月、又は40℃で6ヶ月間保存した時点における該活性の相対値が、いずれも97%以上である。
(c)ゲル濾過クロマトグラフィーにおけるレシチン化スーパーオキシドジスムターゼ中のレシチンが種々の部分で切断されて生成した物質である類縁物質ピーク:凍結乾燥した組成物を再溶解し、ゲル濾過クロマトグラフィーにかけ、溶出液の220nmの吸光度を測定した場合、当該吸光度の検出チャートにおけるレシチン化スーパーオキシドジスムターゼのピークの形状と、凍結乾燥前のレシチン化スーパーオキシドジスムターゼの当該ピークの形状との間に差が認められない。
(d)逆相クロマトグラフィーにおけるレシチン化スーパーオキシドジスムターゼ中のレシチンが種々の部分で切断されて生成した物質である類縁物質ピーク:凍結乾燥した組成物を8℃で12ヶ月、25℃で12ヶ月、又は40℃で6ヶ月間保存した時点で再溶解し、逆相クロマトグラフィーにかけ、溶出液の220nm及び270nmの吸光度を測定した場合、検出されるレシチン化スーパーオキシドジスムターゼ中のレシチンが種々の部分で切断されて生成した物質である類縁物質の量が、いずれも凍結乾燥した直後におけるものと変化しない。 - 凍結乾燥した組成物を、8℃で36ヶ月、25℃で36ヶ月、又は40℃で6ヶ月間保存したいずれの時点においても請求項2に記載の全性質を維持していることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
- 医薬組成物中の脂肪酸含量が、0.13〜0.15μmol/mg蛋白である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- SOD’が、ヒトのスーパーオキシドジスムターゼの残基である、請求項1〜4いずれか1項に記載の医薬組成物。
- SOD’が、ヒトのスーパーオキシドジスムターゼのアミノ酸配列111位のアミノ酸がS−(2−ヒドロキシエチルチオ)システインとなったスーパーオキシドジスムターゼ修飾体の残基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- スーパーオキシドジスムターゼが、活性中心に銅と亜鉛を含むスーパーオキシドジスムターゼである、請求項5又は6に記載の医薬組成物。
- mが1〜12の正数である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- シュークロースが、活性炭処理されたシュークロースである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- 凍結乾燥医薬組成物の形態である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- レシチン化スーパーオキシドジスムターゼとシュークロースの重量比が0.4/100〜60/100である請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- 請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物からなる疾患の処置剤。
- 疾患が、運動ニューロン疾患又は潰瘍性胃腸障害である、請求項12に記載の処置剤。
- シュークロースを有効成分とする剤であって、下記一般式(I)で表されるレシチン化スーパーオキシドジスムターゼと共存させることにより該スーパーオキシドジスムターゼの活性低下を抑制し、かつ、該スーパーオキシドジスムターゼのカラムクロマトグラフィーによる分析の際のレシチン化スーパーオキシドジスムターゼ中のレシチンが種々の部分で切断されて生成した物質である類縁物質ピークの出現を抑制するための剤。
SOD’(Q−B)m (I)
(式中、SOD’はスーパーオキシドジスムターゼの残基を表し、Qは−C(O)−(CH 2 ) n −C(O)−,nは2−10の整数を表し、Bはグリセロールの2位に水酸基を有するリゾレシチンのその水酸基の水素原子を除いた残基を表し、mはスーパーオキシドジスムターゼ1分子に対するリゾレシチンの平均結合数であって、1以上の正数を表す) - 下記一般式(I)で表されるレシチン化スーパーオキシドジスムターゼにシュークロースを共存させることにより該スーパーオキシドジスムターゼの活性低下を抑制し、かつ、該スーパーオキシドジスムターゼのカラムクロマトグラフィーによる分析の際のレシチン化スーパーオキシドジスムターゼ中のレシチンが種々の部分で切断されて生成した物質である類縁物質ピークの出現を抑制する方法。
SOD’(Q−B)m (I)
(式中、SOD’はスーパーオキシドジスムターゼの残基を表し、Qは−C(O)−(CH 2 ) n −C(O)−,nは2−10の整数を表し、Bはグリセロールの2位に水酸基を有するリゾレシチンのその水酸基の水素原子を除いた残基を表し、mはスーパーオキシドジスムターゼ1分子に対するリゾレシチンの平均結合数であって、1以上の正数を表す)
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