JP3791771B2 - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築、橋梁、造船などにおける各種構造物の溶接に用いるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関し、アーク状態がきわめて良好で、スパッタ発生量が少なく、優れた溶接金属性能が安定して得られるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、石油プラントや発電設備で使用される圧力容器やペンストック等では、操業効率向上の目的でさらに高圧での操業が望まれており、構造物に使用される鋼材および溶接部の高強度化が進み、690MPa級高張力鋼の適用が増加しつつある。このような高張力鋼板の溶接に使用される溶接材料としては主としてソリッドワイヤが使用されている。その理由として溶接金属中の酸素が低い、溶け込みが深く融合不良やスラグ巻き込みなどの溶接欠陥がでにくい、等が挙げられる。しかし、ソリッドワイヤを用いた溶接ではスパッタ発生量が多いなどの溶接作業性の問題があるため、良好な溶接金属性能が得られる最適な成分設計のフラックス入りワイヤの開発が望まれていた。その一例として特開平9−253886号公報では、TiO2と金属弗化物を必須とするスラグ剤とC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Cu、Mg、Ti、Bを規定したフラックス入りワイヤが開示されている。しかし、この技術では充填率が16%と高いために溶け込み深さが浅くなり、融合不良等の溶接欠陥が生じやすいため、健全な溶接金属が得難い。
【0003】
また、490MPa級高張力鋼を使用した鋼建築構造物の鉄骨等の溶接には、溶接の高能率化を図るためにガスシールドアーク溶接が広く使用されている。しかし、近年では更なる高能率化が要求されており、溶接条件はより高入熱で高パス間温度側へと推移している状況である。
【0004】
例えば、図1(a)に示すようなレ型開先の溶接を行う場合、従来のYGW11系ワイヤの場合、入熱量20kJ/cm、パス間温度150℃以下といった比較的低入熱・低パス間温度で溶接を行うと、図1(b)に示すように積層数が多くなり、さらにパス間温度を一定に保つため溶接に掛かる時間が多大となる。そこで、入熱量を30〜40kJ/cmと高くすることにより、例えば図1(C)に示すように積層数が少なく、さらにパス間温度を例えば350℃以下と設定することにより溶接時間の短縮を図ることが可能となる。
【0005】
しかし、このような高入熱・高パス間温度の溶接では、アーク状態が不安定になり易く、スパッタ等の溶接作業性が劣化してしまう。さらに溶接金属の強度が低下し、靭性も劣化するため溶接部の機械的性質が低下してしまい、JIS規格を満足できなくなるものもある。また、建築鉄骨では、近年、より高靭性化を要求する傾向があり、高入熱・高パス間温度での溶接でも、十分な強度と靭性が高い溶接材料への要求が高くなっている。
【0006】
このような高入熱・高パス間温度の溶接条件における溶着金属の強度低下、靭性劣化を改善する手段としてTi−B、Mo、Cr、Ni等を添加した溶接材料の検討が行われている。
【0007】
その例として、特開昭63−157795号公報では、高入熱・高パス間温度における溶接において、ワイヤ中にTi−B、Ni等の合金元素を添加して靭性を改善したソリッドワイヤが紹介されている。また、特開平11−90678号公報では、ワイヤ中にTi−B、Moを添加することによって、高入熱・高パス間温度溶接において溶着金属の靭性に優れ、且つ、高COD値を有するソリッドワイヤが紹介されている。しかし、これらのワイヤでは、高入熱・高パス間温度溶接における溶着金属の強度低下、靭性劣化といった機械的性質については改善できるが、溶接中のアーク状態の不安定化、スパッタ発生量増加等の溶接作業性の劣化は改善されない。
【0008】
高入熱・高パス間温度溶接における溶着金属の機械的性質の改善を行いつつ、さらに溶接作業性を改善させる手段として、溶接作業性に優れるフラックス入りワイヤに合金添加を行う方法がある。フラックス入りワイヤにはスラグ系と総称されるスラグ成分を主に充填したワイヤと、メタル系と総称される金属成分を主に充填したワイヤがあり、フラックス充填率は10〜20%程度が主流で、JIS Z3313、他で規格化されており、これまで様々な目的に適応したフラックス入りワイヤが多数開発されている。
【0009】
例えば、特開平6−31483号公報では、充填フラックス中にCr、Nb、Vを添加することによって、高入熱溶接において溶着金属の強度低下や靭性劣化を改善すると共に、スパッタ発生量低減等の溶接作業性を改善したフラックス入りワイヤが紹介されている。しかし、この方法ではスパッタ発生量はさほど低減されておらず、アーク状態に関してもやや不安定であり、溶接作業性が十分に改善されているとはいえない。
【0010】
フラックス入りワイヤの大きな特徴として、ソリッドワイヤと比較してアーク状態の安定性等の溶接作業性が優れる反面、ビードを覆っているスラグ量が多く、溶接中のヒューム発生量も多い等の溶接作業上の問題がある。さらに、フラックス入りワイヤはソリッドワイヤに比べ溶込みが浅く、スラグ巻き込み、融合不良等の溶接欠陥が発生しやすい。
【0011】
また、従来の高入熱・高パス間温度で溶接を行う場合、溶接時間は高入熱で溶接を行うため、時間の短縮は行えるが、パス間温度に関しては例えば350℃以下と設定した場合でも、依然としてパス間温度が一定になるまで溶接が行えないため、能率が低下し、さらに温度管理が周囲の環境に大きく左右されるため、管理が非常に難しい。さらにパス間温度を設定しない、連続往復溶接を行った場合、従来の開示例では溶着金属の強度低下および靭性劣化を防ぐことはできない。
【0012】
以上述べたように、高入熱・連続往復溶接での溶着金属の強度低下、靭性劣化や溶接作業性の劣化を改善するためには、ソリッドワイヤおよびフラックス入りワイヤの双方の長所を兼ね備えたガスシールドアーク溶接用の細径ワイヤが望まれている。
【0013】
このようなフラックス入りワイヤの低スラグ化、低ヒューム化、深い溶込み深さ等の改善目的からフラックス充填率5%といった低充填率フラックス入りワイヤの技術開示が散見されている。しかし、従来のフラックス成分系では溶接スラグ過多、ヒューム発生量過多等の問題があり、このような低充填率ワイヤは実用化されていないのが実状である。
【0014】
例えば、ワイヤ断面率で5〜25%が開示されている特公昭51−1659号公報がある。この発明のフラックスのワイヤ断面積率は5%と低い例が開示されているが、充填フラックスはアーク安定剤としてグラファイトを必須成分とするTi、Al、Mg等からなるもので、その配合比は2〜10%、さらに脱酸剤を20〜90%含むものであって、且つ、実質的に金属成分を含まないフラックスを充填するワイヤである。しかし、グラファイトを含むアーク安定剤は、そのグラファイトとワイヤ中の酸素またはワイヤ表面の付着酸素とのCO反応によるアーク不安定化の要因を含み、アークが粗くなり溶接作業性を劣化してスパッタ発生量を増加させる。また、溶接金属中へのC歩留りが過多となり溶接金属性能の調整ができない。
【0015】
また、特開平6−218577号公報ではフラックス充填率5〜30%、MnおよびSの含有量そしてMn/Sの比を限定した鉄粉を40〜60%含むフラックスを充填したフラックス入りワイヤが開示されている。これはメタル系フラックス入りワイヤに属するワイヤであって、フラックス充填率が5%、10%のワイヤにおいて、このような金属粉からなる充填フラックスでは十分に安定したアークが得られず、フラックス入りワイヤとしての優れた溶接作業性と良好な溶接結果は得られない。
【0016】
さらに、特開平3−180298号公報では、一次防錆剤であるプライマを塗布された鋼鈑のすみ肉溶接時におけるピット、ガス溝防止のために、TiO2をベースとしてNa2Oを含有し、金属弗化物および水分をも必須とするワイヤを開示している。これはワイヤ重量比%で、低充填率のTiO2、Na2Oを必須として含むフラックス入りワイヤであり、金属弗化物および水分をも必須とするもので、その水分とガス放出の調整が容易ではなく、また、スラグの流動性が高く、ビード形成性、溶着金属の性質に問題がある。
【0017】
これらの溶接材料には、充填フラックス中にTi−B、Mo、Cr、Niといった高入熱・高パス間温度溶接における溶着金属の強度低下、靭性劣化を改善する合金元素の添加について開示がなく、高入熱、連続往復溶接では適用が困難である。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、溶着金属の強度および靭性を改善し、ソリッドワイヤの高溶着性能、生産性、低スラグ発生量および深溶込み性能とフラックス入りワイヤの優れた溶接作業性とを兼ね備えたガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明はフラックス入りワイヤ中に、Na 2 OとTiO 2 を含む合成物および特定範囲に限定されたC、Si、Mn、Mo、Ni、Ti、Bを含み、フラックス充填率を3〜7.5%と低充填化した高入熱、高パス間温度溶接において改善された効果が得られる新タイプのフラックス入りワイヤである。
【0020】
詳しくは、鋼製外皮フラックスを充填したアーク溶接用ワイヤであり、ワイヤ全質量%で、Na 2 OとTiO 2 を含む合成物:0.05〜1.8%含み、C:0.02〜0.15%、Si:0.02〜1.8%、Mn:0.8〜4.0%、Ni:1.5超〜3.0%、Mo:0.05〜0.7%、Ti:0.02〜3.0%を含有し、フラックス充填率が3〜7.5%である。
【0021】
前記成分にBを0.01%以下含有するワイヤ、また、さらにBiを0.025%以下含有するワイヤである。
【0022】
さらに鋼製外皮に継ぎ目がないワイヤである。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、充填フラックスに適正な範囲のSi、Mnからなる脱酸剤にアーク安定剤としてNa 2 OとTiO 2 を含む合成物を含有させることにより、溶接時の溶滴の離脱を促進して溶滴の細粒化および移行回数を増加させてアーク安定化を図り、適正な範囲のC、Si、Mnと共に、高入熱・高パス間温度溶接における溶着金属の強度低下、靭性劣化の問題に対してNi、Mo、Ti、Bを添加することによって改善し、フラックス入りワイヤを用いた溶接での問題である溶着速度が遅い、ヒュームが多い、溶込みが浅い、またスラグ発生量が多いなどに対して、フラックス充填率を3〜7.5質量%と低くすることで解決できることを究明した全く新しいガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤである。
【0024】
以下に本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分等限定理由を述べる。
【0025】
C:0.02〜0.15質量%(以下、%という。)について、Cは固溶強化による溶着金属の強度を調整する最も重要な元素の一つであり、靭性にも大きく関係する。そのため、Cの添加量が0.02%未満では、必要な強度が確保できず、また、0.15%を超えると溶接金属組織がマルテンサイト化し、強度が過剰に高くなり、靭性が劣化、さらにスパッタが多発して溶接作業性に悪影響を与える。
【0026】
Si:0.3〜1.8%について、Siは脱酸剤として使用し、溶接金属中の酸素量を低減させる効果がある。しかし、0.3%未満では脱酸力が不足して溶接金属にブローホールが発生し、また1.8%を超えると溶接金属中へのSi成分の歩留りが過大となって溶接金属の強度が高くなる。
【0027】
Mn:0.8〜4.0%について、Mnは溶接金属の脱酸を促進するとともに、溶融金属の流動性を高め、溶接ビード形状を改善する。また、溶接金属に歩留ることにより、溶接金属性能を調整し、その強度を高める効果がある。これらの効果を得るためには0.8%以上の添加が必要であるが、4.0%を超えると溶滴が大きくなり、スパッタ低減効果が無くなり、溶着金属への歩留りが過大となって溶接金属の強度が高くなる。
【0028】
Ni:1.5超〜3.0%について、Niは固溶強化により溶着金属の強度を調整する最も重要な元素の一つであり、靭性にも大きく関係する。そのため、Niの添加量が1.5%以下では、必要な強度および靭性が確保できず、また、3.0%を超えると強度が過剰に高くなる。
【0029】
Mo:0.05〜0.7%について、Moは溶着金属の組織を微細化し、溶接金属の強度を確保するために必要な元素である。しかし、0.05%未満では必要な強度が得られず、また、0.7%を超えると強度が過剰に高くなり、靭性が劣化する。
【0030】
Ti:0.02〜0.3%について、Tiは溶着金属の組織を微細化する働きがあり、溶接金属の強度、靭性を確保するために必要な元素である。しかし、0.02%未満では組織が微細化されず必要な靭性が確保されず、また、0.3%を超えると硬度上昇によって靭性が低下し、強度も必要以上に高くなる。
【0031】
上記CからTiまでの成分は主として金属脱酸剤または合金剤として作用するため、金属単体または合金の形態として鋼製外皮または充填フラックスに添加する。
【0032】
B:0.01%以下について、Bは少量の添加で溶接金属の焼き入れ性を高め、溶接金属の強度、靭性を良好にする。しかし、0.01%を超えると強度が過大となり靭性が劣化する。Bは金属単体、合金または酸化による添加の何れでも効果が発揮できるので、フラックスに添加する形態は自由である。
【0033】
Bi:0.025%以下について、Biは少量の添加で溶接中に発生する溶接スラグの剥離性を良好にする。しかし、0.025%を超えると溶接金属中に歩留まり、靭性が劣化する。
【0034】
次にアーク安定剤としてのNa 2 OとTiO 2 を含む合成物の添加量とその効果について記述する。
【0035】
Na2OおよびTiO2を含む合成物は、SiO2を含む三元系の合成物、Na2OおよびTiO2の割合が種々変化した合成物であっても同様な効果が得られ、本発明技術思想に含まれる。Na2OおよびTiO2を含む合成物はチタン酸ソーダであり、例えば、水酸化ナトリウムとルチールを所望の割合で配合して高温処理する方法で得られることができるが、Na2Oが10〜50%で、TiO2が50〜90%の範囲内での割合の合成物とすることが望ましい。例えば、13Na2O−80TiO2、20Na2O−73TiO2、42Na2O−53TiO2、あるいは13Na2O−25SiO2−58TiO2を主要成分とする合成物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
Na 2 OとTiO 2 を含む合成物:0.05〜1.8%について、Na 2 OとTiO 2 を含む合成物が0.05%未満では、ソリッドワイヤの溶接と同様に、溶滴が移行した瞬間に発生するアーク切れが防止できず、アーク状態が向上せず、スパッタ発生量が減少しないので、ソリッドワイヤを超える改善はできない。一方、1.8%を超えると、アーク切れは防止できるが、アーク長が必要以上に長くなり、その結果、スパッタ発生量が増加し、ヒュームの発生量も増加する。よって、Na 2 OとTiO 2 を含む合成物の添加量は0.05〜1.8%において溶接中のアーク状態が非常に良好で溶滴が小さく、スパッタ発生量がきわめて少ない。
【0037】
なお、アーク安定剤としてNa 2 OとTiO 2 を含む合成物とは別に、Na 2 OをNa 2 O換算値で0.43%以下、TiO 2 をTiO 2 換算値で1.32%以下をNa 2 OとTiO 2 を含む合成物との合計量で1.8%以下含むことができる。
【0038】
フラックス入りワイヤのフラックス充填率は3〜7.5%とする。フラックス充填率が3%未満であると、フラックス充填および成形が困難となり、生産性が悪くなる。また、フラックス充填率が7.5%を超えるとスラグ発生量、スパッタ発生量が増え、さらに溶込み深さが浅くなり、ワイヤの性能改善ができず、また、ワイヤ製造時の伸線性が劣り、断線による生産性の低下をきたす。
【0039】
本発明のフラックス入りワイヤの断面形状を図2(a)および(b)に示す。図2(a)は、軟鋼製のパイプの鋼製外皮1に充填フラックス2を充填した後、伸線した断面、または、帯鋼を成形工程でフラックス充填、O形に成形し、溶接、伸線したワイヤの断面の模式図である。この鋼製外皮に継ぎ目のないワイヤは大気中の水分を吸湿することなく、より良好な溶接金属性能を得ることができる。
【0040】
また、図2(b)に示す鋼製外皮1に継ぎ目を有するフラックス入りワイヤは、帯鋼を成形工程でフラックス充填後、O形に成形、さらに伸線したワイヤの断面模式図である。このワイヤにおいても充填率が低いことから外皮継ぎ目の接触部分が広くなり、充填フラックスと大気との遮断効果が大きく、大気水分の吸湿がきわめて少ない。また、鋼製外皮の継ぎ目形状は図示に限られるものではなく、斜め継ぎであってもよく、外気との遮断効果はさらに向上する。
【0041】
以上が本発明を構成する成分およびワイヤ構造であるが、充填フラックスに添加できる成分にはAl、Mg、Zr等の脱酸剤を通常のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤと同様に、溶接金属の脱酸不足によるブローホールの発生防止および、または機械的性質の調整のために含有させる。しかし、これらが過剰に含有されるとスラグ焼き付けによるスラグ剥離性不良、ビード外観不良、または溶接金属の強度が過大となり耐割れ性が劣化する。なお、脱酸剤は溶接金属中に歩留り合金剤として働く以外にもスラグ化し、溶融スラグの組成および生成量にも影響し、本発明の目的効果を損なう場合があるので、種類、含有量は適宜制限することが望ましい。
【0042】
また、充填フラックスに含まれる金属成分は鋼製外皮の成分とその含有量を考慮して各限定した範囲内で配合成分を調整する。
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの径は細径であり、溶接時の電流密度を高くし、高溶着率を得るために直径0.8〜2.0mmが好ましい。
【0043】
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを使用するアーク溶接時のシールドガスは、CO2ガスを使用して十分な溶接作業性が得られるが、さらに溶接作業環境面からヒューム発生量が少なくなるAr−CO2混合ガスを使用しても良い。
【0044】
本発明フラックス入りワイヤの基本とするアーク安定剤であるNa2OおよびTiO2を含む合成物の含有量とその作用および効果についての基本的な発明思想は、本発明者らが先に出願した特許願2000−18393号、特許願2000−18394号および特許願2000−18395号の出願において開示した技術思想を採用したものである。
【0045】
【実施例1】
表1に示す軟鋼パイプ(P1、P2、P3)および、継ぎ目ありワイヤ用の帯鋼(H1、H2、H3)を使用し、表3に示す組成のフラックスを充填後、圧延およびダイス伸線、軟化および脱水素処理として中間焼鈍を施し、ワイヤ記号S2、S10、S11、S13を除いてめっき処理を行いフラックス入りワイヤを製造した。
【0046】
表3に示すワイヤ記号S1〜S6は本発明の実施例であり、ワイヤ記号S7〜S13は比較例である。
【0047】
表2に示す鋼板を用いて図3に示す開先形状に、表4の溶接条件で溶接を行い、溶着金属性能試験を行った。また、スパッタ発生量、溶滴移行回数、溶滴移行回数の標準偏差、スラグ状態、溶込み深さの測定は、表8に示す成分の板厚20mm、幅60mm、長さ400mmの試験片を用いて表3の溶接条件で溶接を行った。
【0048】
スパッタ発生量は、1分間の連続溶接を行い、その溶接中に発生したスパッタの捕集作業を1つのワイヤに対して3回行い、その捕集量(g/min)の平均値で評価した。スパッタ発生量は捕集量が1.0g/min以下を良好とした。
アーク溶接の溶滴移行回数、溶滴移行周期の標準偏差については、溶接中のアーク現象を高速度ビデオカメラにて撮影し、1秒間の溶滴移行回数を計測し、1つのワイヤに対して3回行い、その平均値で評価した。溶滴移行回数は35回/sec以上を良好とした。
【0049】
スラグ状態については、溶接後の溶接ビード上に生成したスラグの生成量および剥離性を目視および小ハンマーよる打撃にて調査した。
【0050】
溶込み深さは下向きビードオンプレート溶接を行い、その溶接ビードを垂直方法に切断し、その断面を研磨、腐食してとけ込み状態を観察し、鋼板上面表面から溶込み最下部までの距離を計測し、3回計測した結果の平均値を溶込み深さとして評価した。溶込み深さは6mm以上を良好とした。
【0051】
溶接金属の機械的性質はJIS Z 3111に基づいて引張試験片(JIS Z 2201 A1号)および衝撃試験片(JIS Z 2242 4号)を作成し、試験した。引張強さは720〜800MPaを良好とし、衝撃値は0℃において70J以上を良好とした。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
表5に溶接試験結果および溶接作業性の評価結果を示す。
【0057】
【表5】
【0058】
本発明例であるワイヤ記号S1〜S6は、溶滴移行回数および溶滴移行周期の標準偏差はともに良好で安定した溶接を行うことができ、その結果、スパッタ発生量は少ない。また、ビード表面に生成するスラグは、ソリッドワイヤに比べてやや多いが、生成量自体は少量で、ビード表面に全体に薄く均一に生成しており、且つその剥離性は良好で、ハンマーで打撃を加えると容易に剥離して良好な結果が得られた。さらに溶込み深さに関しても、従来のフラックス入りワイヤよりも深く、ソリッドワイヤ並の深さが得られ、溶接欠陥の発生もなく非常に良好な結果であった。また、引張強さおよび靱性も良好な結果が得られ、極めて満足な結果であった。
【0059】
これに対し、比較例であるワイヤ記号S7〜S13は以下の如く、本発明に比較して問題点があった。
【0060】
ワイヤ記号S7は、アーク安定剤としてNa2OおよびTiO2を含む合成物の添加量が低いので、アークが安定せず溶滴移行回数が少なく、溶滴移行回数の標準偏差も大きく、スパッタ発生量も多かった。また、Cが低いので引張強さが低かった。
【0061】
ワイヤ記号S8は、Siが低いのでブローホール発生し、また、Niが低いので引張強さおよび靱性も低くなった。
【0062】
ワイヤ記号S9は、Siが高いので引張強度が高く、またTiが低いので靱性も低くなった。
【0063】
ワイヤ記号S10は、Mnが低いので引張強さが低く、ビード形状もやや不良となった。また、フラックス充填率が低いのでワイヤ生産性が悪かった。
【0064】
ワイヤ記号S11は、Mnが高いのでスパッタ発生量が多く、引張強さも高くなった。また、Biが高いので靱性も低くなった。
【0065】
ワイヤ記号S12は、Niが高いので引張強さが高くなった。また、フラックス充填率が高いのでスラグ生成量およびスパッタ発生量が多く、さらに溶け込み深さも浅くなった。
【0066】
ワイヤ記号S13は、アーク安定剤としてNa2OおよびTiO2を含む合成物の添加量が高いのでアーク長が必要以上に伸びてしまい、溶滴移行回数は多いがアークは安定せず、スパッタ発生量が多くなった。また、Moが低いので引張強さが低くなった。
【0067】
【実施例2】
表1に示す軟鋼パイプ(P1、P2、P3)および継ぎ目ありワイヤ用の帯鋼(H1、H2、H3)を使用し、表6に示す組成のフラックスを充填後、圧延およびダイス伸線、軟化および脱水素処理として中間焼鈍を施し、ワイヤ記号W2、W3、W4、W5、W8、W9、W10を除いてめっき処理を行いフラックス入りワイヤを製造した。
【0068】
表6に示すワイヤ記号W1〜W5は本発明の実施例であり、ワイヤ記号W6〜W14は比較例である。
【0069】
表8に示す鋼板を用いて図4に示す開先形状に、表7の溶接条件にて連続往復溶接を行い、溶着金属性能試験を行った。また、スパッタ発生量、溶滴移行回数、溶滴移行回数の標準偏差、スラグ状態、溶込み深さについては実施例1と同一の試験片を用いて表7の溶接条件にて溶接を行った。
【0070】
スパッタ発生量は、1分間の連続溶接を行い、その溶接中に発生したスパッタの捕集作業を1つのワイヤに対して3回行い、その捕集量g/minの平均値で評価した。スパッタ発生量は捕集量が1.0g/min以下を良好とした。
アーク溶接の溶滴移行回数、溶滴移行周期の標準偏差については、溶接中のアーク現象を高速度ビデオカメラにて撮影し、1秒間の溶滴移行回数を計測し、1つのワイヤの対して3回行い、その平均値で評価した。溶滴移行回数は40回/sec以上を良好とした。
【0071】
スラグ状態については、溶接後の溶接ビード上に生成したスラグの生成量および剥離性を目視および小ハンマーよる打撃にて調査した。
【0072】
溶込み深さは下向きビードオンプレート溶接を行い、その溶接ビードを垂直方法に切断し、その断面を研磨、腐食してとけ込み状態を観察し、鋼板上面表面から溶込み最下部までの距離を計測し、3回計測した結果の平均値を溶込み深さとして評価した。溶込み深さは7mm以上を良好とした。
【0073】
溶接金属の機械的性質はJIS Z 3111に基づいて引張試験片(JIS Z 2201 A1号)および衝撃試験片(JIS Z 2242 4号)を作成し、試験した。引張強さは520〜630MPaを良好とし、衝撃値は0℃において70J以上を良好とした。
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
表9に溶接試験結果および溶接作業性の評価結果を示す。
【0078】
【表9】
【0079】
本発明例であるワイヤ記号W1〜W5は、溶滴移行回数および溶滴移行周期の標準偏差はともに良好で安定した溶接を行うことができ、その結果、スパッタ発生量は少ない。また、ビード表面に生成するスラグは、ソリッドワイヤに比べてやや多いが、生成量自体は少量で、ビード表面に全体に薄く均一に生成しており、且つその剥離性は良好で、ハンマーで打撃を加えると容易に剥離して良好な結果が得られた。さらに溶込み深さも、従来のフラックス入りワイヤよりも深く、ソリッドワイヤ並の深さを持っており、溶接欠陥発生もなく非常に良好であった。また、引張強さおよび靱性も良好な結果が得られ、極めて満足な結果であった。
【0080】
これに対し、比較例であるW6〜W14は以下の如く、本発明例に比較して問題点があった。
【0081】
ワイヤ記号W6は、Cが低いので引張強さが低かった。また、フラックス充填率が低いので生産性が悪かった。
【0082】
ワイヤ記号W7は、フラックス充填率が高いのでスラグ生成量およびスパッタ発生量が多く、さらに溶け込み深さも浅くなった。また、Cが高いので引張強さが高くなった。
【0083】
ワイヤ記号W8は、Moが低いので引張強度が低くなった。また、Biが高いので靱性が低くなった。
【0084】
ワイヤ記号W9は、Moが高いので引張強度が高くなった。また、Tiが低いので靱性が低くなった。
【0085】
ワイヤ記号W10は、Niが低いので引張強度および靱性が低くなった。
【0086】
ワイヤ記号W11は、Tiが高いので引張強さが高くなり、靱性も低くなった。
【0087】
ワイヤ記号W12は、Bが低いのでやや靱性が低くなった。
【0088】
ワイヤ記号W13は、Biがないのでスラグ剥離性が悪くなった。
【0089】
ワイヤ記号W14は、Bが高いので引張強さが高くなり、靱性も低くなった。
【0090】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは溶着金属の強度低下、靭性劣化を改善し、アークが極めて安定し、溶滴が小さく安定して移行することによりスパッタ発生量も少なく、溶込みが深く、従来のソリッドワイヤおよびフラックス入りワイヤの良い点をさらに向上させ、溶接作業性および溶接ビード形状が良好であり、合金成分の添加調整が容易であることから、溶接部の高品質化、高能率化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 開先断面図および積層例を示しており、(a)はレ型開先断面図、(b)は比較的低入熱で溶接を行った場合の積層例、(c)は比較的高入熱で溶接を行った場合の積層例を示す模式図である。
【図2】 本発明ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの断面を示し、(a)は継ぎ目無しワイヤ、(b)は継ぎ目ありワイヤの断面模式図である。
【図3】 本発明の実施例1における溶着金属性能試験に使用した開先の模式図である。
【図4】 本発明の実施例2における溶着金属性能試験に使用した開先の模式図である。
【符号の説明】
1 鋼板
2 裏当材
3 レ型開先
4 多い積層数
5 少ない積層数
6 鋼製外皮
7 フラックス
8 継ぎ目
9 開先角度
10 エンドタブ
Claims (4)
- ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、鋼製外皮にフラックスを充填したワイヤのワイヤ全質量%で
Na 2 OとTiO 2 を含む合成物:0.05〜1.8%、
C:0.02〜0.15%、
Si:0.3〜1.8%、
Mn:0.8〜4.0%、
Ni:1.5超〜3.0%、
Mo:0.05〜0.7%、
Ti:0.02〜0.3%
を含み、フラックス充填率が3〜7.5%であることを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。 - Bを0.01%以下含むことを特徴とする請求項1記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- Biを0.025%以下含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- 鋼製外皮に継ぎ目のないことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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