JP3787180B2 - 多層プリント配線板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は多層プリント配線板およびその製造方法に係り、特に高精細なパターンを有し、かつ、各配線パターン層間の絶縁性能に優れた多層プリント配線板と、このような多層プリント配線板を簡便かつ低コストで製造することができる製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体技術の飛躍的な発展により、半導体パッケージの小型化、多ピン化、ファインピッチ化、電子部品の極小化などが急速に進み、いわゆる高密度実装の時代に突入した。それに伴って、プリント配線板も片面配線から両面配線へ、さらに多層化、薄型化が進められている。
【0003】
現在、プリント配線板の銅パターンの形成には、主としてサブトラクティブ法と、アディティブ法が用いられている。
【0004】
サブトラクティブ法は、銅張り積層板に穴を開けた後に、穴の内部と表面に銅メッキを行い、フォトエッチングによりパターンを形成する方法である。このサブトラクティブ法は技術的に完成度が高く、またコストも安いが、銅箔の厚さ等による制約から微細パターンの形成は困難である。
【0005】
一方、アディティブ法は無電解メッキ用の触媒を含有した積層板上の回路パターン形成部以外の部分にレジストを形成し、積層板の露出している部分に無電解銅メッキ等により回路パターンを形成する方法である。このアディティブ法は、微細パターンの形成が可能であるが、コスト、信頼性の面で難がある。
【0006】
多層基板の場合には、上記の方法等で作製した片面あるいは両面のプリント配線板を、ガラス布にエポキシ樹脂等を含浸させた半硬化状態のプリプレグと一緒に加圧積層する方法が用いれている。この場合、プリプレグは各層の接着剤の役割をなし、層間の接続はスルーホールを作成し、内部に無電解メッキ等を施して行っている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のサブトラクティブ法により作製された両面プリント配線板を用いた多層基板の作製は、両面プリント配線板の穴形成のためのドリル加工の精度と、微細化限界の面から高密度化に限界があり、製造コストの低減も困難であった。
【0008】
一方、近年では上述のような要求を満たすものとして、基材上に導体パターン層と絶縁層とを順次積層して作製される多層配線板が開発されている。この多層配線板は、銅メッキ層のフォトエッチングと感光性樹脂のパターニングを交互に行って作製されるため、高精細な配線と任意の位置での層間接続が可能となっている。
【0009】
しかしながら、この方式では銅メッキとフォトエッチングを交互に複数回行うため、工程が煩雑となり、また、基板上に1層づつ積み上げる直列プロセスのため、中間工程でトラブルが発生すると、製品の再生が困難となり、製造コストの低減に支障を来していた。
【0010】
また、従来の多層配線板においては、層間の接続がバイアホールを作成することにより行われていたため、煩雑なフォトリソグラフィー工程が必要であり、製造コスト低減の妨げとなっていた。
【0011】
さらに、高密度実装の進展により、多層基板においては薄型、軽量化と、その一方で単位面積当りの高い配線能力が要求され、また、一層当たりの基板の薄型化、層間の接続の容易性や層間の確実な絶縁性が要求されている。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、高精細なパターンを有し、各配線パターン層間の接続の容易性や層間の確実な絶縁性を有する多層プリント配線板と、このような多層プリント配線板をフォトリソグラフィー工程を含まず基板上への転写積層方式により簡便に製造することが可能な製造方法とを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明の多層プリント配線板の製造方法は、少なくとも表面が導電性の転写基板上に絶縁材料からなるパターンを形成し、前記パターンの形成されていない配線パターン部分にメッキ法により導電性層を剥離可能に形成した導電性層転写版と、少なくとも表面が導電性の転写基板上に絶縁材料からなるパターンを形成し、前記パターンの形成されていない配線パターン部分に絶縁層を剥離可能に形成した絶縁層転写版とを1組とした配線パターン層転写版を複数組作製し、次に、多層プリント配線板用の基板の一方の面に1組の前記配線パターン層転写版のうちの絶縁層転写版を前記絶縁層が前記基板に接するように圧着し、前記転写基板を剥離することにより前記絶縁層を前記基板上に転写し、その後、前記1組の配線パターン層転写版のうちの導電性層転写版を既に転写された絶縁層上に前記導電性層が接するように圧着し、前記転写基板を剥離することにより前記絶縁層上に前記導電性層を転写して、絶縁層と導電性層が積層されてなる配線パターン層を形成する操作を順次繰り返し、前記基板上に複数の前記配線パターン層を形成するような構成とした。
【0017】
また、本発明の多層プリント配線板の製造方法は、前記導電性層転写版の作製において、導電性層上にさらに接着層を形成し、前記絶縁層上への前記導電性層の転写において、前記接着層を介して前記導電性層を前記絶縁層に固着させるような構成とした。
【0018】
また、本発明の多層プリント配線板の製造方法は、前記絶縁層転写版の作製において、絶縁層上にさらに接着層を形成し、多層プリント配線板用の基板への前記絶縁層の転写において、前記接着層を介して前記絶縁層を前記基板に固着させるような構成とした。
【0019】
さらに、本発明の多層プリント配線板の製造方法は、前記配線パターン層が相互に交差する部位および/または前記配線パターン層が近接する部位の必要箇所に、各配線パターン層を構成する導電性層相互間に跨がるように接合部を形成することにより配線パターン層相互間を接続するような構成とした。
【0020】
このような本発明の多層プリント配線板では、絶縁層転写版および導電性層転写版を用いて別個に転写して、絶縁層と導電性層の積層体である配線パターン層が複数形成されるので、この多層プリント配線板は、いわゆる重ね刷り型の構造であり、各配線パターン層の導電性層は部分的に常に裸出されているとともに、各配線パターン層が交差する部位では、絶縁層により共各配線パターン層の導電性層間が確実に絶縁され、また、基板上におけるメッキおよびフォトエッチング工程は不要であり、多層配線板の製造工程の簡略化が可能となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は本発明の多層プリント配線板の一例を示す概略断面図である。図1において、多層プリント配線板1は、基板2と、基板2上に設けられた第1層目の配線パターン層3と、この配線パターン層3上に形成された第2層目の配線パターン層4と、更に配線パターン層4上に形成された第3層目の配線パターン層5とを備た3層構成の多層プリント配線板である。
【0023】
この多層プリント配線板1を構成する各配線パターン層3,4,5は、それぞれ導電性層3a,4a,5aと、この導電性層の下部に形成された絶縁層3b,4b,5bとを有している。そして、多層プリント配線板1は、各配線パターン層3,4,5を基板2の上、あるいは下層の配線パターン層の上に順次転写した重ね刷り型の構造であり、各配線パターン層が相互に交差する部位(交差部)では、上下の配線パターン層間の絶縁は上層の配線パターン層を構成する絶縁層により保たれている。
【0024】
このため、本発明の多層プリント配線板1は、従来の多層プリント配線板に見られたような絶縁層による配線パターンの被覆がなく、各配線パターン層3,4,5の導電性層3a,4a,5aは部分的に常に裸出されており、後述するように、配線パターン層の交差部あるいは各配線パターン層が相互に近接する部位(近接部)における各配線パターン層相互の接続を容易に行うことができる。
【0025】
本発明の多層プリント配線板1を構成する基板2は、ガラスエポキシ基板、ポリイミド基板、アルミナセラミック基板、ガラスエポキシとポリイミドの複合基板等、多層プリント配線板用の基板として公知の基板を使用することができる。この基板2の厚さは5〜1000μmの範囲であることが好ましい。
【0026】
各配線パターン層3,4,5の厚みは、後述する積層転写における下層の配線パターン層の乗り越えを欠陥なく行うために、100μm以下、好ましくは10〜60μmの範囲とする。また、各配線パターン層3,4,5を構成する導電性層3a,4a,5aの厚みは、配線パターン層の電気抵抗を低く抑えるため1μm以上、好ましくは5〜40μmの範囲とする。さらに、絶縁層3b,4b,5bの厚みは、使用する絶縁材料にもよるが、交差部において上下の配線パターン層間の絶縁を保つために少なくとも1μm以上、好ましくは5〜30μmの範囲とする。このような配線パターン層3,4,5の線幅は、最小幅10μm程度まで任意に設定することができる。
【0027】
導電性層3a,4a,5aの材料は、後述するようにメッキ法により薄膜形成が可能なものであれば特に制限はなく、例えば、銅、銀、金、ニッケル、クロム、亜鉛、すず、白金等を用いることができる。
【0028】
また、絶縁層3b,4b,5bの材料は 電着法、スキージを用いた塗布充填法、ディスペンス塗布法、あるいは、スクリーン印刷法等の公知の手段により膜形成が可能な絶縁材料であれば特に制限はない。例えば、常温もしくは加熱により粘着性を示すような絶縁材料を使用する場合、後述する製造工程において絶縁層自体が粘着性を有することになる。一方、粘着性や接着性を具備しない絶縁材料を使用する場合、後述するように基板2と絶縁層3b,4b,5bとの間、導電性層3a,4a,5aと絶縁層3b,4b,5bとの間に接着層を介在させることができる。
【0029】
絶縁層3b,4b,5bの材料として、例えば、常温もしくは加熱により粘着性を示す電着性絶縁物質を使用する場合、使用する高分子としては、粘着性を有するアニオン性、またはカチオン性の合成高分子樹脂を挙げることができる。
【0030】
具体的には、アニオン性合成高分子樹脂として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、マレイン化油樹脂、ポリブタジエン樹脂、エポキシ樹脂等を単独で、あるいは、これらの樹脂の任意の組み合わせによる混合物として使用できる。さらに、上記のアニオン性合成高分子樹脂とメラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等の架橋性樹脂とを併用してもよい。
【0031】
また、カチオン性合成高分子樹脂として、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等を単独で、あるいは、これらの任意の組み合わせによる混合物として使用できる。さらに、上記のカチオン性合成高分子樹脂とポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の架橋性樹脂とを併用してもよい。
【0032】
また、上記の高分子樹脂に粘着性を付与するためにロジン系、テルペン系、石油樹脂系等の粘着付与樹脂を必要に応じて添加することも可能である。
【0033】
上記の高分子樹脂は、後述する本発明の製造方法においてアルカリ性または酸性物質により中和して水に可溶化された状態、または水分散状態で電着法に供される。すなわち、アニオン性合成高分子樹脂は、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアミン類、アンモニア、苛性カリ等の無機アルカリで中和する。また、カチオン性合成高分子樹脂は、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、乳酸等の酸で中和する。そして、中和され水に可溶化された高分子樹脂は、水分散型または溶解型として水に希釈された状態で使用される。
【0034】
また、上記の粘着性を示す電着性絶縁物質の絶縁性、耐熱性等の信頼性を高める目的で、上記の高分子樹脂にブロックイソシアネート等の熱重合性不飽和結合を有する公知の熱硬化性樹脂を添加し、多層プリント配線板の全層を転写形成後、熱処理によってすべての絶縁層を硬化させてもよい。勿論、熱硬化性樹脂以外にも、重合性不飽和結合(例えば、アクリル基、ビニル基、アリル基等)を有する樹脂を電着性絶縁物質に添加しておけば、多層プリント配線板の全層を転写形成後、電子線照射によってすべての絶縁層を硬化させることができる。
【0035】
常温もしくは加熱により粘着性を示す絶縁層3b,4b,5bの材料としては、上記の他に、熱可塑性樹脂はもちろんのこと、熱硬化性樹脂で硬化後は粘着性を失うような粘着性樹脂でもよい。また、塗膜の強度を出すために有機あるいは無機のフィラーを含むものでもよい。
【0036】
また、絶縁層3b,4b,5bの材料は 常温もしくは加熱により流動性を示す電着性の接着剤であってもよい。
【0037】
次に、上記の多層プリント配線板1を例にして図2乃至図8を参照しながら本発明の多層プリント配線板の製造方法を説明する。
【0038】
まず、転写基板としての導電性基板11上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層12aを形成する(図2(A))。そして、所定のフォトマスクを用いてフォトレジスト層12aを密着露光し現像して、絶縁性のパターン12bを形成し、導電性基板11のうち配線パターン部分11aを露出させる(図2(B))。次に、導電性基板11の配線パターン部分11a上にメッキ法により導電性層14を形成する(図2(C))。これにより、剥離可能な導電性層13を有する第1層用の導電性層転写版10が得られる。
【0039】
また、転写基板としての導電性基板16上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層17aを形成する(図3(A))。そして、所定のフォトマスクを用いてフォトレジスト層17aを密着露光し現像して、絶縁性のパターン17bを形成し、導電性基板16のうち配線パターン部分16aを露出させる(図6(B))。この配線パターン部分16aは、上述の配線パターン部分11aと同じものである。次に、導電性基板16の配線パターン部分16a上に、例えば、電着法によって粘着性あるいは接着性の絶縁層18を形成する(図3(C))。これにより、剥離可能な絶縁層18を有する第1層用の絶縁層転写版15が得られる。
【0040】
上述にようにして作製した第1層用の導電性層転写版10と第1層用の絶縁層転写版15の組み合わせにより、第1層用の配線パターン層転写版が構成される。
【0041】
同様にして、図4および図5に示されるように、導電性基板21,26上に導電性層23、絶縁層28を有する第2層用の導電性層転写版20と第2層用の絶縁層転写版25とを作製して、第2層用の配線パターン層転写版を構成する。また、図6および図7に示されるように、導電性基板31,36上に導電性層33、絶縁層38を有する第3層用の導電性層転写版30と第3層用の絶縁層転写版35とを作製して、第3層用の配線パターン層転写版を構成する。
【0042】
尚、上述の例では、絶縁層は電着法により形成しているが、これに限定されるものではなく、スキージを用いた塗布充填法、ディスペンス塗布法、あるいは、スクリーン印刷法等の公知の手段により絶縁層を形成することができる。
【0043】
次に、基板2上に、上記の第1層用の配線パターン層転写版のうち、まず、絶縁層転写版15を絶縁層18が基板2に当接するように圧着する。この圧着は、ローラ圧着、プレート圧着、真空圧着等、いずれの方法にしたがってもよい。また、絶縁層18が加熱により粘着性あるいは接着性を発現する絶縁材料からなる場合には、熱圧着を行うこともできる。その後、導電性基板16を剥離して絶縁層18を基板2上に転写することにより、第1層目の配線パターン層3を構成する絶縁層3bを形成する(図8(A))。次に、上記の第1層用の配線パターン層転写版のうち、導電性転写版10を、既に転写形成されている絶縁層3b(18)上に導電性層13が当接するように圧着する。この圧着も、ローラ圧着、プレート圧着、真空圧着等、いずれの方法にしたがってもよく、また、熱圧着を行うこともできる。その後、導電性基板11を剥離して導電性層13を絶縁層3b上に転写することにより、第1層目の配線パターン層3を構成する導電性層3aを形成する(図8(B))。次いで、絶縁層3bを硬化するための加熱処理を行い、これにより、導電性層3aと絶縁層3bを有する第1層目の配線パターン層3を基板2上に形成する。
【0044】
その後、第1層目の配線パターン層3が転写形成された基板2上に、第1層目の配線パターン層に対する位置合わせを行ったうえで、まず、第2層用の配線パターン層転写版のうち絶縁層転写版25を用いて絶縁層4bを転写形成し、続いて、導電性層転写版20を用いて導電性層4aを絶縁層4b上に転写形成する。次いで、絶縁層4bを硬化するための加熱処理を行い、導電性層4aと絶縁層4bを有する第2層目の配線パターン層4を形成する(図8(C))。さらに、第1層目の配線パターン層3および第2層目の配線パターン層4が転写形成された基板2上に、第1層目および第2層目の配線パターン層に対する位置合わせを行ったうえで、まず、第3層用の配線パターン層転写版のうち絶縁層転写版35を用いて絶縁層5bを転写形成し、続いて、導電性層転写版30を用いて導電性層5aを絶縁層5b上に転写形成する。次いで、絶縁層5bを硬化するための加熱処理を行い、導電性層5aと絶縁層5bを有する第3層目の配線パターン層5を形成する(図8(D))。
【0045】
尚、上述の例では、絶縁層3b,4b,5bの各層を硬化するための加熱処理は、各導電性層3a,4a,5aが形成された後ごとに行っているが、導電性層を転写する前に加熱処理を行ってもよく、あるいは、導電性層3a,4a,5aをすべて転写した後、絶縁層3b,4b,5bを一括して硬化してもよい。
【0046】
上述のように、各配線パターン層3,4,5の形成は、配線パターン層転写版を構成する導電性層転写版10,20,30と、絶縁層転写版15,25,35とを使用し、絶縁層と導電性を別個に転写することにより行われるため、多層プリント配線板1は各配線パターン層3,4,5からなる、いわゆる重ね刷り型の構造である。そして、多層プリント配線板1を構成する配線パターン層3と配線パターン層4との交差部を示す斜視図である図9に示されるように、各配線パターン層の導電性層は部分的に常に裸出されたものとなり、交差部では、配線パターン層3と配線パターン層4との間の絶縁は上層である配線パターン層4を構成する絶縁層4bにより保たれている。各配線パターン層の導電性層は部分的に常に裸出されているため、配線パターン層の交差部、あるいは、図10に示されるように各配線パターン層が相互に近接する部位(近接部、図示例では配線パターン層3と配線パターン層4とが近接している)における各配線パターン層相互の接続を容易に行うことができる。
【0047】
また、上述のように、配線パターン層転写版を構成する導電性層転写版10,20,30と、絶縁層転写版15,25,35とを使用し、絶縁層と導電性層を別個に転写することにより各配線パターン層3,4,5が形成されるので、配線パターン層転写版作製段階における導電性層と絶縁層の接触がない。このため、電着法による絶縁層の形成時に導電性層の構成成分、例えば、銅イオンが絶縁層上に移行したり、アニオン型の電着液を用いた絶縁層形成時に銅の異常析出が発生したり電着液の劣化が生じるおそれがない。したがって、絶縁層は所期の絶縁性能を確実に発現することができ、各配線パターン層間の絶縁は確実なものとなる。
【0048】
図11は本発明の多層プリント配線板の他の例を示す概略断面図である。図11において、多層プリント配線板41は、絶縁性の基板42と、基板42上に設けられた第1層目の配線パターン層43と、この配線パターン層43上に形成された第2層目の配線パターン層44と、更に配線パターン層44上に形成された第3層目の配線パターン層45とを備えた3層構成の多層プリント配線板である。
【0049】
この多層プリント配線板41を構成する各配線パターン層43,44,45は、それぞれ導電性層43a,44a,45aと、この導電性層の下部に形成された接着層43b,44b,45b、絶縁層43c,44c,45cおよび接着層43d,44d,45dを有している。そして、多層プリント配線板41は、配線パターン層43を基板42の上に、また各配線パターン層44,45を下層の配線パターン層の上に順次転写した重ね刷り型の構造であり、各配線パターン層が相互に交差する部位(交差部)では、上下の配線パターン層間の絶縁は上層の配線パターン層を構成する絶縁層により保たれている。
【0050】
このため、本発明の多層プリント配線板41は、従来の多層プリント配線板に見られたような絶縁層による配線パターンの被覆がなく、各配線パターン層43,44,45の導電性層43a,44a,45aは部分的に常に裸出されており、後述するように、配線パターン層の交差部あるいは各配線パターン層が相互に近接する部位(近接部)における各配線パターン層相互の接続を容易に行うことができる。
【0051】
本発明の多層プリント配線板41を構成する基板42は、上述の多層プリント配線板1を構成する基板2と同様とすることができる。
【0052】
各配線パターン層43,44,45の厚みは、積層転写における下層の配線パターン層の乗り越えを欠陥なく行うために、100μm以下、好ましくは10〜60μmの範囲とする。また、各配線パターン層43,44,45を構成する導電性層43a,44a,45aの厚みは、配線パターン層の電気抵抗を低く抑えるため1μm以上、好ましくは5〜40μmの範囲とする。さらに、絶縁層43c,44c,45cの厚みは、交差部において上下の配線パターン層間の絶縁を保つために少なくとも1μm以上、好ましくは5〜50μmの範囲とする。また、接着層43b,44b,45bと接着層43d,44d,45dの厚みは、1μm以上、好ましくは1〜10μmの範囲とする。このような配線パターン層43,44,45の線幅は、最小幅10μm程度まで任意に設定することができる。
【0053】
導電性層43a,44a,45aの材料は、上述の多層プリント配線板1の導電性層3a,4a,5aと同様の導電材料を使用することができる。
【0054】
絶縁層43c,44c,45cは、基本的には上述の多層プリント配線板1の絶縁層3b,4b,5bと同様に、電着法、スキージを用いた塗布充填法、ディスペンス塗布法、あるいは、スクリーン印刷法等の公知の手段により膜形成が可能な絶縁材料であれば特に制限はない。しかしながら、接着層43d,44d,45dを介して絶縁層43c,44c,45cが積層され、接着層43b,44b,45bを介して導電性層43a,44a,45aが積層されているので、絶縁層43c,44c,45cは粘着性や接着性を具備しない絶縁材料を使用することができる。この場合、例えば、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、環状オレフィン、二酸化ケイ素、酸化チタン等を単独で、あるいは、これらの任意の組み合わせによる混合物等を使用することができる。
【0055】
接着層43b,44b,45bと接着層43d,44d,45dは、常温もしくは加熱により粘着性あるいは接着性を示すような粘着材料、接着材料を使用して形成することができる。具体的には、粘着材料および接着材料として、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン・ブタジエンゴム、ポリブチレン、ポリイソプレン、ポリスチレン等の合成高分子、または、天然ゴム等を使用することができる。
【0056】
次に、本発明の多層プリント配線板の製造方法による上記の多層プリント配線板41の製造方法を説明する。
【0057】
多層プリント配線板41の製造方法は、基本的に上述の多層プリント配線板1の製造方法と同じであり、多層プリント配線板用の基板上に、第1層目の配線パターン層43を構成する絶縁層43cと導電性層43aを順次転写し、次に、第2層目の配線パターン層44を構成する絶縁層44cと導電性層44aを順次転写し、さらに、第3層目の配線パターン層45を構成する絶縁層45cと導電性層45aを順次転写することによって、第1層目の配線パターン層43と、この配線パターン層43上に積層された第2層目の配線パターン層44と、更に配線パターン層44上に積層された第3層目の配線パターン層45とを備えた3層構成の多層プリント配線板41とするものである。
【0058】
但し、上述の多層プリント配線板1の製造方法と異なる点は、各絶縁層43c,44c,45cの転写をそれぞれ接着層43d,44d,45dを介して行う点、および、各導電性層43a,44a,45aの転写をそれぞれ接着層43b,44b,45bを介して行う点である。この相違点は、上述の多層プリント配線板1の製造方法において行われる導電性層転写版10,20,30(図2、図4、図6参照)の作製段階で、導電性層13,23,33の上に、さらに、接着層の形成を行い、また、絶縁層転写版15,25,35(図3、図5、図7参照)の作製段階で、絶縁層18,28,38の上に、さらに、接着層の形成を行うことにより生じるものである。接着層の形成は、上述のような常温もしくは加熱により粘着性あるいは接着性を示すような粘着材料、接着材料を使用して電着法、スクリーン印刷法、ディスペンス塗布法等の公知の手段により形成することができる。
【0059】
上述のように、各配線パターン層43,44,45の形成は、配線パターン層転写版を構成する導電性層転写版と、絶縁層転写版とを使用し、接着層を介して絶縁層と導電性を別個に転写形成することにより行われるため、多層プリント配線板41は各配線パターン層43,44,45からなる、いわゆる重ね刷り型の構造である。そして、この多層プリント配線板41を構成する配線パターン層43と配線パターン層44は、上述の多層プリント配線板1を構成する配線パターン層3と配線パターン層4と同様に、各配線パターン層43,44の導電性層43a,44aが部分的に常に裸出されたものとなり、交差部では、配線パターン層43と配線パターン層44との間の絶縁は上層である配線パターン層44を構成する絶縁層44cにより保たれている。また、配線パターン層の交差部、あるいは、各配線パターン層が相互に近接する部位における各配線パターン層相互の接続を容易に行うことができる。
【0060】
また、上述のように、配線パターン層転写版を構成する導電性層転写版と、絶縁層転写版とを使用し、接着層を介して絶縁層と導電性を別個に転写することにより各配線パターン層43,44,45が形成されるので、配線パターン層転写版作製段階における導電性層と絶縁層の接触がない。このため、電着法による絶縁層の形成時に導電性層の構成成分、例えば、銅イオンが絶縁層上に移行したり、アニオン型の電着液を用いた絶縁層形成時に銅の異常析出が発生したり電着液の劣化が生じるおそれがない。したがって、絶縁層は所期の絶縁性能を確実に発現することができ、各配線パターン層間の絶縁は確実なものとなる。
【0061】
次に、本発明の多層プリント配線板1を例に各配線パターン層の交差部あるいは近接部における接続について説明する。
【0062】
図12乃至図16は、多層プリント配線板1の配線パターン層の交差部の接続状態を示す斜視図である。図12は、上層の配線パターン層4に形成したスルーホールに接合部61を形成して接続したものである。また、図13は交差部の一部に接合部62を形成して配線パターン層3の導電性層3aと配線パターン層4の導電性層4aとを接続したものである。さらに、図14は配線パターン層3と配線パターン層4との交差部を覆うような接合部63を形成したものである。また、図15は近接部の一部に跨がるように接合部64を形成して配線パターン層3と配線パターン層4とを接続したものであり、図16は配線パターン層3と配線パターン層4との近接部を覆うような接合部65を形成して接続したものである。
【0063】
このような各配線パターン層の交差部あるいは近接部における接合部の形成による接続としては、(1) 印刷法、(2) ディスペンス法、(3) 超微粒子吹付け法、(4) レーザー描画法、(5) 選択無電解メッキ法、(6) 選択蒸着法、(7) 溶接接合法等が挙げられる。
【0064】
上記(1) の印刷法による多層プリント配線板1の配線パターン層の交差部あるいは近接部の接続は、印刷により各配線パターン層を構成する導電性層相互間に跨がるように導電ペーストまたはハンダを固着して接合部を形成することにより行うものである。用いる印刷方式は特に限定されるものではないが、一般に厚膜の印刷に適し、電子工業分野で多用されているスクリーン印刷が好ましい。スクリーン印刷を行う場合には、予め配線間の接続部に相当する部分に開孔部をもつスクリーン印刷版を作成し、多層配線板上に位置を合わせて配置し、銀ペースト等の導電性ペーストインキを印刷すればよい。
【0065】
また、上記(2) のディスペンス法による多層プリント配線板1の配線パターン層の交差部あるいは近接部の接続は、上記の印刷法に類似しているが、導電性のインキを微細なノズルから噴出させ、配線間に接合部を直接描画形成することにより行うものである。具体的には、一般に接着剤等を必要箇所に少量付着させるために用いられている針状の噴出口を有するディスペンサーが使用できる。また、使用する導電性インキの粘度によっては、コンピュータ等の出力装置に使用されているインクジェット方式も使用可能である。
【0066】
上記(3) の超微粒子吹付け法は、超微粒子を高速の気流に乗せて搬送し、多層プリント配線板に近接して設けられた微細なノズルから多層プリント配線板に吹き付けることによって、超微粒子と多層プリント配線板との衝突エネルギーにより相互に燒結して膜を形成する方法であり、ガスデポジション法と呼ばれている方法が利用できる。この方法に用いる装置は、基本的には高真空と低真空の2つの真空槽と、各真空槽を接続する接続パイプからなる。そして、超微粒子は、アルゴンガス等を導入した低真空槽内において真空蒸発法により形成され、また、基板は高真空槽内に設置されている。上記の接続パイプは、低真空槽内の超微粒子の発生する近傍と、高真空槽内の多層プリント配線板の近傍部であって、この配線板に直交する方向とに開口部を有している。各真空槽は、それぞれ真空排気系によって一定の圧力に保たれているため、各真空槽間の圧力差により接続パイプ内には低真空槽から高真空槽へ向かう高速の気流(ガス流)が発生し、低真空槽内で発生した超微粒子はこの気流に乗せられて高真空槽側へ搬送され、多層プリント配線板の配線パターン層に衝突して互いに燒結し膜状になる。金、銀、銅、ニッケル等の金属を母材にこの方法を用いることにより、配線間の接続を必要とする箇所に選択的に導電体(接合部)を形成することができる。
【0067】
上記(4) のレーザー描画法は、導電性の微粒子を分散した溶液を多層プリント配線板に塗布し、この塗膜の所望の箇所をレーザーによって加熱することにより、樹脂バインダーを分解あるいは蒸発させて除去し、この加熱箇所に導電性微粒子を析出、凝集させて選択的に導電体を形成するものである。溶液としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等に金、銀等の導電性微粒子を分散したものを用い、アルゴンレーザー等を絞って照射することにより、数十μm程度の細線を描画することができる。
【0068】
上記(5) の選択無電解メッキ法は、一般にフォトフォーミング法として知られている選択的な無電解メッキ技術を用いることができる。この技術は、還元可能で、かつ無電解メッキに対して触媒となる酸化状態の金属を含む感光剤層を多層プリント配線板上に形成し、この感光剤層を選択的に露光させることにより、無電解メッキに対して触媒となる金属粒子を析出させ、その後、無電解メッキ液に浸漬することにより露光部にのみ選択的なメッキを施すものである。
【0069】
また、上記(6) の選択蒸着法は、薄膜形成技術の一つである選択的膜堆積技術を用いるものである。すなわち、真空槽内に金属、炭素等の導電性元素を含む有機金属ガス、あるいは、導電性元素を含む有機物の蒸気を導入し、真空槽内に設置した多層プリント配線板表面に上記のガスあるいは蒸気を吸着させ、次に、レーザーあるいはイオンビームを、集光あるいは収束して基板に照射し、その部分に吸着しているガスあるいは蒸気を熱または衝突エネルギーによって分解して、金属、炭素等の導電性物質を多層プリント配線板上に堆積させるものである。このような選択蒸着法は、LSIの配線修正技術として実用化されている。具体的には、集光したアルゴンレーザーによってクロム、コバルト、白金、タングステン等を含む有機金属ガスを分解して、これらの金属を所望の修正箇所に堆積する技術、あるいは、ガリウムのイオンビームによってピレン等の有機材料の蒸気を分解して炭素膜を堆積する技術を用いることができる。
【0070】
さらに、上記(7) の溶接接合法は、配線パターン層の交差部をレーザーで選択的に加熱し、上下の配線パターン層の導電性層間に存在する絶縁樹脂層(上層を構成する絶縁樹脂層)を溶融・蒸発させ、さらに、導電性層自体も高温に加熱することによって、各配線パターン層を構成する導電性層を相互に融着して接合部を形成し接続するものである。
【0071】
さらに、本発明の多層プリント配線板を構成する配線パターン層相互の接続は、(8) ワイヤーボンディング法、(9) ワイヤーボンディング装置を用いた1ショット法、 (10) レーザーメッキ法、(11)導電体と半田メッキとの積層体の一括転写法、 (12) 金属塊挿入法、 (13) 無電解メッキ法等により行うことができる。上記(8) のワイヤーボンディング法は、例えば、図17に示されるように配線パターン層3,4の導通されていない近接部(交差部においても同様に対処可能である)を、ワイヤーボンディング装置を用いて、ワイヤーボンディングを行い、導電性層3aと4aとをワイヤーブリッジ66により接続する方法である。
【0072】
上記(9) のワイヤーボンディング装置を用いた1ショット法は、例えば、図18に示されるように配線パターン層3,4の導通されていない近接部(交差部においても同様に対処可能である)を、ワイヤーボンディング装置を用いて、1ショット(1回)のボンディングを行い、ブリッジなしの状態で導電性層3aと4aとをボンディング塊(パッド)67により接続する方法である。
【0073】
上記 (10) のレーザーメッキ法は、例えば、パラジウムメッキ液中に、接続操作前の多層プリント配線板を浸漬させた状態で、所定のスポット径、照射面でのパワー等を調整したレーザー(例えば、アルゴンレーザー)を、導通すべき近接部ないしは交差部に所定時間照射し、照射部分に例えばPd膜を所定厚さに析出させて接続する方法である。なお、好ましくは、パラジウムメッキ液を循環させながらレーザーを照射させるのがよい。また、メッキ液は水洗により除去され、図19に示されるごとく析出したメッキ膜68により導電性層3aと4aとの接続がなされる。
【0074】
上記(11)の導電体と半田メッキとの積層体の一括転写法は、図20(A),(B)に示されるごとく行われる。まず最初に、図20(B)に示されるように導電体層71と半田メッキ層72の積層体70を以下の要領で作製する。すなわち、導電性の基板75上に、レジスト法を用いて現像し所望のパターン(導電性パターン)を形成した転写基板の上に、例えば、電解メッキを施し導電体層71を形成し、この導電体層上に所定の半田メッキ浴組成物を用いて半田メッキを行い、半田メッキ層72を形成する。なお、半田メッキ層72は、半田メッキの他、半田ペーストのスクリーン印刷、ディッピングでも同様に形成可能である。このようにして積層した積層体70を、図20(A)に示されるように配線パターン層3,4の導通されていない近接部(交差部においても同様に対処可能である)に一括熱転写し、導電性層3aと4aとの接続を行う。この際、熱転写温度は半田メッキ層72が溶融変形可能な温度である200〜300℃程度の温度範囲で行われる。
【0075】
上記 (12) の金属塊挿入法は、図21(A)に示されるように配線パターン層3,4の導通されていない近接部の配線間隙に、例えば、直径30〜100μm程度の金属ボール81を配置し、しかる後、図21(B)に示されるようにその上から感圧接着剤を塗布したシート82を圧着し、導電性層3aと4aとを接続する方法である。なお、金属ボールの使用は、より好ましい使用態様であるが、球形でないいわゆる金属片(塊)のようなものでも使用可能である。また、このような金属ボール(塊)は、前記印刷法、ディスペンス法においても接続部の信頼性をより向上させるために使用することもできる。すなわち、金属ボールを設置した後に、前記の印刷ないしはディスペンスを行うのである。
【0076】
上記 (13) の無電解メッキ法を図22(A)〜(F)に基づいて説明する。まず、最初に図22(A)に示されるような配線パターン層3,4を備える多層プリント配線板上に無電解メッキ触媒を全面に塗布して触媒層91を形成する(図22(B))。次いで、この上にフォトレジストを塗布してレジスト層93を形成したのち、所定のフォトマスクを用いてレジスト層93を密着露光、現像し、配線パターンの接続すべき位置に相当する部分Hを露出させる(図22(C))。その後、この露出部分Hを活性化させた後、無電解メッキ行い接続部95を形成させ導電性層3aと4aとを接続する(図22(D))。しかる後、残余の不要なレジストおよび触媒層を順次、除去して、接続部95(触媒層91a)のみを残す(図22(E)、(F))。
【0077】
本発明の多層プリント配線板は、上述した(2) 〜(13)のような接続方式を用いることにより、スルーホールの形成箇所に拘束されずに任意の箇所で各配線パターン層間の接続ができるため、多層プリント配線板を作製した後の回路設計の変更の自由度が、従来の多層プリント配線板に比べて大きいものである。
【0078】
尚、上記の例では多層プリント配線板1は3層構成であるが、本発明の多層プリント配線板の製造方法は、同様の積層転写を繰り返し行うことにより所望の数の配線パターン層を備えた多層プリント配線板を製造することができる。
【0079】
また、2層構造の本発明の多層プリント配線板は、従来の両面プリント配線板の問題点、すなわち、両面プリント配線板の穴形成のためのドリル加工の精度から生じる高密度化における問題を解決することができる。これは、上述したように、本発明の多層プリント配線板では、各配線パターン層の導電性層が部分的に常に裸出しており、スルーホールを形成することなく配線パターン層の交差部、あるいは、近接部における各配線パターン層相互の接続を容易に行うことができるからである。
【0080】
【実施例】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)
(1) 導電性層転写版の作製(図2、図4、図6対応)
導電性の転写基板として、表面を研磨した厚さ0.2mmのステンレス板を準備し、このステンレス板上に市販のフォトレジスト(東京応化工業(株)製 PMER P-AR900)を厚さ8μmに塗布乾燥し、所定の配線パターンが形成されている3種のフォトマスクを用いてそれぞれ密着露光を行った後、現像・水洗・乾燥し、さらに熱硬化を行って絶縁パターンを備えた転写基板(3種)を作製した。
【0081】
次に、上記の3種の転写基板の各々と白金電極とを対向させて下記の組成のピロ燐酸銅メッキ浴(pH=8,液温=55℃)中に浸漬し、直流電源の陽極に白金電極を接続し、陰極に上記の転写基板を接続して、電流密度10A/dm2 で5分間の通電を行い、絶縁パターンで被覆されていない転写基板の露出部に厚さ10μmの銅メッキ膜を形成し導電性層とした。この導電性層形成を3種の転写基板について行って、3種の導電性層転写版A1、A2、A3を得た。
【0082】
(ピロ燐酸銅メッキ浴の組成)
・ピロ燐酸銅 … 94g/l
・ピロ燐酸銅カリウム … 340g/l
・アンモニア水 … 3g/l
(2) 絶縁層形成用溶液の調製
アクリル酸ブチル13.2重量部、メタクリル酸メチル1.6重量部、ジビニルベンゼン0.2重量部及び過硫酸カリウム1%水溶液85重量部を混合し、85℃で5時間重合して無乳化剤の乳化重合を行ってポリアクリル酸ブチルポリメタクリル酸メチル共重合エマルジョン溶液を調製した。
【0083】
次に、このエマルジョン溶液を72重量部、電着担体としてカルボキシル基を有するアクリル系共重合体樹脂2重量部、ヘキサメトキシメラミン0.85重量部、中和剤としてトリメチルアミン0.35重量部、エタノール3重量部、ブチルセルソルブ3重量部および水18.8重量部を混合攪拌し、アニオン型の電着性の絶縁層形成溶液を調製した。
(3) 絶縁層転写版の作製(図3、図5、図7対応)
導電性の転写基板として、表面を研磨した厚さ0.2mmのステンレス板を準備し、このステンレス板上に市販のフォトレジスト(東京応化工業(株)製 PMER P-AR900)を厚さ8μmに塗布乾燥し、所定の配線パターンが形成されている3種のフォトマスクを用いてそれぞれ密着露光を行った後、現像・水洗・乾燥し、さらに熱硬化を行って絶縁パターンを備えた転写基板(3種)を作製した。
【0084】
次に、上記(2)において調製したアニオン型の電着性の絶縁層形成溶液の中に、上記の絶縁パターンを形成した3種の転写基板の各々を浸漬し、直流電源の陽極に転写基板を接続し、陰極に白金電極を接続し、50Vの電圧で1分間の電着を行った。その後、180℃、30分間で乾燥して厚さ15μmの接着性を有する絶縁層を形成し、3種の絶縁層転写版a1、a2、a3を得た。尚、絶縁層転写版a1、a2、a3の絶縁層のパターンは、導電性層転写版A1、A2、A3の導電性層のパターンに対応したものである。
(4) 多層プリント配線板の作製(図8対応)
厚さ25μmのポリイミドフィルム基板上に、上記の(3)において作製した絶縁層転写版a1を下記の条件で圧着して第1層目の配線パターン層用の絶縁層を転写した。
【0085】
(圧着条件)
圧 力 : 10kgf/cm2
温 度 : 室温
続いて、上記の(1)において作製した導電性層転写版A1を、上記の転写された絶縁層に導電性層が接触するように圧着して、絶縁層上に第1層目の配線パターン層用の導電性層を転写した。この圧着条件は上記の圧着条件と同様とした。これにより、導電性層と絶縁層からなる第1層目の配線パターン層を転写した。
【0086】
その後、180℃、30分間の条件で接着層を硬化させて第1層目の配線パターン層とした。
【0087】
次に、第1層目の配線パターン層が形成されたフィルム基板上に、上記の(3)において作製した絶縁層転写版a2を上記と同様の条件で圧着して絶縁層を転写し、さらに、上記の(1)において作製した導電性層転写版A2を、上記の転写された絶縁層に導電性層が接触するように圧着して導電性層を絶縁層上に転写し、導電性層と絶縁層からなる第2層目の配線パターン層を転写した。
【0088】
その後、180℃、30分間の条件で接着層を硬化させて第2層目の配線パターン層とした。
【0089】
同様に、第2層目の配線パターン層が形成されたフィルム基板上に、上記の(3)において作製した絶縁層転写版a3を上記と同様の条件で圧着して絶縁層を転写し、さらに、上記の(1)において作製した導電性層転写版A3を、上記の転写された絶縁層に導電性層が接触するように圧着して導電性層を転写し、導電性層と絶縁層からなる第3層目の配線パターン層を転写した。
【0090】
その後、180℃、30分間の条件で接着層を硬化させて第3層目の配線パターン層とした。
【0091】
これにより、図1に示されるような3層の配線パターン層を備えた本発明の多層プリント配線板を作製した。
【0092】
この多層プリント配線板の絶縁層について、下記の条件で比抵抗を測定した結果、約1010Ω・cmであり、絶縁性に優れた絶縁層であることが確認された。
【0093】
(比抵抗の測定方法)
85℃、85%RHの高温高湿槽中で絶縁層を挟む上下の導電性層に約1週間(約168時間)電圧を30V印加し、その時の電流値を測定して抵抗、比抵抗に換算した。
(実施例2)
(1) 導電性層転写版の作製
導電性の転写基板として、表面を研磨した厚さ0.2mmのステンレス板を準備し、実施例1の(1)と同様にして転写基板の露出部に厚さ10μmの銅メッキ膜を形成し導電性層とした。この導電性層形成を3種の転写基板について行った。
【0094】
次に、接着剤(セメダイン(株)製EP−137−4)をディスペンス塗布法によって導電性層上に塗布し80℃で10分間乾燥して厚み10μmの接着層を形成し、3種の導電性層転写版B1、B2、B3を得た。
(2) 絶縁層形成用溶液の調製
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(エポキシ当量910)1000重量部を攪拌しながら70℃に保ち、これにエチレングリコールモノエチルエーテル46重量部を加えて溶解させ、さらにジエチルアミン80.3重量部を加えて100℃で2時間反応させてアミンエポキシ付加物を調製し成分Aとした。
【0095】
一方、コロネートL(日本ポリウレタン(株)製ポリイソシアネート;NCO含有13%、不揮発分75重量%)875重量部にジブチル錫ラウレート0.05重量部を加え、50℃に加熱して2−エチルヘキサノール390重量部を添加し、その後、120℃で90分間反応させた。得られた反応生成物をエチレングリコールモノエチルエーテル130重量部で希釈して成分Bとした。
【0096】
次に、上記の成分A1000重量部と成分B400重量部からなる混合物を氷酢酸30重量部で中和した後、脱イオン水570重量部を用いて希釈し、不揮発分50重量%の樹脂を調製した。
【0097】
次いで、上記の樹脂200.2重量部(樹脂成分86.3重量%)、脱イオン水583.3重量部およびジブチル錫ラウレート2.4重量部を配合して絶縁層用の電着液とした。
(3) 絶縁層転写版の作製
導電性の転写基板として、表面を研磨した厚さ0.2mmのステンレス板を準備し、このステンレス板上に市販のフォトレジスト(東京応化工業(株)製 PMER P-AR900)を厚さ8μmに塗布乾燥し、所定の配線パターンが形成されている3種のフォトマスクを用いてそれぞれ密着露光を行った後、現像・水洗・乾燥し、さらに熱硬化を行って絶縁パターンを備えた転写基板(3種)を作製した。
【0098】
次に、上記(2)において調製したカチオン型の電着性の絶縁層形成溶液の中に、上記の絶縁パターンを形成した3種の転写基板の各々を浸漬し、直流電源の陰極に転写基板を接続し、陽極に白金電極を接続し、50Vの電圧で1分間の電着を行った。その後、180℃、30分間で乾燥して厚さ20μmの絶縁層を形成した。
【0099】
次に、上記(1)の接着剤(セメダイン(株)製EP−137−4)をディスペンス塗布法によって絶縁層上に塗布し80℃で10分間乾燥して厚み10μmの接着層を形成し、3種の絶縁層転写版b1、b2、b3を得た。尚、絶縁層転写版b1、b2、b3の絶縁層および接着層のパターンは、導電性層転写版B1、B2、B3の導電性層のパターンに対応したものである。
(4) 多層プリント配線板の作製
厚さ25μmのポリイミドフィルム基板上に、上記の(3)において作製した絶縁層転写版b1を下記の条件で圧着して第1層目の配線パターン層用の絶縁層を接着層を介して転写した。
【0100】
(圧着条件)
圧 力 : 10kgf/cm2
温 度 : 120℃
続いて、上記の(1)において作製した導電性層転写反B1を、上記の転写された絶縁層に接着層が接触するように圧着して、絶縁層上に第1層目の配線パターン層用の導電性層を接着層を介して転写した。この圧着条件は上記の圧着条件と同様とした。これにより、導電性層、接着層、絶縁層および接着層からなる第1層目の配線パターン層を転写した。
【0101】
その後、180℃、30分間の条件で接着層を硬化させて第1層目の配線パターン層とした。
【0102】
次に、第1層目の配線パターン層が形成されたフィルム基板上に、上記の(3)において作製した絶縁層転写版b2を上記と同様の条件で圧着して接着層を介し絶縁層を転写し、さらに、上記の(1)において作製した導電性層転写反B2を、上記の転写された絶縁層に接着層が接触するように圧着して、絶縁層上に接着層を介して導電性層を転写した。これにより、導電性層、接着層、絶縁層および接着層からなる第2層目の配線パターン層を転写した。
【0103】
その後、180℃、30分間の条件で接着層を硬化させて第2層目の配線パターン層とした。
【0104】
同様に、第2層目の配線パターン層が形成されたフィルム基板上に、上記の(3)において作製した絶縁層転写版b3を上記と同様の条件で圧着して接着層を介して絶縁層を転写し、さらに、上記の(1)において作製した導電性層転写反B3を、上記の転写された絶縁層に導電性層が接触するように圧着して、絶縁層上に接着層を介して導電性層を転写した。これにより、導電性層、接着層、絶縁層および接着層からなる第3層目の配線パターン層を転写した。
【0105】
その後、180℃、30分間の条件で接着層を硬化させて第3層目の配線パターン層とした。
【0106】
これにより、図11に示されるような3層の配線パターン層を備えた本発明の多層プリント配線板を作製した。
【0107】
この多層プリント配線板の絶縁層について、実施例1と同様に比抵抗を測定した結果、約1010Ω・cmであり、絶縁性に優れた絶縁層であることが確認された。
【0108】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば絶縁層転写版および導電性層転写版を用いて絶縁層と導電性層を別個に転写して、絶縁層と導電性層の積層体である配線パターン層を基板上に多層に形成することができ、この多層形成は、絶縁層転写版と導電性層転写版を1組とした配線パターン層転写版を並行して複数組作製し、これらの配線パターン層転写版を用いて順次転写する並直列プロセスであるため、転写前の検査により不良品を排除することができ、製造歩留が向上するとともに、スループットが高く、さらに、従来基板上で行っていた配線層の形成やパターニングのためのメッキ、およびフォトエッチング工程は不要となり、製造工程の簡略化が可能となる。
【0109】
また、多層プリント配線板には、従来の多層プリント配線板に見られたような絶縁層による配線パターンの被覆がなく、各配線パターン層を構成する導電性層は部分的に常に裸出されており、各配線パターン層の交差部あるいは各配線パターン層が相互に近接する部位における各配線パターン層相互の接続を容易に行うことができ、汎用性の極めて高い多層プリント配線板であるとともに、上述のように絶縁層と導電性層とが別個に転写されるので、導電性層の構成成分が絶縁層中に移行することが有効に防止され、絶縁層は所期の絶縁性能を発現することができ、各配線パターン層が交差する部位では、絶縁層により共各配線パターン層の導電性層間が確実に絶縁される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多層プリント配線板の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の多層プリント配線板の製造方法に使用する配線パターン層転写版を構成する導電性層転写版の作製を説明するための図面である。
【図3】本発明の多層プリント配線板の製造方法に使用する配線パターン層転写版を構成する絶縁層転写版の作製を説明するための図面である。
【図4】本発明の多層プリント配線板の製造方法に使用する配線パターン層転写版を構成する導電性層転写版の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の多層プリント配線板の製造方法に使用する配線パターン層転写版を構成する絶縁層転写版の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の多層プリント配線板の製造方法に使用する配線パターン層転写版を構成する導電性層転写版の一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の多層プリント配線板の製造方法に使用する配線パターン層転写版を構成する絶縁層転写版の一例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の多層プリント配線板の製造方法を説明するための図面である。
【図9】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の交差部を示す斜視図である。
【図10】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の近接部を示す斜視図である。
【図11】本発明の多層プリント配線板の他の例を示す概略断面図である。
【図12】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の交差部における接続状態を示す斜視図である。
【図13】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の交差部における接続状態を示す斜視図である。
【図14】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の交差部における接続状態を示す斜視図である。
【図15】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の近接部における接続状態を示す斜視図である。
【図16】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の近接部における接続状態を示す斜視図である。
【図17】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の近接部における接続状態を示す斜視図である。
【図18】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の近接部における接続状態を示す斜視図である。
【図19】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の近接部における接続状態を示す斜視図である。
【図20】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の近接部における接続状態を説明するための図である。
【図21】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の近接部における接続を順次形成する状態を示す斜視図である。
【図22】本発明の多層プリント配線板の配線パターン層の近接部における接続状態を説明するための図である。
【符号の説明】
1,41…多層プリント配線板
2,42…基板
3,4,5,43,44,45…配線パターン層
3a,4a,5a,43a,44a,45a…導電性層
3b,4b,5b,43c,44c,45c…絶縁層
43b,44b,45b,43d,44d,45d…接着層
10,20,30…導電性層転写版
15,25,35…絶縁層転写版
11,21,31…転写基板
13,23,33…導電性層
18,28,38…絶縁層
61,62,63,64,65,66,67,68,70,81,91…接合部
Claims (4)
- 少なくとも表面が導電性の転写基板上に絶縁材料からなるパターンを形成し、前記パターンの形成されていない配線パターン部分にメッキ法により導電性層を剥離可能に形成した導電性層転写版と、少なくとも表面が導電性の転写基板上に絶縁材料からなるパターンを形成し、前記パターンの形成されていない配線パターン部分に絶縁層を剥離可能に形成した絶縁層転写版とを1組とした配線パターン層転写版を複数組作製し、次に、多層プリント配線板用の基板の一方の面に1組の前記配線パターン層転写版のうちの絶縁層転写版を前記絶縁層が前記基板に接するように圧着し、前記転写基板を剥離することにより前記絶縁層を前記基板上に転写し、その後、前記1組の配線パターン層転写版のうちの導電性層転写版を既に転写された絶縁層上に前記導電性層が接するように圧着し、前記転写基板を剥離することにより前記絶縁層上に前記導電性層を転写して、絶縁層と導電性層が積層されてなる配線パターン層を形成する操作を順次繰り返し、前記基板上に複数の前記配線パターン層を形成することを特徴とする多層プリント配線板の製造方法。
- 前記導電性層転写版の作製において、導電性層上にさらに接着層を形成し、前記絶縁層上への前記導電性層の転写において、前記接着層を介して前記導電性層を前記絶縁層に固着させることを特徴とする請求項1に記載の多層プリント配線板の製造方法。
- 前記絶縁層転写版の作製において、絶縁層上にさらに接着層を形成し、多層プリント配線板用の基板への前記絶縁層の転写において、前記接着層を介して前記絶縁層を前記基板に固着させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多層プリント配線板の製造方法。
- 前記配線パターン層が相互に交差する部位および/または前記配線パターン層が近接する部位の必要箇所に、各配線パターン層を構成する導電性層相互間に跨がるように接合部を形成することにより配線パターン層相互間を接続することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の多層プリント配線板の製造方法。
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