JP3782055B2 - 補強土構造物 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本願発明は擁壁などとして構築される補強土構造物に関し、特に盛土補強材として金属製補強材と合成樹脂製補強材とを併用することで、壁面に一定の変位を許容しつつ、壁面の過大な変位を防止して非常に安定した補強土構造物を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
補強土工法として、例えば図20(a)に図示するようにコンクリート製または鋼製の壁面材30を複数層に積層しつつ、その背部に粗粒土を主とする盛土31を一定の層厚ごとにまき出し、充分に転圧した後、盛土補強材32として例えば帯状鋼製材などを一定間隔に埋設し、その端部を壁面材30に定着して擁壁などの補強土構造物を構築する補強土工法が知られている(特許文献I参照)。
【0003】
【特許文献】
特開2000−000号
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本工法においては、盛土補強材32には引張り、圧縮、曲げおよびせん断の各外力が作用し、主として引張力が作用した場合、その原理から盛土補強材32に伸びが生じ、その引張力が盛土31に付与される。このため、盛土補強材32の伸びが大きすぎると壁面が土圧によって大きく変位する等して美観上からも安定性からも問題があった。
【0005】
その一方で、壁面材30の変位を完全に押さえるために壁面を剛体にすると、土圧が非常に大きくなって壁面が破壊しやすくなる。また、盛土補強材32の剛性が大きくなっても伸びが小さいと壁面に作用する土圧が大きくなって壁面が破壊しやすくなる。このため、壁面に撓み機能を持たせ、ある程度の変位を許容しながらも過大な変位を生じない構造とすることが望ましい。
【0006】
また、盛土31が沈下した場合、壁面自体は剛体であるため壁面材30と盛土31との間に相対変位が生じる。このため、盛土補強材32として帯鋼などの金属製補強材が用いられた場合、金属製補強材の曲げ剛性は大きいことから例えば図20(b)に図示するように、金属製の盛土補強材32には曲げモーメントM1 が発生し、この曲げモーメントM1 は盛土補強材32と壁面材30との連結部から1m付近までの間において最も集中しやすく、このため壁面材30が上方に力を受けて変位しやすくなるという問題があった。
【0007】
本願発明は以上の課題を解決するためになされたもので、特に壁面に一定の変位を許容しつつ、壁面の過大な変位を防止して非常に安定した補強土構造物を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の補強土構造物は、複数の壁面ブロックを積層し、当該壁面ブロックの背部に盛土を充填して盛土層を形成し、当該盛土層内に盛土補強材を複数層に埋設するとともに前記壁面ブロックに定着してなる補強土構造物において、前記壁面ブロックと前記盛土層との間に礫または砕石を充填して一定厚の礫層を形成し、前記盛土層と礫層内に盛土補強材として金属製補強材を複数層に連続して埋設し、前記礫層内の前記金属製補強材間に盛土補強材として複数の合成樹脂製補強材を埋設し、前記金属製補強材の先端側は当該金属製補強材の先端部に形成されたフックを前記壁面ブロックに形成された定着溝または輪環に挿入することにより定着し、前記金属製補強材の後端側は当該金属製補強材の後端部に形成されたフックを前記盛土層に埋設された支圧ブロックに形成された孔に挿入することにより定着してなることを特徴とするものである。
【0009】
本願発明は、特に金属製補強材の端部が定着された上下の壁面ブロック間に、面状に形成された合成樹脂製補強材の端部が定着された壁面ブロックを積層することで、壁体に大きな土圧が作用した場合、例えば図6(b)に図示するように、上下層に位置する伸びの少ない金属製補強材の定着された壁面ブロックは変位しにくいが、面状に形成された合成樹脂製補強材の定着された壁面ブロックが合成樹脂製補強材の伸びにより変位することで、その背面側にゆるみが生じるため壁面に作用する土圧が低減される。また、伸びの少ない金属製補強材の働きによって壁面全体が大きく変位することもない。
【0010】
このため、壁面全体の変位は景観上および構造上全く問題にならない許容範囲内にとどまり、また壁面ブロックに作用する土圧も非常に小さいため、壁面ブロックはせいぜい多少の変位にとどまり、したがって壁面ブロックが壁面の外側に完全に押し出されたりせず、また壁体自体が土圧によって大きく変位したり、破壊されるまでには至らず、壁面全体の安定が保たれる。
【0011】
また、上述した理由により壁体に過大な土圧が作用しにくいことから、壁面材として簡単な材質(例えば比較的低強度の壁面材)からなる壁面材が用いられている場合でも、壁体が過大な土圧を受けて破壊に至ることはない。
【0012】
また、合成樹脂製補強材としてジオグリッド、ジオテキスタイル、樹脂シートまたは不織布などが用いられていることで、盛土の沈下を防止して盛土全体を水平に保持することができる。また、ジオグリッド等の合成樹脂製補強材と盛土との一体化により、金属製補強材と壁体との連結部にほとんど曲げ応力は発生しない。さらに、合成樹脂製補強材は盛土の変位に追従し、しかも盛土の保持力に非常にすぐれているため、壁面ブロックとして簡単な壁面材を用いても壁体全体が破壊に至ることはない。
【0014】
請求項2記載の補強土構造物は、請求項1記載の補強土構造物において、各段の隣接する壁面ブロック間に、当該壁面ブロックの双方に設けられた表面フランジと背面フランジとウェブとからなる空洞部を形成し、当該空洞部に礫または砕石を充填してなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3記載の補強土構造物は、請求項1または2記載の補強土構造物において、金属製補強材が定着された壁面ブロック間に合成樹脂製補強材が定着された壁面ブロックを複数層に積層してなることを特徴とするものである。
本願発明の場合、特に金属製補強材の定着された上下の壁面ブロック間に、面状に形成された合成樹脂製補強材の定着された壁面ブロックを積層し、その積層数を適当に増減することで、壁体に大きな土圧が作用した際の壁面の変位量を調整することができる。
すなわち、面状に形成された合成樹脂製補強材の定着された壁面ブロックの積層数を一段とした場合より複数段とするほうが、壁体全体の剛性が小さくなって変位しやすくなるため過大な土圧を容易に吸収することができる。
【0016】
請求項4記載の補強土構造物は、請求項1〜3のいずれかに記載の補強土構造物において、金属製補強材として鋼棒、帯鋼または形鋼を埋設してなることを特徴とするものである。
【0017】
補強土工法において、壁面材として複数の壁面ブロックを積層して構築された壁面は、一般に前方向に撓む性質を有するため、背部に充填された盛土による背面土圧が低減され、水平方向の変位に対し破壊されにくいという利点がある。
【0018】
しかし、例えば図4(a),(b)に図示するように、壁面ブロック1の背部に盛土として砂質土やそれより細粒子の現地発生材を充填した場合、壁面ブロックそのものは剛体であるのに対し、盛土は時間の経過とともに徐々に沈下するため、壁面ブロックと盛土との間に相対変位が生ずる。
【0019】
このため、盛土内に埋設された盛土補強材が鋼棒などの剛性材である場合、壁面ブロック1近くの20cm〜100cm位の位置で急角度の大きな曲げモーメントM1 が発生しやすいことがわかった。特に盛土補強材として金属製補強材が用いられている場合、或いは盛土補強材が壁面材に金属製連結部材によって定着されている場合、金属製補強材および金属製連結部材は剛性が大きいため曲げ変形による曲げ応力が集中しやすい。
【0020】
これに対し、例えば図4(c),(d)に図示するように、壁面ブロックの背面側(通常は20cm〜100cm程度あればよい)に、盛土として沈下しにくいが、ある程度の沈下を許容する砕石または礫を充填すると、盛土の沈下にともなって盛土補強材が変形したとしても、ブロックの直近では殆ど水平を維持し、盛土補強材に発生する曲げモーメントM2 は小さく、盛土補強材はゆるやかに変形するのみで、大きな曲げ変形による盛土補強材の応力集中は生じないし、また連結部が破損することもない。
【0021】
この結果、水平方向および鉛直方向の盛土の変位に対しても金属製の盛土補強材は破壊しにくく、また壁面ブロックが変位しにくい補強土構造物を構築することができる。
【0022】
また、従来、金属製の盛土補強材は剛性が大きいため、壁面ブロック近くで盛土補強材に作用する曲げ変形が過大になると、壁面ブロックは外側への力を受け、このため盛土補強材の連結されていない壁面ブロックが移動しやすいという課題があった。
【0023】
また、これまで、金属製の盛土補強材に発生する曲げモーメントは、すべり面付近で最大になると考えられていたが、実際には、例えば図4(a),(b)に図示するように、壁面ブロック(壁面)から20cm〜100cmより壁面側の範囲で最大になることがわかった。この曲げモーメントM1 を低減するには、例えば図4(c),(d)に図示するように、壁面ブロックからなる壁体の背部に礫や砕石などの粗骨材を一定範囲(壁体背面から20cm〜100cm程度の範囲)にわたって充填することにより壁体背部の剛性を高くすればよいことがわかった。
【0024】
そこで、上記した構造とすることにより、壁面が壊れにくく、しかも壁面変位が少ないという長所を有し、しかも盛土の沈下によって盛土補強材の曲げモーメントが過大にならず、小さい値で分布することにより、沈下性の大きい現場発生材を用いても壁面変位が少なく、非常に安定したブロック式補強土構造物を構築することができる。
【0025】
また、いずれの補強土構造物においても、壁面ブロックとしては、少なくともそのままでも自立できるような形状であれば、特に形状は限定されるものではなく、また金属製補強材としては、帯鋼や形鋼などの鋼材、あるいは鉄筋などの鋼棒や鋼棒を組み合わせた鉄筋メッシュなどを使用することができる。
【0026】
また、金属製補強材は壁面ブロックの背面部または上端部に直接または定着金具や連結キーなどを介して間接的に連結されていてもよい。
【0027】
また、壁面ブロックを積層する場合、例えば横方向に隣接する各段の壁面ブロック間の目地部が上下方向に連続しないで左右に交互にずれる、いわゆる「やぶれ目地」となるように、各段の壁面ブロックを積層し、これに伴い各段の壁面ブロックの上端部に突設された突起部が、その上側に積層された壁面ブロック間に設けられた各空洞部とそれぞれ係合することで、上下壁面ブロックどうしを、突起部と空洞部が係合する、いわゆる「インターロッキング方式」によって横ずれしないように、また上下の壁面ブロック層が前後にずれないように接合することができる。
【0028】
また、盛土補強材の壁面側の端部を壁面ブロックの溝または孔に挿入し、その上に壁面ブロックを重ねることにより盛土補強材の端部をインターロッキングで壁面に定着することがてきる。
【0029】
このように壁面ブロックどうしを、あるいは壁面ブロックと盛土補強材とをインターロッキングで組み合わせることにより背面土圧や地盤荷重に対してわずかの変位を許容しながら各部材が外れにくい構造となっているため、壁面に対しても、盛土補強材の定着部においても応力が集中しにくく、しかも破壊しにくい構造となる。
【0032】
【発明の実施の形態】
図1〜図3は、道路や敷地などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示し、図において、符号1は擁壁の壁体2を構成すべく複数段に積層されたコンクリート製壁面ブロック(以下「壁面ブロック」という)、3は壁体2の背部に礫または砕石を所定の厚さに充填することにより形成された礫又は砕石の層(以下「礫層」という)、4は礫層3の背部に土砂などの盛土材を充填して形成された盛土層である。
【0033】
また、符号5は礫層3および盛土層4の安定と強度を高めるとともに壁面ブロック1を固定すべく、盛土層4および礫層3内に盛土補強材として連続して複数層に埋設された金属製補強材、そして符号6は特に、壁面ブロック1を固定し、かつ各壁面ブロック1と礫層3とを一体化させるべく、礫層3内に盛土補強材として複数層に埋設された合成樹脂製補強材、7は金属製補強材5の引き抜きに対する抵抗力を高めるべく、盛土層4内に金属製補強材5のアンカー部材として埋設されたコンクリート支圧ブロック(以下「支圧ブロック」という)である。
【0034】
壁面ブロック1は、基本的に運搬などの取り扱い易さ、施工性などを考慮して通常、高さhが20〜60cm、幅wが30〜100cm、奥行きdが20〜60cm程度有し、さらに重さが20〜150Kg程度の重量に形成され、それ自体自立性を有するものである。
【0035】
壁面ブロック1は、例えば図3(a)に図示するように表面フランジ1a、背面フランジ1bおよびウェブ1cをそれぞれ有し、そのままでもきわめて安定して自立できる平面ほぼH形状(または1形状)に一体的に形成されている。
【0036】
また、表面フランジ1aとウェブ1cの各上端部に定着溝1dがそれぞれ形成され、定着溝1dは表面フランジ1aとウェブ1cの上端部にそれぞれの長手方向に連続し、かつT字状に1本の溝に連続して形成されている。また、ウェブ1cの上端部に突起1eが形成されている。
【0037】
さらに、壁面ブロック1として自立性を保ちながら軽量化を図るために、例えば表面フランジ1aとウェブ1bを組み合わせたり、これに背面フランジを設けたり、あるいは中抜きした形状に形成されているものもある。
【0038】
なお、壁面ブロック1として乾式ブロックを用いることにより、乾式ブロックは即時脱型により一つの型枠で連続的に製造できるため、大量のブロックを短期間に製造できる。また、脱型した直後、柔らかい表面を刃物で割裂して加工することができるため、環境にやさく、しかも自然景観になじみやすい壁面を形成することができる。
【0039】
図5(a)〜(i)は、壁面ブロックの変形例を示し、例えば5(a)、(e)、(f)、(g)に図示する壁面ブロックの場合、符号1jと1kは上下ブロックを重ねて一体化させるためのためのキーとキー孔であるが、このキー1jは上述した方法によって乾式ブロックの製造時に直接埋め込むことができ、このキー1jとキー孔1kとを係合させることで強固なブロック壁体を構築することができる。
【0040】
また、図5(c)の例では、突起1eがキーと同様の効果を有し、また図5(h)の例では、金属製補強材5として設置された鉄筋グリッドの一端がブロック1の定着溝dに嵌め込む構造であるが、鉄筋1hが埋め込まれていることで、金属製補強材5に大きな引っ張り力が作用しても壁面ブロック1が破壊されることはない。また、符号1mは表面フランジ1aの上端部に形成された客土充填用孔であり、この客土充填用孔1mに植裁を施すことにより壁面を緑化することができる。
【0041】
なお、この場合の壁面ブロックとして、引張力などの外力が作用する領域に鉄筋などの棒状部材を埋め込む代わりに、合成繊維などの補強繊維を混入して成形された乾式ブロックが用いられることある。
【0042】
図5(c),(d)の例においては、積層された上下壁面ブロックどうしを上下または上下および左右に一体的に連結できるように形成された壁面ブロックを示し、また図5(c)の例の場合、表面フランジ1aの上端部に連結溝1nが形成され、この連結溝1nに連結棒8が複数の壁面ブロック1,1間に跨がって挿入されることで横方向に隣接する複数の壁面ブロック1どうしを連結することができる。
【0043】
なお、図5(c)と図5(i)の例においては、特に連結溝1n内に連結棒8を挿入した後、連結溝1n内に早強セメント等の固結材を充填すれば、壁面ブロック1どうしが一体に連結された壁面を形成することができる。
【0044】
さらに、図5(d)の例の場合、各壁面ブロック1の表面フランジ1aの上端部と下端部に互いに嵌合し合う嵌合突起1oと嵌合溝1pが形成され、この係合突起1oと係合溝1pが嵌合し合うことで積層された壁面ブロック1どうしが上下および左右に連結されてた壁面を形成することができる。
【0045】
このように形成された壁面ブロック1は横方向に互いに隣接し、かつ複数段に積層されている。また、必要に応じて例えば図6(a)に図示するように各段または数段おきに後退させることにより階段状に積層されている。
【0046】
この場合、各段の横方向に隣接する壁面ブロック1,1間には双方の表面フランジ1aと背面フランジ1bとウェブ1cとからなる空洞部9が形成され、各空洞部9内に砕石や礫、あるいは盛土が充填されていることで、左右および上下の壁面ブロック1,1どうしが一体化されている。
【0047】
なお、この場合の補強土構造の安定を維持するための壁面ブロック1の大きさと礫層3の厚さと金属製補強材5の連結されている壁面ブロック1と連結されていない壁面ブロック1との関係、および各壁面ブロック1のセットバックの長さの関係の好ましい例を図7と図8にそれぞれ示す。
【0048】
図において、壁面ブロック1の奥行きをw0 、礫層3の厚さをw1 、w0 +w1 =w、金属製補強材5が連結されている壁面ブロック1の上面と下面の間の高さを△H、同じくその間のセットバックの量をw2 、金属製補強材5が接触または連結された壁面ブロック1,1間にあって、金属製補強材5の接触も連結もしていない壁面ブロック1の数をmとしたとき、△H:w2 =1:0〜△H:w0 ,0≦m2 ≦2、ただし、w≧40cm w0 ≧20cm、 w1 ≧20cmであることが本願発明の補強土構造が安定である上で好ましい。
【0049】
ここで、図7(d)は壁面ブロック1と金属製補強材5の数は1: 1の対応でないから金属製補強材5が連結されていない壁面ブロック1が1層存在している壁面とみなす。また、上記において便宜上金属製補強材5が接触している、連結していないブロックに分けたが、本発明においては盛土補強材が接触している場合と連結していることとは同じとみなす。
【0050】
また、図7と図8において、金属製補強材5は摩擦力、あるいはインターロッキングにより一体となるため、砕石(または礫)にも破損することなくかつ伸びも殆どないため、壁面ブロック1と礫層3と上下の金属製補強材5,5で囲まれたA−B−D−Cは1つのブロックと類似のように挙動する。
【0051】
しかし、壁面ブロック1と礫層3との層厚Wが盛土層2よりも厚くなると背面土圧や地震動により金属製補強材5の連結されていない壁面ブロック1が外部にすべり出す危険性を生ずる。△H:w2 =1:0の場合は直立壁面である。
【0052】
△H:w2 =△H:w0 の場合はセットバックの最大値である。この場合、礫層3の厚さw1 が20cm以上あるため、大きなセットバックにもかかわらず、安定を保ち得る。
【0053】
このため、本願発明の補強材壁は直立から△H:w0 まで壁面勾配を巾広く設定することができるため、圧迫感がなく景観を考慮した最適の壁面勾配とすることができ、しかも安定した壁面構造の構築が可能になる。なお、△H:w0 よりも勾配がゆるくなると不安定になる。
【0054】
金属製補強材5は鉄筋などの鋼棒から形成され、その壁面側の端部(以下、「先端部」という)には壁面ブロック1に定着するための定着部としてL形状またはT形状のフック5aが形成され、また支圧ブロック7側の端部(以下「後端部」という)には支圧ブロック7に定着するための定着部としてL形状のフック5bが形成されている。
【0055】
このように形成された金属製補強材5は、盛土層2と礫層3内に水平に連続して複数層に埋設され、また金属製補強材5は壁面ブロック1の段数に対して一段おきまたは数段おきに埋設されている。そして、その先端側は、フック5aを壁面ブロック1の定着溝1d内に挿入することにより壁面ブロック1に定着され、その後端側はフック5bを支圧ブロック7の孔7aに挿入することにより支圧ブロック7に定着されている。
【0056】
なお、この場合、壁面ブロック1の定着溝1dと支圧ブロック7の孔7aに、フックを挿入した後からその周囲に早強セメントまたは接着材系の固結材10を充填してもよい。
【0057】
また特に、金属製補強材5の先端側は、横方向に隣接する複数の壁面ブロック1,1の定着溝1d内にフック5aを連続して挿入することにより複数の壁面ブロック1,1に定着されている。
【0058】
金属製補強材5の先端側と後端側が壁面ブロック1と支圧ブロック7に、それぞれこのようにして定着されていることで金属製補強材5のフック5aと5bをそのまま挿入すればよく、従来技術のように定着金具や定着ナットを用いることなく、簡単に定着することができる。また、図示するように壁面ブロック1と支圧ブロック7はともに自立し、しかも金属製補強材5がメジャーの働きをするため、正確な施工が可能となり、変位の少ない補強土壁を構築できるという利点がある。
【0059】
また、一般にこの種の棒状の金属製補強材には防食用のメッキ処理がなされるため、補強材の端部に壁面材やアンカー材に定着するための定着ナットを螺合するための雄ねじ部が設けられていると、メッキ処理の際に雄ねじ部にメッキが埋まって定着ナットをスムーズに螺合できない場合があるが、本願発明の場合、金属製補強材5の端部に上述するような雄ねじ部が不要なため、上述するような問題は起こらず、施工性に優れたいるのみならず防食性にも優れた補強土構造物を構築することができる。
【0060】
合成樹脂製補強材6はジオグリッド、ジオテキスタイル、樹脂シートまたは不織布などから一定大きさの面状または帯状に形成され、かつ礫層3内の上下金属製補強材5,5間に複数層に埋設されている。そして、合成樹脂製補強材6の壁面側は金属製補強材5の定着されていない壁面ブロック1に定着されている。
【0061】
この場合の合成樹脂製補強材6の壁面側の定着方法としては、例えば壁面ブロック1の背面側に定着金具を突設し、これに引っ掛けまたは巻き付ける等して定着してもよく、あるいは上下の壁面ブロック1,1間に単に挟み込む等の方法でもよい。
【0062】
このような構成において、特に金属製補強材5の定着された上下の壁面ブロック1,1間に、面状に形成された合成樹脂製補強材6の定着された壁面ブロック1が積層されていることで、壁体2に大きな土圧が作用した場合、面状補強材6の連結された壁面ブロック1が面状補強材6の伸びにより変位することで、その背面側にゆるみが生じ、この結果壁体2に加わる土圧が低減される。
【0063】
このため、いずれの壁面ブロック1も作用する土圧がきわめて小さくなるため、壁面ブロック1はせいぜい多少の変位にとどまり、壁面の外側に完全に押し出されたり、あるいは壁体2自体が土圧によって破壊されるまでには至らず、壁面全体の崩壊が未然に防止される。また、壁面ブロック1が簡単な材質(例えば比較的低強度の壁面材)から形成されている場合でも、壁体2が過大な土圧を受けて壁体自体が破壊することはない。
【0064】
また、図3(c)の例で明らかな様に、壁体2と盛土層4との間に礫層3が一定厚に形成されていることで、横方向に撓み性を有するため、背面土圧が低減され、かつ水平方向の変位に対し破壊されにくいという利点がある。
【0065】
一般に、図3(d)に図示するように、壁体2そのものは剛体であるのに対し、その背部に形成された盛土層4は時間の経過とともに沈下するため、壁体2と盛土層4との間に大きな相対変位が生ずる。このため、盛土層4内に埋設された金属製補強材5、あるいは金属製補強材5を壁面ブロック1に連結すべく壁面ブロック1の背部に突設された連結金具(図省略)には、壁面ブロック1近くの背部において、金属製補強材5が下側に大きくたわむような大きな曲げモーメントが発生する。特に金属製補強材5と連結金具が金属製の場合、これらの部材が曲げ変形によって応力集中を受けやすくなる。
【0066】
これに対し、図3(c)に図示するように壁面ブロック1の背部に、盛土層4より粒子の大きい砕石または礫からなる礫層3が形成され、礫層3は沈下しにくいが、ある程度の変位を許容するので、盛土層4の沈下が原因で、補強材5が変形したとしても壁面ブロック1のごく近くでは、金属製補強材5は殆ど水平性を維持し、金属製補強材5の全体がゆるやかに曲げ変形するのみで、したがって大きな曲げ変形によって金属製補強材5が破壊することはないし、また金属製補強材5と壁面ブロック1との連結部に異常な応力が発生しにくく、連結部が破壊することもない。この結果、水平方向および鉛直方向の盛土層4の変位に対しても金属製補強材5の破壊、破断しにくい補強土構造の構築が可能となる。
【0067】
図9と図10に図示する例においても、金属製補強材5は壁面ブロック1と支圧ブロック7に、端部に垂設された先端側のフック5aと後端側のフック5bをそれぞれ壁面ブロック1の定着溝1dと支圧ブロック7の定着孔7aに固結材10によって定着することに容易に連結することがができる。
【0068】
なお、図10(b),(c)はフックのない棒状の金属製補強材5の両端を壁面ブロック1と支圧ブロック7にそれぞれ設けた定着孔1rと7a内に固結材10によって定着した例である。
【0069】
図11,図12は補強土構造物の変形例を示し、特に壁面ブロック1に金属製補強材5の先端側のフック5aを定着する場合の、応力の集中しやすい位置に鉄筋などからなる補強部材1hが鉛直または水平に埋設されている。
【0070】
図13,図14は同じく補強土構造物の変形例を示し、特に横方向に隣接する壁面ブロック1,1どうしを連結する連結部材11の両端のフック11a,11aを壁面ブロック1の連結孔1qに挿入する場合の、応力の集中しやすい位置に鉄筋などからなる補強部材1hが水平に埋設されている。
【0071】
また、図14(b)は金属製補強材の変形例を示し、この場合の金属製補強材5は門形状に形成され、先端側の水平部分が一個ないし複数の壁面ブロック1の定着溝1dに挿入可能なフック5aになっている。また、水平部分の両端から延長された直線部分の端部に支圧ブロック7の定着孔7aに挿入可能なフック5b,5bがそれぞれ形成されている。
【0072】
図15(a)、(b)は、金属製補強材5の先端側のフック5aを壁面ブロック1に定着する方法の他の例を示し、特に各壁面ブロック1の上端部に定着溝を設ける代わりに、各壁面ブロック1の背面部に鉄筋などからなる輪環12を突設し、この輪環12に金属製補強材5の先端側のフック5aを水平に挿入することで、金属製補強材5の先端側が壁面ブロック1に定着されている。
【0073】
なお、この場合、金属製補強材5の先端側のフック5aを壁面ブロック1の上端に形成された定着溝1dに挿入してもよい。
【0074】
図16(a),(b)は、同じく金属製補強材5の先端側を壁面ブロック1に定着する方法の変形例を示し、積層された上下壁面ブロック1、1間にブロック1どうしを連結するための連結部材として連結キー13が介在され、この連結キー13に金属製補強材5の先端側に突設された定着金具14が定着されており、この場合の定着金具14は定着孔14aを有するプレートで、定着孔14aを連結キー13が貫通している。
【0075】
図17〜図19は、特に鉄筋バーや金網材などからなる金属製補強材5、またはジオテキスタイル等からなる合成樹脂製補強材6の端部を壁面ブロック1や支圧ブロック7に定着する定着方法を示したものである。
【0076】
図17(a),(b),(c)の例においては、壁面ブロック1と支圧ブロック7に連結部材15としてそれぞれ突設されたボルト部材や帯状鋼材に鉄筋バーや金網材などの金属製補強材5がターンバックル16やボルト・ナット17を介して連結されている。
【0077】
また、図18(a),(b)の例においては、壁面ブロック1に突設された連結部材18に合成樹脂製補強材6としてとしてジオテキスタイルの端部が直接巻き付けることにより定着されている。
【0078】
さらに、図19(a),(b),(c)の例においては、壁面ブロック1に形成された定着孔1sまたは定着溝1t内に金属製補強材5として鉄筋バーや帯鋼材などの端部が固結材10によって定着されている。
【0079】
【発明の効果】
本願発明は以上説明したとおりであり、特に金属製補強材の定着された上下の壁面ブロック間に、面状に形成された合成樹脂製補強材の定着された壁面ブロックが積層されていることで、壁体に大きな土圧が作用した場合、合成樹脂製補強材の定着された壁面ブロックが、合成樹脂製補強材の伸びにより変位することで、その背面側にゆるみが生じ、この結果ブロックに加わる土圧が低減され、しかも、伸びの少ない金属製補強材によって壁面全体の大きな変位は生じない。
【0080】
このため、いずれの壁面ブロックも作用する土圧がきわめて小さくなるため、壁面ブロックはせいぜい多少の変位にとどまり、壁面の外側に完全に押し出されたり、あるいは壁体自体が土圧によって破壊されるまでには至らず、壁面全体の崩壊が未然に防止される。
【0081】
また、上記した理由により壁体が過大な土圧を受けにくいことから、壁体が簡単な材質(例えば比較的低強度の壁面材)から形成されている場合でも、壁体が過大な土圧を受けて壁体自体が破壊に至ることはない。
【0082】
また、壁面ブロックと盛土層との間の一定範囲(通常は壁面ブロック背面から20cm〜100cmまでの厚さあればよい)に盛土として、特に沈下しにくいが、ある程度の沈下を許容する砕石または礫を充填することで、盛土層の沈下にともなって金属製補強材が変形したとしても、壁面ブロックの背部では、金属製補強材は殆ど水平を維持し、変形が非常に小さいので、盛土補強材に発生する曲げモーメントは小さいため、大きな曲げ変形によって盛土補強材が破断したり、壁面ブロックがずれたりする等の問題を未然に防止することができる。
【0083】
よって、水平方向および鉛直方向の盛土の変位に対しても金属製の盛土補強材は非常に破断しにくく、壁面ブロックの変位のしにくい補強土構造物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部斜視図、(b)はその一部断面図である。
【図2】(a)、(b)は道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部断面図である。
【図3】(a)は壁面ブロック、支圧ブロックおよび盛土補強材の斜視図、(b)は支圧ブロックの断面図、(c),(d)は補強土構造物の一部断面図である。
【図4】(a)〜(d)は、本願発明の原理を示す説明図である。
【図5】(a)〜(i)は、壁面ブロックの他の例を示す斜視図である。
【図6】(a)、(b)は道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部断面図である。
【図7】(a)〜(d)は、道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部断面図である。
【図8】(a),(b)は、道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部断面図である。
【図9】(a),(b)は、道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部断面図である。
【図10】(a)は、壁面ブロック、支圧ブロックおよび金属製補強材の斜視図、(b)は金属製補強材の斜視図、(c)は壁面ブロック、支圧ブロックおよび金属製補強材の断面図である。
【図11】(a),(b)は、道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部断面図である。
【図12】(a)、(b)は壁面ブロックおよび金属製補強材の一部斜視図、(c)は壁面ブロックの縦断面図である。
【図13】(a),(b)は、道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部断面図である。
【図14】(a)は、壁面ブロック、支圧ブロックおよび金属製補強材の斜視図、(b)は金属製補強材の斜視図である。
【図15】(a),(b)は、道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部斜視図である。
【図16】(a)は、道路などに面する擁壁として構築された補強土構造物の一例を示す一部断面図、(b)は金属製補強材の斜視図である。
【図17】(a),(b),(c)は、壁面ブロック、支圧ブロックおよび金属製補強材の斜視図である。
【図18】(a)、(b)は、壁面ブロック、合成樹脂製補強材の斜視図である。
【図19】(a)〜(c)は、壁面ブロック、金属製補強材および合成樹脂製補強材の斜視図である。
【図20】(a)、(b)は、道路などに面する擁壁として構築された従来の補強土構造物の一例を示す一部断面図である。
【符号の説明】
1 壁面ブロック
2 壁体
3 礫層(砕石又は礫層)
4 盛土層
5 金属製補強材(盛土補強材)
6 合成樹脂製補強材(盛土補強材)
7 支圧ブロック(コンクリート支圧ブロック)
8 連結棒
9 空洞部
Claims (4)
- 複数の壁面ブロックを積層し、当該壁面ブロックの背部に盛土を充填して盛土層を形成し、当該盛土層内に盛土補強材を複数層に埋設するとともに前記壁面ブロックに定着してなる補強土構造物において、前記壁面ブロックと前記盛土層との間に礫または砕石を充填して一定厚の礫層を形成し、前記盛土層と礫層内に盛土補強材として金属製補強材を複数層に連続して埋設し、前記礫層内の前記金属製補強材間に盛土補強材として複数の合成樹脂製補強材を埋設し、前記金属製補強材の先端側は当該金属製補強材の先端部に形成されたフックを前記壁面ブロックに形成された定着溝または輪環に挿入することにより定着し、前記金属製補強材の後端側は当該金属製補強材の後端部に形成されたフックを前記盛土層に埋設された支圧ブロックに形成された孔に挿入することにより定着してなることを特徴とする補強土構造物。
- 各段の隣接する壁面ブロック間に、当該壁面ブロックの双方に設けられた表面フランジと背面フランジとウェブとからなる空洞部を形成し、当該空洞部に礫または砕石を充填してなることを特徴とする請求項1記載の補強土構造物
- 金属製補強材が定着された壁面ブロック間に合成樹脂製補強材が定着された壁面ブロックを複数層に積層してなることを特徴とする請求項1または2記載の補強土構造物。
- 金属製補強材として、鋼棒、帯鋼または形鋼を埋設してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の補強土構造物。
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