JP3781806B2 - 新規ピルビン酸オキシダーゼ及びその製造法 とピルビン酸分析法 - Google Patents

新規ピルビン酸オキシダーゼ及びその製造法 とピルビン酸分析法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ピルビン酸オキシダーゼを主題とし、更に詳細には、本発明は、ラクトバチルス属に属する微生物が生産する、新規で熱安定性、貯蔵安定性に優れたピルビン酸オキシダーゼに関するものである。また、本発明に用いる微生物は本酵素を高生産し、かつ無細胞破砕液を用い、乳酸オキシダーゼやグルコースオキシダーゼ等の影響を受けず、迅速且つ容易にピルビン酸を分析するシステムを本発明は提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
ピルビン酸オキシダーゼ(EC.1.2.3.3)は、チアミンピロリン酸、リン酸の存在下においてピルビン酸と酸素、各1分子をアセチルリン酸と過酸化水素(H22)に酸化する酵素で、植物、動物、微生物等天然界に広く分布存在している。従来よりAerococcus sp.(特開昭58−40465)、Pediococcus sp., Lactobacillus sp.(特公平5−44270)、Leuconostoc sp.(特開昭59−15977)由来の精製酵素が市販品として提供されている。しかしながら、いずれの菌株も生産するピルビン酸オキシダーゼ活性が低く、尚且つ菌体中に乳酸オキシダーゼやグルコースオキシダーゼを生産するため、ピルビン酸オキシダーゼを酵素液として使用する場合、用途にあわせ精製する必要があった。
【0003】
また、従来のピルビン酸オキシダーゼは、活性測定時にチアミンピロリン酸等をコファクターとして要求するが、酵素精製時にこれらのコファクターは除去されるので、測定時には再度添加する必要が生じる。これらのことは、酵素のコスト上昇及び測定時間や測定操作の大幅な増加要因になっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
酵素の精製が多大の労力、コストを要し、しかも精製処理による酵素自体の活性低下のおそれも高いことから、本発明者らは、酵素生産菌の培養液を直接目的酵素液として使用する点にはじめて着目した。
【0005】
そして本発明者らは、上記したピルビン酸オキシダーゼに関する従来の技術背景に鑑み、乳酸オキシダーゼやグルコースオキシダーゼを生産せず、ピルビン酸オキシダーゼを高生産する新規微生物を自然界よりスクリーニングし、尚且つ微生物の無細胞破砕液によるピルビン酸の測定を可能にするシステムの開発を、本発明の目的として設定した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点を解決し、工業レベルでの使用を可能とするため鋭意研究した結果、土壌より採取されたラクトバチルス属に属すると同定された菌株より、安定性が高く、ホモダイマーであるピルビン酸オキシダーゼを生産する株(722−T4)を分離するのに成功し、そして更に検討した結果、本発明の完成に至ったものである。
【0007】
本菌株は、無細胞破砕液の状態で乳酸オキシダーゼやグルコースオキシダーゼを生産せず、pH7.0、10分間処理で50℃まで熱安定性があり、また活性の測定にチアミンピロリン酸などのコファクターを必要としない新規なピルビン酸オキシダーゼを生産するというすぐれた特徴を有する。
【0008】
本発明に係るピルビン酸オキシダーゼは、従来未知の新規酵素であって、次の理化学的諸性質を有している。
(1)ピルビン酸、リン酸、酸素からアセチルリン酸、二酸化炭素を生じる反応を触媒する。
(2)分子量が約200,000で、100KDaの2つのサブユニットからなるホモダイマーである。
(3)ピルビン酸に特異的に作用する。
(4)Km値が約2.5×10-4Mである。
(5)至適pHは5.7である。
(6)至適温度は45℃であり、熱安定性は50℃である。
【0009】
上記により新たに分離し、本発明に係る新規酵素を生産する722−T4株は、以下の菌学的性質を有する。
1.形 態
サイズ:0.6〜0.8×1.2〜1.5μm(単桿菌)
グラム染色:陽性
運動性:なし
胞子形成:なし
【0010】
2.培地での生育試験
a)BL寒天培地
好気:+
5%CO:+
嫌気:+(通性嫌気性)
b)血液寒天培地
好気:−
5%CO:−
嫌気:−
c)グルコースからのガス生成:+
グルコン酸からのガス生成:+
d)15℃での生育:+
45℃での生育:−
【0011】
3.生理学的性質
カタラーゼ:−
ウレアーゼ:−
オキシダーゼ:−
OFテスト:F
色素生成:なし
酸生成
乳酸:2014.1ppm(DL Type)
酢酸: 492.3ppm
【0012】
4.糖からの酸生成
グリセロール:−
エリスリトール:−
D−アラビノース:−
L−アラビノース:+
リボース:−
D−キシロース:+
L−キシロース:−
アドニトール:−
β−メチル−Dキシロシド:−
ガラクトース:−
グルコース:+
フルクトース:+
マンノース:+
ソルボース:−
ラムノース:−
ズルシトール:−
イノシトール:−
マンニトール:−
ソルビトール:−
α−メチル−Dマンノシド:−
α−メチル−Dグルコシド:−
N−アセチルグルコサミン:+
アミグダリン:+
エスカリン:+
サリシン:+
セロビオース:+
マルトース:+
ラクトース:−
メリビオース:−
シュークロース:−
トレハロース:−
イヌリン:−
メレジトース:−
ラフィノース:−
スターチ:−
グリコーゲン:−
キシリトール:−
ゲンチビオース:+
D−チュラノース:−
D−リコース:−
D−タガロース:−
D−フコース:−
D−アラビトール:−
L−アラビトール:−
グルコン酸:+
2−ケトグルコン酸:−
5−ケトグルコン酸:−
5.GC含量:45%(HPLC法)
【0013】
上記に示した同定試験に関しては、「バージーズマニュアル」、「微生物の分類と同定」等を参考にして行った。同定試験の結果、ラクトバチルス属に属する菌株と同定した。また、糖の資化性試験や、GC含量とからラクトバチルス コンフューサス(Lactobacillus confusus)と決定した。
【0014】
ラクトバチルス属由来のピルビン酸オキシダーゼとしては、特開昭63−52875において、Lactobacillus sp.(FERM P-8886)が知られている。その株と722−T4株との比較では、本酵素がホモダイマーであることや、Km値が小さいこと、またメリビオース、マンニトールからの酸生産性が異なることなどの相違点がある。これらの違いから本菌株をLactobacillus sp. 722-T4株とした。本菌株は、通商産業省工業技術院、生命工学工業技術研究所、特許微生物寄託センターに微生物受託番号微工研寄第FERM P−14133号として受託されている。
【0015】
本菌株の培養は、常法にしたがって行えばよい。使用する培地組成としては、乳酸菌培地が適宜使用可能であって、使用菌株が資化しうる炭素源、窒素源、無機物、その他必要な栄養素を適量含有するものであれば、合成培地、天然培地がいずれも使用できる。例えば炭素源としてはグルコース、シュークロース、デキストリン、ピルビン酸、糖蜜などが使用される。窒素源としては、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物などの窒素含有天然物や、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、グルタミン酸などのアミノ酸など無機あるいは有機の窒素化合物が使用される。
【0016】
培養は、通常、振とう培養あるいは通気撹拌培養で行う。培養温度は20〜37℃、pHは4.0〜7.0の範囲で生育可能であるが、望ましくはpH5.5〜6.5に調整する。
【0017】
菌体内で生産された本発明に係るT4ピルビン酸オキシダーゼ(T4POXということもある)は、その生産性がきわめて高いだけでなく、従来のピルビン酸オキシダーゼに付随していたグルコースオキシダーゼや乳酸オキシダーゼ活性が検出されないというきわめて有用な新規な性質を有する。したがって本発明においては、酵素を分離、精製する必要がなく、菌体を超音波等で破砕した後、遠心分離や濾過によって得た上清をそのまま酵素液として各種の用途に使用することができるという卓越した特徴を本発明は有するのである。
【0018】
本発明に係る酵素は、上記したようにピルビン酸オキシダーゼ生産微生物の無細胞破砕液を、そのまま、あるいは必要あればこれを濃縮して、酵素液として各種の用途に使用することができるが、当然のことながら、酵素精製における常法にしたがい、硫安塩析、陰イオン交換、陽イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過等を行って、更に精製することももちろん可能である。
【0019】
本発明に係る酵素は、ピルビン酸を酸化する反応を利用する用途に広範に使用され、例えば、本発明によれば、ピルビン酸含有試料に本酵素を作用させて、生成するアセチルリン酸又は過酸化水素を測定するか、あるいは、酸素消費量を測定することにより、ピルビン酸を測定することができる。
【0020】
本発明においては、このようなエンザイム アッセイにおいて、ピルビン酸オキシダーゼとして精製した酵素が使用できることはもちろんのこと、酵素精製を行うことなく酵素生産菌の無細胞破砕液(酵素液)をそのまま使用できるという大きな特徴を有する。
【0021】
したがって、本発明は、ピルビン酸測定法のみならずピルビン酸測定試薬も包含するものであるが、通常用いられる他の構成成分とともに該試薬を構成するピルビン酸オキシダーゼとしては、精製酵素はもちろんのこと、上記無細胞破砕液を酵素として精製酵素と同じように含有使用することができる。
【0022】
本発明に係る新規酵素の酵素活性は、Barbaraらの方法により測定した。先ず、以下の試薬を調整した。
50mM リン酸カリウム緩衝液
0.2mM 硫酸マンガン
10mM ピルビン酸ナトリウム
2.0mM 4−アミノアンチピリン
7.0mM ヒドロキシジクロロベンゼンスルフォン酸ナトリウム
50U パーオキシダーゼ
【0023】
この調整した試薬に、適量の酵素溶液を添加し活性を測定する。測定は546nmの吸光度変化を測定する。この条件下で1μmの基質を消費する活性を1ユニットとした。次に実施例につき本発明を更に詳述する。
【0024】
【実施例1】
酵母エキス0.5%、ポリペプトン1%、グルコース1%、リン酸1カリウム0.025%、リン酸2カリウム0.025%、酢酸ナトリウム1%、硫酸マグネシウム0.01%、硫酸第1鉄0.0005%、を含む培地250mlをpH6.5〜6.8に調整し、300mlの容器に入れ、121℃、10分間オートクレーブで滅菌した後、本菌株を接種した。3日間培養後、菌株を破砕後遠心し、その上清のピルビン酸オキシダーゼ活性を測定した。結果を下記表1に示す。
【0025】
Figure 0003781806
【0026】
【実施例2】
本菌株(722−T4株:FERM P−14133)を実施例1にしたがって培養処理し、粗酵素液を調製した。このように調製して得られた粗酵素液20mlをDEAE−SuperQイオンクロマトグラフィーにより2回吸着及び溶出させ、得られた溶出液8mlをさらにDEAE−Resource Qによるイオンクロマト、Sephacryl S−300によるゲル濾過、Mono−Qによるイオン交換を行うことにより単一に精製した。この酵素をゲル濾過(Asahi Pak GS−520W)、およびSDS−PAGEにより、分子量約200,000(Asahi Pak GS−520W)、およびSDS−PAGEにより、分子量約200,000で約100KDaのサブユニットからなるホモダイマーであることが判明した。(図1)
【0027】
【実施例3】
実施例1により調製したピルビン酸オキシダーゼの粗酵素と市販のラクトバチル属由来のピルビン酸オキシダーゼの貯蔵安定性(図2)、熱安定性(図3)を比較した。市販の酵素は55℃、10分で失活し本発明の酵素は65℃で失活した。また、貯蔵安定性も優れていることが判明した。
【0028】
【実施例4】
実施例1により調製した無細胞破砕液を用い、ピルビン酸の測定を行った。発色剤としてN-ethyl-N-(2-hydroxy-3-sulufopropil)-m-toluidine, sodium salt,dihydrideを用いて、555nmの吸収を測定した。その結果、相関係数r=0.998と高い相関が得られた(図4)。
【0029】
【実施例5】
実施例1により調製した無細胞破砕液を用い、清酒、ビール、ワイン中のピルビン酸を測定した。その結果、酒類一般のピルビン酸含量が正確に測定できることが示唆された。得られた結果を下記表2に示す。
【0030】
【表2】
Figure 0003781806
【0031】
【実施例6】
実施例1により調製した無細胞破砕液を用い、人、馬、牛血清中のピルビン酸を測定した。その結果、各血清中のピルビン酸含量が正確に測定できることが示唆された。得られた結果を下記表3に示す。
【0032】
【表3】
Figure 0003781806
【0033】
【発明の効果】
本発明に係るピルビン酸オキシダーゼは、熱及び貯蔵安定性にすぐれた新規酵素であって、研究用試薬のほかピルビン酸定量用試薬として工業用の用途に有効に使用することができる。
【0034】
また本酵素を生産するラクトバチルス属菌は、酵素生産性が高いだけでなく、他のオキシダーゼの生産を抑制して本酵素を優先的に生産するという著効を奏する。したがって、本酵素を精製することなく無細胞破砕液のままこれを酵素(液)として自由に使用することができ、例えばピルビン酸定量用試薬として使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るピルビン酸オキシダーゼの分子量を示す。
【図2】本発明に係るピルビン酸オキシダーゼの貯蔵安定性を示す。
【図3】同熱安定性を示す。
【図4】本発明に係るピルビン酸オキシダーゼを用いたピルビン酸の検量線を示す。

Claims (8)

  1. ラクトバチルス属に属し、乳酸オキシダーゼ、グルコースオキシダーゼの生産能が低く優先的にピルビン酸オキシダーゼを高生産する微生物を培養して、下記の理化学的性質を有する熱安定性及び貯蔵安定性に優れたピルビン酸オキシダーゼを製造すること、を特徴とするピルビン酸オキシダーゼの製造法。
    (1)分子量が約200,000(Pharmacia, Sephacryl S−300)で、100KDaの2つのサブユニットからなるホモダイマーである。
    (2)ピルビン酸に対するKm値が約2.5×10-4Mである。
    (3)コファクターとしてチアミンピロホスフェートを必要としない。
    (4)ピルビン酸、リン酸、酸素から、アセチルリン酸、二酸化炭素、過酸化水素を生じる反応を触媒する。
    (5)ピルビン酸に特異的に作用する。
    (6)至適pHは5.7である。
    (7)pH7.0、10分間処理で50℃まで熱に安定であり、室温で20〜30日間活性を保持する。
  2. ラクトバチルス属に属する微生物として、ラクトバチルス エスピー 722−T4(Lactobacillus sp. 722−T4: FERM P−14133)を使用することを特徴とする請求項1に記載のピルビン酸オキシダーゼの製造法。
  3. pH7.0、10分間処理で50℃まで熱に安定であり、室温で20〜30日間活性を保持し、且つ下記の理化学的性質を有する熱及び貯蔵安定性に優れたピルビン酸オキシダーゼ。
    (1)分子量が約200,000で、100KDaの2つのサブユニットからなるホモダイマーである。
    (2)ピルビン酸に対するKm値が約2.5×10-4Mである。
    (3)コファクターとしてチアミンピロホスフェートを必要としない。
    (4)ピルビン酸、リン酸、酸素から、アセチルリン酸、二酸化炭素、過酸化水素を生じる反応を触媒する。
    (5)ピルビン酸に特異的に作用する。
    (6)至適pHは5.7である。
  4. 請求項3に記載のピルビン酸オキシダーゼを用い、生成するアセチルリン酸または過酸化水素を測定するか、あるいは、酸素消費量を測定することを特徴とするピルビン酸の測定法。
  5. ピルビン酸オキシダーゼとして精製したピルビン酸オキシダーゼを使用することを特徴とする請求項4に記載の測定法。
  6. ピルビン酸オキシダーゼとして、請求項1又は2において、培養した微生物の無細胞破砕液を使用すること、を特徴とする請求項4に記載の測定法。
  7. 請求項3に記載のピルビン酸オキシダーゼを含有してなること、を特徴とするピルビン酸測定試薬。
  8. 請求項1又は2において培養した微生物の無細胞破砕液を含有してなること、を特徴とするピルビン酸測定試薬。
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