JP3780791B2 - 表面弾性波素子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、情報通信分野に用いられる表面弾性波素子、さらに詳しく言えば薄膜を用いた表面弾性波素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の表面弾性波素子としては、大きく分けて圧電材料の単結晶を用いたものと基板上に圧電材料からなる薄膜を形成したものとの2種類がある。単結晶を用いるものの代表的な例としては、水晶、ニオブ酸リチウム(以下LiNbO3)、タンタル酸リチウム(以下LiTaO3)などがあげられる。一方、圧電材料の薄膜を用いた表面弾性波素子としては、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)pp.2337−2340に記載されているようなサファイア基板上に酸化亜鉛(以下ZnO)薄膜を形成したもの、あるいはJpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)pp.L745−L747に記載されているようなサファイア基板上にLiNbO3薄膜を形成したものなどがあげられる。
【0003】
表面弾性波素子の性能に関して、通信分野の目覚しい発展に伴い、より大きい電気機械結合係数(以下k2)を有するもの、より温度特性が良好なもの、より高周波に適用できるものへの要求が高まっている。表面弾性波素子はフィルタ、発振器の両者に応用可能であるが、特に発振器に用いる場合は温度特性が重要になる。また、発振器には高次逓倍型、位相同期型、直接型などがあるが機器の小型化のためには直接型が望ましく、それには高周波化も重要である。また、フィルタでは高いk2が望まれる。フィルタ、発振器とも高周波化には音速の速い材料が望まれる。
【0004】
温度特性については、例えば「表面波デバイスとその応用」電子材料工業会編1978年発行 pp106〜108 に述べられているように、群遅延時間温度特性TCDの符号が互いに逆である(正負が異なる)ZnOとSiO2などを積層することにより改善される可能性がある。これについては、特開平6−164294あるいは特開平9−130192にも記されている。特開平6−164294ではSi基板上にダイヤモンド薄膜を形成し、さらにその上に圧電薄膜と二酸化珪素保護膜を形成することにより、高周波化とk2の向上を図ることが記載されている。一方、特開平9−130192では、水晶基板上のZnOの膜厚の規格化さらに電極の位置の適正化によってk2の向上を図ることが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の表面弾性波素子には、以下のような問題点がある。
【0006】
まず、単結晶を用いた表面弾性波素子では、音速、k2や温度係数などの特性は材料固有の値であり、単結晶材料をカットする面方位でその特性が決まってしまう。これまで公表されている材料には一長一短があり、したがって、今のところ使用する目的によって、材料を使い分けている。例えば、周波数の広帯域化、低損失化が要求されるフィルタの場合には、k2の大きいLiNbO3が用いられ、一方、周波数は狭帯域でも良いが温度特性が安定なものが必要な場合は温度係数が小さい水晶が用いられる。ただし、水晶は音速があまり速くなく高周波化には不利であり、GHz帯に用いるのは難しい。したがって、高周波での直接型発振器やフィルタの作製は難しい。すなわち、電極間隔が狭く電極のパターニングが困難である。k2および温度係数がそれぞれLiNbO3と水晶の間にあるLiTaO3はその中間的な役割を果たしている。しかし、音速が速くk2が大きく温度係数が小さい表面弾性波素子が要望されている現在、これらの特性を満足させる材料はない。従って、単結晶を用いる場合は新しい材料の発見を待つしかない。
【0007】
一方、圧電材料の薄膜を用いた表面弾性波素子は、音速の速い特性の基板上に薄膜を形成することにより、高周波化やk2の向上がはかられ、また温度特性の改善も可能と期待されている。すなわち、用いる基板と薄膜の材料の組み合わせや薄膜の配向のコントロールなどにより、材料固有の値に支配されない特性が得られる可能性がある。しかし、現在のところ、所望の特性を満足させるものは得られていない。水晶などのSiO2を主成分とする材料以外を用いた場合、例えばサファイア上のLiNbO3薄膜の温度特性はあまり改善されていない。一方、特開平6−164294に記されているようなダイヤモンド薄膜を基板に用いる場合には速い音速が得られるが、ダイヤモンド薄膜の表面平坦性が問題となる。基板の表面平坦性は素子特性に影響を及ぼすため重要である。現在、その表面を研磨して用いているが、ダイヤモンドは硬いため加工が難しい。研磨技術は進歩しているが、ダイヤモンド薄膜は多結晶でもあり、他の単結晶基板の表面平坦性と比較すると明らかに劣る。また、その直上に形成される圧電薄膜の結晶性も素子特性、信頼性に関して重要であるが、多結晶のダイヤモンド薄膜上に高品質な圧電薄膜を形成することは難しい。圧電薄膜としては、エピタキシャル膜が望ましい。また、特開平9−130192では、温度特性の良いものができるとされているが、GHz帯までの高周波化には不十分であり、音速の速い波を用いても難しく、その場合は電極の加工に負荷がかかる。なお、前に述べたように、温度係数が正負異なる圧電材料を積層することにより温度特性が改善されるが、これらの材料の線膨張係数が大きく異なると特性の再現性に問題が生じる。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、高周波化に対応できかつk2が高く温度特性も良く信頼性の高い薄膜を用いた表面弾性波素子を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の表面弾性波素子は上記課題を解決するものであり、圧電体基板と該圧電体基板上に形成された圧電材料からなる薄膜と非圧電材料からなる薄膜と電極とを具備することを特徴とする。
【0009】
上記表面弾性波素子において,さらに好ましくは、前記非圧電材料は、ヤング率が3.5×1012dyne/cm2以上であり、かつ密度が4g/cm3以下であること、前記圧電材料はシリコンと酸素を主成分とすること、圧電体基板としては、水晶以外の圧電材料であってその線膨張係数は圧電材料からなる薄膜に用いる圧電材料の線膨張係数の±40%以内であることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、特に基板に水晶以外の圧電材料を用いてこの圧電体基板と圧電薄膜の温度係数の符号が逆のため相殺されて良好な温度特性が得られる。また圧電体基板に用いる圧電材料の線膨張係数を圧電材料からなる薄膜に用いる圧電材料の線膨張係数に近くすることで、信頼性の高い特性が得られる。さらに非圧電材料は硬くて軟らかいため、より速い音速が得られ高周波化が可能となる。また、k2の向上も期待される。
また、上記表面弾性波素子において、圧電材料からなる薄膜と非圧電材料からなる薄膜の各膜厚を制御することによって素子特性が最適に制御され得る。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態をその実施例に沿って詳細に説明する。
【0012】
(実施例1)
図1は本発明の実施例1に係る表面弾性波素子の断面構造を示す図である。
【0013】
同図に示す素子構造は、圧電体基板1と圧電材料からなる薄膜2、非圧電材料からなる薄膜3、および圧電材料からなる薄膜2に接して形成される電極4で構成される。
【0014】
当該構造の素子は、以下の方法によって得ることができる。まず、k2が10%以上と高い64°Y−XLiNbO3等の特に水晶以外の材料からなる圧電体基板1上に圧電材料からなる薄膜2としてシリコンと酸素を主成分とする二酸化珪素膜を形成する。その上に銅(以下Cu)を用いて電極4を形成する。さらに電極4を設けた薄膜2上に非圧電材料として酸化アルミニウムを主成分とする薄膜3を形成して表面弾性波素子を得る。
【0015】
上記構成からなる本発明の表面弾性波素子の作製プロセスの具体例を示す。
【0016】
まず64°Y−XLiNbO3基板上1に圧電材料からなる薄膜2である二酸化珪素を成膜した。成膜には二酸化珪素の単一ターゲットを用いたレーザーアブレーション法を用い、成膜中基板に酸素プラズマを照射しながらその場で成長させた。成膜条件を調整することにより水晶を成長させることも可能である。ここでは水晶を形成した。次に二酸化珪素膜上にCuを蒸着し、パターニングして電極4を形成した。続いてその上に、水晶の場合と同様に酸化アルミニウムの単一ターゲットを用いたレーザーアブレーション法を用い、成膜中基板に酸素プラズマを照射しながら非圧電材料からなる薄膜3である酸化アルミニウム薄膜をその場で成長させた。
【0017】
このような方法に基づき、条件を種々変更し、得られる種々の設計の素子についてその特性を調べた。
【0018】
まず、酸化アルミニウム薄膜を形成しない電極/水晶薄膜/LiNbO3基板の構造で水晶薄膜の膜厚の最適化を行なった。LiNbO3は負の温度係数(TCF)を有する。一方、水晶は正のTCFを有する。水晶薄膜の膜厚をH、表面波の波長をλとした場合、H/λが増加するにしたがって、最初負であったTCFが徐々に増加しある値で0になった。さらにその値よりもH/λを増加させると今度は正の値を示すようになった。これは周知のように正負のTCFの相互作用によるものと考えられる。逆にk2はH/λが増加するにしたがって単調に減少した。しかし、TCFが0になるH/λにおいてもk2は約7%であり、水晶基板単体の場合と比較し大きな値を示した。一方、音速はH/λ=0の時4750m/s程度であったが、H/λの増加に伴い単調に減少した。TCFが0になるH/λにおいて、音速は約3500m/sであった。以上のように、圧電薄膜の水晶の膜厚によって、k2、音速、TCFが大きく変わるため、用途によって膜厚を調整すればよいことが判る。例えば、温度特性が重要な場合はTCFが0近傍になるようなH/λに合わせればよい。
【0019】
さらに、特性の信頼性において、基板1と圧電薄膜2の線膨張係数が重要である。すなわち、この差が大きいと温度が変化した時に思うような特性が得られなくなる。ここで用いたLiNbO3の熱膨張係数は、水晶の熱膨張係数の数%以内と差が小さく、良好な特性が得られる。また、LiTaO3も負のTCFを有し、水晶との熱膨張係数の差が20%以内と比較的小さいため、LiTaO3を基板に用いても同様に良好な特性が得られる。しかし、ZnOを基板に用いた場合は、ZnOは負のTCFを有するが、水晶との熱膨張係数の差が40%以上と大きいため、TCFを0にすることはできるが、信頼性の点で問題がある。さて、ここでは温度特性が重要な場合を考え、TCFがほぼ0になるようにH/λを合わせて、以後の評価を行なった。
【0020】
次に、酸化アルミニウム薄膜を形成した酸化アルミニウム薄膜/電極/水晶薄膜/LiNbO3基板の構造で酸化アルミニウムの膜厚を変えて評価を行なった。酸化アルミニウムはヤング率が3.77×1012dyne/cm2で密度が3.93g/cm3である。すなわち、硬くて軽い材料である。このような材料は音速が速い。酸化アルミニウム薄膜の膜厚をHAl、表面波の波長をλとすると、HAl/λが増加するに従い、音速およびk2とも単調に増加した。音速はHAl/λが0.5の時約5500m/s、1.0のとき約6500m/sであった。この値は、酸化アルミニウム薄膜がない場合と比べ2倍弱と大きい。これによって、電極間隔も大きくできるため、電極パターニングの困難さが改善される。また、k2はHAl/λ=0.5のとき12%、1.0の時15%であった。すなわち、酸化アルミニウムの膜厚を厚くすれば良い特性が得られるが、使用周波数帯に応じて膜厚を調整して音速を制御すればよいことが導かれる。一方、TCFはHAl/λが増加してもほとんど変化しなかった。以上より、酸化アルミニウム膜を形成することによりさらに特性が改善されることが判った。
【0021】
なお、ここでは非圧電材料として酸化アルミニウムを用いたが、比較のため同じ六方晶系のランタンアルミネート(LaAlO3)を用いて評価した。LaAlO3の密度は4g/cm3以上、ヤング率は3.5×1012dyne/cm2以下、すなわち酸化アルミニウムと比べ軟らかく重い材料である。この場合、k2は増加するが、高周波化に重要な音速の増加が見られなかった。
【0022】
この他、硬くて軽い材料としては、酸化アルミニウム以外にダイヤモンドがある。これも密度は4g/cm3以下、ヤング率は3.5×1012dyne/cm2以上である。したがって、酸化アルミニウムの場合と同様な効果が得られる。ダイヤモンド薄膜を最上層に形成する場合、基板に用いる場合と違ってミラー研磨する必要がない、また圧電薄膜の結晶性に影響を与えないという利点がある。すなわち、基板に用いる場合より素子作製が容易である。また、酸化アルミニウムやダイヤモンド以外の材料でも前記条件を満たせば問題ない。なお、上記実施例では電極を圧電材料からなる薄膜2と非圧電材料からなる薄膜3の間に形成したが、水晶以外の圧電体基板1と圧電材料からなる薄膜2の間に形成してもよい。また、ここでは水晶薄膜を用いたが、これに限る必要はない。さらに、圧電体基板1は圧電薄膜2と温度係数TCFの符号が逆であり、熱膨張係数の差が±40%以内であるものであれば良い。
【0023】
以上のように、本実施例によれば、特性の良い、また膜厚によって素子の特性を制御できる表面弾性波素子を得ることができる。
【0024】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、水晶以外の圧電体基板と該圧電体基板上に形成した圧電材料からなる薄膜と非圧電材料からなる薄膜と電極で構成し、また前記非圧電材料のヤング率を3.5×1012dyne/cm2以上かつ密度を4g/cm3以下とし、また前記圧電材料はシリコンと酸素を主成分とし、また圧電材料からなる薄膜と非圧電材料からなる薄膜の各膜厚を制御し、また水晶以外の圧電体基板に用いる圧電材料の線膨張係数は圧電材料からなる薄膜に用いる圧電材料の線膨張係数の±40%以内とすることにより、高周波に対応できる信頼性の高い高性能な表面弾性波素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1における表面弾性波素子の断面構造を示す図である。
【符号の説明】
1 圧電体基板
2 圧電材料からなる薄膜
3 非圧電材料からなる薄膜
4 電極

Claims (3)

  1. 圧電体基板と該圧電体基板上に形成された圧電材料からなる薄膜と非圧電材料からなる薄膜と電極とを具備し、
    前記圧電材料は、シリコンと酸素を主成分とすることを特徴とする表面弾性波素子。
  2. 前記非圧電材料は、ヤング率が3.5×1012dyne/cm2以上であり、かつ密度が4g/cm3以下であることを特徴とする請求項1記載の表面弾性波素子。
  3. 前記圧電体基板に用いる圧電材料の線膨張係数は前記圧電材料からなる薄膜に用いる圧電材料の線膨張係数の±40%以内であることを特徴とする請求項1記載の表面弾性波素子。
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