JP3773859B2 - プラントの制御装置及び内燃機関の空燃比制御装置 - Google Patents

プラントの制御装置及び内燃機関の空燃比制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラントの制御装置及び内燃機関の空燃比制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、本願出願人は、内燃機関の排気通路に設けた触媒装置による排ガスの所要の浄化性能を確保するために、触媒装置を通過した排ガス中の特定成分の濃度、例えば酸素濃度を検出する排ガスセンサ(酸素濃度センサ)を触媒装置の下流側に配置し、この酸素濃度センサの出力を所定の目標値(一定値)に収束させるように内燃機関で燃焼させる混合気の空燃比、ひいては、触媒装置に進入する排ガスの空燃比(以下、ここでは触媒上流空燃比という)を制御する技術を特開平11−93740号公報等に提案している。ここで、上記触媒上流空燃比は、詳しくは、触媒装置に進入する排ガスとなった燃焼混合気の空燃比で、該排ガス中の酸素濃度から把握される空燃比である。
【0003】
この技術では、触媒装置の上流側から下流側の酸素濃度センサにかけての排気系を制御対象とし、この排気系の出力量としての酸素濃度センサの出力を前記目標値に収束させるように、該排気系の入力量としての触媒上流空燃比を規定する操作量、例えば該排ガスの目標空燃比を逐次生成する。そして、その目標空燃比に応じて内燃機関で燃焼させる混合気の空燃比を操作することで、前記触媒上流空燃比を目標空燃比に操作し、ひいては、酸素濃度センサの出力を前記目標値に収束制御する。
【0004】
この場合、前記排気系は、これに含まれる触媒装置に起因して一般に比較的長い無駄時間を有する。また、内燃機関の低速回転数域での運転時(例えばアイドリング運転時)等では、前記目標空燃比から触媒上流空燃比を生成する系(この系には内燃機関が含まれる。以下、ここではこの系を空燃比操作系という)が有する無駄時間も比較的長いものとなることがある。そして、このような無駄時間は、酸素濃度センサの出力を前記目標値を安定に収束させる上で悪影響を及ぼしやすい。このため、前記技術では、前記排気系のあらかじめ定めたモデル等に基づいて構築したアルゴリズムによって、前記排気系の無駄時間後、あるいは、その無駄時間と前記空燃比操作系の無駄時間とを合わせた無駄時間後の酸素濃度センサの出力の推定値を表すデータを逐次生成する。そして、その推定値を用いて前記目標空燃比を生成する。また、この場合、目標空燃比の生成は、例えばフィードバック制御の一手法であるスライディングモード制御(詳しくは適応スライディングモード制御)の処理により行われる。
【0005】
尚、酸素濃度センサの出力が前記目標値に収束している状態での排ガスの空燃比は、理論空燃比近傍の空燃比である。
【0006】
このような技術によれば、前記排気系や空燃比操作系の無駄時間の影響を補償しつつ、酸素濃度センサの出力の目標値への収束制御を安定して行うことができ、ひいては、触媒装置の良好な浄化性能を該触媒装置の劣化状態等によらずに確保することが可能となる。
【0007】
尚、上記の技術において、前記排気系をプラントとみなしたとき、前記内燃機関はこのプラントへの入力としての触媒上流空燃比を生成するアクチュエータ、前記酸素濃度センサはプラントの出力としての酸素濃度を検出する検出手段とみなすことができる。
【0008】
ところで、自動車等に搭載される内燃機関では、一般に、常に理論空燃比近傍の空燃比での内燃機関の運転(以下、ストイキ運転という)を行うわけではなく、運転状況によっては、内燃機関のフュエルカットを行ったり、空燃比のリーン領域での内燃機関の運転(以下、リーン運転という)を行う場合もある。そして、前記酸素濃度センサの出力をその目標値に収束させる制御は、上記ストイキ運転の際に行われるものである。
【0009】
一方、前記酸素濃度センサの出力は、前記目標値の近傍領域(理論空燃比近傍の空燃比域)では酸素濃度に対してほぼ線形な特性を示すが、その近傍領域をはずれた領域では、非線形なものとなる(図2の実線aを参照)。このため、内燃機関のフュエルカットやリーン運転の直後のストイキ運転では、酸素濃度センサの出力が非線形な領域の出力となる。
【0010】
ところが、このように酸素濃度センサの出力が非線形な領域で変化するときには、前記の技術では、推定値の精度が低下しやすく、該出力が線形な領域にあるときと同等の精度を確保することが困難である。また、加えて、触媒の化学反応に基づく還元作用を呈する場合(リーンからリッチへの変化の場合)と、酸化作用を呈する場合(リッチからリーンへの変化の場合)とでは、触媒の応答が異なり、これによっても非線形性は増す。この場合、前記目標空燃比を生成するために制御の安定性が高いスライディングモード制御(特に適応スライディングモード制御)の処理を用いることで、酸素濃度センサの出力の制御の安定性が損なわれることは回避できるが、前記推定値の精度の低下に起因して、酸素濃度センサの出力の収束制御の速応性が損なわれることがある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、プラントの出力を検出する検出手段の出力が非線形性を呈するような場合であっても、該検出手段の出力状態によらずに、該検出手段の出力を所定の目標値に収束させるような制御を高い速応性で良好に行うことができるプラントの制御装置を提供することを目的とする。
【0012】
また、特に、内燃機関の排気通路の触媒装置の下流に配置した排ガスセンサの出力が非線形性を呈するような場合であっても、該排ガスセンサの出力状態によらずに、該排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させる制御を高い速応性で良好に行うことができ、触媒装置による排ガスの浄化性能を高めることができる内燃機関の空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明のプラントの制御装置は、前記の目的を達成するために、第1の態様と第2の態様とがあり、その第1の態様は、所定の入力から所定の出力を生成するプラントと、該プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該検出手段の出力を所定の目標値に収束させるように前記プラントへの入力を操作するための操作量を逐次生成する操作量生成手段とを基本構成として備えたプラントの制御装置に関するものである。また、第2の態様は、さらに、上記基本構成に加えて、前記操作量に応じて前記アクチュエータの動作を制御して前記プラントへの入力を操作するアクチュエータ制御手段を備えたプラントの制御装置に関するものである。
【0014】
そして、本発明のプラントの制御装置の第1の態様は、前記プラントが有する無駄時間の影響を補償して、前記検出手段の出力を前記所定の目標値に収束させる制御を行うものであり、前記プラントが有する無駄時間後の前記検出手段の出力の推定値を表すデータを、少なくとも該検出手段の出力のデータを用いて互いに異なるアルゴリズムにより逐次生成する複数の推定手段を備え、前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を、前記検出手段の出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記検出手段の出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じて選択的に用いて、又は該複数の推定手段のデータがそれぞれ表す推定値を、前記検出手段の出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記検出手段の出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とするものである。
【0015】
また、第2の態様は、前記プラントが有する無駄時間と前記アクチュエータ制御手段及びアクチュエータからなる入力操作系(前記操作量からプラントへの入力を生成する系)が有する無駄時間とを合わせた合計無駄時間の影響を補償して、前記検出手段の出力を前記所定の目標値に収束させる制御を行うものであり、前記合計無駄時間後の前記検出手段の出力の推定値を表すデータを、少なくとも該検出手段の出力のデータを用いて互いに異なるアルゴリズムにより逐次生成する複数の推定手段を備え、前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を、前記検出手段の出力の時系列データを変数成分とする所定の線形関数の値と前記検出手段の出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じて選択的に用いて、又は該複数の推定手段のデータがそれぞれ表す推定値を、前記検出手段の出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記検出手段の出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とするものである。
【0016】
かかる本発明のプラントの制御装置の第1及び第2の態様によれば、前記複数の推定手段が、それぞれ互いに異なるアルゴリズムにより、前記無駄時間後の前記検出手段の出力の推定値を表すデータを生成するので、前記検出手段の複数種類の出力状態(これはプラントの出力状態に応じたものとなる)にそれぞれ適合するような複数の推定値を表すデータを生成することが可能となる。従って、該検出手段の出力が非線形性を呈する場合であっても、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を所定の条件(前記線形関数の値と前記検出手段の出力のデータの現在値とに基づく条件)に応じて選択し、あるいは、それらの推定値を上記所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を求めたとき、前記第1の態様では、その選択した推定値あるいは合成してなる推定値を、前記プラントの無駄時間後の推定値として精度の良い適正なものとすることができる。同様に、前記第2の態様では、選択した推定値あるいは合成してなる推定値を、前記プラントの無駄時間と前記入力操作系の無駄時間とを合わせた前記合計無駄時間後の推定値として精度の良い適正なものとすることができる。
【0017】
このため、このように選択した推定値あるいは合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することで、その操作量は、前記検出手段の出力状態あるいはプラントの出力状態によらずに前記プラントの無駄時間や、前記合計無駄時間の影響を補償して、前記検出手段の出力を前記目標値に収束させる上で適正なものとなる。この結果、前記検出手段の出力状態によらずに、該検出手段の出力を所定の目標値に収束させる制御の速応性を高めることができる。
【0018】
尚、本発明のプラントの制御装置において、前記操作量としては、例えばプラントへの目標入力やアクチュエータの動作量の補正量等が挙げられる。そして、前記操作量を例えばプラントへの目標入力とした場合には、プラントへの入力を検出する検出手段を設け、この検出手段の出力(プラントへの入力の検出値)を上記目標入力に収束させるようにフィードバック制御の処理によりプラントへの入力を操作することが好適である。また、前記推定値を用いて前記操作量を生成する前記操作量生成手段は、例えば、該推定値を前記検出手段の出力の目標値に収束させるようにフィードバック制御の処理により前記操作量を生成することで、前記プラントの無駄時間や前記合計無駄時間の影響を適正に補償し得る操作量を生成することが可能である。
【0019】
かかる第1および第2の態様の本発明のプラントの制御装置では、前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータが表す推定値を重み付けして合成してなる合成推定値を求める手段を有し、各推定手段の表す推定値に係る重み係数を、前記所定の条件に応じて可変的に設定することにより、前記各推定手段の推定値を含む前記合成推定値を求め、その求めた合成推定値を用いて前記操作量を生成することが好ましい。
【0020】
これによれば、前記重み係数を前記所定の条件に応じて可変的に設定することで、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータが表す推定値のいずれか一つを前記合成推定値として得ることができる(例えば当該一つの推定値に係る重み係数を「1」とし、他の推定値に係る重み係数を「0」とする)と共に、それらの推定値を複合的に合成した推定値を前記合成推定値として得ることもできる。従って、前記操作量の生成に用いる推定値の選択や合成を前記重み係数の設定によって一括的に行うことができ、その選択や合成のためのアルゴリズムの構築が容易になる。
【0021】
また、本発明のプラントの制御装置では、前記操作量生成手段は、種々様々のフィードバック制御処理により前記操作量を生成することが可能であるが、適応制御の処理により前記操作量を生成したり、あるいはスライディングモード制御の処理により前記操作量を生成することが好適である。
【0022】
すなわち、適応制御の処理により前記操作量を生成することで、プラントの挙動状態に則して前記操作量を生成することが可能となって、検出手段の出力の目標値への収束制御の速応性を高めることが可能となる。また、スライディングモード制御は、一般に、外乱や制御対象のモデル化誤差等に対する制御の安定性が高いという特性を有している。従って、このようなスライディングモード制御の処理により、前記操作量を生成するようにすることで、その処理に使用する前記推定値の誤差が外乱等の影響で予想以上に大きくなったとしても、その影響で前記検出手段の出力が不安定となるような状況を最小限に抑えることが可能となり、該検出手段の出力の前記目標値への制御の安定性を高めることができる。
【0023】
尚、スライディングモード制御の処理で用いる制御対象のモデルのパラメータを例えば制御対象の挙動状態に則して逐次同定するようにすれば、適応制御の処理とスライディングモード制御の処理とを複合させることも可能である。
【0024】
また、前記スライディングモード制御は、外乱等の影響を極力排除するために、通常のスライディングモード制御に対して、所謂、適応則(適応アルゴリズム)という制御則を加味した適応スライディングモード制御であることが特に好適である。ここで、この適応スライディングモード制御について補足説明をしておくと、スライディングモード制御では、一般に制御量とその目標値の偏差等を用いて構成される切換関数といわれる関数が用いられ、この切換関数の値を「0」に収束させることが重要となる。この場合、通常のスライディングモード制御では、切換関数の値を「0」に収束させるために所謂、到達則という制御則が用いられる。しかるに、外乱等の影響が受けると、この到達則だけでは切換関数の値の収束のの安定性や速応性を十分に確保することが困難となる場合もある。これに対して、適応スライディングモード制御は、外乱等の影響を極力排除して切換関数の値を「0」に収束させるために上記到達則に加えて、適応則(適応アルゴリズム)という制御則をも用いるようにしたものである。
【0026】
また、本発明のプラントの制御装置では、前記操作量をスライディングモード制御(適応スライディングモード制御を含む)の処理により生成する場合には、前記所定の線形関数は、前記スライディングモード制御の処理に用いる切換関数に応じて定められた線形関数であり、前記所定の条件、換言すれば、操作量を生成するために用いる推定値の選択の仕方や合成の仕方を規定する前記所定の条件は、前記所定の線形関数の値と、前記検出手段の出力のデータの現在値との組み合わせの条件であることが好適である。
【0027】
すなわち、前記操作量の生成にスライディングモード制御の処理を用いた場合、そのスライディングモード制御用の切換関数に対応して定まるある線形関数で、前記検出手段の出力の時系列データを変数成分とする線形関数の値と、前記検出手段の出力のデータの現在値との組み合わせが、該検出手段の出力状態と高い相関性を有する。従って、この組み合わせの条件を前記所定の条件とすることで、検出手段の出力状態に適合した推定値を選択し、あるいは該検出手段の出力状態に適合した合成の推定値を得ることが可能となる。ひいては、検出手段の出力状態に適した前記操作量を的確に生成することが可能となり、前記検出手段の出力の前記目標値への収束制御の速応性を高めることができる。
【0028】
この場合、前記切換関数が、例えば前記検出手段の出力と前記目標値との偏差の時系列データを変数成分とする線形な関数である場合には、前記所定の線形関数は、その変数成分に係る係数値を前記切換関数の変数成分に係る係数値と同一とした線形関数であることが好適である。
【0029】
このような線形関数を用いることで、前記操作量を生成するために用いる前記推定値の選択の仕方や合成の仕方を規定する前記組み合わせの条件を適正に設定することができる。尚、この場合、上記所定の線形関数は、切換関数と同じ形の関数であってもよい。
【0030】
また、前記組み合わせの条件は、前記線形関数の値及び前記検出手段の出力のデータの現在値の組み合わせが、その両値を座標成分とする座標平面上にあらかじめ定めた所定の領域に存するか否かの条件を含むことが好適である。
【0031】
これによれば、前記線形関数の値及び前記検出手段の出力のデータの現在値の組み合わせの分類、区別が容易となり、該組み合わせの条件の設定を容易に適正に行うことが可能となる。
【0032】
また、本発明のプラントの制御装置における各推定手段のアルゴリズムは、前記検出手段の出力特性やプラントの出力の挙動特性等に合わせて構築すればよく、種々様々なアルゴリズムの選択が可能である。
【0033】
本発明のプラントの制御装置における推定手段の形態としては、例えば次のような形態が好適である。すなわち、本発明の第1の態様のプラントの制御装置では、前記複数の推定手段は、例えば、前記プラントが前記入力から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記検出手段の出力を生成する系であるとして該プラントの挙動を表現すべくあらかじめ定めた該プラントのモデルに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなることが好適である。
【0034】
また、本発明の第2の態様のプラントの制御装置では、前記複数の推定手段は、例えば、前記プラントが前記入力から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記検出手段の出力を生成する系であるとして該プラントの挙動を表現すべくあらかじめ定めた該プラントのモデルと前記入力操作系が前記操作量から無駄時間要素を介して前記プラントへの入力を生成する系であるとして該入力操作系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該入力操作系のモデルとに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなることが好適である。
【0035】
これらの第1推定手段及び第2推定手段により、検出手段の出力状態やプラントの出力状態に適合した推定値を得ることが可能となる。
【0036】
次に、本発明の内燃機関の空燃比制御装置は、前記プラントの制御装置と同様に前記の目的を達成するために二つの態様があり、その第1の態様は、内燃機関の排気通路に設けた触媒装置の下流側に該触媒装置を通過した排ガス中の特定成分の濃度を検出すべく配置した排ガスセンサと、該排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を規定する操作量を逐次生成する操作量生成手段とを基本構成として備えた内燃機関の空燃比制御装置に関するものである。また、第2の態様は、上記の基本構成に加えて、前記操作量に応じて前記内燃機関で燃焼させる混合気の空燃比を操作する機関制御手段を備えた内燃機関の空燃比制御装置に関するものである。
【0037】
そして、本発明の内燃機関の空燃比制御装置の第1の態様は、前記触媒装置の上流側から下流側の前記排ガスセンサにかけての該触媒装置を含む排気系が有する無駄時間後の該排ガスセンサの出力の推定値を表すデータを、少なくとも該排ガスセンサの出力のデータを用いて互いに異なるアルゴリズムにより逐次生成する複数の推定手段を備え、前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を、前記排ガスセンサの出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記排ガスセンサの出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じて選択的に用いて、又は該複数の推定手段のデータがそれぞれ表す推定値を、前記排ガスセンサの出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記排ガスセンサの出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とするものである。
【0038】
また、本発明の内燃機関の空燃比制御装置の第2の態様は、前記触媒装置の上流側から下流側の前記排ガスセンサにかけての該触媒装置を含む排気系が有する無駄時間と前記機関制御手段及び内燃機関から成る空燃比操作系が有する無駄時間とを合わせた合計無駄時間後の該排ガスセンサの出力の推定値を表すデータを、少なくとも該排ガスセンサの出力のデータを用いて互いに異なるアルゴリズムにより逐次生成する複数の推定手段を備え、前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を、前記排ガスセンサの出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記排ガスセンサの出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じて選択的に用いて、又は該複数の推定手段のデータがそれぞれ表す推定値を、前記排ガスセンサの出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記排ガスセンサの出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とするものである。
【0039】
尚、本発明の内燃機関の空燃比制御装置(第1及び第2の態様の両者)は、基本的には、本発明のプラントの制御装置の一形態とみなせるものであり、前記プラントの制御装置に対応づけると、該空燃比制御装置における前記排気系、内燃機関、排ガスセンサ、機関制御手段、操作量生成手段がそれぞれ前記プラントの制御装置における前記プラント、アクチュエータ、検出手段、アクチュエータ制御手段、操作量生成手段に相当するものとなる。また、前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比が、プラントしての前記排気系への入力に相当するものとなり、前記排ガスセンサが検出する前記特定成分の濃度が、プラントしての排気系の出力に相当するものとなる。
【0040】
かかる本発明の内燃機関の空燃比制御装置の第1及び第2の態様によれば、前記複数の推定手段が、それぞれ互いに異なるアルゴリズムにより、前記無駄時間後の前記排ガスセンサの出力の推定値を表すデータを生成するので、前記排ガスセンサの複数種類の出力状態(これは前記排気系の下流端の排ガス状態に応じたものとなる)にそれぞれ適合するような複数の推定値を表すデータを生成することが可能となる。従って、該排ガスセンサの出力が非線形性を呈する場合であっても、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を所定の条件(前記線形関数の値と、前記排ガスセンサの出力のデータの現在値とに基づく条件)に応じて選択し、あるいは、それらの推定値を上記所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を求めたとき、その選択した推定値あるいは合成してなる推定値を、前記排気系の無駄時間後の推定値(第1の態様の場合)、あるいは、前記排気系の無駄時間と前記空燃比操作系の無駄時間とを合わせた合計無駄時間後の推定値(第2の態様の場合)として精度の良い適正なものとすることができる。
【0041】
このため、このように選択した推定値あるいは合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することで、その操作量は、前記排ガスセンサの出力状態あるいは前記排気系を通過した排ガスの成分状態によらずに前記排気系の無駄時間や、前記合計無駄時間の影響を補償して、前記排ガスセンサの出力を前記目標値に収束させる上で適正なものとなる。この結果、前記排ガスセンサの出力状態によらずに、該排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させる制御の速応性を高めることができ、ひいては、触媒装置の所要の浄化性能を好適に確保することができる。
【0042】
尚、本発明の内燃機関の空燃比制御装置において、前記操作量としては、例えば触媒装置に進入する排ガスの目標空燃比や内燃機関の燃料供給量の補正量等が挙げられる。そして、前記操作量を例えば目標空燃比とした場合には、触媒装置に進入する排ガスの空燃比を検出する空燃比センサを触媒装置の上流側に設け、この空燃比センサの出力(排ガスの空燃比の検出値)を上記目標空燃比に収束させるようにフィードバック制御の処理により、内燃機関で燃焼させる混合気の空燃比を操作することが好適である。この場合におけるフィードバック制御の処理は、適応制御器等の漸化式形式の制御器により行うことが好適である。また、前記推定値を用いて前記操作量を生成する前記操作量生成手段は、前記プラントの制御装置の場合と同様、例えば、該推定値を前記排ガスセンサの出力の目標値に収束させるようにフィードバック制御の処理により前記操作量を生成することで、前記排気系の無駄時間や前記合計無駄時間の影響を適正に補償し得る操作量を生成することが可能である。
【0043】
かかる第1及び第2の態様の本発明の内燃機関の空燃比制御装置では、前記プラントの制御装置の場合と同様、前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータが表す推定値を重み付けして合成してなる合成推定値を求める手段を有し、各推定手段の表す推定値に係る重み係数を、前記所定の条件に応じて可変的に設定することにより、前記各推定手段の推定値を含む前記合成推定値を求め、その求めた合成推定値を用いて前記操作量を生成することが好ましい。
【0044】
これによれば、前記重み係数を前記所定の条件に応じて可変的に設定することで、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータが表す推定値のいずれか一つを前記合成推定値として得ることができると共に、それらの推定値を複合的に合成した推定値を前記合成推定値として得ることもできるため、前記操作量の生成に用いる推定値の選択や合成を前記重み係数の設定によって一括的に行うことができ、その選択や合成のためのアルゴリズムの構築が容易になる。
【0045】
さらに、本発明の内燃機関の空燃比制御装置では、前記プラントの制御装置の場合と同様、前記操作量生成手段は、適応制御の処理により前記操作量を生成したり、あるいは、スライディングモード制御(好ましくは、適応スライディングモード制御)の処理により前記操作量を生成することが好適である。
【0046】
このように適応制御の処理により前記操作量を生成することで、前記排気系の挙動状態に則して前記操作量を生成することが可能となって、排ガスセンサの出力の前記目標値への収束制御の速応性を高めることが可能となる。また、スライディングモード制御の処理により前記操作量を生成することで、排ガスセンサの出力の前記目標値への収束制御の安定性を高めることができる。
【0047】
尚、前記プラントの制御装置で説明したように、適応制御の処理とスライディングモード制御の処理(適応スライディングモード制御を含む)を複合させることも可能である。
【0048】
また、本発明の内燃機関の空燃比制御装置では、前記プラントの制御装置の場合と同様、前記操作量の生成に使用する前記推定値を規定する前記所定の条件(操作量を生成するために用いる推定値の選択の仕方や合成の仕方を規定する所定の条件)は、スライディングモード制御の処理により前記操作量を生成する場合、前記所定の線形関数は、前記スライディングモード制御の処理に用いる切換関数に応じて定められた線形関数であり、前記所定の条件は、前記所定の線形関数の値と、前記排ガスセンサの出力のデータの現在値との組み合わせの条件であることが好適である。
【0049】
これにより、前記排ガスセンサの出力状態に適合した推定値を選択し、あるいは該排ガスセンサの出力状態に適合した合成の推定値を得ることが可能となり、排ガスセンサの出力状態に適した前記操作量を的確に生成することが可能となる。この結果、前記排ガスセンサの出力の前記目標値への収束制御の速応性を高め、ひいては前記触媒装置の浄化性能を好適に確保することができる。
【0050】
さらにこの場合、前記切換関数が、例えば前記排ガスセンサの出力と前記目標値との偏差の時系列データを変数成分とする線形な関数である場合には、前記所定の線形関数は、その変数成分に係る係数値を前記切換関数の変数成分に係る係数値と同一とした線形関数(切換関数と同じ形の関数であってもよい)であることが好適である。
【0051】
このような線形関数を用いることで、前記操作量を生成するために用いる前記推定値の選択の仕方や合成の仕方を規定する前記組み合わせの条件を適正に設定することができる。
【0052】
また、前記組み合わせの条件は、前記線形関数の値及び前記排ガスセンサの出力のデータの現在値の組み合わせが、その両値を座標成分とする座標平面上にあらかじめ定めた所定の領域に存するか否かの条件を含むことが好適である。
【0053】
これによれば、前記線形関数の値及び前記排ガスセンサの出力のデータの現在値の組み合わせの分類、区別が容易となり、該組み合わせの条件の設定を容易に適正に行うことが可能となる。
【0054】
ところで、本発明の内燃機関の空燃比制御装置では、前記触媒装置の最適な浄化性能を確保する上では、前記排ガスセンサとして酸素濃度センサを用い、その目標値を所定の一定値とすることが好適である。
【0055】
そして、このように前記排ガスセンサが酸素濃度センサである場合、本発明の第1の態様の内燃機関の空燃比制御装置では、前記複数の推定手段は、例えば前記排気系が前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記酸素濃度センサの出力を生成する系であるとして該排気系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該排気系のモデルに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とから構成することが好ましい。
【0056】
また、本発明の第2の態様の内燃機関の空燃比制御装置では、前記複数の推定手段は、前記排気系が前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記酸素濃度センサの出力を生成する系であるとして該排気系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該排気系のモデルと前記空燃比操作系が前記操作量から無駄時間要素を介して前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を生成する系であるとして該空燃比操作系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該空燃比操作系のモデルとに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とから構成することが好ましい。
【0057】
すなわち、前記第1の態様の内燃機関の空燃比制御装置では、基本的には、前記排気系のモデルに基づいて構築したアルゴリズムにより、酸素濃度センサの出力が、排ガス中の酸素濃度に対してほぼ線形な変化を呈するような領域(前記目標値の近傍領域)で変化するような状態における該排気系の無駄時間後における前記推定値を表すデータを適正に生成することが可能である。
【0058】
また、前記第2の態様の内燃機関の空燃比制御装置では、基本的には、前記排気系のモデルと前記空燃比操作系のモデル(前記空燃比操作系を単なる無駄時間要素とみなしたモデル)とに基づいて構築したアルゴリズムにより、前記酸素濃度センサの出力が、排ガス中の酸素濃度に対してほぼ線形な変化を呈するような領域(前記目標値の近傍領域)で変化するような状態における前記合計無駄時間後における前記推定値を表すデータを比較的精度よく生成することが可能である。
【0059】
一方、本願発明者等の知見によれば、第1及び第2の態様の内燃機関の空燃比制御装置のいずれにおいても、酸素濃度センサの出力が、排ガス中の酸素濃度に対して非線形な変化を呈するような領域で変化するような状態における前記排気系の無駄時間後、あるいは、前記合計無駄時間後における前記推定値を表すデータは、例えばファジー推論のアルゴリズムによって比較的精度よく生成することが可能である。
【0060】
そこで、本発明の内燃機関の空燃比制御装置では、前記推定値のデータを生成するために前記排気系のモデルに基づくアルゴリズム(第1の態様の場合)、あるいは、該排気系のモデル及び前記空燃比操作系のモデルに基づくアルゴリズム(第2の態様の場合)を用いる前記第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムにより前記推定値のデータを生成する前記第2推定手段とにより前記複数の推定手段を構成する。
【0061】
このようにすることにより、第1及び第2推定手段により酸素濃度センサの互いに異なる出力状態における前記推定値のデータを適正に生成することが可能となるため、それらの推定値を選択的に用い、あるいは、それらの推定値を合成したものを用いることで、酸素濃度センサの出力状態によらずに、該酸素濃度センサの出力を前記目標値に収束させる上で適正な前記操作量を生成することが可能となる。
【0062】
このように排ガスセンサを酸素濃度センサとして、前記複数の推定手段を前記第1及び第2推定手段により構成した場合において、特に、前記操作量を前記スライディングモード制御の処理により生成する場合には、前記第2推定手段のファジー推論のアルゴリズムは、前記酸素濃度センサの出力の時系列データを変数成分とすると共に前記スライディングモード制御の処理に用いる切換関数に応じて定められた所定の線形関数の値と、前記酸素濃度センサの出力のデータ値とを前記ファジー推論の前件部のパラメータとし、前記推定値を表すデータを該ファジー推論の後件部のパラメータとして生成するアルゴリズムであることが好ましい。
【0063】
すなわち、前記操作量の生成にスライディングモード制御の処理を用いた場合、本願発明者等の知見によれば、上記のようにファジー推論の前件部のパラメータと、後件部のパラメータとを設定することで、特に、前記酸素濃度センサの出力が非線形領域で変化する状態における前記推定値を表すデータを比較的精度よく好適に得ることが可能となる。この結果、酸素濃度センサの出力が非線形領域に存するような状態からでも、該酸素濃度センサの出力の前記目標値への収束制御の速応性を高めることができる。
【0064】
尚、この場合、前述のように、前記所定の条件(操作量を生成するために用いる推定値の選択の仕方や合成の仕方を規定する所定の条件)を、前記スライディングモード制御の処理に用いる切換関数に応じて定められた所定の線形関数の値と、前記検出手段の出力のデータ値との組み合わせの条件としたときには、前記ファジー推論の前件部に係わる線形関数は、この組み合わせ条件に係わる線形関数と同一であることが好適である。
【0065】
これによれば、排ガスセンサ(酸素濃度センサ)の出力状態が、前記第2推定手段による推定値を選択してもしくは重視して前記操作量を生成した方が良い状態(ファジー推論による推定値がより良好な精度を有するような状態)であるのか、前記第1推定手段による推定値を選択してもしくは重視して前記操作量を生成した方が良い状態(排気系のモデル等に基づく推定値がより良好な精度を有するような状態)であるのかを、上記組み合わせ条件によって適正に区別化することができる。このため、第1及び第2推定手段による推定値の選択あるいは合成を、それぞれの推定値の精度状態に適合させて行うことができ、ひいては、前記操作量の生成をより適正に行うことが可能となる。
【0066】
また、前記ファジー推論のアルゴリズムは、前記後件部のパラメータに係わるメンバーシップ関数として複数の棒状関数を用いて、min−max−重心法に基づき構築されたアルゴリズムであることが好ましい。ここで、前記棒状関数は、その変数(パラメータ)の一つの値においてのみ、関数値を持つような関数である。また、min−max−重心法は、ファジー推論において一般的に用いられている公知の手法である。
【0067】
これによれば、ファジー推論のアルゴリズムの構築が容易なものとなると共に、前記推定値を表すデータを生成するための演算負荷を軽減することができる。
【0068】
また、上述のように、排ガスセンサとして酸素濃度センサを用いると共に第1及び第2推定手段を備えた本発明の内燃機関の空燃比制御装置では、前記第1推定手段に関しては、前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、該空燃比センサ及び前記酸素濃度センサの出力のデータを用いて前記排気系のモデルの設定すべきパラメータの値を逐次同定する同定手段とを備え、前記第1推定手段のアルゴリズムは、少なくとも前記酸素濃度センサ及び空燃比センサのそれぞれの出力のデータと前記同定手段により同定された前記排気系のモデルのパラメータとを用いて前記推定値を表すデータを生成するアルゴリズムであることが好ましい。
【0069】
すなわち、前記排気系の入力としての排ガスの空燃比(触媒装置に進入する排ガスの空燃比)を前記空燃比センサにより検出し、この空燃比センサの出力のデータと、前記排気系の出力としての排ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサの出力のデータとを用いて前記同定手段により前記排気系のモデルのパラメータを逐次同定することで、該モデルのパラメータが、排気系の時々刻々の実際の挙動状態に則してリアルタイムで同定されることとなる。このため、実際の排気系の挙動に対する該排気系のモデルの誤差を極力低減することができる。この結果、酸素濃度センサの出力がほぼ線形な領域で変化する状態における前記第1推定手段による前記推定値のデータの精度を高めることが可能となり、ひいては、酸素濃度センサの出力の前記目標値への収束制御の速応性を高めることができる。
【0070】
尚、第1推定手段のアルゴリズムに関しては、前記第1の態様及び第2の態様のいずれの場合であっても、前記空燃比センサの出力のデータと前記操作量のデータとの両者もしくはいずれか一方と、前記酸素濃度センサの出力のデータと、前記排気系のモデルのパラメータとを用いて前記推定値を表すデータを生成することが可能である。
【0071】
また、前記第1推定手段のアルゴリズムの基礎となる前記排気系のモデルは、基本的には離散時間系で構築しておくことが好ましい。そして、この場合には、該排気系のモデルは、例えば、所定の制御サイクル毎の酸素濃度センサの出力のデータを、その制御サイクルよりも過去の制御サイクルにおける該酸素濃度センサの出力のデータと、前記排気系の無駄時間以前の制御サイクルにおいて前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を表すデータ(前記空燃比センサの出力のデータ、前記操作量のデータ等)とにより表現するモデルであることが好ましい。
【0072】
【発明の実施の形態】
本発明の第1実施形態を図1〜図18を参照して説明する。尚、本実施形態は、本発明の内燃機関の空燃比制御装置の第2の態様の実施形態であると同時に、本発明のプラントの制御装置の第2の態様の実施形態でもある。
【0073】
図1は本実施形態における内燃機関の排ガスの空燃比制御装置の全体的システム構成を示すブロック図であり、図中、1は例えば自動車あるいはハイブリッド車に車両の推進源(図示しない駆動輪の駆動源)として搭載された4気筒のエンジン(内燃機関)である。このエンジン1が各気筒毎に燃料及び空気の混合気の燃焼により生成する排ガスは、エンジン1の近傍で共通の排気管2(排気通路)に集合され、該排気管2を介して大気中に放出される。そして、排気管2には、排ガスを浄化するために、図示しない三元触媒やNOx吸収材(窒素酸化物吸収材)を用いて構成された触媒装置3が介装されている。
【0074】
尚、触媒装置3に含まれるNOx吸収材は、酸化バリウム(BaO)等から構成される吸蔵式のものと、ナトリウム(Na)、チタン(Ti)、ストロンチウム(Sr)等から構成される吸着式のものとがあるが、そのいずれのタイプのものであってもよい。また、本発明のプラントの制御装置に対応させると、エンジン1はアクチュエータに相当するものである。
【0075】
また、排気管2における触媒装置3の上流側の箇所(詳しくはエンジン1の各気筒毎の排ガスの集合箇所)と触媒装置3の下流側の箇所とにはそれぞれ空燃比センサ4と排ガスセンサとしてのO2センサ5(酸素濃度センサ)が設けられている。ここで、本発明のプラントの制御装置に対応させると、触媒装置3の上流側の空燃比センサ4から触媒装置3の下流側のO2センサ5にかけての該触媒装置3を含む排気系(図1で参照符号Eを付した部分)はプラントに相当し、O2センサ5はこの排気系Eの出力を検出する検出手段に相当するものである。
【0076】
2センサ5は、触媒装置3を通過した排ガス中の酸素濃度に応じたレベルの出力VO2/OUT(酸素濃度の検出値を示す出力)を生成する通常的なO2センサである。ここで、排ガス中の酸素濃度は、燃焼によりその排ガスとなった混合気の空燃比に応じたものとなる。そして、このO2センサ5の出力VO2/OUTは、図2に実線aで示す如く、排ガス中の酸素濃度に対応する空燃比が理論空燃比近傍の比較的狭い範囲Δに存するような状態で、該排ガス中の酸素濃度に対してほぼ線形に高感度な変化を生じるものとなる。また、その範囲Δを逸脱した空燃比に対応する酸素濃度では、O2センサ5の出力VO2/OUTは、酸素濃度の変化に対して非線形なものとなり、ほぼ一定のレベルで飽和する。
【0077】
空燃比センサ4は、触媒装置3に進入する排ガスの酸素濃度により把握される空燃比の検出値を表す出力KACTを生成するものである。この空燃比センサ4は、例えば本願出願人が特開平4−369471号公報にて詳細に説明した広域空燃比センサにより構成されたものであり、図2に実線bで示す如く、O2センサ5よりも排ガス中の酸素濃度の広範囲にわたってそれに比例したレベルの出力を生成するものである。換言すれば、該空燃比センサ4(以下、LAFセンサ4という)は、排ガス中の酸素濃度に対応した空燃比の広範囲にわたって線形な出力特性を示すものである。
【0078】
本実施形態のシステムでは、エンジン1で燃焼させる混合気の空燃比を制御するために、マイクロコンピュータを用いて構成された制御ユニット6を備えている。この制御ユニット6には、その制御処理を行うために、LAFセンサ4の出力KACTやO2センサ5の出力V O2/OUTが与えられる他、エンジン1の回転数、吸気圧、冷却水温、スロットル弁の開度等、エンジン1の運転状態を検出するための図示しない各種のセンサの出力が与えられる。
【0079】
この制御ユニット6は、その処理機能を大別すると、触媒装置3の最適な浄化性能を確保するように、触媒装置に進入する排ガスの空燃比(以下、触媒上流空燃比という)の目標値である目標空燃比KCMDを触媒上流空燃比を規定する操作量として求める処理を逐次実行する操作量生成手段7と、この目標空燃比KCMD等に応じてエンジン1の燃料供給量を調整することによって触媒上流空燃比を操作する処理を逐次実行する機関制御手段8とを具備している。
【0080】
この場合、操作量生成手段7及び機関制御手段8は、それぞれの制御処理を各別の制御サイクルで実行するようにしている。すなわち、操作量生成手段7は、その演算負荷や前記排気系Eが有する比較的長い無駄時間を等を考慮し、あらかじめ定めた周期の制御サイクル(例えば30〜100ms)としている。また、機関制御手段8の処理を実行する制御サイクルは、エンジン1の燃料供給量の調整処理をエンジン1の燃焼サイクルに同期させて行う必要があることから、エンジン1のクランク角周期(所謂TDC)に同期した制御サイクルとしている。そして、操作量生成手段7の制御サイクルの周期は、エンジン1のクランク角周期(TDC)よりも長いものとされている。
【0081】
尚、本実施形態では、エンジン1の運転モードとして、エンジン1で燃焼させる混合気の空燃比、ひいては触媒上流空燃比を理論空燃比近傍の空燃比としてエンジン1の運転を行うストイキ運転モードや、該混合気の空燃比をリーン状態(理論空燃比よりも燃料が少ない状態)の空燃比としてエンジン1の運転を行うリーン運転モード等がある。そして、前記操作量生成手段7が生成する目標空燃比KCMDは、エンジン1の運転モードがストイキ運転モードであるときに、触媒上流空燃比の目標値として前記機関制御手段8が使用するものである。
【0082】
前記操作量生成手段7及び機関制御手段8をさらに説明する。
【0083】
まず、操作量生成手段7に関し、触媒装置3の浄化性能(具体的には排ガス中のNOx、HC、CO等の浄化率)は、該触媒装置3を流れる排ガスの空燃比が理論空燃比近傍の空燃比状態であって、前記O2センサ5の出力VO2/OUTがある一定値VO2/TARGET(図2参照)に整定するような空燃比状態であるときに触媒装置3が含む三元触媒等の劣化状態によらずに最適な浄化性能が得られる。このため、操作量生成手段7は、上記一定値VO2/TARGETをO2センサ5の出力VO2/OUTの目標値とし、その目標値VO2/TARGETにO2センサ5の出力VO2/OUTを収束させるように触媒上流空燃比の目標値である前記目標空燃比KCMDを逐次生成する。
【0084】
そして、この目標空燃比KCMDの生成に際しては、触媒装置3を含む前記排気系Eが有する無駄時間や、前記エンジン1及び機関制御手段8からなる系が有する無駄時間、排気系Eの挙動変化等を考慮しつつ、フィードバック制御の一手法であるスライディングモード制御(詳しくは適応スライディングモード制御)を用いて目標空燃比KCMDを操作量生成手段7の制御サイクル(所定の周期)で逐次生成する。
【0085】
このような操作量生成手段7の処理を行うために、本実施形態では、前記排気系Eが、LAFセンサ4の出力KACT(LAFセンサ4が検出する触媒上流空燃比)から、無駄時間要素及び応答遅れ要素を介してO2センサ5の出力VO2/OUTを生成する系であるとして、該排気系Eの挙動があらかじめ離散時間系でモデル化されている。さらに、前記エンジン1及び機関側制御手段8からなる系(以下、この系を空燃比操作系という)が、前記目標空燃比KCMDから無駄時間要素を介してLAFセンサ4の出力KACT(LAFセンサ4が検出する触媒上流空燃比)を生成する系であるとして、該空燃比操作系の挙動がモデル化されている。
【0086】
この場合、排気系Eのモデルに関しては、LAFセンサ4の出力KACTとそれに対する所定の基準値FLAF/BASEとの偏差(=KACT−FLAF/BASE。以下、LAFセンサ4の偏差出力kactという)を排気系Eに対する入力量、O2センサ5の出力VO2/OUTと前記目標値VO2/TARGETとの偏差(=VO2/OUT−VO2/TARGET。以下、O2センサ5の偏差出力VO2という)を排気系Eの出力量とし、次式(1)の自己回帰モデル(詳しくは、排気系Eの入力量としてのLAFセンサ4の偏差出力kactに無駄時間を有する自己回帰モデル)により排気系Eの挙動が表現されている。尚、LAFセンサ4の偏差出力kactに係わる前記基準値FLAF/BASE(以下、空燃比基準値FLAF/BASEという)は本実施形態では「理論空燃比」に設定されている。
【0087】
【数1】
Figure 0003773859
【0088】
ここで、上式(1)において、「k」は前記操作量生成手段7の離散時間的な制御サイクルの番数を示し(以下、同様)、「d1」は排気系Eに存する無駄時間(詳しくはLAFセンサ4が検出する各時点の触媒上流空燃比がO2センサ5の出力VO2/OUTに反映されるようになるまでに要する無駄時間)を操作量生成手段7の制御サイクル数で表したものである。この場合、排気系Eの無駄時間は、操作量生成手段7の制御サイクルの周期を30〜100msとしたとき、一般的には、3〜10制御サイクル分の時間(d1=3〜10)である。そして、本実施形態では、式(1)により表した排気系Eのモデル(以下、排気系モデルという)における無駄時間d1の値として、排気系Eの実際の無駄時間と等しいか、もしくはそれよりも若干長いものにあらかじめ設定した所定の一定値(本実施形態では例えばd1=7)が設定されている。
【0089】
また、式(1)の右辺第1項及び第2項はそれぞれ排気系Eの応答遅れ要素に対応するもので、第1項は1次目の自己回帰項、第2項は2次目の自己回帰項である。そして、「a1」、「a2」はそれぞれ1次目の自己回帰項のゲイン係数、2次目の自己回帰項のゲイン係数である。これらのゲイン係数a1,a2は別の言い方をすれば、排気系Eの出力量としてのO2センサ5の偏差出力VO2に係る係数である。
【0090】
さらに、式(1)の右辺第3項は排気系Eの入力量としてのLAFセンサ4の偏差出力kactに排気系Eの無駄時間d1を含めて表現したものであり、「b1」はその入力量に係るゲイン係数である。これらのゲイン係数a1,a2,b1は排気系モデルの挙動を規定する上である値に設定すべきパラメータであり、本実施形態では後述の同定器によって逐次同定するものである。
【0091】
このように式(1)により定めた排気系モデルは、それを言葉で表現すれば、操作量生成手段7の制御サイクル毎のO2センサ5の偏差出力VO2(k+1)を、その制御サイクルよりも過去の制御サイクルにおけるO2センサ5の偏差出力VO2(k),VO2(k-1)と、排気系Eの無駄時間d以前の制御サイクルにおけるLAFセンサ4の偏差出力kact(k-d1)とにより表現するものである。
【0092】
この場合、排気系モデルは、式(1)から明らかなように線形なモデルであるため、基本的には、O2センサ5の出力VO2/OUTが、排ガス中の酸素濃度に対してほぼ線形な変化を呈するような領域で変化するような状態、すなわち、排ガスの空燃比が理論空燃比近傍の範囲Δ(図2参照)で変化するような状態での排気系Eの挙動をより良く近似するものとなる。
【0093】
一方、前記空燃比操作系のモデルに関しては、前記目標空燃比KCMDと前記空燃比基準値FLAF/BASEとの偏差kcmd(=KCMD−FLAF/BASE。以下、目標偏差空燃比kcmdという)を空燃比操作系の入力量、LAFセンサ5の前記偏差出力kactを空燃比操作系の出力量とし、次式(2)のモデル(以下、空燃比操作系モデルという)により空燃比操作系の挙動が表現されている。
【0094】
【数2】
Figure 0003773859
【0095】
ここで、式(2)において、「d2」は空燃比操作系が有する無駄時間(詳しくは各時点の目標空燃比KCMDがLAFセンサ5の出力KACTに反映されるようになるまでに要する無駄時間)を操作量生成手段7の制御サイクル数で表したものである。従って、この式(2)により表現した空燃比操作系モデルは、空燃比操作系を、その出力量としてのLAFセンサ5の偏差出力kactが、該空燃比操作系の無駄時間d2前の時点における該空燃比操作系への入力量としての目標偏差空燃比kcmdに一致するような系として該空燃比操作系を離散時間系で表現したものである。
【0096】
この場合、空燃比操作系の無駄時間は、該空燃比操作系が含むエンジン1の回転数によって変化し、エンジン1の回転数が低くなる程、長くなる。そして、本実施形態では、式(2)により表した空燃比操作系モデルにおける無駄時間d2の値としては、上記のような空燃比操作系の無駄時間の特性を考慮し、例えばエンジン1の低速回転域の回転数であるアイドリング回転数において実際の空燃比操作系が有する無駄時間(これは、エンジン1の任意の回転数において空燃比操作系が採り得る最大側の無駄時間である)と等しいか、もしくはそれよりも若干長いものにあらかじめ設定した所定の一定値(本実施形態では例えばd2=3)を用いる。
【0097】
尚、前記空燃比操作系には、実際には、無駄時間要素の他、エンジン1に起因した応答遅れ要素も含まれる。しかるに、目標空燃比KCMDに対する触媒上流空燃比の応答遅れは、基本的には詳細を後述する機関制御手段8のフィードバック制御処理(特に後述する適応制御器24の処理)によって補償されるため、操作量生成手段7から見た空燃比操作系では、エンジン1に起因する応答遅れ要素を考慮せずとも支障はない。
【0098】
操作量生成手段7は、式(1),(2)によりそれぞれ表現した排気系モデルや空燃比操作系モデル等に基づいて目標空燃比KCMDの生成処理を行うために、図3に示すような機能的構成を具備している。
【0099】
すなわち、操作量生成手段7は、前記LAFセンサ4の出力KACTから前記空燃比基準値FLAF/BASEを減算することによりLAFセンサ4の偏差出力kactを制御サイクル毎に逐次求める減算処理部9と、O2センサ5の出力VO2/OUTから前記目標値VO2/TARGETを減算することによりO2センサ5の偏差出力VO2を制御サイクル毎に逐次求める減算処理部10とを具備する。
【0100】
さらに操作量生成手段7は、前記排気系モデル(式(1))の設定すべきパラメータである前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定値a1ハット,a2ハット,b1ハット(以下、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットという)を制御サイクル毎に逐次求める同定器11(同定手段)と、排気系Eの無駄時間d1及び空燃比操作系の無駄時間d2を合わせた合計無駄時間d(=d1+d2)後のO2センサ5の偏差出力VO2の2種類の推定値(予測値)VO2Lバー、VO2Fバー(以下、推定偏差出力VO2Lバー、VO2Fバーという)をそれぞれ互いに異なるアルゴリズムにより制御サイクル毎に逐次求める第1推定器12(第1推定手段)及び第2推定器13(第2推定手段)と、これらの両推定器12,13がそれぞれ求めた推定偏差出力VO2Lバー、VO2Fバーを合成してなる合成推定偏差出力VO2バーを制御サイクル毎に逐次求める合成器14と、適応スライディングモード制御の処理により前記目標空燃比KCMDを制御サイクル毎に逐次算出するスライディングモード制御器15とを具備する。
【0101】
前記同定器11、第1推定器12、第2推定器13、合成器14、及びスライディングモード制御器15による演算処理のアルゴリズムは以下のように構築されている。
【0102】
まず、同定器11は、前記式(1)により表現した排気系モデルの実際の対象排気系Eに対するモデル化誤差を極力小さくするように前記ゲイン係数a1,a2,b1の値をリアルタイムで逐次同定するものであり、その同定処理を次のように行う。
【0103】
すなわち、同定器11は、操作量生成手段7の制御サイクル毎に、まず、今現在設定されている排気系モデルの同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハット、すなわち前回の制御サイクルで決定した同定ゲイン係数a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットの値と、LAFセンサ4の偏差出力kact及びO2センサ5の偏差出力VO2の過去値のデータkact(k-d1-1),VO2(k-1),VO2(k-2)とを用いて、次式(3)により排気系モデル上でのO2センサ5の偏差出力VO2(排気系モデルの出力)の値VO2(k)ハット(以下、同定偏差出力VO2(k)ハットという)を求める。
【0104】
【数3】
Figure 0003773859
【0105】
この式(3)は、排気系モデルを表す前記式(1)を1制御サイクル分、過去側にシフトし、ゲイン係数a1,a2,b1として同定ゲイン係数a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットを用いたものである。また、式(3)の第3項で用いる排気系Eの無駄時間d1の値は、前述の如く設定した一定値(本実施形態ではd1=7)を用いる。
【0106】
尚、式(3)中の「Θ」、「ξ」は同式但し書きで定義した通りのベクトルである。また、式(3)で用いている添え時「T」は転置を意味する(以下同様)。
【0107】
さらに同定器11は、前記式(3)により求められるO2センサ5の同定偏差出力VO2(k)ハットと今現在のO2センサ5の偏差出力VO2(k)との偏差id/e(k)を排気系モデルの実際の排気系Eに対するモデル化誤差を表すものとして次式(4)により求める(以下、偏差id/eを同定誤差id/eという)。
【0108】
【数4】
Figure 0003773859
【0109】
そして、同定器11は、上記同定誤差id/eを最小にするように新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハット、換言すれば、これらの同定ゲイン係数を要素とする新たな前記ベクトルΘ(k)(以下、このベクトルを同定ゲイン係数ベクトルΘという)を求めるもので、その算出を、次式(5)により行う。すなわち、同定器11は、前回の制御サイクルで決定した同定ゲイン係数a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットを、同定誤差id/e(k)に比例させた量だけ変化させることで新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを求める。
【0110】
【数5】
Figure 0003773859
【0111】
ここで、式(5)中の「Kθ」は次式(6)により決定される三次のベクトル(各同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの同定誤差id/eに応じた変化度合いを規定するゲイン係数ベクトル)である。
【0112】
【数6】
Figure 0003773859
【0113】
また、上式(6)中の「P」は次式(7)の漸化式により決定される三次の正方行列である。
【0114】
【数7】
Figure 0003773859
【0115】
尚、式(7)中の「λ1」、「λ2」は0<λ1≦1及び0≦λ2<2の条件を満たすように設定され、また、「P」の初期値P(0)は、その各対角成分を正の数とする対角行列である。
【0116】
この場合、式(7)中の「λ1」、「λ2」の設定の仕方によって、固定ゲイン法、漸減ゲイン法、重み付き最小二乗法、最小二乗法、固定トレース法等、各種の具体的な同定アルゴリズムが構成され、本実施形態では、例えば最小二乗法(この場合、λ1=λ2=1)を採用している。
【0117】
本実施形態における同定器25は基本的には前述のようなアルゴリズム(演算処理)によって、前記同定誤差id/eを最小化するように排気系モデルの前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを制御サイクル毎に逐次求めるものである。このような処理によって、実際の排気系Eに適合した同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットが逐次、リアルタイムで得られる。
【0118】
以上説明したアルゴリズムが同定器11が実行する基本的なアルゴリズムである。
【0119】
次に、前記第1推定器12は、後に詳細を説明するスライディングモード制御器15による目標空燃比KCMDの算出処理に際しての排気系Eの無駄時間d1及び空燃比操作系の無駄時間d2の影響を補償するために、前記合計無駄時間d(=d1+d2)後のO2センサ5の偏差出力VO2の推定値である前記推定偏差出力VO2Lバーを制御サイクル毎に逐次求めるものである。その推定処理のアルゴリズムは次のように構築されている。
【0120】
まず、排気系モデルを表す前記式(1)に、空燃比操作系モデルを表す式(2)を適用すると、次式(8)が得られる。
【0121】
【数8】
Figure 0003773859
【0122】
この式(8)は、排気系E及び空燃比操作系を合わせた系を、目標偏差空燃比kcmdから排気系E及び空燃比操作系の両者の無駄時間要素と排気系Eの応答遅れ要素とを介してO2センサ5の偏差出力VO2を生成する系であるとして、該系の挙動を離散時間系のモデルで表現したものである。
【0123】
そして、この式(8)を用いることで、各制御サイクルにおける前記合計無駄時間d後のO2センサ5の偏差出力VO2(k+d)の推定値である前記推定偏差出力VO2L(k+d)バーは、O2センサ5の偏差出力VO2の現在値及び過去値の時系列データVO2(k)及びVO2(k-1)と、スライディングモード制御器15が後述のように求める目標偏差空燃比kcmd(=KCMD−FLAF/BASE)の過去値の時系列データkcmd(k-j)(j=1,2,…,d)とを用いて次式(9)により表される。
【0124】
【数9】
Figure 0003773859
【0125】
ここで、式(9)において、α1,α2は、それぞれ同式(9)中のただし書きで定義した行列Aの巾乗Ad(d:合計無駄時間)の第1行第1列成分、第1行第2列成分である。また、βj(j=1,2,…,d)は、それぞれ行列Aの巾乗Aj-1と同式(9)中のただし書きで定義したベクトルBとの積Aj-1・Bの第1行成分である。
【0126】
さらに、式(9)中の目標偏差空燃比kcmdの過去値の時系列データkcmd(k-j)(j=1,2,…,d)のうち、空燃比操作系の無駄時間d2以前の目標偏差空燃比kcmdの過去値の時系列データkcmd(k-d2),kcmd(k-d2-1),…,kcmd(k-d)は前記式(2)によって、それぞれ、LAFセンサ4の偏差出力kactの現在以前に得られるデータkact(k),kact(k-1),…,kact(k-d+d2)に置き換えることができる。そして、この置き換えを行うことで、次式(10)が得られる。
【0127】
【数10】
Figure 0003773859
【0128】
この式(10)が本実施形態において、第1推定器12が前記推定偏差出力VO2L(k+d)バーを制御サイクル毎に算出するための基本式である。つまり、第1推定器12は、制御サイクル毎に、O2センサ5の偏差出力VO2の現在値及び過去値の時系列データVO2(k)及びVO2(k-1)と、スライディングモード制御器15が過去に求めた目標偏差空燃比kcmdの過去値の時系列データkcmd(k-j)(j=1,2,…,d2-1)と、LAFセンサ4の偏差出力kactの現在値及び過去値の時系列データkact(k-i)(i=0,1,…,d1)とを用いて式(10)の演算を行うことによって、O2センサ5の推定偏差出力VO2L(k+d)バーを求める。
【0129】
この場合、本実施形態では、式(10)により推定偏差出力VO2Lバーを算出するために必要となる係数α1,α2及びβj(j=1,2,…,d)の値は、基本的には、前記ゲイン係数a1,a2,b1(これらは式(9)のただし書きで定義した行列A及びベクトルBの成分である)の同定値である前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを用いて算出する。また、式(10)の演算で必要となる無駄時間d1,d2の値は、前述の如くあらかじめ設定した値を用いる。
【0130】
このようにして式(10)により求められる推定偏差出力VO2L(k+d)バーは、該式(10)や、これの基礎となる排気系モデル等が線形なものであるため、基本的には、O2センサ5の出力VO2/OUTが、排ガス中の酸素濃度に対してほぼ線形な変化を呈するような領域で変化するような状態(排ガスの空燃比が理論空燃比近傍で変化するような状態)において、比較的精度よく前記合計無駄時間d後のO2センサ5の偏差出力VO2(k+d)に合致するものとなる。
【0131】
尚、推定偏差出力V O2L(k+d)バーは、LAFセンサ4の偏差出力kactのデータを使用せずに、式(9)の演算により求めるようにしてもよいが、推定偏差出力VO2L(k+d)バーの信頼性を高める上では、エンジン1等の実際の挙動が反映されるLAFセンサ4の偏差出力kactのデータを用いた式(10)の演算により推定偏差出力VO2L(k+d)バーを求めることが好ましい。また、空燃比操作系の無駄時間d2を「1」に設定できるような場合には、式(9)中の目標偏差空燃比kcmdの過去値の時系列データkcmd(k-j)(j=1,2,…,d)の全てをそれぞれ、LAFセンサ4の偏差出力kactの現在以前に得られる時系列データkact(k),kact(k-1),…,kact(k-d+d2)に置き換えることができる。このため、この場合には、制御サイクル毎の推定偏差出力VO2L(k+d)バーは、目標偏差空燃比kcmdのデータを含まない次式(11)により求めることができる。
【0132】
【数11】
Figure 0003773859
【0133】
次に、説明の便宜上、前記第2推定器13や合成器14を説明する前に、前記スライディングモード制御器15の処理について説明する。
【0134】
本実施形態のスライディングモード制御器15は、通常的なスライディングモード制御に、外乱等の影響を極力排除するための適応則を加味した適応スライディングモード制御によりO2センサ5の出力VO2/OUTをその目標値VO2/TARGETに収束させるように(O2センサ5の偏差出力VO2を「0」に収束させるように)、制御対象である前記排気系Eに与えるべき入力量(詳しくは、触媒上流空燃比と前記空燃比基準値FLAF/BASEとの偏差の目標値で、これは前記目標偏差空燃比kcmdに等しい。以下、この入力量をSLD操作入力Uslと称する)を決定し、その決定したSLD操作入力Uslから前記目標空燃比KCMDを決定するものである。そして、その処理のためのアルゴリズムは次のように構築されている。
【0135】
まず、スライディングモード制御器15が実行する適応スライディングモード制御のアルゴリズムに必要な切換関数と、この切換関数により定義される超平面(これはすべり面等とも言われる)とについて説明する。
【0136】
本実施形態におけるスライディングモード制御の基本的な考え方としては、制御すべき状態量(制御量)として、例えば各制御サイクルで得られたO2センサ5の偏差出力VO2(k)と、その1制御サイクル前に得られた偏差出力VO2(k-1)とを用い、スライディングモード制御用の切換関数σを、次式(12)のように、これらの偏差出力VO2(k),VO2(k-1)を変数成分とする線形な関数として定義する。尚、前記偏差出力VO2(k),VO2(k-1)を成分とするベクトルとして式(12)中の但し書きで定義したベクトルXを以下、状態量Xという。
【0137】
【数12】
Figure 0003773859
【0138】
この場合、切換関数σの係数s1,s2は、次式(13)の条件を満たすように設定される。
【0139】
【数13】
Figure 0003773859
【0140】
尚、本実施形態では、簡略化のために係数s1=1とし(この場合、s2/s1=s2である)、−1<s2<1の条件を満たすように係数s2の値を設定している。
【0141】
このような切換関数σに対して、スライディングモード制御用の超平面はσ=0なる式によって定義されるものである。この場合、状態量Xは二次系であるので超平面σ=0は図4に示すように直線となる。該超平面は、位相空間の次数によって、切換線又は切換面とも言われる。
【0142】
尚、本実施形態では、スライディングモード制御用の切換関数の変数成分である状態量として、実際には詳細を後述する合成器14により求められる合成推定偏差出力VO2バーの時系列データを用いるのであるが、これについては後述する。
【0143】
本実施形態で用いる適応スライディングモード制御は、状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))を上記の如く設定した超平面σ=0に収束させるための制御則である到達則と、その超平面σ=0への収束に際して外乱等の影響を補償するための制御則である適応則(適応アルゴリズム)とにより該状態量Xを超平面σ=0に収束させる(図4のモード1)。そして、該状態量Xを所謂、等価制御入力によって超平面σ=0に拘束しつつ、該状態量Xを超平面σ=0上の平衡点であるVO2(k)=VO2(k-1)=0となる点、すなわち、O2センサ6の出力VO2/OUTの時系列データVO2/OUT(k),VO2/OUT(k-1)が目標値VO2/TARGETに一致するような点に収束させる(図4のモード2)。
【0144】
上記のように状態量Xを超平面σ=0の平衡点に収束させるためにスライディングモード制御器15が生成する前記SLD操作入力Usl(=目標偏差空燃比kcmd)は、状態量Xを超平面σ=0上に拘束するための制御則に従って排気系Eに与えるべき入力成分である等価制御入力Ueqと、前記到達則に従って排気系Eに与えるべき入力成分Urch(以下、到達則入力Urchという)と、前記適応則に従って排気系Eに与えるべき入力成分Uadp(以下、適応則入力Uadpという)との総和として与えられる(次式(14))。
【0145】
【数14】
Figure 0003773859
【0146】
そして、これらの等価制御入力Ueq、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpは、本実施形態では、前記式(8)により表される離散時間系のモデル(排気系モデルと空燃比操作系のモデルとを合成したモデル)に基づいて、次のように決定する。
【0147】
まず、状態量Xを超平面σ=0に拘束するために排気系Eに与えるべき入力成分である前記等価制御入力Ueqは、σ(k+1)=σ(k)=0なる条件を満たす目標偏差空燃比kcmdである。そして、このような条件を満たす等価制御入力Ueqは、式(8)と式(12)とを用いて次式(15)により与えられる。
【0148】
【数15】
Figure 0003773859
【0149】
この式(15)が本実施形態において、制御サイクル毎に等価制御入力Ueq(k)を求めるための基本式である。
【0150】
次に、前記到達則入力Urchは、本実施形態では、基本的には次式(16)により決定するものとする。
【0151】
【数16】
Figure 0003773859
【0152】
すなわち、到達則入力Urchは、前記合計無駄時間dを考慮し、合計無駄時間d後の切換関数σの値σ(k+d)に比例させるように決定する。
【0153】
この場合、式(16)中の係数F(これは到達則のゲインを規定する)は、次式(17)の条件を満たすように設定する。
【0154】
【数17】
Figure 0003773859
【0155】
尚、式(17)に括弧書きで示した条件は、切換関数σの値が超平面σ=0に対して振動的な変化(所謂チャタリング)を生じるのを抑制する上で好適な係数Fの条件である。
【0156】
次に、前記適応則入力Uadpは、本実施形態では、基本的には次式(18)により決定するものとする(式(18)中のΔTは操作量生成手段7の制御サイクルの周期である)。
【0157】
【数18】
Figure 0003773859
【0158】
すなわち、適応則入力Uadpは、合計無駄時間dを考慮し、該合計無駄時間d後までの切換関数σの値と操作量生成手段7の制御サイクルの周期ΔTとの積の制御サイクル毎の積算値(これは切換関数σの値の積分値に相当する)に比例させるように決定する。
【0159】
この場合、式(18)中の係数G(これは適応則のゲインを規定する)は、次式(19)の条件を満たすように設定する。
【0160】
【数19】
Figure 0003773859
【0161】
尚、前記式(13)、(17)、(19)の設定条件のより具体的な導出の仕方については、本願出願人が既に特開平11−93741号公報等にて詳細に説明しているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0162】
本実施形態におけるスライディングモード制御器15は、基本的には前記式(15)、(16)、(18)により決定される等価制御入力Ueq、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpの総和(Ueq+Urch+Uadp)を排気系Eに与えるべきSLD操作入力Uslとして決定するのであるが、前記式(15)、(17)、(19)で使用するO2センサ5の偏差出力VO2(k+d),VO2(k+d-1)や、切換関数σの値σ(k+d)等は未来値であるので直接的には得られない。
【0163】
そこで、本実施形態では、スライディングモード制御器15は、実際には、前記式(15)により前記等価制御入力Ueqを決定するためのO2センサ5の偏差出力VO2(k+d),VO2(k+d-1)の代わりに、詳細を後述する合成器14により前記合計無駄時間d後のO2センサ5の偏差出力VO2の推定値に相当するものとし制御サイクル毎に求められる合成推定偏差出力VO2バーの今回値VO2(k+d)バー及び前回値VO2(k+d-1)バーを用い、次式(20)により制御サイクル毎の等価制御入力Ueq(k)を算出する。
【0164】
【数20】
Figure 0003773859
【0165】
また、本実施形態では、実際には、前記合成器14により後述のように求められる合成推定値VO2バーの時系列データを制御すべき状態量とし、前記式(12)の切換関数σに代えて、次式(21)によりスライディングモード制御用の切換関数σバーを定義する(この切換関数σバーは、前記式(12)の偏差出力VO2の時系列データを合成推定偏差出力VO2バーの時系列データで置き換えたものに相当する)。
【0166】
【数21】
Figure 0003773859
【0167】
そして、スライディングモード制御器15は、前記式(16)により前記到達則入力Urchを決定するための切換関数σの値の代わりに、前記式(21)により表される切換関数σバーの値を用いて次式(22)により制御サイクル毎の到達則入力Urchを算出する。
【0168】
【数22】
Figure 0003773859
【0169】
同様に、スライディングモード制御器15は、前記式(18)により前記適応則入力Uadpを決定するための切換関数σの値の代わりに、前記式(21)により表される切換関数σバーの値を用いて次式(23)により制御サイクル毎の適応則入力Uadpを算出する。
【0170】
【数23】
Figure 0003773859
【0171】
尚、前記式(20),(22),(23)により等価制御入力Ueq、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpを算出する際に必要となる前記ゲイン係数a1,a2,b1としては、本実施形態では基本的には前記同定器25により求められた最新の同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを用いる。
【0172】
そして、スライディングモード制御器15は、前記式(20),(22),(23)によりそれぞれ求められる等価制御入力Ueq、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpの総和を排気系Eに与えるべき前記SLD操作入力Uslとして求める(前記式(14)を参照)。尚、この場合において、前記式(20)、(22)、(23)中で用いる前記係数s1,s2,F,Gの設定条件は前述の通りである。
【0173】
これが、本実施形態において、スライディングモード制御器15により、排気系Eに与えるべきSLD操作入力Usl(=目標偏差空燃比kcmd)を制御サイクル毎に決定するための基本的な演算処理(アルゴリズム)である。このようにしてSLD操作入力Uslを決定することで、該SLD操作入力Uslは、O2センサ5の合成推定偏差出力VO2バーを「0」に収束させるように(結果的にはO2センサ5の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束させるように)決定される。
【0174】
ところで、本実施形態におけるスライディングモード制御器15は最終的には前記目標空燃比KCMDを制御サイクル毎に逐次求めるものあるが、前述のように求められるSLD操作入力Uslは、LAFセンサ4で検出される触媒上流空燃比と前記空燃比基準値FLAF/BASEとの偏差の目標値、すなわち前記目標偏差空燃比kcmdである。このため、スライディングモード制御器15は、最終的には、次式(24)に示すように、制御サイクル毎に、前述の如く求めたSLD操作入力Uslに前記空燃比基準値FLAF/BASEを加算することで、目標空燃比KCMDを決定する。
【0175】
【数24】
Figure 0003773859
【0176】
以上が本実施形態でスライディングモード制御器15により目標空燃比KCMDを決定するための基本的アルゴリズムである。
【0177】
尚、本実施形態では、スライディングモード制御器15は、その処理において前記同定器11により求められる同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットを用いるため、このスライディングモード制御器15と同定器11とを合わせたものの処理は、適応制御の処理の一形態となる。従って、本実施形態では、前記SLD操作入力Usl、ひいては操作量としての目標空燃比KCMDは、適応制御
の処理によって生成されるというように言い換えることもできる。
【0178】
次に、前記第2推定器13を説明する。該第2推定器13は、O2センサ5の出力VO2/OUTが非線形領域で変化するような状態における前記第1推定器12の推定偏差出力VO2Lバーの精度の低下を補完するために、第1推定器12とは別のアルゴリズムによって、前記合計無駄時間d(=d1+d2)後のO2センサ5の偏差出力VO2の推定値である前記推定偏差出力VO2Fバーを制御サイクル毎に逐次求めるものである。そして、この推定処理のアルゴリズムは次のように構築されている。
【0179】
前記スライディングモード制御器15により目標空燃比KCMDを生成し、この目標空燃比KCMDにLAFセンサ4の出力KACTを収束させるように詳細を後述する機関制御手段8によりエンジン1で燃焼させる混合気の空燃比を操作しているときに、触媒装置3を通過した排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に、あるいはリッチ側からリーン側に比較的大きく変化した場合においては(この変化は、O2センサ5の出力VO2/OUTの非線形領域を含む変化である)、O2センサ5の偏差出力VO2の現在値VO2(k)及び過去値VO2(k-1)の時系列データから成る前記状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))は、前記式(12)の切換関数σに係わる超平面σ=0に対してある特徴的な変化を呈する。
【0180】
すなわち、図5に示すように、O2センサ5の箇所の排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に大きく変化すると、状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))は、実線eで示す如く、超平面σ=0からその上側(σ>0となる領域)に離間するような軌跡を描いて変化する。また、排ガスの空燃比がリッチ側からリーン側に大きく変化すると、状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))は、実線fで示す如く、超平面σ=0からその下側(σ<0となる領域)に離間するような軌跡を描いて変化する。そして、このような状態量Xの変化の仕方は、エンジン1の運転状態等によらずに概ね一定となる。
【0181】
2センサ5の出力VO2/OUTの非線形領域での挙動に係わる上記のような特性に着目し、本実施形態の第2推定器13では、O2センサ5の偏差出力VO2の前記合計無駄時間d後の推定値である前記推定偏差出力VO2Fバーをファジー推論により求めることとし、このファジー推論の前件部のパラメータ(入力パラメータ)を、制御サイクル毎の前記式(12)の切換関数σの値σ(k)とO2センサ5の偏差出力VO2の現在値VO2(k)との二つとすると共に、ファジー推論の後件部のパラメータ(出力パラメータ)を制御サイクル毎の推定偏差出力VO2F(k+d)バーとしている。
【0182】
尚、本実施形態でスライディングモード制御器15が実際に用いる切換関数は、前記式(21)で定義した切換関数σバーであるので、前記式(12)の切換関数σは、正確にはスライディングモード制御用の切換関数ではない。そこで、以下の説明では、式(12)の関数σをファジー用線形関数σと称する。このファジー用線形関数σは前述したことから明らかなように、スライディングモード制御用の切換関数σバーと同じ形で、その変数成分のみが相違するものである。
【0183】
そして、本実施形態における第2推定器13のファジー推論では、前件部のパラメータであるファジー用線形関数σの値σ(k)に関しては、図6(a)に示すように、N(負),Z(ゼロ),P(正)の三つのメンバーシップ関数が設定されている。この場合、メンバーシップ関数N(負)、P(正)は台形状の関数であり、メンバーシップ関数Z(ゼロ)は、三角形状の関数である。
【0184】
同様に、前件部の他のパラメータである偏差出力VO2の値VO2(k)に関しては、図6(b)に示すように、N(負),Z(ゼロ),P(正)の三つのメンバーシップ関数が設定され、それぞれ形状は、台形状、三角形状、台形状である。
【0185】
また、ファジー推論の後件部のパラメータである推定偏差出力VO2Fバーの値VO2F(k+d)に関しては、図6(c)に示すように、N(負),Z(ゼロ),P(正)の三つのメンバーシップ関数が設定されている。この場合、各メンバーシップ関数N(負),Z(ゼロ),P(正)は、それぞれ、推定偏差出力VO2Fバーの単一の特定値VO2FN(<0)、「0」、VO2FP(>0)においてのみ適合度(メンバーシップ関数の関数値)が最大(=1)となるような棒状関数(所謂、シングルトンの棒状関数)である。ここで、メンバーシップ関数N(負)、P(正)に係わる上記特定値VO2FN,VO2FPは、それぞれO2センサ5の出力VO2/OUTが飽和した状態(図2参照)での該出力VO2/OUT(一定値)に対応する値である。
【0186】
さらに、これらの図6(a)〜(c)のメンバーシップ関数に対して、ファジー推論のファジールールは、本実施形態では、図7に示すように9種類のルールが設定されている。このファジールールでは、前件部のファジー用線形関数σの値σ(k)が負、ゼロ、正のいずれであるかによって、それぞれ後件部の推定偏差出力VO2F(k+d)が負、ゼロ、正に定まるようになっている。
【0187】
上述のようにメンバーシップ関数及びファジールールが設定された本実施形態では、第2推定器13は、ファジー推論技術で公知のmin−max−重心法のアルゴリズムにより、制御サイクル毎に得られるファジー用線形関数σの値σ(k)及びO2センサ5の偏差出力VO2の値VO2(k)から前記推定偏差出力VO2F(k+d)バーを求める。
【0188】
すなわち、第2推定器13は、まず、各ルールナンバーi(i=1,2,…,9)のファジールールにおいて、前件部のパラメータσ(k),VO2(k)のそれぞれに対する適合度(以下、それぞれの適合度に参照符号Wσ(i)、Wv(i)を付する)を、各パラメータσ(k),VO2(k)の値と、各ファジールールの前件部の対応するメンバーシップ関数とから求める。例えば、図7のルールナンバー1において、パラメータσ(k)に対する適合度Wσ(1)はそのパラメータσ(k)の値における図6(a)のメンバーシップ関数N(負)の関数値として求められ、パラメータVO2(k)に対する適合度Wv(1)はそのパラメータVO2(k)の値における図6(b)のメンバーシップ関数N(負)の関数値として求められる。他のファジールールについても同様である。
【0189】
さらに、第2推定器13は、各ルールナンバーi(i=1,2,…,9)のファジールールにおいて、前件部の各パラメータσ(k),VO2(k)のそれぞれに対する適合度Wσ(i)、Wv(i)のうちの小さい方、すなわち、min(Wσ(i),Wv(i))を該ファジールールにおける前件部の総合的な適合度Wpre(i)として求める。
【0190】
そして、第2推定器13は、各ファジールール毎の上記適合度Wpre(i)(i=1,2,…,9)を用いて、次式(25)により、O2センサ5の偏差出力VO2の前記合計無駄時間d後の推定値としての推定偏差出力VO2F(k+d)を算出する。
【0191】
【数25】
Figure 0003773859
【0192】
ここで、上式(25)において、Wwpre(i)は、各ルールナンバーi(i=1,2,…,9)のファジールールにおける後件部に対応する図6(c)のメンバーシップ関数(棒状関数)の関数値であり、Wppre(i)は、そのメンバーシップ関数に係わる前記特定値VO2FN又は「0」又はVO2FPである。この場合、本実施形態では、後件部のメンバーシップ関数N(負)、Z(ゼロ)、P(正)の関数値はいずれも「1」であり、従って、Wwpre(i)=1(i=1,2,…,9)である。また、図7のファジールールと図6(c)のメンバーシップ関数とから明らかなように、ルールナンバー1〜3の各ファジールールに対してはWppre(i)=VO2FNであり、ルールナンバー4〜6の各ファジールールに対しては、Wppre(i)=0であり、ルールナンバー7〜9の各ファジールールに対しては、Wppre(i)=VO2FPである。
【0193】
以上説明したアルゴリズムが、第2推定器13が制御サイクル毎に、推定偏差出力VO2F(k+d)をファジー推論により求めるアルゴリズムである。このようにして第2推定器13が求める推定偏差出力VO2F(k+d)は、特にO2センサ5の出力VO2/OUTが非線形な領域で変動するような場合において、前記合計無駄時間d後のO2センサ5の偏差出力VO2(k+d)の推定値として比較的精度の良いものとなる。
【0194】
次に、前記合成器14について説明する。
【0195】
まず、本願発明者等の知見によれば、O2センサ5の出力状態が、第1推定器12が比較的精度のよい推定偏差出力VO2L(k+d)バーを算出することができる出力状態(前記目標値VO2/TARGETの近傍の線形領域での変動状態)にあるか、第2推定器13が比較的精度のよい推定偏差出力VO2L(k+d)バーを算出することができる出力状態(前記目標値VO2/TARGETの近傍の線形領域での変動状態)にあるかは、スライディングモード制御用の切換関数(本実施形態では式(21)のσバー)と密接に関連する。そして、例えば該切換関数σバーと同種の線形関数である前記ファジー用線形関数σ(式(12)参照)に着目したとき、前記状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))が、該線形関数σに係わる超平面σ=0に対して、前記図5に斜線を付して示した楕円形状の領域Aに存するときに、第1推定器12の推定偏差出力VO2L(k+d)バーの精度が良好となるようなO2センサ5の出力状態であり、状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))が、上記領域Aの外に存するときに、第2推定器13の推定偏差出力VO2F(k+d)バーの精度が良好となるようなO2センサ5の出力状態となる(以下、領域Aを線形的挙動領域Aという)。
【0196】
従って、基本的には、状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))が上記線形的挙動領域Aに存するか否かによって、スライディングモード制御器15で使用すべき推定偏差出力VO2L(k+d)バー又はVO2F(k+d)バーを選択するようにすればよい。但し、線形的挙動領域Aの境界近傍で状態量Xが動くような状態では、両推定器12,13の推定偏差出力VO2Lバー、VO2Fバーを二者択一的にスライディングモード制御器15の演算処理に用いるようにすると、使用する推定偏差出力の値が不連続的に変動する虞れがある。
【0197】
また、図8に示すように、ファジー用線形関数σの値σ(k)とO2センサ5の偏差出力VO2(k)とを座標成分とする直交座標軸を設定したとき、前記図5の線形的挙動領域Aは、図8の座標平面上では単純な楕円形状の領域Bに変換され、前記状態量Xが図5の線形的挙動領域A内に存するということは、図8の座標平面上では、ファジー用線形関数σの値σ(k)とO2センサ5の偏差出力VO2(k)との組により定まる該座標平面上の点が領域B内に存することと等価である。
【0198】
そこで、本実施形態では前記合成器14は、次式(26)に示すように、制御サイクル毎に各推定器12,13が求める推定偏差出力VO2L(k+d)バー,VO2F(k+d)バーにそれぞれ重み係数Cw、(1−Cw)を付して合成する(加算する)ことで、スライディングモード制御器15で使用する合成推定偏差出力VO2(k+d)バーを制御サイクル毎に逐次算出する。
【0199】
【数26】
Figure 0003773859
【0200】
そして、このとき、合成器14は、上記重み係数Cwの値を、次式(27)により定義される楕円関数OVAL(k)の値に応じて、図9のデータテーブルにより設定し、その重み係数Cwの値を用いて式(26)の演算を行う。
【0201】
【数27】
Figure 0003773859
【0202】
尚、式(27)中のa,bは、図8に示すように楕円領域Bの境界と各座標軸σ(k),VO2(k)との交点における正の値である。
【0203】
この場合、図9のデータテーブルでは、OVAL(k)≦1であるときには(これは、前記状態量Xが図5の線形的挙動領域A(境界を含む)に存することを意味する)、前記重み係数Cwが「1」に設定され、1<OVAL(k)<1+δ(但し、δは小さい正の値)であるときには(これは状態量Xが図5の線形的挙動領域A外で該領域Aの近傍に存することを意味する)、楕円関数OVAL(k)の値が大きくなるに伴って重み係数Cwの値が「1」から「0」に向かって漸減するように該重み係数Cwが設定される。そして、1+δ≦OVAL(k)であるときには(これは、状態量Xが完全に図5の線形的挙動領域Aの外に存することを意味する)、重み係数Cwが「0」に設定される。
【0204】
従って、状態量Xが線形的挙動領域A内に存するときには、前記式(26)によって、VO2(k+d)バー=VO2L(k+d)バーとなり、合成器14は、第1推定器12による推定偏差出力Cがスライディングモード制御器15の演算処理で用いる合成推定偏差出力VO2バーとして選択的に出力することとなる。また、状態量Xが安全に線形的挙動領域Aの外に存するときには、VO2(k+d)バー=VO2F(k+d)バーとなり、合成器14は、第2推定器13による推定偏差出力VO2F(k+d)バーがスライディングモード制御器15の演算処理で用いる合成推定偏差出力VO2バーとして選択的に出力することとなる。さらに、状態量Xが線形的挙動領域Aの外で該領域Aの近傍に存するときには、合成器14は、両推定器12,13による推定偏差出力VO2L(k+d)バー,VO2F(k+d)バーの重み付き平均値を合成推定偏差出力VO2バーとして出力することとなる。
【0205】
以上説明した処理が、合成器14の処理である。
【0206】
次に、前記機関制御手段8についてさらに図10及び図11を参照して説明する。
【0207】
図10のブロック図を参照して、機関制御手段8は、その機能的構成として、エンジン1で燃焼させる混合気の空燃比を操作するために実際に使用する触媒上流空燃比の目標値としての実使用目標空燃比RKCMDを決定する目標空燃比選択設定部16を具備する。
【0208】
この目標空燃比選択設定部16は、前記ストイキ運転モードでは、前記操作量生成手段7のスライディングモード制御器15が前述のように生成する目標空燃比KCMDを実使用目標空燃比RKCMDとして決定する。そして、ストイキ運転モード以外の運転モード、例えばリーン運転モードでは、エンジン1の回転数NEや吸気圧PB等から、マップやデータテーブルを用いて求められるリーン側の空燃比を実使用目標空燃比RKCMDとして決定する。
【0209】
さらに、機関制御手段8は、エンジン1への基本燃料噴射量Timを求める基本燃料噴射量算出部17と、基本燃料噴射量Timを補正するための第1補正係数KTOTAL及び第2補正係数KCMDMをそれぞれ求める第1補正係数算出部18及び第2補正係数算出部19とを具備する。
【0210】
前記基本燃料噴射量算出部17は、エンジン1の回転数NEと吸気圧PBとから、それらにより規定されるエンジン1の基準の燃料噴射量(燃料供給量)をあらかじめ設定されたマップを用いて求め、その基準の燃料噴射量をエンジン1の図示しないスロットル弁の有効開口面積に応じて補正することで基本燃料噴射量Timを算出する。この基本燃料噴射量Timは、基本的には、エンジン1で燃焼させる混合気の空燃比が理論空燃比となるような燃料噴射量である。
【0211】
また、第1補正係数算出部18が求める第1補正係数KTOTALは、エンジン1の排気還流率(エンジン1の吸入空気中に含まれる排ガスの割合)や、エンジン1の図示しないキャニスタのパージ時にエンジン1に供給される燃料のパージ量、エンジン1の冷却水温、吸気温等を考慮して前記基本燃料噴射量Timを補正するためのものである。
【0212】
また、第2補正係数算出部19が求める第2補正係数KCMDMは、前記目標空燃比選択設定部16が決定した実使用目標空燃比R KCMDに対応してエンジン1へ流入する燃料の冷却効果による吸入空気の充填効率を考慮して基本燃料噴射量Timを補正するためのものである。
【0213】
これらの第1補正係数KTOTAL及び第2補正係数KCMDMによる基本燃料噴射量Timの補正は、第1補正係数KTOTAL及び第2補正係数KCMDMを基本燃料噴射量Timに乗算することで行われ、この補正によりエンジン1の要求燃料噴射量Tcylが得られる。
【0214】
尚、前記基本燃料噴射量Timや、第1補正係数KTOTAL、第2補正係数KCMDMのより具体的な算出手法は、特開平5−79374号公報等に本願出願人が開示しているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0215】
機関制御手段8は、上記の機能的構成の他、さらに、前記実使用目標空燃比RKCMDにLAFセンサ4の出力KACT(触媒上流空燃比の検出値)を収束させるようにフィードバック制御によりエンジン1の燃料噴射量を調整することでエンジン1で燃焼させる混合気の空燃比を操作するフィードバック制御部20を備えている。
【0216】
このフィードバック制御部20は、本実施形態では、エンジン1の各気筒の全体的な空燃比をフィードバック制御する大局的フィードバック制御部21と、エンジン1の各気筒毎の空燃比をフィードバック制御する局所的フィードバック制御部22とに分別される。
【0217】
前記大局的フィードバック制御部21は、LAFセンサ4の出力KACTが前記実使用目標空燃比KCMDに収束するように、前記要求燃料噴射量Tcylを補正する(要求燃料噴射量Tcylに乗算する)フィードバック補正係数KFBを逐次求めるものである。
【0218】
この大局的フィードバック制御部21は、LAFセンサ4の出力KACTと実使用目標空燃比RKCMDとの偏差に応じて周知のPID制御を用いて前記フィードバック補正係数KFBとしてのフィードバック操作量KLAFを生成するPID制御器23と、LAFセンサ4の出力KACTと実使用目標空燃比RKCMDとからエンジン1の運転状態の変化や特性変化等を考慮して前記フィードバック補正係数KFBを規定するフィードバック操作量KSTRを適応的に求める適応制御器24(図ではSTRと称している)とをそれぞれ独立的に具備している。
【0219】
ここで、本実施形態では、前記PID制御器23が生成するフィードバック操作量KLAFは、LAFセンサ4の出力KACT(空燃比の検出値)が実使用目標空燃比RKCMDに一致している状態で「1」となり、該操作量KLAFをそのまま前記フィードバック補正係数KFBとして使用できるようになっている。一方、適応制御器24が生成するフィードバック操作量KSTRはLAFセンサ4の出力KACTが実使用目標空燃比RKCMDに一致する状態で「実使用目標空燃比RKCMD」となるものである。このため、該フィードバック操作量KSTRを除算処理部25で実使用目標空燃比RKCMDにより除算してなるフィードバック操作量kstr(=KSTR/RKCMD)が前記フィードバック補正係数KFBとして使用できるようになっている。
【0220】
大局的フィードバック制御部21は、PID制御器23により生成されるフィードバック操作量KLAFと、適応制御器24が生成するフィードバック操作量KSTRを実使用目標空燃比RKCMDにより除算してなるフィードバック操作量kstrとを切換部26で適宜、択一的に選択する。そして、いずれか一方のフィードバック操作量KLAF又はkstrを前記フィードバック補正係数KFBとして使用し、該補正係数KFBを前記要求燃料噴射量Tcylに乗算することにより該要求燃料噴射量Tcylを補正する。尚、かかる大局的フィードバック制御部21(特に適応制御器24)については後にさらに詳細に説明する。
【0221】
前記局所的フィードバック制御部22は、LAFセンサ4の出力KACTから各気筒毎の実空燃比#nA/F(n=1,2,3,4)を推定するオブザーバ27と、このオブザーバ27により推定された各気筒毎の実空燃比#nA/Fから各気筒毎の空燃比のばらつきを解消するよう、PID制御を用いて各気筒毎の燃料噴射量のフィードバック補正係数#nKLAFをそれぞれ求める複数(気筒数個)のPID制御器28とを具備する。
【0222】
ここで、オブザーバ27は、それを簡単に説明すると、各気筒毎の実空燃比#nA/Fの推定を次のように行うものである。すなわち、エンジン1からLAFセンサ4の箇所(各気筒毎の排ガスの集合部)にかけての系を、エンジン1の各気筒毎の実空燃比#nA/FからLAFセンサ4で検出される触媒上流空燃比を生成する系と考える。そして、この系を、LAFセンサ4の検出応答遅れ(例えば一次遅れ)や、LAFセンサ4で検出される触媒上流空燃比に対するエンジン1の各気筒毎の空燃比の時間的寄与度を考慮してモデル化する。そして、そのモデルの基で、LAFセンサ4の出力KACTから、逆算的に各気筒毎の実空燃比#nA/Fを推定する。
【0223】
尚、このようなオブザーバ27は、本願出願人が例えば特開平7−83094号公報に詳細に開示しているので、ここでは、さらなる説明を省略する。
【0224】
また、局所的フィードバック制御部22の各PID制御器28は、LAFセンサ4の出力KACTを、前回の制御サイクルで各PID制御器28により求められたフィードバック補正係数#nKLAFの全気筒についての平均値により除算してなる値を各気筒の空燃比の目標値とする。さらに、その目標値とオブザーバ27により求められた各気筒毎の実空燃比#nA/Fの推定値との偏差が解消するように、今回の制御サイクルにおける、各気筒毎のフィードバック補正係数#nKLAFを求める。
【0225】
そして、局所的フィードバック制御部22は、前記要求燃料噴射量Tcylに大局的フィードバック制御部21のフィードバック補正係数KFBを乗算してなる値に、各気筒毎のフィードバック補正係数#nKLAFを乗算することで、各気筒の出力燃料噴射量#nTout(n=1,2,3,4)を求める。
【0226】
このようにして求められる各気筒の出力燃料噴射量#nToutは、機関制御手段8に備えた各気筒毎の付着補正部29により吸気管の壁面付着を考慮した補正が各気筒毎になされた後、エンジン1の図示しない燃料噴射装置に与えられる。そして、その付着補正がなされた出力燃料噴射量#nToutに従って、エンジン1の各気筒への燃料噴射が行われるようになっている。
【0227】
尚、上記付着補正については、本願出願人が例えば特開平8−21273号公報に詳細に開示しているので、ここではさらなる説明を省略する。
【0228】
前記大局的フィードバック制御部21、特に前記適応制御器24をさらに説明する。
【0229】
大局的フィードバック制御部21は、前述のようにLAFセンサ4の出力KACT(触媒上流空燃比の検出値)を実使用目標空燃比RKCMDに収束させるようにフィードバック制御を行うものであるが、このとき、このようなフィードバック制御を周知のPID制御だけで行うようにすると、エンジン1の運転状態の変化や経年的特性変化等、動的な挙動変化に対して、安定した制御性を確保することが困難である。
【0230】
前記適応制御器24は、上記のようなエンジン1の動的な挙動変化を補償したフィードバック制御を可能とする漸化式形式の制御手段であり、I.D.ランダウ等により提唱されているパラメータ調整則を用いて、図11に示すように、複数の適応パラメータを設定するパラメータ調整部30と、設定された適応パラメータを用いて前記フィードバック操作量KSTRを算出する操作量算出部31とにより構成されている。
【0231】
ここで、パラメータ調整部30について説明すると、ランダウ等の調整則では、離散系の制御対象の伝達関数B(Z-1)/A(Z-1)の分母分子の多項式を一般的に下記の式(28),(29)のようにおいたとき、パラメータ調整部30が設定する適応パラメータθハット(j)(jは制御サイクルの番数を示す)は、式(30)のようにベクトル(転置ベクトル)で表される。また、パラメータ調整部30への入力ζ(j)は、式(31)のように表される。この場合、本実施形態では、大局的フィードバック制御部21の制御対象であるエンジン1が一次系で3制御サイクル分の無駄時間dp(エンジン1の燃焼サイクルの3サイクル分の時間)を持つプラントと考え、式(28)〜式(31)でm=n=1,dp=3とし、設定する適応パラメータはs0,r1,r2,r3,b0の5個とした(図11参照)。尚、式(31)の上段式及び中段式におけるus,ysは、それぞれ、制御対象への入力(操作量)及び制御対象の出力(制御量)を一般的に表したものであるが、本実施形態では、上記入力をフィードバック操作量KSTR、制御対象(エンジン1)の出力を前記LAFセンサ4の出力KACT(触媒上流空燃比の検出値)とし、パラメータ調整部39への入力ζ(j)を、式(31)の下段式により表す(図11参照)。
【0232】
【数28】
Figure 0003773859
【0233】
【数29】
Figure 0003773859
【0234】
【数30】
Figure 0003773859
【0235】
【数31】
Figure 0003773859
【0236】
ここで、前記式(30)に示される適応パラメータθハットは、適応制御器24のゲインを決定するスカラ量要素b0ハット-1(j)、操作量を用いて表現される制御要素BRハット(Z-1,j)、及び制御量を用いて表現される制御要素S(Z-1,j)からなり、それぞれ、次式(32)〜(34)により表現される(図11の操作量算出部31のブロック図を参照)。
【0237】
【数32】
Figure 0003773859
【0238】
【数33】
Figure 0003773859
【0239】
【数34】
Figure 0003773859
【0240】
パラメータ調整部30は、これらのスカラ量要素や制御要素の各係数を設定して、それを式(30)に示す適応パラメータθハットとして操作量算出部31に与えるもので、現在から過去に渡るフィードバック操作量KSTRの時系列データとLAFセンサ4の出力KACTとを用いて、該出力KACTが前記実使用目標空燃比KCMDに一致するように、適応パラメータθハットを算出する。
【0241】
この場合、具体的には、適応パラメータθハットは、次式(35)により算出する。
【0242】
【数35】
Figure 0003773859
【0243】
同式(35)において、Γ(j)は、適応パラメータθハットの設定速度を決定するゲイン行列(この行列の次数はm+n+dp)、e*(j)は、適応パラメータθハットの推定誤差を示すもので、それぞれ式(36),(37)のような漸化式で表される。
【0244】
【数36】
Figure 0003773859
【0245】
【数37】
Figure 0003773859
【0246】
ここで、式(37)中の「D(Z-1)」は、収束性を調整するための、漸近安定な多項式であり、本実施形態ではD(Z-1)=1としている。
【0247】
尚、式(36)のλ1(j),λ2(j)の選び方により、漸減ゲインアルゴリズム、可変ゲインアルゴリズム、固定トレースアルゴリズム、固定ゲインアルゴリズム等の種々の具体的なアルゴリズムが得られる。エンジン1の燃料噴射あるいは空燃比等の時変プラントでは、漸減ゲインアルゴリズム、可変ゲインアルゴリズム、固定ゲインアルゴリズム、および固定トレースアルゴリズムのいずれもが適している。
【0248】
前述のようにパラメータ調整部30により設定される適応パラメータθハット(s0,r1,r2,r3,b0)と、前記目標空燃比選択設定部16により決定される実使用目標空燃比RKCMDとを用いて、操作量算出部31は、次式(38)の漸化式により、フィードバック操作量KSTRを求める。図11の操作量算出部31は、同式(38)の演算をブロック図で表したものである。
【0249】
【数38】
Figure 0003773859
【0250】
尚、式(38)により求められるフィードバック操作量KSTRは、LAFセンサ4の出力KACTが実使用目標空燃比RKCMDに一致する状態において、「実使用目標空燃比RKCMD」となる。このために、前述の如く、フィードバック操作量K STRを除算処理部25によって実使用目標空燃比RKCMDで除算することで、前記フィードバック補正係数KFBとして使用できるフィードバック操作量kstrを求めるようにしている。
【0251】
このように構築された適応制御器24は、前述したことから明らかなように、制御対象であるエンジン1の動的な挙動変化を考慮した漸化式形式の制御器であり、換言すれば、エンジン1の動的な挙動変化を補償するために、漸化式形式で記述された制御器である。そして、より詳しくは、漸化式形式の適応パラメータ調整機構を備えた制御器と定義することができる。
【0252】
尚、この種の漸化式形式の制御器は、所謂、最適レギュレータを用いて構築する場合もあるが、この場合には、一般にはパラメータ調整機構は備えられておらず、エンジン1の動的な挙動変化を補償する上では、前述のように構成された適応制御器31が好適である。
【0253】
以上が、本実施形態で採用した適応制御器24の詳細である。
【0254】
尚、適応制御器24と共に、大局的フィードバック制御部21に具備したPID制御器23は、一般のPID制御と同様に、LAFセンサ4の出力KACTと、実使用目標空燃比RKCMDとの偏差から、比例項(P項)、積分項(I項)及び微分項(D項)を算出し、それらの各項の総和をフィードバック操作量KLAFとして算出する。この場合、本実施形態では、積分項(I項)の初期値を「1」とすることで、LAFセンサ4の出力KACTが実使用目標空燃比RKCMDに一致する状態において、フィードバック操作量KLAFが“1”になるようにし、該フィードバック操作量KLAFをそのまま燃料噴射量を補正するための前記フィードバック補正係数KFBとして使用することができるようしている。また、比例項、積分項及び微分項のゲインは、エンジン1の回転数NEと吸気圧PBとから、あらかじめ定められたマップを用いて決定される。
【0255】
また、大局的フィードバック制御部21の前記切換部26は、エンジン1の冷却水温の低温時や、高速回転運転時、吸気圧の低圧時等、エンジン1の燃焼が不安定なものとなりやすい場合、空燃比のフィードバック制御の開始直後等、これに応じたLAFセンサ4の出力KACTが、そのLAFセンサ4の応答遅れ等によって、信頼性に欠ける場合には、PID制御器23により求められるフィードバック操作量KLAFを燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正係数KFBとして出力する。そして、上記のような場合以外の状態で、適応制御器24により求められるフィードバック操作量KSTRを実使用目標空燃比RKCMDで除算してなるフィードバック操作量kstrを燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正係数KFBとして出力する。これは、適応制御器24が、高ゲイン制御で、LAFセンサ4の出力KACTを急速に実使用目標空燃比RKCMDに収束させるように機能するため、上記のようにエンジン1の燃焼が不安定となったり、LAFセンサ4の出力KACTの信頼性に欠ける等の場合に、適応制御器24のフィードバック操作量KSTRを用いると、かえって空燃比の制御が不安定なものとなる虞れがあるからである。
【0256】
このような切換部26の作動は、例えば特開平8−105345号公報に本願出願人が詳細に開示しているので、ここでは、さらなる説明を省略する。
【0257】
次に本実施形態の装置の作動の詳細を説明する。
【0258】
まず、図12のフローチャートを参照して、前記制御ユニット6の機関制御手段8によるエンジン1の空燃比の制御のためのエンジン1の各気筒毎の出力燃料噴射量#nTout(n=1,2,3,4)の算出処理について説明する。機関制御手段8は、各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutの算出処理をエンジン1のクランク角周期(TDC)と同期した制御サイクルで次のように行う。
【0259】
機関制御手段8は、まず、前記LAFセンサ4及びO2センサ5を含む各種センサの出力を読み込む(STEPa)。この場合、LAFセンサ4の出力KACT及びO2センサ5の出力VO2/OUTはそれぞれ過去に得られたものを含めて時系列的に図示しないメモリに記憶保持される。
【0260】
次いで、基本燃料噴射量算出部17によって、前述の如くエンジン1の回転数NE及び吸気圧PBに対応する燃料噴射量をスロットル弁の有効開口面積に応じて補正してなる基本燃料噴射量Timが求められる(STEPb)。さらに、第1補正係数算出部18によって、エンジン1の冷却水温やキャニスタのパージ量等に応じた第1補正係数KTOTALが算出される(STEPc)。
【0261】
次いで、機関制御手段8は、エンジン1の運転モードが前記操作量生成手段7が生成する目標空燃比KCMDを使用して燃料噴射量の調整を行うストイキ運転モードであるか否かの判別処理を行って、該運転モードがストイキ運転モードであるか否かをそれぞれ値「1」,「0」で表すフラグf/prism/onの値を設定する(STEPd)。
【0262】
上記の判別処理では、図13に示すように、O2センサ5及びLAFセンサ4が活性化しているか否かの判別が行われる(STEPd−1,d−2)。このとき、いずれかが活性化していない場合には、操作量生成手段7の処理に使用するO2センサ5やLAFセンサ4の検出データを精度よく得ることができない。従って、エンジン1の運転モードはストイキ運転モードではなく、フラグf/prism/onの値を「0」にセットする(STEPd−10)。
【0263】
また、エンジン1のリーン運転中(希薄燃焼運転中)であるか否か(STEPd−3)、エンジン1の始動直後の触媒装置3の早期活性化を図るためにエンジン1の点火時期が遅角側に制御されているか否か(STEPd−4)、エンジン1のスロットル弁が略全開であるか否か(STEPd−5)、及びエンジン1への燃料供給の停止中(フュエルカット中)であるか否か(STEPd−6)の判別が行われる。これらのいずれかの条件が成立している場合には、エンジン1の運転モードはストイキ運転モードではなく、フラグf/prism/onの値を「0」にセットする(STEPd−10)。
【0264】
さらに、エンジン1の回転数NE及び吸気圧PBがそれぞれ所定範囲内(正常な範囲内)にあるか否かの判別が行われる(STEPd−7,d−8)。このとき、いずれかが所定範囲内にない場合には、エンジン1の運転モードはストイキ運転モードではなく、フラグf/prism/onの値を「0」にセットする(STEPd−10)。
【0265】
そして、STEPd−1,d−2,d−7,d−8の条件が満たされ、且つ、STEPd−3,d−4,d−5,d−6の条件が成立していない場合に、エンジン1の運転モードがストイキ運転モードであるとして、フラグf/prism/onの値を「1」にセットする(STEPd−9)。
【0266】
図12の説明に戻って、上記のようにフラグf/prism/onの値を設定した後、機関制御手段8は、目標空燃比選択設定部16によりフラグf/prism/onの値を判断し(STEPe)、このフラグf/prism/onの値に応じて前記実使用目標空燃比RKCMDを設定する。すなわち、機関制御手段8の目標空燃比選択設定部16は、f/prism/on=1である場合(エンジン1の運転モードがストイキ運転モードである場合)には、操作量生成手段7で生成された最新の目標空燃比KCMDを読み込み、それを実使用目標空燃比RKCMDとして設定する(STEPf)。また、エンジン1の運転モードがリーン運転モードである場合等、f/prism/on=0である場合には、実使用目標空燃比RKCMDを所定値に設定する(STEPg)。この場合、実使用目標空燃比RKCMDとして設定する所定値は、例えばエンジン1の回転数NEや吸気圧PBからあらかじめ定めたマップ等を用いて決定する。
【0267】
次いで、機関制御手段8は、前記局所的フィードバック制御部22において、前述の如くオブザーバ27によりLAFセンサ4の出力KACTから推定した各気筒毎の実空燃比#nA/F(n=1,2,3,4)に基づき、PID制御器28により、各気筒毎のばらつきを解消するようにフィードバック補正係数#nKLAFを算出する(STEPh)。さらに、大局的フィードバック制御部21により、フィードバック補正係数KFBを算出する(STEPi)。
【0268】
この場合、大局的フィードバック制御部21は、前述の如く、PID制御器23により求められるフィードバック操作量KLAFと、適応制御器24により求められるフィードバック操作量KSTRを目標空燃比KCMDで除算してなるフィードバック操作量kstrとから、切換部26によってエンジン1の運転状態等に応じていずれか一方のフィードバック操作量KLAF又はkstrを選択する(通常的には適応制御器24側のフィードバック操作量kstrを選択する)。そして、選択したフィードバック操作量KLAF又はkstrを燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正量数KFBとして出力する。
【0269】
尚、フィードバック補正係数KFBを、PID制御器23側のフィードバック操作量KLAFから適応制御器24側のフィードバック操作量kstrに切り換える際には、該補正係数KFBの急変を回避するために、適応制御器24は、その切換えの際の制御サイクルに限り、補正係数KFBを前回の補正係数KFB(=KLAF)に保持するように、フィードバック操作量KSTRを求める。同様に、補正係数KFBを、適応制御器24側のフィードバック操作量kstrからPID制御器23側のフィードバック操作量KLAFに切り換える際には、PID制御器23は、自身が前回の制御サイクルで求めたフィードバック操作量KLAFが、前回の補正係数KFB(=kstr)であったものとして、今回の補正係数KLAFを算出する。
【0270】
上記のようにしてフィードバック補正係数KFBが算出された後、さらに、前記STEPfあるいはSTEPgで決定された実使用目標空燃比RKCMDに応じた第2補正係数KCMDMが第2補正係数算出部19により算出される(STEPj)。
【0271】
次いで、機関制御手段8は、前述のように求められた基本燃料噴射量Timに、第1補正係数KTOTAL、第2補正係数KCMDM、フィードバック補正係数KFB、及び各気筒毎のフィードバック補正係数#nKLAFを乗算することで、各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutを求める(STEPk)。そして、この各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutが、付着補正部29によって、エンジン1の吸気管における燃料の壁面付着を考慮した補正を施された後(STEPm)、エンジン1の図示しない燃料噴射装置に出力される(STEPn)。
【0272】
そして、エンジン1にあっては、各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutに従って、各気筒への燃料噴射が行われる。
【0273】
以上のような各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutの算出及びそれに応じたエンジン1への燃料噴射がエンジン1のクランク角周期に同期したサイクルタイムで逐次行われ、これによりLAFセンサ4の出力KACT(空燃比の検出値)が、目標空燃比KCMDに収束するように、エンジン1の空燃比が制御される。この場合、特に、フィードバック補正係数KFBとして、適応制御器24側のフィードバック操作量kstrを使用している状態では、エンジン1の運転状態の変化や特性変化等の挙動変化に対して、高い安定性を有して、LAFセンサ4の出力KACTが迅速に目標空燃比KCMDに収束制御される。また、エンジン1が有する応答遅れの影響も適正に補償される。
【0274】
一方、前述のようなエンジン1の燃料供給の制御と並行して、制御ユニット6の操作量生成手段7は、一定周期の制御サイクルで図14のフローチャートに示すメインルーチン処理を実行する。
【0275】
すなわち、図14を参照して、操作量生成手段7は、まず、自身の演算処理(目標空燃比KCMDを生成する処理)を実行するか否かの判別処理を行って、その実行の可否を規定するフラグf/prism/calの値を設定する(STEP1)。尚、フラグf/prism/calの値は、それが「0」のとき、操作量生成手段7の演算処理を行わないことを意味し、「1」のとき、操作量生成手段7の演算処理を行うことを意味する。
【0276】
上記の判別処理は、図15のフローチャートに示すように行われる。
【0277】
すなわち、O2センサ5及びLAFセンサ4が活性化しているか否かの判別が行われる(STEP1−1,1−2)。このとき、いずれかが活性化していない場合には、操作量生成手段7の処理に使用するO2センサ5及びLAFセンサ4の検出データを精度よく得ることができないため、フラグf/prism/calの値を「0」にセットする(STEP1−6)。さらにこのとき、前記同定器11の後述する初期化を行うために、その初期化を行うか否かを規定するフラグf/id/resetの値を「1」にセットする(STEP1−7)。ここで、フラグf/id/resetの値は、それが「1」であるとき、同定器11の初期化を行うことを意味し、「0」であるとき、初期化を行わないことを意味する。
【0278】
また、エンジン1のリーン運転中であるか否か(STEP1−3)、及びエンジン1の始動直後の触媒装置3の早期活性化を図るためにエンジン1の点火時期が遅角側に制御されているか否か(STEP1−4)の判別が行われる。これらのいずれかの条件が成立している場合には、O2センサ5の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束させる制御は行わないので、フラグf/prism/calの値を「0」にセットする(STEP1−6)。さらにこのとき、同定器11の初期化を行うために、フラグf/id/resetの値を「1」にセットする(STEP1−7)。
【0279】
そして、操作量生成手段7は、STEP1−1,1−2の条件が満たされ、且つ、STEP1−3,1−4の条件が成立しない場合にのみ、フラグf/prism/calの値を「1」にセットする。
【0280】
図14の説明に戻って、上記のような判別処理を行った後、操作量生成手段7は、さらに、同定器11による前記ゲイン係数a1,a 2,b1の同定(更新)処理を実行するか否かの判別処理を行って、その実行の可否を規定するフラグf/id/calの値を設定する(STEP2)。尚、フラグf/id/calの値は、それが「0」のとき、同定器11による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)処理を行わないことを意味し、「1」のとき、同定(更新)処理を行うことを意味する。
【0281】
このSTEP2の判別処理では、エンジン1のスロットル弁が略全開であるか否か、及びエンジン1への燃料供給の停止中(フュエルカット中)であるか否かの判別が行われる。これらのいずれかの条件が成立している場合には、前記ゲイン係数a1,a2,b1を適正に同定することが困難であるため、フラグf/id/calの値を「0」にセットする。そして、上記のいずれの条件も成立していない場合には、同定器11による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)処理を実行すべくフラグf/id/calの値を「1」にセットする。
【0282】
次いで、操作量生成手段7は、前記減算処理部9,10によりそれぞれ最新の前記偏差出力kact(k)(=KACT(k)−FLAF/BASE)及びVO2(k)(=VO2/OUT(k)−VO2/TARGET)を算出する(STEP3)。この場合、減算処理部9,10は、前記図12のSTEPaにおいて取り込まれて図示しないメモリに記憶されたLAFセンサ4の出力KACT及びO2センサ5の出力VO2/OUTの時系列データの中から、最新のものを選択して前記偏差出力kact(k)及びVO2(k)を算出する。そしてこの偏差出力kact(k)及びVO2(k)は、過去に算出したものを含めて時系列的に図示しないメモリに記憶保持される。
【0283】
次いで、操作量生成手段7は、前記STEP1で設定されたフラグf/prism/calの値を判断する(STEP4)。このとき、f/prism/cal=0である場合、すなわち、自身の演算処理を行わない場合には、スライディングモード制御器15で求めるべき前記SLD操作入力Usl(=目標偏差空燃比kcmd)を強制的に所定値に設定する(STEP12)。この場合、該所定値は、例えばあらかじめ定めた固定値(例えば「0」)あるいは前回の制御サイクルで決定したSLD操作入力Uslの値である。
【0284】
尚、このようにSLD操作入力Uslを所定値とした場合において、操作量生成手段7は、その所定値のSLD操作入力Uslに前記空燃比基準値FLAF/BASEを加算することで、今回の制御サイクルにおける目標空燃比KCMDを決定し(STEP13)、今回の制御サイクルの処理を終了する。
【0285】
一方、STEP4の判断で、f/prism/cal=1である場合、すなわち、操作量生成手段7の演算処理を行う場合には、操作量生成手段7は、まず、前記同定器11による演算処理を行う(STEP5)。
【0286】
この同定器11による演算処理は図16のフローチャートに示すように行われる。
【0287】
すなわち、同定器11は、まず、前記STEP2で設定されたフラグf/id/calの値を判断する(STEP5−1)。このときf/id/cal=0であれば、同定器11によるゲイン係数a1,a2,b1の同定処理を行わないので、直ちに図14のメインルーチンに復帰する。
【0288】
一方、f/id/cal=1であれば、同定器11は、さらに該同定器11の初期化に係わる前記フラグf/id/resetの値(これは、前記STEP1でその値が設定される)を判断し(STEP5−2)、f/id/reset=1である場合には、同定器11の初期化を行う(STEP5−3)。この初期化では、前記同定ゲイン係数a1ハット,a 2ハット,b1ハットの各値があらかじめ定めた初期値に設定され(式(3)中の同定ゲイン係数ベクトルΘの初期化)、また、前記式(6)で用いる行列P(対角行列)の各成分があらかじめ定めた初期値に設定される。さらに、フラグf/id/resetの値は「0」にリセットされる。
【0289】
次いで、同定器11は、現在の同定ゲイン係数a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットの値と、前記STEP3で制御サイクル毎に算出される偏差出力VO2及びkactの過去値のデータVO2(k-1),VO2(k-2),kact(k-d-1)とを用いて、前記式(3)により前記同定偏差出力VO2(k)ハットを算出する(STEP5−4)。
【0290】
さらに同定器11は、新たな同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを決定する際に使用する前記ベクトルKθ(k)を式(6)により算出した後(STEP5−5)、前記同定誤差id/e(k)(前記同定偏差出力VO2ハットと、実際の偏差出力VO2との偏差。式(4)参照)を算出する(STEP5−6)。
【0291】
ここで、前記同定誤差id/e(k)は、基本的には、前記式(4)に従って算出すればよいのであるが、本実施形態では、前記図14のSTEP3で制御サイクル毎に算出する偏差出力VO2と、前記STEP5−4で制御サイクル毎に算出する同定偏差出力VO2ハットとから式(4)の演算により得られた値(=VO2(k)−VO2(k)ハット)に、さらにローパス特性のフィルタリングを施すことで同定誤差id/e(k)を求める。
【0292】
これは、触媒装置3を含む排気系Eの挙動は一般にローパス特性を有するため、前記排気系モデルのゲイン係数a1,a2,b1を適正に同定する上では、排気系Eの低周波数側の挙動を重視することが好ましいからである。
【0293】
尚、このようなフィルタリングは、結果的に、偏差出力VO2及び同定偏差出力VO2ハットの両者に同じローパス特性のフィルタリングが施されていればよく、例えば偏差出力VO2及び同定偏差出力VO2ハットにそれぞれ各別にフィルタリングを施した後に式(4)の演算を行って同定誤差id/e(k)を求めるようにしてもよい。また、前記のフィルタリングは、例えばディジタルフィルタの一手法である移動平均処理によって行われる。
【0294】
次いで、同定器11は、STEP5−6で求めた同定誤差id/e(k)と、前記STEP5−5で算出したKθ( k)とを用いて前記式(5)により新たな同定ゲイン係数ベクトルΘ(k)、すなわち、新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを算出する(STEP5−7)。
【0295】
このようにして新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを算出した後、同定器11は、該同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハット(同定ゲイン係数ベクトルΘの要素)の値を、所定の条件を満たすように制限する処理を行う(STEP5−8)。そして、同定器11は次回の制御サイクルの処理のために前記行列P(k)を前記式(7)により更新した後(STEP5−9)、図14のメインルーチンの処理に復帰する。
【0296】
この場合、上記STEP5−8において同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの値を制限する処理は、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハットの値の組み合わせを所定の組み合わせに制限する処理(同定ゲイン係数a1ハット,a2ハットを成分とする座標平面上の所定の領域内に点(a1ハット,a2ハット)を制限する処理)と、同定ゲイン係数b1ハットの値を所定の範囲内に制限する処理とからなる。前者の処理では、STEP5−7で算出した同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハットにより定まる上記座標平面上の点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)が該座標平面上にあらかじめ定めた所定の領域から逸脱している場合に同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハットの値を強制的に上記所定の領域内の点の値に制限する。また、後者の処理では、前記STEP5−7で算出した同定ゲイン係数b1(k)ハットの値が所定の範囲の上限値あるいは下限値を超えている場合に、該同定ゲイン係数b1(k)ハットの値を強制的にその上限値あるいは下限値に制限する。
【0297】
このような同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの制限処理は、スライディングモード制御器15が算出するSLD操作入力Usl(目標偏差空燃比kcmd)、ひいては目標空燃比KCMDの安定性を確保するためのものである。
【0298】
尚、このような同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの制限処理のより具体的な手法については、本願出願人が例えば特開平11−153051号公報にて詳細に説明しているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0299】
また、図16のSTEP5−7で新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a 2(k)ハット,b1(k)ハットを求めるために使用する同定ゲイン係数の前回値a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットは、前回の制御サイクルにおけるSTEP5−8の制限処理を行った後の同定ゲイン係数の値である。
【0300】
以上が図14のSTEP5における同定器11の演算処理の詳細である。
【0301】
図14の説明に戻って、上記のように同定器11の演算処理を行った後、操作量生成手段7は、ゲイン係数a1,a2,b1の値を決定する(STEP6)。この処理では、前記STEP2で設定されたフラグf/id/calの値が「1」である場合、すなわち、同定器11によるゲイン係数a1,a2,b1の同定処理を行った場合には、ゲイン係数a1,a2,b1の値として、それぞれ前記STEP5で前述の通り同定器11により求められた最新の同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを設定する。また、f/id/cal=0である場合、すなわち、同定器11によるゲイン係数a1,a2,b1の同定処理を行わなかった場合には、ゲイン係数a1,a2,b1の値をそれぞれあらかじめ定めた所定値(例えば前回の制御サイクルで決定された値等)とする。
【0302】
次いで、操作量生成手段7は、前記第1及び第2推定器12,13、並びに合成器14による演算処理(前記合成推定偏差出力VO2バーを算出する処理)を行う(STEP7)。この処理は、図17のフローチャートに示すように行われる。
【0303】
すなわち、操作量生成手段7は、まず、O2センサ5の偏差出力VO2の今回値VO2(k)及び前回値VO2(k-1)を用いて前記式(12)のファジー用線形関数σの値σ(k)を算出する(STEP7−1)。
【0304】
さらに操作量生成手段7は、この算出したファジー用線形関数σの値σ(k)と、偏差出力VO2の今回値VO2(k)とを用いて前記式(27)の楕円関数の値OVAL(k)を算出する(STEP7−2)。
【0305】
次いで、操作量生成手段7は、前記第1推定器12により、O2センサ5の推定偏差出力VO2L(k+d)バーを算出する(STEP7−3)。このとき、第1推定器12は、まず、前記STEP6で決定されたゲイン係数a1,a2,b1(これらの値は基本的には、前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットである)を用いて、前記式(9)で使用する係数値α1,α2,βj(j=1,…,d)を、同式(9)の但し書きの定義に従って算出する。
【0306】
次いで、第1推定器12は、O2センサ5の偏差出力VO2の現在の制御サイクル以前の時系列データVO2(k),VO2(k-1)、並びにLAFセンサ4の偏差出力kactの現在の制御サイクル以前の時系列データkact(k-j)(j=0,…,d1)と、スライディングモード制御器15から制御サイクル毎に与えられる前記目標偏差空燃比kcmd(=SLD操作入力Usl)の前回の制御サイクル以前の時系列データkcmd(k-j)(=Usl(k-j)。j=1,…,d2−1)と、上記の如く算出した係数値α1,α2,βjとを用いて前記式(9)により、今回の制御サイクルの時点から前記合計無駄時間d後の偏差出力VO2の推定値としての推定偏差出力VO2L(k+d)バー前記を算出する。
【0307】
このように第1推定器12の演算処理を行った後、さらに、操作量生成手段7は、前記第2推定器13により、O2センサ5の推定偏差出力VO2F(k+d)を算出する(STEP7−4)。このとき、第2推定器13は、O2センサ5の偏差出力VO2の今回値VO2(k)と、前記STEP7−1で算出したファジー用線形関数σの今回値σ(k)とを用いて、前述の如く、各ファジールールに前件部に係わる適合度Wpre(i)(i=1,2,…,9)を求め、さらに、前記式(25)により、今回の制御サイクルの時点から前記合計無駄時間d後の偏差出力VO2の推定値としての推定偏差出力VO2F(k+d)バー前記を算出する。
【0308】
次いで、操作量生成手段7は、前記STEP7−2で求めた楕円関数の値OVAL(k)から前記図9のデータテーブルにより前記重み係数Cwを求めた後(STEP7−5)、この重み係数Cwを用いた前記式(26)により、第1及び第2推定器12,13がそれぞれSTEP7−3,7−4で求めた推定偏差出力VO2L(k+d)バー,VO2F(k+d)バーを合成してなる合成推定偏差出力VO2(k+d)バーを算出する(STEP7−6)。
【0309】
そして、操作量生成手段7は、この合成推定偏差出力VO2(k+d)バーの値にリミット処理(STEP7−7)を施した後、図14のメインルーチンの処理に復帰する。ここで、STEP7−7のリミット処理は、合成推定偏差出力VO2(k+d)バーの値があらかじめ定めた上限値を超え、あるいは下限値を下回っていた場合に、該合成推定偏差出力VO2(k+d)バーの値を強制的にそれぞれ該上限値、下限値に制限する処理である。
【0310】
以上説明したSTEP7の処理により、制御サイクル毎に、前記合計無駄時間d後の偏差出力VO2の推定値としての合成推定偏差出力VO2(k)バーが算出される。
【0311】
図14の説明に戻って、操作量生成手段7は、次に、スライディングモード制御器15によって、前記SLD操作入力Usl(=目標偏差空燃比kcmd)を算出する(STEP8)。
【0312】
すなわち、スライディングモード制御器15は、まず、前記STEP7で合成器14により求められた合成推定偏差出力VO2バーの今回値及び前回値の時系列データVO2(k+d)バー,VO2(k+d-1)バーを用いて、前記式(21)により定義された切換関数σバーの前記合計無駄時間d後の値σ(k+d)バー(これは、式(12)で定義された線形関数σの合計無駄時間d後の推定値に相当する)を算出する。
【0313】
さらに、スライディングモード制御器15は、上記切換関数σバーの値σ(k+d)バーに、操作量生成手段7の制御サイクルの周期ΔT(一定周期)を乗算したものσ(k+d)バー・ΔTを累積的に加算していく、すなわち、前回の制御サイクルで求められた加算結果に今回の制御サイクルで算出されたσ(k+d)バーと周期ΔTとの積σ(k+d)バー・ΔTを加算することで、前記式(23)のΣ(σバー・ΔT)の項の演算結果であるσバーの積算値(以下、この積算値をΣσバーにより表す)を算出する。
【0314】
次いで、スライディングモード制御器15は、前記STEP7で合成器14により求められた合成推定偏差出力VO2バーの今回値VO2(k+d)バー及び前回値VO2(k+d-1)バーと、上記の如く求めた切換関数σバーの値σ(k+d)バー及びその積算値Σσバーと、STEP6で決定したゲイン係数a1,a2,b1(これらの値は基本的には、最新の同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットである)とを用いて、前記式(20),(22),(23)に従って、それぞれ等価制御入力Ueq、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpを算出する。
【0315】
そして、スライディングモード制御器15は、この等価制御入力Ueq、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpを加算することで、前記SLD操作入力Usl、すなわち、O2センサ5の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束させるために必要な排気系Eへの入力量(=目標偏差空燃比kcmd)を算出する。
【0316】
上記のようにSLD操作入力Uslを算出した後、スライディングモード制御器15は、適応スライディングモード制御の安定性(より詳しくは、適応スライディングモード制御に基づくO2センサ5の出力VO2/OUTの制御状態(以下、SLD制御状態という)の安定性)を判別する処理を行って、該SLD制御状態が安定であるか否かをそれぞれ値「1」、「0」で表すフラグf/sld/stbの値を設定する(STEP9)。
【0317】
この安定性の判別処理は図18のフローチャートに示すように行われる。
【0318】
すなわち、スライディングモード制御器15は、まず、前記STEP8で算出した切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーと前回値σ(k+d-1)バーとの偏差Δσバー(これは切換関数σバーの変化速度に相当する)を算出する(STEP9−1)。
【0319】
次いで、スライディングモード制御器15は、上記偏差Δσバーと切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーとの積Δσバー・σ(k+d)バー(これはσバーに関するリアプノフ関数σバー2/2の時間微分関数に相当する)があらかじめ定めた所定値ε(≧0)以下であるか否かを判断する(STEP9−2)。
【0320】
ここで、上記積Δσバー・σ(k+d)バー(以下、これを安定判別パラメータPstbという)について説明すると、この安定判別パラメータPstbの値がPstb>0となる状態は、基本的には、切換関数σバーの値が「0」から離間しつつある状態である。また、安定判別パラメータPstbの値がPstb≦0となる状態は、基本的には、切換関数σバーの値が「0」に収束しているか、もしくは収束しつつある状態である。そして、一般に、スライディングモード制御ではその制御量を目標値に安定に収束させるためには、切換関数の値が安定に「0」に収束する必要がある。従って、基本的には、前記安定判別パラメータPstbの値が「0」以下であるか否かによって、それぞれ前記SLD制御状態が安定、不安定であると判断することができる。
【0321】
但し、安定判別パラメータPstbの値を「0」と比較することでSLD制御状態の安定性を判断すると、切換関数σバーの値に僅かなノイズが含まれただけで、安定性の判別結果に影響を及ぼしてしまう。このため、本実施形態では、前記STEP9−2で安定判別パラメータPstbと比較する所定値εは、「0」よりも若干大きな正の値としている。
【0322】
そして、STEP9−2の判断で、Pstb>εである場合には、SLD制御状態が不安定であるとし、前記STEP8で算出したSLD操作入力Uslを用いた目標空燃比KCMDの決定を所定時間禁止するためにタイマカウンタtm(カウントダウンタイマ)の値を所定の初期値TMにセットする(タイマカウンタtmの起動。STEP9−4)。さらに、前記フラグf/sld/stbの値を「0」に設定した後(STEP9−5)、図14のメインルーチンの処理に復帰する。
【0323】
一方、前記STEP9−2の判断で、Pstb≦εである場合には、スライディングモード制御器15は、切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーがあらかじめ定めた所定範囲内にあるか否かを判断する(STEP9−3)。
【0324】
この場合、切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーが、所定範囲内に無い状態は、該今回値σ(k+d)バーが「0」から大きく離間している状態であるので、SLD制御状態が不安定であると考えられる。このため、STEP9−3の判断で、切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーが、所定範囲内に無い場合には、SLD制御状態が不安定であるとして、前述の場合と同様に、STEP9−4及び9−5の処理を行って、タイマカウンタtmを起動すると共に、フラグf/sld/stbの値を「0」に設定する。
【0325】
また、STEP9−3の判断で、切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーが、所定範囲内にある場合には、スライディングモード制御器15は、前記タイマカウンタtmを所定時間Δtm分、カウントダウンする(STEP9−6)。そして、このタイマカウンタtmの値が「0」以下であるか否か、すなわち、タイマカウンタtmを起動してから前記初期値TM分の所定時間が経過したか否かを判断する(STEP9−7)。
【0326】
このとき、tm>0である場合、すなわち、タイマカウンタtmが計時動作中でまだタイムアップしていない場合は、STEP9−2あるいはSTEP9−3の判断でSLD制御状態が不安定であると判断されてから、さほど時間を経過していないので、SLD制御状態が不安定なものとなりやすい。このため、STEP9−7でtm>0である場合には、前記STEP9−5の処理を行って前記フラグf/sld/stbの値を「0」に設定する。
【0327】
そして、STEP9−7の判断でtm≦0である場合、すなわち、タイマカウンタtmがタイムアップしている場合には、SLD制御状態が安定であるとして、フラグf/sld/stbの値を「1」に設定する(STEP9−8)。
【0328】
以上のような処理によって、SLD制御状態の安定性が判断され、不安定であると判断した場合には、フラグf/sld/stbの値が「0」に設定され、安定であると判断した場合には、フラグf/sld/stbの値が「1」に設定される。
【0329】
尚、以上説明したSLD制御状態の安定性の判断の手法は例示的なもので、この他の手法によって安定性の判断を行うようにすることも可能である。例えば制御サイクルよりも長い所定期間毎に、各所定期間内における前記安定判別パラメータPstbの値が前記所定値εよりも大きくなる頻度を計数する。そして、その頻度があらかじめ定めた所定値を超えるような場合にSLD制御状態が不安定であると判断し、逆の場合に、SLD制御状態が安定であると判断するようにしてもよい。
【0330】
図14の説明に戻って、上記のようにSLD制御状態の安定性を示すフラグf/sld/stbの値を設定した後、スライディングモード制御器15は、フラグf/sld/stbの値を判断する(STEP10)。このとき、f/sld/stb=1である場合、すなわち、SLD制御状態が安定であると判断された場合には、前記STEP8で算出したSLD操作入力Uslのリミット処理を行う(STEP11)。このリミット処理では、STEP8で算出されたSLD操作入力Uslの今回値Usl(k)が所定の許容範囲内にあるか否かが判断され、該今回値Uslがその許容範囲の上限値又は下限値を超えている場合には、それぞれ、SLD操作入力Uslの今回値Usl(k)が強制的に該上限値又は下限値に制限される。
【0331】
尚、STEP11のリミット処理を経たSLD操作入力Usl(=目標偏差空燃比kcmd)は、図示しないメモリに時系列的に記憶保持され、それが、前記第1推定器12の前述の演算処理のために使用される。
【0332】
次いで、スライディングモード制御器15は、STEP11のリミット処理を経たSLD操作入力Uslに前記空燃比基準値FLAF/BASEを加算することで、前記目標空燃比KCMDを算出し(STEP13)、今回の制御サイクルの処理を終了する。
【0333】
また、前記STEP10の判断でf/sld/stb=0である場合、すなわち、SLD制御状態が不安定であると判断された場合には、スライディングモード制御器15は、今回の制御サイクルにおけるSLD操作入力Uslの値を強制的に所定値(固定値あるいはSLD操作入力Uslの前回値)に設定した後(STEP12)、前記式(24)に従って前記目標空燃比KCMDを算出し(STEP13)、今回の制御サイクルの処理終了する。
【0334】
尚、STEP14で最終的に決定される目標空燃比KCMDは、制御サイクル毎に図示しないメモリに時系列的に記憶保持される。そして、前記大局的フィードバック制御器21等が、スライディングモード制御器15で求められた目標空燃比KCMDを用いるに際しては(図12のSTEPfを参照)、上記のように時系列的に記憶保持された目標空燃比KCMDの中から最新のものが選択される。
【0335】
以上説明した本実施形態の装置によれば、制御ユニット6のエンジン1のストイキ運転モードでは操作量生成手段7によって、触媒装置3の下流側のO2センサ5の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束(整定)させるように、適応スライディングモード制御の処理を用いてエンジン1の目標空燃比KCMD(触媒上流空燃比の目標値)が逐次決定される。さらに、制御ユニット6の機関制御手段8が、この目標空燃比KCMDにLAFセンサ4の出力KACTを収束させるようにエンジン1の燃料噴射量を調整することによって、触媒上流空燃比が目標空燃比KCMDにフィードバック制御される。これにより、O2センサ5の出力VO2/OUTが目標値VO2/TARGETに収束制御され、ひいては触媒装置3の経時劣化等によらずに、触媒装置3の最適な排ガス浄化性能を確保することができる。
【0336】
この場合、スライディングモード制御器15が目標空燃比KCMDを算出するために用いるO2センサ5の合成推定偏差出力VO2バーは、O2センサ5の偏差VO2の状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))が前記図5の線形的挙動領域Aに存するとき、すなわち、O2センサ5の出力VO2/OUTが酸素濃度もしくは排ガスの空燃比に対してほぼ線形に変化するような状態では、前記第1推定器12が排気系モデル等に基づくアルゴリズムによって算出した推定偏差出力VO2Lである。また、状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))が前記線形的挙動領域Aの外に存するとき、すなわち、O2センサ5の出力VO2/OUTが酸素濃度もしくは排ガスの空燃比に対して非線形な変化を呈する状態では、基本的には、合成推定偏差出力VO2バーは、前記第2推定器12がファジー推論のアルゴリズムによって算出した推定偏差出力VO2Fである。
【0337】
このため、O2センサ5の出力状態あるいは排ガスの空燃比状態によらずに、制御サイクル毎の前記合計無駄時間d後のO2センサ5の偏差出力VO2の推定値としての前記合成推定偏差出力VO2バーの精度を良好に確保することができる。従って、エンジン1のストイキ運転モードでは、常時、排気系Eの無駄時間d1や前記空燃比操作系の無駄時間d2の影響を適正に補償して、O2センサ5の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御を高い速応性で且つ安定に行うことができる。例えば、リーン運転モードからストイキ運転モードへの移行の直後や、フュエルカット直後の状態等、O2センサ5の出力VO2/OUTが目標値VO2/TARGETから大きくずれているような場合であっても、目標値VO2/TARGETへの収束制御を安定且つ迅速に行うことができる。
【0338】
また、両推定器12,13の推定偏差出力VO2Lバー,VO2Fバーの合成推定偏差出力VO2バーとしての選択の形態、あるいは、両推定偏差出力VO2L,VO2Fの合成値しての合成推定偏差出力VO2バーの生成の形態を規定する条件は、スライディングモード制御器15の処理に用いる切換関数σバーに対応するファジー用線形関数σに関連して定められた前記線形的挙動領域A(図5参照)に状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))が存するか否か(これは、前記楕円関数の値OVALが「1」以下であるか否かと等価である)によって定められている。このため、各推定器12,13の推定偏差出力VO2Lバー,VO2Fバーを、それぞれの精度の特性に適合した最適な条件下で、合成推定偏差出力VO2としてスライディングモード制御器15の処理(目標空燃比KCMDの算出処理)に使用することができる。この結果、該スライディングモード制御器15が生成する目標空燃比KCMDがO2センサ5の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束させる上で最適なものとなる。
【0339】
さらに、前記合成器14が求める合成推定偏差出力VO2バーは、基本的には、両推定器12,13の推定偏差出力VO2Lバー,VO2Fバーのいずれかの値であるが、前記状態量Xが線形的挙動領域Aの境界近傍に存するときには、前記重み係数Cwを楕円関数の値OVALに応じて可変的に設定しつつ、両推定偏差出力VO2Lバー,VO2Fバーを合成してなる合成値である。このため、状態量Xが線形的挙動領域Aの境界近傍で変化するような場合における合成推定偏差出力VO2バーの値が急変するようなことがなく、ひいては、O2センサ5の出力VO2/OUTの制御の安定性を高めることができる。
【0340】
また、前記第2推定器13のファジー推論では、min−max−重心法を用いると共に、後件部のパラメータVO2Fバーに係わるメンバーシップ関数を棒状関数により設定しているため、簡単なファジー推論アルゴリズムにより推定偏差出力VO2Fバーを求めることができる。
【0341】
さらに、第1推定器12のアルゴリズムに関しては、排気系モデルのパラメータであるゲイン係数a1,a2,b1を排気系Eの挙動状態に則して同定器11によりリアルタイムで同定し、その同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットを用いて推定偏差出力VO2Lバーを算出するため、特に、O2センサ5の線形領域における推定偏差出力VO2Lバーの精度が高まる。この結果、O2センサ5の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御の安定性を高めることができる。
【0342】
次に本発明の第2実施形態を説明する。尚、本実施形態は、前記第1実施形態のものとその構成は同一で、前記第1推定器12の演算処理等の一部の演算処理のみが前記第1実施形態のものと相違するので、前記第1実施形態と同一の参照符号を用いて説明すると共に、同一部分については詳細な説明を省略する。
【0343】
前記第1実施形態では、排気系Eの無駄時間d1と空燃比操作系(エンジン1及び機関制御手段8から成る系)の無駄時間d2とを合わせた合計無駄時間dの影響を補償するために、該合計無駄時間d後のO2センサ5の推定偏差出力VOLバー,VO2Fバーをそれぞれ第1推定器12及び第2推定器13により算出するようにしている。
【0344】
しかるに、排気系Eの無駄時間d1に比して空燃比操作系の無駄時間d2が十分に小さい場合には、排気系Eの無駄時間d1のみを考慮して、この無駄時間d1後のO2センサ5の偏差出力VO2の推定値VO2L(k+d1)バー,VO2F(k+d1)バーを第1及び第2推定器12,13によりそれぞれ制御サイクル毎に逐次求め、それらの推定値(以下、第2推定偏差出力という)VO2L(k+d1)バー,VO2F(k+d1)バーを前記第1実施形態と同様に合成器14により合成してなる合成推定偏差出力VO2(k+d1)バーを用いてスライディングモード制御器15により目標空燃比KCMDを算出するようにしてもよい。本実施形態は、このような第2推定偏差出力VO2L(k+d1)バー,VO2F(k+d1)バーを求めて、O2センサ5の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御を行うものである。
【0345】
この場合、前記第1推定器12は、前記式(9)の「kcmd」及び「d」をそれぞれ「kact」及び「d1」に置き換えた次式(39)を用いて、前記実施形態と同様にO2センサ5の偏差出力VO2の無駄時間d1後の推定値としての第2推定偏差出力VO2L(k+d1)バーを制御サイクル毎に逐次求める。
【0346】
【数39】
Figure 0003773859
【0347】
尚、この式(39)は、排気系モデルの式(1)から得ることができる式である。また、この式(39)の演算に必要なゲイン係数a1,a2,b1としては、前記第1実施形態と同様、前記同定器11により求めた同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットを用いる。
【0348】
また、前記第2推定器13に関しては、そのファジー推論のアルゴリズム(min−max−重心法のアルゴリズム)、ファジールール(図7参照)、並びに後件部に係わるメンバーシップ関数(図6(c)参照)は、前記第1実施形態の場合と同一でよい。但し、この場合、前件部のパラメータσ(k),VO2(k)にそれぞれ係わるメンバーシップ関数(N(負)、Z(ゼロ)、P(正)の三つの関数)については、図示は省略するが、その形状(具体的には、各メンバーシップ関数の位置や、その台形状、三角形状の傾斜部分の傾き)を前記第1実施形態の場合と若干異なるものとしておく。この場合、これらのメンバーシップ関数の具体的な設定は、ファジー推論による第2推定偏差出力VO2F(k+d1)バーが、O2センサ5の非線形領域での挙動時における無駄時間d1後の実際の偏差出力VO2(k+d1)に精度良く合致するように、実験やシミュレーションに基づいて行うようにすればよい。
【0349】
そして、本実施形態では、前記合成器14は、上述のようなアルゴリズムによって第1及び第2推定器12,13がそれぞれ求める第2推定偏差出力VO2L(k+d1)バー、VO2F(k+d1)バーから前記第1実施形態と全く同様に、合成推定偏差出力VO2(k+d1)を算出する。すなわち、合成器14は、前記式(26)の「d」を「d1」に置き換えた式により合成推定偏差出力VO2(k+d1)を算出する。
【0350】
また、前記スライディングモード制御器15は、前記式(20)〜(23)で「d」を「d1」に置き換えた式によって、等価制御入力Usl、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpを制御サイクル毎に求め、それらを加算してなる目標偏差空燃比kcmd(=SLD操作入力Usl)に前記空燃比基準値FLAF/BASEを加算することで、目標空燃比KCMDを求める。これにより、排気系Eの無駄時間d1の影響を補償した目標空燃比KCMDを求めることができる。
【0351】
以上説明した以外の処理については、前記第1実施形態と全く同一でよい。かかる本実施形態の装置においても、前記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0352】
尚、本発明は、以上説明した第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、各種の変形態様が可能である。
【0353】
例えば、前記合計無駄時間d後のO2センサ5の出力もしくは偏差出力の推定値、あるいは排気系Eの無駄時間d1後のO2センサ5の出力もしくは偏差出力の推定値をそれぞれ求める第1及び第2推定器12,13は、それぞれ、前記第1及び第2実施形態と異なるアルゴリズムを用いて前記推定値を求めるようにしてもよい。各推定器12,13のアルゴリズムは、基本的には、それぞれO2センサ5の互いに異なる特定の出力状態において比較的精度の良い推定値を求めることができるものであればよい。
【0354】
さらに、前記合計無駄時間dあるいは無駄時間d1後の推定値を、さらに多くの推定器(例えば3個、4個等の推定器)を用いて算出し、それらから択一的に選択したもの、あるいはそれらを合成したものを用いて目標空燃比KCMDを求めるようにしてもよい。
【0355】
また、合計無駄時間dあるいは無駄時間d1後の推定値を用いた目標空燃比KCMDの算出処理は、適応則(適応アルゴリズム)を含まない通常的なスライディングモード制御により行うようにしてもよく、さらには、スライディングモード制御以外のフィードバック制御処理を用いてもよい。
【0356】
また、触媒装置3の下流の排ガスセンサは、O2センサ以外の排ガスセンサ(例えばNOxセンサ、HCセンサ、COセンサ)であってもよい。この場合、前記合計無駄時間dあるいは無駄時間d1後の排ガスセンサの出力の推定値データを求める各推定器のアルゴリズムや、その個数は、該排ガスセンサの出力特性を考慮して選択、設定するようにすればよい。
【0357】
また、本発明のプラントの制御装置に関し、前記第1及び第2実施形態では、内燃機関の空燃比制御装置を例にとって説明したが、本発明のプラントの制御装置は、前記実施形態に限定されるものではない。
【0358】
以下に本発明のプラントの制御装置の他の実施形態を図19を参照して説明する。
【0359】
図19において、32はプラントであり、このプラント32には、流量制御弁33(アクチュエータ)により流量を調整可能なアルカリ液が入力される。そして、該プラント32は、与えられたアルカリ液に酸性液を合流させ、それを攪拌器34により攪拌してなる混合液を出力するものである。
【0360】
本実施形態の制御装置は、このようなプラント32が出力する混合液(アルカリ液と酸性液との混合液)のpHが所望のpH(例えば中性に相当するpH値)になるようにプラント32に入力されるアルカリ液の流量を制御するもので、その制御のために次のような構成を備えている。
【0361】
すなわち、本実施形態の制御装置は、プラント32の出力側に該プラント32の出力である前記混合液のpHを検出すべく設けられた検出手段としてのpHセンサ35と、プラント32の入力側に該プラントの入力であるアルカリ液の流量を検出すべく設けられた流量センサ36と、これらのpHセンサ35及び流量センサ36のそれぞれの出力V1/OUT,V2/OUTに基づき後述の演算処理を行う制御ユニット37とを具備する。
【0362】
尚、本実施形態におけるpHセンサ35は、例えば前述の第1及び第2実施形態における酸素濃度センサと同様、その出力特性は、目標値とするpH値を含む比較的狭い範囲のpH値に対してほぼ線形に出力V1/OUTが変化し、その狭い範囲を逸脱したpH値では、飽和してほぼ一定の出力となるようなものである。
【0363】
制御ユニット37は、マイクロコンピュータ等により構成されたもので、pHセンサ35の出力V1/OUTとその目標値V1/TARGET(これは前記混合液の目標pHに相当する)との偏差V1(=V1/OUT−V1/TARGET)をpHセンサ35の出力を示すデータとして算出する減算処理部38と(以下、偏差V1をpHセンサ35の偏差出力V1という)、流量センサ36の出力V2/OUTと所定の基準値V2/REF(これは任意に設定してよい)との偏差V2(=V2/OUT−V2/REF)を流量センサ36の出力を示すデータとして算出する減算処理部39と(以下、偏差V2を流量センサ36の偏差出力V2という)、上記偏差出力V1,V2に基づいて、pHセンサ35の出力V1/OUTをその目標値V1/TARGETに収束させるためにプラント32に与えるべきアルカリ液の目標流量V2CMDをプラント32への入力を規定する操作量として決定する操作量生成手段40と、流量センサ36の出力V2/OUT(検出流量)を目標流量V2CMDに一致させるように前記流量制御弁33の動作量をフィードバック制御する弁制御手段41(アクチュエータ制御手段)とを機能的構成として具備している。
【0364】
尚、以下の説明において、前記目標流量V2CMDの前記基準値V2/ REFに対する偏差(=V2CMD−V2/REF)を目標偏差流量v2cmd(これは前述の実施形態における目標偏差空燃比kcmdに対応する)と称する。また、流量制御弁33及び弁制御手段41を合わせた系、すなわち、目標流量V2CMDから流量センサ36が検出する流量のアルカリ液を生成するシステムを流量操作系(これは前述の実施形態における空燃比操作系に対応する)と称する。
【0365】
前記操作量生成手段40は、前述の第1実施形態の操作量生成手段7と同様にその機能的構成として図示を省略する同定器、第1及び第2推定器、合成器、及びスライディングモード制御器を備えている。そして、本実施形態における操作量生成手段40の同定器、第1推定器は、例えば前記式(1)のVO2,kactをそれぞれ前記偏差出力V1,V2で置き換えて成るプラント32のモデルと、前記式(2)のkact,kcmdをそれぞれ前記偏差出力V2、目標偏差流量v2cmdで置き換えて成る前記流量操作系のモデルとを用い、前述の第1実施形態における操作量生成手段7の同定器11及び推定器12と同様の演算処理を行う。
【0366】
すなわち、本実施形態における操作量生成手段40は、プラント32のモデルのパラメータの同定値(これは前述の実施形態における同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットに対応する)の算出や、プラント32に存する無駄時間と流量操作系に存する無駄時間とを合わせた合計無駄時間後のpHセンサ35の偏差出力V1の推定値(これは前述の実施形態における推定偏差出力VO2Lバーに対応する)の算出を行う。この場合、プラント32のモデルにおける無駄時間の設定値は、プラント32の実際の無駄時間以上となるような時間(例えば一定値)に実験等を通じて定めておけばよい。また、流量操作系のモデルにおける無駄時間の設定値は、流量制御弁33の動作特性を考慮し、流量操作系の実際の無駄時間以上となるような時間(例えば一定値)に実験等を通じて定めておけばよい。
【0367】
また、操作量生成手段40の第2推定器は、前述の実施形態における第2推定器13と同様に構築されたファジー推論のアルゴリズム(min−max−重心法のアルゴリズム)により、上記合計無駄時間後のpHセンサ35の偏差出力V1の推定値(これは前述の第1実施形態における推定偏差出力VO2Fバーに対応する)の算出を行う。この場合、ファジー推論のファジールールは、例えば前述の実施形態のものと同一でよく、また、後件部のパラメータ(pHセンサ35の偏差出力V1の推定値)に係わるメンバーシップ関数は、前述の実施形態と同様にN(負)、Z(ゼロ)、P(正)の三種類の棒状関数により設定することができる。また、前件部のパラメータ(前述の第1実施形態におけるファジー用線形関数σに相当する線形関数の値と、該偏差出力V1の値)に係わるメンバーシップ関数も、基本的には、N(負)、Z(ゼロ)、P(正)の三種類の三角形状、あるいは台形状の関数により設定することができる。これらのメンバーシップ関数の具体的な形状は、pHセンサ35の出力特性を考慮して、実験等を通じて設定すればよい。
【0368】
また、操作量生成手段40の合成器は、前述の実施形態と全く同様に、両推定器による推定値の重み付き合成により該推定値の合成値(これは、前述の実施形態における合成推定偏差出力VO2バーに相当する)を生成する。
【0369】
そして、操作量生成手段40のスライディングモード制御器は、上記合成値を用いて、前述の第1実施形態と全く同様の演算処理(適応スライディングモード制御の処理)を行うことにより、前記目標流量V2CMD(これは前述の実施形態における目標空燃比KCMDに対応する)の算出を行う。
【0370】
尚、前記弁制御手段41は、例えば前述の第1実施形態の大局的フィードバック制御部21と同様に、図示しないPID制御器あるいは適応制御器等により、流量センサ36の出力V2/OUT(検出流量)が前記目標流量V2CMDに一致するように流量制御弁33の動作をフィードバック制御する。
【0371】
このような本実施形態の装置によれば、プラント32に与えられるアルカリ液のpHや、該アルカリ液にプラント32内で混合する酸性液のpH、該酸性液の流量を把握せずとも、外乱の影響やプラント32の無駄時間、流量操作系の無駄時間の影響、さらには、pHセンサ35の出力状態によらずに、高い速応性で安定にpHセンサ35の出力V1/OUT、すなわちプラント32が生成する混合液のpHを所望のpHに制御することができる。
【0372】
尚、本実施形態のプラントの制御装置では、プラント32の無駄時間と流量操作系の無駄時間との両者の無駄時間の影響を補償するようにしたが、後者の無駄時間が前者の無駄時間に比して十分に小さい場合には、前記第2実施形態の場合と同様に、プラント32の無駄時間後のpHセンサ35の偏差出力V1の推定値を二つの推定器により求めるようにし、それを合成器で合成してなる合成値を用いて前記目標流量V2CMDをスライディングモード制御器により生成するようにしてもよい。
【0373】
また、本実施形態のプラントの制御装置では、前記空燃比制御装置の実施形態について説明した変形態様と同様の各種の変形態様が可能である。
【0374】
また、本実施形態のプラントの制御装置に関しては、例えばプラント32と流量制御弁33とを合わせた系を改めてプラントとみなして、制御システムを構築するようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の装置のシステム構成図。
【図2】図1の装置に備えたセンサの出力特性を示す線図。
【図3】図1の装置の操作量生成手段の構成を示すブロック図。
【図4】図3のスライディングモード制御器が実行するスライディングモード制御を説明するための線図。
【図5】図3の第2推定器の処理を説明するための線図。
【図6】図3の第2推定器の処理(ファジー推論処理)に用いるメンバーシップ関数を示す線図。
【図7】図3の第2推定器の処理(ファジー推論処理)に用いるファジールールの説明図。
【図8】図3の合成器の処理を説明するための線図。
【図9】図3の合成器の処理を説明するための線図。
【図10】図1の機関制御手段の構成を示すブロック図。
【図11】図10の要部の構成を示すブロック図。
【図12】図1の機関制御手段の処理を示すフローチャート。
【図13】図12のフローチャートのサブルーチン処理を示すフローチャート。
【図14】図1の操作量生成手段の処理を示すフローチャート。
【図15】図14のフローチャートのサブルーチン処理を示すフローチャート。
【図16】図14のフローチャートのサブルーチン処理を示すフローチャート。
【図17】図14のフローチャートのサブルーチン処理を示すフローチャート。
【図18】図14のフローチャートのサブルーチン処理を示すフローチャート。
【図19】本発明のプラントの制御装置の他の実施形態の装置のシステム構成図。
【符号の説明】
1…エンジン(内燃機関、アクチュエータ)、2…排気管(排気通路)、3…触媒装置、4…空燃比センサ、5…酸素濃度センサ(排ガスセンサ、検出手段)、7…操作量生成手段、8…機関制御手段(アクチュエータ制御手段)、11…同定器(同定手段)、12…第1推定器(第1推定手段)、13…第2推定器(第2推定手段)、14…合成器、15…スライディングモード制御器、E…排気系(プラント)、32…プラント、33…流量制御弁(アクチュエータ)、35…pHセンサ(検出手段)、40…操作量生成手段、41…弁制御手段(アクチュエータ制御手段)。

Claims (34)

  1. 所定の入力から所定の出力を生成するプラントと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該検出手段の出力を所定の目標値に収束させるように前記プラントへの入力を操作するための操作量を逐次生成する操作量生成手段とを備えたプラントの制御装置において、
    前記プラントが有する無駄時間後の前記検出手段の出力の推定値を表すデータを、少なくとも該検出手段の出力のデータを用いて互いに異なるアルゴリズムにより逐次生成する複数の推定手段を備え、
    前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を、前記検出手段の出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記検出手段の出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じて選択的に用いて、又は該複数の推定手段のデータがそれぞれ表す推定値を、前記検出手段の出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記検出手段の出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とするプラントの制御装置。
  2. 所定の入力から所定の出力を生成するプラントと、該プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該検出手段の出力を所定の目標値に収束させるように前記プラントへの入力を操作するための操作量を逐次生成する操作量生成手段と、該操作量に応じて前記アクチュエータの動作を制御して前記プラントへの入力を操作するアクチュエータ制御手段とを備えたプラントの制御装置において、
    前記プラントが有する無駄時間後と前記アクチュエータ制御手段及びアクチュエータから成る入力操作系の無駄時間とを合わせた合計無駄時間後の前記検出手段の出力の推定値を表すデータを、少なくとも該検出手段の出力のデータを用いて互いに異なるアルゴリズムにより逐次生成する複数の推定手段を備え、
    前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を、前記検出手段の出力の時系列データを変数成分とする所定の線形関数の値と前記検出手段の出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じて選択的に用いて、又は該複数の推定手段のデータがそれぞれ表す推定値を、前記検出手段の出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記検出手段の出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とするプラントの制御装置。
  3. 前記複数の推定手段は、前記プラントが前記入力から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記検出手段の出力を生成する系であるとして該プラントの挙動を表現すべくあらかじめ定めた該プラントのモデルに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなることを特徴とする請求項1記載のプラントの制御装置。
  4. 前記複数の推定手段は、前記プラントが前記入力から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記検出手段の出力を生成する系であるとして該プラントの挙動を表現すべくあらかじめ定めた該プラントのモデルと前記入力操作系が前記操作量から無駄時間要素を介して前記プラントへの入力を生成する系であるとして該入力操作系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該入力操作系のモデルとに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなることを特徴とする請求項2記載のプラントの制御装置。
  5. 前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータが表す推定値を重み付けして合成してなる合成推定値を求める手段を有し、各推定手段の表す推定値に係る重み係数を、前記所定の条件に応じて可変的に設定することにより、前記各推定手段の推定値を含む前記合成推定値を求め、その求めた合成推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラントの制御装置。
  6. 前記操作量生成手段は、適応制御の処理により前記操作量を生成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラントの制御装置。
  7. 前記操作量生成手段は、スライディングモード制御の処理により前記操作量を生成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のプラントの制御装置。
  8. 前記所定の線形関数は、前記スライディングモード制御の処理に用いる切換関数に応じて定められた線形関数であり、前記所定の条件は、前記所定の線形関数の値と記検出手段の出力のデータの現在値との組み合わせの条件であることを特徴とする請求項7記載のプラントの制御装置。
  9. 前記切換関数は、前記検出手段の出力と前記目標値との偏差の時系列データを変数成分とする線形な関数であり、前記所定の線形関数は、その変数成分に係る係数値を前記切換関数の変数成分に係る係数値と同一とした線形関数であることを特徴とする請求項8記載のプラントの制御装置。
  10. 前記組み合わせの条件は、前記線形関数の値及び前記検出手段の出力のデータの現在値の組み合わせが、その両値を座標成分とする座標平面上にあらかじめ定めた所定の領域に存するか否かの条件を含むことを特徴とする請求項8又は9記載のプラントの制御装置。
  11. 内燃機関の排気通路に設けた触媒装置の下流側に該触媒装置を通過した排ガス中の特定成分の濃度を検出すべく配置した排ガスセンサと、該排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を規定する操作量を逐次生成する操作量生成手段とを備えた内燃機関の空燃比制御装置において、
    前記触媒装置の上流側から下流側の前記排ガスセンサにかけての該触媒装置を含む排気系が有する無駄時間後の該排ガスセンサの出力の推定値を表すデータを、少なくとも該排ガスセンサの出力のデータを用いて互いに異なるアルゴリズムにより逐次生成する複数の推定手段を備え、
    前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を、前記排ガスセンサの出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記排ガスセンサの出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じて選択的に用いて、又は該複数の推定手段のデータがそれぞれ表す推定値を、前記排ガスセンサの出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記排ガスセンサの出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
  12. 前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータが表す推定値を重み付けして合成してなる合成推定値を求める手段を有し、各推定手段の推定値に係る重み係数を、前記所定の条件に応じて可変的に設定することにより、前記各推定手段の推定値を含めた前記合成推定値を求め、その求めた合成推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とする請求項11記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  13. 前記操作量生成手段は、適応制御の処理により前記操作量を生成することを特徴とする請求項11又は12記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  14. 前記操作量生成手段は、スライディングモード制御の処理により前記操作量を生成することを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  15. 前記所定の線形関数は、前記スライディングモード制御の処理に用いる切換関数に応じて定められた線形関数であり、前記所定の条件は、前記所定の線形関数の値と、前記排ガスセンサの出力のデータの現在値との組み合わせの条件であることを特徴とする請求項14記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  16. 前記切換関数は、前記排ガスセンサの出力と前記目標値との偏差の時系列データを変数成分とする線形な関数であり、前記所定の線形関数は、その変数成分に係る係数値を前記切換関数の変数成分に係る係数値と同一とした線形関数であることを特徴とする請求項15記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  17. 前記組み合わせの条件は、前記線形関数の値及び前記排ガスセンサの出力のデータの現在値の組み合わせが、その両値を座標成分とする座標平面上にあらかじめ定めた所定の領域に存するか否かの条件を含むことを特徴とする請求項15又は16記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  18. 前記排ガスセンサは酸素濃度センサであり、前記複数の推定手段は、前記排気系が前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記酸素濃度センサの出力を生成する系であるとして該排気系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該排気系のモデルに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなることを特徴とする請求項11〜17のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  19. 前記排ガスセンサは酸素濃度センサであり、前記複数の推定手段は、前記排気系が前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記酸素濃度センサの出力を生成する系であるとして該排気系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該排気系のモデルに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなり、前記第2推定手段のファジー推論のアルゴリズムは、前記酸素濃度センサの出力の時系列データを変数成分とすると共に前記スライディングモード制御の処理に用いる切換関数に応じて定められた所定の線形関数の値と、前記酸素濃度センサの出力のデータ値とを前記ファジー推論の前件部のパラメータとし、前記推定値を表すデータを該ファジー推論の後件部のパラメータとして生成するアルゴリズムであることを特徴とする請求項14記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  20. 前記排ガスセンサは酸素濃度センサであり、前記複数の推定手段は、前記排気系が前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記酸素濃度センサの出力を生成する系であるとして該排気系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該排気系のモデルに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなり、前記第2推定手段のファジー推論のアルゴリズムは、前記所定の線形関数の値と、前記酸素濃度センサの出力のデータ値とを前記ファジー推論の前件部のパラメータとし、前記推定値を表すデータを該ファジー推論の後件部のパラメータとして生成するアルゴリズムであることを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  21. 前記ファジー推論のアルゴリズムは、前記後件部のパラメータに係わるメンバーシップ関数として複数の棒状関数を用いて、min−max−重心法に基づき構築されたアルゴリズムであることを特徴とする請求項19又は20記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  22. 前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、該空燃比センサ及び前記酸素濃度センサの出力のデータを用いて前記排気系のモデルの設定すべきパラメータの値を逐次同定する同定手段とを備え、前記第1推定手段のアルゴリズムは、少なくとも前記酸素濃度センサ及び空燃比センサのそれぞれの出力のデータと前記同定手段により同定された前記排気系のモデルのパラメータとを用いて前記推定値を表すデータを生成するアルゴリズムであることを特徴とする請求項18〜21のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  23. 内燃機関の排気通路に設けた触媒装置の下流側に該触媒装置を通過した排ガス中の特定成分の濃度を検出すべく配置した排ガスセンサと、該排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を規定する操作量を逐次生成する操作量生成手段と、該操作量に応じて前記内燃機関で燃焼させる混合気の空燃比を操作する機関制御手段とを備えた内燃機関の空燃比制御装置において、
    前記触媒装置の上流側から下流側の前記排ガスセンサにかけての該触媒装置を含む排気系が有する無駄時間と前記機関制御手段及び内燃機関から成る空燃比操作系が有する無駄時間とを合わせた合計無駄時間後の該排ガスセンサの出力の推定値を表すデータを、少なくとも該排ガスセンサの出力のデータを用いて互いに異なるアルゴリズムにより逐次生成する複数の推定手段を備え、
    前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータのうちのいずれか一つのデータが表す推定値を、前記排ガスセンサの出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記排ガスセンサの出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じて選択的に用いて、又は該複数の推定手段のデータがそれぞれ表す推定値を、前記排ガスセンサの出力の時系列データを変数とする所定の線形関数の値と前記排ガスセンサの出力のデータの現在値とに基づく所定の条件に応じた形態で合成してなる推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
  24. 前記操作量生成手段は、前記複数の推定手段がそれぞれ生成したデータが表す推定値を重み付けして合成してなる合成推定値を求める手段を有し、各推定手段の推定値に係る重み係数を、前記所定の条件に応じて可変的に設定することにより、前記各推定手段の推定値を含めた前記合成推定値を求め、その求めた合成推定値を用いて前記操作量を生成することを特徴とする請求項23記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  25. 前記操作量生成手段は、適応制御の処理により前記操作量を生成することを特徴とする請求項23又は24記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  26. 前記操作量生成手段は、スライディングモード制御の処理により前記操作量を生成することを特徴とする請求項23〜25のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  27. 前記所定の線形関数は、前記スライディングモード制御の処理に用いる切換関数に応じて定められた線形関数であり、前記所定の条件は、前記所定の線形関数の値と、前記排ガスセンサの出力のデータの現在値との組み合わせの条件であることを特徴とする請求項26記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  28. 前記切換関数は、前記排ガスセンサの出力と前記目標値との偏差の時系列データを変数成分とする線形な関数であり、前記所定の線形関数は、その変数成分に係る係数値を前記切換関数の変数成分に係る係数値と同一とした線形関数であることを特徴とする請求項2 7記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  29. 前記組み合わせの条件は、前記線形関数の値及び前記排ガスセンサの出力のデータの現在値の組み合わせが、その両値を座標成分とする座標平面上にあらかじめ定めた所定の領域に存するか否かの条件を含むことを特徴とする請求項27又は28記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  30. 前記排ガスセンサは、酸素濃度センサであり、
    前記複数の推定手段は、前記排気系が前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記酸素濃度センサの出力を生成する系であるとして該排気系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該排気系のモデルと前記空燃比操作系が前記操作量から無駄時間要素を介して前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を生成する系であるとして該空燃比操作系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該空燃比操作系のモデルとに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなることを特徴とする請求項23〜29のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  31. 前記排ガスセンサは、酸素濃度センサであり、
    前記複数の推定手段は、前記排気系が前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記酸素濃度センサの出力を生成する系であるとして該排気系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該排気系のモデルと前記空燃比操作系が前記操作量から無駄時間要素を介して前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を生成する系であるとして該空燃比操作系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該空燃比操作系のモデルとに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなり、
    前記第2推定手段のファジー推論のアルゴリズムは、前記酸素濃度センサの出力の時系列データを変数成分とすると共に前記スライディングモード制御の処理に用いる切換関数に応じて定められた所定の線形関数の値と、前記酸素濃度センサの出力のデータ値とを前記ファジー推論の前件部のパラメータとし、前記推定値を表すデータを該ファジー推論の後件部のパラメータとして生成するアルゴリズムであることを特徴とする請求項26記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  32. 前記排ガスセンサは、酸素濃度センサであり、
    前記複数の推定手段は、前記排気系が前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比から応答遅れ要素及び無駄時間要素を介して前記酸素濃度センサの出力を生成する系であるとして該排気系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該排気系のモデルと前記空燃比操作系が前記操作量から無駄時間要素を介して前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を生成する系であるとして該空燃比操作系の挙動を表現すべくあらかじめ定めた該空燃比操作系のモデルとに基づいて構築されたアルゴリズムにより前記推定値を表すデータを生成する第1推定手段と、ファジー推論のアルゴリズムより前記推定値を表すデータを生成する第2推定手段とからなり、
    前記第2推定手段のファジー推論のアルゴリズムは、前記所定の線形関数の値と、前記酸素濃度センサの出力のデータ値とを前記ファジー推論の前件部のパラメータとし、前記推定値を表すデータを該ファジー推論の後件部のパラメータとして生成するアルゴリズムであることを特徴とする請求項27〜29のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  33. 前記ファジー推論のアルゴリズムは、前記後件部のパラメータに係わるメンバーシップ関数として複数の棒状関数を用いて、min−max−重心法に基づき構築されたアルゴリズムであることを特徴とする請求項31又は32記載の内燃機関の空燃比制御装置。
  34. 前記触媒装置に進入する排ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、該空燃比センサ及び前記酸素濃度センサの出力のデータを用いて前記排気系のモデルの設定すべきパラメータの値を逐次同定する同定手段とを備え、前記第1推定手段のアルゴリズムは、少なくとも前記酸素濃度センサ及び空燃比センサのそれぞれの出力のデータと前記同定手段により同定された前記排気系のモデルのパラメータとを用いて前記推定値を表すデータを生成するアルゴリズムであることを特徴とする請求項30〜33のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
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