JP3696570B2 - プラントの制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラントの制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば自動車等、内燃機関の排ガスを三元触媒等の触媒装置により浄化して放出するシステムでは、触媒装置に進入する排ガスの空燃比を、触媒装置の排ガス浄化能力を良好に発揮させるように制御することが環境保護の観点から望まれている。
【0003】
このような制御を行うものとしては、従来、例えば特開平5−321721号公報に見られるように、触媒装置を通過した排ガスの酸素濃度を触媒装置の下流側に配置した排ガスセンサ(酸素濃度センサ)により検出して、その検出値が所定の適正値になるようにPID制御を用いて触媒装置の上流側の排ガスの目標空燃比を決定し、その目標空燃比に従って内燃機関を制御することで、触媒装置に進入する排ガスの空燃比を、触媒装置の良好な浄化性能を発揮できる所定のウィンドウ内に収めるようにしたものが本願出願人により提案されている。
【0004】
一方、本願発明者等のさらなる検討によって、内燃機関の運転状態や、触媒装置の経時劣化等によらずに、触媒装置の浄化能力を可能な限り最大限に発揮させるためには、触媒装置を通過した排ガス中の酸素濃度等の特定成分の濃度を高精度で安定して所定の適正値(一定値)に整定させる必要があることが判明した。そして、前述のようにPID制御を用いた従来の制御手法では、外乱や、触媒装置を含む排気系に存する無駄時間等の影響で上記のように触媒装置を通過した排ガス中の酸素濃度等を安定して高精度で所定の適正値(一定値)に整定させることが困難であることが判明した。
【0005】
このため、本願発明者等は、触媒装置の上流側から下流側にかけての排気系を連続系(詳しくは連続時間系)でモデル化し、そのモデルに基づいて触媒装置を通過した排ガス中の酸素濃度等が所定の適正値になるように触媒装置に進入する排ガスの空燃比を制御するシステムを先に考案した(例えば特願平9−67591号、特願平8−84048号参照)。
【0006】
上記のようなモデル化によって、触媒装置を含む排気系に存する無駄時間の影響を補償(排除)したり、外乱に対する制御の安定性がPID制御等に比して高い制御手法(例えばスライディングモード制御)を用いた制御システムの構築が可能となり、ひいては、排気系の空燃比制御の精度や安定性を高めることが可能となる。
【0007】
このような制御システムでは、触媒装置の下流側の排ガスセンサの出力を所定の適正値に整定させる制御をより安定して行うことが望まれる。このことは、内燃機関の排気系の空燃比制御に限らず、任意のプラントの入力を、そのプラントの出力が所定の目標値になるように制御する場合でも同様である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる背景に鑑み、プラントの出力が所定の目標値になるようにプラントへの入力を制御する場合に、プラントの出力の所定の目標値への制御を安定して行うことができるプラントの制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
まず、本発明のプラントの制御装置を説明する。本発明のプラントの制御装置の第1の態様は、前記の目的を達成するために、プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記検出手段の出力が所定の目標値になるようにスライディングモード制御により前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かを判断する手段とを備え、前記操作量決定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含むスライディングモード制御の所定の演算式により前記操作量を決定する手段であり、前記同定処理が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に設定して、その所定値のパラメータの値により規定される前記係数を含む前記所定の演算式により前記操作量を決定するようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
かかる本発明の第1の態様によれば、前記同定手段によって、前記モデルの設定すべきパラメータを、検出手段の出力を示すデータを用いて同定する。そして、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かが判断される。このとき、同定手段の同定処理が安定であると判断されるときには、その同定したパラメータを用いて、前記検出手段の出力が前記目標値になるようにプラントへの入力、すなわちアクチュエータの出力を規定する操作量を前記操作量決定手段により決定する。具体的には、同定されたモデルのパラメータの値により規定される係数を含むスライディングモード制御の所定の演算式により前記操作量を決定する。これにより、該操作量は実際のプラントに整合したものとなり、検出手段の出力の目標値への制御を安定して精度よく行うことができる。また、同定手段の同定処理が不安定と判断されたときには、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値のパラメータを用いて前記操作量を決定する。具体的には、その所定値のパラメータの値により規定される前記係数を含む前記所定の演算式により前記操作量を決定する。これにより、パラメータの不適正な同定値を用いて操作量を決定してしまうような事態を回避できる。従って、本発明の第1の態様によれば、検出手段の出力の所定の目標値への制御を安定して行うことができる。
【0011】
また、本発明のプラントの制御装置の第2の態様は、プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて逐次更新しつつ同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記検出手段の出力が所定の目標値になるようにスライディングモード制御により前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かを判断する手段とを備え、前記操作量決定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含むスライディングモード制御の所定の演算式により前記操作量を決定する手段であり、前記同定手段は、前記同定処理が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に初期化して同定処理を行うことを特徴とする。
【0012】
かかる本発明の第2の態様によれば、前記同定手段によって、前記モデルの設定すべきパラメータを、検出手段の出力を示すデータを用いて逐次更新しつつ同定する。そして、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かが判断される。このとき、同定手段の同定処理が安定であると判断されるときには、前記第1の態様の発明と同様に、その同定したパラメータを用いて、前記第1の検出手段の出力が前記目標値になるようにプラントへの入力を規定する操作量を前記操作量決定手段により決定する。具体的には、同定されたモデルのパラメータの値により規定される係数を含むスライディングモード制御の所定の演算式により前記操作量を決定する。これにより、該操作量が実際のプラントに整合したものとなり、検出手段の出力の目標値への制御を安定して精度よく行うことができる。また、同定手段の同定処理が不安定と判断されたときには、同定手段は、モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に初期化して同定処理を行う。これにより、パラメータの不適正な同定値を用いて操作量を決定してしまうような事態を回避できる。従って、本発明の第2の態様によれば、検出手段の出力の所定の目標値への制御を安定して行うことができる。
【0013】
また、本発明のプラントの第3の態様は、プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記プラントが有する無駄時間後の検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する推定手段と、該推定手段により生成されたデータにより示される検出手段の出力の推定値を用いて該検出手段の出力が所定の目標値になるように前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かを判断する手段とを備え、前記推定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含む推定用の所定の演算式により前記検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する手段であり、前記同定処理が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に設定して、その所定値のパラメータの値により規定される前記係数を含む前記所定の演算式により前記検出手段の出力の推定値を示すデータを生成することを特徴とするものである。
【0014】
かかる本発明の第3の態様によれば、前記同定手段によって、前記モデルの設定すべきパラメータを検出手段の出力を示すデータを用いて同定する。そして、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かが判断される。このとき、同定手段の同定処理が安定であると判断されるときには、その同定したパラメータを用いて、プラントが有する無駄時間後の検出手段の出力の推定値を示すデータを前記推定手段により推定する。具体的には、同定されたモデルのパラメータの値により規定される係数を含む推定用の所定の演算式により前記検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する。これにより、その推定値のデータを実際のプラントに則して求めることができる。さらに、この推定手段により生成されたデータにより示される検出手段の出力の推定値を用いて、検出手段の出力が前記目標値になるようにプラントへの入力、すなわちアクチュエータの出力を規定する操作量を前記操作量決定手段により決定することで、プラントの無駄時間の影響を排除して該操作量を決定できる。また、同定手段の同定処理が不安定と判断されたときには、推定手段は、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値のパラメータを用いて検出手段の出力の推定値を表すデータを生成する。具体的には、その所定値のパラメータの値により規定される前記係数を含む前記所定の演算式により前記検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する。これにより、パラメータの不適正な同定値を用いて検出手段の出力の推定値を示すデータを生成してしまうような事態を回避できる。従って、本発明の第3の態様によれば、検出手段の出力の所定の目標値への制御を安定して行うことができる。
【0015】
また、本発明の第4の態様は、プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて逐次更新しつつ同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記プラントが有する無駄時間後の検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する推定手段と、該推定手段により生成されたデータにより示される検出手段の出力の推定値を用いて該検出手段の出力が所定の目標値になるように前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かを判断する手段とを備え、前記推定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含む推定用の所定の演算式により前記検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する手段であり、前記同定手段は、前記同定処理が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に初期化して同定処理を行うことを特徴とするものである。
【0016】
かかる本発明の第4の態様によれば、前記同定手段によって、前記モデルの設定すべきパラメータを検出手段の出力を示すデータを用いて逐次更新しつつ同定する。そして、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かが判断される。このとき、同定手段の同定処理が安定であると判断されるときには、前記第3の態様の発明と同様に、その同定したパラメータを用いて、プラントが有する無駄時間後の検出手段の出力の推定値を示すデータを前記推定手段により推定する。具体的には、同定されたモデルのパラメータの値により規定される係数を含む推定用の所定の演算式により前記検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する。これにより、その推定値のデータを実際のプラントに則して求めることができる。さらに、第3の態様の発明と同様に、検出手段の出力の推定値を用いて、検出手段の出力が前記目標値になるようにプラントへの入力を規定する操作量を前記操作量決定手段により決定することで、プラントの無駄時間の影響を排除して該操作量を決定できる。また、同定手段の同定処理が不安定と判断されたときには、同定手段は、モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に初期化して同定処理を行う。これにより、パラメータの不適正な同定値を用いて検出手段の出力の推定値を示すデータを生成してしまうような事態を回避できる。従って、本発明の第4の態様によれば、検出手段の出力の所定の目標値への制御を安定して行うことができる。
【0017】
また、本発明の第5の態様は、プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて逐次更新しつつ同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記検出手段の出力が所定の目標値になるようにスライディングモード制御により前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記スライディングモード制御の安定性を判断する手段とを備え、前記操作量決定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含むスライディングモード制御の所定の演算式により前記操作量を決定する手段であり、前記スライディングモード制御の安定性を判断する手段は、該スライディングモード制御用の超平面を規定する線形関数の値に関するリアプノフ関数の時間微分関数の値が所定の判定値よりも大きいか否か、または、該線形関数の値が所定範囲内にあるか否かにより、該スライディングモード制御が安定であるか否かを判断する手段であり、前記同定手段は、前記スライディングモード制御が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に初期化して同定処理を行うことを特徴とするものである。
【0018】
かかる本発明の第5の態様によれば、前記同定手段によって、前記モデルの設定すべきパラメータを検出手段の出力を示すデータを用いて逐次更新しつつ同定する。そして、前記スライディングモード制御用の超平面を規定する線形関数の値に関するリアプノフ関数の時間微分関数の値が所定の判定値よりも大きいか否か、または、該線形関数の値が所定範囲内にあるか否かにより、該スライディングモード制御が安定であるか否かが判断される。このとき、前記スライディングモード制御が安定であると判断されるときには、その同定されたパラメータを用いて、検出手段の出力が前記目標値になるようにプラントへの入力を規定する操作量が前記操作量決定手段により決定される。具体的には、同定されたモデルのパラメータの値により規定される係数を含むスライディングモード制御の所定の演算式により前記操作量を決定する。また、前記スライディングモード制御が不安定と判断されたときには、同定手段は、モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に初期化して同定処理を行う。これにより、パラメータの不適正な同定値を用いて、出力を不安定化するような操作量が決定されるような事態を回避できる。従って、本発明の第5の態様によれば、検出手段の出力の所定の目標値への制御を安定して行うことができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施形態を図1乃至図23を参照して説明する。
【0022】
図1は本実施形態の制御装置の全体構成をブロック図で表したものであり、同図1において、1は例えば4気筒のエンジン(内燃機関)である。このエンジン1の各気筒毎に生成される排ガスは、エンジン1の近傍で共通の排気管2に集合され、該排気管2を介して大気中に放出される。そして、排気管2には、排ガスを浄化するために、三元触媒を用いた二つの触媒装置3,4が該排気管2の上流側から順に介装されている。
【0023】
尚、下流側の触媒装置4はこれを省略してもよい。また、本発明のプラントの制御装置に対応させると、前記エンジン1はアクチュエータに相当するものである。
【0024】
本実施形態の制御装置は、エンジン1の排気系の空燃比を制御するもので、触媒装置3の上流側(より詳しくはエンジン1の各気筒毎の排ガスの集合箇所)で排気管2に設けられた第2排ガスセンサ(第2検出手段)としての広域空燃比センサ5と、触媒装置3の下流側(触媒装置4の上流側)で排気管2に設けられた第1排ガスセンサ(第1検出手段)としてのO2センサ(酸素濃度センサ)6と、これらのセンサ5,6の出力等に基づき後述の制御処理を行う制御ユニット7とにより構成されている。尚、制御ユニット7には、前記広域空燃比センサ5やO2センサ6の出力の他に、エンジン1の動作状態を検出するための図示しない回転数センサや吸気圧センサ、冷却水温センサ等、各種のセンサの検出信号が与えられるようになっている。
【0025】
広域空燃比センサ5は、O2センサを用いて構成されたものであり、触媒装置3に進入するエンジン1の排ガスの空燃比(これは触媒装置3に進入する排ガスの酸素濃度により示され、エンジン1内で燃焼させる混合気の空燃比に相当する)に応じたレベルの出力を生成する。この場合、広域空燃比センサ5(以下、LAFセンサ5と称する)は、該センサ5を構成するO2センサの出力から図示しないリニアライザ等の検出回路によって、触媒装置3に進入する排ガスの空燃比の広範囲にわたって、それに比例したレベルの出力KACT、すなわち、該排ガスの空燃比の検出値を示す出力KACTを生成するものである。このようなLAFセンサ5は本願出願人が特開平4−369471号公報にて詳細に開示しているので、ここではさらなる説明を省略する。
【0026】
また、触媒装置3の下流側のO2センサ6は、触媒装置3を通過した排ガス中の酸素濃度に応じたレベルの出力VO2/OUT、すなわち、該排ガス中の酸素濃度の検出値を示す出力VO2/OUTを通常的なO2センサと同様に生成する。このO2センサ6の出力VO2/OUTは、図2に示すように、触媒装置3を通過した排ガスの空燃比(酸素濃度)が理論空燃比近傍の範囲Δに存するような状態で、該排ガスの酸素濃度にほぼ比例した高感度な変化を生じるものとなる。
【0027】
制御ユニット7はマイクロコンピュータを用いて構成されたものであり、その主要な機能的構成として、エンジン1への基本燃料噴射量Timを求める基本燃料噴射量算出部8と、基本燃料噴射量Timを補正するための第1補正係数KTOTAL及び第2補正係数KCMDMをそれぞれ求める第1補正係数算出部9及び第2補正算出部10とを具備する。
【0028】
前記基本燃料噴射量算出部8は、エンジン1の回転数NEと吸気圧PBとから、それらにより規定されるエンジン1の基準の燃料噴射量をあらかじめ設定されたマップを用いて求め、その基準の燃料噴射量をエンジン1の図示しないスロットル弁の有効開口面積に応じて補正することで基本燃料噴射量Timを算出するものである。
【0029】
また、第1補正係数算出部9が求める第1補正係数KTOTALは、エンジン1の排気還流率(エンジン1の吸入空気中に含まれる排気ガスの割合)や、エンジン1の図示しないキャニスタのパージ時にエンジン1に供給される燃料のパージ量、エンジン1の冷却水温、吸気温等を考慮して前記基本燃料噴射量Timを補正するためのものである。
【0030】
また、第2補正係数算出部10が求める第2補正係数KCMDMは、後述する空燃比操作量決定部13によって決定される目標空燃比KCMDに対応してエンジン1へ流入する燃料の冷却効果による吸入空気の充填効率を考慮して基本燃料噴射量Timを補正するためのものである。
【0031】
そして、これらの第1補正係数KTOTAL及び第2補正係数KCMDMによる基本燃料噴射量Timの補正は、第1補正係数KTOTAL及び第2補正係数KCMDM を基本燃料噴射量Timに乗算することで行われ、この補正によりエンジン1の要求燃料噴射量Tcylが得られる。
【0032】
尚、前記基本燃料噴射量Timや、第1補正係数KTO TAL、第2補正係数KCMDMのより具体的な算出手法は、特開平5−79374号公報等に本願出願人が開示しているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0033】
制御ユニット7は、上記の機能的構成の他、LAFセンサ5の出力KACTと所定の基準値FLAF/BASE(本実施形態ではこの基準値FLAF/BASEは空燃比換算で約「1」(一定値)とされている)との偏差kact(=KACT−FLAF/BASE)を求める減算処理部11と、O2センサ6の出力VO2/OUTとその目標値VO2/TARGET(本実施形態ではこの目標値VO2 /TARGETは触媒装置3の最適な浄化性能が得られる所定の一定値とされている)との偏差VO2(=VO2/OUT−VO2/TARGET)を求める減算処理部12と、これらの偏差kact,VO2のデータをそれぞれLAFセンサ5の出力及びO2センサ6の出力を示すデータとして用い(以下、偏差kact,VO2をそれぞれLAFセンサ5の偏差出力kact及びO2センサ6の偏差出力VO2と称する)、LAFセンサ5の箇所の排ガスの目標空燃比KCMDを触媒装置3に進入するエンジン1の排ガスの空燃比を規定する操作量として決定する空燃比操作量決定部13と、この目標空燃比KCMDにLAFセンサ5の出力KACT(触媒装置3に進入する排ガスの検出空燃比)を一致(収束)させるようにエンジン1の燃料噴射量(燃料供給量)をフィードバック制御するフィードバック制御部14とを備えている。
【0034】
前記空燃比操作量決定部13は、その詳細は後述するが、排気管2のLAFセンサ5の箇所からO2センサ6の箇所にかけての触媒装置3を含む排気系(図1で参照符号Eを付した部分)を制御対象とし、その対象排気系E(プラント)に存する無駄時間や該対象排気系Eの挙動変化等を考慮しつつ、スライディングモード制御(より詳しくは適応スライディングモード制御)を用いてO2センサ6の出力VO2/OUTをその目標値VO2/TARGETに整定させるように(O2センサ6の偏差出力VO2を「0」に収束させるように)、LAFセンサ5の箇所の目標空燃比KCMDを逐次決定するものである。
【0035】
また、フィードバック制御部14は、本実施形態では、エンジン1の各気筒への全体的な燃料噴射量をフィードバック制御する大局的フィードバック制御部15と、エンジン1の各気筒毎の燃料噴射量をフィードバック制御する局所的フィードバック制御部16とにより構成されている。
【0036】
前記大局的フィードバック制御部15は、LAFセンサ5の出力KACTが前記目標空燃比KCMDに収束するように、前記要求燃料噴射量Tcylを補正する(要求燃料噴射量Tcylに乗算する)フィードバック補正係数KFBを逐次求めるものであり、LAFセンサ5の出力KACTと目標空燃比KCMDとの偏差に応じて周知のPID制御を用いて前記フィードバック補正係数KFBとしてのフィードバック操作量KLAFを生成するPID制御器17と、LAFセンサ5の出力KACTと目標空燃比KCMDとからエンジン1の運転状態の変化や特性変化等を考慮して前記フィードバック補正係数KFBを規定するフィードバック操作量KSTRを適応的に求める漸化式形式の制御器である適応制御器18(図ではSTRと称している)とをそれぞれ独立的に具備している。
【0037】
ここで、本実施形態では、前記PID制御器17が生成するフィードバック操作量KLAFは、LAFセンサ5の出力KACT(検出空燃比)が目標空燃比KCMDに一致している状態で「1」となり、該操作量KLAFをそのまま前記フィードバック補正係数KFBとして使用できるようになっている。一方、適応制御器18が生成するフィードバック操作量KSTRはLAFセンサ5の出力KACTが目標空燃比KCMDに一致する状態で「目標空燃比KCMD」となるもので、該フィードバック操作量KSTRを除算処理部19で目標空燃比KCMDにより除算してなるフィードバック操作量kstr(=KSTR/KCMD)が前記フィードバック補正係数KFBとして使用できるようになっている。
【0038】
そして、大局的フィードバック制御部15は、PID制御器17により生成されるフィードバック操作量KLAFと、適応制御器18が生成するフィードバック操作量KSTRを目標空燃比KCMDにより除算してなるフィードバック操作量kstrとを切換部20で適宜、択一的に選択して、いずれか一方のフィードバック操作量KLAF又はkstrを前記フィードバック補正係数KFBとして使用し、該補正係数KFBを前記要求燃料噴射量Tcylに乗算することにより該要求燃料噴射量Tcylを補正する。尚、かかる大局的フィードバック制御部15(特に適応制御器18)については後にさらに詳細に説明する。
【0039】
また、前記局所的フィードバック制御部16は、LAFセンサ5の出力KACTから各気筒毎の実空燃比#nA/F(n=1,2,3,4)を推定するオブザーバ21と、このオブザーバ21により推定された各気筒毎の実空燃比#nA/Fから各気筒毎の空燃比のばらつきを解消するよう、PID制御を用いて各気筒毎の燃料噴射量のフィードバック補正係数#nKLAFをそれぞれ求める複数(気筒数個)のPID制御器22とを具備する。
【0040】
ここで、オブザーバ21は、それを簡単に説明すると、各気筒毎の実空燃比#nA/Fの推定を次のように行うものである。すなわち、エンジン1からLAFセンサ5の箇所(各気筒毎の排ガスの集合部)にかけてのシステムを、各気筒毎の実空燃比#nA/FからLAFセンサ5で検出される排ガスの空燃比を生成するシステムと考え、これを、LAFセンサ5の検出応答遅れ(例えば一次遅れ)や、各気筒毎の排ガスの集合部における空燃比に対する各気筒毎の空燃比の時間的寄与度を考慮してモデル化する。そして、そのモデルの基で、LAFセンサ5の出力KACT(検出空燃比)から、逆算的に各気筒毎の実空燃比#nA/Fを推定する。
【0041】
尚、このようなオブザーバ21は、本願出願人が例えば特開平7−83094号公報に詳細に開示しているので、ここでは、さらなる説明を省略する。
【0042】
また、局所的フィードバック制御部16の各PID制御器22は、LAFセンサ5の出力KACTを、前回の制御サイクルで各PID制御器22により求められたフィードバック補正係数#nKLAFの全気筒についての平均値により除算してなる値を各気筒の空燃比の目標値として、その目標値とオブザーバ21により求められた各気筒毎の実空燃比#nA/Fとの偏差が解消するように、今回の制御サイクルにおける、各気筒毎のフィードバック補正係数#nKLAFを求める。
【0043】
そして、局所的フィードバック制御部16は、前記要求燃料噴射量Tcylに大局的フィードバック制御部15のフィードバック補正係数KFBを乗算してなる値に、各気筒毎のフィードバック補正係数#nKLAFを乗算することで、各気筒の出力燃料噴射量#nTout(n=1,2,3,4)を求める。
【0044】
このようにして求められる各気筒の出力燃料噴射量#nToutは、制御ユニット7に備えた各気筒毎の付着補正部23により吸気管の壁面付着を考慮した補正が各気筒毎になされた後、エンジン1の図示しない燃料噴射装置に与えられ、その付着補正がなされた出力燃料噴射量#nToutで、エンジン1の各気筒への燃料噴射が行われるようになっている。
【0045】
尚、上記付着補正については、本願出願人が例えば特開平8−21273号公報に詳細に開示しているので、ここではさらなる説明を省略する。また、図1において、参照符号24を付したセンサ出力選択処理部は、前記オブザーバ21による各気筒毎の実空燃比#nA/Fの推定に適したLAFセンサ5の出力KACTをエンジン1の運転状態に応じて選択するもので、これについては、本願出願人が特開平7−259488号公報にて詳細に開示しているので、ここではさらなる説明を省略する。
【0046】
次に、前記空燃比操作量決定部13を詳細に説明する。
【0047】
前述の如く、空燃比操作量決定部13は、前記対象排気系Eに存する無駄時間や該排気系Aの挙動変化等を考慮しつつ、適応スライディングモード制御を用いてO2センサ6の出力VO2/OUTをその目標値VO2/TARGETに整定させるようにLAFセンサ5の箇所の排ガスの目標空燃比KCMDを逐次決定するものである。そして、このような制御処理を行うために、本実施形態では、あらかじめ前記対象排気系Eを、前記LAFセンサ5の出力KACT(触媒装置3に進入する排ガスの空燃比)から無駄時間要素及び応答遅れ要素を介してO2センサ6の出力VO2/OUT(触媒装置3を通過した排ガス中の酸素濃度)を生成するプラントと見なし、それを離散系でモデル化している。
【0048】
この場合、本実施形態では、空燃比操作量決定部13による処理の簡素化を図るために、LAFセンサ5の出力KACT及びO2センサ6の出力VO2/OUTの代わりに、LAFセンサ5の前記偏差出力kact(=KACT−FLAF/BASE )とO2センサ6の前記偏差出力VO2(=VO2/OUT−VO2/TARGET)とを用いて、対象排気系Eの離散系モデルを次式(1)により表す。
【0049】
【数1】
【0050】
この式(1)は対象排気系EがLAFセンサ5の偏差出力kactから、無駄時間要素及び応答遅れ要素を介してO2センサ6の偏差出力VO2を生成するプラントであるとみなして、該対象排気系Eを離散系でモデル化してなるもの(無駄時間を有する自己回帰モデル)であり、上式(1)において、「k」は離散時間的な制御サイクルの番数を示し、「d」は対象排気系Eの無駄時間を制御サイクル数で表したものである。この場合、本実施形態では、対象排気系Eの無駄時間は、例えば制御サイクルの周期を30〜100msとして、d制御サイクル分の時間(d=3〜10)とされている。また、上式(1)の右辺第1項及び第2項はそれぞれ対象排気系Eの応答遅れ要素に対応するもので、第1項は1次目の自己回帰項、第2項は2次目の自己回帰項である。そして、「a1」、「a2」はそれぞれ1次目の自己回帰項、2次目の自己回帰項のゲイン係数である。さらに、上式(1)の右辺第3項は対象排気系Eの無駄時間要素に対応するもので、「b1」はその無駄時間要素に係わるゲイン係数である。これらのゲイン係数a1,a2,b1は離散系モデルを規定するパラメータである。
【0051】
本実施形態における前記空燃比操作量決定部13は、式(1)により表される離散系モデルに基づき、所定(一定)の制御サイクルで前述のような制御処理を行うもので、その機能的構成は、図3に示すように大別される。
【0052】
すなわち、空燃比操作量決定部13は、LAFセンサ5の偏差出力kact及びO2センサ6の偏差出力VO2のデータから、前記離散系モデルの設定すべきパラメータである前記ゲイン係数a1,a2,b1の値を制御サイクル毎に逐次同定する同定器25と、LAFセンサ5の偏差出力kact及びO2センサ6の偏差出力VO2のデータから、前記同定器25により同定された前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定値a1ハット,a2ハット,b1ハット(以下、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットという)を用いて対象排気系Eの無駄時間d後のO2センサ6の偏差出力VO2の推定値VO2バー(以下、推定偏差出力VO2バーという)を制御サイクル毎に逐次求める推定器26と、該推定器26により求められたO2センサ6の推定偏差出力VO2バーから、前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを用いて適応スライディングモード制御によりLAFセンサ5の箇所の排ガス(触媒装置3に進入する排ガス)の目標空燃比KCMDを制御サイクル毎に逐次決定するスライディングモード制御器27とにより構成されている。
【0053】
これらの同定器25、推定器26及びスライディングモード制御器27による演算処理のアルゴリズムは前記離散系モデルに基づいて以下のように構築されている。
【0054】
まず、前記同定器25に関し、前記離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1に対応する実際の対象排気系Eのゲイン係数は一般に該対象排気系Eの挙動状態や経時的な特性変化等によって変化する。従って、前記離散系モデルの実際の対象排気系Eに対するモデル化誤差を極力少なくして該離散系モデルの精度を高めるためには、離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1を実際の対象排気系Eの挙動状態等に則して適宜、リアルタイムで同定することが好ましい。
【0055】
前記同定器25は、上記のように離散系モデルのモデル化誤差を極力小さくするために、前記ゲイン係数a1,a2,b1をリアルタイムで逐次同定するものであり、その同定処理は次のように行われる。
【0056】
すなわち、同定器25は、所定の制御サイクル毎に、まず、今現在設定されている離散系モデルの同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハット、すなわち前回の制御サイクルで決定した同定ゲイン係数a1ハット(k-1),a2ハット(k-1),b1ハット(k-1)と、LAFセンサ5の偏差出力kact及びO2センサ6の偏差出力VO2の過去に得られたデータとを用いて、次式(2)により今現在設定されている離散系モデル上でのO2センサ6の今現在の偏差出力VO2の同定値VO2ハット(以下、同定偏差出力VO2ハットという)を求める。
【0057】
【数2】
【0058】
尚、この式(2)は、式(1)を1制御サイクル分、過去側にシフトし、ゲイン係数a1,a 2,b1を同定ゲイン係数a1ハット(k-1),a2ハット(k-1),b1ハット(k-1)で置き換えたものである。また、式(2)の第3項で用いる「d」は、対象排気系Eの無駄時間の設定値(より詳しくは無駄時間の設定値を制御サイクル数で表したもの)であり、その設定値は対象排気系Eの実際の無駄時間と等しいか、もしくはそれよりも若干長い時間になるように設定されている。
【0059】
ここで、次式(3),(4)で定義されるベクトルΘ及びξを導入すると(式(3),(4)中の添え字「T」は転置を意味する。以下同様。)、
【0060】
【数3】
【0061】
【数4】
【0062】
前記式(2)は、次式(5)により表される。
【0063】
【数5】
【0064】
さらに同定器25は、前記式(2)あるいは式(5)により求められるO2センサ6の同定偏差出力VO2ハットと今現在のO2センサ6の偏差出力VO2との偏差id/eを離散系モデルの実際の対象排気系Eに対するモデル化誤差を表すものとして次式(6)により求める(以下、偏差id/eを同定誤差id/eという)。
【0065】
【数6】
【0066】
そして、同定器25は、上記同定誤差id/eを最小にするように新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハット、換言すれば、これらの同定ゲイン係数を要素とする新たな前記ベクトルΘ(k)(以下、このベクトルを同定ゲイン係数ベクトルΘという)を求めるもので、その算出を、次式(7)により行う。すなわち、同定器25は、前回の制御サイクルで決定した同定ゲイン係数a1ハット(k-1),a2ハット(k-1),b1ハット(k-1)を、同定誤差id/eに比例させた量だけ変化させることで新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを求める。
【0067】
【数7】
【0068】
ここで、式(7)中の「Kθ」は次式(8)により決定される三次のベクトル(各同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの同定誤差id/eに応じた変化度合いを規定するゲイン係数ベクトル)である。
【0069】
【数8】
【0070】
また、上式(8)中の「P」は次式(9)の漸化式により決定される三次の正方行列である。
【0071】
【数9】
【0072】
尚、式(9)中の「λ1」、「λ2」は0<λ1≦1及び0≦λ2<2の条件を満たすように設定され、また、「P」の初期値P(0)は、その各対角成分を正の数とする対角行列である。
【0073】
この場合、式(9)中の「λ1」、「λ2」の設定の仕方によって、固定ゲイン法、漸減ゲイン法、重み付き最小二乗法、最小二乗法、固定トレース法等、各種の具体的なアルゴリズムが構成され、本実施形態では、例えば最小二乗法(この場合、λ1=λ2=1)を採用している。
【0074】
本実施形態における同定器25は基本的には前述のようなアルゴリズム(演算処理)によって、前記同定誤差id/eを最小化するように離散系モデルの前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを制御サイクル毎に逐次求めるもので、このような処理によって、実際の対象排気系Eに適合した同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットが逐次得られる。
【0075】
尚、本実施形態における同定器25は、前記同定誤差id/eの算出に際して、O2センサ6の前記同定偏差出力VO2ハットとO2センサ6の偏差出力VO2とにフィルタリング処理を施したり、ゲイン係数a1,a2,b1の同定(同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの更新)を対象排気系Eの特定の挙動状態において行ったりするのであるが、これについては後述する。
【0076】
次に、前記推定器26は、後に詳細を説明するスライディングモード制御器27による目標空燃比KCMDの決定処理に際しての対象排気系Eの無駄時間dの影響を補償するために、該無駄時間d後のO2センサ6の偏差出力VO2の推定値である前記推定偏差出力VO2バーを制御サイクル毎に逐次求めるものであり、その推定処理は次のように行われる。
【0077】
まず、前記式(1)で表される離散系モデルにおいて、次式(10)により定義されるベクトルXを導入すると、
【0078】
【数10】
【0079】
式(1)は次式(11)に書き換えられる。
【0080】
【数11】
【0081】
ここで、式(11)の漸化式を繰り返し用いると、無駄時間d後のX(k+d)は、式(11)中で定義した行列A及びベクトルBやLAFセンサ5の偏差出力kactの時系列データk act(k-j)(j=1,2, d)を用いて、次式(12)により表される。
【0082】
【数12】
【0083】
この場合、式(12)の左辺の第1行成分が無駄時間d後のO2センサ6の偏差出力VO2(k+d)であるから、その推定値(推定偏差出力)VO2(k+d)バーは、式(12)の右辺の第1行成分を演算することで求めることができる。
【0084】
そこで、式(12)の両辺の第1行成分に着目し、右辺第1項の行列Adの第1行第1列成分及び第1行第2列成分をそれぞれα1,α2とおき、右辺第2項のベクトルAj-1・B(j=1,2, d)の第1行成分をそれぞれβj(j=1,2, d)とおくと、O2センサ6の推定偏差出力VO2(k+d)バーは、O2センサ6の偏差出力VO2の時系列データVO2(k)及びVO2(k-1)と、LAFセンサ5の偏差出力kactの時系列データkact(k-j)(j=1,2, d)とを用いて次式(13)により求めることができる。
【0085】
【数13】
【0086】
また、式(13)中の係数値α1,α2及びβj(j=1,2, d)は、行列A及びベクトルBの成分(式(11)参照)を構成するゲイン係数a1,a2,b1として、前記同定器25により求められた同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを用い、それらの行列A及びベクトルBから前記式(12)中の行列Ad及びベクトルAj-1・B(j=1,2, d)を求めることで決定することができる。
【0087】
よって、本実施形態における推定器26は、基本的には同定器25により求められる前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b2ハット(詳しくは現在の制御サイクルで求められた同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b2(k)ハット)を用いて、式(13)中の係数値α1,α2及びβj(j=1,2, d)を算出する。さらに、その算出した係数値α1,α2及びβjと、O2センサ6の偏差出力VO2の現在以前の時系列データVO2(k)及びVO2(k-1)と、LAFセンサ5の偏差出力kactの過去の時系列データkact(k-j)(j=1,2, d)とから式(13)の演算を行うことで、O2センサ6の推定偏差出力VO2(k+d)バーを求める。これが推定器26における基本的な演算処理(推定アルゴリズム)である。
【0088】
尚、本実施形態における推定器26は、O2センサ6の推定偏差出力VO2(k+d)バーの算出に際して、LAFセンサ5の偏差出力kactにフィルタリング処理を施すのであるがこれについては後述する。
【0089】
次に、前記スライディングモード制御器27を詳細に説明する。
【0090】
ここで、まず、一般的なスライディングモード制御について図4を参照して簡単に説明しておく。
【0091】
スライディングモード制御は、可変構造型のフィードバック制御手法であり、この制御手法においては、例えば制御対象の制御すべき状態量をx1,x2の二つとした場合、これらの状態量x1,x2を変数とする線形関数σ=s1x1+s2x2(s1,s2は係数)を用いて、σ=0により表される超平面をあらかじめ設計しておく。この超平面σ=0は位相空間が二次系の場合(状態量が二つの場合)は、しばしば切換線と呼ばれ、線形関数σは切換関数と呼ばれている。位相空間の次数がさらに大きくなると、切換線から切換面となり、さらには幾何学的に図示できなくなる超平面になる。尚、超平面はすべり面と呼ばれることもある。本明細書においては、これらを代表して線形関数及び超平面と表現した。
【0092】
そして、このスライディングモード制御は、例えば図4の点Pで示すように、状態量x1,x2がσ≠0となっている場合に、所謂、到達則に従って、状態量x1,x2をハイゲイン制御によって超平面σ=0上に高速で収束させ(モード1)、さらに所謂、等価制御入力によって状態量x1,x2を超平面σ=0上に拘束しつつ超平面σ=0上の平衡点(x1=x2=0の点)に収束させる(モード2)ものである。
【0093】
このようなスライディングモード制御においては、状態量x1,x2を超平面σ=0上に収束させさえすれば、等価制御入力によって、外乱等の影響を受けることなく、極めて安定に状態量x1,x2を超平面σ=0上に拘束して、該超平面σ=0の平衡点に収束させることができるという特性をもっている。尚、外乱や制御対象のモデル化誤差があると、状態量x1,x2は厳密には上記平衡点(x1=x2=0の点)には収束せず、該平衡点の近傍に収束する。
【0094】
かかるスライディングモード制御では、特に、上記モード1において状態量x1,x2をいかにして安定に超平面σ=0上に収束させるかが重要な課題となる。この場合、外乱等の影響があると、一般には、前記到達則だけでは、状態量x1,x2を超平面σ=0上に安定に収束させることが困難である。このため、近年では、例えばコロナ社により1994年10月20日に発刊された「スライディングモード制御 −非線形ロバスト制御の設計理論−」と題する文献の第134頁〜第135頁に見られるように、到達則に加えて、外乱の影響を排除しつつ状態量を超平面上に収束させるための適応則を用いた適応スライディングモード制御という手法が提案されている。
【0095】
本実施形態の前記スライディングモード制御器27は、このような適応スライディングモード制御を用いて、O2センサ6の出力VO2/OUTをその目標値VO2/TARGETに整定させるように(O2センサ6の偏差出力VO2を「0」に収束させるように)、制御対象である前記対象排気系Eに与えるべき入力(詳しくは、LAFセンサ5で検出される排ガスの空燃比と前記基準値FLAF/BASEとの偏差で、これはLAFセンサ5の偏差出力kactに相当する。以下、この入力をSLD操作入力uslと称する)を決定し、その決定したSLD操作入力uslから前記目標空燃比KCMDを決定するものである。そして、その処理のためのアルゴリズムは次のように構築されている。
【0096】
まず、スライディングモード制御器27の適応スライディングモード制御に必要な超平面の構築について説明する。
【0097】
スライディングモード制御器27は、O2センサ6の偏差出力VO2を「0」に収束させるように制御を行うものであるので、O2センサ6の偏差出力VO2の時系列データを「0」に収束させるように対象排気系Eに与えるべき前記SLD操作入力uslを決定すればよい。
【0098】
そこで、本実施形態におけるスライディングモード制御の基本的な考え方としては、制御すべき状態量として、例えば各制御サイクルで得られたO2センサ6の偏差出力VO2(k)と、その1制御サイクル前に得られた偏差出力VO2(k-1)とを用い、スライディングモード制御用の超平面を規定する線形関数σを次式(14)により設定する。
【0099】
【数14】
【0100】
尚、本実施形態では、線形関数の変数である状態量として、実際には前記推定器26により求められる前記推定偏差出力VO2バーの時系列データを用いるのであるがこれについては後述する。
【0101】
上記のように線形関数σを定義したとき、スライディングモード制御用の超平面はσ=0により表され(この場合、状態量は二つであるので超平面は直線となる。図4参照)、この超平面σ=0を規定する線形関数σの係数s1,s2(式(14)参照)は、本実施形態ではあらかじめ次のように設定する。
【0102】
すなわち、前記状態量VO2(k),VO2(k-1)を成分とする式(14)中のベクトルX(以下、単に状態量Xという)が超平面σ=0上に収束した状態では、線形関数σの値が「0」であるので、これと式(14)とから次式(15)が得られる。
【0103】
【数15】
【0104】
ここで、式(15)により表される系は、入力の無い一次遅れ系であるので、状態量Xが超平面σ=0の平衡点(VO2(k)=VO2(k-1)=0となる点)に安定に収束するための条件は、式(15)により表される系の極(この場合、この極は「−s2/s1」である)が単位円内に存在することとなる。
【0105】
従って、本実施形態では、線形関数σの係数s1,s2は、次式(16)の条件を満たすように設定する。
【0106】
【数16】
【0107】
尚、本実施形態では、簡略化のために係数s1=1とし(この場合、s2/s1=s2である)、−1<s2<1の条件を満たすように係数s2の値を設定する。
【0108】
一方、上記のように設定された超平面σ=0の平衡点に前記状態量Xを収束させるためにスライディングモード制御器27が適応スライディングモード制御により生成すべき前記SLD操作入力usl(LAFセンサ5で検出される排ガスの空燃比と前記基準値FLAF/BASEとの偏差)は、前記状態量Xを超平面σ=0上に拘束するための制御則に従って対象排気系Eに与えるべき等価制御入力ueqと、状態量Xを超平面σ=0に収束させるための到達則に従って対象排気系Eに与えるべき入力urch(以下、到達則入力urchという)と、外乱等の影響を補償して状態量Xを超平面σ=0に収束させるための適応則に従って対象排気系Eに与えるべき入力uadp(以下、適応則入力uadpという)との総和により表される(次式(17)参照)。
【0109】
【数17】
【0110】
そして、これらの等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpは、本実施形態では、前記式(1)あるいは式(11)により表される離散系モデルに基づいて、次のように求めることができる。
【0111】
まず、等価制御入力ueqに関し、前記状態量Xが超平面σ=0上に留まる条件は、σ(k+1)=σ(k)=0であり、この条件は、前記式(11)及び式(14)を用いて、次式(18)に書き換えられる。
【0112】
【数18】
【0113】
ここで、等価制御入力ueqは、状態量Xを超平面σ=0に拘束するために対象排気系Eに与えるべき入力(LAFセンサ5で検出される排ガスの空燃比と前記基準値FLAF/BASEとの偏差)であるので、上記式(18)の条件を満たすLAFセンサ5の偏差出力kactが等価制御入力ueqである。
【0114】
従って、式(18)から次式(19)が得られ、
【0115】
【数19】
【0116】
さらに、この式(19)の両辺を無駄時間d分シフトすることで、次式(20)が得られる。
【0117】
【数20】
【0118】
この式(20)が本実施形態において、制御サイクル毎に等価制御入力ueqを求めるための基本式である。
【0119】
次に、前記到達則入力urchは、本実施形態では、基本的には次式(21)により決定するものとする。
【0120】
【数21】
【0121】
すなわち、到達則入力urchは、無駄時間dの影響を考慮し、無駄時間d後の線形関数σの値σ(k+d)に比例させるように決定する。
【0122】
この場合、式(21)中の係数F(これは到達則のゲインを規定する)は、次にように設定される。
【0123】
すなわち、前記式(11)において、kact(k)=ueq(k)+urch(k)とし、さらに式(14)、(20)、(21)を用いると、次式(22)が得られる。
【0124】
【数22】
【0125】
ここで、式(22)により表される系は、入力の無い一次遅れ系であるので、線形関数σの値が超平面σ=0に安定に収束する(状態量Xが超平面σ=0に安定に収束する)ための条件は、式(22)により表される系の極(この場合、この極は「1−F」である)が単位円内に存在することとなる。
【0126】
従って、本実施形態では、到達則入力urchを規定する係数Fは、次式(23)の条件を満たすように設定する。
【0127】
【数23】
【0128】
尚、線形関数σの値の挙動に関しては、該線形関数σの値が超平面σ=0に対して振動的な変化(所謂チャタリング)を生じる虞れがあり、このチャタリングを抑制するためには、式(22)により表される系の極「1−F」が上記の条件に加えて0<1−F<1なる条件を満たすことが好ましい。
【0129】
従って、到達則入力urchを規定する係数Fは、より好ましくは、次式(24)の条件を満たすように設定する。
【0130】
【数24】
【0131】
次に、前記適応則入力uadpは、本実施形態では、基本的には次式(25)により決定するものとする(式(25)中のΔTは制御サイクルの周期である)。
【0132】
【数25】
【0133】
すなわち、適応則入力uadpは、無駄時間dの影響を考慮し、無駄時間d後までの線形関数σの値の制御サイクル毎の積算値(これは線形関数σの値の積分値に相当する)に比例させるように決定する。
【0134】
この場合、式(25)中の係数G(これは適応則のゲインを規定する)は、次にように設定される。
【0135】
まず、LAFセンサ5で検出される空燃比と目標空燃比KCMDとの間の外乱等の影響による誤差成分をvとすると、LAFセンサ5の偏差出力kactは、前記等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadp、並びに上記誤差成分vを用いて、次式(26)により表現することができる。
【0136】
【数26】
【0137】
そして、この式(26)を前記式(11)に適用し、さらに式(14)、(20)、(21)、(25)を用いると、次式(27)が得られる。
【0138】
【数27】
【0139】
ここで、式(27)の両辺をZ変換すると次式(28)となり、
【0140】
【数28】
【0141】
さらにこの式(28)を変形して整理すると、次式(29)が得られる。
【0142】
【数29】
【0143】
尚、式(28)、(29)における「Σ」及び「V」はそれぞれ線形関数σ及び前記誤差成分vをZ変換したものである。また、式(29)のM(Z)は誤差成分vに対する線形関数σのパルス伝達関数で、式(29)の上段の分数式により表されるものである。
【0144】
この場合、線形関数σが誤差成分v(外乱)に対して、安定となる条件は、前記パルス伝達関数M(Z)の極、すなわち、次式(30)により示される特性方程式の解(この解は二つある)が単位円内に存在することであり、
【0145】
【数30】
【0146】
上記特性方程式(30)の二つの解はそれをλm1、λm2とすると、次式(31)、(32)により与えられる。
【0147】
【数31】
【0148】
【数32】
【0149】
従って、線形関数σが誤差成分v(外乱)に対して安定となる条件は、上式(31)、(32)により与えられるλm1、λm2が単位円内に存在することである。
【0150】
そこで、本実施形態ではこの条件を満たすために、前記係数Gは、次式(33)により設定する。
【0151】
【数33】
【0152】
本実施形態におけるスライディングモード制御器27は、基本的には前記式(20)、(21)、(25)により決定される等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpの総和(ueq+urch+uadp)を対象排気系Eに与えるべきSLD操作入力uslとして決定するのであるが、前記式(20)、(21)、(25)で使用するO2センサ6の偏差出力VO2(k+d),VO2(k+d-1)や、線形関数σの値σ(k+d)等は未来値であるので実際には得られないものである。
【0153】
そこで、本実施形態では、スライディングモード制御器27は、実際には、前記式(20)により前記等価制御入力ueqを決定するためのO2センサ6の偏差出力VO2(k+d),VO2(k+d-1)の代わりに、前記推定器26で求められる推定偏差出力VO2(k+d)バー,VO2(k+d-1)バーを用い、次式(34)により制御サイクル毎の等価制御入力ueqを算出する。
【0154】
【数34】
【0155】
また、本実施形態では、実際には、推定器26により前述の如く逐次求められた推定偏差出力VO2バーの時系列データを制御すべき状態量とし、前記式(14)により設定された線形関数σに代えて、次式(35)により線形関数σバーを定義する(この線形関数σバーは、前記式(14)の偏差出力VO2の時系列データを推定偏差出力VO2バーの時系列データで置き換えたものに相当する)。
【0156】
【数35】
【0157】
そして、スライディングモード制御器27は、前記式(21)により前記到達則入力urchを決定するための線形関数σの値の代わりに、前記式(35)により表される線形関数σバーの値を用いて次式(36)により制御サイクル毎の到達則入力urchを算出する。
【0158】
【数36】
【0159】
同様に、スライディングモード制御器27は、前記式(25)により前記適応則入力uadpを決定するための線形関数σの値の代わりに、前記式(35)により表される線形関数σバーの値を用いて次式(37)により制御サイクル毎の適応則入力uadpを算出する。
【0160】
【数37】
【0161】
尚、前記式(34),(36),(37)により等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpを算出する際に必要となる前記ゲイン係数a1,a2,b1としては、本実施形態では基本的には前記同定器25により求められた最新の同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを用いる。
【0162】
そして、スライディングモード制御器27は、前記式(34)、(36)、(37)によりそれぞれ求められる等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpの総和を対象排気系Eに与えるべき前記SLD操作入力uslとして求める(前記式(17)を参照)。尚、この場合において、前記式(34)、(36)、(37)中で用いる前記係数s1,s2,F,Gの設定条件は前述の通りである。
【0163】
これが、本実施形態において、スライディングモード制御器27により、対象排気系Eに与えるべきSLD操作入力uslを制御サイクル毎に決定するための基本的なアルゴリズムである。このようにしてSLD操作入力uslを決定することで、該SLD操作入力uslは、O2センサ6の推定偏差出力VO2バーを「0」に収束させるように(結果的にはO2センサ6の出力VO2バーを目標値VO2/TARGETに収束させるように)決定される。
【0164】
ところで、本実施形態におけるスライディングモード制御器27は最終的には前記目標空燃比KCMDを制御サイクル毎に逐次求めるものあるが、前述のように求められるSLD操作入力uslは、LAFセンサ5で検出される排ガスの空燃比と前記基準値FLAF/BASEとの偏差の目標値を意味する。このため、スライディングモード制御器27は、最終的には、次式(38)に示すように、制御サイクル毎に、前述の如く求めたSLD操作入力uslに前記基準値FLAF/BASEを加算することで、目標空燃比KCMDを決定する。
【0165】
【数38】
【0166】
以上が本実施形態でスライディングモード制御器27により目標空燃比KCMDを決定するための基本的アルゴリズムである。
【0167】
尚、本実施形態では、スライディングモード制御器27による適応スライディングモード制御の処理の安定性を判別して、前記SLD操作入力uslの値を制限したりするのであるが、これについては後述する。
【0168】
次に、前記大局的フィードバック制御部15、特に前記適応制御器18をさらに説明する。
【0169】
前記図1を参照して、大局的フィードバック制御部15は、前述のようにLAFセンサ5の出力KACT(検出空燃比)を目標空燃比KCMDに収束させるようにフィードバック制御を行うものであるが、このとき、このようなフィードバック制御を周知のPID制御だけで行うようにすると、エンジン1の運転状態の変化や経年的特性変化等、動的な挙動変化に対して、安定した制御性を確保することが困難である。
【0170】
前記適応制御器18は、上記のようなエンジン1の動的な挙動変化を補償したフィードバック制御を可能とするもので、I.D.ランダウ等により提唱されているパラメータ調整則を用いて、図5に示すように、複数の適応パラメータを設定するパラメータ調整部28と、設定された適応パラメータを用いて前記フィードバック操作量KSTRを算出する操作量算出部29とにより構成されている。
【0171】
ここで、パラメータ調整部28について説明すると、ランダウ等の調整則では、離散系の制御対象の伝達関数B(Z-1)/A(Z-1)の分母分子の多項式を一般的に下記の式(39),(40)のようにおいたとき、パラメータ調整部28が設定する適応パラメータθハット(j)(jは制御サイクルの番数を示す)は、式(41)のようにベクトル(転置ベクトル)で表される。また、パラメータ調整部28への入力ζ(j)は、式(42)のように表される。この場合、本実施形態では、大局的フィードバック制御部15の制御対象であるエンジン1が一次系で3制御サイクル分の無駄時間dp(エンジン1の燃焼サイクルの3サイクル分の時間)を持つプラントと考え、式(39)〜式(42)でm=n=1,dp=3とし、設定する適応パラメータはs0,r1,r2,r3,b0の5個とした(図5参照)。尚、式(42)の上段式及び中段式におけるus,ysは、それぞれ、制御対象への入力(操作量)及び制御対象の出力(制御量)を一般的に表したものであるが、本実施形態では、上記入力をフィードバック操作量KSTR、制御対象(エンジン1)の出力を前記LAFセンサ5の出力KACT(検出空燃比)とし、パラメータ調整部28への入力ζ(j)を、式(42)の下段式により表す(図5参照)。
【0172】
【数39】
【0173】
【数40】
【0174】
【数41】
【0175】
【数42】
【0176】
ここで、前記式(41)に示される適応パラメータθハットは、適応制御器18のゲインを決定するスカラ量要素b0ハット-1(Z-1,j)、操作量を用いて表現される制御要素BRハット(Z-1,j)、及び制御量を用いて表現される制御要素S(Z-1,j)からなり、それぞれ、次式(43)〜(45)により表現される(図5の操作量算出部29のブロック図を参照)。
【0177】
【数43】
【0178】
【数44】
【0179】
【数45】
【0180】
パラメータ調整部28は、これらのスカラ量要素や制御要素の各係数を設定して、それを式(26)に示す適応パラメータθハットとして操作量算出部29に与えるもので、現在から過去に渡るフィードバック操作量KSTRの時系列データとLAFセンサ5の出力KACTとを用いて、該出力KACTが前記目標空燃比KCMDに一致するように、適応パラメータθハットを算出する。
【0181】
この場合、具体的には、適応パラメータθハットは、次式(46)により算出する。
【0182】
【数46】
【0183】
同式(46)において、Γ(j)は、適応パラメータθハットの設定速度を決定するゲイン行列(この行列の次数はm+n+dp)、eアスタリスク(j)は、適応パラメータθハットの推定誤差を示すもので、それぞれ式(47),(48)のような漸化式で表される。
【0184】
【数47】
【0185】
【数48】
【0186】
ここで、式(48)中の「D(Z-1)」は、収束性を調整するための、漸近安定な多項式であり、本実施形態ではD(Z-1)=1としている。
【0187】
尚、式(47)のλ1(j),λ2(j)の選び方により、漸減ゲインアルゴリズム、可変ゲインアルゴリズム、固定トレースアルゴリズム、固定ゲインアルゴリズム等の種々の具体的なアルゴリズムが得られる。エンジン1の燃料噴射あるいは空燃比等の時変プラントでは、漸減ゲインアルゴリズム、可変ゲインアルゴリズム、固定ゲインアルゴリズム、および固定トレースアルゴリズムのいずれもが適している。
【0188】
前述のようにパラメータ調整部28により設定される適応パラメータθハット(s0,r1,r2,r3,b0)と、前記空燃比操作量決定部13により決定される目標空燃比KCMDとを用いて、操作量算出部29は、次式(49)の漸化式により、フィードバック操作量KSTRを求める。図5の操作量算出部29は、同式(49)の演算をブロック図で表したものである。
【0189】
【数49】
【0190】
尚、式(49)にり求められるフィードバック操作量KSTRは、LAFセンサ5の出力KACTが目標空燃比KCMDに一致する状態において、「目標空燃比KCMD」となる。このために、前述の如く、フィードバック操作量KSTRを除算処理部19によって目標空燃比KCMDで除算することで、前記フィードバック補正係数KFBとして使用できるフィードバック操作量kstrを求めるようにしている。
【0191】
このように構築された適応制御器18は、前述したことから明らかなように、制御対象であるエンジン1の動的な挙動変化を考慮した漸化式形式の制御器であり、換言すれば、エンジン1の動的な挙動変化を補償するために、漸化式形式で記述された制御器である。そして、より詳しくは、漸化式形式の適応パラメータ調整機構を備えた制御器と定義することができる。
【0192】
尚、この種の漸化式形式の制御器は、所謂、最適レギュレータを用いて構築する場合もあるが、この場合には、一般にはパラメータ調整機構は備えられておらず、エンジン1の動的な挙動変化を補償する上では、前述のように構成された適応制御器18が好適である。
【0193】
以上が、本実施形態で採用した適応制御器18の詳細である。
【0194】
尚、適応制御器18と共に、大局的フィードバック制御部15に具備したPID制御器17は、一般のPID制御と同様に、LAFセンサ5の出力KACT(検出空燃比)と、その目標空燃比KCMDとの偏差から、比例項(P項)、積分項(I項)及び微分項(D項)を算出し、それらの各項の総和をフィードバック操作量KLAFとして算出する。この場合、本実施形態では、積分項(I項)の初期値を“1”とすることで、LAFセンサ5の出力KACTが目標空燃比KCMDに一致する状態において、フィードバック操作量KLAFが“1”になるようにし、該フィードバック操作量KLAFをそのまま燃料噴射量を補正するための前記フィードバック補正係数KFBとして使用することができるようしている。また、比例項、積分項及び微分項のゲインは、エンジン1の回転数と吸気圧とから、あらかじめ定められたマップを用いて決定される。
【0195】
また、大局的フィードバック制御部15の前記切換部20は、エンジン1の冷却水温の低温時や、高速回転運転時、吸気圧の低圧時等、エンジン1の燃焼が不安定なものとなりやすい場合、あるいは、目標空燃比KCMDの変化が大きい時や、空燃比のフィードバック制御の開始直後等、これに応じたLAFセンサ6の出力KACTが、そのLAFセンサ5の応答遅れ等によって、信頼性に欠ける場合、あるいは、エンジン1のアイドル運転時のようエンジン1の運転状態が極めて安定していて、適応制御器18による高ゲイン制御を必要としない場合には、PID制御器17により求められるフィードバック操作量KLAFを燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正量数KFBとして出力する。そして、上記のような場合以外の状態で、適応制御器18により求められるフィードバック操作量KSTRを目標空燃比KCMDで除算してなるフィードバック操作量kstrを燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正係数KFBとして出力する。これは、適応制御器18が、高ゲイン制御で、LAFセンサ5の出力KACT(検出空燃比)を急速に目標空燃比KCMDに収束させるように機能するため、上記のようにエンジン1の燃焼が不安定となったり、LAFセンサ5の出力KACTの信頼性に欠ける等の場合に、適応制御器18のフィードバック操作量KSTRを用いると、かえって空燃比の制御が不安定なものとなる虞れがあるからである。
【0196】
このような切換部20の作動は、例えば特開平8−105345号公報に本願出願人が詳細に開示しているので、ここでは、さらなる説明を省略する。
【0197】
次に本実施形態の装置の作動の詳細を説明する。
【0198】
ここで、まず、制御ユニット7が行う処理の制御サイクルについて説明しておく。前記エンジン1の燃料供給量(燃料噴射量)の制御は、該エンジン1の回転数に同期させる必要があり、このため、本実施形態では、前記基本燃料噴射量算出部8、第1補正係数算出部9、第2補正係数算出部10、及びフィードバック制御部14の処理は、エンジン1のクランク角周期(所謂TDC)に同期した制御サイクルで行うようにしている。また、この場合、LAFセンサ5やO2センサ6等の各種センサの出力データの読込もクランク角周期(所謂TDC)に同期した制御サイクルで行うようにしている。
【0199】
一方、前記空燃比操作量決定部13による触媒装置3の上流側の排ガスの目標空燃比KCMDの決定処理は、触媒装置3に存する無駄時間や演算負荷等を考慮すると一定周期の制御サイクルで行うことが好ましい。このため、本実施形態では、空燃比操作量決定部13における前述したような処理やその処理のために必要な前記偏差出力kact,VO2を算出する前記減算処理部11,12の処理は一定周期(例えば30〜100ms)の制御サイクルで行うようにしている。
【0200】
尚、この一定周期は、制御対象である触媒装置3の種類や反応速度、容積等に応じて決定すればよい。また、本実施形態では、前記空燃比操作量決定部13による処理を行っているような運転状態(より具体的にはエンジン回転数の状態)において、上記一定周期の時間間隔が前記クランク角周期(TDC)の時間間隔よりも大きくなるように設定している。
【0201】
以上のことを前提として、まず、図6及び図7のフローチャートを参照して、エンジン1の燃料供給量の制御のためのエンジン1の各気筒毎の出力燃料噴射量#nTout(n=1,2,3,4)の算出処理について説明する。制御ユニット7は、各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutをエンジン1のクランク角周期と同期した制御サイクルで次のような処理を行う。
【0202】
まず、図6を参照して、制御ユニット7は前記LAFセンサ5及びO2センサ6を含む各種センサの出力を読み込む(STEPa)。この場合、LAFセンサ5の出力KACT及びO2センサ6の出力VO2/OUTはそれぞれ過去に得られたものを含めて時系列的に図示しないメモリに記憶保持される。
【0203】
次いで、基本燃料噴射量算出部8によって、前述の如くエンジン1の回転数NE及び吸気圧PBに対応する燃料噴射量をスロットル弁の有効開口面積に応じて補正してなる基本燃料噴射量Timが求められ(STEPb)、さらに、第1補正係数算出部9によって、エンジン1の冷却水温やキャニスタのパージ量等に応じた第1補正係数KTOTALが算出される(STEPc)。
【0204】
次いで、制御ユニット7は、空燃比操作量決定部13で生成される目標空燃比KCMDを使用するか否か(ここでは、空燃比操作量決定部13のON/OFFという)の判別処理を行って、空燃比操作量決定部13のON/OFFを規定するフラグf/prism/onの値を設定する(STEPd)。尚、フラグf/prism/onの値は、それが「0」のとき、空燃比操作量決定部13で生成される目標空燃比KCMDを使用しないこと(OFF)を意味し、「1」のとき、空燃比操作量決定部13で生成される目標空燃比KCMDを使用すること(ON)を意味する。
【0205】
上記の判別処理では、図7に示すように、O2センサ6及びLAFセンサ5が活性化しているか否かの判別(STEPd−1,d−2)が行われ、いずれかが活性化していない場合には、空燃比操作量決定部13の処理に使用するO2センサ6及びLAFセンサ5の検出データを精度よく得ることができないため、フラグf/prism/onの値を「0」にセットする(STEPd−10)。
【0206】
また、エンジン1のリーン運転中(希薄燃焼運転)であるか否か(STEPd−3)、エンジン1の始動直後の触媒装置3の早期活性化を図るためにエンジン1の点火時期が遅角側に制御されているか否か(STEPd−4)、エンジン1のスロットル弁が全開であるか否か(STEPd−5)、及びエンジン1への燃料供給の停止中であるか否か(STEPd−6)の判別が行われ、これらのいずれかの条件が成立している場合には、空燃比操作量決定部13で生成される目標空燃比KCMDを使用してエンジン1の燃料供給を制御することは好ましくないので、フラグf/prism/onの値を「0」にセットする(STEPd−10)。
【0207】
さらに、エンジン1の回転数NE及び吸気圧PBがそれぞれ所定範囲内にあるか否かの判別が行われ(STEPd−7,d−8)、いずれかが所定範囲内にない場合には、空燃比操作量決定部13で生成される目標空燃比KCMDを使用してエンジン1の燃料供給を制御することは好ましくないので、フラグf/prism/onの値を「0」にセットする(STEPd−10)。
【0208】
そして、STEPd−1,d−2,d−7,d−8の条件が満たされ、且つ、STEPd−3,d−4,d−5,d−6の条件が成立していない場合に、空燃比操作量決定部13で生成される目標空燃比KCMDをエンジン1の燃料供給の制御に使用すべく、フラグf/prism/onの値を「1」にセットする(STEPd−9)。
【0209】
図6に戻って、上記のようにフラグf/prism/onの値を設定した後、制御ユニット7は、フラグf/prism/onの値を判断し(STEPe)、f/prism/on=1である場合には、空燃比操作量決定部13で生成された最新の目標空燃比KCMDを読み込む(STEPf)。また、f/prism/on=0である場合には、目標空燃比KCMDを所定値に設定する(STEPg)。この場合、目標空燃比KCMDとして設定する所定値は、例えばエンジン1の回転数NEや吸気圧PBからあらかじめ定めたマップ等を用いて決定する。
【0210】
次いで、制御ユニット7は、前記局所的フィードバック制御部16において、前述の如くオブザーバ21によりLAFセンサ5の出力KACTから推定した各気筒毎の実空燃比#nA/Fに基づき、PID制御器22により、各気筒毎のばらつきを解消するようにフィードバック補正係数#nKLAFを算出し(STEPh)、さらに、大局的フィードバック制御部15により、フィードバック補正係数KFBを算出する(STEPi)。
【0211】
この場合、大局的フィードバック制御部15は、前述の如く、PID制御器17により求められるフィードバック操作量KLAFと、適応制御器18により求められるフィードバック操作量KSTRを目標空燃比KCMDで除算してなるフィードバック操作量kstrとから、切換部20によってエンジン1の運転状態等に応じていずれか一方のフィードバック操作量KLAF又はkstrを選択し(通常的には適応制御器18側のフィードバック操作量kstrを選択する)、それを燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正量数KFBとして出力する。 尚、フィードバック補正係数KFBを、PID制御器17側のフィードバック操作量KLAFから適応制御器18側のフィードバック操作量kstrに切り換える際には、該補正係数KFBの急変を回避するために、適応制御器18は、その切換えの際の制御サイクルに限り、補正係数KFBを前回の補正係数KFB(=KLAF)に保持するように、フィードバック操作量KSTRを求める。同様に、補正係数KFBを、適応制御器18側のフィードバック操作量kstrからPID制御器17側のフィードバック操作量KLAFに切り換える際には、PID制御器17は、自身が前回の制御サイクルで求めたフィードバック操作量KLAFが、前回の補正係数KFB(=kstr)であったものとして、今回の補正係数KLAFを算出する。
【0212】
上記のようにしてフィードバック補正係数KFB が算出された後、さらに、前記STEPfあるいはSTEPgで決定された目標空燃比KCMDに応じた第2補正係数KCMDMが第2補正係数算出部10により算出される(STEPj)。
【0213】
次いで、制御ユニット7は、前述のように求められた基本燃料噴射量Timに、第1補正係数KTOTAL、第2補正係数KCMDM、フィードバック補正係数KFB、及び各気筒毎のフィードバック補正係数#nKLAFを乗算することで、各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutを求める(STEPk)。そして、この各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutが、付着補正部23によって、エンジン1の吸気管の壁面付着を考慮した補正を施された後(STEPm)、エンジン1の図示しない燃料噴射装置に出力される(STEPn)。
【0214】
そして、エンジン1にあっては、各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutに従って、各気筒への燃料噴射が行われる。
【0215】
以上のような各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutの算出及びそれに応じたエンジン1への燃料噴射がエンジン1のクランク角周期に同期したサイクルタイムで逐次行われ、これによりLAFセンサ5の出力KACT(触媒装置3に進入する排ガスの検出空燃比)が、目標空燃比KCMDに収束するように、エンジン1の燃料供給量(燃料噴射量)が制御される。この場合、特に、フィードバック補正係数KFBとして、適応制御部18側のフィードバック操作量kstrを使用している状態では、エンジン1の運転状態の変化や特性変化等の挙動変化に対して、高い安定性を有して、LAFセンサ5の出力KACTが迅速に目標空燃比KCMDに収束制御される。
【0216】
一方、前述のようなエンジン1の燃料制御と並行して、前記空燃比操作量決定部13は、一定周期の制御サイクルで図8のフローチャートに示すメインルーチン処理を行う。
【0217】
すなわち、図8のフローチャートを参照して、空燃比操作量決定部13は、まず、自身の演算処理(前記同定器25、推定器26及びスライディングモード制御器27の演算処理)を実行するか否かの判別処理を行って、その実行の可否を規定するフラグf/prism/calの値を設定する(STEP1)。尚、フラグf/prism/calの値は、それが「0」のとき、空燃比操作量決定部13における演算処理を行わないことを意味し、「1」のとき、空燃比操作量決定部13における演算処理を行うことを意味する。
【0218】
上記の判別処理は、図9のフローチャートに示すように行われる。
【0219】
すなわち、前記図6のSTEPdの場合と同様に、O2センサ6及びLAFセンサ5が活性化しているか否かの判別(STEP1−1,1−2)が行われ、いずれかが活性化していない場合には、空燃比操作量決定部13の演算処理に使用するO2センサ6及びLAFセンサ5の検出データを精度よく得ることができないため、フラグf/prism/calの値を「0」にセットする(STEP1−6)。さらにこのとき、同定器25の後述する初期化を行うために、その初期化を行うか否かを規定するフラグf/id/resetの値を「1」にセットする(STEP1−7)。ここで、フラグf/id/resetの値は、それが「1」であるとき、初期化を行うことを意味し、「0」であるとき、初期化を行わないことを意味する。
【0220】
また、エンジン1のリーン運転中(希薄燃焼運転)であるか否か(STEP1−3)、及びエンジン1の始動直後の触媒装置3の早期活性化を図るためにエンジン1の点火時期が遅角側に制御されているか否か(STEP1−4)の判別が行われ、これらのいずれかの条件が成立している場合には、O2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに整定させるような目標空燃比KCMDを算出しても、それがエンジン1の燃料制御に使用されることはないので、フラグf/prism/calの値を「0」にセットし(STEP1−6)、さらに同定器25の初期化を行うために、フラグf/id/resetの値を「1」にセットする(STEP1−7)。
【0221】
図8に戻って、上記のような判別処理を行った後、空燃比操作量決定部13は、さらに、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)処理を実行するか否かの判別処理を行って、その実行の可否を規定するフラグf/id/calの値を設定する(STEP2)。尚、フラグf/id/calの値は、それが「0」のとき、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)処理を行わないことを意味し、「1」のとき、同定(更新)処理を行うことを意味する。
【0222】
このSTEP2の判別処理は、図10のフローチャートに示すように行われる。
【0223】
すなわち、エンジン1のスロットル弁が全開であるか否か(STEP2−1)、エンジン1への燃料供給の停止中であるか否か(STEP2−2)、及びエンジン1のアイドル運転中であるか否か(STEP2−3)の判別が行われ、これらのいずれかの条件が成立している場合には、前記ゲイン係数a1,a2,b1を適正に同定することが困難であるため、フラグf/id/calの値を「0」にセットする(STEP2−5)。そして、STEP2−1〜2−3のいずれの条件も成立していない場合には、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)処理を実行すべくフラグf/id/calの値を「1」にセットする(STEP2−4)。
【0224】
図8に戻って、空燃比操作量決定部13は、次に、前記減算処理部11,12からそれぞれ最新の前記偏差出力kact(k)(=KACT−FLAF/BASE)及びVO2(k)(=VO2/OUT−VO2/TARGET)を取得する(STEP3)。この場合、減算処理部11,12は、前記図6のSTEPaにおいて取り込まれて図示しないメモリに記憶されたLAFセンサ5の出力KACT及びO2センサ6の出力VO2/OUTの時系列データの中から、最新のものを選択して前記偏差出力kact(k)及びVO2(k)を算出し、それを空燃比操作量決定部13に与える。そして、該空燃比操作量決定部13に与えられた偏差出力kact(k)及びVO2(k)は、該空燃比操作量決定部13内において、過去に与えられたものを含めて時系列的に図示しないメモリに記憶保持される。
【0225】
次いで、空燃比操作量決定部13は、前記STEP1で設定されたフラグf/prism/calの値を判断し(STEP4)、f/prism/cal=0である場合、すなわち、空燃比操作量決定部13の演算処理を行わない場合には、スライディングモード制御器27で求めるべき前記対象排気系EへのSLD操作入力uslを強制的に所定値に設定する(STEP12)。この場合、該所定値は、例えばあらかじめ定めた固定値(例えば「0」)あるいは前回の制御サイクルで決定したSLD操作入力uslの値とする。尚、このようにSLD操作入力uslを所定値とした場合において、空燃比操作量決定部13は、その所定値のSLD操作入力uslに前記基準値FLAF/BASEを加算することで、今回の制御サイクルにおける目標空燃比KCMDを決定し(STEP13)、今回の制御サイクルの処理を終了する。
【0226】
一方、STEP4の判断で、f/prism/cal=1である場合、すなわち、空燃比操作量決定部13の演算処理を行う場合には、空燃比操作量決定部13は、前記同定器25による演算処理を行う(STEP5)。
【0227】
この同定器25による演算処理は図11のフローチャートに示すように行われる。
【0228】
すなわち、同定器25は、まず、前記STEP2で設定されたフラグf/id/calの値を判断する(STEP5−1)。このときf/id/cal=0であれば、前述の通り同定器25によるゲイン係数a1,a2,b1の同定処理を行わないので、直ちに図8のメインルーチンに復帰する。
【0229】
一方、f/id/cal=1であれば、同定器25は、さらに該同定器25の初期化に係わる前記フラグf/id/resetの値(これは、前記STEP1等でその値が設定される)を判断し(STEP5−2)、f/id/reset=1である場合には、同定器25の初期化を行う(STEP5−3)。この初期化では、前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの各値があらかじめ定めた初期値に設定され(式(3)の同定ゲイン係数ベクトルΘの初期化)、また、前記式(9)の行列P(対角行列)の各成分があらかじめ定めた初期値に設定される。さらに、フラグf/id/resetの値は「0」にリセットされる。
【0230】
次いで、同定器25は、現在の同定ゲイン係数a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットを用いて表される対象排気系Eの離散系モデル(前記式(2)参照)におけるO2センサ6の前記同定偏差出力VO2(k)ハットを、前記STEP3で制御サイクル毎に取得される偏差出力VO2及びkactの過去のデータVO2(k-1),VO2(k-2),kact(k-d-1)と、上記同定ゲイン係数a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットとを用いて前記式(2)あるいはこれと等価の前記式(5)により算出する(STEP5−4)。
【0231】
さらに同定器25は、新たな同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを決定する際に使用する前記ベクトルKθ(k)を式(8)により算出した後(STEP5−5)、以下に説明する同定器25のマネージメント処理を行う(STEP5−6)。
【0232】
ここで、まず、O2センサ6の出力VO2/OUTあるいは偏差出力VO2の挙動と、前記対象排気系Eの離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1の同定器25による同定との関係について説明しておく。
【0233】
図12を参照して、O2センサ6の出力VO2/OUTあるいは偏差出力VO2は、触媒装置3を通過した排ガスの空燃比を示すものであり、この排ガスの空燃比は、一般に、図示のようにリーン側からリッチ側への変化が比較的急激に行われ(O2センサ6の出力VO2/OUTあるいは偏差出力VO2 の時間的な変化度合いが比較的大きい)、リッチ側からリーン側への変化は比較的緩やかに行われる(O2センサ6の出力VO2/OUTあるいは偏差出力VO2の時間的な変化度合いが比較的小さい)。そして、本願発明者等の知見によれば、対象排気系Eの離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1をO2センサ6の出力VO2/OUTあるいは偏差出力VO2を用いて同定する場合、O2センサ6の出力VO2/OUTあるいは偏差出力VO2の時間的変化度合いが比較的小さい状態では、ゲイン係数a1,a2,b1の同定値が小さくなり過ぎる等して、適正な同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットが得られない場合が生じやすい。
【0234】
そこで、本実施形態では、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)を、O2センサ6の出力VO2/OUTあるいは偏差出力VO2により示される空燃比が、リーン側からリッチ側に変化する挙動状態において行うようにしており、前記マネージメント処理は、上記のような挙動状態を特定するための処理である。
【0235】
一方、図13を参照して、適応スライディングモード制御を用いた本実施形態の制御によれば、O2 センサ6の偏差出力VO2の前記状態量X(VO2(k),VO2(k-1))は、その状態量Xの初期状態が例えば図中の点Qであるとしたとき、該状態量Xは、前記超平面σ=0に対して軌跡線Wで示すように変化する。そして、この場合、同図において、基本的には状態量Xが超平面σ=0の上側で変化している状態(このとき状態量Xにより規定される線形関数σの値は正となる)が、触媒装置3を通過した排ガスの空燃比のリーン側からリッチ側への変化状態であり、状態量Xが超平面σ=0の下側で変化している状態(このとき状態量Xにより規定される線形関数σの値は負となる)が、リッチ側からリーン側への変化状態である。
【0236】
従って、触媒装置3を通過した排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否かの判断は、基本的には、線形関数σの値が正であるか否かによって判断することができる。但し、このように線形関数σの値が正であるか否かによって排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否かを判断するようにすると、状態量Xが超平面σ=0上から僅かに変化しただけで、排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否かの判断結果が変わってしまい、その判断結果に応じて前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)処理を安定して行う上では好ましくない。
【0237】
このため、本実施形態では、次式(50)により偏差出力VO2 の時系列データを用いて定義されるマネージメント関数γを導入し、
【0238】
【数50】
【0239】
このマネージメント関数γの係数m1,m2,m3を、γ=0により表されるマネージメント用超平面(この場合は直線)が、前記図13に示したように、スライディングモード制御用の超平面σ=0から若干上側(σ>0の領域)に存するように設定した。尚、本実施形態では、線形関数σの係数s1を「1」に設定していることに合わせて、マネージメント関数γの係数m1は「1」に設定している。
【0240】
このようなマネージメント関数γを導入すると、γ≧0となる状態では、確実に排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態となり、この挙動状態であるか否かの判断は、マネージメント関数γの値が正(「0」を含む)であるか否かによって安定して行うことができる。
【0241】
前記STEP5−6のマネージメント処理は、上記のように定義されたマネージメント関数γを用いて、O2センサ6の偏差出力VO2により示される排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態、すなわち、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)に好適な挙動状態であるか否かの判断を行うものであり、その処理は具体的には次のように行われる。
【0242】
すなわち、図14のフローチャートを参照して、同定器25は、前記STEP3(図8参照)で取得された最新の偏差出力VO2(k)と前回の制御サイクルにおける偏差出力VO2(k-1)とを用いて、式(50)によりマネージメント関数γの値を算出する(STEP5−6−1)。
【0243】
次いで、同定器25は、γ≧0であるか否かを判断し(STEP5−6−2)、γ≧0である場合には、排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否かを示すフラグf/id/mngの値を「1」に設定し(STEP5−6−3)、γ<0である場合には、フラグf/id/mngの値を「0」に設定する(STEP5−6−4)。
【0244】
これにより、排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否か、すなわち、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)に好適な挙動状態であるか否かが、f/id/mngの値により示されることとなる。
【0245】
図11の説明に戻って、同定器25は、前述のようにマネージメント処理を行った後、その処理において設定されるフラグf/id/mngの値を判断し(STEP5−7)、f/id/mng=1である場合、すなわち、触媒装置3を通過した排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態(ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)に好適な挙動状態)である場合には、前記同定誤差id/e(離散系モデル上でのO2センサの同定偏差出力VO2ハットと、実際の偏差出力VO2との偏差。式(6)参照)を算出し(STEP5−8)、f/id/mng=0である場合には、前記同定誤差id/eの値を強制的に「0」とする(STEP5−9)。
【0246】
そして、同定器25は、STEP5−8あるいはSTEP5−9で得られた同定誤差id/eと、前記STEP5−5で算出されたKθとを用いて前記式(7)により新たな同定ゲイン係数ベクトルΘ(k)、すなわち、新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを算出する(STEP5−10)。
【0247】
ここで、前記STEP5−8における同定誤差id/eは、基本的には、前記式(6)に従って算出すればよいのであるが、本実施形態では、例えば図15(a)にブロック図で示すように前記STEP3(図8参照)で制御サイクル毎に取得する偏差出力VO2と、前記STEP5−4で制御サイクル毎に算出する同定偏差出力VO2ハットとにそれぞれ同一特性のフィルタリングを施した上で、STEP5−8における同定誤差id/eの算出を行う。
【0248】
すなわち、図16を参照して、前記触媒装置3を含む対象排気系Eの入力変化(LAFセンサ5の出力KACTあるいは偏差出力ka ctの変化)に対する、該対象排気系Eの出力変化(O2センサ6の出力VO2/OUTあるいは偏差出力VO2の変化)のゲインの周波数特性は、一般に図に実線で示すように低周波数帯Cの周波数通過特性を有するローパス特性となる。従って、O2センサ6の出力VO2/OUT(対象排気系Eの出力)を目標値VO2/TARGETに制御すべく前記スライディングモード制御器27により目標空燃比KCMD(対象排気系Eの入力の目標値)を決定する上では、上記低周波数帯Cを重視する必要がある。
【0249】
そして、スライディングモード制御器27は、基本的には、前述の通り同定器25で前記式(7)により同定した離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1、すなわち同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを用いて目標空燃比KCMDを求めるものであるため、該同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットにより定まる離散系モデルの周波数特性も、実際の対象排気系Eの周波数特性と同じような傾向の周波数特性(低周波数帯Cの周波数通過特性を有するローパス特性)となることが好ましい。
【0250】
一方、同定器25による離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1の同定のための演算処理(式(7)〜(9)を参照)は、対象排気系Eがローパス特性を有するため、例えば図16に仮想線で示すように前記低周波数帯Cよりも高周波側に重みを有する。このため、前記同定偏差出力VO2ハット及び偏差出力VO2をそのまま用いて求めた同定誤差id/eに応じて同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを求めるようにすると、その同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットにより定まる離散系モデルの周波数特性が、実際の対象排気系Eの周波数特性と適合せず、前記低周波数帯C外での対象排気系Eのゲイン特性を重視した特性となる。特に、該低周波数帯Cにおける離散系モデルのゲインが実際の対象排気系Eのゲインよりも小さなものとなりやすい。
【0251】
そこで、本実施形態では、図16に一点鎖線で示すように低周波数帯Cに重みを有する特性(ローパス特性)のフィルタリングを、偏差出力VO2と同定偏差出力VO2ハットとに施した上で、STEP5−8における同定誤差id/eの算出を行う。
【0252】
尚、このようなローパス特性のフィルタリング処理は、前記STEP3(図8)で取得する偏差出力VO2と前記STEP5−4で算出する同定偏差出力VO2ハットとをそれぞれ時系列的に記憶保持しておき、該偏差出力VO2及び同定偏差出力VO2ハットの時系列データのそれぞれについて、制御サイクル毎に、現在から過去に逆上った所定数のデータの加算平均あるいは重み付き加算平均を算出することで行われる。これは、ディジタルフィルタの一手法で、一般に移動平均処理といわれる手法である。そして、STEP5−8における同定誤差id/eの算出は、上記のような移動平均処理で得られた偏差出力VO2のフィリタリング値から同定偏差出力VO2ハットのフィルタリング値を減算することで行われる。
【0253】
このようなフィルタリング処理を行うことによって、該同定誤差id/eから前記式(7)によって求められる同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットにより定まる離散系モデルの周波数特性を、例えば図17(a)に示すように、実際の対象排気系Eの周波数特性と同じような傾向の周波数特性にすることができる。
【0254】
この場合、本実施形態では、さらに、同図17(a)に示すように、離散系モデルの各周波数におけるゲインが対象排気系Eの各周波数におけるゲインよりも全体的に若干大きくなるように前記フィルタリングの重み特性を設定しておく。このようにすることで、離散系モデル及び対象排気系Eにおいて、ある出力変化(具体的にはO2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに一致させるような出力変化)を生ぜしめる入力変化(LAFセンサ5の出力KACTあるいは偏差出力kactの変化)は、離散系モデルの方が対象排気系Eよりも小さくなる。このため、このような離散系モデルの同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを用いて前記スライディングモード制御器27により対象排気系Eに与えるべき入力として求められる前記SLD操作入力uslは各周波数において、小さめの値となり、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御の安定性を高めることができる。
【0255】
尚、本実施形態では、図17(a)のように、離散系モデルの各周波数におけるゲインが対象排気系Eの各周波数におけるゲインよりも全体的に若干大きくなるように前記フィルタリングの重み特性を設定したが、例えば図17(b)に示すように、前記低周波数帯Cにおける離散系モデルのゲインの周波数特性が対象排気系Eのゲインの周波数特性と略同一となり、且つ、低周波数帯Cよりも高周波側の周波数帯では、図17(a)の場合と同様に、離散系モデルのゲインが対象排気系Eのゲインよりも若干大きくなるように前記フィルタリングの重み特性を設定しておくようにしてもよい。
【0256】
このようにすると、低周波数帯Cよりも高周波側(対象排気系Eのゲインが比較的小さい周波数帯)では、図17(a)の場合と同様にO2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御の安定性が高まると同時に、その制御上重要な低周波数帯Cでは、実際の対象排気系Eの特性に適合した前記SLD操作入力uslをスライディングモード制御器27によって求めることができ、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束の迅速な追従性(速応性)を確保することができる。
【0257】
また、本実施形態では、前記図15(a)にブロック図で示したように、偏差出力VO2と同定偏差出力VO2ハットとに前記フィルタリングを施した上で、同定誤差id/eの算出を行うようにしたが、例えば図15(b)に示すように、前記STEP5−4で同定偏差出力VO2ハットを算出する前に、その算出に使用する偏差出力kact,VO2に同一特性のフィルタリングを施しておき、それらのフィルタリング値から前記式(5)により算出した同定偏差出力VO2ハットと、先にフィルタリングを施した偏差出力VO2のフィルタリング値とから同定誤差id/eを算出するようにしてもよい。あるいは、図15(c)に示すように偏差出力kact,VO2をそのまま用いて算出した同定偏差出力VO2ハットと、偏差出力VO2から前記式(6)をそのまま用いて同定誤差id/eを算出した後に、該同定誤差id/eにフィルタリングを施すようにしてもよい。つまり、同定誤差id/eの算出に際しての前述したようなフィルタリング処理は、結果的に偏差出力VO2と同定偏差出力VO2ハットとに同一特性のフィルタリングが施されていればよく、そのフィルタリング処理のタイミングは、任意に選択することが可能である。
【0258】
図11の説明に戻って、同定器25は、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハット(同定ゲイン係数ベクトルΘ)を算出した後、その評価処理を行う(STEP5−11)。この評価処理では、図18のフローチャートに示すように、同定器25は、まず同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットのうち、同定ゲイン係数b1ハットの値が所定範囲内にあるか否かを判断することで、同定器25の同定処理の安定性を判断し(STEP5−11−1)、同定ゲイン係数b1ハットの値が所定範囲内にある場合には、さらに、前記STEP5−8で算出された同定誤差id/eの大きさが所定値ε0以下の十分小さなものとなったか否か(id/eがほぼ「0」に収束して、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットがほぼ確定した状態になったか否か)を判断する(STEP5−11−3)。このとき、|id/e|≦ε0であれば、そのまま図11のフローチャートの処理に復帰する。
【0259】
一方、STEP5−11−1の判断で、同定ゲイン係数b1ハットの値が所定範囲内に無い場合には、同定器25によるゲイン係数a1,a2,b1の同定処理が不安定で、適正な同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを求めることが困難な状態であると考えられるので、前記STEP5−3の場合と同様に同定器25の初期化を行い(STEP5−11−2)、さらに、後述のスライディングモード制御の安定性の判断の際に使用するタイマカウンタtm(カウントダウンタイマ)の値を所定の初期値TMにセットする(タイマカウンタtmの起動。STEP5−11−4)。また、STEP5−11−3の判断で、|id/e|>ε0である場合、すなわち、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットがまだ十分に確定していない状態では、STEP5−11−4の処理を行って、前記タイマカウンタtmの値を初期値TMにセットする(タイマカウンタtmの起動)。
【0260】
尚、本実施形態では、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットのうち、同定ゲイン係数b1ハットの値が所定範囲内にあるか否かにより同定器25の同定処理の安定性を判断したが、他の同定ゲイン係数a1ハット,a2ハットについても同様の評価を行い、それらの値が不適切なものである場合にも同定器25の同定処理が不安定であるとして、STEP5−11−2及びSTEP5−11−4の処理を行うようにしてもよい。
【0261】
図11の説明に戻って、前述のように同定ゲイン係数ベクトルΘの評価処理を行った後、同定器25は、前記STEP5−6で設定されるフラグf/id/mngの値を判断し(STEP5−12)、f/id/mng=1である場合、すなわち、触媒装置3を通過した排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態(ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)に好適な挙動状態)である場合には、次回の制御サイクルの処理のために前記行列P(k)を前記式(9)により算出し(STEP5−13)、図8のメインルーチンの処理に復帰する。また、f/id/mng=0である場合には、次回の制御サイクルの処理の際に使用する前記行列P(k)を今現在の行列P(k-1)に維持し(STEP5−14)、図8のメインルーチンの処理に復帰する。
【0262】
以上が図8のSTEP5における同定器25の演算処理である。
【0263】
図8のメインルーチン処理の説明に戻って、前述の通り同定器25の演算処理が行われた後、空燃比操作量決定部13はゲイン係数a1,a2,b1を決定する(STEP6)。この処理では、図19のフローチャートに示すように、前記STEP2で設定されたフラグf/id/calの値が判断され(STEP6−1)、f/id/cal=1である場合、すなわち、同定器25によるゲイン係数a1,a2,b1の同定処理を行った場合には、ゲイン係数a1,a2,b1の値として、それぞれ前記STEP5−10(図11参照)で前述の通り同定器25により求められた同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットにそれぞれ所定のスケーリング係数g1,g2,g3によりスケーリングを施したものを設定する(STEP6−2)。尚、本実施形態ではスケーリング係数g1,g2,g3の値は、いずれも「1」としている。
【0264】
また、f/id/cal=0である場合、すなわち、同定器25によるゲイン係数a1,a2,b1の同定処理を行わなかった場合には、ゲイン係数a1,a2,b1の値をそれぞれあらかじめ定めた所定値とする(STEP6−3)。
【0265】
次いで、空燃比操作量決定部13は、図8のメインルーチンにおいて、前記推定器26による演算処理(推定偏差出力VO2バーの算出処理)を行う(STEP7)。
【0266】
この推定器26の演算処理は図20のフローチャートに示すように行われる。すなわち、推定器26は、前記STEP6で決定されたゲイン係数a1,a2,b1を用いて、前記式(13)で使用する係数α1,α2,βj(j=1〜d)を前述したように算出する(式(11)、(12)参照)(STEP7−1)。さらに、推定器26は、式(13)で使用するLAFセンサ5の偏差出力kact(前記図8のSTEP3で取得されたもの)のフィルタリング処理(ローパス特性のフィルタリング)を行った後(STEP7−2)、その偏差出力kactのフィルタリング値の時系列データと、O2センサの偏差出力VO2の時系列データ(前記図8のSTEP3で取得されたもの)とSTEP7−1で算出した係数α1,α2,βjとを用いて前記式(13)により、推定偏差出力VO2(k+d)バー(今回の制御サイクルの時点から無駄時間d後の偏差出力VO2の推定値)を算出する(STEP7−3)。
【0267】
ここで、前記STEP7−2においてLAFセンサ5の偏差出力kactのフィルタリングを行うのは次の理由による。すなわち、前述したように触媒装置3を含む対象排気系Eはローパス特性の周波数特性を有するため(図16参照)、該対象排気系Eの出力としての前記O2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに制御する上では、前記低周波数帯C(図6参照)を重視する必要がある。従って、スライディングモード制御器27が前記SLD操作入力uslを決定するために用いる推定偏差出力VO2バーを前記式(13)により求めるに際しても、低周波数帯C(図6参照)を重視することが好ましい。この場合、推定偏差出力VO2バーを求めるために式(13)で使用するO2センサ6の偏差出力VO2及びLAFセンサ5の偏差出力kactのうち、偏差出力VO2は、対象排気系Eがローパス特性であるために、高周波成分をほとんど含まないが、偏差出力kactは一般に高周波成分も含みやすい。このために、本実施形態では、LAFセンサ5の偏差出力kactのフィルタリング、すなわち、偏差出力kactの高周波成分の除去を行った上で、前記式(13)により推定偏差出力VO2バーを求めるようにしている。
【0268】
尚、上記のようなフィルタングは、前記同定器25におけるフィルタリングの場合と同様に、移動平均処理によって行われる。
【0269】
図8の説明に戻って、空燃比操作量決定部13は、次に、スライディングモード制御器27によって、前記SLD操作入力uslを算出する(STEP8)。
【0270】
このSLD操作入力uslの算出は、図21のフローチャートに示すように行われる。
【0271】
すなわち、スライディングモード制御器27は、まず、前記STEP8で推定器2により求められた推定偏差出力VO2バーの時系列データ(詳しくは、今回の制御サイクルで求められたVO2(k+d)バーと、前回の制御サイクルで求められたVO2(k+d-1)バー)を用いて、前記式(35)により定義された線形関数σバーの今回の制御サイクルから無駄時間d後の値σ(k+d)バー(これは、式(14)で定義された線形関数σの無駄時間d後の推定値に相当する)を算出する(STEP8−1)。
【0272】
次いで、スライディングモード制御器27は、上記STEP8−1で制御サイクル毎に算出されるσ(k+d)バーを累積的に加算していく(前回の制御サイクルで求められた加算結果に今回の制御サイクルで算出されたσ(k+d)を加算する)ことで、σ(k+d)バーの積算値(これは式(37)の右端の項に相当する)を算出する(STEP8−2)。尚、この場合、本実施形態では、σ(k+d)バーの積算値があらかじめ定めた所定範囲内に収まるようにし、σ(k+d)バーの積算値が所定の上限値又は下限値を超えた場合には、それぞれσ(k+d)バーの積算値を該上限値又は下限値に制限するようにしている。これは、σ(k+d)バーの積算値の大きさが過大になると、前記式(37)により求められる適応則入力uadpが過大となって、制御性が損なわれる虞れがあるからである。
【0273】
次いで、スライディングモード制御器27は、前記図8のSTEP6で決定されたゲイン係数b1のリミット処理を次のように行う(STEP8−3)。
【0274】
すなわち、図22のフローチャートを参照して、スライディングモード制御器27はゲイン係数b1の大きさがあらかじめ定めた所定値ε1よりも小さいか否かを判断し(STEP3−1)、|b1|≧ε1である場合には、そのまま図21のフローチャートの処理に復帰する。
【0275】
一方、|b1|<ε1である場合(b1≒0の場合)には、ゲイン係数b1の符号が正(b1=0の場合を含む)であるか否かに応じて、それぞれゲイン係数b1の値をあらかじめ定めた正の所定値(≧ε1)及び負の所定値(≦−ε1)に強制的に制限する。このように、ゲイン係数b1の大きさを制限して、該ゲイン係数b1が過小なものとなるのを防止するのは、前記式(34)、(36)、(37)を参照して明らかなように、ゲイン係数b1が、等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpの算出する際に、分母項として使用するものであるため、該ゲイン係数b1の大きさが小さ過ぎると、過大な等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpが算出されてしまうからである。
【0276】
尚、本実施形態では、ゲイン係数b1の値のみを制限するようにしたが、他のゲイン係数a1,a2の値も制限するようにしてもよい。
【0277】
図21の説明に戻って、上記のようにゲイン係数b1のリミット処理を行った後、スライディングモード制御器27は前記STEP8で推定器2により求められた推定偏差出力VO2バーの時系列データVO2(k+d)バー,VO2(k+d-1)バーと、STEP8−1及び8−2でそれぞれ求められた線形関数の値σ(k+d)バー及びその積算値と、STEP6で決定したゲイン係数a1ハット,a2ハット及びSTEP8−3で決定したゲイン係数b1ハットとを用いて、前記式(34)、(36)、(37)に従って、それぞれ等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpを算出する(STEP8−4)。
【0278】
さらにスライディングモード制御器27は、STEP8−4で求めた等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpを加算することで、前記SLD操作入力usl、すなわち、O2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束させるために必要な対象排気系Eへの入力(LAFセンサ5で検出される排ガスの空燃比と基準値FLAF/BASEとの偏差)を算出する(STEP8−5)。
【0279】
図8に戻って、上記のようにSLD操作入力uslを算出した後、空燃比操作量決定部13は、スライディングモード制御器27による適応スライディングモード制御の安定性の判別処理を行って、該適応スライディングモード制御が安定であるか否かを示すフラグf/sld/stbの値を設定する(STEP8−6)。
【0280】
この安定性の判別処理は図23のフローチャートに示すように行われる。
【0281】
すなわち、空燃比操作量決定部13は、まず、前記STEP8−1で算出される線形関数σバーの今回値σ(k+d)バーと前回値σ(k+d-1)バーとの偏差Δσバー(これは線形関数のσバーの変化速度に相当する)を算出する(STEP9−1)。
【0282】
次いで、空燃比操作量決定部13は、STEP9−1で算出した偏差Δσバーと線形関数σバーの今回値σ(k+d)バーとの積Δσバー・σ(k+d)バー(これはσバーに関するリアプノフ関数σバー2/2の時間微分関数に相当する)があらかじめ定めた所定値ε2(≧0)以下であるか否かを判断する(STEP9−2)。
【0283】
この場合、Δσバー・σ(k+d)バー>ε2となる状態は、σバー2が増加する側で、前記推定偏差出力VO2(k+d),VO2(k+d-1)が前記超平面σ=0から離間する方向へ変移している状態であるので、適応スライディングモード制御が不安定(前記STEP8で算出されるSLD操作入力uslが不適切)であると考えられる。このため、STEP9−2の判断で、Δσバー・σ(k+d)バー>ε2である場合には、適応スライディングモード制御が不安定であるとして、同定器25の初期化を行うべく前記フラグf/id/resetの値を「1」に設定し(STEP9−4)、さらに、前記STEP8で算出されるSLD操作入力uslを用いた目標空燃比KCMDの決定を所定時間、禁止するためにタイマカウンタtm(カウントダウンタイマ)の値を所定の初期値TMにセットする(タイマカウンタtmの起動。STEP9−5)。そして、前記フラグf/sld/stbの値を「0」(f/sld/stb=0は適応スライディングモード制御が不安定であることを示す)に設定する(STEP9−6)。
【0284】
尚、STEP9−2の判断で使用する所定値ε2は理論上は「0」でよいが、確率的外乱の影響を考慮すると、「0」よりも若干大きな値とすることが好ましい。
【0285】
一方、前記STEP9−2の判断で、Δσバー・σ(k+d)バー≦ε2である場合には、空燃比操作量決定部13は、線形関数σバーの今回値σ(k+d)バーがあらかじめ定めた所定範囲内にあるか否かを判断する(STEP9−3)。
【0286】
この場合、線形関数σバーの今回値σ(k+d)バーが、所定範囲内に無い状態は、前記推定偏差出力VO2(k+d),VO2(k+d-1)が前記超平面σ=0から大きく離間している状態であるので、適応スライディングモード制御が不安定(前記STEP8で算出されるSLD操作入力uslが不適切)であると考えられる。このため、STEP9−2の判断で、線形関数σバーの今回値σ(k+d)バーが、所定範囲内に無い場合には、適応スライディングモード制御が不安定であるとして、前述の場合と同様に、STEP9−5〜9−6の処理を行って、同定器25の初期化を行うべく前記フラグf/id/resetの値を「1」に設定すると共に、タイマカウンタtmを起動する。
【0287】
また、STEP9−3の判断で、線形関数σバーの今回値σ(k+d)バーが、所定範囲内にある場合には、空燃比操作量決定部13は、前記タイマカウンタtmを所定時間Δtm分、カウントダウンし(STEP9−7)、さらに、該タイマカウンタtmの値が「0」以下であるか否か、すなわち、タイマカウンタtmを起動してから前記初期値TM分の所定時間が経過したか否かを判断する(STEP9−8)。
【0288】
このとき、tm>0である場合、すなわち、タイマカウンタtmが計時動作中でまだタイムアップしていない場合は、STEP9−2あるいはSTEP9−3の判断で適応スライディングモード制御が不安定であると判断されてから、さほど時間を経過していない状態で、適応スライディングモード制御が不安定なものとなりやすいので、前記STEP9−6の処理を行って前記フラグf/sld/stbの値を「0」に設定する。
【0289】
そして、STEP9−8の判断でtm≦0である場合、すなわち、タイマカウンタtmがタイムアップしている場合には、適応スライディングモード制御が安定であるとして、フラグf/sld/stbの値を「1」(f/sld/stb=1は適応スライディングモード制御が安定であることを示す)に設定する(STEP9−9)。
【0290】
尚、前記タイマカウンタtmは、前記同定器25における同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの前述の評価処理(前記図18のフローチャートの処理)において、前記同定誤差id/eが未収束状態で、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットがまだ十分に確定していない場合でも起動される。このため、STEP9−2あるいはSTEP9−3の条件が満たされた場合であっても、STEP9−8の判断でtm>0となる場合があり、前記フラグf/sld/stbの値が「0」に設定される。これは、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットがまだ十分に確定していない段階では、該同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを用いた適応スライディングモード制御が不安定なものとなり易いからである。
【0291】
以上のような処理によって、スライディングモード制御器27による適応スライディングモード制御の安定性が判断され、不安定であると判断した場合には、フラグf/sld/stbの値が「0」に設定され、安定であると判断した場合には、フラグf/sld/stbの値が「1」に設定される。
【0292】
尚、本実施形態では、適応スライディングモード制御の安定性の判断は、基本的には、前記STEP9−2及び9−3の条件判断で行うようにしたが、いずれか一方の条件判断で行うようにしてもよく、あるいは、線形関数σバーの変化速度に相当する前記偏差Δσバーの大きさ(絶対値)を所定値と比較することで、適応スライディングモード制御の安定性の判断を行うようにすることも可能である。
【0293】
図8に戻って、上記のようにスライディングモード制御器27による適応スライディングモード制御の安定性を示すフラグf/sld/stbの値を設定した後、空燃比操作量決定部13は、フラグf/sld/stbの値を判断する(STEP10)。このとき、f/sld/stb=1である場合、すなわち、適応スライディングモード制御が安定であると判断された場合には、スライディングモード制御器27によって、前記STEP8で算出されたSLD操作入力uslのリミット処理が行われる(STEP11)。このリミット処理では、SLD操作入力uslの値や、その値の変化幅が所定範囲に制限され、STEP8で算出されたSLD操作入力uslの今回値usl(k)が所定の上限値又は下限値を超えている場合には、それぞれ、SLD操作入力uslの値が強制的に該上限値又は下限値に設定される。また、STEP8で算出されたSLD操作入力uslの今回値usl(k)の前回値usl(k-1)からの変化量が所定量を超えている場合には、SLD操作入力uslの値が強制的に前回値usl(k-1)に該所定量を加えた値に設定される。
【0294】
そして、空燃比操作量決定部13は、上記のようなSLD操作入力uslのリミット処理の後、スライディングモード制御器27によって、前記式(38)に従って前記目標空燃比KCMDを算出せしめ(STEP13)、今回の制御サイクルの処理終了する。
【0295】
また、前記STEP10の判断でf/sld/stb=0である場合、すなわち、適応スライディングモード制御が不安定であると判断された場合には、空燃比操作量決定部13は、今回の制御サイクルにおけるSLD操作入力uslの値を強制的に所定値(固定値あるいはSLD操作入力uslの前回値)に設定した後(STEP12)、スライディングモード制御器27によって、前記式(38)に従って前記目標空燃比KCMDを算出せしめ(STEP13)、今回の制御サイクルの処理終了する。
【0296】
尚、STEP13で最終的に決定される目標空燃比KCMDは、制御サイクル毎に図示しないメモリに時系列的に記憶保持される。そして、前記大局的フィードバック制御器17等が、空燃比操作量決定部13で決定された目標空燃比KCMDを用いるに際しては(図6のSTEPfを参照)、上記のように時系列的に記憶保持された目標空燃比KCMDの中から最新のものが選択される。
【0297】
以上説明した内容が本実施形態の装置の詳細な作動である。
【0298】
すなわち、その作動を要約すれば、基本的には空燃比操作量決定部13によって、触媒装置3の下流側のO2センサ6の出力VO2/OUT(これはプラントとしての対象排気系Eの出力に相当する)を目標値VO2/TARGETに収束(整定)させるように、触媒装置3に進入する排ガスの目標空燃比KCMD(これは、対象排気系Eの目標入力に相当する)が逐次決定され、この目標空燃比KCMDに従って、対象排気系Eへの入力(排ガスの空燃比)を生成するアクチュエータとしてのエンジン1の燃料供給量が該目標空燃比KCMD及び触媒装置3の上流側のLAFセンサ5の出力KACTに基づきフィードバック制御される。そして、上記のように触媒装置3の下流側のO2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに整定させることで、触媒装置3の経時劣化等によらずに、触媒装置3の最適な排ガス浄化性能を確保することができる。
【0299】
この場合、空燃比操作量決定部13は、本来的に外乱等の影響を受けにくいという特性を有するスライディングモード制御を用い、特に外乱等の影響を極力排除するための適応則を付加した適応スライディングモード制御を用いて前記目標空燃比KCMD(対象排気系Eの目標入力)を決定するため、O2センサ6の出力VO2/OUT(対象排気系Eの出力)を目標値VO2/TARGETに整定させる上で的確な目標空燃比KCMDを外乱等の影響を極力抑えて安定して求めることができ、ひいては、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの制御を安定して精度よく行うことができる。
【0300】
また、空燃比操作量決定部13のスライディングモード制御器27が適応スライディングモード制御により目標空燃比KCMDを決定するに際しては、推定器26により求められた推定偏差出力VO2、すなわち対象排気系Eの無駄時間d後のO2センサ6の偏差出力VO2の推定値を用い、その推定偏差出力VO2により示される無駄時間d後のO2センサ6の出力VO2/OUT(対象排気系Eの出力)の推定値を目標値VO2/TARGETに収束させるように目標空燃比KCMD(対象排気系Eの目標入力)が決定される。このため、対象排気系Eに存する無駄時間dの影響が補償(排除)され、これによっても、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御の安定性を高めることができる。
【0301】
さらに、本実施形態では、スライディングモード制御器27により制御すべき状態量Xとして、O2センサ6の偏差出力VO2の現在以前の時系列データVO2(k),VO2(k-1)(より詳しくは、O2センサ6の推定偏差出力VO2バーの最新値以前の時系列データVO2(k+d)バー,VO2(k+d-1)バー)を用いることで、スライディングモード制御器27の演算処理を対象排気系Eの離散系モデル上で構築することができ、スライディングモード制御器27の演算処理を離散時間的なコンピュータ処理に適した簡素なものとすることができる。
【0302】
さらに、上記のようにスライディングモード制御器27の演算処理のために対象排気系Eの離散系モデルを用いることで、該離散系モデルの設定すべきパラメータとしての前記ゲイン係数a1,a2,b1を、本実施形態のような同定器25を用いてリアルタイムで同定して、離散系モデルの実際の対象排気系Eに対するモデル化誤差を実際の対象排気系Eの挙動状態に則して最小限に留めることができる。そして、該同定器25で同定したゲイン係数a1,a2,b1を用いてスライディングモード制御器27の演算処理を行って目標空燃比KCMD(対象排気系Eの目標入力)を決定することで、O2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束制御する上で、的確な目標空燃比KCMDを対象排気系Eの実際の挙動状態に則して決定することができ、ひいては、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御の精度を高めることができる。特に、スライディングモード制御器27により制御すべき状態量Xが前記超平面σ=0に収束していない段階でのモデル化誤差の影響が極力抑えられるため、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御の安定性を高めることができる。
【0303】
また、前記推定器26にあっても、対象排気系Eの離散系モデルを用いて演算処理を行うことで、その演算処理をコンピュータ処理に適した簡素なものとすることができる。そして、前記同定器25によりリアルタイムで同定された離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1を用いて推定器25の演算処理を行うことで、対象排気系Eの無駄時間d後のO2センサ6の出力VO2/OUTの推定値を表す前記推定偏差出力VO2バーの精度を高めることができ、このような推定偏差出力VO2バーを用いてスライディングモード制御器27により目標空燃比KCMDを決定することで、無駄時間dの影響を確実に排除して、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御を行うことができる。
【0304】
また、本実施形態では、同定器25による離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1の同定処理に際して、その処理に用いる前記同定偏差出力VO2ハット(これは対象排気系Eの離散系モデル上での出力に相当する)と、前記偏差出力VO2(これは対象排気系Eの実際の出力に相当する)とに、対象排気系Eの入力変化に対する出力変化のゲインが比較的大きなものとなる周波数帯(図16の低周波数帯C)に重みを有するフィリタリングを施すことによって、離散系モデルの周波数特性が実際の対象排気系Eの周波数特性に適合するように前記同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットを算出することができる。そして、このような同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットを用いてスライディングモード制御器27によって目標空燃比KCMDを決定すると共に推定器26による推定偏差出力VO2バーの算出処理を行うことで、O2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束制御する上で重要な周波数帯における制御性を高めることができる。また、上記のフィルタリングの重み特性を適切に設定することで、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御の安定性や、速応性を高めることができる。
【0305】
また、本実施形態では、O2センサ6の偏差出力VO2により把握される対象排気系Eの出力の挙動状態が、触媒装置3を通過した排ガスの空燃比(これはO2センサ6の出力VO2/OUTに相当する)がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態、すなわち、ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)に好適な特定の挙動状態である場合において、離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1の同定処理を行うようにしているため、スライディングモード制御器27による目標空燃比KCMDの決定処理や推定器26による推定偏差出力VO2バーの算出処理を的確に行う上で好適な同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットを算出することができ、ひいては、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御を確実に行うことができる。
【0306】
また、本実施形態では、同定器25による同定処理の安定性やスライディングモード制御器27による適応スライディングモード制御の安定性を判断し、それらが不安定と判断される場合に、同定器25の初期化を行うため、不適正な同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットを用いて、スライディングモード制御器27により不適正な目標空燃比KCMDが決定されたり、推定器26により不適正な推定偏差出力VO2バーが算出されたりするような事態を回避することができる。
【0307】
また、本実施形態では、スライディングモード制御器27による適応スライディングモード制御が不安定であると判断された場合や、その判断後、前記タイマカウンタtmの初期値TM分の所定時間が経過するまでは、前記SLD操作入力uslを所定値として目標空燃比KCMDを決定するため、O2センサ6の出力VO2/OUTが異常な状態に制御されるような事態を確実に排除することができる。
【0308】
尚、本発明、特に本発明の内燃機関の排気系の空燃比制御装置は、前述した第1及び第2の実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような変形態様も可能である。
【0309】
すなわち、前記第1及び第2の実施形態では、第2排ガスセンサとして、LAFセンサ(広域空燃比センサ)5を用いたが、第2排気ガスセンサは排ガスの空燃比を検出できるものであれば、通常のO2センサ等、他の形式のセンサを用いてもよい。
【0310】
また、前記第1及び第2の実施形態では、第1排ガスセンサとしてO2センサ6を用いたが、第1排ガスセンサは、制御すべき触媒装置下流の排ガスの特定成分の濃度を検出できるセンサであれば、他のセンサを用いてもよい。すなわち、例えば触媒装置下流の排ガス中の一酸化炭素(CO)を制御する場合はCOセンサ、窒素酸化物(NOX)を制御する場合にはNOXセンサ、炭化水素(HC)を制御する場合にはHCセンサを用いる。三元触媒装置を使用した場合には、上記のいずれのガス成分の濃度を検出するようにしても、触媒装置の浄化性能を最大限に発揮させるように制御することができる。また、還元触媒装置や酸化触媒装置を用いた場合には、浄化したいガス成分を直接検出することで、浄化性能の向上を図ることができる。
【0311】
また、第1及び第2の実施形態では、対象排気系Eの離散系モデルや、同定器25、推定器26、スライディングモード制御器27の演算処理において、LAFセンサ5の偏差出力ka ctやO2センサ6の偏差出力VO2を用いたが、LAFセンサ5の出力KACTやO2センサ6の出力VO2/OUTをそのまま用いて、対象排気系Eの離散系モデルを構築したり、同定器25、推定器26、スライディングモード制御器27の演算処理を行うようにしてもよい。但し、離散系モデルの簡素化や同定器25、推定器26、スライディングモード制御器27の演算処理の簡素化を図る上では、本実施形態のように偏差出力kact,VO2を用いることが好ましい。また、この場合において、偏差出力kact(=KACT−FLAF/BASE)に係わる前記基準値FLAF/BASEは必ずしも一定値とする必要はなく、該基準値FLAF/BASEをエンジン1の回転数NEや吸気圧PB等に応じて設定するようにしてもよい。
【0312】
また、第1及び第2の実施形態では、空燃比操作量決定部13により決定する操作量を触媒装置3に進入する排ガスの目標空燃比KCMD(対象排気系Eの目標入力)とし、その目標空燃比KCMDに従ってエンジン1の燃料供給量をフィードバック制御するようにしたが、例えばエンジン1の燃料供給量の補正量を空燃比操作量決定部13により決定するようにすることも可能であり、また、目標空燃比KCMDからフィードフォワード的にエンジン1の燃料供給量を制御するようにすることも可能である。
【0313】
また、第1及び第2の実施形態では、スライディングモード制御器27は、外乱の影響を考慮した適応則を有する適応スライディングモード制御を用いたが、該適応則を省略した一般のスライディングモード制御を用いるようにしてもよい。
【0314】
また、第1及び第2の実施形態では、スライディングモード制御器27は、制御すべき状態量を二つの偏差出力VO2(k),VO2(k-1)としたが、さらに多くの偏差出力(例えばVO2 (k),VO2(k-1),VO2(k-2)等)を制御すべき状態量として用いるようにしてもよい。
【0315】
また、第1及び第2の実施形態では、適応スライディングモード制御が不安定であると判断した場合に、前記SLD操作入力uslを強制的に所定値とし、従って、目標空燃比KCMDも所定値となるようにしたが、適応スライディングモード制御が不安定であると判断した場合に、例えばPID制御器等、空燃比操作量決定部13とは別に備えた制御器を用いて、暫定的にO2センサ6の出力VO2/OUTが目標値VO2/TARGETに収束するように目標空燃比KCMDを決定するようにしてもよい。
【0316】
また、第1及び第2の実施形態では、推定器26による演算処理とスライディングモード制御器27の演算処理とを、前記式(1)により表される対象排気系Eの同一の離散系モデルに基づいて行うようにしたが、推定器26とスライディングモード制御器27とで各別の離散系モデルに基づいて演算処理を行うようにしてもよい。さらにこの場合、推定器26用の離散系モデルのパラメータは、あらかじめ定めた所定値に保持したり、エンジン1の運転状態や触媒装置3の劣化状態に応じてマップ等を用いて適宜設定するようにしてもよく、さらには、推定器26による演算処理は、対象排気系Eの連続系モデルに基づいて行うようにしてもよい。
【0317】
さらに、排気系の無駄時間が十分に小さいような場合にあっては、推定器26を省略するようにしてもよく、この場合には、例えば前記第1の実施形態において、無駄時間d=0として、推定器26の処理を省略すればよい。この場合、スライディングモード制御器は、前記式(20)、(21)、(25)において、d=0とした式によって、目標空燃比KCMDを決定するための等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpを求めるようにすればよい。また、この場合において、第2の実施形態のように同定器25により同定するパラメータの値を制限する場合には、その制限条件は、推定器26の処理と無関係に、制御の安定性等を考慮し、各種実験やシミュレーションを通じて設定すればよい。
【0318】
また、第1及び第2の実施形態では、スライディングモード制御器27により同定器25で同定された離散系モデルのゲイン係数a1,a2,b1を用いて目標空燃比KCMDを決定するようにしたが、適応制御器等の他の漸化式形式の制御器により同定されたゲイン係数a1,a2,b1を用いて目標空燃比KCMDを決定するようにしてもよく、さらには、同定されたゲイン係数a1,a2,b1を用いて目標空燃比KCMDを決定し得るものであれば、ファジー制御器やニューラルネットワーク型の制御器を用いてよい。
【0319】
また、第1及び第2の実施形態では、対象排気系Eの無駄時間dをあらかじめ定めた値に設定したが、ゲイン係数a1,a2,b1と共に該無駄時間dを同定するようにすることも可能である。そして、この場合において、同定する無駄時間dの値を前記第2の実施形態と同様に適当な条件によって制限するようにしてもよい。
【0320】
また、第1及び第2の実施形態では、同定器25によるゲイン係数a1,a2,b1の同定を触媒装置3を通過した排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態において行うようにしたが、該空燃比がリッチ側からリーン側に変化する挙動状態において同定を行うようにしてもよく、さらには、該挙動状態を区別することなく任意の挙動状態において、逐次ゲイン係数a1,a2,b1の同定を行ったり、あるいは排ガスの空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態と排ガスの空燃比がリッチ側からリーン側に変化する挙動状態とで各別にゲイン係数a1,a2,b1の同定を行うようにしてもよい。このような場合には、推定器26とスライディングモード制御器27とで用いるゲイン係数a1,a2,b1は、同定器25で実際に今回の制御サイクルで同定したゲイン係数を用いることとなる。
【0321】
また、本発明のプラントの制御装置に関し、前記第1及び第2の実施形態では、内燃機関の排気系の制御装置を例にとって説明したが、本発明のプラントの制御装置は前記実施形態に限られるものではない。
【0322】
以下に本発明のプラントの制御装置の他の一実施形態を図27を参照して説明する。
【0323】
図27において、30はプラントであり、このプラント30には、流量制御器31(アクチュエータ)により流量を調整可能なアルカリ液が入力される。そして、該プラント30は、与えられたアルカリ液に酸性液を合流させ、それを攪拌器32により攪拌してなる混合液を出力するものである。
【0324】
本実施形態の制御装置は、このようなプラント30が出力する混合液(アルカリ液と酸性液との混合液)のpHが所望のpH(例えば中性に相当するpH値)になるようにプラント30に入力されるアルカリ液の流量を制御するもので、その制御のために次のような構成を備えている。
【0325】
すなわち、本実施形態の制御装置は、プラント30の出力側に該プラント30の出力である前記混合液のpHを検出すべく設けられたpHセンサ33(第1検出手段)と、プラント30の入力側に該プラントの入力であるアルカリ液の流量を検出すべく設けられた流量センサ34と、これらのpHセンサ33及び流量センサ34のそれぞれの出力V1/OUT,V2/OUTに基づき後述の演算処理を行う制御ユニット35とを具備する。
【0326】
制御ユニット35は、マイクロコンピュータ等により構成されたもので、pHセンサ33の出力V1/OUTとその目標値V1/TARGET(これは前記混合液の目標pHに相当するもの)との偏差V1(=V1/OUT−V1/TARGET)をpHセンサ33の出力を示すデータとして算出する減算処理部36と(以下、偏差V1をpHセンサ33の偏差出力V1という)、流量センサ34の出力V2/OUTと所定の基準値V2/REF(これは任意に設定してよい)との偏差V2(=V2/OUT−V2/REF)を流量センサ34の出力を示すデータとして算出する減算処理部37と(以下、偏差V2を流量センサ34の偏差出力V2という)、上記偏差出力V1,V2に基づいて、pHセンサ33の出力V1/OUTをその目標値V1/TARGETに収束させるためにプラント30に与えるべきアルカリ液の目標流量V2CMDをプラント30への入力を規定する操作量として決定する操作量決定部38と、流量センサ34の出力V2/OUT(検出流量)を目標流量V2CMDに一致させるように前記流量制御器31の動作量をフィードバック制御するフィードバック制御部39とを具備する。
【0327】
前記操作量決定部38は、前述の第1実施形態の空燃比操作量決定部13と同様に同定器、推定器及びスライディングモード制御器(図示しない)を備えている。そして操作量決定部38は、例えば前記式(1)のVO2,kactをそれぞれ前記偏差出力V1,V2で置き換えて成るプラント30の離散系モデルを用い、該空燃比操作量決定部13の同定器25、推定器26及びスライディングモード制御器27と同様の演算処理を行うことで、プラント30の離散系モデルのパラメータの同定値(これは前述の実施形態における同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットに対応する)の算出や、プラント30に存する無駄時間後のpHセンサ33の出力V1/OUTもしくは偏差出力V1の推定値(これは前述の実施形態における推定偏差出力VO2バーに対応する)の算出、上記パラメータの同定値やpHセンサ33の出力V1/OUTもしくは偏差出力V1の推定値を用いた前記目標流量V2CMD(これは前述の実施形態における目標空燃比KCMDに対応する)の算出を行う。
【0328】
この場合、前述の実施形態において説明したような同定器におけるフィルタリング処理や推定器におけるフィルタリング処理は、プラント30の周波数特性を考慮し、基本的には、プラント30の入力変化に対する出力変化のゲインが比較的大きなものとなる周波数帯を重視したフィルタリング処理を、必要に応じて前述の実施形態と同様に施すようにすればよい。
【0329】
また、同定器による同定処理をプラント30の特定の挙動状態で行うに際しては、離散系モデルのパラメータの同定に適した挙動状態を実験等を通じて定めておき、その挙動状態をpHセンサ33の出力V1/OUTもしくは偏差出力V1に基づいて把握して同定処理を行うようにすればよい。
【0330】
尚、前記フィードバック制御部39は、例えば前述の実施形態の大局的フィードバック制御部15と同様に、図示しないPID制御器あるいは適応制御器等により、流量センサ34の出力V2/OUT(検出流量)が前記目標流量V2CMDに一致するように流量制御器31の動作をフィードバック制御する。
【0331】
このような本実施形態の装置によれば、プラント30に与えられるアルカリ液のpHや、該アルカリ液にプラント30内で混合する酸性液のpH、該酸性液の流量を把握せずとも、外乱の影響やプラント30に存する無駄時間の影響によらずに、適応スライディングモード制御を用いて精度よくpHセンサ33の出力V1/OUT、すなわちプラント30が生成する混合液のpHを所望のpHに制御することができる。
【0332】
尚、本実施形態のプラントの制御装置は、前記空燃比制御装置の実施形態について説明した変形態様と同様の各種の変形態様が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のプラントの制御装置の第1の実施形態の全体的システム構成図。
【図2】図1の装置で使用するO2センサの出力特性図。
【図3】図1の装置の空燃比操作量決定部の基本構成を示すブロック図。
【図4】図1の装置で用いるスライディングモード制御を説明するための説明図。
【図5】図1の装置の適応制御器の基本構成を示すブロック図。
【図6】図1の装置のエンジンの燃料制御に係わる処理を説明するためのフローチャート。
【図7】図6のフローチャートにおけるサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図8】図1の装置の空燃比操作量決定部の全体的処理を説明するためのフローチャート。
【図9】図8のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図10】図8のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図11】図8のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図12】図11のフローチャートのサブルーチン処理を説明するための説明図。
【図13】図11のフローチャートのサブルーチン処理を説明するための説明図。
【図14】図11のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図15】図11のフローチャートのサブルーチン処理を説明するための説明図。
【図16】図11のフローチャートのサブルーチン処理を説明するための説明図。
【図17】図11のフローチャートのサブルーチン処理を説明するための説明図。
【図18】図11のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図19】図8のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図20】図8のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図21】図8のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図22】図21のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図23】図8のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図24】本発明のプラントの制御装置の他の実施形態の全体的システム構成図。
【符号の説明】
1…エンジン(アクチュエータ)、3…触媒装置、E…対象排気系(プラント)、6…O2センサ(検出手段)、13…空燃比操作量決定部、25…同定器、26…推定器、27…スライディングモード制御器、30…プラント、31…流量制御器(アクチュエータ)、33…pHセンサ(検出手段)、38…操作量決定部。
Claims (5)
- プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記検出手段の出力が所定の目標値になるようにスライディングモード制御により前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かを判断する手段とを備え、前記操作量決定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含むスライディングモード制御の所定の演算式により前記操作量を決定する手段であり、前記同定処理が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に設定して、その所定値のパラメータの値により規定される前記係数を含む前記所定の演算式により前記操作量を決定するようにしたことを特徴とするプラントの制御装置。
- プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて逐次更新しつつ同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記検出手段の出力が所定の目標値になるようにスライディングモード制御により前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かを判断する手段とを備え、前記操作量決定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含むスライディングモード制御の所定の演算式により前記操作量を決定する手段であり、前記同定手段は、前記同定処理が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に初期化して同定処理を行うことを特徴とするプラントの制御装置。
- プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記プラントが有する無駄時間後の検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する推定手段と、該推定手段により生成されたデータにより示される検出手段の出力の推定値を用いて該検出手段の出力が所定の目標値になるように前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かを判断する手段とを備え、前記推定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含む推定用の所定の演算式により前記検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する手段であり、前記同定処理が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モ デルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に設定して、その所定値のパラメータの値により規定される前記係数を含む前記所定の演算式により前記検出手段の出力の推定値を示すデータを生成することを特徴とするプラントの制御装置。
- プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて逐次更新しつつ同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記プラントが有する無駄時間後の検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する推定手段と、該推定手段により生成されたデータにより示される検出手段の出力の推定値を用いて該検出手段の出力が所定の目標値になるように前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記同定手段により同定されたパラメータのうちの前記モデルの入力に係るパラメータの値が所定範囲内にあるか否かを判断することにより、前記同定手段の同定処理が安定であるか否かを判断する手段とを備え、前記推定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含む推定用の所定の演算式により前記検出手段の出力の推定値を示すデータを生成する手段であり、前記同定手段は、前記同定処理が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に初期化して同定処理を行うことを特徴とするプラントの制御装置。
- プラントへの入力を生成するアクチュエータと、前記プラントの出力を検出する検出手段と、該プラントをモデル化してなるモデルに対し、該モデルの設定すべきパラメータを前記検出手段の出力を示すデータを用いて逐次更新しつつ同定する同定手段と、該同定手段により同定されるパラメータを用いて前記検出手段の出力が所定の目標値になるようにスライディングモード制御により前記プラントへの入力を規定する操作量を決定する操作量決定手段と、前記スライディングモード制御の安定性を判断する手段とを備え、前記操作量決定手段は、前記モデルのパラメータの値により規定される係数を含むスライディングモード制御の所定の演算式により前記操作量を決定する手段であり、前記スライディングモード制御の安定性を判断する手段は、該スライディングモード制御用の超平面を規定する線形関数の値に関するリアプノフ関数の時間微分関数の値が所定の判定値よりも大きいか否か、または、該線形関数の値が所定範囲内にあるか否かにより、該スライディングモード制御が安定であるか否かを判断する手段であり、前記同定手段は、前記スライディングモード制御が不安定と判断されたときには、前記モデルのパラメータの値を、前記プラントの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値よりも前記モデルの入力変化に対する出力変化のゲインの周波数特性における該ゲインの値が大きくなり、且つ、前記プラント側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向と前記モデル側の周波数特性におけるゲインの変化の傾向とが同じになるように定められた所定値に初期化して同定処理を行うことを特徴とするプラントの制御装置。
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