JP3773362B2 - ラジカル重合における立体規則性の制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、ラジカル重合において重合体の立体規則性を制御する方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、アクリル系モノマーをフッ素含有分岐アルコール中でラジカル重合することからなる、重合体の立体規則性の制御方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、重合体の物性は主鎖の立体規則性により変化することはよく知られている。すなわち、イソタクチシチーあるいはシンジオタクチシチーが高いほど、重合体の結晶性が高くなり、繊維やフィルムといった成型物の耐熱性や強度等が向上する。
【0003】
現在、ビニルモノマーの重合方法としては、ラジカル重合法が最も一般的に使用されている。これは、ラジカル重合法が、イオン重合や配位重合等の他の重合方法に比べて、不純物の影響を受けにくいことや、広範なモノマーが使用可能であること等の理由による。さらに最近、リビング重合がラジカル重合法においても可能になり、その重合方法の有用性はますます高まっている。
【0004】
しかしながら、ラジカル重合における残された大きな問題は、他の重合方法に比べて立体規則性の制御が困難な点である。
通常、ラジカル重合により得られる重合体の立体規則性は低く、例えばメタクリル酸エステルの重合では、重合温度を低くするとシンジオタクチシチーが向上することが知られているものの、重合溶媒等によって立体規則性が大きく変化する例はほとんど知られていない。また、ラジカル重合で重合体の立体規則性を制御できた例としては、側鎖の嵩高いビニルモノマー、あるいはキラル補助基を側鎖に導入したモノマーの重合により、イソタクチシチーを向上させた例が知られている(例えば、Polym. J. 、第28巻、第51頁、1996年、あるいは、J. Am. Chem. Soc. 、第114巻、第7676頁、1992年)。しかし、使用するビニルモノマーの構造をその都度変化させる必要があったり、またビニルモノマー自身が高価にならざるを得ないといった問題点がある。
【0005】
従って、以上のとおりの事情から、現在一般的に使用されているビニルモノマーのラジカル重合において立体規則性を効果的に制御することのできる新しい方法の実現が強く求められていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
この出願の発明は、以上のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、より簡便に、現在一般的に用いられているアクリル系モノマーから、立体規則性の制御された、品質、物性等が良好な重合体を製造することのできる、重合体の立体規則性の制御方法を提供することを課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この出願は、上記の課題を解決するために、まず第1の発明として、次式
【0008】
【化2】
【0009】
(式中、R1 およびR2 は、各々、その一部が塩素原子で置換されていてもよいフッ素化炭化水素基を示し、R3 は炭化水素基、フッ素化炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、または水素原子を示す)
で表わされ、かつ、pKaが4以上10未満であるフッ素含有分岐アルコール溶媒中で、アクリル系モノマーをラジカル重合することを特徴とする、重合体の立体規則性の制御方法を提供する。また、この出願は、上記の第1の発明に関して、第2の発明として、R1 、R2 およびR3 が、各々、炭素数1〜3のフッ素化炭化水素基である方法や、第3の発明として、フッ素含有分岐アルコールがパーフルオロ−tert−ブタノールである方法、そして第4の発明として、アクリル系モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、あるいはそれらの塩またはエステル、あるいはアクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルのうちの少なくとも1種である方法も提供する。
【0010】
そしてまた、この出願の発明は、第5の発明として、上記の第1ないし第4の発明のいずれかの方法によって、立体規則性を制御したラジカル重合体を製造することを特徴とする重合体の製造方法を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、この出願の発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、前記式により表わされるフッ素含有分岐アルコールについて説明すると、式中のR1 およびR2 は、その各々が、炭化水素基の炭素原子に結合する水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換されたフッ素化炭化水素基、もしくは前記水素原子の一部が塩素原子により置換され、しかも少なくとも1以上のフッ素原子が炭素原子に結合している塩素化フッ素化炭化水素基である。
【0012】
その際の炭素原子の数については任意であってよいが、合成や入手の容易性、重合反応の安定性や選択性の観点からは、一般的には10以下、さらには6以下を目安とするのが適当であり、より好適には、その炭素数は1〜3である。R3 が炭化水素基またはフッ素化炭化水素基の場合も前記と同様のものとして考慮される。
【0013】
R1 、R2 およびR3 を持つフッ素含有分岐アルコールを例示すると、パーフルオロ−tert−ブタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−フェニル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ジフルオロクロロメチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−トリクロロメチル−2−プロパノール、等を挙げることができる。
【0014】
なお、この発明で使用されるフッ素含有分岐アルコールのpKaとしては、4から10の範囲にあることが必要であり、メタノール(pKa=16)、tert−ブタノール(pKa=19)、2,2,2−トリフルオロエタノール(pKa=12.4)等のフッ素の置換度の小さい、pKaが10以上のアルコールでは、側鎖カルボニル基との水素結合力が弱いため、立体規則性はあまり変化しない。一方、適度なpKaをもつ酢酸(pKa=4.8)や嵩高いピバリン酸(pKa=5.0)を溶媒に用いてもタクチシチーはあまり変化しない。これは、カルボン酸間の水素結合が可能で、モノマー側鎖のカルボニル基との水素結合が低下することに加え、これらのカルボン酸では、静電反発を含めた嵩高さが不十分であるためと推定される。逆にpKaが小さすぎると、モノマーと反応してしまう可能性があり不適当である。従って、この発明におけるフッ素含有分岐アルコールとしては、パーフルオロ−tert−ブタノール(pKa=5.2)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ジフルオロクロロメチル−2−プロパノール(pKa=5.3)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(pKa=9.3)等の、pKaが4から10のものが適当である。
【0015】
この発明の重合反応で用いられる重合開始剤としては、アゾ系化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤が使用できる。また重合反応を促進させるために、増感剤を添加したり、紫外光を照射したりすることも可能である。
重合温度は通常のラジカル重合で用いられる温度範囲であればいかなる温度でもよいが、低い方が溶媒効果がより顕著となるためにより好適である。
【0016】
使用されるアクリル系モノマーとしては、代表的に(メタ)アクリル酸、あるいはその塩あるいはエステル、あるいは(メタ)アクリル酸アミド、あるいは(メタ)アクリロニトリル等が示される。ただし、この発明では、これに限定されることなしに、各種のアクリル系モノマーが用いられてよい。
また、フッ素含有分岐アルコール中でのこれらのアクリル系モノマーの重合に際し、共重合可能なビニルモノマー、たとえばエチレン、プロピレン、イソブテン等のα−オレフィン、あるいはスチレン、α−メチルスチレン、その他のスチレン誘導体、あるいはブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー、あるいはアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル、ビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルスルホン酸あるいはその塩等を少量存在させることも可能である。
【0017】
アクリル系モノマーの重合において用いられる前記のフッ素含有分岐アルコールの使用量については10〜90容量部%、より好ましくは30〜80容量部%程度の範囲になることを目安とる。
この発明では、たとえば以上のようなフッ素含有分岐アルコール溶媒中でアクリル系モノマーを重合することによりラジカル重合体の立体規則性を制御するが、ここで「立体規則性を制御する」とのことは、生成するラジカル重合体のイソタクチシチーあるいはシンジオタクチシチーを向上させることを意味している。得られる重合体の立体規則性が制御される理由は明確ではないが、適度なpKaをもつことで側鎖官能基との比較的強い水素結合が可能となり、さらに分岐フルオロカーボン基による立体反発効果と静電反発効果の両方の相乗効果によって、側鎖の見かけの嵩高さが大きくなるために、立体規則性が変化したものと推定される。用いるフッ素含有分岐アルコール溶媒は多少高価であるが、回収再利用可能であるので、特殊なビニルモノマーから重合体を合成するより長期的には有利である。
【0018】
この発明の方法により、アクリル系モノマーのラジカル重合において、得られる重合体の立体規則性を制御することが可能となる。そして、得られる重合体は機械的性質、熱的性質に優れたものである。
【0019】
【実施例】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例に用いた測定法は次の通りである。
<シンジオタクチシチー(rr三連子)>
メタクリル酸メチルについてはそのまま、メタクリル酸エチルおよびメタクリル酸−tert−ブチルについてはメタクリル酸メチルに変換後、400MHzNMR装置(バリアン社製)により重合体のプロトンNMRを測定し、三連子(mm/mr/rr)の割合(%)を求めた。
<重合度>
カラム(東ソー社製、TSKgelGMHHR−HおよびG3000HHR)および示差屈折率計(日本分光社製、RI−930)を備えたゲル浸透クロマトグラフ(日本分光社製)により、40℃、テトラヒドロフラン溶媒中で、重合体の数平均分子量をポリスチレン換算で求め、それぞれモノマーの分子量で除して重合度を算出した。
実施例1
メタクリル酸メチル12重量部(1.9mol/L)、パーフルオロ−tert−ブタノール88重量部(80vol%)に重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリルを0.2重量部(0.02mol/L)加え、高圧水銀ランプによる紫外線照射下、20℃で24時間重合した。メタノールに沈殿して得られたポリメタクリル酸メチルの重合度をゲル浸透クロマトグラフにより求めた。また、プロトンNMR測定からシンジオタクチシチー(rr)を求めた。結果を表1に示した。メタクリル酸メチルをモノマーとし、メタノールを溶媒として用いた後記の比較例1の結果との対比より明らかなように、シンジオタクチシチー(rr三連子)の割合は約10%も高まっている。
実施例2
メタクリル酸メチル12重量部(1.9mol/L)、パーフルオロ−tert−ブタノール88重量部(80vol%)に重合開始剤としてトリブチルホウ素を1.2重量部(0.10mol/L)加え、反応系に空気を導入し、−40℃で24時間重合した。実施例1と同様にして重合度およびシンジオタクチシチー(rr)を求めた。結果を表1に示した。反応温度を−40℃に低下させることにより、実施例1の場合よりも収率は低下しているが、メタクリル酸メチルをモノマーとし、メタノールを溶媒として用いた後記の比較例1の結果との対比より明らかなように、シンジオタクチシチー(rr三連子)の割合は17%も高まっている。
実施例3
メタクリル酸メチル13重量部(1.9mol/L)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール87重量部(80vol%)に重合開始剤としてトリブチルホウ素を1.2重量部(0.10mol/L)加え、反応系に空気を導入し、−40℃で24時間重合した。実施例1と同様にして重合度およびシンジオタクチシチー(rr)を求めた。結果を表1に示した。実施例2と同様に−40℃の反応温度で収率は低下しているが、メタクリル酸メチルをモノマーとし、メタノールを溶媒として用いた後記の比較例1の結果との対比より明らかなように、シンジオタクチシチー(rr三連子)の割合は13%も高まっている。
実施例4
メタクリル酸エチル12重量部(1.6mol/L)、パーフルオロ−tert−ブタノール88重量部(80vol%)に重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリルを0.2重量部(0.02mol/L)加え、高圧水銀ランプによる紫外線照射下、20℃で24時間重合した。実施例1と同様にして重合度およびシンジオタクチシチー(rr)を求めた。結果を表1に示した。メタクリル酸エチルをモノマーとし、トルエンを溶媒とした後記の比較例2との対比から明らかなように、シンジオタクチシチー(rr三連子)の割合は約10%も高まっていることがわかる。
実施例5
メタクリル酸−tert−ブチル12重量部(1.2mol/L)、パーフルオロ−tert−ブタノール88重量部(80vol%)に重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリルを0.2重量部(0.02mol/L)加え、高圧水銀ランプによる紫外線照射下、20℃で24時間重合した。実施例1と同様にして重合度およびシンジオタクチシチー(rr)を求めた。結果を表1に示した。メタクリル酸−tert−ブチルをモノマーとし、トルエンを溶媒とした後記の比較例3との対比から明らかなように、シンジオタクチシチー(rr三連子)の割合は約10%も高まっている。
比較例1
メタクリル酸メチル23重量部(1.9mol/L)、メタノール77重量部(80vol%)に重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリルを0.4重量部(0.02mol/L)加え、高圧水銀ランプによる紫外線照射下、20℃で24時間重合した。実施例1と同様にして重合度およびシンジオタクチシチー(rr)を求めた。結果を表1に示した。
比較例2
メタクリル酸エチル21重量部(1.6mol/L)、トルエン79重量部(80vol%)に重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリルを0.4重量部(0.02mol/L)加え、高圧水銀ランプによる紫外線照射下、20℃で24時間重合した。実施例1と同様にして重合度およびシンジオタクチシチー(rr)を求めた。結果を表1に示した。
比較例3
メタクリル酸−tert−ブチル20重量部(1.2mol/L)、トルエン80重量部(80vol%)に重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリルを0.4重量部(0.02mol/L)加え、高圧水銀ランプによる紫外線照射下、20℃で24時間重合した。実施例1と同様にして重合度およびシンジオタクチシチー(rr)を求めた。結果を表1に示した。
【0020】
【表1】
【0021】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によれば、アクリル系モノマーのラジカル重合において、工業的に有利な条件で立体規則性を制御することができる。そして得られた重合体は機械的性質、熱的性質に優れたものとなる。
Claims (5)
- R1 、R2 およびR3 は、各々、炭素数1〜3のフッ素化炭化水素基である請求項1の方法。
- フッ素含有分岐アルコールがパーフルオロ−tert−ブタノールである請求項1または2の方法。
- アクリル系モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、およびそれらの塩またはエステル、あるいはアクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルのうちの少なくとも1種である請求項1ないし3のいずれかの方法。
- 請求項1ないし4のいずれかの方法によって、立体規則性を制御したラジカル重合体を製造することを特徴とする重合体の製造方法。
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