JP3769912B2 - アルミ系鋳物の鋳造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プーリー、ピストン等の軽金属鋳物に鋼材等の異種金属部品のインサート部材を鋳ぐるみ鋳造するアルミ系鋳物の鋳造方法の改良、特に、鋳型に溶湯を注湯した後の冷却方法の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エンジンに付設するクランクプーリーの製造等においては、軽量化するために本体部分にアルミニウムやアルミニウム合金等の軽金属材料を使用し、Vベルトが当接するような摩耗の激しい部分を耐摩耗性に優れた鉄系金属部材からなるインサート部材(被鋳ぐるみ材)を鋳ぐるんだ鋳物部材が使用されている。この鋳物は、インサート部材を鋳型内の所定の位置に保持して、軽金属材料からなる鋳ぐるみ母材の溶湯を流し込んで一体化して鋳造して製作している。
【0003】
この鋳ぐるみ鋳造の工程を一例を上げて簡単に説明すると、例えばSPCC材のみがき鋼で製作されたインサート部材は、そのまま鋳ぐるんでも軽合金材料の鋳ぐるみ母材との接合性が悪く、接合面で分離をし易いため、接合性を改善するための前処理が行われる。
この前処理として、インサート部材にアルカリ脱脂処理、溶剤脱脂処理、マスキング処理等を行い、更に、この表面処理を施したインサート部材に対してアルミナイズド処理を行う。このアルミナイズド処理により、このインサート部材の表面にアルミニウムと鉄の化学的結合層を形成させて、アルミ系鋳物を作る際にアルミ母材に馴染むようにする。このアルミナイズド処理は、インサート部材を、730℃前後に温度管理されている溶融したアルミ溶湯内に所定の時間浸漬することにより行う。
【0004】
そして、鋳造工程においては、鋳砂からなる鋳型をガスバーナーで予熱して乾燥させた後、前記のようにアルミナイズド処理したインサート部材を鋳型内に配置し手早く型組みを行う。次いで、この型組みした鋳型内に740℃前後の溶融アルミの溶湯を注入して鋳物を成形し、その直後型バラシを行って、鋳型から鋳物製品を取り出して空冷し、鋳ぐるみ鋳造を完了する。
【0005】
また、一方、異種金属の化学的結合、特にアルミ系と鉄系の異種金属の場合には、反応してできたAl−Fe金属間化合物は極めて脆く、接合強度が低いことが一般によく知られている。
そして、アルミ系と鉄系の熱膨張率は、23.9×10-6/Kと12.2×10-6/Kというように、大きく異なるために、図2に示すように、冷却時にはアルミ系部材1の収縮量E1に対して鉄系部材2の収縮量E2が約半分になる。そのため、両部材1、2の界面3に収縮方向Cに作用する収縮応力と呼ばれる引張応力σが発生する。この収縮応力σは冷却速度が大きい程と大となるので、成形後の鋳物が急冷されると接合強度の低いAl−Fe金属間化合物の界面3の部分から割れや剥離が発生することになる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術においては、鋳造後の冷却過程の冷却速度の管理を十分に行わずに、成形直後、例えば500℃程度で鋳型を分割して型バラシして成形後の鋳物を取り出して空冷している。そのため、この冷却過程では10℃/分以上の冷却速度で急冷されることになり、この急冷によってアルミ系と鉄系の異種金属の界面3の部分から割れや剥離が発生し、製品不良が発生するという問題がある。
【0007】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、鉄系金属部材のインサート部材の鋳ぐるみを行うアルミ系鋳物の鋳造方法において、アルミ浴湯を注湯して成形した後に、保温炉内で冷却速度を管理しながら冷却して、冷却時に発生する収縮応力の大きさを低減することにより、収縮割れを防止して品質良好な鋳物製品を得ることができるアルミ系鋳物の鋳造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
以上のような目的を達成するためのアルミ系鋳物の鋳造方法は、アルミ系金属の鋳ぐるみ母材に鉄系金属のインサート部材を鋳ぐるむアルミ系鋳物の鋳造において、前記インサート部材をアルミナイズド処理した後に、鋳型に据えつけて、該鋳型に溶融した前記鋳ぐるみ母材の溶湯を注湯してアルミ系鋳物を成形し、次いで、高温状態の該鋳物を保温炉内に搬入し、該保温炉内において冷却速度を制御しながら徐冷することを特徴とする方法である。
【0009】
この冷却速度を制御した徐冷は、注湯後、型バラシをせずに鋳型に入れたまま温度調整可能な保温炉内で冷却する場合も、また、型バラシして鋳物を鋳型から取り出して、鋳物のみを保温炉内で冷却する場合も含む。
更に、このアルミ系鋳物の鋳造方法においては、鋳型への溶融金属の注湯後のアルミ系鋳物の温度の範囲が500℃〜100℃の間を含むようにして冷却速度を制御する。
【0010】
また、前記アルミ系鋳物の温度が300℃〜100℃の間の冷却速度を1℃/分〜3℃/分となるように制御する。
この300℃〜100℃の間の冷却速度の上限を3℃/分とすることにより、アルミ系鋳物における鉄系金属部材とアルミ系鋳ぐるみ母材との界面に発生する収縮応力が、破壊応力より小さくなり、インサート部材とアルミ系の鋳ぐるみ母材との間に形成される金属間化合物に発生する収縮割れが抑制される。
【0011】
また、収縮割れ防止の面からは冷却速度は低い方がよいが、冷却時間を長くするのは好ましくないので、この下限の冷却速度を1℃/分とすることにより、冷却時間の節約と、温度制御の効率化を図ることができ、全体的にバランスの取れた効率の良い冷却を行うことができる。
この冷却速度の制御を鋳物の温度が100℃程度になるまで行うと、鉄系金属部材のインサート部材を鋳ぐるむアルミ系鋳物の冷却過程における収縮割れや剥離が防止されて、インサート部材とアルミ系の鋳ぐるみ母材との間の結合強度が高く維持されるので、接合界面の品質が良好なものとなり、不良製品の発生量が少なくなる。
【0012】
この鋳造方法は、砂型鋳造のみではなく、通常の金型鋳造やダイカスト鋳造等にも使用でき、保温炉としては温度調整可能な電気炉やその他の燃焼制御可能な燃焼炉等を使用することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて、本発明に係る鉄系金属部材のインサート部材を鋳ぐるむアルミ系鋳物の鋳ぐるみ鋳造方法ついて、エンジンに使用する軽量化クランクプーリーを例にして説明する。
先ず、SPCCなどの鉄系金属部材のインサート部材の前処理を行う。この前処理は、水酸化ナトリウム等を主成分とする脱脂液に漬けてインサート部材を浸漬してアルカリ脱脂を行った後、この脱脂液が残らないように水洗し、更にアセトン等の脱脂液に浸漬して溶剤脱脂処理を行い、更に、この脱脂液をふき取り等で除去した後、約100℃でインサート部材が酸化しないように乾燥する。
【0014】
そして、前記の表面処理を施したインサート部材をアルミナイズド処理して、アルミ系鋳物を作る際にアルミ母材に馴染むように、このインサート部材の表面にアルミニウムと鉄の化学的結合層を形成させる。このアルミナイズド処理は、インサート部材を、730℃前後に温度管理されている溶融したアルミ溶湯内に所定の時間浸漬することによって、反応層の厚さを所定の厚さに形成し、その後取り出して余剰溶融アルミを除去することにより行う。
【0015】
次に、鋳造を行うが、砂型からなる鋳型をガスバーナーでに予熱して乾燥させた後、前記のようにアルミナイズド処理したインサート部材を鋳型内に配置してから型組みを行う。この型組みした鋳型に740℃前後の溶融アルミを注湯して成形する。
この鋳型の型組みの例としてエンジン等に使用される軽量クランクプーリーの型構成を図3に示す。先ず、下に配置した第1型材12に、インサート部材である小リング41と大リング42を挟持した第2型材13a、13bをダマ14aで位置決めして載せて、更に、中央にジルコンサンド16を表面に塗布した第3型材15をダマ14b、ダマ14cで位置決めして配置して鋳型を構成する。なお、溶融金属の局所的な冷却速度をコントロールするために、冷金18を適当に配置する。また、溶融金属の押湯位置は矢印Xの位置となる。
【0016】
そして、重力鋳造や低圧鋳造によってアルミ系鋳物の鋳造を行う場合には、アルミ浴湯の温度を急激に低下させないように、注湯前の鋳型をガスバーナーで250℃〜300℃に予熱する方法が取られる。
次に、冷却工程において、本発明では、高温状態の鋳物の冷却速度を管理できるように、鋳型を型組みしたままの鋳物、または、型バラシして取り出した成型後の高温状態の該鋳物を保温炉である温度制御可能な電気炉内に搬入する。この保温炉内で冷却速度を制御しながら徐冷するが、この徐冷は、予めインサート部材に取り付けた熱電対等の温度センサーにより鋳物の温度を検出して、フィードバック制御等により保温炉内の温度を調整して、鋳物の冷却速度を管理しながら徐々に冷却して行う。
【0017】
ここで、溶湯あるいは鋳物の温度が約740℃から約500℃までについては、放熱量が大きく、僅か数秒程度で約500℃になってしまい、冷却速度の制御が著しく難しいので、特に冷却速度の制御は行わない。また、急激に約500℃になるため、保温炉内に鋳物を入れる時には500℃以下になる場合が多い。
そして、アルミ系鋳物の温度が約500℃〜約300℃までの冷却過程は、界面剥離が比較的発生しにくい温度範囲なので、この間の冷却速度を5℃/分程度とする。
【0018】
また、アルミ系鋳物の温度が約300℃以下になると界面剥離が発生し易くなるので、この界面剥離を防止するために冷却速度を遅くし、図1に示すように、300℃〜100℃の間の冷却速度がA線の1℃/分からB線の3℃/分の間の範囲Zになるように保温炉内の温度を制御しながら徐々に冷却する。
そして、このアルミ系鋳物の成形後における冷却速度の制御は、界面剥離の発生がなくなる100℃以下にアルミ系鋳物の温度がなるまで行い、その後は保温炉から取り出して空冷する。
【0019】
この冷却速度の制御においては、下限の冷却速度を必要以上に小さくすると保持炉の温度を高温に維持する必要があり、熱効率の面から好ましくなく、また、冷却時間の長時間化によって装置の回転率も悪化するので、これらを勘案して、下限の冷却速度1℃/分とする。
また、上限の冷却速度は、アルミ系鋳物における鉄系金属部材とアルミ系鋳ぐるみ母材との界面に発生する収縮応力が界面を破壊する応力、例えば、1kg/mm2 よりも小さくなるように3℃/分にする。
【0020】
そして、収縮割れや工程管理や製造の効率等を総合的に勘案して最も好ましい冷却速度が上記の1℃/分〜3℃/分となる。
また、砂型利用の場合等で鋳型を型組みしたまま、冷却速度を制御して冷却する場合には、約300℃以上の範囲では、予熱された鋳型の温度(約300℃)より鋳型内の鋳物の温度が高いので、鋳物の熱は鋳型を熱伝導して大気に放熱されるので、冷却速度は大きくなる。
【0021】
そして、約300℃以下になると鋳型内の鋳物が約300℃の鋳型の温度になってからは、鋳物と鋳型が略同じ温度になり、共に冷却していくので、冷却速度を小さく制御することが比較的容易にできるようになる。
従って、鋳型を型組みしたまま冷却速度を制御して冷却する場合には、鋳型の予熱温度である約300℃の温度域が冷却曲線の変曲点となるような別々の冷却速度で冷却することになる。
【0022】
このアルミ系鋳物の鋳造方法の効果を検討するために、冷却速度を変更して、鉄系金属部材とアルミ系鋳ぐるみ母材との剥離を破壊検査(切断研磨観察)、及び非破壊検査(超音波検査)などで確認した実験によれば、300℃〜100℃の間の冷却速度を10℃/分と3℃〜10℃/分の範囲に制御した場合には剥離が発生したが、1℃/分〜3℃/分の範囲に制御した場合は剥離が発生しないという結果が得られている。
【0023】
また、500℃〜300℃の間の冷却速度を5℃/分に制御した場合も剥離が発生していない。
従って、以上のように冷却速度を制御する鋳ぐるみ方法によれば、溶湯を注湯して成形した後の高温状態のアルミ系鋳物の冷却を冷却速度を制御しながら徐々に冷却することにより、鋳造後の収縮応力をインサート部材とアルミ系鋳ぐるみ母材の界面の強度より小さく抑えることができ、両者の間に収縮割れが発生するのを防止することができる。
【0024】
【発明の効果】
以上の説明のように、本発明の鋳ぐるみ方法によれば、注湯後の高温状態の鋳物を電気炉などの保温炉内で冷却速度を制御しながら徐々に冷却するので、冷却時においてインサート部材とアルミ系の鋳ぐるみ母材との間に発生する収縮応力を小さく抑えることができ、収縮割れが発生するのを防止することができる。
【0025】
従って、インサート部材とアルミ系の鋳ぐるみ母材との間の結合強度を高く維持して、接合界面の品質を良好なものにすることができるので、製品不良の発生量を低減でき、安価で高強度のアルミ鋳造製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るアルミ系鋳物の冷却の状態を示す図である。
【図2】鉄系金属部材とアルミ系鋳ぐるみ母材との間の収縮応力を説明するための部分断面図である。
【図3】鋳ぐるみ鋳造の例を示す型構成の断面図である。
【符号の説明】
1 鉄系金属部材 2 アルミ系鋳ぐるみ母材
3 界面(金属間化合物) 12 第1型材
13a、13b 第2型材 14a、14b、14c ダマ
15 第3型材 16 ジルコンサンド
18 冷金
41 小リング(インサート部材) 42 大リング(インサート部材)
Claims (2)
- アルミ系金属の鋳ぐるみ母材に鉄系金属のインサート部材を鋳ぐるむアルミ系鋳物の鋳造において、前記インサート母材をアルミナイズド処理した後に、鋳型に据えつけて、該鋳型に溶融した前記鋳ぐるみ母材の溶湯を注湯してアルミ系鋳物を成形した後に直ちに温度制御が可能な保温炉内に入れ、次いで、前記保温炉内において、前記アルミ系鋳物の温度が300℃〜100℃の間の冷却速度が3℃/分以下の値となるよう前記保温炉内の温度を制御しながら徐冷することを特徴とするアルミ系鋳物の鋳造方法。
- 前記冷却速度を3℃/分〜1℃/分の値とする請求項1に記載のアルミ系鋳物の鋳造方法。
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