JP3768177B2 - 低弾性プラスチック微細隆起構造体および該低弾性プラスチック微細隆起構造体を用いた接続方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機能性プラスチック部材に関する技術分野に属し、さらには低弾性を有するプラスチック微細隆起構造体およびその機能を利用する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、プラスチック部品の高機能化、高性能化の要求が高くなってきている。それらの要求に対して、プラスチック材料自身をポリマーアロイ化したり複合化したりする材料面での技術対応と、要求機能に合わせて機能部位を付加する加工面での技術対応の二つの取り組みが行われている。プラスチック部品の表面の高機能化・高性能化は、表面の濡れ性、接着性、吸着性、制電性、水分やガスに対するバリアー性、表面硬さ、光反射性、光散乱性、光透過性などの制御の必要性から、材料・加工両面から色々な技術的な取り組みがされてきている。それらの中で、プラスチックの表面に凹凸を設けて、濡れ性や接着性や光学的特性を向上させる方法がいくつかある。
【0003】
また、量産のために金型が用いられ、該金型の原型を作製する方法を分類すると下記のようになる。
(1)表面を機械的に摩擦したり、スパッタ・エッチングなどの物理的・化学的な処理により表面の一部を除去して凹凸を形成する方法。
(2)塗工・電鋳などのウエット・プロセスや蒸着・ラミネート・転写等のドライ・プロセスにより表面に膜を付加して凹凸を形成する方法。
【0004】
(1)の方法は、除去されたプラスチックの屑や飛散物による表面の汚染や後処理の問題があり、(2)の方法は、付加方法特有の材料や加工プロセスの追加による煩雑性の問題がある。また、(1)、(2)とも最近の環境汚染やリサイクル対策に関して、有意な方法とは言い難い。そのため、環境汚染やリサイクルなどの問題を含まず、プラスチック表面の任意の場所に精密な凹凸構造を制御された形で金型の原型を形成できる方法の出現が望まれている。
【0005】
さらにまた、常温(23℃程度)で5×103〜5×107Pa程度の低い貯蔵弾性率(所謂「ゴム弾性」)を有するプラスチック材料は。微細な隆起物や凹凸構造を形成するための物理的、化学的、ドライ・プロセスなどの加工処理において、取り扱いが極めて難しい材料である。例えば、低貯蔵弾性率を有することにより、摩擦や物理的処理を優れた精度で行うことができなかったり、また、低ガラス転移温度を有することにより、耐熱性が必要なドライ・プロセスを優れた精度で適用することができないことなどが挙げられる。さらに、下記に示されるような超短パルスレーザーを用いて表面隆起構造物を形成する方法も提案されている(例えば、特開2002−137291号公報参照。)。しかしながら、この方法を貯蔵弾性率やガラス転移温度が低いプラスチック材料に適用すると、表面隆起構造物を形成することができず、陥没構造や、溝構造などを有するものが形成されたり、たとえ表面隆起構造物が形成されても、該隆起の中央部にテラス部や陥没部などが形成されてしまう。従って、低弾性プラスチック材料に超短パルスレーザーを直接的に照射して、低弾性プラスチック微細隆起構造体を形成することは困難である。
【0006】
なお、レーザー光源に関する技術進歩は著しく、特にパルスレーザーは、ナノ(10-9)秒からピコ(10-12)秒と超短パルス化が進み、更に最近では、チタン・サファイア結晶などをレーザー媒質とするフェムト(10-15)秒パルスレーザーなどが開発されてきている。ピコ秒やフェムト秒などの超短パルスレーザーシステムは、通常のレーザーの持つ、指向性、空間的・時間的コヒーレンスなどの特徴に加えて、パルス幅が極めて狭く、同じ平均出力でも単位時間・単位空間当りの電場強度が極めて高いことから、物質中に照射して高い電場強度を利用して誘起構造を形成させる試みが、無機ガラス材料を主な対象物として行われてきている。
【0007】
また、高分子材料であるアモルファス・プラスチック等は、無機ガラス材料と比較して、ガラス転移温度が低い。これは、無機ガラス材料が共有結合で三次元的に結合してアモルファス構造が形成されているのに対して、高分子材料は、一次元的に共有結合で繋がった高分子鎖が三次元的に絡み合ってアモルファス構造が形成されていることを反映した結果である。従って、無機ガラス材料に対しては、大きな照射エネルギーで照射しないと、誘起構造が形成されないが、高分子材料では、高いエネルギーの照射は材料の劣化を引き起こす虞があるので、高いエネルギーの照射は回避する必要がある。
【0008】
しかしながら、高分子材料は、熱伝導性が低いという特徴を有している。従って、高分子材料は熱伝導性が低いので、蓄熱し易い傾向がある。すなわち、高分子材料は熱運動が無機ガラス材料に比べて容易に起こり、運動や反応に必要な熱量が少なくて済むので、無機ガラス材料に比べて、比較的低い照射エネルギーでも誘起構造が形成される可能性がある。しかし、高分子材料であるプラスチック構造体に関して、パルス幅が10-12秒以下である(例えば、パルス幅がフェムト秒のオーダーである)超短パルスレーザーの照射による誘起構造形成の検討は、現在まで、無機ガラス材料ほどには行われていなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、低い貯蔵弾性率を有するプラスチック材料が用いられていても、表面に凹凸構造が精密に形成された低弾性プラスチック微細隆起構造体および該低弾性プラスチック微細隆起構造体を用いた接続方法を提供することにある。
また、本発明の課題は、さらに、上記の様な従来の技術に付随する環境汚染やリサイクルなどの環境問題が生じることなく、表面に凹凸構造が精密に形成された低弾性プラスチック微細隆起構造体および該低弾性プラスチック微細隆起構造体を用いた接続方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、プラスチック内部に10-12秒以下のパルスの超短パルスレーザーを照射して、プラスチック表面に、プラスチック内部のレーザー照射部位から供給された円錐状ないし釣り鐘状の微細な隆起物を精密に形成する超短パルスレーザー照射技術、該精密な凹凸構造を有するプラスチック構造体を金型の原構造体として用いて金型を作製する金型作製技術、および該金型を用いた複製技術などを利用することにより、低貯蔵弾性率を有するプラスチック材料であっても、低弾性を有し且つ微細な隆起物を有するプラスチック構造体(低弾性プラスチック微細隆起構造体)を作製できることを見出した。従って、従来のように、(1)表面を機械的に摩擦したり、スパッタ・エッチングなどの物理的・化学的な処理により表面の一部を除去して凹凸を形成する方法や、(2)塗工・電鋳などのウエット・プロセスや蒸着・ラミネート・転写等のドライ・プロセスにより表面に膜を付加して凹凸を形成する方法、さらには(3)超短パルスレーザーを低弾性プラスチック材料に直接的に照射することにより、該低弾性プラスチック材料の表面に隆起構造物を形成する方法などを利用した際の困難さを回避して、低弾性プラスチック微細隆起構造体を作製できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、23℃での貯蔵弾性率が5×103〜5×107Paであり、且つ底面の直径0.3〜60μm、高さ0.1〜60μmの円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を直径と同じかそれ以上の間隔を置いて表面に複数個有していることを特徴とする低弾性プラスチック微細隆起構造体を提供する。
【0012】
前記弾性プラスチック微細隆起構造体としては、下記工程A〜Cを経て作製された金型による複製物を好適に用いることができる。
工程A:23℃での貯蔵弾性率が5×107Paを超えているプラスチック材料内部にパルス幅が10-12秒以下の超短パルスのレーザーを照射することにより、該プラスチック材料表面に該プラスチック材料内部から隆起して形成された円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を、複数個形成して金型の原構造体を形成する工程
工程B:工程Aで形成された金型の原構造体の表面上に金型材料を被覆する工程
工程C:工程Bで形成された金型材料被覆層を金型の原構造体から金型として分離する工程
【0013】
このような低弾性プラスチック微細隆起構造体としては、導電性を有していることが好ましく、または、400〜800nmの可視光波長領域において10%以上の透過率を有していることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記低弾性プラスチック微細隆起構造体を用いることを特徴とする電気的又は力学的な接続方法や、前記低弾性プラスチック微細隆起構造体を用いることを特徴とする光学的な接続方法を提供する。
【0015】
【発明の実施の態様】
以下に、本発明を必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の部材や部位については、同一の符号を付している場合がある。
【0016】
[低弾性プラスチック微細隆起構造体]
図1は本発明の低弾性プラスチック微細隆起構造体の一例を模式的に示す鳥瞰図であり、図2は本発明の低弾性プラスチック微細隆起構造体の他の例を模式的に示す鳥瞰図である。図1〜2において、1はシート状の低弾性プラスチック微細隆起構造体(「低弾性プラスチックシート」と称する場合がある)、2aは円錐状の隆起物、2bは釣り鐘状の隆起物を示す。
【0017】
図1や図2で示される低弾性プラスチックシート(低弾性プラスチック微細隆起構造体)は、5×103〜5×107Pa(好ましくは1×104〜3×107Pa、さらに好ましくは5×104〜1×107Pa)の貯蔵弾性率(G´)を有している。従って、低弾性プラスチック微細隆起構造体は、低い貯蔵弾性率を有しており、すなわち、所謂「ゴム弾性」を有している。低弾性プラスチック微細隆起構造体は、例えば、貯蔵弾性率が低いプラスチック材料組成物などの樹脂組成物(「低弾性プラスチック材料組成物」と称する場合がある)から形成することができる。
【0018】
低弾性プラスチック微細隆起構造体における貯蔵弾性率は、23℃で測定することができる。また、該測定方法としては、JIS K−7244(プラスチック動的機械特性の試験方法)を採用することができる。具体的には、動的粘弾性測定装置としては、例えば、商品名「ARES」レオメトリック社製を用いることができる。また、測定条件としては、温度:23℃、測定周波数:10Hz、プレート:コーンプレートを採用することができる。
【0019】
図1の低弾性プラスチック微細隆起構造体は、低弾性プラスチックシート1の表面に、円錐状の隆起物2aが複数個形成された形態を有している。また、図2の低弾性プラスチック微細隆起構造体は、低弾性プラスチックシート1の表面に、釣り鐘状の隆起物2bが複数個形成された形態を有している。
【0020】
前記隆起物2a,2bの円錐状や釣り鐘状の底面の直径は0.3〜60μm、好ましくは1〜20μm程度であり、高さは0.1〜60μm、好ましくは0.5〜8μm程度である。また、隆起物2a,2bの間隔(底面の円の中心間距離)は、底面の直径と同じかそれ以上(例えば、直径〜直径の10倍程度、好ましくは、直径〜直径の5倍程度)である。
【0021】
[低弾性プラスチック微細隆起構造体の形成方法]
このような低弾性プラスチック微細隆起構造体の形成方法は、特に制限されないが、例えば、図3で示されるような金型を用いたプロセスを利用することができる。図3は、本発明の低弾性プラスチック微細隆起構造体を作製するプロセスの一例を示す工程図である。具体的には、図3において、(a)は低弾性プラスチック微細隆起構造体と同形状の円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を表面に有する金型の原構造体(「金型原構造体」と称する場合がある)を示し、(b)は無電解メッキにより、前記金型原構造体の表面がメッキされた状態を示し、(c)は電解メッキにより、さらにメッキされた状態を示し、(d)は前記メッキ部を、金型原構造体から剥離して、金型を作製する状態を示し、(e)は前記金型に低弾性プラスチック材料組成物を注入により充填する状態を示し、(f)は低弾性プラスチック材料組成物を金型から剥離して、低弾性プラスチック微細隆起構造体を作製する状態を示している。
【0022】
図3では、(a)で示されるような、低弾性プラスチック微細隆起構造体と同形状の円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を表面に有している金型原構造体Aの表面上に、(b)及び(c)で示されるように、金型材料としての金属材料を無電解メッキ及び電解メッキにより被覆させて、金型原構造体における隆起物の隆起構造(特に、微小な隆起構造)が転写された金型材料からなる金型材料被覆層(金属材料のメッキ部)B12を形成し、(d)で示されるように、この金型材料被覆層B12を金型原構造体Aから分離して、金型(低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型)Bを得た後、(e)で示されるように、前記金型Bに、低弾性プラスチック材料組成物C1を充填し、さらに、(f)で示されるように、低弾性プラスチック材料組成物C1からなる構造体を金型Bから剥離することにより、低弾性プラスチック微細隆起構造体Cを作製している。
【0023】
なお、図3において、Aは金型原構造体、B1は無電解メッキ層、B2は電解メッキ層、B12は金型材料被覆層(金属材料のメッキ部)、C1は低弾性プラスチック材料組成物、Cは低弾性プラスチック微細隆起構造体を示している。
【0024】
なお、図3(a)で示される金型原構造体は、23℃での貯蔵弾性率が5×107Paを超えているプラスチック材料(「非低弾性プラスチック材料」と称する場合がある)により好適に形成することができる。このような非低弾性プラスチック材料による金型原構造体の作製方法は特に制限されないが、非低弾性プラスチック材料表面に、該非低弾性プラスチック材料内部から隆起させて、低弾性プラスチック微細隆起構造体と同形状の円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を形成することができる方法であれば特に制限されないが、特に、パルス時間(パルス幅)が10-12秒以下の超短パルスレーザーを非低弾性プラスチック材料の内部に照射する方法が有効である。
【0025】
従って、低弾性プラスチック微細隆起構造体は、例えば、下記工程A〜Cを経て作製された金型を用いて複製することにより作製することができる。
工程A:23℃での貯蔵弾性率が5×107Paを超えているプラスチック材料(非低弾性プラスチック材料)内部にパルス幅が10-12秒以下の超短パルスのレーザーを照射することにより、該プラスチック材料表面に該プラスチック材料内部から隆起して形成された円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を、複数個形成して金型の原構造体(金型の原型)を形成する工程
工程B:工程Aで形成された金型の原構造体の表面上に金型材料を被覆する工程
工程C:工程Bで形成された金型材料被覆層を金型原構造体から金型として分離する工程
【0026】
[工程A]
工程Aでは、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスのレーザー(「超短パルスレーザー」又は「レーザー」と称する場合がある)を非低弾性プラスチック材料内部に照射することにより、非低弾性プラスチック材料表面に該非低弾性プラスチック材料内部から隆起して形成された底面の直径0.3〜60μm、高さ0.1〜60μmである円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を、直径と同じかそれ以上の間隔を置いて複数個形成して、金型の原構造体である円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を有する非低弾性プラスチック材料を形成している。
【0027】
このように、非低弾性プラスチック材料に超短パルスレーザーを照射することにより、金型原構造体を形成する方法としては、例えば、図4に示されるような方法を好適に採用することができる。図4は、金型原構造体(金型の原型)の形成方法の一例を示す概略鳥瞰図である。図4において、3は非低弾性プラスチック材料によるシート(「非低弾性プラスチックシート」と称する場合がある)、3aは非低弾性プラスチックシート3の表面、Tは非低弾性プラスチックシート3の厚さ、4はパルス幅が10-12秒以下である超短パルスレーザー、5はレンズ、4aはレーザー4の焦点である。また、6はレーザー4の照射方向であり、7はレーザー4の焦点4aの移動方向である。
【0028】
また、81,82,・・・,8n(nは1以上の整数である)はそれぞれレーザー4の焦点4aをライン状に移動させる際のラインである[以下、ライン(81,82,・・・,8n)をライン8として総称する場合がある]。従って、ライン8は、焦点4aの移動方向7と平行又は同一の方向に延びている。ライン8は、焦点4aをライン状に移動させる際のラインであるので、焦点4aがライン状に移動した軌跡(「ライン状移動軌跡」と称する場合がある)に対応又は相当する。なお、ライン8としては、ライン81〜ライン8nまで単数ないし複数有しており、各ライン同士は平行な関係にある。
【0029】
さらに、dは非低弾性プラスチックシート3の表面3aと、レーザー4の焦点4aとの距離である。従って、距離dは、非低弾性プラスチックシート3の表面3aからの深さに相当する。すなわち、ライン8は、非低弾性プラスチックシート3の表面3aからの深さがdである位置となっている。該距離dとしては、特に制限されず、非低弾性プラスチックシート3の厚さTに応じて適宜選択することができ、通常、5〜150μm程度の範囲から選択される。すなわち、超短パルスのレーザーを、プラスチック表面から、例えば、5〜150μmの深さに焦点を合わせて照射することができる。距離dとしては、好ましくは10〜120μm、さらに好ましくは20〜100μm程度である。なお、距離dは、もちろん、非低弾性プラスチックシート3の厚さTよりも短く、通常、厚さTの半分以下であるが、半分を超えていてもよい。
【0030】
なお、超短パルスのレーザーが同じ照射エネルギーである場合、照射点又は焦点の深さが深くなるほど、照射エネルギーが三次元的に広がる範囲が広くなる。すなわち、照射点又は焦点の深さが深くなるほど、単位体積当たりの照射エネルギーの大きさが小さくなる。
【0031】
また、Lはライン8における隣接又は近接したライン(81,82,・・・,8n)間の間隔を示している。該間隔Lは、特に制限されず、例えば、10μm以上の任意の範囲から選択することができる。間隔Lとしては、通常、10〜100μm程度の範囲から選択される場合が多い。
【0032】
図4では、レーザー4は、非低弾性プラスチックシート3に向けて、照射方向6の向きで、すなわちZ軸と平行な方向で、照射している。なお、レーザー4はレンズ5を用いることにより焦点を絞って合わせることができる。また、非低弾性プラスチックシート3はシート状の形態を有しており、該非低弾性プラスチックシート3の上面はX−Y平面と平行な面となっているとともに、Z軸と垂直となっている。
【0033】
また、レーザー4は、その焦点4aを移動方向7の向き(すなわちY軸と平行な向き)に、ライン状に移動させながら照射させている。従って、その結果として、焦点4aをライン8上をライン状に移動方向7の向きに移動させながら、レーザー4が照射されていることになる。前記移動方向7は、照射方向6に対して垂直な方向であり、且つプラスチック1の表面1aに対して平行な方向である。従って、ライン8は、焦点5の移動方向7と平行であり、照射方向6とは垂直となっている。さらに、ライン8は、非低弾性プラスチックシート3の表面3aに対して平行な方向となっている。なお、レーザー4の焦点4aを移動方向7にライン状に移動させる際の該焦点4aの移動速度としては、特に制限されず、例えば、10〜1,000μm/秒(好ましくは100〜800μm/秒)程度の範囲から選択してもよい。
【0034】
より具体的には、レーザー4を照射方向6の方向で、ライン8のうちいずれか1つのライン(ライン81とする)の一方の末端部に焦点4aを合わせて、照射し、この焦点4aを移動方向7の方向にライン81上をライン状にライン81の他方の末端まで移動させる。その後、このライン81上の焦点4aの移動方法と同様の方法により、レーザー4の焦点4aを他のライン(ライン82とする)の一方の末端に合わせて他方の末端まで該ライン82上をライン状に移動させる。さらに、このような焦点をライン8のうちいずれか1つのラインの一方の末端に合わせて他方の末端まで移動させることを必要なだけ繰り返すことにより、非低弾性プラスチックシート3表面に内部から隆起して形成された円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を有する非低弾性プラスチック材料(金型原構造体)を作製することができる。
【0035】
なお、超短パルスレーザーの焦点の移動は、超短パルスレーザー及びレンズと、プラスチック構造体との相対位置を動かせることにより、例えば、超短パルスレーザー及びレンズ、及び/又は照射されるプラスチックを移動させることにより、行うことができる。具体的には、超短パルスレーザーの照射は、例えば、照射サンプル(照射されるプラスチック)を、2次元又は3次元の方向に精密に動かすことができる精密なXYZステージに載せ、3次元的に移動させることにより、サンプル任意の場所に行うことができる。また、XYZステージの移動を時間的に設定することにより、照射を3次元的な連続性を持って任意に行うことができる。
【0036】
このように、レーザー4を非低弾性プラスチックシート3の内部に外部から照射して、焦点をライン状に移動させることにより、非低弾性プラスチックシート3の表面に、図1又は2に示されるような隆起物(2a,2b)と同形状の隆起物を形成し、金型原構造体を作製することができる。該金型原構造体の隆起物は、通常、レーザー4が照射される側の表面3aに形成される。表面3aにおいて、隆起物が形成される位置としては、ライン8と対応した表面3a上の位置であり、例えば、図4のように、表面3aに垂直にレーザー4が照射される場合、隆起物は、該隆起物の中心部位(底面の円の中心部位)がライン8の垂直上の表面3a上にくるような位置に形成される。従って、1つのライン状に形成された隆起物における隆起物間の間隔(すなわち、ライン8が形成された方向と平行な方向における間隔)としては、前述のように、隆起物の直径と同じかそれ以上の間隔となっている。このような1つのライン上における隆起物間の間隔(ライン上間隔)は特に制限されない。また、もちろん、1つのライン上における隆起物の数は特に制限されず、レーザーの照射条件やプラスチックの素材等に応じて適宜選択することができる。
【0037】
一方、複数のライン状に形成された隆起物の隣接するライン上における隆起物間の間隔(すなわち、ライン8が形成された方向に対して垂直な方向における間隔)(ライン間間隔)としては、通常、ライン8の間隔Lと同等又はほぼ同等になる。
【0038】
(金型原構造体形成用の非低弾性プラスチック材料)
非低弾性プラスチック材料の貯蔵弾性率(23℃)としては、5×107Paを超えていれば特に制限されないが、例えば、5×107〜5×1010Pa(好ましくは5×108〜1×1010Pa、さらに好ましくは1×109〜5×109Pa)であることが望ましい。なお、非低弾性プラスチック材料における貯蔵弾性率の測定方法としては、低弾性プラスチック材料又は低弾性プラスチック微細隆起構造体と同様の動的粘弾性特性測定方法[JIS K−7244(プラスチック動的機械特性の試験方法)]を採用することができる。また、その測定条件も同様である。具体的には、動的粘弾性測定装置としては、例えば、商品名「ARES」レオメトリック社製を用いることができる。また、測定条件としては、温度:23℃、測定周波数:10Hz、プレート:コーンプレートを採用することができる。
【0039】
また、非低弾性プラスチック材料としては、隆起物の形成前において、100℃以上のガラス転移温度を有するものを用いることが最適である。100℃以上のガラス転移温度を有している非低弾性プラスチック材料を用いることにより、表面に隆起物を有する非低弾性プラスチック材料による構造体を高い精度で作製することができる。
【0040】
さらにまた、超短パルスレーザーの非低弾性プラスチック材料内部への照射が有効に行われるためには、照射される非低弾性プラスチック材料(隆起物を形成する前の状態のプラスチック)は、波長400nmから800nmの可視光の波長領域で10%以上の透過率を有することが望ましい。上記波長領域で著しい光吸収や散乱を起こす着色した非低弾性プラスチック材料や散乱粒子を多量に含む非低弾性プラスチック材料は望ましくない。
【0041】
なお、超短パルスレーザーの照射により前記のような隆起物が形成されるメカニズムは、まだ詳細には解析されていない。ガラス転移温度が常温(23℃)未満にある耐熱性の低いプラスチック材料の内部に超短パルスレーザー(フェムト秒パルスレーザー)をライン状に移動させて照射すると、隆起物が形成されるよりも、プラスチックシートの表面部分が内部に陥没した孔や溝が形成される場合が多い。一方、ガラス転移温度が常温(23℃)以上で且つ70℃程度以下のプラスチック材料の内部に超短パルスレーザーをライン状に移動させて照射すると、プラスチック材料の内部に空洞やクラック、溶融・再固化物が形成される場合が多い。しかし、ガラス転移温度が100℃以上のプラスチック材料の内部に、超短パルスレーザーをライン状に移動させて照射すると、図1や図2に示されるようにプラスチック材料内部から隆起が起こる現象が観察され、プラスチック材料表面に精密に隆起物を作製することができる。なお、非低弾性プラスチック材料としては、隆起物の形成前において、100℃以上のガラス転移温度を有するものを特に好適に用いることができるが、前記隆起物を形成することができるものであれば、隆起物を形成する前の状態の非低弾性プラスチック材料のガラス転移温度は、100℃未満、例えば、常温(例えば、23℃)以上100℃未満(好ましくは70℃以上100℃未満)であってもよい。
【0042】
しかしながら、隆起物を形成する前の状態のプラスチック材料に係るガラス転移温度と、超短パルスレーザーの照射により形成される隆起物との関係は、まだ定かではない。超短パルスレーザーが極めて高いエネルギーを有していることから、照射スポットが高温になりプラスチック材料が溶融状態になることが考えられる。そのため、超短パルスレーザーの照射により最も高められるプラスチック材料の内部の温度が一定(この最も高温に高められる一定温度をT0とする)と仮定すると、例えば、ガラス転移温度(Tg)が低いプラスチック材料では、内部が高温に高められる一定温度T0と、ガラス転移温度Tgとの差(T0−Tg)が大きく又は広くなるので、ガラス転移温度Tg以上の温度となって十分な運動性を得る時間的・空間的な範囲が大きく又は広くなることが予測される。具体的には、超短パルスレーザーの照射により、前記一定温度T0まで温度が上昇する過程で、プラスチック材料は膨張し、その後、照射位置又は焦点が移動することにより、前記一定温度T0から常温にまで温度が低下して冷却される冷却過程になると、T0とTgとの差(T0−Tg)が大きい又は広いので、常温にまで温度が低下するまでに運動できる時間的・空間的な範囲が大きく又は広くなり、その結果として表面層の吸い込み・陥没が起こり、孔や溝が形成されると思われる。逆に、ガラス転移温度が高いプラスチック材料では、(T0−Tg)が小さく又は狭く、超短パルスレーザーの照射による溶融領域が、照射スポット(照射位置又は焦点)の近辺又は周辺に限定され、ガラス転移温度Tg以上の温度となって十分な運動性を得る時間的・空間的な範囲が小さく又は狭くなり、しかも、T0から常温にまで温度低下する冷却過程で、(T0−Tg)の温度幅が小さい又は狭いので、より速く又は直ぐに固化状態になり、一定温度T0まで温度が上昇する過程で膨張した膨張状態に近い形状が固定又は保持され、その結果として、マグマの噴火で火山が形成されるように、表面に隆起物が形成されるものと思われる。すなわち、ガラス転移温度の低いプラスチック材料(耐熱性の低い材料)では、溶融状態の範囲が表面を含む広範囲に及び、結果として表面層の吸い込み・陥没が起こり、孔や溝が形成されるのに対し、ガラス転移温度の高いプラスチック材料(耐熱性の高い材料)では溶融領域がスポット近辺に限定され、マグマの噴火で火山が形成されるように、表面に隆起物が形成されるものと思われる。
【0043】
このように、レーザー照射に付すプラスチック材料(隆起物を形成する前の状態の非低弾性プラスチック材料)の熱的な性質としては、アモルフアス・プラスチックでは、ガラス転移温度が常温(23℃)以上であることが望ましい。特に、隆起物を形成する前の状態の非低弾性プラスチック材料としては、前述のようなガラス転移温度と隆起物との関係から、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上であることが最適である。
【0044】
隆起物を形成する前の状態の非低弾性プラスチック材料において、熱的性質は、隆起物を形成する時の形成因子として働くだけでなく、隆起物形成後の安定性にも影響を与えるため重要である。
【0045】
隆起物形成後の安定性については、プラスチックの緩和現象による構造変化が関係し、ガラス転移温度が低い材料では緩和が起こり易く生成した隆起物の構造が不安定になる。
【0046】
このようなパルスレーザー照射に使用される非低弾性プラスチック材料としては、共重合体を含めた単一化学構造のポリマー材料からなるものだけでなく、異なる化学構造を有する複数のポリマー材料からなるポリマーアロイやポリマーブレンドでもよい。このようなポリマーアロイやポリマーブレンドの場合、プラスチックを構成するプラスチック材料の1成分以上が常温以上(好ましくは70℃以上、特に100℃以上)のガラス転移温度を有していることが重要である。
【0047】
また、パルスレーザー照射に使用される非低弾性プラスチック材料としては、無機化合物や金属などの他の材料を分散状態で含んだ複合体であってもよく、異なるプラスチック材料や他の材料からなる層を含んだ2以上の層構造からなる積層体であってもよい。
【0048】
具体的には、前記ポリマー材料の代表的な例として、例えば、メタクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート(PMMA)など)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)など)、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアリーレンエーテル(ポリフェニレンエーテルなど)、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン(ポリサルホン)、ポリエーテルスルホン(ポリエーテルサルホン)、ポリウレタン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、ポリエーテルケトン類(ポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルケトンケトンなど)等の熱可塑性樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
(超短パルスレーザー)
使用する超短パルスレーザーとしては、チタン・サファイア結晶を媒質とするレーザーや色素レーザーを再生・増幅して得られたフェムト秒パルスレーザーなどが好都合であり、使用されるパルス幅は10-12秒から10-15秒のオーダーのものが該当するが、通常は100フェムト秒(10-13秒)程度のものが使用される。使用波長は、可視光領域の400nmから800nm、繰り返しは1Hzから80MHzの範囲で、通常は10Hzから500kHz程度の条件で使用される。レーザーパルスの出力は、数mWから数百mW程度で使用される。
【0050】
なお、非低弾性プラスチック材料に対して、内部における単位体積当たりに照射されるエネルギーは、超短パルスレーザーの照射エネルギー、非低弾性プラスチック材料に照射する際に用いられる対物レンズの開口数(光源の絞り込み)、非低弾性プラスチック材料への照射位置又は焦点の深さ、レーザーの焦点の移動速度などに応じて決められる。
【0051】
また、本発明では、超短パルスレーザーの平均出力又は照射エネルギーとしては、特に制限されず、目的とする隆起物の大きさや形状等に応じて適宜選択することができ、例えば、500mW以下(例えば、1〜500mW)、好ましくは5〜300mW、さらに好ましくは10〜100mW程度の範囲から選択することができる。
【0052】
また、超短パルスレーザーの照射スポット径としては、特に制限されず、目的の隆起物の大きさやその形状、レンズの大きさや開口数又は倍率などに応じて適宜選択することができ、例えば、0.1〜10μm程度の範囲から選択することができる。
【0053】
なお、レンズ5は、レーザー4の光線の焦点を絞って合わせるために用いている。従って、レーザーの焦点を絞って合わせる必要が無い場合は、レンズを用いる必要はない。レンズ5の開口数(NA)は、特に制限されず、対物レンズの倍率に応じて変更することができ、通常は、倍率としては10〜50倍、開口数としては0.3〜0.8程度の範囲から選択される。
【0054】
[工程B]
工程Bでは、工程Aで形成された金型原構造体(隆起物が形成された非低弾性プラスチック材料)の表面上に金型材料を被覆させて、金型原構造体における隆起物の隆起構造(特に、微小な隆起構造)が転写された金型材料からなる金型材料被覆層を金型原構造体の表面上に形成している。従って、該金型材料被覆層の内部側の面(金型原構造体の表面と接触している面)は、金型原構造体の表面の形状に対応している。すなわち、金型材料被覆層は、前記金型原構造体の表面の隆起物に対応する形状の陥没部を有している。
【0055】
(金型材料)
金型材料としては、有機系金型材料(例えば、プラスチック材料など)や、無機系金型材料(例えば、金属材料やその他の無機化合物など)を用いることができる。金型材料は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0056】
本発明では、金型材料としては、無機系金型材料、特に、金属材料を好適に用いることができる。該金属材料としては、特に制限されず、金型として用いて成形材料を成形することができるものであればよい。金属材料には、金属単体の他、その他の金属化合物が含まれる。なお、下記に示される無電解メッキ又は電解メッキにより金型材料被覆層(金属被覆層)を金型原構造体の表面に形成する場合は、金属材料としては、前記無電解メッキ又は電解メッキを行うことができるものを用いることができる。具体的には、金属材料としては、例えば、ニッケル、銅、銀、金、パラジウム、カドミウム、亜鉛、スズ、鉛、クロム、アルミニウム等の金属や、真ちゅう、ニッケル−クロム合金、銅−ニッケル合金、亜鉛−ニッケル合金、金−銅合金等の合金などが挙げられる。
【0057】
なお、前記有機系金型材料としてのプラスチック材料としては、金型原構造体の非低弾性プラスチック材料の溶融温度よりも低い溶融温度を有するプラスチック材料を用いてもよい。有機系金型材料としてのプラスチック材料としては、金型として用いることができるプラスチック材料であれば特に制限されない。具体的には、有機系金型材料としてのプラスチック材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタクリレート系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリアミド;ポリイミド(PI);ポリエーテルイミド(PEI);ポリアミドイミド;ポリエステルイミド;ポリカーボネート(PC);ポリアセタール;ポリフェニレンエーテルなどのポリアリーレンエーテル;ポリフェニレンスルフィド;ポリアリレート;ポリアリール;ポリスルホン(ポリサルホン);ポリエーテルスルホン(PES)(ポリエーテルサルホン);ポリウレタン類;ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルケトンケトンなどのポリエーテルケトン類;ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エチルなどのポリアクリル酸エステル類;ポリブトオキシメチレンなどのポリビニルエステル類;ポリシロキサン類;ポリサルファイド類;ポリフォスファゼン類;ポリトリアジン類;ポリカーボラン類;ポリノルボルネン;エポキシ系樹脂;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリイソプレンやポリブタジエンなどのポリジエン類;ポリイソブチレンなどのポリアルケン類;フッ化ビニリデン系樹脂、ヘキサフルオロプロピレン系樹脂、ヘキサフルオロアセトン系樹脂などのフッ素系樹脂などの樹脂(熱可塑性樹脂など)や、レジスト材料などが挙げられる。なお、有機系金型材料の使用に際して、金型原構造体としての非低弾性プラスチック材料と有機系金型材料とが接合しないように、該非低弾性プラスチック材料の表面を表面処理してもよい。
【0058】
(金型材料の被覆)
金型原構造体表面上に金型材料を被覆する方法としては、前記金型原構造体表面に金型材料を被覆することができる方法であれば特に制限されない。例えば、金型材料として金属材料を用いる場合は、金型原構造体の表面上に金属材料を堆積させることにより、金属材料により金型原構造体の表面を被覆させて、金属材料被覆層を形成することができる。より具体的には、金属材料の被覆方法としては、例えば、無電解メッキを行う方法や、予め、金型原構造体表面に蒸着などにより導電性の賦与を行った後に電解メッキを行う方法を好適に採用することができる。なお、無電解メッキを行った後に、電解メッキが行われてもよい。無電解メッキの後に、電解メッキを行うことにより、メッキ金属層の厚みを増加させることができる。
【0059】
無電解メッキは、例えば、金型原構造体を、市販のニッケルメッキ浴に浸漬させることにより、前記金型原構造体の全表面にメッキ金属を析出させて、金属被覆層を形成することができる。なお、無電解メッキを行う前にクロム酸処理などの前処理を行うことができる。
【0060】
金型材料被覆層の厚みは特に制限されず、例えば、200μm以上(例えば、0.2〜5mm)、好ましくは0.5〜3mm程度の範囲から選択することができる。金型材料被覆層の厚みが薄すぎると、金型としての強度が低下する。
【0061】
[工程C]
工程Cでは、工程Bで形成された金型材料被覆層を金型原構造体から分離して、金型(低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型)を得ている。金型材料被覆層および金型原構造体を分離させる方法としては、前記金型材料被覆層を、前記金型原構造体から分離させることができる方法であれば特に制限されず、例えば、金型材料被覆層からプラスチック部材を抜き取る方法、剥離させる方法またはエッチングにより除去する方法などを1種で又は2種以上組み合わせて採用することができる。
【0062】
なお、本発明では、前記工程A〜工程Cを含む作製方法により作製された金型の形状を他の金型材料(例えば、プラスチック材料など)により写し取って、他の金型材料(プラスチック材料等)による金型を作製することもできる。例えば、前記工程A〜工程Cを含む作製方法により得られた金属材料からなる金型(又は金属被覆層)の表面をプラスチック材料で被覆して、該被覆により形成されたプラスチック材料被覆層を、前記金属材料からなる金型(又は金属被覆層)から分離させて、プラスチック材料からなる金型を得ることができる。
【0063】
このような工程A〜工程Cによる低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型の作製方法では、低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を、容易にしかも優れた精度で作製することができる。また、金型原構造体を製造するにあたり、環境汚染やリサイクルなどの環境問題が生じない。この金型を用いることにより、貯蔵弾性率(23℃)が低い低弾性プラスチック材料組成物を用いていても、容易にしかも優れた精度で成形された低弾性プラスチック微細隆起構造体を得ることができる。具体的には、低弾性プラスチック微細隆起構造体としては、下記工程D〜Eにより、前記工程A〜Cを経て作製された金型を用いて複製して作製することができる。
工程D:前記工程A〜Cを経て作製された金型に、低弾性プラスチック材料組成物を充填する工程
工程E:工程Dで金型に充填された充填物を、低弾性プラスチック微細隆起構造体として、金型から離型する工程
【0064】
[工程D]
工程Dでは、前記工程A〜工程Cを具備する作製方法により作製された金型に、低弾性プラスチック材料組成物を注入や圧入等により充填している。該低弾性プラスチック材料組成物としては、5×103〜5×107Paの貯蔵弾性率を有しているものや、5×103〜5×107Paの貯蔵弾性率を有する低弾性プラスチック微細隆起構造体を形成可能なものであれば特に制限されない。具体的には、低弾性プラスチック材料組成物としては、例えば、天然ゴム(NR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ノルボルネンゴム(NOR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファゼンゴム等のゴム材料や、ポリエチレン系エラストマー等のオレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、ジエン系エラストマー等のエラストマー材料などを含む貯蔵弾性率が低い樹脂組成物などが挙げられる。低弾性プラスチック材料組成物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なお、前記ゴム材料やエラストマー材料は、透明性等の付与のために、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート(PC)等のポリマー成分が共重合されていてもよい。
【0065】
また、低弾性プラスチック材料組成物としては、熱可塑性樹脂等の樹脂成分を、多孔化やフォーム化して、低弾性率化した多孔質材料の原材料としての樹脂材料組成物や、三次元ネットワーク構造中に液体を含有させたゲル構造体(物理ゲル構造体や化学ゲル構造体等)の原材料としての樹脂材料組成物なども使用することができる。すなわち、これらの樹脂材料組成物により形成された低弾性プラスチック微細隆起構造体は、多孔質状態やゲル状態を有することにより、5×103〜5×107Paの貯蔵弾性率(23℃)を有することができる。
【0066】
低弾性プラスチック材料組成物が、導電性を有していると、導電性を有する低弾性プラスチック微細隆起構造体を得ることができる。低弾性プラスチック微細隆起構造体が導電性を有していると、下記に示すように、電気的に他の部材と接続させることができる。なお、低弾性プラスチック材料への導電性の付与に際しては、例えば、公知乃至慣用の導電性付与剤を用いることができる。導電性付与剤としては、導電性を有する物質であれば特に制限されず、有機系導電性付与剤、無機系導電性付与剤のいずれであってもよい。有機系導電性付与剤には、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロールなどの各種導電性高分子などが含まれる。また、無機系導電性付与剤としては、例えば、各種の金属類(例えば、金、銀、銅、錫、クロム、ニッケル、コバルトなどの金属や、銅−ニッケル合金、ニッケル−コバルト合金、錫−ニッケル合金などの合金など)などが挙げられる。導電性付与剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。導電性付与剤は、通常、粒子状の形態で用いられる。
【0067】
また、低弾性プラスチック材料組成物が、透明性を有していると、透明性を有する低弾性プラスチック微細隆起構造体を得ることができる。低弾性プラスチック微細隆起構造体が透明性を有していると、下記に示すように、光学的に他の部材と接続させることができる。なお、低弾性プラスチック微細隆起構造体としては、400〜800nmの可視光波長領域において10%以上(好ましくは50%以上、さらに好ましくは90%以上、特に95%以上)の透過率を有していれば、他の部材との光学的接続に用いられる。
【0068】
低弾性プラスチック材料組成物には、例えば、銅、アルミニウム、金、銀等の金属系充填剤や、カーボンや炭酸カルシウムなどの無機系充填剤などが含まれていてもよい。また、低弾性プラスチック材料組成物は、必要に応じて、架橋剤、滑剤、静電防止剤、可塑剤、分散剤、安定剤、界面活性剤、溶剤、水などを含有していてもよい。溶剤などの液体成分は、例えば、低弾性プラスチック材料組成物を金型に充填した後に加熱や減圧により除去することができる。
【0069】
低弾性プラスチック材料組成物を金型に充填する方法としては、特に制限されず、例えば、溶融したり、溶媒に溶解したりして低粘度化した低粘度状態の低弾性プラスチック材料組成物を、圧入や注入等により、金型に流し込む方法を用いることができる。金型に低粘度状態の低弾性プラスチック材料組成物を流し込んだ後は、冷却することにより、低弾性プラスチック材料組成物を固化することができる。なお、溶媒を用いた場合は、冷却前又は冷却後に、溶媒を除去することができる。
【0070】
[工程E]
工程Eでは、工程Dで金型に充填された充填物(低弾性プラスチック材料組成物からなる充填物)を金型から離型させることにより、微小構造が転写された微小隆起物を有する構造体(低弾性プラスチック微細隆起構造体)を得ている。例えば、冷却固化された低弾性プラスチック材料組成物を金型から抜き取ったり、剥離したりすることにより、離型することができる。
【0071】
なお、金型から剥離しにくい場合には、金型にシリコーン系やフッ素系の離型材料を塗布したり、または、低弾性プラスチック材料組成物中に前記離型材料を添加したりすることにより、冷却固化された低弾性プラスチック材料組成物の金型からの剥離を容易にすることができる。
【0072】
このような低弾性プラスチック微細隆起構造体の製造方法(すなわち、前記工程A〜工程Eを有する低弾性プラスチック微細隆起構造体の製造方法)を利用すると、貯蔵弾性率が低い(例えば、貯蔵弾性率(23℃)が5×103〜5×107Paの)低弾性プラスチック材料組成物を用いていても、容易に且つ精度よく、表面に凹凸構造が精密に形成された低弾性プラスチック微細隆起構造体を製造することができる。しかも、量産も容易に行うことができる。さらにまた、パルス幅が10-12秒以下の超短パルスのレーザーを利用して金型を作製しているので、前述のように、環境汚染やリサイクルなどの環境問題が生じない。
【0073】
このような低弾性プラスチック微細隆起構造体は、23℃での貯蔵弾性率が5×103〜5×107Paであり且つ表面に精密に制御された凹凸構造を有しているので、微小な応力の表面への付加や該付加の解除により、容易に変形し、また、熱の変化によって容易に膨張や収縮が生じる。そのため、応力や熱により、低弾性プラスチック微細隆起構造体の凹凸構造の高さを容易に変化させることができる。従って、この性質を利用して、応力や熱を低弾性プラスチック微細隆起構造体に付加又は該付加を解除することにより、低弾性プラスチック微細隆起構造体を、他の部材と力学的(物理的)に又は化学的に接続したり、この力学的な又は化学的な接続を解除したりすることが可能となる。このように、本発明の低弾性プラスチック微細隆起構造体は、力学的な又は化学的な接続方法に用いることができる。すなわち、本発明の低弾性プラスチック微細隆起構造体を用いた接続方法は、応力や熱の付加又はその解除により、力学的に又は化学的に、低弾性プラスチック微細隆起構造体と他の部材とを接続したり、該接続を解除したりする方法である。特に、低弾性プラスチック微細隆起構造体が導電性や透明性を有していると、応力や熱の付加又はその解除により、電気的に又は光学的に他の部材と接続させたり、この電気的な又は光学的な接続を解除したりすることができる。従って、本発明の低弾性プラスチック微細隆起構造体を用いると、他の部材との力学的、化学的、電気的或いは光学的(なかでも力学的、電気的或いは光学的)な接続又はその解除を行うことが可能となる。
【0074】
なお、低弾性プラスチック微細隆起構造体の接続に用いられる他の部材としては、低弾性プラスチック微細隆起構造体と力学的、化学的、電気的又は光学的に接続させることが可能な部材であれば特に制限されない。
【0075】
また、本発明では、低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を用いて作製された微小隆起物を有する構造体(低弾性プラスチック微細隆起構造体、円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を有する非低弾性プラスチック材料の他、他の材料による微小隆起物を有する構造体などのいずれであってもよい)を、金型原構造体(金型の原型)として用いて、前記工程B〜工程Cの方法と同様にして、新たな低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を作製することもでき、さらには、この新たな金型を用いて、前記工程D〜工程Eを具備する作製方法と同様にして、低弾性プラスチック微細隆起構造体を作製することもできる。すなわち、低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を用いて作製された微小隆起物を有する構造体を金型原構造体として用い、前記工程B〜工程Cの方法と同様に、該金型原構造体の表面上に金型材料を被覆させ、この金型材料被覆層を金型原構造体から分離して、低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を得ることも可能であり、さらには、この低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型に、前記工程D〜工程Eの方法と同様に、低弾性プラスチック材料組成物を充填し、この充填物を金型から離型して、低弾性プラスチック微細隆起構造体を得ることも可能である。
【0076】
これらの場合、低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を用いて作製された低弾性プラスチック微細隆起構造体としては、(i)パルス幅が10-12秒以下の超短パルスのレーザーを非低弾性プラスチック材料内部に照射することにより作製された円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を有する非低弾性プラスチック材料を金型原構造体(金型の原型)とし、該金型原構造体を用いて低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を得て、さらにこの金型を用いることにより得られた低弾性プラスチック微細隆起構造体であってもよく、(ii)低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を用いて微小隆起物を有する構造体を作製し、この微小隆起物を有する構造体を金型の原型として用い、前記工程B〜工程Cの方法と同様にして、金型を作製し、さらにこの金型を用いて、前記工程D〜工程Eを具備する作製方法と同様にして、微小隆起物を有する構造体を作製するという一連の操作を、n回(nは0又は1以上の整数である)行うことにより微小隆起物を有する構造体を得て、該微小隆起物を有する構造体を金型原構造体(金型の原型)とし、該金型原構造体を用いて低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を得て、さらにこの金型を用いることにより得られた低弾性プラスチック微細隆起構造体であってもよい。なお、前記(i)の方法により得られた低弾性プラスチック微細隆起構造体は、前記工程A〜工程Eの各工程を各1回だけ経て得られた低弾性プラスチック微細隆起構造体に相当している。また、前記(ii)の方法により得られた低弾性プラスチック微細隆起構造体は、nが0の場合は、(ii-a)前記(i)の方法に相当する方法により作製された微小隆起物を有する構造体を金型原構造体(金型の原型)として、前記工程B〜工程Cの方法と同様にして、低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を作製し、さらにこの金型を用いて、前記工程D〜工程Eを具備する作製方法と同様にして作製された低弾性プラスチック微細隆起構造体となり、nが1の場合は、(ii-b)前記(ii-a)の方法に相当する方法により得られた微小隆起物を有する構造体を金型原構造体(金型の原型)として、前記工程B〜工程Cの方法と同様にして、低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を作製し、さらにこの金型を用いて、前記工程D〜工程Eを具備する作製方法と同様にして作製された低弾性プラスチック微細隆起構造体となり、nが3以上の場合は、この一連の操作を必要回数繰り返し行って作製された低弾性プラスチック微細隆起構造体となる。
【0077】
従って、本発明において、工程D〜工程Eを具備する製造方法により得られた低弾性プラスチック微細隆起構造体には、前記(i)の方法により得られた低弾性プラスチック微細隆起構造体と、前記(ii)の方法により得られた低弾性プラスチック微細隆起構造体とが含まれる。すなわち、本発明では、工程D〜工程Eと同様の工程を具備する方法により得られた微小隆起物を有する構造体を、金型原構造体(金型の原型)として用い、該金型原構造体の表面上に金型材料を被覆させ、この金型材料被覆層を金型原構造体から分離して、低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型を得ることができ、さらには、この金型に、低弾性プラスチック材料を充填し、この充填物を金型から離型して、低弾性プラスチック微細隆起構造体を得ることができる。
【0078】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0079】
実施例1
0.5mm厚さの、ガラス転移温度が220℃のポリエーテル・イミド(PEI)シートの内部(深さ5μm)に、照射波長800nm、パルス幅150フェムト秒、繰り返し200kHzのチタン・サファイア・フェムト秒パルスレーザーを、照射エネルギー7.0mW、対物レンズの倍率10倍で、照射スポット約3μm径、照射方向に対して直角方向のサンプルの移動速度25μm/秒の条件で照射して、金型原構造体(金型の原型)である円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を有する非低弾性プラスチック材料(微小隆起物を有する非低弾性プラスチック材料)を作製した。
【0080】
次に、この金型原構造体である微小隆起物を有する非低弾性プラスチック材料を、濃度:98重量%の硫酸(「98%硫酸」と称する場合がある)、無水クロム酸及び98%硫酸、純水、濃度:35重量%の塩酸(「35%塩酸」と称する場合がある)、純水、35%塩酸、純水、98%硫酸、純水に、この順で、順次浸漬して、無電解メッキ前の前処理を行った後、ニッケルによる無電解メッキを行って、微小隆起物を有する非低弾性プラスチック材料表面上にニッケルを1μmの厚みまで堆積させた後、これを負極として、ニッケル板(Ni板)を正極として、スルファミン酸ニッケル浴中で、ニッケル電解メッキを行い、約35μmの厚み(無電解メッキ及び電解メッキによるニッケル層の総厚み)のニッケル層(Ni層)を形成し、その後、前記PEIを剥離して、金型(低弾性プラスチック微細隆起構造体形成用金型)を得た。この金型に、トルエンに溶解したブタジエンゴム(BR)を充填した後、溶剤(トルエン)を除去し固化させて、前記金型から抜いて、ブタジエンゴムからなる成形物(成形体)を得た。
【0081】
実施例2
実施例1と同様にして得られた金型に、アクリロニトリル/スチレン/メチルメタクリレートからなる透明な樹脂(ABSM樹脂)をメチルエチルケトン(MEK)に溶解した溶液を充填し、溶剤(MEK)を除去し固化させて、前記金型から抜いて、ABSM樹脂からなる成形物(成形体)を得た。
【0082】
実施例3
0.5mm厚さの、ガラス転移温度が160℃のポリカーボネート(PC)シート内部(深さ30μm)に実施例1と同じ超短パルスレーザーを、対物レンズ20倍を用い、照射エネルギーを30mWとしたこと以外は実施例1と同じ条件で照射して、金型原構造体(金型の原型)である円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を有する非低弾性プラスチック材料(微小隆起物を有する非低弾性プラスチック材料)を作製した。また、この金型原構造体を用いること以外は実施例1と同様にして、ニッケルからなる金型を得た。さらに、アクリロニトリル/スチレンからなる樹脂(AS樹脂)に銀微粒子を分散させた樹脂組成物(AS樹脂組成物)を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解した溶液を、前記ニッケルからなる金型に充填し、溶剤(THF)を除去し固化させて、前記金型から抜いて、AS樹脂からなる成形物(成形体)を得た。
【0083】
実施例4
実施例3と同様にして得られた金型に、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)微粒子を水に溶解させた水溶液を充填し、含まれる水分量(ゲル組成物全量に対して50重量%)を調整してゲル状態とした後、ゲル状態で金型から抜いて、ゲル状態の成形物(成形体)を得た。
【0084】
評価及び評価結果
実施例1〜4により得られた各成形体について、光干渉顕微鏡(菱化システム社製)並びに反射型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製)を用いて、表面並びに断面の形態及び形状の観察を行った。また、各成形体の貯蔵弾性率を、JIS K−7244に準じて測定した。具体的には、動的粘弾性測定装置として商品名「ARES」レオメトリック社製を用い、温度:23℃、測定周波数:10Hz、プレート:コーンプレートの測定条件で測定した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1から明らかなように、実施例1〜4により得られた成形体は、表面に釣鐘状または円錐状の微小な隆起物が形成されており、また、その貯蔵弾性率(23℃)は、5×103〜5×107Paと低く、ゴム弾性状態を有していた。
【0087】
また、実施例1〜4により得られた成形体(低弾性プラスチック微細隆起構造体)に、9.8×10-6N(=1mgf)以下の応力を付加したところ、十分な変形を起こすことが確認された。さらにまた、実施例2に係る成形体(低弾性プラスチック微細隆起構造体)は、透明であるので、光学部材に対して、光学的な接続が可能であることが確認された。また、実施例3に係る成形体(低弾性プラスチック微細隆起構造体)は、導電性を有しているので、電気部材に対して、電気的な接続が可能であることが確認された。
【0088】
【発明の効果】
本発明により、低い貯蔵弾性率を有するプラスチック材料が用いられていても、表面に凹凸構造が精密に形成された低弾性プラスチック微細隆起構造体を容易に且つ精密に製造することができる。また、環境汚染やリサイクルなどの環境問題を生じさせることなく、前記低弾性プラスチック微細隆起構造体を作製することができる。このような低弾性プラスチック微細隆起構造体は、各種部材に対する力学的、電気的又は光学的な接続に際して利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の低弾性プラスチック微細隆起構造体の一例を模式的に示す鳥瞰図である。
【図2】本発明の低弾性プラスチック微細隆起構造体の他の例を模式的に示す鳥瞰図である。
【図3】本発明の低弾性プラスチック微細隆起構造体を作製するプロセスの一例を示す工程図である。
【図4】金型原構造体(金型の原型)の形成方法の一例を示す概略鳥瞰図である。
【符号の説明】
1 シート状の低弾性プラスチック微細隆起構造体
2a 円錐状の隆起物
2b 釣り鐘状の隆起物
A 金型原構造体
B1 無電解メッキ層
B2 電解メッキ層
B12 金型材料被覆層(金属材料のメッキ部)
C1 低弾性プラスチック材料組成物
C 低弾性プラスチック微細隆起構造体
3 非低弾性プラスチック材料によるシート(非低弾性プラスチックシート)
3a 非低弾性プラスチックシート3の表面
T 非低弾性プラスチックシート3の厚さ
4 パルス幅が10-12秒以下である超短パルスレーザー
4a レーザー4の焦点
5 レンズ
6 レーザー4の照射方向
7 レーザー4の焦点4aの移動方向
8 レーザー4の焦点4aをライン状に移動させる際のライン
d 非低弾性プラスチックシート3の表面3aと、レーザー4aの焦点4aとの距離
L ライン8における近接したライン間の間隔
Claims (6)
- 23℃での貯蔵弾性率が5×103〜5×107Paであり、且つ底面の直径0.3〜60μm、高さ0.1〜60μmの円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を直径と同じかそれ以上の間隔を置いて表面に複数個有していることを特徴とする低弾性プラスチック微細隆起構造体。
- 低弾性プラスチック微細隆起構造体が、下記工程A〜Cを経て作製された金型による複製物である請求項1記載の低弾性プラスチック微細隆起構造体。
工程A:23℃での貯蔵弾性率が5×107Paを超えているプラスチック材料内部にパルス幅が10-12秒以下の超短パルスのレーザーを照射することにより、該プラスチック材料表面に該プラスチック材料内部から隆起して形成された円錐状ないし釣り鐘状の隆起物を、複数個形成して金型の原構造体を形成する工程
工程B:工程Aで形成された金型の原構造体の表面上に金型材料を被覆する工程
工程C:工程Bで形成された金型材料被覆層を金型の原構造体から金型として分離する工程 - 低弾性プラスチック微細隆起構造体が、導電性を有している請求項1又は2記載の低弾性プラスチック微細隆起構造体。
- 低弾性プラスチック微細隆起構造体が、400〜800nmの可視光波長領域において10%以上の透過率を有している請求項1又は2記載の低弾性プラスチック微細隆起構造体。
- 請求項1、2又は3記載の低弾性プラスチック微細隆起構造体を用いることを特徴とする電気的又は力学的な接続方法。
- 請求項1、2又は4記載の低弾性プラスチック微細隆起構造体を用いることを特徴とする光学的な接続方法。
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