JP3766530B2 - パン類の品質改良組成物およびそれを用いたパン類の製造法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はパン類の品質改良組成物及びそれを用いたパン類の製造法に関する。より詳細にはマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素(以下、G4・G5生成酵素ともいう)を含むことを特徴とするパン類の品質改良組成物及びそれを用いたパン類の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、パンを貯蔵した場合におけるパンの経時的な固化現象、食感等の物性の劣化を防止または遅延させるための試みがなされており、例えば、生地の調製の段階で、脂肪酸モノグリセライド、レシチン、ステアリル−2−乳酸エステルなどの乳化剤、ソルビット、砂糖などの糖類あるいはこれらを含んだ油脂、キサンタンガム、プルランなどの増粘多糖類又はα化加工澱粉などの各種の食品添加物を添加することが行われてきた。また、マルトトリオース、マルトテトラオース等のマルトオリゴ糖を添加する方法も提案されている(特開昭60-192538号公報、月刊フードケミカル 1997年6月号41−48頁)。
【0003】
更に又、パン生地に酵素を添加する方法も検討されており、例えば、パン生地にα−アミラーゼを添加してパンの固化を防止する試みが従来からなされ、最近になって、パン焼き菓子の固化の進行を妨げるために耐酸性のα−アミラーゼと耐熱性のα−アミラーゼを組み合わせて使用する方法(特公平7-110193号公報)や、ラクトバチルス属の生産する新規エステラーゼをパン若しくは菓子パンの製造に用いて固化を防止する方法(特開平4-121186号公報)も開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のパンの固化防止方法のうちで、乳化剤等の食品添加物を添加する方法は、最近の天然物思考に合致しないので、天然物である酵素を添加して固化を防止する方法が試みられるつつあるが、しかし、現段階においては試行錯誤の段階であり、酵素を添加してパンの固化を防止する為のより好ましい方法を見い出す努力が続けられている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、酵素添加によるパンの固化防止方法について種々研究を行っているうちに、マルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素をパン類製造において使用したところ、パン生地を小麦粉などをまぶすことなく取り扱いやすくし、水分の調整のための添加物を必要とせず、焼き上げたときのパンの弾力、しなやかさの向上、および固化現象を防止し、更に冷凍生地によるパンのボリュームの減少などの問題点を防止することができるパンの品質改良組成物を提供することが可能であることを知り、鋭意検討の結果、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明はマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素を含むことを特徴とするパン類の品質改良組成物、および穀類粉末を主原料とするパン類の製造法において、当該製造工程中にマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素を含むパン類の品質改良組成物を添加混合することを特徴とするパン類の製造法に関する。
【0007】
本発明においてパン類及びパン類生地とは小麦粉を主原料とし、これに水等を加え更に油脂、糖類、乳製品、卵、イーストフード、各種酵素類、各種乳化剤等の原料を必要に応じて添加し、イーストの添加の有無に拘らず、混捏工程を経て得られた一般的生地、餅や饅頭生地やドーナッツ生地、パイ生地、ピザ生地、ホットケーキ生地、スポンジケーキ生地、クレープ生地、餃子生地等も包含し、これらを蒸したり、焼いたり或いは油揚げしたものを包含する。更に上記原料の他に小麦粉以外の穀物、例えばライ麦等を混入したものをも包含する。
【0008】
本発明の品質改良組成物に含まれるマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素とは、澱粉に作用して主としてマルトテトラオース及びマルトペンタオースの両方を生成する能力を有する酵素をいう。
【0009】
マルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素としては、例えば、本発明者等が土壌よりスクリーニングして新たに見いだしたバチルス・エスピー(Bacillus sp.)No.9668の生産するマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素及び公知のバシルス・サーキュランス(Bacillus circulans)の生産するアミラーゼG4,5〔特公昭60-36278号公報、Agric.Biol.Chem.47(10),2193 〜2199,1983〕等が挙げられる。
本発明者等により新たに土壌よりスクリーニングした、マルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素産生菌の部分的同定結果及び該菌株によるマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素の生産方法、並びに該生成酵素の澱粉に対する作用の確認方法は、以下の通りである。
(1) 菌株の同定
1.形態的性質
桿菌
胞子形成能有り
2.生理学的性質
グラム陽性
好気的に生育
以上の性質より、本菌株は、バチルス属に属する菌株であることが明らかであり、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)No.9668とされ、工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P-16531として寄託されている。
(2) 酵素の生産方法
可溶性澱粉1.2%、ポリペプトン0.5%、カツオ肉エキス1.5%、リン酸二カリウム0.3%、硫酸マグネシウム(7水和物)0.1%からなる培地100ml(pH8.0)を500ml容坂口フラスコに入れ、120℃で10分殺菌した後、予め同培地にて30℃で1日間前培養したバチルス・エスピー(Bacillus sp.)No.9668 FERM P-16531を接種し、30℃、3日間、回転数140rpmで振盪培養を行い、除菌後マルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素液を得た。
(3) 生成酵素の澱粉に対する作用の確認
5%可溶性澱粉溶液(10mMリン酸緩衝液pH7.0に可溶性澱粉を溶解)に上記(2)で得られたマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素を基質1.0 gあたり50U添加し、37℃で反応させ、時間経過による反応生成物の確認を薄層クロマトグラフィー及びHPLCで行なった結果、図1及び図2に示されるようにマルトテトラオース及びマルトペンタオースが生成されていることを確認した。
【0010】
本発明の品質改良組成物は、上記したようなマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素単独で形成されていても良いが、通常はマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素以外のパン類製造に必要とされる各種の添加物や賦形剤を添加した組成物が使用される。
【0011】
各種の添加剤や賦形剤としては原料の穀類粉末、イースト、イーストフード、食塩、砂糖、油脂などのほかにマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素の作用を妨げない範囲で脱脂粉乳、卵、多糖類、調味料、香料、アスコルビン酸、膨張剤(炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム等)、漂白剤(過硫酸アンモニウム等)、乳化剤(ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル等)、ステアロイル硫酸カルシウム、L−システイン塩酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、果実、コーヒー抽出物、香辛料等が添加されうる。
【0012】
使用するマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素は、必ずしも高度に精製処理した高純度品である必要はなく、培養液より菌体が除去されたのみの粗酵素品であってもよく、或いは粗酵素品を部分精製して得られる半精製品の何れであっても良い。
【0013】
本発明のマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素を含むパンの品質改良組成物の生地調製時に添加する方法は、それらが生地中に均一に分散する方法であれば特に制限はない。例えば、小麦粉等のいずれかの原料と同時に加えてもよいし、予め、水に溶解し加えてもよい。
【0014】
品質改良組成物のパン生地調整時における添加量は、マルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素活性として、小麦粉1gに対して0.01〜10単位が使用され、好ましくは0.05〜3.0単位が使用される。
【0015】
品質改良組成物を添加した後、一定時間保温することが好ましい。即ち、おおよそ30分以上、20〜50℃で保温することが好ましく、パンの製造のような発酵工程を有する場合、発酵工程がこれに該当する。即ち、G4・G5生成酵素を添加されたパン類の生地中にはマルトテトラオース及びマルトペンタオースが継続的に供給されることとなり、且つ徐々にこれらオリゴ糖が生成するためイーストの発酵を抑制しない利点がある。よってマルトテトラオース及びマルトペンタオースを最初から添加して調製する場合と比較して本発明の効果を発揮することができる。
【0016】
又焼成後のパンが固化するのは、一旦固化した澱粉が再結晶化し、老化するためであるが、本発明の品質改良組成物中のマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素によりパン生地中の澱粉が適度に分解されることによってパンの老化を防ぐことができる。
【0017】
本発明の品質改良組成物を添加してパン類生地を製造した後は、通常の方法でパン類を製造することができる。又、パン類生地を冷凍する方法としては、ミキシング後、成形後、最終プルーフ後に冷凍する場合等がある。これらは解凍後それぞれ通常の方法で使用される。
【0018】
尚、マルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素の酵素活性は、以下のようにして測定する。
0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.0)に溶解した2%可溶性澱粉0.5mlに、適量の酵素を加え、水で全量を1.0mlとし、40℃で反応させる。この条件で、1分間に1マイクロモルのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位とする。
【0019】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
【実施例】
実施例1 マルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素の製パン性への影響
以下に示す配合処方及び製造手順により、ノータイム法によってワンローフ食パンを製造した。
【0021】
配合
小麦粉 100% 2000g
砂糖 5% 100g
食塩 2% 40g
ショートニング 4% 80g
イースト 3% 60g
アスコルビン酸 20ppm 40mg
水 69% 1380ml
上記配合を基本とし酵素を以下のように添加した。
処方1:酵素剤無添加
処方2:G4・G5生成酵素211単位を添加
製造手順
(1) ミキシング:
「低速4分」−「高速4分」−「ショートニング添加」−「低速1分」 −「中速4分」−「高速4分」
(2) 捏上温度:27〜29℃
(3) 醗酵:27℃、30分
(4) 分割:生地重量450g
(5) ベンチ:30分
(6) ホイロ:38℃、パンケース型上3.5cm
(7) 焼成:230℃、25分
【0022】
上記の条件でワンローフ食パンを製造したパンについて評価した。即ち、パンの容積及び比容積については菜種置換法(Rape seed Replacement method)で測定し、パンのクラムの柔らかさについては以下の条件下で、レオメーターで押し込み強度を測定することにより求めた。
パンのクラムの柔らかさ測定法
▲1▼ 試料:パンのクラム 厚さ2cm
▲2▼ プランジャー:φ25 mm 円型平板プランジャー
▲3▼ 押し込み強度:2cm/min
▲4▼ 押し込み:パンのクラムの厚さが0.5 cmになるまで押し込みそのとき の応力を測定
▲5▼ パンの保存:20℃
【0023】
【表1】
【0024】
さらに、パン生地を成形後、ブラストフリーザーで凍結し、-20℃で3ヶ月保存した後、解凍して38℃で最終ホイロを行い、焼成したパンについても同様に評価した。
【0025】
【表2】
【0026】
表1及び表2より明らかなように、全ての項目でマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素を添加したパン及びパン生地は添加しないときと比べ勝っていた。
【0027】
小麦粉にマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素が添加されると、小麦粉澱粉中のα-1,4-結合が開裂し、開裂によって生成した物質の大部分はマルトテトラオース及びマルトペンタオースとなっている。その反応の際には他の物質(グルコースが6個以上或いは3個以下)も生成される。このようにマルトテトラオース及びマルトペンタオースだけではなく、少量のグルコースも生成されるのでイーストにとってはよりよい栄養源となる。つまり、イーストにとっては発酵可能な物質が豊富に供給されることとなるため発酵が速やかに進行する。更に、グルテン・マトリックスに結合している澱粉(糖蛋白)も部分的に分解されて、グルテン構造に微細孔を形成し、パン生地の伸長性を高めることができる。
【0028】
又、生成したマルトテトラオース及びマルトペンタオースは水と結合する力が強いのでパン生地を冷凍する際にも有利に働く。即ち、パン生地に含まれている水分が吸収されてしまうためグルテン・マトリックスを破壊へと導く氷晶の形成が抑制されるのでパンのボリュームが損なわれることがない。
【発明の効果】
本発明により、パン生地を小麦粉などをまぶすことなく取り扱いやすくし、水分の調整のための添加物を必要とせず、焼き上げたときのパンの弾力、しなやかさの向上、および固化現象を防止し、更に冷凍生地によるパンのボリュームの減少などの問題点を防止し、乳化剤を無添加或いは添加量の削減を果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】可溶性デンプンにG4・G5生成酵素を反応させ、時間経過による反応生成物を薄層クロマトグラフィーで確認したものである。
【図2】可溶性デンプンにG4・G5生成酵素を反応させ、時間経過による反応生成物をHPLCで確認したものである。
Claims (4)
- マルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素を含むことを特徴とするパン類の品質改良組成物。
- 穀類粉末を主原料とするパン類の製造法において、当該製造工程中にマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素を含むパン類の品質改良組成物を添加混合することを特徴とするパン類の製造法。
- 穀類粉末にマルトテトラオース・マルトペンタオース生成酵素を含むパン類の品質改良組成物を添加混合して調製してなるパン生地。
- パン生地が冷凍生地である請求項3記載のパン生地。
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