JP3766363B2 - アルミニウム合金溶湯の精錬方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、純アルミニウムまたはアルミニウム合金 (以下、単にアルミニウム合金と言い、アルミニウムも単にAlと言う) 溶湯の精錬方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
周知の通り、圧延板材、押出形材、鍛造などのAl合金展伸材用の鋳塊の溶解、鋳造工程においては、通常、溶解炉において、Al原料 (Al地金、Al合金材製品のスクラップなど) を溶解後、成分調整を行い、Al合金溶湯の精錬を行う。
【0003】
このAl合金溶湯 (以下、単にAl溶湯と言う) の精錬とは、塩素ガス、塩化物系のフラックス、あるいは非ハロゲン系のフラックスを溶湯中に吹き込み、溶湯中の特に水素などのガス成分の脱ガスや介在物の滓化を行い、Al溶湯表面から滓を除去する除滓を行うなどの溶湯を清浄化処理する工程である。
【0004】
そして、これら精錬後のAl溶湯は、溶解炉から保持炉を経由してまたは経由しないで、各々移湯樋などを介して鋳型に移湯供給される。この際、移湯中の溶湯は、鋳型直前の移湯樋やフィルターボックスに設けられたフィルターによりアルミナ等の酸化物系の介在物が更に除去されるなどして、鋳型に供給され、前記Al合金展伸材用の鋳塊に鋳造される。
【0005】
近年では、塩素ガスや塩化物系のフラックスの有害性などの問題から、これらに代えて、非ハロゲン系の精錬用フラックスを不活性ガスをキャリアガスとしてAl溶湯中に吹き込み、溶湯の脱ガスおよび除滓を促進させることが用いられるようになっている。
【0006】
この非ハロゲン系の精錬用フラックスとして、例えば、硫酸カリウム(K2SO4) を主体とし、これに硫酸塩の融点を下げるための硫酸リチウムや、硫酸マグネシウムなどを更に加えた混合系のフラックスが提案されている (特許文献1参照) 。また、Al溶湯の脱ガスおよび除滓用の精錬フラックスとして、硫酸カリウム単体からなるフラックスが提案されている (特許文献2参照) 。
【0007】
【特許文献1】
特開平07−207358号公報 (第1 〜2 頁)
【特許文献1】
特開平11−323449号公報 (第1 〜2 頁)
【0008】
しかし、これらの非ハロゲン系の精錬用フラックスにより、塩素乃至塩化物を用いることによる前記弊害は確かに防止されるものの、肝心の、溶湯中のH2ガスなどの脱ガスおよび脱介在物などの精錬効率が、塩素乃至塩化物系の精錬効率よりも劣る問題がある。
【0009】
Al合金展伸材の分野においては、電子・電気部品分野の用途におけるAl合金展伸材の表面性状 (表面平滑性、表面粗度) などに対する要求は益々厳しくなっている。更に、缶などの包装容器用や自動車などの輸送機用、あるいは構造材用途などでも高強度化、高成形性、高耐食性化など、Al合金展伸材の高品質化の要求も益々厳しくなっている。したがって、これに伴い、Al合金鋳塊中のH2や介在物などの不純物をより低減する必要性が益々増している。
【0010】
また、Al溶解原料は、Al合金展伸材スクラップのリサイクルシステムの確立の社会的要請に基づき、従来のAl地金主体から、Al合金展伸材のスクラップを主体とするものに変わりつつある。この結果、Al溶解原料を100%スクラップとすることも行われるようになっている。しかし、Al合金展伸材スクラップをAl溶解原料とした場合、スクラップからの不純物元素、或いはH2などのガス成分の混入量の増大は、スクラップを前処理したとしても避けがたくなっている。
【0011】
しかし、Al合金の精錬分野において、これらの要求や必要性に対応して、前記塩素乃至塩化物並の精錬効率を有する非ハロゲン系の精錬用フラックスは未だ実用化されていないのが実情であり、前記脱ガスおよび脱介在物の高い低減レベルでの精錬を行おうとすれば、塩素乃至塩化物フラックスを併用せざるを得ないのが実情であった。
【0012】
これに対し、非ハロゲン系のAl合金精錬用フラックスとして、ミョウバンを用いることが提案された (特許文献3参照) 。このミョウバンフラックスによれば、前記要求や必要性に対応して、脱ガスおよび脱介在物の高い低減レベルを達成しうる精錬を可能にする。
【0013】
【特許文献3】
特開2000−239757号公報 (第1 〜2 頁)
【0014】
即ち、ミョウバンフラックスは、Al合金精錬 (溶湯) 温度で分解し、亜硫酸ガスや硫酸塩を放出する。そして、この放出された硫酸塩や亜硫酸ガスが、溶湯中の水素と反応して脱水素を行う作用を有する。
【0015】
より具体的には、このミョウバンフラックスにおいては、硫酸塩のヒューム (微粒子) やSOX ガスが、溶湯中の水素と固体−気体反応乃至気体−気体反応して、生成した水素化合物を気体化させるか、滓として溶湯から分離除去して、溶湯の脱水素を行う。また、介在物の滓化を促進し、Al溶湯表面から滓を除去する除滓を促進するなどの溶湯を清浄化する効果も有する。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
ただ、このミョウバンフラックスは、Al溶湯中に吹き込んだ際に、未反応のフラックスが生じやすい。この未反応のフラックスは、前記Al溶湯中での精錬作用に寄与せずにAl溶湯表面に浮上し、Al溶湯表面に既に存在する滓などと反応して、Al溶湯の滓化を促進しやすい作用を有する。
【0017】
この未反応のフラックスの生成やAl溶湯の滓化は、ミョウバンフラックスならずとも、反応性の良い塩素ガスなどの気体精錬剤に比べた、固体精錬剤である前記粉末フラックス全般に特有の問題でもある。
【0018】
しかし、このミョウバンフラックスは、前記優れた脱水素や脱介在物の作用乃至反応性により、未反応のフラックスが生成しAl溶湯表面に浮上した場合、これまでの他の非ハロゲン系のAl合金精錬用フラックスの場合と違い、却って、Al溶湯表面の前記滓化が促進されやすいという特有の問題がある。そして、このAl溶湯表面の滓化が促進されるほど、滓の生成量が多くなり、相対的に鋳造されるAl溶湯の歩留りが低下すると言う、実用上の問題を有する。
【0019】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、ミョウバンフラックスの優れた脱水素や脱介在物の高い低減レベルを維持しながら、Al溶湯表面の滓化を極力抑制して、Al溶湯の歩留りを向上しうる、Al合金溶湯の精錬方法を提供しようとするものである。
【0020】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明に係るAl合金溶湯の精錬方法の要旨は、展伸材用アルミニウム合金溶湯に対し、精錬用フラックスとしてミョウバン粉末を用いて、溶湯中の水素を低減する溶湯精錬を行い、合わせて溶湯表面に浮上した滓を溶湯から除去するに際し、前記ミョウバン粉末の平均粒径を1mm 以下とし、前記溶湯精錬の際の滓発生量をアルミニウム合金溶湯量の3 質量% 以下に抑制したことである。
【0021】
本発明者らは、展伸材用アルミニウム合金溶湯に対し、精錬用フラックスとしてミョウバン粉末を用いるに際し、ミョウバン粉末の平均粒径と溶湯精錬の際の滓発生量とに相関関係があることを知見した。即ち、ミョウバン粉末の平均粒径が小さい乃至細かいほど、溶湯精錬の際の滓発生量が減少し、Al合金溶湯の歩留りが向上することを知見した。そして、前記溶湯精錬の際の滓発生量をAl合金溶湯量の3 質量% 以下に抑制しうるミョウバン粉末の平均粒径が1mm 以下であることも知見した。
【0022】
なお、前記特許文献3でも、ミョウバンの粉末の粒径乃至粒度について、溶湯への吹き込む乃至添加する態様に応じて適宜選択することが開示されている。ただ、前記特許文献3での、ミョウバンの粒径乃至粒度に対する認識は、開示されている通り、ミョウバンの吸湿性による、フラックスの吹き込みランスの目詰まり等の吹き込み作業が阻害されることの範囲にとどまる。
【0023】
言い換えると、本発明における、前記した、溶湯への吹き込み乃至添加するミョウバン粉末の平均粒径と滓発生量との相関関係、ミョウバン粉末の平均粒径が小さいほど滓発生量が減少すること、そして、滓発生量をAl合金溶湯量の3 質量% 以下に抑制しうるミョウバン粉末の平均粒径が1mm 以下であること、等の認識や示唆は全くない。
【0024】
また、前記特許文献3では、用いたミョウバン粉末の平均粒径の開示はないが、前記した発明の課題の通り、滓の生成量が多くなり、相対的に鋳造されるAl溶湯の歩留りが低下すると言う問題を有していたのであり、必然的に使用ミョウバン粉末の平均粒径は1mm を越えていた。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明における各要件の意義について、以下に説明する。
先ず、本発明におけるフラックスとしてのミョウバン粉末について説明する。本発明で言うミョウバンの定義は、前記特許文3にも開示される定義と同じである。
【0026】
即ち、ミョウバンは、一般式R3R1(SO4)2・nH2O(n=12 、10、6 、4 、3 、2 又は0)や、R1[R3(H2O)6](SO4)2・nH2O(n=12 、10、6 、4 、3 、2 又は0)などの組成式で表される3 価の金属(R3)と1 価の金属(R1)の硫酸塩の複塩の総称である。そして、3 価の金属(R3)としては、Al、Fe、Cr、および1 価の金属(R1)などとしては、K 、NH4 、Naがある。中でも、代表的なものは、AlK(SO4)2 ・nH2O(n=12 、10、6 、3 、2 又は0)のカリウムミョウバンまたは焼きカリウムミョウバンと、AlNH4(SO4)2 ・nH2O(n=12 、10、6 、4 、3 、2 又は0)のアンモニウムミョウバンまたは焼きアンモニウムミョウバンである。
【0027】
次に、本発明におけるフラックスとしてのミョウバン粉末の作用効果について説明する。前記各ミョウバンは、種類によって異なるものの、加熱されると、Al合金の溶湯温度以下の約650 ℃付近から亜硫酸ガス(SO)やSO2 などのSOX ガスが分解放出し始め、約950 ℃付近において熱分解が完了し、同時に酸化Alを生成する、という特性を有する。この内、加熱温度400 〜550 ℃の間では、例えば、アンモニウムミョウバンでは硫酸アンモニウム、カリミョウバンでは硫酸カリなどの硫酸塩を放出する。
【0028】
即ち、この放出硫酸塩や、前記分解放出亜硫酸ガスが、溶湯中の水素と反応して脱水素を行う作用を有する。Al合金の溶湯温度は約700 ℃程度であり、溶湯中に添加乃至吹き込まれたフラックスとしてのミョウバンは、この溶湯温度下で硫酸塩やSO2 などのSOX ガスを分解放出し、これら硫酸塩のヒューム (微粒子) やSOX ガスが、溶湯中の水素と固体−気体反応乃至気体−気体反応する。そして、この生成した水素化合物を気体化させるか、滓として溶湯から分離除去して、溶湯の脱水素を行うことが可能となる。また、介在物の滓化を促進し、Al溶湯表面から滓を除去する除滓を促進するなどの溶湯を清浄化する効果も有する。
【0029】
より具体的な作用としては、前記生成SOX ガスは、不活性ガスの攪拌効果によって、Al溶湯中に迅速に拡散することによって、そのガス気泡中に、溶湯中のH2ガスを拡散と分圧平衡により取り込む。そして、この微細なSOX ガス気泡が溶湯表面に浮上、揮散することにより、H2ガスが溶湯中より除去される。また、溶湯中の介在物は、生成SOX ガスや不活性ガスの攪拌効果乃至浮上効果によって、溶湯中より溶湯表面に浮上し、滓化が促進されて溶湯中より除去される。
【0030】
また、前記生成ヒュームは、同じくAl溶湯中に迅速に拡散することによって、気体−固体反応により水素と水素化合物を生成する乃至溶融かつ分解してSOX ガスを生成し、前記生成SOX ガスと同様の脱ガスおよび脱介在物効果を発揮する。したがって、これらの複合乃至相乗作用により、溶湯中のH2ガスなどのガス成分と、特に酸化物系の介在物の除去効果が増大する。
【0031】
その一方で、前記したミョウバンの特性の内、溶湯にとって有害な不純物乃至介在物となるべき酸化アルミニウム(Al)は、生成温度が約950 ℃の付近である。したがって、Al合金の溶湯温度に対し、生成温度が十分高温であるので、実際の溶湯の精錬中に酸化Alが生成することは少ない。
【0032】
溶湯中に添加乃至吹き込まれたフラックスとしてのミョウバンは酸化Alとして、あるいは硫酸塩として溶湯中に残留することは殆ど無い。また、仮に、前記酸化Alが生成したとしても、この酸化Alは溶湯中で生成したものであり、Al溶湯が大気と接触して生じる酸化Alに比して、非常に粒子が細かい。この結果、前記生成SOX ガスや不活性ガスの攪拌効果乃至浮上効果によって、溶湯中より溶湯表面に浮上しやすく、滓化が促進され、生成酸化Alが溶湯中に残留することは殆ど無い。
【0033】
それゆえ、フラックスとしてのミョウバンは、溶湯中に残留することなく、溶湯の脱水素や脱介在物を行うことが可能であるという優れた効果を有する。但し、アンモニウムミョウバンは、精錬条件によっては、NH4 が分解して水素を生成する可能性と、この水素が溶湯中に残留するために、水素除去のための不活性ガスによる攪拌の長時間化の可能性もある。
【0034】
したがって、このような副作用の可能性の無いカリミョウバン乃至焼きカリミョウバンを用いることが最も好ましい。なお、本発明では、上記した具体例以外にも、ミョウバンとして分類される化合物の内、脱水素を行う硫酸塩や亜硫酸ガスを放出し、かつ溶湯にとって有害な残留不純物を生じないという精錬作用を有する化合物は、全て発明範囲内として含む。
【0035】
以上のミョウバンフラックスを前提に、次に、本発明の特徴である、添加するミョウバン粉末の平均粒径と溶湯精錬の際の滓発生量との関係を以下に説明する。上記優れた脱水素や脱介在物の作用により、一方では、Al溶湯中に吹き込んだ際の未反応のフラックスがAl溶湯表面に浮上した場合、Al溶湯表面に既に存在する滓などと反応して、Al溶湯の滓化を促進しやすい作用を有する。このAl溶湯表面の滓化が促進されると滓 (ドロス) の生成量が多くなり、Al溶湯の歩留りを低下させる。
【0036】
このミョウバンフラックスのAl溶湯の滓化促進作用に対して、上記優れた脱水素や脱介在物の作用を維持しつつ、Al溶湯表面の滓化を抑制するために、本発明では、Al溶湯に吹き込むミョウバン粉末の平均粒径を小さくする。添加するミョウバン粉末の平均粒径が小さいほど、ミョウバン粉末の表面積が増大し、反応速度が増す。この反応速度が増すと、Al溶湯中に吹き込まれたミョウバンフラックスは、Al溶湯表面に浮上するまでに、その大部分が、硫酸塩やSOX ガスに分解放出される。この結果、Al溶湯表面に浮上する未反応のミョウバンフラックスが減少するため、上記Al溶湯表面に存在する滓などとの反応が抑制され、Al溶湯表面の滓化が抑制される。
【0037】
また、このミョウバンの微細化はAl溶湯表面に浮上する未反応のミョウバンを減少させるものであるため、上記優れた脱水素や脱介在物の作用を阻害することなく、却って促進あるいは維持しつつ、Al溶湯表面の滓化を抑制する。
【0038】
図1 にカリウムミョウバン粉末の平均粒径(mm)と滓発生量 (質量%)との関係を示す。図1 は後述する実施例表1 の結果 (発明例1 〜3 および比較例11、12) を整理し直したものである。
【0039】
この図1 より、滓発生量をAl合金溶湯量の3 質量% 以下に抑制しうるミョウバン粉末の平均粒径は、1mm 以下の小粒径であることが分かる。また、ミョウバン粉末の平均粒径が1mm を越えて大きくなった場合、滓発生量がAl合金溶湯量の3 質量% を越えて大きくなることが分かる。したがって、本発明では、精錬用フラックスとしてのミョウバン粉末の平均粒径を1mm 以下の小粒径とする。
【0040】
実際に汎用されているミョウバン粉末の平均粒径は、用途に応じて、数ミクロン (μm ) レベルの単位から、数十mmまで種々存在する。ただ、ミョウバン粉末の工業的な製造工程からして、常法にて製造されるミョウバン粉末の平均粒径は通常、1mm を越える大きなものとなる。したがって、本発明で精錬用フラックスとして使用するミョウバン粉末は、これら工業的に得られた平均粒径が1mm を越える大きなミョウバン粉末を、解砕、ふるい等によって、平均粒径が1mm 以下のものとする必要がある。あるいは、ミョウバン粉末の製造の際に平均粒径が1mm 以下のものを選択的に製造する条件や工程を付加して直接得る必要がある。
【0041】
但し、前記図1 からしても、滓発生量抑制のためには、ミョウバン粉末の平均粒径を数ミクロン (μm ) の単位まで細かくする必要はない。また、細かくし過ぎた場合、やはり、ミョウバンの吸湿性による、吸湿水分の溶湯中への混入、フラックスの吹き込み作業の阻害が大きな問題となりうる。したがって、ミョウバン平均粒径の好ましい下限は0.1mm 程度である。前記ミョウバンの吸湿性から、ミョウバンを乾燥状態でフラックスとして使用するために、例えば、使用直前にミョウバンを加熱して乾燥させる等の手段を用いることも好ましい。
【0042】
次に、本発明のフラックス組成について説明する。本発明において、非ハロゲン系の精錬用フラックスとしてのフラックス組成は、ミョウバン粉末単体(100%)の組成とするだけではなく、他のフラックスと組み合わせ乃至混合されて用いることを許容する。したがって、精錬用フラックスとしてミョウバン粉末を用いると言う本発明の意味も、他のフラックスと組み合わせ乃至混合されて用いることを許容する。
【0043】
前記した通り、本発明のミョウバンフラックスは、溶湯の脱水素および脱介在物そして除滓等の作用効果を兼ね備えている。しかも、ミョウバン自体が従来のフラックスに比較しても安価である。したがって、これらの特性からは、ミョウバン単体でもよいが、精錬における種々のフラックスには、溶湯の脱水素および脱介在物そして除滓以外の役割も有り、これら他の特性を満たすために、あるいは、溶湯の脱水素および脱介在物そして除滓等の作用効果を向上させるために、その他のフラックスと組み合わせて用いる乃至混合されて用いられて良い。
【0044】
その他のフラックスとしては、▲1▼溶湯の脱水素および脱介在物用、或いは発熱用の助燃剤としての、硫酸カリウム(K2SO4) 、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫酸カルシウム(CaSO4) 或いは硫酸アンモニウムなどの硫酸塩や、炭酸カリウム(K2CO3) などの炭酸塩、あるいは硝酸塩、更には、珪フッ化カリウム(K2SiF6)、アルミフッ化カリウム(KAlF4、K3AlF6) などがある。更に、▲2▼溶湯の脱水素および脱介在物用として、KCl などの塩化物やAlF3などのフッ化物がある。
【0045】
更に、▲3▼発熱用の助燃剤としてのAlアトマイズ粉や、酸化鉄などの金属酸化物、硝酸カリウムなどの硝酸塩、▲4▼硫酸塩の融点を下げるためのほう酸リチウムなどのリチウム(Li)乃至マグネシウム(Mg)化合物などがある。そして、これらを、フラックス組成として好ましくは、前記▲1▼のフラックスの場合は40〜60質量% 、前記▲2▼〜▲4▼のフラックスの場合は10〜30質量% 、ミョウバンに加えた混合系のフラックスとして使用できる。但し、塩素の生成を防止する意味からは、前記KCl などの塩化物の使用は極力抑制すべきである。
【0046】
本発明のミョウバンを含むフラックスのAl溶湯への吹き込み量乃至添加量は、Al溶湯の脱ガス量および脱介在物量と更には除滓量などの精錬必要量から決定される。この点、前記Al合金の製品分野である、電子電気部品分野、自動車などの輸送機分野、構造材分野などの特性要求に対応するためには、Al合金鋳塊中のH2を0.2ml /100gAl 以下、マグネシア(MgO) 、アルミナ (Al2O3)、スピネル (AlとMgの複合酸化物) 等の酸化物の総量を0.02質量%(200 質量 ppm) 以下とすることが好ましい。なお、本発明で言う酸化物の総量とは、酸化物の中で量が多く、かつ測定が可能な前記3 つの主要な酸化物の総量とする。
【0047】
このレベルの精錬を行うための、ミョウバンを含むフラックスのAl溶湯への吹き込み量乃至添加量などの使用量は、Al溶湯に対し、1 〜0.01質量% とすることが好ましい。フラックスの吹き込み量乃至添加量が0.01質量% 未満では、前記レベルに脱ガスおよび脱介在物できなくなる可能性がある。一方、フラックスの吹き込み量乃至添加量が1 質量% を越えても、精錬効果は向上せず、精錬コストが上昇するとともに、溶湯を汚染する可能性が生じる。
【0048】
ミョウバンを含むフラックスの溶湯への添加は、溶湯中への吹き込み、あるいは溶湯表面への添加 (散布) 等により行う。この内の吹き込み方法は、通常の精錬用フラックスの吹き込み方法と同じである。即ち、一端をAl溶湯中に装入されたノズル乃至ランスから、N2やArガスなどの不活性ガスをキャリアとして、ミョウバン含むフラックス粉末をAl溶湯中に吹き込むことが精錬の効率上好ましい。前記N2やArガスなどの不活性ガスは、フラックスのキャリアとなるとともに、溶湯を攪拌 (バブリング) して、ミョウバンを始めフラックスの精錬作用や滓の溶湯中の浮上を促進する重要な役割を果たす。
【0049】
勿論、溶湯の攪拌 (バブリング) 効果を増すためにキャリアガス用とは別のランス或いは同一のランスによって、フラックスの吹き込み中あるいはフラックスの吹き込み後に不活性ガスを吹き込んで溶湯の攪拌を行っても良い。勿論、この吹き込みの他、溶湯表面に添加する態様も可能であり、要は、精錬の効果を上げるための好ましい方法を適宜選択することが可能である。
【0050】
本発明におけるミョウバンをフラックスとする溶湯の精錬は、少なくとも溶解炉において行うことが好ましい。この理由は、従来から、フラックス吹き込み等の溶湯の精錬は、主として溶解炉において行われており、溶解炉が、精錬、および精錬の一貫としての、精錬後の除滓処理を行いやすい設備仕様および構造となっているためである。また、介在物等を粗く除去できる効果もある。このため、本発明を溶解炉にて適用する場合は、既存の設備をそのまま利用できる利点もある。
【0051】
勿論、熔解炉の後の保持炉や各移湯樋において、溶解炉における精錬とともに、あるいは熔解炉における精錬を省略して、ミョウバンをフラックスとする精錬を行うことも可能である。しかし、保持炉や各移湯樋では、精錬のための設備や除滓処理設備が元々設置されていない場合が多い。したがって、これらの設備を新たに設ける必要が無い点や、既存の設備をそのまま利用できる点で、熔解炉で精錬を行う方が有利である。
【0052】
更に、本発明では、Al合金鋳塊中のH2を0.2ml /100gAl (100g のAl中のH2量、単位ml) 以下とする、およびアルミナ等の酸化物 (酸化物系介在物) の総量を0.02質量% 以下とすることを保証するために、溶湯の脱ガス精錬を行うことが好ましい。これら溶解炉などにおけるフラックスによる精錬後のAl溶湯を、溶解炉から移湯樋に移し、移湯樋を通じて溶湯を鋳型に供給する際、移湯樋を流下する溶湯中に不活性ガスを吹き込み、溶湯の脱ガス精錬を行うことが好ましい。この際、前記移湯樋に暗渠状の溶湯溜まりを設けたSNIF (スニフ) 方式か、移湯樋をそのまま使用して、移湯樋を流下する溶湯 (移湯中の溶湯流中) に対して、移湯樋底部に不活性ガスを吹き込む。
【0053】
本発明では、更に、前記Al合金鋳塊中の酸化物系介在物の総量を200 質量 ppm以下とすることを確実に保証するために、精錬から鋳造までの移湯中の溶湯を、板状、ヌードル状、ハニカム状、チューブ状などの適宜の形状のセラミック製多孔質体からなる、外部濾過フィルターあるいは内部濾過フィルターにより濾過することが好ましい。前記移湯樋を通じて溶湯を鋳型に供給する際、前記各フィルターにより溶湯を濾過して溶湯中の介在物の除去を行う。
【0054】
なお、本発明が精錬の対象とするAl合金は、圧延板材、押出材、鍛造材などの展伸材用のAl合金であれば、特に限定されない。例えば、AA乃至JIS 1000系の純Alから、 2000 系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系などのAl合金にまで広く適用することが可能である。また、本発明方法は、Pb、Ti、Sn、Fe等の金属不純物元素の除去などを目的とした他の精錬方法と併用することも可能である。
【0055】
また、本発明が精錬の対象とするAl原料は、本発明の精錬効果がより発揮される、不純物量の多いAl合金展伸材製品のスクラップを主体とすること (スクラップを100%使用することを含め) が好ましい。勿論、鋳造Al合金材の要求品質に応じて、Al地金を溶解原料として使用することもでき、前記スクラップと併用することも可能であるが、Al地金よりも安価なスクラップを溶解原料とすることにより、コストダウンが図れるとともに、スクラップのリサイクルという社会的な意義も大きい。
【0056】
本発明に係るミョウバンフラックスは、前記した通り、介在物の滓化を促進する効果の一方で、Al溶湯表面に既に存在する滓などと反応して、Al溶湯の滓化をも促進しやすいという作用を有する。しかし、このAl溶湯の滓化促進作用によって、精錬条件によっては、Al溶湯表面に生成される滓中に、Al溶湯 (Alメタル分) が多く取り込まれる乃至巻き込まれるという現象が生じる可能性がある。
【0057】
この現象が著しく生じた場合、溶湯表面に浮上した滓の粘度がAlメタル分の含有によって、大幅に上昇し、滓を溶湯表面から分離、除去する除滓性が作業性も含めて著しく低下することなる。この結果、滓の発生量も増加するとともに、除滓作業によって、滓とともに排出されるAlメタル分の量も増大し、更にAl溶湯の歩留りが低下するという問題も生じる。
【0058】
この問題に対しては、ミョウバンフラックスの優れた脱水素や脱介在物の高い低減 (精錬) レベルを維持しながら、滓中に取り込まれるAl溶湯分 (Alメタル分) を極力抑制して、除滓性を向上させ、Al溶湯の歩留りを向上させる必要がある。そのためには、展伸材用アルミニウム合金溶湯に対し、ミョウバン粉末を含む精錬用フラックスを用いて、溶湯中の水素を低減する溶湯精錬を行い、合わせて溶湯表面に浮上した滓を溶湯から除去するに際し、溶湯精錬時における溶湯温度を730 〜780 ℃と比較的高めにすることが好ましい。
【0059】
アルミニウム合金溶解原料を溶解させる際の当初の溶湯温度 (溶解温度) は、前記特許文献3 にも記載している通り、通常750 ℃±10℃の比較的高温レベルである。しかし、溶解後の溶湯精錬時における溶湯温度は、通常の大気雰囲気の溶解炉であれば、精錬作業までの時間の経過や精錬剤やキャリアガスなどの吹き込み量によっても若干低下して、約700 〜720 ℃程度に低くなる場合がある。
【0060】
前記した従来の溶湯精錬では、この比較的低い溶湯温度であっても、精錬によって、Al溶湯表面に生成される滓中にAl溶湯 (Alメタル分) が取り込まれる現象は起こりうるものの、その絶対量は少ない。したがって、溶湯表面に浮上した滓の粘度が大幅に上昇し、滓を溶湯表面から分離、除去する除滓性が作業性も含めて低下することはない。
しかし、ミョウバンフラックスを用いて溶湯精錬を行う場合には、この溶湯温度の低下が、あるいは、この比較的低い溶湯温度では、ミョウバンフラックスによるAl溶湯の滓化促進作用によって、Al溶湯表面に生成される滓中へのAl溶湯 (Alメタル分) の取り込みを促進してしまう。
【0061】
これに対して、ミョウバンフラックスを用いて溶湯精錬を行う際に、溶湯温度を730 〜780 ℃の比較的高温とすれば、ミョウバンフラックスによるAl溶湯の滓化促進作用があったとしても、Al溶湯表面に生成される滓中へのAl溶湯 (Alメタル分) の取り込み量が著しく抑制される。このため、溶湯表面に浮上した滓の粘度は低下し、除滓性を向上させることができる。また、溶湯温度を730 〜780 ℃の比較的高温とすれば、ミョウバンの分解、反応温度が高まり、前記した精錬効果がより効率的に発揮される効果もある。
【0062】
精錬溶湯温度が前記730 ℃未満であれば、Al溶湯表面に生成される滓中へのAl溶湯 (Alメタル分) の取り込みを促進してしまう可能性が高い。一方、溶湯温度を780 ℃を越える高い温度とする必要はない。溶湯温度を780 ℃を越える高い温度とした場合、大気雰囲気では、却って、大気中の水素ガスを溶湯が吸収しやすくなり、精錬効果の点では逆効果となる可能性がある。また、介在物となるスピネル(MgO・Al2O3)の生成も増加する。
【0063】
更に、この溶湯温度の制御に加えて、一旦、Al溶湯表面に生成される滓中へ取り込まれたAlメタル分を分離してAl溶湯に戻すために、Al溶湯表面に生成される滓を攪拌しても良い。この攪拌によって、滓 (ドロス) を被うシェル (殻) が破壊されるため、滓中へ取り込まれたAlメタル分が高温雰囲気やAl溶湯に触れて、再溶解し、滓と分離しやすくなる効果がある。また、前記した発熱作用のあるフラックスを添加し、発熱によって滓中へ取り込まれたAlメタル分が再溶解して、滓と分離しやすくなるようにしても良い。
【0064】
次に、本発明方法の実施例を説明する。
【0065】
【実施例1】
表1 に示す2000系から7000系までの種々のAl合金の溶解、精錬、鋳造を行った。溶解条件は、各Al合金展伸材スクラップを溶解原料として、内容積1000kg/ch の高周波誘導溶解炉にて、750 ±10℃の温度で大気溶解し、各々のAl合金のJIS 乃至AA規格成分組成に調整した。
【0066】
この時点 (溶解炉精錬前の)Al 溶湯の中の不純物量は、分圧平衡法による溶湯分析および溶湯冷却後の固化したAlの分析の結果、各溶湯とも、水素は0.4 〜0.45ml /100gAl、マグネシア(MgO) 、アルミナ (Al2O3)、スピネル (AlとMgの複合酸化物) の酸化物の総量は0.04〜0.03質量% のレベルであった。但し、水素はランズレー法により測定し、また、前記各酸化物の量は、JIS に規定されるBr- メタノール法により測定した。
【0067】
その後、表1 に示す条件の各フラックス組成で、溶解炉中のAl溶湯の精錬を行った。ここにおいて、表1 に示す発明例のミョウバンフラックスは、全て、市販の焼きカリウムミョウバンを用いた。なお、精錬性能の比較のために、比較例15として、塩素ガスを用いてAl溶湯の精錬を行った。
【0068】
フラックスによる精錬は、各例とも共通して、Al溶湯に浸漬した鉄パイプ製の吹き込み用ランスを用い、キャリアガスとしてのN2ガス吹き込み量を50l(標準状態)/分とし、各フラックスを各々Al溶湯に対して0.1 質量% をAl溶湯中に吹き込み、その後このN2ガスによるバブリングを30分間行い、水素の脱ガスおよび脱介在物の精錬処理を行った。また、塩素ガスは前記ランスにより50l(標準状態)/分×15分Al溶湯中に吹き込み、その後N2ガスによるバブリングを30分間行った。
【0069】
この精錬処理中、表1 の各例ともAl溶湯表面の滓の除去を連続的に行い、この排出滓の総重量を、溶解初期のAl溶湯重量で除して、滓 (ドロス) の生成量( 質量%)として計測した。
【0070】
なお、各フラックスの精錬効果のみを評価するために、精錬後のAl溶湯の移湯樋での精錬と濾過フィルターによる溶湯の濾過もあえて行わずに、精錬後のAl溶湯を鋳造して、Al合金鋳塊を製造した。
【0071】
そして、製造したAl合金鋳塊中のH2量を前記測定方法により測定した。また、Al合金鋳塊中の酸化物系介在物として、マグネシア(MgO) 、アルミナ (Al2O3)、スピネル (AlとMgの複合酸化物) 量を各々前記測定方法で測定し、各量を合計して酸化物量 (総量) とした。
【0072】
この内、Al合金鋳塊中のH2量が0.2ml /100gAl 以上のものを×、0.2ml 未満〜0.15ml/100gAl のものを△、0.15ml/100gAl 未満のものを○として評価した。また、前記酸化物の総量も、0.02質量% 以上のものを×、0.02質量% 未満〜0.01質量% 越えのものを△、0.01質量% 以下のものを○として評価した。これらの結果も表1 に示す。
【0073】
そして、更にフラックス精錬したAl合金鋳塊は、添加フラックスの分解生成物を硫酸塩と想定して、鋳塊中の硫酸塩をS 分として分析定量し、このS 分を溶湯中の残留物量として評価した。評価は分解生成物量が 0.002質量% 以上のものを×、0.002 質量% 未満〜0.0005質量% 越えのものを△、0.0005質量% 以下のものを○として行った。
【0074】
表1 から明らかな通り、ミョウバンを用いた発明例1 〜10は、ミョウバンの配合量が20% と少ない発明例7 を除き、いずれも、Al合金鋳塊中の水素0.15ml /100gAl以下およびアルミナ等の酸化物総量が0.01質量% 以下と、低レベルに低減されている。しかも、これらの効果が、▲1▼移湯樋の精錬と濾過フィルターによる溶湯の介在物の除去を行っていないにも拘らず、▲2▼Al合金の種類に拘らず、また、▲3▼フラックス使用量がAl溶湯重量の0.1 質量% と比較的少量であっても、更に、▲4▼Al溶湯の中の水素量や酸化物の総量が高くても達成されている。
【0075】
そして、これらの効果は、塩素(Cl2) ガスを用いて精錬した比較例15と同じレベルとなっている。また、溶湯への残留物 (フラックス残留物、S 分) も0.0005質量% 以下であり、許容できるほど少ないか殆ど無い。したがって、本発明に係るフラックスは、この点も含めて、塩素ガスを用いて精錬する方法並みの高い精錬効果を有していることが裏付けられる。
【0076】
しかし、前記図1 の根拠とした、発明例1 、2 、3 および比較例11、12との比較において、比較例11、12のように、ミョウバン粉末の平均粒径が1mm を越えて大きくなった場合、滓発生量がAl合金溶湯量の3 質量% を越えて大きくなることが分かる。一方、発明例1 、2 、3 より、滓発生量をAl合金溶湯量の3 質量% 以下に抑制しうるミョウバン粉末の平均粒径は、1mm 以下の小粒径であることが分かる。
【0077】
また、ミョウバン粉末を用いない例として、K2SO4100% を用いた比較例13は、溶湯の脱水素および脱介在物の精錬効果や溶湯残留物の点で、発明例よりも劣っている。更に、ハロゲン系のKCl 塩化物とAlF3フッ化物を主体とし、K2SO4 を混合したフラックスを用いた比較例14も、溶湯の脱水素および脱介在物の精錬効果や溶湯残留物の点で、発明例よりも劣っている。そして、いずれの比較例も、滓発生量がAl合金溶湯量の3 質量% 以下であり、この滓発生の問題がミョウバンを用いたフラックスに特有の問題であることが分かる。
【0078】
【表1】
【0079】
【実施例2】
次に、除滓性に及ぼす溶湯精錬温度の影響を調べた。具体的には、6063Al合金展伸材スクラップのみを溶解原料として溶解を行い作製した 6063 Al合金溶湯を、市販の焼きカリウムミョウバン40質量% とK2SO4 60質量% とからなるミョウバンフラックスにKAlF4 を30質量% 加えたフラックスを用いて溶湯精錬するとともに、この際の溶湯精錬の温度を、表2 のように種々変えて、精錬後、溶湯表面の滓の炉外への排出を、除滓器具を用いて人手によりかきだして行い、溶湯の除滓をした。なお、使用したミョウバンの平均粒径は各例とも0.7mm とした。なお、K2SO4 の平均粒径は0.7mm 以下である。
【0080】
この除滓は、実施例1 と同じく、各例とも精錬処理中にAl溶湯表面の滓の除去を連続的に行い、この排出滓の総重量を、溶解初期のAl溶湯重量で除して、滓 (ドロス) の生成量( 質量%)として計測した。
【0081】
この除滓の際、炉外への排出された滓の目視観察と作業性の評価を行い、各例における滓の粘度 (固さ) 、滓中のAlメタル分の多さ、滓の排出のしやすさなどを評価し、滓の排出性として評価した。この際、基準として、表2 の比較例22として、塩素ガスを用いたAl溶湯精錬後に除滓された滓との比較で相対的に評価した。これらの結果を表2 に示す。
【0082】
溶解条件は、実施例1 と同じ高周波誘導溶解炉を用い、750 ±10℃の温度で大気溶解した。各例において、溶湯を加熱または放冷して、溶湯精錬温度を調節した。なお、フラックスによる精錬条件も、各例とも共通して、実施例1 と同じ条件とした。
【0083】
また、実施例1 と同様に、精錬効果を、製造したAl合金鋳塊中のH2量と、酸化物量 (総量) 、鋳塊中の硫酸塩量(S分) を分析、評価した。これらの結果も表2 に示す。なお、溶解炉精錬前のAl溶湯の中の各不純物量は、実施例1 と同じレベルであった。
【0084】
表2から明らかな通り、ミョウバンフラックスによる溶湯精錬温度を740 〜780 ℃の比較的高温とした発明例16〜19は、比較例22の塩素ガスを用いたAl溶湯精錬後の除滓された滓と同様、滓の粘度が低く、さらさらの粉体状をしており、滓中のAlメタル分も少なく、Al溶湯表面に生成される滓中へのAl溶湯 (Alメタル分) の取り込み量が著しく抑制されていた。また、滓の排出作業も容易であり、比較例22と同様に、滓の排出性に優れていた。これらの結果、滓発生量もAl合金溶湯量の3 質量% 以下と少ない。
【0085】
また、比較例22の塩素ガスを用いたAl溶湯精錬の場合と同様に、Al合金鋳塊中の水素0.15ml /100gAl以下、アルミナ等の酸化物総量が0.01質量% 以下と、低レベルに低減されており、溶湯の脱水素および脱介在物の高い精錬効果も達成されていた。更に、溶湯への残留物 (フラックス残留物、S 分) も0.0005質量% 以下であり、許容できるほど少ない。
【0086】
これに対し、溶湯精錬温度が前記730 ℃未満である比較例20、21は、溶湯の脱水素および脱介在物の高い精錬効果は達成されているものの、滓の粘度 (固さ) が高く、滓中のAlメタル分が多い塊状をしており、Al溶湯表面に生成される滓中へのAl溶湯 (Alメタル分) の取り込み量が多かった。また、滓の排出作業も困難であり、滓発生量もAl合金溶湯量の3 質量% を越えていた。
【0087】
しかも、比較例22の塩素ガスを用いたAl溶湯精錬の場合は、比較例20、21と同じく、溶湯精錬温度が前記730 ℃未満でも、滓の排出性や滓発生量に優れており、除滓性に及ぼす溶湯精錬温度の影響がない。したがって、この除滓性に及ぼす溶湯精錬温度の影響がミョウバンを用いたフラックスに特有の問題であることが分かる。
【0088】
【表2】
【0089】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明精錬方法によれば、ミョウバンフラックスの優れた脱水素や脱介在物の高い低減レベルを維持しながら、Al溶湯表面の滓化を極力抑制して、Al溶湯の歩留りを向上しうる、Al合金溶湯の精錬方法を提供することができる。また、ミョウバンフラックスを用いて溶湯精錬を行う際に、溶湯温度を730 〜780 ℃の比較的高温とすることで、Al溶湯表面に生成される滓中へのAl溶湯 (Alメタル分) の取り込み量を著しく抑制し、溶湯表面に浮上した滓の粘度を低下させ、除滓性を向上させることができる。したがって、ミョウバンフラックスによるAl合金溶湯精錬の実用化を広める乃至実用上の価値を高めることができる。このように、ミョウバンフラックスによるAl合金溶湯精錬の実用化が広まった場合、この鋳塊に基づいて製造されるAl合金展伸材などのAl合金材製品の品質を格段に高めることができ、Al合金展伸剤の用途を大幅に拡大することが可能となる。また、Al合金展伸材用の溶解原料として、Al合金展伸材のスクラップを主体とすることが可能となり、スクラップのリサイクルシステムの確立などの社会的意義も大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るミョウバン粉末の平均粒径と滓発生量との関係を示す説明図である。
Claims (8)
- 展伸材用アルミニウム合金溶湯に対し、精錬用フラックスとしてミョウバン粉末を用いて、溶湯中の水素を低減する溶湯精錬を行い、合わせて溶湯表面に浮上した滓を溶湯から除去するに際し、前記ミョウバン粉末の平均粒径を1mm 以下とし、前記溶湯精錬の際の滓発生量をアルミニウム合金溶湯量の3 質量% 以下に抑制したことを特徴とするアルミニウム合金溶湯の精錬方法。
- 前記溶湯精錬の際の溶湯温度を730 〜780 ℃とする請求項1に記載のアルミニウム合金溶湯の精錬方法。
- 前記溶湯表面に浮上した滓を攪拌した後に、滓の除去を行う請求項1または2に記載のアルミニウム合金溶湯の精錬方法。
- 前記精錬用フラックスとして、更に硫酸塩を40〜60質量% 混合した請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金溶湯の精錬方法。
- 前記精錬用フラックスとして、更にAlアトマイズ粉、硝酸塩から選択される1 種以上を10〜30質量% 混合した1乃至4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金溶湯の精錬方法。
- 前記精錬用フラックスの使用量を、アルミニウム合金溶湯に対し、0.01〜1 質量% とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金溶湯の精錬方法。
- アルミニウム合金鋳塊中のH2を0.2ml /100gAl 以下とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金溶湯の精錬方法。
- 前記アルミニウム原料の一部または全部がアルミニウム合金展伸材のスクラップからなる請求項1乃至7のいずれか1項に記載のアルミニウム合金溶湯の精錬方法。
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