JP3765986B2 - 深絞り加工用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

深絞り加工用アルミニウム合金板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、一般用器物、照明用器具、コンデンサーケース等の深絞り成形品の素材として使用される純アルミニウム系軟質アルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
器物やコンデンサーケース等のアルミニウム深絞り成形品には、素材として板厚5mm以下のアルミニウム(Al)合金薄板が用いられる。前記成形品は、この薄板に限界絞り比(LDR)が2.0 以上の絞り、再絞り加工が施された後、数回のしごき加工が施されて成形され、最終絞り深さ(成形高さ)は100mm以上とされる。このため、Al合金薄板には前記成形特性が要求され、素材薄板として成形性の良好なJIS 1050、JIS 1100などの純Al系の軟質材が用いられる。
この純Al系軟質材は、一般的に、純Al系Al合金鋳塊を均質化熱処理後、熱間圧延、中間焼鈍を伴う冷間圧延、および最終焼鈍という基本的な工程をとって、板厚0.2 〜0.5mmの板材に製造される。
【0003】
これらの純Al軟質材は、深い絞り加工を受けるため、成形品には高い耳が形成されやすい。このため、成形品の安定化や歩留りの向上のためには成形品の耳率を低く抑えることが重要であり、耳率を低く抑えるために成形加工条件の改善は勿論のこととして、素材である純アルミニウム系軟質材における耳率を改善する必要がある。
しかし、これら純Al系のAl合金は、合金元素や不純物元素が比較的少ないために、前記製造工程の履歴(圧延条件や熱処理条件)に対して非常に敏感であり、他の合金系Al合金に比して耳率特性を改善するための有効な方策である、特に圧延板の異方性の制御が難しい。
【0004】
このような背景の下で、圧延板の異方性を制御して耳率特性を改善するために、例えば特開平4−236745号公報、登録第2677887号公報、登録2945178号公報等に記載されているように、粗圧延における最終パス付近での圧延パス数を増すなどの方策が提案されている。しかし、これらの技術は基本的に中間焼鈍を必須工程とするものであり、製造コストの低減には寄与しない。さらに、中間焼鈍を行うことによる生産性の低下やコイル膨張、収縮により発生する表面傷等の表面品質低下の問題がある。近年、ユーザーにおいては表面品質に対する要求が益々厳しくなっており、更なる低コスト化、表面品質レベルの向上が求められている。
このため、近年、中間焼鈍工程の省略を前提として、耳率特性を改善する技術が種々提案されるようになってきた。例えば、特開平5−9674号公報には、熱間粗圧延の最終パス付近での圧延パスを多パス化し、圧延率、温度を規定した製造条件が開示されている。また、特開平11−279724号公報には、化学成分として、Mgの添加を必須とし、かつ熱間圧延における総圧下率、仕上終了温度、冷延率、最終焼鈍条件を規定した製造条件が開示されている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記特開平5−9674号公報に開示の技術では、熱間粗圧延の最終パス付近で7パス以上の多パス圧延を行うため、生産性を著しく低下させるという問題がある。また特開平11−279724号公報に開示の技術においても、Mg合金添加によるコストアップの問題があるだけなく、他に求められる特性、例えば表面処理、エッチング性、機械的特性等がMgが入っていない成分系に比して安定性が低下するという問題がある。
また、いずれの方法においても、大量生産では温度条件にばらつきが必然的に生じるため、ロット間、ロット内における幅方向、長手方向の耳率にばらつきが生じて、低い耳率を安定的に達成させるには至っていない。
【0005】
さらにまた、近年、成形品に要求される品質が向上しており、耳率が所定の規格に入るというだけでは十分にユーザーの要求に応えているとは言えず、成形加工における耐肌荒れ性や表面エッチング時の耐ストリーク等の表面品質の向上も求められている。
【0006】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、耳率が低く、かつそののばらつきも小さく、さらにまた表面品質にも優れた純Al系軟質Al合金板およびその合金板を中間焼鈍工程を省略して低コストで安定的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、Al合金板の絞り加工後の耳率は、圧延板の集合組織によって生じる塑性異方性によって生じるとの認識の下、最終焼鈍で形成される再結晶集合組織の機構を詳細に調査したところ、集合組織とAl合金板中のFe、Si、Cuの固溶量との間に密接な関係があることを知見し、これらの元素の特定量を固溶させることで、耳率が低下し、またその変動が安定化すること、さらに固溶強化による強度、機械的性質についても安定化し、成形性も向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のAl合金板は、mass%で、Fe:0.20〜0.70%、Si:0.07 〜0.30%、Cu:0.005〜0.10%、残部Alおよび不純物からなり、固溶Fe量が5〜200ppm、Si含有量に対する固溶Si量の割合が0.3〜0.9、および固溶Cu量が5〜500ppm、結晶粒径が80μ m 以下とされたものである。
【0009】
また、本発明のAl合金板の製造方法は、前記成分を有するアルミニウム合金鋳塊を、均質化熱処理し、450〜330℃の温度範囲で熱間粗圧延を行い、その後仕上圧延入側温度から出側温度にかけての平均冷却速度1〜5℃/secとし、かつ仕上圧延終了温度を250〜330℃として熱間仕上圧延を終了し、その後冷延率を80〜99%とする冷間圧延、最終焼鈍を行うものであり、この製造方法によって、中間焼鈍を施すことなく前記固溶量を有し、結晶粒径を80μ m 以下とするAl合金板を容易に製造することができる。
【0010】
【課題を解決するための手段】
まず、本発明のAl合金板の成分、その限定理由について説明する。
Fe:0.20〜0.70%
FeはSiとともに金属間化合物を形成して析出し、純Al系軟質圧延板の同一板内、あるいはロット間の45°方向(圧延方向に対する角度を意味する。以下同様)の耳を形成して、純Al系軟質圧延板の耳率を安定化させるために必要である。Feの含有量が0.2%未満では、Feの析出量自体が低くなり、耳率を安定化させる効果が過少になる。一方、Feの含有量が0.70%を越えると、鋳造中に粗大な金属間化合物を形成し、却って、成形加工性を阻害するとともに、耳率を高くするようになる。このため、Fe量の下限を0.20%、好ましくは0.25%とし、その上限を0.70%、好ましくは0.65%とする。
【0011】
Si:0.07〜0.30%
SiはFeとともに金属間化合物を形成して析出し、Feの析出を積極的に促す元素である。Siの含有量が0.10% 未満では、この効果が不足し、Feの析出量自体が低くなり、耳率を安定化させる効果が過少になる。一方、Siの含有量が0.30%を超えると、鋳造中に粗大な金属間化合物を形成し、却って成形加工性を阻害するとともに、耳率を高くするようになる。このため、Si量の下限を0.07%、好ましくは0.08%とし、その上限を0.30%、好ましくは0.20%とする。
【0012】
Cu:0.005〜0.10%
Cuは純Al系軟質圧延板の強度を向上させるために必要である。また、Cuは固溶元素であるため、Cuの含有がSiとFeとの金属間化合物の析出を促進するとともに、耳率の向上に影響を与える。Cuの含有量が0.005%未満では、これらの効果が不足し、純Al系軟質圧延板の強度が低下するとともにSiとFeとの金属間化合物の析出量自体が低くなり、耳率が安定化しなくなる。一方、Cuの含有量が0.10%を越えると、耐食性が劣化するとともに、強度も高くなり過ぎ、成形加工性を阻害する。このため、Cu量の下限を0.005%、好ましくは0.01%とし、その上限を0.10%、好ましくは0.09%とする。
【0013】
本発明のAl合金板は、上記基本的成分のほか、残部Alおよび不純物によって構成される。不純物元素は基本的には少ないほどよいが、不純物の内、Mg、Mn、Cr、Zn、Ti、Sn、Ni、B等のAl鋳塊に混入しやすい元素については、各々0.10%程度以下の含有は許容される。この程度までの含有であれば、本発明のAl合金板の諸特性に対して実用的に問題はない。
【0014】
以上、本発明のAl合金板の成分について説明したが、本発明ではAl合金板中のFe、SiおよびCuの固溶量を下記のように厳密に制御する必要がある。
固溶Fe量:5〜200ppm
添加Si量(Si含有量)に対する固溶Si量の割合:0.3〜0.9
固溶Cu量:5〜500ppm
【0015】
上記限定理由を説明するに際し、まずAl合金板のもつ集合組織と耳率との関係について説明する。
通常のアルミニウム合金の場合、主として、Cube方位、R方位、Goss方位、Brass方位(以下、B方位という。)、Copper方位(以下、C方位という。)およびS方位と呼ばれる集合組織を形成し、それらに応じた結晶面が存在する。すなわち、各集合組織に対応した結晶面は下記のとおりであり、基本的にこれらの結晶面から±15°以内の方位のずれは同一の集合組織とみなして差し支えない。
Cube方位 {001}<100>
R方位 {352}<358>
Goss方位 {011}<100>
Brass方位 {011}<100>
Copper方位{112}<111>
S方位 {123}<634>
絞り加工後の耳率は、これら集合組織によって生じる塑性異方性によって生じ、Cube方位は0°/90°(0°および90°、以下同様)方向、Goss方位は、0°/180°方向の耳(以下、これを「−耳」(マイナス耳)と呼ぶ。)を強く形成させ、他のR方位、Brass方位、Copper方位、S方位は、圧延方向45°方向の耳(以下、これを「+耳」(プラス耳)と呼ぶ。)を強く発達させる。
本発明の成分系における最終焼鈍後の集合組織は、主として、Cube方位とR方位からなり、特に上述のCube方位が強く発達すると0°/90°方向の耳(−耳)が大きくなる。一方、逆にCube方位の発達が弱いと圧延方向45°方向の耳(+耳)が大きくなる。
【0016】
本発明者は、最終焼鈍で形成する再結晶集合組織の機構を詳細に調査したところ、上記集合組織とFe、Si、Cuの固溶量との間に密接な関係があることを知見し、これらの元素の固溶量を適切な範囲に制御することで、耳率の低下と安定化が達成されることを見出した。さらに、固溶量を適切な範囲に制御することで、固溶強化による強度、機械的特性についても安定化し、成形性についても向上することがわかった。
【0017】
すなわち、Fe、Cuの固溶量は、最終焼鈍時の再結晶集合組織で、Cube方位の集合組織を制御するのに好適なファクターであり、Fe固溶量が5ppm 未満、Cu固溶量が5ppm 未満ではCube方位の発達が著しく強くなり、−耳率が強くなりすぎる。また析出するFe量、Cu量が過多となり、固溶強化の寄与が減少し、強度軟化も大きくなり、機械的特性がばらつきやすく、成形性も不安定になる。一方、Fe固溶量が200ppm 超、Cu固溶量が500ppm 超では、Cube方位の発達が抑制され、R方位が強く発達するようになり+耳が強く発達しすぎる。Fe、Cuの固溶量が多くなるほど強度は高くなるが、前記固溶量を超えると強度が過大となり、成形性を劣化させるようになる。このため、Feの固溶量の下限を5ppm 、好ましくは10ppm とし、一方その上限を200ppm 、好ましくは180ppm とする。また、Cuの固溶量の下限を5ppm 、好ましくは10ppm とし、一方その上限を500ppm 、好ましくは400ppm とする。
【0018】
また、添加Si量に対する固溶Si量の割合(固溶Si量/添加Si量)は、0.3未満では固溶したSi量が少なく、析出するSi(析出物中に含まれるSiや単体Si)の量が多くなるため、最終焼鈍時の再結晶集合組織でCube方位の発達が強く、−耳が強くなりすぎる。一方、0.9超では、固溶したSi量が多くなり、析出量が少なくなるため、逆にCube方位の発達が抑制され、+耳が強くなりすぎる。またSi含有析出物、単体Siの析出が多いと耳率、耐成形割れ性が低下し、成形性が不安定になりやすい。このため、添加Si量に対する固溶Si量の割合の下限を0.3、好ましくは0.4とし、その上限を0.9、好ましくは0.8とする。
【0019】
本発明のAl合金板は以上の成分、Fe,Si,Cu固溶量を有するものであるが、さらに冷間圧延、焼鈍後の結晶粒径は80μm以下とする。好ましくは60μm 以下とするのがよい。かかる結晶粒径にすることにより、絞り加工の際の表面肌荒れを防止することができ、表面品質を向上させることができる。
【0020】
次に、本発明のAl合金板の好適な製造方法について説明する。
本発明のAl合金板は、前記成分を有するAl合金鋳塊を、均質化熱処理(均熱処理)し、粗圧延開始温度を350〜450℃とし、かつ粗圧延終了温度を450〜330℃として熱間粗圧延を行い、その後仕上圧延入側温度から出側温度にかけての平均冷却速度1〜5℃/secとし、かつ仕上圧延終了温度を250〜330℃として熱間仕上圧延を終了し、その後冷間圧延、焼鈍することによって製造される。
【0021】
均熱処理は、材質の安定化のために施される。均熱の際の保持温度は450〜600℃程度とされる。保持温度を500〜600℃程度とする場合、保持時間は4〜10hr程度とすればよい。保持温度を450〜500℃程度と低めに設定する場合は、保持時間は10〜20hr程度と長めに設定すればよい。鋳塊に均熱処理を施すことで、鋳塊に生じている固溶量のミクロ的な不均一性を改善することができ、Fe、Si、Cuの固溶量の制御もしやすくなる。また、鋳塊時の準安定な金属間化合物が安定化し、表面性状、エッチング性、アルマイト処理性も向上させることができる。
【0022】
なお、溶解鋳造方法は、通常のDC鋳造(半連続鋳造)や連続鋳造を適用すればよい。表面面削は、均熱処理前に行ってもよく、複数回の均熱処理を行う場合には1回目の均熱後に行ってもよい。1回目の均熱後に行う方が酸化膜が除去でき、表面品質としては好ましい。もっとも、均熱前に行うことは、上記均熱を連続的に行える利点があり、生産性の観点からは好ましい。均熱を複数回行い、引き続いて粗圧延を行う場合、粗圧延直前の均熱の保持温度は粗圧延開始温度に合わせるようにすればよく、保持時間も鋳塊温度が均一になるように少なくとも数時間程度あればよい。
【0023】
熱間圧延の製造条件については、まず条件選択の指針となる基本概念について、図1を参照して説明する。図1は、粗圧延後の板材のある部位について、熱間仕上圧延中の経過時間とその部位の温度との関係を示す概念図であり、仕上圧延中の板材の温度勾配が2種示されている。(1) は温度勾配が大きいケース、(2) は温度勾配が小さいケースである。
【0024】
本発明者が行った多くの実験によって、仕上圧延入側から出側にかけての温度勾配(平均冷却速度)によって耳率が変化することがわかった。すなわち、(1) の温度勾配大(平均冷却速度大)の場合には+耳が強くなり、一方温度勾配小(平均冷却速度小)の場合には−耳が強くなる。
この理由は次のように考えることができる。基本的傾向として、高温側ほどAl−Fe、Al−Fe−Si系析出物の析出によりFe固溶量が減少する傾向にある。また、仕上圧延温度範囲の中間温度域では単体Siの析出が多い傾向にあり、さらに低温ほど圧延板に蓄積する蓄積ひずみが大きくなるため、集合組織が発達やすくなり、冷延−焼鈍後のR方位の発達が強くなり、+耳が強くなる傾向がある。また、熱延材に蓄積する転位密度が大きくなると、それによって析出促進量が変化し、固溶量が変化しやすくなるため、特性にばらつきが生じやすい傾向が生じる。
従って、前記(1) の場合、FeおよびCuの析出が促進されてFe固溶量、Cu固溶量が比較的少なくなり、中間温度域でのSiの析出も少なくなるため固溶Si量が比較的多くなり、また低温域での加工組織の発達により、+耳の形成が優勢になる。他方、(2) の場合、Fe、Cuの析出が抑制されてFe、Cu固溶量が比較的多くなり、中間温度域でのSiの析出が促進されて固溶Si量が減少し、低温域での加工組織の発達が抑制されるため−耳の発達が優勢になるものと考えられる。
【0025】
上記のとおり、仕上圧延入側温度、および仕上圧延における冷却速度が耳の形成に大きな影響を及ぼすことがわかる。粗圧延においても同様の影響があり、本発明の製造条件は上記耳形成概念に基づき、種々の実験を経て決定されたものである。以下、より具体的に限定理由を説明する。
【0026】
粗圧延は450〜330℃、好ましくは440〜340℃の温度範囲で行う。かかる温度範囲に規制することにより、Al‐Fe、Al−Fe−Si系析出物を適量析出させ、さらに晶出物中、析出物中に拡散するCu量を適量として、Fe固溶量、Si固溶量およびCu固溶量を制御し、耳率を低下、安定化させることができる。450℃を超えると、蓄積転位密度、固溶量が安定せず、耳率がばらつきやすくなる。一方、330℃未満では、熱間圧延の際に蓄積ひずみが過多となり、析出量が変化しやすく、耳率や機械的性質が変化しやすくなる。
【0027】
熱間仕上圧延については、終了温度を250〜330℃、好ましくは260℃〜320℃とする。図1で説明したように、250℃未満では+耳が強くなり過ぎ、一方330℃を超えると−耳が強く発達するようになる。
さらに、仕上圧延入側温度から出側温度にかけての平均冷却速度、すなわち熱間仕上圧延における平均冷却速度を1〜5℃/sec、好ましくは1.5℃/sec〜4℃/secとする。平均冷却速度が1℃/sec未満では、図1に示すように、−耳が強く発達し、一方、5℃/sec超の冷却では、+耳が強く発達し過ぎるようになる。
【0028】
熱間圧延を上記のように制御することで、比較的広い圧延温度範囲の下で、低い耳率を安定して得ることができる。このため、後述の実施例から明らかなように、ロット間だけでなく、ロット内の長手方向、幅方向の各部位において低い耳率を安定的に得ることができる。
【0029】
なお、仕上圧延までの製造条件が一定であれば、製品耳率は下記式(a,b,cは係数であり、別途実験により決定される。)から実操業データに基づき予測することが可能であり、品質のばらつきを実測によらずにチェックすることができる。また熱間圧延制御用プロセスコンピュータで上記計算を行い、オンラインで圧延設備を制御することで、耳率を安定化させた製造を行うことができ、著しく歩留まりを改善することができる。
製品板耳率(%)=a×(仕上圧延入側温度)+b×(仕上圧延出側温度)+c
【0030】
熱間圧延後、中間焼鈍を施すことなく冷間圧延され、その後最終焼鈍が施される。前記冷間圧延における冷延率は、結晶粒微細化および耳率を制御する効果があり、所望の製品板厚を得るとともに、より安定した低い耳率を得るために重要である。冷延率が80%よりも低いと、最終焼鈍後の結晶粒が大きくなり、またAl合金板内に導入される歪みが不均一となる。このため、Al合金板内の耳率のばらつきが大きくなったり、板内に導入される歪みが過少となり、高い−耳を形成し、安定した低い耳率が得られにくくなる。一方、冷延率が99%よりも高いと、Al合金板内に蓄積される歪みが過多となり、板内の耳率のばらつきが大きくなったり、Al板内に導入される歪みが過少となり、+耳が高くなり、やはり安定した低い耳率が得られにくくなる。このため、冷延率は80〜99%とする。好ましくは82〜97%とするのがよい。
【0031】
冷間圧延後、Al合金板を十分な再結晶組織として、軟質材とするために最終焼鈍が施される。焼鈍温度は、300〜450℃程度とするのがよい。300℃未満では、十分な再結晶組織が得られず、一方450℃を越えると、再結晶組織が粗大化して、成形時に肌あれが生じるなどの問題を生じる。なお、最終焼鈍の方式によって最適温度範囲が異なり、バッチ方式の焼鈍の場合では300〜400℃程度、連続焼鈍方式の場合では400〜450℃程度である。
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されないことは勿論である。
【0033】
【実施例】
表1に示す化学成分のAl合金を溶製し、DC鋳造法にて板厚600mm、幅1200mm、長さ5000mmの鋳塊を得た。この鋳塊を表2に示す製造条件にて1次均熱を行い、引き続いて熱間粗圧延開始温度付近にて2次均熱を行い、その後熱間粗圧延を行った。この粗圧延において150mm厚以下の終段の圧延パスは2〜4パスとし、30〜50mmに減厚した。次いで、同表に示す条件にて3mm〜6mmの板厚に仕上圧延を行って巻き取った後、中間焼鈍を行うことなく、冷間圧延を行い、その後最終焼鈍を施した。最終焼鈍は、焼鈍温度360℃、保持時間4hrとした。
【0034】
焼鈍板の長さ方向、幅方向の中央部から組織観察用のサンプルを採取し、結晶粒径を観察するとともに、焼鈍板中のFe固溶量、Si固溶量、Cu固溶量を測定し、Siについては固溶Si量/Si含有量(添加Si量)を求めた。
【0035】
結晶粒径の測定については、サンプルの板表面から約0.05〜0.1mmまでを機械研磨により除去した後、電解エッチングを行い、光学顕微鏡(偏光板使用)を用いて組織を観察し、圧延直角方向でラインインターセプト法にて結晶粒径を測定した。
【0036】
FeおよびCuの固溶量に測定については、熱フェノールによる残渣抽出法を行い、得られた溶液中のFe量、Cu量をICP発光分析によって測定した。この際、残渣を濾すフィルターとして、メッシュサイズが0.2μm のものが用いられた。
【0037】
一方、Siの固溶量については、晶出物あるは析出物(Al3FeまたはAl−Fe−Si系金属間化合物)中のSiと単体Siとを別々に測定し、Si添加量よりこれらのSi量を差し引くことによって求めた。前者のSi量は、熱フェノール残渣抽出法により残存した残渣(晶出物または析出物)中のSi量を測定することによって求めた。一方、単体Si量は塩酸溶解残渣法により、残渣を濾すフィルターとしてメッシュサイズが0.2μm のものを用いて単体Si析出物だけを抽出し、これからICP発光分析により単体Siの量を求めた。なお、添加量は、通常のX線分析やICP発光分析法によって測定することができる。
【0038】
また、得られた焼鈍板の各部位による特性のばらつき(ロット内ばらつき)を調査するため、コイル長手方向の先端部、中央部、後端部およびコイル幅方向の左端部、中央部、右端部から各々サンプル板を切り出し、このサンプル板をカップ成形して耳率および成形中の破断カップ数を測定した。
カップ成形条件については、コンデンサーケースの深絞り成形品(限界絞り比(LDR)が2.0以上)を模擬して、サンプル板より径φ80mmのブランクを得て、ポンチ径φ40mm、しわ押さえ300kgfとし、潤滑油をブランク板に塗布した後、エリクセン試験機により成形した。成形したカップの開口周縁部の8方向に生じる山谷からサンプル数10個の平均耳率を測定した。
【0039】
また、前記カップ試験後の成形品の表面を目視により観察し、成形表面品質を下記の4段階で評価した。
◎:リビングマークがなく、表面性状も非常に良好、○:表面性状が良好であり、実用レベルを満足、△:一部で肌荒れが発生、×:リビングマークが強く発現し、所々に肌荒れが発生
【0040】
また、前記カップ試験用のサンプル板を王水(体積比で濃塩酸:濃硝酸=3:1)に浸漬して、板表面をエッチングし、ストリークおよびエッチングむらを目視により観察し、エッチング表面品質を下記の4段階で評価した。
◎:優良、○:良好、△:不良、×:非常に悪い
【0041】
上記測定結果、観察結果を表3に併せて示す。なお、表3では、耳率については、長手方向はばらつきの大きい先端部と後端部について示し、また幅方向は左端と右端の平均を幅端として示した。
【0042】
【表1】
Figure 0003765986
【0043】
【表2】
Figure 0003765986
【0044】
【表3】
Figure 0003765986
【0045】
表3より、成分が発明範囲より外れるAl合金を用いた試料No. 25〜30(比較例)は、総じてロット内の耳率の大きさ、ばらつきが大きく、一部のものを除いて成形時の破断割れも頻発しており成形性に劣る。またエッチング表面品質、成形表面品質もよくない。また、成分が発明範囲内であっても、製造条件が適切でない試料No. 21〜24は、Fe固溶量、Si固溶量が適切な範囲に収まらず、耳率の大きさ、ばらつきが大きく、表面品質もよくない。
これに比して、発明例の試料No. 1〜11は、耳率の大きさ、ばらつきが小さく、また表面品質も良好であり、成形時の割れもほぼ皆無である。もっとも、比較例No. 12は冷延率が低いため、結晶粒径がやや大きくなったため、表面品質はやや劣る結果となった。
【0046】
【発明の効果】
本発明のAl合金板は、Fe、Si、Cuを特定量含み、さらにこれらの元素を適量固溶させたので、ロット間のみならず、ロット内における耳率の大きさ、ばらつきを低くすることができ、成形の際に破断割れも発生し難くなり、成形性も良好である。さらに、結晶粒径を80μ m 以下としたので、絞り成形後の表面品質をより一層向上させることができる。また、本発明の製造方法によると。上記Al合金板を中間焼鈍工程を省略して低コストで安定的に製造することができ、工業的生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱間仕上圧延中の経過時間とAl合金熱延板のある部位の温度との関係を示す概念図である。

Claims (2)

  1. mass%で、
    Fe:0.20〜0.70%、
    Si:0.07 〜0.30%、
    Cu:0.005〜0.10%、
    残部Alおよび不純物からなり、
    固溶Fe量が5〜200ppm、Si含有量に対する固溶Si量の割合が0.3〜0.9、および固溶Cu量が5〜500ppmであり、結晶粒径が 80μ m 以下である、絞り加工用アルミニウム合金板。
  2. 請求項1に記載した成分を有するアルミニウム合金鋳塊を、均質化熱処理し、450〜330℃の温度範囲で熱間粗圧延を行い、その後仕上圧延入側温度から出側温度にかけての平均冷却速度1〜5℃/secとし、かつ仕上圧延終了温度を250〜330℃として熱間仕上圧延を終了し、その後冷延率を80%〜99%とする冷間圧延、最終焼鈍を行う、深絞り加工用アルミニウム合金板の製造方法。
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