JP3765716B2 - 飲料用濃縮梅果汁の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、濃縮梅果汁の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、梅の実から梅干を製造する過程において副生する梅酢を原料とし、脱塩濃縮された濃縮梅果汁を効率よく製造することができる濃縮梅果汁の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
梅果汁は、特有の香気と風味を有するのみならず、梅に特有の薬学的作用も有することから、嗜好性飲料や健康飲料として多くの人に愛好されている。従来から、梅干の製造過程で副生する梅酢は、それを薄めて飲用されていたものであるが、近年では、梅の実を搾汁して得られる梅果汁や、梅酢を脱塩加工した梅果汁などを含む飲料が市販されている。
梅酢は、梅の実を塩漬けにして梅干を製造する過程において副生するpHが1.5〜3.0の水溶液である。このために、梅酢は多量の食塩を含有するが、その他に、梅の実から抽出された酢酸エチルなどの香気を構成する低沸点成分、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸成分、アミノ酸、脂質、糖質、カルシウム、カリウム、ナトリウム、リン、鉄分などからなる梅の実エキスを含有している。従って、梅酢から何らかの方法によって食塩を除去すると、梅の実エキスを含有する梅果汁が得られるので、梅酢から塩分を除去する方法が研究されている。
例えば、特公昭57−24103号公報には、梅酢中の香気及びエキス分を濃縮保持せしめながら含有塩分を除去せしめる天然梅酸味料の製造方法として、梅干製造過程で得られた梅酢を、陽極側が陰イオン交換膜で陰極側が陽イオン交換膜で区画された画室中で通電処理する天然梅酸味料の製造方法が提案されている。このようなイオン交換膜電気透析処理による梅果汁の製造方法にはさらに改良が進められ、例えば、特開平4−349874号公報には、酸味が緩和され、香味、風味が損なわれることなく、アルカリ臭のない果汁の製造方法として、脱塩室にアルカリを添加してpHを3.20以上にした梅などの果汁を循環させて電気透析処理を行い、果汁の酸度を減少させる方法が提案されている。また、特開平11−178534号公報には、梅果汁中のナトリウム濃度の低減方法として、梅酢の脱塩処理中の梅果汁又は脱塩梅果汁に強酸を添加して、イオン交換膜電気透析により処理する方法が提案されている。
このように、陰極と陽極の間が陽イオン交換膜と陰イオン交換膜により交互に仕切られ、陰極室、陽極室、複数の脱塩室及び複数の濃縮室からなるイオン交換膜電気透析槽の脱塩室に梅酢を循環させ、陰極室、陽極室及び濃縮室に電解質溶液を循環させ、陰極と陽極の間に直流を通ずると、梅酢から食塩が除去されて梅果汁が得られる。このような方法で製造された梅果汁は、そのままでも梅果汁飲料などの原料として用いることができるが、その容量を減少して貯蔵や輸送の便宜を図り、経済性を高めるために、あるいは、特別な使用目的のために、1/3〜1/10に濃縮される場合が多い。
イオン交換膜電気透析槽における梅酢中の食塩の除去速度は、イオン交換膜電気透析槽に流れる電流の大きさに比例する。イオン交換膜電気透析槽の陰極と陽極の間の電圧が一定の場合、電流の大きさはイオン交換膜及び梅酢の電気抵抗に反比例し、電気抵抗が大きくなると電流の大きさは減少する。電気透析が進行して梅酢中の食塩濃度が減少すると、梅酢の電気抵抗が上昇するので、電流の大きさは減少し、梅酢中の食塩の除去速度は小さくなる。イオン交換膜電気透析槽による梅酢中の食塩除去プロセスの欠点をあげると、食塩の除去速度が小さいことであり、このことがプロセスの設備費を上昇させ、生産性を低下させる大きな原因となっている。このために、梅酢から食塩と水分を効率的に除去し、経済的に濃縮梅果汁を製造することができる濃縮梅果汁の製造方法が求められていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、梅の実から梅干を製造する過程において副生する梅酢を原料とし、脱塩濃縮された濃縮梅果汁を効率よく製造することができる濃縮梅果汁の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、梅酢をイオン交換膜電気透析処理により脱塩したのち濃縮していた従来の濃縮梅果汁の製造方法の順序を入れ替え、梅酢を濃縮したのちイオン交換膜電気透析することにより、濃縮梅果汁の製造に要する時間を大幅に短縮し、生産性を飛躍的に向上し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)梅酢水溶液に蒸発晶析による濃縮処理を施して、液体の容量が1/10〜1/3になるまで濃縮し、かつ、上澄み液の食塩濃度を飽和濃度にしたのち、その上澄み液に陰イオン交換膜と陽イオン交換膜の1対当たりの電圧が0 . 2〜2Vの条件で、イオン交換膜電気透析処理を施すことにより、食塩濃度1g/L以下の濃度にすることを特徴とする飲料用濃縮梅果汁の製造方法、
を提供するものである。
さらに、本発明の好ましい態様として、
(2)蒸発晶析処理温度が、40〜70℃である第1項記載の濃縮梅果汁の製造方法、
及び、
(3)イオン交換膜電気透析処理において、濃縮上澄み液の電解質濃度を0.1〜2g/Lに調節する第1項記載の濃縮梅果汁の製造方法、
を挙げることができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の濃縮梅果汁の製造方法においては、梅酢に蒸発晶析処理を施したのち、その濃縮上澄み液にイオン交換膜電気透析処理を施す。
本発明方法に用いる梅酢は、梅の実を塩漬けにして梅干を製造する過程において副生する水溶液である。梅酢の組成は、梅の実の種類や梅干の製造方法によって多少の差異があるが、飽和に近い約230g/Lの食塩を主成分とし、その他に梅の実から抽出された酢酸エチルなどの香気を構成する低沸点成分、約35g/Lのクエン酸、約15g/Lのリンゴ酸などの有機酸成分、約15種類の合計2〜3g/Lのアミノ酸、約10g/Lの糖質、カルシウム、カリウム、ナトリウム、リン、鉄分などから構成される。そのpHは、1.5〜3.0である。
本発明方法において、梅酢に蒸発晶析処理を施す方法及び装置に特に制限はなく、バッチ式蒸発晶析装置と連続式蒸発晶析装置のいずれをも用いることができるが、例えば、図1に示すような態様のバッチ式蒸発晶析缶を好適に用いることができる。本態様のバッチ式蒸発晶析缶11は、梅酢投入口12、濃縮液取り出し口22、晶析食塩取り出し口24、撹拌棒15及び取り出し棒23を有する。缶内の梅酢の温度は、温度調節媒体13及び温度計14により制御される。缶内は、水封式真空ポンプ18(図示しない)により減圧に保たれ、その圧力は真空計19により測定される。バッチ式蒸発晶析缶と水封式真空ポンプの間には、逆流防止タンク17を設けることが好ましい。
【0006】
梅酢を、梅酢投入口12より缶内に投入し、撹拌棒15により撹拌しながら加熱する。加熱温度に特に制限はないが、40〜70℃であることが好ましく、45〜60℃であることがより好ましい。加熱温度が40℃未満であると、蒸発晶析処理に長時間を要するおそれがある。加熱温度が70℃を超えると、得られる濃縮梅果汁の香気と風味が損なわれるおそれがある。梅酢より蒸発した水蒸気は、真空配管16、逆流防止タンク17を経由して、水封式真空ポンプ18より排出される。缶内の水分蒸発面の蒸気圧は、缶内の梅酢の温度に依存するが、梅酢の温度が40〜70℃の場合は6.7〜27kPaとなる。真空計19の真空度は、水封式真空ポンプの水温が25℃の場合には4kPaとなる。
蒸発晶析缶で梅酢の水分が蒸発除去されると、梅酢は濃縮され、食塩の過飽和分は晶析を起こして、蒸発晶析缶の底20に沈殿する。濃縮された飽和濃度の食塩を含む上澄み液は、蒸発晶析缶の中部21に溜まる。蒸発晶析処理が終わった濃縮上澄み液は、取り出し口22より取り出す。蒸発晶析缶の底に沈殿した食塩は、取り出し棒23を用いて晶析食塩取り出し口24より取り出す。取り出された晶析食塩は、遠心分離処理を施こし、遠心分離された溶液分も濃縮上澄み液とし、取り出し口22より取り出された濃縮上澄み液と合わせて、次工程のイオン交換膜電気透析処理を施す。
本発明方法において、蒸発晶析処理における梅酢の濃縮倍率に特に制限はないが、液体の容量が1/10〜1/3となるように濃縮することが好ましく、液体の容量が1/8〜1/4となるように濃縮することがより好ましい。液体の容量が1/10未満となるように濃縮すると、濃縮上澄み液の粘度が高くなりすぎて、イオン交換膜電気透析処理の液循環に支障をきたすおそれがある。液体の容量が1/3を超えるように濃縮すると、濃縮倍率が低すぎて、濃縮梅果汁としての実用性が損なわれるおそれがある。蒸発晶析缶の材料に特に制限はないが、耐塩性、耐酸性の観点からステンレススチールを好適に用いることができる。
【0007】
本発明方法において、梅酢の濃縮上澄み液にイオン交換膜電気透析処理を施す方法及び装置に特に制限はないが、例えば、図2に示すような態様のイオン交換膜電気透析装置を好適に用いることができる。本態様のイオン交換膜電気透析装置は、陰極26と陽極27の間が陽イオン交換膜28と陰イオン交換膜29により交互に仕切られ、陰極室30、陽極室31、複数個の脱塩室32及び複数個の濃縮室33が形成されたイオン交換膜電気透析槽25を有する。また、脱塩液タンク34、濃縮液タンク35、水供給ライン36、濃縮液排出ライン37を備えている。蒸発晶析処理を施した梅酢の濃縮上澄み液を脱塩液タンク34に仕込み、液循環ポンプ38、脱塩液循環パイプライン39及び40を用いて、イオン交換膜電気透析槽の脱塩室32に循環させる。濃縮液タンク35には、最初炭酸ナトリウムなどの電解質水溶液を仕込み、液循環ポンプ41、濃縮液循環パイプライン42及び43を用いてイオン交換膜電気透析槽の陰極室30、陽極室31及び濃縮室33に循環させる。
かかる状態でイオン交換膜電気透析槽25の陰極26と陽極27の間に直流を通ずると、濃縮上澄み液の食塩成分であるナトリウムイオン(Na+)は、脱塩室32から陽イオン交換膜28を通して陰極室30及び濃縮室33へ移動し除去される。同様に濃縮上澄み液の食塩成分である塩化物イオン(Cl-)は、脱塩室32から陰イオン交換膜29を通して陽極室31及び濃縮室33へ移動し除去される。
【0008】
電気透析処理における電気透析槽の陰極と陽極の間の電圧は、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜の1対当たりの電圧が0.2〜2Vであることが好ましく、0.5〜1.5Vであることがより好ましい。陰イオン交換膜と陽イオン交換膜の1対当たりの電圧が0.2V未満であると、イオン交換膜電気透析処理に長時間を要するおそれがある。陰イオン交換膜と陽イオン交換膜の1対当たりの電圧が2Vを超えると、イオン交換膜が化学的に劣化するおそれがある。また、イオン交換膜に流れる電流は、イオン交換膜の有効面積1m2当たり10〜300Aであることが好ましく、12〜50Aであることがより好ましい。
濃縮液タンク35には、水供給ライン36より水を供給し、ナトリウムイオンと塩化物イオンを含んだ濃縮液を濃縮液排出ライン37より排出することにより、電気透析槽に循環させる濃縮液中の電解質濃度を一定の範囲に保つ。濃縮液タンクに供給する水の量は、濃縮液タンク中の濃縮液の電解質濃度が0.1〜2g/Lになるように調節することが好ましい。濃縮液の電解質濃度が0.1g/L未満であると、電流が流れにくくなるおそれがある。濃縮液の電解質濃度が2g/Lを超えると、濃縮梅果汁の最終食塩濃度が1g/L以下にならぬおそれがある。
本発明方法において、イオン交換膜電気透析槽の陰極の材料に特に制限はなく、例えば、鉄、ニッケル、ステンレススチールなどを挙げることができる。陽極の材料にも特に制限はなく、例えば、黒鉛、白金、白金メッキチタンなどを挙げることができる。イオン交換膜電気透析槽の本体及び配管の材料にも特に制限はないが、プラスチックを好適に用いることができる。
【0009】
本発明方法において、濃縮上澄み液のイオン交換膜電気透析処理の程度に特に制限はないが、得られる濃縮梅果汁の食塩濃度が5g/L以下であることが好ましく、2g/L以下であることがより好ましく、1g/L以下であることがさらに好ましい。濃縮梅果汁の食塩濃度が5g/Lを超えると、濃縮梅果汁としての商品価値が低下するおそれがある。
イオン交換膜電気透析処理において、脱塩液タンク34より濃縮梅果汁を適宜サンプリングして分析することにより、濃縮梅果汁の食塩濃度を測定することができる。濃縮上澄み液を脱塩液タンクに仕込み、イオン交換膜電気透析処理を行うと、電気透析処理開始時から次第に通電される電流の値が小さくなる。同一条件でイオン交換膜電気透析処理を行うと、食塩濃度と電流値の間には一定の関係が存在するので、蓄積されたデータに基づいて、電流値から食塩濃度を推定することもできる。濃縮梅果汁の食塩濃度が所定の値まで低下したとき、イオン交換膜電気透析処理を終了する。
従来は、梅酢から濃縮梅果汁を製造するためには、梅酢にイオン交換膜電気透析処理を施して食塩のほぼ全量を除去したのち、蒸発濃縮処理を施していた。本発明方法においては、梅酢に蒸発晶析処理を施して食塩の大半を除去したのち、イオン交換膜電気透析処理により食塩の残量を除去する。蒸発晶析処理による食塩の除去速度は、イオン交換膜電気透析処理による食塩の除去速度に比べて著しく大きいために、本発明の濃縮梅果汁の製造方法を採用することにより、梅酢からの濃縮梅果汁の製造の生産性を大幅に向上することができる。
梅酢中の食塩は、ほとんど飽和濃度であるために、蒸発晶析処理により梅酢中の食塩の大半を除去することができる。また、梅果汁は、経済的な貯蔵や運送のために、1/3〜1/10に濃縮されることが多いので、本発明方法により目的とする濃縮梅果汁を効率よく製造することができる。さらに、本発明方法によれば、濃縮梅果汁の生産能力が大幅に向上するので、同一の生産量に対する設備費を低減することができる。
【0010】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例中pHは液温25℃において測定した値である。有機酸濃度は、有機酸がすべてクエン酸であるとして計算した値である。アミノ酸濃度は、アミノ酸がすべてアスパラギンであるとして計算した値である。
比較例1(従来の製造方法)
従来は、図2に示すイオン交換膜電気透析装置と、図1に示すバッチ式蒸発缶をこの順に用いて、濃縮梅果汁を製造していた。イオン交換膜電気透析装置は、ステンレススチール陰極26と白金メッキチタン陽極27の間が、50枚の強酸性陽イオン交換膜(有効膜面積0.10m2)28と、50枚の強塩基性陰イオン交換膜(有効膜面積0.10m2)29により交互に仕切られ、陰極室30、陽極室31、50個の脱塩室32及び49個の濃縮室33から構成されたイオン交換膜電気透析槽25を有している。バッチ式蒸発缶の蒸発表面積は、0.5m2である。従来の濃縮梅果汁の製造操作の一例を、以下に記述する。
食塩231.7g/L、糖質9.0g/L、有機酸39.2g/L、アミノ酸2.6g/Lを含有し、pHが2.50である梅酢500Lを、イオン交換膜電気透析装置の脱塩液タンク34に仕込んだ。また、炭酸ナトリウムの2g/L水溶液を濃縮液タンク35に仕込んだ。脱塩液タンクに仕込んだ梅酢をイオン交換膜電気透析槽25の脱塩室32に循環させ、濃縮液タンクに仕込んだ炭酸ナトリウム水溶液を、陰極室30、陽極室31及び濃縮室33に循環させ、陰極26と陽極27の間に50Vの電圧をかけて電気透析処理を行った。電気透析開始と同時に、濃縮液タンクには電解質の濃度が2g/L以下になるように、水供給ライン36より水を供給し、余剰の濃縮液を濃縮液排出ライン37より排出した。
梅酢の脱塩は、脱塩梅酢中の食塩濃度1g/Lを目標に行った。従来より蓄積されたデータから、電圧50Vのとき電流が12Aになると、食塩濃度が1g/Lに低下していることが分かっている。電気透析開始時の電流は25Aであったが、電流が12Aに低下するまでに59時間を要した。
電気透析終了時の脱塩梅酢の組成は、食塩1.0g/L、糖質9.0g/L、有機酸38.0g/L、アミノ酸2.6g/Lであり、pHは2.50であった。この電気透析処理による梅酢中の食塩の除去量は115.4kgであり、イオン交換膜の有効膜面積1m2当たりの食塩の除去速度は0.39kg/m2・hであった。
次に、脱塩梅酢を1/5に濃縮した。イオン交換膜電気透析処理により得られた脱塩梅酢500Lを、バッチ式蒸発缶11の梅酢投入口12より投入し、温度調節媒体13と温度計14により缶内液の温度を50℃に保った。缶内液は、撹拌棒15で撹拌し、蒸発した水蒸気を、真空配管16、逆流防止タンク17を通して、水温25℃の水封式真空ポンプ18で吸引した。真空計19は、4kPaを示した。脱塩梅酢の水分を蒸発除去して、10時間かけて液量100Lまで濃縮し、濃縮梅果汁を得た。このとき、食塩の晶析は起こらなかった。10時間の蒸発処理後、濃縮梅果汁を取り出し口24より取り出した。得られた濃縮梅果汁の組成は、食塩5.0g/L、糖質45.0g/L、有機酸190.0g/L、アミノ酸13.0g/Lであり、pHは2.40であった。
【0011】
実施例1(本発明の製造方法)
比較例1と同じ装置を用い、梅酢の蒸発濃縮と、濃縮梅酢のイオン交換膜電気透析処理をこの順に行って、濃縮梅果汁を製造した。
比較例1で用いた梅酢と組成、pHともに同じ梅酢500Lを、バッチ式蒸発晶析缶11の梅酢投入口12より投入し、温度調節媒体13と温度計14により缶内液の温度を50℃に保った。缶内液は撹拌棒15で撹拌し、蒸発した水蒸気を、真空配管16、逆流防止タンク17を通して、水温25℃の水封式真空ポンプ18で吸引した。真空計19は、4kPaを示した。梅酢は水分が蒸発除去されて濃縮され、過飽和分の食塩が晶析して、バッチ式蒸発晶析缶の底20に沈殿した。濃縮された上澄み液は、晶析食塩の上部に溜まった。10時間の蒸発晶析処理後、濃縮上澄み液を濃縮液取り出し口22より取り出した。晶析して蒸発晶析缶の底20に沈殿した食塩は、取り出し棒23により、晶析食塩取り出し口24より取り出し、遠心分離処理を施して、食塩分と溶液分に分けた。溶液分は、濃縮液取り出し口22より取り出した濃縮上澄み液と合流させ、濃縮梅酢とした。濃縮梅酢の液量は100Lであり、その組成は、食塩235.0g/L、糖質45.0g/L、有機酸196.0g/L、アミノ酸13.0g/Lであり、pHは2.40であった。この蒸発晶析処理による梅酢中の食塩の除去量は92.4kgであり、蒸発面積1m2当たりの食塩の除去速度は18.5kg/m2・hであった。
次に、蒸発濃縮処理により得られた濃縮梅酢100Lを、イオン交換膜電気透析装置の脱塩液タンク34に仕込んだ。また、炭酸ナトリウムの2g/L水溶液を濃縮液タンク35に仕込んだ。脱塩液タンクに仕込んだ濃縮梅酢をイオン交換膜電気透析槽25の脱塩室32に循環させ、濃縮液タンクに仕込んだ炭酸ナトリウム水溶液を、陰極室30、陽極室31及び濃縮室33に循環させ、陰極26と陽極27の間に50Vの電圧をかけて電気透析処理を行った。電気透析開始と同時に、濃縮液タンクには電解質の濃度が2g/L以下になるように、水供給ライン36より水を供給し、余剰の濃縮液を濃縮液排出ライン37より排出した。濃縮梅酢の脱塩は、比較例1と同様に、濃縮梅果汁中の食塩濃度1g/L、すなわち、電流12Aを目標に行った。電気透析開始時の電流は25Aであり、12時間後に電流が12Aに低下した。
得られた濃縮梅果汁の組成は、食塩1.0g/L、糖質45.0g/L、有機酸190.0g/L、アミノ酸13.0g/Lであり、pHは2.40であった。この電気透析処理による濃縮梅酢中の食塩の除去量は23.4kgであり、イオン交換膜の有効膜面積1m2当たりの食塩の除去速度は0.39kg/m2・hであった。
比較例1及び実施例1における原料梅酢、脱塩梅酢、濃縮梅酢及び濃縮梅果汁の液量、pH及び組成を第1表に、比較例1及び実施例1における処理時間、食塩除去量及び食塩除去速度を第2表に示す。
【0012】
【表1】
【0013】
【表2】
【0014】
従来の製造方法による比較例1と本発明の製造方法による実施例1を比較すると、第1表に見られるように、いずれも原料梅酢500Lから濃縮梅果汁100Lが得られ、得られた濃縮梅果汁の品質は同等か、又は、食塩含有量が少ないという点でむしろ実施例1の濃縮梅果汁の方が優れている。
比較例1と実施例1は、いずれも同一のバッチ式蒸発晶析缶と同一のイオン交換膜電気透析装置を用いて原料梅酢500Lから濃縮梅果汁100Lを製造するものであるが、第2表に見られるように、イオン交換膜電気透析処理したのちに蒸発濃縮処理を行う比較例1の全処理時間が69時間であったのに対して、蒸発晶析処理をしたのちにイオン交換膜電気透析処理を行う実施例1では、全処理時間が22時間に短縮されている。
さらに、従来法である比較例1においては、イオン交換膜電気透析処理に約60時間、蒸発濃縮処理に約10時間を要していたので、濃縮梅果汁の製造1サイクルの間に、バッチ式蒸発缶が運転されない約50時間の待ち時間があった。本発明方法である実施例1においては、蒸発晶析処理時間が約10時間、イオン交換膜電気透析処理時間が約12時間となり、両工程の運転時間がほぼ均衡するので、バッチ式蒸発晶析缶とイオン交換膜電気透析装置を実質的にフル稼働することができ、本発明方法を採用することにより、生産性は従来法の約5倍に向上した。
【0015】
【発明の効果】
本発明方法によれば、梅の実から梅干を製造する過程において副生する梅酢を原料とし、脱塩濃縮された食塩含有量の少ない高品質の濃縮梅果汁を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、バッチ式蒸発晶析缶の一態様の概略図である。
【図2】図2は、イオン交換膜電気透析装置の一態様の概略図である。
【符号の説明】
11 バッチ式蒸発晶析缶
12 梅酢投入口
13 温度調節媒体
14 温度計
15 撹拌棒
16 真空配管
17 逆流防止タンク
18 水封式真空ポンプ
19 真空計
20 蒸発晶析缶の底
21 蒸発晶析缶の中部
22 取り出し口
23 取り出し棒
24 取り出し口
25 イオン交換膜電気透析槽
26 陰極
27 陽極
28 陽イオン交換膜
29 陰イオン交換膜
30 陰極室
31 陽極室
32 脱塩室
33 濃縮室
34 脱塩液タンク
35 濃縮液タンク
36 水供給ライン
37 濃縮液排出ライン
38 液循環ポンプ
39 脱塩液循環パイプライン
40 脱塩液循環パイプライン
41 液循環ポンプ
42 濃縮液循環パイプライン
43 濃縮液循環パイプライン
Claims (1)
- 梅酢水溶液に蒸発晶析による濃縮処理を施して、液体の容量が1/10〜1/3になるまで濃縮し、かつ、上澄み液の食塩濃度を飽和濃度にしたのち、その上澄み液に陰イオン交換膜と陽イオン交換膜の1対当たりの電圧が0 . 2〜2Vの条件で、イオン交換膜電気透析処理を施すことにより、食塩濃度1g/L以下の濃度にすることを特徴とする飲料用濃縮梅果汁の製造方法。
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