JP3765671B2 - 電子放出素子及びこれを用いた電子放出表示装置 - Google Patents

電子放出素子及びこれを用いた電子放出表示装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子放出素子及びこれを用いた電子放出表示装置に関し、特に電子放出素子の複数を例えばマトリクス状などの画像表示配列にした電子放出素子フラットパネルディスプレイ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からフラットパネルディスプレイ装置として電界電子放出素子のFED(field emission display)が、陰極の加熱を必要としない冷陰極の電子放出源のアレイを備えた平面形発光ディスプレイとして知られている。例えば、spindt形冷陰極を用いたFEDの発光原理は、冷陰極アレイが異なるもののCRT(cathode ray tube)と同様に、陰極から離間したゲート電極により電子を真空中に引出し、透明陽極に塗布された蛍光体に衝突させて、発光させるものである。
【0003】
しかしながら、この電界放出源は、微細なspindt型冷陰極の製造工程が複雑で、その工程数が多いので、製造歩留りが低いといった問題がある。
また、面電子源として金属−絶縁体−金属(MIM)構造の電子放出素子がある。このMIM構造の電子放出素子は、基板上に陰極としてのAl層、膜厚10nm程度のAl23絶縁体層、膜厚10nm程度の陽極としてのAu層を順に形成した構造を有するものがある。これを真空中で対向電極の下に配置して下部Al層と上部Au層の間に電圧を印加するとともに対向電極に加速電圧を印加すると、電子の一部が上部Au層から真空中へ飛び出し対向電極に達する。この発光素子でも電子を対向電極に塗布された蛍光体に衝突させて、発光させる。
【0004】
しかしながら、この電界放出源は、微細なspindt型冷陰極の製造工程が複雑で、その工程数が多いので、製造歩留りが低いといった問題がある。また、面電子源として金属−絶縁体−金属(MIM)構造の電子放出素子がある。このMIM構造の電子放出素子は、基板上に陰極としてのAl層、膜厚10nm程度のAl23絶縁体層、膜厚10nm程度の陽極としてのAu層を順に形成した構造を有するものがある。これを真空中で対向電極の下に配置して下部Al層と上部Au層の間に電圧を印加するとともに対向電極に加速電圧を印加すると、電子の一部が上部Au層を飛び出し対向電極に達する。しかしながら、MIM構造の電子放出素子を用いてもまだ放出電子の量は十分とはいえない。
【0005】
これを改善するために、従来のAl23絶縁体層の膜厚を数nm程度薄膜化したり、極薄膜のAl23絶縁体層の膜質及びAl23絶縁体層と上部Au層の界面を、より均一化することが必要であると考えられている。
例えば、特開平7−65710号に記載の発明のように、絶縁体層のさらなる薄膜化及び均一化のために陽極酸化法を用いて、化成電流を制御することにより電子放出特性を向上させる試みがなされている。
【0006】
しかしながら、このような方法で製造されたMIM構造の電子放出素子でも、まだ放出電流は1×10-5A/cm2程度で、放出電流比は1×10-3程度にすぎない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、低い電圧で安定して電子放出することのできる電子放出素子及びこれを用いたフラットパネルディスプレイ装置などの電子放出表示装置を提供することを目的とする。
さらに、電子放出素子の広範囲な実用化させるためには本素子を高真空中に封止する必要があるので、300℃〜500℃程度の熱処理を行う必要があるが、熱処理により、電子放出素子は膜の抵抗率が高くなり、電子放出特性が劣化してしまう。
【0008】
よって、本発明は、熱処理による膜の抵抗率の増加を抑える電子放出素子を提供することをも目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の電子放出素子は、半導体からなる電子供給層、前記電子供給層上に形成された絶縁体層、及び前記絶縁体層上に形成された金属薄膜電極からなり、前記電子供給層及び前記金属薄膜電極間に電界が印加されたとき電子を放出する電子放出素子であって、
前記電子供給層は3族又は5族元素の添加物が0.34〜10atm%の割合で添加されている、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の電子放出素子においては、前記電子供給層はアモルファスシリコン,水素化アモルファスシリコン若しくは水素化アモルファスシリコンカーバイドからなることを特徴とする。
本発明の電子放出素子においては、前記3族元素はB,Al,Ga,In,Tlからなる群から選択されることを特徴とする。
本発明の電子放出素子においては、前記5族元素はP,As,Sb,Biからなる群から選択されることを特徴とする。
本発明の電子放出素子においては、前記絶縁体層は誘電体からなり50nm以上の膜厚を有することを特徴とする。
本発明の電子放出表示装置は、真空空間を挾み対向する一対の第1及び第2基板と、
前記第1基板に設けられた複数の電子放出素子と、
前記第2基板内に設けられたコレクタ電極と、
前記コレクタ電極上に形成された蛍光体層と、からなる電子放出表示装置であって、
前記電子放出素子の各々は、オーミック電極上に形成された半導体からなる電子供給層、前記電子供給層上に形成された絶縁体層及び前記絶縁体層上に形成された金属薄膜電極からなり、前記電子供給層は3族又は5族元素の添加物が0.34〜10atm%の割合で添加されている、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の電子放出表示装置においては、前記電子供給層はアモルファスシリコン,水素化アモルファスシリコン若しくは水素化アモルファスシリコンカーバイドからなることを特徴とする。
本発明の電子放出表示装置においては、前記3族元素はB,Al,Ga,In,Tlからなる群から選択されることを特徴とする。
本発明の電子放出表示装置においては、前記5族元素はP,As,Sb,Biからなる群から選択されることを特徴とする。
本発明の電子放出表示装置においては、前記絶縁体層は誘電体からなり50nm以上の膜厚を有することを特徴とする。
本発明の電子放出表示装置においては、前記金属薄膜電極の複数の上にバスラインが形成され、前記オーミック電極及び前記バスラインはそれぞれストライプ状の電極でありかつ互いに直交する位置に配列されていることを特徴とする。
【0012】
以上の構成により、電子供給層には3族又は5族元素の添加物例えば、B(ボロン)、P(リン)、As(ひ素)、Sb(アンチモン)などが添加されるので、製造中の熱処理後においても熱処理前の特性が維持された信頼性の高い素子となる。
さらに、本発明の電子放出素子では、絶縁体層は厚い膜厚を有するのでスルーホールが発生しにくいので製造歩留まりが向上する。また、本発明の電子放出素子は、画素バルブの発光源、電子顕微鏡の電子放出源、真空マイクロエレクトロニクス素子などの高速素子に応用でき、さらに面状又は点状の電子放出ダイオードとして、ミリ波又はサブミリ波の電磁波を放出する発光ダイオード又はレーザダイオードとして、さらには高速スイッチング素子として動作可能である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本実施例の電子放出素子Sは、ガラスの素子基板10上に例えば、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、窒化チタン(TiN)などからなるオーミック電極11を形成し、その上にシリコン(Si)などの半導体からなる電子供給層12を形成し、その上にSiOx(X=0.1〜2.0)などからなる絶縁体層13を積層し、その上に例えば白金(Pt)、金(Au)などの金属薄膜電極15を積層して構成される。特に、絶縁体層13は誘電体からなり50nm以上の極めて厚い膜厚を有する。さらに、電子供給層12には3族のB(ボロン)、又は5族元素のP(リン)、As(ひ素)、もしくはSb(アンチモン)などの添加物が添加されている。
【0014】
これらの層は、スパッタリング法を通して、Ar,Kr,Xeあるいはそれらの混合ガス、又はこれらの希ガスを主成分としO2,N2などを混入した混合ガスを用いてガス圧 0.1〜 100mTorr好ましくは 0.1〜20mTorr、成膜レート 0.1〜1000nm/min好ましくは 0.5〜 100nm/minのスパッタ条件で成膜される。
この電子放出素子Sの素子基板10を背面の第1基板として、これに対向するガラスなどの透光性の第2基板1が真空空間を挾んで前面基板として保持される。第2基板1の内面にはインジウム錫酸化物(いわゆるITO)、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)などからなる透光性のコレクタ電極2と蛍光体層3R,G,Bとが設けられる。素子基板10の材質はガラスの他に、Al23,Si34、BN等のセラミックスでも良い。
【0015】
電子放出素子Sは、表面の金属薄膜電極15を正電位Vdとし裏面オーミック電極11を接地電位としたダイオードである。オーミック電極11と金属薄膜電極15との間に電圧Vd例えば90V程度を印加し電子供給層12に電子を注入すると、ダイオード電流Idが流れ、絶縁体層13は高抵抗であるので、印加電界の大部分は絶縁体層13にかかる。電子は、金属薄膜電極15側に向けて絶縁体層13内を移動する。金属薄膜電極15付近に達した電子は、そこで強電界によって一部は金属薄膜電極15から外部の真空中に放出される。
【0016】
薄膜電極15から放出された電子e(放出電流Ie)は、対向したコレクタ電極(透明電極)2に印加された高い加速電圧Vc例えば5kV程度によって加速され、コレクタ電極2に集められる。コレクタ電極に蛍光体3が塗布されていれば対応する可視光を発光させる。
電子放出素子Sの電子供給層12の材料としてはアモルファスシリコン(a−Si)が特に有効であるが、a−Siのダンリングボンドを水素(H)で終結させた水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)や、さらにSiの一部を炭素(C)で置換した水素化アモルファスシリコンカーバイド(a−SiC:H)などの化合物半導体も用いられ、ホウ素、アンチモンをドープしたシリコンも用いられ得る。Siの代わりにゲルマニウム(Ge)、炭化シリコン(SiC)、セレン化カドミウム(CdSe)など、IV族 II-VI族などの単体半導体及び化合物半導体も電子供給層に用いられ得る。
【0017】
電子供給層12にはIIIb族のB,Al,Ga,In,Tl及びVb族元素のP,As,Sb,Biから選択された元素を添加物として0.1〜10atm%の割合で含有されている。この電子供給層への添加物の添加によって有効に働くドナー及びアクセプタが増え、すなわちキャリア密度が高くなることにより、Siのダングリングボンドの減少による抵抗率の増加が相殺される、と推察される。
【0018】
絶縁体層13の誘電体材料としては、酸化珪素SiOx(xは原子比を示す)が特に有効であるが、
LiOx,LiNx,NaOx,KOx,RbOx,CsOx,BeOx,MgOx,MgNx,CaOx,CaNx,SrOx,BaOx,ScOx,YOx,YNx,LaOx,LaNx,CeOx,PrOx,NdOx,SmOx,EuOx,GdOx,TbOx,DyOx,HoOx,ErOx,TmOx,YbOx,LuOx,TbOx,DyOx,HoOx,ErOx,TmOx,YbOx,LuOx,TiOx,ZrOx,ZrNx,HfOx,HfNx,ThOx,VOx,VNx,NbOx,NbNx,TaOx,TaNx,CrOx,CrNx,MoOx,MoNx,WOx,WNx,MnOx,ReOx,FeOx,FeNx,RuOx,OsOx,CoOx,RhOx,IrOx,NiOx,PdOx,PtOx,CuOx,CuNx,AgOx,AuOx,ZnOx,CdOx,HgOx,BOx,BNx,AlOx,AlNx,GaOx,GaNx,InOx,SiNx,GeOx,SnOx,PbOx,POx,PNx,AsOx,SbOx,SeOx,TeOxなどの金属酸化物又は金属窒化物でもよい。
【0019】
また、LiAlO2,Li2SiO3,Li2TiO3,Na2Al2234,NaFeO2,Na4SiO4,K2SiO3,K2TiO3,K2WO4,Rb2CrO4,CS2CrO4,MgAl24,MgFe24,MgTiO3,CaTiO3,CaWO4,CaZrO3,SrFe1219,SrTiO3,SrZrO3,BaAl24,BaFe1219,BaTiO3,Y3Al512,Y3Fe512,LaFeO3,La3Fe512,La2Ti27,CeSnO4,CeTiO4,Sm3Fe512,EuFeO3,Eu3Fe512,GdFeO3,Gd3Fe512,DyFeO3,Dy3Fe512,HoFeO3,Ho3Fe512,ErFeO3,Er3Fe512,Tm3Fe512,LuFeO3,Lu3Fe512,NiTiO3,Al2TiO3,FeTiO3,BaZrO3,LiZrO3,MgZrO3,HfTiO4,NH4VO3,AgVO3,LiVO3,BaNb26,NaNbO3,SrNb26,KTaO3,NaTaO3,SrTa26,CuCr24,Ag2CrO4,BaCrO4,K2MoO4,Na2MoO4,NiMoO4,BaWO4,Na2WO4,SrWO4,MnCr24,MnFe24,MnTiO3,MnWO4,CoFe24,NnFe24,FeWO4,CoMoO4,CoTiO3,CoWO4,NiFe24,NiWO4,CuFe24,CuMoO4,CuTiO3,CuWO4,Ag2MoO4,Ag2WO4,ZnAl24,ZnMoO4,ZnWO4,CdSnO3,CdTiO3,CdMoO4,CdWO4,NaAlO2,MgAl24,SrAl24,Gd3Ga512,InFeO3,MgIn24,Al2TiO5,FeTiO3,MgTiO3,Na2SiO3,CaSiO3,ZrSiO4,K2GeO3,Li2GeO3,Na2GeO3,Bi2Sn39,MgSnO3,SrSnO3,PbSiO3,PbMoO4,PbTiO3,SnO2−Sb23,CuSeO4,Na2SeO3,ZnSeO3,K2TeO3,K2TeO4,Na2TeO3,Na2TeO4などの金属複合酸化物、FeS,Al23,MgS,ZnSなどの硫化物、
LiF,MgF2,SmF3などのフッ化物、
HgCl,FeCl2,CrCl3などの塩化物、
AgBr,CuBr,MnBr2などの臭化物、
PbI2,CuI,FeI2などのヨウ化物、
又は、SiAlONなどの金属酸化窒化物でも絶縁体層13の誘電体材料として有効である。
【0020】
さらに、絶縁体層13の誘電体材料としてダイヤモンド,フラーレン(C2n)などの炭素、或いは、Al4C3,B4C,CaC2,Cr3C2,Mo2C,MoC,NbC,SiC,TaC,TiC,VC,W2C,WC,ZrCなどの金属炭化物も有効である。なお、フラーレン(C2n)は炭素原子だけからなりC60に代表される球面篭状分子でC32〜C960などがあり、また、上式中、Ox,Nxのxは原子比を表す。
【0021】
絶縁体層の厚さは、50nm以上、好ましくは 100〜1000nm程度である。
電子放出側の金属薄膜電極15の材料としてはPt,Au,W,Ru,Irなどの金属が有効であるが、Al,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Y,Zr,Nb,Mo,Tc,Rh,Pd,Ag,Cd,Ln,Sn,Ta,Re,Os,Tl,Pb,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなども用いられ得る。
【0022】
またこれらの電子放出素子Sの成膜法としては、スパッタリング法が特に有効であるが、真空蒸着法、CVD(chemical vapor deposition)法、レーザアブレーション法、MBE(molecular beam epitaxy)法、イオンビームスパッタリング法でも有効である。
具体的に、電子供給層にB(ボロン)を添加した種々のSi膜を用い、本発明による電子放出素子を作製し、それらの特性を調べた。
【0023】
まず、背面基板内面に、スパッタリング法によりTiNのオーミック電極を厚さ300nm、その上にボロン(B)を0.02atm%、0.15atm%、0.340atm%、0.44atm%、1.00atm%及び10.00atm%の割合で添加したa−Siの電子供給層を約5μm、その上にSiOxの絶縁体層を400nm、その上にPtの金属薄膜電極を約10nm成膜して電子放出素子Sの素子基板を複数作製した。
【0024】
一方、透明ガラス基板1の内面にITOコレクタ電極及び蛍光体層を形成した透明基板を作成した。
これら素子基板及び透明基板を、金属薄膜電極及びコレクタ電極が向かい合うように平行に10mm離間してスペーサにより保持し、間隙を10-7Torr又は10-5Paの真空になし、電子放出素子を組立て、作製した。
【0025】
その後、多数の得られた素子について、25℃(室温)の場合と比較するために、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃の温度で、1時間真空中にて熱処理をした。
熱処理をした素子について、室温になってから、a−Siの電子供給層の抵抗率を加熱(bake)温度毎に測定した。結果を、図2に示す。図示のように、●の0.02atm%のB添加の場合を除き、■、▲、及び◆で示す0.15atm%、0.34atm%、及び0.44atm%の割合でB添加した電子供給層は、300℃以上の加熱処理においても抵抗率の著しい増加が抑制されていることが分かる。
【0026】
さらに、熱処理の前後(25℃及び300℃)における各B添加濃度の素子について、金属薄膜電極及びオーミック電極の間に素子電圧Vpsとして−50〜110V印加して、各素子のダイオード電流Id及び放出電流Ieを測定した。例えば、図2に示す●の0.02atm%のB添加の場合及び▲の0.34atm%のB添加の場合の結果を、図3及び図4に示す。両図に示すように、いずれの素子も80V付近から立ち上っているのが、放出電流であり、もう一方がダイオード電流であり、また図3及び図4の(a)の特性が熱処理前の特性であり、(b)の特性が熱処理後の特性である。図3から、Bの添加割合が低い場合、熱処理することにより、電子供給層が高抵抗になり、ダイオード電流がほとんど流れなくなることが分かる。一方、図4から、電子供給層へのBの添加割合が高い場合、素子が熱処理前後でほぼ同一の特性を示していることが分かる。
【0027】
またさらに、0.15atm%、0.34atm%、0.44atm%及び1.00atm%の割合でBを添加した電子供給層を有する素子の400℃、1時間で熱処理したものについて、室温になってから、金属薄膜電極及びオーミック電極の間に印加電圧(Applied Voltage)として0〜110V印加して、各素子のダイオード電流Id及び放出電流Ieを測定した。それら0.15atm%、0.34atm%、0.44atm%及び1.00atm%の割合でB添加した電子供給層を有する素子の結果を、それぞれ図5、図6、図7及び図8に示す。これら図において、90V、80V、70V及び40V付近から立ち上っているプロット○が放出電流であり、もう一方のプロット●がダイオード電流である。これら図に示すように、ボロン添加電子供給層を有する素子についても、400℃、1時間で熱処理しても300℃で熱処理した素子と同様に、熱処理後でもほぼ同一のダイオード特性を保持していることが分かる。さらに、10.00atm%の割合でBを添加した電子供給層を有する素子について、上記同様の400℃、1時間で熱処理し室温になってから印加電圧0〜110Vにて、ダイオード電流Id及び放出電流Ieを測定した結果も、熱処理前後でほぼ同一のダイオード特性を保持していることが確認された。
【0028】
一方、絶縁体層の膜厚を25nm、50nm、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、800nm、1000nmと変化させた以外、上記0.44atm%の割合でボロン添加した電子放出素子と同様に作製した素子の複数について、400℃、1時間で熱処理した後に室温に戻して、駆動電圧Vdを110V印加して放出電流Ie及び電子放出効率(Ie/Id)の特性を調べた。その結果を、図9及び図10に示す。図9に示すように、膜厚50nm〜1000nmの絶縁体層を有するいずれの素子において、1×10-6A/cm2以上の放出電流すなわちエミッション電流が得られることが分かる。また、図10に示すように、膜厚50nm〜1000nmの絶縁体層を有するいずれの素子においても、1×10-3以上の電子放出効率(Ie/Id)が得られることが分かる。
【0029】
スパッタリング法で成膜した絶縁体層の表面をSEMで観察したところ、20nm程度の微細構造からなることを特徴としていることが判った。50nm以上の膜厚を有しながらトンネル電流が流れるといった特異な現象はこの特徴に起因すると考えられる。
図11は、実施例の電子放出素子フラットパネルディスプレイ装置を示す。
【0030】
背面基板10の真空空間4側内面には、それぞれ平行に伸長する複数のオーミック電極11が形成されている。オーミック電極11は、カラーディスプレイパネルとするために赤、緑、青のR,G,B色信号に応じて3本1組となっており、それぞれに所定信号が印加される。共通のオーミック電極11に沿って電子放出素子Sの複数が配置されている。隣接する素子の金属薄膜電極15の一部上に、これらを電気的に接続し、オーミック電極11に垂直に伸長して架設され、それぞれが平行に伸長する複数のバス電極16が設けられている。オーミック電極11及びバス電極16の交点が電子放出素子Sに対応する。よって、本発明の表示装置の駆動方式としては単純マトリクス方式またはアクティブマトリクス方式が適用できる。
【0031】
図12に示すように、電子放出素子Sはオーミック電極11上に順に形成された電子供給層12、絶縁体層13及び金属薄膜電極15からなる。金属薄膜電極15は真空空間4に面している。
特に、電子放出素子Sの各々を取り囲み複数の電子放出領域に区画する絶縁性支持部17が形成されている。この絶縁性支持部17はバス電極16を支え、断線を防止する。すなわち、図12に示すように、電子放出素子以外の周縁部にあらかじめ絶縁性支持部、或いは電気抵抗の大きい物質を、その後の工程で電子放出素子を形成した場合の最終的な厚さと同程度に成膜しておくのである。
【0032】
さらに、本実施例では、背面基板10から真空空間4へ突出するように絶縁性支持部17上に背面基板側の隔壁RRが形成されている。隔壁RRは所定間隔で間隔を隔てて配置されている。図11では、隔壁RRは電子放出素子Sの列毎にそれらの間に形成されているが、隔壁RRを、電子放出素子Sの例えば2,3個の列毎の間に間隔をあけて形成してもよい。また、図11では、隔壁RRはオーミック電極11にほぼ垂直な方向に連続して形成されているが、前面基板1側の第2隔壁FRに当接する部分を含む上部面積を残して間欠的に形成してもよい。
【0033】
更に、この隔壁RRはその上底面積が、背面基板と接する下底面積よりも大きく形成されることが好ましい。すなわち、隔壁RRはその上部に背面基板に略平行な方向に突出するオーバーハング部を有するように、形成されることが好ましい。
更に、図11では、背面基板10の金属薄膜電極15上に設けられたバス電極16の形状が単純な直線状で形成されているが、バス電極16を直線状でなく、電子放出素子の金属薄膜電極15の間において、金属薄膜電極上における幅よりも大なる幅を有するように、すなわち電子放出素子Sの間では素子上よりも太くなるように形成することが好ましい。これによって、バス電極の抵抗値を低減できる。
【0034】
オーミック電極11は、その材料としては、Au,Pt,Al,W等の一般にICの配線に用いられる材料やクロム、ニッケル、クロムの3層構造、AlとNdの合金、AlとMoの合金、TiとNの合金も用いられ得、その厚さは各素子にほぼ同電流を供給する均一な厚さである。なお、図11では図示しないが背面基板10及びオーミック電極11間には、SiOx,SiNx,Al23,AlNなどの絶縁体からなるインシュレータ層を形成してもよい。インシュレータ層はガラスの背面基板10から素子への悪影響(アルカリ成分などに不純物の溶出や、基板面の凹凸など)を防ぐ働きをなす。
【0035】
金属薄膜電極15の材質は、電子放出の原理から仕事関数φが小さい材料で、薄い程良い。電子放出効率を高くするために、金属薄膜電極15の材質は周期律表のI族、II族の金属が良く、たとえばCs,Rb,Li,Sr,Mg,Ba,Ca等が有効で、更に、それらの合金であっても良い。また、金属薄膜電極15の材質は極薄化の面では、導電性が高く化学的に安定な金属が良く、たとえばAu,Pt,Lu,Ag,Cuの単体又はこれらの合金等が望ましい。また、これらの金属に、上記仕事関数の小さい金属をコート、あるいはドープしても有効である。
【0036】
バス電極16の材料としては、Au,Pt,Al,Cu等の一般にICの配線に用いられる物で良く、各素子にほぼ同電位を供給可能ならしめるに足る厚さで、 0.1〜50μmが適当である。但し、抵抗値が許容できるのであれば、バス電極を使用しないで、金属薄膜電極に使用する材料を使用することもできる。
一方、表示面である透明ガラスなどの透光性の前面基板1の内面(背面基板10と対向する面)には、ITOからなる透明なコレクタ電極2が一体的に形成され、これに高い電圧が印加される。なお、ブラックストライプやバックメタルを使用する場合は、ITOを設けずにこれらをコレクタ電極とすることが可能である。
【0037】
コレクタ電極2上には、フロントリブ(第2隔壁)FRがオーミック電極11に平行となるように複数形成されている。延在しているフロントリブ間のコレクタ電極2の上には、R,G,Bに対応する蛍光体からなる蛍光体層3R,3G,3Bが真空空間4に面するように、それぞれ形成されている。このように、各蛍光体の境には背面基板と前面基板の距離を一定(例えば1mm)に保つ為のフロントリブ(第2隔壁)FRが設けられている。背面基板10上に設けられたリアリブ(隔壁)RRと直交する方向にフロントリブ(第2隔壁)FRとが前面基板1に設けられているので、前面基板の蛍光体を光の3原色に相当するR,G,Bに塗り分けが確実になる。
【0038】
このように、実施例の電子放出素子フラットパネルディスプレイ装置はマトリクス状に配置されかつ各々が赤R、緑G及び青Bの発光部からなる発光画素の複数からなる画像表示配列を有している。もちろん、RGBの発光部に代えてすべてを単色の発光部としてモノクロムディスプレイパネルも形成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による実施例の電子放出素子の概略断面図である。
【図2】 本発明による電子放出表示装置における電子放出素子への熱処理温度と電子放出電子放出効率の関係を示すグラフである。
【図3】 印加した素子電圧Vpsに対する、0.02atm%のB添加の電子供給層を有する電子放出素子のダイオード電流Id及び放出電流Ieの変化を示すグラフである。
【図4】 印加した素子電圧Vpsに対する、0.34atm%のB添加の電子供給層を有する電子放出素子のダイオード電流Id及び放出電流Ieの変化を示すグラフである。
【図5】 印加電圧に対する、0.15atm%のボロン添加の電子供給層を有する電子放出素子のダイオード電流Id及び放出電流Ieの変化を示すグラフである。
【図6】 印加電圧に対する、0.34atm%のボロン添加の電子供給層を有する電子放出素子のダイオード電流Id及び放出電流Ieの変化を示すグラフである。
【図7】 印加電圧に対する、0.44atm%のボロン添加の電子供給層を有する電子放出素子のダイオード電流Id及び放出電流Ieの変化を示すグラフである。
【図8】 印加電圧に対する、1.00atm%のボロン添加の電子供給層を有する電子放出素子のダイオード電流Id及び放出電流Ieの変化を示すグラフである。
【図9】 本発明による電子放出素子の絶縁体層膜厚と放出電流の関係を示すグラフである。
【図10】 本発明による電子放出素子の絶縁体層膜厚と電子放出効率の関係を示すグラフである。
【図11】 本発明による実施例の電子放出素子フラットパネルディスプレイ装置を示す概略部分斜視図である。
【図12】 実施例の電子放出素子フラットパネルディスプレイ装置の図11における線AAに沿った概略部分拡大断面図。
【符号の説明】
1 透光性の前面基板
2 コレクタ電極
3R,3G,3B 蛍光体層
4 真空空間
10 背面基板
11 オーミック電極
12 電子供給層
13 絶縁体層
15 金属薄膜電極
16 バスライン
17 絶縁性支持部

Claims (11)

  1. 半導体からなる電子供給層、前記電子供給層上に形成された絶縁体層、及び前記絶縁体層上に形成された金属薄膜電極からなり、前記電子供給層及び前記金属薄膜電極間に電界が印加されたとき電子を放出する電子放出素子であって、
    前記電子供給層は3族又は5族元素の添加物が0.34〜10atm%の割合で添加されている、ことを特徴とする電子放出素子。
  2. 前記電子供給層はアモルファスシリコン,水素化アモルファスシリコン若しくは水素化アモルファスシリコンカーバイドからなることを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
  3. 前記3族元素はB,Al,Ga,In,Tlからなる群から選択されることを特徴とする請求項2記載の電子放出素子。
  4. 前記5族元素はP,As,Sb,Biからなる群から選択されることを特徴とする請求項2記載の電子放出素子。
  5. 前記絶縁体層は誘電体からなり50nm以上の膜厚を有することを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
  6. 真空空間を挾み対向する一対の第1及び第2基板と、
    前記第1基板に設けられた複数の電子放出素子と、
    前記第2基板内に設けられたコレクタ電極と、
    前記コレクタ電極上に形成された蛍光体層と、からなる電子放出表示装置であって、
    前記電子放出素子の各々は、オーミック電極上に形成された半導体からなる電子供給層、前記電子供給層上に形成された絶縁体層及び前記絶縁体層上に形成された金属薄膜電極からなり、前記電子供給層は3族又は5族元素の添加物が0.34〜10atm%の割合で添加されている、ことを特徴とする電子放出表示装置。
  7. 前記電子供給層はアモルファスシリコン,水素化アモルファスシリコン若しくは水素化アモルファスシリコンカーバイドからなることを特徴とする請求項6記載の電子放出表示装置。
  8. 前記3族元素はB,Al,Ga,In,Tlからなる群から選択されることを特徴とする請求項7記載の電子放出表示装置。
  9. 前記5族元素はP,As,Sb,Biからなる群から選択されることを特徴とする請求項7記載の電子放出表示装置。
  10. 前記絶縁体層は誘電体からなり50nm以上の膜厚を有することを特徴とする請求項6記載の電子放出表示装置。
  11. 前記金属薄膜電極の複数の上にバスラインが形成され、前記オーミック電極及び前記バスラインはそれぞれストライプ状の電極でありかつ互いに直交する位置に配列されていることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1記載の電子放出表示装置。
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