JP3764276B2 - マグネトロンスパッタ方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光ディスク、電子部品等の薄膜形成に用いられるマグネトロンスパッタ方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年では、光ディスクや電子部品などの基板に薄膜を堆積させる技術としてマグネトロンスパッタ技術を利用したマグネトロンスパッタ装置が用いられている。このマグネトロンスパッタ技術は、高速かつ膜や基板の損傷の少ない成膜が可能で、現在のスパッタ技術を用いた成膜装置での主流になっている。
【0003】
以下、従来のマグネトロンスパッタ装置について説明する。図8は、平板ターゲットを用いたマグネトロンスパッタ装置の本発明に関わる部分の断面図であり、中心軸20に対して回転対称である。
【0004】
1は真空チャンバで、排気機構とガス導入機構(図示せず)を備えており、電位的にはアースに落とされている。2は平板状のターゲットである。5は基板で、ターゲット2の表面と対向するように配置されている。3はターゲット2の裏面に配置された磁気回路、4は磁気回路3により形成される磁場の磁力線である。磁力線4の一部は、磁力線4aのごとくターゲット2の表面から出てターゲット2の表面に帰る。このような磁力線4はターゲット2表面上にトンネル形状を形作る。
【0005】
電子は、磁場から受けるローレンツ力によって捕捉され、トンネル形状を形作る磁力線とその近傍の磁力線に巻き付くが、磁力線4がターゲット2の表面の陰極シース8と交わったところでシース電界に反射されるので、長時間ターゲット2の表面近傍に閉じ込められる。このような機構で電子を閉じ込める磁場を磁気トンネルと呼ぶ。磁気回路3の構成は、磁力線4がターゲット2の表面上で磁気トンネルを形成するように工夫されている。
【0006】
次に、動作を説明する。スパッタガス導入後、ターゲット2へグロー放電用の高圧電源(図示せず)により電力を供給すると、プラズマ7が発生し、ターゲット2表面に陰極シース8が形成される。このプラズマ7中のイオンが、陰極シース8で加速され、ターゲット表面にぶつかると、ターゲット2の原子がスパッタされ、基板5の向かいあった表面に付着し、薄膜が形成される。
【0007】
次に、マグネトロンスパッタ技術の特徴について説明する。イオンがターゲット2の表面にぶつかった際、スパッタ粒子とともに電子も放出される。この電子は2次電子と呼ばれ、陰極シース8で加速され非常に高いエネルギーを持つ。マグネトロンスパッタ技術は、ターゲット2上に形成した磁気トンネルによって2次電子を捕捉し閉じ込める。このことによって、スパッタガスの電離を促進し、高密度プラズマを発生させ、高速成膜を実現する。また、マグネトロンスパッタ技術は、ターゲット2上に形成した磁気トンネルによって2次電子を捕捉して閉じ込めることにより、高いエネルギーを持つ電子の基板5への流入を防ぎ、膜や基板の損傷が少ない成膜を実現する。ここで、磁気トンネルが基板5に接してしまうと、膜や基板に損傷を与えるが、通常は基板5を磁気トンネルから遠ざける等によって磁気トンネルが基板5に接しないようにしている。
【0008】
さらに、マグネトロンスパッタ技術は、高密度のプラズマ7が発生するため、単位電力あたりの放電電圧を低くすることができる。これによって、2次電子のエネルギーを低くすることができ、電子の捕捉をより完全にできる。
【0009】
さらに、マグネトロンスパッタ技術は、図8の如く磁気トンネルを覆い基板5以外のアース部分を通る磁力線群4bによって磁気トンネルから漏れ出た高エネルギー電子を捕捉し、アースに吸収せしめることにより、電子の基板5への流入を防ぎ、膜や基板の損傷がより少ない成膜を実現しているものもある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、陰極シース8はターゲット2に垂直に電場を形成するため、ここで加速された電子はターゲット2に垂直な速度成分VT が増大する。電子が電場から受けるローレンツ力Fは、電子の電荷をe、速度ベクトルをV、磁場の磁束密度ベクトルをBとして、F=eV×B(×はベクトルの外積)であるから、電子を捕捉する力は磁場のVT に垂直な成分、すなわち磁場の任意の位置(A点)における磁束密度ベクトル9のターゲット2に平行な成分10に比例する。このように磁束密度ベクトル9のターゲットに平行な成分10が、陰極シース8で加速された電子を捕捉するのに重要な役割を果たす。
【0011】
しかしながら、上記従来の構成では、磁場のターゲットに平行な成分10は、図8に示すように、磁気トンネルの中心付近12では、電子の捕捉に十分な大きさを持つが、磁気トンネルの端の方13では、磁極に近くなるため、ターゲット2に垂直な成分11が大きくなり、平行な成分10はほぼ0となる。
【0012】
投入電力が小さいうちは、プラズマ7は磁気トンネルの中心付近にのみ存在するので、電子は良く捕捉されるが、成膜速度をさらに向上させるため投入する電力を上げていくとプラズマ7が磁気トンネルの端まで広がり、電子を捕捉することができず、膜や基板に損傷を与えてしまう。そのため、投入電力をあげて成膜速度を上げることができず、または投入電力を上げて成膜速度を上げた場合は、損傷の累積を避けるため短時間しか放電できず、薄い膜しか形成できないという問題があった。
【0013】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、膜や基板に損傷を与えずに成膜速度を向上することができ、また良好な膜厚分布を得ることができるマグネトロンスパッタ方法及び装置を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明のマグネトロンスパッタ方法は、ターゲット表面に磁場を発生させ、前記ターゲットからスパッタさせた原子を基板上に付着させ、前記基板上に薄膜を形成するマグネトロンスパッタ方法であって、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向するすべての位置を磁気トンネルで覆い、前記磁気トンネルを形成する磁場のターゲットに平行な成分Bを、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向する位置において陰極シースで加速された電子を捕捉するのに十分な大きさとし、かつ前記磁気トンネルが前記基板と接しないようにするものである。
【0015】
この方法によると、ターゲットが磁気トンネルに覆われているので、陰極シースでターゲットに垂直に加速された電子が磁場のターゲットに平行な成分に比例する力で捕捉され、ターゲット上の基板と対向するすべての位置において磁気トンネルに閉じ込められる。しかも、2次電子を磁気トンネル内に閉じ込めるためプラズマ密度が向上し、放電電圧が低減する。よって、陰極シースで加速される電子のエネルギーも低減し、電子は捕捉され易くなる。それ故、陰極シースで加速された電子が膜や基板に流入し損傷を与えることはない。また、磁気トンネルは基板に接していないので、磁気トンネル内の高エネルギー電子が膜や基板に損傷を与えることはない。
【0016】
また、前記ターゲットに平行な成分Bを、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向する位置において、放電電圧Vと前記磁気トンネルの厚さtに対して、
【0017】
【数1】
【0018】
を満たすようにしている。すなわち、放電電圧V(volt)の陰極シースで加速された電子がB(Gauss)の磁場に巻き付くときの回転半径r(mm)は、
【0019】
【数2】
【0020】
であるから、r=t/2として、上式で決定されるBが2次電子を磁気トンネル内に閉じ込める条件となる。こうして2次電子を確実に磁気トンネル内に閉じ込めることができ、その結果プラズマ密度が向上し、放電電圧が低減するので、陰極シースで加速された電子のエネルギーは低減し、電子の捕捉がより完全となる。
【0021】
また、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向するすべての位置を磁気トンネルで覆うとともに前記磁気トンネルをアース部分を通り前記基板を通らない磁力線群で覆い、前記磁力線群を形成する磁場のターゲットに平行な成分Bを、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向する位置において陰極シースで加速された電子を捕捉するのに十分な大きさとしてもよい。
【0022】
この方法によると、ターゲットが磁気トンネルと磁力線群に覆われているので、陰極シースでターゲットに垂直に加速された電子が磁場のターゲットに平行な成分に比例する力で捕捉され、ターゲット上の基板と対向するすべての位置において磁力線群に閉じ込められる。しかも、磁力線はアース部分を通るので、高エネルギー電子が基板以外のアース部分に吸収される。それ故、陰極シースで加速された電子が膜や基板に流入し損傷を与えることはない。また、磁力線群は基板を通らないので、磁力線群内の高エネルギー電子が膜や基板に損傷を与えることはない。
【0023】
また、前記ターゲットに平行な成分Bを、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向する位置において、放電電圧Vと前記磁力線群の厚さtに対して、
【0024】
【数1】
【0025】
を満たすようにしている。これが上述のように2次電子を磁力線群内に閉じ込める条件であり、これによって2次電子を確実に磁気トンネル内に閉じ込めることができ、その結果高エネルギー電子を確実に基板以外のアース部分に吸収せしめることができる。
【0026】
また、磁気トンネルがターゲット上に少なくとも2箇所以上あるようにすると、基板全体に対して良好な膜厚分布を形成するのに必要なプラズマ密度分布を実現することができる。
【0027】
また、本発明のマグネトロンスパッタ装置は、ターゲット表面に磁場を発生させる磁気回路を有し、前記ターゲットからスパッタさせた原子を基板上に付着させ、前記基板上に薄膜を形成するマグネトロンスパッタ装置において、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向するすべての位置が磁気トンネルで覆われ、前記磁気トンネルを形成する磁場の前記ターゲットに平行な成分Bが、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向する位置において陰極シースで加速された電子を捕捉するのに十分な大きさを持ち、しかも前記磁気トンネルが前記基板と接しないように前記磁気回路または前記ターゲットの形状を構成したものである。
【0028】
この構成によると、ターゲット上の基板と対向するすべての位置で磁場による2次電子の捕捉が可能となるので、陰極シースで加速された電子が膜や基板に流入し損傷を与えることがない。
【0029】
また、前記ターゲットに平行な成分Bを、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向する位置において、放電電圧Vと前記磁気トンネルの厚さtに対して、
【0030】
【数1】
【0031】
を満たすようにしているので、2次電子を確実に磁気トンネル内に閉じ込めることができ、その結果プラズマ密度が向上し、放電電圧が低減するので、陰極シースで加速された電子のエネルギーが低減し、電子の捕捉がより完全となる。
【0032】
また、前記ターゲットの内周と外周に壁を設けると、壁の高さに対応して磁気トンネルの厚さtを増すことができるので、印加電圧を上げて放電電圧Vが増加しても、上式のBを満たすことができ、膜や基板に損傷を与えることなく、さらに大電力を投入できる。
【0033】
また、好適には前記磁気回路が、前記ターゲットのスパッタされる表面の反対側に一部または全部が配置された主磁気回路と前記ターゲットの表面と同じ側に配置された主磁気回路とは独立の補助磁気回路からなり、前記主磁気回路の磁極が前記ターゲットの外周より外側にあり、前記補助磁気回路が前記ターゲット上に発生させる磁場の向きが、前記主磁気回路が前記ターゲット上に発生させる磁場の向きとほぼ一致するように構成される。
【0034】
この構成によると、磁気トンネルを形成する際、磁場のターゲットに平行な成分が小さくなる位置である磁極がターゲットの外にあるので、ターゲット上での平行成分を大きくすることができる。さらに、主磁気回路による磁場のターゲットに平行な成分が小さくなるところ、例えば主磁気回路の磁極と磁極の間などの磁場のターゲットに平行な成分を、補助磁気回路の磁場によって大きくすることができ、これによって膜や基板に損傷を与えることなく、さらに大電力を投入できる。
【0035】
また、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向するすべての位置が磁気トンネルに覆われ、しかも前記磁気トンネルがアースを通り前記基板を通らない磁力線群にて覆われ、前記磁力線群を形成する磁場のターゲットに平行な成分Bが、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向する位置において陰極シースで加速された電子を捕捉するのに十分な大きさを持つように前記磁気回路または前記ターゲットの形状を構成してもよい。
【0036】
この構成によると、ターゲット上の基板と対向するすべての位置で磁場による2次電子を捕捉し、アースに吸収せしめることができるので、陰極シースで加速された電子が膜や基板に流入し損傷を与えることがない。
【0037】
また、前記ターゲットに平行な成分Bを、前記ターゲット表面のうち前記基板と対向する位置において放電電圧Vと磁力線群の厚さtに対して、
【0038】
【数1】
【0039】
を満たすようにしているので、2次電子を確実に磁力線群内に閉じ込め、アースに吸収せしめることができる。
【0040】
また、磁気トンネルをターゲット上に少なくとも2箇所以上形成すると、基板全体に対して良好な膜厚分布を形成するのに必要なプラズマ密度分布を実現することができる。
【0041】
さらに、磁気トンネル内に主磁気回路とは逆の磁場を形成する第3の磁気回路を設けると、割れ易いターゲットを使用する場合にターゲットに流れる電流を低減でき、ターゲットの割れを防止できる。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のマグネトロンスパッタ方法及び装置の第1の実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
【0043】
図1において図示の部分では中心線20に対して回転対称である。1は真空チャンバで、アルミニウムなどの非磁性の物質で構成されており、電位的にはアースに落とされている。また、他の構成要素として排気機構やスパッタガス導入機構などを備えているが、図示は省略している。
【0044】
2は平板状のターゲットで、純度99.99%のAlにて構成され、内径20mm、外径160mm、厚さ6mmのリング状をした部分と、高さ5mm、幅3mmの内周壁31と、高さ5mm、幅7mmの外周壁32を設けた構成で、これらの壁31、32にも負の電位が印加されて電子を反射する壁として機能する。
【0045】
このターゲット2は内径20mm、外径194mm、厚さ8mmの銅のプレート33にボンディングされている。プレート33は冷却ジャケット34に固定されており、冷却ジャケット34に水を流すことでターゲット2を冷却するように構成されている。水の導入排出手段は図では省略している。
【0046】
また、水冷ジャケット34にはターゲット2にグロー放電用の電力を印加するための端子が設けられているが図では省略しており、グロー放電用の電力を印加するための電源も図では省略している。
【0047】
5は基板で、光ディスクの基板のように内径40mm、外径120mmの成膜範囲を持つリング状である。この基板5は中心軸がターゲット2の中心軸20と一致するとともに、表面がターゲット2と対向するように、ターゲット表面から距離20mmで設置されている。
【0048】
40は主磁気回路で、銅のパイプを90回巻いた電磁石用のコイル41と、S10C相当の鉄でできたヨーク42にて構成されており、その磁極43、44がターゲット2の表面を見込んだときターゲット2の外にあるように構成されている。また、ヨーク42はアースと導線で接続されてアース電位とされている。コイル41を形成する銅のパイプには冷却用の水を流しているが、水の導入排出手段は図では省略している。また、コイル41には110Aの直流電流を流している。ただし、その導入端子及び電源は図では省略している。
【0049】
ヨーク42は電力の印加される部分から絶縁リング21、22で絶縁されている。ヨーク42は真空チャンバー1内では、アースシールドの役目も担っており、電力の印加される部分との間で放電が起こらない距離(具体例では2mm)に保たれている。
【0050】
なお、本実施形態では主磁気回路40を電磁石で構成したが、永久磁石を用いても同様の効果が得られる。
【0051】
補助磁気回路50は、残留磁束密度13kガウス、保持力12kエルステッド、内径100mm、外径120mm、厚さ10mmの永久磁石51と、その内側の内径40mm、外径100mm、厚さ10mmのS10C相当のヨーク52とからなり、ターゲット2の表面より30mmの位置に配設されている。永久磁石51は径方向に磁化されており、内側の極性が主磁気回路40の内磁極の極性と同じになるようにしている。
【0052】
補助磁気回路60は、残留磁束密度13kガウス、保持力12kエルステッド、内径210mm、外径230mm、厚さ6mmの永久磁石61と、その内側の内径150mm、外径210mm、厚さ6mmのS10C相当のヨーク62とからなり、ターゲット表面より25mmの位置に配設されている。永久磁石61は径方向に磁化されており、内側の極性が主磁気回路40の内磁極の極性と同じになるようにしている。
【0053】
以上のように構成されたマグネトロンスパッタ装置の動作を説明する。ガス導入機構からスパッタガスArを真空チャンバ1内に導入すると同時に排気機構で排気する。このとき、真空チャンバ1内の圧力を2.5mTorrに保つ。この状態でグロー放電用の電力を投入すると、磁力線4にて閉じ込められたスパッタ用の高密度プラズマ7が発生する。このプラズマ7中のイオンが、陰極シース8で加速され、ターゲット2の表面にぶつかると、ターゲット2の原子がスパッタされ、基板5の向かいあった表面に付着し、薄膜が形成される。
【0054】
図2は、図1におけるターゲット2上の磁力線を、コンピュータシミュレーションによって描いたものである。磁力線は中心軸20を通る平面上で描いてある。ただし、磁力線は中心軸20に対して対称に形成されるので片側のみを図示している。図2よりターゲット2の内周壁31と外周壁32によって磁気トンネルの厚さが増していることがわかる。特に、ターゲット2の内周付近、外周付近では2mm程度であったものが約5mmとなっている。
【0055】
図3にターゲット2上3mmの位置の磁束密度の平行成分の実測値を示す。主磁気回路40の磁極43、44がターゲット2の表面を見込んだときターゲット2の外にあるように構成しているため、ターゲット2の端においても十分な大きさになっていることが分かる。また、ターゲット2の中心から40mm付近は磁極43、44から遠いため磁束密度の平行成分は弱くなるが、補助磁気回路50の磁場を重ね合わせることによって十分な大きさになっていることがわかる。
【0056】
本実施形態では、10kWの直流電力を印加したとき放電電圧は600voltであり、それ以上の電力を印加してもほぼ同じ放電電圧となる。図2から分かるように磁気トンネルの厚さはおよそ5mmであるので、下式
【0057】
【数1】
【0058】
から計算される磁場の平行成分は340Gaussとなり、図3よりターゲット2上のすべての位置で十分な大きさとなっていることが分かる。
【0059】
本実施形態での成膜速度は10kWの直流電力印加で600オングストローム/秒であり、1000オングストロームの薄膜を形成したときの基板温度上昇は25℃であった。従来方式での温度上昇は60℃であるので、膜や基板の損傷が大幅に低減できた。
【0060】
図4にターゲット2上3mmの位置の磁束密度の垂直成分の実測値を示す。垂直成分が0である点が3点存在し、2つの磁気トンネル91、92の存在を示している。図5にターゲット2上5mmの位置で測った電子密度分布、すなわちプラズマ密度分布を示す。上記の2つの磁気トンネル91、92に対応して2つのピークを持つことがわかる。この2つのピークの位置は基板5とターゲット2の距離に関して好適に調整されているので、図6に示すように3%以内の良好な膜厚分布を得ることができた。
【0061】
なお、焼結体ターゲットなどの割れ易いターゲットを使用するときは、磁気トンネルの磁束密度を大きくすると、ターゲット2に電流が流れ過ぎてターゲット2が割れるため、次の第2の実施形態の方が有効である。
【0062】
次に、本発明の第2の実施形態について図7を参照して説明する。なお、図1と同一の構成要素については同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0063】
図7において、71、72は磁気回路であって、これらの磁気回路71、72がターゲット2上に形成する磁場の向きが磁気回路40、50、60がターゲット上に形成する磁場の向きと逆になるように、主磁気回路40とは逆向きに磁化されている。
【0064】
動作は図1の実施形態と同様である。磁気回路71、72は、磁気トンネル91、92の磁束密度を小さくするため、磁気トンネル91、92内のプラズマ密度を低減し、ターゲット2に流れる電流を低減する。そのため、GeSbTeの焼結体など割れ易いターゲット2を使用できる。しかも、磁気トンネル91、92を覆う磁力線群4bは磁気回路71、72から離れていて殆ど弱められておらず、その磁場のターゲット2に平行な成分は、陰極シース8で加速された電子を捕捉するのに十分な大きさを持つ。磁力線群4bはアースである磁極44を通るので、捕捉された電子はアースに吸収され、膜や基板に流入して損傷を与えることはない。
【0065】
なお、通常のターゲット2に対しては、プラズマ密度が高く、放電電圧が低い第1の実施形態の方が有効であることは言うまでもない。
【0066】
【発明の効果】
本発明のマグネトロンスパッタ方法及び装置によれば、以上のようにターゲット表面のうち基板と対向するすべての位置で磁場による電子の捕捉が可能となり、また放電電圧を低減でき、陰極シースで加速された電子のエネルギーを低減し、捕捉をより完全にできる。さらに、上記特長を持ちながら、良好な膜厚分布を形成するのに必要なプラズマ密度分布を実現できる。かくして、膜や基板に損傷がなく、成膜速度が速く、膜厚分布が良好な成膜ができるという大きな効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマグネトロンスパッタ装置の第1の実施形態の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】同実施形態における磁力線の様子を示す説明図である。
【図3】同実施形態における磁場の平行成分の分布図である。
【図4】同実施形態における磁場の垂直成分の分布図である。
【図5】同実施形態におけるプラズマ密度分布図である。
【図6】同実施形態における膜厚分布図である。
【図7】本発明のマグネトロンスパッタ装置の第2の実施形態の概略構成を示す縦断面図である。
【図8】従来例のマグネトロンスパッタ装置の縦断面図である。
【符号の説明】
1 真空チャンバ
2 ターゲット
4 磁力線
4b 磁気トンネルを覆う磁力線群
7 プラズマ
8 陰極シース
31 内周壁
32 外周壁
40 主磁気回路
50 補助磁気回路
60 補助磁気回路
71 磁気回路
72 磁気回路
91 磁気トンネル
92 磁気トンネル
Claims (9)
- 前記磁気トンネルが前記ターゲット上に少なくとも2箇所以上あることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネトロンスパッタ方法。
- 前記ターゲットの内周と外周に壁を設けたことを特徴とする請求項4記載のマグネトロンスパッタ装置。
- 前記磁気回路が、前記ターゲットのスパッタされる表面の反対側に一部または全部が配置された主磁気回路と前記ターゲットの表面と同じ側に配置された主磁気回路とは独立の補助磁気回路からなり、前記主磁気回路の磁極が前記ターゲットの外周より外側にあり、前記補助磁気回路が前記ターゲット上に発生させる磁場の向きが、前記主磁気回路が前記ターゲット上に発生させる磁場の向きとほぼ一致するように構成したことを特徴とする請求項4又は5に記載のマグネトロンスパッタ装置。
- 前記磁気トンネルを前記ターゲット上に少なくとも2箇所以上形成したことを特徴とする請求項4〜7の何れかに記載のマグネトロンスパッタ装置。
- 前記磁気トンネル内に前記主磁気回路とは逆の磁場を形成する第3の磁気回路を設けたことを特徴とする請求項4〜8の何れかに記載のマグネトロンスパッタ装置。
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