JP3762991B2 - アミノ酸吸着材およびアミノ酸の回収方法 - Google Patents
アミノ酸吸着材およびアミノ酸の回収方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アミノ酸吸着材およびアミノ酸の回収方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アミノ酸を得る方法には、(1)アミノ酸混合物からの抽出分離法、(2)化学合成法、(3)発酵法などがある。
上記(1)の抽出分離法は、大豆グルテンのような安価なタンパク質を塩酸で加水分解して得られる複数のアミノ酸混合物に対して、酸性イオン交換樹脂、塩基性イオン交換樹脂を適宜組み合わせた分離操作を繰り返して行い、特定のアミノ酸を分別するか、またはアミノ酸の溶解度差を利用して分別結晶化させる方法である。この分離法は、手間がかかり、他のアミノ酸の混入しない純粋なものをつくるのは、かなり困難であるため、現在では行われていない。
【0003】
上記(2)の合成法によれば、ラセミ体が生成するために、光学分割法によりL体とD体を分割しなければならないが、分割しても、L体またはD体の純度に問題が残る。従って、この合成法では、グリシンやメチオニンなどの限られたアミノ酸のみが製造されているに過ぎないのが現状である。
【0004】
上記(3)の発酵法は、現在の主流であり、培地に微生物を培養して、菌体外(培養液中)にアミノ酸を蓄積させ、培養液から分離精製するものである。この分離精製は、イオン交換樹脂による分離や濃縮晶析などにより比較的容易に行える利点がある。発酵法では、最後の段階で、培養液からアミノ酸を取り出す際に、特定のアミノ酸を選択的に吸着することのできる材料を用いることが重要であり、そのような材料として種々のものが提案されている。発酵法による世界のアミノ酸生産額は、年間1,000億円以上である。生産量は、L−グルタミン酸ナトリウム(年間19万トン)、メチオニン(年間4万トン)、リジン(年間3万トン)の順である。リジンはメチオニンに次いで栄養用途での需要が多く、グルタミン酸に次いで大規模なスケールで企業化されている。リジンは、飼料用タンパク質資源としても重要性が高まり、必須アミノ酸として、最も将来の発展が期待されているアミノ酸である。しかし、多量に生産できる反面、発酵プロセスが複雑であるため、簡便な分離、単離技術の開発が望まれている。
【0005】
上記したように、アミノ酸混合物からの抽出分離法は現在では行われなくなっている。しかしながら、もし、特定のアミノ酸を抽出する方法で、経済的でかつ効果的な方法が見出されれば、莫大な天然タンパク質資源を有効に利用または再利用できる方法として、この抽出分離法も、発酵法と共に有意義な方法となることが期待される。すなわち、アミノ酸混合物から選択的に特定のアミノ酸を効率的に吸着できる材料が開発されれば、かかる材料は、特定のアミノ酸を分離し、回収するのに使用できるので、食品製造プロセス、化学プロセスや各種工業プロセスなどにおいて、アミノ酸吸着材としての利用が期待できる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、アミノ酸混合物から特定のアミノ酸を効率的かつ経済的な方法で分離し、回収する技術の開発が望まれている。アミノ酸混合物に化学反応を加えずに特定のアミノ酸を分離し、回収するには、各種アミノ酸との親和力に違いのある材料を捜し求め、特定のアミノ酸のみを吸着できる材料を開発することが、一つの方法である。そのため、クロマトグラフィーの原理で、各種のアミノ酸を含むアミノ酸混合水溶液(以下、アミノ酸含有水溶液とも称す。)から特定のアミノ酸を吸着できるようなアミノ酸吸着材の開発が行われているが、満足すべき材料はいまだ見出されていない。
【0007】
また、アミノ酸吸着材をカラムに詰め、これにアミノ酸含有水溶液を流すか、またはアミノ酸吸着材をアミノ酸含有水溶液と接触するかして、この材料に特定のアミノ酸を吸着せしめ、その後、吸着した特定のアミノ酸を適当な方法で回収できる方法が見出されれば、アミノ酸を製造したり、分離、回収する上での経済的かつ能率的な技術となり得るものと期待されるが、満足すべき回収方法はいまだ見出されていない。
本発明は、アミノ酸含有水溶液から特定のアミノ酸を吸着するための吸着材、およびその吸着材を用いる特定アミノ酸の回収方法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、天然タンパク質、または合成ポリアミノ酸をカラムに詰め、これにアミノ酸含有水溶液を流したときにこれらの材料に吸着する特定のアミノ酸に関し、多数の基礎研究を鋭意進めてきた。その結果、カイコが作った繭糸、絹糸などの絹タンパク質もしくは羊毛ケラチンなどの動物タンパク質からなる天然タンパク質、またはアミノ酸を重縮合させて得られるホモポリマーもしくはコポリマーからなる合成ポリアミノ酸が、特定のアミノ酸を効率的にかつ特異的に吸着することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
また、粉末状、ビーズ状、膜状、繊維状などの種々の形態の絹タンパク質もしくは動物ケラチンなどの天然タンパク質、または合成ポリアミノ酸からなる高分子材料をカラムに詰め、これにアミノ酸含有水溶液を流し、これらの材料とアミノ酸含有水溶液とを接触させると、特定のアミノ酸がこれらの材料に特異的かつ効率的に吸着することから、担体の表面をこれら材料で被覆すれば、材料自体の場合と同じような吸着効果が得られることも見出した。
【0010】
本発明のアミノ酸吸着材は、ポリ ( グリシン ) 、ポリ ( L−アラニン ) 、ポリ ( L−バリン ) およびポリ ( L−フェニルアラニン ) から選ばれた合成ポリアミノ酸、S−カルボキシメチルケラチン、または該S−カルボキシメチルケラチンもしくは該合成ポリアミノ酸で表面が被覆された担体微細粒子からなり、複数のアミノ酸を含有する水溶液中に存在するアスパラギン酸およびグルタミン酸を選択的に吸着することができる。
上記合成ポリアミノ酸は、ポリ ( グリシン ) とポリ ( L−アラニン ) とのコポリマーであることができる。
【0011】
上記担体微細粒子は、ポリ ( L−アラニン ) 被覆シリカゲル粒子であってもよい。
上記S−カルボキシメチルケラチンの形態は、粉末状、ビーズ状、膜状、または繊維状のいずれであってもよい。
上記S−カルボキシメチルケラチンは、このケラチンを水溶性樹脂で被覆し、固形化した後、乾燥または凍結固化し、この乾燥または凍結固化状態のケラチンを粉砕して調製した粉末であってもよい。
また、合成ポリアミノ酸の平均重合度が200であることが好ましい。
【0012】
本発明のアミノ酸の回収方法は、上記アミノ酸吸着材をカラムなどに充填し、これに対して複数のアミノ酸含有水溶液を流すことによって、または、この吸着材をアミノ酸含有水溶液中に浸漬することによって、吸着材とアミノ酸含有水溶液とを接触させ、吸着材にアスパラギン酸およびグルタミン酸を選択的に吸着せしめ、次いで、この吸着材を水洗した後、アルカリ性水溶液で処理し、吸着材に吸着したアミノ酸を脱離させ、回収することからなる。ここで、アルカリ性水溶液のアルカリ性とは、好ましくはpH≒7.5〜13.0、より好ましくはpH≒8.0〜11.0である。pHが7.5未満でありかつ13.0を超えると、吸着材を損傷させることなく酸性アミノ酸を脱離させるという所期の目的を達成することが困難である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における動物ケラチンである羊毛ケラチンおよび合成ポリアミノ酸について説明すると共に、絹タンパク質についても説明する。
【0014】
動物ケラチンには、例えば、羊毛に代表される動物繊維のケラチン繊維、ケラチン繊維製品、またはその繊維集合体が含まれ、また、蜘蛛の糸、コラーゲン、ゼラチンも含まれ得る。また、タンパク質には、例えば、家蚕、クワコ由来の絹タンパク質繊維、テンサン、サクサン、エリサン、シンジュサンなど野蚕由来の絹タンパク質繊維、絹繊維製品、またはその繊維集合体が含まれ、さらに、カイコが作った絹タンパク質繊維の代わりに、カイコを解剖し、体内から取り出した絹糸腺内の液体状の絹タンパク質を用いることもできる。年間を通じて随時、多量に試料が得られる点において、カイコが吐糸した繊維状試料を用いる方が、蚕体内の液体状絹タンパク質試料を用いるよりは効率的である。
また、本発明では、羊毛ケラチンの代わりに、アミノ酸を重縮合させた合成ポリアミノ酸も同様に用いることもできる。
さらに、有機物もしくは無機物からなる微細粒子の表面に上記のタンパク質または合成ポリアミノ酸を被覆した材料も、同様にアミノ酸吸着材として用いることができる。
【0015】
天然タンパク質は多様なアミノ酸が重縮合して構成されている。分子側鎖が、L−リジン、L−アルギニンなどのように正に荷電する基と、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸などのように負に荷電する基とを併せ持つため、両性電解質と呼ばれる。また、本発明で用いる合成ポリアミノ酸は、以下述べるように、グリシン、アラニン、バリン、フェニルアラニン、グルタミン酸エステル、アスパラギン酸エステル、ロイシン、もしくはイソロイシンなどのアミノ酸のN−カルボキシ無水物(NCA)、または分子側鎖をベンジル基などで封鎖したグルタミン酸エステルまたはアスパラギン酸エステルのアミノ酸NCAを有機溶媒中で重合させることで製造できる。これらの合成ポリアミノ酸は、ポリマーになっても分子側鎖は電荷を持たないため、非電解質である。なお、本発明で用いる合成ポリアミノ酸において、そのアミノ酸原料は、グリシン以外のアミノ酸は全てL−体であるので、以下、各アミノ酸についてL−体として表示しないこともある。
【0016】
動物ケラチンについて、羊毛ケラチン繊維の場合を例にとり説明する。羊毛ケラチンは、以下述べるように、ケラチン水溶液またはS−カルボキシメチルケラチン水溶液として利用することができる。
【0017】
まず、羊毛ケラチン繊維を溶解するために、分子間のシスチン結合をメルカプトエタノールまたはチオグリコール酸などの還元剤を用いて窒素中で切断し、ケラチン分子を還元して水可溶性とする。メルカプトエタノールを用いる場合には、尿素溶液中で還元処理を行うとよい。尿素の濃度は、一般に7.5〜8.8mol/L、好ましくは7.8〜8.0mol/Lである。また、チオグリコール酸を用いる場合には、1〜4%のNaClを添加するとよい。還元剤として、例えば、メルカプトエタノールを用いる場合、羊毛ケラチン繊維を上記濃度の尿素水溶液に浸漬し、脱気後、窒素雰囲気下、45℃以下、望ましくは20〜25℃の温度で、羊毛ケラチン繊維に対してメルカプトエタノールを加え(例えば、羊毛ケラチン繊維10gに対してメルカプトエタノール3.5mLを加え)、さらに約3時間攪拌する。このようにしてケラチン分子が還元され、SH基を有する羊毛ケラチンが得られる。その後、純水を用いて透析し、尿素および過剰のメルカプトエタノールを除去して、羊毛ケラチン水溶液を得る。このケラチン水溶液を、本発明における水溶性天然タンパク質として利用できる。例えば、この水溶液を風乾により濃縮して、濃縮中に再結合する羊毛ケラチンは、ろ過によって収集し、乾燥し、粉末状羊毛ケラチンとして利用することができ、また、風乾により濃縮された残りの水溶液は、絹タンパク質繊維の場合と同様に、凍結乾燥して粉末状羊毛ケラチンとして利用することができる。
【0018】
また、上記のようにして得られたSH基を有する羊毛ケラチンをさらにアルキル化剤、例えば(置換)アルキルハライドなどの既知アルキル化剤と反応させて、S−(置換)アルキルケラチンとすれば、この水溶液もまた本発明において利用することができる。このアルキル化は公知の方法に従って行えばよい。一例として、アルキル化剤としてヨード酢酸を用いた場合について説明する。上記の還元ケラチンに、窒素中、20〜25℃の温度で、攪拌しながら、羊毛繊維に対してヨード酢酸(例えば、羊毛繊維10gに対してヨード酢酸10〜17g)を加えて反応させる。1〜2時間後、pHをほぼ8.5に調整し、純水を用いて透析し、過剰のヨード酢酸を除いて、S−カルボキシメチルケラチン水溶液を得る。このS−カルボキシメチルケラチン水溶液は、本発明における水溶性天然タンパク質として利用できる。例えば、S−カルボキシメチルケラチン水溶液を、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどの有機高分子材料またはガラスなどの無機材料のような支持体の表面上に広げ、水分を蒸発させ、乾燥固化し、さらに所望によりエポキシ化合物を作用させて水不溶性にし、ケラチン膜を調製することができる。この支持体としては、乾燥後の膜が容易に剥がれるものであれば、特に制限はない。また、このS−カルボキシメチルケラチン水溶液は、上記と同様にして粉末状にして用いることもできる。
【0019】
次に、絹タンパク質について、絹フィブロイン繊維を例にとり説明する。絹フィブロイン繊維は、この繊維をCMCなどのような水溶性樹脂で固形化した後、所望により凍結乾燥処理し、この固形状態の繊維を粉砕し、またはこの粉砕工程を繰り返して、粉末または微細化繊維の形態にして用いることができる。この水溶性樹脂は、得られた粉末を水で洗浄することにより除去できるものであれば特に制限はされない。また、絹フィブロイン繊維の水溶液から調製される粉末状試料として用いることもできる。すなわち、絹フィブロイン繊維を臭化リチウムや塩化カルシウムなどの中性塩の濃厚水溶液に浸漬して加熱溶解し、得られた絹フィブロイン水溶液をセルロース製透析膜に入れ、純水による透析で精製の後、風乾により濃縮して濃厚絹フィブロイン水溶液を得る。次いで、この絹フィブロイン水溶液に酸を加えて、pH=3〜3.5にしてゲル化させた後、約−20℃で凍結乾燥させてから、乳鉢で適当にすりつぶして粉末状の絹フィブロインを得る。この粉末状絹フィブロインは水不溶性であり、アミノ酸吸着材としての利用が可能である。
【0020】
絹タンパク質である絹フィブロイン繊維から得られる粉末状試料は、上記したように、絹フィブロイン繊維を中性塩水溶液で溶解し、透析膜で絹フィブロイン以外の低分子を除去したものを凍結乾燥させて調製できるが、この粉末状絹フィブロインは水溶性であるので、また、上記したようにして得られた粉末状羊毛ケラチンの場合も水溶性であるので、アミノ酸吸着材として用いる際には、水不溶性にする必要がある。
【0021】
羊毛ケラチン、絹フィブロイン、または絹セリシンのような絹タンパク質を水不溶性にするには、化学的に分子間架橋させることにより水に対する溶解度をコントロールすればよい。粉末状または膜状の絹フィブロインを水に不溶性にするには、例えば、30〜70重量%エタノールまたはメタノールなどのアルコールを用いて浸漬処理する。この処理で試料分子間の凝集構造が密になり、すなわち凝集密度が向上し、結晶性が増加して水不溶性になる。また、羊毛ケラチンまたは絹タンパク質を水不溶性にするには、エポキシ化合物、アルデヒド化合物などの分子間架橋剤を用いて処理すればよい。エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの二官能性エポキシ化合物、その他三官能性および多官能性エポキシ化合物などを用いることができ、アルデヒド化合物としては、通常、グルタルアルデヒドまたはアセトアルデヒドを用いることができる。
【0022】
また、上記粉末状羊毛ケラチン、粉末状絹フィブロイン以外に、アミノ酸吸着材として用いることができるビーズ状、膜状、繊維状の天然タンパク質、および以下詳細に述べる合成ポリアミノ酸からなる材料も、アミノ酸含有水溶液と接触させてアミノ酸を吸着させるためには、水不溶性でなければならない。この場合も、粉末状絹フィブロインの場合と同様に、エポキシ化合物やアルデヒド化合物を作用させることにより、簡単に水不溶性にすることができる。
【0023】
本発明のアミノ酸吸着材として利用できる合成ポリアミノ酸は、アミノ酸が重縮合された構造の高分子化合物であり、末端にアミノ基および主鎖にイミノ基を持っている。この合成ポリアミノ酸には、単一アミノ酸残基からなるホモポリマー、および複数のアミノ酸残基からなりかつこのアミノ酸残基の配列がランダムであるコポリマーが含まれる。ポリアミノ酸の合成は、該当するアミノ酸NCAを重合することで製造することもできるし、その他の方法でアミノ酸を脱水縮合させて製造することもできる。ポリアミノ酸の合成で比較的簡単な方法として、本発明では以下アミノ酸NCA法を中心に記述する。例えば、グリシン、L−アラニン、L−バリン、L−フェニルアラニンなどのアミノ酸からそれぞれのアミノ酸のNCAを合成し、次いで、有機溶剤中で重合したものがホモポリマー(例えば、ポリグリシン、ポリアラニン、ポリバリンなど)である。コポリマーは2種類以上のアミノ酸NCAを混合して重合させて得られる。
【0024】
合成ポリアミノ酸は、N−カルボキシ無水物法(NCA法)(Leuchs, Chem. Ber. 38,852 (1906))、アミノ酸どうしの脱水縮合、Merrifieldの固相法などにより製造できる。本発明では、アミノ酸NCA法によりポリアミノ酸を合成した。先ず、アミノ酸とホスゲン誘導体から、アミノ酸NCAを合成する。アミノ酸NCA結晶を精製してから、これをアセトニトリルやジオキサンなどの溶媒に溶かして、アミンあるいはナトリウムメトキシドなどの塩基を重合開始剤として加える。水が混入しないような環境下で反応を進めれば、平均重合度が数百の合成ポリアミノ酸が容易に得られる。アミノ酸NCAの結晶をヘキサンやデカンのような非溶媒に浸漬して、微量の水や塩基を加えて、固相で重合させて得ることもできる(固相重合)。NCA法では、他の合成法と比べると、高分子量の合成ポリアミノ酸を短時間に大量に作ることができる。
【0025】
本発明で用いられるアミノ酸の中で、例えばL−グルタミン酸やL−アスパラギン酸などのように側鎖に水酸基をもつものは、そのNCAを作る場合、水酸基をベンジル基、メチル基、エチル基などで封鎖する必要がある。これにより、ベンジル化を行えば、L−グルタミン酸は、γ−ベンジルエステルとなり、そのNCAから作られた合成ポリアミノ酸は、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)(略称:PBLG)となる。上記した水酸基のように、NCAとする際に反応の妨げとなる官能基をもつアミノ酸は、それらを保護基で封鎖してから、ポリアミノ酸とする。アミノ酸保護基としては、従来公知のもの、例えば、カルボベンゾキシ基、フタリル基、ホルミル基、ベンジル基、トリアルキルシリル基、アセトアセチル基、ベンゼンスルホニル基などを用いることができる。これらの中で最も好ましいのは、取り扱いの点から、また、必要に応じてアミノ酸保護基を除去するのが容易であることから、ベンジル基である。
【0026】
アミノ酸からアミノ酸NCAを合成し、それを基に合成ポリアミノ酸を製造する例を説明する。まず、アミノ酸NCAを合成するには、アミノ酸を乳鉢で微粉末化し、アミノ酸を分散させる液体分散媒中に入れる。分散媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トルエン、ジオキサンなどを利用できるが、好ましいものは、生成するアミノ酸NCAの溶解力に優れ、減圧蒸留で留去しやすいTHFである。アミノ酸を分散した分散液に、トリホスゲン、トリクロロメチルクロロホルメート、ホスゲンガス、塩化チオニルなどを添加してアミノ酸NCAを合成する。この中で、取り扱いの容易さ、使用上の便宜さから、トリホスゲン、トリクロロメチルクロロホルメートを用いることが好ましい。生成したアミノ酸NCAは、例えばTHF溶液として得られる。この場合、減圧蒸留によってTHFを留去して、固体のアミノ酸NCAを得、酢酸エチルとヘキサンとの混合物から再結晶して精製する。
【0027】
次に、得られたアミノ酸NCAを重合させる。そのための溶媒としては、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエン、ジオキサンなどを利用でき、また、重合開始剤としては、ブチルアミン、ヘキシルアミン、sec−またはtert−ブチルアミン、トリエチルアミン、ナトリウムメトキシドなどの塩基を利用できる。重合開始剤としては、水でも可能である。重合度を正確に制御でき、取り扱いが容易なものは、ブチルアミンである。アミノ酸NCA溶液に重合開始剤を加えて、温度20〜50℃で数時間〜数週間放置することによって、ポリアミノ酸が生成する。反応液を約10倍体積のヘキサン中に投入し、撹拌すると、生成ポリアミノ酸が沈殿する。沈殿物をろ過し、乾燥することにより粉末状のポリアミノ酸が得られる。
【0028】
このようにして得られる合成ポリアミノ酸吸着材としての特性は、アミノ酸の種類と合成ポリアミノ酸の重合度で決まる。重合度は、重合開始剤とアミノ酸NCAモノマーとのモル比、すなわち、モル比=[アミノ酸NCAのモル数]/[重合開始剤のモル数]に密接に関係し、重合が理想的に進むとすれば、このモル比が平均重合度に対応する。本発明では、合成ポリアミノ酸の分子量を一定以上に上げる必要があるため、いずれの合成ポリアミノ酸を合成する場合もモル比をすべて200に設定したが、この値に限定する必要はない。但し、100以上が好ましい。
【0029】
また、合成アミノ酸コポリマーは次のようにして合成できる。グリシン、アラニン、バリン、フェニルアラニンなどのアミノ酸から選ばれる2種類以上のアミノ酸NCAをアセトニトリルなどの有機溶媒中に溶解する。例えばグリシンNCAとアラニンNCAとを用いる場合には、グリシンNCAとアラニンNCAとを1:2のモル比でアセトニトリルに溶解する。次に、重合開始剤のブチルアミンを、[グリシンNCAのモル数とアラニンNCAのモル数との合計]/200のモル数で添加して、重合を行えば、理論上、平均重合度=200のコポリペプチドが得られる。上記のアミノ酸NCAから得られるコポリペプチドは、いずれも水不溶性のコポリマーとしてアセトニトリルなどの有機溶媒中に沈殿して生成する。
【0030】
アミノ酸吸着材としては、上記したような各種形態の天然タンパク質や合成ポリアミノ酸を利用できる他、シリカゲルなどのシリカ系担体その他の担体からなる微細粒子をこれらの天然タンパク質や合成ポリアミノ酸で被覆したものも同様に利用できる。その他の担体としては、例えば、珪藻土、軽石、活性炭、活性アルミナなどの無機性担体微粒子でも、セルロースなどの天然素材からなる担体微粒子でも、またはポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどの合成有機高分子の微粒子であっても同様に利用できる。担体の形状としては、真球状の粒子形状で、より微細のものが工業資材としては利用価値が高い。例えば、市販のシリカゲルなどの粒状カラム充填材を用いて、その表面に天然タンパク質または合成ポリアミノ酸からなる高分子材料を被覆させたものを吸着材として利用することができる。すなわち、粒状カラム充填材を該高分子材料の水溶液中に浸漬し、所定時間静置した後、カラム充填材を取り出して20〜25℃の室温で乾燥後、メタノールなどのアルコールに浸漬して、カラム充填材の表面が高分子材料で被覆されてなる吸着材を得ることができる。高分子材料水溶液の濃度を適宜変えることによって、またはこの浸漬作業を繰り返すことによって、所望の厚さを有する高分子膜で表面が被覆された吸着材を調製できる。
【0031】
このようにして天然タンパク質で被覆されたカラム充填材の場合、表面に被覆された材料(例えば、羊毛ケラチン、絹タンパク質)は水に溶解する可能性がある。このような羊毛ケラチン、絹タンパク質を水不溶性にするには、上記したようなアルコールを用いる浸漬処理、エポキシ化合物やアルデヒド化合物を用いる処理により容易に行われ得る。
【0032】
合成ポリアミノ酸で被覆されたカラム充填材(シリカゲル粒子)を製造する方法を次に述べる。例えば、ジクロロ酢酸またはトリフロオロ酢酸とクロロホルムの混合物(クロロホルムの含有率:30〜80%体積比)に合成ポリアミノ酸を0.5〜2.0重量%溶解して得た水溶液にシリカゲル粒子を投入し、粒子表面に合成ポリアミノ酸を付着せしめ、このシリカゲル粒子をガラスフィルターで濾取した後、メタノールまたはエタノール中に投入して、撹拌する。ろ過後、減圧乾燥することで合成ポリアミノ酸で表面が被覆されたシリカゲル粒子を調製できる。あるいはまた、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)またはポリ(β−ベンジル−L−グルタメート)などの合成ポリアミノ酸を適当な有機溶剤(例えば、クロロホルムやジメチルホルムアミドなど)に溶解し、この溶液中にシリカゲル粒子などの担体を投入し、約10分間静かに攪拌する。次に、ガラスフィルターでろ過して取り出し、60〜80℃の乾燥器で1時間程度乾燥して得られる。合成ポリアミノ酸は、アミノ酸残基の種類によっても異なるが、トリフルオロ酢酸やジクロロ酢酸のような強酸にしか溶けない場合がある。このような場合には、これら強酸に合成ポリアミノ酸を溶解した後、溶解ポリマーが析出しない程度に、クロロホルムやジメチルホルムアミドなどを加えて希釈し、これを合成ポリアミノ酸溶液として用いて被覆工程を行えばよい。このようにして得られた粒子表面の合成ポリアミノ酸が水溶性である場合、上記した水不溶化処理により水不溶性にする。
【0033】
上記したように、羊毛その他の動物タンパク質繊維またはカイコから得られるタンパク質繊維を一旦溶解して調製した水溶液から得られる粉末状試料、これらのタンパク質繊維を切断して得られる微細繊維、または粉末状の合成ポリアミノ酸などをアミノ酸吸着材として用いることで、アミノ酸含有水溶液から特定のアミノ酸を吸着できる。天然タンパク質または合成ポリアミノ酸からなる材料をカラムに詰めて、アミノ酸含有水溶液をカラム内に流した場合、絹タンパク質繊維または粉末から得られる吸着材では主にリジン、アルギニン、ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸が選択的に吸着され、その他の吸着材では、主にアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸が選択的に吸着される。
【0034】
アミノ酸含有水溶液とは、複数のアミノ酸(例えば、Asn、Asp、Arg、Ala、Ile、Gly、Gln、Glu、Cys、Ser、Tyr、Trp、Thr、Val、His、Phe、Pro、Met、Lys、Leuなど)を含む水溶液を意味する。絹タンパク質、羊毛、コラーゲン、毛髪、その他の天然タンパク質を、酸あるいはアルカリ水溶液で加水分解して得られる水溶液にはタンパク質を構成する複数のアミノ酸が含まれるので、これらをアミノ酸含有水溶液として利用することもできる。すなわち、上記複数のアミノ酸を含んでいる、またはタンパク質を加水分解して得られるアミノ酸含有水溶液を上記吸着材と接触させると、吸着材の種類により、酸性アミノ酸または塩基性アミノ酸を選択的に吸着し、回収することができる。なお、アミノ酸含有水溶液は、所望により酸またはアルカリを加えて、所定のpH範囲にして用いることが好ましい。
【0035】
特定のアミノ酸を分離し、回収するには、例えば、上記吸着材を詰めたカラムに、アミノ酸含有水溶液(中性または酸性、例えばpH=約5.5)を所定の時間流し、塩基性アミノ酸または酸性アミノ酸を吸着材に吸着させる。次に、純水を流して、吸着材に付着しているアミノ酸を洗い流す。吸着したアミノ酸の脱離は、塩基性アミノ酸の場合は、少量の酸性水溶液(例えば、所定の濃度の塩酸や酢酸や有機酸などの水溶液)ですすぎ、吸着材に吸着されていた特定のアミノ酸を吸着材から離脱させることにより行われる。また、酸性アミノ酸の場合は、アルカリ性水溶液(例えば、所定の濃度の炭酸ナトリウム、アンモニウムなどの水溶液)ですすぎ、吸着されていたアミノ酸を離脱させることにより行われる。その結果、特定のアミノ酸を多く含む水溶液が得られる。上記吸着材を詰めるカラムは長いほど、吸着は効果的になる。また、酸またはアルカリ水溶液ですすぐことで得られた、カラムに吸着した特定のアミノ酸を多く含む水溶液を、再度、カラムを通過させることによって、他のアミノ酸との分離がよくなり、最終的に得られる特定のアミノ酸の純度を高めることができる。この操作によるアミノ酸の分離状態を確認するために、カラムを通過したアミノ酸水溶液について、アミノ酸分析仕様の液体クロマトグラフィーでチェックする。
【0036】
【実施例】
以下、実施例および参考例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)ポリアミノ酸の合成
(イ)実施例で用いたアミノ酸は以下の通りである:L−バリン(以下、Valと略記する。和光純薬(株)製)、L−グリシン(以下、Glyと略記する。米山薬品工業(株)製)、L−アラニン(以下、Alaと略記する。米山薬品工業(株)製)、L−ロイシン(以下、Leuと略記する。東京化成(株)製)、L−フェニルアラニン(以下、Pheと略記する。東京化成(株)製)、L−グルタミン酸エステル(以下、Gluと略記する。味の素(株)製)、L−アスパラギン酸(以下、Aspと略記する。味の素(株)製)。
【0037】
また、実施例で用いた有機溶媒は以下の通りである:ヘキサン(和光純薬(株))製、酢酸エチル(和光純薬(株)製、アセトニトリル(和光純薬(株)製)、テトラヒドロフラン(THF)(和光純薬(株)製)、ブチルアミン(和光純薬(株)製)。
【0038】
(ロ)アミノ酸NCAの合成:
用いたアミノ酸はすべてL体である。0.1molのアミノ酸(Gly(7.51g)、 Ala(8.50g)、Val(11.7g)、Phe(16.5g))のいずれか、またはその混合物(総量が0.1mol)を乳鉢で細かく粉砕し、500mLのナス型フラスコに入れ、これに十分に脱水した200mLのTHFを加えた。この反応容器を40〜50℃に加熱しながら、0.051molのトリクロロメチルクロロホルメート(6.00mL)(保土ケ谷化学製)を加えて攪拌し、懸濁させた。トリクロロメチルクロロホルメートの代わりに、トリホスゲン0.037mol(10.9g)を加えても同様にアミノ酸NCAが合成できる。1〜4時間後に、白濁したアミノ酸の懸濁液がほぼ透明になるので、この時点を反応終了とした。減圧蒸留によりTHFを留去し、反応液が20〜30mLになるまで濃縮した。所望により、ほぼ乾固させるまで濃縮を進めることが望ましい。濃縮液に約100mLのヘキサンを加えて、フラスコを−20℃の冷凍庫で4〜5時間冷却すると、アミノ酸NCAの結晶がフラスコに沈殿する。ろ過して取り出し、酢酸エチルを溶媒、ヘキサンを沈殿剤とした再結晶操作を3〜4回繰り返し、精製アミノ酸NCA結晶を得た。
【0039】
なお、Glu、Aspは、アミノ酸側鎖の水酸基を封鎖するために、ベンジルアルコールと塩酸の混合物と反応させて、それぞれ、γ−ベンジル−L−グルタメート(BLG)またはβ−ベンジル−L−アスパルテート(BLA)としてからNCAとした。また、チロシンやセリンの場合は、側鎖の水酸基そのものをベンジル化する。
【0040】
(ハ)アミノ酸NCAの重合:
0.1molのアミノ酸NCAを、アセトニトリルに溶解し、開始剤として0.0005molのブチルアミンを加え、50℃で1週間放置して反応後、反応混合物をろ過し、酢酸エチルで洗浄、ろ過、乾燥させて、各種合成ポリアミノ酸を得た。モノマーと開始剤との仕込み量から、平均重合度は200と試算される。このようにしてVal、Gly、Ala、またはPheから合成したアミノ酸NCAを重合させたところ、それぞれのアミノ酸残基からなる粉末状のポリアミノ酸が得られた。このようにして合成されたポリ(グリシン)、ポリ(L-アラニン)などについて、臭化カリウム錠剤法による赤外吸収スペクトル(IR)測定を行った(測定機器:島津フーリエ変換赤外分光光度計8500)。得られた吸収スペクトルから、ポリ(グリシン)はβ構造に、また、ポリ(L−アラニン)はαへリックスとβ構造の混在に基づく分子形態を取ることがわった。
【0041】
(2)微細化絹フィブロイン繊維の製造
繭糸を約80℃の0.6%の炭酸ナトリウム水溶液で40分煮沸処理して、繭糸表面を覆う絹セリシンを除去した後、水洗して、室温で乾燥し、絹フィブロイン繊維を調製した。このようにして調製した絹フィブロイン繊維3.0gを10重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCと略記、和光純薬(株)製)の水溶液25mLに浸漬し、よく混合してから、乾燥して固めた。このようにして得られた樹脂状固形物を液体窒素中に10分間入れ、凍結した。凍結状態の試料を直ちに機械的な粉砕装置のミル(山本電気(株)Y308B、回転数:21,000回/分)で微粉末にした。得られた粉末を沸騰水で洗浄して、CMCを除去した。次いで、ろ過し、乾燥して、微細化絹フィブロイン繊維を得た。走査型電子顕微鏡観察により、微細繊維の平均繊維長160μm、繊維幅サイズ13.5μmであることが明らかとなった。
なお、ハサミで0.3mm程度に切断した絹フィブロイン繊維もアミノ酸吸着材として用いることが可能である。
【0042】
(3)平均粒径0.5〜1.0mmの粒状絹フィブロインの製造
絹フィブロイン繊維(10g)を7.5mol/Lの臭化リチウム水溶液(100mL)に溶解して得られる水溶液を、セルロース製透析膜で透析した後、得られた水溶液を送風乾燥して、約1/5に濃縮した。これを−20℃で凍結乾燥して、粉末状固体を得た。これを乳鉢で潰して、目の一辺がそれぞれ1.0mmおよび0.5mmの二つのステンレス製の化学フルイを用いて、粒径0.5〜1.0mmの絹フィブロイン粒子を得た。なお、臭化リチウムの代わりに塩化カルシウムを用いても同様な粒子が得られた。
【0043】
(4)吸着材をカラムに詰める方法
所定量のアミノ酸吸着材を、乾燥状態で、ステンレスカラム(ジーエルサイエン製、601−11643カラム)(内径4.0mm×長さ150mm)に詰めた後、液体クロマト用のポンプを利用して、水/メタノール(50/50体積%)を50kg/cm2の圧力で流し、吸着材を補充しながら、カラムに詰めた。
【0044】
(5)吸着材に対するアミノ酸の吸着性能評価
(イ) 吸着材に対するアミノ酸の吸着
吸着材へのアミノ酸吸着性能を次のようにして評価した。アミノ酸吸着材をステンレス製カラム(内径4.0mm×長さ150mm)に充填した後、そのカラムに、9種類のアミノ酸(Ala、Val、Leu、Phe、Glu、Asp、Lys、Ser、Gly )の混合水溶液(原液)(pH=5.5、各アミノ酸濃度:1.6×10−5mol/L、または8.0×10−6mol/L)を送液ポンプで送った(流速0.2mL/分)。カラム出口からの流出水溶液を一定時間ごとに、フラクションコレクター(Advantec、SF-2120)で採取した。採取した各フラクションに含まれるアミノ酸濃度をアミノ酸分析用液体クロマトグラフ装置により求めた。
【0045】
また、アミノ酸吸着材を三角フラスコに入れて、これにアミノ酸含有水溶液を加え、約10分間撹拌してから、1時間放置後、アミノ酸含有水溶液の一部を採取して、アミノ酸分析を行い、吸着材に吸着したアミノ酸の量を求めた。
また、13種類のアミノ酸(Asp、Gln、Asn、Glu、Val、Met、Ile、Tyr、Phe、His、Lys、Trp、Arg)を含む水溶液(pH=5.5、各アミノ酸濃度:8.0×10−6mol/L)を用いた場合についても、上記と同様にしてアミノ酸の量を求めた。
【0046】
(ロ)吸着材に対するアミノ酸の吸着モル%
アミノ酸吸着材を詰めたカラムに、アミノ酸濃度、Cmol/mLのアミノ酸含有水溶液を50mL流すと、50Cmolが通過したことになる。カラムで出口からの流出水溶液を一定時間ごとに採取し、含まれるアミノ酸の濃度をアミノ酸分析装置で定量した。この濃度と、それまでに流した水溶液の体積との積からアミノ酸の流出量(モル数)を求めた。これは、フラクションごとに求めた量の総和となるので、近似的な量(積分値)となる。原液に含まれたアミノ酸のモル数から流出アミノ酸のモル数を引いた値が、吸着材を詰めたカラムに吸着されたアミノ酸のモル数となる。原液に含まれるアミノ酸のモル数に対する吸着されたアミノ酸のモル数の百分率を吸着モル%とした。三角フラスコを用いたバッチ式吸着の場合も、同様に求めた。
【0047】
(ハ)アミノ酸分析装置
送液ポンプ(島津製作所製LC-10AS)2台、カラムオーブン(島津製作所製CTO-10A)、アミノ酸分析用プレカラム(島津製作所製Shim-pack ISC-30(内径4.0mm×長さ50mm)、アミノ酸分析用カラム(島津製作所製Shim-pack Amino-Na(内径6.0mm×長さ100mm)、蛍光検出器(島津製作所製RF-10AXL)からなるシステムにより、標準的なアミノ酸分析用のグラジエント法による分析を行った。溶離液として通常のアミノ酸分析用に用いられる緩衝液A(pH=3.2:クエン酸ナトリウム、過塩素酸)と緩衝液B(pH=10.0:クエン酸ナトリウム、ホウ酸、水酸化ナトリウム)、洗浄液として0.2M−NaOH水溶液、反応液として次のA液とB液とからなる反応液を使用した。A液=次亜塩素酸ナトリウム水溶液(市販品10%有効塩素溶液を0.3mL/Lの割合)と、B液=OPA試薬(オルトフェニルフェノール(OPA)0.08%:OPA400mg、エタノール7ml、2−メルカプトエタノール1mL、10%Brij-35溶液2mL)とを、ホウ酸−炭酸緩衝液で500mlにした。Brij-35は、ポリオキシエチレンラウリルエーテル10gに水100mLを加えてつくった。ホウ酸−炭酸緩衝液は、炭酸ナトリウム122.1g、ホウ酸40.7g、硫酸カリウム56.4gに、水を加えて3Lとした。
【0048】
(参考例1)微細化絹フィブロイン繊維に対するアミノ酸の吸着(カラム充填方式)
上記(2)記載の製造方法に従って得た微細化絹フィブロイン繊維0.123gを、ステンレス製のカラム(内径4mm×長さ150mm)に詰め、これにアミノ酸含有水溶液を0.2mL/分の流速で60.5mL流した。カラムから流れ出た水溶液(フラクション)を一定の時間ごとにとり、その中に含まれる各アミノ酸の濃度を液体クロマトグラフィーにより定量した。得られたアミノ酸濃度(mol/L)とその時点までのアミノ酸含有水溶液の流量(mL)との関係を図1(Ser、Leu、Phe、Glu、Asp、Lysの場合)と図2(Gly、Ala、Valの場合)に示す。また、表1に、アミノ酸含有水溶液中の各アミノ酸濃度(原液濃度)、カラムからの流出量が20.5mLの時の流出水溶液中に含まれる各種アミノ酸の濃度、および流出量20.5mlまでに吸着材に吸着した各アミノ酸モル数の原液20.5ml中に含まれるべきアミノ酸のモル数に対する百分率(吸着モル%)を示す。
【0049】
(表1)
【0050】
図1、2から、流量40mL付近までは、Lysが優先的に吸着材に吸着する傾向が見られる。その後は、吸着材のLys吸着力が小さくなり、一部が吸着しないで溶出する。他のアミノ酸では、Asp、Gluの一部が吸着する傾向が見られる。表1の20.5mL流出時でのアミノ酸の吸着量は、Lysが95%で圧倒的に多い。Asp、 Gluはそれぞれ27%、15%吸着した。その他のアミノ酸(Ser、Phe、Leu、Gly、Ala、Val)は、吸着モル%が0〜5%の範囲にある。このあと、蒸留水を流して洗浄し、洗浄液の分析を行ったところ、Lys以外のアミノ酸は全て洗浄液中に流出することがわかった。すなわち、微細化絹フィブロイン繊維は、Lys(塩基性アミノ酸)を特異的に吸着することがわかった。蒸留水による洗浄後、希塩酸水溶液(濃度0.001mol/L)を約20mL流すことにより、吸着したLysを容易に溶離させて、回収することができた。
【0051】
(参考例2)微細化絹フィブロイン繊維に対するアミノ酸の吸着(バッチ方式)
微細化絹フィブロイン繊維0.25gをAsp、Ser、Glu、Gly、Ala、Val、Leu、Phe、Lysの混合水溶液(いずれも濃度は8.0×10− 6mol/L、温度25℃)に入れ、10分間撹拌した。30分静置した後、接触しているアミノ酸含有水溶液の一部を採取して、含有アミノ酸の種類と濃度を測定した。図3に、微細化絹フィブロイン繊維に接触する前の各アミノ酸の濃度(すなわち、アミノ酸含有水溶液の原液)と、接触した後の濃度を示す。Lysのみが、特異的に吸着することがわかった。この場合、リジンの69.7%が絹フィブロイン繊維に吸着した(以下、これを吸着絹フィブロイン繊維と略記する)。次に、吸着絹フィブロイン繊維を蒸留水50mLで洗浄して、付着しているアミノ酸を洗い流した後、さらに、希塩酸水溶液(濃度0.001mol/L)30mlで洗浄して、吸着アミノ酸を脱離せしめた。この洗浄希塩酸水溶液(回収液)中のアミノ酸分析を行い、含有アミノ酸の濃度を求めた。この濃度を図4に示す。回収液にはほぼLysのみが含まれていた。他のアミノ酸も微量程度含まれるが、これは、上記吸着絹フィブロイン繊維に対する蒸留水による洗浄が不充分であったためであり、十分に洗浄したところ、Lysのみを回収できた。このように、微細化絹フィブロイン繊維を吸着材として用いることでLysを分離し、回収することが可能となった。
【0052】
(参考例3)絹フィブロイン被覆シリカゲル粒子に対するアミノ酸の吸着
シリカゲル粒子(直径5μm:トーソー(株)製TSKゲル、Silica-150)の表面に、次のようにして、絹フィブロイン膜を被覆したシリカゲル粒子に対してアミノ酸を吸着せしめた。
家蚕由来の絹フィブロイン繊維5gを55℃の7.5mol/Lの臭化リチウム水溶液50mlに入れ、20分間処理して繊維を溶解せしめた。この水溶液をセルロース製透析膜に入れ、10℃で24時間、純水に置換し、濃度1.3%の絹フィブロイン水溶液を調製した。
【0053】
調製した1.3%絹フィブロイン水溶液30mLに、1gのシリカゲル粒子を入れ、室温で30分間攪拌した後、デカンテーション法で絹フィブロイン水溶液を除去した。次に、絹フィブロイン膜で被覆されたシリカゲル粒子をスパーテルで取り出し、ポリエチレン膜の上にできるだけ平坦となるように広げた。5−6時間の風乾の後、シリカゲル粒子を50重量%のメタノール水溶液中に室温で30分間浸漬処理し、シリカゲル粒子表面の被覆絹フィブロイン膜を水不溶性にして、絹フィブロイン被覆シリカゲル粒子を調製した。
【0054】
このようにして調製した絹フィブロイン被覆シリカゲル粒子の表面に絹フィブロインが実際に付着しているかどうかを、赤外吸収スペクトル測定により確認した。赤外吸収スペクトルの1650cm−1、1525cm−1には、絹フィブロインに基づく吸収(それぞれ、アミド(I)、アミド(II)吸収帯)が現れており、シリカゲル粒子表面には絹フィブロインが薄膜状に存在していることが明らかとなった。走査型電子顕微鏡の観察によっても、シリカゲル粒子表面に絹フィブロインに基づく付着物が存在することが確かめられた。絹フィブロイン被覆シリカゲル粒子1.84gをカラム(内径4mm×長さ150mm)に詰め、参考例1と同様の方法で、アミノ酸含有水溶液(濃度=8.00×10−6mol/L)を0.2mL/分の流速で流した。アミノ酸含有水溶液を60.5mlになるまで流して、途中の各フラクション中に含まれるアミノ酸を分析した結果、Asp、Gluのほぼ全量が吸着することがわかった。表2、アミノ酸含有水溶液を20.5ml流した時点での、絹フィブロイン被覆シリカゲル粒子に吸着した各アミノ酸量の原液中のアミノ酸量に対する百分率(吸着モル%)をに示す。
【0055】
(表2)
【0056】
表2から明らかなように、Asp、Gluは100%吸着することがわかった。Lysは24%が吸着した。その他のアミノ酸は、ほとんど吸着しなかった。
次いで、このようにしてアミノ酸が吸着された絹フィブロイン被覆シリカゲル粒子を蒸留水100mlで数回すすいだ。Asp、Gluは、0.1mol/Lの炭酸ナトリウム(または他のアルカリでもよい)水溶液を約5ml流すことにより脱離し、回収することができた。
【0057】
(参考例4)絹フィブロイン粉末に対するアミノ酸の吸着(バッチ方式)
絹フィブロイン微粉末を次の方法で製造した。家蚕由来の絹フィブロイン繊維7.8gを4mol/Lの塩化カルシウム水溶液(塩化カルシウム56g、水72g、エタノール46gの割合で調製した)130mLに入れ、約70℃に加熱して溶解した。この水溶液中の不溶性部分を遠心分離で除去して得られた水溶液をセルロース製透析膜に入れ、約10℃で2日間、純水で透析した。透析膜の中の溶液を風乾して、体積をほぼ1/5程度に濃縮した。次に、この濃縮液に塩酸を加えてpH=3.5として、ゲル化させた。このゲル化物を一昼夜凍結して絹フィブロイン粉末を得、この粉末を100mLのメタノールに1時間浸漬してから乾燥した。これを乳鉢で力を加減しながら粉砕し、さらに化学フルイを用いて、粒子径が0.2〜0.5mm程度の粒状粉末を調製し、これをアミノ酸吸着材として用いた。このようにして調製した絹フィブロイン粉末0.5gをアミノ酸含有水溶液10mL(各種アミノ酸を8.00×10-6mol/L含む)に加えて、ビーカーの中で1時間撹拌して、アミノ酸の吸着を行った。次に、このアミノ酸含有水溶液の一部を採取して、含有アミノ酸濃度を、アミノ酸分析装置によって求めた。表3に、絹フィブロイン粉末と混合前後の各種のアミノ酸の濃度(すなわち、吸着前のアミノ酸濃度および吸着後のアミノ酸濃度)、および吸着した各アミノ酸の吸着モル%を示す。
【0058】
(表3)
【0059】
表3から明らかなように、塩基性アミノ酸のLysのみが選択的に絹フィブロイン粉末に吸着したことがわかる。吸着されたLysは、吸着フィブロイン粉末をガラスフィルターにとって、純水5mLで5回すすいで、吸着力の小さいアミノ酸を洗浄後、pH=3.0の塩酸水溶液5mLですすぐと、全てのLysが塩酸水溶液中に脱離し、回収することができた。
【0060】
(実施例1)羊毛ケラチン粉末に対するアミノ酸吸着
羊毛繊維を溶解したケラチン水溶液から次のようにして羊毛ケラチン粉末を調製した。メリノ種羊毛(64'S)に含まれる色素、脂肪分を、ベンゼン/エタノール(50/50容積%)の混合溶媒を用いて、ソックスレー抽出器で6時間処理することにより除去した。三つ口フラスコを用意し、その一つの口には三方コックを介して乾燥窒素ボンベからのゴム管を接続し、反応系のpH調節のためのpH電極を別の口に常時挿入し、残りの口は必要な薬剤投与用として利用する。繊維長が約1cmとなるように細断したメリノ種羊毛繊維8.18gを三つ口フラスコに投入し、これに450mLの8mol/L尿素溶液を加えた。窒素ガスでパージし、三つ口フラスコ内をアスピレーターで15分間45mmHg程度に減圧し、次いで急激に大気圧に戻す操作を3〜4回繰り返した。このようにして、三つ口フラスコ内の羊毛繊維間に含まれる空気を完全に除去し、尿素水溶液とケラチン分子との反応が効率的に行われるようにした。窒素置換が完了した後、三つ口フラスコ内に、還元剤として、4.8mLのメルカプトエタノールを加えて、8mol/L尿素水溶液中で2〜3時間放置した。次いで、約100mLの5N−KOH水溶液を微量づつ加え、三つ口フラスコ内の混合水溶液のpHを10.5に調節した。室温で3時間かけて羊毛繊維が完全に溶解するのを待った。このようにして繊維状の羊毛繊維が溶解したケラチン水溶液に対し、セルロース製透析膜を用い、純水で2日間透析した。透析後、送風乾燥により濃縮し、所望により、必要量の純水を加えて、所定濃度のケラチン水溶液を調製した。
【0061】
このようにして調製された0.01%のケラチン水溶液450mLに室温で9.5gのヨード酢酸を加えて、ケラチンのS−カルボキシメチル化反応を1時間行った。5N−KOH水溶液でケラチン水溶液のpHを8.5に調整することによって、S−カルボキシメチルケラチン水溶液を得た。セルロース製の透析膜を用いて、この水溶液を純水で1日間透析した。
【0062】
このようにして製造されたS−カルボキシメチルケラチン水溶液を凍結乾燥して、粉末状のケラチン試料を製造した。これを乳鉢を用いて粉末化し、さらに化学フルイ(孔径1mmおよび0.5mmのステンレス製フルイ)を用いて粗いものと細かいものを除き、径0.5〜1.0mmの粒状の粉末を得た。この粉末に2%グルタルアルデヒド水溶液を25℃で10分間作用させ、最後に水で十分に洗った。これを参考例4と同様の条件で遠心分離し、乾燥させ、羊毛ケラチン粉末を調製した。得られた羊毛ケラチン粉末を参考例1と同様の方法でカラムに詰め、アミノ酸吸着材として用いた。所定濃度のアミノ酸含有水溶液を所定量流して、カラムから出てくる水溶液全体に含まれるアミノ酸を測定したところ、Asp、Gluが優先的に吸着することがわかった。
【0063】
(実施例2)切断羊毛ケラチン繊維に対するアミノ酸の吸着
切断して微細化した羊毛ケラチン繊維0.246gをカラム(内径4mm×長さ150mm)に詰め、参考例2と同様の方法でアミノ酸含有水溶液を0.2mL/分の流速で流した。カラムから流出するアミノ酸含有水溶液の合計が20.5mLになるまで流したときの、流出水溶液中に含まれる各種のアミノ酸濃度を参考例1と同様の方法で定量した。各種のアミノ酸を含む原液の水溶液および流出水溶液に含まれていたアミノ酸量、ならびにアミノ酸吸着材に吸着した各アミノ酸の吸着モル%を求めた。微細化羊毛ケラチン繊維へは、Asp、Gluが優先的に吸着材に吸着することがわかった。
【0064】
(実施例3)ポリ(グリシン)粉末に対するアミノ酸の吸着
参考例1と同様に、ポリ(グリシン)粉末0.492gをカラム(内径4mm×長さ150mm)に詰め、アミノ酸含有水溶液を0.2mL/分の流速でカラムに37mL流して、途中の各フラクションに含まれるアミノ酸を分析した。表4に、アミノ酸含有水溶液を20.5mL流した時点での、ポリ(グリシン)粉末に吸着した各アミノ酸の原液中の濃度に対する百分率(吸着モル%)を示す。
【0065】
(表4)
【0066】
表4から明らかなように、Asp、Gluはほぼ100%吸着することがわかった。その他のアミノ酸は、0〜4.8%程度の吸着モル%を示した。
このようにしてアミノ酸を吸着したポリ(グリシン)粉末を蒸留水100mLで数回すすいだ。Asp、Gluは0.1mol/Lの炭酸ナトリウム(または他のアルカリでもよい)水溶液を約5ml流すことにより、回収することができた。
【0067】
(実施例4)ポリ(L−アラニン)粉末に対するアミノ酸の吸着
参考例1と同様に、ポリ(L−アラニン)粉末0.396gをカラム(内径4mm×長さ150mm)に詰め、アミノ酸含有水溶液を0.2mL/分の流速でカラムに70mL流して、途中の各フラクションに含まれるアミノ酸を分析した。表5に、アミノ酸含有水溶液を20.5mL流した時点での、ポリ(L−アラニン)粉末に吸着した各アミノ酸の原液中の濃度に対する百分率(吸着モル%)を示す。
【0068】
(表5)
【0069】
表5から明らかなように、Aspは65%、Gluは59%が吸着した。その他のアミノ酸はほとんど吸着しなかった。
このようにしてアミノ酸を吸着したポリ(L−アラニン)粉末を蒸留水100mlで数回すすいだ。Asp、Gluは0.1mol/Lの炭酸ナトリウム(または他のアルカリでもよい)水溶液を約5ml流すことにより、回収することができた。
【0070】
(実施例5)ポリ(Lーバリン)粉末に対するアミノ酸の吸着
参考例1と同様に、ポリ(L−バリン)粉末0.40gをカラム(内径4mm×長さ150mm)に詰め、アミノ酸含有水溶液を0.2mL/分の流速でカラムに70mL流して、途中の各フラクションに含まれるアミノ酸を分析した。表6に、アミノ酸含有水溶液を20.5ml流した時点での、ポリ(L−バリン)粉末に吸着した各アミノ酸の原液中の濃度に対する百分率(吸着モル%)を示す。
【0071】
(表6)
【0072】
表6から明らかなように、ポリ(L−バリン)は、参考例3および実施例1〜4の場合と類似した吸着材となり、Asp、Gluの特異的吸着を示した。すなわち、Aspは44%、Gluは45%が吸着した。その他のアミノ酸はほとんど吸着しなかった。
このようにしてアミノ酸を吸着したポリ(L−バリン)粉末を蒸留水100mLで数回すすいだ。Asp、Gluは0.1mol/Lの炭酸ナトリウム(または他のアルカリでもよい)水溶液を約5mL流すことにより、回収することができた。
【0073】
(実施例6)ポリ(L−フェニルアラニン)粉末に対するアミノ酸の吸着
参考例1と同様に、ポリ(L−フェニルアラニン)粉末0.40gをカラム(内径4mm×長さ150mm)に詰め、アミノ酸含有水溶液をカラムに流した。カラムから流出するアミノ酸含有水溶液の合計が5.5mLになるまで流したときの流出水溶液中に含まれる各種のアミノ酸濃度を参考例1と同様の方法で定量した。表7に、各種のアミノ酸を含む原液の水溶液および流出水溶液に含まれていたアミノ酸量、ならびにアミノ酸吸着材に吸着した各アミノ酸の吸着モル%を示す。
【0074】
(表7)
【0075】
表7から明らかなように、Asp、Gluが他のアミノ酸より吸着しやすいことがわかる。吸着されたAsp、Gluは弱アルカリ性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液)を流すことにより、回収することができた。
【0076】
(参考例5)微細化絹フィブロイン繊維に対するアミノ酸の吸着
微細化絹フィブロイン繊維0.4098gをガラス管(内径6mm×長さ20cm)に詰め、13種のアミノ酸を含むアミノ酸含有水溶液をガラス管の上部から、圧力を加えずに、自然に流した。ガラス管から流出するアミノ酸含有水溶液の合計が8.0mLになるまで流したときに、流出液中に含まれる各種のアミノ酸濃度を参考例1と同様の方法で定量した。表8に、各種のアミノ酸を含む原液の水溶液および流出水溶液に含まれていたアミノ酸量、ならびにアミノ酸吸着材に吸着した各アミノ酸の吸着モル%を示す。
【0077】
(表8)
【0078】
表8から明らかなように、塩基性アミノ酸のLys、Argは100%吸着し、これらより塩基性の強いHisはほぼ38%吸着した。ガラス管に蒸留水を50mL流して洗浄後、希塩酸水溶液を5mL流すことによって、吸着されたLys、Arg、Hisを回収することができた。これら塩基性アミノ酸のみの混合物は、少量の弱酸を加えてHisを塩としてから、カチオン交換樹脂を用いて、個々のアミノ酸に分離し、回収することができた。
【0079】
(実施例7)コポリマーに対するアミノ酸の吸着
Gly NCAとAla NCAとを1:2モル比で含むように、それぞれのアミノ酸NCAをアセトニトリルに溶解した。重合開始剤にブチルアミンを用い、上記(3)のアミノ酸NCAの重合方法の項で述べた方法に従って、30℃で1週間静置して重合を進め、GlyとAlaとの残基からなるコポリペプチドを合成した。得られたコポリペプチドをアミノ酸吸着材として用いて、上記参考例3〜4および実施例1〜2の場合と同様に、カラムに詰め、アミノ酸含有水溶液を流した。コポリペプチドはAsp、Gluを特異的に吸着した。吸着されたAsp、Gluはアルカリ性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液)を流すことにより、回収することができた。
【0080】
(実施例8)
合成ポリアミノ酸(上記実施例4のポリ(L−アラニン))の0.2gをトリフルオロ酢酸10mLに溶解し、減圧蒸留で約1/3体積に濃縮した後、クロロホルムを10mL加えて溶液とした。不溶解物をガラスフィルターで濾過して除いた後、これにシリカゲル粒子を入れて攪拌した。これらの粒子をメタノールまたはエタノール中に分散して、撹拌した。粒子の表面に合成ポリアミノ酸が付着した。この粒子を減圧乾燥して、ポリ(L−アラニン)で表面が被覆されたシリカゲル粒子を調製した。このシリカゲル粒子を上記実施例3〜6の場合と同様に、カラムに詰め、各種のアミノ酸を含むアミノ酸混合水溶液を流した。シリカゲル粒子は、Asp、Gluを特異的に吸着した。吸着されたAsp、Gluは、アルカリ性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液)を流すことにより回収することができた。
【0081】
【発明の効果】
本発明によれば、羊毛ケラチン、アミノ酸のホモポリマーおよびコポリマーから選ばれた合成ポリアミノ酸、ならびに該タンパク質または合成ポリアミノ酸で表面が被覆された担体微細粒子をアミノ酸吸着材として用いることにより、特定のアミノ酸を吸着し、回収することができる。特に、羊毛ケラチン、合成ポリアミノ酸、または該ケラチンもしくは合成ポリアミノ酸で表面が被覆された担体微細粒子からなる吸着材により、アスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸を選択的に吸着することができる。本発明のアミノ酸吸着材の形態としては、粉末状、ビーズ状、繊維状、膜状などのいずれのものも利用できる。
【0082】
本発明では、末端基にアミノ基および主鎖にイミノ基(>N−H)を持つ合成ポリアミノ酸を吸着材として用いるため、例えばカラムにアミノ酸含有水溶液を流すと、合成ポリアミノ酸などを用いた場合には酸性アミノ酸を特異的に吸着し、さらに回収することができる。
【0083】
本発明における羊毛ケラチンや合成ポリアミノ酸は、上記形態であってもよいし、これを既知カラム充填用の充填剤の表面に被覆し、水不溶性にしたものであってもよい。本発明では、羊毛ケラチンなどの材料自体に特定のアミノ酸を吸着する機能があるため、一般的なカラム充填剤のように粒度を厳密に揃える必要性は少なく、カラムへの充填方法も厳密度が要求されるものではないという優れた利点がある。また、本発明の吸着材は低価格で製造できるという利点もある。
【0084】
本発明の吸着材を充填したカラムに、羊毛、コラーゲン、毛髪などの天然タンパク質材料を加水分解することで得られる各種のアミノ酸を含む水溶液を流すと、酸性アミノ酸を効率よく吸着し、さらに回収することができる。
従って、本発明の吸着材は、物質混合系から特定のアミノ酸を分離するための分離材料として、化学工業や食品工業プロセスなどにおいて利用できると共に、材料科学やバイオテクノロジーなどの最先端の科学においても広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アミノ酸含有水溶液の流量(mL)と流出水溶液中のアミノ酸濃度(mol/L)との関係を示すグラフ。
【図2】アミノ酸含有水溶液の流量(mL)と流出水溶液中のアミノ酸濃度(mol/L)との関係を示すグラフ。
【図3】微細化絹フィブロイン繊維に接触する前の各アミノ酸濃度と、接触した後のアミノ酸濃度とを示すグラフ。
【図4】回収液中の各アミノ酸濃度を示すグラフ。
Claims (7)
- ポリ ( グリシン ) 、ポリ ( L−アラニン ) 、ポリ ( L−バリン ) およびポリ ( L−フェニルアラニン ) から選ばれた合成ポリアミノ酸、S−カルボキシメチルケラチン、または該S−カルボキシメチルケラチンもしくは該合成ポリアミノ酸で表面が被覆された担体微細粒子からなり、複数のアミノ酸を含有する水溶液中に存在するアスパラギン酸およびグルタミン酸を選択的に吸着するためのアミノ酸吸着材。
- 前記合成ポリアミノ酸が、ポリ ( グリシン ) とポリ ( L−アラニン ) とのコポリマーであることを特徴とする請求項1記載のアミノ酸吸着材。
- 前記担体微細粒子が、ポリ ( L−アラニン ) 被覆シリカゲル粒子であることを特徴とする請求項1記載のアミノ酸吸着材。
- 前記S−カルボキシメチルケラチンが、粉末状、ビーズ状、膜状、または繊維状であることを特徴とする請求項1記載のアミノ酸吸着材。
- 前記S−カルボキシメチルケラチンが、このケラチンを水溶性樹脂で被覆し、固形化した後、乾燥または凍結固化し、この乾燥または凍結固化状態のケラチンを粉砕して調製した粉末であることを特徴とする請求項1又は4記載のアミノ酸吸着材。
- 前記合成ポリアミノ酸の平均重合度が200であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアミノ酸吸着材。
- 請求項1〜6のいずれかに記載のアミノ酸吸着材に対して複数のアミノ酸含有水溶液を接触させ、該吸着材にアスパラギン酸およびグルタミン酸を選択的に吸着せしめ、次いで、該吸着材を水洗した後、アルカリ性水溶液で該吸着アミノ酸を該吸着材から脱離させて回収することを特徴とするアミノ酸の回収方法。
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