JP3762085B2 - 加工性に優れた直送圧延による軟質冷延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に自動車、家電製品等に適する、加工性に優れた軟質冷延鋼板を直送圧延−連続焼鈍で安価に製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、連続焼鈍で製造される加工用冷延鋼板の製造では、軟質化と高r値化のために熱延時に高温巻取を行いAlNの析出と炭化物の凝集粗大化を促進している。ただし、高温巻取を行うと、酸素の供給が容易なコイルの両端部においてスケール厚の増大をもたらし酸洗性が劣化するという問題がある。そこで、特開昭48−100314号公報にはBでNを粗大BNとして固定して巻取温度を低減する方法が開示されているが、この方法を直送圧延に適用しても、巻取温度低減効果は得られない。これは、加熱炉材ではスラブ中に析出した粗大MnSの一部が再固溶せず残留するのに対し、直送圧延ではすべてのMnSが固溶状態で圧延されるため、圧延時に析出した微細MnSが粒成長性を抑制するためである。
【0003】
そこで、直送圧延でも加熱炉材と同等の軟質材を得ることを目的として、特開平7−242995号公報にはSを0.004%以下とし微細MnS量を低減して軟質化する方法が開示されている。また、特開平9−3550号公報には連続鋳造スラブをAc3 点以下に冷却する前に圧延を開始することで、Feの変態に伴う圧延前のMnSの形態変化を抑制し、析出物の核とすることで析出物の粗大化を促進する方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平7−242995号公報に開示の方法により、Sを0.004%以下にすると脱硫コストが極めて大きくなり、その用途は高級鋼板に限られてしまう。
【0005】
また、特開平9−3550号公報に開示の方法においても、軟質化は十分ではなく、800℃以上の高温焼鈍が必須である。
以上のように、軟質冷延鋼板を製造する場合に、直送圧延で低温巻取を可能にする方法は得られていないのが現状である。
【0006】
本発明の目的は、加工性に優れた軟質冷延鋼板を直送圧延で製造する場合でも加熱炉材と同等の材質で、低温巻取を可能とする方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明は以下に示す手段を用いている。
本発明の製造方法は、重量%で、C≦0.03%と、Si≦0.1%と、Mn≦0.5%と、P≦0.03%と、S≦0.02%と、Sol.Al≦0.04%と、N:0.001〜0.006%とを含有し、かつN%≧S%/5を満たし、さらに、下記(1)式で定義される範囲のBを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である組成を有する鋼を鋳造後直ちに圧延を行う直送圧延する際に、1000℃以下で粗圧延を終了後、1050℃以上に加熱して仕上圧延を行い、Ar3点以上で仕上げ圧延を終了する工程と、
仕上圧延された熱延鋼板を630℃以下で巻取り、引き続き酸洗、冷間圧延した後に800℃未満で連続焼鈍を行う工程と、
を備えたことを特徴とする、加工性に優れた直送圧延による軟質冷延鋼板の製造方法である。
11 / 14 ×N%− 0 . 0004 ≦B≦ 11 / 14 ×N%+ 0 . 002 …(1)
【0009】
【発明の実施の形態】
従来では、微細MnS量を低減するためにSを0.004%以下まで低減する方法が一般的であった。それに対し、本発明者らはSを0.005%以上含むB添加鋼を直送圧延しても軟質化させる方法を鋭意研究した結果、直送圧延で多量に発生する微細MnSをすべてBNと複合析出させることによりすベての析出物を粗大化させる条件を見出した。それは、添加S量に対してNをS/5≦Nとなるように添加し、さらにそのNに対してBを添加するものである。理由は未だ明らかとなってはいないが、直送圧延で析出したMnSは加熱炉材を圧延してできたMnSよりもBNの析出核になりやすく、S量に対して最適にNを添加すれば、微細MnSはもれなくBNと複合析出物を形成し、直送圧延でも加熱炉材と同レベルまで軟質化させることができるからと推定される。さらに、粗圧延と仕上げ圧延を分けて行う場合、粗圧延を1000℃以下で終了し、MnSを過冷却状態にした後に、1050℃以上に加熱することで仕上げ圧延前にMnSを完全に析出させ、BNの核とすることでこの効果は著しいものとなる。
【0010】
以上の知見に基づき、本発明者らは、B添加鋼の添加S量に対するN量を規定し、さらにそのN量に応じてB量を一定範囲内に制御して、直送圧延をする際の、仕上温度と、粗圧延を行う場合はさらに粗圧延終了温度と粗バー加熱温度を規定するようにして、直送圧延で軟質冷延鋼板を製造する場合でも加熱炉材と同等の材質で、低温巻取を可能とする方法を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、鋼組成及び製造条件を下記範囲に限定することにより、加工性に優れた軟質冷延鋼板を直送圧延で製造する場合でも加熱炉材と同等の材質で、低温巻取を可能とする方法を提供することができる。以下に、本発明の成分添加理由、成分限定理由、及び製造条件の限定理由について説明する。
(1)成分組成範囲
C≦0.03%
Cが0.03%を越えて添加されると炭化物が多量に析出し、r値やELを低下させ、成形性を阻害することから0.03%以下である。また、0.01%未満では連続焼鈍の過時効時に炭化物の析出駆動力が小さくなり耐時効性が劣化することから、0.01%以上が望ましい。
【0012】
Si≦0.1%
Siは過剰に添加すると強度が上がり成形性を劣化させることから、0.1%以下である。
【0013】
Mn≦0.5%
MnはSをMnSの形で固定し、熱間延性を向上させる働きがあることから0.05%以上は添加することが望ましいが、過剰な添加は鋼の硬質化をもたらし、成形性を劣化させるため、上限は0.5%である。
P≦0.03%
Pは固溶強化元素であり、0.03%を越える添加は鋼の硬質化をもたらすことから上限は0.03%である。
S≦0.02%
Sは熱間延性や成形性を阻害する元素であることからMnSとして固定される。0.02%を越える添加はMn量の増加につながり加工性を低下させることから、上限は0.02%である。また、Sを0.004%以下に低減するには多大な製鋼コストがかかることから、0.005%を下限とすることが好ましい。
【0014】
Sol.Al≦0.04%
Sol.Alは脱酸剤として使用されることから、ある程度は含まれるが、本発明においては、AlはAlNの析出を通じて、BNの析出を抑制し微細MnSの粗大化を阻害することから、添加量は0.04%以下である。
N:0.001〜0.006%、かつN%≧S%/5
【0015】
本発明においてはNはBNとして固定されるが、BN量が少ないと,即ちN量が0.001%未満では微細MnSをすべて粗大にできず、本発明の軟質化の効果が得られないため下限は0.001%である。一方、多すぎると多量のBNにより加工性が劣化することから、上限は0.006%としたが、0.004%以下が望ましい。NをSに対してN≧S/5で添加する理由を実験結果より説明する。
【0016】
C=約0.02%、Si=約0.01%、Mn=約0.2%、P=約0.015%、S=約0.01%、Al=約0.02%を含み、N量を変化させ、さらにBをNに対してB/N=約1となるように添加した鋼を鋳造し、仕上温度を870℃、巻取温度を630℃で直送圧延を行った。その後、酸洗、冷間圧延、連続焼鈍、調質圧延を行い、板厚0.8mmの焼鈍板を製造した。焼鈍温度は720℃とした。得られた焼鈍板よりJIS5号引張試験片を切り出し、引張試験を行った。図1にYP(降伏点)をNに対してプロットした。YPはN量が多くなるにつれて低下し、N%≧S%/5で飽和した。従って、N量は本発明の軟質化の効果を得るために、N%≧S%/5である。
【0017】
B:11/14×N%−0.0004≦B≦11/14×N%+0.002
BはNと結合し粗大なBNを形成するため軟質化に有効な元素であり、Sに対して添加されたNに対し、11/14×N%−0.004≦B≦11/14×N%+0.002を満たすように添加されれば、MnSをすべてBNと複合させることができる。一方、Bを11/14×N%+0.002を越えて添加すると、固溶Bによる硬質化が起こることから、上限は11/14×N%+0.002である。
B添加量を以上のように決めた理由を実験結果で説明する。
【0018】
C=約0.020%、Si=約0.01%、Mn=約0.20%、P=約0.015%、S=約0.010%、Al=約0.020%を含み、N=約0.0025%含み、B量を変化させた鋼を鋳造し、仕上温度を870℃、巻取温度を600℃で直送圧延を行った。比較として1250℃加熱の炉材も同様に圧延した。その後、酸洗、冷間圧延、連続焼鈍、調質圧延を行い、板厚0.8mmの焼鈍板を製造した。焼鈍温度は750℃とした。得られた焼鈍板よりJIS5号引張試験片を切り出し、引張試験を行った。図2はB量の変化に伴う直送圧延材と加熱炉材のYP(降伏点)の変化を示したものである。直送圧延材のYPはB添加が増加するに従い加熱炉材に近づき、Bを0.0016%添加(N=0.0025%に対してB=11/14×N%−0.0004となる点)したところで直送圧延と加熱炉材の差はほぼ無くなり、さらにBを添加してもその差は維持される。 一方、Bを0.004%(N=0.0025%に対してB=11/14×N%+0.002となる点)を超えて添加すると、直送圧延材と加熱炉材のYPが急上昇して(即ち、固溶Bによる硬質化が起こり)、本発明の軟質化の効果が得られない。従って、B添加量は、11/14×N%−0.0004≦B≦11/14×N%+0.002である。
【0019】
なお、粗圧延を1000℃以下で終了し1050℃以上まで粗バー加熱を行った場合は、BN析出前にMnSが完全に析出して、B添加効果が促進され、Bを11/14×N%−0.001で計算される値以上添加すれば直送圧延材と加熱炉材の材質差は無くなることから、Bの下限は11/14×N%−0.001以上である。
【0022】
上記の成分組成範囲に調整することにより、加工性に優れた軟質冷延鋼板を直送圧延で製造する場合でも加熱炉材と同等の材質で、低温巻取を可能とする方法を得ることが可能となる。
このような特性を有する鋼板は、以下の製造方法により製造することができる。
【0023】
(2)軟質冷延鋼板製造工程
本発明において、以下に示す各工程の温度は重要な意味を持っており、このどれが一つでもかけた場合、本発明の効果は低下する。
【0024】
(2−1)態様1の製造条件
(製造方法)
上記(1)の組成を有する鋼を鋳造後直ちに圧延を行う直送圧延をする際に、Ar3 点以上で仕上げ圧延を終了し、650℃以下で巻取り、熱延鋼板とした後に引き続き酸洗、冷間圧延した後に800℃未満で連続焼鈍を行う。
【0025】
a.仕上温度
本発明においては、仕上温度はAr3 点以上である。仕上温度がAr3 点未満となると、r値を低下させる集合組織が発達してしまうため、下限はAr3 点である。
b.巻取温度
酸洗性の観点から巻取温度の上限は650℃である。ただし、450℃未満では炭化物が微細に析出し、r値の著しい低下が起こることから、450℃以上が好ましく、できれば550℃以上が望ましい。
【0026】
c.焼鈍温度
本発明では直送圧延でも良好な粒成長性が見られていることから、高温焼鈍する必要はない。そのため、高温焼鈍に伴う生産性の低下、粗大粒の発生を防止するため、焼鈍温度は800℃未満である。ただし、あまり低いと再結晶しないことから、680℃以上が望ましい。均熱時間については、特に規定するものではないが、組織を安定化させるために60秒以上が好ましい。
【0027】
(2−2)態様2の製造条件
上記(1)に記載の組成を有する鋼を鋳造後直ちに圧延を行う直送圧延をする際に、1000℃以下で粗圧延を終了後、1050℃以上に加熱して仕上圧延を行い、Ar3 点以上で仕上げ圧延を終了し、650℃以下で巻取り、熱延鋼板とした後に引き続き酸洗、冷間圧延した後に800℃未満で連続焼鈍を行う。
【0028】
a.粗圧延終了温度、粗バー加熱温度
1000℃以下で粗圧延が終了した場合、MnSは過冷却状態にあることから、1050℃以上に粗バー加熱することでBN析出前にMnSを完全に析出させ、本発明の効果を増大させる。粗バー加熱温度が1050℃未満ではMnSの析出が不十分であることから、粗バー加熱温度の下限は1050℃である。粗バー加熱方法は特に限定するものではないが、誘導加熱、ガス加熱、トンネル炉等を用いても良い。
【0029】
粗圧延後、粗バーを接合して仕上げ圧延を連続で行ってもなんら問題は生じない。さらに、薄スラブを用いて粗圧延を省略しても本発明の効果は変わらない。この場合、粗バー加熱はスラブ加熱に相当する。
【0030】
b.仕上温度
態様1の製造条件と同様。
c.巻取温度
態様1の製造条件と同様。
【0031】
d.焼鈍温度
態様1の製造条件と同様。
なお、酸洗後の冷間圧延については、加工性、特に深絞り性から圧延率は30〜90%が好ましい。調質圧延の条件についての制限はないが、2%を越えるとELの低下が激しいことから、2%以下が望ましい。また、本発明鋼の成分調整には、転炉と電気炉のどちらも使用可能である。さらに、本発明の鋼板に亜鉛めっきやすずめっき、クロメート、リン酸亜鉛などの化成処理を行っても効果にはなんら影響を及ぼさない。
以下に本発明の実施例を挙げ、本発明の効果を立証する。
【0039】
【実施例】
下記表3に示す成分の鋼(本発明例No.1〜12)を鋳造後直ちに熱間圧延を開始し、下記表4の条件で熱間圧延を行った。
【0040】
一部のもの(本発明例No.5,9,12)を除き、熱間圧延に関しては、粗圧延後、誘導加熱で粗バー加熱を行い、仕上温度をAr3 点以上とした。引き続き酸洗、冷間圧延を行い750℃で連続焼鈍を行ったのち、調圧率0.8%で調質圧延を行い、板厚1.0mmの板を製造した。また、同じチャージのスラブを室温まで冷却後、1220℃加熱を行い、同条件で圧延した(加熱炉材)。得られた焼鈍板の特性をJIS5号引張試験片による引張試験で評価した。直送圧延材のTS(引張強さ)、EL(伸び)および、直送圧延材と加熱炉材のELの差を表4に示す。
【0041】
本発明例No.1〜No.5はB添加量を変化させたものであるが、本発明例No.1〜4と本発明例No.5を比較して、粗バー加熱で本発明の効果が促進されることがわかる。本発明例No.6〜9はN量を変化させたものであるが、本発明例No.6〜8と本発明例No.9を比べることで、粗バー加熱で本発明の効果が促進されることがわかる。本発明例No.10〜12はS量を変化させたものであるが、ここでも粗バー加熱の効果が確認できる。
このように、本発明により直送圧延でも通常の加熱炉材と同等の材質を得ることができ、粗バー加熱で効果が増大することがわかる。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、鋼組成及び直送圧延を含む製造条件を特定することにより、直送圧延で軟質冷延鋼板を製造する場合でも加熱炉材と同等の材質で、低温巻取を可能とする方法、及びその方法による加工性に優れた直送圧延による軟質冷延鋼板を提供することができる。
従って、本発明の製造方法を用いることにより、家電製品等に適する冷延鋼板を直送圧延−連続焼鈍で安価に製造することができるなど、産業上の利用価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る焼鈍板のN含有量とYP(降伏点)の関係を示す図。
【図2】本発明の実施の形態に係る直送圧延材と加熱炉材のB含有量変化に伴うYP(降伏点)の変化を示す図。
Claims (1)
- 重量%で、C≦0.03%と、Si≦0.1%と、Mn≦0.5%と、P≦0.03%と、S≦0.02%と、Sol.Al≦0.04%と、N:0.001〜0.006%とを含有し、かつN%≧S%/5を満たし、さらに、下記(1)式で定義される範囲のBを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である組成を有する鋼を鋳造後直ちに圧延を行う直送圧延する際に、1000℃以下で粗圧延を終了後、1050℃以上に加熱して仕上圧延を行い、Ar3点以上で仕上げ圧延を終了する工程と、
仕上圧延された熱延鋼板を630℃以下で巻取り、引き続き酸洗、冷間圧延した後に800℃未満で連続焼鈍を行う工程と、
を備えたことを特徴とする、加工性に優れた直送圧延による軟質冷延鋼板の製造方法。
11/14×N%−0.0004≦B≦11/14×N%+0.002 …(1)
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