JP3759325B2 - 溶接トーチ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、パイプ円周自動溶接装置等の溶接ヘッドにおける溶接トーチに関する。特には、溶接ワイヤが母材(被溶接材)に突き当たったときに、溶接ワイヤが受ける衝撃を吸収し、座屈を防止することができる溶接トーチに関する。
【0002】
【従来の技術】
溶接ワイヤをコンジットケーブルを介して自動的に溶接トーチに送る機構を有する溶接ヘッドにおいては、ワイヤリールから溶接トーチまでのワイヤ送り方式に2つの方式がある。1つはプッシュ方式であり、他の1つはプル方式である。プッシュ方式では、リールからほぐしたワイヤを矯正した後、コンジットケーブルの手前でプッシュローラによりワイヤをコンジットケーブルに押し込む。プル方式では、コンジットケーブル出側の溶接トーチにプルローラを付設して、コンジットケーブル内のワイヤを引っ張る。
【0003】
プッシュ方式は、トーチの構造が簡単で小型軽量とできるが、ワイヤがコンジットケーブル中で座屈しやすいため、ワイヤの送りにスムーズさが欠けやすい。プル方式は、その逆に、トーチの構造が複雑で重くなりやすいが、ワイヤがコンジットケーブル中で座屈しないので、ワイヤ送りがスムーズになるとともにアークへのワイヤ供給も安定する。
【0004】
ところで、ワイヤ供給のスムーズさが損なわれることにより、アークの不安定や溶融池の乱れ等が引き起こされ、様々な溶接不良につながることが指摘されている(溶接学会誌、第41巻、第9号、1055〜)。したがって、安定的に高品質の溶接を行うには、ワイヤ送給機構のさらなる改良が求められている。
特に、コンジットケーブルのアール部におけるワイヤとケーブルとの摩擦が大きく、アールを小さくしようとすると、この摩擦は急に顕著となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、この種の溶接トーチにおいては、ワイヤ供給のスムーズさを常時確保することが極めて重要である。しかしながら、プッシュ方式、プル方式のいずれの場合においても、連続的に送給されている溶接ワイヤが母材(被溶接材)に突き当たったときには、溶接ワイヤが衝撃を受ける。すると、この衝撃により溶接ワイヤが出側において座屈してしまう。一方、入側からは連続して溶接ワイヤが送給されているから、座屈状態を放置すると、ワイヤが複雑に屈曲して絡まってしまうという問題があった。
【0006】
さらに、溶接ワイヤがスムーズに供給されているか否かを確認するのは、全て人手により行っていた。そして、ワイヤの座屈が確認された場合は、溶接トーチの全ての運転を一旦停止させなければならなかった。このため、工期の長期化や経費の助長を引き起こすという問題もあった。
【0007】
本発明は、このような観点に着目してなされたものであり、溶接ワイヤが母材(被溶接材)に突き当たったときに、溶接ワイヤが受ける衝撃を吸収し、座屈を防止することができる溶接トーチを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の溶接トーチは、 溶接ワイヤを溶接点に向けて送り出す溶接チップと、 この溶接チップの中央に向けて上記溶接ワイヤを屈曲するワイヤ屈曲部と、 上記溶接ワイヤを送給するワイヤ送給機構と、 を備える溶接トーチであって; 上記ワイヤ送給機構中に過大な送り力が生じた場合に滑るクラッチが設けられていることを備えることを特徴とする。
クラッチが滑ることにより、ワイヤ送給機構中の過大な送り力を吸収することができる。したがって、溶接ワイヤの座屈を回避するとともに、同ワイヤのつまりを防ぐことができる。
【0009】
本発明の溶接トーチにおいては、 上記ワイヤ送給機構は、 屈曲される曲げアールの内径側に配置された、該曲げアールとほぼ同じ半径の内ローラと、 該内ローラの外周に配置された、上記溶接ワイヤを内ローラ方向に押す複数の外ローラと、 を備え、 上記クラッチが上記内ローラと同軸上に設けられることとすることができる。
曲げアールとほぼ同じ半径の内ローラを備え、クラッチと内ローラと同軸上に設けることで、溶接ヘッドの高さを低く抑えることができる。
【0010】
さらに、本発明の溶接トーチにおいては、上記クラッチは、駆動源に連設されて回転駆動する回転体と、該回転体に対向して設置されたクラッチ盤と、を備え、上記回転体に複数の突起体を設けるとともに、上記クラッチ盤に上記突起体と係合可能な孔を形成することとできる。
通常の溶接ワイヤの送給時には、突起体と孔とが係合し、回転体とクラッチ盤とが一体化する。この場合、駆動源の駆動力がクラッチを介してワイヤ送給機構(内ローラ)に伝達される。一方、溶接ワイヤが母材(被溶接材)に突き当たる等をして、ワイヤ送給機構中に過大な送り力が生じた場合には、突起体と孔との係合が解除され、回転体とクラッチ盤とが離れることで、過大な送り力が吸収される。
【0011】
また、本発明の溶接トーチにおいては、 上記突起体の先端を円錐形に形成するとともに、上記孔を該突起体の先端と係合可能なすり鉢状に形成することができ、さらに、 上記突起体を上記クラッチ盤側に向けて付勢する付勢手段を備えることができる。
突起体と孔との係合及び係合解除をスムースにすることができる。さらに、付勢手段により、一旦過大な送り力が生じたワイヤ送給機構を、通常状態に復帰させるのが容易になる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明に係る溶接トーチの一例を示す一部断面側面図である。図2は溶接トーチの一部断面正面図である。図3は溶接トーチの一部断面平面図である。図4は溶接トーチの一部断面上面図である。
【0013】
図1〜4に示すように、溶接トーチ1はガイドハウジング100を備えている。このガイドハウジング100は、アルミニウム製の平板からなるフレーム110と、このフレーム110に対向したカバー120と、これらフレーム110及びカバー120間のローラユニット130とを備えている。ローラユニット130は、フレーム110の図2における左端寄りに固定された基体140と、同フレーム110の図2における右端寄りに固定された絶縁ブロック150と、これら基体140及び絶縁ブロック150間のスイングアーム160とからなる。スイングアーム160は、支軸151により基体140に回動可能に取り付けられている。また、同スイングアーム160は、蝶ネジ155により絶縁ブロック150に固定される。
【0014】
このガイドハウジング100内側には、ワイヤ屈曲部13が設けられている。ワイヤ屈曲部13は、図2に示すように、ワイヤ屈曲の経路の外側に沿って配置された4個の外ガイドローラ15−1〜4と、同経路の内側に配置された1個の内ローラ17と、同経路の内側で且つ最も出側に配置されたストレートナーローラ25とから構成されている。これら各ローラにおいて、内ローラ17はセラミックス製であり、モータ駆動機構121に連設されて回転駆動するようになっている。
【0015】
モータ駆動機構121は、図1、3に最もよく示すように、フレーム110の外側に取り付けられたカバー127内に収納されている。カバー127は、フレーム110側(図1の右側)に円筒状をしたスリーブ部128を備えている。このスリーブ部128の外側には、ベークライト(フェノール樹脂)製のブッシュ123が外嵌されている。同ブッシュ123には、軸方向に貫通した複数のボルト用孔123aが形成されている。これらボルト用孔123aには、それぞれボルト54が挿通可能になっている。そして、同ボルト54により、カバー127のスリーブ部128がブッシュ123を介してフレーム110に取り付けられている。より詳しくは、図1の上側のボルト54aは、ブッシュ123側から挿通されてフレーム110に螺着されている。また、図1の下側のボルト54bは、ブッシュ123側から挿通されてスリーブ部128下側に螺着されている。
なお、ベークライト製のブッシュ123により、フレーム110とカバー127は電気的に絶縁される。
【0016】
カバー127のスリーブ部128内側には、ベアリング55を介してシャフト43が挿通支持されている。このシャフト43は、右端(図1の右端)側がガイドハウジング100側に延びて内ローラ17を固定支持し、左端(図1の左端)側がカバー127奥側に延び、ベアリング61により支承されている。同シャフト43の左端側には、クラッチ機構60が設けられるとともに、モータ駆動機構121に連設されている。これにより、モータ駆動機構121の駆動力が、クラッチ機構60及びシャフト43を介して内ローラ17に伝達されるようになっている。
【0017】
クラッチ機構60は、クラッチギア47とクラッチ盤48とから構成されている。クラッチギア47は、シャフト43の最も左端(図1の左端)寄りにおいて、黄銅製の支持スリーブ62を介して取り付けられている。支持スリーブ62は、ピン62´によりシャフト43に固定されている。さらに、クラッチギア47は、クラッチユニット63を備えている。このクラッチユニット63は、クラッチギア47に螺着されたクラッチスリーブ64と、このクラッチスリーブ64の内側に弾設されたバネ65と、このバネ65の先端に取り付けられた突起体66とから構成される。バネ65は、突起体66をクラッチ盤48側(図1の右側)に向けて付勢している。突起体66の先端は、円錐状に鋭利に形成されている。このようなクラッチユニット63は、クラッチギア47の周方向に互いに90°離れて4個設けられている。
【0018】
また、クラッチ盤48は、円筒部48a及び盤部48bを有する鍔付きスリーブ状をしている。同クラッチ盤48は、クラッチギア47とスリーブ部128との間において、ピン48´によりシャフト43に固定されている。このクラッチ盤48の盤部48bには、各クラッチユニット63の突起体66先端に対応した、すり鉢状の係合孔67が形成されている。
【0019】
クラッチギア47は、下方のギア49と噛み合っている。ギア49はもう一本のシャフト51と連結されている。このシャフト51は、左方に延びるトーチアーム53内を通ってサーボモータ(図示されず)まで延びている。したがって、内ローラ17は任意の回転数で回転駆動される。なお、クラッチギア47とギア49は同じ歯数であり、減速のためのものではなく、シャフトの位置をオフセットさせるためのものである。
【0020】
一方、外ガイドローラ15−1〜4とストレートナーローラ25は非駆動で、材質SK3(表面焼入れ)からなる。外ガイドローラ15−1、15−2、15−4とストレートナーローラ25の外周には、ワイヤ2を中央にガイドするためのグルーブ15a、25aが形成されている。なお、外ガイドローラ15−3のみはグルーブのないローラである。
外ガイドローラ15−1、15−2は、スイングアーム160の内側スペースに個別に配置されている。
【0021】
外ガイドローラ15−3は、基体140に設けたプッシュ機構70に支持されている。プッシュ機構70は、基体140の内外面に亘って貫通した穴141に配置されている。同プッシュ機構70はスリーブ71を備え、このスリーブ71に外ガイドローラ15−3が取り付けられている。このスリーブ71には、ノブ75を備えた軸73が挿通されている。そして、基体140に固定された固定片72とスリーブ71に形成された突片71bとの間には、戻しバネ(コイルバネ)74が弾設されている。一方、スリーブ71と軸73に形成された段部73aとの間には、押しバネ(皿バネ)79が弾設されている。戻しバネ74は、スリーブ71を穴141内に引き込む方向(したがって外ガイドローラ15−3を基体140に近付ける方向)に付勢している。
【0022】
軸73のおねじ73bが螺進する方向にノブ75を回すと、段部73aにより押しバネ79が縮み、これにより生じる弾性力がスリーブ71を押し出す方向に付勢する。これと同時に戻しバネ74も縮むが、これにより生じる弾性力はスリーブ71を引き込む方向に付勢する。これら相反する弾性力が釣り合った状態で、外ガイドローラ15−3の位置が決まる。
【0023】
外ガイドローラ15−4は、スライド機構90に支持されている。このスライド機構90は、基体140の係合穴145に配置された支持ブラケット97を備えている。同支持ブラケット97は、右端側(図2の右側)に突出した2つの突片97aにより、外ガイドローラ15−4を支持している。そして、基体140に固定された固定片87と支持ブラケット97に形成された突片97bとの間には、戻しバネ(コイルバネ)98が弾設されている。戻しバネ98と支持ブラケット97は、戻しバネ74とスリーブ71の関係と同様の意味を持つ。一方、基体140の一部には、支持ブラケット97を係合穴145内においてスライドさせるスライドノブ91を備えている。また、ストッパ99は、支持ブラケット97の端面に当接可能に設けられている。
【0024】
スライド機構90は、スライド91を回すことにより、支持ブラケット97を押し出すようになっている。このとき、戻しバネ98も縮み、これにより生じる弾性力は支持ブラケット97を引き込む方向に付勢する。支持ブラケット97の押し出し量が決まった時点で、ストッパ99を操作して支持ブラケット97の移動を阻止する。これにより、外ガイドローラ15−4の位置が決まる。
【0025】
ストレートナーローラ25は、内ローラ17の直下で調整プレート115に取り付けられている。調整プレート115は、横方向に延びる2つの長穴115a(図2参照)を有し、これら長穴115aにおいてプレート110に取り付けられている。この調整プレート115は、長穴115aに沿って横方向に変位可能である。
ストレートナーローラ25は、左上の外ガイドローラ15−4と対をなして、ワイヤ屈曲部13で付けられたワイヤ2の曲りグセを矯正するストレートナーの役割を果たす。
【0026】
ストレートナーローラ25を出たワイヤ2は、ロート口部26からシールドガスノズル35内に入り、同ノズル内下端の溶接チップ37を通って下方に突き出され、パイプの開先内に供給される。ノズル35とチップ37の間にはシールドガス通路36が形成されている。なお、符号31は、ワイヤ2に溶接電流を供給する給電部である。
【0027】
次に上記の構成からなる溶接トーチ1の作用について説明する。
この溶接トーチ1においては、右上のコンジットケーブル3から供給された溶接ワイヤ2が、ワイヤ屈曲部13で下向きに屈曲され、ストレートナーローラ25を通って、溶接チップ37から下に突き出される。
【0028】
通常の溶接ワイヤ2の送給時には、クラッチ機構60において、クラッチギア47の突起体66とクラッチ盤48の係合孔67とが係合している。したがって、図示しないサーボモータの駆動力がギア49を介してクラッチギア47に伝達され、さらにクラッチギア47の回転がクラッチ盤48を介してシャフト43に伝達される。これにより、内ローラ17が回転駆動し、溶接ワイヤ2は順次送給されていく。
【0029】
この状態から、溶接ワイヤ2が母材(被溶接材)に突き当たる等をして、ワイヤ屈曲部13において過大な送り力が生じたとする。すると、この送り力の衝撃により、クラッチギア47の突起体66とクラッチ盤48の係合孔67との係合が解除される。このとき、シャフト43は、ベアリング55のみで支持さた状態となり、クラッチギア47は、支持スリーブ62を滑りながら回転する。
【0030】
そして、クラッチギア47における突起体66の円錐状の先端に対して、すり鉢状の係合孔67が滑る。さらに、突起体66を付勢しているバネ65の弾性力に反して、クラッチ盤48の盤部48bにより、突起体66はクラッチスリーブ64内に押し込まれる。これにより、クラッチギア47とクラッチ盤48とがスムースに離れる。したがって、図示しないサーボモータの駆動力は、クラッチギア47とクラッチ盤48との間において遮断され、シャフト43及び内ローラ17は回転しなくなる。このため、溶接ワイヤ2の座屈が回避され、ワイヤつまりが防止される。
【0031】
さらに、一旦係合解除されたクラッチ機構60においては、クラッチギア47は回転し、クラッチ盤48(及びシャフト43)は停止した状態となっている。この後、クラッチギア47が所定量回転し、クラッチ盤48の係合孔67の位置に突起体66が達したとき、バネ65の弾性により突起体66が押し出され、これらが再び係合する。このようにして、通常のワイヤ送給状態に自動的に復帰する。
【0032】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、溶接ワイヤが母材(被溶接材)に突き当たったときに、溶接ワイヤが受ける衝撃を吸収し、座屈を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態で説明した溶接トーチの一例を示す一部断面側面図である。
【図2】同溶接トーチの一部断面正面図である。
【図3】同溶接トーチの一部断面平面図である。
【図4】同溶接トーチの一部断面上面図である。
【符号の説明】
1 溶接トーチ 2 溶接ワイヤ
3 コンジットケーブル 13 ワイヤ屈曲部
15 外ガイドローラ 17 内ローラ
37 溶接チップ 43 シャフト
47 クラッチギア 48 クラッチ盤
49 ギア 60 クラッチ機構
65 バネ 66 突起体
67 係合孔 121 モータ駆動機構
Claims (5)
- 溶接ワイヤを溶接点に向けて送り出す溶接チップと、
この溶接チップの中央に向けて上記溶接ワイヤを屈曲するワイヤ屈曲部と、
上記溶接ワイヤを送給するワイヤ送給機構と、
を備える溶接トーチであって;
上記ワイヤ送給機構中に過大な送り力が生じた場合に滑るクラッチが設けられていることを備えることを特徴とする溶接トーチ。 - 上記ワイヤ送給機構は、
屈曲される曲げアールの内径側に配置された、該曲げアールとほぼ同じ半径の内ローラと、
該内ローラの外周に配置された、上記溶接ワイヤを内ローラ方向に押す複数の外ローラと、
を備え、
上記クラッチが上記内ローラと同軸上に設けられていることを特徴とする請求項1記載の溶接トーチ。 - 上記クラッチは、
駆動源に連設されて回転駆動する回転体と、
該回転体に対向して設置されたクラッチ盤と、
を備え、
上記回転体に複数の突起体を設けるとともに、上記クラッチ盤に上記突起体と係合可能な孔を形成してなることを特徴とする請求項1又は2記載の溶接トーチ。 - 上記突起体の先端を円錐形に形成するとともに、上記孔を該突起体の先端と係合可能なすり鉢状に形成したことを特徴とする請求項3記載の溶接トーチ。
- 上記突起体を上記クラッチ盤側に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴とする請求項3又は4記載の溶接トーチ。
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