JP3758818B2 - 固体電解質の成膜方法、燃料極の成膜方法及び固体電解質と燃料極との成膜方法 - Google Patents

固体電解質の成膜方法、燃料極の成膜方法及び固体電解質と燃料極との成膜方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体電解質型燃料電池の固体電解質の成膜方法、燃料極の成膜方法及び固体電解質と燃料極との成膜方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、固体電解質型燃料電池には平板方式と円筒方式とがあり、さらに円筒方式には縦縞方式と横縞方式とがある。そして特に、円筒縦縞方式の固体電解質型燃料電池は図9に示す構造のものがある。この従来の単電池106は、内側から順に多孔質ランタンマンガネート系酸化物(LaMnOx)の空気極支持管101、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)製の固体電解質102、ニッケル又はニッケル合金とYSZとのサーメット製の燃料極103の積層構造にして、外周面の一部にインタコネクタ104を燃料極103から絶縁し、かつ内部の空気極支持管101に接続する形で配置している。
【0003】
しかしながら、このような従来の縦縞円筒方式の固体電解質型燃料電池では、各要素の材料がすべてセラミックス製で、かつ約850〜1050℃の高温で作動するため、特に熱膨張率の違う異種材料が重なり合うインタコネクタ104の付近や電池底部に応力が集中してクラックが発生しやすい問題点があった。
【0004】
そこで、この従来の問題点を解決するものとして特公平7−7673号、特開平7−263001号がある。このうち特開平7−263001号公報では、図10に示す構造の固体電解質型燃料電池110が提案されている。この提案されている従来の固体電解質型燃料電池110は、中心部に燃料供給用導電性チューブ111を挿入する構造を特徴としている。すなわち、内側から順に燃料極112、固体電解質113、空気極114を形成し、中心部に燃料噴出のために多孔質にした燃料供給用導電性チューブ111を挿入し、この導電性チューブ111と燃料極112との間に燃料改質機能を持つ導電性フェルト115を充填し、そして導電性チューブ111に燃料ガス116を供給し、外周に空気117を流通させるようにした構造である。
【0005】
この固体電解質型燃料電池110の発電作用について説明すると、電池110の導電性チューブ111内に天然ガス、メタン、石炭ガス化ガスなどの燃料ガス116を供給し、導電性チューブ111の多孔質の管壁を通じて導電性フェルト115の部分に噴出させ、この導電性フェルト115と燃料極112と固体電解質113の部分で高温度条件下、通常、650℃〜1050℃の条件下で次の化1式の改質反応を起こさせる。
【0006】
【化1】
Figure 0003758818
この改質反応で発生する水素に対して、固体電解質113を介して対極する燃料極112と空気極114との部分で次の化2式の発電反応を起こし、遊離した電子を集電することによって発電力を得る。
【0007】
【化2】
Figure 0003758818
つまり、燃料極112においては化2(a)式に示すように、改質反応で生成された水素が、固体電解質113から供給される酸化物イオンと反応して水蒸気と電子を生成する。そして燃料極112で生成された電子が導電性フェルト115と導電性チューブ111を経て陰極118から外部回路に回り、陽極119を経て空気極114に到達すると、この空気極114において、化2(b)式に示すように空気117中の酸素と反応して酸化物イオンを生成し、これが固体電解質113に放出され、燃料極112側に到達して化2(a)式の反応に供されるのである。
【0008】
このような発電機構の燃料電池110において、空気極114、固体電解質113及び燃料極112の部分は次にようにして形成している。まず空気極114となるランタンマンガネート系の多孔質の基材に対して電気化学蒸着法、つまり、CVD(Chemical Vapor Deposition )−EVD(Electrocheical Vapor Deposition )法を用いて薄く、かつ緻密なYSZ膜を固体電解質113として形成し、さらにこのYSZ膜にニッケル、コバルト、ニッケル又はコバルトを主成分とする合金、あるいはニッケルジルコニアサーメットの粉末をスラリーコートし、同じように電気化学蒸着法を施して多孔質の燃料極112を成膜し、あるいは特開平4−349343号公報に掲載されているような溶射法を用いて成膜するのである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このような従来の固体電解質型燃料電池の各膜の成膜方法において、特に固体電解質の成膜方法には電気化学蒸着法を用いていたために成膜に時間がかかり、かつ装置、原料など設備及び製造コストが高くなる問題点があった。
【0010】
また従来、燃料極の成膜方法についてはスラリーコートによるか、溶射による方法を用いていたのであるが、スラリーコート法の場合には膜厚を均一にすることが困難であり、また溶射法による場合、管体の内周面に成膜しようすると最低でも60mmφの内径を要し、それよりも小さい内径の管の内周面には成膜することができない問題点があった。
【0011】
加えて、固体電解質と燃料極とで異なった成膜方法を採用すると、製造工程にロスが発生する問題点もあった。
【0012】
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたもので、管内径が小さくてもその内周面に固体電解質と燃料極を成膜することができ、かつ均一な膜厚に成膜することができ、また電気化学蒸着法による成膜の場合にかかっていた時間を短縮することができ、製造コストも低減することができる固体電解質の成膜方法、燃料極の成膜方法及び固体電解質と燃料極との成膜方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明の固体電解質の成膜方法は、基体管を水平に保持して回転させ、前記基体管内に挿入したスラリー供給管を通して固体電解質材料スラリーを前記基体管内に供給しつつ、当該スラリー供給管を前記基体管の長手方向に移動させることによって当該基体管内周に固体電解質材料スラリーを塗布する工程と、
前記基体管内周に塗布された前記固体電解質材料スラリーを乾燥させて固体電解質材料層を前記基体管の内周面に形成する工程と、
前記固体電解質材料層を焼成して前記基体管の内周面に固体電解質を形成する工程とから成るものである。
【0014】
請求項1の発明の固体電解質の成膜方法では、基体管を水平に保持しつつ回転させて、基体管内に挿入したスラリー供給管を通して固体電解質材料スラリーを基体管内に供給しつつ当該スラリー供給管を基体管の長手方向に移動させることによって当該基体管内周面に固体電解質材料スラリーを塗布し、さらに乾燥させることによって基体管の内周面と密着性の良い固体電解質材料層を均一厚に形成することができる。このために、この後に固体電解質材料層を焼成して基体管の内周面に固体電解質を成膜することによって、均一にして基体管の内周面と密着性の良い固体電解質を成膜することができる。
【0015】
請求項2の発明の燃料極の成膜方法は、基体管を水平に保持して回転させ、前記基体管内に挿入したスラリー供給管を通して燃料極材料スラリーを前記基体管内に供給しつつ、当該スラリー供給管を前記基体管の長手方向に移動させることによって当該基体管内周に燃料極材料スラリーを塗布する工程と、
前記基体管内周に塗布された前記燃料極材料スラリーを乾燥させて燃料極材料層を前記基体管の内周面に形成する工程と、
前記燃料極材料層を焼成して前記基体管の内周面に燃料極を成膜する工程とから成るものである。
【0016】
請求項2の発明の燃料極の成膜方法では、基体管を水平に保持しつつ回転させて、基体管内に挿入したスラリー供給管を通して燃料極材料スラリーを基体管内に供給しつつ当該スラリー供給管を基体管の長手方向に移動させることによって基体管内周面に燃料極材料スラリーを塗布し、さらに乾燥させることによって基体管の内周面と密着性の良い燃料極材料層を均一厚に形成することができる。このために、この後の焼成工程によって基体管の内周面に燃料極を成膜することによって、均一にして基体管の内周面と密着性の良い燃料極を成膜することができる。
【0017】
請求項3の発明の固体電解質と燃料極との成膜方法は、固体電解質組成から燃料極組成に段階的に変化する複数種の組成の材料スラリーを用意し、当該複数種の組成の材料スラリーを前記固体電解質組成から燃料極組成に至る順に1種類ずつ選択し、基体管を水平に保持して回転させ、前記基体管内に挿入したスラリー供給管を通して前記選択した組成の材料スラリーを前記基体管内に供給しつつ、当該スラリー供給管を前記基体管の長手方向に移動させることによって当該基体管内周に前記材料スラリーを塗布する工程を前記複数種の組成の材料スラリーについて順次、繰り返し行う工程と、
複数層に塗布した材料スラリーを乾燥させて材料層を形成する乾燥工程と、
前記材料層を焼成して前記基体管の内周面に固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化された組成の材料膜を成膜する工程とから成るものである。
【0018】
請求項3の発明の固体電解質と燃料極との成膜方法では、固体電解質組成から燃料極組成に段階的に変化する複数種の組成の材料スラリーを用意し、基体管を水平に保持しつつ回転させて、基体管内に挿入したスラリー供給管を通してこれらの複数種の組成の材料スラリーそれぞれを基体管内に供給しつつ当該スラリー供給管を基体管の長手方向に移動させることによって順次塗布し、その後、複数層の材料スラリー層を乾燥させることによって、固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化した組成の材料層を基体管の内周面に均一厚に形成することができる。このために、この後の焼成工程によって固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化された組成の材料膜を均一厚に成膜することができる。
【0019】
請求項4の発明の固体電解質と燃料極との成膜方法は、固体電解質組成から燃料極組成に段階的に変化する複数種の組成の材料スラリーを用意し、当該複数種の組成の材料スラリーを前記固体電解質組成から燃料極組成に至る順に1種類ずつ選択し、基体管を水平に保持して回転させ、前記基体管内に挿入したスラリー供給管を通して前記選択した組成の材料スラリーを前記基体管内に供給しつつ、当該スラリー供給管を前記基体管の長手方向に移動させることによって当該基体管内周に前記材料スラリーを塗布する工程と、この1種類の材料スラリーの塗布の後に塗布されたスラリーを乾燥させて材料層を形成する工程とを、前記複数種の組成の材料スラリーについて順次、繰り返し行う工程と、
前記複数種の組成による複数層の材料層を同時に焼成して前記基体管の内周面に固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化された組成の材料膜を成膜する工程とから成るものである。
【0020】
請求項4の発明の固体電解質と燃料極との成膜方法では、固体電解質組成から燃料極組成に段階的に変化する複数種の組成の材料スラリーを用意し、基体管を水平に保持しつつ回転させて、基体管内に挿入したスラリー供給管を通して材料スラリーを基体管内に供給しつつ当該スラリー供給管を基体管の長手方向に移動させることによって塗布し、さらに乾燥させる工程を前記複数層の材料スラリーそれぞれについて繰り返すことによって、固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化した組成の材料層を基体管の内周面に均一厚に形成することができる。このために、この後の焼成工程によって固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化された組成の材料膜を均一厚に成膜することができる。
【0021】
請求項5の発明は、請求項1〜4の成膜方法において、前記材料スラリーの塗布工程において、前記基体管の内部気圧を外部気圧よりも高くするものであり、これによって材料スラリーが基体管内部に染み込んで均一厚にして密着性がいっそう高い材料層を形成することができ、結果的に均一にして基体管の内周面と密着性のより高い固体電解質、または燃料極を成膜することができる。
【0022】
請求項6の発明は、請求項1〜5の成膜方法において、前記材料層の乾燥工程において、温風を前記基体管内に通流させるものであり、材料スラリーを短時間で乾燥させて材料層を形成することができ、結果的に固体電解質または燃料極の成膜にかかる時間を短縮することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0024】
<固体電解質の成膜方法の実施の形態> 第1の実施の形態は、基体管の内周面に固体電解質を成膜する方法である。
【0025】
基体管10は、ストロンチウム添加ランタンマンガネート(LSM)製、円筒体の多孔質空気極であり、この基体管10の寸法は特に制限されるものではないが、固体電解質型燃料電池用として、以下では外形21mmφ、内径17mmφ、長さ0.5〜1mのものを用いた場合について説明する。
【0026】
固体電解質材料スラリーは、粒径0.1μm〜1.0μmのYSZ粉末とエタノールのような希釈剤とを混合したものである。その混合割合は、YSZ粉末が5〜50wt%が好ましい。そして図1に示すように、基体管10を水平にしてその両端を、同一方向に回転する回転体11,12に支持させる。そして一方の回転体11の中心軸部分にスラリー供給管13を軸方向にスライド移動可能に貫通させ、その先端部分を基体管10内に挿入する。
【0027】
そして固体電解質材料スラリー14をポンプ(図示せず)でスラリー供給管13に供給し、スラリー供給管13の先端部分から基体管10の内部に滴下させながら、軸方向にゆっくりと移動させる。
【0028】
回転体11,12の回転速度とスラリー供給管13の移動速度は固体電解質スラリーの濃度、供給流量、温度によって実験的に決定するものであるが、例示すれば、スラリー濃度が5〜50%である場合、回転速度は50〜300rpm、供給流量は5〜50ml/min、移動速度は0.1〜10cm/secと設定することができる。
【0029】
この固体電解質材料スラリー14の回転塗布工程で、基体管10の外部を真空引きすることによって基体管10の内圧を5〜20Torr程度高くすることにより、多孔質の基体管10に材料スラリー14がしみ込みやすくなり、後の工程で固体電解質と基体管10との密着性が向上する。
【0030】
この材料スラリー14の塗布工程は、基体管10の内周面のほぼ全面が5〜30μmの層厚になるように行い、スラリー供給管13の軸方向の移動は必要に応じて何度か往復させることができる。
【0031】
材料スラリー14を所定の層厚になるまで塗布した後、乾燥工程に移行する。ここでは、図2に示すようにスラリー供給管13を利用して、回転体11,12を回転させながら基体管10の内部に50〜200℃の温風15を供給し、塗布されている材料スラリー14を乾燥させて固体電解質材料層を基体管10の内周面に生成させる。
【0032】
固体電解質材料層の層厚は目標値として10〜40μmであるが、用いる固体電解質材料スラリーの濃度によって1回の塗布、乾燥工程で形成される層厚は異なってくるため、1回の塗布、乾燥工程で固体電解質材料層が目的とする層厚に達しない場合には、この塗布、乾燥工程を何度か繰り返して目的の層厚を形成するようにする。
【0033】
次に、固体電解質材料層の形成された基体管10に対して、従来から行われている焼成を行うことによって、図3に示すように固体電解質材料層を緻密な固体電解質膜16に成膜する。この焼成条件は特に限定されないが、例示すれば約1000〜1300℃、約5〜15時間で行う。
【0034】
こうして基体管10の内周面に成膜した固体電解質膜16は、基体管10を回転させながら材料スラリー14を塗布し、その後に乾燥させる工程で基体管10の内周面に材料層が均一厚に密着するので、その結果、固体電解質膜16も膜厚が均一で基体管10との密着性も良好なものとなる。
【0035】
<燃料極の成膜方法の実施の形態> 第2の実施の形態は、空気極とその内周面にすでに固体電解質が成膜されている基体管に対して、その内周面に燃料極を成膜する方法である。
【0036】
基体管10は、従来例で説明したのと同様に、ストロンチウム添加ランタンマンガネート(LSM)製、円筒体の多孔質空気極1の内周面に、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)製の緻密な固体電解質2をスラリーコーティング法、CVD−EVD法、あるいは上記した成膜方法によって形成したものを用いる(図4に示すように、空気極1と固体電解質2とで基体管10とする)。この基体管10の寸法は特に制限されるものではないが、固体電解質型燃料電池用として、以下では外形21mmφ、内径17mmφ、長さ0.5〜1mのものを用いた場合について説明する。
【0037】
燃料極材料スラリーは、ニッケル(Ni)粉末、コバルト粉末(Co)粉末、酸化ニッケル(NiO)粉末、酸化コバルト(CoO)粉末、あるいはニッケル粉末とYSZ粉末とを30〜60wt%:70〜40wt%の割合で混合した混合粉末と、セルロース系バインダのような希釈剤とを混合したものである。その混合割合は20〜70wt%が好ましい。
【0038】
使用する成膜装置は、第1の実施の形態と同じく図1及び図2に示したものである。ただし、この第2の実施の形態の場合、基体管10としては、空気極と共に固体電解質がその内周に成膜されているものが用いられる点、第1の実施の形態の基体管とは異なっている。
【0039】
回転体11,12の回転速度とスラリー供給管13の移動速度は燃料極材料スラリー14の濃度、供給流量、温度によって実験的に決定するものであるが、例示すれば、スラリー濃度が5〜50%である場合、回転速度は50〜300rpm、供給流量は5〜50ml/min、移動速度は0.1〜10cm/secと設定することができる。
【0040】
この燃料極材料スラリー14の回転塗布工程でも、基体管10の外部を真空引きすることによって基体管10の内圧を5〜20Torr程度高くすることにより、多孔質の基体管10に材料スラリー14がしみ込みやすくなり、後の工程で燃料極の基体管10との密着性が向上する。また材料スラリー14の塗布工程は、基体管10の内周面のほぼ全面が40〜100μmの層厚になるように行い、スラリー供給管13の軸方向の移動は必要に応じて何度か往復させることができる。
【0041】
材料スラリー14を所定の層厚になるまで塗布した後、図2に示した乾燥工程に移行するが、この実施の形態の場合、回転体11,12を回転させながら基体管10の内部に50〜200℃の温風15を供給し、塗布されている材料スラリー14を乾燥させて燃料極材料層を基体管10の内周面に生成させる。
【0042】
燃料極材料層の層厚は目標値として40〜100μmであるが、材料スラリー14の濃度によって1回の塗布、乾燥工程で形成される層厚は異なってくるため、1回の塗布、乾燥工程で目的とする層厚に達しない場合には、この塗布、乾燥工程を何度か繰り返して目的の層厚を形成するようにする。
【0043】
次に、燃料極材料層の形成された基体管10に対して焼成を行うことによって、図4に示すように基体管10の固体電解質2の内周面にサーメット化した多孔質の燃料極17を成膜する。この焼成条件は特に限定されないが、例示すれば約1000〜1300℃、約5〜15時間で行う。
【0044】
こうして基体管10の内周面に成膜した燃料極膜17は、基体管10を回転させながら材料スラリー14を塗布し、その後に乾燥させる工程で基体管10の内周面に材料層が均一厚に密着するので、その結果、燃料極膜17も膜厚が均一で基体管10の固体電解質2との密着性も良好なものとなる。
【0045】
<固体電解質と燃料極との成膜方法>
第3の実施の形態は、第1の実施の形態で説明した固体電解質の成膜方法を用いて基体管をなす空気極の内周面に固体電解質を成膜し、さらにこの固体電解質の内周面に第2の実施の形態で説明した燃料極の成膜方法を用いて燃料極を成膜することを特徴とする。すなわち、図5(a)に示すように、第1の実施の形態の固体電解質の成膜方法を使用して基体管10である空気極の内周面にまず固体電解質16を成膜し、さらに同図(b)に示すように、第2の実施の形態の燃料極の成膜方法を使用して、固体電解質16の内周面に燃料極17を成膜する。なお、基体管10の寸法、材料組成、成膜条件等はすべて第1の実施の形態、第2の実施の形態と共通する。また固体電解質材料スラリーを塗布する際には内圧を外圧よりも高くすることによって基体管10との密着性を高めることができる。
【0046】
この第3の実施の形態の固体電解質と燃料極との成膜方法によれば、固体電解質と燃料極とを共にスラリーコーティング方法によって成膜するので、従来の電気化学蒸着法による成膜方法よりも製造時間を短縮することができる。
【0047】
次に、第4の実施の形態の固体電解質と燃料極との成膜方法について、説明する。この第4の実施の形態の特徴は、空気極で成る基体管10の内周面に固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化させた組成の材料スラリー層を複数層に塗布し、その後にその全体を乾燥させて、さらに焼成することによって固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化した傾斜組成膜18を同時に成膜する点にある。以下、この成膜方法について、図6に基づいて説明する。基体管10には第1の実施の形態と同一の空気極をなす基体管を用いる。そして図1に示した装置によって基体管10を回転させながら、基体管10の内周面に第1の実施の形態と同じ固体電解質の組成に調製された固体電解質材料スラリー14を塗布して固体電解質材料組成のスラリー層19を形成する(図6(a)参照)。
【0048】
続いて、固体電解質組成と燃料極組成との中間組成で、ニッケル(Ni)粉末、コバルト粉末(Co)粉末、酸化ニッケル(NiO)粉末、酸化コバルト(CoO)粉末、あるいはニッケル粉末とYSZ粉末とを30〜60wt%:70〜40wt%の割合で混合した混合粉末と、セルロース系バインダのような希釈剤とを混合したスラリーであり、20〜70wt%程度の混合割合のものを用いる。そしてこの中間組成の材料スラリーを図1に示した装置によって固体電解質材料スラリー層19の内周面に塗布して中間組成材料スラリー層20を形成する(図6(b)参照)。
【0049】
次に、第2の実施の形態で用いた燃料極組成のスラリーを用いて、図1に示した装置によって中間組成材料スラリー層20の内周面に塗布して燃料極材料スラリー層21を形成する(図6(c)参照)。
【0050】
この後、これらの固体電解質材料組成〜燃料極材料間の傾斜化した組成の材料スラリー層19〜21に対して、図2に示した装置を用いて温風15を吹き込んで乾燥させ、傾斜化組成の材料層を形成する。この材料層の厚さは3層合計で第1の実施の形態の固体電解質材料層と第2の実施の形態の燃料極材料層との合計の層厚、つまり40〜100μm程度に設定する。
【0051】
以上のようにして傾斜化した組成の材料層を形成した後、基体管10に対して焼成を行うことによって、図7に示すように基体管10の内周面に固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化した組成の傾斜組成膜22を形成することができる。なお、この焼成条件は特に限定されないが、例示すれば約1000〜1300℃、約5〜15時間で行う。
【0052】
こうして基体管10の内周面に成膜した固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜組成膜22は、基体管10を回転させながら複数種の組成の材料スラリーを塗布してスラリー層19〜21を形成し、その後に乾燥させる工程で基体管10の内周面に材料層が均一厚に密着するので、その結果、傾斜組成膜22も膜厚が均一で基体管10との密着性も良好なものとなる。また固体電解質と燃料極とを同じ成膜工程で成膜するので、製造工程の簡略化、成膜時間の短縮化が図れる。
【0053】
なお、この第4の実施の形態において、複数種の組成の材料スラリーを順次塗布し、その全体を乾燥させる工程に代えて、複数種の組成の材料スラリー層それぞれを塗布し乾燥させる工程を順次繰り返し、その後に複数種の組成の材料層の全体を焼成することによって固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化した傾斜組成膜を同時に成膜する方法を採用することもできる。
【0054】
また、上記第1の実施の形態〜第4の実施の形態それぞれにおいて、材料スラリーの塗布工程と乾燥工程とを同時に行うために、図8に示したように、一方の回転体11のスラリー供給管13から材料スラリー14を基体管10内に供給しながら、他方の回転体12に接続した温風供給管25から温風15を基体管10内に吹き込み、材料スラリー14の基体管10の内周面への塗布と、乾燥による材料層の形成とを同時に行う構成の装置を用いることができる。そしてこの装置によれば塗布乾燥が同時にできるので、製造時間をさらに短縮することができる。
【0055】
【実施例】
(実施例1)
空気極となる外径21mmφ、内径17mmφ、長さ50cmであるLSM製の基体管を回転体に両端支持するように水平に取り付け、200rpmで回転させた。また基体管内を外部よりも高圧にするために回転体と基体管の部分を真空引きして10Torrの差圧を設定した。そして、YSZ粉末10wt%をエタノール希釈剤に混合した固体電解質材料スラリーを5mmφのスラリー供給管によって10ml/secの割合で基体管内に供給しつつ、このスラリー供給管を10cm/secの速度で基体管の長手方向に20回往復移動させて、基体管内周面に均一に固体電解質材料スラリーを塗布した。この後、スラリー供給管を通じて基体管の内部に50℃の温風を吹き込み、200rpmの回転速度で回転させながら乾燥させた。完全に乾燥した後に回転体から取り外して、内部に形成された固体電解質材料層を観察したが、層厚は20μmであった。
【0056】
続いて、この基体管を焼成炉に入れて焼成した。焼成条件は1200℃、10時間であった。この結果、基体管の内周面に成膜された固体電解質膜は、15μmの均一な膜厚であった。
【0057】
(実施例2)
空気極となる外径21mmφのLSM管の内周面に固体電解質となるYSZ膜が成膜されていて、外径21mmφ、内径17mmφ、長さ50cmである基体管を回転体に両端支持するように水平に取り付け、200rpmで回転させ、Ni粉末40wt%:YSZ粉末60wt%の混合粉末をエタノール希釈剤と50wt%:50wt%の割合で混合した燃料極材料スラリーを5mmφのスラリー供給管によって10ml/secの割合で基体管内に供給しつつ、このスラリー供給管を10cm/secの速度で基体管の長手方向に50回往復移動させて、基体管内周面に均一に燃料極材料スラリーを塗布した。
【0058】
この後、スラリー供給管を通じて基体管の内部に50℃の温風を吹き込み、200rpmの回転速度で回転させながら乾燥させた。完全に乾燥した後に回転体から取り外して、内部に形成された燃料極材料層を観察したが、層厚は50μmであった。
【0059】
続いて、この基体管を焼成炉に入れて焼成した。焼成条件は1180℃、10時間であった。この結果、基体管の内周面に成膜された燃料極膜は、45μmの均一な膜厚であった。
【0060】
(実施例3)
実施例1と同じサイズ、材質の基体管に同じ条件で固体電解質を成膜した。その後、実施例2と同じ条件で燃料極を固体電解質の内周面に形成した。
【0061】
この結果、基体管の内周面に成膜された固体電解質、燃料極は共に均一な膜厚であった。
【0062】
(実施例4)
実施例1と同じ仕様の基体管の内周面に対して、YSZ粉末10wt%をエタノール希釈剤に混合した固体電解質材料スラリーを実施例1と同じ条件で塗布し、20μmの固体電解質材料スラリー層19を形成した。
【0063】
続いて、この固体電解質材料スラリー層19の内周面に対して、ニッケル(Ni)粉末とYSZ粉末とを30wt%:70wt%の割合で混合した混合粉末と、セルロース系バインダの希釈剤とを1:1の割合で混合した固体電解質組成と燃料極組成との中間組成のスラリーを用い、固体電解質材料スラリーの場合と同じ条件で塗布して20μmの固体電解質と燃料極との中間組成の材料スラリー層20を形成した。
【0064】
さらに、この中間組成の材料スラリー層20の内周面に対して、実施例2と同じ組成の燃料極材料スラリーを実施例2と同じ条件で塗布して20μmの燃料極材料スラリー層21を形成した。
【0065】
この後、3層の材料スラリー層19〜21が形成された基体管を図2の装置によって温風15を吹き込んで乾燥させ、層厚50μmの傾斜組成を持つ傾斜組成材料層を形成した。
【0066】
そしてこの後、この基体管を焼成炉に入れて焼成した。焼成条件は1180℃、10時間であった。この結果、基体管の内周面に固体電解質組成から燃料極組成に至るまで組成が傾斜した傾斜組成膜22を形成することができ、その膜厚は全体で45μmの均一なものであった。
【0067】
【発明の効果】
以上のように請求項1の発明の固体電解質の成膜方法によれば、基体管を水平に保持しつつ回転させて、基体管内に挿入したスラリー供給管を通して固体電解質材料スラリーを基体管内に供給しつつ当該スラリー供給管を基体管の長手方向に移動させて基体管内周面に固体電解質材料スラリーを塗布し、この後に材料スラリーを乾燥させるので、基体管の内周面と密着性の良い固体電解質材料層を均一厚に形成することができ、このために、この後に固体電解質材料層を焼成することによって、均一にして基体管の内周面と密着性の良い固体電解質を成膜することができ、短時間のうちに膜厚の均一な固体電解質を成膜することができ、固体電解質の成膜にかかる製造コストの低下、製造時間の短縮を図ることができる。
【0068】
請求項2の発明の燃料極の成膜方法によれば、基体管を水平に保持しつつ回転させて、基体管内に挿入したスラリー供給管を通して燃料極材料スラリーを基体管内に供給しつつ当該スラリー供給管を基体管の長手方向に移動させて基体管内周面に燃料極材料スラリーを塗布し、この後に材料スラリーを乾燥させるので、基体管の内周面と密着性の良い燃料極材料層を均一厚に形成することができ、このために、この後に燃料極材料層を焼成することによって、均一にして基体管の内周面と密着性の良い燃料極を成膜することができ、短時間のうちに膜厚の均一な燃料極を成膜することができ、燃料極の成膜にかかる製造コストの低下、製造時間の短縮を図ることができる。
【0069】
請求項3の発明の固体電解質と燃料極との成膜方法によれば、固体電解質組成から燃料極組成に段階的に変化する複数種の組成の材料スラリーを用意し、基体管を水平に保持しつつ回転させて、基体管内に挿入したスラリー供給管を通して前記複数種の材料スラリーそれぞれを基体管内に供給しつつ当該スラリー供給管を基体管の長手方向に移動させることによって順次塗布し、その後、複数層の材料スラリー層を乾燥させるので、固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化した組成の材料層を基体管の内周面に均一厚に形成することができ、このために、この後の焼成工程によって固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化された組成の材料膜を均一厚に成膜することができ、同一の工程によって固体電解質と燃料極を成膜することができ、成膜にかかる時間とコストを大幅に節約することができる。
【0070】
請求項4の発明の固体電解質と燃料極との成膜方法によれば、固体電解質組成から燃料極組成に段階的に変化する複数種の組成の材料スラリーを用意し、基体管を水平に保持しつつ回転させて、基体管内に挿入したスラリー供給管を通して材料スラリーを基体管内に供給しつつ当該スラリー供給管を基体管の長手方向に移動させることによって塗布し、その後に乾燥させる工程を、複数種の材料スラリーそれぞれに対して繰り返すので、固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化した組成の材料層を基体管の内周面に均一厚に形成することができ、このために、この後の焼成工程によって固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化された組成の材料膜を均一厚に成膜することができ、同一の工程によって固体電解質と燃料極を成膜することができ、成膜にかかる時間とコストを大幅に節約することができる。
【0071】
請求項5の発明の成膜方法によれば、材料スラリーの塗布工程において、基体管の内部気圧を外部気圧よりも高くするので、材料スラリーが基体管内部に染み込んで均一厚にして密着性がいっそう高い材料層を形成することができ、結果的に均一にして基体管の内周面と密着性のより高い固体電解質、または燃料極を成膜することができる。
【0072】
請求項6の発明の成膜方法によれば、材料層の乾燥工程において、温風を基体管内に通流させるものであり、材料スラリーを短時間で乾燥させて材料層を形成することができ、結果的に固体電解質または燃料極の成膜にかかる時間をいっそう短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に使用する材料スラリー塗布装置の斜視図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に使用する材料スラリーの乾燥装置の斜視図。
【図3】本発明の第1の実施の形態による固体電解質型燃料電池の断面図。
【図4】本発明の第2の実施の形態による固体電解質型燃料電池の断面図。
【図5】本発明の第3の実施の形態による固体電解質型燃料電池の断面図。
【図6】本発明の第4の実施の形態の工程説明図。
【図7】本発明の第4の実施の形態による固体電解質型燃料電池の断面図。
【図8】本発明の第1の実施の形態に使用する材料スラリー塗布乾燥装置の斜視図。
【図9】従来例の斜視図。
【図10】他の従来例の斜視図。
【符号の説明】
1 空気極
2 固体電解質
10 基体管
11 回転体
12 回転体
13 スラリー供給管
14 材料スラリー
15 温風
16 固体電解質
17 燃料極
19 固体電解質材料スラリー層
20 中間組成材料スラリー層
21 燃料極材料スラリー層
22 傾斜組成膜
25 温風供給管

Claims (6)

  1. 基体管を水平に保持して回転させ、前記基体管内に挿入したスラリー供給管を通して固体電解質材料スラリーを前記基体管内に供給しつつ、当該スラリー供給管を前記基体管の長手方向に移動させることによって当該基体管内周に固体電解質材料スラリーを塗布する工程と、
    前記基体管内周に塗布された前記固体電解質材料スラリーを乾燥させて固体電解質材料層を前記基体管の内周面に形成する工程と、
    前記固体電解質材料層を焼成して前記基体管の内周面に固体電解質を成膜する工程とから成る固体電解質の成膜方法。
  2. 基体管を水平に保持して回転させ、前記基体管内に挿入したスラリー供給管を通して燃料極材料スラリーを前記基体管内に供給しつつ、当該スラリー供給管を前記基体管の長手方向に移動させることによって当該基体管内周に燃料極材料スラリーを塗布する工程と、
    前記基体管内周に塗布された前記燃料極材料スラリーを乾燥させて燃料極材料層を前記基体管の内周面に形成する工程と、
    前記燃料極材料層を焼成して前記基体管の内周面に燃料極を成膜する工程とから成る燃料極の成膜方法。
  3. 固体電解質組成から燃料極組成に段階的に変化する複数種の組成の材料スラリーを用意し、当該複数種の組成の材料スラリーを前記固体電解質組成から燃料極組成に至る順に1種類ずつ選択し、基体管を水平に保持して回転させ、前記基体管内に挿入したスラリー供給管を通して前記選択した組成の材料スラリーを前記基体管内に供給しつつ、当該スラリー供給管を前記基体管の長手方向に移動させることによって当該基体管内周に前記材料スラリーを塗布する工程を前記複数種の組成の材料スラリーについて順次、繰り返し行う工程と、
    複数層に塗布した材料スラリーを乾燥させて材料層を形成する乾燥工程と、
    前記材料層を焼成して前記基体管の内周面に固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化された組成の材料膜を成膜する工程とから成る固体電解質と燃料極との成膜方法。
  4. 固体電解質組成から燃料極組成に段階的に変化する複数種の組成の材料スラリーを用意し、当該複数種の組成の材料スラリーを前記固体電解質組成から燃料極組成に至る順に1種類ずつ選択し、基体管を水平に保持して回転させ、前記基体管内に挿入したスラリー供給管を通して前記選択した組成の材料スラリーを前記基体管内に供給しつつ、当該スラリー供給管を前記基体管の長手方向に移動させることによって当該基体管内周に前記材料スラリーを塗布する工程と、この1種類の材料スラリーの塗布の後に塗布されたスラリーを乾燥させて材料層を形成する工程とを、前記複数種の組成の材料スラリーについて順次、繰り返し行う工程と、
    前記複数種の組成による複数層の材料層を同時に焼成して前記基体管の内周面に固体電解質組成から燃料極組成に至る傾斜化された組成の材料膜を成膜する工程とから成る固体電解質と燃料極との成膜方法。
  5. 前記材料スラリーの塗布工程において、前記基体管の内部気圧を外部気圧よりも高くすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成膜方法。
  6. 前記材料層の乾燥工程において、温風を前記基体管内に通流させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の成膜方法。
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