JP3757803B2 - トーコレクトブッシュおよびそれを用いたサスペンション機構 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、自動車のサスペンションブッシュの一種であるトーコレクトブッシュとそれを用いたサスペンション機構に係り、特に、トーションビーム式リジットアクスル型のサスペンション機構に用いられて、左右のトレーリングアームのボデー側への取付部位に装着される新規な構造のトーコレクトブッシュと、それを用いた新規な構造のサスペンション機構に関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、自動車におけるトーションビーム式リジットアクスル型のサスペンション機構において、トーションビームで連結された左右のトレーリングアームのボデー側への取付部位に装着されるサスペンションブッシュの一種として、特開平9−104212号公報や特開平11−247914号公報,特開平11−257396号公報,特開2000−74117号公報等に記載されているように、インナ軸金具の軸方向一方の端部において、軸方向外方に傾いて径方向一方向で斜め外方に向かって突出するインナ側傾斜部を設けると共に、アウタ筒金具の軸方向一方の端部において、軸方向外方に傾いて径方向一方向で斜め外方に向かって突出し、インナ側傾斜部に対して略平行な対向面で離隔して対向位置するアウタ側傾斜部を形成する一方、それらインナ軸金具とアウタ筒金具の径方向対向面間に本体ゴム弾性体を介在せしめて両金具を弾性連結せしめると共に、インナ側傾斜部とアウタ側傾斜部の対向面間に介装されてそれらを弾性的に連結するトーコレクトゴム弾性体を、かかる本体ゴム弾性体と一体的に形成した構造のトーコレクトブッシュが、知られている。かくの如き構造のトーコレクトブッシュは、その中心軸(インナ軸金具およびアウタ筒金具の中心軸)が車両横方向となり、インナ側およびアウタ側の傾斜部の突出する軸直角方向が車両前後方向となる状態で自動車に装着されることとなり、その特性が、自動車の走行時におけるトレーリングアーム、延いては車両の変位に大きな影響を及ぼすことから、目的とする車両の乗心地や操縦安定性が発揮されるように、トーコレクトブッシュの特性がチューニングされる。
【0003】
このようなトーションビーム式サスペンション機構において目的とする特性は、車両の乗心地と操縦安定性の高次元での両立であり、一般に、車両の乗心地向上のために車両前後方向のばね定数を柔らかく設定しつつ、コーナリング荷重の入力時におけるサスペンション部材の車両横方向における変位を抑えて横力ステアによるオーバステアを防止乃至は軽減することにより車両の走行安定性を向上させることが重要とされる。
【0004】
ところで、従来のトーコレクトブッシュでは、その設計および特性評価に際して、専ら、中心軸方向および軸直角方向でのばね特性と荷重―変位特性だけが考慮されていた。即ち、乗心地の設計や評価を、軸直角方向でのばね特性の柔らかさに基づいて行う一方、操縦安定性の設計や評価を、中心軸方向でのばね特性の硬さと、中心軸方向への入力に伴う軸直角方向の変位量(トーコレクト量)の抑制に基づいて行っていたのである。
【0005】
そのために、従来構造のトーコレクトブッシュにおいては、前記公報等にも記載されているように、単に、インナ軸金具とアウタ筒金具の径方向対向面間を弾性連結する本体ゴム弾性体に対して、車両前後方向となる軸直角方向でインナ軸金具を挟んで対向位置する両側部分にそれぞれ軸方向に延びる一対のスリットを形成することにより、車両前後方向のばね特性を柔らかく設定する一方、車両横方向となる軸方向では、インナ軸金具とアウタ筒金具の相対変位量を弾性的に制限するストッパ手段を設けて軸方向の高ばね特性を確保すると共に、トーコレクトゴム弾性体で弾性連結されたインナ側傾斜部とアウタ側傾斜部における互いに平行な傾斜面の傾斜角度を調節することにより、中心軸方向でのばね特性の硬さと、中心軸方向への入力に伴う軸直角方向の変位量(トーコレクト量)を調節していたに過ぎなかったのである。
【0006】
しかしながら、このような従来構造のトーコレクトブッシュでは、サスペンション機構への装着状態下での荷重入力方向と、かかる方向への荷重入力に伴う変位特性が直接には考慮されなかったのであり、そのために、前述の如き車両の乗心地と操縦安定性を高次元で両立させるようなブッシュ特性の最適チューニングを、トーコレクトブッシュ、延いてはサスペンション機構の全体を把握して行うことが難しかったのである。
【0007】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、サスペンション機構への装着状態下で発揮される乗心地と操縦安定性を、各個別でなく全体として捉えることにより、それら乗心地と操縦安定性の両方の要求特性をより高次元で両立して達成することの出来る、新規な構造のトーコレクトブッシュと、それを用いた新規な構造のサスペンション機構を提供することにある。
【0008】
すなわち、本発明者は、サスペンション機構への装着状態下におけるトーコレクトブッシュの荷重―変位特性をFEM(有限要素法)等を用いて詳細に検討した結果、かかるトーコレクトブッシュの設計に際しては、弾性主軸の方向と弾性主軸方向のばね定数を考慮することが有効であり、特に、上述のように、乗心地と操縦安定性の最適バランスを実現するためには、中心軸に対する弾性主軸の傾斜角度(主軸角度)を、外力の入力方向に応じて調節し、その上で、圧縮方向となる弾性主軸Iと剪断方向となる弾性主軸IIでのばね定数の比(主軸ばね比)の値を大きく設定することが有効である、との新たな知見を得たのである。即ち、このようなチューニングをトーコレクトブッシュに施すことにより、結果として、サスペンション部材の車両前後方向におけるボデーに対する支持ばね特性を柔らかく設定して優れた乗心地を確保しつつ、コーナリング時にサスペンション部材を略車両横方向に変位させて、オーバステアを抑制し、より好適には弱いアンダステアを付与することで、良好な操縦安定性を与えることが可能となる、との知見を得たのである。
【0009】
そして、更に多数の実験と検討を重ねた結果、中心軸に対する弾性主軸の傾斜角度(主軸角度)を、外力の入力方向に応じて調節し、その上で、圧縮方向となる弾性主軸Iと剪断方向となる弾性主軸IIでのばね定数の比(主軸ばね比)の値を大きく設定することを実現する一つの具体的構成として、トーコレクトゴム弾性体によって連結されたインナ側傾斜部とアウタ側傾斜部の対向面間距離、換言すればトーコレクトゴム弾性体の肉厚寸法を小さくすることが極めて有効であるとの知見を得たのであり、以て、かかる知見に基づいて、本発明が完成されるに至ったのである。
【0010】
【解決手段】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載され、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ軸部材と、その外方に離隔配置されたアウタ筒部材を、それらの径方向対向面間に介装された本体ゴム弾性体で連結すると共に、該インナ軸部材の軸方向一方の端部において、軸方向外方に傾いて径方向一方向で斜め外方に向かって突出するインナ側傾斜部を設ける一方、前記アウタ筒部材の軸方向一方の端部において、軸方向外方に傾いて径方向一方向で斜め外方に向かって突出し、該インナ側傾斜部に対して離隔して対向位置せしめられたアウタ側傾斜部を設けて、それらインナ側傾斜部とアウタ側傾斜部の対向面間にトーコレクトゴム弾性体を介在せしめたトーコレクトブッシュにおいて、前記トーコレクトゴム弾性体で弾性連結された前記インナ側傾斜部と前記アウタ側傾斜部における対向面間距離を、それら傾斜部の突出方向で変化させて、該トーコレクトゴム弾性体における突出方向の中間部分において、内周側端部の肉厚寸法および外周側端部の肉厚寸法の何れよりも肉厚寸法の小さい狭窄部を設けたことにある。
【0012】
このような本態様に従う構造とされたトーコレクトブッシュにおいては、インナ側傾斜部とアウタ側傾斜部の対向面間に介在せしめられたトーコレクトゴム弾性体における突出方向の中間部分の肉厚寸法が、内周側端部および外周側端部よりも小さく設定されることとなり、その結果、トーコレクトゴム弾性体の耐久性を確保しつつ、該トーコレクトゴム弾性体で弾性連結されたインナ側傾斜部とアウタ側傾斜部の対向面間距離を全体として小さく設定することが可能となるのである。即ち、かかるトーコレクトブッシュにおいては、車両走行時にインナ軸部材とアウタ筒部材の間に及ぼされる外力が、インナ側傾斜部とアウタ側傾斜部の間でトーコレクトゴム弾性体にも及ぼされることとなるが、インナ側傾斜部およびアウタ側傾斜部は、何れも外周側に向かって広がる扇形状とされており、その内周側幅寸法が外周側幅寸法より小さくされていることから、トーコレクトゴム弾性体に対する受圧面積乃至は支持面積が内周側で小さくなる。そのために、トーコレクトゴム弾性体の内周側で発生応力が大きくなる傾向にあるが、本態様のトーコレクトブッシュにおいては、トーコレクトゴム弾性体の肉厚寸法を、該トーコレクトゴム弾性体に対する受圧面積乃至は支持面積が小さい内周側で大きくされていることから、トーコレクトゴム弾性体における内周部分のボリュームが大きく確保されて、荷重入力時におけるトーコレクトゴム弾性体の内周側端部における発生応力が小さく抑えられ得ることとなる。
【0013】
また、かかるトーコレクトブッシュには、トレーリングアームを含むサスペンション部材の揺動に際してトーコレクトブッシュに入力される捩じり方向等の耐久性が問題となり易く、特に捩じり方向の荷重が及ぼされた際に、捩じり中心からの離隔距離が大きいトーコレクトゴム弾性体の外周側端部では、変形量が大きくなって亀裂等が発生し易く、耐久的に不利になる傾向にある。しかしながら、本態様のトーコレクトブッシュにおいては、変形量が大きい外周側の肉厚寸法を大きく設定したことにより、捩じり荷重が入力されてインナ軸部材とアウタ筒部材が周方向で相対的に大きく捩じり変位せしめられた場合でも、トーコレクトゴム弾性体の外周側端部における歪量、換言すればトーコレクトゴム弾性体における単位長さ当りの弾性変形量が小さく抑えられ得る。
【0014】
従って、このような本態様に従う構造とされたトーコレクトブッシュにおいては、耐久性の低下が問題となり易いトーコレクトゴム弾性体における内周側端部と外周側端部の何れにおいても、ゴム弾性体の自由長を大きく設定して、発生歪を小さく抑えることが出来るようにする一方、発生応力乃至は歪が比較的小さい両傾斜部の突出方向の中央部分に狭窄部を設けて、ばね剛性を確保することが可能となり、それによって、圧縮方向となる弾性主軸Iと剪断方向となる弾性主軸IIでのばね定数の比(主軸ばね比)の値を大きく設定することが可能となるのである。
【0015】
しかも、かかるトーコレクトブッシュにおいては、インナ軸部材とアウタ筒部材からそれぞれ径方向一方向に突設されたインナ側傾斜部とアウタ側傾斜部がトーコレクトゴム弾性体で弾性連結されることにより、インナ軸部材およびアウタ筒部材の中心軸と両傾斜部の突出側に延びる径方向線とを含む一平面内で互いに直交する上記弾性主軸Iと弾性主軸IIが、トーコレクトブッシュの中心軸とそれに直交する軸(横断軸)に対して傾斜して設定されているのであり、それによって、車両前後方向では、圧縮側の弾性主軸Iよりも柔らかいばね特性が発揮され得て、良好なる車両乗心地が実現され得るのである。
【0016】
そして、それ故、かかるトーコレクトブッシュにおいては、良好なる耐久性と、車両前後方向での柔らかいばね特性とを、何れも有利に確保しつつ、コーナリングに際しての車両横方向荷重の入力時における横力ステアを抑えることが出来るのであり、以て、十分な耐久性のもとに、乗心地と操縦安定性を高度に両立させることが可能となるのである。
【0017】
なお、本態様におけるトーコレクトゴム弾性体の狭窄部は、例えば、インナ側傾斜部とアウタ側傾斜部の少なくとも何れか一方を突出方向で湾曲乃至は屈曲させて対向方向で接近側に突出させることによって有利に形成され得る。そこにおいて、インナ側傾斜部をアウタ側傾斜部に向かって突出させることによって、トーコレクトゴム弾性体への接着面積がアウタ側傾斜部よりも小さくなり易いインナ側傾斜部における接着面積を大きくすることが可能となり、トーコレクトゴム弾性体における応力の集中が一層有利に軽減され得る。また一方、アウタ側傾斜部をインナ側傾斜部に向かって突出させて狭窄部を形成することとすれば、インナ側傾斜部をアウタ側傾斜部に向かって突出させる場合に比して、傾斜部のプレス加工等による形成が容易となって、より優れた製作性が実現可能となる。
【0018】
また、本態様におけるトーコレクトゴム弾性体は、車両への装着状態下でインナ軸部材とアウタ筒部材の間への軸方向荷重入力により圧縮変形せしめられてトーコレクト機能を発揮するものであり、インナ軸部材とアウタ筒部材の間に荷重が入力されていない車両装着前の状態下では、アウタ筒部材の絞り加工等による圧縮力(予圧縮)がトーコレクトゴム弾性体に及ぼされている必要はない。
【0019】
また、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に従う構造とされたトーコレクトブッシュにおいて、前記インナ軸部材および前記アウタ筒部材の中心軸と前記インナ側傾斜部および前記アウタ側傾斜部が突出する側に延びる径方向線とを含む一平面内において、かかる平面内に位置せしめられた圧縮方向の弾性主軸Iにおける、前記中心軸に対する傾斜角度を、自動車への装着状態下でコーナリングに際して及ぼされる横方向荷重による外力の入力方向における、該中心軸に対する傾斜角度よりも大きく設定したことを、特徴とする。このような本態様においては、圧縮方向の弾性主軸Iと剪断方向の弾性主軸IIが、横方向荷重による外力の入力方向を挟んだ両側に設定されることとなり、且つ、圧縮方向の弾性主軸Iが横方向荷重による外力の入力方向よりも車両前後方向に大きく傾斜して設定されると共に、剪断方向の弾性主軸IIが横方向荷重による外力の入力方向よりも車両横方向に大きく傾斜して設定されることとなる。従って、横方向荷重による外力の入力に際して、インナ軸部材とアウタ筒部材が相対変位せしめられる方向(変位方向)が、かかる外力の入力方向に対して、ばね特性が柔らかい弾性主軸II方向側、即ち車両横方向に傾斜せしめられることとなるのであり、その結果、コーナリングに際しての車両横方向荷重の入力時にインナ軸部材とアウタ筒部材が、より一層中心軸方向に近い方向に変位せしめられて、操縦安定性の更なる向上が図られ得るのである。
【0020】
また、本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に従う構造とされたトーコレクトブッシュにおいて、前記トーコレクトゴム弾性体で弾性連結された前記インナ側傾斜部と前記アウタ側傾斜部における少なくとも一方の対向面において、突出方向の略中央部分から内周側と外周側の両方に向かってそれぞれ略一定の傾斜角度で延びる内周側傾斜平坦面および外周側傾斜平坦面として、該インナ側傾斜部と該アウタ側傾斜部を突出方向の略中央部分から内周側と外周側の両方に向かって次第に離隔せしめたことを、特徴とする。このような本態様においては、インナ側傾斜部とアウタ側傾斜部における少なくとも一方の対向面を内周側傾斜平坦面および外周側傾斜平坦面によって構成することにより、対向方向に突出して狭窄部を形成するインナ側傾斜部またはアウタ側傾斜部を、プレス加工等によって一層容易に製造することが可能となると共に、トーコレクトゴム弾性体の内周部分や外周部分への応力集中も良好に回避され得ることとなる。
【0021】
また、本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れかの態様に従う構造とされたトーコレクトブッシュにおいて、前記インナ側傾斜部および前記アウタ側傾斜部が突出する径方向で前記インナ軸部材を挟んだ両側に位置せしめられた、該インナ軸部材と該アウタ筒部材の径方向対向面間において、それぞれ軸方向に延びる一対のスリットを設けたことを、特徴とする。このような本態様においては、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向対向面間を弾性連結する本体ゴム弾性体に対して、車両前後方向で対向位置する一対のスリットが形成されていることにより、車両前後方向のばね特性が一層低動ばね化されて乗心地の更なる向上が図られ得る。しかも、車両前後方向のばね特性が柔らかくされることにより、弾性主軸に対するトーコレクトゴム弾性体の影響が大きくなって、圧縮方向の弾性主軸Iを車両横方向側に一層近付けて傾斜設定することも容易となる。
【0022】
また、本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れかの態様に従う構造とされたトーコレクトブッシュにおいて、前記インナ側傾斜部と前記アウタ側傾斜部が、前記インナ軸部材および前記アウタ筒部材の軸直角方向で相互に重ならないように軸方向に離隔して相対位置せしめられていることを、特徴とする。このような本態様においては、軸直角方向の荷重がインナ軸部材とアウタ筒部材の間に及ぼされた際に、インナ側傾斜部とアウタ側傾斜部が軸直角方向では直接に対向位置せしめられていないことから、例えば軸直角方向の荷重入力時においても、それら両傾斜部の間に介在せしめられたトーコレクトゴム弾性体における過大な圧縮応力の発生が軽減乃至は回避され得るのであり、それによって、トーコレクトゴム弾性体の耐久性の更なる向上が図られ得るのである。
【0023】
また、本発明は、左右のトレーリングアームをトーションビームで連結したサスペンション部材を、自動車のボデーに対して揺動可能に防振連結せしめたサスペンション機構において、前記サスペンション部材における車両前方側の左右両側部分に対して、前記本発明の第一乃至第五の何れかの態様に係る構造とされたトーコレクトブッシュをそれぞれ装着せしめて、それらのトーコレクトブッシュを介して、該サスペンション部材を前記ボデーに防振連結すると共に、かかる左右両側のトーコレクトブッシュの中心軸を車両左右方向に向けて、且つ前記インナ側およびアウタ側の傾斜部を車両前後方向に突出せしめて、車両中央を前後方向に延びる中央線を挟んで左右両側で対称となるように配設せしめたサスペンション機構も、特徴とする。
【0024】
このような本発明に従う構造とされたサスペンション機構においては、各トーコレクトブッシュにおける前述の如き特性に基づいて、車両コーナリング時におけるサスペンション部材の外力による変位を、車両横方向に近い方向に向かわせて横力ステアをより一層抑えることが出来るのであり、それによって、良好なる車両の走行安定性を、車両の乗心地を確保しつつ達成することが可能となるのである。
【0025】
【発明の実施形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0026】
先ず、図1〜4には、本発明の一実施形態としてのトーコレクトブッシュ10が、示されている。このトーコレクトブッシュ10は、インナ軸部材としての内筒金具12とアウタ筒部材としての外筒金具14が、互いに径方向に離隔して配置されていると共に、それら内外筒金具12,14間に本体ゴム弾性体16が介装されて、両金具12,14が弾性的に連結された構造とされている。
【0027】
より詳細には、内筒金具12は、ストレートな小径の円筒形状を有しており、軸方向一方(図1中の左方)の端部近くには、インナ側傾斜部としての固定プレート18が固着されている。この固定プレート18は、プレス金具等の剛性部材で形成されて、略扇形の平板形状を有しており、扇形の中心部分には、円弧形状の嵌着用切欠20が設けられている。そして、嵌着用切欠20に対して内筒金具12が挿通され、嵌着用切欠20の内周縁部が内筒金具12に溶着されることによって、固定プレート18が内筒金具12に固着されている。
【0028】
固定プレート18は、内筒金具12から離れるに従って幅広となる略扇形状を有しており、内筒金具12の中心軸22に対して傾斜して軸方向斜め外方に向かって突出せしめられている。特に本実施形態では、かかる固定プレート18は、内筒金具12に近接する内周側基端部24を除いた略全体において、内筒金具12の中心軸22に対して略一定の傾斜角度:θaで外方に向かって突設されており、それによって、中心軸22に対して傾斜した略平坦な傾斜面が形成されている。なお、固定プレート18の内周側基端部24は、固定プレート18の外周部分よりも中心軸22に対する傾斜角度が大きくされている。
【0029】
また、固定プレート18は、その中心部分の幅寸法(図2中の左右方向寸法)が、内筒金具12の外径寸法と外筒金具14の内径寸法の略中間程度にされていると共に、その突出先端部の最も大きな幅寸法が、外筒金具14の内径寸法に略近い大きさとされている。なお、固定プレート18の突出先端面(外周面)は、内筒金具12の中心軸22を略中心とする円弧形状とされている。また、固定プレート18の幅方向両側縁部と外周縁部(突出先端部)には、内筒金具12の軸方向外方に向かって屈曲せしめられた補強リブ26が一体形成されている。
【0030】
また一方、外筒金具14は、大径の円筒形状を有しており、内筒金具12に外挿されることにより、内筒金具12の径方向外方に離隔して内筒金具12と略同一中心軸(22)上に配されている。なお、外筒金具14の軸方向長さは、内筒金具12よりも短くされており、内筒金具12の軸方向両端部分が外筒金具14から軸方向外方に突出せしめられている。また、外筒金具14の軸方向一方(図1中の左方)の開口周縁部には、径方向外方に突出して周方向に連続して延びるフランジ状部28が一体形成されている。
【0031】
そして、フランジ状部28の周上の一部分(図1,2中の上側部分)には、アウタ側傾斜部としての傾斜板対向部30が形成されている。この傾斜板対向部30は、フランジ状部28の径方向外方に延長されていると共に、外筒金具14の軸方向外方に傾斜せしめられており、それによって、内筒金具12に突設された固定プレート18に対して斜め軸方向に離隔し、固定プレート18に対して対向位置せしめられている。
【0032】
さらに、傾斜板対向部30は、突出方向の略中央部分から内周側と外周側の両方に向かってそれぞれ略一定の傾斜角度:θb,θcで延びる、内周側傾斜平坦面32および外周側傾斜平坦面34によって構成されている。それによって、傾斜板対向部30は、突出方向の略中央部分においてフランジ状部28の径方向外方に立ち上がるようにして屈曲せしめられており、その中央部分が固定プレート18との対向方向で接近側に突出せしめられている。換言すれば、かかる傾斜板対向部30は、内外筒金具12,14の中心軸22に対して、フランジ状部28の基端部から固定プレート18の傾斜角度:θaよりも小さな略一定の傾斜角度:θbで、固定プレート18に接近するようにして外周側に突出せしめられていると共に、傾斜板対向部30の略中央部分から固定プレート18の傾斜角度:θaよりも大きな略一定の傾斜角度:θcで、固定プレート18から離隔するようにして外周側に突出せしめられている。
【0033】
これにより、後述するトーコレクトゴム弾性体としてのトーコレクトゴム36の肉厚寸法を与えることとなる固定プレート18と傾斜板対向部30の対向面間距離:Wが、図5に拡大して示されているように、それら固定プレート18と傾斜板対向部30の突出方向で起伏状に変化せしめられており、後述するトーコレクトゴム36の内周側の肉厚寸法を与えることとなる内周側端部の対向面間距離:Waと、トーコレクトゴム36の外周側の肉厚寸法を与えることとなる外周側端部の対向面間距離:Wbが、相互に略同一とされて且つ最も大きくされている一方、これら両端部からそれぞれ傾斜板対向部30の略中央部分に向かって、トーコレクトゴム36の肉厚寸法が次第に縮小せしめられて、後述するトーコレクトゴム36における狭窄部としての小厚部38の肉厚寸法を与えることとなる傾斜板対向部30の略中央部分の対向面間距離:Wcが、最も小さくされている。
【0034】
また、傾斜板対向部30(外周側傾斜平坦面34)は、その突出先端面40が、固定プレート18よりも大径の略円弧形状とされていると共に、その周方向長さが、固定プレート18よりも十分に大きくされており、固定プレート18の周方向両側に張り出して位置せしめられている。
【0035】
さらに、本体ゴム弾性体16は、全体として厚肉の略円筒形状を有しており、内筒金具12と外筒金具14の径方向対向面間に介在せしめられている。そして、本体ゴム弾性体16の内外周面が、内筒金具12の外周面と外筒金具14の内周面に対してそれぞれ加硫接着されることにより、本体ゴム弾性体16が、それら内外筒金具12,14を有する一体加硫成形品として形成されている。
【0036】
また、本体ゴム弾性体16は、固定プレート18と傾斜板対向部30の対向面間にも延び出しており、以て、それら固定プレート18と傾斜板対向部30の対向面間の全体に亘って充填されたトーコレクトゴム36が、本体ゴム弾性体16と一体的に形成されている。これにより、特に本実施形態では、トーコレクトゴム36の肉厚寸法:Wが固定プレート18と傾斜板対向部30の突出方向で起伏状に変化せしめられており、トーコレクトゴム36の内筒金具12側に位置する内周側端部と、トーコレクトゴム36の固定プレート18および傾斜板対向部30の突出先端部側に位置する外周側端部の肉厚寸法:Wa,Wbが、何れも、トーコレクトゴム36の最大肉厚寸法とされていると共に、トーコレクトゴム36の内周側端部および外周側端部から何れも中央部分に向かって次第に薄肉化せしめられて、かかる中央部分には、トーコレクトゴム36の最小肉厚寸法:Wcを有する狭窄部としての小厚部38が形成されている。
【0037】
なお、トーコレクトゴム38によって相互に連結された固定プレート18と傾斜板対向部30は、内外筒金具12,14の軸直角方向断面で互いに重なり合わないように、軸方向で相互に所定距離:Dだけ離れて位置せしめられており、それによって、内外筒金具12,14間に軸直角方向荷重が及ぼされた際に、トーコレクトゴム38によって固定プレート18と傾斜板対向部30の間に及ぼされるばね剛性が軽減されるようになっている。また、本体ゴム弾性体16は、トーコレクトゴム36が位置しない部分でも、内筒金具12の外周面に沿って固定プレート18まで軸方向に延び出しており、以て、固定プレート18の外周面を被覆するカバーゴム42が、本体ゴム弾性体16と一体的に形成されている。
【0038】
更にまた、本体ゴム弾性体16には、固定プレート18や傾斜板対向部30が突出する径方向で内筒金具12を挟んだ両側において、内外筒金具12,14間を軸方向に延びる一対のスリットとしてのすぐり部44,44が形成されている。更にまた、これら一対のすぐり部44,44の対向方向に直交する径方向で内筒金具12を挟んだ両側には、内外筒金具12,14間を軸方向に延びる一対のスリット46,46が形成されている。これら各一対のすぐり部44,44とスリット46,46は、何れも、トーコレクトゴム36と反対側(図1中の右側)の軸方向端面に開口して、略一定の断面形状で軸方向に直線的に延びるようにして形成されている。なお、一対のスリット46,46は、図4にも示されているように、僅かな薄膜状の軸方向底部48,48を残しているが、実質的には貫通した軸方向深さをもって形成されている。これにより、一対のすぐり部44,44および一対のスリット46,46の対向位置する各径方向のばね特性が、十分に軟らかく設定されている。
【0039】
さらに、各一対のすぐり部44,44とスリット46,46は、何れも、その断面形状において、外筒金具14側から内筒金具12側に向かって径方向内方に行くに従って次第に周方向幅寸法が小さくなる略扇形断面形状を有している。なお、これらすぐり部44とスリット46は、何れも、実質的に内筒金具12の外周面から外筒金具14の内周面まで至る径方向寸法を有しており、これらすぐり部44とスリット46が形成された部分の内外筒金具12,14の表面には、本体ゴム弾性体16の成形時における型開閉性等の理由で形成された薄肉ゴム層だけが存在しているに過ぎない。
【0040】
すなわち、本体ゴム弾性体16に対して、各一対のすぐり部44,44とスリット46,46が形成されることにより、本体ゴム弾性体16には、互いに周方向に隣接するすぐり部44とスリット46の間を径方向に延びて内筒金具12と外筒金具14を連結する四本の脚部構造の径方向連結部50が形成されているのである。そして、これらの径方向連結部50によって、すぐり部44およびスリット46の周方向両側の側壁部が構成されている。
【0041】
さらに、一対のすぐり部44,44には、それぞれ、外周側壁面の周方向略中央部分から径方向内方に向かって突出する略台形断面のストッパ54が、軸方向に延びるようにして突設されている。ここにおいて、ストッパ54は、本体ゴム弾性体16と一体成形されてゴム弾性体で形成されており、本体ゴム弾性体16の軸直角方向断面において、その周方向幅寸法および高さ寸法が、すぐり部44よりも小さくされている。そして、軸直角方向に大きな荷重が入力された際、ストッパ54の突出先端部がすぐり部44の内周側壁部を介して内筒金具12側に当接せしめらることにより、内外筒金具12,14の径方向の相対変位量を緩衝的に制限するストッパ機構が構成されている。
【0042】
ところで、上述の如き構造とされたトーコレクトブッシュ10においては、予め目的とする形状で内外筒金具12,14を形成した後、それらの間で本体ゴム弾性体16とトーコレクトゴム36を加硫成形して加硫接着することにより製品とすることも可能であるが、望ましくは、目的寸法よりも大径の外筒金具14を用いて、内外筒金具12,14間に本体ゴム弾性体16とトーコレクトゴム36を加硫成形して加硫接着せしめた後、外筒金具14に対して絞り加工等の縮径加工を施すことにより目的とする形状寸法に調整することによって製品とされることとなり、それによって、本体ゴム弾性体16や、更には必要に応じて、トーコレクトゴム36にも、予圧縮を加えることが可能となって、耐久性の向上が図られ得る。
【0043】
具体的には、例えば、図6に示されているように、外筒金具(14)の筒壁部の外径寸法が目的とする寸法よりも全体的に大径とされた成形金具14′(外筒金具14)を準備する。
【0044】
そして、これら内筒金具12および成形金具14′を所定のゴム加硫成形型内にセットして、本体ゴム弾性体16とトーコレクトゴム36を同時に一体加硫成形すると共に、両金具12,14′に加硫接着することによって、一体加硫成形品を形成する。その後、成形金具14′に対して八方絞り等の縮径加工を施すことにより、図1〜4に示されているような目的とする形状寸法を有するトーコレクトブッシュ10を製造することが出来るのである。なお、特に本実施形態においては、図1に示されている如き、外筒金具14の軸方向中間部分だけを所定長さに亘って大径部とした段付形状とされており、外筒金具14の圧入等によるサスペンション部材への装着作業性の向上が図られている。
【0045】
而して、このような構造とされたトーコレクトブッシュ10は、図7に示されているように、例えば、車両の左右両側の車輪を支持する一対のトレーリングアーム56,56を車幅方向(車両左右方向)に延びるトーションビーム58で相互に連結固定せしめたトーションビーム式サスペンション機構60に対して、一対が組み付けられる。即ち、その左右両側のトレーリングアーム56,56の各車両前端部分に形成された車幅方向に延びる装着孔に対して、外筒金具14を圧入固定する一方、内筒金具12をロッド等を介して車両ボデーに固定することにより、図7において、トーコレクトブッシュ10は、その左右方向が車両左右方向で、上下方向が車両前後方向となる状態で装着される。また、各トレーリングアーム56の先端部分において、内筒金具12の固定プレート18と外筒金具14の傾斜板対向部30が、それぞれ、車両左右方向で内方に位置し、且つ車両の斜め前方に向かって突出せしめられるように、車両中央を前後方向に延びる対称軸(中央線):X−Xを挟んで、互いに対称的に装着される。
【0046】
すなわち、このような装着状態下においては、車両のコーナリング時に、タイヤ62,62から車両左右方向に及ぼされる向心力:fによって、各トーコレクトブッシュ10に対して、内外筒金具12,14(トーコレクトブッシュ10)の中心軸22に対して入力角度:θzだけ傾斜した方向で、内外筒金具12,14間に外力:Fが及ぼされることとなる。そして、かかる外力:Fによって、本体ゴム弾性体16とトーコレクトゴム36が弾性変形せしめられることにより、内外筒金具12,14が、相対的に変位せしめられて、トーションビーム式サスペンション機構60に、車両ボデーに対する相対的な変位が生ぜしめられることとなる。
【0047】
そこにおいて、かかるトーコレクトブッシュ10においては、図8に示されるように、その弾性主軸I,IIが、トーコレクトブッシュ10の中心軸22および軸直角方向線64に対して、それぞれ、傾斜角度:γaだけ傾斜して設定されており、それら両弾性主軸I,IIの方向に設定されたばね特性に基づいて、優れた操縦安定性が発揮されるようになっている。
【0048】
より具体的には、中心軸22と軸直角方向線64を含む略水平な平面内において、ばね定数が最も大きくなる圧縮方向の弾性主軸Iと、ばね定数が最も小さくなる剪断方向の弾性主軸IIが、互いに直交して発現されることとなるが、それらは、何れも、中心軸22および軸直角方向線64に対して、傾斜角度:γaだけ傾斜して設定されている。特に本実施形態においては、弾性主軸Iの中心軸22に対する傾斜角度:γaが、外力:Fの中心軸22に対する、図7におけるθzに等しい傾斜角度:γbよりも大きく設定されている。換言すれば、弾性主軸Iよりも、コーナリング時の外力:Fの中心軸22に対する傾斜角度:γbの方が、車両左右方向に近づく方向に傾斜して設定されている。それ故、外力:Fの分力が弾性主軸Iと弾性主軸IIの各方向側に近づく方向に生ぜしめられるのであるが、これら弾性主軸I,IIは、外力:Fの入力方向を挟んだ両側に位置せしめられており、特に、弾性主軸I側の分力の入力方向が、外力:Fの入力方向よりも車両後方側に傾斜している一方、弾性主軸II側の分力の入力方向が、外力:Fの入力方向よりも車両前方側に傾斜している。しかも、剪断方向側の弾性主軸IIの方が、圧縮方向側の弾性主軸Iよりもばね定数が十分に小さく設定されている。
【0049】
それ故、外力:Fの弾性主軸II側の分力:F(II)と弾性主軸I側の分力:F(I)の比の値:F(II)/F(I)が、外力:Fによって生ぜしめられる内外筒金具12,14の相対的変位量:Sの弾性主軸IIに沿った方向の成分:δdと弾性主軸Iに沿った方向の成分:δcの比の値:δd/δcよりも、小さくされる。その結果、図8に示されているように、内外筒金具12,14の相対的変位量:Sの中心軸22に対する傾斜角度:γcが、外力:Fの入力方向よりも車両左右方向側に傾斜せしめられて、γc<γbとされ、以て、コーナリング時の車両左右方向荷重に伴う内外筒金具12,14の変位方向が、外力:Fの入力方向よりも水平方向(中心軸方向)とされるようになっている。特に望ましくは、外力:Fの入力時に、中心軸22の方向に生ぜしめられる弾性変形量:δaの方が、軸直角方向線64の方向に生ぜしめられる弾性変形量:δbよりも大きくなるようにされる。
【0050】
ここにおいて、外力:Fの入力によって生ぜしめられる内外筒金具12,14の相対的変位量:Sの方向は、中心軸22の方向に生ぜしめられる弾性変形量:δaおよび軸直角方向線64の方向に生ぜしめられる弾性変形量:δbで表される。以下に、これらの弾性変形量:δa,δbの値を求める計算方法を示す。
【0051】
先ず、圧縮(弾性主軸I)側の弾性変形量:δc(mm)および剪断(弾性主軸II)側の弾性変形量:δd(mm)は、外力:F(N),弾性主軸Iの中心軸22に対する傾斜角度:γa(度),外力:Fの中心軸22に対する傾斜角度:γb(度),弾性主軸Iのばね定数:Ks1(N/mm)および弾性主軸IIのばね定数:Ks2(N/mm)を用いて次のように表すことが出来る。
δc=(F×cos(γa−γb))/Ks1・・・(1)
δd=(F×sin(γa−γb))/Ks2・・・(2)
【0052】
また、内外筒金具12,14の相対的変位量:Sの中心軸22に対する傾斜角度:γc(度)は、弾性主軸Iの中心軸22に対する傾斜角度:γa(度),圧縮(弾性主軸I)側の弾性変形量:δc(mm)および剪断(弾性主軸II)側の弾性変形量:δd(mm)を用いて、次のように表すことが出来る。
γc=γa−tan-1(δd/δc)・・・(3)
【0053】
そして、中心軸22の方向に生ぜしめられる弾性変形量:δa(mm)および軸直角方向線64の方向に生ぜしめられる弾性変形量:δb(mm)は、内外筒金具12,14の相対的変位量:Sの中心軸22に対する傾斜角度:γc(度),圧縮(弾性主軸I)側の弾性変形量:δc(mm)および剪断(弾性主軸II)側の弾性変形量:δd(mm)を用いて、次のように表すことが出来る。
δa=√(δc2 +δd2 )×cos(γc)・・・(4)
δb=√(δc2 +δd2 )×sin(γc)・・・(5)
【0054】
これらの(4),(5)式により、δaおよびδbを求めることが出来る。そして、δaの値がδbの値より大きくなるように、且つδbの値が限りなく0に近づくようにチューニングすれば、目的とする特性を有するトーコレクトブッシュ10を得ることが出来る。
【0055】
その結果、コーナリング時において、横方向(車両左右方向)荷重が入力された際のトーコレクトブッシュ10の弾性変位によってサスペンション機構60に生ぜしめられるオーバステア方向の変位が抑制されて、車両の優れた操縦安定性が発揮され得るのである。
【0056】
しかも、圧縮側の高ばね定数の弾性主軸Iの方向は、車両前後方向に対して傾斜角度:θdだけ車両左右方向に傾斜せしめられていることから、車両前後方向のばね特性も十分に柔らかく確保され得るのであり、それによって、優れた乗心地も発揮され得るのである。
【0057】
また、コーナリング時において、横方向(車両左右方向)荷重が入力された際のトーコレクトブッシュ10の弾性変位によってサスペンション機構60に生ぜしめられるオーバステア方向の変位を抑制して操縦安定性を向上させるためには、トーコレクトブッシュ10の主軸ばね比を大きく設定することが有効である。かかる主軸ばね比は、図8に示されている如き、トーコレクトゴム36の長さ:Lと肉厚寸法:Wの比の値:L/Wを大きくする程、有利に確保することが出来る。そこにおいて、トーコレクトゴム36の長さ:Lは、トーコレクトブッシュ10の配設スペース等によって制限されることから、トーコレクトゴム36の肉厚寸法:Wを小さくすることが有効となる。それによって、主軸ばね比を大きく設定し、コーナリングに際しての荷重入力時において、サスペンション機構60が一層有利に車両左右方向に変位せしめられて、オーバステアが抑制されるように、サスペンション機構60における操縦安定性の更なる向上が図られ得る。
【0058】
ここにおいて、本実施形態においては、トーコレクトゴム36によって連結された固定プレート18と傾斜板対向部30の対向面が相対的に傾斜せしめられて、トーコレクトゴム36の肉厚寸法:Wが、突出方向の中央部分と両端部分(内周側および外周側端部)で異ならされている。そして、トーコレクトゴム36の突出方向(斜め軸方向)の中央部分の肉厚寸法:Wcが十分に小さく設定されていることによって、大きいばね比が実現され得ると共に、トーコレクトゴム36の内周側および外周側の肉厚寸法:Wa,Wbが大きく確保されていることによって、優れた耐久性が発揮される。
【0059】
すなわち、本実施形態のトーコレクトブッシュ10においては、固定プレート18および傾斜板対向部30が何れも外周側に向かって広がる扇形状とされており、内周側に行くほどトーコレクトゴム36のボリューム(体積)が小さくされているために、捩り荷重(中心軸22回りの荷重)や軸直角方向荷重の入力時において、トーコレクトゴム36に対して、内周側に行くほど大きな応力が生ぜしめられることとなるが、内周側の肉厚寸法:Waが大きく設定されていることから、トーコレクトゴム36における歪量が有利に抑えられ得る。その結果、固定プレート18の内周縁部における周方向幅寸法が小さくされているのに拘わらず、トーコレクトゴム36を薄肉とした場合でも、高度な耐久性が確保され得るのである。
【0060】
また、かかるトーコレクトブッシュ10においては、特に捩じり方向やこじり方向の荷重が及ぼされた際に、捩じり中心乃至はこじり中心からの離隔距離が大きいトーコレクトゴム36の外周側に行くほど、変形量が大きくなるが、外周側の肉厚寸法:Wbが大きく設定されていることから、トーコレクトゴム36の外周側端部における歪量が有利に抑えられ得る。それ故、トーコレクトゴム36の長手寸法が大きくされているのに拘わらず、トーコレクトゴム36を薄肉とした場合でも、高度な耐久性が確保され得るのである。
【0061】
従って、上述の如き構造とされたトーコレクトブッシュ10においては、トーコレクトゴム36の肉厚寸法:Wを、固定プレート18および傾斜板対向部28の突出方向で変化させて、トーコレクトゴム36の内周側端部および外周側端部で、トーコレクトゴム36の中央部分よりも厚肉としたことにより、内外筒金具12,14間に大きな荷重が入力された場合においても、トーコレクトゴム36における歪量、換言すればトーコレクトゴム36における単位長当たりの弾性変形量延いては発生応力が小さく抑えられて、亀裂等の発生が効果的に防止され得、良好なる耐久性が発揮されることとなる。
【0062】
また、トーコレクトゴム36、延いてはトーコレクトブッシュ10の耐久性を十分に確保しつつ、トーコレクトゴム36によって連結された固定プレート18および傾斜板対向部30の対向面間距離:Wを、固定プレート18および傾斜板対向部30の少なくとも突出方向の中央部分で小さく設定することにより、圧縮方向となる弾性主軸Iと剪断方向となる弾性主軸IIでのばね定数の比(主軸ばね比)の値を一層大きく設定することが可能となるのである。
【0063】
それ故、本実施形態のトーコレクトブッシュ10においては、優れた耐久性と、車両前後方向での柔らかいばね特性とを、何れも有利に確保しつつ、コーナリングに際しての車両左右方向の荷重の入力時に、内外筒金具12,14の弾性変位に起因するオーバステア傾向を抑制乃至は防止し、好適には弱いアンダステア特性を付与せしめることにより、走行安定性を向上させることが出来るのであり、以て、十分な耐久性のもとに、乗心地と操縦安定性を高度に両立させることが出来るのである。
【0064】
また、本実施形態においては、トーコレクトゴム36の小厚部38が、外筒金具14に一体形成された傾斜板対向部30を屈曲せしめることによって形成されていることから、傾斜板対向部30の形成、延いてはトーコレクトブッシュ10の製造が容易であると共に、トーコレクトゴム36への局部的な応力集中も回避されて、より優れた耐久性を得ることが可能となる。しかも、傾斜板対向部30における内周側傾斜平坦面32の傾斜角度:θbと外周側平坦面34の傾斜角度:θcの差が特に大きく設定されていることにより、トーコレクトゴム36における内外周縁部の肉厚寸法:Wa,Wbを大きく確保しつつ、小厚部38の肉厚寸法:Wcが十分に小さく設定されて、固定プレート18と傾斜板対向部30の対向方向のばね剛性を一層有利に確保することが出来る。
【0065】
さらに、本実施形態においては、内筒金具12と外筒金具14の径方向対向面間を弾性連結する本体ゴム弾性体16に対して、車両前後方向で対向位置する一対のすぐり部44,44が形成されていることから、車両前後方向のばね特性が一層低動ばね化されて、乗心地の更なる向上が図られ得ると共に、弾性主軸に対するトーコレクトゴム36の影響が大きくなって、圧縮方向の弾性主軸Iを中心軸方向に一層近付けて傾斜設定することも可能となる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0067】
例えば、小厚部38を形成する固定プレート18と傾斜板対向部30における軸方向(突出方向)の中間部分を、突出方向の所定長さに亘って互いに平行とすることによって、かかる小厚部38を突出方向の所定長さで略一定の厚さ寸法で延びるように形成することも可能である。
【0068】
また、前記実施形態では、小厚部38が固定プレート18と傾斜板対向部30の対向面間において、それら固定プレート18と傾斜板対向部30の周方向(幅方向)全体に亘って形成されていたが、例えば傾斜板対向部30の周方向中央部分だけを固定プレート18側に突出せしめて、かかる小厚部38を固定プレート18と傾斜板対向部30における周方向の中間部分だけに形成し、周方向の両端部分の対向面間距離を、換言すれば小厚部38の肉厚寸法を大きく設定するようにしても良い。それによって、トーコレクトゴム36における自由表面からの亀裂等の発生を、該トーコレクトゴム36の周方向両端面を含んで一層有利に回避することが出来る。
【0069】
さらに、前記実施形態では、トーコレクトゴム36における軸方向両端部の肉厚寸法:Wa,Wbが相互に略同一とされていたが、ばね定数のチューニングや本体ゴム弾性体16の選択される材質等に応じて、相互に肉厚寸法を異ならせても良い。
【0070】
更にまた、内筒金具12と外筒金具14は、装着状態下に及ぼされる静的荷重等を考慮して、装着前の非荷重入力状態下で軸直角方向で偏心配置せしめられていても良い。
【0071】
また、軸方向と軸直角方向の荷重入力に際して分力作用を発揮する傾斜面は、前記実施形態における固定プレート18や傾斜板対向部30のように軸方向端部に設ける必要はなく、例えば、特開平8−219211号公報に記載されているように、内外筒金具12,14の軸方向中央部分に形成することも可能である。
【0072】
加えて、本発明は、例えば、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向対向面間において、インナ軸部材を挟んだ軸直角方向両側に位置して、それぞれ本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された一対の流体室を形成すると共に、それら一対の流体室を相互に連通するオリフィス通路を形成することにより、インナ軸部材とアウタ筒部材の間への軸直角方向の振動入力時に、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした、各種の流体封入式のトーコレクトブッシュに対しても、同様に適用可能であり、それによって、上述の如き本発明の効果が何れも同様に発揮され得ることとなる。
【0073】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【0074】
【発明の効果】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされたトーコレクトブッシュにおいては、インナ側傾斜部とアウタ側傾斜部の対向面間に介在せしめられるトーコレクトゴム弾性体の肉厚寸法をインナ側傾斜部およびアウタ側傾斜部の突出方向で変化せしめて、突出方向(斜め軸方向)の中間部分の肉厚寸法を内周側端部および外周側端部よりも小さく設定したことにより、トーコレクトゴム弾性体における応力集中を軽減乃至は回避しつつ、大きいばね比が有利に実現され得るのである。
【0075】
また、本発明に従う構造とされたサスペンション機構においては、サスペンション部材の車両ボデーに対する車両前後方向での支持ばね特性が柔らかく設定され得ると共に、コーナリングに際して車両横方向の荷重が入力された際には、サスペンション部材の車両前後方向への変位、延いては横力ステアが抑えられ得ることから、車両の乗心地と操縦安定性を高次元で両立させることが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態としてのトーコレクトブッシュの縦断面図である。
【図2】図1における左側面図である。
【図3】図1における右側面図である。
【図4】図3におけるIV―IV断面図である。
【図5】図1に示されたトーコレクトブッシュの要部拡大図である。
【図6】図1に示されたトーコレクトブッシュの縮径加工が施される前の縦断面図である。
【図7】図1に示されたトーコレクトブッシュのサスペンション機構への装着状態を示す概略図である。
【図8】図7に示された右側のトーコレクトブッシュに作用する力を示す図である。
【符号の説明】
10 トーコレクトブッシュ
12 内筒金具
14 外筒金具
16 本体ゴム弾性体
18 固定プレート
30 傾斜板対向部
36 トーコレクトゴム
38 小厚部
Claims (6)
- インナ軸部材と、その外方に離隔配置されたアウタ筒部材を、それらの径方向対向面間に介装された本体ゴム弾性体で連結すると共に、該インナ軸部材の軸方向一方の端部において、軸方向外方に傾いて径方向一方向で斜め外方に向かって突出するインナ側傾斜部を設ける一方、前記アウタ筒部材の軸方向一方の端部において、軸方向外方に傾いて径方向一方向で斜め外方に向かって突出し、該インナ側傾斜部に対して離隔して対向位置せしめられたアウタ側傾斜部を設けて、それらインナ側傾斜部とアウタ側傾斜部の対向面間にトーコレクトゴム弾性体を介在せしめたトーコレクトブッシュにおいて、
前記トーコレクトゴム弾性体で弾性連結された前記インナ側傾斜部と前記アウタ側傾斜部における対向面間距離を、それら傾斜部の突出方向で変化させて、該トーコレクトゴム弾性体における突出方向の中間部分において、内周側端部の肉厚寸法および外周側端部の肉厚寸法の何れよりも肉厚寸法の小さい狭窄部を設けたことを特徴とするトーコレクトブッシュ。 - 前記インナ軸部材および前記アウタ筒部材の中心軸と前記インナ側傾斜部および前記アウタ側傾斜部が突出する側に延びる径方向線とを含む一平面内において、かかる平面内に位置せしめられた圧縮方向の弾性主軸Iにおける、前記中心軸に対する傾斜角度を、自動車への装着状態下でコーナリングに際して及ぼされる横方向荷重による外力の入力方向における、該中心軸に対する傾斜角度よりも大きく設定した請求項1に記載のトーコレクトブッシュ。
- 前記トーコレクトゴム弾性体で弾性連結された前記インナ側傾斜部と前記アウタ側傾斜部における少なくとも一方の対向面において、突出方向の略中央部分から内周側と外周側の両方に向かってそれぞれ略一定の傾斜角度で延びる内周側傾斜平坦面および外周側傾斜平坦面として、該インナ側傾斜部と該アウタ側傾斜部を突出方向の略中央部分から内周側と外周側の両方に向かって次第に離隔せしめた請求項1又は2に記載のトーコレクトブッシュ。
- 前記インナ側傾斜部および前記アウタ側傾斜部が突出する径方向で前記インナ軸部材を挟んだ両側に位置せしめられた、該インナ軸部材と該アウタ筒部材の径方向対向面間において、それぞれ軸方向に延びる一対のスリットを設けた請求項1乃至3の何れかに記載のトーコレクトブッシュ。
- 前記インナ側傾斜部と前記アウタ側傾斜部が、前記インナ軸部材および前記アウタ筒部材の軸直角方向で相互に重ならないように軸方向に離隔して相対位置せしめられている請求項1乃至4の何れかに記載のトーコレクトブッシュ。
- 左右のトレーリングアームをトーションビームで連結したサスペンション部材を、自動車のボデーに対して揺動可能に防振連結せしめたサスペンション機構において、
前記サスペンション部材における車両前方側の左右両側部分に対して、請求項1乃至5の何れかに記載のトーコレクトブッシュをそれぞれ装着せしめて、それらのトーコレクトブッシュを介して、該サスペンション部材を前記ボデーに防振連結すると共に、かかる左右両側のトーコレクトブッシュの中心軸を車両左右方向に向けて、且つ前記インナ側およびアウタ側の傾斜部を車両前後方向に突出せしめて、車両中央を前後方向に延びる中央線を挟んで左右両側で対称となるように配設せしめたことを特徴とするサスペンション機構。
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