JP3755396B2 - 熱間圧延用ロール外層材および耐クラック性に優れた遠心鋳造製熱間圧延用複合ロール - Google Patents
熱間圧延用ロール外層材および耐クラック性に優れた遠心鋳造製熱間圧延用複合ロール Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、遠心鋳造製複合ロールに関し、とくに熱間圧延の仕上後段スタンド用としてに好適な熱間圧延用複合ロールや継目無鋼管造管用としてに好適な複合ロールに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、熱間圧延技術の進歩はめざましく、それに伴い、使用される熱間圧延用ロールの特性、とくに耐摩耗性の向上が強く要求されてきた。このような耐摩耗性向上の要求に対し、外層組成を高速度工具鋼組成に類似した組成とし、硬質な炭化物を析出させて、耐摩耗性を格段に向上させた高性能ロール(ハイス系ロール)が開発され実用化されている。
【0003】
例えば、特開平8−73977 号公報には、C:2.5 〜4.0 %、Si:1.5 %以下、Mn:1.2 %以下、Cr:6.0 〜20%、Mo:2.0 〜12%、V:3.0 〜10.0%、Nb:0.6 〜5.0 %を含有し、10<6.5C−1.3V−0.7Nb ≦2Cr −2を満足する組成のハイス系熱間圧延用ロール外層材が提案されている。この外層材を使用した複合ロールは、摩擦係数が低く、耐摩耗性、耐肌あれ性と耐バンディング性に優れているとされる。
【0004】
また、特開平10−183289号公報には、C:2.4 〜2.9 %、Si:1 %以下、Mn:1%以下、Cr:12〜18%、Mo:3〜9%、V:3〜8%、Nb:0.5 〜4%を含有し、0.27≦Mo/Cr <0.7 、およびC+0.2Cr ≦6.2 を満足する組成のハイス系の外層を有する熱間圧延用ロールが提案されている。この熱間圧延用ロールは、炭化物の偏析が少なく耐摩耗性に著しく優れているとされる。
【0005】
また、特開平10−192916号公報には、連続肉盛鋳造法により常温〜100 ℃における熱膨張係数が12×10-6/℃以下あるいはさらに熱伝導率が0.12cal /(cm・sec ・℃) 以下の軸材の外周に、ハイス系材の外層を溶着形成した熱間圧延用複合ロールが提案されている。このロールは、耐摩耗性、耐肌あれ性に優れ、さらにサーマルクラウンが小さいとされている。
【0006】
しかしながら、圧延製品の品質向上と効率的生産の観点から熱間圧延用ロールの使用環境はますます過酷化し、同時に生産される圧延製品の品種が多様化するに伴い、ロールの使いやすさへの要望が高くなるなど、とくに熱間圧延作業ロールに対する要求がさらに高く、しかも多様化している。
例えば、熱間仕上圧延における最終スタンドでは、とくに薄物圧延時に、圧延トラブル等で鋼板が折り畳まれた状態で圧延されるという、いわゆる絞り圧延事故がしばしば発生する。このような絞り圧延事故が発生すると、作業ロール表面には非常に大きな熱負荷と面圧が瞬間的に負荷され、このため、作業ロール表面に深さ10mmを超える粗大な熱衝撃亀裂、いわゆる絞りクラックが形成されることが多い。絞りクラックが形成されたままの作業ロールで圧延を続けると、繰り返し圧延応力の作用により絞りクラックから疲労亀裂が伝播して、ついには作業ロールの割損に至る。
【0007】
絞り圧延事故の発生原因の一つとして、作業ロールのサーマルクラウンの増加により、ロールギャップが小さくなることが挙げられる。ロールギャップが小さくなることにより、通板性が低下して、鋼板の蛇行や、鋼板の腹伸び、耳伸び等の圧延トラブルが生じて、鋼板が折り畳まれて圧延されるのである。
ここで、耐摩耗性に優れるハイス系ロールは、ロールの消耗量が少なくなるため、サーマルクラウンが見掛け上大きくなって通板性が低下するという問題があった。また、ハイス系ロールでは絞りクラックが発生しやすいという問題に加えて、さらにハイス系ロールは加工性が悪く、亀裂を研削するには多大の労力とコストを要するという問題があり、ハイス系ロールの熱間仕上圧延最終スタンドへの適用が制限されていた。
【0008】
例えば、特開平8-73977 号公報、特開平10−183289号公報に記載された技術で製造された熱間圧延用複合ロールは、炭化物の強化により亀裂発生への抵抗が高いが、硬質な炭化物を多量に含有することから、過大な絞り圧延に遭遇した場合には亀裂が炭化物を進展して粗大化する。さらにこれらの熱間圧延用複合ロールは、内層と外層の熱膨張係数の隔たりからロール外層に高い応力が残留することに起因し、亀裂の進度が著しく促進されて、スポーリングと呼ばれるロール表面の割損事故が発生する場合があり、熱間仕上圧延の後段スタンド用ロールとして、安定して使用できるまでの特性を有していないという問題があった。
【0009】
また、特開平10−192916号公報に記載された技術で製造された熱間圧延用複合ロールは、軸材の熱膨張係数と熱伝達率を低下させ、軸材の熱膨張を抑制させることでロールのサーマルクラウンを減少させようとするものである。しかし、このロールでは、圧延中に発生するロール外層部の熱膨張の抑制が不十分であり、優れた通板性を確保できるほど圧延中の見掛けのサーマルクラウンを低減できず、圧延トラブルの発生を完全に抑制することができないという問題があった。
【0010】
このような背景から、熱間仕上圧延の後段スタンドでも安定して使用可能なハイス系ロールが熱望されていた。
また、近年、熱間仕上げ圧延用ミルでのハイス系ロールの華々しい実績に鑑み、ハイス系ロールを継目無鋼管の造管用ロールとして適用しようとする試みが進められている。しかしながら、造管用ロールの使用環境は、過酷であり、造管用ロールにハイス系ロールを適用しても、熱衝撃亀裂、あるいはヒートクラック起因の割損事故が依然として発生して問題となっている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、熱間仕上圧延の最終スタンドに安定して適用できる、優れた耐摩耗性と耐肌荒れ性を有し、かつ良好な通板性や耐絞りクラック性(耐熱衝撃性)などの耐事故性に極めて優れた遠心鋳造製熱間圧延用複合ロールを提供することを目的とする。また、本発明は、継目無鋼管の造管用ロールとして安定して適用できる、耐摩耗性および耐割損性に極めて優れた遠心鋳造製複合ロールを提供することも目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、ハイス系ロールにおける耐事故性、通板性におよぼす各種要因の影響について鋭意研究した。
一度、絞り圧延事故が発生すると、作業ロール表面には、鋼板の焼付が発生するとともに、非常に大きな熱負荷と面圧が瞬間的に負荷され、このときの熱衝撃によって焼付部直下の作業ロール表面に粗大な亀裂が形成される。
【0013】
本発明者らは、絞り事故ロールの詳細な調査から、これらの亀裂は作業ロール表層(複合ロールの外層)の炭化物(共晶炭化物とMC型炭化物)に発生し、そのうちネット状に生成した連続性を持つ共晶炭化物(以下、連続性共晶炭化物ともいう)を伝播して、粗大な亀裂となることが多いことを見いだした。また、遠心鋳造法ではこの共晶炭化物が粗大化しやすいことも見いだした。
【0014】
このような知見をもとに、本発明者らは、遠心鋳造製ロールの絞り圧延時の亀裂進展を防止するためには、ロール外層の連続性を有する共晶炭化物を減少して、亀裂伝播経路を少なくすることが第1に必要であり、さらに、共晶炭化物を減少することにより亀裂伝播経路が基地中となる確率が高くなるため、基地を強化することが、ロール最表面に発生した亀裂のロール内部への伝播を阻止するうえに重要となることに想到した。
【0015】
また、本発明者らは、継目無鋼管の造管用ロールの割損事故も、熱衝撃亀裂あるいはヒートクラックから亀裂が伝播して粗大な亀裂に成長することがその原因となっていることを突き止め、上記した手法と同様な手法で造管用ロールの割損事故が防止できることに想到した。
ハイス系ロールでは、一定レベル以上の優れた耐摩耗性を確保するために、V、Nb等の強力な炭化物形成元素を添加して硬質なMC型炭化物を基地組織中に分散させることが必要である。強力な炭化物形成元素を添加するため、ロール外層材に含有されるCは、優先的にMC型炭化物の形成に消費される。
【0016】
本発明者らは、MC型炭化物の形成に消費されたC以外の残りのCを、共晶炭化物の形成に寄与し基地中に固溶される、有効C量と考え、この有効C量を所定の値以下に低減することが連続性共晶炭化物の低減に有効であることを見いだした。そして、共晶炭化物は多量のCr、Moを固溶するため、その共晶炭化物を低減することにより、基地中のCr、Mo量が増加し基地が強化されることを知見した。
【0017】
これらの知見から、Cr、MoおよびC、V、Nbを最適範囲に調整することにより、耐熱衝撃性が顕著に向上し、さらに亀裂の進展と成長が抑制され、耐事故性と耐割損性に優れた熱間圧延用ロール材が得られることを見いだした。
また、本発明者らは、通板性を向上するためには圧延中の熱膨張(サーマルクラウン)を抑制することが必要であるとの考えのもとに、外層材の熱膨張係数の低下について検討した。その結果、本発明者らは、上記したように、耐事故性向上の対策として採用した、VとNbを複合添加するとともに、C含有量を低減し、有効C量を適正な範囲内とすること、およびCr、Mo含有量を増加することが、連続性共晶炭化物を減少させ、熱膨張係数の小さいCr、Mo等を基地中に固溶分配させることで、炭化物が多量に分散した場合にくらべ、外層材の熱膨張係数を低下させる効果を持つことを見いだした。
【0018】
なお、本発明における複合ロールは、熱処理中に 500℃前後の温度で応力弛緩処理を兼ねた焼戻処理が複数回実施されて製造される。焼戻処理を複数回実施しないと、耐熱衝撃性の著しい向上は得られない。
本発明は、上記した知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、第1の本発明は、熱間圧延用複合ロールの外層に用いられる遠心鋳造で製造される外層材であって、質量%で、C:1.2 〜2.2 %、Si:0.1 〜0.6 %、Mn:0.1 〜0.6 %、Cr:6〜12%、Mo:3〜6%、V:3〜8%、Nb:0.5 〜3%、Co:0.3 〜3.0 %を、次(1)、(2)式
0.1≦{C− 0.236V−0.129Nb }≦0.34 ……(1)
0.27≦ Mo /Cr≦0.8 ……(2)
(ここで、C、V、Nb、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%))
を同時に満足する条件下で含み、さらに不純物としてNiを0.3 %未満に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする熱間圧延ロール用外層材であり、また、第1の本発明では、室温から300 ℃における平均熱膨張係数が、11.5×10-6/℃以下であることが好ましい。
【0019】
第2の本発明は、遠心鋳造法で製造された外層と内層が溶着一体化してなる一体型熱間圧延用複合ロールであって、前記外層が、質量%で、C:1.2 〜2.2 %、Si:0.1 〜0.6 %、Mn:0.1 〜0.6 %、Cr:6〜12%、Mo:3〜6%、V:3〜8%、Nb:0.5 〜3%、Co:0.3 〜3.0 %を、前記(1)、(2)式を同時に満足する条件下で含み、さらに不純物としてNiを0.3 %未満に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする耐事故性および通板性に優れた一体型熱間圧延用複合ロールである。また、第2の本発明では、前記外層の室温から300 ℃における平均熱膨張係数が、11.5×10-6/℃以下であることが好ましく、また、第2の本発明では、前記内層が、質量%で、C:2.0 〜 4.O%、Si:1.5 〜3%、Mn:0.3 〜 1.0%、Cr:0.1 〜 0.6%、Mo:0.1 〜 1.0%、V:1.0 %以下、Nb:0.5 %以下、Ni:1.5 %以下、Mg:0.02〜0.08%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することが好ましい。また、第2の本発明では、前記外層と内層との間に中間層を有し、該中間層を介して前記外層と内層が溶着一体化してなり、かつ該中間層が、C:2〜3%を含み、好ましくは、質量%で、C:2.3 〜 3.O%、Si:1〜3%、Mn:0.1 〜1%、Cr:0.1 〜 0.6%、Mo:0.1 〜4%、V:3%以下、Nb:2%以下、あるいはさらにNi:1.5 %以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鉄基合金材料であることが好ましい。
【0020】
第3の本発明は、スリーブと軸が嵌合一体化してなるスリーブ型複合ロールに用いられる遠心鋳造製スリーブであって、質量%で、C:1.2 〜2.2 %、Si:0.1 〜0.6 %、Mn:0.1 〜0.6 %、Cr:6〜12%、Mo:3〜6%、V:3〜8%、Nb:0.5 〜3%、Co:0.3 〜3.0 %を、次(1)、(2)式
0.1≦{C− 0.236V−0.129Nb }≦0.34 ……(1)
0.27≦ Mo /Cr≦0.8 ……(2)
(ここで、C、V、Nb、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%))
を同時に満足する条件下で含み、さらに不純物としてNiを0.3 %未満に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とするスリーブ型複合ロール用スリーブであり、第3の本発明では、前記スリーブの室温から300 ℃における平均熱膨張係数が、11.5×10-6/℃以下であることが好ましい。
【0021】
また、第4の本発明は、スリーブと軸が嵌合一体化してなる継目無鋼管造管用複合ロールであって、前記スリーブに、質量%で、C:1.2 〜2.2 %、Si:0.1 〜0.6 %、Mn:0.1 〜0.6 %、Cr:6〜12%、Mo:3〜6%、V:3〜8%、Nb:0.5 〜3%、Co:0.3 〜3.0 %を、次(1)、(2)式
0.1≦{C− 0.236V−0.129Nb }≦0.34 ……(1)
0.27≦ Mo /Cr≦0.8 ……(2)
(ここで、C、V、Nb、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%))
を同時に満足する条件下で含み、さらに不純物としてNiを0.3 %未満に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するスリーブを用いることを特徴とする耐摩耗性、耐割損性に優れた継目無鋼管造管用スリーブ型複合ロールである。また、第4の本発明では、前記スリーブの室温から300 ℃における平均熱膨張係数が、11.5×10-6/℃以下であることが好ましい。
【0022】
また、第4の本発明では、前記スリーブを、質量%で、C:1.2 〜2.2 %、Si:0.1 〜0.6 %、Mn:0.1 〜0.6 %、Cr:6〜12%、Mo:3〜6%、V:3〜8%、Nb:0.5 〜3%、Co:0.3 〜3.0 %を、前記(1)、(2)式を同時に満足する条件下で含み、さらに不可避的不純物としてNiを0.3 %未満に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するスリーブ外部層と、該スリーブ外部層に溶着一体化してなるスリーブ内部層とを有する複層スリーブとしてもよい。また、第4の本発明は、前記スリーブ外部層の室温から300 ℃における平均熱膨張係数が、11.5×10-6/℃以下であることが好ましく、また、第4の本発明では、前記スリーブ内部層を、合金鋳鋼である高炭素鋳鋼、黒鉛鋼、およびアダマイト鋼のうちのいずれかとすることが好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の熱間圧延用複合ロールの外層(外層材)および継目無鋼管造管用スリーブ型複合ロールのスリーブ(スリーブ外部層)の組成限定理由について説明する。なお、組成における%は質量%である。
C: 1.2〜2.2 %
Cは、ロールの耐摩耗性を向上するための炭化物形成に必須な元素であるが、炭化物の多量晶出は耐事故性を低下させる。このため、本発明では 1.2〜2.2 %の範囲に限定した。本発明の範囲にC量を調整することにより、共晶炭化物の多量晶出が抑制されて耐摩耗性と同時に耐絞りクラック性(耐熱衝撃性)が向上する。C含有量が 1.2%未満では、炭化物量が不足して耐摩耗性が劣化する。一方、 2.2%を超えると炭化物量が過多となり耐熱衝撃性を劣化させ、同時に熱膨張係数をも増加させる。なお、熱膨張係数を低くする観点から好ましくは、1.4 〜2.0 %である。
【0024】
Si: 0.1〜 0.6%
Siは、脱酸剤として作用するともに、Crと同様に基地に固溶して耐高温酸化性を高める作用もある。このような作用は、0.1 %以上の含有で認められるが、0.6 %を超えて含有すると耐熱衝撃性が劣化する。このため、Siは0.1 〜 0.6%の範囲に限定した。
【0025】
Mn: 0.1〜 0.6%
Mnは、溶鋼中のSをMnS として固定し、Sの悪影響を除去するために有用である。また、焼入れ性を向上する効果もある。このような効果を得るためには、0.1 %以上の含有が必要である。しかし、0.6 %を超えて含有すると耐熱衝撃性を劣化させる。このため、Mnは0.1 〜 0.6%の範囲に限定した。
【0026】
Cr:6〜12%
Crは、耐摩耗性と耐肌荒れ性を向上させる強固なCr系炭化物を出現させるために必須の元素である。また同時に、Crは、基地に固溶して基地を強化することにより耐熱衝撃性を向上するとともに、熱膨張係数を効果的に低下させる作用を有する。さらにCrは、熱伝導率を低下させる作用をもち、外層から内層への熱伝達を抑制し、内層が熱膨張することによるサーマルクラウンの増大を抑制する重要な効果を有する。このような効果は、Cr:6%以上の含有で認められる。Crが6%未満では、上記した効果が不足し、通板性の向上、耐摩耗性の向上を達成することが不可能となる。一方、12%を超えると炭化物が過多となって耐熱衝撃性が低下する。なお、耐熱衝撃性の観点から、より好ましくはCr量を10%以下とするのがよい。
【0027】
Mo:3〜6%
Moは、Cr炭化物およびMC型炭化物中に濃化してこれらの炭化物を強化するとともに、基地中に固溶し、耐肌荒れ性と耐摩耗性および耐熱衝撃性を著しく向上する効果を有する。また、Moは熱膨張係数の低下にも効果的に作用する。このような効果は、3%以上の含有で認められる。しかし、6%を超える含有は、脆弱なMo系の炭化物が多量に出現し、耐肌荒れ性と耐摩耗性が著しく劣化する。このため、Moは3〜6%%の範囲に限定した。
【0028】
V:3〜8%
Vは、硬質なMC型炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる効果を有する。このため、一定レベル以上の耐摩耗性を得るために、ハイス系ロールとして必須な元素である。またVはMC型炭化物を形成することにより、有効C量を低減し、共晶炭化物の生成を抑制し耐熱衝撃性の向上に寄与する。このような効果は、3%以上の含有で認められるが、8%を超える含有は、溶湯の融点を上昇させるとともに溶湯の流動性を低下させ、遠心鋳造を困難にする。このため、Vは3〜8%の範囲に限定した。なお、好ましくは、4〜7%の範囲である。
【0029】
Nb:0.5 〜3%
Nbは、Vと同様に硬質なMC型炭化物を形成させ、さらにMoをより効果的にMC型炭化物中に濃化させる作用を有し、本発明の範囲のCr、Moとの共存により耐摩耗性を著しく向上する。さらに、MC型炭化物を粒状化して、亀裂生成への抵抗力を高める作用も有するとともに、有効C量を低減し、連続性共晶炭化物の生成を抑制し耐熱衝撃性の向上に寄与する。このような効果は、0.5 %以上の含有で認められるが、3%を超えて添加しても効果が飽和するうえ、MC型炭化物の晶出温度を著しく上昇させ、MC型炭化物の著しい粗大化を招き、炭化物の偏析を助長する。なお、MC型炭化物の粗大化防止の観点から好ましくは、1〜2%である。
【0030】
Co:0.3 〜3%
Coは、基地中に固溶し、耐熱衝撃性を著しく向上させる効果を有する重要な元素である。またCoは、熱膨張係数を低下する作用も有するが、このような効果を得るためには0.3 %以上の含有を必要とするが、3%を超えて含有してもその効果が飽和し、経済的に不利となる。Coを0.3 %以上含有することにより、基地が強化され、亀裂進展抵抗が増加し耐熱衝撃性が向上する。このため、Coは0.3 〜3%の範囲に限定した。なお、一定レベル以上の耐熱衝撃性を維持するためには、1〜3%の範囲とするのが好ましい。
【0031】
さらに、本発明の複合ロールの外層あるいはスリーブ(スリーブロールの外部層)では、次(1)、(2)式を同時に満足する。
0.1≦{C− 0.236V−0.129Nb }≦0.34 ……(1)
0.27≦ Mo /Cr≦0.8 ……(2)
(ここで、C、V、Nb、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%))
0.1≦{C− 0.236V−0.129Nb }≦0.34 ……(1)
(1)式中の 0.236V+0.129Nb は、VとNbによってMC型炭化物の形成に消費されるC量を意味し、{C− 0.236V−0.129Nb }は、共晶炭化物の生成に寄与するC量をしめす有効C量である。本発明では、絞り圧延時の亀裂伝播を促進する共晶炭化物量を減少するとともに、基地へのCr、Moの分配を促進して基地を強化して、耐事故性を向上させることに大きな特徴がある。このために、この有効C量を0.1 〜0.34の範囲に調整する。
【0032】
有効C量が0.1 未満では、基地に固溶するCが不足し、硬さが著しく低下するため、熱延仕上げ後段ロールとして適用できない。一方、有効C量が0.34を超えると共晶炭化物量が過多となるとともに、基地に分配されるCr、Mo量が不足し耐事故性が低下する。また、平均熱膨張係数が大きくなりロールのサーマルクラウンが大きくなり通板性を低下させる傾向となる。
【0033】
0.27≦Mo/C≦0.8 ……(2)
本発明では、(2)式中のMo/Cr が0.27〜0.8 の範囲となるように、Cr含有量に応じMo含有量を調整する。Mo/Cr が0.27未満では、Cr系炭化物の強化が不十分であり、一方、0.8 を超えると、強化されたCr系炭化物に比べて脆弱なMo系の炭化物が多量に出現し、耐熱衝撃性、耐肌荒れ性と耐摩耗性が著しく劣化する。
【0034】
Ni:0.3 %未満
本発明では、Niは不可避的不純物としてその含有量を0.3 %未満に制限することが必要となる。Niの影響を鋭意検討した結果Niが0.3 %を超えて含まれると、基地に固溶するCr、Mo量が減少し、本発明の最大の特徴である優れた耐熱衝撃性が劣化してしまうことが判明した。このため、Niは含有しても0.3 %未満に制限した。
【0037】
本発明の複合ロールの外層(外層材)あるいはスリーブ型複合ロールのスリーブ材(スリーブロールの外部層)は、上記した成分以外は残部Feおよび不可避的不純物である。
また、本発明の複合ロールの外層は、室温から 300℃における平均熱膨張係数が11.5×10-6/℃以下の低熱膨張係数を有する外層である。とくに、外層の熱膨張係数の低減は、ロールのサーマルクラウンを大幅に低減し、ロールの通板性向上と被圧延材の寸法精度向上に最も有効に作用する。室温から 300℃における平均熱膨張係数が11.5×10-6/℃を超えると、ロールのサーマルクラウンが大幅に増大する傾向を有し、優れた通板性と優れた寸法精度を確保できなくなる。
【0038】
本発明の熱間圧延用複合ロールでは、従来のロールに比べて耐摩耗性も向上しているため、ロール消耗量が小さくなる。このため、外層が従来のロールと同様に膨張したときには、従来に比べ、あたかもロールが膨張したように見えてしまう。すなわち、摩耗量が小さくなった分だけ、見掛け上サーマルクラウンが増大したようにみえる。しかし、本発明のロールは、室温から 300℃における熱膨張係数が11.5×10-6/℃以下と小さく限定されているため、実際にはサーマルクラウンが大幅に低下しており、従来のハイス系ロールに比べて見掛け上のサーマルクラウンも減少する。
【0039】
なお、スリーブ型複合ロールの場合にも、スリーブの熱膨張係数は低いほうが、被圧延材の寸法精度向上には有効であり、スリーブの熱膨張係数を、室温から 300℃における平均熱膨張係数が11.5×10-6/℃以下とするのが好ましい。
本発明では、上記した組成の溶湯を、遠心鋳造法で所定の寸法形状の外層材あるいはスリーブ(スリーブロールの外部層)とする。
【0040】
一体型複合ロールでは、外層材の凝固途中あるいは完全凝固後に、鋳型の回転を停止し内層材を静置鋳造するか、外層を鋳込み、さらに中間層を鋳造したのち、鋳型の回転を停止し、内層材を鋳造するのが好ましい。これにより外層材の内面側が再溶解され外層と内層が溶着一体化した、あるいは外層、中間層と内層が溶着一体化した複合ロールとする。
【0041】
静置鋳造される内層は、鋳造性と機械的性質に優れた球状黒鉛鋳鉄を用いるのが好ましく、さらに残留応力の低い複合ロールを安定して製造することを可能とするため、室温から 500℃までの平均熱膨張係数が14.0×10-6/℃以下となる組成とするのが好ましい。室温から 500℃の間の平均熱膨張係数を低下するにはCrとMoあるいはCoの添加が有効である。
【0042】
つぎに、一体型複合ロールにおける内層の好ましい組成について説明する。
C:2.0 〜 4.0%
Cは、鋳造性の向上と黒鉛を出現させるために添加される。C含有量が 2.0%未満では黒鉛の量が少なく、鋳造性が劣化し、引け巣が発生しやすくなる。また、熱膨張係数も増加する。一方、4.0 %を超えると粗大な黒鉛が出現し内層材質が脆弱となる。このため、Cは 2.0〜 4.0%の範囲に限定するのが好ましい。
【0043】
Si:1.5 〜3%
Siは、Cと同様に鋳造性の向上と黒鉛化のために添加される。Si含有量が 1.5%未満では黒鉛化が不十分となり、炭化物の晶出が増加する。このため内層が硬脆化する。一方、3%を超えて含有しても、黒鉛化の効果は飽和するうえ、形の崩れた黒鉛が出現しやすくなり、内層強度が低下する。このため、Siは1.5 〜3%の範囲に限定するのが好ましい。
【0044】
Mn:0.3 〜 1.0%
Mnは、基地に固溶し内層強度を増加させる作用を有するとともに、溶湯中のSをMnS として固定し、Sの悪影響を除去する作用も有する。このような作用は0.3 %以上の含有で認められるが、1%を超えて含有すると内層材質が脆化する。
Cr:0.1 〜 0.6%
Crは、内層強度を向上させ、さらに熱膨張係数を低下させる効果を有する。この効果は0.1 %以上の含有で認められるが、0.6 %を超えて含有すると共晶炭化物の晶出が増加して内層材質が硬脆化する。
【0045】
Mo:0.1 〜 1.0%
Moは、内層の基地強さを増加させる作用と熱膨張係数を減少させる作用がある。この効果を得るためには 0.1%以上含有させる必要があるが、1.0 %を超えて含有すると炭化物の晶出量が増加して内層材質が硬脆化する。
V:1%以下
Vは、MC型炭化物を形成し、脆弱なセメンタイトの出現を抑制するとともに、内層強度を上昇させる効果を有する。この効果を得るには0.1 %以上含有するのが好ましいが、一方、1%を超える含有は、内層材質を硬脆化させる。このため、Vは1%以下に限定するのが好ましい。
【0046】
Nb:0.5 %以下
Nbは、Vと同様にMC型炭化物を形成させ、脆弱なセメンタイトの出現を抑制するとともに、内層強度を上昇させる効果を有する。しかし、0.5 %を超える含有は、内層材質を硬脆化させる。このため、Nbは 0.5%以下に限定する。
Ni:1.5 %以下
Niは、炭化物の出現を抑制して強度を向上する作用を有する。しかし、1.5 %を超えて含有しても効果が飽和するため、Niは1.5 %以下に限定する。
【0047】
Mg:0.02〜0.08%
Mgは、黒鉛を球状化して強度を向上するために必須な元素である。黒鉛を球状化するためには、0.02%以上の含有を必要とする。0.02%未満では、黒鉛の球状化度合いが低下する。一方、0.08%を超えると白銑化しやすくなり、また、ドロスなどの介在物欠陥が多くなる。このため、Mgは0.02〜0.08%の範囲に限定する。
【0048】
なお、内層は、上記した成分以外は残部Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物として、P:0.05%以下、S:0.03%以下とするのが好適である。
内層材には、上記した合金球状黒鉛鋳鉄の他に、黒鉛鋼、球状黒鉛鋼、合金鋳鉄等の鋳造性に優れた材料を用いることができる。
なお、本発明の複合ロールの内層は、室温から 500℃における熱膨張係数を14.0×10-6/℃以下とするのが好ましい。
【0049】
本発明の一体型複合ロールの熱処理では、初回焼入れに引き続いて450 〜550 ℃での焼戻し処理を複数回実施する。ロールの熱処理中あるいは熱処理後の内層と外層の熱応力を低減するために、室温から 500℃における内層の平均熱膨張係数を14.0×10-6/℃以下に限定するのが好ましい。室温から 500℃における平均熱膨張係数が14.0×10-6/℃を超えると、ロール製造における熱処理時に内層と外層との収縮量差が著しく大きくなり、内層に過大な引張応力が、外層には過大な圧縮応力が発生する。内層の過大な引張応力は熱処理でのロール割損事故を発生させ、外層の過大な圧縮残留応力は、絞りクラックを起点としたロール外層のスポーリング事故の発生原因となる。このため、本発明では、内層の室温から 500℃における熱膨張係数は、14.0×10-6/℃以下とするのが望ましい。これにより、内層外層に発生する応力を制限でき、ロール割損事故やスポーリング事故の発生を抑制できる。
【0050】
また、本発明の一体型複合ロールでは、外層と内層の間に中間層を設け、内層と外層を溶着一体化させることもできる。中間層は、外層を遠心鋳造法で製造したのち、遠心鋳造法で外層の内側に形成させるのが好ましい。中間層の存在は、外層と内層の熱膨張率、ヤング率などの物理的性質や機械的性質の隔たりを埋める緩衝層としての作用を有し、かつ外層成分、とくに炭化物形成元素(Cr)が内層に過剰に混入し内層が硬脆化するのを防止するのに有効である。外層材を遠心鋳造法により形成したのち、中間層を同じく遠心鋳造し、中間層が凝固したのち鋳型の回転を停止し、内層を鋳造することにより、外層−中間層−内層が一体に溶着した複合ロールとすることができる。
【0051】
一体型複合ロールの中間層は、2〜3%のCを含有した鉄基合金材料、例えば、過共析鋼、黒鉛鋼、鋳鉄系材料とするのが好ましい。さらにより好ましくは、外層と内層との中間、あるいは内層と同等の熱膨張係数をもつことが、ロール製造上、あるいはロール使用上推奨される。
つぎに、一体型複合ロールの中間層の好ましい組成について、説明する。
【0052】
C:2〜3%
Cは、中間相の凝固温度と強固収縮量に大きく影響するとともに、外層と中間相の溶け込み部の健全性を支配する元素である。C含有量が2%未満では内外層境界部の凝固収縮量が大きくなりザク巣などの鋳造欠陥が発生しやすくなり、ロールの割損事故等が生じやすくなる。一方、3%を超えると、炭化物が多くなり硬脆化する。このため、Cは2〜3%に限定する。なお、好ましくは2.4 〜3%である。
【0053】
なお、中間層には、多量の外層成分が溶け込み、外層に含まれている合金元素が混入する。中間層としてC以外の合金元素を規定する必要はない。中間層から内層への合金元素の溶け込みを抑えるため、鋳込時の中間層用溶湯の組成をC:2〜3%、Si:1〜3%、Mn:0.1 〜1.0 %とするのが好ましく、敢えて他の合金元素を添加する必要はないが、Cr:0.1 〜0.6 %、Mo:0.1 〜4%、V:3%以下、Nb:2%以下、あるいはさらにNi:1.5 %以下を含有してもよい。
【0054】
上記した組成、構造の一体型複合ロールは、耐摩耗性、耐肌あれ性に優れるとともに耐事故性に顕著に優れており、熱間仕上げ圧延の後段用作業ロールとして好適である。
一方、スリーブ型複合ロールでは、上記した組成の遠心鋳造製のスリーブに軸を嵌合一体化して製造され、耐摩耗性、耐割損性に優れ、継目無鋼管造管用ロールとして好適である。
【0055】
なお、本発明のスリーブは、単層以外に、2層あるいはそれ以上の複層としてもよい。
遠心鋳造製複層スリーブは、スリーブ外部層を遠心鋳造で鋳込み、スリーブ外部層の凝固途中あるいは凝固完了後に鋳型を回転したまま、さらにスリーブ内部層を鋳造して製造されるのが好ましい。これによりスリーブ外部層材の内面側が再溶解されスリーブ外部層とスリーブ内部層が溶着一体化した複層スリーブとなる。
【0056】
なお、複層スリーブのスリーブ内部層の組成は、C:1.5 〜3.5 %を含有する鉄基合金材料とするのが好ましい。鉄基合金材料としては、球状黒鉛鋳鉄、高炭素鋳鋼、黒鉛鋼、アダマイト鋼等が好ましい。
【0057】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成の溶湯を溶製しロール外層材とした。これら外層材を、1050℃に加熱したのち、焼入れし、さらに520 ℃で3回焼戻しを実施した。なお、外層材No.O-11 は、熱間仕上圧延後段最終スタンド用の作業ロールとして主に使用されている NiG鋳鉄であり、鋳造後に450 ℃で30hの焼戻しを行った。
【0058】
ついで、これら熱処理ずみ外層材から、試験片を採取し、硬さ試験、摩耗試験、熱衝撃試験および熱膨張試験を実施した。
硬さ試験は、各試験片についてショア硬さHsを測定した。
摩耗試験は、相手材(S45C)と試験片の2円盤すべり摩耗方式で実施した。回転数600rpmで回転させながら、相手材を600 ℃に加熱し、試験片を水冷し、試験片と相手材のすべり率を10%として、荷重 100kgで圧接しながら転動させた。この試験を相手材を更新して4回繰り返した後(転動回数:72000 回)、試験片の摩耗減量を測定した。
【0059】
熱衝撃試験は、加熱回転した円板状の相手材(S45C)を25mm厚の板状の試験片に200kg で45s間圧接し、圧接終了直後に水冷する方式で行った。相手材の温度は 850℃から1000℃の間(25℃ピッチ)で変化させた。試験後、試験片表面の亀裂の有無を観察し、その後亀裂が存在する場合には亀裂中央部の断面を観察し、亀裂深さを調査した。
【0060】
なお、この熱衝撃試験では、相手材の温度が高いほど、また圧接時間の長いほど、また圧接荷重の高いほど、試験片への熱負荷が大きくなり、試験片に熱衝撃亀裂が入りやすくなる。本試験では、圧接荷重、圧接時間を一定としているため、亀裂が発生する温度が高いほど耐熱衝撃性が優れることを意味する。また、亀裂深さが浅いほど亀裂進展抵抗が高いことを意味する。
【0061】
熱膨張試験は、5mmφ×20mm長さの試験片を用いて、室温(20℃)〜300 ℃における平均熱膨張係数を測定した。
これらの結果を表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
本発明例は、いずれも摩耗量が300mg 以下であり、従来例である外層材No.O-11 (NiG 鋳鉄)と比べて極めて優れた耐摩耗性を有している。また、室温から 300℃における熱膨張係数も11.5×10-6以下と極めて小さい熱膨張係数を有しており、サーマルクラウンの減少による通板性向上が期待できる。
さらに、本発明例は、熱衝撃試験における熱衝撃亀裂発生温度が1000℃以上と高く、耐熱衝撃性に優れ、絞りクラックの抑制が達成できる。また、亀裂深さも1.1mm 以下と非常に浅く、亀裂進展抵抗性に優れており、亀裂成長によるロールの割損を防止できる。
【0065】
なお、本発明の外層組成の範囲を外れた比較例では、耐熱衝撃性が著しく劣化しており、さらに熱膨張係数が大きいか、耐摩耗性が劣化しているかなど、本発明例に比べ特性の劣化が著しい。比較例No.O-6は、熱衝撃亀裂発生温度が975 ℃と比較的高く耐熱衝撃性は他の比較例にくらべ優れているが、硬さの低下が著しく、それに伴い耐摩耗性が低下している。
(実施例2)
胴径690 mm、胴長2400mmの複合ロールを以下の手順で製造した。
【0066】
遠心力 140Gで回転する鋳型内に、外層として肉厚80mmになるように、表3に示す組成の溶湯を鋳込んだ。外層が凝固するタイミングで外層の内面に中間層(肉厚30〜50mm相当)を鋳造して、外層の内面を7〜20mm再溶解させ、外層と一体溶着させた。中間層が凝固した後に鋳型の回転を停止し、内層材を鋳造することによって外層−中間層−内層を一体溶着させ、外層の表面温度が80℃以下になるまで冷却した後、鋳型を解体し、外層−中間層−内層からなる複合ロールとした。
【0067】
得られた複合ロールは、1050℃から冷却し、引き続いて500 〜520 ℃に再加熱したのち冷却する焼戻し処理を3回行う熱処理を実施した。外層の硬さは80Hsとした。
熱処理後、ロール胴端部から外層と中間層の試験材を採取した。外層は化学組成分析用試料、熱膨張試験用試験材を採取し、中間層はその肉厚中央部から化学組成分析用試料を採取した。なお、内層についてはロール軸端の中心部から化学組成分析用試料と熱膨張試験用試験材を採取した。
【0068】
各複合ロールの外層、中間層、内層の化学組成と、外層、内層の熱膨張係数を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
得られた複合ロールを、熱間仕上圧延ミルのF7スタンドの作業ロールとして投入し、試験圧延を実施した。
本発明例(ロールNo.J-1)は、鋼板の蛇行や耳伸び、腹伸び等の通板トラブルの発生もなく、極めて良好な通板性が確認された。なお、ミルトラブルにより、複合ロールNo.J-1は3回の、鋼板の粗大焼付を伴う絞り圧延事故に遭遇した。いずれの場合も、絞り亀裂の深さは1〜2mmと浅く、非常に優れた耐絞りクラック性を有していることが確認された。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例(複合ロールNo.J-2)では、外層材の熱膨張係数を小さく抑えたため、通板性の劣化は認められなかったが、有効C量、Co、Ni含有量が本発明の範囲を満足していないため、絞り圧延に遭遇し深さ16mmの粗大な絞り亀裂が発生した。
【0071】
(実施例3)
表4に示す組成の溶湯を溶製し、遠心鋳造法(遠心力:140 G)により図1に示す寸法形状の単層スリーブとした。これらスリーブを、1050℃に加熱したのち、冷却し、引き続いて530 ℃で2回焼戻す熱処理を実施した。熱処理後に、スリーブ端部から熱膨張試験片を採取し、熱膨張係数を測定した。得られたスリーブの熱膨張係数を表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
得られたスリーブに軸(球状黒鉛鋳鉄製)を嵌合し一体化してスリーブ型複合ロールとし、小径シームレス鋼管製造ラインのマンドレルミル#2スタンドに投入し、試験圧延を実施した。なお、ロール径が小さくなるほど、ロール割損が発生しやすくするため、フランジ径を535mm (カリバー底径:350mm )に研削して圧延を行った。
【0074】
本発明例であるスリーブNo.M-1を使用したロールは、フランジ径510mm (カリバー底径:325mm )まで消耗してもロール割損は発生せず、極めて優れた耐割損性が確認された。なお、比較例スリーブNo.M-2を使用したロールは、フランジ径531mm (カリバー底径:346mm )に達した時点でカリバー底に発生した亀裂を起点として割損した。
【0075】
【発明の効果】
本発明によれば、熱間仕上圧延の最終スタンドにおいても、良好な通板性を有し、鋼板の耳伸び、腹伸び等の異常圧延を防止でき、安定した熱間仕上圧延が可能となり、またさらに、ロールの通板性以外を原因としたミルトラブルなどによる絞り圧延事故に遭遇した場合でも、絞りクラックの進展が抑制され、ロール原単位が向上するなど、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、ロールの耐摩耗性が向上しロール消耗量が減少し、圧延サイクルの増大が可能となるという効果もある。
【0076】
また、本発明によれば、小径シームレス(継目無)鋼管造管用のマンドレルミル用ロールや、レデューサーミル用ロールとして、ロール割損事故の防止や生産性の向上、ロール原単位の著しい向上が達成されるという効果もある。
なお、本発明の一体型複合ロールは、熱間仕上圧延後段スタンドに適用するのが好適であるが、耐摩耗性と耐肌荒れ性に優れるため熱延仕上げ前段用ロールあるいは熱延粗ミル用ロールとしても適用できることはいうまでもない。
【0077】
また、本発明のスリーブ型複合ロールは、継目無鋼管の造管用ロールに適用するのが好適であるが、他のミル用ロールとしても適用できることはいうまでもない。
なお、本発明の複合ロール外層材、スリーブの組成は、遠心鋳造法以外の、例えば連続鋳掛け鋳造法等の製造プロセスで製造されるロール、スリーブに適用しても何ら問題はない。
【図面の簡単な説明】
【図1】マンドレルミル用ロールに適用するスリーブの寸法形状を示す模式的に示す説明図である。
Claims (9)
- 熱間圧延用複合ロールの外層に用いられる遠心鋳造で製造される外層材であって、質量%で
C:1.2 〜2.2 %、 Si:0.1 〜0.6 %、
Mn:0.1 〜0.6 %、 Cr:6〜12%、
Mo:3〜6%、 V:3〜8%
Nb:0.5 〜3%、 Co:0.3 〜3.0 %
を、下記(1)、(2)式を同時に満足する条件下で含み、さらに不純物としてNiを0.3 %未満に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする熱間圧延ロール用外層材。
記
0.1≦{C− 0.236V−0.129Nb }≦0.34 ……(1)
0.27≦ Mo /Cr≦0.8 ……(2)
ここで、C、V、Nb、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%) - 室温から300 ℃における平均熱膨張係数が、11.5×10-6/℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延ロール用外層材。
- 遠心鋳造法で製造された外層と内層が溶着一体化してなる一体型熱間圧延用複合ロールであって、前記外層が、質量%で
C:1.2 〜2.2 %、 Si:0.1 〜0.6 %、
Mn:0.1 〜0.6 %、 Cr:6 〜12%、
Mo:3〜6%、 V:3〜8%
Nb:0.5 〜3%、 Co:0.3 〜3.0 %
を、下記(1)、(2)式を同時に満足する条件下で含み、さらに不純物としてNiを0.3 %未満に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする耐事故性および通板性に優れた一体型熱間圧延用複合ロール。
記
0.1≦{C− 0.236V−0.129Nb }≦0.34 ……(1)
0.27≦ Mo /Cr≦0.8 ……(2)
ここで、C、V、Nb、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%) - 前記外層の室温から300 ℃における平均熱膨張係数が、11.5×10-6/℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の一体型熱間圧延用複合ロール。
- 前記内層が、質量%で、
C:2.0 〜 4.O%、 Si:1.5 〜3%、
Mn:0.3 〜 1.0%、 Cr:0.1 〜 0.6%、
Mo:0.1 〜 1.0%、 V:1.0 %以下、
Nb:0.5 %以下、 Ni:1.5 %以下、
Mg:0.02〜0.08%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項3または4に記載の一体型熱間圧延用複合ロール。 - 前記外層と内層との間に中間層を有し、該中間層を介して前記外層と内層が溶着一体化してなり、かつ該中間層が、C:2〜3%を含む鉄基合金材料であることを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の一体型熱間圧延用複合ロール。
- スリーブと軸が嵌合一体化してなるスリーブ型複合ロールに用いられる遠心鋳造製スリーブであって、質量%で、
C:1.2 〜2.2 %、 Si:0.1 〜0.6 %、
Mn:0.1 〜0.6 %、 Cr:6〜12%、
Mo:3〜6%、 V:3〜8%、
Nb:0.5 〜3%、 Co:0.3 〜3.0 %
を、下記(1)、(2)式を同時に満足する条件下で含み、さらに不純物としてNiを0.3 %未満に制限し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とするスリーブ型複合ロール用スリーブ。
記
0.1≦{C− 0.236V−0.129Nb }≦0.34 ……(1)
0.27≦ Mo /Cr≦0.8 ……(2)
ここで、C、V、Nb、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%) - 前記スリーブの室温から300 ℃における平均熱膨張係数が、11.5×10-6/℃以下であることを特徴とする請求項7に記載のスリーブ型複合ロール用スリーブ。
- スリーブと軸が嵌合一体化してなる継目無鋼管造管用複合ロールであって、前記スリーブに、請求項7または8に記載のスリーブを用いることを特徴とする耐摩耗性、耐割損性に優れた継目無鋼管造管用スリーブ型複合ロール。
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