JP3755388B2 - 同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法 - Google Patents
同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、基礎上に鋼管を所定高さまで順に継いで建て込んでその最上部に同調液体ダンパーを設置してこれにより制振制御を行いつつ前記鋼管群の周囲にコンクリートを打設して躯体を形成していく高層構造物の構築方法に関し、前記コンクリートの打設に伴って前記躯体の固有振動数が変化していく際に、特にチューニングし直すことなく一貫して前記同調液体ダンパーにより要求される制振機能を確保できるようにする技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
高層建築物や高橋脚のような鋼管とコンクリートを基本とする高層構造物の構築においては、まず基礎上に鋼管を所定高さまで順に継いで建て込んだ後、建て込まれた鋼管群の周囲にコンクリートを打設していくことにより躯体の形成を進めていくが、この躯体形成に際しては、強風や地震などによる躯体の揺れを抑えるための制振手段を設けることが望ましい。本発明者らはこの制振手段の一つとして、前記鋼管群の最上部に、パッシブ制振装置である同調液体ダンパー(TLD=Tuned Liquid Damper)を配置し、これにより躯体の振動を制振する仕組みについて特開平11−222820号公報に開示している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記の同調液体ダンパーは、質量体(マス)としての液体をスロッシング槽に満たし、この液体の共振波動減衰を利用して躯体の揺れを吸収する仕組みであるが、この同調液体ダンパーが躯体の揺れに対して有効な制振能力を発揮する振動数領域は、液高、比重、粘度などの前記液体の性質と、この液体を満たすスロッシング槽の大きさなどによって定まる所定の領域に限定される。
【0004】
一方、前記躯体の固有振動数は、コンクリートの打設が進むにつれて徐々に変化していくものであるため、前記コンクリートの打設に際して要求される制振能力を一貫して確保し続けるためには、打設途中の適宜な機会に適宜躯体の固有振動数を測定し直し、同調液体ダンパーが有効な制振能力を発揮する振動数領域にその固有振動数が含まれるよう、適宜同調液体ダンパーをチューニングし直さなければならない。
【0005】
しかしながら、前記躯体の固有振動数の測定や、前記躯体の上部に設置された同調液体ダンパーのチューニング作業には多大な労力を必要とし、また、前記固有振動数の測定や前記チューニングの作業のために工事が途中で中断され、工期の長期化を招くなどの問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、前記コンクリートの打設に伴って躯体の固有振動数が変化していく際に、特にチューニングをすることなく一貫して要求される制振能力を確保することができる、同調液体ダンパーを用いた高層構築物の構築方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するための本発明の第1の請求項に記載の発明は、同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法であって、基礎上に所定数の鋼管を所定高さまで順に継いで建て込み、建て込まれた前記鋼管の周囲にコンクリートを下方から打設して躯体を形成してゆく高層構造物の構築方法において、前記コンクリートの打設に伴って前記躯体の固有振動数が変化していく際に、有効な制振能力が発揮される振動数領域の異なる複数の同調液体ダンパーを前記鋼管の上部に前記躯体の制振装置として設置することとする。
【0008】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法であって、前記各同調液体ダンパーの前記振動数領域の組み合わせにより前記コンクリートの打設中に変化する前記躯体の固有振動数の変動域全体または一部がカバーされるように前記各同調液体ダンパーの前記振動数領域を設定することとする。
【0009】
また、本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1または2のいずれかに記載の同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法であって、前記同調液体ダンパーのいずれかに前記振動数領域を一致させた別の同調液体ダンパーを用意し、前記振動数領域が等しい同調液体ダンパー同士を互いにその制振能力が最大に発揮される方向が異なるように位置決めして設置することとする。
【0010】
また、本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法であって、前記同調液体ダンパーを垂直方向に重ねて配置することとする。
【0011】
さらに、本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法であって、前記同調液体ダンパーの質量体となる液体が重泥水であることとする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、高橋脚の脚躯体を構築する場合を本発明の一実施例として説明する。図1に脚躯体の構築手順を示している。図1の(a)では複数の鋼管3を自立的な耐風安全性が確保される限度高さに達するまで地盤中に構築された橋脚基礎4上に所定高さまで順に継いで建て込んだ後、架構を溶接するなどして建て込んだ鋼管3を一体化し鋼管群としている。つぎに図1(b)では一体化した鋼管群の頂部周辺に足場5を形成し、この足場5に4台の同調液体ダンパーD1〜D4を設置している。同調液体ダンパーD1〜D4を足場5上に設置し終えたら、図1(c)に示すように鋼管群の周囲にコンクリートを下方から頂部に向けて打設してゆき、高橋脚を完成させていく。
【0013】
同調液体ダンパーD1〜D4は、図2に示すようにFRP等の素材からなる直方体状のスロッシング槽9と、これに満たされた振動を吸収する質量体(マス)としての液体11とを基本として構成される。ここで前記液体11としては、例えば適宜な比重や粘度に設定されたカオリン粘土・(微粒)炭酸カルシウム・ゼオライト・炭酸マグネシウム・硫酸バリウムなどの加重材や、ベントナイト・CMCなどの粘性増加材が添加された重泥水などが用いられる。
【0014】
また、同調液体ダンパーD1〜D4が有効な制振能力を発揮する振動数領域(以下、この領域を「有効振動数領域」と称する)は、液体11の比重や粘度、スロッシング槽9に満たす液体11の深度などにより決定される。そして各同調液体ダンパーD1〜D4の有効振動数領域は、例えば図3に示すように各同調液体ダンパーD1〜D4の有効振動数領域の組み合わせによりコンクリートの打設中に変化する脚躯体の固有振動数の変動域全体(fa〜fb)においてこの躯体の揺れに対し要求される一定値C以上の制振能力(具体的には脚躯体の振動の振幅比で表現される振動減衰率などが目安となる)がまんべんなくカバーされるようにチューニングされる。
【0015】
なお、このチューニングは同調液体ダンパーD1〜D4を足場5に設置した後に行ってもよいが、あらかじめ地上でチューニングしてから同調液体ダンパーD1〜D4を足場5まで運搬して設置するようにすれば、チューニング作業を容易に行うことができ、また、チューニングにより打設作業等の工事を中断させずに済むことになる。
【0016】
ところで、一般にコンクリートの打設が進むにつれ脚躯体の剛性や強度が変化し、これに伴い躯体の固有振動数の変動域も変わってくる。そのため、前記同調液体ダンパーD1〜D4の有効振動数領域の組み合わせにより確保される振動数領域により脚躯体へのコンクリートの打設開始時から打設終了時までの全打設期間中に変動する前記固有振動数の変動域全体(fa〜fb)が常にカバーされている必要はなく、前記全打設期間中のある打設期間においてその期間内における前記固有振動数の変動域(すなわち前記fa〜fbの一部の変動域)がカバーされるようにするような工事形態も可能である。
【0017】
また、同調液体ダンパーD1〜D4はその構造上、脚躯体の振動方向によって制振能力が異なる。すなわち、脚躯体の振動方向がスロッシング槽9の長手方向に一致する時に脚躯体の振動に対する減衰率は最大となり、それ以外の振動に対する減衰率はこれよりも小さくなる。
【0018】
そこでより確実に脚躯体の振動を制振できるようにするため、同調液体ダンパーD1〜D4のいずれかと同じ有効振動数領域にチューニングされた別の同調液体ダンパーを用意し、同じ有効振動数領域を持つもの同士をそれぞれ互いにその長手方向が異なる方向を向くように位置決めして設置するようにしてもよい。図4は同調液体ダンパーD1〜D4のそれぞれについて有効振動数領域の等しい別の同調液体ダンパーd1〜d4を用意し、同じ有効振動数領域を有する同調液体ダンパー同士が互いに90゜の関係になるように位置決めして設置した場合である。なお、図4の形態に限らず、これを発展させて有効振動数領域の等しいn台の同調液体ダンパーを用意し、各同調液体ダンパーのスロッシング槽9の長手方向が互いに所定角度(例えば、360/n゜)ずつズラして位置決めされるように設置すれば、脚躯体に生じる様々な方向の振動をより効率よくかつ確実に減衰させることができる。
【0019】
また、前記同調液体ダンパー同士を垂直方向に重ねて配置するようにすれば、設置スペースが狭い場合でも必要台数分の同調液体ダンパーの設置が可能である。なおこの場合、同調液体ダンパーの上に別の同調液体ダンパーをじかに重ねて設置するようにしてもよいし、垂直方向に所定距離離間した位置に設置場所を設けて同調液体ダンパー同士を所定距離離間させて配置するようにしてもよい。
【0020】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法にあっては、コンクリートの打設に際し、前記鋼管の上部に有効な制振能力が発揮される振動数領域の異なる複数の同調液体ダンパーを前記躯体の制振装置として設置するようにしたため、従来に比べ広い振動数領域にわたって制振能力を確保することができる。
【0021】
また、各同調液体ダンパーの振動数領域の組み合わせにより前記コンクリートの打設中に変化する前記躯体の固有振動数の変動域全体がカバーされるように各同調液体ダンパーをチューニングするようにしたため、前記コンクリートの打設に伴って前記躯体の固有振動数が変化しても、いちいちチューニングをすることなく要求される制振能力を一貫して確保することができる。
【0022】
さらに、本発明は基本的な従来構成による同調液体ダンパーをそのまま利用することができるので、同調液体ダンパーに特殊な仕組みを用意する必要がなく、本発明は実施化が容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例による高橋脚の作業工程を示す図であり、(a)は基礎上に鋼管を立てこむ工程、(b)は足場を形成してこれに同調液体ダンパーを設置する工程、(c)は鋼管周囲へコンクリートを打設する工程である。
【図2】この発明の一実施例による同調液体ダンパーの構成を示す図である。
【図3】この発明の一実施例による各同調液体ダンパーの振動数領域と減衰率を示すグラフである。
【図4】この発明の一実施例による同調液体ダンパーの位置決めの一例を示す図である。
【符号の説明】
3 鋼管
4 基礎
5 足場
9 スロッシング槽
11 液体(マス)
15 コンクリート
D1〜D4 同調液体ダンパー
Claims (5)
- 基礎上に所定数の鋼管を所定高さまで順に継いで建て込み、建て込まれた前記鋼管の周囲にコンクリートを下方から打設して躯体を形成してゆく高層構造物の構築方法において、
前記コンクリートの打設に伴って前記躯体の固有振動数が変化していく際に、有効な制振能力が発揮される振動数領域の異なる複数の同調液体ダンパーを前記鋼管の上部に前記躯体の制振装置として設置することを特徴とする同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法。 - 前記各同調液体ダンパーの前記振動数領域の組み合わせにより前記コンクリートの打設中に変化する前記躯体の固有振動数の変動域全体または一部がカバーされるように前記各同調液体ダンパーの前記振動数領域を設定することを特徴とする請求項1に記載の同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法。
- 前記同調液体ダンパーのいずれかに前記振動数領域を一致させた別の同調液体ダンパーを用意し、前記振動数領域が等しい同調液体ダンパー同士を互いにその制振能力が最大に発揮される方向が異なるように位置決めして設置することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法。
- 前記同調液体ダンパーを垂直方向に重ねて配置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法。
- 前記同調液体ダンパーの質量体となる液体が重泥水であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の同調液体ダンパーを用いた高層構造物の構築方法。
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