JP3754033B2 - ジャイロトロン装置 - Google Patents
ジャイロトロン装置Info
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、電子ビームと空胴共振器の固有モードの高周波電磁場との間の電子サイクロトロン共鳴メーザ相互作用を利用し、マイクロ波またはミリ波を発生するジャイロトロン装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図49は例えば特開昭56−102045号公報に示された従来のジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、1は電子ビーム9を取り出す電子銃であり、2はカソード、3はカソード上の電子放出部、4は第1アノード、5は第2アノードである。6は上記電子ビームと高周波電磁場とが共鳴的に相互作用を起こし、高周波10を発生する空胴共振器、7は相互作用を終えた電子ビームを回収するコレクタ、8は高周波10を取り出す出力窓であり、ジャイロトロン装置200はこれら電子銃1、空胴共振器6、コレクタ7、出力窓8等によりなるジャイロトロン100と、電子ビームに旋回運動を与えるため、ジャイロトロン100の軸方向に磁場を発生する主電磁石11と電子銃電磁石12より構成される。
【0003】
次に動作について説明する。
電子銃1のカソード上の電子放出部3から射出された電子ビームは、カソード・第1アノード間の電界により加速され、電子銃電磁石12によって発生された磁場により、旋回運動しながら軸方向にドリフトする。さらに、主電磁石11によって発生された強力な磁場によって電子ビームは圧縮され、電子は磁場に対して垂直方向の速度を増大させ、平行方向速度を減少させながら、空胴共振器6に入る。上記主電磁石11が発生する軸方向磁場によってサイクロトロン運動している電子は、通常円筒状空胴からなる空胴共振器6における固有モードの高周波電磁場とサイクロトロン共鳴メーザ相互作用し、電子の垂直速度成分によるエネルギーの一部は高周波エネルギーに変換される。空胴共振器6で相互作用を終えた電子ビームは、コレクタ7に回収され、空胴共振器6で励起された高周波は、出力窓8を透過して外部に取り出される。
空胴共振器6において電子ビームのエネルギーが効率的に高周波のエネルギーに変換されるのは、次式が成り立つ時である。
【0004】
【数1】
【0005】
ここで、ωは空胴共振器6の固有モードの電磁場の共振角周波数、kz は固有モードの軸方向波数、vz は電子の軸方向速度、sは高調波次数、Ωc は相対論的効果を考慮した電子のサイクロトロン角周波数である。Ωc は電子の電荷をe(絶対値)、空胴共振器内での軸方向磁束密度をB、相対論的係数をγ、電子の静止質量をm0 とすると次式で与えられる。
Ωc =eB/γm0 (2)
式(1)からわかるように、電子ビームのエネルギーが効率的に高周波のエネルギーに変換され、強力な電磁波が発生するのは、式(1)の右辺が左辺より僅かに小さい時である。
このようにジャイロトロン装置においては、磁場が本質的な役割を果たしており、磁場を精度良く合わせることが、ジャイロトロン装置を効率良く運転する上で重要である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来のジャイロトロン装置は以上のように構成されているので、電子に旋回運動を与えるための主電磁石11、電子銃電磁石12には超電導電磁石、または常電導電磁石、またはその両方を用いた電磁石が使用されており、電子ビームの加速電圧に応じて電磁石に流す電流を調整することにより、磁束密度を最適値に合わせていた。式(1)、(2)から分かるように、高周波数の発振を得るためには、空胴共振器内で高磁場が必要なため、例えば30GHz程度以上の発振を得る場合は主電磁石には超電導電磁石が用いられ、それ以下の周波数の発振を得る場合には、常電導電磁石が利用されることが多い。しかし、超電導電磁石は一般に高価であり、励磁するためには液体ヘリウムなどの冷媒を供給するか、冷凍機を使って、極低温にまで電磁石を冷却しなければならないなど、手間がかかり、また磁場を急激に変化させることが難しいという問題点があった。一方、常電導電磁石では、高磁場の発生には大容量の励磁電源が必要であり、大電力を消費すること、電磁石や励磁電源に冷却水を流す必要もあることなどを考慮すると、ランニングコストが高くなるという課題があった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解消するためになされたもので、発振効率を向上させて、ジャイロトロン装置の維持と操作性を容易にするとともに、電磁石の励磁電源を小型化し、ランニングコストを極めて安くすることができるジャイロトロン装置を得ることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るジャイロトロン装置は、空洞共振器における磁束密度の軸方向分布を調節する主磁場微調整電磁石を磁場発生装置とは別に備え、且つ該主磁場微調整電磁石は、空洞共振器の電子銃側から出力窓側に向かって軸方向磁束密度が増加する傾斜磁場分布を作るものである。
【0009】
この発明に係るジャイロトロン装置は、磁場発生装置を永久磁石と電磁石とで構成し、空洞共振器における磁束密度の軸方向分布を調節する主磁場微調整電磁石を上記の磁場発生装置とは別に備え、且つ該主磁場微調整電磁石は、空洞共振器の電子銃側から出力窓側に向かって軸方向磁束密度が増加する傾斜磁場分布を作るものである。
【0010】
この発明に係るジャイロトロン装置は、磁場発生装置を永久磁石で構成したものである。
【0011】
この発明に係るジャイロトロン装置の傾斜磁場は、空洞共振器の電子銃側の端に対して出力窓側の端の方が磁束密度で5〜10%大きくなるように磁束密度に傾斜をつけた傾斜磁場である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図について説明する。図1はこの発明の実施の形態1によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において従来のものと同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。20は永久磁石であり、例えば雑誌「インターナショナル ジャーナル オブ インフラレッド アンド ミリメーター ウェイブズ(International Journal of Infrared and Millimeter Waves)」(Vol.14, No.4, 1993, P.783 )に示されるような方法により軸方向磁場を発生する。また、この永久磁石20はジャイロトロン100の軸方向の全長にわたって、ジャイロトロンの発振動作に必要な磁場の大部分を発生し、さらにこの永久磁石20と空胴共振器6付近に置かれた主磁場微調整電磁石30の両方で、ジャイロトロン100の発振動作に必要な軸方向の磁束密度を空胴共振器6内に発生する。31は電子銃磁場微調整電磁石である。200は永久磁石20及び主磁場微調整電磁石30、電子銃磁場微調整電磁石31から構成される磁場発生装置と、ジャイロトロン100からなるジャイロトロン装置を示している。
【0013】
既に記したように、ジャイロトロン100の発振動作には磁場が本質的な役割を果たしており、空胴共振器6において発振させたい固有モードの発振周波数にあわせて、磁場を精度良く調整することが、ジャイロトロン装置200を効率良く運転する上で重要である。前記式(1)、(2)からわかるように、高周波数の発振を得るためには、空胴共振器6において高磁場が必要であることから、従来のジャイロトロン装置200の磁場発生装置には、常電導電磁石、または超電導電磁石、あるいはその両方が用いられてきた。電磁石は、発生させる磁場を容易に調整できるため、電子ビーム9の加速電圧やビーム電流値に合わせて発振出力を調整する上で便利である。しかし、常電導電磁石の励磁には大容量の励磁電源が必要で、消費電力も大きく、また励磁電源や電磁石を水冷する必要があり、一方超電導電磁石は一般に高価であり、液体ヘリウムなどで極低温にまで冷却する必要があるなど、いずれの電磁石を使用するにおいても初期コスト、ランニングコストが大きく、取扱い上の手間もかかるという問題点がある。
【0014】
しかし、図1のように永久磁石と電磁石の両方を用いた磁場発生装置を用いるとこの問題点は解消する。たとえば、2倍高調波発振で周波数28GHzの発振を得るためには式(1)でs=2であるから、この式と式(2)(γ≒1)より空胴共振器6において約5kGの軸方向磁束密度が必要である。このうちの例えば4kGを永久磁石20によって発生させ、残りの約1kGを主磁場微調整電磁石30で発生させれば、励磁電源は小型でもよく、消費電力は少なくてすむ。さらに、上述したように空胴共振器6内での電子と電磁場との共鳴的相互作用には、磁場が重要な役割を担っており、ジャイロトロン装置200の発振効率が最高になる磁束密度は、電子ビーム9の加速電圧やビーム電流値に依存するため、空胴共振器6内の磁束密度も微調整できることが望ましい。主磁場微調整電磁石30はこのためのものである。
【0015】
また、電子銃1から射出される電子ビーム9の特性は、電子ビーム9の加速電圧やビーム電流値の他に、電子銃1付近での磁束密度によっても変化し、空胴共振器6において発生する高周波出力に微妙な影響を及ぼすことがわかっている。したがって、ジャイロトロン100の電子銃1においても永久磁石20の発生する固定磁場だけで電子ビーム9の加速電圧やビーム電流の色々な値に対して、ジャイロトロン装置200の動作特性を最適状態にすることは難しく、電子銃1の磁束密度も微調整できることが望ましい。図1の電子銃磁場微調整電磁石31はこのためのものである。さらに、電子銃1のカソード2や第一アノード4には電圧をかけるため、電気絶縁のための絶縁体13が構成部材として利用される。
【0016】
一般に絶縁体13にはアルミナが用いられ、金属部との接続のため、アルミナの両端にはコバールがろう付けされている。しかし、コバールは磁性体であるため、付近の磁場分布を乱す可能性がある。電子銃1付近での磁場を永久磁石20のみで発生させた場合、この磁場分布の乱れを補正することができないため、電子銃1から引き出される電子ビーム9は悪影響を及ぼされる恐れがある。電子銃磁場微調整電磁石31は、この磁場分布の乱れを補正する役目を果たすこともできる。
【0017】
このように、ジャイロトロン装置200の磁場発生装置に、永久磁石と電磁石とで構成された磁場発生装置を用いれば、電磁石の励磁電源は小型、小容量のものでよく、消費電力も低減され、且つ発振出力の調整を行う場合の磁束密度の調整範囲は、この程度の電磁石でも十分発生可能な範囲にあるため、調整の容易さは、従来例の電磁石のみを用いたジャイロトロン装置200となんら変わるところがない。なお、これらの主磁場微調整電磁石30、電子銃磁場微調整電磁石31は別々に励磁されてもよいし、電磁石の巻数を考慮して、直列に接続して励磁してもよい。
【0018】
また、図では空胴共振器6付近と電子銃1の2個所に電磁石を置いているが、必ずしも両方に設置する必要はなく、永久磁石の発生する磁束密度によっては、どちらか片方に置くことで十分な場合もある。また、電磁石はそれぞれの部分に一個ずつ設置するように書かれているが、複数個の電磁石を設置してもよい。
【0019】
実施の形態2.
図2はこの発明の実施の形態2によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。32は主磁場微調整電磁石である。実施の形態1に示した永久磁石20は、その内径が小さいほど軸方向の磁場を発生させやすく、小型、軽量、低コストになる。このためジャイロトロン100の外面と永久磁石20の内壁との間隔が狭い場合には、主磁場微調整電磁石32はジャイロトロン100の外面に密着巻、あるいは、さらに図2の実施の形態2に示すように、ジャイロトロン100の空胴共振器6付近の外径を小さくして、この部分に主磁場微調整電磁石32を取り付けるようにしてもよい。主磁場微調整電磁石32にとっても、電磁石の内径が小さいほど、同一磁場を発生させるための消費電力は小さくて済むため、この実施の形態に示すように主磁場微調整電磁石32を設置するほうがよい場合もある。
【0020】
実施の形態3.
図3はこの発明の実施の形態3によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。33は主磁場微調整電磁石である。前述したように永久磁石20は、その内径が小さいほど軸方向の磁場を発生させやすく、小型、軽量、低コストになる。このためジャイロトロン100の外面と永久磁石20の内壁との間隔が狭くなり、空胴共振器6付近のジャイロトロン100の外面と永久磁石20内面との間に、主磁場微調整電磁石32を設置できない場合には、図3に示すように永久磁石20の外側に、主磁場微調整電磁石33を配置してもよい。
【0021】
実施の形態4.
図4はこの発明の実施の形態4によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。34は磁場微調整電磁石である。ここに示した実施の形態4は、実施形態1における主磁場微調整電磁石30と電子銃磁場微調整電磁石31を1つの磁場微調整電磁石34で構成したものである。このようにすると、電子銃と空胴共振器6内の軸方向磁束密度を独立に調整することはできないが、励磁電源が1台で済むという利点がある。
【0022】
実施の形態5.
図5はこの発明の実施の形態5によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。実施の形態1から実施の形態4までは、ジャイロトロンの電子銃1は、永久磁石20の中心ボア内に納まっていたが、この実施の形態5では、ジャイロトロン100の電子銃1は永久磁石20の一方の端面より外側に出ている。このような配置であっても、電子銃1付近に電子銃磁場微調整電磁石31を置き、電子銃1の磁場を調整することは有効である。なおこの図では、空胴共振器6付近には主磁場微調整電磁石30が設置されていないが、必要ならば設置してもよい。
【0023】
実施の形態6.
図6はこの発明の実施の形態6によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。実施の形態1から実施の形態5までは、ジャイロトロン100の電子銃1はカソード、第1アノード、第2アノードからなる3極型電子銃と呼ばれる電子銃であったが、図6に示すような2極型電子銃を用いたジャイロトロン100であってもよい。2極型電子銃はカソード2とアノード14からなり、空胴共振器6において固有モードの電磁場とサイクロトロン共鳴メーザ相互作用を行う電子ビーム9を引き出す点で、3極型電子銃と同様の働きをしている。したがって、以下の実施の形態で、3極型電子銃を用いたジャイロトロンについてのみ記した場合でも、2極型電子銃を用いたジャイロトロンについても同様のことが言えるものとする。
【0024】
実施の形態7.
図7はこの発明の実施の形態7によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。35は主磁場微調整電磁石である。ジャイロトロン100を用いて、例えば2倍高調波発振で周波数28GHzの発振を行わせる場合を考える。電子ビーム9の加速電圧をVb[kV]とすると、相対論的係数は次式で与えられる。
γ=1+Vb/511 (3)
したがってVb=20kVならば、γ=1.04である。この電子についてサイクロトロン周波数が28GHzになるときの磁束密度は式(2)より、約10.4kGである。したがって、2倍高調波発振で28GHzの発振を行わせるには、式(1)より約5.2kGより少し小さい程度の磁束密度を空胴共振器6内に発生させる必要がある。
【0025】
空胴共振器6の中央部において、この約5.2kGの磁束密度の90%以上110%以下の磁束密度を永久磁石20で発生させておけば、主磁場微調整電磁石35は±0.52kG程度以下の磁束密度を空胴共振器6内に発生させるだけでよく、主磁場微調整電磁石35とその励磁電源は小型、軽量になり、消費電力も軽減され、ランニングコストが下がる。
なお上記マイナス符号の磁束密度は、永久磁石20が作る磁場と逆方向の磁場を発生させるという意味であり、電磁石に流す電流の向きをプラス符号の磁場を発生させる場合に対して逆向きにすればよい。
【0026】
実施の形態8.
図8はこの発明の実施の形態8によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。36,37,38は空胴共振器6における磁束密度の軸方向の分布を調整する主磁場微調整電磁石である。既に記したように、ジャイロトロン100の発振動作においては磁場が重要な役割を果たしており、特に電子ビーム9が電磁場と相互作用する空胴共振器6内での磁束密度の絶対値と空間的分布は、発振効率などに大きな影響を与える。しかしながら、電磁石と比較すると、永久磁石20は高精度で設計通りの磁場を発生させるには困難な場合が多く、例えば軸方向の長い距離にわたって空間的に均一度の高い磁束密度の軸方向磁場を発生させることは難しい。
【0027】
この実施の形態8において、永久磁石20が作る磁束密度の設計値からの絶対値についてのずれだけではなく、磁束密度の空間的分布の不備を整形するための主磁場微調整電磁石36,37,38を備えたものである。このような構成とすることにより、永久磁石20の発生する磁束密度の空間的不均一性を補償できる。また、電子ビーム9の加速電圧に応じて磁束密度を微調整し、発振効率を最大にすることができるとともに、発振出力を調整することもできる。
【0028】
実施の形態9.
図9はこの発明の実施の形態9によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。39,40,41は空胴共振器6における磁束密度の軸方向の分布を調整する主磁場微調整電磁石である。ジャイロトロン100の発振動作においては、空胴共振器6内での軸方向磁束密度が均一、一定であるよりも、適当な分布をもたせる方が、発振効率が高くなることが理論的にわかっている。例えば、空胴共振器6の電子銃1側の端に対して出力窓8側の端の方が磁束密度で5〜10%大きくなるように磁束密度に傾斜をつけておくと発振効率が上昇する。
【0029】
この実施の形態では、このような軸方向の磁束密度分布を空胴共振器6内につくるために、これらの電磁石をそれぞれ独立に励磁してもよいし、図9のように出力窓側の電磁石のコイルの巻数を多くするなどの工夫をして直列に励磁してもよい。図9での巻数は上記のようになっているが、ジャイロトロン100の発振効率をよくする目的で、空胴共振器6内の軸方向の磁束密度分布を整形するならば、どのような巻数、巻き方、励磁方法でもよい。なお、この図には電子銃磁場微調整電磁石31が描かれていないが、必要ならば設置してもよい。
【0030】
実施の形態10.
図10はこの発明の実施の形態10によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。42は空胴共振器6における磁束密度の軸方向の分布を調整する主磁場微調整電磁石である。ここに示した実施の形態10は、図9の実施の形態9の主磁場微調整電磁石39,40,41を1つの主磁場微調整電磁石42に置きかえたものである。空胴共振器6の電子銃1側から出力窓8側に向かって電磁石のコイルの巻数が多くなるように主磁場微調整電磁石42が巻かれている。
【0031】
このような電磁石を用いると軸方向の磁束密度分布を整形する際の自由度は減少するが、一台の励磁電源で、空胴共振器6内に電子銃1側から出力窓8側に向かって磁束密度が増加する分布を作ることができるという利点がある。図10での主磁場微調整電磁石42のコイルは、上述のように巻かれているが、ジャイロトロン100の発振効率をよくする目的で、空胴共振器6内の軸方向の磁束密度分布を整形するならば、どのような巻き方であってもよい。なお、この図には電子銃磁場微調整電磁石31が描かれていないが、必要ならば設置してもよい。
【0032】
実施の形態11.
図11はこの発明の実施の形態11によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。43は主磁場微調整電磁石、80はジャイロトロンからの出力高周波の一部を取り出すサンプリング穴、81は出力検出器、82は発振出力測定及び制御回路、90は励磁電源である。一般に、ジャイロトロン100の発振出力の調整は、電子ビーム9の加速電圧やビーム電流値を変えて行うのが普通である。そして、電子ビーム9の加速電圧やビーム電流値を変えたとき、ジャイロトロン100の発振効率を最大にするためには、その都度、軸方向の磁束密度を調整して行う。これは電子ビーム9の加速電圧を変えると電子の相対論的係数γや電子の軸方向速度vz が変化するため、式(1),(2)からわかるように空胴共振器6内の軸方向磁束密度を調整し直す必要があるからである。
【0033】
また、ビーム電流を変えて発振出力を変える場合でも、空胴共振器6内で共振している固有モードの電磁場強度が変わるため、電子ビーム9と電磁場との相互作用を最適状態にするためには、空胴共振器6内の軸方向磁場を調整し直す必要がある。従来のジャイロトロン装置の磁場発生装置には電磁石のみが用いられ、その励磁電源には、一定の速度で適当な設定値まで自動的に出力電流を増加、または減少させていく機能がついている場合が多かったが、最終的な微調整は手動に頼ることが多かった。また、特に電磁石が超電導電磁石の場合には、電磁石のインダクタンスが大きく、急激に電流を変化させられないため、磁場の微調整に時間がかかっていた。
【0034】
さらに、ジャイロトロン100の電子銃1のカソード2には熱カソードが用いられているため、発振出力の調整を電子ビーム9の電流値を変えて行う場合には、カソード2のヒーターの入力電力を変え、カソード2上の電子放出部の温度を変える必要があり、このためには、かなりの時間がかるのが普通である。したがって、発振効率を最大にするための磁場調整や、あるいは発振効率を多少犠牲にしても発振出力の調整を磁場を用いて行う必要がある場合には、軸方向磁束密度を自動的に、且つ速く調整する装置があると便利である。なお、平均出力を調整するのに電源のパルス幅で調整する方法があるが、この場合電源のコストが高くなるので、本実施の形態のように磁場で調整する方がコスト減になる。
【0035】
この実施の形態11にあっては、ジャイロトロン100からの発振出力を検出し、最大出力、または予め設定された出力になるまで、自動的に空胴共振器6内の軸方向磁束密度を変化させる装置を持ったジャイロトロン装置であり、ジャイロトロン100からの発振出力が、サンプリング穴80を通して出力検出器81で検出され、発振出力に比例した信号が出力検出器81から出力される。この信号を受けた発振出力測定及び制御回路82は、発振出力を計算して表示するとともに、そこまでの空胴共振器内での磁束密度の変化に伴う発振出力の履歴を参照して、より出力を上げる方向、あるいは予め設定された出力になるように、励磁電源90に制御信号を送る。励磁電源90はこの信号にしたがって主磁場微調整電磁石43に流す電流を変化させ、これによってジャイロトロンの発振出力が変化する。このフィードバックループによって、発振出力が制御される。
【0036】
なお、サンプリング穴80の代わりに方向性結合器を利用することもできる。また、図11においては主磁場微調整電磁石43は一つであるが、複数個にしてもよく、電磁石の配置、電磁石のコイル巻数などについては、既にここまでの実施の形態で記してきた内容と同様のことが言える。また、図11には電子銃磁場微調整電磁石31が記されていないが、必要ならば設置してもよい。
【0037】
実施の形態12.
図12はこの発明の実施の形態12によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。21は永久磁石、44は主磁場微調整電磁石である。ジャイロトロンの発振出力を幅広く変えるためには、ジャイロトロン装置200が、電子ビーム9の加速電圧やビーム電流の幅広い領域で動作できる必要がある。既に述べたように、電子ビーム9の加速電圧がVb=20kVならば、γ=1.04であるが、Vb=80kVでは式(3)よりγ=1.16となり、この電子についてサイクロトロン周波数が28GHzになるときの磁束密度は式(2)より、約11.6kGである。
【0038】
したがって、例えば2倍高調波発振で周波数28GHzの発振を行わせるには、式(1)より約5.8kGより若干小さい程度の磁束密度を空胴共振器6内に発生させる必要がある。既に記したように、Vb=20kVのときには、約5.2kGより少し小さい程度の磁束密度を空胴共振器内に発生させる必要があったから、Vb=20kVからVb=80kVの範囲でジャイロトロンを発振させるためには、Vb=20kVのときに必要な軸方向磁束密度の90%以上110%以下の磁束密度を永久磁石で発生させるのでは、Vb=80kVのときに必要な軸方向磁束密度を主磁場微調整電磁石44で調整しきれないおそれがある。
【0039】
このような場合には、ジャイロトロンの発振動作に必要な全磁束密度に対する主磁場微調整電磁石44の発生しうる磁束密度の割合を大きくすればよい。この実施の形態では、実施の形態7よりも主磁場微調整電磁石44を大きくし、空胴共振器6の中央部において必要な軸方向磁場の±20%の磁場を発生できるようになっており、したがって空胴共振器6の中央部において必要な軸方向磁束密度の80%以上120%以下の磁場が永久磁石21によって発生されている。また、図には電子銃磁場微調整電磁石31は描かれていないが、必要ならば設置してもよい。
【0040】
以上の構成により、励磁電源の容量や、消費電力を低減し、ランニングコストを下げるとともに、より広範囲の加速電圧の電子ビーム9に対しても、ジャイロトロンの発振動作に必要な軸方向磁束密度の調整が可能になる。
なお、本実施の形態の説明では、発振周波数は28GHzの場合を例に挙げたが、他の周波数についても同様の議論が成り立つ。また、空胴共振器6の固有モードは異なる共振周波数をもつ多数のモードが存在する。従って、本実施の形態のように主磁場微調整電磁石44での磁束密度の調整範囲を広くしておくことによって、異なる共振周波数をもつ複数の固有モードを別々に発振させることも可能になる。
【0041】
実施の形態13.
図13はこの発明の実施の形態13によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。この実施の形態では、3つの主磁場微調整電磁石45,46,47を配置したものである。しかし、必ずしも3つである必要はなく、2つでも4つでもよく、ジャイロトロンの発振に必要な主磁場の発生と調整の目的のためには、必要な個数を配置してもよい。また、それらの主磁場微調整電磁石45,46,47はそれぞれが独立に励磁できても、あるいは、独立に励磁できなくてもよい。
【0042】
実施の形態14.
図14はこの発明の実施の形態14によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。実施の形態14では、主磁場微調整電磁石48がジャイロトロン100の発振動作に必要な軸方向磁束密度の±20%の磁場を発生できる能力があることを除いて、実施の形態2と同じ構成、同じ働きをするものである。
【0043】
実施の形態15.
図15はこの発明の実施の形態15によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。この実施の形態15では実施の形態9と同じ構成、同じ働きをすると同時に、さらに主磁場微調整電磁石49,50,51がジャイロトロン100の発振動作に必要な軸方向磁束密度の±20%の磁場を発生できる能力を持つものである。このように構成することにより、実施の形態9よりも軸方向磁束密度を広い範囲で調整可能になるという効果がある。なお、図15には電子銃磁場微調整電磁石31は描かれていないが、必要ならば設置してもよい。
【0044】
実施の形態16.
図16はこの発明の実施の形態16によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。この実施の形態16では、実施の形態10と同じ構成、同じ働きをすると同時に、さらに主磁場微調整電磁石52がジャイロトロンの発振動作に必要な軸方向磁束密度の±20%の磁場を発生できる能力を持つものである。このようにすることにより実施の形態10よりも軸方向磁束密度を広い範囲で調整可能になるという効果がある。
【0045】
なお、主磁場微調整電磁石52のコイルは、ジャイロトロン100の空胴共振器6付近の外径を小さくして、その部分に取り付けられているが、永久磁石21の内壁とジャイロトロン100外面の間のすき間に余裕があれば、実施の形態10のようにジャイロトロン100の空胴共振器6付近の外面を必ずしも小さくしなくてもよい。また図中、電子銃磁場微調整電磁石31は描かれていないが、必要ならば設置してもよい。
【0046】
実施の形態17.
図17はこの発明の実施の形態17によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。この実施の形態17では実施の形態11と同じ構成、同じ働きをすると同時に、さらに主磁場微調整電磁石53がジャイロトロン100の発振動作に必要な軸方向磁束密度の±20%の磁場を発生できる能力を持つものである。以上の構成により、実施の形態11よりも軸方向磁束密度を広い範囲で調整可能になるという効果がある。なお図中、電子銃磁場微調整電磁石31は描かれていないが、必要ならば設置してもよい。
【0047】
実施の形態18.
図18はこの発明の実施の形態18によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。22は永久磁石、54は電子銃1のカソード2上の電子放出部3の磁場を微調整する電子銃磁場微調整電磁石である。一般に電子放出部3の磁場の磁束密度は主磁場磁束密度の1/5程度以下である。実施の形態7の説明の中で述べたように、例えば2倍高調波発振で周波数28GHzの発振を得る場合、空胴共振器内の磁束密度は約5.2kGであることから、電子放出部3の磁束密度は1.04kG程度となる。このうちの50%以上150%以下の磁束密度を永久磁石22で発生させておけば、電子銃磁場微調整電磁石54は±0.52kG以下程度の磁束密度を電子放出部3に発生させるだけでよく、この電子銃磁場微調整電磁石54とその励磁電源は小型、軽量になり、消費電力も軽減され、ランニングコストが下がる。
【0048】
また、電子銃1のカソード2や第1アノード4には電圧をかけるため、電気絶縁のための絶縁体13が構成部材として利用される。一般に絶縁体13にはアルミナが用いられ、金属部との接続のため、アルミナの両端にはコバールがろう付けされている。しかし、コバールは磁性体であるため、付近の磁場分布を乱す可能性がある。電子銃付近の磁場を永久磁石のみで発生させた場合、この磁場分布の乱れを補正することができないため、電子銃から引き出された電子ビーム9は悪影響を受ける恐れがある。
【0049】
さらに、上記の電子銃磁場微調整電磁石54は、この磁場分布の乱れを補正する役目を果たすこともできる。なお、上記磁束密度のマイナス符号の意味は、電磁石54が発生する磁場の向きが、永久磁石22が作る磁場と逆方向であるということであり、電子銃磁場微調整電磁石54に流す電流の向きをプラス符号の磁場を発生させる場合に対して逆向きにすればよい。
【0050】
実施の形態19.
図19はこの発明の実施の形態19によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。55,56は電子銃1における磁束密度の軸方向の分布を調整する電子銃磁場微調整電磁石である。既に記したように、ジャイロトロン100の発振動作においては磁場が重要な役割を果たしており、電子が放出される電子放出部における磁束密度の絶対値や分布は、電子ビーム9の特性および空胴共振器における半径方向の通過位置などに大きく影響する。永久磁石20は電磁石に比較して磁束密度の絶対値や、特に分布を微調整することが困難である。したがって、図19のように電子銃磁場微調整電磁石55,56を設置すれば、磁束密度の絶対値や分布を容易に最適な状態にすることができ、発振効率を最大にすることができる。
【0051】
さらに実施の形態18で記したように、電子銃1には電気絶縁のための絶縁体13が構成部材として利用される。一般に絶縁体にはアルミナが用いられ、金属部との接続のため、アルミナの両端にはコバールがろう付けされている。しかし、コバールは磁性体であるため、付近の磁場分布を乱す可能性がある。したがって、電子銃1の磁場を永久磁石20のみで発生させた場合、この磁場分布の乱れを補正することができないため、電子銃1から引き出される電子ビーム9は悪影響を受ける恐れがある。上記の電子銃磁場微調整電磁石55,56は、この磁場分布の乱れを補正する役目を果たすこともできる。なお図中、電子銃磁場微調整電磁石56、57は2個であるが、3個以上でもよい。
【0052】
実施の形態20.
図20はこの発明の実施の形態20によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。57は電子銃1のカソード2上の電子放出部3の磁場を微調整する電子銃磁場微調整電磁石、83は発振出力測定及び制御回路、91は電子銃磁場微調整電磁石57の励磁電源である。実施の形態11では発振効率を最大にしたり、発振出力の調整を主磁場微調整電磁石43で行っていたが、この実施の形態では電子銃磁場を調整することによっても同様の調整が可能である。
【0053】
まず、ジャイロトロン100からの発振出力の一部が、サンプリング穴80を通して出力検出器81で検出され、発振出力に比例した信号が出力検出器81から出力される。この信号を受けた発振出力測定及び制御回路83は、発振出力を計算して表示するとともに、そこまでの電子銃1での磁束密度の変化に伴う発振出力の履歴を参照して、より出力を上げる方向、あるいは予め設定された出力になるように励磁電源91に制御信号を送る。次に励磁電源91は、この信号にしたがって電子銃磁場微調整電磁石57に流す電流を変化させ、これによってジャイロトロン100の発振出力が変化する。このフィードバックループによって、発振出力が制御される。
【0054】
なお、サンプリング穴80の代わりに方向性結合器を利用することもできる。また、電子銃磁場微調整電磁石57は1つであるが、複数個にしてもよく、電磁石の配置、電磁石のコイル巻数などについては、上述の実施の形態に記した内容と同様のことが言える。
【0055】
実施の形態21.
図21はこの発明の実施の形態21によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。58は主磁場微調整電磁石である。実施の形態11,17,20ではジャイロトロン100の発振効率や発振出力を調整するために、発振出力を検出し、その出力に応じて主磁場微調整電磁石、あるいは電子銃磁場微調整電磁石57をそれぞれ単独で、それらの電磁石に流す電流を制御する方式であったが、図に示すように併用してもよい。このようにすれば、発振効率や発振出力のより微妙な調整が磁場の調節で可能になり、さらに高効率なジャイロトロン100の発振動作が達成できる。
【0056】
実施の形態22.
図22はこの発明の実施の形態22によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。上記実施の形態20,21では、ジャイロトロン100の電子銃1は、永久磁石22の中心ボア内に納まっていたが、この実施の形態では、ジャイロトロン100の電子銃1は永久磁石22の一方の端面より外側に出ている。このような配置であっても、電子銃1付近に電子銃磁場微調整電磁石59を置き、電子銃1の磁場を調整することが有効な場合もある。なお、空胴共振器6付近には主磁場微調整電磁石30は描かれていないが、必要ならば設置してもよい。
【0057】
実施の形態23.
図23はこの発明の実施の形態23によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。70はホール素子等よりなる磁束密度の検出手段であり、永久磁石20の経年変化による発生磁場の変動を検出する。60は磁場補正用電磁石である。一般的に永久磁石は、経年変化によって、発生している磁束密度を減じていくため、磁場の補正が必要になってくる場合がある。この補正量は、室温では普通永久磁石が発生する磁束密度の1%/年以下であるため、図のように1つあるいは複数個の磁場補正用電磁石60と小型の励磁電源を用いて十分可能な量である。なお、この磁場補正用電磁石60は上記実施の形態1から実施の形態22までに記載した主磁場微調整電磁石を用いてある程度可能であるが、独立に設置してもよい。
【0058】
また、図24は実施の形態15に記載した主磁場微調整電磁石49,50,51を用いて、永久磁石21の経年変化による発生磁場の変動を補正するものである。このような構成により、ジャイロトロン100の効率良い運転や高周波出力の制御を初期の状態と同様に行うことができる。なお、図23,24では磁束密度を検出するホール素子70等は電磁石49,50,51,60とジャイロトロン100との間に取り付けられているが、電磁石49,50,51,60と永久磁石20,21との間に取り付けてもよい。
【0059】
実施の形態24.
図25はこの発明の実施の形態24によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。101はカソードフランジ15と第1アノード4間の絶縁体、102は第1アノード4と第2アノード5間の絶縁体、103は空胴共振器6とコレクタ7間の絶縁体、104はコレクタ7と出力窓導波管16間の絶縁体である。これらの絶縁体と各金属製部分とは磁性体材料を用いずに非磁性体材料、例えばモリブデンやタングステンを用い、これらにニッケルメッキを施して接合されている。なお、ニッケルは磁性材料であるがメッキのみであるので磁場に与える影響は少ない。なお図中、カソードフランジ15、第1アノード4、第2アノード5、空胴共振器6、コレクタ7、出力窓導波管16は金属製部分である。
【0060】
ジャイロトロン100では、電子銃1から電子を引き出すため、カソード2と第1アノード4間や、第1アノード4と第2アノード5間に電圧をかけたり、空胴共振器6、コレクタ7、出力窓8のそれぞれにどの程度の電子ビーム9が入射しているかを測定する目的で各部分の接続部の全て、あるいは一部に、電気絶縁を施す。この場合の電気絶縁部材には、アルミナとコバールをろう付けにより接合したものが広く用いられている。
【0061】
したがって、アルミナは入手が容易で、強度が大きいなどの利点を持ち、コバールは熱膨張率がアルミナと同程度であるためろう付けの相手材料として広く用いられる。しかし、コバールは磁性体であり、このような部品を磁場中におくことは磁場の分布を乱し、電子ビーム9の軌道や特性に悪影響を与える可能性がある。その結果、空胴共振器6において、電子ビーム9が所定の位置を通過せず、設計モード以外の固有モードを発振させたり、あるいは発振効率の低下を招く可能性がある。さらには、電子ビーム9がコレクタに局所的に集中して当たり、コレクタが過熱したり、電子ビーム9が出力窓8にまで達し、出力窓を破損するなどの可能性がある。
【0062】
従来のジャイロトロン装置の磁場発生装置には、電磁石のみが用いられてきたため、電磁石のコイルに流す電流を調節することによって、これらの問題に対処できたが、本発明において用いられる永久磁石と電磁石を併用した磁場発生装置の場合は、磁場の磁束密度の絶対値や磁束密度分布を調節できる範囲が従来の磁場発生装置ほど大きくないため、磁性体が存在することによる磁場の分布を補正しきれない可能性がある。
【0063】
しかし、本実施の形態にあっては図1に示すようにジャイロトロン100を磁場発生装置内に設置しても磁場発生装置が作る磁場の磁束密度の絶対値や磁束密度分布を乱さず、電子ビーム9の軌道や特性に悪影響を与えることがない。その結果、空胴共振器において、所定の位置を電子ビーム9が通過し、設計の固有モードで電磁波を発振させることができ、発振効率の低下を防ぎ、さらには、電子ビーム9がコレクタの所定の位置に導かれ、局所的に過熱されることがないため、信頼性の高いジャイロトロン100となる。
【0064】
実施の形態25.
図26はこの発明の実施の形態25によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
この実施の形態25では、絶縁体101,102,103,104の少なくとも内面、および軸方向端面、さらに金属製部分の絶縁体101,102,103,104と接する部分は、寸法精度よく加工され、はめ合い構造で組み立てられている。このようなはめ合い接合により、実施の形態24で得られる効果の他に、ジャイロトロン100の組み立てにおける各部の中心軸合わせが容易になるという効果がある。
【0065】
実施の形態26.
図27はこの発明の実施の形態26によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。101はカソードフランジ15と第1アノード4間の絶縁体、102は第1アノード4と第2アノード5間の絶縁体であり、これらの絶縁体と金属製部分とは磁性体材料を用いずに実施の形態24と同様の非磁性体材料で接合されている。このようにすれば、ジャイロトロン100の発振動作上、特に重要な電子銃1、および電子銃1と空胴共振器6間の磁場の磁束密度の絶対値や磁束密度分布を乱さず、電子ビーム9の軌道や特性に悪影響を与えることがない。
【0066】
その結果、空胴共振器6において、所定の位置を電子ビーム9が通過し、設計の固有モードで電磁波を発振させることができ、発振効率の低下を防ぎ、さらには、電子ビーム9がコレクタの所定の位置に導かれ、局所的に過熱されることがないため、信頼性の高いジャイロトロン100となる。また、この発明はコレクタ、出力窓8に電気絶縁を施す必要がないジャイロトロン100にも適用可能である。
【0067】
実施の形態27.
図28はこの発明の実施の形態27によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。105はカソードフランジ15と第1アノード4間の絶縁体、106は第1アノード4と第2アノード5間の絶縁体、107は空胴共振器6とコレクタ7間の絶縁体、108はコレクタ7と出力窓導波管16間の絶縁体であり、ここでは絶縁体材料としてガラス材を用いている。ガラス材と金属製部分のカソードフランジ15、第1アノード4、第2アノード5、空胴共振器6、コレクタ7、出力導波管16とは直接接合されるか、あるいはガラス材と上記の金属製部分との間にガラス材との直接接合可能な金属を挟んで接合されている。このガラス材に直接接合可能な金属には、銅、ステンレスなどの非磁性材料があり、この直接接合する方法にはハウスキーパーシールと呼ばれる方法がある。
【0068】
このようにすれば、磁場発生装置が作る磁場の磁束密度の絶対値や磁束密度分布は乱されず、電子ビーム9の軌道や特性は悪影響を受けることがない。その結果、空胴共振器6において、所定の位置を電子ビーム9が通過し、設計の固有モードで電磁波を発振させることができ、発振効率が低下することもない。さらには、電子ビーム9がコレクタ7の所定の位置に導かれ、コレクタ7が局所的に過熱されることがないため、信頼性の高いジャイロトロン100となる。
【0069】
実施の形態28.
図29はこの発明の実施の形態28によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。この実施の形態では絶縁体105,106,107,108の少なくとも内面および軸方向端面、さらに金属製部分の絶縁体105,106,107,108と接する部分は寸法精度よく加工され、はめ合い構造で組み立てられている。このようなはめ合い接合により、実施の形態27で得られる効果の他に、ジャイロトロン100の組み立てにおける各部の中心軸合わせが容易になるという効果がある。
【0070】
実施の形態29.
図30はこの発明の実施の形態29によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。実施の形態27,28ではジャイロトロン100に用いられる絶縁体材料全てにガラス材を用いたが、この実施の形態では大きな強度が必要でない電子銃1のみガラス材の絶縁体105,106を用い、ジャイロトロン100の運搬、吊り下げ、出力高周波の伝送系との接続等において十分な強度が必要なコレクタ7、出力窓8の絶縁部分にはアルミナとコバールを組み合わせた部品を用いればよい。
【0071】
このようにすれば、ジャイロトロン100の発振動作上、特に重要な電子銃1、および電子銃1と空胴共振器6間の磁場の磁束密度の絶対値や磁束密度分布を乱さず、電子ビーム9の軌道や特性に悪影響を与えることがない。その結果、空胴共振器6において、所定の位置を電子ビーム9が通過し、設計の固有モードで電磁波を発振させることができ、発振効率が低下することもない。
【0072】
実施の形態30.
図31から図33はこの発明の実施の形態30によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
実施の形態24から実施の形態29までは、電子銃1がカソード2、第1アノード4、および第2アノード5の3つの電極からなる3極型電子銃を用いたジャイロトロン100について述べてきた。この実施の形態では、電子銃1がカソード2とアノード14の2つの電極からなる2極型電子銃を用いたジャイロトロン100において実施されてもよく、同様の効果を奏する。
【0073】
実施の形態31.
図34はこの発明の実施の形態31によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。17は高周波を導く導波管、110は例えば非磁性材料からなる枠であり、枠110は永久磁石20および主磁場微調整電磁石30、電子銃磁場微調整電磁石31が作る磁場の磁束密度が5ガウス以上の領域が枠内に存在するように設置されている。ジャイロトロン100の磁場発生装置に永久磁石20を用いた磁場発生装置では、ジャイロトロン100の運転時以外でも常に磁場が発生しているため、これにより様々な危険性、不都合が考えられる。たとえば、人体への影響、特にペースメーカを付けた人への影響は重大である。また、工具等が吸い寄せられ、永久磁石20あるいはその周辺部へ衝突するなども考えられる。
【0074】
アメリカFDA(食品医薬品局)の勧告により、一般に漏れ磁場の範囲として5ガウスの範囲の大きさが磁気シールドを施す際の一つの基準とされ、日本でもこの基準が用いられているため、本実施の形態では枠110を設置すれば、枠110外は磁場の微弱な領域であるので、ペースメーカを付けた人にも影響はなく、磁性体が吸い寄せられることもなくなり、安全である。なお、永久磁石20に磁気シールドがあるものに同様の枠を設けて、磁気シールドからの漏れによる危険を防止するようにしてもよい。
【0075】
実施の形態32.
図35と図36とはこの発明の実施の形態32によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。実施の形態31では磁場発生装置の側面のみならず、電子銃1の側端面も覆うように設置された枠110を示したが、電子銃1と外部電源回路との電気的接続を行う必要があるため、本実施の形態では電子銃1の側端面に開口部を持った枠111を設けた。
【0076】
実施の形態33.
図37から図39はこの発明の実施の形態33によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。本実施の形態では本体側の枠112と電子銃1側の枠113が分離可能になっている。このようにすれば電子銃1と外部電源回路との電気的接続や、ジャイロトロン装置200の運搬が簡単でありながら、実施の形態31と同様の効果を奏する。
【0077】
実施の形態34.
図40はこの発明の実施の形態34によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。本実施の形態ではハイブリッド型磁場発生装置で常時強力な磁場を発生している永久磁石20が作る磁場の磁束密度が5ガウス以上の領域が枠114内に存在するように設置される。この枠114は実施の形態31、実施の形態32、実施の形態33で示した物より小型で扱い易く、また、これを設置することによって磁束密度5ガウス以上の領域を囲むことができるので安全である。
【0078】
実施の形態35.
図41はこの発明の実施の形態35によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。115は枠110の外側面に設置された緩衝材である。緩衝材として、例えばウレタン、スポンジ、発泡スチロール、フェルト、グラスウール、スタイロフォーム、エアーキャップ、紙、木材などを利用できる。なお、この緩衝材115は5ガウス以上の領域を囲むどのような枠に設置されてもよい。このようにすれば、工具等が磁場に吸い寄せられ、衝突するようなことがあっても損傷を防ぐことができ、安全である。
【0079】
実施の形態36.
図42はこの発明の実施の形態36によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。71はホール素子等よりなる磁束密度の検出手段であり、永久磁石23の温度変化による発生磁場の変動を検出する。30は主磁場微調整電磁石、31は電子銃磁場微調整電磁石で、永久磁石が空胴共振器付近や電子銃付近に発生している磁場の温度変化による変動を補正する電磁石である。
【0080】
一般に永久磁石は温度変化によって発生している磁束密度が変化する。この温度による磁束密度の変化を決める残留磁束密度温度係数は、ネオジム系磁石では−0.1%/℃程度であるが、サマリウム系では−0.03%/℃となる。既に記したように、2倍高調波発振で周波数28GHzの発振を起こさせるためには、空胴共振器6の中央部において約5.2kGの磁束密度が必要であるから、永久磁石温度の1℃上昇につき約5.2Gの磁束密度が減少し、逆に1℃下降につき約5.2Gの磁束密度が増加する。したがって、±20℃程度の温度変化による磁束密度の変動は±104G程度となるが、この程度の変動は、図42に示すように、1つあるいは複数個の磁場微調整電磁石と小型の励磁電源を用いて十分に補正可能である。
【0081】
本実施の形態では、永久磁石23の温度変化による発生磁場の変動を補正する電磁石として、実施の形態1から実施の形態22までに記載した磁場微調整電磁石を用いているが、実施の形態23の説明に用いた磁場補正用電磁石60を独立に設置してもよい。また、図42ではホール素子71は主磁場微調整電磁石30や電子銃磁場微調整電磁石31とジャイロトロン100との間に置かれているが、永久磁石23の温度変化による発生磁場の変動は、磁場が発生している所ならば別の場所でも検出できる。したがって、ホール素子71を設置する位置は、必ずしも図42に示されている場所でなくてもよい。
【0082】
以上の構成によって、ジャイロトロン装置200が置かれている周囲環境が変化して、永久磁石23の温度変化による発生磁場の変動があっても、ジャイロトロンの効率良い運転や高周波出力の制御が可能になる。
【0083】
実施の形態37.
図43(a)はこの発明の実施の形態37によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図43(b)は筒型磁場発生装置が発生している中心軸上での軸方向磁場分布の概略図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示し説明を省略する。25は永久磁石を用いた筒型磁場発生装置である。永久磁石を用いて軸方向磁場を発生させる方法として、例えばこの図に示されているように、磁化方向が略々径方向の筒状永久磁石25a〜25hを軸方向に複数個配置する方法が考えられる。磁化方向が略々径方向の筒状永久磁石25a〜25hは、それぞれ、例えば複数の台形状の磁石切片を各々径方向に磁化した後、ドーナツ状に組み合わせて、外部及び内部が多角形の筒状永久磁石25a〜25hを構成している。上記の磁石切片は扇型の磁石切片でもよく、その場合は各々径方向に磁化した後、ドーナツ状に組み合わせると内部、外部が円形の筒状永久磁石となる。さらに磁化方向が略々径方向の筒状永久磁石であるならば、これを構成する磁石切片は他の形状のものでもよい。このような実施の形態にあっては、筒型磁場発生装置25の内側空間において軸方向磁場の向きが反転している部分(本図ではz=z1 、z=z2 を境として軸方向磁場が反転している)が存在する。
【0084】
ジャイロトロン100の電子銃1におけるカソード2上の電子放出部3から引き出される中空状の電子ビーム9の速度は、電子放出部3の面上における電場と磁場で決まり、その後、電子ビーム9は図43(a)に示されているように螺旋運動をしながら、磁場に対して垂直方向の速度を増しつつ、空胴共振器6に向かって進行する。このように電子放出部3から引き出された直後の電子の速度成分等は電子放出部3付近の電場や磁場によって決まるため、電子放出部3が図43(b)で、z=z1 の位置よりも左側に存在していても電子銃1として動作する。
【0085】
しかし、このような配置では、電子が軸方向に進行するとともに軸方向磁場が弱くなるため、螺旋運動の旋回半径が次第に大きくなり、中空状の電子ビーム9の半径も大きくなって、図43(a)のアノード14の壁に衝突したり、無秩序な運動となって空胴共振器6まで届かない。したがって、ジャイロトロン100が正常に発振しないという問題点がある。このような問題点は、ジャイロトロン装置200の磁場発生装置として、磁化方向が略々径方向の筒状永久磁石25a〜25hを軸方向に複数個配置することによって構成した筒型磁場発生装置25を用いて軸方向の磁場を発生させる場合に生じる特有の問題点である。
【0086】
この問題点を解消するためには、電子放出部3を図43(b)でz=z1 の位置よりも右側に配置しておけばよい。このようにしておけば、電子放出部3から引き出された電子ビーム9は、空胴共振器6に向かって次第に強くなる軸方向磁場によって、電子の螺旋運動の旋回半径を小さくしながら、また中空状の電子ビーム9の半径を小さくしつつ空胴共振器6に入射し、正常な発振動作を行う。
【0087】
一方、図49に示されている従来のジャイロトロン装置200では、軸方向に磁場を発生する装置としてソレノイド状の電磁石が用いられるため、ジャイロトロン100を設置する内部空間、及びその延長線上に軸方向の磁場の向きが反転している部分は存在しない。したがって、上記のような問題点は生じない。
【0088】
実施の形態38.
図44はこの発明の実施の形態38によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。実施の形態37では図43(a)に示すように、永久磁石を用いた筒型磁場発生装置25は、ジャイロトロン100の電子銃1側の筒状永久磁石25a〜25dはS極が内側を向き、コレクタ7側の筒状永久磁石25e〜25hはN極が内側を向いていたが、これは逆であってもよい。即ち、図44に示すように電子銃1側の筒状永久磁石26a〜26dはN極が内側を向き、コレクタ7側の筒状永久磁石26e〜26hはS極が内側を向いていても軸方向磁場の向きが反転する部分は存在し、実施の形態37で述べたことと同様のことが言える。
【0089】
実施の形態39.
図45はこの発明の実施の形態39によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。実施の形態37や実施の形態38では、永久磁石を用いた筒型磁場発生装置25,26は、すべての永久磁石の磁化方向が略々径方向の筒状永久磁石25a〜25h,26a〜26hで構成されているが、図43(b)に示されているような空胴共振器部6に軸方向磁場が平坦な分布を発生させる方法として、図45に示すように、空胴共振器6付近に、磁化方向が略々軸方向の筒状永久磁石27iを配置してもよい。この場合でも電子銃付近に配置された筒状永久磁石の磁化方向は略々径方向であるので、中心軸上での磁束密度分布は図43(b)のようになり、実施の形態37で述べたことと同様のことが言える。
【0090】
実施の形態40.
図46はこの発明の実施の形態40によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。28は軸方向磁場を発生させるための永久磁石を用いた筒型磁場発生装置、28a〜28hは磁化方向が略々径方向の筒状永久磁石で、各々の筒状永久磁石のN極からS極に向かって引かれている矢印を付した線は、磁力線を概略的に示したものである。この筒型磁場発生装置28は、実施の形態37で記したものと同様の構造であるため、軸方向の磁束密度分布は図43(b)に示したように、軸方向磁場の向きが反転している部分をもつ分布となっており、図中のz=z1 の位置は図46の筒状永久磁石28aのS極と記した付近に存在することが磁力線の様子からわかる。同様に、z=z2 の位置は、図46の筒状永久磁石28hのN極と記した付近に存在することがわかる。
【0091】
ジャイロトロン100の電子銃1におけるカソード2とアノード14との間には数10kV程度の電圧がかかるため、これらの間は絶縁体13を介して接続されている。この絶縁体13にはアルミナ等のセラミック材料が使用され、その両端には金属と接合するための接合部品がろう接合されている。この接合部品には一般的にコバールが使用され、さらにコバールと金属は、主として溶接によって接合される。しかし、コバールは磁性体材料であるため、永久磁石が発生する磁場分布を乱し、カソード2の電子放出部3から引き出される電子ビーム9の特性に重大な影響を与え、ジャイロトロン100の発振に悪影響を及ぼす恐れがある。この影響は図43(a)の電子銃磁場微調整電磁石31を用いても補正できない場合がある。(図46では電子銃磁場微調整電磁石31が省略されている。)
【0092】
この問題を解決するために、本実施の形態ではコバールは軸方向磁場が反転する位置よりも左側に位置するようにし、電子が引き出される電子放出部3での軸方向磁場の向きとは逆方向の向きの軸方向磁場がかかるように配置している。このようにするとコバールの電子放出部3付近の磁場分布に与える影響は軽減され、ジャイロトロン100を効率よく発振させることができる。なお、図45では空胴共振器6付近の主磁場微調整電磁石を省略しているが必要ならばあってもよい。また、永久磁石を用いた筒型磁場発生装置は図44や図45に示されたものでもよく、その場合でも上記のコバールが、軸方向磁場が反転している位置に対して電子放出部3とは反対の位置に存在するように配置すればよい。さらに、コバール以外の接合部品を使用する場合でも、磁性体材料を使用する場合は同様の配置とすれば同等の効果が得られることは言うまでもない。
【0093】
実施の形態41.
図47はこの発明の実施の形態41によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。ジャイロトロン装置200では、ジャイロトロン100に安定な発振を行わせるために、ジャイロトロン内部を高真空に保つ必要がある。そのためには、電子ビーム9をコレクタ7に当てることによってコレクタ材料からの脱ガスを行うエージングを十分に行うことが必要である。エージングを効果的に行うためには、電子ビーム9がコレクタ7に当たる位置を大きな範囲で振り、脱ガスを十分に行うことが有効である。磁場発生装置として永久磁石を用いたジャイロトロン装置200では、電子銃磁場微調整電磁石31や主磁場微調整電磁石30を用いて、電子ビーム9がコレクタ7に当たる位置を振ることはある程度可能であるが、コレクタ7の大きな領域にわたって電子ビーム9を移動させることは困難である。
【0094】
しかし図47に示すように、ジャイロトロン100のコレクタ付近にコレクタ磁場発生用電磁石65を設置することによって、コレクタ7において電子ビーム9をより大きな範囲で移動させることができるようになり、エージングを短時間に効果的に行うことができる。さらに、電磁石を構成するコイルの巻数、巻き方、励磁電流を適当に選ぶことによって電子ビーム9がコレクタに当たる面積も大きくすることもできるため、コレクタへの単位面積当たりの熱入力を低減し、信頼性の高いジャイロトロン装置とすることができる。
【0095】
実施の形態42.
図48はこの発明の実施の形態42によるジャイロトロン装置を示す構成図であり、図において、従来のものと同一の符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。コレクタ磁場発生用電磁石66,67は図48に示すように、2個あるいはそれ以上のコイルから構成してもよい。このような構成により上記の電磁石が発生する軸方向磁場分布の自由度が増えるため、さらにエージングを効果的に行ったり、また電子ビーム9によるコレクタ7への熱入力をより低減することが可能になる。
【0096】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、空洞共振器における磁束密度の軸方向分布を調節する主磁場微調整電磁石を磁場発生装置とは別に備え、且つ該主磁場微調整電磁石は、空洞共振器の電子銃側から出力窓側に向かって軸方向磁束密度が増加する傾斜磁場分布を作るように構成したので、発振効率を向上することができ、ジャイロトロン装置も維持と操作性を容易にするとともに、電磁石の励磁電源を小型化し、ランニングコストを極めて安くすることができるジャイロトロン装置を得ることができる効果がある。
【0097】
この発明によれば、磁場発生装置を永久磁石と電磁石とで構成し、空洞共振器における磁束密度の軸方向分布を調節する主磁場微調整電磁石を磁場発生装置とは別に備え、且つ該主磁場微調整電磁石は、空洞共振器の電子銃側から出力窓側に向かって軸方向磁束密度が増加する傾斜磁場分布を作るように構成したので、発振効率を向上することができる効果がある。
【0098】
この発明によれば、磁場発生装置を永久磁石で構成したので、発振効率を向上することができる効果がある。
【0099】
この発明によれば、傾斜磁場は、空洞共振器の電子銃側の端に対して出力窓側の端の方が磁束密度で5〜10%大きくなるように磁束密度に傾斜をつけて構成したので、発振効率を向上することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図2】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図3】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図4】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図5】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図6】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図7】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図8】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図9】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図10】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図11】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図12】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図13】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図14】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図15】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図16】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図17】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図18】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図19】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図20】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図21】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図22】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図23】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図24】 この発明の他の実施の形態による他のジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図25】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す部分構成図である。
【図26】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す部分構成図である。
【図27】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す部分構成図である。
【図28】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す部分構成図である。
【図29】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す部分構成図である。
【図30】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す部分構成図である。
【図31】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す部分構成図である。
【図32】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す部分構成図である。
【図33】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す部分構成図である。
【図34】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図35】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図36】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図37】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図38】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図39】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図40】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図41】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図42】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図43】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図44】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図45】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図46】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図47】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図48】 この発明の他の実施の形態によるジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図49】 従来のジャイロトロン装置を示す構成図である。
【符号の説明】
1 電子銃、2 カソード、3 電子放出部、6 空胴共振器、7 コレクタ、8 出力窓、9 電子ビーム、10 高周波、13,101〜104 絶縁体、21〜23 永久磁石、30,32,33,35〜53,58 主磁場微調整電磁石、31,54〜57,59 電子銃磁場微調整電磁石、81 出力検出器、90 励磁電源、100 ジャイロトロン、110〜114 枠、115 緩衝材、200 ジャイロトロン装置。
Claims (4)
- 電子ビームを射出する電子銃と、射出電子に旋回運動を起こさせる軸方向磁場を発生する磁場発生装置と旋回電子と固有モードで共振している高周波電磁場との間でサイクロトロン共鳴メーザ作用を起こさせる円筒状空洞からなる空洞共振器と、この空洞共振器内を通過した電子ビームを回収するコレクタと、上記サイクロトロン共鳴メーザ作用により発生した高周波を取り出す出力窓を備えたジャイロトロン装置において、前記空洞共振器における磁束密度の軸方向分布を調節する主磁場微調整電磁石を上記の磁場発生装置とは別に備え、且つ該主磁場微調整電磁石は、空洞共振器の電子銃側から出力窓側に向かって軸方向磁束密度が増加する傾斜磁場分布を作ることを特徴とするジャイロトロン装置。
- 前記磁場発生装置を永久磁石と電磁石とで構成し、前記空洞共振器における磁束密度の軸方向分布を調節する主磁場微調整電磁石を上記の磁場発生装置とは別に備え、且つ該主磁場微調整電磁石は、上記の空洞共振器の電子銃側から出力窓側に向かって軸方向磁束密度が増加する傾斜磁場分布を作ることを特徴とする請求項1記載のジャイロトロン装置。
- 前記磁場発生装置を永久磁石で構成したことを特徴とする請求項1記載のジャイロトロン装置。
- 前記傾斜磁場分布は、空洞共振器の電子銃側の端に対して出力窓側の端の方が磁束密度で5〜10%大きくなるように磁束密度に傾斜をつけた傾斜磁場分布であることを特徴とする請求項2または請求項3記載のジャイロトロン装置。
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