JP3752285B2 - 往復動型圧縮機 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、車両空調装置に使用される往復動型圧縮機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の往復動型圧縮機は、そのハウジングの内部に駆動シャフトが支持されているとともに、クランク室が形成されている。前記ハウジングの一部を構成するシリンダブロックの前記駆動シャフトの周囲には、複数のシリンダボアが互いに平行に配列されている。そのシリンダボア内には、ピストンが往復動可能に収容されて、圧縮室が区画形成されている。前記駆動シャフトには、斜板が一体回転可能に挿着され、その斜板の回転に連動して前記ピストンが往復動されて、圧縮室内の冷媒ガスが圧縮される。
【0003】
このような往復動型圧縮機においては、各ピストンの圧縮動作に伴って圧縮反力が発生する。この圧縮反力が斜板を介して駆動シャフトに作用し、トルク変動が発生する。このトルク変動は、駆動シャフト−クラッチ系のねじり振動を発生させる加振力となる。ここで、トルク変動の総和、言い換えれば各圧縮室で発生する圧縮反力の総和を高速フーリエ変換(FFT)解析すると、0次からかなり高次にわたる幅広い周波数成分が得られる。これらの周波数成分の中で主成分となるのが、気筒数nに対応した回転n次成分である。例えば、10気筒タイプの両頭ピストン式圧縮機においては、図9に示すような回転10次成分が主成分となる。10気筒の場合、各圧縮室の圧縮反力を示すカーブの位相は、36゜ずつずれている。これに対して、図9(a)に示すように、前記回転10次成分は、駆動シャフトの1回転分の時間において10回同一の変位を繰り返すため、その1周期は360゜/10=36゜となる。このため、各圧縮室のトルク変動の位相が完全に一致して、図9(b)に示すように、圧縮機全体としてのトルク変動の振幅は、1つの圧縮室あたりのトルク変動の振幅aの10倍となる。そして、このような回転n次成分等の周波数が、圧縮機並びにそれに接続される補機等の固有振動数と近接している場合には、共振現象による騒音や振動が発生して、車室内の騒音・振動レベルを上昇させる原因となっていた。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば特公昭48−19121号公報には、シリンダボアを円周方向に不等ピッチに配置したアキシャルプランジャポンプが開示されている。このポンプにおいては、ピストンをそれぞれ収容するn個のシリンダボアが、それぞれ隣接するシリンダボアと軸心とのなす角が360゜/n±γとなるように配置されている。このγは、各シリンダボア間で異なる値となっており、各シリンダボアのピッチ円一周で(360゜/n±γ)×n=360゜となるように設定されている。そして、それぞれのシリンダボアからの吐出量を不等化し、共振時においても流量、トルク、圧力及び回転数の変動を少なくしようとするものとしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記公報には、ねじり振動を低減するために、単にそれぞれのシリンダボアのピッチを変更することが開示されているのみである。つまり、駆動シャフトのトルク変動に対する具体的な対策は、何等開示も示唆もなされていない。このため、トルク変動を十分に低減することができず、騒音及び振動の発生を十分に抑制できないおそれがあるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、ねじり振動の加振力であり、気筒数nに対応するトルク変動の回転n次成分が低減されて、騒音及び振動の発生の少ない往復動型圧縮機を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、ハウジングの内部に駆動シャフトを支持するとともに、クランク室を形成し、前記ハウジングの一部を構成するシリンダブロック内の前記駆動シャフトの周囲に複数のシリンダボアを配列し、そのシリンダボア内にピストンを往復動可能に収容して圧縮室を区画形成し、前記駆動シャフトにはカム板を一体回転可能に挿着し、そのカム板の回転に連動して前記ピストンを往復動させて、冷媒ガスを圧縮するようにした往復動型圧縮機において、前記ピストンが奇数本であり、シリンダボアの半径中心の配列円周上に前記ピストンの本数に対応する等角度間隔位置を規定し、1つのシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置に配置し、その残りの半数のシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側に、他の残りの半数のシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向後側に、前記駆動シャフトの軸線を中心としてそれぞれ所定のずらし角度をもってずらしたものである。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記ずらし角度が次式を満たすものものである。
Δθ = arc cos(−1/2n) / n
ここで、Δθはずらし角度、nは圧縮機の気筒数を示している。
【0009】
請求項3に記載の発明では、ハウジングの内部に駆動シャフトを支持するとともに、クランク室を形成し、前記ハウジングの一部を構成するシリンダブロック内の前記駆動シャフトの周囲に複数のシリンダボアを配列し、そのシリンダボア内にピストンを往復動可能に収容して圧縮室を区画形成し、前記駆動シャフトにはカム板を一体回転可能に挿着し、そのカム板の回転に連動して前記ピストンを往復動させて、冷媒ガスを圧縮するようにした往復動型圧縮機において、前記ピストンが偶数本であり、シリンダボアの半径中心の配列円周上に前記ピストンの本数に対応する等角度間隔位置を規定し、半数のシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側に、他の半数のシリンダボアの半径中心を等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向後側に、前記駆動シャフトの軸線を中心としてそれぞれ所定のずらし角度をもってずらしたものである。
【0010】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の発明において、前記ずらし角度が次式を満たすものである。
Δθ = 180゜/n
ここで、Δθはずらし角度、nは圧縮機の気筒数を示している。
【0011】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記圧縮室は、少なくとも2種類の値のデッドボリュームに設定したものである。
【0012】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側にずらしたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームを基準デッドボリュームに比べて拡大し、前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向後側にずらしたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームを基準デッドボリュームに比べて縮小したものである。
【0013】
請求項7に記載の発明では、請求項6に記載の発明において、前記基準デッドボリュームは、圧縮機の機種毎に求められるずらし角度とデッドボリュームとの関係線図により決定されるものである。
【0014】
請求項8に記載の発明では、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、前記シリンダボアを前後対向するように形成するとともに、前記ピストンを両頭型に構成したものである。
【0015】
請求項9に記載の発明では、請求項8に記載の発明において、ひとつの前記両頭ピストンに対してフロント側のデッドボリュームとリヤ側のデッドボリュームとを同じ大きさに形成したものである。
【0016】
さて、上記のように構成された往復動型圧縮機においては、シリンダボアの半径中心の配列円周上に、その全円周をピストンの数で等分することにより等角度間隔位置が規定される。
【0017】
まず、ピストンが奇数本である場合には、1つのシリンダボアの半径中心は、前記等角度間隔位置の1つに配置される。その残りの半数のシリンダボアの半径中心は、駆動シャフトの回転方向前側にその軸線を中心として所定のずらし角度をもって前記等角度間隔位置からずらされている。また、他の半数のシリンダボアの半径中心は、逆に回転方向後側に所定のずらし角度をもって前記等角度間隔位置からずらされている。
【0018】
次に、ピストンが偶数本である場合には、その半数のシリンダボアの半径中心は、前記駆動シャフトの回転方向前側にその軸線を中心として所定のずらし角度をもって等角度間隔位置からずらされている。また、他の半数のシリンダボアの半径中心は、逆に回転方向後側に所定のずらし角度をもって等角度間隔位置からずらされている。
【0019】
このため、各圧縮室で発生する圧縮反力に基づくトルク変動の位相は各シリンダボアが等角度間隔位置に配置された場合に比べて、前記ずらし角度分だけ変位したものとなる。そして、各シリンダボアが等角度間隔位置に配置された場合とは異なり、各圧縮室で発生するトルク変動の位相が完全に一致することがない。そして、前記トルク変動の総和の高速フーリエ変換解析により得られる気筒数nに対応した回転n次成分は、各シリンダボアが等角度間隔位置に配置された場合に比べて、低減される。
【0020】
また、前記各圧縮室で発生するトルク変動は、同一周期の正弦波となっている。このため、複数の正弦波に所定の位相差を設定することによって、前記複数の正弦波の位相を反転させて、図3に示すように、前記トルク変動の振幅を最小にすることができる。
【0021】
まず、前記正弦波を奇数(2m+1、mは自然数)個重ね合わせて振幅を最小にするには、前記正弦波を2m個重ね合わせた結果と残りの1個とが消し合うようにすればよい。つまり、等角度間隔位置に配置したシリンダボアのトルク変動の正弦波をsinθとして、2m個を半数ずつ前記sinθに対して逆方向にずらすとして、
を満たす位相差Δψを求めればよい。この(1)式は、以下のように変形される。
【0022】
2m・cosΔψ・sinθ + sinθ = 0 (2)
この(2)式をΔψについて解くと、
Δψ = arc cos(−1/2m) (3)
となる。つまり、駆動シャフトの回転角360゜に対して2m個の正弦波を半数ずつ前記sinθに対して逆方向に(3)式を満たすΔψだけずらすことによって、奇数個の正弦波を重ね合わせて打ち消すことができる。ここで、回転n次成分は、駆動シャフトの1回転に相当する時間内においてn回同一位相を繰り返す波形であり、その位相の1周期は360゜/nである。この回転n次成分を打ち消して前記の振幅を最小とする各シリンダボアのずらし角Δθを求めると、
となる。
【0023】
次に、前記の正弦波を偶数個重ね合わせて振幅を最小にするには、半数の位相を180°だけずらせばよい。ここで、問題となる回転n次成分の1周期は、前記の通り360゜/nとなる。このため、駆動シャフトの回転方向に対して、半数のシリンダボアを前側に180゜/n、他の半数のシリンダボアを後側に180゜/nずらすことによって、前記振幅を最小にする位相のずれを確保することができる。つまり、前記振幅を最小にするには、各シリンダボアのずらし角をΔθとして、次式を満たすように各シリンダボアをずらせばよい。
【0024】
Δθ = 180゜/n (5)
ところで、圧縮機の大きさ、各シリンダボアの接近度、及びその安全率を考慮すると、前記(4)式及び(5)式を満たすだけのずらし移動が確保できない場合がある。このような場合には、各圧縮室のデッドボリュームの値を変更することによっても、ねじり振動の加振力となるトルク変動の前記回転n次成分を低減することができる。なお、デッドボリュームとは、ピストンが上死点に達したときの圧縮室の容積のことである。この各圧縮室のデッドボリュームの値の変更によって、各圧縮室内の圧縮動作時における容積と圧力との推移の曲線がそれぞれ異なったものとなる。このため、各圧縮室内で発生する圧縮反力に基づくトルク変動の位相にずれを生じて、気筒数nに対応する回転n次成分の完全な重畳がなくなる。そして、前記の各シリンダボアのずらし移動とほぼ同様のトルク変動の低減効果が発揮される。
【0025】
ここで、前記のように構成された往復動型圧縮機においては、トルク変動の低減効果について、シリンダボアのずらし移動によるものと各圧縮室のデッドボリュームの変更によるものとの対応を求めることができる。このため、前記(4)式及び(5)式を満たすだけのシリンダボアのずらし移動が確保できない場合には、ずらし角度の不足分を各圧縮室のデッドボリュームの値の変更で補うことができる。
【0026】
さらに、等角度間隔位置から駆動シャフトの回転方向前側にずらされたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームは、基準となるデッドボリュームに比べて拡大されている。また、駆動シャフトの回転方向後側にずらされたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームは、基準となるデッドボリュームに比べて縮小されている。このため、シリンダボアのずらし移動によるトルク変動の低減の傾向と、デッドボリュームの変更によるトルク変動の低減の傾向とが相反することなく、一致したものとなる。
【0027】
しかも、上記のように構成された両頭ピストン式圧縮機は、前記のようなシリンダボアのずらし移動及びデッドボリュームの変更に加えて、ひとつの両頭ピストンに対しては、そのフロント側のデッドボリュームとリヤ側のデッドボリュームとが同じ大きさとなるように形成されている。この両頭ピストン式圧縮機における圧縮反力の位相は、フロント側の総和とリヤ側の総和との間で180°のずれが存在している。ここで、ねじれ振動の加振力となるトルク変動の気筒数nに対応した回転n次成分は偶数次成分であり、その位相は駆動シャフトの1回転に相当する時間内に同一変位を偶数回繰り返すものとなっている。このため、回転n次成分のフロント側の総和とリヤ側の総和とは、位相が一致して重畳される。しかし、前記のようにシリンダボアのずらし移動及びデッドボリュームの変更を行うことによって、回転n次成分のフロント側の総和及びリヤ側の総和がそれぞれ低減される。そして、そのフロント側の総和とリヤ側の総和とが重畳された圧縮機全体の回転n次成分も低減される。しかも、回転n/2次成分が奇数次成分となった場合、その奇数次成分は駆動シャフトの1回転に相当する時間内に同一変位を奇数回繰り返すものである。このため、フロント側とリヤ側との間で回転n/2次成分の位相に180゜のずれが存在し、互いに反転した状態となる。そして、その回転n/2次成分はひとつのピストンのフロント側とリヤ側とで互いに打ち消し合って消滅する。
【0028】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下に、本発明の第1の実施形態について図1及び図2に基づいて説明する。
【0029】
図1に示すように、フロント側のシリンダブロック11とリヤ側のシリンダブロック12とは、中央部において接合されている。シリンダブロック11のフロント側端面には、弁板13を介してフロントハウジング15が、シリンダブロック12のリヤ側端面には弁板14を介してリヤハウジング16がそれぞれ接合されている。前記各シリンダブロック11、12と各弁板13、14との間には、それぞれ吸入弁17a、18aを形成する吸入弁形成板17、18が介在されている。各弁板13、14と前記両ハウジング15、16との間には、それぞれ吐出弁19a、20aを形成する吐出弁形成板19、20が介在されている。各吐出弁形成板19、20と両ハウジング15、16との間には、それぞれ前記吐出弁19a、20aの最大開口を規制するリテーナプレート21、22が介在されている。
【0030】
前記シリンダブロック11、12、弁板13、14、吸入弁形成板17、18及び吐出弁形成板19、20は複数の通しボルト23により互いに締付固定されている。
【0031】
前記フロントハウジング15及びリヤハウジング16の外周には吸入室24、25が形成され、中心側には吐出室26、27が区画形成されている。
図1及び図2に示すように、前記シリンダブロック11、12には、複数のシリンダボア11a〜11e、12a〜12eが互いに平行をなすように貫通形成され、それらの内部には両頭ピストン28が挿入されている。本実施形態の圧縮機は、5本の両頭ピストン28を備えた10気筒タイプの往復動型圧縮機となっている。前記シリンダボア11a〜11e、12a〜12e内には、前後一対の圧縮室29、30が形成される。この圧縮室29、30は、弁板13、14に形成された吸入ポート13a、14aを介して吸入室24、25に、また、同様に弁板13、14に形成された吐出ポート13b、14bを介して吐出室26、27に連通されている。
【0032】
前記両シリンダブロック11、12間には、クランク室31が形成されている。両シリンダブロック11、12の軸孔11f、12fには、駆動シャフト32がラジアル軸受33を介して回転可能に支持されている。該駆動シャフト32は、図示しないクラッチを介して車両エンジン等の外部駆動源により回転される。前記駆動シャフト32の中間外周部には、カム板としての斜板34が嵌合固定されている。該斜板34には、前記両頭ピストン28がシュー35、36を介して係留され、斜板34の回転により両頭ピストン28が前記シリンダボア11a〜11e、12a〜12e内で往復動される。
【0033】
前記斜板34のボス部34aは、スラスト軸受37、38を介してシリンダブロック11、12の前後両側壁面に支持されている。
図1に示すように、前記クランク室31は、シリンダブロック11、12に形成した吸入通路39、40により吸入室24、25と連通されている。クランク室31は、シリンダブロック11、12に形成した図示しない吸入フランジを介して外部冷媒回路に接続されている。さらに、前記吐出室26、27は、シリンダブロック11、12及び両ハウジング15、16に形成した吐出通路41、42及び図示しない吐出フランジを介して外部冷媒回路に接続されている。
【0034】
そして、車両エンジン等の外部駆動源により駆動シャフト32が回転されると、クランク室31内の斜板34が回転され、シュー35、36を介して複数の両頭ピストン28がシリンダボア11a〜11e、12a〜12e内で往復動される。この両頭ピストン28の運動により吸入フランジ(図示略)からクランク室31に導かれた冷媒ガスは、該クランク室31から吸入通路39、40を経て吸入室24、25に導かれる。両頭ピストン28が下死点から上死点に向かう吸入行程において、前記吸入弁17a、18aが開放され、吸入室24、25内の冷媒ガスは、吸入ポート13a、14aを通って圧縮室29、30内に吸入される。次に、両頭ピストン28が上死点から下死点に向かう圧縮・吐出行程において、圧縮室29、30内の冷媒ガスは圧縮される。そして、冷媒ガスが所定の圧力に達すると、高圧の圧縮冷媒ガスが吐出弁19a、20aを押し退けて吐出ポート13b、14bを経て吐出室26、27に吐出される。さらに、吐出室26、27内の圧縮冷媒ガスは、吐出通路41、42を経て外部冷媒回路をなす凝縮器、膨張弁、蒸発器に供給され、車両室内の空調に供される。
【0035】
次に、前記各シリンダボア11a〜11e、12a〜12eの配置について説明する。フロント側の各シリンダボア11a〜11eと、リヤ側の各シリンダボア12a〜12eとは、両頭ピストン28に対してそれぞれ対をなしている。このため、フロント側の各シリンダボア11a〜11eと、リヤ側の各シリンダボア12a〜12eとは、全く同じ配置となっている。ここでは、リヤ側の各シリンダボア12a〜12eについてのみ説明する。
【0036】
図2に示すように、シリンダボア12a〜12eの半径中心Pa1〜Pe1の配列円周Cは、駆動シャフト32の軸線上に半径中心Poを持つ。Ra〜Re、rb1〜re1は、半径中心Poを通るシリンダブロック11、12の半径線である。半径線Ra〜Reは、前記配列円周Cをピストン28の数で等分した等角度間隔位置を通る。本実施形態ではピストン28は5本であり、前記半径線Ra〜Reは72°おきに配置される。前記ピストン28の数は奇数であり、1本のピストン28を収容するシリンダボア12aはその半径中心Pa1が半径線Ra上、つまり前記等角度間隔位置のひとつに配置されている。残りのピストン28の半数をそれぞれ収容する2つのシリンダボア12b、12dは、その半径中心Pb1、Pd1が半径線rb1、rd1上にある。この半径線rb1、rd1は半径線Rb、Rdを基準に駆動シャフト32の回転方向前側に所定角度ずらされている。他の残りのピストン28の半数を収容する2つのシリンダボア12c、12eはその半径中心Pc1、Pe1が半径線rc1、re1上にある。この半径線rc1、re1は半径線Rc、Reを基準に駆動シャフト32の回転方向後側に所定角度ずらされている。
【0037】
なお、この所定角度は前記(4)式により算出される。ここで、ピストン数は5であるので、
2m+1 = 5
であり、m=2となる。
【0038】
つまり、各シリンダボアを等角度間隔位置に配置した場合に比べて、シリンダボア11b〜11e、12b〜12e内の圧縮室29、30で発生するトルク変動が、約104゜の位相差を有するものとなっている。ここで、騒音、振動の主要因となるトルク変動の回転10次成分は、前記駆動シャフト32の回転角360゜に対して10回同じ変位を繰り返すため、その1周期が36゜となる。従って、各シリンダボア11b〜11e、12b〜12eにおいて回転10次成分を消去するためのずらし角度は、10.4゜となる。これに従って、半径線rb1〜re1は、半径線Rb〜Reを基準としてそれぞれ10.4゜ずつずらされている。
【0039】
さて、前記両頭ピストン28の圧縮動作に伴って、各圧縮室29、30において圧縮反力が発生する。この圧縮反力に基づくトルク変動は、同一周期の正弦波となっている。ここで、本実施形態の圧縮機では、1本の両頭ピストン28を収容する1対のシリンダボア11a、12aが前記等角度間隔位置の1つに配置されている。一方、その他の両頭ピストン28に対応する各シリンダボア11b〜11e、12b〜12eは、等角度間隔位置から駆動シャフト32の回転方向に対して半数ずつそれぞれ+10.4゜あるいは−10.4゜ずらされている。このため、シリンダボア11b〜11e、12b〜12e内の圧縮室29、30において発生するトルク変動の総和の回転10次成分は、シリンダボア11a、12a内の圧縮室29、30において発生する同成分に対して、104゜の位相差を有したものとなる。従って、圧縮機全体の回転10次成分が打ち消されて、ねじり振動を発生する加振力が低減される。
【0040】
以上のように構成された本実施形態によれば、以下の優れた効果を奏する。
本実施形態の圧縮機では、ピストン28が5本であり、1本のピストン28を収容するシリンダボア11a、12aの半径中心Paが等角度間隔位置に対応する半径線Ra上に配置されている。そして、残りのピストン28の半数を収容するシリンダボア12b、12dは、その半径中心Pb1、Pd1が等角度間隔位置から駆動シャフト32の回転方向前側に10.4゜ずらされた半径線rb1、rd1上にある。他の残りのピストン28の半数を収容するシリンダボア12c、12eは、その半径中心Pc1、Pe1が等角度間隔位置から駆動シャフト32の回転方向後側に10.4゜ずらされた半径線rc1、re1上にある。
【0041】
ここで、各圧縮室29、30で発生する圧縮反力に基づくトルク変動の位相について考える。シリンダボア11a、12aでの圧縮反力に起因するトルク変動の位相と、他のシリンダボア11b〜11e、12b〜12eでの圧縮反力に起因するトルク変動の位相の和との間に、駆動シャフト32の1回転に対して104゜の位相差が設定されたこととなる。そして、圧縮機全体のトルク変動の総和がほとんど0となり、各ピストンが等角度間隔位置に配置された場合に比べて、大きくトルク変動の回転10次成分が低減される。従って、駆動シャフト32と図示しないクラッチとの間におけるねじり振動に対する加振力が低減されて、それによって励起される共振現象に基づく騒音が低減されて、車室内の騒音レベルを低下させることができる。
【0042】
(第2の実施形態)
以下に、本発明の第2の実施形態について図4〜図6に基づいて説明する。この第2の実施形態は、例えば10気筒タイプの両頭ピストン式圧縮機において、図2に示す前記第1の実施形態のシリンダボア12a〜12eに比べて、各シリンダボア52a〜52e(51a〜51e)の直径が大きく、隣接するシリンダボアの干渉により前記所定のずらし角度が確保できない場合に好適である。
【0043】
この第2の実施形態においても、前記第1の実施形態と同様に、フロント側の各シリンダボア51a〜51eと、リヤ側の各シリンダボア52a〜52eとは、両頭ピストン28に対してそれぞれ対をなして同様に形成されているので、主にリヤ側の各シリンダボア52a〜52eについて説明する。
【0044】
図4に示すように、1本のピストン28を収容するシリンダボア52aの半径中心Pa2が、前記等角度間隔位置に対応する半径線Ra上に配置されている。残りのピストン28の半数をそれぞれ収容する2つのシリンダボア52b、52dは、その半径中心Pb2、Pd2が半径線rb2、rd2上にある。この半径線rb2、rd2は、前記等角度間隔位置を通る半径線Rb、Rdから駆動シャフト32の回転方向前側に角度α1だけずらされたものである。他のピストン28の半数をそれぞれ収容する2つのシリンダボア52c、52eは、その半径中心Pc2、Pe2が半径線rc2、re2上にある。この半径線rc2、re2は、前記等角度間隔位置を通る半径線Rc、Reから駆動シャフト32の回転方向後側に角度α1だけずらされたものである。なお、隣接するシリンダボア、例えば52bと52cとを等角度間隔位置からそれぞれ角度α1ずつ接近させても、隣接するシリンダボア同士が干渉せず、かつその隣接するシリンダボア間の隔壁において所望の強度が確保されるように、角度α1が設定される。
【0045】
また、図4及び図5に示すように、前記各シリンダボア52a〜52eは、いずれもその内径が同一に形成されている。そして、各シリンダボア52a〜52e内に収容されている各両頭ピストン28の頭部は、それぞれ所定の長さずつ削り取られている。従って、各ピストン28が上死点位置に達したときにおいて、ピストン28の頭部端面とシリンダボア52a〜52eの内端面との間の距離がそれぞれ異なる。このため、各圧縮室30内のデッドボリュームがそれぞれ異なる値に設定されている。ここで、デッドボリュームとは、ピストン28が上死点位置に達したときにおける圧縮室30の容積のことである。
【0046】
さらに、前記両頭ピストン28は、そのフロント側及びリヤ側の削り取り量が同一となるように形成されている。このため、ひとつの両頭ピストン28に対してそのフロント側の圧縮室29のデッドボリュームの値とリヤ側の圧縮室30のデッドボリュームの値とが、同じ大きさとなっている。言い換えると、両頭ピストン28を介して駆動シャフト32の軸線方向に対向するシリンダボア51a内の圧縮室29とシリンダボア52a内の圧縮室30とは、同一のデッドボリュームに設定されている。同様に、シリンダボア51bと52b、51cと52c、51dと52d、51eと52eとにおいて、それぞれの圧縮室29と圧縮室30とのデッドボリュームの値は同一となっている。従って、フロント側の各圧縮室29のデッドボリュームの大小の配置とリヤ側の各圧縮室30のデッドボリュームの大小の配置とが駆動シャフト32の回転方向において同じになるように形成されている。
【0047】
図5に示すように、各圧縮室30のデッドボリュームの大きさは、半径中心Pa2が等角度間隔位置に対応する半径線Ra上に配置されたシリンダボア52a内の圧縮室30のデッドボリュームの値Vmidが基準となっている。そして、半径中心Pb2、Pd2が駆動シャフト32の回転方向の前側にずらされたシリンダボア52b、52d内のデッドボリュームの値は、前記の基準となるデッドボリュームの値Vmidに所定の値V1を加えたものとなっている。また、半径中心Pc、Peが駆動シャフト32の回転方向の後側にずらされたシリンダボア52c、52e内のデッドボリュームの値は、前記の基準となるデッドボリュームの値Vmidから所定の値V2を減じたものとなっている。
【0048】
次に、各圧縮室30のデッドボリュームの設定について説明する。
さて、前記のように、各圧縮室30のデッドボリュームを変更することによって、各圧縮室30での圧縮動作における容積と圧力との推移の曲線が異なったものとなる。そして、各圧縮室30で発生するトルク変動の位相にずれが生じる。このため、各圧縮室30のデッドボリュームを変更することによっても、前記シリンダボアをずらし移動するのと同様に回転10次成分が低減される。
【0049】
この回転10次成分の低減効果について、図6に示すような前記のシリンダボア52b〜52eのずらし角Δθと各圧縮室30のデッドボリュームの値との間の関係線図を、圧縮機の機種毎に求めることができる。ここで、Vminは製作上許容される最小のデッドボリュームの値を、Vmaxはその圧縮機の圧縮性能が極端に低下しない程度に最大限に拡大されたデッドボリュームの値をそれぞれ示している。また、Δθmin及びΔθmaxは、各圧縮室30をそれぞれVmin及びVmaxのデッドボリュームの値に設定したときの回転10次成分に相当するずらし角度となっている。Δθmidは次式により規定される。
【0050】
Δθmid = (Δθmin+Δθmax) / 2 (6)
このΔθmidを、シリンダボアを等角度間隔位置に配置したときのずらし角度、つまりΔθ=0゜に対応させる。そして、図6の前記関係線図を用いて基準となるデッドボリュームVmidが設定される。
【0051】
そして、各シリンダボア52b〜52eにおいて、前記角度α1の所望の角度に対する不足角度分β1と相当するデッドボリュームの値V1、V2が、前記関係線図に基づいて設定される。ここで、駆動シャフト32の回転方向前側にずらしたシリンダボア52b、52d内の圧縮室30内のデッドボリュームの値は、ずらし角度Δθmid+β1に相当するVmid+V1に設定される。また、駆動シャフト32の回転方向後側にずらしたシリンダボア52c、52e内の圧縮室30内のデッドボリュームの値は、ずらし角度Δθmid−β1に相当するVmid−V2に設定される。
【0052】
ここで、Δθmid+β1>ΔθmaxあるいはΔθmid−β1<Δθminとなる場合には、そのシリンダボアのデッドボリュームの値はそれぞれVmaxあるいはVminに設定される。
【0053】
以上のように構成された本実施形態によれば、以下の優れた効果を奏する。
(a) 圧縮機の大きさ、各シリンダボアの接近度、及びその安全率の関係上、所望のずらし角度Δθを満たすだけの移動が確保されていないシリンダボア51b〜51e、52b〜52eの内の圧縮室29、30は、そのデッドボリュームが変更されている。このため、前記ずらし角度Δθの不足によって生じるトルク変動の位相差の不足分が、デッドボリュームの変更により補足される。そして、10気筒タイプの両頭ピストン式圧縮機において、ねじり振動に対する加振力となるトルク変動の主成分である回転10次成分が確実に低減される。従って、前記ねじり振動によって、圧縮機並びにそれに接続される補機等の共振現象による騒音の発生が低減されて、車室内の騒音レベルが低下される。
【0054】
(b) 駆動シャフト32の回転方向に対して前側にずらされたシリンダボア51b、51d、52b、52d内の各圧縮室29、30内のデッドボリュームが基準の値Vmidから所定の値V1だけ拡大されている。一方、駆動シャフト32の回転方向に対して後側にずらされたシリンダボア51c、51e、52c、52e内の各圧縮室29、30内のデッドボリュームが基準の値Vmidから所定の値V2だけ縮小されている。ここで、デッドボリュームが大きいほど、圧縮室29、30で発生する圧縮反力が緩和されて、この圧縮反力に起因するトルク変動が低減される。このため、シリンダボアのずれ移動によるトルク変動の低減の傾向と、デッドボリュームの変更によるトルク変動の低減の傾向とが一致したものとなる。従って、シリンダボアのずらし移動と、デッドボリュームの変更とによってトルク変動が確実に低減される。
【0055】
(c) ひとつの両頭ピストン28のフロント側及びリヤ側のデッドボリュームが同一となるように形成されている。このため、回転5次成分は、そのフロント側の総和とリヤ側の総和とが互いに打ち消し合って、消滅する。従って、前記第1の実施形態、(a)項及び(b)項に記載の効果とあいまって、トルク変動の回転10次成分を低減しつつ、回転5次成分の発生を抑制することができる。
【0056】
(第3の実施形態)
以下に、本発明の第3の実施形態について図7及び図8に基づいて説明する。この第3の実施形態は、偶数本のピストン28を有する圧縮機、例えば8気筒タイプの両頭ピストン式圧縮機において、隣接するシリンダボアの干渉により前記所定のずらし角度が確保できない場合に好適である。
【0057】
この第3の実施形態においても、前記第1の実施形態と同様に、フロント側の各シリンダボア61a〜61dと、リヤ側の各シリンダボア62a〜62dとは、両頭ピストン28に対してそれぞれ対をなして同様に形成されているので、主にリヤ側の各シリンダボア62a〜62dについて説明する。
【0058】
図7に示すように、半数のピストン28を収容する2つのシリンダボア62a、62cは、その半径中心Pa3、Pc3が等角度間隔位置を通る半径線Ra、Rcから駆動シャフト32の回転方向前側に角度α2だけずらされた半径線ra3、rc3上にある。他の半数のピストン28を収容する2つのシリンダボア62b、62dは、その半径中心Pb3、Pd3が等角度間隔位置を通る半径線Rb、Rdから駆動シャフト32の回転方向後側に角度α2だけずらされた半径線rb3、rd3上にある。
【0059】
ここで、8気筒タイプの圧縮機において、問題となる回転8次成分を最小とするずらし角度は前記(5)式により算出される。
つまり、回転8次成分を最小とするためには、前記半径線ra3〜rd3を前記半径線Ra〜Rdに対して+22.5゜あるいは−22.5゜とかなり大きくずらす必要がある。ところが、圧縮機の大きさ、各シリンダボアの接近度、及びその安全率の関係上、所望のずらし角度Δθを満たすだけの移動が確保できない場合には、前記第2の実施形態と同様にずらし角度α2が設定される。また、ずらし角度の不足によるトルク変動の位相差の不足分を補うべく、前記第2の実施形態と同様に、各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更がなされている。
【0060】
言い換えると、前記ずらし角度α2は、隣接するシリンダボア例えば62aと62bとを等角度間隔位置からそれぞれ角度α2ずつ接近させても、隣接するシリンダボア同士が干渉せず、かつその隣接するシリンダボア間の隔壁において所望の強度が確保されるように設定される。
【0061】
また、図8に示すように、駆動シャフト32の回転方向前側にずらされたシリンダボア62a、62c内の圧縮室20のデッドボリュームは基準デッドボリュームの値Vmidに対して所定の値V3が加えられている。一方、駆動シャフト32の回転方向後側にずらされたシリンダボア62b、62d内の圧縮室30のデッドボリュームの値は、前記の基準となるデッドボリュームの値Vmidから所定の値V4を減じたものとなっている。
【0062】
このように構成した場合、偶数本のピストン28を収容する圧縮機において、トルク変動の回転n次成分を低減することができる。従って、駆動シャフト32と図示しないクラッチとの間のねじり振動に対する加振力が低減されて、それによって励起される共振現象に基づく騒音及び振動が低減されて、車室内の騒音・振動レベルを低下させることができる。
【0063】
なお、本発明は以下のように変更して具体化することもできる。
(1) 前記第1の実施形態において、シリンダボア12b、12d(11b、11d)を駆動シャフト32の回転方向後側にずらし、シリンダボア12c、12e(11c、11e)を駆動シャフト32の回転方向前側にずらすこと。
【0064】
(2) 前記第2の実施形態において、シリンダボア52b、52d(51b、51d)を駆動シャフト32の回転方向後側にずらし、そのシリンダボア52b、52d(51b、51d)内の圧縮室29、30のデッドボリュームの値をVmid−V2に設定するとともに、シリンダボア52c、52e(51c、51e)を駆動シャフト32の回転方向前側にずらし、そのシリンダボア52c、52e(51c、51e)内の圧縮室29、30のデッドボリュームの値をVmid+V1に設定すること。
【0065】
(3) 本発明を前記実施形態に記載以外の気筒数、例えば6、12気筒の両頭ピストン式圧縮機において具体化すること。
(4) 本発明を片頭ピストン式圧縮機において具体化すること。
【0066】
(5) 本発明をウェーブカムプレートタイプのピストン式圧縮機において具体化すること。
以上のように構成しても、気筒数nに対応する回転n次成分を低減することができる。
【0067】
(6) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、両頭ピストン28の頭部に凹部を設けて行うこと。
(7) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、両頭ピストン28の頭部に溝を設けて行うこと。
【0068】
(8) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、シリンダボア11a〜11e、12a〜12eの内周面に切欠部を設けて行うこと。
(9) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、シリンダボア11a〜11e、12a〜12eの長さをそれぞれ変更して行うこと。
【0069】
(10) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、弁板13、14の厚みを変更して行うこと。
(11) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、吸入弁17a、18aの厚みを変更して行うこと。
【0070】
以上のように構成しても、簡単な構成で各圧縮室29、30のデッドボリュームを変更することができる。
【0071】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば以下の優れた効果を奏する。
ピストンが奇数本の場合には、1つのシリンダボアの半径中心の配列円周上に規定された等角度間隔位置に1つのシリンダボアの半径中心が、配置されている。その残りの半数のシリンダボアの半径中心は、前記等角度間隔位置から回転方向前側に、他の半数のシリンダボアの半径中心は、回転方向後側にそれぞれ所定のずらし角度をもってずらされている。また、偶数本の場合には、その半数のシリンダボアの半径中心は、前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側に、他の半数のシリンダボアの半径中心は逆に回転方向後側にそれぞれ所定のずらし角度をもってずらされている。このため、各圧縮室の圧縮反力に基づくトルク変動の気筒数nに対応した回転n次成分が、各シリンダボアが等角度間隔位置に配置された場合に比べて低減される。従って、駆動シャフト−クラッチ系のねじり振動の加振力が抑制されて、圧縮機並びにそれに接続される補機において、前記ねじり振動によって励起される共振現象が低減され、車室内の騒音・振動レベルを低下させることができる。
【0072】
また、圧縮機の大きさ、各シリンダボアの接近度、及びその安全率の関係上、所望のずらし角度を満たすだけの各シリンダボアのずらし移動が確保できない場合には、各シリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームが変更される。このため、各シリンダボアのずらし移動によるトルク変動の低減効果の不足分が、各圧縮室のデッドボリュームの変更によるトルク変動の低減効果によって補足される。
【0073】
しかも、前記等角度間隔位置から駆動シャフトの回転方向前側にずらされたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームは、基準となるデッドボリュームに比べて拡大されている。また、駆動シャフトの回転方向後側にずらされたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームは、基準となるデッドボリュームに比べて縮小されている。このため、シリンダボアのずらし移動によるトルク変動の低減の傾向と、デッドボリュームの変更によるトルク変動の低減の傾向とが一致したものとなる。従って、所望のずらし角度を満たすだけの各シリンダボアのずらし移動が確保できない場合においても、各圧縮室の圧縮反力に基づくトルク変動を確実に低減することができる。
【0074】
しかも、両頭ピストン式圧縮機においては、同一のピストンに対してフロント側のデッドボリュームとリヤ側のデッドボリュームとは、同じ大きさとなるように構成されている。このため、気筒数がnである場合の回転n/2次成分が奇数次成分となる場合であっても、その回転n/2次成分が同一のピストンのフロント側とリヤ側とで互いに打ち消し合って消滅する。従って、前記の発明の効果とあいまって、気筒数nに対応する回転n次成分を低減しつつ、回転n/2次成分の発生を抑制することができる。そして、回転n次成分対策による新たな振動発生要因の発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1の実施形態の圧縮機を示す断面図。
【図2】 図1の2−2線における断面図。
【図3】 回転n次成分の位相差と振幅の関係を示す説明図。
【図4】 第2の実施形態の圧縮機を示す断面図。
【図5】 各圧縮室のデッドボリュームの変更に関する説明図。
【図6】 ずらし角度とデッドボリュームとの関係を示す説明図。
【図7】 第3の実施形態の圧縮機を示す断面図。
【図8】 各圧縮室のデッドボリュームの変更に関する説明図。
【図9】 回転10次成分の重畳現象に関する説明図。
【符号の説明】
11、12…シリンダブロック、11a〜11e、12a〜12e、51a〜51e、52a〜52e、61a〜61d、62a〜62d…シリンダボア、15…ハウジングの一部を構成するフロントハウジング、16…ハウジングの一部を構成するリヤハウジング、28…両頭ピストン、29、30…圧縮室、32…駆動シャフト、34…カム板としての斜板、Pa1〜Pe1、Pa2〜Pe2、Pa3〜Pd3…シリンダボアの半径中心、C…シリンダボアの半径中心の配列円周、Δθ、α1、α2…ずらし角度。
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、車両空調装置に使用される往復動型圧縮機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の往復動型圧縮機は、そのハウジングの内部に駆動シャフトが支持されているとともに、クランク室が形成されている。前記ハウジングの一部を構成するシリンダブロックの前記駆動シャフトの周囲には、複数のシリンダボアが互いに平行に配列されている。そのシリンダボア内には、ピストンが往復動可能に収容されて、圧縮室が区画形成されている。前記駆動シャフトには、斜板が一体回転可能に挿着され、その斜板の回転に連動して前記ピストンが往復動されて、圧縮室内の冷媒ガスが圧縮される。
【0003】
このような往復動型圧縮機においては、各ピストンの圧縮動作に伴って圧縮反力が発生する。この圧縮反力が斜板を介して駆動シャフトに作用し、トルク変動が発生する。このトルク変動は、駆動シャフト−クラッチ系のねじり振動を発生させる加振力となる。ここで、トルク変動の総和、言い換えれば各圧縮室で発生する圧縮反力の総和を高速フーリエ変換(FFT)解析すると、0次からかなり高次にわたる幅広い周波数成分が得られる。これらの周波数成分の中で主成分となるのが、気筒数nに対応した回転n次成分である。例えば、10気筒タイプの両頭ピストン式圧縮機においては、図9に示すような回転10次成分が主成分となる。10気筒の場合、各圧縮室の圧縮反力を示すカーブの位相は、36゜ずつずれている。これに対して、図9(a)に示すように、前記回転10次成分は、駆動シャフトの1回転分の時間において10回同一の変位を繰り返すため、その1周期は360゜/10=36゜となる。このため、各圧縮室のトルク変動の位相が完全に一致して、図9(b)に示すように、圧縮機全体としてのトルク変動の振幅は、1つの圧縮室あたりのトルク変動の振幅aの10倍となる。そして、このような回転n次成分等の周波数が、圧縮機並びにそれに接続される補機等の固有振動数と近接している場合には、共振現象による騒音や振動が発生して、車室内の騒音・振動レベルを上昇させる原因となっていた。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば特公昭48−19121号公報には、シリンダボアを円周方向に不等ピッチに配置したアキシャルプランジャポンプが開示されている。このポンプにおいては、ピストンをそれぞれ収容するn個のシリンダボアが、それぞれ隣接するシリンダボアと軸心とのなす角が360゜/n±γとなるように配置されている。このγは、各シリンダボア間で異なる値となっており、各シリンダボアのピッチ円一周で(360゜/n±γ)×n=360゜となるように設定されている。そして、それぞれのシリンダボアからの吐出量を不等化し、共振時においても流量、トルク、圧力及び回転数の変動を少なくしようとするものとしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記公報には、ねじり振動を低減するために、単にそれぞれのシリンダボアのピッチを変更することが開示されているのみである。つまり、駆動シャフトのトルク変動に対する具体的な対策は、何等開示も示唆もなされていない。このため、トルク変動を十分に低減することができず、騒音及び振動の発生を十分に抑制できないおそれがあるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、ねじり振動の加振力であり、気筒数nに対応するトルク変動の回転n次成分が低減されて、騒音及び振動の発生の少ない往復動型圧縮機を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、ハウジングの内部に駆動シャフトを支持するとともに、クランク室を形成し、前記ハウジングの一部を構成するシリンダブロック内の前記駆動シャフトの周囲に複数のシリンダボアを配列し、そのシリンダボア内にピストンを往復動可能に収容して圧縮室を区画形成し、前記駆動シャフトにはカム板を一体回転可能に挿着し、そのカム板の回転に連動して前記ピストンを往復動させて、冷媒ガスを圧縮するようにした往復動型圧縮機において、前記ピストンが奇数本であり、シリンダボアの半径中心の配列円周上に前記ピストンの本数に対応する等角度間隔位置を規定し、1つのシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置に配置し、その残りの半数のシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側に、他の残りの半数のシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向後側に、前記駆動シャフトの軸線を中心としてそれぞれ所定のずらし角度をもってずらしたものである。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記ずらし角度が次式を満たすものものである。
Δθ = arc cos(−1/2n) / n
ここで、Δθはずらし角度、nは圧縮機の気筒数を示している。
【0009】
請求項3に記載の発明では、ハウジングの内部に駆動シャフトを支持するとともに、クランク室を形成し、前記ハウジングの一部を構成するシリンダブロック内の前記駆動シャフトの周囲に複数のシリンダボアを配列し、そのシリンダボア内にピストンを往復動可能に収容して圧縮室を区画形成し、前記駆動シャフトにはカム板を一体回転可能に挿着し、そのカム板の回転に連動して前記ピストンを往復動させて、冷媒ガスを圧縮するようにした往復動型圧縮機において、前記ピストンが偶数本であり、シリンダボアの半径中心の配列円周上に前記ピストンの本数に対応する等角度間隔位置を規定し、半数のシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側に、他の半数のシリンダボアの半径中心を等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向後側に、前記駆動シャフトの軸線を中心としてそれぞれ所定のずらし角度をもってずらしたものである。
【0010】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の発明において、前記ずらし角度が次式を満たすものである。
Δθ = 180゜/n
ここで、Δθはずらし角度、nは圧縮機の気筒数を示している。
【0011】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記圧縮室は、少なくとも2種類の値のデッドボリュームに設定したものである。
【0012】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側にずらしたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームを基準デッドボリュームに比べて拡大し、前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向後側にずらしたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームを基準デッドボリュームに比べて縮小したものである。
【0013】
請求項7に記載の発明では、請求項6に記載の発明において、前記基準デッドボリュームは、圧縮機の機種毎に求められるずらし角度とデッドボリュームとの関係線図により決定されるものである。
【0014】
請求項8に記載の発明では、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、前記シリンダボアを前後対向するように形成するとともに、前記ピストンを両頭型に構成したものである。
【0015】
請求項9に記載の発明では、請求項8に記載の発明において、ひとつの前記両頭ピストンに対してフロント側のデッドボリュームとリヤ側のデッドボリュームとを同じ大きさに形成したものである。
【0016】
さて、上記のように構成された往復動型圧縮機においては、シリンダボアの半径中心の配列円周上に、その全円周をピストンの数で等分することにより等角度間隔位置が規定される。
【0017】
まず、ピストンが奇数本である場合には、1つのシリンダボアの半径中心は、前記等角度間隔位置の1つに配置される。その残りの半数のシリンダボアの半径中心は、駆動シャフトの回転方向前側にその軸線を中心として所定のずらし角度をもって前記等角度間隔位置からずらされている。また、他の半数のシリンダボアの半径中心は、逆に回転方向後側に所定のずらし角度をもって前記等角度間隔位置からずらされている。
【0018】
次に、ピストンが偶数本である場合には、その半数のシリンダボアの半径中心は、前記駆動シャフトの回転方向前側にその軸線を中心として所定のずらし角度をもって等角度間隔位置からずらされている。また、他の半数のシリンダボアの半径中心は、逆に回転方向後側に所定のずらし角度をもって等角度間隔位置からずらされている。
【0019】
このため、各圧縮室で発生する圧縮反力に基づくトルク変動の位相は各シリンダボアが等角度間隔位置に配置された場合に比べて、前記ずらし角度分だけ変位したものとなる。そして、各シリンダボアが等角度間隔位置に配置された場合とは異なり、各圧縮室で発生するトルク変動の位相が完全に一致することがない。そして、前記トルク変動の総和の高速フーリエ変換解析により得られる気筒数nに対応した回転n次成分は、各シリンダボアが等角度間隔位置に配置された場合に比べて、低減される。
【0020】
また、前記各圧縮室で発生するトルク変動は、同一周期の正弦波となっている。このため、複数の正弦波に所定の位相差を設定することによって、前記複数の正弦波の位相を反転させて、図3に示すように、前記トルク変動の振幅を最小にすることができる。
【0021】
まず、前記正弦波を奇数(2m+1、mは自然数)個重ね合わせて振幅を最小にするには、前記正弦波を2m個重ね合わせた結果と残りの1個とが消し合うようにすればよい。つまり、等角度間隔位置に配置したシリンダボアのトルク変動の正弦波をsinθとして、2m個を半数ずつ前記sinθに対して逆方向にずらすとして、
を満たす位相差Δψを求めればよい。この(1)式は、以下のように変形される。
【0022】
2m・cosΔψ・sinθ + sinθ = 0 (2)
この(2)式をΔψについて解くと、
Δψ = arc cos(−1/2m) (3)
となる。つまり、駆動シャフトの回転角360゜に対して2m個の正弦波を半数ずつ前記sinθに対して逆方向に(3)式を満たすΔψだけずらすことによって、奇数個の正弦波を重ね合わせて打ち消すことができる。ここで、回転n次成分は、駆動シャフトの1回転に相当する時間内においてn回同一位相を繰り返す波形であり、その位相の1周期は360゜/nである。この回転n次成分を打ち消して前記の振幅を最小とする各シリンダボアのずらし角Δθを求めると、
となる。
【0023】
次に、前記の正弦波を偶数個重ね合わせて振幅を最小にするには、半数の位相を180°だけずらせばよい。ここで、問題となる回転n次成分の1周期は、前記の通り360゜/nとなる。このため、駆動シャフトの回転方向に対して、半数のシリンダボアを前側に180゜/n、他の半数のシリンダボアを後側に180゜/nずらすことによって、前記振幅を最小にする位相のずれを確保することができる。つまり、前記振幅を最小にするには、各シリンダボアのずらし角をΔθとして、次式を満たすように各シリンダボアをずらせばよい。
【0024】
Δθ = 180゜/n (5)
ところで、圧縮機の大きさ、各シリンダボアの接近度、及びその安全率を考慮すると、前記(4)式及び(5)式を満たすだけのずらし移動が確保できない場合がある。このような場合には、各圧縮室のデッドボリュームの値を変更することによっても、ねじり振動の加振力となるトルク変動の前記回転n次成分を低減することができる。なお、デッドボリュームとは、ピストンが上死点に達したときの圧縮室の容積のことである。この各圧縮室のデッドボリュームの値の変更によって、各圧縮室内の圧縮動作時における容積と圧力との推移の曲線がそれぞれ異なったものとなる。このため、各圧縮室内で発生する圧縮反力に基づくトルク変動の位相にずれを生じて、気筒数nに対応する回転n次成分の完全な重畳がなくなる。そして、前記の各シリンダボアのずらし移動とほぼ同様のトルク変動の低減効果が発揮される。
【0025】
ここで、前記のように構成された往復動型圧縮機においては、トルク変動の低減効果について、シリンダボアのずらし移動によるものと各圧縮室のデッドボリュームの変更によるものとの対応を求めることができる。このため、前記(4)式及び(5)式を満たすだけのシリンダボアのずらし移動が確保できない場合には、ずらし角度の不足分を各圧縮室のデッドボリュームの値の変更で補うことができる。
【0026】
さらに、等角度間隔位置から駆動シャフトの回転方向前側にずらされたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームは、基準となるデッドボリュームに比べて拡大されている。また、駆動シャフトの回転方向後側にずらされたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームは、基準となるデッドボリュームに比べて縮小されている。このため、シリンダボアのずらし移動によるトルク変動の低減の傾向と、デッドボリュームの変更によるトルク変動の低減の傾向とが相反することなく、一致したものとなる。
【0027】
しかも、上記のように構成された両頭ピストン式圧縮機は、前記のようなシリンダボアのずらし移動及びデッドボリュームの変更に加えて、ひとつの両頭ピストンに対しては、そのフロント側のデッドボリュームとリヤ側のデッドボリュームとが同じ大きさとなるように形成されている。この両頭ピストン式圧縮機における圧縮反力の位相は、フロント側の総和とリヤ側の総和との間で180°のずれが存在している。ここで、ねじれ振動の加振力となるトルク変動の気筒数nに対応した回転n次成分は偶数次成分であり、その位相は駆動シャフトの1回転に相当する時間内に同一変位を偶数回繰り返すものとなっている。このため、回転n次成分のフロント側の総和とリヤ側の総和とは、位相が一致して重畳される。しかし、前記のようにシリンダボアのずらし移動及びデッドボリュームの変更を行うことによって、回転n次成分のフロント側の総和及びリヤ側の総和がそれぞれ低減される。そして、そのフロント側の総和とリヤ側の総和とが重畳された圧縮機全体の回転n次成分も低減される。しかも、回転n/2次成分が奇数次成分となった場合、その奇数次成分は駆動シャフトの1回転に相当する時間内に同一変位を奇数回繰り返すものである。このため、フロント側とリヤ側との間で回転n/2次成分の位相に180゜のずれが存在し、互いに反転した状態となる。そして、その回転n/2次成分はひとつのピストンのフロント側とリヤ側とで互いに打ち消し合って消滅する。
【0028】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下に、本発明の第1の実施形態について図1及び図2に基づいて説明する。
【0029】
図1に示すように、フロント側のシリンダブロック11とリヤ側のシリンダブロック12とは、中央部において接合されている。シリンダブロック11のフロント側端面には、弁板13を介してフロントハウジング15が、シリンダブロック12のリヤ側端面には弁板14を介してリヤハウジング16がそれぞれ接合されている。前記各シリンダブロック11、12と各弁板13、14との間には、それぞれ吸入弁17a、18aを形成する吸入弁形成板17、18が介在されている。各弁板13、14と前記両ハウジング15、16との間には、それぞれ吐出弁19a、20aを形成する吐出弁形成板19、20が介在されている。各吐出弁形成板19、20と両ハウジング15、16との間には、それぞれ前記吐出弁19a、20aの最大開口を規制するリテーナプレート21、22が介在されている。
【0030】
前記シリンダブロック11、12、弁板13、14、吸入弁形成板17、18及び吐出弁形成板19、20は複数の通しボルト23により互いに締付固定されている。
【0031】
前記フロントハウジング15及びリヤハウジング16の外周には吸入室24、25が形成され、中心側には吐出室26、27が区画形成されている。
図1及び図2に示すように、前記シリンダブロック11、12には、複数のシリンダボア11a〜11e、12a〜12eが互いに平行をなすように貫通形成され、それらの内部には両頭ピストン28が挿入されている。本実施形態の圧縮機は、5本の両頭ピストン28を備えた10気筒タイプの往復動型圧縮機となっている。前記シリンダボア11a〜11e、12a〜12e内には、前後一対の圧縮室29、30が形成される。この圧縮室29、30は、弁板13、14に形成された吸入ポート13a、14aを介して吸入室24、25に、また、同様に弁板13、14に形成された吐出ポート13b、14bを介して吐出室26、27に連通されている。
【0032】
前記両シリンダブロック11、12間には、クランク室31が形成されている。両シリンダブロック11、12の軸孔11f、12fには、駆動シャフト32がラジアル軸受33を介して回転可能に支持されている。該駆動シャフト32は、図示しないクラッチを介して車両エンジン等の外部駆動源により回転される。前記駆動シャフト32の中間外周部には、カム板としての斜板34が嵌合固定されている。該斜板34には、前記両頭ピストン28がシュー35、36を介して係留され、斜板34の回転により両頭ピストン28が前記シリンダボア11a〜11e、12a〜12e内で往復動される。
【0033】
前記斜板34のボス部34aは、スラスト軸受37、38を介してシリンダブロック11、12の前後両側壁面に支持されている。
図1に示すように、前記クランク室31は、シリンダブロック11、12に形成した吸入通路39、40により吸入室24、25と連通されている。クランク室31は、シリンダブロック11、12に形成した図示しない吸入フランジを介して外部冷媒回路に接続されている。さらに、前記吐出室26、27は、シリンダブロック11、12及び両ハウジング15、16に形成した吐出通路41、42及び図示しない吐出フランジを介して外部冷媒回路に接続されている。
【0034】
そして、車両エンジン等の外部駆動源により駆動シャフト32が回転されると、クランク室31内の斜板34が回転され、シュー35、36を介して複数の両頭ピストン28がシリンダボア11a〜11e、12a〜12e内で往復動される。この両頭ピストン28の運動により吸入フランジ(図示略)からクランク室31に導かれた冷媒ガスは、該クランク室31から吸入通路39、40を経て吸入室24、25に導かれる。両頭ピストン28が下死点から上死点に向かう吸入行程において、前記吸入弁17a、18aが開放され、吸入室24、25内の冷媒ガスは、吸入ポート13a、14aを通って圧縮室29、30内に吸入される。次に、両頭ピストン28が上死点から下死点に向かう圧縮・吐出行程において、圧縮室29、30内の冷媒ガスは圧縮される。そして、冷媒ガスが所定の圧力に達すると、高圧の圧縮冷媒ガスが吐出弁19a、20aを押し退けて吐出ポート13b、14bを経て吐出室26、27に吐出される。さらに、吐出室26、27内の圧縮冷媒ガスは、吐出通路41、42を経て外部冷媒回路をなす凝縮器、膨張弁、蒸発器に供給され、車両室内の空調に供される。
【0035】
次に、前記各シリンダボア11a〜11e、12a〜12eの配置について説明する。フロント側の各シリンダボア11a〜11eと、リヤ側の各シリンダボア12a〜12eとは、両頭ピストン28に対してそれぞれ対をなしている。このため、フロント側の各シリンダボア11a〜11eと、リヤ側の各シリンダボア12a〜12eとは、全く同じ配置となっている。ここでは、リヤ側の各シリンダボア12a〜12eについてのみ説明する。
【0036】
図2に示すように、シリンダボア12a〜12eの半径中心Pa1〜Pe1の配列円周Cは、駆動シャフト32の軸線上に半径中心Poを持つ。Ra〜Re、rb1〜re1は、半径中心Poを通るシリンダブロック11、12の半径線である。半径線Ra〜Reは、前記配列円周Cをピストン28の数で等分した等角度間隔位置を通る。本実施形態ではピストン28は5本であり、前記半径線Ra〜Reは72°おきに配置される。前記ピストン28の数は奇数であり、1本のピストン28を収容するシリンダボア12aはその半径中心Pa1が半径線Ra上、つまり前記等角度間隔位置のひとつに配置されている。残りのピストン28の半数をそれぞれ収容する2つのシリンダボア12b、12dは、その半径中心Pb1、Pd1が半径線rb1、rd1上にある。この半径線rb1、rd1は半径線Rb、Rdを基準に駆動シャフト32の回転方向前側に所定角度ずらされている。他の残りのピストン28の半数を収容する2つのシリンダボア12c、12eはその半径中心Pc1、Pe1が半径線rc1、re1上にある。この半径線rc1、re1は半径線Rc、Reを基準に駆動シャフト32の回転方向後側に所定角度ずらされている。
【0037】
なお、この所定角度は前記(4)式により算出される。ここで、ピストン数は5であるので、
2m+1 = 5
であり、m=2となる。
【0038】
つまり、各シリンダボアを等角度間隔位置に配置した場合に比べて、シリンダボア11b〜11e、12b〜12e内の圧縮室29、30で発生するトルク変動が、約104゜の位相差を有するものとなっている。ここで、騒音、振動の主要因となるトルク変動の回転10次成分は、前記駆動シャフト32の回転角360゜に対して10回同じ変位を繰り返すため、その1周期が36゜となる。従って、各シリンダボア11b〜11e、12b〜12eにおいて回転10次成分を消去するためのずらし角度は、10.4゜となる。これに従って、半径線rb1〜re1は、半径線Rb〜Reを基準としてそれぞれ10.4゜ずつずらされている。
【0039】
さて、前記両頭ピストン28の圧縮動作に伴って、各圧縮室29、30において圧縮反力が発生する。この圧縮反力に基づくトルク変動は、同一周期の正弦波となっている。ここで、本実施形態の圧縮機では、1本の両頭ピストン28を収容する1対のシリンダボア11a、12aが前記等角度間隔位置の1つに配置されている。一方、その他の両頭ピストン28に対応する各シリンダボア11b〜11e、12b〜12eは、等角度間隔位置から駆動シャフト32の回転方向に対して半数ずつそれぞれ+10.4゜あるいは−10.4゜ずらされている。このため、シリンダボア11b〜11e、12b〜12e内の圧縮室29、30において発生するトルク変動の総和の回転10次成分は、シリンダボア11a、12a内の圧縮室29、30において発生する同成分に対して、104゜の位相差を有したものとなる。従って、圧縮機全体の回転10次成分が打ち消されて、ねじり振動を発生する加振力が低減される。
【0040】
以上のように構成された本実施形態によれば、以下の優れた効果を奏する。
本実施形態の圧縮機では、ピストン28が5本であり、1本のピストン28を収容するシリンダボア11a、12aの半径中心Paが等角度間隔位置に対応する半径線Ra上に配置されている。そして、残りのピストン28の半数を収容するシリンダボア12b、12dは、その半径中心Pb1、Pd1が等角度間隔位置から駆動シャフト32の回転方向前側に10.4゜ずらされた半径線rb1、rd1上にある。他の残りのピストン28の半数を収容するシリンダボア12c、12eは、その半径中心Pc1、Pe1が等角度間隔位置から駆動シャフト32の回転方向後側に10.4゜ずらされた半径線rc1、re1上にある。
【0041】
ここで、各圧縮室29、30で発生する圧縮反力に基づくトルク変動の位相について考える。シリンダボア11a、12aでの圧縮反力に起因するトルク変動の位相と、他のシリンダボア11b〜11e、12b〜12eでの圧縮反力に起因するトルク変動の位相の和との間に、駆動シャフト32の1回転に対して104゜の位相差が設定されたこととなる。そして、圧縮機全体のトルク変動の総和がほとんど0となり、各ピストンが等角度間隔位置に配置された場合に比べて、大きくトルク変動の回転10次成分が低減される。従って、駆動シャフト32と図示しないクラッチとの間におけるねじり振動に対する加振力が低減されて、それによって励起される共振現象に基づく騒音が低減されて、車室内の騒音レベルを低下させることができる。
【0042】
(第2の実施形態)
以下に、本発明の第2の実施形態について図4〜図6に基づいて説明する。この第2の実施形態は、例えば10気筒タイプの両頭ピストン式圧縮機において、図2に示す前記第1の実施形態のシリンダボア12a〜12eに比べて、各シリンダボア52a〜52e(51a〜51e)の直径が大きく、隣接するシリンダボアの干渉により前記所定のずらし角度が確保できない場合に好適である。
【0043】
この第2の実施形態においても、前記第1の実施形態と同様に、フロント側の各シリンダボア51a〜51eと、リヤ側の各シリンダボア52a〜52eとは、両頭ピストン28に対してそれぞれ対をなして同様に形成されているので、主にリヤ側の各シリンダボア52a〜52eについて説明する。
【0044】
図4に示すように、1本のピストン28を収容するシリンダボア52aの半径中心Pa2が、前記等角度間隔位置に対応する半径線Ra上に配置されている。残りのピストン28の半数をそれぞれ収容する2つのシリンダボア52b、52dは、その半径中心Pb2、Pd2が半径線rb2、rd2上にある。この半径線rb2、rd2は、前記等角度間隔位置を通る半径線Rb、Rdから駆動シャフト32の回転方向前側に角度α1だけずらされたものである。他のピストン28の半数をそれぞれ収容する2つのシリンダボア52c、52eは、その半径中心Pc2、Pe2が半径線rc2、re2上にある。この半径線rc2、re2は、前記等角度間隔位置を通る半径線Rc、Reから駆動シャフト32の回転方向後側に角度α1だけずらされたものである。なお、隣接するシリンダボア、例えば52bと52cとを等角度間隔位置からそれぞれ角度α1ずつ接近させても、隣接するシリンダボア同士が干渉せず、かつその隣接するシリンダボア間の隔壁において所望の強度が確保されるように、角度α1が設定される。
【0045】
また、図4及び図5に示すように、前記各シリンダボア52a〜52eは、いずれもその内径が同一に形成されている。そして、各シリンダボア52a〜52e内に収容されている各両頭ピストン28の頭部は、それぞれ所定の長さずつ削り取られている。従って、各ピストン28が上死点位置に達したときにおいて、ピストン28の頭部端面とシリンダボア52a〜52eの内端面との間の距離がそれぞれ異なる。このため、各圧縮室30内のデッドボリュームがそれぞれ異なる値に設定されている。ここで、デッドボリュームとは、ピストン28が上死点位置に達したときにおける圧縮室30の容積のことである。
【0046】
さらに、前記両頭ピストン28は、そのフロント側及びリヤ側の削り取り量が同一となるように形成されている。このため、ひとつの両頭ピストン28に対してそのフロント側の圧縮室29のデッドボリュームの値とリヤ側の圧縮室30のデッドボリュームの値とが、同じ大きさとなっている。言い換えると、両頭ピストン28を介して駆動シャフト32の軸線方向に対向するシリンダボア51a内の圧縮室29とシリンダボア52a内の圧縮室30とは、同一のデッドボリュームに設定されている。同様に、シリンダボア51bと52b、51cと52c、51dと52d、51eと52eとにおいて、それぞれの圧縮室29と圧縮室30とのデッドボリュームの値は同一となっている。従って、フロント側の各圧縮室29のデッドボリュームの大小の配置とリヤ側の各圧縮室30のデッドボリュームの大小の配置とが駆動シャフト32の回転方向において同じになるように形成されている。
【0047】
図5に示すように、各圧縮室30のデッドボリュームの大きさは、半径中心Pa2が等角度間隔位置に対応する半径線Ra上に配置されたシリンダボア52a内の圧縮室30のデッドボリュームの値Vmidが基準となっている。そして、半径中心Pb2、Pd2が駆動シャフト32の回転方向の前側にずらされたシリンダボア52b、52d内のデッドボリュームの値は、前記の基準となるデッドボリュームの値Vmidに所定の値V1を加えたものとなっている。また、半径中心Pc、Peが駆動シャフト32の回転方向の後側にずらされたシリンダボア52c、52e内のデッドボリュームの値は、前記の基準となるデッドボリュームの値Vmidから所定の値V2を減じたものとなっている。
【0048】
次に、各圧縮室30のデッドボリュームの設定について説明する。
さて、前記のように、各圧縮室30のデッドボリュームを変更することによって、各圧縮室30での圧縮動作における容積と圧力との推移の曲線が異なったものとなる。そして、各圧縮室30で発生するトルク変動の位相にずれが生じる。このため、各圧縮室30のデッドボリュームを変更することによっても、前記シリンダボアをずらし移動するのと同様に回転10次成分が低減される。
【0049】
この回転10次成分の低減効果について、図6に示すような前記のシリンダボア52b〜52eのずらし角Δθと各圧縮室30のデッドボリュームの値との間の関係線図を、圧縮機の機種毎に求めることができる。ここで、Vminは製作上許容される最小のデッドボリュームの値を、Vmaxはその圧縮機の圧縮性能が極端に低下しない程度に最大限に拡大されたデッドボリュームの値をそれぞれ示している。また、Δθmin及びΔθmaxは、各圧縮室30をそれぞれVmin及びVmaxのデッドボリュームの値に設定したときの回転10次成分に相当するずらし角度となっている。Δθmidは次式により規定される。
【0050】
Δθmid = (Δθmin+Δθmax) / 2 (6)
このΔθmidを、シリンダボアを等角度間隔位置に配置したときのずらし角度、つまりΔθ=0゜に対応させる。そして、図6の前記関係線図を用いて基準となるデッドボリュームVmidが設定される。
【0051】
そして、各シリンダボア52b〜52eにおいて、前記角度α1の所望の角度に対する不足角度分β1と相当するデッドボリュームの値V1、V2が、前記関係線図に基づいて設定される。ここで、駆動シャフト32の回転方向前側にずらしたシリンダボア52b、52d内の圧縮室30内のデッドボリュームの値は、ずらし角度Δθmid+β1に相当するVmid+V1に設定される。また、駆動シャフト32の回転方向後側にずらしたシリンダボア52c、52e内の圧縮室30内のデッドボリュームの値は、ずらし角度Δθmid−β1に相当するVmid−V2に設定される。
【0052】
ここで、Δθmid+β1>ΔθmaxあるいはΔθmid−β1<Δθminとなる場合には、そのシリンダボアのデッドボリュームの値はそれぞれVmaxあるいはVminに設定される。
【0053】
以上のように構成された本実施形態によれば、以下の優れた効果を奏する。
(a) 圧縮機の大きさ、各シリンダボアの接近度、及びその安全率の関係上、所望のずらし角度Δθを満たすだけの移動が確保されていないシリンダボア51b〜51e、52b〜52eの内の圧縮室29、30は、そのデッドボリュームが変更されている。このため、前記ずらし角度Δθの不足によって生じるトルク変動の位相差の不足分が、デッドボリュームの変更により補足される。そして、10気筒タイプの両頭ピストン式圧縮機において、ねじり振動に対する加振力となるトルク変動の主成分である回転10次成分が確実に低減される。従って、前記ねじり振動によって、圧縮機並びにそれに接続される補機等の共振現象による騒音の発生が低減されて、車室内の騒音レベルが低下される。
【0054】
(b) 駆動シャフト32の回転方向に対して前側にずらされたシリンダボア51b、51d、52b、52d内の各圧縮室29、30内のデッドボリュームが基準の値Vmidから所定の値V1だけ拡大されている。一方、駆動シャフト32の回転方向に対して後側にずらされたシリンダボア51c、51e、52c、52e内の各圧縮室29、30内のデッドボリュームが基準の値Vmidから所定の値V2だけ縮小されている。ここで、デッドボリュームが大きいほど、圧縮室29、30で発生する圧縮反力が緩和されて、この圧縮反力に起因するトルク変動が低減される。このため、シリンダボアのずれ移動によるトルク変動の低減の傾向と、デッドボリュームの変更によるトルク変動の低減の傾向とが一致したものとなる。従って、シリンダボアのずらし移動と、デッドボリュームの変更とによってトルク変動が確実に低減される。
【0055】
(c) ひとつの両頭ピストン28のフロント側及びリヤ側のデッドボリュームが同一となるように形成されている。このため、回転5次成分は、そのフロント側の総和とリヤ側の総和とが互いに打ち消し合って、消滅する。従って、前記第1の実施形態、(a)項及び(b)項に記載の効果とあいまって、トルク変動の回転10次成分を低減しつつ、回転5次成分の発生を抑制することができる。
【0056】
(第3の実施形態)
以下に、本発明の第3の実施形態について図7及び図8に基づいて説明する。この第3の実施形態は、偶数本のピストン28を有する圧縮機、例えば8気筒タイプの両頭ピストン式圧縮機において、隣接するシリンダボアの干渉により前記所定のずらし角度が確保できない場合に好適である。
【0057】
この第3の実施形態においても、前記第1の実施形態と同様に、フロント側の各シリンダボア61a〜61dと、リヤ側の各シリンダボア62a〜62dとは、両頭ピストン28に対してそれぞれ対をなして同様に形成されているので、主にリヤ側の各シリンダボア62a〜62dについて説明する。
【0058】
図7に示すように、半数のピストン28を収容する2つのシリンダボア62a、62cは、その半径中心Pa3、Pc3が等角度間隔位置を通る半径線Ra、Rcから駆動シャフト32の回転方向前側に角度α2だけずらされた半径線ra3、rc3上にある。他の半数のピストン28を収容する2つのシリンダボア62b、62dは、その半径中心Pb3、Pd3が等角度間隔位置を通る半径線Rb、Rdから駆動シャフト32の回転方向後側に角度α2だけずらされた半径線rb3、rd3上にある。
【0059】
ここで、8気筒タイプの圧縮機において、問題となる回転8次成分を最小とするずらし角度は前記(5)式により算出される。
つまり、回転8次成分を最小とするためには、前記半径線ra3〜rd3を前記半径線Ra〜Rdに対して+22.5゜あるいは−22.5゜とかなり大きくずらす必要がある。ところが、圧縮機の大きさ、各シリンダボアの接近度、及びその安全率の関係上、所望のずらし角度Δθを満たすだけの移動が確保できない場合には、前記第2の実施形態と同様にずらし角度α2が設定される。また、ずらし角度の不足によるトルク変動の位相差の不足分を補うべく、前記第2の実施形態と同様に、各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更がなされている。
【0060】
言い換えると、前記ずらし角度α2は、隣接するシリンダボア例えば62aと62bとを等角度間隔位置からそれぞれ角度α2ずつ接近させても、隣接するシリンダボア同士が干渉せず、かつその隣接するシリンダボア間の隔壁において所望の強度が確保されるように設定される。
【0061】
また、図8に示すように、駆動シャフト32の回転方向前側にずらされたシリンダボア62a、62c内の圧縮室20のデッドボリュームは基準デッドボリュームの値Vmidに対して所定の値V3が加えられている。一方、駆動シャフト32の回転方向後側にずらされたシリンダボア62b、62d内の圧縮室30のデッドボリュームの値は、前記の基準となるデッドボリュームの値Vmidから所定の値V4を減じたものとなっている。
【0062】
このように構成した場合、偶数本のピストン28を収容する圧縮機において、トルク変動の回転n次成分を低減することができる。従って、駆動シャフト32と図示しないクラッチとの間のねじり振動に対する加振力が低減されて、それによって励起される共振現象に基づく騒音及び振動が低減されて、車室内の騒音・振動レベルを低下させることができる。
【0063】
なお、本発明は以下のように変更して具体化することもできる。
(1) 前記第1の実施形態において、シリンダボア12b、12d(11b、11d)を駆動シャフト32の回転方向後側にずらし、シリンダボア12c、12e(11c、11e)を駆動シャフト32の回転方向前側にずらすこと。
【0064】
(2) 前記第2の実施形態において、シリンダボア52b、52d(51b、51d)を駆動シャフト32の回転方向後側にずらし、そのシリンダボア52b、52d(51b、51d)内の圧縮室29、30のデッドボリュームの値をVmid−V2に設定するとともに、シリンダボア52c、52e(51c、51e)を駆動シャフト32の回転方向前側にずらし、そのシリンダボア52c、52e(51c、51e)内の圧縮室29、30のデッドボリュームの値をVmid+V1に設定すること。
【0065】
(3) 本発明を前記実施形態に記載以外の気筒数、例えば6、12気筒の両頭ピストン式圧縮機において具体化すること。
(4) 本発明を片頭ピストン式圧縮機において具体化すること。
【0066】
(5) 本発明をウェーブカムプレートタイプのピストン式圧縮機において具体化すること。
以上のように構成しても、気筒数nに対応する回転n次成分を低減することができる。
【0067】
(6) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、両頭ピストン28の頭部に凹部を設けて行うこと。
(7) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、両頭ピストン28の頭部に溝を設けて行うこと。
【0068】
(8) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、シリンダボア11a〜11e、12a〜12eの内周面に切欠部を設けて行うこと。
(9) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、シリンダボア11a〜11e、12a〜12eの長さをそれぞれ変更して行うこと。
【0069】
(10) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、弁板13、14の厚みを変更して行うこと。
(11) 各圧縮室29、30のデッドボリュームの変更を、吸入弁17a、18aの厚みを変更して行うこと。
【0070】
以上のように構成しても、簡単な構成で各圧縮室29、30のデッドボリュームを変更することができる。
【0071】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば以下の優れた効果を奏する。
ピストンが奇数本の場合には、1つのシリンダボアの半径中心の配列円周上に規定された等角度間隔位置に1つのシリンダボアの半径中心が、配置されている。その残りの半数のシリンダボアの半径中心は、前記等角度間隔位置から回転方向前側に、他の半数のシリンダボアの半径中心は、回転方向後側にそれぞれ所定のずらし角度をもってずらされている。また、偶数本の場合には、その半数のシリンダボアの半径中心は、前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側に、他の半数のシリンダボアの半径中心は逆に回転方向後側にそれぞれ所定のずらし角度をもってずらされている。このため、各圧縮室の圧縮反力に基づくトルク変動の気筒数nに対応した回転n次成分が、各シリンダボアが等角度間隔位置に配置された場合に比べて低減される。従って、駆動シャフト−クラッチ系のねじり振動の加振力が抑制されて、圧縮機並びにそれに接続される補機において、前記ねじり振動によって励起される共振現象が低減され、車室内の騒音・振動レベルを低下させることができる。
【0072】
また、圧縮機の大きさ、各シリンダボアの接近度、及びその安全率の関係上、所望のずらし角度を満たすだけの各シリンダボアのずらし移動が確保できない場合には、各シリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームが変更される。このため、各シリンダボアのずらし移動によるトルク変動の低減効果の不足分が、各圧縮室のデッドボリュームの変更によるトルク変動の低減効果によって補足される。
【0073】
しかも、前記等角度間隔位置から駆動シャフトの回転方向前側にずらされたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームは、基準となるデッドボリュームに比べて拡大されている。また、駆動シャフトの回転方向後側にずらされたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームは、基準となるデッドボリュームに比べて縮小されている。このため、シリンダボアのずらし移動によるトルク変動の低減の傾向と、デッドボリュームの変更によるトルク変動の低減の傾向とが一致したものとなる。従って、所望のずらし角度を満たすだけの各シリンダボアのずらし移動が確保できない場合においても、各圧縮室の圧縮反力に基づくトルク変動を確実に低減することができる。
【0074】
しかも、両頭ピストン式圧縮機においては、同一のピストンに対してフロント側のデッドボリュームとリヤ側のデッドボリュームとは、同じ大きさとなるように構成されている。このため、気筒数がnである場合の回転n/2次成分が奇数次成分となる場合であっても、その回転n/2次成分が同一のピストンのフロント側とリヤ側とで互いに打ち消し合って消滅する。従って、前記の発明の効果とあいまって、気筒数nに対応する回転n次成分を低減しつつ、回転n/2次成分の発生を抑制することができる。そして、回転n次成分対策による新たな振動発生要因の発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1の実施形態の圧縮機を示す断面図。
【図2】 図1の2−2線における断面図。
【図3】 回転n次成分の位相差と振幅の関係を示す説明図。
【図4】 第2の実施形態の圧縮機を示す断面図。
【図5】 各圧縮室のデッドボリュームの変更に関する説明図。
【図6】 ずらし角度とデッドボリュームとの関係を示す説明図。
【図7】 第3の実施形態の圧縮機を示す断面図。
【図8】 各圧縮室のデッドボリュームの変更に関する説明図。
【図9】 回転10次成分の重畳現象に関する説明図。
【符号の説明】
11、12…シリンダブロック、11a〜11e、12a〜12e、51a〜51e、52a〜52e、61a〜61d、62a〜62d…シリンダボア、15…ハウジングの一部を構成するフロントハウジング、16…ハウジングの一部を構成するリヤハウジング、28…両頭ピストン、29、30…圧縮室、32…駆動シャフト、34…カム板としての斜板、Pa1〜Pe1、Pa2〜Pe2、Pa3〜Pd3…シリンダボアの半径中心、C…シリンダボアの半径中心の配列円周、Δθ、α1、α2…ずらし角度。
Claims (9)
- ハウジングの内部に駆動シャフトを支持するとともに、クランク室を形成し、前記ハウジングの一部を構成するシリンダブロック内の前記駆動シャフトの周囲に複数のシリンダボアを配列し、そのシリンダボア内にピストンを往復動可能に収容して圧縮室を区画形成し、前記駆動シャフトにはカム板を一体回転可能に挿着し、そのカム板の回転に連動して前記ピストンを往復動させて、冷媒ガスを圧縮するようにした往復動型圧縮機において、
前記ピストンが奇数本であり、シリンダボアの半径中心の配列円周上に前記ピストンの本数に対応する等角度間隔位置を規定し、1つのシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置に配置し、その残りの半数のシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側に、他の残りの半数ののシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向後側に、前記駆動シャフトの軸線を中心としてそれぞれ所定のずらし角度をもってずらした往復動型圧縮機。 - 前記ずらし角度が次式を満たすものである請求項1に記載の往復動型圧縮機。
Δθ = arc cos(−1/2n) / n
ここで、Δθ : ずらし角度
n : 圧縮機の気筒数 - ハウジングの内部に駆動シャフトを支持するとともに、クランク室を形成し、前記ハウジングの一部を構成するシリンダブロック内の前記駆動シャフトの周囲に複数のシリンダボアを配列し、そのシリンダボア内にピストンを往復動可能に収容して圧縮室を区画形成し、前記駆動シャフトにはカム板を一体回転可能に挿着し、そのカム板の回転に連動して前記ピストンを往復動させて、冷媒ガスを圧縮するようにした往復動型圧縮機において、
前記ピストンが偶数本であり、シリンダボアの半径中心の配列円周上に前記ピストンの本数に対応する等角度間隔位置を規定し、半数のシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側に、他の半数のシリンダボアの半径中心を前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向後側に、前記駆動シャフトの軸線を中心としてそれぞれ所定のずらし角度をもってずらした往復動型圧縮機。 - 前記ずらし角度が次式を満たすものである請求項3に記載の往復動型圧縮機。
Δθ = 180゜/n
ここで、Δθ : ずらし角度
n : 圧縮機の気筒数 - 前記圧縮室は、少なくとも2種類の値のデッドボリュームに設定した請求項1〜4のいずれかに記載の往復動型圧縮機。
- 前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向前側にずらしたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームを基準デッドボリュームに比べて拡大し、前記等角度間隔位置から前記駆動シャフトの回転方向後側にずらしたシリンダボア内の圧縮室のデッドボリュームを基準デッドボリュームに比べて縮小した請求項1〜5のいずれかに記載の往復動型圧縮機。
- 前記基準デッドボリュームは、圧縮機の機種毎に求められるずらし角度とデッドボリュームとの関係線図により決定される請求項6に記載の往復動型圧縮機。
- 前記シリンダボアを前後対向するように形成するとともに、前記ピストンを両頭型に構成した請求項1〜7のいずれかに記載の往復動型圧縮機。
- ひとつの前記両頭ピストンに対してフロント側のデッドボリュームとリヤ側のデッドボリュームとを同じ大きさに形成した請求項8に記載の往復動型圧縮機。
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