JP3752154B2 - アルミニウム合金クラッド材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用の熱交換器等に用いられる、アルミニウム合金クラッド材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車等のさらなる軽量小型化の要請により、エンジン等に用いられる熱交換器に対しても軽量小型化が要請されている。この要請に答えるために、熱交換器の厚みを薄くすることにより熱交換器の小型化を図ることが提案されている。そして、図1に示されるような、断面形状が楕円形の、アルミニウム合金(以下、「アルミニウム合金」を「アルミニウム合金」又は「Al合金」という。)クラッド材からなる冷却チューブ1が熱交換器として製造されるに至った。
【0003】
この冷却チューブ1は、図1に示されるように、熱媒体としてのロングライフクーラント(以下、「LLC」という。)が流れるための熱媒体通路5として中空部を有する構成からなっていた。また、前記冷却チューブ1は、Al−Mn系Al合金を心材2とし、その片面の熱媒体通路5側にAl−Zn系犠牲材3がクラッドされていた。
尚、ここでいう「熱媒体」には、冷却媒体の他に、加熱媒体が含まれる。また、「熱媒体」は、主に液体を意味するものとする。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記冷却チューブ1を長期間使用していると、LLC中の化学種による塩の析出などにより、または、化学種の凝集により生じたと思われる析出物が、図1の一部拡大断面図に示されるように、前記溶媒通路5の表面に吸着されることがあった。
そのため、この析出物が、チューブの熱媒体通路5の壁面に析出物4が吸着されることに起因して、冷却チューブの厚み(X)を薄くするほど、冷却チューブ1の目詰まりが生じるおそれがあった。
そのため、冷却チューブ1の小型化を図るために、前記析出物4がAl合金表面に吸着することを抑制して、前記冷却チューブ1の目詰まりを防止するといった、さらなるAl合金の改良が求められていた。
【0005】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意研究した結果、前記析出物4が、冷却チューブ1を構成するAl合金表面へ吸着する理由は、負に帯電した析出物4の、前記Al合金表面への静電吸着であることを知見した。この知見に基づいてさらに研究をした結果、本発明者らは、冷却チューブ1を構成するAL合金の表面のゼータ電位を20mv以下に抑えることにより、前記析出物4の吸着を効果的に削減できることを見出し、Al合金の表面のゼータ電位を最適化することにより本発明を完成するに至ったのである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、少なくとも、熱媒体が流れるための熱媒体通路として中空部を有する冷却チューブに用いられ、また、前記熱媒体中の化学種が前記冷却チューブの内側表面に吸着することを防止することが求められるアルミニウム合金クラッド材であって、
アルミニウム合金からなる心材の少なくとも片面にアルミニウム合金犠牲材がクラッドされてなり、
前記犠牲材は、Znを0.5〜10.0質量%、Siを1.5〜2.0質量%、Tiを0.02〜0.3質量%含有し、残部がAlと不可避的成分を含有するアルミニウム合金であり、かつ、
前記犠牲材表面のゼータ電位が20mV以下であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材として構成した(請求項1)。
この場合、前記ゼータ電位は、好ましくは10mV以下に制限することが都合がよい。
【0007】
このような構成としたことにより、前記析出物のAl合金クラッド材表面への吸着を効果的に防止することができるようになったのである(表面吸着防止性)。そのため、本発明に係るAl合金クラッド材から冷却チューブを製造することにより、前記目詰まりの問題が改善されることにより、冷却チューブをさらに薄くすることができ、熱交換性能も向上するので、冷却チューブの小型化が図られる。
【0008】
また、好ましくは、少なくとも、熱媒体が流れるための熱媒体通路として中空部を有する冷却チューブに用いられ、また、前記熱媒体中の化学種が前記冷却チューブの内側表面に吸着することを防止することが求められるアルミニウム合金クラッド材であって、
アルミニウム合金からなる心材の片面にアルミニウム合金犠牲材がクラッドされ、かつ、他面にアルミニウム合金ろう材がクラッドされてなり、
前記犠牲材は、Znを0.5〜10.0質量%、Siを1.5〜2.0質量%、Tiを0.02〜0.3質量%含有し、残部がAlと不可避的成分を含有するアルミニウム合金であり、かつ、
前記犠牲材表面のゼータ電位が20mV以下であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材が提供される(請求項2)。
【0009】
より好ましくは、前記アルミニウム合金犠牲材は、さらに、Fe:0.3〜2.0質量%、Zr:0.05〜0.3質量%、Ni:0.3〜2.0質量%の群から選択される少なくとも1種の成分を含有することを特徴とするアルミニウム合金クラッド材が提供される(請求項3)。
【0010】
このような構成としたことにより、前記表面吸着防止性を低下させることなく、犠牲陽極効果により耐食性を向上させることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、Al合金クラッド材の表面のゼータ電位を最適化したことを発明の要旨とするものである。そこで、まず、本発明の理解を容易にする目的で、Al合金クラッド材の表面電荷及び本発明の解決原理について説明していく。
本発明者らは、冷却チューブへのLLC析出物の吸着について、鋭意研究した結果、従来の冷却チューブ用Al合金クラッド材の表面は、正に帯電し、析出物は負に帯電していることを見出した。そして、負に帯電した析出物が、正に帯電した金属表面に吸着されることにより、前記金属表面に析出物が吸着していくことを見出した。
【0012】
本発明者らは、前記知見を踏まえてさらに研究していった結果、驚くべきことに、Al合金及び析出物両者の電荷の差を最適化することにより、析出物のAl合金表面への吸着を防止できることを見出したのである。
【0013】
即ち、本発明のAl合金クラッド材の表面のゼータ電位を、析出物と同種の電荷即ち、負に帯電させるか、又は、析出物との電荷の差を小さくすることにより、前記析出物の金属表面への吸着を防止することができることを見出したのである。具体的には、Al合金クラッド材の表面のゼータ電位を、20mv以下(負の値を含む)に制限することにより、前記課題を解消できることを見出したのである。
ここで、Al合金クラッド材表面のゼータ電位を20mV以下とした理由は、Al合金クラッド材表面のゼータ電位が20mvよりも高いと、静電吸着が強くなることによりチューブ材表面への静電吸着の傾向が強まり、チューブの目詰まりが生じてしまうからである。
【0014】
次に、本発明のAl合金を用いたAl合金クラッド材について説明していく。
<心材>
心材として、従来公知のAl合金が使用される。
心材として、具体的には、JIS3003、JIS3N03、JIS3N23、JIS6951のAl合金及びそれらに相当するAl合金等が使用される。尚、これら合金の組成の詳細については、例えば、アルミニウムハンドブック第5版/社団法人軽金属協会編集発行/頁329表6等の従来公知の各種文献に記載されている。
<Al合金犠牲材>
アルミニウム合金犠牲材として、以下のような組成を有するAl合金が使用される。
(Zn)
Znは、Al合金の電位を卑にし、犠牲材の犠牲陽極効果を向上させる目的で使用される。
Znの含有量は、0.5〜10.0質量%である。0.5質量%未満では、その犠牲陽極効果が充分ではないからである。また、10.0質量%を超えると、犠牲材であるZnの自己腐食性が大きくなり、Zn自身の腐食が早く進んでしまうからである。また、犠牲材の加工性が低下してしまうので好ましくないからである。
【0015】
(Si)
Siは、ゼータ電位を低下させて、LLC中の化学種に由来すると思われる析出物のAL合金表面への吸着を防止する目的で使用される。また、Al合金の強度を向上させる目的で使用される。
Siの含有量は、0.2〜2.0質量%である。0.2質量%未満では、前記効果を得ることが困難になるからである。また、2.0質量%を超えると、得られるゼータ電位低下作用が同等であるにもかかわらず、Al合金の融点を低下させ、図2に示される、ろう材と接する部位でのエロージョンが発生しやすくなるからである。
【0016】
(Fe)
Feは、ゼータ電位を低下させて、LLC中の化学種に由来すると思われる析出物のAL合金表面への吸着を防止する目的で使用される。また、Al合金の強度を向上させる目的で使用される。
Feの含有量は、0.3〜2.0質量%である。0.3質量%未満では、前記効果は充分に得られないからである。また、2.0質量%を超えると、得られるゼータ電位低下作用が、2.0質量%のときと同等であるにもかかわらず、犠牲材の加工性が低下するためである。
【0017】
(Ti)
Tiは、ゼータ電位を低下させて、LLC中の化学種に由来すると思われる析出物のAL合金表面への吸着を防止する目的で使用される。また、Tiを添加すると、腐食が層状化することにより耐食性が向上するからである。
Tiの含有量は、0.02〜0.3質量%である。0.02質量%未満では、前記効果は充分に得られないからである。また、0.3質量%を超えると、犠牲材の加工性が低下するためである。
【0018】
(Zr)
Zrは、ゼータ電位を低下させて、LLC中の化学種に由来すると思われる析出物のAL合金表面への吸着を防止する目的で使用される。また、Zrを添加することにより、腐食が層状化することにより耐食性が向上するからである。この場合、Zrは、Tiと共存させて使用することが好ましい。
Zrの含有量は、0.05〜0.3質量%である。0.05質量%未満では、前記効果は充分に得られないからである。また、0.3質量%を超えると、犠牲材の加工性が低下するためである。
【0019】
(Ni)
Niは、ゼータ電位を低下させて、LLC中の化学種に由来すると思われる析出物のAL合金表面への吸着を防止する目的で使用される。また、Niを添加することにより、Al合金の強度を向上させることができるからである。
Niの含有量は、0.3〜2.0質量%である。0.3質量%未満では、前記効果は充分に得られないからである。また、2.0質量%を超えると、犠牲材の加工性が低下するためである。
【0020】
<ろう材>
ろう材として、従来公知のAl−Si系アルミニウム合金が使用される。ろう材としては、具体的には、JIS4343、JIS4045、JIS4004、JIS4005、JIS4N04、JIS4l04、JIS4N43、JIS4N45、JIS4N45、JIS4l45、JIS4047のAl合金及びそれらの相当材を用いることができる。尚、これら合金の組成の詳細については、例えば、アルミニウムハンドブック第5版/社団法人軽金属協会編集発行/頁329表5等の従来公知の各種文献に記載されている。
【0021】
続いて、本発明におけるAl合金クラッド材の製造工程について説明していく。
まず、心材を溶製後通常の半連続鋳造法で鋳塊とする。一方、犠牲腐食材及びろう材は、溶製後通常の半連続鋳造法で鋳造後、熱間圧延にて所定の板厚にする。そして、前記した心材鋳塊の片面にろう材を、またその他面に犠牲腐食材を重ねて熱間クラッド圧延を行い3層クラッド材とする。
尚、本発明により得られるAl合金クラッド材は、3層に限定されるものではない。よって、心材の片面又は両面に、犠牲腐食材及び/又はろう材を適宜組合せて設けて、2層のAl合金クラッド材としたり、または、3層以上のAl合金クラッド材としてもよい。
【0022】
ろう付け温度は、従来公知の条件に従って、使用する心材、皮材、及びろう材の成分組成に基づいて定まる。ろう付温度は、一般的に580〜620℃である。Al合金の組成及びろう付温度の詳細については、例えば、アルミニウムハンドブック第5版/社団法人軽金属協会編集発行/頁328表4、頁329表5及び表6等の従来公知の各種文献に記載されている。
【0023】
【実施例】
以下に実験例及び比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が以下の実験例に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0024】
本発明に係るAl合金クラッド材について、以下のような実験を行った。
<実験例1〜16及び比較例1〜6>
表1に示される組成の心材、犠牲材、ろう付用アルミニウム合金を従来公知の方法に従って、溶解、鋳造、及び均熱処理した。そして、犠牲材が15質量%、ろう材が10質量%となるように、それぞれ、開始温度480℃で所定の厚さまで熱間圧延した。その後、心材のそれぞれの表面に開始温度480℃で熱間圧延クラッドとし、最終板厚を0.2mmのH14相当材とした。続いて、得られた上記材料を100×200mmの短冊状に切断し、アルカリ系洗浄剤で洗浄、乾燥させた後、ろう付材表面に市販の非腐食性フラックスを3g/m2で塗布し、窒素雰囲気(酸素濃度100ppm以下)において、600℃で2分間保持してろう付け加熱を行うことにより試験片を得た。次に、得られたろう付試験片について、吸着性の評価、及び、ゼータ電位の測定を行い、さらに、エロージョン性の評価を行った。
【0025】
ここで、ゼータ電位は、従来公知の方法に従って、pH5において測定した。また、前記吸着量は、以下の手順に従って測定した。まず、得られたろう付材から50mm×70mm寸法の試験片を切出し、犠牲腐食アルミニウム合金以外をシールドテープによりシールした。また、市販のLLCを純水で3倍に希釈して得られた水溶液1L当たりに、塩酸1mL及び塩化アルミニウム2gを添加して、析出物発生模擬LLCを調製した。そして、この析出物発生模擬LLC中に、前記試験片を浸漬し、そして、80℃において8時間浸漬し続けた後、さらに、前記試験片を室温において16時間浸漬し続けた。この80℃及び室温における浸漬工程を1サイクルとして、この1サイクルを30回繰り返した後に、吸着量を質量法にて測定した。
【0026】
エロージョン性は、図2に示されるように、逆T字型試験片について、ろう付接触する部位におけるチューブ表面のエロージョン性を評価することにより行った。この場合、チューブとして使用するのに、耐エロージョンが極めて良好であった場合を「◎」(極めて良好)とした。一方、エロージョンが生じていた場合を「×」として評価した。
以上の結果をまとめて表2に示す。尚、比較例3〜6は、試験片が製造できなかったため、エロージョン性等の評価が行えなかった。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
上記の試験結果より、以下のことが確認された。
ゼータ電位が20mV以下である実験例1〜16は、エロージョン性が極めて良好であり、かつ、吸着量も3〜10g/m2と少なかった。なお、表1および表2に示した実験例1〜16のうち、実験例2が本発明の実施例に該当する。
一方、ゼータ電位が30mVである比較例1は、エロージョン性が極めて良好であったが、析出物の吸着量が20g/m2と多かった。
また、比較例2において、ゼータ電位と吸着量は、実験例と同等であったが、エロージョン性が劣っていた。このことより、Si含有量が高くなると、エロージョン性が低下することがいえた。
尚、比較例3〜6は、試験片を製造することができなかったため評価することができなかった。
【0030】
以上より、表面のゼータ電位を20mv以下に制御した、本発明に係るAl合金及びAl合金クラッド材は、表面に析出物が吸着しづらく、また、耐エロージョン性が優れていることが確認された。
そのため、本発明に係るAl合金クラッド材は、表面付着防止効果や、耐エロージョン性が要求される用途、好ましくは、冷却チューブなどの熱交換器等の用途に好適に使用することができる。
【0031】
【発明の効果】
従来は、冷却チューブ表面に析出物等が吸着することに起因して、冷却チューブの目詰まりが生じることより、冷却チューブの厚みを薄くすることができなかった。
ところが、本発明に係るAl合金クラッド材は、前記のような構成を有することにより、析出物のAl合金クラッド材の表面への吸着を効果的に防止することができる。そのため、本発明に係るAl合金クラッド材を用いて冷却チューブを製造した場合、従来のようなに析出物のAl合金表面への吸着による制限を受けることなく、冷却チューブの厚みを薄くし、縦横比を小さくすることができるので、冷却チューブの小型軽量化を図ることができる(請求項1〜請求項3)。
また、本発明に係るAl合金クラッド材は、耐エロージョン性が優れている(請求項1〜3)。
【図面の簡単な説明】
【図1】冷却チューブの斜視図及び一部拡大断面図である。
【図2】逆T型ろう付試験片の形状を表わす図である。
【符号の説明】
1 冷却チューブ
2 Al−Mn系Al合金心材
Claims (3)
- 少なくとも、熱媒体が流れるための熱媒体通路として中空部を有する冷却チューブに用いられ、また、前記熱媒体中の化学種が前記冷却チューブの内側表面に吸着することを防止することが求められるアルミニウム合金クラッド材であって、
アルミニウム合金からなる心材の少なくとも片面にアルミニウム合金犠牲材がクラッドされてなり、
前記犠牲材は、Znを0.5〜10.0質量%、Siを1.5〜2.0質量%、Tiを0.02〜0.3質量%含有し、残部がAlと不可避的成分を含有するアルミニウム合金であり、かつ、
前記犠牲材表面のゼータ電位が20mV以下であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。 - 少なくとも、熱媒体が流れるための熱媒体通路として中空部を有する冷却チューブに用いられ、また、前記熱媒体中の化学種が前記冷却チューブの内側表面に吸着することを防止することが求められるアルミニウム合金クラッド材であって、
アルミニウム合金からなる心材の片面にアルミニウム合金犠牲材がクラッドされ、かつ、他面にアルミニウム合金ろう材がクラッドされてなり、
前記犠牲材は、Znを0.5〜10.0質量%、Siを1.5〜2.0質量%、Tiを0.02〜0.3質量%含有し、残部がAlと不可避的成分を含有するアルミニウム合金であり、かつ、
前記犠牲材表面のゼータ電位が20mV以下であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。 - 前記アルミニウム合金犠牲材は、さらに、Fe:0.3〜2.0質量%、Zr:0.05〜0.3質量%、Ni:0.3〜2.0質量%の群から選択される少なくとも1種の成分を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金クラッド材。
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