JP3751567B2 - 大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法、およびこれに用いられる抗体、並びに該抗体を用いた検出用試薬および検出キット - Google Patents

大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法、およびこれに用いられる抗体、並びに該抗体を用いた検出用試薬および検出キット Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、大腸菌由来の耐熱性下痢症毒素を検出する検出方法、該検出方法に用いられる抗体、および該抗体の利用方法に関するものであり、特に、耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドを検出するための臨床検査や衛生検査用途に好適に用いられる大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法、該検出方法に好適に用いられるモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、およびこれら抗体を用いた検出用試薬または検出キットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
病原性大腸菌は、種々の毒素や定着因子を産生し、食中毒を惹起する。一般的に、臨床検査上では、「食中毒」という症状を確実に認定するためには、原因食と推定される食材や患者の糞便等から原因菌を分離する必要があるが、病原性大腸菌を原因菌とする食中毒の場合、さらに、該病原性大腸菌そのものの分類(菌株の特定)が要求される。
【0003】
具体的には、原因菌として分離された病原性大腸菌に対して、毒素産生性、定着因子産生性、腸管出血性等を基準として、当該大腸菌が、どのような要因で病原性を生じているのかを分類する。このように病原性大腸菌が分類され、大腸菌の菌株が特定されれば、当該特定大腸菌による「大腸菌性食中毒」の疫学的情報が得られるだけでなく、当該特定大腸菌による「病原性大腸菌による食中毒事例」が行政上認定される。この行政上の認定は、食中毒の責任者の確定や行政からの援助のために重要なものである。
【0004】
ここで、上記病原性大腸菌のうち、毒素を産生するタイプの大腸菌(毒素産生型の大腸菌)の菌株を特定する場合、最近の分子生物学技術の進歩により、直接人体に影響を与え、下痢や嘔吐を引き起こす物質、すなわち、毒素タンパク質および毒素ペプチドを検出するよりも、それらをコードする遺伝子を検出する方法が簡便迅速になっている。実際、EAST1ペプチドの場合も、その遺伝子を検出するシステムは、すでに開発されている。
【0005】
しかしながら、毒素遺伝子が検出されたからといって、事例菌株の特定がなされるわけではない。というのは、大腸菌性食中毒の事例菌株として特定するには、毒素遺伝子と、当該遺伝子がコードする毒素タンパク質および毒素ペプチドとを検出・証明することが必須とされている。その理由は、毒素タンパク質および毒素ペプチドが食中毒症状を引き起こす直接の原因物質であるので、(1)存在が証明された遺伝子単独では食中毒症状は決して誘発されない、(2)毒素遺伝子が存在していても、その遺伝子からアミノ酸に翻訳され毒素タンパク質や毒素ペプチドが産生されるとは限らない、ためである。
【0006】
実際、毒素遺伝子を保有することが確認されている菌株においても、食品中の成分およびその他の原因のために、毒素産生量が変動する、あるいは、まったく産生しなくなることにしばしば遭遇する。したがって、食中毒検査において、毒素遺伝子だけではなく、毒素そのものを検出・同定しなければ、食中毒原因株とは認められないのが現状である。
【0007】
それゆえ、タンパク質またはポリペプチドの毒素(以下、説明の便宜上、ペプチド型毒素と称する)を検出する技術は、既に知られている。具体的には、大腸菌由来のペプチド型毒素としては、タンパク質の易熱性毒素LT、および低分子量ペプチドの耐熱性毒素STが知られており、これら毒素そのものおよびその遺伝子の検出システムは、開発済であり市販もされている。例えば、Thompson M.R.,et al., J.Clin.Microbiol. 20:59-64(1984).には、競合エライサ法による耐熱性毒素STの検出方法について記載されている。また、寶酒造株式会社からは、易熱性毒素LTおよび耐熱性毒素STの検出用試薬が市販されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年、従来の検出技術では、食中毒の原因菌である病原性大腸菌を明確に特定することができない事例が生じており、それゆえ、このような事例に対応できるような検査技術の開発が望まれているという課題が生じている。
【0009】
具体的には、近年、食中毒の原因菌として、astAと名付けられた遺伝子を保有する菌株が検出される事例が増加している。このastA遺伝子は、EAST1と名付けられたポリペプチドをコードしており、このEAST1ペプチドは耐熱性を有する下痢症毒素であることは明らかとなっている。それゆえ、EAST1ペプチドを原因とする食中毒においては、astA遺伝子およびEAST1ペプチドの双方を検出することで、原因菌である病原性大腸菌を特定することが可能になる。
【0010】
ところが、上記astA遺伝子を確実に検出する方法は見出されているものの、EAST1ペプチドを確実に検出する方法については未だ知られていない。すなわち、現状では、EAST1ペプチドを産生する病原性大腸菌を特定する確実な検査技術は知られていないことになる。そのため、EAST1ペプチドを原因とする食中毒は、分類不能な「大腸菌性食中毒」となってしまい、疫学的情報を収集できない。
【0011】
しかも、病原性大腸菌を特定できないということは、行政上も「病原性大腸菌による食中毒事例」として認定されないことになる。そのため、責任者の確定ができないだけでなく、食中毒患者に対する補償や行政からの援助を行うこともできなくなる。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドを確実に検出でき、臨床検査や衛生検査等の検査産業で好適に用いられる検出方法、およびこの検出方法に用いられる抗体、並びに該抗体を用いることで、上記検査産業や試薬産業に好適に用いられる検出用試薬および検出キットを提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、これまで検出方法が確立されていなかった大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドの検出方法について鋭意検討した。その結果、EAST1ペプチドを特異的に認識する抗EAST1抗体を初めて製造した。そして、上記抗EAST1抗体を用いた免疫反応により、検体中のEAST1ペプチドを高感度、かつ特異的に検出する新たな検出方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明にかかる大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法は、上記の課題を解決するために、大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドを特異的に認識する抗EAST1抗体を、該EAST1ペプチドの検出対象となる検体とを反応させる免疫反応試行行程と、抗EAST1抗体による免疫反応の有無を判定する免疫反応判定行程とを含み、上記抗EAST1抗体は、配列番号1に示すEAST1ペプチドのアミノ酸配列のうち、8番目から17番目までのアミノ酸配列からなる第1領域を特異的に認識する、ポリクローナル抗体またはサブクラスIgMのモノクローナル抗体であることを特徴としている。
【0015】
本発明の検出方法によれば、EAST1ペプチドを特異的に認識する抗EAST1抗体と、検体中のEAST1ペプチドとを反応させた後(免疫反応試行工程)、上記抗EAST1抗体と検体とが免疫反応していれば、検体中にEAST1ペプチドが含まれていると判定することができる(免疫反応判定工程)。
【0016】
これにより、これまで検出方法が確立されていなかった大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドを確実に検出でき、臨床検査や衛生検査等に用いられる新たな検出方法を提供することができる。
【0017】
本発明にかかる検出方法において、上記免疫反応判定行程は、上記抗体と検体とが免疫反応をしているか否かを判定する工程である。上記免疫反応の判定に用いる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、蛍光抗体法、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、アフィニティークロマトグラフィー法、コロニーブロット法などの各方法およびそれらの組み合わせによって行うことができる。これら方法を用いることで、本発明にかかる検出方法の精度や信頼性をより一層向上させることができる。
【0018】
また、本発明にかかる検出方法において、上記免疫反応判定工程では、免疫反応を判定する手法として、競合エライサ法を用いてもよい。
【0019】
本発明にかかるモノクローナル抗体は、配列番号1に示す大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドのアミノ酸配列のうち、8番目から17番目までのアミノ酸配列からなる第1領域を特異的に認識し、かつ、サブクラスがIgMであることを特徴としている
【0020】
本発明にかかるポリクローナル抗体は、配列番号1に示す大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドのアミノ酸配列のうち、8番目から17番目までのアミノ酸配列からなる第1領域を特異的に認識することを特徴としている。
【0021】
上記モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体は、ESAT1ペプチドに特異的に認識することができるため、例えば、上記本発明にかかる検出方法に用いることができる。
【0022】
本発明にかかるモノクローナル抗体は、大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドで免疫したマウス脾臓リンパ球とマウスの骨髄細胞とを融合させてなるハイブリドーマにより産生することができる。これにより得られた上記モノクローナル抗体は、上記EAST1ペプチドに特異的に結合することができる。
【0023】
本発明にかかるポリクローナル抗体は、大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドで免疫したウサギの免疫血清から精製することにより得ることができる。これにより得られた上記ポリクローナル抗体は、上記EAST1ペプチドに特異的に結合することができる。
【0024】
本発明にかかる大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出用試薬は、上記モノクローナル抗体、または上記ポリクローナル抗体を含んでいることを特徴としている。
【0025】
上記本発明の検出用試薬によれば、上記検出方法による効果と同様に、確実にEAST1ペプチドを検出する方法を検出用試薬として提供することができる。
【0026】
なお、上記検出用試薬に含まれる抗体は、上記モノクローナル抗体および上記ポリクローナル抗体のうち、少なくとも1つの抗体を含んでいればよく、複数の抗体を含んでいてもよい。また、上記検出用試薬に、例えば、(1)抗EAST1抗体が検体中のEAST1ペプチドと免疫反応し易くするための試薬;(2)検出方法の精度を上げるための試薬;(3)検出用試薬としての利便性や保存性を向上させるための試薬;などを含むものであってもよい。例えば、抗EAST1抗体の非特異反応を抑制させる試薬として、ブロックエース、牛血清アルブミン溶液、スキムミルク溶液の何れかを含んでいるものであってもよい。
【0027】
本発明にかかる大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出キットは、上記検出用試薬を含むことを特徴としている。
【0028】
なお、上記検出用キットには、上記検出用試薬を含んでいればよいが、例えば、大腸菌由来耐熱性下痢症毒素を検出あるいは判定する方法に用いる試薬を含んでいてもよい。例えば、後述する競合エライサ法およびコロニーブロット法に用いるための、ペルオキシダーゼ標識抗マウスまたは抗ウサギイムノグロブリン抗体、発色試薬として、o-Phenylenediamine、3-3’ Diaminobenzidine、過酸化水素、発色増強剤として、硫酸などを含んでいてもよい。
【0029】
上記本発明の検出キットによれば、上記検出方法による効果と同様に、確実にEAST1ペプチドを検出する方法をキット化して提供することができる。さらに、上記検出方法を容易に実施することができ、かつ検出工程を簡素化することができるので、短時間に多くの
【0030】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について、図1ないし図12に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明にかかる大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法は、耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドを特異的に認識する抗EAST1抗体を用いて、該EAST1ペプチドを免疫学的に検出する方法である。
【0031】
本発明で用いられる上記抗EAST1抗体は、astA遺伝子の遺伝子産物であって、耐熱性下痢症毒素である上記EAST1ペプチドに対する抗体であり、具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを抗原として認識する抗体である。
【0032】
上記astA遺伝子およびEAST1ペプチドについて説明する。病原性大腸菌の一つとして、astA遺伝子を保有し、耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドを産生する病原性大腸菌の一群が知られている。なお、配列番号1にはEAST1ペプチドを、配列番号2にはastA遺伝子の塩基配列を示している。
【0033】
EAST1(Enteroaggregative Escherichia coli heat-stable enterotoxin 1)ペプチドは、配列番号2に示される塩基配列にコードされ、配列番号1に示される推定38個のアミノ酸からなる分子量4100のポリペプチドであり、1991年にその遺伝子であるastA遺伝子が発見された。EAST1ペプチドは、(1)大腸菌由来耐熱性毒素STIと同様にcGMPの上昇作用がある;(2)乳のみマウス試験に反応を示さない;(3)STIとの免疫学的交差性がないという特徴を有している。
【0034】
EAST1ペプチドが原因と推定される食中毒事例としては、例えば、1996年に大阪で発生した集団食中毒事例を挙げることができる。この事例では、大腸菌O166:H15が検出された。この大腸菌O166:H15は、(1)HEp−2細胞に付着せず;(2)大腸菌易熱性毒素、大腸菌耐熱性毒素、ベロ毒素の各遺伝子、およびeaeA、invEを保有せず;(3)接着因子であるCFA/I、CFA/III、PCFO159、PCFO166、CS1〜7および17を保有していなかった。しかし、EAST1ペプチドの遺伝子であるastA遺伝子を保有していたという特徴を有していた。
【0035】
このように、この事例の病原性大腸菌からEAST1ペプチドを産生するastA遺伝子が検出され、その病原性大腸菌がastA遺伝子のみを保有することから、EAST1ペプチドが食中毒の原因であると推定される。また、大腸菌O166:H15は、astA遺伝子保有(EAST1ペプチド産生)病原性大腸菌であるということができる。
【0036】
この事例のほかに、図10ないし図12に示すように、1997年から1999年の調査によれば、食中毒例において分離された病原性大腸菌のうち、その35%がastA遺伝子保有(EAST1ペプチド産生)病原性大腸菌(図中EAST1EC)に由来するものであった。
【0037】
なお、上記astA遺伝子保有(EAST1ペプチド産生)病原性大腸菌としては、前述の大腸菌O166:H15の他に、大腸菌O44:H18、O73:H33、O78:H11、O141:H4、O149:H10、O166:H15などが挙げられる。
次に、本発明にかかる抗EAST1抗体について説明する。
【0038】
本発明にかかる上記抗EAST1抗体は、上記EAST1ペプチドを抗原として認識する抗体であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、上記抗EAST1抗体は、配列番号1に示すアミノ酸配列に含まれる、少なくとも5個のアミノ酸が連続して配列してなる部分配列を、抗原決定基として認識可能とする抗体である。
【0039】
通常、抗体は抗原の比較的小さな領域(少数のアミノ酸からなるペプチド)を抗原決定基として認識することができる。したがって、上記抗EAST1抗体が、少なくとも5個のアミノ酸が連続してなる部分配列を抗原決定基として認識するものであれば、EAST1ペプチドを認識することができる。しかし、5個のアミノ酸が連続してなる部分配列を抗原決定基とした場合、抗原部位が明確な抗体を得ることができる反面、短いペプチドを抗原決定基としているために抗体価が上がらないことも考えられる。
【0040】
そこで、抗原決定基を安定にし、適度な抗体価を持つように、通常ペプチドを抗原とする場合、抗原決定基を含む10〜20個程度のアミノ酸からなるペプチドが用いられる。したがって、より確実にEAST1ペプチドを認識するためには、上記抗EAST1抗体が、20個以下のアミノ酸が連続して配列してなる部分配列を抗原とすることがより好ましい。これにより、抗原部位が明確で、しかも抗体価の高い抗体を得ることができる。
【0041】
上記抗EAST1抗体が抗原として認識するEAST1ペプチド上の部位としては、具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、
イ)8番目から17番目までのアミノ酸配列として示される第1領域、および、
ロ)29番目から38番目までのアミノ酸配列として示される第2領域
の少なくとも一方に含まれるアミノ酸配列が挙げられる。
【0042】
なお、上記抗原決定基は、ペプチドのようにアミノ酸配列の1次構造によって決定されるもののほかに、タンパク質分子中の離れた複数の場所が関与し、全体として立体的な抗原性を形成しているものであっても良い。また、ペプチドやタンパク質に結合する糖鎖なども抗原決定基になる可能性がある。換言すれば、上記抗原および上記抗原決定基は、EAST1ペプチドを特異的に認識すればその誘導体であってもよい。また、上記抗原は、公知の技術を用いて容易に合成することができる。以下の説明では、抗原をペプチドとして説明する。
【0043】
次に、本発明にかかる抗EAST1抗体について説明する。
【0044】
本発明にかかる上記抗EAST1抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。すなわち、本発明にかかる上記抗EAST1抗体は、大腸菌由来耐熱性下痢症毒素であるEAST1ペプチドに特異的に結合することで、該EAST1ペプチドを免疫学的に確実に検出できる抗体であればよい。
【0045】
したがって、本発明にかかる上記抗EAST1抗体のサブクラスも特に限定されるものではない。本発明では、後述する実施例に示すように、抗EAST1抗体がモノクローナル抗体である場合、サブクラスIgG3またはIgMの抗体が得られているが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0046】
本発明にかかる上記抗EAST1抗体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を好適に用いることができる。通常、ペプチドを抗原として用いる場合、抗原性が乏しいため、予めBSA(牛血清アルブミン)およびKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)などのキャリアに結合させたものが使用される。
【0047】
より具体的な抗EAST1抗体の製造方法としては、後述する実施例のように、上記抗EAST1抗体がポリクローナル抗体であれば、ウサギなどに抗原を繰り返し投与することにより、免疫反応を行って抗体を産生させた後その免疫血清を精製する手法が挙げられる。
【0048】
また、上記抗EAST1抗体がモノクローナル抗体であれば、EAST1ペプチドで免疫したマウス脾臓リンパ球とマウスの骨髄細胞とを融合させてなるハイブリドーマにより産生する手法が挙げられる。具体的には、マウスなどに抗原を繰り返し投与することにより免疫反応を行って抗体を産生させた後、抗体産生細胞(脾臓およびリンパ節のBリンパ球)とミエローマ細胞(骨髄腫細胞)との細胞融合によるハイブリドーマの作製、HAT選択、ハイブリドーマのスクリーニング、ハイブリドーマのクローニング、モノクローナル抗体の分離・精製を行ってモノクローナル抗体を製造することができる。
【0049】
なお、動物に抗原を投与して免疫を行う際には、抗原とともにFreundの完全アジュバント、Freundの不完全アジュバントなどが併用される。上記ハイブリドーマは、抗体産生細胞が特異抗体を産生する能力とミエローマ細胞が半永久的に増殖するという両者の長所を有するものである。上記ハイブリドーマのスクリーニング法としては、ELISA、FACS、ウェスタンブロッドなどが挙げられる。上記クローニング法としては、限外希釈法、軟寒天法、およびフィブリノーゲンゲル法などが挙げられる。クローニングが終了したハイブリドーマによる抗体の産生は、細胞培養法および腹腔内で培養する方法などを適宜選択して行うことができる。産生したポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の精製は、特に限定されるものではないが、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各方法およびそれらの組み合わせによって行うことができる。
【0050】
上記製造方法では、得られる抗EAST1抗体をELISA法等で評価することが好ましい。これにより、製造した抗体がEAST1ペプチドに特異的に反応することを確認できる。
【0051】
評価する方法としては、例えば、後述する実施例のように、製造した抗EAST1抗体の抗原と、該抗EAST1抗体とを反応させた後、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギ抗体またはペルオキシダーゼ標識マウス抗体と、o-Phenylenediamineとを用いて発色させて、吸光度を測定する方法である。また、同様にして、上記抗EAST1抗体とは関係のない抗原と、製造した抗EAST1抗体との反応を行って、他の抗原とは反応しないことを確認することがより好ましい。これにより、製造した抗EAST1抗体が、当該抗原とのみ反応することが確認できる。
【0052】
本発明にかかるEAST1ペプチドの検出方法は、上記抗EAST1抗体を用いて、免疫学的にEAST1ペプチドを検出する方法であれば、その具体的な手法は特に限定されるものではない。
【0053】
すなわち、本発明にかかるEAST1ペプチドの検出方法は、基本的には、上記抗EAST1抗体を、該EAST1ペプチドの検出対象となる検体とを反応させる免疫反応試行行程と、抗EAST1抗体による免疫反応の有無を判定する免疫反応判定行程とを含む方法であればよい。
【0054】
上記検体としては、食中毒に罹患した被験者糞便、および食中毒の原因として疑われる食材などを用いることができる。
【0055】
上記免疫反応試行行程では、検体に含まれるEAST1ペプチドと抗EAST1抗体とを確実に免疫反応させることができれば、その具体的な試行手法については限定されるものではない。例えば、以下に示す競合エライサ法によって行うことができる。
【0056】
すなわち、抗EAST1抗体がポリクローナル抗体である場合を、図5(a)および図5(b)を用いて説明すると、まず、エライサプレートに抗原(Ag)を吸着させる。次に、図5(a)に示すように、抗原に対するポリクローナル抗体(Ab)と、ペルオキシダーゼ標識(HRP)した抗ウサギIgG(Anti Rabbit-HRP)と、o-Phenylenediamineとを加え、一定の吸光値を示すように設定する。この実験系にサンプル溶液を加え、サンプル中に吸着に用いた抗原、あるいはEAST1ペプチドが含まれている場合、図5(b)に示すように、ポリクローナル抗体(Ab)のプレートへの結合阻害が起こり、結果として吸光値が減少することになる。すなわち、吸光値の減少が大きければ、サンプル中に抗原、あるいはEAST1ペプチドが多く存在することを意味する。抗EAST1抗体がモノクローナル抗体の場合についても同様である。
【0057】
上記免疫反応判定行程では、製造したポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体と検体とを免疫反応させることにより、検体中にEAST1ペプチドを含んでいるか否かを判定する。すなわち、上記ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体と免疫反応を行っていれば検体中にEAST1ペプチドが存在していると判定し、免疫反応を行っていなければ検体中にEAST1ペプチドが存在していないと判定することができる。
【0058】
それゆえ、上記免疫反応を測定する方法としては、特に限定されるものではないが、上述した蛍光抗体法、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、アフィニティークロマトグラフィー法、コロニーブロット法の何れかが用いられることが好ましい。これら方法を用いることで、本発明にかかる検出方法の精度や信頼性をより一層向上させることができる。
【0059】
具体的には、例えば、後述の実施例に示すように、抗体の免疫源として用いた抗原を担体に吸着させた後、上記抗原に対する抗体(1次抗体)とペルオキシダーゼ標識した抗体(2次抗体)と、発色試薬とを加えて一定の吸光度を示すように設定し、サンプル溶液にEAST1ペプチドが含まれていれば、1次抗体に対する結合阻害が生じて吸光度が減少するため、サンプルを添加する前後の吸光度を比較してEAST1ペプチドを検出する方法が挙げられる。
【0060】
また、上記製造した抗体を直接あるいは間接的に吸着させて抗体カラムを作製して、それを用いたアフィニティークロマトグラフィーを行い、サンプル溶液と免疫反応するか否かによってEAST1ペプチドを検出することもできる。
【0061】
本発明にかかるEAST1ペプチドの検出方法においては、その利用対象に応じて、上記免疫反応試行行程および免疫反応判定行程以外に他の行程が含まれていても良い。例えば、より検出精度を向上する目的で、抗EAST1抗体とEAST1ペプチドとが免疫反応し易くなるように、検体を精製したり形状を変えたりするような、検体加工行程を含んでいても良い。
【0062】
本発明にかかるEAST1ペプチドの検出方法では、上記抗EAST1抗体が用いられればよいが、実用上、例えば、該抗EAST1抗体は、検体中のEAST1ペプチドと免疫反応し易くなるような検出用試薬として調製されているとより好ましい。
【0063】
上記検出用試薬の組成としては、上記抗EAST1抗体、すなわち、前述した本発明にかかるモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の少なくとも一方を含んでいればよいが、より好ましくは、添加剤として、各種の防腐剤(アジ化ナトリウムおよびペルオキシダーゼの反応を抑制するものは除く)、非特異的反応を抑制する試薬として、高濃度の牛血清アルブミン、ブロックエース(雪印乳業)、ゲラチン、スキムミルク、などを用いることが好ましい。上記のような添加剤を用いることで、本発明にかかる検出方法の精度を挙げることができるだけでなく、検出用試薬の利便性や保存性等を向上させることができる。
【0064】
さらに、本発明では、上記検出用試薬を、他の薬剤等と組み合わせてEAST1ペプチドの検出キットとするとより一層好ましい。
【0065】
すなわち、本発明にかかる検出方法は、臨床検査や衛生検査で特に好適に用いられる方法であるが、食中毒のように、迅速に検査をして原因菌を特定する必要がある場合、検査設備の整ったセンターやラボ等ではなく、食中毒の現場等でも検査を実施することもあり得る。そこで、本発明にかかる検出用試薬をキット化しておけば、原因食と推定される食材や患者糞便等の検体を得るだけで、容易に検査をすることができる。また、検出キットは、センターやラボにおける検査でも検査過程を簡素化することができ、より多くの検体を検査することが可能となるという利点がある。
【0066】
本発明にかかる検出キットには、上記抗EAST1抗体を含む検出用試薬が含まれていればよい。
【0067】
上記検出キットには、例えば、前述した競合エライサ法およびコロニーブロット法を適応することができる。競合エライサ法を適応する場合については、前述の通りであるので詳しい説明を省略するが、前述の文献の方法(Thompson M.R.,et al.,1984. J.Clin.Microbiol. 20:59-64)を参考にして行うことができる。
【0068】
コロニーブロット法を適応する場合は、大腸菌選択寒天培地(デソキシコレート寒天培地、DHL寒天培地など)、あるいは、増菌培地(トリプトソーヤ寒天培地など)を準備する。次に、寒天上にニトロセルロース膜を置き、寒天に密着させる。続いて、ニトロセルロース膜上に原因と疑われる食材や、患者糞便を塗布し、通常の培養を行いコロニー(集落)の形成を観察記録する。このときEAST1ペプチド産生病原性大腸菌ならば、コロニー部分にEAST1ペプチドが産生され、EAST1ペプチドのニトロセルロース膜への吸着が菌の増殖と共に起こる。続いて、ニトロセルロース膜を非特異反応抑制試薬で処理した後、上記抗EAST1抗体を反応させ、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギ(あるいはマウス)イムノグロブリン抗体、3-3’ Diaminobenzidine、過酸化水素の順に反応させる。以上のようにして得られる発色スポットは、原因大腸菌の分離とEAST1ペプチド産生病原性大腸菌の一致とを示し、菌分離とEAST1ペプチド産生陽性判定試験とを同時に実施することができる。
【0069】
加えて、本発明にかかるEAST1ペプチドの検出方法は、astA遺伝子の検出方法と組み合わせられて用いられることが非常に好ましい。前述したように、毒素産生型の病原性大腸菌の菌株を特定するには、その毒素だけでなく、該毒素の由来となる遺伝子をも特定する必要がある。逆に、毒素および遺伝子の双方が特定されれば、病原性大腸菌の菌株を明確に特定することができ、疫学的情報の獲得や行政上の認定をより確実に実施することができる。
【0070】
このように、本発明にかかる検出方法は、これまで検出方法が確立されていなかったEAST1ペプチドを特異的に認識する抗EAST1抗体を用いて、該抗EAST1抗体と検体とを免疫反応させることにより、検体中のEAST1ペプチドを高感度、かつ特異的に検出するものである。
【0071】
このEAST1ペプチドの検出方法を用いれば、食中毒の原因菌が、astA遺伝子保有(EAST1ペプチド産生)病原性大腸菌であると実証することができる。
【0072】
さらに、これまで検出方法が確立されていなかったために、分類不能な「大腸菌性食中毒」にランクされていたEAST1ペプチドを原因とする病原性大腸菌の、新たなカテゴリーを認知されるようにすることができる。その結果、EAST1ペプチドを原因とする食中毒の責任者を確定することができ、責任者からの補償、および行政からの援助も受けることができるようになる。
【0073】
本発明にかかる検出方法の利点を挙げれば、以下のとおりである。
1.本検出方法によれば、これまで検出方法が確立されていなかったEAST1ペプチドを確実に検出する新たな検出方法を提供することができる。
2.本検出方法によれば、食中毒の原因食などの検体中からEAST1を容易に検出し、しかもastA遺伝子保有(EAST1ペプチド産生)病原性大腸菌の同定を行うことができる。
3.本検出方法によれば、これまで分離不能な「大腸菌性食中毒」にランクされていたEAST1ペプチドを原因とする食中毒の責任者を明確にし、責任者からの補償、および行政からの援助も受けることができる。
4.本発明検出方法をEAST1ペプチドの検出用試薬および検出キットに応用すれば、簡便でしかも高い精度でEAST1ペプチドを検出することができる。
【0074】
本発明にかかる検出方法によれば、以上のように、EAST1ペプチドを特異的に認識する抗体を用いて、これまで検出方法が確立されていなかったEAST1ペプチドを確実に検出する新たな検出方法を提供することができるので、臨床検査・衛生検査などに利用することができる。
【0075】
さらに、これまで検出方法が確立されていなかったため、分類不能な「大腸菌性食中毒」にランクされていたEAST1ペプチドを原因とする病原性大腸菌の新たなカテゴリーを認知されるようにすることが期待でき、その結果、EAST1ペプチドを原因とする食中毒の責任者を確定し、責任者からの補償、および行政からの援助も受けることができる。
【0076】
すなわち、大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドの免疫学的検出あるいは診断・同定、EAST1ペプチドによる食中毒事例における責任体制と行政処分の明確化、抗EAST1モノクロナール抗体の量産を達成することができ、人類の保健と福祉を向上させることができる、極めて有用性の高い検出方法である。
【0077】
なお、上記抗EAST1抗体としては、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを抗原として認識すればよい。
【0078】
上記「配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド(すなわち抗原)」は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよいし、当該ポリペプチドの誘導体、例えば、当該ポリペプチドをBSAおよびKLHなで標識されたものなどであってもよい。
【0079】
通常、抗原は後述する抗原決定基を有し、ペプチドを抗原とする場合、10〜20個程度のアミノ酸が連続して配列してなる部分配列を合成したペプチドが抗原として使用される。これにより、抗体の作製を容易にしたり、より抗体価を上昇させたりすることができる。
【0080】
したがって、上記抗原としては、具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、
イ)8番目から17番目までのアミノ酸配列として示される第1領域
ロ)29番目から38番目までのアミノ酸配列として示される第2領域
の少なくとも一方に含まれるアミノ酸配列が含まれることが挙げられる。
【0081】
ここで上記「アミノ酸配列が含まれる」とは、例えば、上記イ)の場合、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、8番目から17番目までのアミノ酸配列として示される第1領域はもちろん、第1領域よりも10アミノ酸分長い、全長20個のアミノ酸配列として示される領域までも包含する意味である。
【0082】
通常、抗体は抗原の比較的小さな領域(少数のアミノ酸からなるペプチド)を抗原決定基として認識する。したがって、上記抗EAST1抗体は、配列番号1に示すアミノ酸配列に含まれる、少なくとも5個のアミノ酸が連続して配列してなる部分配列を抗原決定基として認識することができる。
【0083】
したがって、上記「少なくとも5個のアミノ酸が連続して配列してなる部分配列」とは、換言すれば、5個のアミノ酸が連続して配列してなる部分配列が、1箇所以上あればよいことを意味する。すなわち、抗原決定基は1箇所であってもよいし、複数であってもよいことを意味する。
【0084】
【実施例】
以下、図2ないし図4および図6ないし図9に基づいて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0085】
〔抗EAST1抗体の製造例1(ポリクローナル抗体)〕
次に、合成した抗原に基づくポリクローナル抗体の製造方法を以下に示す。図2に、本実施例のポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の製造方法のフローチャートを示す。まず、N−1およびC−1ペプチドと牛血清アルブミン(BSA)とをグルタールアルデヒドを用いて結合した。次に、BSAを結合したポリクローナル抗体と、Fruendの完全および不完全アジュバンドとを混合し、ウサギに注射して免疫した。
【0086】
そして、ウサギ免疫血清からProteinAカラムを用いて精製し、精製ポリクローナル抗体(抗N−1ペプチドポリクローナル抗体および抗C−1ペプチドポリクローナル抗体)を得た。
【0087】
〔抗EAST1抗体の製造例2(モノクローナル抗体)〕
まず、N−1ペプチドと牛血清アルブミン(BSA)とをグルタールアルデヒドを用いて結合した。次に、BSAを結合したモノクローナル抗体と、Fruendの完全および不完全アジュバンドとを混合し、BALB/cマウスに注射して免疫した。
【0088】
そして、免疫マウスの脾細胞と骨髄腫細胞X.63Ag.653とを、ポリエチレングリコールを用いて細胞融合し、HAT選択、後述するエライサ法によるスクリーニング、限外希釈法によるクローニングを経て抗体産生ハ
イブリドーマを確立した。これをマウス腹腔内に移植して腹水を得た後、ProteinGカラムを用いて精製し、精製モノクローナル抗体(N−1−1およびN−1−2)を得た。
【0089】
〔免疫反応の評価1(ポリクローナル抗体)〕
上記ポリクローナル抗体のエライサ(ELISA)抗体価によって、免疫反応の評価を行った。
【0090】
図3(a)および図3(b)は、得られたポリクローナル抗体のエライサ抗体価を示したグラフである。エライサ抗体価は、以下に示す反応液の450nmにおける吸光度を測定して求めた。まず、エライサプレートにN−1ペプチドおよびC−1ペプチドのそれぞれを1μg/mLの濃度で吸着させた。次に、段階希釈した精製抗N−1およびC−1ペプチドポリクローナル抗体を反応させ、洗浄後ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGと、o-Phenylenediamineとによって発色させて吸光度を測定し力価を求めた。その結果、抗C−1ペプチドポリクローナル抗体よりも、抗N−1ペプチドポリクローナル抗体の方が若干優れた反応を示した。また、図示しないが、抗C−1ペプチドポリクローナル抗体とN−1ペプチドとの反応、およびその逆の反応、すなわち、抗N−1ペプチドポリクローナル抗体とC−1ペプチドとの反応についても検討したが、全く反応を示さなかった。したがって、抗N−1ペプチドポリクローナル抗体はN−1ペプチドに、抗C−1ペプチドポリクローナル抗体はC−1ペプチドに特異的に反応することが示された。
【0091】
〔免疫反応の評価2(モノクローナル抗体)〕
図4は、N−1ペプチドに対する2種類のモノクローナル抗体(N−1−1およびN−1−2)のエライサ抗体価を示したグラフである。N−1−1およびN−1−2サブクラスを調べた結果、N−1−1はIgGを、N−1−2はIgMを示した。エライサ抗体価は、前述と同様に、反応液の450nmにおける吸光度を測定して求めた。ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGあるいはIgMと、o-Phenylenediamineとによって発色させて吸光度を測定し力価を求めた結果、N−1−1(IgG)よりもN−1−2(IgM)の方が優良な反応を示した。
【0092】
表1に上記製造したポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の性状を示す。
【0093】
【表1】
Figure 0003751567
【0094】
〔実施例1〕
抗EAST1抗体として製造例1で製造した抗N−1ペプチドポリクローナル抗体を用いて競合エライサ法を行った(図6)。エライサプレートには抗原としてN−1ペプチドを吸着させ、サンプル中に目的抗原(N−1ペプチド)が存在しない場合の反応量を100%として表わした。その結果、サンプル中のN−1ペプチドが高濃度になるにしたがって、抗N−1ペプチドポリクローナル抗体の、エライサプレートに吸着させたN−1ペプチドへの反応量が減少した。このとき、別に無関係のペプチドを高濃度加えても反応に変化はなかった。この結果は、作成した抗N−1ペプチドポリクローナル抗体が、N−1ペプチドに特異的反応し、かつサンプル中のEAST1ペプチド由来のN−1部分を検出定量できることを示している。なお、N−1ペプチドに対する検出感度は1ng/mLを示した。
【0095】
〔実施例2〕
抗EAST1抗体として製造例1で製造した抗C−1ペプチドポリクローナル抗体を用いて競合エライサ法を行った(図7)。エライサプレートには抗原としてC−1ペプチドを吸着させ、サンプル中に目的抗原(C−1ペプチド)が存在しない場合の反応量を100%として表わした。その結果、サンプル中のC−1ペプチドが高濃度になるにしたがって、抗C−1ペプチドポリクローナル抗体の、エライサプレートに吸着させたC−1ペプチドへの反応量が減少した。このとき、別に無関係のペプチドを高濃度加えても反応に変化はなかった。この結果は、作成した抗C−1ペプチドポリクローナル抗体が、C−1ペプチドに特異的反応し、かつサンプル中のEAST1ペプチド由来のC−1部分を検出定量できることを示している。
【0096】
なお、C−1ペプチドに対する検出感度は10ng/mLを示し、図6に示した、抗N−1ペプチドポリクローナル抗体を用いた場合の検出感度の方が優れていた。
【0097】
〔実施例3〕
抗EAST1抗体として製造例2で製造した抗N−1ペプチドモノクローナル抗体(N−1−1)(0.3μg/mL)を用いて競合エライサ法を行った(図8)。エライサプレートには抗原としてN−1ペプチドを吸着させ、サンプル中に目的抗原(N−1ペプチド)が存在しない場合の反応量を100%として表わした。その結果、サンプル中のN−1ペプチドが高濃度になるにしたがって、抗N−1ペプチドモノクローナル抗体の、エライサプレートに吸着させたN−1ペプチドへの反応量が減少した。このとき、別に無関係のペプチドを高濃度加えても反応に変化はなかった。この結果は、作成したモノクローナル抗体N−1−1が、N−1ペプチドに特異的反応し、かつサンプル中のEAST1ペプチド由来のN−1部分を検出定量できることを示している。
【0098】
なお、N−1ペプチドに対する検出感度は10ng/mLを示した。検出感度に関しては、図6に示した、抗N−1ペプチドポリクローナル抗体を用いた場合の検出感度の方が優れていた。
【0099】
〔実施例4〕
抗EAST1抗体として製造例2で製造した抗N−1ペプチドモノクローナル抗体(N−1−1)(0.1μg/mL)を用いて競合エライサ法を行った(図9)。サンプル添加後、これまではペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを用いてきたが、その代わりにビオチン標識抗マウスIgG(5μg/mL)と、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(50ng/mL)とを応用し競合エライサ法を試みた。その結果、サンプル中のN−1ペプチドが高濃度になるにしたがって、抗N−1ペプチドモノクローナル抗体の、エライサプレートに吸着させたN−1ペプチドへの反応量が減少した。さらに、ビオチン標識抗体と、ストレプトアビジンとの応用により、検出感度が1ng/mLを示した。
【0100】
なお、図6に示した抗N−1ペプチドポリクローナル抗体を用いた場合の検出感度とほぼ同程度の有効性が示された。
【0101】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0102】
【発明の効果】
このように、本発明の検出方法は、EAST1ペプチドを特異的に認識する抗体を用いて、これまで検出方法が確立されていなかったEAST1ペプチドを検出する方法である。
【0103】
それゆえ、これまで検出方法が確立されていなかったために、分類不能な「大腸菌性食中毒」にランクされていたEAST1ペプチドを原因とする病原性大腸菌の、新たなカテゴリーを認知されるようにすることができる。その結果、EAST1ペプチドを原因とする食中毒の責任者を確定することができ、責任者からの補償、および行政からの援助も受けることができるようになるという効果を奏する。
【0104】
すなわち、大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドの免疫学的検出あるいは診断・同定、EAST1ペプチドによる食中毒事例における責任体制と行政処分の明確化、を達成することができ、人類の保健と福祉を向上させることができるという効果を奏する。
【0105】
【配列表】
Figure 0003751567

【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の一形態にかかる検出方法において検出対象となるEAST1ペプチドの塩基配列およびアミノ酸配列と、同実施の一形態において抗原として選択したペプチド部位を示した配列図である。
【図2】 本発明の実施の一形態におけるポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の製造方法のフローチャートである。
【図3】 本発明の実施の一形態におけるポリクローナル抗体のエライサ抗体価を示したグラフであり、図3(a)はC−1ペプチドに対するポリクローナル抗体とC−1ペプチドとのエライサ抗体価を示したグラフであり、図3(b)は、N−1ペプチドに対するポリクローナル抗体とN−1ペプチドとのエライサ抗体価を示したグラフである。
【図4】 本発明の実施の一形態におけるN−1ペプチドに対するモノクローナル抗体とN−1ペプチドとのエライサ抗体価を示したグラフである。
【図5】 本発明の実施の一形態におけるEAST1ペプチド検出のための競合エライサの測定原理を示した模式図であり、図5(a)はプレートの抗原(Ag)が抗体(Ab)と結合している様子を示した模式図であり、図5(b)は、サンプル中に抗原(Ag)が含まれており、抗体(Ab)がプレートの抗原(Ag)への結合阻害が起こっている様子を示した模式図である。
【図6】 本発明の実施の一形態におけるN−1ペプチドに対するポリクローナル抗体を用いた場合の競合エライサの結果を示したグラフである。
【図7】 本発明の実施の一形態におけるC−1ペプチドに対するポリクローナル抗体を用いた場合の競合エライサの結果を示したグラフである。
【図8】 本発明の実施の一形態におけるN−1ペプチドに対するモノクローナル抗体(N−1−1)を用いた場合の競合エライサの結果を示したグラフである。
【図9】 本発明の実施の一形態におけるN−1ペプチドに対するモノクローナル抗体(N−1−1)を用いた場合の競合エライサの別の結果を示したグラフである。
【図10】 97年から99年度に検出した各大腸菌とサルモネラ菌の検出率を示したグラフである。
【図11】 97年から99年度に検出した下痢原生大腸菌の構成を示したグラフである。
【図12】 97年から99年度に検出した下痢原生大腸菌の月別検出状況を示したグラフである。

Claims (10)

  1. 大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドを特異的に認識する抗EAST1抗体を、該EAST1ペプチドの検出対象となる検体とを反応させる免疫反応試行行程と、
    抗EAST1抗体による免疫反応の有無を判定する免疫反応判定行程とを含み、
    上記抗EAST1抗体は、配列番号1に示すEAST1ペプチドのアミノ酸配列のうち、8番目から17番目までのアミノ酸配列からなる第1領域を特異的に認識する、ポリクローナル抗体またはサブクラスIgMのモノクローナル抗体であることを特徴とする大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法。
  2. 上記免疫反応判定行程では、免疫反応を判定する手法として、蛍光抗体法、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、アフィニティークロマトグラフィー法、コロニーブロット法の何れかが用いられることを特徴とする請求項1に記載の大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法。
  3. 上記免疫反応判定工程では、免疫反応を判定する手法として、競合エライサ法を用いることを特徴とする請求項1に記載の大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法。
  4. 請求項1ないし3の何れか1項に記載の大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法に用いられるモノクローナル抗体であって、
    大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドで免疫したマウス脾臓リンパ球とマウスの骨髄細胞とを融合させてなるハイブリドーマにより産生され、
    配列番号1に示すEAST1ペプチドのアミノ酸配列のうち、8番目から17番目までのアミノ酸配列からなる第1領域を特異的に認識し、かつ、サブクラスがIgMであるモノクローナル抗体。
  5. 請求項1ないし3の何れか1項に記載の大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出方法に用いられるポリクローナル抗体であって、
    大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドで免疫したウサギの免疫血清から精製され、
    配列番号1に示すEAST1ペプチドのアミノ酸配列のうち、8番目から17番目までのアミノ酸配列からなる第1領域を特異的に認識するポリクローナル抗体。
  6. 配列番号1に示す大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドのアミノ酸配列のうち、8番目から17番目までのアミノ酸配列からなる第1領域を特異的に認識することを特徴とするポリクローナル抗体
  7. 配列番号1に示す大腸菌由来耐熱性下痢症毒素EAST1ペプチドのアミノ酸配列のうち、8番目から17番目までのアミノ酸配列からなる第1領域を特異的に認識し、かつ、サブクラスがIgMであることを特徴とするモノクローナル抗体。
  8. 請求項4または7に記載のモノクローナル抗体、あるいは請求項5または6に記載のポリクローナル抗体を含むことを特徴とする大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出用試薬。
  9. さらに、上記モノクローナル抗体、あるいは、上記ポリクローナル抗体の非特異反応を抑制するための非特異反応抑制試薬を含んでいることを特徴とする請求項8に記載の大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出用試薬。
  10. 請求項8または9に記載の検出用試薬を含むことを特徴とする大腸菌由来耐熱性下痢症毒素の検出キット。
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