JP3745574B2 - 回転軸部材および回転装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転軸部材および回転装置に関するものである。さらに詳しくは、高剛性の鉄基複合材料料を用いた設計自由度の大きな回転軸部材および回転装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
多種多様な機械が存在するが、その中でも回転運動を利用する機械は非常に多い。例えば、モータ、エンジン、タービン等の原動機を初め、これらを駆動源とした送風機、車両、航空機、ロケット、工作機械、コンプレッサ、ポンプ等がある。そして、回転装置の種類により向上すべき性能も様々である。例えば、高速回転化(高速化)による出力増大、損失低減による機械効率の向上、応答性の向上等の他、装置全体としての軽量化やコンパクト化等も、回転装置の種類によっては向上すべき重要な性能となる。
【0003】
以下では、これらの回転装置に不可欠な回転軸部材(若しくは回転軸部)に着目し、その性能を向上させる際に必要となる課題等について説明する。なお、「回転軸部材」には、適宜、回転装置の「回転軸部」も含まれるものとする。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
先ず、回転装置の高速化を図る場合を例に取ると、それにより低速回転域では問題とならなかったような強度、変形、振動、装置の重量増や大型化等、様々な課題が発生する。具体的にこれらの項目について検討してみると、次のようになる。
【0005】
(1)強度
▲1▼回転速度が2倍になれば作用する遠心力は4倍になるし、高速高出力化により伝達されるトルクも増大する。従って、それを支える回転軸部材の強度向上が必要になる場合が多い。
しかし、回転軸部材の必要強度を形状面から確保すれば、回転軸部材の大型化、重量増に繋がる。従って、回転軸部材の軽量コンパクト化を維持しつつ(若しくは向上させつつ)高速化を図るためには、形状面からではなく材料面から適切な強度が回転軸部材に確保されることが望まれる。
【0006】
▲2▼この強度についてさらに具体的に検討する。
通常、回転軸部材には曲げモーメントMやトルクT(回転モーメント、ねじりモーメント)が作用し、さらには圧縮・引張りを伴うこともある。曲げモーメントMは、軸自体や軸上の回転体に作用する重力や遠心力等により生じる。トルクTは、動力伝達等により生じる。また、圧縮・引張りは軸方向に作用する加重(例えば、プロペラ軸等に作用する圧縮)等により生じる。これらは、単独若しくは組合わさって作用するものであるが、いずれにしても、回転軸部材には圧縮・引張り応力σ、剪断応力τとして作用することになる。
ここで、回転軸部材を軸径dの中実棒としてσ、τの最大値を考えると、σmax=M/Z=M/(πd3/32)、τmax=T/ZP=T/(πd3/16)(Z:断面係数、ZP:極断面係数)となるから、作用する応力はヤング率等には関係なく形状のみによって決まる。つまり、軸径dを大きくするとそれらの応力の低減を図れるが、それでは回転軸部材の軽量コンパクト化を維持・向上できない。
そこで、材料面から回転軸部材に適切な強度が確保されることが望まれる。
【0007】
(2)変形(剛性)
▲1▼回転装置の高速化に際して、回転軸部材の変形も考慮しなければならない場合がある。回転軸部材の変形が大きくなると、各部材の運動が不正確になり回転装置の性能低下や各部材の干渉を招き高速化の妨げとなるからである。また、回転軸部材の変形が大きくなると、回転軸部材と軸受との間で片あたりが生じ(面圧分布が不均一になり)、摺動抵抗が増すため高速化を図れないこともある。従って、回転軸部材の変形の低減を必要とする場合もある。
しかし、形状面からその変形を抑制しようとすると、前述したように回転軸部材の軽量コンパクト化が妨げられる。
そこで、材料面から回転軸部材に適切な剛性が確保されることが望まれる。
【0008】
▲2▼この変形(剛性)について、主に問題となる撓み(たわみ)と捻り(ねじり)を例にとり、具体的に検討する。
(a)撓み
撓みは、加重が作用する回転軸部材(梁)に垂直な方向に生じる略凹状の変形であり、例えば、両端支持される回転軸部材であれば中央部付近でその撓み量δは最大となる。
ここで、撓み量δは曲げ剛性EI(E:縦弾性係数(ヤング率)、I:断面2次モーメント(=πd4/64))に反比例するから、曲げ剛性EIを増大させることにより撓み量δを低減できる。つまり、断面2次モーメントI若しくはヤング率Eを増大させれば良い。
ところが、上述したように回転軸部材の形状面から曲げ剛性EIの増大を図るためには軸径dを増大させることになり、回転軸部材等の軽量コンパクト化を維持できない。次に、材料面からヤング率Eを増大させることが考えられるが、ヤング率Eは原子間の結合力に関与した物質固有の値であり、同種の材料である限り、従来の合金化や熱処理等によりヤング率Eを実質的に変化させることは困難であった。
そこで、従来にない高ヤング率の材料を新たに開発し、その材料を回転軸部材に用いてその剛性を高めることが望まれる。
【0009】
(b)捻り
捻りは、伝達トルクにより回転軸部材の軸方向に垂直な断面に生じる相対回転であり、回転軸部材の長さおよび作用するトルクが大きいほどその回転角(捻れ角ψ)は大きくなる。回転装置によっては、この捻れ角ψが制限されることも多い。例えば、回転軸部材の回転角(クランク角等)を用いて、それと連動する他部材(カム・シャフト等)の運動を制御している場合、捻れ角ψが大きくなることにより、その回転装置の性能の低下を招きかねないからである。
ここで、捻れ角ψは捻り剛性GIP(G:横弾性係数、IP:断面2次極モーメント(=πd4/32))に反比例するから、捻り剛性GIPを高めることにより捻れ角ψを低減できる。
ところが、撓みの場合と同様に、回転軸部材の形状面から捻り剛性GIPの増大を図れば、軸径dが増大して、回転軸部材等の軽量コンパクト化を維持・向上できない。次に、横弾性係数Gを増大させることが考えられるが、一般に、横弾性係数Gはヤング率Eと比例関係にある(G=E/2(1+ν)、ν:ポアソン比)。従って、横弾性係数Gを増加させることは、ヤング率Eを増加させることを意味する。
そこで、撓みの場合と同様に高ヤング率の材料を用いれば、回転軸部材の軽量コンパクト化を維持・向上させつつ、その捻れ角ψの低減を図ることが可能となる。
【0010】
(3)危険速度
▲1▼回転する回転軸部材に撓みや捻りが生じると、弾性体である回転軸部材は原形に復帰しようとして、回転軸部材の原形(または釣合位置)を中心に周期的な振動(変形)を繰返す。この振動数が回転軸部材の固有振動数に近づくと、その振幅が次第に増大する。そして、回転軸部材が弾性限界を超えて変形して回転軸部材が破損し得ることはよく知られている。危険速度とは、その固有振動数に一致し若しくはその固有振動数の数倍となる回転軸部材の回転数をいう。
回転装置の高速化に際して、この危険速度を考慮しなければならない場合がある。そして、回転軸部材の回転数を高くするほど、回転軸部材の危険速度を大きくすることが望まれる。
【0011】
▲2▼この危険速度について、具体的に検討する。
危険速度を低めに設定しておき、その危険速度を越えた回転領域で使用される回転装置もあるが(撓み軸)、通常は、使用回転数よりも十分に余裕をみて、危険速度は高めに設定される(剛性軸)。回転軸部材の回転数が危険速度を通過する度に生じる大きな振動によって、耐久性の低下や感性的な悪化(例えば、不快な振動)等を招くことがないようにするためである。よって、通常、危険速度が大きいことが望まれる。
【0012】
(a)この危険速度にも2種類あり、回転軸部材の撓み(横振動)に起因して生じる危険速度Nbと回転軸部材の捻り(捻り振動)に起因して生じる危険速度Ntとに分けることができる。そして、機械力学から危険速度Nbは(EI)1/2 (EI:曲げ剛性)に、危険速度Ntは(GIP1/2(GIP:捻り剛性)に比例することが知られている。
危険速度Nbや危険速度Ntを高めることは、回転軸部材の変形を低減させる場合と同様に、曲げ剛性EIや捻り剛性GIPを増大させることを意味し、結局、回転軸部材の軽量コンパクト化を維持・向上させつつ、危険速度の増大化を図るためには、高ヤング率Eの材料からなる回転軸部材が望まれることとなる。
【0013】
(b)但し、ダンカーレ(Dunkerley)の式にもあるように、全体的な危険速度を求める場合には、回転軸部材自身の危険速度と回転軸部材上の各回転体の危険速度との両方を考慮する必要がある。例えば、全体の危険速度Nbを求める場合、1/Nb2=1/Nb0 2+1/Nb1 2+1/Nb2 2+・・・(Nb0:回転軸部材自身の危険速度、Nbi:各回転体の危険速度)となる。このように、全体の危険速度Nbは、回転軸部材の危険速度Nb0と各回転体の危険速度Nbiとから求められる。
そこで、次に回転軸部材自身の危険速度を考える。回転軸部材の自重ω(ω:回転軸部材の単位長さあたりの重量(質量))とすると、回転軸部材自身の(撓み)危険速度Nb0、(捻り)危険速度Nt0は、それぞれ(EI/ω)1/2 、(GIP/ω)1/2に比例することが知られている。ここで回転軸部材の軸径d、密度ρとして変形すると、危険速度Nb0と危険速度Nt0とはそれぞれd・(E/ρ)1/2 、d・(G/ρ)1/2 に比例することが導かれる。
【0014】
しかも、前述したように、横弾性係数Gと縦弾性係数Eとは比例関係にあったから、危険速度Nb0や危険速度Nt0を増大させるためには、結局、d・(E/ρ)1/2 を増大させれば良いことになる。
このように、回転軸部材の自重を考慮に入れて危険速度を考える場合、ヤング率Eのみならず、比ヤング率E/ρの増大を図ることも有効であることが解る。但し、図1に示すように、従来の金属材料ではこの比ヤング率E/ρに殆ど相違がなく、従来の金属材料では、材料面から回転軸部材の危険速度を増大させることは困難であった。
【0015】
(4)その他
回転装置の軽量コンパクト化を図るために、回転軸部材についても、その軽量コンパクト化が求められることは当然である。
しかし、回転軸部材の軽量コンパクト化はそれに留まるものではない。回転軸部材の軽量コンパクト化は、回転軸部材の応答性や高速化に役立つ。例えば、エンジンやターボ・チャージャ等を考えると、クランク・シャフトやタービン・シャフト等(回転軸部材)の軽量コンパクト化は慣性重量の低減になり、応答性(レスポンス)が向上し、さらには一層の高速化が図れる。
従って、このような観点からも比強度や比ヤング率の大きな材料からなる回転軸部材が望まれるところである。
【0016】
そこで、本発明者は、回転軸部材に最適な材料、特に高剛性な材料を全く新規に開発することが、回転装置の高性能化や軽量コンパクト化を図り、その設計自由度を高める上で不可欠であると考えた。そして、一般的な金属材料中でヤング率Eの最も大きい鉄系材料をベース材料に使用することが好適であると考えて、さらに検討および研究開発を行うこととした。
この研究開発に先立ち、本発明者は鉄系材料をベースにした高剛性材料について調査を行ったところ、数件の出願がされており、例えば、特開平5−239504号公報、特開平7−188874号公報等に関連する開示がされていた。
前者の公報には、炭化物や窒化物等の強化粒子を鉄系マトリックス中に分散させて高ヤング率化を図った鉄基複合材料料が開示されている。しかし、その鉄基複合材料は熱力学的安定性に欠ける強化粒子(Ti(C、N)等)を用いているため、十分な高ヤング率を得るまでには至っていない。また、シャルピー衝撃値の記載はあるが、強度等の記載はなく、回転軸部材として実用的な材料であるか否かは不明である。
【0017】
後者の公報には、熱的安定性に優れる二ホウ化チタン(TiB2)を強化粒子として高ヤング率化を図った鉄基複合材料料が開示されている。しかし、その公報には、ヤング率に関する記載しかなく、比ヤング率や強度等については何ら触れられていない。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものある。つまり、回転軸部材(または、回転軸部)として最適な高剛性(高ヤング率)の鉄基複合材料を用いることにより回転装置の高性能化、設計自由度の拡大等を図ることができる回転軸部材および回転装置を提供することを目的とする。特に、高速運転される場合に好ましい高速回転軸部材および高速回転装置を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、この課題を解決すべく鋭意研究し、各種系統的実験を重ねた結果、回転軸部材に最適な高剛性の鉄基複合材料を新たに開発・発見した。そして、この鉄基複合材料を用いて、回転装置の高性能化、設計自由度の拡大等を図れる回転軸部材(または回転軸部)および回転装置を開発するに至ったものである。
【0019】
(回転軸部材)
すなわち、本発明の回転軸部材は、鉄を主成分とするマトリックス相中に4A族元素のホウ化物を主成分とする強化相が分散した鉄基複合材料からなる高剛性部を備え、
前記マトリックス相は、該マトリックス相全体を100重量%としたときに、0.1〜3重量%のバナジウム(V)と0.5〜20重量%のクロム(Cr)とを含みCが0.5重量%以下であり、
前記強化相は、前記鉄基複合材料全体を100体積%としたときに10〜50体積%であり、
前記高剛性部は、ヤング率Eが230GPa以上で耐力が450MPa以上であると共に密度ρに対する該ヤング率Eの比である比ヤング率E/ρが30×10-3GPa・m3/Kg以上であり、表面が窒化処理されたものであることを特徴とする。
【0020】
本発明の回転軸部材は、耐力が450MPa以上という強度をもちつつ、ヤング率が230GPa以上であると共に比ヤング率E/ρが30(×10 -3 GPa・m 3 /Kg)以上という高剛性である高剛性部を備えるため、回転軸部材の設計自由度が著しく拡大し、その回転軸部材を用いた回転装置の性能向上を図ることが著しく容易になった。例えば、高剛性部のヤング率が高いことにより、回転軸部材の重量増や大型化を招くことなく、その変形の低減や危険速度の向上を図ることができる。逆に、回転軸部材の変形量や危険速度を従来と同程度に許容するなら、回転軸部材の一層の軽量コンパクト化を図ることができる。しかも、高剛性部の鉄基複合材料は実用的な強度を有しているので、強度的に設計自由度が制限されることはない。
【0021】
ここで、ヤング率は縦弾性係数を指し、これが230GPa未満では、材料面から回転装置の高剛性化を十分に図ることが困難となり、回転軸部材の設計自由度等が制限されるので好ましくない。
また、耐力は、「永久歪みが0.2%となる応力」である0.2%耐力を指す。これが450MPa未満だと、強度確保のために回転軸部材の重量増や大型化を避けられないので、設計自由度が制限されるので好ましくない。
【0022】
(回転装置)
また、本発明の回転装置は、駆動部と被駆動部との間に介在して該駆動部から該被駆動部に回転を伝達する回転軸部を備える回転装置において、前記回転軸部は、鉄を主成分とするマトリックス相中に4A族元素のホウ化物を主成分とする強化相が分散した鉄基複合材料からなる高剛性部を備え、 前記マトリックス相は、該マトリックス相全体を100重量%としたときに、0.1〜3重量%のバナジウム(V)と0.5〜20重量%のクロム(Cr)とを含みCが0.5重量%以下であり、
前記強化相は、前記鉄基複合材料全体を100体積%としたときに10〜50体積%であり、前記高剛性部は、ヤング率Eが230GPa以上で耐力が450MPa以上であると共に密度ρに対する該ヤング率Eの比である比ヤング率E/ρが30×10-3GPa・m3/Kg以上であり、表面が窒化処理されたものであることを特徴とする。
【0023】
本発明の回転装置は、駆動部と被駆動部との間に介在して駆動部から被駆動部に回転を伝達する回転軸部が、耐力が450MPa以上という強度を維持しつつ、ヤング率が230GPa以上であると共に比ヤング率E/ρが30(×10 -3 GPa・m 3 /Kg)以上という高剛性部を備えるため、回転軸部の設計自由度が著しく拡大し、さらには、回転装置の設計自由度や性能の向上を図ることが著しく容易となったものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に、回転軸部材および回転装置の実施形態を挙げて、本発明を詳しく説明する。なお、「回転軸部材」というときには、特に断らない限り、回転装置の回転軸部も含めて考えるものとする。
【0025】
(鉄基複合材料)
(1)強化相
本発明の回転軸部材の高剛性部は、鉄を主成分とするマトリックス相中に、4A族(チタン族)元素のホウ化物を主成分とする強化相を分散させた鉄基複合材料からなる。これにより、高ヤング率と、実用的な高強度特性を得ている。
強化相の主成分である4A族元素のホウ化物は、4A族元素とホウ素が規則的に配置された結晶構造を有し、共有性結合によって構成原子が強固に結合しているものである。この構成原子の強固な結合力に影響を受けて、そのホウ化物のヤング率は、300GPa以上と非常に大きくなっている。
【0026】
しかも、4A族元素のホウ化物は、鉄合金中で熱力学的に極めて安定であるため、異種元素の侵入・置換、あるいは他の複合化合物の形成など、マトリックス相の構成元素と反応して、結晶学的および冶金学的な変化を生じることが殆どない。
従って、このホウ化物粒子を複合化することにより、非常に高ヤング率な鉄基複合材料が得られ、回転軸部材の高剛性化を材料面から図ることができたと考えられる。
【0027】
さらに、本発明の回転軸部材の高剛性部は、全体を100体積%としたときに10〜50体積%の強化相とこの強化相に対して60体積%以下の非マトリックス相とからなると好適である。
4A族元素のホウ化物からなる強化相に対して非マトリックス相(マトリックス相、強化相以外)を一定割合以下とすることにより、鉄基複合材料の靱性や延性を低下させることなく、より高ヤング率の高い鉄基複合材料が得られたものである。そして、靱性、延性、ヤング率に優れた鉄基複合材料から高剛性部が構成されることにより、回転軸部材や回転装置の設計自由度を一層拡大させることができた。
非マトリックス相は、具体的には、4A族元素のホウ化物以外のホウ化物(例えば、(Fe、Cr)2B)や4A族元素を含む金属間化合物(例えば、(Fe、Cr)2Ti等のラーベス相)からなる。
【0028】
ここで、強化相が、10体積%未満では高剛性化の効果が得られず、50体積%を超えるとホウ化物どうしの凝集や、合体が生じ、鉄基複合材料の機械的特性が低下するので好ましくない。なお、強化相が20〜50体積%であると、高剛性化の効果が大きいうえに機械的特性とのバランスもよく、より好ましい。
また、非マトリックス相が強化相に対して60体積%を越えると、鉄基複合材料中での4A族元素のホウ化物を主成分とする強化相が相対的に減少し、鉄基複合材料のヤング率が低下するとともに、マトリックス相が硬化若しくは脆化して好ましくない。なお、非マトリックス相が強化相に対して45体積%以下であると、さらに高い靱性を有するため、より好ましい。
【0029】
強化相の主成分である4A族元素のホウ化物には、4A族元素である、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)のホウ化物の一種以上が用いられる。ホウ化物は、単体としてのヤング率が少なくとも300GPa以上であれば、強化相の分散により十分に高ヤング率な鉄基複合材料が得られる。4A族元素のホウ化物中でも、二ホウ化チタン(TiB2)は特に、高ヤング率で熱的安定性に優れるので、強化相の主成分として好適である。
【0030】
つまり、強化相が二ホウ化チタン(TiB2)を主成分とし、非マトリックス相はこの二ホウ化チタン(TiB2)以外のホウ化物および/またはチタン化合物を主成分とするものであると、好適である。
さらに、強化相の主に構成する4A族元素のホウ化物の粒径は、100μm以下、より好ましくは20μm以下であると、好適である。高ヤング率と共に、靱性、延性等にも優れた鉄基複合材料が得られるからである。
【0031】
(2)マトリックス相
本発明の回転軸部材を構成する鉄基複合材料は、鉄を主成分とするマトリックス相中に4A族(チタン族)元素のホウ化物を主成分とする強化相が分散したものである。このマトリックス相は、鉄合金をマトリックス(母材)とする。鉄合金には、フェライト系、オーステナイト系、あるいはマルテンサイト系などがある。
【0032】
▲1▼マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたときに炭素(C)の含有量が0.5重量%以下であると、好適である。
Cを0.5重量%以下にすると、マトリックス相に分散される4A族元素のホウ化物の熱力学的安定性がより保たれるようになる。すなわち、高温域でも、ホウ化物の4A族元素とCとから炭化物や炭ホウ化物が形成されることが抑制され、4A族元素のホウ化物による高ヤング率化の効果を最大限に引き出すことができるので、好ましい。逆に、0.5重量%を越えると炭化物や炭ホウ化物の量が増え、高剛性部が脆化して好ましくない。
なお、Cの含有量を0.35重量%以下とすると、より好ましい。
【0033】
▲2▼さらに、マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたとき、バナジウム(V)、クロム(Cr)の1種以上を、その合計が25.0重量%以下含むと、好適である。
これらの元素を含むと、マトリックス相中においてより高ヤング率なBCC構造のフェライトが安定化し、一層高ヤング率の鉄基複合材料が得られ、回転軸部材の高剛性化を促進できるので、好ましい。但し、それらの元素が25.0重量%を超えると、鉄との脆性化合物(シグマ相)が析出してマトリックス相を脆化させるので、好ましくない。なお、その合計が20重量%以下であると、より好ましい。
【0034】
さらには、マトリックス相が、該マトリックス相全体を100重量%としたときに炭素を0.5重量%以下と、バナジウム(V)を0.1〜3重量%および/またはクロム(Cr)を0.5〜20重量%含むと、より好適である。
σ相やバナジウムと鉄との化合物相の生成が抑制され、熱間加工時の割れや脆化を抑制・防止できる。さらに、耐摩耗性の点で回転軸部材として重要な表面硬度を安価な窒化処理等によって確保し易い。窒化処理には、タフトライド等がある。窒化処理等により表面硬度を向上させることにより、回転軸部材のフレティング摩耗等を防止できる。
【0035】
▲3▼また、マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたときに、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)の1種以上を、その合計が25.0重量%以下含むと、好適である。
これらの元素を含むと、マトリックス相にFCC構造のオーステナイトを得ることができ、フェライトのみのマトリックス相に比べ、靱性の向上が図れるので好ましい。但し、それらの元素が25.0重量%を超えると、オーステナイト主体のマトリックス相となり、フェライト主体のマトリックス相に対しヤング率が低下するため、好ましくない。
なお、その合計を15重量%以下とすると、 ヤング率を大きく低下させることなく高靱性化を図れるため、より好ましい。
【0036】
▲4▼マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたとき、銅(Cu)を0.2〜10.0重量%以下含むと、好適である。
マトリックス相がCuを含むと、マトリックス相の強度が向上するので好ましい。ここで、マトリックス相がCuを含む状態には、Cuの固溶状態とε−Cu相の析出状態の両方がある。
特に、熱処理によってε−Cu相を微細に整合析出させると、強度が一層向上する。但し、Cuが0.2重量%未満だと、Cuの析出量が少なく、十分な強度の向上が望めないため好ましくない。また、Cuが10.0重量%を超えると、マトリックス相のヤング率の大幅な低下を招き、熱間加工時に液相割れなどを起こし易くなり、好ましくない。ここで、Cuの含有量を5重量%以下とすると、ヤング率の低下を抑制しつつ大幅な強度向上を図れ、より好ましい。
【0037】
▲5▼マトリックス相は、マトリックス相全体を100重量%としたときに、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)の1種以上の元素を、その合計が10.0重量%以下含むことが好ましい。
これらの元素は、マトリックス相中で固溶、析出することにより、マトリックス相の強度を向上させるものであり、マトリックス相がそれらの元素を含むことにより、回転軸部材の高剛性部の強度向上が図れるので好ましい。但し、それらの元素量が10.0重量%を超えると多量の析出物が生じてフェライト相が硬化し、マトリックス相を脆化させるため好ましくない。
なお、その合計を5重量%以下とすると、 生成する析出物が適量かつ微細となるため、マトリックス相を脆化させることなく高強度化できるため、より好ましい。
【0038】
▲6▼上述したように、マトリックス相は多種多様な組成から構成することができるが、例えば、次のような組成からなるマトリックス相であると、回転軸部材として特に好適である。
つまり、マトリックス相が、該マトリックス相全体を100重量%としたときに、0.5重量%以下の炭素(C)と、0.2〜10重量%の銅(Cu)と、モリブデン(Mo)とニオブ(Nb)とタングステン(W)とタンタル(Ta)とからなる金属群から合計で10重量%以下の1種類以上の金属元素と、バナジウム(V)とクロム(Cr)とからなる金属群から合計で25重量%以下の1種類以上の金属元素と、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)とからなる金属群から合計で25重量%以下の1種類以上の金属元素と、からなる元素群より選択された少なくとも1種類以上の元素を含むと、好適である。
【0039】
(回転軸部材または回転装置)
(1)比ヤング率E/ρ
本発明の回転軸部材の高剛性部は、ヤング率をE(GPa)、密度をρ(103×Kg/m3)としたときに比ヤング率E/ρが30(×10-3GPa・m3/Kg)以上であると、好適である。
前述したように、比ヤング率E/ρが高いことにより、回転軸部材自身の危険速度を高めることができる。そして、回転軸部材自身の危険速度を高めると、ダンカーレの式から回転軸部材上の回転体を含めた全体の危険速度も高めることもできる。従って、この回転軸部材を用いた回転装置の一層の高速化、高性能化を図ることができて、格別好ましい。また、密度ρが小さいと、回転軸部材、回転装置の軽量化を一層向上させることができる。
なお、本発明の回転装置の回転軸部の少なくとも一部が、比ヤング率E/ρが30(×10-3GPa・m3/Kg)以上であっても、同様に好適である。
【0040】
(2)回転軸部材または回転軸部
▲1▼本発明の回転軸部材は、少なくとも一部が上述した高剛性部で構成されているタービン・シャフトであると好適である。
タービンは、流体(液体、気体)を動翼にあて、流体の運動エネルギーを回転運動エネルギーに変換する回転装置である。例えば、発電機、ジェット・エンジン、ターボ・チャージャ等に用いられる、水タービン、蒸気タービン、ガス・タービン等や、自動車に用いられるトルク・コンバータ(流体継手を含む)等がある。
このようなタービンは、高速回転するものが多く、そのシャフト部分に本発明の回転軸部材を用いると、変形の低減、危険速度の高速化、応答性の向上等が図れる。
【0041】
▲2▼本発明の回転装置がターボ・チャージャであるときは、駆動部はタービン・ホイールであり、被駆動部はコンプレッサ・ホイールであり、回転軸部はタービン・シャフトであると、好適である。
自動車用のターボ・チャージャを例にとれば、エンジンから排出される高温・高圧の排気ガスが駆動部であるタービン・ホイールにあたりタービン・ホイールが高速回転をする。この高速回転がタービン・シャフトを介して被駆動部であるコンプレッサ・ホイールに伝達される。そして、コンプレッサ・ホイールは、エア・クリーナから吸引した空気をインテーク・マニホールドに過給する。このようなタービン・シャフトは、毎分数万〜20数万回転もするから、変形の低減や危険速度の増大が一層求められる。そこで、タービン・シャフトに本発明の回転軸部材を用いたり、本発明の回転装置をタービンとしてその回転軸部をタービン・シャフトとすると、高剛性(高ヤング率)化によりその変形の低減や危険速度の増大を容易に図れるので、好ましい。
【0042】
(3)具体的な回転装置および回転軸部材
ターボ・チャージャ以外に、本発明の回転装置を、モータ、エンジン、タービン等の原動機や、送風機、車両、航空機、ロケット、工作機械、コンプレッサ、ポンプ等に用いると良い。また、本発明の回転軸部材や回転装置の回転軸部を、例えば、レシプロ・エンジンであればクランク・シャフト、カム・シャフト、ローター・エンジンであればエキセントリック・シャフト、過給器であればルーツ・ブロワ(ルーツ式スーパー・チャージャ)のドライブ・シャフトやドリブン・シャフト、ミラーサイクル・エンジン等で用いられるリショルム・コンプレッサ(スクリュウ式スーパー・チャージャ)の雌雄ロータ・シャフトやその入力軸、その他工作機械のスピンドル、自動車のプロペラ・シャフト等に用いると好ましい。
特に、軽量コンパクト化と高速化との両立が求められる回転軸部材や回転装置の回転軸部に本発明を利用すると、好適である。
【0043】
(4)鉄基複合材料の製造方法
本発明の回転軸部材の高剛性部や回転装置の回転軸部を形成する鉄基複合材料は、次のように製造すると、好適である。
▲1▼すなわち、鉄基複合材料の製造方法は、4A族元素のホウ化物粉末、4A族元素を含む粉末およびホウ素を含む粉末から選択され、4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.45〜0.80となるように調整された強化相原料粉末と鉄を主成分とするマトリックス相原料粉末とを混合する原料粉末混合工程と、この原料粉末混合工程により混合された原料粉末から圧密成形体を得る圧密成形工程と、この成形工程により得られた成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程とからなると、好適である。
【0044】
強化相は、強化相原料粉末に予め含まれる4A族元素のホウ化物粉末により形成されても良いが、混合された4A族元素を含む粉末とホウ素原料を含む粉末とが焼結工程で反応し、そこで生成される4A族元素のホウ化物により形成されても良い。
4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.45〜0.80に調整されることにより、ホウ化鉄や4A族元素の金属間化合物からなる非マトリックス相の形成が抑制され、鉄基複合材料の高ヤング率化を図り易い。
強化相原料粉末は、市販の粉末を用いることができるが、4A族元素のホウ化物粉末はその平均粒径が数μm以下の粉末であると、好ましい。その粒径が大きいときは、ボールミル、振動ミル、アトライタ等の装置により粉砕しておくと良い。
【0045】
マトリックス相原料粉末は、純鉄や鉄合金の粉末であり、市販の粉末を用いることができる。例えば、アトマイズ法により作製された純鉄粉、ステンレス粉末等を用いることができる。マトリックス相原料粉末の平均粒径は、180μm以下、さらには45μm以下であると、より好ましい。平均粒径を45μm以下とすると、焼結体の緻密化や強化相の分散均一性が著しく促進される。
【0046】
原料粉末混合工程は、マトリックス相原料粉末と強化相原料粉末とを均一に混合する工程であるが、特殊な混合方法や前処理を行う必要はなく、通常の粉末混粉装置を利用できる。例えば、V型、ダブルコーン型等の混粉機を利用すれば良い。なお、強化相原料粉末として、4A族元素のホウ化物粉末を用いる場合に、その粉末が二次粒子等を形成するときは、ボールミルや振動ミルアトライタ等の高エネルギー混合装置を用いて粉砕処理すると良い。
【0047】
圧密成形工程には、例えば、金型成形、CIP成形等を用いることができる。また、成形圧力を200MPaとすると、圧密成形体およびその焼結体の緻密化が十分に行われるので、好ましい。
焼結工程は、真空中若しくは不活性ガスや還元性ガス雰囲気中でなされると、好ましい。マトリックス相中の鉄の酸化を防止若しくは抑制できるからである。焼結工程は、1100〜1300℃の加熱温度で行うと、好ましい。1100℃未満では十分な密度の焼結体が得られず、また、1300℃を超えると形成されるホウ化物の種類によって多量の液相を生じ、焼結体の形状を維持できない場合があるからである。加熱時間は、0.2〜4時間であると、好ましい。0.2時間未満では焼結体の密度が十分に向上せず、4時間を超えると得られる密度に比してエネルギー効率が良くないからである。
【0048】
▲2▼また、鉄基複合材料の製造方法は、鉄を主成分とするマトリックス相原料と4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.45〜0.80となる強化相原料とを溶解させる溶解工程と、この溶解工程により溶解した原料を鋳型に注湯して鋳塊を成形する鋳造工程とからなると、好適である。
強化相原料には、例えば、フェロチタン、フェロジルコニウム、フェロボロン等がある。
【0049】
溶解工程は、例えば、セラミックス製るつぼを用いた高周波誘導真空溶解炉、アルゴンアーク溶解炉、プラズマ溶解炉、水冷銅るつぼを用いた高周波誘導真空溶解炉あるいは高周波誘導浮遊溶解炉等の従来からある溶融設備を用いることができる。
▲3▼さらに、前記の焼結工程や鋳造工程後に、焼結体や鋳塊に熱間加工を施す熱間加工工程を行うと、それらを真密度まで緻密化することができるので、好適である。
例えば、鋼塊の場合、この熱間加工により内部に生成したポロシティを低減でき、さらには強化相のホウ化物(二ホウ化チタン(TiB2)等)を微細化することができる。これにより、鉄基複合材料の強度、靱性、延性等の向上を図ることができる。
【0050】
熱間加工工程として、例えば、熱間鍛造、熱間圧延、熱間押出し、熱間スェージング加工等がある。また、この熱間加工は、900〜1200℃の範囲で行われると、好ましい。900℃未満では加工時の変形抵抗が大きく、1200℃を超えると液相化を生じるおそれがあるからである。また、焼結体を緻密化する場合には、熱間加工工程に代り、焼結工程後にHIP(熱間静水圧プレス)処理を施しても良い。例えば、このHIP処理は、900〜1200℃、500〜2000気圧、1〜10時間の条件で行うと、好ましい。
このように、本発明で用いた鉄基複合材料は、通常の粉末冶金、溶融、鋳造方法を利用して製作することができ、また、従来の設備を利用して製作できる。従って、生産性の向上やコスト低減を図り易い材料でもある。
【0051】
【実施例】
本発明の回転装置の実施例であるターボ・チャージャ100を取上げて、本発明の回転軸部材および回転装置について具体的に説明する。
(ターボ・チャージャ)
ターボ・チャージャは、過給機の一種で排気ガスのエネルギーを利用した排気タービン駆動式過給機(ターボ・チャージャ)であり、クランク・シャフトの回転力を利用した機械駆動式過給機(スーパー・チャージャ)と区別される。いずれも、圧縮空気を強制的にシリンダ内に供給し、充填効率の上昇によるエンジンの出力の増大を図ったものであるが、ターボ・チャージャは排気ガスのエネルギーを利用するものであるため、スーパー・チャージャのような駆動損失がなく、エネルギーの有効利用ができる点で優れる。また、ターボ・チャージャは軽量コンパクトで、取付位置の自由度も大きいので、自動車用エンジンの過給機として最適である。図2および図3にそのターボ・チャージャ100の概略を示す。
【0052】
▲1▼ターボ・チャージャ100は、本発明の回転装置の駆動部であるタービン・ホイール110と、被駆動部であるコンプレッサ・ホイール120と、回転軸部であるタービン・シャフト130と、排気ガス側に設けられたタービン・ハウジング160と、吸入空気側に設けられたコンプレッサ・ハウジング170と、タービン・ハウジング160とコンプレッサ・ハウジング170との間に介在しタービン・シャフト130を支持するセンタ・ハウジング180とから基本的に構成される。
なお、回転軸部であるタービン・シャフト130は、本発明の回転軸部材でもあることを予め断っておく。
【0053】
▲2▼タービン・ハウジング160は、排気ガスの流速を高めて噴流とし、この噴流の速度エネルギを有効にタービン・ホイール110に導くためのものである。そのため、渦巻状(スクロール状)となっておりノズル部161を備える。なお、タービン・ハウジング160は、高温に曝されるため、熱変形の少ない特殊耐熱材製鋳物で製作されている。
【0054】
▲3▼コンプレッサ・ハウジング170は、吸入口171から吸入した空気に速度エネルギを与えた後、効率良く減速させて圧力を高めて吐出口172からインテーク・マニホールドに圧送するものである。そのため、コンプレッサ・ハウジング170には、渦巻状をしており圧力を高めるディフューザー173が形成されている。なお、コンプレッサ・ハウジング170は、比較的低温であるため、アルミニウム合金製鋳物からなる。
【0055】
▲4▼タービン・ホイール110は、複数の放射状のブレード111を備える円盤状部材である。そして、タービン・ハウジング160のノズル部161から導かれた排気ガスの噴流をそのブレード111で受けることにより、高速回転する。排気ガスはタービン・ホイール110に回転力を与えた後、タービン・ハウジング160の排出口162から排出される。この排気ガスの流出がスムーズに行われるように、ブレード111にはエキスデューサー角が与えてある。なお、タービン・ホイール110は、900℃以上もの高温の排気ガスに連続的に曝されるため、ニッケル基超耐熱合金(インコネル713C)からなる。なお、耐熱性と慣性重量の低減とを考慮してセラミック製としても良い。
【0056】
▲5▼コンプレッサ・ホイール120も、複数の放射状のブレード121を備える円盤状部材であるが、ブレード121は、タービン・ホイール110のブレード111とは異なり回転方向反対側に湾曲したバックワード型となっている。これにより、吸入空気に遠心力による速度エネルギを効率良く与える。但し、空気の流入がスムーズに行われるようにするために、コンプレッサ・ハウジング170の吸入口171付近にあるブレード121は、回転方向に捻られ、インデュース角が与えられている。なお、コンプレッサ・ホイール120は、比較的低温であると共に軽量化(慣性重量の低減)を考慮してアルミニウム合金(AC4D)からなる。
【0057】
▲6▼タービン・シャフト130は、その両端にタービン・ホイール110とコンプレッサ・ホイール120とが取付けられ、タービン・ホイール110の回転をコンプレッサ・ホイール120に伝達するものである。ここで、タービン・シャフト130とタービン・ホイール110とは電子ビーム溶接により接合した。但し、ろう付け、摩擦溶接等により接合しても良い。
図3に示すように、タービン・シャフト130は、タービン・ホイール110側からコンプレッサ・ホイール120側にかけて順次細径となる段付軸部材である。
タービン・シャフト130のタービン・ホイール110側にはシール部131が、コンプレッサ・ホイール120側にはシール部132がそれぞれ設けられている。シール部131ではオイルシールと排気ガスシールがなされ、シール部132では、オイルシールがなされる。
【0058】
▲7▼さらに、ターボ・チャージャ100には、過給圧を制御するためにウェスト・ゲート・バルブおよびその開閉を行うウェスト・ゲート・バルブ・アクチュエータ190が設けてある。この作動を簡単に説明しておく。
エンジンが高回転になり排気ガス量が増加すると、タービン・ホイール110の回転速度も増大し、コンプレッサ・ハウジング170の吐出口172から吐出される圧縮空気圧(過給圧)も高くなる。そして、過給圧が高くなりすぎるとノッキングが発生し易くなる。そこで、ノッキングの発生を防止するため、過給圧が規定圧以上となると、過給圧によりウェスト・ゲート・バルブ・アクチュエータ190のダイヤフラムがスプリングの付勢力に抗して変形・移動して、ウェスト・ゲート・バルブ・アクチュエータ190のレバーを作動させ、ウェスト・ゲート・バルブを開く。その結果、排気ガスはタービン・ホイール110をバイパスして流れるようになり、タービン・ホイール110およびコンプレッサ・ホイール120の回転速度が低下し、過給圧が規定値を越えないようになる。
【0059】
▲8▼エンジン本体から分流したエンジン・オイルがセンタ・ハウジング180の給油口181から供給されて、ターボ・チャージャ100の潤滑が行われる。供給されたオイルは、軸受部などを潤滑、冷却し、センタ・ハウジング180の下部に設けた排油口182からエンジンのオイル・パンに戻される。
また、エンジン本体の冷却水路から冷却水がセンタ・ハウジング180に導かれ、センタ・ハウジング180およびオイル通路の冷却が行われる。導かれた冷却水は、エンジン本体の冷却水路に戻され、エンジン本体のウォータープンプによりその循環がなされる。
【0060】
▲9▼センタ・ハウジング180の略中央を貫通するタービン・シャフト130は、2つのフル・フローティング・ベアリング150により支持されている。フル・フローティング・ベアリング150は、センタ・ハウジング180に導入されたオイルによりセンタ・ハウジング180の軸受部とタービン・シャフト130との間で完全に浮いている。フル・フローティング・ベアリング150は、自由に回転できるので、その周速はタービン・シャフト130の周速の約半分ぐらいになり、耐久性に優れる。また、完全に浮いているから、タービン・シャフト130の僅かなアンバランスにより発生する高速回転時の振動も吸収でき、さらには、潤滑性、冷却性にも優れる。センタ・ハウジング180の軸受部の摩耗低減、小型化等の観点から、セミ・フローティング・ベアリングを使用しても良いし、タービン・シャフト130の回転の立上がりを向上させる観点から、摩擦抵抗のより少ないボール・ベアリングを使用しても良い。
【0061】
(タービン・シャフト)
前述のタービン・シャフト130を本発明の鉄基複合材料(第1〜4実施例)と従来の鉄鋼材料(比較例)とを用いて製造すると共に、そのヤング率等を測定した。
(1)製造
▲1▼第1実施例
ステンレス鋼粉末(SUS430:−#330)、フェロチタン粉末(−#330)、フェロボロン粉末(−#250)、フェロクロム粉末(−#250)、フェロバナジウム粉末(−#250)、黒鉛粉末(−#400)を配合して均一に混合した(原料粉末混合工程)。これにより、表1に示す組成をもつ鉄基複合材料(Fe−8.7Ti−4.0B−11.2Cr−1.0V−0.2C )を得た。
【0062】
なお、本実施例ではFe−Cr合金マトリックス相中に20体積%(全体を100体積%として)のチタンホウ化物粒子を主成分とする強化相を分散させて鉄基複合材料を形成することを意図した(表1)。
原料粉末混合工程後、均一に混合した原料粉末を用いて油圧プレスにより金型成形し、直径25mm、高さ35mmの圧密成形体を得た(圧密成形工程)。
この圧密成形体を0.01Pa以下の真空雰囲気で1250℃×1時間の焼結を行って焼結体を得た(焼結工程)。
【0063】
この焼結体を高周波誘導加熱装置で1100℃に加熱した後、ナックル・ジョイント・プレスにより金型押出しを行い、直径11mmの押出材を成形した(熱間加工工程)。
さらに、この押出材に切削、研削、研磨等の機械加工を施して、表2の諸元をもつタービン・シャフト130(図3)を得た。
【0064】
▲2▼第2実施例
Fe−Cr合金マトリックス相中に30体積%(全体を100体積%として)のチタンホウ化物粒子を主成分とする強化相を分散させることを意図して、表1に示す組成をもつ鉄基複合材料(Fe−13.7Ti−6.2B−13.0Cr−0.1C−1.2Mo)を得た。このとき、Mo源としてフェロモリブデン粉末(−#250)を用いた他は、第1実施例と基本的に同様である。
【0065】
▲3▼第3実施例
Fe−Cr合金マトリックス相中に45体積%(全体を100体積%として)のチタンホウ化物粒子を主成分とする強化相を分散させることを意図して、表1に示す組成をもつ鉄基複合材料(Fe−22.6Ti−10.2B−1.1Cr−0.6V−1.0Cu)を得た。このとき、Cu源として電解銅粉末(−#400)を用いた他は、第1実施例と基本的に同様である。
【0066】
▲4▼第4実施例
Fe−Cr合金マトリックス相中に30体積%(全体を100体積%として)のチタンホウ化物粒子を主成分とする強化相を分散させることを意図して、表1に示す組成をもつ鉄基複合材料(Fe−13.7Ti−6.0B−18.0Cr−0.8V−0.1C−2.7Cu−5.0Ni)を得た。Ni源として、SUS304粉末(−#330)を用いた他は、第1実施例と基本的に同様である。なお、第2実施例に対してマトリックス相の組成を変更した。
【0067】
▲5▼比較例
Fe−0.15C−0.25Si−0.7Mn−1.1Crの組成をもつ市販の一般構造用鋼材(SCr415)を素材として用いて、上述の実施例と同様に機械加工を施した。その後、熱処理(浸炭焼入れ・焼戻し)を行い所望の表面硬度とした後、表面研磨を行って、図3に示すタービン・シャフト130を得た。
【0068】
【表1】
Figure 0003745574
(2)材料特性の測定
上述の第1〜4実施例で製作した押出材と比較例で使用した一般構造用鋼(SCr415)について、ヤング率、密度、耐力を表1に併せて示した。なお、各実施例のヤング率、密度、耐力は次のようにして求めた。
【0069】
(a)ヤング率
ヤング率を複合振動子法を用いて測定した。複合振動子法とは、試験片(第1〜4実施例と比較例との高剛性部)に水晶振動子を接着した複合振動子を製作し、この複合振動子と水晶振動子との共振周波数の差から試験片の固有振動数を求めて、ヤング率を評価する方法である。
(b)耐力
インストロン試験機を用いて測定した荷重−伸び線図から0.2%耐力を求めた。インストロン試験機とは、インストロン(メーカ名)製の万能引張試験機であり、駆動方式は電気モータ制御である。
(c)密度
密度は、乾燥重量と水中重量との差から体積を求めて密度を計算する水浸法(アルキメデス法)により求めた。
【0070】
(3)危険速度
▲1▼計算値
表2に示す諸元の回転軸部材(タービン・シャフト、タービン・ホイール、コンプレッサ・ホイールを含む)について、第1〜4実施例および比較例で用いた材料でタービン・シャフトを構成した場合の危険速度を計算により求めた。これを表1に合わせて示す。ヤング率等は表1に示した値を用いた。なお、この危険速度の計算は、ターボ・チャージャの振動解析として一般的な手法をタービン・シャフトに適用して行い、その曲げ1次固有振動数を求めたものである。
【0071】
【表2】
Figure 0003745574
【0072】
▲2▼実測値
前述の第1〜4実施例および比較例の各タービン・シャフト130にインコネル713C製タービン・ホイール110とアルミニウム合金AC4D製コンプレッサ・ホイール120とを組み付け、これらそれぞれについて、ターボ単体回転試験機にて、ターボ単体回転試験を行った。このときの試験条件は、タービン入口温度を600℃とし、8万rpmから23万rpmまでを約3分で上昇させる設定とした。
そして、ターボ単体回転試験機のセンタ・ハウジング上に設けた加速度ピックアップにて振動を計測して、最初のピーク値を危険速度とした。この振動の様子を図4に示す。縦軸の加速度は、最大の加速度(共振時の加速度)に対する比で示した。
【0073】
(4)表面硬度
回転軸部材は耐摩耗性が要求されることが多いため、その表面硬度が高いことが望ましく、様々な表面処理がなされる。ここでは、回転軸部材の表面処理として一般的な窒化処理(タフト窒化処理)を例に取り、本発明に係る鉄基複合材料が回転軸部材の表面硬度を向上させる上でも適しているかを検討した。特に、マトリックス相の相違による表面硬度の影響を検討した。
【0074】
本発明に係る回転軸部材の供試材を、Fe−Cr−V−Mo−Cu合金のマトリックス相中に30体積%(全体を100体積%として)のチタンホウ化物粒子を主成分とする強化相を分散させた鉄基複合材料を用いて、第1実施例等と同様に製作した。この鉄基複合材料の組成は、Fe−6.14B−13.6Ti−1.1Cr−0.12V−0.13Mo−2.41Cu(数値は重量%)であった。
これに対する比較例として、純鉄のマトリックス相中に30体積%(全体を100体積%として)のチタンホウ化物粒子を主成分とする強化相を分散させた鉄基複合材料を用いて、第1実施例等と同様に製作した。この鉄基複合材料の組成は、Fe−6.16B−13.6Ti(数値は重量%)であった。
窒化処理は、580°×90分の溶融塩浴窒化とした。
こうして窒化処理した両供試材を切断し、表面からの硬度をそれぞれ測定してグラフに表したものを図5に示す。
【0075】
(5)評価
▲1▼ヤング率および比ヤング率
表1から解るように、本発明の実施例では、比較例に対してヤング率が約10〜65%大きくなっている。そして、強化相が密度の小さな二ホウ化チタン(TiB2)からなるので、二ホウ化チタン(TiB2)の体積率に応じて、全体の密度が約10〜20%小さくなっている。
その結果、比ヤング率E/ρで対比すると、実施例は比較例に対して比ヤング率E/ρが約1.3〜2.1倍と格別に向上している。
【0076】
▲2▼危険速度
表1および図4から、本発明の実施例では、比較例に対して危険速度が約14〜40%も上昇していることが解る。これらから、ターボ・チャージャの危険速度上昇による高速化や軽量化を著しく向上させ得ることが解る。
【0077】
▲3▼表面硬度
図5から、本発明の回転軸部材は窒化処理によりその表面硬度が十分に向上することが確認できた。つまり、窒化処理等を施すことにより回転軸部材として求められる耐摩耗性の向上も図れることが解った。特に、マトリックス相がCrやVを含有すると、窒化処理により表面硬度の向上に有効であると考えられる。
【0078】
【発明の効果】
本発明の回転軸部材および回転装置の回転軸部は、高ヤング率であると共に高強度である鉄基複合材料からなるため、回転軸部材や回転装置の設計自由度を著しく拡大させることができ、回転装置の多様な要求性能に応えられ、また、その性能を向上させることが容易となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】各種金属材料の比ヤング率(E/ρ)1/2 を比較した図である。
【図2】本発明の実施例であるターボ・チャージャの断面を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例であるターボ・チャージャの断面を示す平面図である。
【図4】本発明の各実施例と比較例とのタービン・シャフトの危険速度を示すグラフである。
【図5】鉄基複合材料のマトリックス相の相違が、窒化処理後の表面硬度に及す影響を示したグラフである。
【符号の説明】
100 ターボ・チャージャ(回転装置)
110 タービン・ホイール(駆動部)
120 コンプレッサ・ホイール(被駆動部)
130 タービン・シャフト(回転軸部、回転軸部材)

Claims (7)

  1. 鉄を主成分とするマトリックス相中に4A族元素のホウ化物を主成分とする強化相が分散した鉄基複合材料からなる高剛性部を備え、
    前記マトリックス相は、該マトリックス相全体を100重量%としたときに、0.1〜3重量%のバナジウム(V)と0.5〜20重量%のクロム(Cr)とを含みCが0.5重量%以下であり、
    前記強化相は、前記鉄基複合材料全体を100体積%としたときに10〜50体積%であり、
    前記高剛性部は、ヤング率Eが230GPa以上で耐力が450MPa以上であると共に密度ρに対する該ヤング率Eの比である比ヤング率E/ρが30×10-3GPa・m3/Kg以上であり、表面が窒化処理されたものであることを特徴とする回転軸部材。
  2. 前記マトリックス相は、さらに、Cu、Mo、Nb、W、Ta、NiまたはCoのいずれか1種以上の元素を含有し、
    該元素の範囲は、該マトリックス相全体を100重量%としたときに、Cuが0.2〜10重量%、MoとNbとWとTaとが合計で10重量%以下、NiとCoとが合計で25重量%以下である請求項1に記載の回転軸部材。
  3. 前記高剛性部は、非マトリックス相が前記強化相に対して60体積%以下である請求項1に記載の回転軸部材。
  4. 前記強化相は、二ホウ化チタン(TiB2)を主成分とする請求項1または3に記載の回転軸部材。
  5. 前記回転軸部材は、少なくとも一部が前記高剛性部で構成されているタービン・シャフトである請求項1または2に記載の回転軸部材。
  6. 駆動部と被駆動部との間に介在して該駆動部から該被駆動部に回転を伝達する回転軸部を備える回転装置において、
    前記回転軸部は、鉄を主成分とするマトリックス相中に4A族元素のホウ化物を主成分とする強化相が分散した鉄基複合材料からなる高剛性部を備え、
    前記マトリックス相は、該マトリックス相全体を100重量%としたときに、0.1〜3重量%のバナジウム(V)と0.5〜20重量%のクロム(Cr)と を含みCが0.5重量%以下であり、
    前記強化相は、前記鉄基複合材料全体を100体積%としたときに10〜50体積%であり、
    前記高剛性部は、ヤング率Eが230GPa以上で耐力が450MPa以上であると共に密度ρに対する該ヤング率Eの比である比ヤング率E/ρが30×10-3GPa・m3/Kg以上であり、表面が窒化処理されたものであることを特徴とする回転装置。
  7. 前記駆動部はタービン・ホイールであり、前記被駆動部はコンプレッサ・ホイールであり、前記回転軸部はタービン・シャフトであり、前記回転装置はターボ・チャージャである請求項6に記載の回転装置。
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