JP3744713B2 - 高強度アルミニウム合金固化材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械部品等の構造材として用いる高強度アルミニウム合金固化材である。
【0002】
【従来の技術】
従来の急冷凝固させたアルミニウム合金の微細結晶組織は、急冷凝固法による組織の微細化により高強度化されている。さらに、微結晶組織ではなく、さらに特定組成において急冷してアモルファス相を得ることによりさらに高強度な材料が得られている。
【0003】
しかしながら、急冷凝固法又はメカニカルアロイング法などの手法で得られた微細組織を有する合金は、通常薄帯又は粉末に形状が限定されていた。よって機械部品等の構造材として用いるためには、薄帯又は粉末等を集成固化させる必要があった。集成固化の方法としては、熱間押出法、鍛造法等が通常用いられているが、その時の熱履歴により、急冷により得られたアモルファスは加熱により結晶化し、微細結晶組織は加熱により粒成長するために、強度特性は熱間加工後に低下する問題点があった。
【0004】
一方、金属間化合物等を第二相粒子として分散させる場合は、第二相粒子での応力集中によって、靭性の延性が低下するという問題がある。
又、原料としての薄帯又は粉末の表面の酸化は雰囲気の制御では限界があり、表面酸化物の残存による固化の不健全さやガス成分、特に吸着水、結晶水等に起因する水素脆性、粉末ハンドリング時のコンタミネーションの混入が成形後の製品特性に問題を生じさせる問題がある。
【0005】
そこで、本出願人はさきに、一般式AlbalMaXb(ただし、MはV,Cr,Mn,Fe,Co,Niから選ばれる少なくとも1種の元素、XはLi,Mg,Si,Ti,Cu,Zn,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Hf,Ta,W,Mm(ミッシュメタル)、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、a,bは原子パーセントで、a=0.5〜10%,b=0.5〜10%)さらには一般式AlbalMaXbQc(M,X,a,bは前記と同じ、QはB,C,N,Oから選ばれる少なくとも1種の元素、Cは原子パーセントで5%以下)よりなる高強度アルミニウム合金固化材を開発した。(特開平8−283921号公報参照)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記先行技術をさらに発展させ、高硬度、高強度を有し、延性、靭性及び加工性に優れたアルミニウム合金固化材を提供することを目的とすると共に、そのような固化材を酸化、水素脆化、コンタミネーションの問題なく提供するものである。
【0007】
【発明が解決するための手段】
本発明は、一般式:AlbalMa(ただし、MはTiまたはFeから選ばれる元素であり、aは原子パーセントで0<a≦20)で示される組成からなり、実質的に組織が平均結晶粒径が100nm〜10μmのα−Alの過飽和固溶体単相からなることを特徴とする高強度アルミニウム合金固化材である。
【0008】
本発明において、M元素は、Al中での拡散速度の遅い元素であり、これらの元素を0〜20原子%(ただし、0は含まない)添加することにより、組織を非常に微細化させ、硬度等の機械的特性を向上させることができるとともに、超急冷効果により、添加元素を過飽和固溶させることができ、これにより第二相の形成がなく、延性、靭性が低下することなく、高強度化が行える。さらには電子ビーム蒸着法により急冷して母合金から直接板形状の厚さが300μm以上、さらには厚さが1mm以上の固化材を作製できるとともに、熱処理により組織変化を起こさせ、特性を制御できるとともに超塑性加工等の加工が適用できる。
【0009】
Tiは4〜15原子%、Feは0.5〜5原子%の範囲で添加することにより、硬度、強度は、この範囲を超えるものよりも小さいが、高強度、高硬度でより延性、靭性、加工性に優れた固化材を提供できる。
さらに、平均結晶粒径が100nm〜10μmのα−Alの過飽和固溶体単相とすることにより、通常のAl結晶と同等の延性、加工性を備えたものとすることができる。
【0010】
また、電子ビーム蒸着法により堆積したマクロ構造における粒子の大きさは平均粒子径で1〜10μmであるが、このような粒子径とすることにより、空隙が生じにくく、相対密度95%以上の固化材とすることができる。
【0011】
このようなアルミニウム合金固化材は、電子ビーム蒸着法により蒸着物堆積基板上に堆積することにより得ることができる。電子ビーム蒸着装置の具体例を模式的に示したのが図1である。真空装置内において蒸着源材料ロッド2,2をそれぞれ銅製のるつぼ1,1内に下方から上方に向って移動可能に配し、これらに電子銃3,3により電子ビーム4,4をそれぞれ照射し、蒸発源材料を加熱溶融させ、さらに蒸発させる。蒸発した粒子5はるつぼ1,1と対向して設けられた堆積基板6上に蒸着堆積し、堆積層7を形成する。なお、るつぼ1,1と堆積基板6との間にシャッタを設り、基板温度および蒸着粒子が適した条件となった場合に開くようにしてもよい。また、図内においては、電子銃3は1つだけ示してあるが、複数個設けることも可能である。
【0012】
このような電子ビーム蒸着は高い冷却状態が得られるので、他の物理的蒸着技術に比して前記本発明の組織を得るのに適している。真空装置内の真空度は4×10-6〜3×10-5mbarが適当である。又、前記組織を得るためには、蒸着物堆積基板温度を150〜350℃に制御することがよい。150℃より低温であると非平衡な状態が得られるが、緻密な材料が得られにくく、柱状になり易い問題がある。350℃より高温であると結晶粒径が大きくなり、強度特性が劣化するとともに、金属間化合物の析出、晶出現象が起こり、延性、靭性、加工性が低下してしまう。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
図1に示す電子ビーム蒸着装置により、蒸発源材料としてAlロッドとTiまたはFeロッドとを用い、アルミニウム合金固化材を作製した。具体的な作製方法は直径31mm,長さ235mmのAl母合金からなる蒸着源材料ロッド2を一方側のるつぼ1に配し、また直径37mm、長さ250mmのTiまたはFe母合金からなる蒸着源材料ロッド2を他方側のるつぼ1に配し、真空装置内の真空度を4×10-6〜3×10-5mbarとする。さらに、真空装置内に配される堆積基板6は基板回転速度を20rpmとするとともに、堆積基板温度を250℃とする。なお、堆積基板6を回転することにより、蒸着による組成の不均一性を防ぐ。また、堆積基板6の温度は赤外線ランプおよび水冷により制御され、また適切な温度に保持される。
【0014】
電子ビーム蒸着装置による蒸着条件は、Alからなる蒸着源材料ロッドに対し、電子ビーム投入電力を7kWとし、TiまたはFeからなる蒸着源材料ロッドに対し、電子ビーム投入電力を0.5〜1.2kWとする。また、これらの蒸着源材料ロッドの供給速度は0〜0.22mm/minとする。添加されるTiまたはFeの添加量は、電子ビームの強さを変えることにより、蒸発する速度を制御し、変化させている。具体的にはTiは0.6〜1.2kW,Feは0.5〜1.0kWと変化させて蒸着を行った。電子ビーム蒸着法では電子ビームが照射される蒸着源材料の部分が減少するが、蒸着源材料がるつぼの下方から上方に向って連続的に移動することにより、連続的な蒸着が行え、厚い堆積層を形成する。
【0015】
上記のように作製したAl98Fe2,Al95Ti5,Al87Ti13(at%)からなるアルミニウム合金固化材について、X線回折を行い、その組織構造を調べた。その結果を図2および図3に示す。図2および図3によれば、α−Alの過飽和固溶体単相からなっていることがわかる。その他の本発明の合金組成についても同様の結果が得られた。また、上述の組成について、SEM観察を行った結果、堆積した粒子の大きさは平均粒子径で1〜10μmで、空隙がなく緻密な構造となっているとともに、前記α−Alの過飽和固溶体相の結晶粒径も200nm〜10μmの範囲で存在し、平均的には粒子径とほぼ同等であった。
【0016】
さらに上記のように作成したAlbalTia,AlbalFea(at%)からなる各種アルミニウム合金固化材について、その硬度(Hv)を測定した。なお、硬度(Hv)は25g荷重の微小ビッカース硬度計による測定値(DPN)で示す。この結果を図4および図5に示す。図4および図5によれば、本発明のアルミニウム合金化材においては50〜600と優れていることが分る。また、AlbalTia固化材について、aを4(at%)以上とすることにより、硬度を100以上とすることができ、AlbalFea固化材については、aを0.5(at%)以上とすることにより、硬度を100以上とすることができる。さらに得られた固化材について、延性および加工性を検討した結果、硬度が100以上、300以下で非常に優れた結果が得られた。この結果よりAlbalTiaにおいてはaが4〜15(at%)の範囲が、また、AlbalFeaにおいてはaが0.5〜5(at%)の範囲がもっとも好ましい範囲であることが分かった。なお、強度については硬度とほぼ同様の結果であった。
【0017】
【発明の効果】
本発明によれば、新規な組織を有する高強度アルミニウム合金固化材が得られ、高強度、高硬度を有し、延性、靭性および加工性に優れた固化材を提供することができる。また、電子ビーム蒸着法を利用した場合、母合金から直接高密度な固化材を得ることができ、従来の熱間押出法等における熱履歴による影響を受けることなく、また、前述の製法上の問題を生じさせることなく、安定した製品を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施に用いる電子ビーム蒸着装置の説明図である。
【図2】本発明の実施例合金Al98Fe2のX線回折図である。
【図3】本発明の実施例合金Al95Ti5およびAl87Ti13のX線回折図である。
【図4】本発明の実施例合金AlbalTiaの硬度の測定値を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例合金AlbalFeaの硬度の測定結果を示すグラフである。
Claims (4)
- 一般式:AlbalMa(ただし、MはTiまたはFeから選ばれる元素であり、aは原子パーセントで0<a≦20)で示される組成からなり、実質的に組織が平均結晶粒径が100nm〜10μmのα−Alの過飽和固溶体単相からなることを特徴とする高強度アルミニウム合金固化材。
- M元素がTiであり、aが4≦a≦15である請求項1記載の高強度アルミニウム合金固化材。
- M元素がFeであり、aが0.5≦a≦5である請求項1記載の高強度アルミニウム合金固化材。
- 厚さ300μm以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の高強度アルミニウム合金固化材。
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