JP3744279B2 - スケール密着性に優れた高炭素熱延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸洗などの脱スケール処理が施されないC 含有量が0.2wt%以上の高炭素熱延鋼板、特に、スケール密着性に優れた高炭素熱延鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、C 含有量が0.2wt%以上の高炭素熱延鋼板の一部は、酸洗などの脱スケール処理が施されないまま自動車部材や建材などに使用されている。こうしたスケール付鋼板では、搬送時や曲げ加工時などにスケールが剥がれて押込み疵が発生したり、外観が劣化したりしないように、そのスケールが密着性に優れていることが要求されている。
【0003】
そのため、例えば特開昭59-222533 号公報には、550 〜700 ℃で巻取ったコイル状の鋼板( 以後、コイルと呼ぶ) を非酸化性雰囲気中で350 ℃まで冷却してスケールをFeO から密着性に優れたFe3 O 4 に完全に変態させる方法が、また、特開昭62-136561 号公報には、巻取り後のコイルを550 〜450 ℃で10min.以上2hr 以下保持し、その後450 ℃から1 ℃/min. 以上の冷却速度で冷却してスケールを地鉄-Fe 3 O 4 -FeO-Fe 3 O 4 の3 層構造とし、かつ地鉄と接するFe3 O 4 層の平均厚さを全スケール厚の1/5 以下とする方法などが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許公報に記載された方法は、いずれもC 含有量が0.2wt%未満の一般の加工用熱延鋼板を対象としており、それをそのままC 含有量が0.2wt%以上の高炭素熱延鋼板へ適用しても、高炭素熱延鋼板では圧延後にパーライト変態に伴う大きな発熱が起こるので、必ずしも密着性に優れたスケールが得られないといった問題がある。また、特開昭59-222533 号公報に記載された方法には、巻取温度が600 ℃を超えるとスケール厚みが増して十分な密着性が得られなくなるといった問題や、特開昭62-136561 号公報に記載された方法には、FeO 層が存在しているために厳しい加工を受けるとスケールの密着性が劣化するといった問題もある。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、C 含有量が0.2wt%以上の高炭素熱延鋼板において、巻取温度を出きる限り提言してスケールの成長を抑え、特別な加熱装置を用いることなく高炭素鋼特有のパーライト変態に伴う発熱を利用して、非酸化性雰囲気の徐冷カバー内で、FeO の残留がなく、かつ地鉄と接する部分にマグネタイトシームが生成した構造にスケールを調整することにより、スケール密着性に極めて優れた高炭素熱延鋼板を製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、熱間圧延されたC 含有量が0.2wt%以上の高炭素熱延鋼板をコイル状に巻取るに際し、熱間圧延後の鋼板を、パーライト変態が終了する前に、500 〜600 ℃の巻取温度でコイル状に巻取る工程と、前記コイル状に巻かれた鋼板を、巻取り後20分以内に500 ℃以上の温度で酸素濃度が5%以下の雰囲気中に置く工程と、前記雰囲気中に置かれたコイル状の鋼板を、前記鋼板の温度が400 ℃になるまで10℃/hr 以下の平均冷却速度で冷却する工程とを有するスケール密着性に優れた高炭素熱延鋼板の製造方法により解決される。
【0007】
上記特許公報にも記載されているように、スケールの密着性を向上させるには、FeO の残留がなく、かつ地鉄と接する部分に密着性の高いマグネタイトシームが形成された構造にスケールの組織を調整することが重要である。また、厚みを薄くすることも効果的である。一般に、FeO を残留させずに、かつ地鉄と接する部分に密着性の高いマグネタイトシームを形成させるには500 ℃以上の温度から徐冷する必要があり、厚みを薄くするにはなるべく低温で巻取る必要があるので、両者を両立させることは難い。
【0008】
しかし、上述したように、C 含有量が0.2wt%以上の高炭素熱延鋼板においては、熱間圧延後にパーライト変態に伴う大きな発熱が生じるため、その発熱を利用して低温で巻取っても500 ℃以上の温度から徐冷できるようにしたことが本発明のポイントである。以下に、その詳細を説明する。
【0009】
1) パーライト変態の時期について
JIS G 4051のS45C相当の鋼(C:0.45wt%、Si:0.2wt% 、Mn:0.75wt%、P:0.016wt%、S:0.003wt%、Al:0.008wt%)を用い、800 ℃の仕上温度で4.5mm 厚の鋼板に圧延後、ランナウトテーブル上での水量を変えてパーライト変態をコントロールし、580 ℃の巻取温度でコイルに巻取り、巻取り後のコイルを18分後に酸素濃度が4%の窒素ガスで満たされた徐冷カバーへ挿入し、400 ℃まで5 ℃/hr の平均冷却速度で冷却後大気中に放冷した試料を作製し、スケールの密着性を次の方法により評価した。すなわち、コイルM 部に相当する位置からサンプリングし、そして180 度曲げ加工後テープ剥離試験を行い、1.全面付着、2.部分的に付着、3.付着無しの3 段階で評価した。本発明の目的とするところは、評価3 の付着無しである。
【0010】
図1 に、圧延後巻取られるまでの鋼板の代表的な温度パターンを示す。
鋼板A では、圧延後単調に温度低下し、巻取り時に若干温度上昇するパターンを示しており、鋼板B では、圧延後単調に温度低下し、巻取り前に大きく温度上昇した後、巻取り時に再び温度低下するというパターンを示している。いずれの温度上昇もパーライト変態に伴う発熱に対応しているので、鋼板A はパーライト変態の終了前に巻取られ、鋼板B はパーライト変態の終了後に巻取られていることがわかる。
【0011】
表1 に、鋼板A 、B のスケールの密着性の試験結果を示す。
同じ巻取温度でも、鋼板A は評価3 、鋼板B は評価2 で、鋼板A の場合に優れた密着性が得られることがわかる。これは、鋼板A では、580 ℃の比較的低温で巻取られても、パーライト変態が終了前に巻取られているため、巻取り後に変態に伴う発熱が生じ、コイルを18分後に徐冷カバーへ挿入しても、550 ℃の温度から徐冷できたためである。一方、鋼板B では、パーライト変態が終了後に巻取られているため、巻取り後の発熱はなく、コイルを18分後に徐冷カバーへ挿入すると、温度が495 ℃まで低下し、500 ℃以上の温度から徐冷できなくなるため密着性が劣る。
【0012】
したがって、熱間圧延後の鋼板は、パーライト変態が終了する前に巻取られる必要がある。
【0013】
なお、スケールの密着性優れた鋼板A のスケールを解析したところ、地鉄-Fe 3 O 4 ( マグネタイトシーム)-(Fe 3 O 4 +Fe)-Fe 3 O 4 からなる3 層構造で、FeO を含まず、マグネタイトシームを有する構造であった。
【0014】
【表1】
【0015】
2) 巻取温度について
圧延後、パーライト変態を巻取り後に終了させるようにランナウトテーブル上での水量を調整し、かつ巻取温度を400 〜700 ℃に変え、それ以外は上記1)の場合と同様な条件で試料を作製した。そして、上記と同様な方法によりスケールの密着性を評価し、また、光学顕微鏡による断面観察からスケールの厚さを測定し、走査型電子顕微鏡によりマグネタイトシームの有無を調べた。
【0016】
図2 に、巻取温度とスケールの密着性、厚さ、マグネタイトシームの有無との関係を示す。
【0017】
巻取温度を500 〜600 ℃にすれば、評価3 の優れた密着性の得られることがわかる。これは、500 ℃以上であればマグネタイトシームが形成され、600 ℃以下であれば厚さが10μm以下と薄くなるためである。このとき、500 ℃の低温で巻取っても、巻取りから18分後にコイルを徐冷カバーへ挿入すれば、マグネタイトシームが形成されるのは、巻取り後のパーライト変態による発熱のために、コイルが徐冷カバー内で500 ℃以上の温度から徐冷されるためである。
【0018】
3) 巻取り後低酸素濃度の雰囲気中への移行時間について
巻取り後のパーライト変態による発熱を利用しても、巻取り後低酸素濃度雰囲気の徐冷カバーへ挿入するまでの時間が20分を超えると、発熱後の温度低下の影響が大きく現れ、徐冷カバー挿入前にコイルの温度が500 ℃未満に低下し、地鉄と接する部分に密着性の高いマグネタイトシームが得られなくなる。したがって、コイルは、巻取り後20分以内に低酸素濃度の雰囲気中に置く必要がある。
【0019】
4) 徐冷雰囲気中に置く温度について
スケールは冷却時に560 ℃以下でFeO からFe3 O 4 へ変態する。この変態挙動は冷却速度に依存し、スケール組織はスケール密着性に大きな影響を及ぼす。そこで、スケール密着性に及ぼすコイルを徐冷雰囲気中に置く温度の影響を調査した。上記S45C相当のスラブを800 ℃で仕上圧延し、パーライト変態が終了する前に580 ℃で巻取り後、コイル搬送時間を変化させて種々の温度で徐冷カバーへ装入し、酸素濃度が4%の窒素ガス雰囲気中にて400 ℃まで5 ℃/hr で冷却した後、大気中にて放冷した。板厚はいずれも4.5mm である。そして、上記と同様な方法によりスケールの密着性を評価し、X 線回折によりスケール組成を測定し、また、走査型電子顕微鏡によるミクロ観察からスケールの構造を観察した。
【0020】
結果を表2 に示す。
スケール密着性は、最表層組織がFe3 O 4 、中間層が共析組織(Fe 3 O 4 +Fe ) および地鉄接触部分がマグネタイトシームの三層構造の時、最も優れている。マグネタイトシームは徐冷カバー装入温度が500 ℃以上で形成され、500 ℃未満ではマグネタイトシームが得られなくなる。以上のことから、コイルを徐冷雰囲気中に置く温度の下限を500 ℃とした。
【0021】
【表2】
【0022】
5) 徐冷雰囲気の酸素濃度について
500 〜600 ℃の巻取温度で巻かれたコイルを、酸素濃度を変えた窒素ガス雰囲気の徐冷カバーで徐冷した以外は、上記2)の場合と同様な条件で試料を作製した。そして、上記と同様な方法によりスケールの密着性を評価し、また、X 線回折によりスケール中のFe2 O 3 の厚さ( μm) を測定 した。
【0023】
図3 に、酸素濃度とスケールの密着性、Fe2 O 3 の厚さとの関係を示す。
酸素濃度が5%以下であれば、剥離しやすいFe2 O 3 が形成されなくなり、評価3 の優れた密着性が得られることがわかる。
【0024】
6) 徐冷時の平均冷却速度について
500 〜600 ℃の巻取温度で巻かれたコイルを、徐冷カバー中の窒素ガス流量を変えて平均冷却速度を変えて冷却した以外は、上記2)の場合と同様な条件で試料を作製した。そして、コイルのT 部、M 部、B 部からサンプリングし、上記と同様な方法によりスケールの密着性を評価した。
【0025】
図4 に、平均冷却速度とスケールの密着性との関係を示す。
徐冷カバー内における平均冷却速度を10℃/hr 以下にすれば、コイルT 部、M 部、B 部いずれにおいても、評価3 の優れた密着性が得られることがわかる。一方、平均冷却速度が10℃/hr を超えると、マグネタイトシームが形成されず密着性が劣化するが、特に、冷却速度の速いコイルT 部、B 部でその傾向が顕著である。
【0026】
なお、5%以下の酸素濃度の雰囲気中で10℃/hr 以下の平均冷却速度で冷却するに当たり、400 ℃までその冷却速度で冷却すれば、FeO 残留率を確実に0にできる。したがって、生産性やコストの観点から、400 ℃未満は大気中で放冷することが好ましい。また、同様な観点から、平均冷却速度は2 ℃/hr 以上にすることが好ましい。
【0027】
本発明法においては、熱間圧延以前の条件は特に限定されず、スラブ加熱後圧延する方法、連続鋳造後短時間の加熱を施してあるいは加熱することなく圧延する直送圧延法なども適用できる。特に、スラブを室温まで冷却せずに最加熱する方法は、省エネルギーの観点より好ましい。また、優れたスケールの密着性を確保するには、粗圧延後や仕上圧延直前に高圧水ジェットでデスケーリングを行い一次スケールを完全に除去したり、仕上スタンド間でデスケーリングを行い二次スケールの生成を抑制することが好ましい。なお、熱間圧延中においては、バーヒーターによる加熱を行ってもよい。バーヒーターによる加熱は、コイルボックス等を用いた連続熱延プロセスに対しても効果的に使用できる。この際、粗圧延バーの加熱は上記以外に、コイルボックスの前後や粗圧延機の間または後に行ってもよい。また、コイルボックスの後で溶接機の前後で粗圧延バーの加熱を行っても本発明の効果は十分に発揮される。
【0028】
コイルを、5%以下の酸素濃度の雰囲気中で10℃/hr 以下の平均冷却速度で冷却するには、上記のような断熱材でできた徐冷カバーで覆えば可能であるが、温度制御装置を取り付けたカバーの方がより厳密に温度管理ができるので好ましい。
【0029】
【実施例】
表3 に示す化学組成を有する高炭素鋼A 、B 、C の連続鋳造スラブを粗圧延後高圧水を用いてデスケーリングを行い、Ar3 変態点以上の温度で仕上圧延後、表4 に示す条件で、コイルに巻取り、コイルを徐冷カバーへ挿入し、徐冷を行って、400 ℃になった時点でコイルを徐冷カバーから大気中に引き出し放冷して、試料No.1〜21を作製した。そして、コイルのT 部、M 部、B 部からサンプリングし、上記と同様な方法によりスケールの密着性を評価し、また、スケールの厚さを測定した。
【0030】
結果を表4 に示す。
本発明法で作製されたNo.1、2 、8 、9 、15、16は、いずれもコイルの位置によらず、地鉄と接する部分にマグネタイトシームが形成され評価3 の優れた密着性の得られることがわかる。なお、いずれのサンプルにおいてもFeO の残留は認められなかった。
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
【発明の効果】
本発明は以上説明したように構成されているので、C 含有量が0.2wt%以上の高炭素熱延鋼板において、確実に密着性に優れたスケールの得られる製造方法を提供できる。
【0034】
本発明法は、スケールの厚さを薄くできるので、冷延素材などの酸洗が必要な高炭素熱延鋼板にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】圧延後巻取られるまでの鋼板の代表的な温度パターンを示す図である。
【図2】巻取温度とスケールの密着性、厚さ、マグネタイトシームの有無との関係を示す図である。
【図3】酸素濃度とスケールの密着性、Fe2 O 3 の厚さとの関係を示す図である。
【図4】平均冷却速度とスケールの密着性との関係を示す図である。
Claims (1)
- 熱間圧延されたC 含有量が0.2wt%以上の高炭素熱延鋼板をコイル状に巻取るに際し、
熱間圧延後の鋼板を、パーライト変態が終了する前に、500 〜600 ℃の巻取温度でコイル状に巻取る工程と、
前記コイル状に巻かれた鋼板を、巻取り後20分以内に500 ℃以上の温度で酸素濃度が5%以下の雰囲気中に置く工程と、
前記雰囲気中に置かれたコイル状の鋼板を、前記鋼板の温度が400 ℃になるまで10℃/hr 以下の平均冷却速度で冷却する工程と、
を有するスケール密着性に優れた高炭素熱延鋼板の製造方法。
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