JP3743775B2 - 玉軸受用波形保持器 - Google Patents

玉軸受用波形保持器 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、玉軸受用の波形保持器、特に2サイクルエンジンのクランクシャフト等のように潤滑条件の厳しい環境で使用される玉軸受の波形保持器であって焼付の生じにくい構造とした玉軸受用波形保持器に関する。
【0002】
【従来の技術】
玉軸受用の波形保持器は、円周方向等配に軸方向に膨出する玉保持部を形成した環状保持板を対向接合(合掌)させて玉を配置するポケットが形成してある。通常、波形保持器のポケット内面は使用する玉の直径の数%程度大きい曲率半径となるように形成されて玉を保持している。
即ち、図8の斜視図に示すように、円周方向等間隔に玉保持部23,23,・・・を形成した二枚の環状保持板22,22を、これら玉保持部23と玉保持部23とがポケット26を形成するよう対向接合させ、平坦部(接合部)24,24をリベット7で固定して製作する。ポケット26に玉を配置したこの波形保持器21は、内輪と外輪(いずれも図示省略)との間に形成される環状空間に配置される。
従来の玉軸受用の波形保持器としては、振動や騒音を防止するためポケットを形成する玉保持部を、保持器の半径方向に短径を有する回転楕円に形成した玉軸受用保持器(公昭40−14764号)や、玉の円滑な回転を確保するため玉保持部を形成する二枚の環状保持板同士が相対的に若干平行遊動できるように組まれた玉軸受用保持器(実公昭53−42681号)、或いは図11に示すように、軸方向に膨出させて形成した玉保持部33,33の一部に円筒状範囲34,34,34,34を形成したポケット36を有する玉軸受用の波形保持器31(特開平3−172613号)等が提案されている。
【0003】
図9(A)は、従来の玉軸受用の波形保持器を、ピッチ円方向に沿って切断した状態の断面図である。この場合、玉軸受は、その軌道輪(内輪若しくは外輪)が相対回転するとき玉5及び波形保持器21も同時に回転(公転)するが、玉5は、回転方向(進行方向)の前面と波形保持器21のポケット26の内側面で接触しながら回転(公転及び自転)することになる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
波形保持器21が公転運動するとき、該波形保持器21内の玉5は、図9(A)に示すように、軸線Z回りに自転しながら波形保持器21のポケット26の進行方向の内周面26a,26bで接触している。この接触状態は、図9(A)のA−A矢視方向から見た場合、図9(B)に示すような形状で接触している。そして、図10に示すように、玉5が軸線Z回りに自転する時、自転時の角速度をω(一定)とし且つ玉5の任意の表面から軸線Zまでの半径(垂直距離)をrとすると、その玉5表面の周速度vは、v=ω・r、であるから、該玉5は、回転半径が最も大きくなる位置の近傍で波形保持器21のポケット内壁面と接触していることになる。即ち、玉5は最大自転周速を有する位置の近傍で波形保持器21のポケット内壁面と接触していることになり、焼付の問題が発生しやすい状態になっている。
尚、上記する図11に示すような波形保持器31では玉を半径方向にはガイドできない。即ち、内・外輪間に配置された玉を保持するこのような保持器は半径方向には自由に移動することになり、回転時、保持器の所謂みそ擦り運動が激しくなり異常振動や異常摩耗(焼付)が生じやすくなり、また高速時回転が安定しない傾向にあるという問題がある。
【0005】
この発明は上記する課題に着目してなされたものであり、玉と保持器との焼付が生じにくく潤滑剤の保持も長く保持でき、軸受寿命を長寿命とすることのできる玉軸受用波形保持器を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
記する課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、軸方向に膨出する玉保持部と平坦部を円周方向に所定間隔に形成した二枚の環状保持板が、各玉保持部を対向させるように組み合わされて玉を保持するポケットを形成してなる玉軸受用波形保持器において、前記両環状保持板に形成される各玉保持部は、対向接合させる平坦部寄りの両側にそれぞれ形成される球面状凹部と、該両球面状凹部間に位置するとともに軸線を円周方向に向けて配置し且つ中央部を折り曲げた半円筒体とを接続して形成され、該半円筒体部にて玉接触支持したことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の手段の前記半円筒体の曲折部を、前記玉保持部を対向して形成されるポケットの中心を通る軸方向軸線上に位置させたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、軸方向に膨出する玉保持部と平坦部を円周方向に所定間隔に形成した二枚の環状保持板が、各玉保持部を対向させるように組み合わされて玉を保持するポケットを形成してなる玉軸受用波形保持器において、前記両環状保持板に形成される各玉保持部は、対向接合させる平坦部寄りの両側にそれぞれ形成される球面状凹部と、該両球面状凹部間に位置するとともに軸線を円周方向に向けて配置した1つの半円筒体とを接続して形成され、該半円筒体との接続部近傍の球面状凹部にて玉接触支持したことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の具体的実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1はこの発明の玉軸受用波形保持器を構成する片側の環状保持板の一部斜視図であり、図2はこの環状保持板を対向させて接合した玉軸受用波形保持器の斜視図である。図3は環状保持板のピッチ円方向に沿った一部断面図である。
【0010】
この玉軸受用波形保持器1を構成する片側の環状保持板2には、円周方向一定間隔に軸方向に膨出する玉保持部3と組立時対向接合する平坦部4とが形成される。そして該玉保持部3は、両側の平坦部4及び4側に形成した二つの球面状凹部3a,3aと、これら両球面状凹部3a,3aの間に位置するとともに、軸線X1 −X1 を円周方向に向けて配置し且つ中央部で折り曲げた半円筒体3b,3bとを接続して形成してある。こうして該環状保持板2二枚を対向させて組み合わせると該玉保持部3は玉5を配置するためのポケット6となる。なお、前記球面状凹部3aから平坦部4にかけては滑らかなR加工が施してある。
【0011】
また、前記環状保持板2の玉保持部3に形成される球面状凹部3a,3aの曲率中心はそれぞれ2つの位置に設けている。即ち、ポケット6のピッチ円上で、一方は玉5を配置するポケット6の中心O0 より若干周方向後側(説明の便宜上、一方を後側、他方を前側とする)方向にd1 ずらせた位置O1 とし、他方はポケット6の中心O0 より若干前側方向にd1 ずらせた位置O2 としている。この場合、これらの球面状凹部3a,3aの曲率半径Ra は玉5の半径と同等若しくは若干大小のいずれであってもよい。なお、必要より、一方の球面状凹部3aの曲率中心O1 をポケット6の曲率中心O0 を通るピッチ円上で曲率中心O0 より前側に、また、他方の球面状凹部3aの曲率中心O2 を前記ピッチ円上でポケット6の曲率中心O0 より後側に位置させてもよく、さらには、両球面状凹部3a,3aの曲率中心O1 ,O2 をポケット6の曲率中心O0 に一致させてもよい。要するに、後述するように、軸受回転時、玉5と接触しない範囲で曲率半径Ra を設定すればよい。
【0012】
尚、この発明の玉軸受用波形保持器の他の実施の形態として、玉保持部3を形成する球面状凹部3a,3aは、前記環状保持板2のピッチ円方向に沿って切断した場合の断面形状の一部が、軸線方向に短径を有し且つ周方向に長径を有する楕円の一部となるように形成しても良い。
【0013】
次に、前記環状保持板2の玉保持部3の一部を構成する折り曲げた形の半円筒体3b,3bは、図4に示すように、軸線X1 −X1 を有する1つの半円筒体を折り曲げた形状であり、この場合、該半円筒体の曲折部3cは、玉保持部3を合わせて形成されるポケット6の中心O0 を通る軸方向軸線Y近傍、好ましくは軸線Y上にある(図3参照)。そして後述するように、玉5は回転時、これら曲折した形の1対の半円筒体3b,3bのうち進行方向の片側の円筒体3bの内壁面に接触させている。即ち、玉5の接触は常に半円筒体3b,3b部分にて行われるよう半円筒体3b,3bの長さ、球面状凹部3aの曲率半径Ra が設定されている。尚、上記玉保持部3の形状は、片側の環状保持板2について説明したが、接合させる相手側の環状保持板2に形成する玉保持部3の球面状凹部や半円筒体も同様の構成としてある。
【0014】
この発明の玉軸受用波形保持器1は、上記構成とした環状保持板2一対の平坦部4,4を対向接合させ、玉保持部3,3で形成されるポケット6に玉5を配置すると共に、接合した平坦部4,4の孔8,8にリベット7を通して圧潰し固定して製作する。この場合、球面状凹部3a,3a及び折り曲げて形成される円筒体3b,3b部分等は通常プレス加工によるため製作は容易である。
【0015】
図5(A)は回転中のこの発明の玉軸受用波形保持器1に玉5を配置しピッチ円方向に沿って切断した状態の断面図であり、図5(B)は図5(A)のB−B矢視断面図である。この波形保持器1のポケット6に配置された玉5は、環状保持板2の両側の玉保持部3,3の前側の半円筒体3b及び3bの内壁にに接触支持された状態で自転する。この場合、半円筒体3bと玉5との接触位置(θ)はかなり上方の位置、即ち、玉5の回転速度の遅い位置となる。即ち、該波形保持器1を使用する玉軸受の軌道輪が回転するとき、玉5は図10に示すように、自転時の周速度の最も大きな位置近傍P,P等近傍で保持器1のポケット6の内周面で接触するのではなく、自転時の表面速度が小さくなる位置の近傍Q,Qで波形保持器1のポケット6の内周面で接触する。従って、玉5は自転時、速度の低い位置で波形保持器1のポケット6内周面と接触しているため焼付は生じにくくなる。
【0016】
また、図5(A)からも明らかなように、回転時の進行方向の保持器のポケット6内の前部、即ち、環状保持板2,2の接合部近傍は、玉5と接触することはなく、一定の空間10が形成され、該空間10は『潤滑剤溜まり』となる。更に、玉5と半円筒体3b,3bの曲折部3c,3cの内側空間11,11及び玉5の後方の空間12も『潤滑剤溜まり』となる。従って、この波形保持器1はその潤滑剤の保持状態が極めてよくなり、耐焼付性が大幅に向上する。
【0017】
次に、図6は、この発明の玉軸受用波形保持器の他の変形実施態様の一部斜視であり、図7は、回転中のこの発明の前記変形例の玉軸受用波形保持器1のピッチ円方向に沿って切断した状態の断面図である。
即ち、この玉軸受用波形保持器1の一方の環状保持板2は、玉保持部3が、両側の平坦部4,4側に形成した二つの球面状凹部3a,3aと、1つの半円筒体3bとを接続して形成してある。この場合、前記半円筒体3bの軸線方向はピッチ円方向と一致させてある。また、球面状凹部3a,3aの曲率半径Ra は玉5の曲率半径より少し大きくし且つその曲率中心位置をポケット6の中心O0 を通る軸線Y上に位置させる。前記半円筒体3bを中央部に設けているため、球面状凹部3a,3aを形成する際、半円筒体3bとの接続部に近い球面状凹部3a,3a部分で玉5と接触させる設計が容易に行える。また、これらの球面状凹部3a,3aは、環状保持板2のピッチ円方向に沿って切断した場合の断面形状の一部が、軸線方向に短径を有し且つ周方向に長径を有する楕円の一部となるように形成しても良い。
【0018】
前記、波形保持器1のポケット6に配置された玉5は、環状保持板2の玉保持部3の前側の球面状凹部3a及び3a内壁に接触支持された状態で自転する。この場合、球面状凹部3a及び3aと玉5との接触位置(θ)は、自転時玉5の表面速度の遅い上部位置、即ち、半円筒体3bとの接続部に近い位置となる。従って、玉5は自転時、速度の低い位置で波形保持器1のポケット6内周面と接触しているため焼付は生じにくくなる。
【0019】
また、図7からも明らかなように、回転時の進行方向の波形保持器1のポケット6内の前部、即ち、玉5と環状保持板2,2の接合部近傍には一定の空間13が形成され、該空間13は『潤滑剤溜まり』となる。更に、環状保持板2の球面状凹部3aと円筒部3bとの境界の内側及び玉5の後方の空間14も『潤滑剤溜まり』となる。従って、この場合も波形保持器1はその潤滑剤の保持状態が極めてよくなり、耐焼付性が大幅に向上する。
【0020】
【発明の効果】
以上、詳述したように、従来保持器のポケット内周面では、玉の自転速度の最も大きな位置で接触していたため焼付が生じやすいという問題があったが、この発明の玉軸受用波形保持器によれば、玉の自転速度の最も低い位置の近傍で接触させることになるため焼付は生じにくくなる。更に、保持器を構成する環状保持板に形成されるポケットには玉と該ポケットとの前後及び左右外側の間に空間が形成され、これらが共に潤滑剤溜まりとなるため潤滑剤の保持状態が極めてよくなり耐焼付性を大幅に向上させ、軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の玉軸受用波形保持器を構成する片側の環状保持板の一部斜視図である。
【図2】この発明の玉軸受用波形保持器の一部斜視図である。
【図3】この発明の玉軸受用波形保持器のピッチ円方向に沿った一部断面図である。
【図4】この発明の玉軸受用波形保持器を構成する環状保持板に形成されるポケットの一部となる半円筒部の形成方法を示す図である。
【図5】図5(A)は回転中のこの発明の玉軸受用波形保持器のポケットに玉を配置しピッチ円方向に沿って切断した状態の断面図であり、図5(B)は図5(A)のB−B矢視断面図である。
【図6】この発明の玉軸受用波形保持器の他の変形実施態様の一部斜視である。
【図7】回転中のこの発明の前記変形例の玉軸受用波形保持器のピッチ円方向に沿って切断した状態の断面図である。
【図8】従来の玉軸受用波形保持器の斜視図である。
【図9】図9(A)は、従来の玉軸受用の波形保持器の中央の円周方向に沿って切断した状態の断面図であり、図9(B)は図9(A)のA−A矢視図であって保持器と玉との接触状態を示す図である。
【図10】玉軸受用の波形保持器のポケットに配置される玉の自転状態を示す図である。
【図11】従来の玉軸受用波形保持器の一部斜視図である。
【符号の説明】
1 波形保持器
2 環状保持板
3 玉保持部
3a 球面状凹部
3b 半円筒体
3c 曲折部
4 平坦部
5 玉
6 ポケット
7 リベット
10,11,12 空間部

Claims (3)

  1. 軸方向に膨出する玉保持部と平坦部を円周方向に所定間隔に形成した二枚の環状保持板が、各玉保持部を対向させるように組み合わされて玉を保持するポケットを形成してなる玉軸受用波形保持器において、
    前記両環状保持板に形成される各玉保持部は、対向接合させる平坦部寄りの両側にそれぞれ形成される球面状凹部と、該両球面状凹部間に位置するとともに軸線を円周方向に向けて配置し且つ中央部を折り曲げた半円筒体とを接続して形成され、該半円筒体部にて玉接触支持したことを特徴とする玉軸受用波形保持器。
  2. 前記半円筒体の曲折部を、前記玉保持部を対向して形成されるポケットの中心を通る軸方向軸線上に位置させたことを特徴とする請求項1に記載の玉軸受用波形保持器。
  3. 軸方向に膨出する玉保持部と平坦部を円周方向に所定間隔に形成した二枚の環状保持板が、各玉保持部を対向させるように組み合わされて玉を保持するポケットを形成してなる玉軸受用波形保持器において、
    前記両環状保持板に形成される各玉保持部は、対向接合させる平坦部寄りの両側にそれぞれ形成される球面状凹部と、該両球面状凹部間に位置するとともに軸線を円周方向に向けて配置した1つの半円筒体とを接続して形成され、該半円筒体との接続部近傍の球面状凹部にて玉接触支持したことを特徴とする玉軸受用波形保持器。
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