JP3743226B2 - ダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼に関し、主として油田、ガス田より採取される原油および天然ガスを汲み上げる際使用されるチュービング、ケーシングの付属品として使用されるパッカー等のダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
【0002】
この発明は、特に炭酸ガス、硫化水素、塩素イオンなどの腐食性不純物を含む原油あるいは天然ガスのチュービング、ケーシングの付属品として使用されるパッカー等のダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
【0003】
【従来の技術】
近年、油井、ガス井の開発は一層深井戸化する方向にあり、それに伴い炭酸ガス、硫化水素、塩素イオンを多く含む環境も増加している。それに伴い、材料開発も進んでおり、チュービング、ケーシング用材料としては、13Cr鋼、スーパー13Cr鋼、二相ステンレス鋼、スーパー二相ステンレス鋼、Ni基合金(Ni-base alloy) と多くの種類が開発されており、環境に応じて安全率を加味しながらもっとも経済的な材料を選択することができる。
【0004】
一方、ダウンホール部材用材料としては、炭素鋼グレードに対してはCr−Mo鋼のAISI4130鋼を用い、13Cr鋼に対しては13Cr鋼用材料があるがそれ以外の耐食性材料に対しては、alloy 718[(UNS No.7718)Ni 基合金] を用いており、特に13Cr鋼を越える材料に対しては、チュービング、ケーシングよりもかなり高級な材料を使用するしかなく、安価な材料が求められている。
【0005】
図1は、油井管のダウンホールを示す模式的説明図であって、図中、ケーシング10によって取り囲まれた空間内には、原油を汲み上げるチュービング12が、図式例では2本設けられており、それぞれの先端はダウンホール部材を構成するパッカー14、ボールキャッチャ16、ブラストジョイント18等によってケーシング10内に固定されている。本明細書において、このようなケーシング10の先端領域において付属品として用いられる、例えばパッカー、ボールキャッチャ、ブラストジョイント等をダウンホール部材と称する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ダウンホール用材料としては、従来AISI4130鋼、API 5CT L80-13Cr鋼、alloy718が主流であり、13Cr鋼以上の材料としては、alloy718等のNi-alloyしかなかったため、高価なalloy718を使用してきた。
【0007】
一方、チュービング、ケーシング用材料としては、各種のスーパー13Cr鋼が開発されているが、特開昭60−174859号公報に開示のマルテンサイト鋼は炭酸ガスのみを含有する環境下でチュービング、ケーシング用の鋼管として使用するにはCr、Moを添加していることから何ら問題はないが、鋼管では製造できない程の極厚肉のダウンホール用には用いることは想定していない。
【0008】
また、特開平2−243739号公報、特開平3−120337号公報、特開平4−120249号公報に開示のマルテンサイトステンレス鋼は炭酸ガス、硫化水素、および塩素イオンなどの腐食性不純物を多く含む環境下で耐食性を改善できることが記載されているが、いづれも鋼管で製造することが前提になっており、鋼管で製造不可能な極厚肉が必要となった場合については全く想定していない。
【0009】
したがって、この発明の目的は、ダウンホール部材用に使用する材料として鋼管で製造不可能な極厚肉が要求される場合に対応可能であり、優れた靱性および硫化水素、炭酸ガス、塩素イオン等の腐食性不純物を多く含む環境下で優れた耐応力腐食割れ性を有するダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼を提供することである。
【0010】
具体的には、この発明の目的は、上述の特性に加えて、−10℃でのシャルピー衝撃値が長手方向、円周方向のいずれにおいても100J以上、好ましくは150J以上であるダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼とその製法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋼管で製造不可能な極厚肉の素材を製造する方法を種々検討した結果、鋼組成を規制することで、インゴット、ブルームまたはビレットから分塊圧延または/および鍛造により中実のバー材を作製し、その素材から焼入れ焼戻し処理を施することで、所期の性能を得ることができることを見い出した。
【0012】
また、使用される環境によって低温靱性を要求される場合があり、靱性の改善を目的に各種実験を重ねた結果、分塊圧延比または鍛造比を上げることはよく知られているが、円周方向の靱性が改善されないということが判明した。その知見を基に、各種実験を重ねた結果、マルテンサイト中に混在するデルタフェライトが円周方向の靱性を悪くしていることを見い出した。
【0013】
次に、デルタフェライト量を種々変化させた材料を作製し、円周方向の靱性との関係を調査した結果、デルタフェライト量を0.1 体積%以下に抑制することにより、円周方向の靱性を改善できることを見い出した。
【0014】
また、炭酸ガス、塩素イオン等の腐食性不純物を多く含む環境で耐炭酸ガス腐食性を改善するためには、Crを添加すれば一般的に全面腐食性は改善されると言われているが、耐孔食性を改善することはできない。
【0015】
鋼管の場合は単純にMoを0.2 %程度添加することにより、耐孔食性を改善できたが、また、炭酸ガス、硫化水素、塩素イオン等の腐食性不純物を多く含む環境で耐応力割れ性を改善するためには、鋼管を製造する際において特開平8−41599 号公報に記載のようにMoを1.5 %以上添加することにより耐応力腐食割れ性を改善することができたが、バー材の場合、分塊圧延および鍛造による圧下を加えても、やはり鋼管を製造する際に得られるほどの圧下を加えることができないため、細粒化にも限界があり、そのままの成分では目的の耐応力腐食割れ性を得るには至らなかった。
【0016】
そこで、耐孔食性、耐応力腐食割れ性の改善策として各種の実験を重ねた結果、耐食性を改善するためには不動態皮膜の強化をするか、または適当な鍛造または/かつ分塊圧延による細粒化と不動態皮膜の強化の組み合わせにより十分な効果があることを見い出した。不動態皮膜の強化のためには不動態そのものの組成を調査する必要があり、SIMS分析により不動態皮膜の組成を明らかにした。
【0017】
その結果、炭酸ガス環境下ではCrの添加が有効であるが、硫化水素環境下ではCrのみの皮膜では不安定であり、Moと共存させることが重要であることが判明した。また、その中でもCrは一定量含有しているとそれ以上増加してもそれほど効果はないが、Mo添加量の増加が不動態皮膜の強化に最も有効であることを見い出した。添加量としては硫化水素を含む目的の環境で耐応力腐食割れ性を満足するためには、2.2 %以上の添加が必要であるという結論に至った。
【0018】
なお、硫化水素が非常に少なく、炭酸ガスが主の環境ではCr:10〜14%とするとともにMoの添加は0.2 %以上、好ましくは1.5 %以上で十分である。
さらに十分な加工度を確保できれば、硫化水素等を含む腐食環境下でもMo:0.2 %以上、好ましくは1.5 %以上でも十分な耐食性を発揮できる。
【0019】
Crは一定量含有しているとそれ以上増加しても効果はないが、Moが不動態皮膜の強化に最も有効であることを見い出した。添加量としては目的の環境で耐孔食性を満足するためには鍛造または/および分塊圧延比とMo添加量の関係式が次式を満たす必要がある。
【0020】
4Sb/Sa+12Mo≧25
(Sb:鍛造または/および分塊圧延前の断面積、Sa:鍛造または/および分塊圧延後の 断面積、Mo:含有Moの質量%値)
また、耐応力腐食割れ性を満足するためには望ましくは4Sb/Sa+12Mo≧31である。
【0025】
すなわち、この発明は、つぎの通りである。
(1)質量%で、
C:0.02%以下、Si:1.0 %以下、Mn:1.0 %以下、P:0.03%以下、
S:0.01%以下、Cr:10〜14%、Mo:0.2 〜3.0 %、Ni:1.5〜7%、
N:0.02%以下、
残部がFeおよび不可避的不純物
からなり、
Mo量に応じて式:4Sb/Sa +12Mo≧25(Sb:鍛造または/および分塊圧延前の断面積、Sa:鍛造または/および分塊圧延後の断面積、Mo:含有Moの質量%値)
を満たすように鍛造または/および分塊圧延されたことを特徴とする高靱性、高耐食性ダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼。
【0026】
(2)質量%で、
C:0.02%以下、Si:1.0 %以下、Mn:1.0 %以下、P:0.03%以下、
S:0.01%以下、Cr:10〜14%、Mo:0.2 〜3.0 %、Ni:1.5〜7%、
N:0.02%以下、および
Nb:0.01〜0.2 %、Ti:0.01〜0.2 %、V:0.01〜0.2 %のうち少なくとも1種以上、
残部がFeおよび不可避的不純物
からなり、
Mo量に応じて式:4Sb/Sa +12Mo≧25(Sb:鍛造または/および分塊圧延前の断面積、Sa:鍛造または/および分塊圧延後の断面積、Mo:含有Moの質量%値)
を満たすように鍛造または/および分塊圧延されたことを特徴とする高靱性、高耐食性ダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼。
【0027】
(3)さらに、前記鋼組成がデルタフェライト量≦0.1 体積%であることを特徴とする上記(1) または (2) 記載の高靱性、高耐食性ダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼。
【0032】
【発明の実施の形態】
図1は、前述のように、油井管のケーシングおよびチュービングの付属品として用いられるダウンホールの様子を示す模式図であり、ダウンホール部材用の材料としては、ケーシングおよびチュービング用の材料の場合と異なり、ケーシングとチュービングとの間の密封あるいはチュービングをガス、原油の乱流による摩耗から守る保護ケースの役目を必要とし、より厳しい環境にさらされることになる。
【0033】
この点、この発明によれば、分塊圧延または/および鍛造加工によりバー材としてその材料が提供され、ダウンホール部材用としては、これに中心に切削加工などによって穴明けを行うことで提供することができる。
【0034】
ここに、「ダウンホール部材」はパッカー、ボールキャチャ、ブラストジョイント等のようにダウンホールにおいてケーシング、チュービングの付属品として用いられる部材を云い、特にこの発明の場合には、好適態様として、分塊圧延、鍛造加工による中実材に由来するものであり、一般にはそれを切削加工して得た部材を云う。
【0035】
この発明のダウンホール部材用マルテンサイトステンレス鋼は低Cにすることにより、従来のマルテンサイト鋼の常識である焼入れ時の極度の硬化現象はなく、また焼入れままでも安定した強度を得ることが可能であり、大径のバー材を焼入れる際に問題となる焼入れ性による強度ばらつきが生じることがなく、最終の焼戻し後でも肉厚バー材にも関わらず、安定した強度を得ることが可能である。
【0036】
この発明によれば従来極厚肉であるため鋼管で製造不可能な領域のダウンホール部材用材料を製造することが可能になった。低温環境で使用する際には優れた低温靱性を要求されるが、その場合、デルタフェライト量を0.1 %以下にコントロールすることにより、円周方向の靱性を改善することが可能になった。
【0037】
この発明にかかるダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼は、その1の実施の態様にあっては、分塊圧延または/および鍛造による加工組織に由来する、焼入れ焼戻し組織を有することになる。
【0038】
この発明によれば、極厚肉のバー材が製造できることから、大径のダウンホール部材用材料を製造することが可能になった。もちろん、そのような極厚肉のバー材を得た後、最終的には中心穴あけ加工を施すのである。
【0039】
さらに、低温環境で使用する際には優れた低温靱性を要求されるが、その場合、デルタフェライト量を0.1 体積%以下にコントロールすることにより、円周方向の靱性を改善することが可能になった。
【0040】
また、炭酸ガス、硫化水素、塩素イオン等の腐食性不純物を含む環境での耐応力腐食割れ性を改善するためには、腐食性の不動態皮膜を強化することが有効であり、Moを2.2 %以上添加することにより、従来はalloy718を使用せざるを得なかった環境において、より経済的なマルテンサイト系ステンレス鋼を使用できるようになったことから当該産業分野の発展にも大きく寄与するものである。
【0041】
また、同様に炭酸ガス、硫化水素、塩素イオン等の腐食性不純物を含む環境での耐応力腐食割れ性を改善するためには、十分な加工度が得られればMoを0.2 %以上、望ましくは、1.5 %以上添加するだけでも十分であり、この場合にも従来はalloy718を使用せざるを得なかった環境において、より経済的なマルテンサイト系ステンレス鋼を使用できる。
【0042】
次に、この発明において成分を限定した理由を詳細に記述する。なお、本明細書において鋼組成を表示する「%」は特段のことわりがない限り、「質量%」を意味する。
【0043】
C:
炭酸ガス環境での耐食性を向上させるためには有効Cr量を増加させる必要があり、Cr23C6を減少させることが有効である。そのためには、C量の上限を0.02%とする。
【0044】
Si:
通常の製鋼過程で脱酸材として必要であるが、1.0 %を越えると靱性が劣化してくるため1.0 %以下とした。好ましくは0.5 %以下である。
【0045】
Mn:
強度を上昇させ、デルタフェライトを抑制する効果があるが、1.0 %を越えると靱性が劣化してくるため、1.0 %以下とした。好ましくは0.8 %以下である。
【0046】
P:
低ければ低いほど靱性が向上するが、バー材のように分塊圧延または鍛造による圧下が十分に確保できない場合、靱性を十分満足するために、0.03%以下とした。好ましくは0.02%以下である。
【0047】
S:
低ければ低いほど靱性、耐食性が向上するが脱硫コストとの兼ね合いから0.01%以下とした。好ましくは0.005 %以下である。
【0048】
Cr:
耐食性に優れた不動態皮膜を形成するためには10%以上必要であり、14%を越えると、Moとの兼ね合いでデルタフェライトが生成しやすくなるため、10〜14%とした。好ましくは11〜13%である。
【0049】
Mo:
炭酸ガスおよび硫化水素を含有する環境において耐食性の皮膜強化にきわめて大きな効果がある。微量H2S 、炭酸ガス環境下での耐ピッティング性、耐SSCC性に対しては、加工度が十分な場合、0.2 %以上、加工度が十分でなくとも1.5 %以上であれば十分であるが、バー材のように分塊圧延または鍛造により十分な圧下がとれず、細粒化が十分に望めない場合には、更なるMo添加が必要である。
【0050】
しかし、H2S を含む環境においては、バー材のように分塊圧延または鍛造により十分な圧下がとれず、細粒化が十分に望めない場合には、Moは2.2 %以上とするのが好ましい。
【0051】
また、耐食性の観点からは添加すればするだけ良好であるが、多く添加するとデルタフェライトを生成しやすくなるために、オーステナイト生成元素を多く添加せざるを得なくなるため、経済性の観点から上限を3.0 %にした。Moの下限は経済性を考え、耐食性のターゲットに従って、設定されるべきである。
【0052】
Ni:
必要な強度、耐食性、熱間加工性を得るために添加されるが、1.5 %未満ではCr、Moのバランス上不十分であり、7%を越えるとその効果が飽和するばかりではなく、コスト上昇を招くため、上限を7%にした。好ましくは4〜7%である。さらに好ましくは5〜7%である。
【0053】
N:
添加しすぎると強度上昇しすぎ、硫化物応力腐食割れ性が高くなり、対象性の面からは少ない方が望ましいため、0.02%以下とした。好ましくは0.01%以下である。
【0054】
Nb、Ti、V:
所望添加元素であるTi、Nb、Vは、強度向上、耐食性向上のためにそれぞれ0.2 %以下で一種以上の元素を添加することにより、安定した強度コントロール、耐食性向上に役立つようにしてもよい。それを超えた量添加すると、別の金属間化合物析出により、強度、耐食性を劣化させる。それぞれの下限は規定されないが、好ましくはそれぞれ0.01%以上である。
特にTi、Nb、Vの少なくとも1種を添加することによって、耐食性の改善を図るときはMo含有量を0.2 %にまで低減可能である。
【0055】
デルタフェライト量:
この発明によれば、長手方向靱性改善に対しては、分塊圧延または鍛造により改善されるが、円周方向の靱性が要求される場合は、分塊圧延または鍛造だけのコントロールでは、肉厚方向の不均一性は改善されるが、絶対値としては改善されない。よって、デルタフェライト量は0.1 体積%以下に調整する。鋼管を製造する際にはかなりの圧延がかかるため、デルタフェライトは消えやすいが、バー材を作製する際は鋳込のブルームまたはインゴットより鍛造により圧下させるため、偏析によるデルタフェライトが残りやすい。それが原因で靱性が十分得られない。したがって、この発明では成分のコントロールでそれを可能としている。デルタフェライト量の調整は分塊圧延時または鍛造時の適切なソーキングによっても可能である。
【0056】
図2は、円周方向vE−10℃シャルピー衝撃値の実験結果を示すグラフであり、図2に示すようにデルタフェライト0.1 体積%以下に制限する。
4Sb/Sa+12Mo≧25: (Sb:鍛造または/かつ分塊圧延前の断面積、Sa:鍛造または/かつ分塊圧延後の断面積)
図3は鍛造比とMo量との関係で耐SSCC性を示すグラフであって、0.01atmH2S+0.99atmCO2 、5%NaCl、pH 3.5で腐食条件を弱くした場合で、Mo含有量を0.2 %以上にしても耐SSCC性が確保できることが分かる。
【0057】
図4はさらに腐食環境を厳しくした場合の図3と同様のグラフであり、この場合にはMo含有量を1.5 %以上とすることで耐SSCC性を確保できることがわかる。
さらに、耐応力腐食割れ性を改善するために、望ましくは前述の図4に示す領域にコントロールすべきであり、その領域は4Sb/Sa+12Mo≧31を満たすことになる。
【0058】
ここで、この発明にかかるマルテンサイト鋼の製造方法について説明すると、まず前述の鋼組成を有する鋼塊を1150℃以上に加熱し、分塊圧延および/または鍛造成形する。一般には分塊圧延を行い次いで鍛造成形を行うが、分塊圧延だけあるいは鍛造成形だけを行ってもよい。このときの鍛造比(Sb/Sa) は1〜6であるが、これは特に制限されない。次いで焼入れ焼戻しを行うが、この発明の場合従来のものをそのまま採用すればよく、特に制限されない。
【0059】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す各組成を有する供試鋼No.1〜15を溶製し、800 ℃以上で水焼入れ、500 〜650 ℃で焼戻し処理を施した後、引張試験、硬度、シャルピー衝撃試験、硫化物応力腐食割れ性試験をそれぞれ行った。
【0060】
引張試験は、平行部の径12mm、焦点距離50mmの丸棒引張試験片を採取し、JIS Z 2241の金属材料引張試験法の規定に準じて降伏強度を測定した。硬度は、横断面の周面方向に対し、0°、90°、180 °、270 °の4方向から試験片を採取し、5mmピッチでロックウェルのCスケールにて測定した。シャルピー衝撃試験は、表面から中心まで10mmピッチの長手方向および円周方向から10×10mm×55mmである2mmVノッチのシャルピー試験片を採取し、JIS B 7722に規定のシャルピー衝撃試験機を使い、JIS Z 2242の金属材料衝撃試験方法に準じて−10℃にて測定したシャルピー衝撃試験値で評価した。硫化物応力腐食割れ試験は、5%NaCl+0.01atm H2S +30atm CO2 の腐食液に、25℃、336 時間浸漬したのち取り出し、肉眼による外観観察および光学顕微鏡による割れの有無および孔食の有無を観察した。
これらの結果および製造条件は表2にまとめて示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
(実施例2)
本例では表3に示す鋼組成を有する鋼を用いて実施例1を繰り返した。結果および製造条件を表4にまとめて示す。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【発明の効果】
以上述べた通り、この発明にかかるダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼は、鋼管では製造不可能な極厚肉材に対し、まず、バー材での製造方法を提供するものであり、油井管のケーシング、チュービングの付属品として井戸底で使用する際に問題となる炭酸ガス、硫化水素、塩素イオンを含む過酷な環境でも耐応力腐食割れ性を有し、かつ高強度、高靱性を保有するため、従来のalloy 718 を使用していた環境でも十分使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】油井管のケーシングおよびチュービングの付属品として用いられるダウンホールの様子を示す模式図である。
【図2】マルテンサイト系ステンレス鋼中のデルタフェライト量を変化させた場合の円周方向シャルピー衝撃値との関係を示すグラフである。
【図3】マルテンサイト系ステンレス鋼のMo量と鍛造比を変化させたときの耐SSCC性に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】マルテンサイト系ステンレス鋼のMo量と鍛造比を変化させたときの耐SSCC性に及ぼす影響を示すグラフである。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.02%以下、Si:1.0 %以下、Mn:1.0 %以下、P:0.03%以下、
S:0.01%以下、Cr:10〜14%、Mo:0.2 〜3.0 %、Ni:1.5〜7%、
N:0.02%以下、
残部がFeおよび不可避的不純物
からなり、
Mo 量に応じて式:4Sb/Sa +12Mo≧25 (Sb:鍛造または/および分塊圧延前の断面積、Sa:鍛造または/および分塊圧延後の断面積、Mo:含有Moの質量%値)
を満たすように鍛造または/および分塊圧延されたことを特徴とする高靱性、高耐食性ダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼。 - 質量%で、
C:0.02%以下、Si:1.0 %以下、Mn:1.0 %以下、P:0.03%以下、
S:0.01%以下、Cr:10〜14%、Mo:0.2 〜3.0 %、Ni:1.5〜7%、
N:0.02%以下、および
Nb:0.01〜0.2 %、Ti:0.01〜0.2 %、V:0.01〜0.2 %のうち少なくとも1種以上、
残部がFeおよび不可避的不純物
からなり、
Mo量に応じて式:4Sb/Sa +12Mo≧25(Sb:鍛造または/および分塊圧延前の断面積、Sa:鍛造または/および分塊圧延後の断面積、Mo:含有Moの質量%値)
を満たすように鍛造または/および分塊圧延されたことを特徴とする高靱性、高耐食性ダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼。 - さらに、前記鋼組成がデルタフェライト量≦0.1 体積%であることを特徴とする請求項1または2記載の高靱性、高耐食性ダウンホール部材用マルテンサイト系ステンレス鋼。
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