JP3742265B2 - 車両用排気管集合部の製造方法 - Google Patents

車両用排気管集合部の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2つ以上の車両用排気管の一端部を平面視で円形状となるように1つにまとめ、その1つにまとめた排気管のへりを溶接してへり継手を形成する車両用排気管集合部の製造方法に関するものである。
【0002】
周知のように、一般に、2つ以上の排気管のへりを溶接してへり継手を形成する場合、アーク溶接のメタル・イナートガス溶接(以下、単に「ミグ溶接」という)、アーク溶接のタングステン・イナートガス溶接(以下、単に「ティグ溶接」という)、電子ビーム溶接、レーザビーム溶接、プラズマ溶接等の溶接(溶融接合)方法が採用されている。
【0003】
ところが、上述した溶接方法のうち、電子ビーム溶接、レーザビーム溶接、プラズマ溶接では、溶接時に形成されるビードの幅(ビード幅)が狭いため、排気管間に隙間(ギャップ)があったり、排気管の開先精度が悪かったりするような場合には、ビードに孔ができたり、ビードが不均一になったり等して安定した良好なビードが得られないおそれがあった。また、電子ビーム溶接やレーザビーム溶接は、コスト高でもあった。
【0004】
そこで従来、へり継手の製造方法としては、主に、ミグ溶接やティグ溶接が採用されている。ミグ溶接は、溶極式アーク溶接であり、電極に金属棒を用いて金属棒と母材(被溶接物)との間にアークを発生させて、そのアークの熱で金属棒及び母材の一部を溶融して溶接するものである。また、ティグ溶接は、非溶極式アーク溶接であり、電極にタングステンを用い、タングステン電極と母材との間にアークを発生させて、そのアークの熱で母材の一部を溶融して溶接するものである。ここで、ティグ溶接を行う際に、溶加材を用いて、アークの熱で溶加材及び母材の一部を溶融して溶接することもある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したミグ溶接やティグ溶接においても、以下に示すような問題があった。
【0006】
すなわち、ミグ溶接を採用した場合では、安定した良好なビードを形成することができるものの、溶極式アーク溶接であるためにスパッタが発生してしまう。特に、ミグ溶接を車両の排気管に採用する場合には、スパッタの発生は好ましくない。より詳しく説明すると、溶接時にスパッタが発生することにより、該スパッタが飛散して排気管の内面に付着するため、該排気管をそのままの状態で車両に取着して用いると、車両の運転時の排気熱や排気脈動等により排気管の内面からスパッタが離脱してしまうおそれがあった。その結果、排気管の内面から離脱したスパッタが他の車両部品に悪影響を与えてしまうこととなる。従って、排気管の内面にスパッタが付着した場合には、排気管の内面からスパッタを除去する作業が必要となり、作業性の悪化を招いていた。
【0007】
また、ティグ溶接を採用した場合では、非溶極式アーク溶接であるためにスパッタが発生することはないものの、溶接速度が遅いために作業性が悪く、しかも排気管間の隙間が大きいとき等には、ビードに孔ができたり、ビードが不均一になったり等して安定した良好なビードが得られないおそれがあった。そこで、安定した良好なビードを得るために、ウィービングを行うこともあるが、作業性は更に悪化してしまう。加えて、ティグ溶接を行う際に、溶加材を用いたときには、溶接時においてスパッタが発生してしまうおそれもあった。
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、2つ以上の排気管の一端部を平面視で円形状となるように1つにまとめた集合部のへりを溶接する際に、スパッタの発生を防止することができると共に、作業性の向上を図ることができ、しかも安定した良好なビードを形成することのできる車両用排気管集合部の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、2つ以上の排気管の一端部の間に金属製の仕切板を介在させ、平面視で円形状となるように当該排気管の一端部と仕切板とを1つにまとめて集合部を形成し、当該集合部の排気管の外側部にて排気管同士を溶接により接合した後、プラズマアークを該プラズマアークの長さ方向の軸が円錐面を描くように回転させた状態で、前記排気管の一端部のへり及び前記仕切板のへりに対してプラズマ溶接を行い、当該集合部においてへり継手を形成することを要旨としている。
【0010】
上記請求項1に記載の発明によれば、2つ以上の排気管の一端部と仕切板とが平面視で円形状となるように1つにまとめられた集合部において、当該集合部の隣接する排気管同士を外側部にて溶接して当該排気管の一端部の位置決めを行う。その後に、プラズマアークの長さ方向の軸が円錐面を描くようにして回転すると、プラズマアークの熱で排気管の一端部のへり及び仕切板のへりが溶融してビードが形成され、仕切板を介して排気管同士を接合したへり継手が形成される。
【0011】
この場合、プラズマアークを回転させないときよりも、プラズマアークを回転させたときの方が、排気管の一端部のへり及び仕切板のへりに対するプラズマアークの照射領域が増大するため、溶接時に形成されるビードの幅(ビード幅)を幅広にすることが可能となる。すなわち、プラズマアークを回転させた状態で排気管の一端部のへり及び仕切板のへりに対して溶接を行うことにより、平面視で円形状となるように1つにまとめられた排気管と仕切板との間に隙間があったり、排気管や仕切板の開先精度が悪かったりするような場合でも、安定した良好なビードが得られうる。
【0012】
また、プラズマアークを用いた溶接は、非溶極式溶接であるために、スパッタが発生することはない。さらに、プラズマアークを回転させたプラズマ溶接では、安定した良好なビードが得られうるため、ウィービングを行う必要がなく、作業性が悪くなることもない。しかも、溶接時にスパッタの発生がなく、排気管からスパッタを除去する作業が不要であるため、溶接時における作業性の向上が図られ得る。
【0016】
上記請求項に記載の発明によれば、排気管の一端部と排気管の一端部との間に仕切板を介在させることにより、排気管を1つにまとめ易くすることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明を、車両の排気システムの一部を構成する排気マニホルドの分岐した4本の排気管に適用した第1の実施の形態を図1〜図6に基いて説明する。
【0027】
図1は第1の実施の形態における溶接トーチの一部を模式的に示す断面図であり、図2はプラズマアークの回転状態を模式的に示す側面図であり、図3はプラズマアークの照射領域を模式的に示す平面図である。また、図4は第1の実施の形態における4本の排気管の一端部及び仕切板を1つに集合させた状態を模式的に示す平面図であり、図5は第1の実施の形態における被溶接部にビードを形成した状態を模式的に示す平面図であり、図6は図5のA−A線断面図である。
【0028】
図1,図4に示すように、本実施の形態の排気管11は、曲げやプレス等の塑性加工を行うことにより、平面視で中心角90度の扇形に相当する形状となるようにステンレス鋼から形成されている。排気管11の肉厚は、それぞれ1.5mmとなるように設定されている。仕切板12は、排気管11と排気管11との間に介在されており、前述した排気管11と同等のステンレス鋼から平面十字状に形成されている。仕切板12は、肉厚2.0mm、長さ10.0mmとなるように設定されている。
【0029】
図4に示される態様で、平面視で円形状(略円形状)となるように4本の排気管11の一端部と仕切板12とが1つにまとめられ、その状態で被溶接部Y、すなわち排気管11の一端部のへり13及び仕切板12のへり14に対して溶接が行われてへり継手が形成されるようになっている。なお、図示しなかったが、4本の排気管11の一端部と仕切板12とを1つに集合させた部分では、排気管11の外側部の所定間隔をおいた4箇所にて、排気管11同士が溶接により接合されている。また、排気管11と仕切板12とが1つにまとめられた集合部(排気管11の一端部に相当する)は、1本の排気管(図示略)に接続されるようになっており、それぞれの排気管11の他端部は、排気ポート(図示略)に接続されるようになっている。
【0030】
図1,図4,図6に示すように、排気管11や仕切板12の開先精度が悪い等の場合には、排気管11と仕切板12との金属部材間に隙間(ギャップ)が生じることがある。そこで、図6に示されるように、排気管11と仕切板12との隙間をそれぞれa(mm),b(mm)で表すと、本実施の形態では、a,bが2.5mm以下となるように設定されている。ここで、隙間が2.5mm以下というのは、該隙間が0mm、すなわち排気管11と仕切板12との間に隙間がない場合も含む趣旨である。排気管11と仕切板12との隙間を2.5mm以下となるように設定したのは、隙間が2.5mmを超える場合には、隙間が大きくなりすぎて安定した良好なビード15が得られないおそれがあるからである。また、溶接時における作業性を考慮すると、排気管11と仕切板12との間の隙間は小さければ、小さい程好ましく、当該隙間は、例えば2mm以下、1.7mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1mm以下、0.8mm以下、0.5mm以下、0mmとなるように設定することが好ましい。
【0031】
図1に示すように、溶接トーチ16は、タングステンからなる電極棒17と、該電極棒17を包囲するように形成された回転ノズル18と、さらに該回転ノズル18を包囲するように形成された外筒19等とを備え、被溶接部Yに対して溶接を行うようになっている。
【0032】
タングステンからなる電極棒17は、非溶極式電極であり、電極棒17と被溶接部Yとの電極間にはプラズマアークが発生するようになっている。また、図示しない制御手段により、電極間において、プラズマアークを発生させたり、プラズマアークの発生を中断させたりすることが行われる。
【0033】
回転ノズル18は、図示しない回転駆動手段に連結されており、該回転駆動手段の駆動によって回転するようになっている。また、回転ノズル18内にはプラズマガスが給気されるようになっており、このプラズマガスにより、プラズマアークを発生させるための着火が可能となる。回転ノズル18は、ノズル本体20と、該ノズル本体20に対して着脱可能なノズル部21とを備え、銅材料から形成されている。
【0034】
ノズル本体20は略円筒状に形成されており、そのノズル本体20の下部にはノズル部21が支持されている。ノズル本体20とノズル部21とは、嵌合手段により嵌合されており、ノズル本体20に対してノズル部21を嵌脱させることにより、その着脱作業が容易に行われるようになっている。
【0035】
ノズル部21には、その偏心位置にノズル口22が穿設されており、該ノズル口22は電極棒17に対して傾斜するように開口している。ノズル口22の口径は、2mm〜5mm程度に設定されている。このノズル口22により、プラズマアークは電極棒17に対して傾斜した状態で発生することとなる。
【0036】
そして、プラズマアークを電極棒17に対して傾斜させた状態で、回転駆動手段を用いて回転ノズル18を回転させることにより、プラズマアークを回転させない従来技術のプラズマ溶接よりも、プラズマアークを回転させる本実施の形態におけるプラズマ溶接の方が、被溶接部Yに対するプラズマアークの照射領域が増大し、溶接時に形成されるビード15(図5,図6参照)の幅(ビード幅)を幅広にすることが可能となる。
【0037】
すなわち、図2,図3に示すように、プラズマアークの長さ方向の軸(軸a,軸b,軸c,軸d)が円錐面を描くようにして回転させられ、それに伴ってプラズマアークも円錐面を描くようにして回転させられることにより、プラズマアークの照射領域が増大することとなる。より詳しく説明すると、図2,図3に示される態様で、プラズマアークがその長さ方向の軸aから軸b,軸c,軸dという順に回転させられ、それに伴ってプラズマアーク自体も小円Aから,小円B,小円C,小円Dという順に回転されられることにより、小円A,B,C,Dを包含した大円のプラズマアークの照射領域が得られることとなる。なお、小円A,B間、小円B,C間、小円C,D間、小円D,A間においても、プラズマアークは連続的に回転させられるようになっている。
【0038】
ここで、図2に示すように、プラズマアークの長さは、プラズマアークの長さ方向の軸(軸a,軸b,軸c,軸d)が被溶接部Yに到達するまでの長さ(軸長)に相当するものである。本実施の形態では、プラズマアークの長さは、9mm以下となるように設定されている。プラズマアークの長さを9mm以下となるように設定した理由は、プラズマアークの長さが9mmを超えると、安定したプラズマアークが得られなかったり、プラズマアーク自体が発生しなかったりするおそれがあるからである。また、プラズマアークの長さは、5mm以上8mm以下となるように設定することがより一層望ましく、6mm以上7mm以下となるように設定することが更に望ましい。
【0039】
また、図2,図3に示すように、プラズマアークの回転幅は、被溶接部Yに対するプラズマアークの照射領域(平面視で円形をなしている)の直径に相当するものである。なお、プラズマアークを溶接方向へ移動させない状態では、プラズマアークの照射領域は、平面視で円形をなしているのだが、実際には溶接方向へ移動させられているために平面視で楕円形(略円形)をなすようになっている。本実施の形態では、プラズマアークの回転幅は、4mm以上10mm以下となるように設定されている。プラズマアークの回転幅を4mm以上10mm以下となるように設定したのは、プラズマアークの回転幅が、4mm未満の場合には、溶接時に幅広のビードが得られないおそれがあり、10mmを超える場合には、安定したプラズマアークが得られないおそれがあるからである。さらに、プラズマアークの回転幅は、5mm以上8mm以下となるように設定することがより一層好ましく、6mm以上7mm以下となるように設定することが更に好ましい。
【0040】
図1に示すように、外筒19は、略円筒状にステンレス鋼から形成されている。外筒19と回転ノズル18との間には、シールドガスが給気されるようになっており、このシールドガスにより、プラズマアークのアーク径が絞られると共に、溶接時において被溶接部Yの酸化や窒化等が抑制されるようになっている。
【0041】
また、溶接を行う際に、被溶接部Y上に図中二点鎖線で示した直径2mmのワイヤ23(溶加材)の一端を配置して用いると共に、被溶接部Yの幅方向に対するワイヤの一端の位置ズレを、被溶接部Yの幅方向の中間から1mm以内となるように設定してもよい。そして、溶接時にワイヤ23を用いた場合において、ワイヤ23は、その一端の位置が所定位置となるように連続的に送給されると同時に、溶接トーチ16に追従するようにして溶接方向へ向かって移動させられるようになっている。
【0042】
本実施の形態において、被溶接部Yに対して溶接を行うことにより、図5,図6に示すように、平面十字状のビード15が形成されて、仕切板12を介して排気管11同士を接合したへり継手が形成されている。この平面十字状のビード15は、孔や不均一な部分が生じていない安定した良好なものである。
【0043】
本実施の形態においては、溶接速度を5〜65(cm/min)となるように設定した。ここで、溶接速度を5〜65(cm/min)としたのは、溶接速度が5(cm/min)未満の場合には、ウィービングを行った溶接作業よりも作業性が悪化するおそれがあり、溶接速度が65(cm/min)を超える場合には、安定した良好なビードが得られないおそれがあるからである。また、溶接速度を例えば10〜60(cm/min)、20〜50(cm/min)、30〜40(cm/min)となるように設定してもよい。
【0044】
さて、本実施の形態の溶接トーチ16を用いて、被溶接部Yに対して溶接を行う溶接方法(へり継手の製造方法)について以下に説明する。
【0045】
まず、図4に示される態様の仕切板12の中心部上に溶接トーチ16(図1参照)のノズル部21を配置し、電極棒17と被溶接部Yとの電極間にプラズマアークを発生させると共に、プラズマアークの長さを9mm以下、プラズマアークの回転幅を4mm以上10mm以下となるように設定する。
【0046】
そして、溶接トーチ16の回転ノズル18を回転させることにより、プラズマアークを該プラズマアークの長さ方向の軸が円錐面を描くように回転させた状態で、図4中における仕切板12の中心部に対して溶接を行う。この溶接により、図4中における仕切板12の中心部及びその近傍部分において、ビード15(図5参照)を形成する。このように、仕切板12の中心部に対して溶接を行う際に、ワイヤ23(図1参照)を用いてもよい。すなわち、ワイヤ23の一端を仕切板12の中心部上(仕切板12の中心部と溶接トーチ16のノズル部21との間)に配置すると共に、被溶接部Yの幅方向に対するワイヤ23の一端の位置ズレを、被溶接部Yの幅方向の中間から1mm以内となるように設定して溶接を行うようにしてもよい。
【0047】
次に、プラズマアークの発生を中断させると共に、回転ノズル18の回転を停止させた後に、溶接トーチ16のノズル部21の位置を、図4中における仕切板12の中心部上から最上部上まで移動させる。そして、再び電極間にプラズマアークを発生させると共に、回転ノズル18を回転させて、図4中における仕切板12の最上部上から最下部上までの上下方向へノズル部21を移動させながら溶接を行い、図4中の被溶接部Yの上下方向においてビード15(図5参照)を形成する。このように被溶接部Yの上下方向にビード15を形成する際においても、前述したのと同様に、ワイヤ23(図1参照)を用いて溶接を行ってもよい。
【0048】
その後、プラズマアークの発生を中断させると共に、回転ノズル18の回転を停止させた後に、溶接トーチ16のノズル部21の位置を、図4中における仕切板12の最下部上から最左部上まで移動させる。そして、電極間にプラズマアークを発生させると共に、回転ノズル18を回転させて、図4中における仕切板12の最左部上から最右部上までの左右方向へノズル部21を移動させながら溶接を行い、図4中の被溶接部Yの左右方向においてビード15(図5参照)を形成する。このように被溶接部Yの左右方向にビード15を形成する際においても、前述したのと同様に、ワイヤ23(図1参照)を用いて溶接を行ってもよい。
【0049】
このようにしてビード15を形成する場合、ビード15の形成順序は、特に上述したものに限定されるものではなくて、例えば、図4に示される態様の仕切板12の中心部、左右方向、上下方向の順にビード15を形成するようにしてもよく、どのような形成順序であってもよい。要は、溶接時においてスパッタの発生がなく、排気管11と排気管11との間(排気管11と仕切板12との間)の隙間から排気ガスが外部へ漏出しないような密封状態で、しかも安定した良好なビードが形成されればよい。
【0050】
以上のようにして、被溶接部Y(4本の排気管11のへり13及び仕切板12のへり14)に対して溶接が行われることにより、図5,図6に示される態様で平面十字状の幅広のビード15が形成され、4本の排気管11の一端部と仕切板12とが1つにまとめられた集合部にはへり継手が形成(製造)されることとなる。
【0051】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
【0052】
・本実施の形態では、プラズマアークを該プラズマアークの長さ方向の軸(軸a,軸b,軸c,軸d)が円錐面を描くように回転させた状態で、被溶接部Yに対して溶接を行うこととした。これにより、プラズマアークを回転させない従来技術のプラズマ溶接よりも、プラズマアークを回転させる本実施の形態におけるプラズマ溶接の方が、被溶接部Yに対するプラズマアークの照射領域が増大するため、溶接時に形成されるビード15の幅(ビード幅)を幅広にすることができる。すなわち、プラズマアークを回転させた状態で被溶接部Yに対して溶接を行うことにより、排気管11と仕切板12との間に隙間があったり、排気管11や仕切板12の開先精度が悪かったりするような場合でも、安定した良好なビードを得ることができる。
【0053】
・本実施の形態の溶接方法によれば、非溶極式溶接であるため、溶接を行う際にワイヤ23を用いないときには、スパッタの発生を防止することができる。また、溶接を行う際にワイヤ23を用いたときでも、被溶接部Yの幅方向に対するワイヤ23の一端の位置ズレを、被溶接部Yの幅方向の中間から1mm以内となるように設定することにより、溶接時におけるスパッタの発生を防止することができる。
【0054】
従って、本実施の形態によれば、溶接を行う際に、ワイヤ23を用いるかどうかにかかわらず、スパッタの発生を防止することができる。
【0055】
・本実施の形態によれば、溶接時に排気管11の内面にスパッタが付着することがないため、スパッタが他の車両部品に悪影響を与えてしまうことを未然に防止することができる。
【0056】
・本実施の形態の溶接方法によれば、安定した良好なビード15を得ることができるため、ウィービングを行う必要がなく、作業性の悪化を防止することができる。また、溶接時にスパッタの発生がなく、排気管11の内面からスパッタを除去する作業が不要であるため、溶接時における作業性の向上を図ることができる。
【0057】
・本実施の形態では、プラズマアークの長さを0.9mm以下、プラズマアークの回転幅を4mm以上10mm以下となるように設定することとした。このため、電極間にプラズマアークを確実に発生させたり、安定したプラズマアークを得たり、溶接時において幅広のビード15を得たりすることができる。
【0058】
・本実施の形態では、排気管11と仕切板12との隙間を2.5mm以下となるように設定したため、溶接した際において、ビード15に孔ができたり、ビード15が不均一等になったりすることを防止することができる。
【0059】
・本実施の形態では、溶接速度を5〜65(cm/min)となるように設定することとした。このため、被溶接部Yに対して溶接を行う際に、スパッタの発生を確実に防止することができると共に、作業性の向上を確実に図ることができ、しかも安定した良好なビード15を確実に形成することができる。
【0060】
・本実施の形態によれば、被溶接部Yに対して溶接を行うことにより、図5,図6に示される態様で平面十字状の幅広のビード15を形成することができ、4本の排気管11の一端部と仕切板12とを1つにまとめた集合部においてへり継手を形成(製造)することができる。
【0061】
・本実施の形態の溶接トーチ16によれば、ノズル本体20に対してノズル部21を嵌脱させることにより、その着脱作業を容易に行うことができる。
【0062】
・本実施の形態によれば、排気管11と排気管11との間にステンレス鋼からなる平面十字状の仕切板12を介在させたため、4本の排気管11を1つにまとめ易くすることができる。
【0063】
ここで、上述した本実施の形態における効果の一部を確認すべく、以下に示すような実験を行った。
【0064】
すなわち、本実施の形態における溶接トーチ16を用いると共に、溶接時においてプラズマアークの長さを9mm以下、プラズマアークの回転幅を4mm以上10mm以下、溶接速度を40(cm/min)となるように設定した。また、溶接を行う際に、直径2mmのワイヤ23を用いた実験も行い、被溶接部Yの幅方向に対するワイヤ23の一端の位置ズレを、被溶接部Yの幅方向の中間から2mm以下となるように適宜変更した。これらの実験結果を以下に記述する。
【0065】
溶接を行う際に、ワイヤ23を用いなかった実験では、溶接時においてスパッタが発生することは全くなかった。図7は、プラズマアークの長さに対するワイヤの位置ズレの関係において、スパッタレス溶接領域(スパッタの発生しない溶接領域)を示すグラフである。
【0066】
図7に示すように、溶接を行う際に、ワイヤ23を用いた実験でも、プラズマアークの長さを9mm以下(5mm以上9mm以下)となるように設定すると共に、前記位置ズレを1mm以下となるように設定することで、溶接時におけるスパッタの発生が全くないことを確認できた。
【0067】
なお、図7に示されるように、プラズマアークの長さが5mm未満の部分は、ワイヤ23を用いた際の溶接不可能領域である。つまり、溶接トーチ16のノズル部21と被溶接部Yとの間には、最低でもワイヤ23の直径2mm分の隙間を確保する必要があり、しかも溶接トーチ16のノズル部21から電極棒17までの距離を考慮すると、プラズマアークの長さは5mm以上必要となる。従って、プラズマアークの長さが5mm未満では、直径2mmのワイヤ23を用いて溶接を行うことが不可能となるため、溶接不可能領域が存在することとなる。
【0068】
また、プラズマアークの長さが9mmを超える部分(9mm以上10mm以下)は、電極棒17と被溶接部Yとの電極間の距離が大きくなりすぎてプラズマガスに対して着火せず(着火不可能領域)、プラズマアーク自体が発生しなかった。更に、プラズマアークの長さが5mm以上9mm以下の場合でも、前記位置ズレが1mmを超えると、スパッタが発生してしまい、そのスパッタの発生量は0.1〜0.8(g/min)であった。
【0069】
また、上述した本実施の形態における効果の一部を確認すべく、以下に示すような実験も行った。
【0070】
すなわち、本実施の形態における溶接トーチ16を用いると共に、溶接速度を5〜65(cm/min)となるように設定し、溶接速度に対する被溶接部Yの隙間の許容範囲を検討した。なお、溶接速度5(cm/min)以上の溶接作業は、ウィービングを行った溶接作業よりも作業性はよい。図8は溶接速度に対する被溶接部の隙間の関係を示すグラフである。
【0071】
図8に示すように、本実施の形態においては、被溶接部Yの隙間が2.5mm以下、又は溶接速度が5〜65(cm/min)であれば、被溶接部Yに対して安定した良好なビードを形成してへり継手を製造できることを確認できた。つまり、図8から理解できるように、本実施の形態において、被溶接部Yの隙間の許容範囲は2.5mm以下であるということがいえる。また、被溶接部Yの隙間が小さい場合には、溶接速度を速くし、被溶接部Yの隙間が大きい場合には、溶接速度を遅くすることにより、溶接作業を効率よく行うことができるともいえる。
【0072】
次に、上記第1の実施の形態を更に具体化した実施例1〜実施例9、実施例11〜実施例30、実施例31〜実施例62について説明する。表1は実施例1〜実施例9を表し、表2は実施例11〜実施例30を表し、表3は実施例31〜実施例62を表している。
【0073】
表1〜表3に示される各実施例は、図6に示される態様において、排気管11と仕切板12との間における隙間(被溶接部の隙間)、すなわちa(mm),b(mm)を適宜変更し、その状態で被溶接部Yに対して溶接を行ってビードを形成したものである。ここで、表1は溶接を行う際にワイヤを用いなかった場合を示し、表2,表3は溶接を行う際にワイヤを用いた場合を示している。そして、表1においては、溶接時に形成されたビードの外観を評価し、表2,表3においては、溶接時に形成されたビードの外観を評価すると共に、溶接時においてスパッタが発生するかどうかを判別した。
【0074】
なお、表1に示した実施例1〜実施例9は、溶接速度が20(cm/min)の場合であり、表2,表3に示した実施例11〜実施例30、実施例31〜実施例62は、溶接速度が30(cm/min)の場合である。また、表1〜表3の外観評価の欄において、○は安定した良好なビードが得られたことを示す。
【0075】
さらに、表2,表3のワイヤ位置ズレ(mm)の欄において、0,0.5,0.8,1とあるのは、被溶接部Yの幅方向に対するワイヤの一端の位置ズレが、被溶接部Yの幅方向の中間からどれだけ位置ズレしているのかを示し、表2,表3のスパッタ無しの欄において、○はスパッタが発生しなかったことを示す。
【0076】
加えて、表3における被溶接部の隙間(mm)の欄において、隙間の無い側へのワイヤの位置ズレ、隙間のある側へのワイヤの位置ズレとあるのは、被溶接部Yの幅方向に対するワイヤの一端の位置ズレが、被溶接部Yの幅方向の中間からどちら側へ位置ズレしているのかを示している。それらの結果を表1〜表3に示す。
【0077】
【表1】
Figure 0003742265
【0078】
【表2】
Figure 0003742265
【0079】
【表3】
Figure 0003742265
【0080】
表1に示すように、実施例1〜実施例9においては、安定した良好なビードが得られることがわかった。また、実施例1〜実施例9では、溶接時にワイヤを用いないために、スパッタが発生することはなかった。
【0081】
表2,表3に示すように、実施例11〜実施例30、実施例31〜実施例62においても、スパッタが発生することなく、安定した良好なビードが得られることがわかった。また、表2,表3には示さなかったが、被溶接部Yの幅方向に対するワイヤの一端の位置ズレを、被溶接部Yの幅方向の中間から1mmを超えるように設定した場合には、ビードに孔ができたり、ビードが不均一等になったりして安定した良好なビードが得られず、しかもスパッタが発生することもあった。
【0094】
なお、前記実施の形態を次にように変更して実施することもできる。
【0095】
・前記実施の形態では、4本の排気管11を採用したが、排気管の本数は2本、3本でもよく、5本以上でもよく、排気管の本数は任意である。
【0097】
・前記実施の形態では、小円Aと小円C、小円Bと小円Dが相互に接するようにプラズマアークを回転させたが、小円Aと小円C、小円Bと小円Dが相互に交わったり、離間したりするようにしてプラズマアークを回転させてもよい。
【0098】
・前記実施の形態では、プラズマアークを反時計回りに回転させたが、逆に時計回りに回転させてもよい。また、プラズマアークを時計回りから反時計回りへ、又は、反時計回りから時計回りへというように回転方向を変えてプラズマアークを回転させるようにしてもよく、プラズマアークの回転方向はどのような方向であってもよい。
【0099】
・前記実施の形態では、溶加材としてワイヤ23を用いたが、例えば溶接棒を用いてもよく、特に前記実施の形態におけるワイヤ23に限定されるものではない。また、前記実施の形態では、直径2mmのワイヤ23を用いたが、例えば1.8mm、1.5mm、1.2mm、1.0mm、0.8mm、0.5mm等の直径のワイヤを用いてよく、ワイヤの直径は特に前記実施の形態のものに限定されるわけではない。
【0100】
・前記実施の形態の溶接トーチ16において、ノズル本体20とノズル部21とを備えた回転ノズル18は、高温に晒されるため、回転ノズル18に対して冷却手段で冷却するようにしてもよい。また、ノズル本体20とノズル部21とを別体で形成したが、それらを一体形成するようにしてもよい。
【0101】
・前記実施の形態では、プラズマアークの長さ及び回転幅、溶接速度、金属部材間の隙間、被溶接部Yの幅方向に対するワイヤ23の位置ズレ、ノズル口22の口径等を所定値となるように設定したが、これらの数値は、特に前記実施の形態の所定値に限定されるものではない。
【0107】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、2つ以上の排気管の一端部と仕切板とを平面視で円形状となるように1つにまとめた集合部のへりを溶接する際に、スパッタの発生を防止することができると共に、作業性の向上を図ることができ、しかも安定した良好なビードを形成することができる。加えて、溶接時に排気管の内面にスパッタが付着することがないため、スパッタが他の車両部品に悪影響を与えてしまうことを未然に防止することができる。また、排気管の内面からスパッタを除去する作業が不要である。
【0108】
請求項に記載の発明によれば、排気管の一端部と排気管の一端部との間に金属製の仕切板を介在させることにより、排気管を1つにまとめ易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態における溶接トーチの一部を模式的に示す断面図である。
【図2】プラズマアークの回転状態を模式的に示す側面図である。
【図3】プラズマアークの照射領域を模式的に示す平面図である。
【図4】第1の実施の形態における4本の排気管の一端部及び仕切板を1つに集合させた状態を模式的に示す平面図である。
【図5】第1の実施の形態における被溶接部にビードを形成した状態を模式的に示す平面図である。
【図6】図5のA−A線断面図である。
【図7】プラズマアークの長さに対するワイヤの位置ズレの関係において、スパッタレス溶接領域を示すグラフである。
【図8】溶接速度に対する被溶接部の隙間の関係を示すグラフである。
符号の説明】
11 排気管
12 仕切板
13 へり(排気管)
14 へり(仕切板)
15 ビード
Y 溶接部

Claims (1)

  1. 2つ以上の排気管の一端部の間に金属製の仕切板を介在させ、平面視で円形状となるように当該排気管の一端部と仕切板とを1つにまとめて集合部を形成し、当該集合部の排気管の外側部にて排気管同士を溶接により接合した後、プラズマアークを該プラズマアークの長さ方向の軸が円錐面を描くように回転させた状態で、前記排気管の一端部のへり及び前記仕切板のへりに対してプラズマ溶接を行い、当該集合部においてへり継手を形成することを特徴とする車両用排気管集合部の製造方法。
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