JP3740853B2 - 質量分析計 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、質量分析計に関し、特に質量分析計に使用される検出器に関する。
【0002】
【従来の技術】
質量分析計においては、まず、分析しようとする試料がイオン源にてイオン化される。イオン源においては通常、複数種類のイオンが生成され、これらのイオンはイオンレンズにより加速されてマスフィルタ部(例えば四重極)に入る。こうしてマスフィルタ部に導入されたイオンのうち、特定の質量数(イオンの質量数mと電荷zの比、m/z)を有するイオンのみがマスフィルタ部を通過し、検出器により検出される。
【0003】
質量分析計に用いられる検出器としては二次電子増倍管が最も広く利用されている。二次電子増倍管は、一定量以上のエネルギを有するイオンが入射するとそのイオンの数よりも多数の二次電子を放出するような金属を利用することにより、入射イオンの数に応じた強度の電気信号を出力するように構成された検出器である。一般には、前記金属から成る部材を複数、多段的に配列することにより二次電子を段階的に増殖させ、最終段の金属部材から放出された二次電子を電気信号として取り出す。なお、イオンを検出する間は、隣接する金属部材間に予め設定された電圧が印加されるが、この電圧を変更すると、それに応じてイオン−電子増倍率(入射したイオン又は電子の数に対する放出電子数の比)が変化する。
【0004】
二次電子増倍管の金属部材は、試料の分析が行なわれる度にイオンによる汚染を受けて徐々に劣化し、それに応じてイオン−電子増倍率も低下する。このような二次電子増倍管の劣化状態を調べるため、従来は次のようにしていた。すなわち、二次電子増倍管の印加電圧(金属部材への印加電圧)を所定値にした状態で、所定量の標準試料を質量分析計に導入し、その標準試料から発生したイオンを上述のように二次電子増倍管で検出する。このときの二次電子増倍管の出力信号強度が、最初の使用時に比べてどの程度低下したかを調べることにより、二次電子増倍管の劣化状態を判定するのである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のような方法で劣化状態を判定すると、次のような不都合がある。すなわち、たとえ二次電子増倍管の劣化状態が同程度であっても、質量分析計の他の部分、例えばイオン源が劣化していると、それによりイオンの発生効率が低下するため、結果として二次電子増倍管の出力信号強度は低下する。このような他の部分の劣化に起因する出力信号強度の低下と、二次電子増倍管自体の劣化に起因する出力信号強度の低下は、上記方法では判別することができない。従って、他の部分に原因があるにも関わらず、検出器の劣化が原因であると誤認して、無駄なメンテナンス作業を行なってしまうことがあった。本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、検出器(二次電子増倍管)の劣化状態を適切に判定できるような手段を有する質量分析計を提供することにある。
【0006】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析計は、イオン源にて生成されマスフィルタを通過したイオン流を受け、該イオン流の強度に応じた信号を出力する検出器を備える質量分析計において、所定の測定条件の下で一定量の標準試料の質量分析を行なうべく質量分析計の各部を制御する調整手段と、前記調整手段による前記標準試料の質量分析の間に前記検出器が出力する信号の強度及び該強度の揺らぎに基づいて前記検出器の劣化状態を判定する判定手段と、を備えることを特徴としている。
【0007】
上記において、イオン流の強度は、例えば検出器が単位時間内に受けるイオンの数で表される量である。
【0008】
【発明の実施の形態】
ある一定強度のイオン流が検出器に入射している間、検出器はそのイオン流の強度に応じた信号を出力するが、この出力信号の強度は完全に一定ではなく、多少の揺らぎ(ばらつき)が生じる。すなわち、一定強度のイオン流が検出器に入射している間に該検出器の出力信号を複数回サンプリングし、出力信号強度(I)と各強度における信号の検出頻度(ρ)との関係をグラフで表すと、図3に示したように、ある強度を中心とする裾拡がりのピークが得られる。なお、図3では出力信号強度に比べてピークの裾の拡がりを誇張して描いている。
【0009】
いま、検出器の増幅率、すなわち検出器が受けるイオン流の強度に対する検出器の出力信号の強度の比が、該検出器自体の劣化により低下した場合を考える。この場合、出力信号強度が小さくなるのに応じて出力信号の強度の揺らぎも同じ比率で小さくなるため、強度に対する揺らぎの比は、増幅率が変化してもほとんど変わらない。これに対し、例えばイオン源の劣化といった別の原因により検出器へのイオン流の強度が低下し、その結果として検出器の出力信号の強度が低下した場合、出力信号の揺らぎが小さくなる比率は、強度が小さくなる比率とは異なる(一般には、出力信号の強度の低下比率に比べて揺らぎが小さくなる比率は小さい)。すなわち、出力信号の強度に対する揺らぎの比は、上記別の原因による出力信号の低下に従って変わってくる。本発明はこのことに着目して成されたものである。
【0010】
本発明に係る質量分析計では、質量分析計の調整時に調整手段が、調整のために予め定められた分析条件の下で一定量の標準試料の質量分析を行なうべく質量分析計の各部を制御し、その間に判定手段が、検出器の出力信号の強度と揺らぎの両方を調べ、これに基づいて検出器の劣化状態を判定する。すなわち、判定手段は、出力信号強度と揺らぎとの間の比率が出力信号の低下に伴って変化したかどうかを見ることにより、その出力信号の低下が検出器の増幅率の低下によるものか、その他の原因によるものかを判定するのである。なお、本発明において、出力信号の強度の揺らぎを示す変数としては、例えば出力信号の強度分布の標準偏差、強度分布のピーク幅(例えば、ピーク高さの1/2の高さにおけるピーク幅)等を利用すればよい。
【0011】
本発明に係る質量分析計において、更に、前記調整手段による前記標準試料の質量分析の間に前記検出器が出力する信号の強度及び該強度の揺らぎのデータを保存するためのデータ保存手段を備え、前記判定手段は、前記調整手段により新たに行なわれた調整により得られた出力信号の強度及び揺らぎのデータと、前回の調整時に前記データ保存手段に保存された前回の出力信号の強度及び揺らぎのデータとを比較することにより、前記検出器の劣化状態を検出するようにしてもよい。このようにすれば、検出器の出力信号の強度及び揺らぎのデータを手作業で記録する手間が省ける。ただし、上記のようなデータ保存手段は、本発明にとって必須のものではない。
【0012】
【発明の効果】
上記本発明によれば、検出器の出力信号強度が低下した場合に、それが質量分析計の検出器の劣化によるものか、他の原因によるものかを正しく把握することができるため、メンテナンス作業を適切に無駄なく行うことができる。
【0013】
【実施例】
本発明に係る質量分析計の実施例について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施例である質量分析計の概略的構成を示す図である。この質量分析計10において、イオン源11、イオンレンズ12、マスフィルタ(四重極)13及び検出器(二次電子増倍管)14は、真空容器15の内部に収納されている。真空容器15の外部に備えられた標準試料導入器16はバルブ17を備える管18によりイオン源11と接続されている。イオン源11、イオンレンズ12、四重極13及び検出器14は制御装置20に接続されている。また、制御装置20には記憶装置(ハードディスクドライブ)21も接続されている。なお、制御装置20及び記憶装置21は、例えば一般に使用されているパーソナルコンピュータに所定のプログラムやデバイスドライバ等をインストールすることにより構成することができる。
【0014】
記憶装置21には、調整を目的とした測定条件に関する設定データを予め保存しておく。ここで、設定データとは、例えば、イオン源11におけるイオン化電圧、イオンレンズ12による加速電圧、検出器14への印加電圧、四重極13に印加する直流電圧、高周波電圧及び該高周波電圧の周波数等の設定データのことである。なお、本実施例では、四重極13へ印加する直流電圧と高周波電圧の値及び高周波電圧の周波数を、特定の質量数のイオンのみが四重極13を通過するような値に予め設定しておくものとする。
【0015】
質量分析計10において、検出器14の劣化状態は次のような手順で調べられる。まず、使用者は、予め標準試料導入器16に標準試料を入れておき、図示せぬ入力装置(例えばパーソナルコンピュータのキーボード)を操作して、制御装置20に調整開始の指示を入力する。この指示を受けると、制御装置20は、記憶装置21に保存された上記分析条件のデータを読み出し、それに従ってイオン源11、イオンレンズ12、四重極13及び検出器14の制御量(電圧等)を設定する。この後、バルブ17を開くと、標準試料導入器16内の標準試料が管18を通じてイオン源11に流入し始める。
【0016】
イオン源11へ標準試料が流入する流量を安定させるために十分な時間が経過した後、制御装置20は検出器14の出力信号を連続して所定回数だけサンプリングする。すなわち、例えば、1回のサンプリング時間を100μ秒、前記所定回数を100回とすれば、制御装置20は検出器14からの出力信号を10秒間モニタし、各サンプリング時間(100μ秒)毎に検出器14の出力信号の強度を測定して、その強度データを図示せぬメモリ又は記憶装置21に順次保存する。
【0017】
所定回数のサンプリングが終了したら、制御装置20は保存された強度データを読み出し、平均強度、標準偏差及び標準偏差と平均強度の比(以下、偏差/強度比と呼ぶ)を求め、これらの数値データを検出器劣化判定用データとして記憶装置21に保存する。以上のような検出器劣化判定用データの採取は、1分析に1回、1日に1回、あるいは1週間に1回というように、所定の期間毎に行なうようにする。
【0018】
質量分析計10の第2回目以降の調整時には、前回のデータが既に記憶装置21に保存されている。このような場合、制御装置20は、前回のデータを記憶装置21から読み出し、それを今回のデータと比較することにより、検出器14の劣化状態を判定する。
【0019】
検出器の劣化状態の判定について図2を参照しながら説明する。図2は、2つの質量分析計A及びBにおいてそれぞれ得られた検出器劣化判定用データの表(a)及び(b)を示す。いずれの質量分析計についても検出器劣化判定用データが4回分、表に示されている。まず、質量分析計Aのデータを見ると、検出器の平均強度が低下しても、偏差/強度比はほとんど変化していない。このことから、質量分析計Aにおける検出器の出力信号の低下は検出器自体の劣化によるものと判断される。一方、質量分析計Bのデータを見ると、平均強度の低下に伴って偏差/強度比が大きくなっている。このことから、質量分析計Bにおいては、検出器自体の劣化だけでなく、他の要因も相まって、出力信号が異常に低下したものと判断される。
【0020】
なお、予め偏差/強度比が異常に変化したかどうかを自動的に判定するため、偏差/強度比の基準値を予め定めておき、得られた偏差/強度比が基準値を超えたときには、制御装置20が所定の警告メッセージを図示せぬ表示手段(例えばパーソナルコンピュータのディスプレイ)に表示するようにしてもよい。例えば、基準値を0.002と定めた場合、質量分析計Bの4回目の調整時には偏差/強度比が基準値を超えているため、制御装置20が上記警告メッセージを発するのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る質量分析計の実施例の概略的構成を示す図。
【図2】 2つの質量分析計A及びBにおいてそれぞれ得られた検出器劣化判定用データの表(a)及び(b)。
【図3】 出力信号強度と各強度における出力信号の検出頻度との関係を表すグラフ。
【符号の説明】
10…質量分析計
14…検出器(二次電子増倍管)
16…標準試料導入器
20…制御装置
21…記憶装置(ハードディスクドライブ)
Claims (1)
- マスフィルタを通過したイオン流を入力信号として受け、該入力信号を増幅して得られる信号を出力する検出器を備える質量分析計において、
調整を目的とした所定の測定条件の下で一定量の標準試料の質量分析を行なうための調整手段と、
前記調整手段による前記標準試料の質量分析の間に前記検出器が出力する信号の強度及び該強度の揺らぎに基づいて前記検出器の劣化状態を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする質量分析計。
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